カーボンナノチューブの製造装置及びカーボンナノチューブを分別する方法
【課題】カーボンナノチューブを特性毎に分別する。
【解決手段】本発明の例に関わるカーボンナノチューブの分別装置は、第1の磁気特性を有する第1のカーボンナノチューブSCNTと第2の磁気特性を有する第2のカーボンナノチューブMCNTとが共通に導入される導入部2と、第1及び第2のカーボンナノチューブSCNT,MCNTをそれぞれ回収する第1及び第2の回収部4A,4Bと、第1及び第2のカーボンナノチューブSCNT,MCNTを導入部2から回収部4A,4Bまで搬送する搬送部3と、搬送部3に隣接して配置され、カーボンナノチューブSCNT,MCNTに対して磁場Hを印加する磁場発生部5とを具備し、第1の磁気特性と磁場Hとの相互作用によって、第1のカーボンナノチューブSCNTと第2のカーボンナノチューブMCNTとを分別する。
【解決手段】本発明の例に関わるカーボンナノチューブの分別装置は、第1の磁気特性を有する第1のカーボンナノチューブSCNTと第2の磁気特性を有する第2のカーボンナノチューブMCNTとが共通に導入される導入部2と、第1及び第2のカーボンナノチューブSCNT,MCNTをそれぞれ回収する第1及び第2の回収部4A,4Bと、第1及び第2のカーボンナノチューブSCNT,MCNTを導入部2から回収部4A,4Bまで搬送する搬送部3と、搬送部3に隣接して配置され、カーボンナノチューブSCNT,MCNTに対して磁場Hを印加する磁場発生部5とを具備し、第1の磁気特性と磁場Hとの相互作用によって、第1のカーボンナノチューブSCNTと第2のカーボンナノチューブMCNTとを分別する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの製造装置及びカーボンナノチューブを分別する方法に係り、特に、カーボンナノチューブをその特性毎に分別する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、1枚のグラファイトシートを丸めた円筒状の物質であり、カーボンナノチューブの直径は1nm程度から数十nmの極めて微細で安定な構造を有している。カーボンナノチューブは、フォトリソグラフィによる微細加工の限界を超えた、より微細なナノ電子デバイス材料として注目されている。また、近年では、カーボンナノチューブがバリスティック伝導を示す可能性があることも示唆されており、高速動作が可能なトランジスタの材料としての期待されている。
【0003】
カーボンナノチューブを用いてトランジスタ等の電子デバイスを作製するためには、カーボンナノチューブの電子的特性、特にそのバンドギャップを所定の値に揃えることが求められる。
【0004】
しかしながら、カーボンナノチューブは、カイラリティ(螺旋度)、直径、及び長さなどの幾何学的な構造によって、その電子的特性を決定づけるバンドギャップは変動し、金属的な性質を示したり半導体的な性質を示したりする。
【0005】
カーボンナノチューブの合成方法としては、現在、炭化水素触媒分解法など種々の方法が知られているが、合成段階で幾何学的な構造をそろえることは極めて困難である。そのため、同一条件下で合成されたカーボンナノチューブであっても、それらの特性は、通常ばらばらになってしまう。
【0006】
例えば、特許文献1には、形成された複数のカーボンナノチューブ表面を金属層で覆う技術が開示されている。この技術によって、金属層によって表面が覆われたカーボンナノチューブのすべては、金属的な性質を示す。しかし、この場合、半導体的性質を示すカーボンナノチューブも、金属的な性質を有してしまい、カーボンナノチューブの半導体的性質を活用することはできない。
【0007】
また、近年では、カーボンナノチューブを用いたトランジスタの作製方法において、「建設的破壊」と呼ばれる手法を用いて、トランジスタに使用するための半導体的性質を有するカーボンナノチューブが、選択的に取得されている。この方法では、複数のカーボンナノチューブがシリコン基板上に並べられ、各カーボンナノチューブに電圧が印加される。これによって、金属的性質のカーボンナノチューブのみを、電圧の印加によって選択的に焼き切り、半導体的性質のカーボンナノチューブのみを基板上に残存させている。この場合、金属的な性質を有するカーボンナノチューブは消失するので、金属的な性質を有するカーボンナノチューブを他のデバイスに活用できない。
【0008】
以上のような方法を用いて、カーボンナノチューブの特性が分別されているが、カーボンナノチューブの実用化のためには、カーボンナノチューブの特性を簡便且つ効率的に特定することが求められている。さらには、特性の異なるカーボンナノチューブを用途に応じて有効に使い分け、カーボンナノチューブを用いたデバイスの特性のばらつきを抑制することが求められる。
【特許文献1】特表2005−532915
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、カーボンナノチューブをその特性毎に分別する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の例に関わるカーボンナノチューブの製造装置は、第1の磁気特性を有する第1のカーボンナノチューブと前記第1の磁気特性とは異なった第2の磁気特性を有する第2のカーボンナノチューブとが共通に導入される導入部と、前記第1及び第2のカーボンナノチューブをそれぞれ回収する第1及び第2の回収部と、前記第1及び第2のカーボンナノチューブを、前記導入部から前記第1及び第2の回収部まで搬送する搬送部と、前記搬送部に隣接して配置され、前記第1及び第2のカーボンナノチューブに対して磁場を印加する磁場発生部と、を具備し、前記第1の磁気特性と前記磁場との相互作用によって、前記第1のカーボンナノチューブと前記第2のカーボンナノチューブとを分別する、ことを備える。
【0011】
本発明の例に関わるカーボンナノチューブを分別する方法は、第1の磁気特性を有する第1のカーボンナノチューブと第2の磁気特性を有する第2のカーボンナノチューブとを同時に導入する工程と、前記第1及び第2のカーボンナノチューブに磁場を与え、前記磁場と前記第1の磁気特性との相互作用によって、前記第1のカーボンナノチューブと第2のカーボンナノチューブとを分別する工程と、前記分別された前記第1のカーボンナノチューブと前記第2のカーボンナノチューブとを、それぞれ異なって回収する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の例によれば、カーボンナノチューブをその特性毎に分別できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の例を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0014】
[概要]
図1及び図2を用いて、本発明の実施形態の概要について説明する。
【0015】
(1) カーボンナノチューブの特性
はじめに、カーボンナノチューブ(Carbon Nano Tube)の特性について、述べる。
【0016】
一般に、グラファイトやカーボンナノチューブのような六員環から構成される物質は、反磁性磁場配向により、磁場と反対方向に磁化される反磁性(第1の磁気特性)の性質を有する。
但し、カーボンナノチューブは、同一条件下であっても、カーボンナノチューブ毎の形成過程の違いによって、カイラリティ(螺旋度)や単層(Single Wall)/多層構造(Multi Wall)の違いが生じ、バンド構造などの特性の異なるカーボンナノチューブが形成される。尚、カイラリティとは、カーボンナノチューブを構成するグラフェンシートのねじれ方のことである。
【0017】
これによって、金属的な性質を有するカーボンナノチューブ(以下、金属性カーボンナノチューブと呼ぶ)と、半導体的な性質を有するカーボンナノチューブ(以下、半導体性カーボンナノチューブと呼ぶ)とが、同一条件下の同一基板上に形成される。
【0018】
金属性カーボンナノチューブのバンド構造は、金属のバンド構造と同じく、価電子帯と伝導帯とが直接接触した構造となり、半導体性カーボンナノチューブのバンド構造は、半導体のバンド構造と同じく、価電子帯と導電帯との間に禁制帯(バンドギャップ)が存在する構造になる。カーボンナノチューブのバンドギャップの大きさは、0eV以上2.5eV以下程度の大きさを有する。バンドギャップの大きさが0eVのカーボンナノチューブは、金属性カーボンナノチューブである。
【0019】
このようなバンド構造の違いによって、半導体性カーボンナノチューブの伝導帯中には、自由電子がほとんど存在せず、金属性カーボンナノチューブの伝導帯中には、自由電子が潤沢に存在する。尚、金属性カーボンナノチューブの伝導帯に存在する荷電子の数はカーボンナノチューブを構成する炭素数とほぼ同程度と見積もることができる。これは、カーボンナノチューブを構成する炭素(C)はsp3混成軌道を形成しているため、4本の結合手のうち3つの結合手は隣接する炭素との共有結合に使われ、残りの1つが不対電子として残り、この不対電子が自由電子の振舞うためである。
【0020】
このように、金属性カーボンナノチューブは伝導帯中に自由電子が多数存在するため、金属性カーボンナノチューブは、その表面の自由電子に起因して、パウリ常磁性(第2の磁気特性)を示し、正の磁化率を有する。
カーボンナノチューブと同様にグラフェンシートからなるグラファイトは、自由電子が伝導帯中に十分に存在すると、そのパウリ常磁性係数は、0.35×10−6〜0.7×10−6[emu/g]を示す(例えば、V.Yu. Osipov, pp. 1225-1234, Carbon, 44 (2006) 参照)。
【0021】
一方、上記のように、半導体性カーボンナノチューブは、反磁性(第1の磁気特性)の磁気特性を示し、負の磁化率を有する。半導体性カーボンナノチューブにおいて、室温における反磁性係数は、約−5×10−6[emu/g]程度の大きさを示す(例えば、O. Chauvet, Phys. Rev., B52, R6963 (1995) 参照)。反磁性材料は磁場の印加に対して、その磁場の磁束密度を減少させる方向に、電子のスピンが向き、常磁性材料は磁場と同一方向に電子のスピンが向く。尚、磁束密度を減少させる方向とは、同じ磁極の磁石同士が反発する方向である。
このように、反磁性の性質を有する半導体性カーボンナノチューブは、常磁性の性質を有する金属性カーボンナノチューブとは異なって、印加された磁場の方向に対して反発する方向の力を受ける。
【0022】
また、半導体性カーボンナノチューブは、一般的な半導体材料と同じく、バンドギャップを有している。半導体性カーボンナノチューブにおいて、そのバンドギャップの大きさは、例えば、0eVより大きく2.5eV以下程度を示す。半導体性カーボンナノチューブのバンドギャップの大きさも、金属性と半導体性のカーボンナノチューブの違いと同様に、カイラリティや単層/多層構造に起因して、半導体性カーボンナノチューブ毎に異なった大きさになる。
【0023】
通常の半導体と同様に、半導体性カーボンナノチューブに、そのバンドギャップの大きさに対応する光又は熱エネルギーが与えられると、価電子帯中の自由電子が励起され、その自由電子は伝導帯へ遷移する。
【0024】
(2) カーボンナノチューブの分別
上記のように、カーボンナノチューブにおいては、半導体的な性質を有するカーボンナノチューブと金属的な性質を有するカーボンナノチューブとで、磁気特性が異なる。
【0025】
以下で述べる実施形態並びに応用例においては、半導体性カーボンナノチューブ(反磁性)と金属性カーボンナノチューブ(表面電子に起因して常磁性)とに磁場を印加した際の、反発力の発生の有無を利用し、半導体性カーボンナノチューブと金属性カーボンナノチューブとを分別する装置及び方法について、説明する。
【0026】
図1を用いて、半導体性カーボンナノチューブと金属性カーボンナノチューブを分別するための原理について、説明する。図1は、カーボンナノチューブを分別するための原理を説明するための模式図である。
【0027】
半導体性カーボンナノチューブSCNTは反磁性を有する。一方、金属性カーボンナノチューブMCNTは、表面の自由電子に起因して、常磁性を有する。
半導体性/金属性カーボンナノチューブSCNT,MCNTに対して、磁性体(例えば、磁石)11を接近させると、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、その磁気特性である反磁性(負の磁化率)により、磁性体11の磁場方向と反対方向に磁化する。そのため、半導体性カーボンナノチューブには、磁性体が発する磁力線(磁場)MFLと反対の向きの磁力線MFL’が発生する。
【0028】
半導体性/金属性カーボンナノチューブに磁性体11を接近させていくと、磁性体11と半導体性カーボンナノチューブSCNTとの間の磁力線MFL,MFL’の相互作用が強くなる。これによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTには、その反磁性に起因する反発力Fが与えられる。
一方、金属性カーボンナノチューブMCNTの磁気特性は常磁性(正の磁化率)であるため、金属性カーボンナノチューブMCNTは、磁性体11の磁力線(磁場)の向きと同じ方向に弱い磁化を示す。そのため、金属性カーボンナノチューブMCNTと磁性体11との間の相互作用は実質的に生じない。
【0029】
このように、反磁性の半導体性カーボンナノチューブSCNTには、反発力は発生するが、常磁性の金属性カーボンナノチューブMCNTには、反発力(及び吸引力)は発生しない。
この反発力Fによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTには、加速度が与えられ、半導体性カーボンナノチューブSCNTはその加速度の方向に移動する。
【0030】
上述のように、本発明の実施形態においては、磁気特性の違いに起因する反発力の有無を利用して、半導体性カーボンナノチューブSCNTと金属性カーボンナノチューブMCNTとが混在したカーボンナノチューブの集まりの中から、半導体性カーボンナノチューブSCNTを選択的に取り出し、カーボンナノチューブの特性に応じて分別する。
【0031】
さらに、本発明の実施形態においては、バンドギャップの大きさの異なる半導体性カーボンナノチューブSCNTを、バンドギャップの大きさ毎に分別する構成及び方法についても説明する。
【0032】
半導体材料に、熱エネルギーの印加またはレーザ光の照射によりある一定以上のエネルギーを与えると、価電子帯にある電子がバンドギャップを超えて伝導帯に移ることが知られている。この現象を利用して、本発明の実施形態においては、バンドギャップの大きさの異なる半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2を、バンドギャップの大きさ毎に分別する。
【0033】
図2に示すように、外部から光又は熱エネルギーEが、バンドギャップEg1,Eg2の大きさが異なる半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2に与えられる。尚、ここでは、バンドギャップEg2がバンドギャップEg1よりも大きく、又、外部エネルギーEは、バンドギャップEg1に対応するエネルギー以上であり、バンドギャップEg2に対応するエネルギーより小さい場合について、説明する。
【0034】
与えられたエネルギーEの大きさが、バンドギャップEg1に対応するエネルギー以上であって、価電子帯の電子が伝導帯にまで遷移されるのに十分な大きさを有していると、バンドギャップEg1を有する半導体性カーボンナノチューブSCNT1は、擬似的に金属的な性質を示す。つまり、励起状態の半導体性カーボンナノチューブmSCNT1の磁気特性は、電子が励起されている間、一時的に常磁性になる。
【0035】
一方、与えられたエネルギーEが、バンドギャップEg2に対応するエネルギーよりも小さい場合、そのバンドギャップEg2を有する半導体性カーボンナノチューブSCNT2は、その価電子帯の電子が伝導帯まで遷移しない。そのため、その半導体性カーボンナノチューブSCNT2の磁気特性は、外部エネルギーが与えられても、反磁性のままである。
【0036】
そして、外部からエネルギーを与えた状態下において、金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブの分別と同様に、一時的に常磁性を示す励起状態の半導体性カーボンナノチューブmSCNT1と反磁性を有する半導体性カーボンナノチューブSCNT2とに磁場Hを与える。すると、一方の半導体性カーボンナノチューブSCNT2にのみ反発力Fが生じ、他方の励起状態の半導体性カーボンナノチューブmSCNT1には反発力は生じない。
【0037】
このように、共通の外部エネルギーEが複数のカーボンナノチューブに外部から与えた状態で、磁場を印加することによって、与えられたエネルギーEより大きいバンドギャップを有する半導体性カーボンナノチューブSCNT2を、バンドギャップの大きさが異なる半導体性カーボンナノチューブ(励起状態の半導体性カーボンナノチューブ)の集まりの中から取り出せる。
【0038】
それゆえ、本発明の実施形態においては、照射する光源の波長の長さや与える熱量の大きさを制御して、半導体性カーボンナノチューブのバンドギャップの大きさに応じたエネルギーを与えることで、任意のバンドギャップの大きさのカーボンナノチューブを選択的に分別する。
【0039】
以上のように、本発明の実施形態では、磁気特性の違いを利用することによって、金属性と半導体性のカーボンナノチューブのように、バンドギャップの大きさが異なるカーボンナノチューブを、その特性毎に分別できる。
【0040】
これによって、本発明の実施形態では、カーボンナノチューブの特性を分別するために、例えば、金属的性質のカーボンナノチューブを電気的に溶断するような、いずれか一方の特性を有するカーボンナノチューブを破壊する手法を用いずともよくなる。
【0041】
したがって、本発明の実施形態によれば、簡便且つ効率的に、カーボンナノチューブをその特性毎に分別できる。また、本発明の実施形態によれば、同じ基板上に形成された半導体性又は金属性カーボンナノチューブの両方を活用できる。
【0042】
[実施形態]
以下、図3乃至図18を参照して、本発明の各実施形態について、説明する。
【0043】
(1) 第1の実施形態
以下、図3乃至7を用いて、本発明の第1の実施形態に係るカーボンナノチューブの製造装置及びカーボンナノチューブを分別する方法として、カーボンナノチューブの特性・性質に応じて、カーボンナノチューブを分別する分別装置及び分別方法について、説明する。
【0044】
(a) カーボンナノチューブの分別装置
図3及び図4は、カーボンナノチューブの分別装置の1つの構成例を示している。
【0045】
図3は、カーボンナノチューブの分別装置の鳥瞰図を示している。図4(a)は、図に示される装置の平面構造を示す図である。また。図4(b)は、図3に示される装置の磁場印加方向から見た断面図である。尚、図3及び図4は、本実施形態に係るカーボンナノチューブの分別装置1Aの主要な構成要素を示しているのであって、図3及び図4に示される構成に他の要素を付加してもよいのは、もちろんである。
【0046】
図3及び図4に示されるカーボンナノチューブの分別装置1Aは、複数のカーボンナノチューブSCNT,MCNTを導入する導入部2、カーボンナノチューブを搬送する搬送部3、その特性がそれぞれ異なるカーボンナノチューブのそれぞれを回収する第1及び第2の回収部4A,4B、そして、搬送部2上の複数のカーボンナノチューブSCNT,MCNTに印加する磁場Hを発生する磁場発生部5とを有する。
【0047】
複数のカーボンナノチューブSCNT,MCNTは、導入部2から搬送部3上に導入される。カーボンナノチューブSCNT,MCNTは、炭化水素触媒分解法、アーク放電法、レーザアブレーション法、及びプラズマ合成法等のうち、いずれか1つの合成方法が用いられて、形成される。但し、本実施形態で用いるカーボンナノチューブSCNT,MCNTの合成方法は、ここで述べた合成方法に限定されない。
【0048】
形成された複数のカーボンナノチューブSCNT,MCNTにおいて、カーボンナノチューブを構成するグラフェンシートのねじれ方(カイラリティ)や、単層(Single Wall)構造、多層(Multi Wall)構造など、カーボンナノチューブの構造が異なっていたりする。
【0049】
また、カーボンナノチューブSCNT,MCNTのバンドギャップの大きさは、0eV以上から2.5eV以下程度になっている。カーボンナノチューブSCNT,MCNTのバンドギャップの大きさは、上記のような構造の違いを一因として、ばらつきが生じている。
【0050】
このように、同一基板上に同じ条件下で形成されたカーボンナノチューブであっても、それらの構造及びバンドギャップは均一ではない。それゆえ、装置1A内に導入れた複数のカーボンナノチューブSCNT,MCNTの特性は、その構造及びバンドギャップに起因してそれぞれ異なり、半導体性カーボンナノチューブSCNTと金属性カーボンナノチューブMCNTとが混在している。尚、金属性カーボンナノチューブMCNTのバンドギャップの大きさは、0eVである。また、第1の実施形態においては、説明の簡単化のため、半導体性カーボンナノチューブSCNTのバンドギャップの大きさは、単一の大きさとする。
【0051】
搬送部3は、例えば、ベルトコンベアであって、カーボンナノチューブが搭載されるステージが、ある方向に沿って可動する。搬送部3は、この可動ステージによって、搭載されたカーボンナノチューブSCNT,MCNTを、導入部2から回収部4A,4Bまで搬送する。本実施形態においては、搬送部3がカーボンナノチューブMCNT,SCNTを搬送するための力のことを、搬送ベクトルと呼ぶ。図中において、搬送ベクトルを“V”と表記する。搬送部3は、所定の大きさの搬送ベクトルを有しており、その搬送ベクトルの大きさに基づいて、カーボンナノチューブMCNT,SCNTを搬送する。
【0052】
磁場発生部5は、搬送部3のある領域3Bに隣接して設けられる。磁場発生部5は、所定の大きさの磁場Hを発生し、その磁場Hを搬送部3上の複数のカーボンナノチューブMCNT,SCNTに印加する。磁場Hの方向は、例えば、図中のAからA’へ向かう方向に設定される。磁場発生部5は、例えば、電磁コイルや磁石が用いられるが、その構成については、後述する。
【0053】
ここで、搬送部3の構造の詳細について述べる。
磁場発生部5と隣接する搬送部3内の領域3Bにおいて、磁場発生部5が発生する磁場Hが、複数のカーボンナノチューブMCNT,SCNTに印加される。以下では、搬送部3内の領域3Bのことを、磁場印加領域3Bと呼ぶ。
この磁場印加領域3Bにおいて、搬送部3は、第1の回収部4A側と第2の回収部4B側との2つの方向に分岐する。以下、第1の回収部4A側へ分岐する部分3Dを第1の分岐部3Dと呼び、第2の回収部4B側へ分岐する部分を、第2の分岐部3Cと呼ぶ。また、搬送部3において、導入部2から磁場印加領域3Bまでの部分を共通部3Aと呼ぶ。
【0054】
分岐部3C及び共有部3Aは、例えば、磁場印加領域3Bを介して導入部2から回収部4Bまで、B−B’方向に沿って直線状に延在している。分岐部3Cの搬送ベクトル方向は、例えば、共有部3Aから磁場印加領域3B内までの搬送ベクトルと同じ方向になっている。このため、共有部3Aと分岐部3Cとの間の搬送ベクトル方向は、B−B’方向に沿っている。
【0055】
分岐部3Dは、磁場印加領域3Bから回収部4Aまで、共有部3A及び分岐部3Cの延在方向に対して水平斜め方向に延在している。このため、分岐部3Dの搬送ベクトル方向は、共有部3Aと分岐部3Cとの間の搬送ベクトル方向(B−B’方向)とは異なった方向となっている。
尚、共通部3A及び磁場印加領域3B内の搬送ベクトルの大きさ、第1の分岐部3D内の搬送ベクトルの大きさ、第2の分岐部3C内の搬送ベクトルの大きさは、同じ大きさであっても良いし、それぞれ異なる大きさであっても良い。
【0056】
磁場印加領域3B内において、共通部3Aを介して搬送された複数のカーボンナノチューブSCNT,MCNTは、それらの磁気特性と与えられた磁場Hとの相互作用により、半導体性カーボンナノチューブSCNTと金属性カーボンナノチューブMCNTとに、分別される。カーボンナノチューブSCNT,MCNTと磁場Hとの相互作用の詳細については、後述する。
【0057】
金属性カーボンナノチューブMCNTを搬送するための分別された金属性カーボンナノチューブMCNTは、分岐部3Cを介して、回収部4B内に回収される。分別された半導体性カーボンナノチューブSCNTは、分岐部3Dを介して、回収部4A内に回収される。
このように、金属性カーボンナノチューブMCNTと半導体性カーボンナノチューブSCNTとは、それぞれ異なった回収部4A,4B内に回収される。
【0058】
本実施形態において、金属性カーボンナノチューブMCNTと半導体性カーボンナノチューブSCNTに対して、磁場印加領域3B内で、磁場Hが与えられる。この磁場Hと反磁性を示す半導体性カーボンナノチューブSCNTとの間に、反発力が生じる。一方、常磁性を示す金属カーボンナノチューブMCNTは、磁場Hに起因した反発力は生じない。
【0059】
反発力が与えられる半導体性カーボンナノチューブSCNTは、反発力(磁場)の方向と搬送ベクトル方向との合成ベクトル方向に加速度が与えられる。これによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、磁場印加領域3B内から分岐部3D内へはじき出され、分岐部3D上に移動する。
【0060】
一方、金属性カーボンナノチューブMCNTは、反発力が生じないので、磁場印加領域3B内から分岐部3C内へ、搬送ベクトルによって移動する。
【0061】
このように、磁場Hの作用によって、異なる磁気特性を有する半導体性/金属性カーボンナノチューブSCNT,MCNTを、磁場印加領域3Bからそれぞれ異なった分岐部3C,3Dへ分けて、移動させることができる。
【0062】
尚、この装置の系全体は、例えば、真空状態にされることが好ましい。これによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTが、空気中の窒素分子などと衝突することによって、磁場印加領域3B内から分岐部3Dへはじき出されなくなるのを低減できる。この結果として、半導体性/金属性カーボンナノチューブSCNT,MCNTを正確に分別できる。また、系全体の温度も制御され、例えば、一定の温度に設定されることが好ましい。
【0063】
以上のように、本発明の第1の実施形態では、半導体性/金属性カーボンナノチューブの磁気特性の違いを利用して、半導体性カーボンナノチューブと金属性カーボンナノチューブとを分別できる。
【0064】
したがって、本実施形態によれば、半導体性カーボンナノチューブと金属性カーボンナノチューブを、それらの特性に応じて、簡便且つ効率的に分別できる。
また、本実施形態によれば、金属性及び半導体性のカーボンナノチューブを、それらの特性を損なうことなく、分別できる。それゆえ、同じ基板上に形成された金属性カーボンナノチューブ及び半導体性カーボンナノチューブの両方を、効率的に活用できる。
【0065】
(b) カーボンナノチューブの分別方法
以下、図5乃至図7を用いて、本発明の第1の実施形態に係るカーボンナノチューブの分別方法について、説明する。尚、ここでは、図4に示されるカーボンナノチューブの選別装置1Aも用いて、カーボンナノチューブの分別方法について、説明する。
【0066】
まず、図4及び図5(a)に示されるように、複数のカーボンナノチューブMCNT,SCNTが、導入部2から共通部3A内に導入される。導入されたカーボンナノチューブMCNT,SCNTは、それらの特性に応じた分別はなされておらず、金属性カーボンナノチューブMCNTと半導体性カーボンナノチューブSCNTが混在している。上記のように、このようなカーボンナノチューブSCNT,MCNTの特性の違いは、カーボンナノチューブのカイラリティや単層/多層構造の違いに起因する。
共有部3A内においては、半導体性カーボンナノチューブSCNT及び金属性カーボンナノチューブMCNTは、搬送ベクトルによって搬送される。
【0067】
そして、図5(b)に示すように、カーボンナノチューブMCNT,SCNTは、搬送ベクトルによって、搬送部3(例えば、ベルトコンベア)内の共通部3Aから磁場印加領域3B内へ搬送ベクトル方向(B−B’方向)に沿って搬送される。
【0068】
磁場印加領域3B内には、磁場発生部5が生じる磁場Hが供給されている。これによって、磁場印加領域3B内に搬送されたカーボンナノチューブMCNT,SCNTは、磁場Hが印加される。図5中においては、磁場Hのベクトル方向は、A−A’方向になっている。但し、磁場Hのベクトル方向は、搬送ベクトル方向と交差する方向であればよく、搬送ベクトルと直交する方向に限定されない。
【0069】
半導体性カーボンナノチューブSCNTの磁気特性は、反磁性(第1の磁気特性)である。そのため、その磁気特性と磁場Hとの相互作用により、反発力Fが、磁場印加領域3B内の半導体性カーボンナノチューブSCNTに対して、与えられる。
また、磁場印加領域3B内において、金属性カーボンナノチューブMCNTの磁気特性(第2の磁気特性)は常磁性であるため、金属性カーボンナノチューブMCNTに、反発力Fが与えられることはなく、また、磁場Hと磁気特性との相互作用も小さい。このため、金属性カーボンナノチューブMCNTは、磁場Hの影響をほとんど受けない。
【0070】
ここで、図6を用いて、磁場Hと半導体性カーボンナノチューブSCNTとの間に生じる反発力Fの大きさについて、説明する。
【0071】
図6に示すように、磁場発生源としての磁気双極子11は、カーボンナノチューブSCNTと距離rを有している。磁気双極子11は、磁気モーメントm1を有し、半導体性カーボンナノチューブSCNTは磁気モーメントm2を有している。
【0072】
この場合、磁気モーメントm1の磁気双極子11が発する磁場H[A/m]において、距離rにおける磁場Hの大きさは、以下のように示される。
【数1】
【0073】
(式1)において、θ=0°のとき、磁場(磁界の強さ)Hは次のように表される。
【数2】
【0074】
一方、双極子11が生じる磁場Hによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、磁化される。半導体性カーボンナノチューブSCNTの磁気モーメントm2は、カーボンナノチューブの単位体積あたりの磁化I、カーボンナノチューブの体積Vより、次のように示される。
【数3】
【0075】
また、カーボンナノチューブSCNTの単位体積あたりの磁化Iは、質量磁化率χを用いて、以下のように示される。
【数4】
【0076】
この2つの式を用いて、磁気モーメントm2は、以下の(式5)のように示される。
【数5】
【0077】
磁気双極子11の磁気モーメントm1が生じる磁場Hによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTが受ける相互エネルギーUは、(式6)のように示される。
【数6】
【0078】
この(式6)により、磁気双極子11が生じる磁場Hによって、半導体性カーボンナノチューブが受ける力(反発力)F[N]は、θ=0°のとき、次式のように示される。
【数7】
【0079】
上述の(式2)において、例えば、距離rが1[cm]であって、磁気双極子11の磁気モーメントm1が2×10−7[Wb・m]である場合、磁場Hは、2.4×104[A/m]になる。
【0080】
また、例えば、半導体性カーボンナノチューブSCNTの直径は10[nm]、半導体性カーボンナノチューブSCNTの長さは100[nm]とする。この場合、半導体性カーボンナノチューブSCNTの体積Vは、7.7×10−24[m−3]になる。
また、上記の半導体性カーボンナノチューブSCNTを構成するためのグラフェンシートの大きさは、31.4[nm]×100[nm]になる。図7に示される六員環12において、1つの六員環に含まれる炭素原子の数は2個であり、共有結合をなす炭素の原子間距離d=0.1397[nm]なので、上記の大きさを有するグラフェンシート中に、炭素環は80個×300個、含まれる。1個の炭素原子の質量は、2×10−23[g]であるので、上記のグラフェンシート(半導体性カーボンナノチューブSCNT)の質量mSCNTは、1×10−21[kg]になる。また、カーボンナノチューブの質量磁化率は5×10−6[emu/g]であるが、この質量磁化率を体積磁化率に変換すると、1×10−11[H/m]になる。
【0081】
位置r(=1[cm])における半導体性カーボンナノチューブSCNTの磁気モーメントm2は、(式5)によって、1.9×10−30[Wb・m]になる。これらの磁気モーメントm1,m2により、磁気双極子11から距離r離れた半導体性カーボンナノチューブが受ける力(反発力)Fは、(式7)に基づいて、5×10−23[N]になる。また、この力F(=mSCNT×a)を受けたカーボンナノチューブSCNTの加速度aは、半導体性カーボンナノチューブSCNTの質量mSCNTが1×10−21[kg]であるので、a=0.05[m/cm2]になる。
【0082】
このように、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、磁場Hによって、反発力Fが与えられ、上記の加速度を得て、分岐部3D側に移動する。
【0083】
尚、ここで求められた半導体性カーボンナノチューブSCNTが受ける力(反発力)は、一例であって、半導体性カーボンナノチューブSCNTの形状(長さ及び太さ)や、磁気源11(磁場発生部5)と半導体性カーボンナノチューブSCNTとの距離に応じて、変化するのはもちろんである。
【0084】
図5(b)に示すように、磁場印加領域3Bは搬送ベクトルを有しているため、半導体性カーボンナノチューブSCNTに与えられる反発力(加速度)Fの方向は、磁場ベクトル方向と搬送ベクトル方向との合成ベクトル方向となる。
【0085】
これによって、図5(c)に示すように、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、搬送ベクトル方向(図中A−A’方向)と異なる方向に移動し、磁場印加領域3B内から分岐部3D内に、はじき出される。尚、上記のように、磁場Hの大きさ及びそれに起因する反発力Fは、磁場発生部5と半導体性カーボンナノチューブSCNTとの距離に依存する。それゆえ、磁場Hによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTが磁場発生部5側から分岐部3Dまで移動するように、磁場印加領域3Bの幅及び長さが適宜設計されることが好ましい。
【0086】
一方、金属性カーボンナノチューブMCNTは、磁場Hによる相互作用を受けないので、搬送ベクトル方向に沿って、磁場印加領域3B内から分岐部3C内へ搬送される。
【0087】
そして、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、分岐部3Dが有する搬送ベクトルによって搬送され、図4に示される回収部4A内に回収される。金属性カーボンナノチューブMCNTは、分岐部3Cが有する搬送ベクトルによって搬送され、回収部4B内に回収される。
【0088】
以上のように、半導体性カーボンナノチューブSCNT及び金属性カーボンナノチューブMCNTは、それらの異なる磁気特性と印加された磁場Hとの相互作用によって分別され、それぞれ異なった回収部4A,4Bに回収される。
【0089】
このように、本発明の第1の実施形態においては、半導体性カーボンナノチューブSCNTが反磁性を有し、金属性カーボンナノチューブMCNTが常磁性を有しているように、磁気特性が異なっていることを利用して、半導体性カーボンナノチューブSCNTと金属性カーボンナノチューブMCNTとを分別する。
【0090】
より具体的には、磁場Hを外部からカーボンナノチューブSCNT,MCNTに印加し、半導体性カーボンナノチューブSCNTに対して、反磁性に起因する反発力を生じさせることによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTを、半導体性/金属性カーボンナノチューブSCNT,MCNTが混在している集まりの中から、選択的に取り出している。
【0091】
本実施形態では、カーボンナノチューブの特性及び構造を個別に調べずとも良く、また、上記の装置1A(図3及び図4参照)のように簡便な装置で、一度に複数のカーボンナノチューブを、その特性(例えば、バンドギャップの大きさ)ごとに分別できる。
それゆえ、本実施形態に係るカーボンナノチューブの分別方法によれば、簡便且つ効率的に、カーボンナノチューブをバンドギャップの大きさに応じて、分別できる。
【0092】
又、本実施形態では、カーボンナノチューブが元来有する特性を利用しているので、カーボンナノチューブを分別するために、カーボンナノチューブに対して処理を施す必要はなく、形成時の状態のままのカーボンナノチューブを、その特性毎に分別できる。さらに、複数のカーボンナノチューブに対して、それらの特性を損なうような処理や不要な特性のカーボンナノチューブを破壊するような処理を施す必要はなく、半導体性カーボンナノチューブと金属性カーボンナノチューブとの両方を、形成時の特性のままで有効に利用することができる。
【0093】
それゆえ、本実施形態のカーボンナノチューブの分別方法によれば、異なる特性のカーボンナノチューブを、特性に応じて適したデバイスにそれぞれ効率的に活用できる。
【0094】
(2) 第2の実施形態
図8及び図9を用いて、本発明の第2の実施形態としてのカーボンナノチューブの分別装置及び分別方法について、説明する。尚、第1の実施形態で述べた部材と、実質的に同じ部材に対しては、同じ符号を付し、詳細な説明は必要に応じて行う。
【0095】
第1の実施形態においては、複数のカーボンナノチューブSCNT,MCNTを、ある搬送ベクトルを有する搬送部3上に配置して、搬送部3内の磁場印加領域3Bを経由して、導入部2から回収部4A,4Bに機械的に搬送する例について述べた。
第2の実施形態においては、複数のカーボンナノチューブSCNT,MCNTを、真空中、気体中或いは液体中を自由落下させて、導入部2から回収部4A,4Bまで搬送する例について説明する。
【0096】
図8及び図9は、本発明の第2の実施形態に係るカーボンナノチューブの分別装置の鳥瞰図及び断面図をそれぞれ示している。尚、図8及び図9は、本実施形態に係る分別装置の主要な構成要素を示すのであって、この構成に他の要素をさらに付加してもよいのは、もちろんである。
【0097】
搬送部3の全体は、例えば、地表に対して直立した円筒から構成される。搬送部3を構成する円筒の内部は、例えば、真空状態である。又は、搬送部3を構成する円筒の内部は、気体又は液体で満たされる。搬送部3は、第1の実施形態と同様に、共通部3A、磁場印加領域3B及び2つの分岐部3C,3Dを有する。また、磁場印加領域3Bに隣接して、磁場発生部5が配置される。磁場印加領域3Bにおいて、複数のカーボンナノチューブSCNT,MCNTは、磁場Hが印加される。
【0098】
第1の実施形態と同様に、金属性カーボンナノチューブMCNTと半導体性カーボンナノチューブSCNTとが、導入部2内から搬送部3内に投入される。尚、金属性カーボンナノチューブMCNTのバンドギャップの大きさは、0eVであり、半導体性カーボンナノチューブSCNTのバンドギャップの大きさは、0eVより大きく、2.5eV以下程度である。
【0099】
例えば、搬送部3の内部が、真空状態にされた場合、カーボンナノチューブは、自由落下により、導入部2から、搬送部3内の磁場印加領域3Bを通過し、回収部4A,4Bに向かう。
【0100】
また、搬送部3の内部に、気体又は液体が充填されている場合、それらの気体及び液体に流れを付与することができる。但し、この場合、気体及び液体の流れ(以下、流体と呼ぶ)が層流となる必要がある。流体が層流となるか乱流となるかは、レイノルズ数(Reynolds number)で表される指標に基づく。
レイノルズ数Reは、慣性力と流体の粘性による摩擦力との比で定義される無次元数であり、次の式で表される。
【数8】
【0101】
この(式8)において、Uは流体の特性速度([m/s])を示し、Lは特性長さ([m])を示す。また、μは粘度又は粘性係数([m2/s])、ρは流体の密度([Pa・s])、νは流体の動粘度又は動粘性係数([kg/m3])を、それぞれ示している。
【0102】
上式にから算出されるレイノルズ数Reが小さいということは相対的に粘性作用が強い流れということになり、レイノルズ数Reが大きいということは相対的に慣性作用が強い流れということになる。
【0103】
レイノルズ数Reが乱流と層流とを区別する指標に用いられる場合、一般に、円管内を流れる流体のレイノルズ数が2000程度以下で層流、レイノルズ数が4000程度以上を乱流とされている。また、流体中を流れる対象物体が平板の場合、レイノルズ数が400000以下であると、層流になる。
【0104】
本実施形態のように、カーボンナノチューブが流体の流れる方向に搬送される場合、気体/液体を適宜選択することで、落下(沈降)速度、換言すると搬送ベクトルの大きさ、を調整できる。これによって、磁場印加領域3B内におけるカーボンナノチューブMCNT,SCNTの通過時間の最適条件を調整でき、カーボンナノチューブMCNT、SCNTに印加される磁場Hの積算時間を長くできる。
【0105】
搬送部3内に注入される液体に非導電性溶媒が用いられた場合、カーボンナノチューブMCNT,SCNTに局所的に流れる渦電流を閉じ込める効果がある。
また、液体に導電性溶媒が用いられた場合、カーボンナノチューブMCNT,SCNTと導電性溶媒との間に、擬似的な電流ループを形成することができる。そのため、渦電流が流れる時間を一定に保つことができ、半導体性/金属性カーボンナノチューブの分離性に有効である。
【0106】
ブラウン運動による沈降速度の低下やカーボンナノチューブの移動(落下及び沈降)による乱流が生じる可能性がある。この影響は、液体、気体、真空の順で大きくなる。
【0107】
尚、気体を搬送部3内に充填する場合には、カーボンナノチューブSCNT,MCNTに対して、不活性な気体を用いることが好ましい。
【0108】
第1の実施形態のように、カーボンナノチューブを、例えば、ベルトコンベアを用いて機械的に搬送する場合、搬送速度(搬送ベクトル)を一定に保ち易い。しかし、機械部(ベルトコンベア)の振動、カーボンナノチューブと可動床との間に発生する分子間力(静電気力)による付着などに起因して、分別エラーが生じることが懸念される。
【0109】
これに対して、第2の実施形態のように、カーボンナノチューブを自由落下や沈降により搬送する場合には、機械的な振動や可動ステージ(ベルト)との間の付着などは生じず、また、カーボンナノチューブを分別するための装置自体も簡便化できる。
【0110】
さらに、導入部2から磁場印加領域3Bへの落下(沈降)速度は、真空、気体、液体の順に遅くなる。カーボンナノチューブSCNT,MCNTの落下速度が遅くなる結果として、磁場印加部の通過時間が長くなり、カーボンナノチューブSCNT,MCNTに印加される磁場Hの積算時間が増える。このため、半導体性カーボンナノチューブSCNTと金属性カーボンナノチューブMCNTとの分別効率を上げることができる。
【0111】
したがって、本発明の第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、簡便且つ効率的に、カーボンナノチューブをその特性毎に分別できる。さらに、本実施形態によれば、カーボンナノチューブの分別の精度を向上できる。
【0112】
(3) 第3の実施形態
本発明の第3の実施形態においては、図10乃至図12を用いて、基板20から分離する前のカーボンナノチューブに対して、カーボンナノチューブをそれらの特性・性質に応じて分別する方法について、説明する。尚、第1及び第2の実施形態で述べた部材と、実質的に同じ部材に対しては、同じ符号を付し、詳細な説明は必要に応じて説明する。
【0113】
カーボンナノチューブMCNT,SCNTは、例えば、図10に示すように、基板20上に形成された多孔質層25を利用して形成される場合がある。多孔質層25は複数の細孔Oを有する。細孔Oは基板20上面に対して垂直方向に延在し、それらの細孔Oは、多孔質層25内にほぼ規則的に配置されている。多孔質層25には、アルマイト層、ゼオライト層、メソポーラスシリカ層などが用いられる。
【0114】
例えば、多孔質層25にアルマイト層を用いる場合、細孔Oはアルミニウムを陽極酸化することによって形成できる。具体的には、希硫酸を電解液として用いて、アルミニウムを陽極で電解し、酸化させる。これによって、アルマイトからなる多孔質層25と、多数の細孔Oが形成される。この場合、細孔Oの底部、つまり、基板上に、数nm〜数十nm程度の多孔質層(アルマイト層)が残存する。そこで、陽極酸化後に、全面RIE(Reactive Ion Etching)または全面スパッタなどによって、細孔Oの底部に形成された多孔質層25を除去し、基板20表面を露出させる。
【0115】
このような多孔質層25を利用した形成方法において、形成されたカーボンナノチューブSCNT,MCNTは、例えば、図11に示される構造を有する。
【0116】
カーボンナノチューブMCNT,SCNTは、細孔O底部の基板20表面の触媒粒子(例えば、コバルト(Co)やニッケル(Ni))を核に、細孔の延在方向に沿って成長し、細孔O内に形成される。この触媒粒子を核に、半導体性カーボンナノチューブSCNTまたは金属性カーボンナノチューブMCNTのいずれかが、形成される。
【0117】
また、カーボンナノチューブは、基板20表面の触媒粒子を核に、バンブーライク(Bamboo-like)構造と呼ばれる構造を有して、形成される場合がある。バンブーライク構造のカーボンナノチューブBCNTは、細孔Oの延在方向に沿って、複数回にわたって段階的に成長することによって形成され、1本のカーボンナノチューブ内に竹の節のような接合部Jを有している。そのカーボンナノチューブBCNTは、その接合面Jを境界に、異なる特性・性質を有する場合がある。その一例として、1本のバンブーライク構造のカーボンナノチューブBCNTにおいて、基板20側の部分は金属性カーボンナノチューブMCNTになり、カーボンナノチューブが有する接合部(節)Jを境界に上側の部分は、半導体性カーボンナノチューブSCNTになる。
【0118】
また、カーボンナノチューブSCNT,MCNT及びバンブーライク構造のカーボンナノチューブBCNTの底面が、基板20に直接接触し、触媒粒子がカーボンナノチューブの上端側に存在する場合もある。本実施形態においては、上記のように製造されたカーボンナノチューブに対して、半導体性の特性を有するカーボンナノチューブ又はその一部分を、その磁気特性と磁場Hとの相互作用(反発力F)によって、カーボンナノチューブSCNTを基板20又は触媒粒子から切断し、バンブーライク構造のカーボンナノチューブBCNTにおいては接合部Jを境界に切断する。これによって、半導体性のカーボンナノチューブが選択的に取り出される。具体的な方法については、以下の通りである。
【0119】
まず、硫酸などの薬液を用いて、触媒粒子が除去される。カーボンナノチューブの底面に触媒粒子がある場合、触媒粒子の除去の結果として、それらのカーボンナノチューブは、薬液内に、分離される。例えば、薬液内に分散したカーボンナノチューブは、第1及び第2の実施形態で述べた手法を用いて、半導体性カーボンナノチューブが選択的に取り出される。
また、カーボンナノチューブの上端側に触媒粒子がある場合、即ち、カーボンナノチューブの底面が基板20と接合している場合、触媒粒子は薬液によって除去されるが、カーボンナノチューブは基板20と接合した状態を保持する。
特に、触媒粒子が強磁性体である場合、後述の方法を用いることができない。そのため、半導体性カーボンナノチューブを基板20から選択的に分離する前に、薬液によって触媒粒子を除去しておくことが好ましい。
【0120】
そして、図12に示すように、基板20の上下を反転させて、多孔質層25が下側、基板20が上側になるようにする。そして、磁場発生部5が発生させる磁場Hが、基板20の裏面側から、基板20上に形成されたカーボンナノチューブSCNT,MCNTに対して、印加される。
【0121】
半導体性カーボンナノチューブSCNTは、その磁気特性(反磁性)と磁場との相互作用による反発力Fによって、基板20から切断される。そして、切断された半導体性カーボンナノチューブSCNTは、図12に示す例では、自由落下し、回収部4C内に回収される。
一方で、金属性カーボンナノチューブMCNTは常磁性を有しているため、磁場Hに起因した反発力Fは与えられない。それゆえ、接合部Jにおいて、金属性カーボンナノチューブMCNTは接合状態を保ったまま、基板20上に残存する。
【0122】
また、バンブーライク構造のカーボンナノチューブBCNTは、図11に示すように、接合部Jを有している。この接合部Jの原子間の結合力は、カーボンナノチューブSCNT,MCNTの本体部分の原子間の結合力に比べて弱い。
【0123】
本実施形態においては、基板20上のカーボンナノチューブSCNT,MCNTに対して、希釈したPDMS(ポリジメチルソロキシ酸)等の薬液を用いた弱いエッチング処理が施される。PDMS等の薬液を用いた処理は、硫酸を用いた処理の前に行っても良いし、硫酸を用いた処理の後に行っても良い。
【0124】
このエッチング溶液(PDMS)の濃度は、カーボンナノチューブが分解されない濃度であって、カーボンナノチューブの本体部分にほぼダメージを与えない濃度である。但し、上述のように、接合部Jの結合力は弱いため、低濃度の溶液であっても、接合部Jの境界部分における結合力はさらに弱くなる。
【0125】
そして、上述と同様に、図12に示すように、基板20の上下を反転させて、多孔質層25が下側、基板20が上側になるように、配置する。そして、磁場発生部5が発生させる磁場Hが、基板20の裏面側から、基板20上に形成されたカーボンナノチューブSCNT,MCNTに対して、印加される。
【0126】
PDMSを用いたエッチング処理により、接合部Jの結合は弱くなっているので、半導体性の部分(単に、半導体性カーボンナノチューブと呼ぶ)SCNTは、その磁気特性(反磁性)と磁場との相互作用による反発力Fによって、接合部Jを境界に、基板20上の部分から切断される。そして、切断された半導体性カーボンナノチューブSCNTは、図12に示す例では、自由落下し、回収部4C内に回収される。
一方で、金属性の部分(単に、金属性カーボンナノチューブと呼ぶ)MCNTは常磁性を有しているため、磁場Hに起因した反発力Fは与えられない。それゆえ、接合部Jにおいて、金属性カーボンナノチューブMCNTは接合状態を保ったまま、基板20上に残存する。以上のように、それぞれ異なるバンドギャップの大きさを有する半導体性/金属性カーボンナノチューブSCNT,MCNTを、分別できる。
【0127】
本実施形態では、カーボンナノチューブSCNT,MCNTが基板20上から分離されていない状態で、半導体性カーボンナノチューブSCNTと金属性カーボンナノチューブMCNTとを分別できる。そして、半導体性カーボンナノチューブSCNTを磁場Hに起因した相互作用によって基板25から分離し、金属性カーボンナノチューブMCNTを基板25上に残存させる。
【0128】
このように、カーボンナノチューブSCNT,MCNTの特性(バンドギャップの大きさ)に応じた分別と、カーボンナノチューブSCNTの基板20からの分離とを同時に実行できる。それゆえ、本実施形態によれば、カーボンナノチューブの製造を、簡便且つ効率的に実行できる。
【0129】
また、ある特性のカーボンナノチューブ(本例では、金属性カーボンナノチューブMCNT)は基板25上に残存するので、そのカーボンナノチューブMCNTを後述するデバイスに適用する場合に、そのデバイスの製造工程を簡便化且つ効率化できる。
【0130】
したがって、本発明の第3の実施形態においても、第1及び第2の実施形態と同様に、簡便且つ効率的に、カーボンナノチューブをその特性毎に分別できる。
【0131】
(4) 第4の実施形態
図13乃至図15を用いて、本発明の第4の実施形態について、説明する。尚、第1乃至第3の実施形態で述べた部材と、実質的に同じ部材に対しては、同じ符号を付し、詳細な説明は必要に応じて説明する。
【0132】
第1乃至第3の実施形態においては、磁気特性の違いによって、半導体性のカーボンナノチューブSCNTと金属性のカーボンナノチューブMCNTとを分別する装置及び方法について説明した。
上記のように、金属性カーボンナノチューブMCNTのバンドギャップの大きさは、0eVであり、半導体性カーボンナノチューブSCNTのバンドギャップの大きさは、0eVより大きく、2.5eV以下である。このバンドギャップの範囲において、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、それらが同一の形成条件で、同一の基板上に形成されていても、それぞれ異なった大きさのバンドギャップを有する場合がある。
半導体性カーボンナノチューブをより好ましいデバイスに適用するためには、半導体性カーボンナノチューブを、バンドギャップの大きさに応じて、さらに分別することが望まれる。
【0133】
それゆえ、本発明の第4の実施形態においては、半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2に対して、大きさの異なるバンドギャップ(Eg>0)毎に分別する方法について、説明する。
【0134】
上述のように、本発明の第1乃至第3の実施形態は、カーボンナノチューブ内の自由電子の存在の有無に起因する磁気特性の違いに着目して、半導体性カーボンナノチューブSCNTと金属性カーボンナノチューブMCNTとを分別している。
【0135】
ここで、本発明の第4の実施形態は、第1乃至第3の実施形態に加えて、バンドギャップの大きさが異なる半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2を分別する。このため、本実施形態においては、磁場印加領域3Bを通過している途中に、バンドギャップの大きさの違いを利用する前処理を施す。
【0136】
具体的には、あるバンドギャップの大きさを有する半導体性カーボンナノチューブに対して、その価電子帯の電子を伝導帯まで遷移させるエネルギーEを与える。
【0137】
このエネルギーEを与えるため、例えば、図13及び図14に示すように、カーボンナノチューブ分別装置1C,1Dは、励起部8A,8Bをさらに備える。
【0138】
図13及び図14は、本実施形態に係るカーボンナノチューブの選別装置1C,1Dの構成をそれぞれ示している。図13(a)及び図14(a)は装置1C,1Dの平面構造を示し、図13(b)及び図14(b)は装置1C,1Dの断面構造を示す。
【0139】
図13に示す例のカーボンナノチューブの分別装置1Cにおいて、励起部8Aは、例えば、レーザ装置である。レーザ装置8Aは、例えば、レーザ発振器81と、レンズやミラーから構成される光学系82を備えている。レーザ発振器81は、YAGレーザ、ガラスレーザ、ルビーレーザ、色素レーザなどのうち、少なくともいずれか1つが用いられる。YAGレーザ及びガラスレーザの出力する光の波長は、1.06μm程度である。ルビーレーザの出力する光の波長は、0.69μm程度である。色素レーザの出力する光の波長は、0.4〜0.7μm程度である。
【0140】
レーザ装置8Aは、例えば、磁場印加領域3B内のカーボンナノチューブCNT1,SCNT2に対して、レーザ光を照射し、光エネルギーをカーボンナノチューブSCNT1,SCMT2に与える。
【0141】
このように、レーザ光を複数のカーボンナノチューブSCNT1,SCMT2に照射することによって、複数のカーボンナノチューブのうち、その光の波長に対応したバンドギャップエネルギー以下の半導体性カーボンナノチューブを、選択的に励起状態にする。
【0142】
また、励起部は、レーザ装置8Aの代わりに、図14に示すカーボンナノチューブの分別装置1Dのように、加熱装置8Bであっても良い。
【0143】
加熱装置8Bは、例えば、ニクロム線85を有する。加熱装置8Bは、搬送部3の共通部3A内から磁場印加領域3B内において、ニクロム線85に電流を流すことによって、半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2に対して直接加熱や輻射による熱量を与える。与えられた熱量に対応するバンドギャップのエネルギー以下の半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2は、レーザ光を照射した場合と同様に、励起状態になる。
尚、外部エネルギーを与えられてからカーボンナノチューブが励起状態になるまでの応答速度は、レーザ装置8Aを用いた光励起の場合に比較して、加熱装置8Bを用いた熱励起の場合には遅くなる。それゆえ、図14に示すように、カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2が磁場印加領域3B内に到達するまでに励起状態になるように、共通部3Aから磁場印加領域3Bまでの範囲を加熱領域として、共通部3A内においても、搬送中のカーボンナノチューブSCNT1,SCNT2に対して、熱量を与えておくことが好ましい。
【0144】
ここで、図15を用いて、バンドギャップの大きさの異なる半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2に光を照射して、半導体性カーボンナノチューブを励起状態にする場合について説明する。ここでは、半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2のバンド構造が、直接遷移型の場合について説明する。
【0145】
半導体性カーボンナノチューブSCNT1のバンドギャップEg1は、半導体性カーボンナノチューブSCNT2のバンドギャップEg2より小さい。そして、レーザ装置8Aは、波長λのレーザ光を出力する。そのレーザ光のフォトンエネルギーEを、プランク定数h、光速c及び波長λで示す場合、E=hc/λになる。このフォトンエネルギーが、外部エネルギーEとして、半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2に与えられる。ここでは、外部エネルギー(フォトンエネルギー)Eの大きさは、バンドギャップEg1に対応するエネルギー以上であり、バンドギャップEg2に対応するエネルギーよりも小さい場合について、説明する。
【0146】
このレーザ光が照射された複数のカーボンナノチューブのうち、外部エネルギーE=hc/λ以下のバンドギャップ(バンドギャップエネルギー)Eg1を有する半導体性カーボンナノチューブSCNT1は、図15(a)に示すように、波長λ1のレーザ光を吸収し、電子が価電子帯Evから伝導帯Ecへ遷移し、励起状態となる。そのため、そのカーボンナノチューブSCNT1の表面は自由電子が増加し、擬似的に金属性の性質に変化する。その結果として、励起状態の半導体性カーボンナノチューブSCNT1の磁気特性も反磁性的な性質よりも、常磁性的な性質が強くなる。
【0147】
一方、図15(b)に示すように、半導体性カーボンナノチューブSCNT2は、外部エネルギーE=hc/λよりも大きいバンドギャップエネルギーEg2を有する。そのため、半導体性カーボンナノチューブSCNT2は、レーザ光を吸収することはなく、励起状態にもならない。それゆえ、カーボンナノチューブ表面の自由電子は増えず、常磁性的性質が発現せず、バンドギャップEg2を有するカーボンナノチューブCNT2は反磁性を示す。
【0148】
また、図14に示すように、加熱処理によって、バンドギャップEg1を有する半導体性カーボンナノチューブSCNT1を、励起状態にする場合においても、レーザ光の照射を用いた場合と同様である。
即ち、バンドギャップEg1におけるキャリアのバンド間遷移が生じる熱エネルギーが、半導体性カーボンナノチューブSCNT1に外部エネルギーEとして与えられると、電子の熱励起により、価電子帯にあった電子が伝導帯に遷移する。このように、半導体性カーボンナノチューブは励起状態になり、そのカーボンナノチューブmSCNT1は常磁性的な性質が強くなる。これに対して、与えられた熱エネルギーが、半導体性カーボンナノチューブSCNT2のバンドギャップエネルギーEg2より小さければ、そのカーボンナノチューブSCNT2は、励起状態にならない。それゆえ、半導体性カーボンナノチューブSCNT2の磁気特性は、反磁性を示す。
【0149】
そして、図13及び図14に示すように、磁場印加領域3B内において、励起状態の半導体性カーボンナノチューブmSCNT1と非励起状態(定常状態)の半導体性カーボンナノチューブSCNT2とに、外部エネルギーEが供給されるのと同時に、磁場Hが供給される。非励起状態の半導体性カーボンナノチューブSCNT2の磁気特性は反磁性なので、半導体性カーボンナノチューブSCNT2は、磁場Hとの相互作用によって、磁場印加領域3B内から分岐部3Dへはじき出される。
励起状態の半導体性カーボンナノチューブmSCNT1は、上記のように、常磁性を強く示すようになる。それゆえ、励起状態の半導体性カーボンナノチューブmSCNT1は磁場Hに起因する反発力を受けずに、搬送ベクトルによって、磁場印加領域3Bから分岐部3Cに搬送される。レーザ光が照射されなくなると、半導体性カーボンナノチューブmSCNT1は、励起状態から定常状態に戻る。
【0150】
そして、バンドギャップEg1,Eg2の大きさがそれぞれ異なる複数の半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2は、バンドギャップの大きさ毎に異なる回収部4A,4Bにそれぞれ回収される。
【0151】
尚、図15では、半導体性カーボンナノチューブのバンド構造が、直接遷移型である場合を例に説明したが、間接遷移型でもよいのはもちろんである。間接遷移型の半導体性カーボンナノチューブにおいても、そのバンドギャップに応じたエネルギーよりも大きいエネルギーを吸収し、励起された電子が緩和されるときに、フォノンとの相互作用によって電子が熱せられて、カーボンナノチューブが励起状態になる。
【0152】
以上のように、外部エネルギーEを与えることによって、そのエネルギーE以下のバンドギャップの大きさ(バンドギャップエネルギー)を有する半導体性カーボンナノチューブは励起状態になる。そして、励起状態になった半導体性カーボンナノチューブmSCNT1は、その伝導帯内に励起された電子が潤沢に存在する状態になるので、擬似的に金属性カーボンナノチューブになる。その結果として、励起状態の半導体性カーボンナノチューブの磁気特性は、常磁性を示す。
【0153】
一方、与えられたエネルギーよりも大きいバンドギャップを有する半導体性カーボンナノチューブは、励起状態にならない。それゆえ、外部エネルギーを与えても、定常状態のままの半導体性カーボンナノチューブSCNT2は、反磁性を示す。この反磁性を示すカーボンナノチューブは、与えられた磁場Hによって、反発力が生じる。
【0154】
このように、本実施形態においては、外部エネルギーを与えて、半導体性カーボンナノチューブを励起状態にすることによって、そのエネルギーの大きさに対応するバンドギャップを有する半導体性カーボンナノチューブの磁気特性が、一時的に変化することを利用して、異なるバンドギャップの大きさの半導体性カーボンナノチューブを分別できる。
【0155】
さらに、レーザ光の照射によってカーボンナノチューブを励起させる場合、照射するレーザ光の波長λは、使用するレーザ発振器81の種類を変更することによって、変化できる。それゆえ、カーボンナノチューブが取りうるバンドギャップ(0<Eg≦2.5)の範囲の中で、レーザ光の波長λを選択することで、所望のバンドギャップの大きさを有する半導体性カーボンナノチューブを、分別できる。これと同様に、加熱による熱エネルギーを与えて、カーボンナノチューブを励起させる場合においても、加熱温度を制御することによって、所望するバンドギャップの大きさを有する半導体性カーボンナノチューブを、分別できる。これは、半導体性カーボンナノチューブを用いたデバイスの特性の向上や、それらの特性のばらつきの抑制に貢献できる。
【0156】
尚、本実施形態においては、第1の実施形態に述べたカーボンナノチューブの分別装置1Aに、励起部(レーザ装置)8A又は励起部(加熱装置)8Bを備えた例を述べた。ただし、第2又は第3の実施形態に述べた装置の構成(図8、図9及び図12参照)に、カーボンナノチューブに外部エネルギーを与えることができるように、励起部8A又は励起部8Bをさらに具備しても、本実施形態と同様の効果が得られるのは、もちろんである。
【0157】
したがって、本発明の第4の実施形態においても、第1乃至第3の実施形態と同様に、簡便且つ効率的に、カーボンナノチューブ、特に、半導体的な特性を示すカーボンナノチューブを、その特性毎に分別できる。
【0158】
(5) 第5の実施形態
図16を用いて、本発明の第5の実施形態について、説明する。尚、第1乃至第4の実施形態で述べた部材と、実質的に同じ部材に対しては、同じ符号を付し、詳細な説明は必要に応じて説明する。図16(a)は装置1Eの平面構造を示し、図16(b)は装置1Eの断面構造を示す。
【0159】
図16に示すカーボンナノチューブの分別装置1Eは、振動部9をさらに備える。
振動部9は、カーボンナノチューブSCNTに対して、水平方向又は垂直方向の微振動を与える。例えば、この振動部9は、磁場発生部5と同様に、磁場を発生させることによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTの反磁性を利用して、そのカーボンナノチューブSCNTに振動を与える。図16(a)及び図16(b)に示すように、振動部9は、図中の手前側から奥行き側、又は、奥行き側から手前側に向かって、交互に磁場を発生させる。即ち、カーボンナノチューブが搬送ベクトルによって搬送されることで、カーボンナノチューブSCNTに、BからB’(またはB’からB)に向かう方向と水平な方向の微振動が与えられる。または、カーボンナノチューブSCNTに、搬送部2のカーボンナノチューブが搭載される面に対して垂直方向(C−C’方向)の微振動が与えられる。
【0160】
このように、搬送中の半導体性カーボンナノチューブSCNTに選択的に振動を与えることで、カーボンナノチューブと可動ステージ(ベルトコンベア)との間に発生する分子間力(静電気力)による付着や、複数のカーボンナノチューブを搬送した場合における、カーボンナノチューブ間の付着及び絡まりに起因した分別エラーを、抑制できる。
【0161】
尚、振動部9が生じる振動は、カーボンナノチューブSCNT,MCNTが特性毎に分別されるまでに与えられていればよい。そのため、振動部9は、搬送部3の共有部3A及び磁場印加領域3Bまでの区間内に配置されていればよい。
【0162】
以上のように、本発明の第5の実施形態によれば、第1乃至第3の実施形態と同様に、簡便且つ効率的に、カーボンナノチューブを特性毎に分別でき、さらに、その分別の精度も向上できる。
【0163】
尚、図16においては、第1の実施形態に示す装置に振動部9を備えた例を示しているが、これに限定されず、第2乃至第4に示す構成に対して、振動部9を付加した構成であってもよいのは、もちろんである。
【0164】
特に、第3の実施形態のように、磁場による反発力によって、半導体性カーボンナノチューブを選択的に切断して、特性ごとに分別する場合には、振動による外力をカーボンナノチューブに与えることができる。これは、半導体性カーボンナノチューブの切断による分別を効率化できる。また、エッチングによるカーボンナノチューブSCNT,MCNTのダメージを低減できる。
【0165】
(6) 第6の実施形態
第1乃至第5の実施形態においては、主に、本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブの分別装置の全体構成について述べた。ここでは、図17及び図18を用いて、磁場発生部5の構成例について説明する。尚、第1乃至第5の実施形態で述べた部材と、実質的に同じ部材に対しては、同じ符号を付し、詳細な説明は必要に応じて説明する。
【0166】
図17に示す例において、磁場発生部5は、電磁石から構成される。電磁石は、強磁性体(例えば、鉄(Fe))51と、その磁性体51に巻きつけられた導線(コイル)とを備える。導線51には、電源53と、スイッチ54とが接続されている。
スイッチ54がオフからオンに切り替えられることによって、導線52に電流Iが流れ、磁性体51が磁化する。これによって磁場Hが発生する。尚、スイッチがオフにされている時には、電流Iは導線52に流れないので、磁場Hは発生しない。電磁石が発する磁場Hの方向は、磁場発生部5を配置した側から分岐部3D側に向かう方向(図17中のAからA’に向かう方向)に設定され、それに伴って、電流Iを流す向き及び導線52の巻き方が設定されている。
【0167】
電磁石から構成される磁場発生部5は、導線52を流れる電流の大きさを調整することにより、磁束密度を変化できる。それゆえ、電磁石を用いることによって、カーボンナノチューブに供給する磁場Hの大きさを、簡便に変化させることができる。
よって、例えば、磁石の往復運動などのように、永久磁石を動作させて、磁場を変化させる場合に比べて、機械的な振動などに起因する、磁場による反発力以外の外力がカーボンナノチューブに与えられることを防止できる。その結果、搬送されるカーボンナノチューブSCNT,MCNTの分別の精度を向上できる。
【0168】
図18は、図17とは異なった磁場発生部5の構成例を示している。図18に示す例では、磁場発生部5は、円筒状の回転部表面に磁性体(強磁性体)57,58が設けられた構造を有している。回転部には、N極の磁性体57とS極の磁性体58とが交互に配置されている。
図18(a)に示される磁場発生部5は、磁場印加領域3Bの側部に隣接して配置されている。磁場発生部5は、搬送部のカーボンナノチューブが搭載される面表面に対して垂直方向に回転軸を有している。また、図18(b)に示される磁場発生部5は、磁場印加領域3Bの下方に設けられている。磁場発生部5は、搬送部のカーボンナノチューブが搭載される面表面に対して平行方向に回転軸を有している。
【0169】
図18(a)及び図18(b)に示される磁場発生部5において、磁場Hの発生時に、回転部が高速に回転する。尚、回転部の回転方向は時計周り又は反時計回りのどちらであってもよい。
【0170】
このように、図18(a)及び図18(b)に示される磁場発生部5は、反磁性を示す半導体性カーボンナノチューブSCNTに対して、最初は、磁場印加領域3Bに引き寄せるような磁場を与え、その後、磁場印加領域3Bからはじきだすような磁場を与える。この一連の動作(回転)によって、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、搬送ベクトルとほぼ同じ方向に引き寄せられ、ある初速度を有した状態で、磁場印加領域3B内において、強い反発力を受ける。そして、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、搬送ベクトル方向と磁場ベクトル方向との合成ベクトル方向に移動する。その結果として、半導体性カーボンナノチューブSCNTと金属性カーボンナノチューブMCNTを精度良く分別することができる。
【0171】
以上のように、図17及び図18に示される構成によって、磁場発生部5は磁場印加領域3B内に、磁場Hを供給する。
【0172】
これによって、第1乃至第5の実施形態で述べたカーボンナノチューブの分別方法及び分別方法を用いて、特性(バンドギャップの大きさ)に応じて、カーボンナノチューブが分別される。
【0173】
[応用例]
図19乃至図21を用いて、本発明の実施形態の応用例について、説明する。尚、第1乃至第6の実施形態で述べた部材と、実質的に同じ部材に対しては、同じ符号を付し、詳細な説明は必要に応じて説明する。
【0174】
図19に示すカーボンナノチューブの分別装置は、複数の磁場発生部51〜5nが、直列に配列されている。この構成によれば、半導体性/金属性カーボンナノチューブSCNT,MCNTは、複数の磁場印加領域3B1〜3Bn内に、順次搬送される。
【0175】
複数のカーボンナノチューブSCNT,MCNTを一度に大量に搬送する場合、半導体性カーボンナノチューブSCNTが磁場Hに起因した反発力が与えられても、反発力によるカーボンナノチューブの移動が他のカーボンナノチューブの存在によって妨げられてしまい、半導体性カーボンナノチューブSCNTと金属性カーボンナノチューブMCNTとが分別されずに、混在した状態で回収されてしまう場合がある。
【0176】
図19に示す例のように、複数の磁場発生部51〜5nを備えることで、半導体性カーボンナノチューブが1つめの磁場発生部51の磁場Hによっては分別されず、その半導体性カーボンナノチューブSCNTが金属性カーボンナノチューブMCNTとともに、回収部4B側の分岐部3C1に搬送された場合、2つめの磁場発生部52において、磁場Hが半導体性カーボンナノチューブSCNTに再度供給される。そして、2つめの磁場発生部52が発する磁場Hに起因した反発力によって、反磁性の半導体性カーボンナノチューブSCNTが、分岐部3D側へ分別される。
【0177】
このように、半導体性カーボンナノチューブの磁気特性(反磁性)と磁場Hとの相互作用を利用したカーボンナノチューブの分別を、複数回繰り返すことで、特性(バンドギャップの大きさ)の異なるカーボンナノチューブの分別を、精度良く実行できる。
【0178】
尚、磁場発生部51〜5nのそれぞれが発生させる磁場Hの大きさは、すべて同じであってもよいし、それぞれ異なる大きさであってもよい。
【0179】
又、図20に示すように、半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2と金属性カーボンナノチューブMCNTとを分別した後、それに連続して、半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2を、バンドギャップの大きさ毎に分別してもよい。
【0180】
図20に示す装置においては、はじめに、磁場印加領域3B1内で、半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2と金属性カーボンナノチューブMCNTとが、磁場Hとそれらの磁気特性の相互作用によって、分別される。
【0181】
これによって、金属性カーボンナノチューブMCNTは、回収部4B内に回収される。
一方、半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2は、分岐部3D1を経由して、磁場印加領域3B2内に搬送される。
【0182】
磁場印加領域3B2内において、半導体性カーボンナノチューブSCNT1を励起させる外部エネルギーE(ここでは、光エネルギー)が、バンドギャップの大きさが異なる半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2に与えられる。尚、外部エネルギーEの大きさは、半導体性カーボンナノチューブSCNT1のバンドギャップに対応するエネルギーの大きさ以上であって、半導体性カーボンナノチューブSCNT2のバンドギャップに対応するエネルギーの大きさより小さい。
【0183】
外部エネルギーEを与えられることで、半導体性カーボンナノチューブmSCNT1は励起状態になり、一時的に常磁性を示すようになる。一方、半導体性カーボンナノチューブSCNT2は、励起状態になるのに十分なエネルギーが与えられないので、励起状態にならない。それゆえ、半導体性カーボンナノチューブSCNT2の磁気特性は、反磁性のままである。
【0184】
これにより、磁場印加領域3B2内において、半導体性カーボンナノチューブSCNT2は、その磁気特性(反磁性)と磁場Hとの反発力によって、分岐部3D2側にはじき出され、回収部4A2内に回収される。一方、励起状態の半導体性カーボンナノチューブmSCNT1は磁場Hによる反発力を受けない。そのため、半導体性カーボンナノチューブmSCNT1は、分岐部3C2側へ搬送され、回収部4A1内に回収される。
【0185】
以上のように、カーボンナノチューブの特性に応じた選別を、より効率的に実行できる。
【0186】
尚、図20においては、1つの励起部8Aを備えた装置の例を示しているが、これに限定されず、図21に示すように、励起部8Aを複数個備えた構成であっても良い。複数の励起部8Aを備えた場合、励起部8Aが出力する外部エネルギーの大きさをそれぞれ異ならせることで、バンドギャップの大きさ毎の分別が、より細分化して行える。図21を用いて、より具体的に説明する。
【0187】
図21に示す例では、励起部8A1及び励起部8A2は、それぞれ異なる波長λ1,λ2のレーザ光を発するレーザ発振部をそれぞれ用いている。
【0188】
例えば、図20に示す例と同様に、まず半導体性カーボンナノチューブと金属性カーボンナノチューブMCNTとが、磁場印加領域3B1内で、選別される。
【0189】
選別された半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2,SCNT3は、それぞれ異なる大きさのバンドギャップを有する。半導体性カーボンナノチューブSCNT1はバンドギャップEg1を有し、半導体性カーボンナノチューブSCNT2はバンドギャップEg2を有する。半導体性カーボンナノチューブSCNT3は、バンドギャップEg3を有する。これらのバンドギャップEg1、Eg2,Eg3において、バンドギャップEg3が最もバンドギャップエネルギーが大きく、バンドギャップEg1が最もバンドギャップが小さい。バンドギャップEg2は、バンドギャップEg1とバンドギャップEg2との間の大きさのバンドギャップエネルギーである。
【0190】
半導体カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2,SCNT3は、分岐部3D1から磁場印加領域3B2に搬送される。
磁場印加領域3B2において、半導体カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2,SCNT3に対して、エネルギーE1が与えられる。このエネルギーE1は、バンドギャップEg1に対応するエネルギー以上の大きさであって、バンドギャップEg2,Eg3に対応するエネルギーより小さい。それゆえ、磁場印加領域3B2内において、バンドギャップEg1を有する半導体性カーボンナノチューブSCNT1はエネルギーE1によって励起状態になり、バンドギャップEg2,Eg3をそれぞれ有する半導体性カーボンナノチューブSCNT2,SCNT3は定常状態のままである。
【0191】
これによって、半導体性カーボンナノチューブSCNT2,SCNT3は、磁場発生部52が生じる磁場Hとの相互作用により、分岐部3D2内にはじき出される。一方、励起状態の半導体性カーボンナノチューブSCNT1は、搬送ベクトルによって、分岐部3C2を経由して、回収部4A1内に回収される。
【0192】
さらに、半導体性カーボンナノチューブSCNT2,SCNT3は磁場印加領域3B3に搬送され、その領域3B3内において、励起部8A2によって、エネルギーE2が与えられる。エネルギーE2は、バンドギャップEg2に対応するエネルギー以上の大きさであって、バンドギャップEg3に対応するエネルギーより小さい。それゆえ、磁場印加領域3B3内において、バンドギャップEg2を有する半導体性カーボンナノチューブmSCNT1は励起状態になり、バンドギャップEg3をそれぞれ有する半導体性カーボンナノチューブSCNT3は定常状態のままである。これによって、半導体性カーボンナノチューブmSCNT2の磁気特性は、励起状態の間、常磁性を示し、磁場Hによる反発力を受けなくなる。一方、バンドギャップEg3を有する半導体性カーボンナノチューブSCNT3は、磁場Hによる反発力を受ける。したがって、バンドギャップEg2を有する半導体性カーボンナノチューブSCNT2は、分岐部3C3を経由して、回収部4A2に回収される。一方、バンドギャップEg3を有する半導体性カーボンナノチューブSCNT3は、分岐部3D3を経由して、回収部4A3に回収される。
【0193】
このように、異なる大きさのエネルギーを、半導体性カーボンナノチューブに順次与えることによって、エネルギーに対応するバンドギャップの大きさ毎に、半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2,SCNT3を分別できる。
【0194】
尚、図20及び図21においては、励起部8A1,8A2は、レーザ装置を用いているが、それに限定されず、加熱装置によって熱エネルギーを半導体性カーボンナノチューブに与えてもよいし、レーザ装置と加熱装置とを併用した構成であってもよい。
【0195】
図19乃至図21を用いて説明したように、本発明の第1乃至第6の実施形態で述べたカーボンナノチューブの分別方法を適宜組み合わせることで、特性(バンドギャップの大きさ)に応じたカーボンナノチューブの分別の精度及び効率を向上できる。
【0196】
[適用例]
以下、図1乃至図21を参照して説明したカーボンナノチューブの分別装置/分別方法によって分別されたカーボンナノチューブの適用例について、説明する。
【0197】
(A) カーボンナノチューブに対する処理
図22乃至図27を参照して、デバイスにカーボンナノチューブに適用する際に、カーボンナノチューブに対して施す処理について説明する。
【0198】
(1)カーボンナノチューブの形状の均一化
図22を用いて、カーボンナノチューブに対する処理の1つとして、カーボンナノチューブの形状(長さ)をそろえる方法について、説明する。
【0199】
カーボンナノチューブは、例えば、図10及び図11を用いて説明したように、アルマイトなどの多孔質層25の細孔内に形成される場合がある。
【0200】
この場合、形成されたカーボンナノチューブCNTは、基板表面に交差する方向に成長する。尚、形成された複数のカーボンナノチューブCNTは、半導体性カーボンナノチューブ及び金属性カーボンナノチューブの両方を含んでいる。
【0201】
この際、図22(a)に示すように、カーボンナノチューブCNTの上端が、細孔の開口部から突出するように、形成される。多孔質層25の上面をストッパとして、カーボンナノチューブCNTの上端を、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用いて、研削する。すると、図22(b)に示すように同一基板上に形成された複数のカーボンナノチューブCNTの長さが、ほぼ同じになる。
【0202】
この後、上述の実施形態のカーボンナノチューブの分別装置/分別方法を用いて、その長さが同じにされたカーボンナノチューブが、半導体性及び金属性の特性に応じて、分別される。
【0203】
このように、同一基板上に形成された複数のカーボンナノチューブCNTにおいて、それらのカーボンナノチューブCNTの長さを同じ長さにすることによって、金属性/半導体性カーボンナノチューブCNTを後述のデバイスに適用するときに、素子特性のばらつきを抑制できる。
【0204】
(2) カーボンナノチューブの配置制御
ここでは、カーボンナノチューブを基板上の所定の位置に配置するための方法について、説明する。尚、ここで述べる方法は、金属性カーボンナノチューブ及び半導体性カーボンナノチューブに共通に適用できる。
【0205】
(a) 第1例
カーボンナノチューブが含まれる溶液を、溶液の流速及び流し込む時間を制御して、基板上に流した場合、複数のカーボンナノチューブは溶液が流れる方向に沿って基板上に配列する性質がある。
ここでは、この性質を利用して、複数のカーボンナノチューブを同時に基板上の所定位置に配置する方法の一例について、図23乃至図25を用いて、説明する。
【0206】
まず、図23(a)に示すように、基板20上に、多孔質層(例えば、アルマイト層)が、形成される。そして、この多孔質層25の細孔内に、例えば、絶縁体26が埋め込まれる。尚、細孔内に埋め込まれる材料は、絶縁材料に限定されず、多孔質層25と細孔内に埋め込まれる材料とのエッチング選択比が確保できれば、導電材料や半導体材料でもよい。
【0207】
そして、図23(b)に示すように、多孔質層が選択的に除去される。すると、絶縁層26が、基板20上に残存し、ピラー状の絶縁層26(以下、ピラー26と呼ぶ)が基板20上に配列された構造になる。上記のように、多孔質層に形成される細孔Oは、ほぼ規則的な配列を有するため、その細孔に埋めこまれたピラー26も、基板20上に規則的に配列する。
【0208】
図24(a)及び図24(b)に示すように、複数のピラー26が配列された基板20上に、上述の各実施形態によって分別されたカーボンナノチューブCNTが含まれる溶液が、溶液の流速及び流し込み時間を制御して、流し込まれる。図24に示す例において、溶液が流れる方向は、例えば、x方向に沿う方向に設定される。
そして、溶液を揮発させると、カーボンナノチューブCNTは、x方向に沿って配列するとともに、y方向に隣接する複数のピラー26間に配置される。
【0209】
このように、複数のカーボンナノチューブCNTを、溶液の流す方向とピラー26の位置に応じて、基板20上に規則的に同時に配置できる。
【0210】
尚、図23及び図24においては、多孔質層を用いて、基板20上にピラー26を形成したが、これに限定されず、絶縁体や導電体からなる立体的な構造体を、RIE法やフォトリソグラフィ技術を用いて、基板20上の所定位置に形成してもよい。
【0211】
また、基板20上にピラー26に形成する代わりに、図25に示すように、基板20内に、フォトリソグラフィ技術及びRIEを用いて、溝Zを形成し、その基板20上に、カーボンナノチューブCNTが含まれる溶液を流してもよい。図25(a)は、基板20上に配置されたカーボンナノチューブの平面図を示し、図25(b)は図25(a)のy方向に沿う断面図を示している。
この場合、カーボンナノチューブCNTは、溝Zの位置に応じて、基板20上に規則的に配置できる。尚、溝Zは、基板20上に形成された層間絶縁層内に形成されてもよい。また、図24(b)では、溝Zの形状は矩形状を有しているが、これに限定されず、溝Zの形状は、図24(c)に示すように、例えば、三角形状(V字状)など、他の形状を有してもよい。
【0212】
このように、ピラー(構造体)26が形成された基板上や溝Zが形成された基板上に、カーボンナノチューブを含む溶液を流すことによって、ピラー26や溝Zの位置に沿って、複数のカーボンナノチューブの配置を同時に制御できる。
【0213】
この方法によって、半導体性/金属性カーボンナノチューブを適用したデバイスを、所定の位置に配置されるように、制御できる。また、上述の方法によれば、複数のカーボンナノチューブの配置を同時に制御できるので、カーボンナノチューブを用いたデバイスの生産効率を向上できる。
【0214】
(b) 第2例
図26を用いて、カーボンナノチューブの配置を制御するための方法の一例について、説明する。
カーボンナノチューブの端部を酸素雰囲気中において開端すると、カルボキシル基(−COOH)が、開端部分に付与されることが知られている。ここでは、カーボンナノチューブの端部に官能基を付与し、付与した官能基の特性を利用して、カーボンナノチューブの配置を制御する方法の一例について、説明する。
【0215】
図26(a)に示すように、例えば、レジスト30が、基板20上に塗布される。そして、レジスト30中に、カーボンナノチューブCNTaが分散される。
【0216】
カーボンナノチューブCNTaは、第1乃至第6の実施形態で述べた装置及び方法によって、その特性(バンドギャップの大きさ)に応じて、分別されている。分別されたカーボンナノチューブCNTaは、端部が開端され、その開端部に、磁性を有する原子又はその原子を含むキレートRが付与(化学修飾とも呼ばれる)される。
【0217】
そして、図26(b)に示すように、磁場Hが、レジスト30上のカーボンナノチューブCNTaに対して供給される。磁場Hの方向は、例えば、基板20表面に対して水平方向になっている。カーボンナノチューブCNTaは、磁場Hが与えられることによって、レジスト30中を電気泳動し、原子又はキレートが付与された端部が磁場Hの方向に沿う方向を向く。
これによって、複数のカーボンナノチューブCNTaが、基板20上のレジスト30内で同じ方向に配向される。
【0218】
また、カーボンナノチューブの開端部には、磁性を有する原子又はキレートRの代わりに、荷電性を有する原子又はその原子を含むキレートRが付与されてもよい。
荷電性の原子及びその原子を含むキレートRを付与した場合には、図26(c)に示すように、磁場の代わりに、電場Eが用いられる。この場合においても、電場Eの方向に沿って、カーボンナノチューブCNTaがレジスト内で配向する。
【0219】
尚、磁性を有する原子/キレートと荷電性を有する原子/キレートの両方を、カーボンナノチューブの開端部に付与してもよい。
【0220】
以上のように、カーボンナノチューブの開端部に、磁性・荷電性を有する原子又はキレートを付与することによって、磁場又は電場を用いて、基板20上における複数のカーボンナノチューブCNTaの配置(配向)を制御することができる。
【0221】
(c) 第3例
図27を用いて、カーボンナノチューブの配置を制御するための方法について、説明する。
本例においては、カーボンナノチューブの開端部に付与(化学修飾)される官能基の特性を利用して、複数のカーボンナノチューブの基板上での配置を制御し、それとともに、カーボンナノチューブ同士を電気的に接続するための方法について、説明する。
【0222】
硫黄(S)が、金(Au)と接触すると、硫黄と金との間で共有結合が形成されることが知られている。本例では、この作用を利用して、カーボンナノチューブの配置を制御し、且つ、カーボンナノチューブの配置を固定する例について、説明する。
【0223】
まず、硫黄が含まれている気体雰囲気中で、カーボンナノチューブの端部が開端され、硫黄(S)を含むチオール基(−SH)が、カーボンナノチューブCNTbの開端部に付与される。
【0224】
また、カーボンナノチューブが配置される基板20上において、例えば、金(Au)から構成される金属膜28Aが、カーボンナノチューブCNTbの端部が、配置される所定の位置に選択的に形成される。尚、金属膜28Aは、金(Au)に限定されず、チオール基と共有結合をなす膜であればよい。
【0225】
図27(a)に示す基板20上には、カーボンナノチューブの配向方向を制御するためのピラー26も形成されている。
【0226】
そして、チオール基Sが付与されたカーボンナノチューブCNTbを含む溶液が、金属膜28Aが形成された基板20上に流し込まれる。
【0227】
この際、チオール基が付与されたカーボンナノチューブの先端部は、金属膜28Aに引き寄せられる。そして、チオール基が含んでいる硫黄(S)と金(Au)は共有結合をなし、この結合力によって、カーボンナノチューブCNTaの先端が金属膜28A上に固定される。
【0228】
また、チオール基を付与する代わりに、カーボンナノチューブの開端部に、ペプチドを付与してもよい。ペプチドは複数のアミノ酸の重合体であり、本例で付与されるペプチドは、例えば、無機材料結合ペプチドである。無機材料結合ペプチドとは、ある特定の無機材料との組み合わせによって、それらの相互作用に起因した結合が生じるペプチドのことである。無機材料結合ペプチドと結合する無機材料は、例えば、鉛(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)及びチタン(Ti)等の金属、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、モリブデン酸カルシウム(CaMoO4)等の無機化合物、ガリウムヒ素(GaAs)や硫化亜鉛(ZnS)などの半導体材料、が挙げられる。例えば、チタン(Ti)と結合する無機材料結合ペプチドの配列は、Kをリシン、Aをアラニン、Dをアスパラギン酸と表記した場合、KAKAKAKAの配列、DKDKDKDKの配列、DADADADAの配列を有する。
【0229】
図27(b)に示すように、無機材料結合ペプチドPTを用いる場合においても、カーボンナノチューブCNTcの開端部に無機材料結合ペプチドPTが付与され、基板20上の所定の位置に、無機材料膜28Bが形成される。形成される無機材料膜28Bは、付与された無機材料結合ペプチドとの間で結合をなす組み合わせの材料である。
【0230】
そして、無機材料結合ペプチドPTが付与されたカーボンナノチューブCNTcを含む溶液が、基板20上に流され、カーボンナノチューブCNTcが、基板20上に配置される。カーボンナノチューブCNTcの無機材料結合ペプチドPTが付与された部分と無機材料膜28Bとが、それらの間に生じる相互作用により、結合する。これによって、カーボンナノチューブCNTcの端部が、無機材料膜28B上に固定される。
【0231】
図26に示す例において、金属膜28A又は無機材料膜28Bは、複数のカーボンナノチューブCNTa,CNTbに共有されている。
【0232】
図25を用いて説明した第1例のように、カーボンナノチューブを含む溶液を基板上に流し込むだけでは、カーボンナノチューブ同士が電気的に接続されない場合がある。一方、本例では、カーボンナノチューブCNTa,CNTbは導電性の膜を共有するので、直接接触せずとも、導電性の膜28A,28Bを介して、電気的に接続される。
【0233】
金属膜28Aや導電性の無機材料膜28Bは、例えば、カーボンナノチューブを適用したデバイスの電極や配線として、用いてもよい。また、金属膜28Aや導電性の無機材料膜28Bは、カーボンナノチューブが固定された後に、所定の配線レイアウトとなるように、選択的にパターニングが施されてもよい。
【0234】
(B) カーボンナノチューブを用いた素子
以下、図28乃至図35を用いて、本発明の各実施形態によって分別されたカーボンナノチューブの適用したデバイスについて説明する。
【0235】
(1) スイッチング素子
以下、図28を参照して、本発明の実施形態によって分別された半導体性カーボンナノチューブSCNTを用いたスイッチング素子について、説明する。
【0236】
上述のように、半導体性カーボンナノチューブは反磁性を有し、印加された磁場に対して反発力が生じる。このような磁場の印加により反発する性質を利用して、半導体性カーボンナノチューブは、例えば、ナノサイズのスイッチング素子(以下、NEMS(Nano Electronics Mechanical Structure)スイッチ素子と呼ぶ)に、適用される。
【0237】
図28は、半導体性カーボンナノチューブを用いたNEMSスイッチ素子の構造及び動作を説明するための模式図である。
まず、NEMSスイッチ素子の構造について説明する。
【0238】
NEMSスイッチ素子60は、基板20上に設けられる。基板20は、半導体基板(例えば、シリコン基板)や絶縁性基板(例えば、ガラス基板)、或いは、層間絶縁膜が、用いられる。
【0239】
基板20上に、半導体性カーボンナノチューブSCNTが設けられる。尚、ここでは、説明の簡単化のため、1つの半導体性カーボンナノチューブSCNTを図示しているが、複数の半導体性カーボンナノチューブから構成されるカーボンナノチューブの束でも良い。
【0240】
半導体性カーボンナノチューブSCNTの一端は、例えば、アンカーとしての導電材61によって、基板20上に固定される。導電材61は、例えば、配線層としても機能する。また、半導体性カーボンナノチューブSCNTの一端と接触するように、電極62が基板20上に設けられる。
【0241】
NEMSスイッチ素子60に磁場Hを与えるため、アクチュエータとしての磁場発生部65が設けられる。磁場発生部65が発生する磁場Hと反磁性を示す半導体性カーボンナノチューブSCNTとの相互作用によって、半導体性カーボンナノチューブSCNTと電極62との接触/非接触が制御され、NEMSスイッチ素子60がオン/オフされる。図27に示す例では、磁場Hの向きは、基板20の底面側から基板20の上面側へ向かう方向になっている。
【0242】
外部から磁場が印加されない時、半導体性カーボンナノチューブSCNTの一端と電極62が接触し、カーボンナノチューブSCNTを用いたNEMSスイッチ素子60はオン状態となる。一方、外部から磁場Hが印加された時、半導体性カーボンナノチューブSCNTの反磁性によって、半導体性カーボンナノチューブに磁場Hに対する反発力が、半導体性カーボンナノチューブSCNTに与えられ、半導体性カーボンナノチューブSCNTの一端は電極62から離れる。このため、このNEMSスイッチ素子60はオフ状態になる。
【0243】
磁場Hが与えられていない状態を通常状態とした場合、このNEMSスイッチ素子60は、ノーマリーオン型のスイッチ素子となる。
【0244】
尚、図28に示す構成において、半導体性カーボンナノチューブを用いたNEMSスイッチ60と磁場発生部65とが同一のチップ上に形成される場合には、アクチュエータとしての磁場発生部65は、カーボンナノチューブSCNTよりも下層に形成されることが好ましい。そして、NEMSスイッチ素子としてのカーボンナノチューブSCNTは、磁場発生部65を覆う層間絶縁膜上に配置される。
また、NEMSスイッチ素子60と磁場発生部65とが異なるチップ上にそれぞれ形成される場合には、磁場発生部65が形成されたチップ上に、NEMSスイッチ素子60が形成されたチップが積層されることが好ましい。
【0245】
以上のように、本発明の実施形態で述べたカーボンナノチューブの分別装置及び分別方法によって、半導体性カーボンナノチューブSCNTが分別され、その分別されたカーボンナノチューブSCNTが、例えば、NEMSスイッチ素子に適用される。分別されたカーボンナノチューブの特性(バンドギャップの大きさ)は、実施形態で述べた方法によって、ほぼ同じ特性を有している。それゆえ、特性の同じカーボンナノチューブを適用することによって、NEMSスイッチの特性ばらつきを抑制できる。
【0246】
したがって、本発明の実施形態のカーボンナノチューブの分別装置及び分別方法を用いることによって、特性のばらつきを抑制したNEMSスイッチを提供できる。
【0247】
(2) トランジスタ
図29乃至図32を参照して、本発明の実施形態によって分別された半導体性カーボンナノチューブを、電界効果トランジスタに適用する例について、説明する。
【0248】
(a) 構造
図29を用いて、半導体性カーボンナノチューブSCNTを用いた電界効果トランジスタの構造について、説明する。以下では、カーボンナノチューブSCNTを用いた電界効果トランジスタのことを、CNTトランジスタと呼ぶ。
【0249】
図29(a)は、CNTトランジスタの平面構造を示している。図29(b)は、図29(a)のL−L線に沿う断面図を示し、図29(c)は、図29(a)のW−W線に沿う断面図を示している。尚、L−L線は、CNTトランジスタのチャネル長方向の断面に対応し、W−W線は、CNTトランジスタのチャネル幅方向の断面に対応している。
【0250】
図29に示すように、CNTトランジスタのゲート電極41は、基板20内に形成された溝内に設けられている。ゲート電極41は、y方向(チャネル幅方向)に延在している。尚、基板20は、シリコン基板などの半導体基板でもよいし、シリコンカーバイト(SiC)基板や絶縁性基板でもよい。
【0251】
ゲート電極41上及び基板20上には、ゲート絶縁膜42が設けられる。
ゲート絶縁膜42上には、半導体性カーボンナノチューブSCNTが設けられている。カーボンナノチューブSCNTの一端及び他端には、ソース/ドレイン電極44a,44bが設けられている。
【0252】
半導体性カーボンナノチューブSCNTは、ゲート電極41と対向する部分がチャネル領域CHとして機能する。また、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、電極44a,44bと接触する部分が、それぞれソース/ドレインとして機能する。
【0253】
カーボンナノチューブSCNT及びソース/ドレイン電極44a,44b上には、層間絶縁膜47が設けられる。
【0254】
トランジスタに用いた半導体性カーボンナノチューブSCNTは、本発明の実施形態で述べた方法によって分別された半導体性のカーボンナノチューブである。
【0255】
以上のように、本発明の第1乃至第6の実施形態で述べた装置及び方法によって分別された半導体性カーボンナノチューブSCNTを、CNTトランジスタに適用できる。
【0256】
第1乃至第6の実施形態で述べたカーボンナノチューブの分別装置及び分別方法によれば、半導体性カーボンナノチューブのバンドギャップの大きさがほぼ同じもの分別できる。それゆえ、同じバンドギャップの大きさを有する複数の半導体性カーボンナノチューブSCNTを、CNTトランジスタにそれぞれ適用できるので、CNTトランジスタの特性のばらつきを抑制できる。
【0257】
尚、図29には、説明の簡単化のため、1つのCNTトランジスタに、1つの半導体性カーボンナノチューブSCNTが含まれた構成を示している。しかし、1つのCNTトランジスタに、複数のカーボンナノチューブSCNTを用いてもよい。この場合、従来では、カーボンナノチューブの本数のばらつきによって、CNTトランジスタのオン電流がばらつくことがある。しかし、CNTトランジスタに用いる半導体性カーボンナノチューブSCNTは、第1乃至第6の実施形態で述べたカーボンナノチューブの分別装置及び分別方法によれば、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、ほぼ同様の特性(バンドギャップ)を有するように、分別できる。これによって、複数のカーボンナノチューブがCNTトランジスタに含まれた場合においても、CNTトランジスタのオン電流のばらつきは抑制される。
【0258】
したがって、本発明の実施形態のカーボンナノチューブの分別装置及び分別方法を用いることによって、特性のばらつきを抑制したCNTトランジスタを提供できる。
【0259】
(b) 製造方法
以下、図29乃至図32を用いて、カーボンナノチューブを用いた電界効果トランジスタ(CNTトランジスタ)の製造方法について、説明する。尚、図29乃至図32においては、1つのCNTトランジスタ形成領域を図示している。
【0260】
はじめに、図30を用いて、CNTトランジスタの製造工程について、説明する。
図30(a)は、CNTトランジスタの製造工程の一工程を示し、平面図とそのL−L線(チャネル長方向)に沿う断面図を示している。図30(b)は、CNTトランジスタの製造工程の一工程を示し、平面図とそのL−L線に沿う断面図を示している。
【0261】
図30(a)に示すように、基板20内に、y方向(チャネル幅方向)に延在する溝が形成される。そして、基板20表面に、例えば、スパッタ法やCVD(Chemical Vapor Deposition)法などの薄膜体積技術によって、ゲート電極材が堆積される。そして、そのゲート電極材に対して、例えば、エッチバックやCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を施し、金属膜を溝内に自己整合的に残存させる。これによって、ゲート電極41が基板20内に形成される。
そして、図30(b)に示すように、基板20上及びゲート電極41上に、ゲート絶縁膜41が、例えば、CVD法や熱酸化法を用いて、形成される。
【0262】
次に、図31を用いて、CNTトランジスタの製造工程について、説明する。
図31(a)は、CNTトランジスタの製造工程の一工程を示し、平面図とそのL−L線(チャネル長方向)に沿う断面図を示している。図31(b)は、CNTトランジスタの製造工程の一工程を示し、平面図とそのL−L線に沿う断面図を示している。
【0263】
図31(a)に示すように、ゲート絶縁膜42上に、レジスト30が塗布され、さらに、半導体性カーボンナノチューブSCNTがレジスト上に分散される。この半導体性カーボンナノチューブSCNTは、実施形態で述べた装置及び方法によって、特性(バンドギャップの大きさ)に応じて分別されたカーボンナノチューブである。
【0264】
こで、カーボンナノチューブSCNTの特性及び配置の均一化のため、例えば、図26を用いて説明した方法のように、半導体性カーボンナノチューブSCNTの端部に、磁性・荷電性を有する原子又はその原子を含むキレートを予め付与しておき、レジスト30内のカーボンナノチューブSCNTに対して、x方向に沿った磁場又は電場を印加し、カーボンナノチューブの配列を制御してもよい。また、図27を用いて説明した方法を用いてもよい。即ち、カーボンナノチューブSCNTの端部に、チオール基や無機材料結合ペプチドを予め付与すると共に、基板20上の所定の位置に、チオール基や無機材料結合ペプチドと結合をなす膜を形成して、半導体性カーボンナノチューブSCNTを基板20上の所定の位置に固定し、カーボンナノチューブSCNTの配置を制御する。
【0265】
そして、図31(b)に示すように、フォトリソグラフィ技術によって、レジスト30Aがパターニングされる。これによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTのうち、チャネル領域となる部分は、レジスト30Aで覆われる。また、半導体性カーボンナノチューブのうち、ソース/ドレイン領域となる部分は、露出される。
【0266】
この工程において、例えば、CNTトランジスタの形成領域(以下、トランジスタ形成領域と呼ぶ)をそれぞれ区画するために、基板20内に素子分離溝(図示せず)が形成される。カーボンナノチューブの長さが不均一の場合、あるカーボンナノチューブが互いに隣接するトランジスタ形成領域間を架橋することがある。しかし、素子分離溝形成時のRIEによって、素子分離領域(素子分離溝)上のカーボンナノチューブは、RIEにより分断される。それゆえ、1つのカーボンナノチューブが、2つのトランジスタ形成領域に、不要に跨って、素子不良を引き起こすのを防止できる。
【0267】
続いて、図32を用いて、CNTトランジスタの製造工程について、説明する。
図32(a)は、CNTトランジスタの製造工程の一工程を示し、平面図とそのL−L線(チャネル長方向)に沿う断面図を示している。図32(b)は、CNTトランジスタの製造工程の一工程を示し、平面図とそのL−L線に沿う断面図を示している。
【0268】
図32(a)に示すように、レジスト30A上及び半導体性カーボンナノチューブSCNT上に、例えば、スパッタ法によって、金属膜44が堆積される。この際、チャネル領域となるカーボンナノチューブSCNTの部分は、レジスト30Aによって覆われている。そのため、チャネル領域上においては、金属膜44はそのレジスト30A上に堆積される。また、ソース/ドレイン領域となるカーボンナノチューブSCNTの部分には、金属膜44が直接接触して形成される。
【0269】
そして、レジスト30Aが剥離されると、それと同時に、レジスト30A上の金属膜44も剥離される。そのため、図32(b)に示すように、半導体性カーボンナノチューブSCNTにおいて、チャネル領域となる部分は露出し、ソース/ドレイン領域となる部分には、ソース/ドレイン電極44a,44bが形成される。
【0270】
この後、図29に示すように、層間絶縁膜47が、カーボンナノチューブ47を覆うように、基板20上に形成される。これによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTを用いたCNTトランジスタが完成する。
【0271】
以上のように、本発明の第1乃至第6の実施形態で述べたカーボンナノチューブの分別装置及び分別方法によって、半導体性カーボンナノチューブが分別される。そして、図29乃至図32を用いた製造方法によって、分別された半導体性カーボンナノチューブSCNTを適用した電界効果トランジスタ(CNTトランジスタ)が作製される。
【0272】
(3) 配線
図33及び図34を参照して、本発明の第1乃至第6の実施形態で述べたカーボンナノチューブの分別装置及び分別方法によって分別された金属性カーボンナノチューブの適用例について、説明する。
【0273】
(a) 構造
金属性カーボンナノチューブは、アルミニウムや銅などの金属より低抵抗(優れた導電性)を有するため、例えば、半導体集積回路の配線に用いることができる。
【0274】
図33は、金属性カーボンナノチューブMCNTを用いたコンタクトプラグCP及び配線CLの構造を示している。尚、図29を用いて説明したCNTトランジスタと共通する部材については、共通の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0275】
図33(a)は、CNTトランジスタの平面構造とそのL−L線(チャネル長方向)に沿う断面図を示している。図33(a)に示すように、CNTトランジスタにおいて、金属性カーボンナノチューブMCNTを用いたコンタクトプラグCPは、層間絶縁膜47内に埋め込まれ、ソース/ドレイン電極44a,44bに接続される。コンタクトプラグCPとしてのカーボンナノチューブMCNTは、例えば、複数のカーボンナノチューブMCNTを束状にして、用いられる。金属性カーボンナノチューブを用いた配線CLは、層間絶縁膜48内に形成される。
【0276】
また、図33(b)に示すように、金属性カーボンナノチューブMCNTは、半導体基板をチャネル領域とする電界効果トランジスタ(例えば、MOSトランジスタ)のコンタクトプラグCPや配線CLに適用できるのは、もちろんである。
図33(b)に示されるMOS(Metal-Oxide-Semiconductor)トランジスタは、半導体基板20内に、ソース/ドレインとなる2つの拡散層(以下、ソース/ドレイン拡散層と呼ぶ)46a,46bを有している。ソース/ドレイン拡散層44a,44b間のチャネル領域上には、ゲート絶縁膜42を介して、ゲート電極41が設けられている。そして、コンタクトプラグCP及び配線CLとしての金属性カーボンナノチューブMCNTは、ソース/ドレイン拡散層46a,46bに接続される。
【0277】
尚、図33(a)及び図33(b)において、金属性カーボンナノチューブMCNTが、トランジスタのソース/ドレイン44a,44b,46a,46bに接続されるコンタクトプラグCP及び配線CLに用いられた例が示されているが、多層配線技術によって、これらの層よりも上層のコンタクト(ビア)や配線に用いられても良いのはもちろんである。
【0278】
第1乃至第6の実施形態で述べたように、半導体性カーボンナノチューブと金属性カーボンナノチューブが分別されているので、本適用例によれば、金属性カーボンナノチューブMCNTのみから構成されるコンタクトプラグCP及び配線CLを形成できる。それゆえ、特性(バンドギャップの大きさ)がほぼ同じカーボンナノチューブを用いることによって、コンタクト及び配線の電気特性の均一化を図ることができる。
【0279】
以上のように、本発明の第1乃至第6の実施形態で述べた装置及び方法によって分別された金属性カーボンナノチューブMCNTを、コンタクトプラグCPや配線CLに適用できる。
【0280】
(b) 製造方法
図34を用いて、金属性カーボンナノチューブMCNTを用いたコンタクトプラグCP及び配線CLの製造方法について、説明する。尚、図34に示される製造工程は、図29乃至図32を用いて説明した製造工程に続く工程である。
【0281】
図34(a)及び図34(b)は、CNTトランジスタが形成された後における、コンタクトプラグ/配線形成工程の一工程をそれぞれ示し、平面図とそのL−L線(チャネル長方向)に沿う断面図を示している。
【0282】
図34の(a)に示すように、層間絶縁膜47がCNTトランジスタを覆うように形成された後、層間絶縁膜47内にコンタクトホールQが形成される。これによって、ソース/ドレイン電極44a,44b表面が露出する。
そして、第1乃至第6の実施形態で述べた装置及び方法によって分別された金属性カーボンナノチューブMCNTが、形成されたコンタクトホールQ内に導入される。コンタクトホールQ内には、1本以上の金属性カーボンナノチューブMCNTが導入される。
【0283】
この際、導入された金属性カーボンナノチューブMCNTは、コンタクトホールQの上端から突出する場合がある。そこで、図22を用いて説明した方法と同様に、金属性カーボンナノチューブMCNTに対して、層間絶縁膜47をストッパとして、CMPが施される。
【0284】
これによって、図34の(b)に示すように、カーボンナノチューブMCNTが研削され、コンタクトプラグCPとしての金属性カーボンナノチューブMCNTの上端が、層間絶縁膜47の上端と、ほぼ一致する高さにされる。
【0285】
続いて、層間絶縁膜48が、層間絶縁膜47上に堆積される。層間絶縁膜48内には、所定の配線レイアウトになるように、溝Zが形成される。そして、例えば、図24を用いて説明した方法と同様に、金属性カーボンナノチューブMCNTが、溝Zに配置される。これによって、金属性カーボンナノチューブMCNTの配置が制御される。
この際、配線CLとしての金属性カーボンナノチューブMCNTの配置を固定するために、例えば、図27を用いて説明した方法を用いてもよい。即ち、金属性カーボンナノチューブMCNTの端部に、チオール基や無機材料結合ペプチドをあらかじめ付与し、例えば、Au膜や無機材料膜のように、チオール基やペプチドと結合をする膜(図示せず)を、溝Z内の所定の位置に形成する。
そして、金属性カーボンナノチューブMCNTが層間絶縁膜47,48上に導入され、金属性カーボンナノチューブMCNTを用いた配線CLが、溝Zに形成された金属膜又は無機材料膜(図示せず)と結合をなして、所定の位置に固定して配置される。
また、この場合、カーボンナノチューブが、金属膜や導電性の無機材料を介して、電気的に接続される。それゆえ、カーボンナノチューブMCNT同士の接触不良によって、配線CLの電気的特性が劣化するのを防止できる。
【0286】
このように、金属性カーボンナノチューブMCNTを用いたコンタクトプラグCP及び配線CLが完成する。
【0287】
以上のように、本発明の第1乃至第6の実施形態で述べたカーボンナノチューブの分別装置及び分別方法によって、金属性カーボンナノチューブが分別される。そして、図33を用いた製造方法によって、分別された金属性カーボンナノチューブを適用したコンタクトプラグ及び配線が作製される。
【0288】
(4) エミッタ素子
図35を用いて、本発明の実施形態によって分別された金属性カーボンナノチューブMCNTを、例えば、ディスプレイなどの電子放出源(エミッタ素子)に適用した例ついて、説明する。以下、カーボンナノチューブを用いたエミッタ素子のことを、CNTエミッタ素子と呼ぶ。
【0289】
図35は、金属性カーボンナノチューブを適用したマルチエミッタ70を示している。
【0290】
マルチエミッタ70は、真空状態の筐体72内に、カソード電極20Aと、メッシュ状のアノード電極71を有している。アノード電極71とカソード電極20Aには、スイッチ73を介して、電源74が接続される。
【0291】
アノード電極71において、カソード電極20Aと対向する面には、蛍光体(図示せず)が設けられている。
【0292】
カソード電極20A上には、複数のCNTエミッタ素子MCNTが設けられている。複数のCNTエミッタは、例えば、金属性カーボンナノチューブMCNTである。
【0293】
図35に示される複数の金属性カーボンナノチューブMCNTは、例えば、多孔質層を利用して、基板20A表面に対して垂直方向に沿って成長するように形成される。そして、これらの金属カーボンナノチューブMCNTは、第3の実施形態で述べた分別方法を用いて、基板20A上に選択的に残存されたカーボンナノチューブである。
【0294】
この場合、CNTエミッタ素子に用いられる金属性カーボンナノチューブMCNTは、多孔質層を用いて形成する際に、マトリクス状に配列するように基板20A上に形成されるため、エミッタ素子としてのカーボンナノチューブMCNTを改めて配列する必要はない。それゆえ、第3の実施形態のようにカーボンナノチューブを形成・分別することで、CNTエミッタ素子MCNT及びマルチエミッタ70の製造工程を簡略化できる。
そして、これらの複数のCNTエミッタ素子MCNTの一端(先端)は、アノード電極71側に向いている。それゆえ、電子はカーボンナノチューブMCNTの急峻な先端から放出されるため、電子を放出させるための駆動電圧を低減できる。
【0295】
尚、基板20Aは、カソード電極として機能することが好ましく、金属や半導体などの導電性を有する基板が用いられる。但し、その表面に導電膜を有する絶縁性基板であってもよいのは、もちろんである。また、図35においては、基板20A(カソード電極)上の多孔質層が除去された例が示されているが、多孔質層を基板20上に残存させてもよい。さらに、残存された多孔質層上に、エミッタ素子としての金属性カーボンナノチューブMCNTの先端に近接して設けられたグリッド電極を備えていてもよい。このグリッド電極によって、エミッタ素子からの電子の放出を制御できる。
【0296】
さらに、エミッタ素子の特性の均一化を図るため、図22を用いて説明したように、カーボンナノチューブの先端に対してCMPを施して、カーボンナノチューブの長さが同じになっていることが好ましい。
【0297】
尚、第1及び第2の実施形態を用いて分別された金属性カーボンナノチューブを、基板20A上に分散させて、CNTエミッタ素子に適用してもよいのはもちろんである。
【0298】
以上のように、本発明の第1乃至第6の実施形態で述べた装置及び方法によって、カーボンナノチューブが特性毎に分別される。そして、分別された金属性カーボンナノチューブMCNTを、エミッタ素子に適用できる。
【0299】
[その他]
本発明の実施形態においては、カーボンナノチューブを例に、その磁気特性の違いを利用して、複数のカーボンナノチューブを特性・性質毎に分別する方法について、説明した。しかし、本発明の例は、カーボンナノチューブに限定されない。
【0300】
同一条件下で同一基板上に形成された微細な構造体(生成物)、特に、六員環から構成される構造体において、その構造体の磁気特性(常磁性/反磁性)に違いが生じていれば、本発明の例は適用でき、磁気特性の違いを利用して、複数の構造体を性質・特性毎に分別できる。それゆえ、カーボンナノチューブ以外の微細な構造体においても、本発明の実施形態で述べた効果と同様の効果を得ることができる。
【0301】
本発明の例は、上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、各構成要素を変形して具体化できる。また、上述の実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を構成できる。例えば、上述の実施形態に開示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよいし、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0302】
【図1】本発明の実施形態を説明するための模式図。
【図2】本発明の実施形態を説明するための模式図。
【図3】第1の実施形態に係るカーボンナノチューブの製造装置を説明するための鳥瞰図。
【図4】第1の実施形態に係るカーボンナノチューブの製造装置を説明するための平面図。
【図5】カーボンナノチューブを分別する方法を説明するための模式図。
【図6】カーボンナノチューブを分別する方法を説明するための模式図。
【図7】カーボンナノチューブを分別する方法を説明するための模式図。
【図8】第2の実施形態に係るカーボンナノチューブの製造装置を説明するための鳥瞰図。
【図9】第2の実施形態に係るカーボンナノチューブの製造装置を説明するための断面図。
【図10】第3の実施形態を説明するための模式図。
【図11】第3の実施形態を説明するための模式図。
【図12】第3の実施形態に係るカーボンナノチューブの製造装置及び分別方法を説明するための断面図。
【図13】第4の実施形態に係るカーボンナノチューブの製造装置の一例を示す図。
【図14】第4の実施形態に係るカーボンナノチューブの製造装置の一例を示す図。
【図15】第4の実施形態に係るカーボンナノチューブを分別する方法を説明するための図。
【図16】第5の実施形態に係るカーボンナノチューブの製造装置の一例を示す図。
【図17】第6の実施形態を説明するための模式図。
【図18】第6の実施形態を説明するための模式図。
【図19】本発明の実施形態の応用例を説明するための図。
【図20】本発明の実施形態の応用例を説明するための図。
【図21】本発明の実施形態の応用例を説明するための図。
【図22】カーボンナノチューブの製造方法を説明するための図。
【図23】カーボンナノチューブの製造方法を説明するための図。
【図24】カーボンナノチューブの製造方法を説明するための図。
【図25】カーボンナノチューブの製造方法を説明するための図。
【図26】カーボンナノチューブの製造方法を説明するための図。
【図27】カーボンナノチューブの製造方法を説明するための図。
【図28】スイッチ素子の構造及び動作を説明するための図。
【図29】トランジスタの構造を説明するための図。
【図30】トランジスタの製造方法を説明するための工程図。
【図31】トランジスタの製造方法を説明するための工程図。
【図32】トランジスタの製造方法を説明するための工程図。
【図33】配線の構造を説明するための図。
【図34】配線の製造方法を説明するための工程図。
【図35】エミッタ素子の構造を説明するための図。
【符号の説明】
【0303】
1A,1B:カーボンナノチューブ分別装置、SCNT,MCNT:カーボンナノチューブ、2:導入部、3:搬送部、4A,4B:回収部、5:磁場発生部、8A,8B:励起部、9:振動印加部、20:基板、25:多孔質層、PT:無機材料結合ペプチド、S:チオール基、41:ゲート電極、42:ゲート絶縁膜、44a,44b:ソース/ドレイン電極、46:ソース/ドレイン拡散層、P:コンタクトホール、Z:溝、60:NEMSスイッチ素子、61:固定部、62:電極、70:マルチエミッタ、20A:カソード電極(基板)、71:アノード電極、73:スイッチ、74:電源。
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの製造装置及びカーボンナノチューブを分別する方法に係り、特に、カーボンナノチューブをその特性毎に分別する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、1枚のグラファイトシートを丸めた円筒状の物質であり、カーボンナノチューブの直径は1nm程度から数十nmの極めて微細で安定な構造を有している。カーボンナノチューブは、フォトリソグラフィによる微細加工の限界を超えた、より微細なナノ電子デバイス材料として注目されている。また、近年では、カーボンナノチューブがバリスティック伝導を示す可能性があることも示唆されており、高速動作が可能なトランジスタの材料としての期待されている。
【0003】
カーボンナノチューブを用いてトランジスタ等の電子デバイスを作製するためには、カーボンナノチューブの電子的特性、特にそのバンドギャップを所定の値に揃えることが求められる。
【0004】
しかしながら、カーボンナノチューブは、カイラリティ(螺旋度)、直径、及び長さなどの幾何学的な構造によって、その電子的特性を決定づけるバンドギャップは変動し、金属的な性質を示したり半導体的な性質を示したりする。
【0005】
カーボンナノチューブの合成方法としては、現在、炭化水素触媒分解法など種々の方法が知られているが、合成段階で幾何学的な構造をそろえることは極めて困難である。そのため、同一条件下で合成されたカーボンナノチューブであっても、それらの特性は、通常ばらばらになってしまう。
【0006】
例えば、特許文献1には、形成された複数のカーボンナノチューブ表面を金属層で覆う技術が開示されている。この技術によって、金属層によって表面が覆われたカーボンナノチューブのすべては、金属的な性質を示す。しかし、この場合、半導体的性質を示すカーボンナノチューブも、金属的な性質を有してしまい、カーボンナノチューブの半導体的性質を活用することはできない。
【0007】
また、近年では、カーボンナノチューブを用いたトランジスタの作製方法において、「建設的破壊」と呼ばれる手法を用いて、トランジスタに使用するための半導体的性質を有するカーボンナノチューブが、選択的に取得されている。この方法では、複数のカーボンナノチューブがシリコン基板上に並べられ、各カーボンナノチューブに電圧が印加される。これによって、金属的性質のカーボンナノチューブのみを、電圧の印加によって選択的に焼き切り、半導体的性質のカーボンナノチューブのみを基板上に残存させている。この場合、金属的な性質を有するカーボンナノチューブは消失するので、金属的な性質を有するカーボンナノチューブを他のデバイスに活用できない。
【0008】
以上のような方法を用いて、カーボンナノチューブの特性が分別されているが、カーボンナノチューブの実用化のためには、カーボンナノチューブの特性を簡便且つ効率的に特定することが求められている。さらには、特性の異なるカーボンナノチューブを用途に応じて有効に使い分け、カーボンナノチューブを用いたデバイスの特性のばらつきを抑制することが求められる。
【特許文献1】特表2005−532915
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、カーボンナノチューブをその特性毎に分別する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の例に関わるカーボンナノチューブの製造装置は、第1の磁気特性を有する第1のカーボンナノチューブと前記第1の磁気特性とは異なった第2の磁気特性を有する第2のカーボンナノチューブとが共通に導入される導入部と、前記第1及び第2のカーボンナノチューブをそれぞれ回収する第1及び第2の回収部と、前記第1及び第2のカーボンナノチューブを、前記導入部から前記第1及び第2の回収部まで搬送する搬送部と、前記搬送部に隣接して配置され、前記第1及び第2のカーボンナノチューブに対して磁場を印加する磁場発生部と、を具備し、前記第1の磁気特性と前記磁場との相互作用によって、前記第1のカーボンナノチューブと前記第2のカーボンナノチューブとを分別する、ことを備える。
【0011】
本発明の例に関わるカーボンナノチューブを分別する方法は、第1の磁気特性を有する第1のカーボンナノチューブと第2の磁気特性を有する第2のカーボンナノチューブとを同時に導入する工程と、前記第1及び第2のカーボンナノチューブに磁場を与え、前記磁場と前記第1の磁気特性との相互作用によって、前記第1のカーボンナノチューブと第2のカーボンナノチューブとを分別する工程と、前記分別された前記第1のカーボンナノチューブと前記第2のカーボンナノチューブとを、それぞれ異なって回収する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の例によれば、カーボンナノチューブをその特性毎に分別できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の例を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0014】
[概要]
図1及び図2を用いて、本発明の実施形態の概要について説明する。
【0015】
(1) カーボンナノチューブの特性
はじめに、カーボンナノチューブ(Carbon Nano Tube)の特性について、述べる。
【0016】
一般に、グラファイトやカーボンナノチューブのような六員環から構成される物質は、反磁性磁場配向により、磁場と反対方向に磁化される反磁性(第1の磁気特性)の性質を有する。
但し、カーボンナノチューブは、同一条件下であっても、カーボンナノチューブ毎の形成過程の違いによって、カイラリティ(螺旋度)や単層(Single Wall)/多層構造(Multi Wall)の違いが生じ、バンド構造などの特性の異なるカーボンナノチューブが形成される。尚、カイラリティとは、カーボンナノチューブを構成するグラフェンシートのねじれ方のことである。
【0017】
これによって、金属的な性質を有するカーボンナノチューブ(以下、金属性カーボンナノチューブと呼ぶ)と、半導体的な性質を有するカーボンナノチューブ(以下、半導体性カーボンナノチューブと呼ぶ)とが、同一条件下の同一基板上に形成される。
【0018】
金属性カーボンナノチューブのバンド構造は、金属のバンド構造と同じく、価電子帯と伝導帯とが直接接触した構造となり、半導体性カーボンナノチューブのバンド構造は、半導体のバンド構造と同じく、価電子帯と導電帯との間に禁制帯(バンドギャップ)が存在する構造になる。カーボンナノチューブのバンドギャップの大きさは、0eV以上2.5eV以下程度の大きさを有する。バンドギャップの大きさが0eVのカーボンナノチューブは、金属性カーボンナノチューブである。
【0019】
このようなバンド構造の違いによって、半導体性カーボンナノチューブの伝導帯中には、自由電子がほとんど存在せず、金属性カーボンナノチューブの伝導帯中には、自由電子が潤沢に存在する。尚、金属性カーボンナノチューブの伝導帯に存在する荷電子の数はカーボンナノチューブを構成する炭素数とほぼ同程度と見積もることができる。これは、カーボンナノチューブを構成する炭素(C)はsp3混成軌道を形成しているため、4本の結合手のうち3つの結合手は隣接する炭素との共有結合に使われ、残りの1つが不対電子として残り、この不対電子が自由電子の振舞うためである。
【0020】
このように、金属性カーボンナノチューブは伝導帯中に自由電子が多数存在するため、金属性カーボンナノチューブは、その表面の自由電子に起因して、パウリ常磁性(第2の磁気特性)を示し、正の磁化率を有する。
カーボンナノチューブと同様にグラフェンシートからなるグラファイトは、自由電子が伝導帯中に十分に存在すると、そのパウリ常磁性係数は、0.35×10−6〜0.7×10−6[emu/g]を示す(例えば、V.Yu. Osipov, pp. 1225-1234, Carbon, 44 (2006) 参照)。
【0021】
一方、上記のように、半導体性カーボンナノチューブは、反磁性(第1の磁気特性)の磁気特性を示し、負の磁化率を有する。半導体性カーボンナノチューブにおいて、室温における反磁性係数は、約−5×10−6[emu/g]程度の大きさを示す(例えば、O. Chauvet, Phys. Rev., B52, R6963 (1995) 参照)。反磁性材料は磁場の印加に対して、その磁場の磁束密度を減少させる方向に、電子のスピンが向き、常磁性材料は磁場と同一方向に電子のスピンが向く。尚、磁束密度を減少させる方向とは、同じ磁極の磁石同士が反発する方向である。
このように、反磁性の性質を有する半導体性カーボンナノチューブは、常磁性の性質を有する金属性カーボンナノチューブとは異なって、印加された磁場の方向に対して反発する方向の力を受ける。
【0022】
また、半導体性カーボンナノチューブは、一般的な半導体材料と同じく、バンドギャップを有している。半導体性カーボンナノチューブにおいて、そのバンドギャップの大きさは、例えば、0eVより大きく2.5eV以下程度を示す。半導体性カーボンナノチューブのバンドギャップの大きさも、金属性と半導体性のカーボンナノチューブの違いと同様に、カイラリティや単層/多層構造に起因して、半導体性カーボンナノチューブ毎に異なった大きさになる。
【0023】
通常の半導体と同様に、半導体性カーボンナノチューブに、そのバンドギャップの大きさに対応する光又は熱エネルギーが与えられると、価電子帯中の自由電子が励起され、その自由電子は伝導帯へ遷移する。
【0024】
(2) カーボンナノチューブの分別
上記のように、カーボンナノチューブにおいては、半導体的な性質を有するカーボンナノチューブと金属的な性質を有するカーボンナノチューブとで、磁気特性が異なる。
【0025】
以下で述べる実施形態並びに応用例においては、半導体性カーボンナノチューブ(反磁性)と金属性カーボンナノチューブ(表面電子に起因して常磁性)とに磁場を印加した際の、反発力の発生の有無を利用し、半導体性カーボンナノチューブと金属性カーボンナノチューブとを分別する装置及び方法について、説明する。
【0026】
図1を用いて、半導体性カーボンナノチューブと金属性カーボンナノチューブを分別するための原理について、説明する。図1は、カーボンナノチューブを分別するための原理を説明するための模式図である。
【0027】
半導体性カーボンナノチューブSCNTは反磁性を有する。一方、金属性カーボンナノチューブMCNTは、表面の自由電子に起因して、常磁性を有する。
半導体性/金属性カーボンナノチューブSCNT,MCNTに対して、磁性体(例えば、磁石)11を接近させると、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、その磁気特性である反磁性(負の磁化率)により、磁性体11の磁場方向と反対方向に磁化する。そのため、半導体性カーボンナノチューブには、磁性体が発する磁力線(磁場)MFLと反対の向きの磁力線MFL’が発生する。
【0028】
半導体性/金属性カーボンナノチューブに磁性体11を接近させていくと、磁性体11と半導体性カーボンナノチューブSCNTとの間の磁力線MFL,MFL’の相互作用が強くなる。これによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTには、その反磁性に起因する反発力Fが与えられる。
一方、金属性カーボンナノチューブMCNTの磁気特性は常磁性(正の磁化率)であるため、金属性カーボンナノチューブMCNTは、磁性体11の磁力線(磁場)の向きと同じ方向に弱い磁化を示す。そのため、金属性カーボンナノチューブMCNTと磁性体11との間の相互作用は実質的に生じない。
【0029】
このように、反磁性の半導体性カーボンナノチューブSCNTには、反発力は発生するが、常磁性の金属性カーボンナノチューブMCNTには、反発力(及び吸引力)は発生しない。
この反発力Fによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTには、加速度が与えられ、半導体性カーボンナノチューブSCNTはその加速度の方向に移動する。
【0030】
上述のように、本発明の実施形態においては、磁気特性の違いに起因する反発力の有無を利用して、半導体性カーボンナノチューブSCNTと金属性カーボンナノチューブMCNTとが混在したカーボンナノチューブの集まりの中から、半導体性カーボンナノチューブSCNTを選択的に取り出し、カーボンナノチューブの特性に応じて分別する。
【0031】
さらに、本発明の実施形態においては、バンドギャップの大きさの異なる半導体性カーボンナノチューブSCNTを、バンドギャップの大きさ毎に分別する構成及び方法についても説明する。
【0032】
半導体材料に、熱エネルギーの印加またはレーザ光の照射によりある一定以上のエネルギーを与えると、価電子帯にある電子がバンドギャップを超えて伝導帯に移ることが知られている。この現象を利用して、本発明の実施形態においては、バンドギャップの大きさの異なる半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2を、バンドギャップの大きさ毎に分別する。
【0033】
図2に示すように、外部から光又は熱エネルギーEが、バンドギャップEg1,Eg2の大きさが異なる半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2に与えられる。尚、ここでは、バンドギャップEg2がバンドギャップEg1よりも大きく、又、外部エネルギーEは、バンドギャップEg1に対応するエネルギー以上であり、バンドギャップEg2に対応するエネルギーより小さい場合について、説明する。
【0034】
与えられたエネルギーEの大きさが、バンドギャップEg1に対応するエネルギー以上であって、価電子帯の電子が伝導帯にまで遷移されるのに十分な大きさを有していると、バンドギャップEg1を有する半導体性カーボンナノチューブSCNT1は、擬似的に金属的な性質を示す。つまり、励起状態の半導体性カーボンナノチューブmSCNT1の磁気特性は、電子が励起されている間、一時的に常磁性になる。
【0035】
一方、与えられたエネルギーEが、バンドギャップEg2に対応するエネルギーよりも小さい場合、そのバンドギャップEg2を有する半導体性カーボンナノチューブSCNT2は、その価電子帯の電子が伝導帯まで遷移しない。そのため、その半導体性カーボンナノチューブSCNT2の磁気特性は、外部エネルギーが与えられても、反磁性のままである。
【0036】
そして、外部からエネルギーを与えた状態下において、金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブの分別と同様に、一時的に常磁性を示す励起状態の半導体性カーボンナノチューブmSCNT1と反磁性を有する半導体性カーボンナノチューブSCNT2とに磁場Hを与える。すると、一方の半導体性カーボンナノチューブSCNT2にのみ反発力Fが生じ、他方の励起状態の半導体性カーボンナノチューブmSCNT1には反発力は生じない。
【0037】
このように、共通の外部エネルギーEが複数のカーボンナノチューブに外部から与えた状態で、磁場を印加することによって、与えられたエネルギーEより大きいバンドギャップを有する半導体性カーボンナノチューブSCNT2を、バンドギャップの大きさが異なる半導体性カーボンナノチューブ(励起状態の半導体性カーボンナノチューブ)の集まりの中から取り出せる。
【0038】
それゆえ、本発明の実施形態においては、照射する光源の波長の長さや与える熱量の大きさを制御して、半導体性カーボンナノチューブのバンドギャップの大きさに応じたエネルギーを与えることで、任意のバンドギャップの大きさのカーボンナノチューブを選択的に分別する。
【0039】
以上のように、本発明の実施形態では、磁気特性の違いを利用することによって、金属性と半導体性のカーボンナノチューブのように、バンドギャップの大きさが異なるカーボンナノチューブを、その特性毎に分別できる。
【0040】
これによって、本発明の実施形態では、カーボンナノチューブの特性を分別するために、例えば、金属的性質のカーボンナノチューブを電気的に溶断するような、いずれか一方の特性を有するカーボンナノチューブを破壊する手法を用いずともよくなる。
【0041】
したがって、本発明の実施形態によれば、簡便且つ効率的に、カーボンナノチューブをその特性毎に分別できる。また、本発明の実施形態によれば、同じ基板上に形成された半導体性又は金属性カーボンナノチューブの両方を活用できる。
【0042】
[実施形態]
以下、図3乃至図18を参照して、本発明の各実施形態について、説明する。
【0043】
(1) 第1の実施形態
以下、図3乃至7を用いて、本発明の第1の実施形態に係るカーボンナノチューブの製造装置及びカーボンナノチューブを分別する方法として、カーボンナノチューブの特性・性質に応じて、カーボンナノチューブを分別する分別装置及び分別方法について、説明する。
【0044】
(a) カーボンナノチューブの分別装置
図3及び図4は、カーボンナノチューブの分別装置の1つの構成例を示している。
【0045】
図3は、カーボンナノチューブの分別装置の鳥瞰図を示している。図4(a)は、図に示される装置の平面構造を示す図である。また。図4(b)は、図3に示される装置の磁場印加方向から見た断面図である。尚、図3及び図4は、本実施形態に係るカーボンナノチューブの分別装置1Aの主要な構成要素を示しているのであって、図3及び図4に示される構成に他の要素を付加してもよいのは、もちろんである。
【0046】
図3及び図4に示されるカーボンナノチューブの分別装置1Aは、複数のカーボンナノチューブSCNT,MCNTを導入する導入部2、カーボンナノチューブを搬送する搬送部3、その特性がそれぞれ異なるカーボンナノチューブのそれぞれを回収する第1及び第2の回収部4A,4B、そして、搬送部2上の複数のカーボンナノチューブSCNT,MCNTに印加する磁場Hを発生する磁場発生部5とを有する。
【0047】
複数のカーボンナノチューブSCNT,MCNTは、導入部2から搬送部3上に導入される。カーボンナノチューブSCNT,MCNTは、炭化水素触媒分解法、アーク放電法、レーザアブレーション法、及びプラズマ合成法等のうち、いずれか1つの合成方法が用いられて、形成される。但し、本実施形態で用いるカーボンナノチューブSCNT,MCNTの合成方法は、ここで述べた合成方法に限定されない。
【0048】
形成された複数のカーボンナノチューブSCNT,MCNTにおいて、カーボンナノチューブを構成するグラフェンシートのねじれ方(カイラリティ)や、単層(Single Wall)構造、多層(Multi Wall)構造など、カーボンナノチューブの構造が異なっていたりする。
【0049】
また、カーボンナノチューブSCNT,MCNTのバンドギャップの大きさは、0eV以上から2.5eV以下程度になっている。カーボンナノチューブSCNT,MCNTのバンドギャップの大きさは、上記のような構造の違いを一因として、ばらつきが生じている。
【0050】
このように、同一基板上に同じ条件下で形成されたカーボンナノチューブであっても、それらの構造及びバンドギャップは均一ではない。それゆえ、装置1A内に導入れた複数のカーボンナノチューブSCNT,MCNTの特性は、その構造及びバンドギャップに起因してそれぞれ異なり、半導体性カーボンナノチューブSCNTと金属性カーボンナノチューブMCNTとが混在している。尚、金属性カーボンナノチューブMCNTのバンドギャップの大きさは、0eVである。また、第1の実施形態においては、説明の簡単化のため、半導体性カーボンナノチューブSCNTのバンドギャップの大きさは、単一の大きさとする。
【0051】
搬送部3は、例えば、ベルトコンベアであって、カーボンナノチューブが搭載されるステージが、ある方向に沿って可動する。搬送部3は、この可動ステージによって、搭載されたカーボンナノチューブSCNT,MCNTを、導入部2から回収部4A,4Bまで搬送する。本実施形態においては、搬送部3がカーボンナノチューブMCNT,SCNTを搬送するための力のことを、搬送ベクトルと呼ぶ。図中において、搬送ベクトルを“V”と表記する。搬送部3は、所定の大きさの搬送ベクトルを有しており、その搬送ベクトルの大きさに基づいて、カーボンナノチューブMCNT,SCNTを搬送する。
【0052】
磁場発生部5は、搬送部3のある領域3Bに隣接して設けられる。磁場発生部5は、所定の大きさの磁場Hを発生し、その磁場Hを搬送部3上の複数のカーボンナノチューブMCNT,SCNTに印加する。磁場Hの方向は、例えば、図中のAからA’へ向かう方向に設定される。磁場発生部5は、例えば、電磁コイルや磁石が用いられるが、その構成については、後述する。
【0053】
ここで、搬送部3の構造の詳細について述べる。
磁場発生部5と隣接する搬送部3内の領域3Bにおいて、磁場発生部5が発生する磁場Hが、複数のカーボンナノチューブMCNT,SCNTに印加される。以下では、搬送部3内の領域3Bのことを、磁場印加領域3Bと呼ぶ。
この磁場印加領域3Bにおいて、搬送部3は、第1の回収部4A側と第2の回収部4B側との2つの方向に分岐する。以下、第1の回収部4A側へ分岐する部分3Dを第1の分岐部3Dと呼び、第2の回収部4B側へ分岐する部分を、第2の分岐部3Cと呼ぶ。また、搬送部3において、導入部2から磁場印加領域3Bまでの部分を共通部3Aと呼ぶ。
【0054】
分岐部3C及び共有部3Aは、例えば、磁場印加領域3Bを介して導入部2から回収部4Bまで、B−B’方向に沿って直線状に延在している。分岐部3Cの搬送ベクトル方向は、例えば、共有部3Aから磁場印加領域3B内までの搬送ベクトルと同じ方向になっている。このため、共有部3Aと分岐部3Cとの間の搬送ベクトル方向は、B−B’方向に沿っている。
【0055】
分岐部3Dは、磁場印加領域3Bから回収部4Aまで、共有部3A及び分岐部3Cの延在方向に対して水平斜め方向に延在している。このため、分岐部3Dの搬送ベクトル方向は、共有部3Aと分岐部3Cとの間の搬送ベクトル方向(B−B’方向)とは異なった方向となっている。
尚、共通部3A及び磁場印加領域3B内の搬送ベクトルの大きさ、第1の分岐部3D内の搬送ベクトルの大きさ、第2の分岐部3C内の搬送ベクトルの大きさは、同じ大きさであっても良いし、それぞれ異なる大きさであっても良い。
【0056】
磁場印加領域3B内において、共通部3Aを介して搬送された複数のカーボンナノチューブSCNT,MCNTは、それらの磁気特性と与えられた磁場Hとの相互作用により、半導体性カーボンナノチューブSCNTと金属性カーボンナノチューブMCNTとに、分別される。カーボンナノチューブSCNT,MCNTと磁場Hとの相互作用の詳細については、後述する。
【0057】
金属性カーボンナノチューブMCNTを搬送するための分別された金属性カーボンナノチューブMCNTは、分岐部3Cを介して、回収部4B内に回収される。分別された半導体性カーボンナノチューブSCNTは、分岐部3Dを介して、回収部4A内に回収される。
このように、金属性カーボンナノチューブMCNTと半導体性カーボンナノチューブSCNTとは、それぞれ異なった回収部4A,4B内に回収される。
【0058】
本実施形態において、金属性カーボンナノチューブMCNTと半導体性カーボンナノチューブSCNTに対して、磁場印加領域3B内で、磁場Hが与えられる。この磁場Hと反磁性を示す半導体性カーボンナノチューブSCNTとの間に、反発力が生じる。一方、常磁性を示す金属カーボンナノチューブMCNTは、磁場Hに起因した反発力は生じない。
【0059】
反発力が与えられる半導体性カーボンナノチューブSCNTは、反発力(磁場)の方向と搬送ベクトル方向との合成ベクトル方向に加速度が与えられる。これによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、磁場印加領域3B内から分岐部3D内へはじき出され、分岐部3D上に移動する。
【0060】
一方、金属性カーボンナノチューブMCNTは、反発力が生じないので、磁場印加領域3B内から分岐部3C内へ、搬送ベクトルによって移動する。
【0061】
このように、磁場Hの作用によって、異なる磁気特性を有する半導体性/金属性カーボンナノチューブSCNT,MCNTを、磁場印加領域3Bからそれぞれ異なった分岐部3C,3Dへ分けて、移動させることができる。
【0062】
尚、この装置の系全体は、例えば、真空状態にされることが好ましい。これによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTが、空気中の窒素分子などと衝突することによって、磁場印加領域3B内から分岐部3Dへはじき出されなくなるのを低減できる。この結果として、半導体性/金属性カーボンナノチューブSCNT,MCNTを正確に分別できる。また、系全体の温度も制御され、例えば、一定の温度に設定されることが好ましい。
【0063】
以上のように、本発明の第1の実施形態では、半導体性/金属性カーボンナノチューブの磁気特性の違いを利用して、半導体性カーボンナノチューブと金属性カーボンナノチューブとを分別できる。
【0064】
したがって、本実施形態によれば、半導体性カーボンナノチューブと金属性カーボンナノチューブを、それらの特性に応じて、簡便且つ効率的に分別できる。
また、本実施形態によれば、金属性及び半導体性のカーボンナノチューブを、それらの特性を損なうことなく、分別できる。それゆえ、同じ基板上に形成された金属性カーボンナノチューブ及び半導体性カーボンナノチューブの両方を、効率的に活用できる。
【0065】
(b) カーボンナノチューブの分別方法
以下、図5乃至図7を用いて、本発明の第1の実施形態に係るカーボンナノチューブの分別方法について、説明する。尚、ここでは、図4に示されるカーボンナノチューブの選別装置1Aも用いて、カーボンナノチューブの分別方法について、説明する。
【0066】
まず、図4及び図5(a)に示されるように、複数のカーボンナノチューブMCNT,SCNTが、導入部2から共通部3A内に導入される。導入されたカーボンナノチューブMCNT,SCNTは、それらの特性に応じた分別はなされておらず、金属性カーボンナノチューブMCNTと半導体性カーボンナノチューブSCNTが混在している。上記のように、このようなカーボンナノチューブSCNT,MCNTの特性の違いは、カーボンナノチューブのカイラリティや単層/多層構造の違いに起因する。
共有部3A内においては、半導体性カーボンナノチューブSCNT及び金属性カーボンナノチューブMCNTは、搬送ベクトルによって搬送される。
【0067】
そして、図5(b)に示すように、カーボンナノチューブMCNT,SCNTは、搬送ベクトルによって、搬送部3(例えば、ベルトコンベア)内の共通部3Aから磁場印加領域3B内へ搬送ベクトル方向(B−B’方向)に沿って搬送される。
【0068】
磁場印加領域3B内には、磁場発生部5が生じる磁場Hが供給されている。これによって、磁場印加領域3B内に搬送されたカーボンナノチューブMCNT,SCNTは、磁場Hが印加される。図5中においては、磁場Hのベクトル方向は、A−A’方向になっている。但し、磁場Hのベクトル方向は、搬送ベクトル方向と交差する方向であればよく、搬送ベクトルと直交する方向に限定されない。
【0069】
半導体性カーボンナノチューブSCNTの磁気特性は、反磁性(第1の磁気特性)である。そのため、その磁気特性と磁場Hとの相互作用により、反発力Fが、磁場印加領域3B内の半導体性カーボンナノチューブSCNTに対して、与えられる。
また、磁場印加領域3B内において、金属性カーボンナノチューブMCNTの磁気特性(第2の磁気特性)は常磁性であるため、金属性カーボンナノチューブMCNTに、反発力Fが与えられることはなく、また、磁場Hと磁気特性との相互作用も小さい。このため、金属性カーボンナノチューブMCNTは、磁場Hの影響をほとんど受けない。
【0070】
ここで、図6を用いて、磁場Hと半導体性カーボンナノチューブSCNTとの間に生じる反発力Fの大きさについて、説明する。
【0071】
図6に示すように、磁場発生源としての磁気双極子11は、カーボンナノチューブSCNTと距離rを有している。磁気双極子11は、磁気モーメントm1を有し、半導体性カーボンナノチューブSCNTは磁気モーメントm2を有している。
【0072】
この場合、磁気モーメントm1の磁気双極子11が発する磁場H[A/m]において、距離rにおける磁場Hの大きさは、以下のように示される。
【数1】
【0073】
(式1)において、θ=0°のとき、磁場(磁界の強さ)Hは次のように表される。
【数2】
【0074】
一方、双極子11が生じる磁場Hによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、磁化される。半導体性カーボンナノチューブSCNTの磁気モーメントm2は、カーボンナノチューブの単位体積あたりの磁化I、カーボンナノチューブの体積Vより、次のように示される。
【数3】
【0075】
また、カーボンナノチューブSCNTの単位体積あたりの磁化Iは、質量磁化率χを用いて、以下のように示される。
【数4】
【0076】
この2つの式を用いて、磁気モーメントm2は、以下の(式5)のように示される。
【数5】
【0077】
磁気双極子11の磁気モーメントm1が生じる磁場Hによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTが受ける相互エネルギーUは、(式6)のように示される。
【数6】
【0078】
この(式6)により、磁気双極子11が生じる磁場Hによって、半導体性カーボンナノチューブが受ける力(反発力)F[N]は、θ=0°のとき、次式のように示される。
【数7】
【0079】
上述の(式2)において、例えば、距離rが1[cm]であって、磁気双極子11の磁気モーメントm1が2×10−7[Wb・m]である場合、磁場Hは、2.4×104[A/m]になる。
【0080】
また、例えば、半導体性カーボンナノチューブSCNTの直径は10[nm]、半導体性カーボンナノチューブSCNTの長さは100[nm]とする。この場合、半導体性カーボンナノチューブSCNTの体積Vは、7.7×10−24[m−3]になる。
また、上記の半導体性カーボンナノチューブSCNTを構成するためのグラフェンシートの大きさは、31.4[nm]×100[nm]になる。図7に示される六員環12において、1つの六員環に含まれる炭素原子の数は2個であり、共有結合をなす炭素の原子間距離d=0.1397[nm]なので、上記の大きさを有するグラフェンシート中に、炭素環は80個×300個、含まれる。1個の炭素原子の質量は、2×10−23[g]であるので、上記のグラフェンシート(半導体性カーボンナノチューブSCNT)の質量mSCNTは、1×10−21[kg]になる。また、カーボンナノチューブの質量磁化率は5×10−6[emu/g]であるが、この質量磁化率を体積磁化率に変換すると、1×10−11[H/m]になる。
【0081】
位置r(=1[cm])における半導体性カーボンナノチューブSCNTの磁気モーメントm2は、(式5)によって、1.9×10−30[Wb・m]になる。これらの磁気モーメントm1,m2により、磁気双極子11から距離r離れた半導体性カーボンナノチューブが受ける力(反発力)Fは、(式7)に基づいて、5×10−23[N]になる。また、この力F(=mSCNT×a)を受けたカーボンナノチューブSCNTの加速度aは、半導体性カーボンナノチューブSCNTの質量mSCNTが1×10−21[kg]であるので、a=0.05[m/cm2]になる。
【0082】
このように、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、磁場Hによって、反発力Fが与えられ、上記の加速度を得て、分岐部3D側に移動する。
【0083】
尚、ここで求められた半導体性カーボンナノチューブSCNTが受ける力(反発力)は、一例であって、半導体性カーボンナノチューブSCNTの形状(長さ及び太さ)や、磁気源11(磁場発生部5)と半導体性カーボンナノチューブSCNTとの距離に応じて、変化するのはもちろんである。
【0084】
図5(b)に示すように、磁場印加領域3Bは搬送ベクトルを有しているため、半導体性カーボンナノチューブSCNTに与えられる反発力(加速度)Fの方向は、磁場ベクトル方向と搬送ベクトル方向との合成ベクトル方向となる。
【0085】
これによって、図5(c)に示すように、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、搬送ベクトル方向(図中A−A’方向)と異なる方向に移動し、磁場印加領域3B内から分岐部3D内に、はじき出される。尚、上記のように、磁場Hの大きさ及びそれに起因する反発力Fは、磁場発生部5と半導体性カーボンナノチューブSCNTとの距離に依存する。それゆえ、磁場Hによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTが磁場発生部5側から分岐部3Dまで移動するように、磁場印加領域3Bの幅及び長さが適宜設計されることが好ましい。
【0086】
一方、金属性カーボンナノチューブMCNTは、磁場Hによる相互作用を受けないので、搬送ベクトル方向に沿って、磁場印加領域3B内から分岐部3C内へ搬送される。
【0087】
そして、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、分岐部3Dが有する搬送ベクトルによって搬送され、図4に示される回収部4A内に回収される。金属性カーボンナノチューブMCNTは、分岐部3Cが有する搬送ベクトルによって搬送され、回収部4B内に回収される。
【0088】
以上のように、半導体性カーボンナノチューブSCNT及び金属性カーボンナノチューブMCNTは、それらの異なる磁気特性と印加された磁場Hとの相互作用によって分別され、それぞれ異なった回収部4A,4Bに回収される。
【0089】
このように、本発明の第1の実施形態においては、半導体性カーボンナノチューブSCNTが反磁性を有し、金属性カーボンナノチューブMCNTが常磁性を有しているように、磁気特性が異なっていることを利用して、半導体性カーボンナノチューブSCNTと金属性カーボンナノチューブMCNTとを分別する。
【0090】
より具体的には、磁場Hを外部からカーボンナノチューブSCNT,MCNTに印加し、半導体性カーボンナノチューブSCNTに対して、反磁性に起因する反発力を生じさせることによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTを、半導体性/金属性カーボンナノチューブSCNT,MCNTが混在している集まりの中から、選択的に取り出している。
【0091】
本実施形態では、カーボンナノチューブの特性及び構造を個別に調べずとも良く、また、上記の装置1A(図3及び図4参照)のように簡便な装置で、一度に複数のカーボンナノチューブを、その特性(例えば、バンドギャップの大きさ)ごとに分別できる。
それゆえ、本実施形態に係るカーボンナノチューブの分別方法によれば、簡便且つ効率的に、カーボンナノチューブをバンドギャップの大きさに応じて、分別できる。
【0092】
又、本実施形態では、カーボンナノチューブが元来有する特性を利用しているので、カーボンナノチューブを分別するために、カーボンナノチューブに対して処理を施す必要はなく、形成時の状態のままのカーボンナノチューブを、その特性毎に分別できる。さらに、複数のカーボンナノチューブに対して、それらの特性を損なうような処理や不要な特性のカーボンナノチューブを破壊するような処理を施す必要はなく、半導体性カーボンナノチューブと金属性カーボンナノチューブとの両方を、形成時の特性のままで有効に利用することができる。
【0093】
それゆえ、本実施形態のカーボンナノチューブの分別方法によれば、異なる特性のカーボンナノチューブを、特性に応じて適したデバイスにそれぞれ効率的に活用できる。
【0094】
(2) 第2の実施形態
図8及び図9を用いて、本発明の第2の実施形態としてのカーボンナノチューブの分別装置及び分別方法について、説明する。尚、第1の実施形態で述べた部材と、実質的に同じ部材に対しては、同じ符号を付し、詳細な説明は必要に応じて行う。
【0095】
第1の実施形態においては、複数のカーボンナノチューブSCNT,MCNTを、ある搬送ベクトルを有する搬送部3上に配置して、搬送部3内の磁場印加領域3Bを経由して、導入部2から回収部4A,4Bに機械的に搬送する例について述べた。
第2の実施形態においては、複数のカーボンナノチューブSCNT,MCNTを、真空中、気体中或いは液体中を自由落下させて、導入部2から回収部4A,4Bまで搬送する例について説明する。
【0096】
図8及び図9は、本発明の第2の実施形態に係るカーボンナノチューブの分別装置の鳥瞰図及び断面図をそれぞれ示している。尚、図8及び図9は、本実施形態に係る分別装置の主要な構成要素を示すのであって、この構成に他の要素をさらに付加してもよいのは、もちろんである。
【0097】
搬送部3の全体は、例えば、地表に対して直立した円筒から構成される。搬送部3を構成する円筒の内部は、例えば、真空状態である。又は、搬送部3を構成する円筒の内部は、気体又は液体で満たされる。搬送部3は、第1の実施形態と同様に、共通部3A、磁場印加領域3B及び2つの分岐部3C,3Dを有する。また、磁場印加領域3Bに隣接して、磁場発生部5が配置される。磁場印加領域3Bにおいて、複数のカーボンナノチューブSCNT,MCNTは、磁場Hが印加される。
【0098】
第1の実施形態と同様に、金属性カーボンナノチューブMCNTと半導体性カーボンナノチューブSCNTとが、導入部2内から搬送部3内に投入される。尚、金属性カーボンナノチューブMCNTのバンドギャップの大きさは、0eVであり、半導体性カーボンナノチューブSCNTのバンドギャップの大きさは、0eVより大きく、2.5eV以下程度である。
【0099】
例えば、搬送部3の内部が、真空状態にされた場合、カーボンナノチューブは、自由落下により、導入部2から、搬送部3内の磁場印加領域3Bを通過し、回収部4A,4Bに向かう。
【0100】
また、搬送部3の内部に、気体又は液体が充填されている場合、それらの気体及び液体に流れを付与することができる。但し、この場合、気体及び液体の流れ(以下、流体と呼ぶ)が層流となる必要がある。流体が層流となるか乱流となるかは、レイノルズ数(Reynolds number)で表される指標に基づく。
レイノルズ数Reは、慣性力と流体の粘性による摩擦力との比で定義される無次元数であり、次の式で表される。
【数8】
【0101】
この(式8)において、Uは流体の特性速度([m/s])を示し、Lは特性長さ([m])を示す。また、μは粘度又は粘性係数([m2/s])、ρは流体の密度([Pa・s])、νは流体の動粘度又は動粘性係数([kg/m3])を、それぞれ示している。
【0102】
上式にから算出されるレイノルズ数Reが小さいということは相対的に粘性作用が強い流れということになり、レイノルズ数Reが大きいということは相対的に慣性作用が強い流れということになる。
【0103】
レイノルズ数Reが乱流と層流とを区別する指標に用いられる場合、一般に、円管内を流れる流体のレイノルズ数が2000程度以下で層流、レイノルズ数が4000程度以上を乱流とされている。また、流体中を流れる対象物体が平板の場合、レイノルズ数が400000以下であると、層流になる。
【0104】
本実施形態のように、カーボンナノチューブが流体の流れる方向に搬送される場合、気体/液体を適宜選択することで、落下(沈降)速度、換言すると搬送ベクトルの大きさ、を調整できる。これによって、磁場印加領域3B内におけるカーボンナノチューブMCNT,SCNTの通過時間の最適条件を調整でき、カーボンナノチューブMCNT、SCNTに印加される磁場Hの積算時間を長くできる。
【0105】
搬送部3内に注入される液体に非導電性溶媒が用いられた場合、カーボンナノチューブMCNT,SCNTに局所的に流れる渦電流を閉じ込める効果がある。
また、液体に導電性溶媒が用いられた場合、カーボンナノチューブMCNT,SCNTと導電性溶媒との間に、擬似的な電流ループを形成することができる。そのため、渦電流が流れる時間を一定に保つことができ、半導体性/金属性カーボンナノチューブの分離性に有効である。
【0106】
ブラウン運動による沈降速度の低下やカーボンナノチューブの移動(落下及び沈降)による乱流が生じる可能性がある。この影響は、液体、気体、真空の順で大きくなる。
【0107】
尚、気体を搬送部3内に充填する場合には、カーボンナノチューブSCNT,MCNTに対して、不活性な気体を用いることが好ましい。
【0108】
第1の実施形態のように、カーボンナノチューブを、例えば、ベルトコンベアを用いて機械的に搬送する場合、搬送速度(搬送ベクトル)を一定に保ち易い。しかし、機械部(ベルトコンベア)の振動、カーボンナノチューブと可動床との間に発生する分子間力(静電気力)による付着などに起因して、分別エラーが生じることが懸念される。
【0109】
これに対して、第2の実施形態のように、カーボンナノチューブを自由落下や沈降により搬送する場合には、機械的な振動や可動ステージ(ベルト)との間の付着などは生じず、また、カーボンナノチューブを分別するための装置自体も簡便化できる。
【0110】
さらに、導入部2から磁場印加領域3Bへの落下(沈降)速度は、真空、気体、液体の順に遅くなる。カーボンナノチューブSCNT,MCNTの落下速度が遅くなる結果として、磁場印加部の通過時間が長くなり、カーボンナノチューブSCNT,MCNTに印加される磁場Hの積算時間が増える。このため、半導体性カーボンナノチューブSCNTと金属性カーボンナノチューブMCNTとの分別効率を上げることができる。
【0111】
したがって、本発明の第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、簡便且つ効率的に、カーボンナノチューブをその特性毎に分別できる。さらに、本実施形態によれば、カーボンナノチューブの分別の精度を向上できる。
【0112】
(3) 第3の実施形態
本発明の第3の実施形態においては、図10乃至図12を用いて、基板20から分離する前のカーボンナノチューブに対して、カーボンナノチューブをそれらの特性・性質に応じて分別する方法について、説明する。尚、第1及び第2の実施形態で述べた部材と、実質的に同じ部材に対しては、同じ符号を付し、詳細な説明は必要に応じて説明する。
【0113】
カーボンナノチューブMCNT,SCNTは、例えば、図10に示すように、基板20上に形成された多孔質層25を利用して形成される場合がある。多孔質層25は複数の細孔Oを有する。細孔Oは基板20上面に対して垂直方向に延在し、それらの細孔Oは、多孔質層25内にほぼ規則的に配置されている。多孔質層25には、アルマイト層、ゼオライト層、メソポーラスシリカ層などが用いられる。
【0114】
例えば、多孔質層25にアルマイト層を用いる場合、細孔Oはアルミニウムを陽極酸化することによって形成できる。具体的には、希硫酸を電解液として用いて、アルミニウムを陽極で電解し、酸化させる。これによって、アルマイトからなる多孔質層25と、多数の細孔Oが形成される。この場合、細孔Oの底部、つまり、基板上に、数nm〜数十nm程度の多孔質層(アルマイト層)が残存する。そこで、陽極酸化後に、全面RIE(Reactive Ion Etching)または全面スパッタなどによって、細孔Oの底部に形成された多孔質層25を除去し、基板20表面を露出させる。
【0115】
このような多孔質層25を利用した形成方法において、形成されたカーボンナノチューブSCNT,MCNTは、例えば、図11に示される構造を有する。
【0116】
カーボンナノチューブMCNT,SCNTは、細孔O底部の基板20表面の触媒粒子(例えば、コバルト(Co)やニッケル(Ni))を核に、細孔の延在方向に沿って成長し、細孔O内に形成される。この触媒粒子を核に、半導体性カーボンナノチューブSCNTまたは金属性カーボンナノチューブMCNTのいずれかが、形成される。
【0117】
また、カーボンナノチューブは、基板20表面の触媒粒子を核に、バンブーライク(Bamboo-like)構造と呼ばれる構造を有して、形成される場合がある。バンブーライク構造のカーボンナノチューブBCNTは、細孔Oの延在方向に沿って、複数回にわたって段階的に成長することによって形成され、1本のカーボンナノチューブ内に竹の節のような接合部Jを有している。そのカーボンナノチューブBCNTは、その接合面Jを境界に、異なる特性・性質を有する場合がある。その一例として、1本のバンブーライク構造のカーボンナノチューブBCNTにおいて、基板20側の部分は金属性カーボンナノチューブMCNTになり、カーボンナノチューブが有する接合部(節)Jを境界に上側の部分は、半導体性カーボンナノチューブSCNTになる。
【0118】
また、カーボンナノチューブSCNT,MCNT及びバンブーライク構造のカーボンナノチューブBCNTの底面が、基板20に直接接触し、触媒粒子がカーボンナノチューブの上端側に存在する場合もある。本実施形態においては、上記のように製造されたカーボンナノチューブに対して、半導体性の特性を有するカーボンナノチューブ又はその一部分を、その磁気特性と磁場Hとの相互作用(反発力F)によって、カーボンナノチューブSCNTを基板20又は触媒粒子から切断し、バンブーライク構造のカーボンナノチューブBCNTにおいては接合部Jを境界に切断する。これによって、半導体性のカーボンナノチューブが選択的に取り出される。具体的な方法については、以下の通りである。
【0119】
まず、硫酸などの薬液を用いて、触媒粒子が除去される。カーボンナノチューブの底面に触媒粒子がある場合、触媒粒子の除去の結果として、それらのカーボンナノチューブは、薬液内に、分離される。例えば、薬液内に分散したカーボンナノチューブは、第1及び第2の実施形態で述べた手法を用いて、半導体性カーボンナノチューブが選択的に取り出される。
また、カーボンナノチューブの上端側に触媒粒子がある場合、即ち、カーボンナノチューブの底面が基板20と接合している場合、触媒粒子は薬液によって除去されるが、カーボンナノチューブは基板20と接合した状態を保持する。
特に、触媒粒子が強磁性体である場合、後述の方法を用いることができない。そのため、半導体性カーボンナノチューブを基板20から選択的に分離する前に、薬液によって触媒粒子を除去しておくことが好ましい。
【0120】
そして、図12に示すように、基板20の上下を反転させて、多孔質層25が下側、基板20が上側になるようにする。そして、磁場発生部5が発生させる磁場Hが、基板20の裏面側から、基板20上に形成されたカーボンナノチューブSCNT,MCNTに対して、印加される。
【0121】
半導体性カーボンナノチューブSCNTは、その磁気特性(反磁性)と磁場との相互作用による反発力Fによって、基板20から切断される。そして、切断された半導体性カーボンナノチューブSCNTは、図12に示す例では、自由落下し、回収部4C内に回収される。
一方で、金属性カーボンナノチューブMCNTは常磁性を有しているため、磁場Hに起因した反発力Fは与えられない。それゆえ、接合部Jにおいて、金属性カーボンナノチューブMCNTは接合状態を保ったまま、基板20上に残存する。
【0122】
また、バンブーライク構造のカーボンナノチューブBCNTは、図11に示すように、接合部Jを有している。この接合部Jの原子間の結合力は、カーボンナノチューブSCNT,MCNTの本体部分の原子間の結合力に比べて弱い。
【0123】
本実施形態においては、基板20上のカーボンナノチューブSCNT,MCNTに対して、希釈したPDMS(ポリジメチルソロキシ酸)等の薬液を用いた弱いエッチング処理が施される。PDMS等の薬液を用いた処理は、硫酸を用いた処理の前に行っても良いし、硫酸を用いた処理の後に行っても良い。
【0124】
このエッチング溶液(PDMS)の濃度は、カーボンナノチューブが分解されない濃度であって、カーボンナノチューブの本体部分にほぼダメージを与えない濃度である。但し、上述のように、接合部Jの結合力は弱いため、低濃度の溶液であっても、接合部Jの境界部分における結合力はさらに弱くなる。
【0125】
そして、上述と同様に、図12に示すように、基板20の上下を反転させて、多孔質層25が下側、基板20が上側になるように、配置する。そして、磁場発生部5が発生させる磁場Hが、基板20の裏面側から、基板20上に形成されたカーボンナノチューブSCNT,MCNTに対して、印加される。
【0126】
PDMSを用いたエッチング処理により、接合部Jの結合は弱くなっているので、半導体性の部分(単に、半導体性カーボンナノチューブと呼ぶ)SCNTは、その磁気特性(反磁性)と磁場との相互作用による反発力Fによって、接合部Jを境界に、基板20上の部分から切断される。そして、切断された半導体性カーボンナノチューブSCNTは、図12に示す例では、自由落下し、回収部4C内に回収される。
一方で、金属性の部分(単に、金属性カーボンナノチューブと呼ぶ)MCNTは常磁性を有しているため、磁場Hに起因した反発力Fは与えられない。それゆえ、接合部Jにおいて、金属性カーボンナノチューブMCNTは接合状態を保ったまま、基板20上に残存する。以上のように、それぞれ異なるバンドギャップの大きさを有する半導体性/金属性カーボンナノチューブSCNT,MCNTを、分別できる。
【0127】
本実施形態では、カーボンナノチューブSCNT,MCNTが基板20上から分離されていない状態で、半導体性カーボンナノチューブSCNTと金属性カーボンナノチューブMCNTとを分別できる。そして、半導体性カーボンナノチューブSCNTを磁場Hに起因した相互作用によって基板25から分離し、金属性カーボンナノチューブMCNTを基板25上に残存させる。
【0128】
このように、カーボンナノチューブSCNT,MCNTの特性(バンドギャップの大きさ)に応じた分別と、カーボンナノチューブSCNTの基板20からの分離とを同時に実行できる。それゆえ、本実施形態によれば、カーボンナノチューブの製造を、簡便且つ効率的に実行できる。
【0129】
また、ある特性のカーボンナノチューブ(本例では、金属性カーボンナノチューブMCNT)は基板25上に残存するので、そのカーボンナノチューブMCNTを後述するデバイスに適用する場合に、そのデバイスの製造工程を簡便化且つ効率化できる。
【0130】
したがって、本発明の第3の実施形態においても、第1及び第2の実施形態と同様に、簡便且つ効率的に、カーボンナノチューブをその特性毎に分別できる。
【0131】
(4) 第4の実施形態
図13乃至図15を用いて、本発明の第4の実施形態について、説明する。尚、第1乃至第3の実施形態で述べた部材と、実質的に同じ部材に対しては、同じ符号を付し、詳細な説明は必要に応じて説明する。
【0132】
第1乃至第3の実施形態においては、磁気特性の違いによって、半導体性のカーボンナノチューブSCNTと金属性のカーボンナノチューブMCNTとを分別する装置及び方法について説明した。
上記のように、金属性カーボンナノチューブMCNTのバンドギャップの大きさは、0eVであり、半導体性カーボンナノチューブSCNTのバンドギャップの大きさは、0eVより大きく、2.5eV以下である。このバンドギャップの範囲において、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、それらが同一の形成条件で、同一の基板上に形成されていても、それぞれ異なった大きさのバンドギャップを有する場合がある。
半導体性カーボンナノチューブをより好ましいデバイスに適用するためには、半導体性カーボンナノチューブを、バンドギャップの大きさに応じて、さらに分別することが望まれる。
【0133】
それゆえ、本発明の第4の実施形態においては、半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2に対して、大きさの異なるバンドギャップ(Eg>0)毎に分別する方法について、説明する。
【0134】
上述のように、本発明の第1乃至第3の実施形態は、カーボンナノチューブ内の自由電子の存在の有無に起因する磁気特性の違いに着目して、半導体性カーボンナノチューブSCNTと金属性カーボンナノチューブMCNTとを分別している。
【0135】
ここで、本発明の第4の実施形態は、第1乃至第3の実施形態に加えて、バンドギャップの大きさが異なる半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2を分別する。このため、本実施形態においては、磁場印加領域3Bを通過している途中に、バンドギャップの大きさの違いを利用する前処理を施す。
【0136】
具体的には、あるバンドギャップの大きさを有する半導体性カーボンナノチューブに対して、その価電子帯の電子を伝導帯まで遷移させるエネルギーEを与える。
【0137】
このエネルギーEを与えるため、例えば、図13及び図14に示すように、カーボンナノチューブ分別装置1C,1Dは、励起部8A,8Bをさらに備える。
【0138】
図13及び図14は、本実施形態に係るカーボンナノチューブの選別装置1C,1Dの構成をそれぞれ示している。図13(a)及び図14(a)は装置1C,1Dの平面構造を示し、図13(b)及び図14(b)は装置1C,1Dの断面構造を示す。
【0139】
図13に示す例のカーボンナノチューブの分別装置1Cにおいて、励起部8Aは、例えば、レーザ装置である。レーザ装置8Aは、例えば、レーザ発振器81と、レンズやミラーから構成される光学系82を備えている。レーザ発振器81は、YAGレーザ、ガラスレーザ、ルビーレーザ、色素レーザなどのうち、少なくともいずれか1つが用いられる。YAGレーザ及びガラスレーザの出力する光の波長は、1.06μm程度である。ルビーレーザの出力する光の波長は、0.69μm程度である。色素レーザの出力する光の波長は、0.4〜0.7μm程度である。
【0140】
レーザ装置8Aは、例えば、磁場印加領域3B内のカーボンナノチューブCNT1,SCNT2に対して、レーザ光を照射し、光エネルギーをカーボンナノチューブSCNT1,SCMT2に与える。
【0141】
このように、レーザ光を複数のカーボンナノチューブSCNT1,SCMT2に照射することによって、複数のカーボンナノチューブのうち、その光の波長に対応したバンドギャップエネルギー以下の半導体性カーボンナノチューブを、選択的に励起状態にする。
【0142】
また、励起部は、レーザ装置8Aの代わりに、図14に示すカーボンナノチューブの分別装置1Dのように、加熱装置8Bであっても良い。
【0143】
加熱装置8Bは、例えば、ニクロム線85を有する。加熱装置8Bは、搬送部3の共通部3A内から磁場印加領域3B内において、ニクロム線85に電流を流すことによって、半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2に対して直接加熱や輻射による熱量を与える。与えられた熱量に対応するバンドギャップのエネルギー以下の半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2は、レーザ光を照射した場合と同様に、励起状態になる。
尚、外部エネルギーを与えられてからカーボンナノチューブが励起状態になるまでの応答速度は、レーザ装置8Aを用いた光励起の場合に比較して、加熱装置8Bを用いた熱励起の場合には遅くなる。それゆえ、図14に示すように、カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2が磁場印加領域3B内に到達するまでに励起状態になるように、共通部3Aから磁場印加領域3Bまでの範囲を加熱領域として、共通部3A内においても、搬送中のカーボンナノチューブSCNT1,SCNT2に対して、熱量を与えておくことが好ましい。
【0144】
ここで、図15を用いて、バンドギャップの大きさの異なる半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2に光を照射して、半導体性カーボンナノチューブを励起状態にする場合について説明する。ここでは、半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2のバンド構造が、直接遷移型の場合について説明する。
【0145】
半導体性カーボンナノチューブSCNT1のバンドギャップEg1は、半導体性カーボンナノチューブSCNT2のバンドギャップEg2より小さい。そして、レーザ装置8Aは、波長λのレーザ光を出力する。そのレーザ光のフォトンエネルギーEを、プランク定数h、光速c及び波長λで示す場合、E=hc/λになる。このフォトンエネルギーが、外部エネルギーEとして、半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2に与えられる。ここでは、外部エネルギー(フォトンエネルギー)Eの大きさは、バンドギャップEg1に対応するエネルギー以上であり、バンドギャップEg2に対応するエネルギーよりも小さい場合について、説明する。
【0146】
このレーザ光が照射された複数のカーボンナノチューブのうち、外部エネルギーE=hc/λ以下のバンドギャップ(バンドギャップエネルギー)Eg1を有する半導体性カーボンナノチューブSCNT1は、図15(a)に示すように、波長λ1のレーザ光を吸収し、電子が価電子帯Evから伝導帯Ecへ遷移し、励起状態となる。そのため、そのカーボンナノチューブSCNT1の表面は自由電子が増加し、擬似的に金属性の性質に変化する。その結果として、励起状態の半導体性カーボンナノチューブSCNT1の磁気特性も反磁性的な性質よりも、常磁性的な性質が強くなる。
【0147】
一方、図15(b)に示すように、半導体性カーボンナノチューブSCNT2は、外部エネルギーE=hc/λよりも大きいバンドギャップエネルギーEg2を有する。そのため、半導体性カーボンナノチューブSCNT2は、レーザ光を吸収することはなく、励起状態にもならない。それゆえ、カーボンナノチューブ表面の自由電子は増えず、常磁性的性質が発現せず、バンドギャップEg2を有するカーボンナノチューブCNT2は反磁性を示す。
【0148】
また、図14に示すように、加熱処理によって、バンドギャップEg1を有する半導体性カーボンナノチューブSCNT1を、励起状態にする場合においても、レーザ光の照射を用いた場合と同様である。
即ち、バンドギャップEg1におけるキャリアのバンド間遷移が生じる熱エネルギーが、半導体性カーボンナノチューブSCNT1に外部エネルギーEとして与えられると、電子の熱励起により、価電子帯にあった電子が伝導帯に遷移する。このように、半導体性カーボンナノチューブは励起状態になり、そのカーボンナノチューブmSCNT1は常磁性的な性質が強くなる。これに対して、与えられた熱エネルギーが、半導体性カーボンナノチューブSCNT2のバンドギャップエネルギーEg2より小さければ、そのカーボンナノチューブSCNT2は、励起状態にならない。それゆえ、半導体性カーボンナノチューブSCNT2の磁気特性は、反磁性を示す。
【0149】
そして、図13及び図14に示すように、磁場印加領域3B内において、励起状態の半導体性カーボンナノチューブmSCNT1と非励起状態(定常状態)の半導体性カーボンナノチューブSCNT2とに、外部エネルギーEが供給されるのと同時に、磁場Hが供給される。非励起状態の半導体性カーボンナノチューブSCNT2の磁気特性は反磁性なので、半導体性カーボンナノチューブSCNT2は、磁場Hとの相互作用によって、磁場印加領域3B内から分岐部3Dへはじき出される。
励起状態の半導体性カーボンナノチューブmSCNT1は、上記のように、常磁性を強く示すようになる。それゆえ、励起状態の半導体性カーボンナノチューブmSCNT1は磁場Hに起因する反発力を受けずに、搬送ベクトルによって、磁場印加領域3Bから分岐部3Cに搬送される。レーザ光が照射されなくなると、半導体性カーボンナノチューブmSCNT1は、励起状態から定常状態に戻る。
【0150】
そして、バンドギャップEg1,Eg2の大きさがそれぞれ異なる複数の半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2は、バンドギャップの大きさ毎に異なる回収部4A,4Bにそれぞれ回収される。
【0151】
尚、図15では、半導体性カーボンナノチューブのバンド構造が、直接遷移型である場合を例に説明したが、間接遷移型でもよいのはもちろんである。間接遷移型の半導体性カーボンナノチューブにおいても、そのバンドギャップに応じたエネルギーよりも大きいエネルギーを吸収し、励起された電子が緩和されるときに、フォノンとの相互作用によって電子が熱せられて、カーボンナノチューブが励起状態になる。
【0152】
以上のように、外部エネルギーEを与えることによって、そのエネルギーE以下のバンドギャップの大きさ(バンドギャップエネルギー)を有する半導体性カーボンナノチューブは励起状態になる。そして、励起状態になった半導体性カーボンナノチューブmSCNT1は、その伝導帯内に励起された電子が潤沢に存在する状態になるので、擬似的に金属性カーボンナノチューブになる。その結果として、励起状態の半導体性カーボンナノチューブの磁気特性は、常磁性を示す。
【0153】
一方、与えられたエネルギーよりも大きいバンドギャップを有する半導体性カーボンナノチューブは、励起状態にならない。それゆえ、外部エネルギーを与えても、定常状態のままの半導体性カーボンナノチューブSCNT2は、反磁性を示す。この反磁性を示すカーボンナノチューブは、与えられた磁場Hによって、反発力が生じる。
【0154】
このように、本実施形態においては、外部エネルギーを与えて、半導体性カーボンナノチューブを励起状態にすることによって、そのエネルギーの大きさに対応するバンドギャップを有する半導体性カーボンナノチューブの磁気特性が、一時的に変化することを利用して、異なるバンドギャップの大きさの半導体性カーボンナノチューブを分別できる。
【0155】
さらに、レーザ光の照射によってカーボンナノチューブを励起させる場合、照射するレーザ光の波長λは、使用するレーザ発振器81の種類を変更することによって、変化できる。それゆえ、カーボンナノチューブが取りうるバンドギャップ(0<Eg≦2.5)の範囲の中で、レーザ光の波長λを選択することで、所望のバンドギャップの大きさを有する半導体性カーボンナノチューブを、分別できる。これと同様に、加熱による熱エネルギーを与えて、カーボンナノチューブを励起させる場合においても、加熱温度を制御することによって、所望するバンドギャップの大きさを有する半導体性カーボンナノチューブを、分別できる。これは、半導体性カーボンナノチューブを用いたデバイスの特性の向上や、それらの特性のばらつきの抑制に貢献できる。
【0156】
尚、本実施形態においては、第1の実施形態に述べたカーボンナノチューブの分別装置1Aに、励起部(レーザ装置)8A又は励起部(加熱装置)8Bを備えた例を述べた。ただし、第2又は第3の実施形態に述べた装置の構成(図8、図9及び図12参照)に、カーボンナノチューブに外部エネルギーを与えることができるように、励起部8A又は励起部8Bをさらに具備しても、本実施形態と同様の効果が得られるのは、もちろんである。
【0157】
したがって、本発明の第4の実施形態においても、第1乃至第3の実施形態と同様に、簡便且つ効率的に、カーボンナノチューブ、特に、半導体的な特性を示すカーボンナノチューブを、その特性毎に分別できる。
【0158】
(5) 第5の実施形態
図16を用いて、本発明の第5の実施形態について、説明する。尚、第1乃至第4の実施形態で述べた部材と、実質的に同じ部材に対しては、同じ符号を付し、詳細な説明は必要に応じて説明する。図16(a)は装置1Eの平面構造を示し、図16(b)は装置1Eの断面構造を示す。
【0159】
図16に示すカーボンナノチューブの分別装置1Eは、振動部9をさらに備える。
振動部9は、カーボンナノチューブSCNTに対して、水平方向又は垂直方向の微振動を与える。例えば、この振動部9は、磁場発生部5と同様に、磁場を発生させることによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTの反磁性を利用して、そのカーボンナノチューブSCNTに振動を与える。図16(a)及び図16(b)に示すように、振動部9は、図中の手前側から奥行き側、又は、奥行き側から手前側に向かって、交互に磁場を発生させる。即ち、カーボンナノチューブが搬送ベクトルによって搬送されることで、カーボンナノチューブSCNTに、BからB’(またはB’からB)に向かう方向と水平な方向の微振動が与えられる。または、カーボンナノチューブSCNTに、搬送部2のカーボンナノチューブが搭載される面に対して垂直方向(C−C’方向)の微振動が与えられる。
【0160】
このように、搬送中の半導体性カーボンナノチューブSCNTに選択的に振動を与えることで、カーボンナノチューブと可動ステージ(ベルトコンベア)との間に発生する分子間力(静電気力)による付着や、複数のカーボンナノチューブを搬送した場合における、カーボンナノチューブ間の付着及び絡まりに起因した分別エラーを、抑制できる。
【0161】
尚、振動部9が生じる振動は、カーボンナノチューブSCNT,MCNTが特性毎に分別されるまでに与えられていればよい。そのため、振動部9は、搬送部3の共有部3A及び磁場印加領域3Bまでの区間内に配置されていればよい。
【0162】
以上のように、本発明の第5の実施形態によれば、第1乃至第3の実施形態と同様に、簡便且つ効率的に、カーボンナノチューブを特性毎に分別でき、さらに、その分別の精度も向上できる。
【0163】
尚、図16においては、第1の実施形態に示す装置に振動部9を備えた例を示しているが、これに限定されず、第2乃至第4に示す構成に対して、振動部9を付加した構成であってもよいのは、もちろんである。
【0164】
特に、第3の実施形態のように、磁場による反発力によって、半導体性カーボンナノチューブを選択的に切断して、特性ごとに分別する場合には、振動による外力をカーボンナノチューブに与えることができる。これは、半導体性カーボンナノチューブの切断による分別を効率化できる。また、エッチングによるカーボンナノチューブSCNT,MCNTのダメージを低減できる。
【0165】
(6) 第6の実施形態
第1乃至第5の実施形態においては、主に、本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブの分別装置の全体構成について述べた。ここでは、図17及び図18を用いて、磁場発生部5の構成例について説明する。尚、第1乃至第5の実施形態で述べた部材と、実質的に同じ部材に対しては、同じ符号を付し、詳細な説明は必要に応じて説明する。
【0166】
図17に示す例において、磁場発生部5は、電磁石から構成される。電磁石は、強磁性体(例えば、鉄(Fe))51と、その磁性体51に巻きつけられた導線(コイル)とを備える。導線51には、電源53と、スイッチ54とが接続されている。
スイッチ54がオフからオンに切り替えられることによって、導線52に電流Iが流れ、磁性体51が磁化する。これによって磁場Hが発生する。尚、スイッチがオフにされている時には、電流Iは導線52に流れないので、磁場Hは発生しない。電磁石が発する磁場Hの方向は、磁場発生部5を配置した側から分岐部3D側に向かう方向(図17中のAからA’に向かう方向)に設定され、それに伴って、電流Iを流す向き及び導線52の巻き方が設定されている。
【0167】
電磁石から構成される磁場発生部5は、導線52を流れる電流の大きさを調整することにより、磁束密度を変化できる。それゆえ、電磁石を用いることによって、カーボンナノチューブに供給する磁場Hの大きさを、簡便に変化させることができる。
よって、例えば、磁石の往復運動などのように、永久磁石を動作させて、磁場を変化させる場合に比べて、機械的な振動などに起因する、磁場による反発力以外の外力がカーボンナノチューブに与えられることを防止できる。その結果、搬送されるカーボンナノチューブSCNT,MCNTの分別の精度を向上できる。
【0168】
図18は、図17とは異なった磁場発生部5の構成例を示している。図18に示す例では、磁場発生部5は、円筒状の回転部表面に磁性体(強磁性体)57,58が設けられた構造を有している。回転部には、N極の磁性体57とS極の磁性体58とが交互に配置されている。
図18(a)に示される磁場発生部5は、磁場印加領域3Bの側部に隣接して配置されている。磁場発生部5は、搬送部のカーボンナノチューブが搭載される面表面に対して垂直方向に回転軸を有している。また、図18(b)に示される磁場発生部5は、磁場印加領域3Bの下方に設けられている。磁場発生部5は、搬送部のカーボンナノチューブが搭載される面表面に対して平行方向に回転軸を有している。
【0169】
図18(a)及び図18(b)に示される磁場発生部5において、磁場Hの発生時に、回転部が高速に回転する。尚、回転部の回転方向は時計周り又は反時計回りのどちらであってもよい。
【0170】
このように、図18(a)及び図18(b)に示される磁場発生部5は、反磁性を示す半導体性カーボンナノチューブSCNTに対して、最初は、磁場印加領域3Bに引き寄せるような磁場を与え、その後、磁場印加領域3Bからはじきだすような磁場を与える。この一連の動作(回転)によって、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、搬送ベクトルとほぼ同じ方向に引き寄せられ、ある初速度を有した状態で、磁場印加領域3B内において、強い反発力を受ける。そして、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、搬送ベクトル方向と磁場ベクトル方向との合成ベクトル方向に移動する。その結果として、半導体性カーボンナノチューブSCNTと金属性カーボンナノチューブMCNTを精度良く分別することができる。
【0171】
以上のように、図17及び図18に示される構成によって、磁場発生部5は磁場印加領域3B内に、磁場Hを供給する。
【0172】
これによって、第1乃至第5の実施形態で述べたカーボンナノチューブの分別方法及び分別方法を用いて、特性(バンドギャップの大きさ)に応じて、カーボンナノチューブが分別される。
【0173】
[応用例]
図19乃至図21を用いて、本発明の実施形態の応用例について、説明する。尚、第1乃至第6の実施形態で述べた部材と、実質的に同じ部材に対しては、同じ符号を付し、詳細な説明は必要に応じて説明する。
【0174】
図19に示すカーボンナノチューブの分別装置は、複数の磁場発生部51〜5nが、直列に配列されている。この構成によれば、半導体性/金属性カーボンナノチューブSCNT,MCNTは、複数の磁場印加領域3B1〜3Bn内に、順次搬送される。
【0175】
複数のカーボンナノチューブSCNT,MCNTを一度に大量に搬送する場合、半導体性カーボンナノチューブSCNTが磁場Hに起因した反発力が与えられても、反発力によるカーボンナノチューブの移動が他のカーボンナノチューブの存在によって妨げられてしまい、半導体性カーボンナノチューブSCNTと金属性カーボンナノチューブMCNTとが分別されずに、混在した状態で回収されてしまう場合がある。
【0176】
図19に示す例のように、複数の磁場発生部51〜5nを備えることで、半導体性カーボンナノチューブが1つめの磁場発生部51の磁場Hによっては分別されず、その半導体性カーボンナノチューブSCNTが金属性カーボンナノチューブMCNTとともに、回収部4B側の分岐部3C1に搬送された場合、2つめの磁場発生部52において、磁場Hが半導体性カーボンナノチューブSCNTに再度供給される。そして、2つめの磁場発生部52が発する磁場Hに起因した反発力によって、反磁性の半導体性カーボンナノチューブSCNTが、分岐部3D側へ分別される。
【0177】
このように、半導体性カーボンナノチューブの磁気特性(反磁性)と磁場Hとの相互作用を利用したカーボンナノチューブの分別を、複数回繰り返すことで、特性(バンドギャップの大きさ)の異なるカーボンナノチューブの分別を、精度良く実行できる。
【0178】
尚、磁場発生部51〜5nのそれぞれが発生させる磁場Hの大きさは、すべて同じであってもよいし、それぞれ異なる大きさであってもよい。
【0179】
又、図20に示すように、半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2と金属性カーボンナノチューブMCNTとを分別した後、それに連続して、半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2を、バンドギャップの大きさ毎に分別してもよい。
【0180】
図20に示す装置においては、はじめに、磁場印加領域3B1内で、半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2と金属性カーボンナノチューブMCNTとが、磁場Hとそれらの磁気特性の相互作用によって、分別される。
【0181】
これによって、金属性カーボンナノチューブMCNTは、回収部4B内に回収される。
一方、半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2は、分岐部3D1を経由して、磁場印加領域3B2内に搬送される。
【0182】
磁場印加領域3B2内において、半導体性カーボンナノチューブSCNT1を励起させる外部エネルギーE(ここでは、光エネルギー)が、バンドギャップの大きさが異なる半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2に与えられる。尚、外部エネルギーEの大きさは、半導体性カーボンナノチューブSCNT1のバンドギャップに対応するエネルギーの大きさ以上であって、半導体性カーボンナノチューブSCNT2のバンドギャップに対応するエネルギーの大きさより小さい。
【0183】
外部エネルギーEを与えられることで、半導体性カーボンナノチューブmSCNT1は励起状態になり、一時的に常磁性を示すようになる。一方、半導体性カーボンナノチューブSCNT2は、励起状態になるのに十分なエネルギーが与えられないので、励起状態にならない。それゆえ、半導体性カーボンナノチューブSCNT2の磁気特性は、反磁性のままである。
【0184】
これにより、磁場印加領域3B2内において、半導体性カーボンナノチューブSCNT2は、その磁気特性(反磁性)と磁場Hとの反発力によって、分岐部3D2側にはじき出され、回収部4A2内に回収される。一方、励起状態の半導体性カーボンナノチューブmSCNT1は磁場Hによる反発力を受けない。そのため、半導体性カーボンナノチューブmSCNT1は、分岐部3C2側へ搬送され、回収部4A1内に回収される。
【0185】
以上のように、カーボンナノチューブの特性に応じた選別を、より効率的に実行できる。
【0186】
尚、図20においては、1つの励起部8Aを備えた装置の例を示しているが、これに限定されず、図21に示すように、励起部8Aを複数個備えた構成であっても良い。複数の励起部8Aを備えた場合、励起部8Aが出力する外部エネルギーの大きさをそれぞれ異ならせることで、バンドギャップの大きさ毎の分別が、より細分化して行える。図21を用いて、より具体的に説明する。
【0187】
図21に示す例では、励起部8A1及び励起部8A2は、それぞれ異なる波長λ1,λ2のレーザ光を発するレーザ発振部をそれぞれ用いている。
【0188】
例えば、図20に示す例と同様に、まず半導体性カーボンナノチューブと金属性カーボンナノチューブMCNTとが、磁場印加領域3B1内で、選別される。
【0189】
選別された半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2,SCNT3は、それぞれ異なる大きさのバンドギャップを有する。半導体性カーボンナノチューブSCNT1はバンドギャップEg1を有し、半導体性カーボンナノチューブSCNT2はバンドギャップEg2を有する。半導体性カーボンナノチューブSCNT3は、バンドギャップEg3を有する。これらのバンドギャップEg1、Eg2,Eg3において、バンドギャップEg3が最もバンドギャップエネルギーが大きく、バンドギャップEg1が最もバンドギャップが小さい。バンドギャップEg2は、バンドギャップEg1とバンドギャップEg2との間の大きさのバンドギャップエネルギーである。
【0190】
半導体カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2,SCNT3は、分岐部3D1から磁場印加領域3B2に搬送される。
磁場印加領域3B2において、半導体カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2,SCNT3に対して、エネルギーE1が与えられる。このエネルギーE1は、バンドギャップEg1に対応するエネルギー以上の大きさであって、バンドギャップEg2,Eg3に対応するエネルギーより小さい。それゆえ、磁場印加領域3B2内において、バンドギャップEg1を有する半導体性カーボンナノチューブSCNT1はエネルギーE1によって励起状態になり、バンドギャップEg2,Eg3をそれぞれ有する半導体性カーボンナノチューブSCNT2,SCNT3は定常状態のままである。
【0191】
これによって、半導体性カーボンナノチューブSCNT2,SCNT3は、磁場発生部52が生じる磁場Hとの相互作用により、分岐部3D2内にはじき出される。一方、励起状態の半導体性カーボンナノチューブSCNT1は、搬送ベクトルによって、分岐部3C2を経由して、回収部4A1内に回収される。
【0192】
さらに、半導体性カーボンナノチューブSCNT2,SCNT3は磁場印加領域3B3に搬送され、その領域3B3内において、励起部8A2によって、エネルギーE2が与えられる。エネルギーE2は、バンドギャップEg2に対応するエネルギー以上の大きさであって、バンドギャップEg3に対応するエネルギーより小さい。それゆえ、磁場印加領域3B3内において、バンドギャップEg2を有する半導体性カーボンナノチューブmSCNT1は励起状態になり、バンドギャップEg3をそれぞれ有する半導体性カーボンナノチューブSCNT3は定常状態のままである。これによって、半導体性カーボンナノチューブmSCNT2の磁気特性は、励起状態の間、常磁性を示し、磁場Hによる反発力を受けなくなる。一方、バンドギャップEg3を有する半導体性カーボンナノチューブSCNT3は、磁場Hによる反発力を受ける。したがって、バンドギャップEg2を有する半導体性カーボンナノチューブSCNT2は、分岐部3C3を経由して、回収部4A2に回収される。一方、バンドギャップEg3を有する半導体性カーボンナノチューブSCNT3は、分岐部3D3を経由して、回収部4A3に回収される。
【0193】
このように、異なる大きさのエネルギーを、半導体性カーボンナノチューブに順次与えることによって、エネルギーに対応するバンドギャップの大きさ毎に、半導体性カーボンナノチューブSCNT1,SCNT2,SCNT3を分別できる。
【0194】
尚、図20及び図21においては、励起部8A1,8A2は、レーザ装置を用いているが、それに限定されず、加熱装置によって熱エネルギーを半導体性カーボンナノチューブに与えてもよいし、レーザ装置と加熱装置とを併用した構成であってもよい。
【0195】
図19乃至図21を用いて説明したように、本発明の第1乃至第6の実施形態で述べたカーボンナノチューブの分別方法を適宜組み合わせることで、特性(バンドギャップの大きさ)に応じたカーボンナノチューブの分別の精度及び効率を向上できる。
【0196】
[適用例]
以下、図1乃至図21を参照して説明したカーボンナノチューブの分別装置/分別方法によって分別されたカーボンナノチューブの適用例について、説明する。
【0197】
(A) カーボンナノチューブに対する処理
図22乃至図27を参照して、デバイスにカーボンナノチューブに適用する際に、カーボンナノチューブに対して施す処理について説明する。
【0198】
(1)カーボンナノチューブの形状の均一化
図22を用いて、カーボンナノチューブに対する処理の1つとして、カーボンナノチューブの形状(長さ)をそろえる方法について、説明する。
【0199】
カーボンナノチューブは、例えば、図10及び図11を用いて説明したように、アルマイトなどの多孔質層25の細孔内に形成される場合がある。
【0200】
この場合、形成されたカーボンナノチューブCNTは、基板表面に交差する方向に成長する。尚、形成された複数のカーボンナノチューブCNTは、半導体性カーボンナノチューブ及び金属性カーボンナノチューブの両方を含んでいる。
【0201】
この際、図22(a)に示すように、カーボンナノチューブCNTの上端が、細孔の開口部から突出するように、形成される。多孔質層25の上面をストッパとして、カーボンナノチューブCNTの上端を、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用いて、研削する。すると、図22(b)に示すように同一基板上に形成された複数のカーボンナノチューブCNTの長さが、ほぼ同じになる。
【0202】
この後、上述の実施形態のカーボンナノチューブの分別装置/分別方法を用いて、その長さが同じにされたカーボンナノチューブが、半導体性及び金属性の特性に応じて、分別される。
【0203】
このように、同一基板上に形成された複数のカーボンナノチューブCNTにおいて、それらのカーボンナノチューブCNTの長さを同じ長さにすることによって、金属性/半導体性カーボンナノチューブCNTを後述のデバイスに適用するときに、素子特性のばらつきを抑制できる。
【0204】
(2) カーボンナノチューブの配置制御
ここでは、カーボンナノチューブを基板上の所定の位置に配置するための方法について、説明する。尚、ここで述べる方法は、金属性カーボンナノチューブ及び半導体性カーボンナノチューブに共通に適用できる。
【0205】
(a) 第1例
カーボンナノチューブが含まれる溶液を、溶液の流速及び流し込む時間を制御して、基板上に流した場合、複数のカーボンナノチューブは溶液が流れる方向に沿って基板上に配列する性質がある。
ここでは、この性質を利用して、複数のカーボンナノチューブを同時に基板上の所定位置に配置する方法の一例について、図23乃至図25を用いて、説明する。
【0206】
まず、図23(a)に示すように、基板20上に、多孔質層(例えば、アルマイト層)が、形成される。そして、この多孔質層25の細孔内に、例えば、絶縁体26が埋め込まれる。尚、細孔内に埋め込まれる材料は、絶縁材料に限定されず、多孔質層25と細孔内に埋め込まれる材料とのエッチング選択比が確保できれば、導電材料や半導体材料でもよい。
【0207】
そして、図23(b)に示すように、多孔質層が選択的に除去される。すると、絶縁層26が、基板20上に残存し、ピラー状の絶縁層26(以下、ピラー26と呼ぶ)が基板20上に配列された構造になる。上記のように、多孔質層に形成される細孔Oは、ほぼ規則的な配列を有するため、その細孔に埋めこまれたピラー26も、基板20上に規則的に配列する。
【0208】
図24(a)及び図24(b)に示すように、複数のピラー26が配列された基板20上に、上述の各実施形態によって分別されたカーボンナノチューブCNTが含まれる溶液が、溶液の流速及び流し込み時間を制御して、流し込まれる。図24に示す例において、溶液が流れる方向は、例えば、x方向に沿う方向に設定される。
そして、溶液を揮発させると、カーボンナノチューブCNTは、x方向に沿って配列するとともに、y方向に隣接する複数のピラー26間に配置される。
【0209】
このように、複数のカーボンナノチューブCNTを、溶液の流す方向とピラー26の位置に応じて、基板20上に規則的に同時に配置できる。
【0210】
尚、図23及び図24においては、多孔質層を用いて、基板20上にピラー26を形成したが、これに限定されず、絶縁体や導電体からなる立体的な構造体を、RIE法やフォトリソグラフィ技術を用いて、基板20上の所定位置に形成してもよい。
【0211】
また、基板20上にピラー26に形成する代わりに、図25に示すように、基板20内に、フォトリソグラフィ技術及びRIEを用いて、溝Zを形成し、その基板20上に、カーボンナノチューブCNTが含まれる溶液を流してもよい。図25(a)は、基板20上に配置されたカーボンナノチューブの平面図を示し、図25(b)は図25(a)のy方向に沿う断面図を示している。
この場合、カーボンナノチューブCNTは、溝Zの位置に応じて、基板20上に規則的に配置できる。尚、溝Zは、基板20上に形成された層間絶縁層内に形成されてもよい。また、図24(b)では、溝Zの形状は矩形状を有しているが、これに限定されず、溝Zの形状は、図24(c)に示すように、例えば、三角形状(V字状)など、他の形状を有してもよい。
【0212】
このように、ピラー(構造体)26が形成された基板上や溝Zが形成された基板上に、カーボンナノチューブを含む溶液を流すことによって、ピラー26や溝Zの位置に沿って、複数のカーボンナノチューブの配置を同時に制御できる。
【0213】
この方法によって、半導体性/金属性カーボンナノチューブを適用したデバイスを、所定の位置に配置されるように、制御できる。また、上述の方法によれば、複数のカーボンナノチューブの配置を同時に制御できるので、カーボンナノチューブを用いたデバイスの生産効率を向上できる。
【0214】
(b) 第2例
図26を用いて、カーボンナノチューブの配置を制御するための方法の一例について、説明する。
カーボンナノチューブの端部を酸素雰囲気中において開端すると、カルボキシル基(−COOH)が、開端部分に付与されることが知られている。ここでは、カーボンナノチューブの端部に官能基を付与し、付与した官能基の特性を利用して、カーボンナノチューブの配置を制御する方法の一例について、説明する。
【0215】
図26(a)に示すように、例えば、レジスト30が、基板20上に塗布される。そして、レジスト30中に、カーボンナノチューブCNTaが分散される。
【0216】
カーボンナノチューブCNTaは、第1乃至第6の実施形態で述べた装置及び方法によって、その特性(バンドギャップの大きさ)に応じて、分別されている。分別されたカーボンナノチューブCNTaは、端部が開端され、その開端部に、磁性を有する原子又はその原子を含むキレートRが付与(化学修飾とも呼ばれる)される。
【0217】
そして、図26(b)に示すように、磁場Hが、レジスト30上のカーボンナノチューブCNTaに対して供給される。磁場Hの方向は、例えば、基板20表面に対して水平方向になっている。カーボンナノチューブCNTaは、磁場Hが与えられることによって、レジスト30中を電気泳動し、原子又はキレートが付与された端部が磁場Hの方向に沿う方向を向く。
これによって、複数のカーボンナノチューブCNTaが、基板20上のレジスト30内で同じ方向に配向される。
【0218】
また、カーボンナノチューブの開端部には、磁性を有する原子又はキレートRの代わりに、荷電性を有する原子又はその原子を含むキレートRが付与されてもよい。
荷電性の原子及びその原子を含むキレートRを付与した場合には、図26(c)に示すように、磁場の代わりに、電場Eが用いられる。この場合においても、電場Eの方向に沿って、カーボンナノチューブCNTaがレジスト内で配向する。
【0219】
尚、磁性を有する原子/キレートと荷電性を有する原子/キレートの両方を、カーボンナノチューブの開端部に付与してもよい。
【0220】
以上のように、カーボンナノチューブの開端部に、磁性・荷電性を有する原子又はキレートを付与することによって、磁場又は電場を用いて、基板20上における複数のカーボンナノチューブCNTaの配置(配向)を制御することができる。
【0221】
(c) 第3例
図27を用いて、カーボンナノチューブの配置を制御するための方法について、説明する。
本例においては、カーボンナノチューブの開端部に付与(化学修飾)される官能基の特性を利用して、複数のカーボンナノチューブの基板上での配置を制御し、それとともに、カーボンナノチューブ同士を電気的に接続するための方法について、説明する。
【0222】
硫黄(S)が、金(Au)と接触すると、硫黄と金との間で共有結合が形成されることが知られている。本例では、この作用を利用して、カーボンナノチューブの配置を制御し、且つ、カーボンナノチューブの配置を固定する例について、説明する。
【0223】
まず、硫黄が含まれている気体雰囲気中で、カーボンナノチューブの端部が開端され、硫黄(S)を含むチオール基(−SH)が、カーボンナノチューブCNTbの開端部に付与される。
【0224】
また、カーボンナノチューブが配置される基板20上において、例えば、金(Au)から構成される金属膜28Aが、カーボンナノチューブCNTbの端部が、配置される所定の位置に選択的に形成される。尚、金属膜28Aは、金(Au)に限定されず、チオール基と共有結合をなす膜であればよい。
【0225】
図27(a)に示す基板20上には、カーボンナノチューブの配向方向を制御するためのピラー26も形成されている。
【0226】
そして、チオール基Sが付与されたカーボンナノチューブCNTbを含む溶液が、金属膜28Aが形成された基板20上に流し込まれる。
【0227】
この際、チオール基が付与されたカーボンナノチューブの先端部は、金属膜28Aに引き寄せられる。そして、チオール基が含んでいる硫黄(S)と金(Au)は共有結合をなし、この結合力によって、カーボンナノチューブCNTaの先端が金属膜28A上に固定される。
【0228】
また、チオール基を付与する代わりに、カーボンナノチューブの開端部に、ペプチドを付与してもよい。ペプチドは複数のアミノ酸の重合体であり、本例で付与されるペプチドは、例えば、無機材料結合ペプチドである。無機材料結合ペプチドとは、ある特定の無機材料との組み合わせによって、それらの相互作用に起因した結合が生じるペプチドのことである。無機材料結合ペプチドと結合する無機材料は、例えば、鉛(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)及びチタン(Ti)等の金属、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、モリブデン酸カルシウム(CaMoO4)等の無機化合物、ガリウムヒ素(GaAs)や硫化亜鉛(ZnS)などの半導体材料、が挙げられる。例えば、チタン(Ti)と結合する無機材料結合ペプチドの配列は、Kをリシン、Aをアラニン、Dをアスパラギン酸と表記した場合、KAKAKAKAの配列、DKDKDKDKの配列、DADADADAの配列を有する。
【0229】
図27(b)に示すように、無機材料結合ペプチドPTを用いる場合においても、カーボンナノチューブCNTcの開端部に無機材料結合ペプチドPTが付与され、基板20上の所定の位置に、無機材料膜28Bが形成される。形成される無機材料膜28Bは、付与された無機材料結合ペプチドとの間で結合をなす組み合わせの材料である。
【0230】
そして、無機材料結合ペプチドPTが付与されたカーボンナノチューブCNTcを含む溶液が、基板20上に流され、カーボンナノチューブCNTcが、基板20上に配置される。カーボンナノチューブCNTcの無機材料結合ペプチドPTが付与された部分と無機材料膜28Bとが、それらの間に生じる相互作用により、結合する。これによって、カーボンナノチューブCNTcの端部が、無機材料膜28B上に固定される。
【0231】
図26に示す例において、金属膜28A又は無機材料膜28Bは、複数のカーボンナノチューブCNTa,CNTbに共有されている。
【0232】
図25を用いて説明した第1例のように、カーボンナノチューブを含む溶液を基板上に流し込むだけでは、カーボンナノチューブ同士が電気的に接続されない場合がある。一方、本例では、カーボンナノチューブCNTa,CNTbは導電性の膜を共有するので、直接接触せずとも、導電性の膜28A,28Bを介して、電気的に接続される。
【0233】
金属膜28Aや導電性の無機材料膜28Bは、例えば、カーボンナノチューブを適用したデバイスの電極や配線として、用いてもよい。また、金属膜28Aや導電性の無機材料膜28Bは、カーボンナノチューブが固定された後に、所定の配線レイアウトとなるように、選択的にパターニングが施されてもよい。
【0234】
(B) カーボンナノチューブを用いた素子
以下、図28乃至図35を用いて、本発明の各実施形態によって分別されたカーボンナノチューブの適用したデバイスについて説明する。
【0235】
(1) スイッチング素子
以下、図28を参照して、本発明の実施形態によって分別された半導体性カーボンナノチューブSCNTを用いたスイッチング素子について、説明する。
【0236】
上述のように、半導体性カーボンナノチューブは反磁性を有し、印加された磁場に対して反発力が生じる。このような磁場の印加により反発する性質を利用して、半導体性カーボンナノチューブは、例えば、ナノサイズのスイッチング素子(以下、NEMS(Nano Electronics Mechanical Structure)スイッチ素子と呼ぶ)に、適用される。
【0237】
図28は、半導体性カーボンナノチューブを用いたNEMSスイッチ素子の構造及び動作を説明するための模式図である。
まず、NEMSスイッチ素子の構造について説明する。
【0238】
NEMSスイッチ素子60は、基板20上に設けられる。基板20は、半導体基板(例えば、シリコン基板)や絶縁性基板(例えば、ガラス基板)、或いは、層間絶縁膜が、用いられる。
【0239】
基板20上に、半導体性カーボンナノチューブSCNTが設けられる。尚、ここでは、説明の簡単化のため、1つの半導体性カーボンナノチューブSCNTを図示しているが、複数の半導体性カーボンナノチューブから構成されるカーボンナノチューブの束でも良い。
【0240】
半導体性カーボンナノチューブSCNTの一端は、例えば、アンカーとしての導電材61によって、基板20上に固定される。導電材61は、例えば、配線層としても機能する。また、半導体性カーボンナノチューブSCNTの一端と接触するように、電極62が基板20上に設けられる。
【0241】
NEMSスイッチ素子60に磁場Hを与えるため、アクチュエータとしての磁場発生部65が設けられる。磁場発生部65が発生する磁場Hと反磁性を示す半導体性カーボンナノチューブSCNTとの相互作用によって、半導体性カーボンナノチューブSCNTと電極62との接触/非接触が制御され、NEMSスイッチ素子60がオン/オフされる。図27に示す例では、磁場Hの向きは、基板20の底面側から基板20の上面側へ向かう方向になっている。
【0242】
外部から磁場が印加されない時、半導体性カーボンナノチューブSCNTの一端と電極62が接触し、カーボンナノチューブSCNTを用いたNEMSスイッチ素子60はオン状態となる。一方、外部から磁場Hが印加された時、半導体性カーボンナノチューブSCNTの反磁性によって、半導体性カーボンナノチューブに磁場Hに対する反発力が、半導体性カーボンナノチューブSCNTに与えられ、半導体性カーボンナノチューブSCNTの一端は電極62から離れる。このため、このNEMSスイッチ素子60はオフ状態になる。
【0243】
磁場Hが与えられていない状態を通常状態とした場合、このNEMSスイッチ素子60は、ノーマリーオン型のスイッチ素子となる。
【0244】
尚、図28に示す構成において、半導体性カーボンナノチューブを用いたNEMSスイッチ60と磁場発生部65とが同一のチップ上に形成される場合には、アクチュエータとしての磁場発生部65は、カーボンナノチューブSCNTよりも下層に形成されることが好ましい。そして、NEMSスイッチ素子としてのカーボンナノチューブSCNTは、磁場発生部65を覆う層間絶縁膜上に配置される。
また、NEMSスイッチ素子60と磁場発生部65とが異なるチップ上にそれぞれ形成される場合には、磁場発生部65が形成されたチップ上に、NEMSスイッチ素子60が形成されたチップが積層されることが好ましい。
【0245】
以上のように、本発明の実施形態で述べたカーボンナノチューブの分別装置及び分別方法によって、半導体性カーボンナノチューブSCNTが分別され、その分別されたカーボンナノチューブSCNTが、例えば、NEMSスイッチ素子に適用される。分別されたカーボンナノチューブの特性(バンドギャップの大きさ)は、実施形態で述べた方法によって、ほぼ同じ特性を有している。それゆえ、特性の同じカーボンナノチューブを適用することによって、NEMSスイッチの特性ばらつきを抑制できる。
【0246】
したがって、本発明の実施形態のカーボンナノチューブの分別装置及び分別方法を用いることによって、特性のばらつきを抑制したNEMSスイッチを提供できる。
【0247】
(2) トランジスタ
図29乃至図32を参照して、本発明の実施形態によって分別された半導体性カーボンナノチューブを、電界効果トランジスタに適用する例について、説明する。
【0248】
(a) 構造
図29を用いて、半導体性カーボンナノチューブSCNTを用いた電界効果トランジスタの構造について、説明する。以下では、カーボンナノチューブSCNTを用いた電界効果トランジスタのことを、CNTトランジスタと呼ぶ。
【0249】
図29(a)は、CNTトランジスタの平面構造を示している。図29(b)は、図29(a)のL−L線に沿う断面図を示し、図29(c)は、図29(a)のW−W線に沿う断面図を示している。尚、L−L線は、CNTトランジスタのチャネル長方向の断面に対応し、W−W線は、CNTトランジスタのチャネル幅方向の断面に対応している。
【0250】
図29に示すように、CNTトランジスタのゲート電極41は、基板20内に形成された溝内に設けられている。ゲート電極41は、y方向(チャネル幅方向)に延在している。尚、基板20は、シリコン基板などの半導体基板でもよいし、シリコンカーバイト(SiC)基板や絶縁性基板でもよい。
【0251】
ゲート電極41上及び基板20上には、ゲート絶縁膜42が設けられる。
ゲート絶縁膜42上には、半導体性カーボンナノチューブSCNTが設けられている。カーボンナノチューブSCNTの一端及び他端には、ソース/ドレイン電極44a,44bが設けられている。
【0252】
半導体性カーボンナノチューブSCNTは、ゲート電極41と対向する部分がチャネル領域CHとして機能する。また、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、電極44a,44bと接触する部分が、それぞれソース/ドレインとして機能する。
【0253】
カーボンナノチューブSCNT及びソース/ドレイン電極44a,44b上には、層間絶縁膜47が設けられる。
【0254】
トランジスタに用いた半導体性カーボンナノチューブSCNTは、本発明の実施形態で述べた方法によって分別された半導体性のカーボンナノチューブである。
【0255】
以上のように、本発明の第1乃至第6の実施形態で述べた装置及び方法によって分別された半導体性カーボンナノチューブSCNTを、CNTトランジスタに適用できる。
【0256】
第1乃至第6の実施形態で述べたカーボンナノチューブの分別装置及び分別方法によれば、半導体性カーボンナノチューブのバンドギャップの大きさがほぼ同じもの分別できる。それゆえ、同じバンドギャップの大きさを有する複数の半導体性カーボンナノチューブSCNTを、CNTトランジスタにそれぞれ適用できるので、CNTトランジスタの特性のばらつきを抑制できる。
【0257】
尚、図29には、説明の簡単化のため、1つのCNTトランジスタに、1つの半導体性カーボンナノチューブSCNTが含まれた構成を示している。しかし、1つのCNTトランジスタに、複数のカーボンナノチューブSCNTを用いてもよい。この場合、従来では、カーボンナノチューブの本数のばらつきによって、CNTトランジスタのオン電流がばらつくことがある。しかし、CNTトランジスタに用いる半導体性カーボンナノチューブSCNTは、第1乃至第6の実施形態で述べたカーボンナノチューブの分別装置及び分別方法によれば、半導体性カーボンナノチューブSCNTは、ほぼ同様の特性(バンドギャップ)を有するように、分別できる。これによって、複数のカーボンナノチューブがCNTトランジスタに含まれた場合においても、CNTトランジスタのオン電流のばらつきは抑制される。
【0258】
したがって、本発明の実施形態のカーボンナノチューブの分別装置及び分別方法を用いることによって、特性のばらつきを抑制したCNTトランジスタを提供できる。
【0259】
(b) 製造方法
以下、図29乃至図32を用いて、カーボンナノチューブを用いた電界効果トランジスタ(CNTトランジスタ)の製造方法について、説明する。尚、図29乃至図32においては、1つのCNTトランジスタ形成領域を図示している。
【0260】
はじめに、図30を用いて、CNTトランジスタの製造工程について、説明する。
図30(a)は、CNTトランジスタの製造工程の一工程を示し、平面図とそのL−L線(チャネル長方向)に沿う断面図を示している。図30(b)は、CNTトランジスタの製造工程の一工程を示し、平面図とそのL−L線に沿う断面図を示している。
【0261】
図30(a)に示すように、基板20内に、y方向(チャネル幅方向)に延在する溝が形成される。そして、基板20表面に、例えば、スパッタ法やCVD(Chemical Vapor Deposition)法などの薄膜体積技術によって、ゲート電極材が堆積される。そして、そのゲート電極材に対して、例えば、エッチバックやCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を施し、金属膜を溝内に自己整合的に残存させる。これによって、ゲート電極41が基板20内に形成される。
そして、図30(b)に示すように、基板20上及びゲート電極41上に、ゲート絶縁膜41が、例えば、CVD法や熱酸化法を用いて、形成される。
【0262】
次に、図31を用いて、CNTトランジスタの製造工程について、説明する。
図31(a)は、CNTトランジスタの製造工程の一工程を示し、平面図とそのL−L線(チャネル長方向)に沿う断面図を示している。図31(b)は、CNTトランジスタの製造工程の一工程を示し、平面図とそのL−L線に沿う断面図を示している。
【0263】
図31(a)に示すように、ゲート絶縁膜42上に、レジスト30が塗布され、さらに、半導体性カーボンナノチューブSCNTがレジスト上に分散される。この半導体性カーボンナノチューブSCNTは、実施形態で述べた装置及び方法によって、特性(バンドギャップの大きさ)に応じて分別されたカーボンナノチューブである。
【0264】
こで、カーボンナノチューブSCNTの特性及び配置の均一化のため、例えば、図26を用いて説明した方法のように、半導体性カーボンナノチューブSCNTの端部に、磁性・荷電性を有する原子又はその原子を含むキレートを予め付与しておき、レジスト30内のカーボンナノチューブSCNTに対して、x方向に沿った磁場又は電場を印加し、カーボンナノチューブの配列を制御してもよい。また、図27を用いて説明した方法を用いてもよい。即ち、カーボンナノチューブSCNTの端部に、チオール基や無機材料結合ペプチドを予め付与すると共に、基板20上の所定の位置に、チオール基や無機材料結合ペプチドと結合をなす膜を形成して、半導体性カーボンナノチューブSCNTを基板20上の所定の位置に固定し、カーボンナノチューブSCNTの配置を制御する。
【0265】
そして、図31(b)に示すように、フォトリソグラフィ技術によって、レジスト30Aがパターニングされる。これによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTのうち、チャネル領域となる部分は、レジスト30Aで覆われる。また、半導体性カーボンナノチューブのうち、ソース/ドレイン領域となる部分は、露出される。
【0266】
この工程において、例えば、CNTトランジスタの形成領域(以下、トランジスタ形成領域と呼ぶ)をそれぞれ区画するために、基板20内に素子分離溝(図示せず)が形成される。カーボンナノチューブの長さが不均一の場合、あるカーボンナノチューブが互いに隣接するトランジスタ形成領域間を架橋することがある。しかし、素子分離溝形成時のRIEによって、素子分離領域(素子分離溝)上のカーボンナノチューブは、RIEにより分断される。それゆえ、1つのカーボンナノチューブが、2つのトランジスタ形成領域に、不要に跨って、素子不良を引き起こすのを防止できる。
【0267】
続いて、図32を用いて、CNTトランジスタの製造工程について、説明する。
図32(a)は、CNTトランジスタの製造工程の一工程を示し、平面図とそのL−L線(チャネル長方向)に沿う断面図を示している。図32(b)は、CNTトランジスタの製造工程の一工程を示し、平面図とそのL−L線に沿う断面図を示している。
【0268】
図32(a)に示すように、レジスト30A上及び半導体性カーボンナノチューブSCNT上に、例えば、スパッタ法によって、金属膜44が堆積される。この際、チャネル領域となるカーボンナノチューブSCNTの部分は、レジスト30Aによって覆われている。そのため、チャネル領域上においては、金属膜44はそのレジスト30A上に堆積される。また、ソース/ドレイン領域となるカーボンナノチューブSCNTの部分には、金属膜44が直接接触して形成される。
【0269】
そして、レジスト30Aが剥離されると、それと同時に、レジスト30A上の金属膜44も剥離される。そのため、図32(b)に示すように、半導体性カーボンナノチューブSCNTにおいて、チャネル領域となる部分は露出し、ソース/ドレイン領域となる部分には、ソース/ドレイン電極44a,44bが形成される。
【0270】
この後、図29に示すように、層間絶縁膜47が、カーボンナノチューブ47を覆うように、基板20上に形成される。これによって、半導体性カーボンナノチューブSCNTを用いたCNTトランジスタが完成する。
【0271】
以上のように、本発明の第1乃至第6の実施形態で述べたカーボンナノチューブの分別装置及び分別方法によって、半導体性カーボンナノチューブが分別される。そして、図29乃至図32を用いた製造方法によって、分別された半導体性カーボンナノチューブSCNTを適用した電界効果トランジスタ(CNTトランジスタ)が作製される。
【0272】
(3) 配線
図33及び図34を参照して、本発明の第1乃至第6の実施形態で述べたカーボンナノチューブの分別装置及び分別方法によって分別された金属性カーボンナノチューブの適用例について、説明する。
【0273】
(a) 構造
金属性カーボンナノチューブは、アルミニウムや銅などの金属より低抵抗(優れた導電性)を有するため、例えば、半導体集積回路の配線に用いることができる。
【0274】
図33は、金属性カーボンナノチューブMCNTを用いたコンタクトプラグCP及び配線CLの構造を示している。尚、図29を用いて説明したCNTトランジスタと共通する部材については、共通の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0275】
図33(a)は、CNTトランジスタの平面構造とそのL−L線(チャネル長方向)に沿う断面図を示している。図33(a)に示すように、CNTトランジスタにおいて、金属性カーボンナノチューブMCNTを用いたコンタクトプラグCPは、層間絶縁膜47内に埋め込まれ、ソース/ドレイン電極44a,44bに接続される。コンタクトプラグCPとしてのカーボンナノチューブMCNTは、例えば、複数のカーボンナノチューブMCNTを束状にして、用いられる。金属性カーボンナノチューブを用いた配線CLは、層間絶縁膜48内に形成される。
【0276】
また、図33(b)に示すように、金属性カーボンナノチューブMCNTは、半導体基板をチャネル領域とする電界効果トランジスタ(例えば、MOSトランジスタ)のコンタクトプラグCPや配線CLに適用できるのは、もちろんである。
図33(b)に示されるMOS(Metal-Oxide-Semiconductor)トランジスタは、半導体基板20内に、ソース/ドレインとなる2つの拡散層(以下、ソース/ドレイン拡散層と呼ぶ)46a,46bを有している。ソース/ドレイン拡散層44a,44b間のチャネル領域上には、ゲート絶縁膜42を介して、ゲート電極41が設けられている。そして、コンタクトプラグCP及び配線CLとしての金属性カーボンナノチューブMCNTは、ソース/ドレイン拡散層46a,46bに接続される。
【0277】
尚、図33(a)及び図33(b)において、金属性カーボンナノチューブMCNTが、トランジスタのソース/ドレイン44a,44b,46a,46bに接続されるコンタクトプラグCP及び配線CLに用いられた例が示されているが、多層配線技術によって、これらの層よりも上層のコンタクト(ビア)や配線に用いられても良いのはもちろんである。
【0278】
第1乃至第6の実施形態で述べたように、半導体性カーボンナノチューブと金属性カーボンナノチューブが分別されているので、本適用例によれば、金属性カーボンナノチューブMCNTのみから構成されるコンタクトプラグCP及び配線CLを形成できる。それゆえ、特性(バンドギャップの大きさ)がほぼ同じカーボンナノチューブを用いることによって、コンタクト及び配線の電気特性の均一化を図ることができる。
【0279】
以上のように、本発明の第1乃至第6の実施形態で述べた装置及び方法によって分別された金属性カーボンナノチューブMCNTを、コンタクトプラグCPや配線CLに適用できる。
【0280】
(b) 製造方法
図34を用いて、金属性カーボンナノチューブMCNTを用いたコンタクトプラグCP及び配線CLの製造方法について、説明する。尚、図34に示される製造工程は、図29乃至図32を用いて説明した製造工程に続く工程である。
【0281】
図34(a)及び図34(b)は、CNTトランジスタが形成された後における、コンタクトプラグ/配線形成工程の一工程をそれぞれ示し、平面図とそのL−L線(チャネル長方向)に沿う断面図を示している。
【0282】
図34の(a)に示すように、層間絶縁膜47がCNTトランジスタを覆うように形成された後、層間絶縁膜47内にコンタクトホールQが形成される。これによって、ソース/ドレイン電極44a,44b表面が露出する。
そして、第1乃至第6の実施形態で述べた装置及び方法によって分別された金属性カーボンナノチューブMCNTが、形成されたコンタクトホールQ内に導入される。コンタクトホールQ内には、1本以上の金属性カーボンナノチューブMCNTが導入される。
【0283】
この際、導入された金属性カーボンナノチューブMCNTは、コンタクトホールQの上端から突出する場合がある。そこで、図22を用いて説明した方法と同様に、金属性カーボンナノチューブMCNTに対して、層間絶縁膜47をストッパとして、CMPが施される。
【0284】
これによって、図34の(b)に示すように、カーボンナノチューブMCNTが研削され、コンタクトプラグCPとしての金属性カーボンナノチューブMCNTの上端が、層間絶縁膜47の上端と、ほぼ一致する高さにされる。
【0285】
続いて、層間絶縁膜48が、層間絶縁膜47上に堆積される。層間絶縁膜48内には、所定の配線レイアウトになるように、溝Zが形成される。そして、例えば、図24を用いて説明した方法と同様に、金属性カーボンナノチューブMCNTが、溝Zに配置される。これによって、金属性カーボンナノチューブMCNTの配置が制御される。
この際、配線CLとしての金属性カーボンナノチューブMCNTの配置を固定するために、例えば、図27を用いて説明した方法を用いてもよい。即ち、金属性カーボンナノチューブMCNTの端部に、チオール基や無機材料結合ペプチドをあらかじめ付与し、例えば、Au膜や無機材料膜のように、チオール基やペプチドと結合をする膜(図示せず)を、溝Z内の所定の位置に形成する。
そして、金属性カーボンナノチューブMCNTが層間絶縁膜47,48上に導入され、金属性カーボンナノチューブMCNTを用いた配線CLが、溝Zに形成された金属膜又は無機材料膜(図示せず)と結合をなして、所定の位置に固定して配置される。
また、この場合、カーボンナノチューブが、金属膜や導電性の無機材料を介して、電気的に接続される。それゆえ、カーボンナノチューブMCNT同士の接触不良によって、配線CLの電気的特性が劣化するのを防止できる。
【0286】
このように、金属性カーボンナノチューブMCNTを用いたコンタクトプラグCP及び配線CLが完成する。
【0287】
以上のように、本発明の第1乃至第6の実施形態で述べたカーボンナノチューブの分別装置及び分別方法によって、金属性カーボンナノチューブが分別される。そして、図33を用いた製造方法によって、分別された金属性カーボンナノチューブを適用したコンタクトプラグ及び配線が作製される。
【0288】
(4) エミッタ素子
図35を用いて、本発明の実施形態によって分別された金属性カーボンナノチューブMCNTを、例えば、ディスプレイなどの電子放出源(エミッタ素子)に適用した例ついて、説明する。以下、カーボンナノチューブを用いたエミッタ素子のことを、CNTエミッタ素子と呼ぶ。
【0289】
図35は、金属性カーボンナノチューブを適用したマルチエミッタ70を示している。
【0290】
マルチエミッタ70は、真空状態の筐体72内に、カソード電極20Aと、メッシュ状のアノード電極71を有している。アノード電極71とカソード電極20Aには、スイッチ73を介して、電源74が接続される。
【0291】
アノード電極71において、カソード電極20Aと対向する面には、蛍光体(図示せず)が設けられている。
【0292】
カソード電極20A上には、複数のCNTエミッタ素子MCNTが設けられている。複数のCNTエミッタは、例えば、金属性カーボンナノチューブMCNTである。
【0293】
図35に示される複数の金属性カーボンナノチューブMCNTは、例えば、多孔質層を利用して、基板20A表面に対して垂直方向に沿って成長するように形成される。そして、これらの金属カーボンナノチューブMCNTは、第3の実施形態で述べた分別方法を用いて、基板20A上に選択的に残存されたカーボンナノチューブである。
【0294】
この場合、CNTエミッタ素子に用いられる金属性カーボンナノチューブMCNTは、多孔質層を用いて形成する際に、マトリクス状に配列するように基板20A上に形成されるため、エミッタ素子としてのカーボンナノチューブMCNTを改めて配列する必要はない。それゆえ、第3の実施形態のようにカーボンナノチューブを形成・分別することで、CNTエミッタ素子MCNT及びマルチエミッタ70の製造工程を簡略化できる。
そして、これらの複数のCNTエミッタ素子MCNTの一端(先端)は、アノード電極71側に向いている。それゆえ、電子はカーボンナノチューブMCNTの急峻な先端から放出されるため、電子を放出させるための駆動電圧を低減できる。
【0295】
尚、基板20Aは、カソード電極として機能することが好ましく、金属や半導体などの導電性を有する基板が用いられる。但し、その表面に導電膜を有する絶縁性基板であってもよいのは、もちろんである。また、図35においては、基板20A(カソード電極)上の多孔質層が除去された例が示されているが、多孔質層を基板20上に残存させてもよい。さらに、残存された多孔質層上に、エミッタ素子としての金属性カーボンナノチューブMCNTの先端に近接して設けられたグリッド電極を備えていてもよい。このグリッド電極によって、エミッタ素子からの電子の放出を制御できる。
【0296】
さらに、エミッタ素子の特性の均一化を図るため、図22を用いて説明したように、カーボンナノチューブの先端に対してCMPを施して、カーボンナノチューブの長さが同じになっていることが好ましい。
【0297】
尚、第1及び第2の実施形態を用いて分別された金属性カーボンナノチューブを、基板20A上に分散させて、CNTエミッタ素子に適用してもよいのはもちろんである。
【0298】
以上のように、本発明の第1乃至第6の実施形態で述べた装置及び方法によって、カーボンナノチューブが特性毎に分別される。そして、分別された金属性カーボンナノチューブMCNTを、エミッタ素子に適用できる。
【0299】
[その他]
本発明の実施形態においては、カーボンナノチューブを例に、その磁気特性の違いを利用して、複数のカーボンナノチューブを特性・性質毎に分別する方法について、説明した。しかし、本発明の例は、カーボンナノチューブに限定されない。
【0300】
同一条件下で同一基板上に形成された微細な構造体(生成物)、特に、六員環から構成される構造体において、その構造体の磁気特性(常磁性/反磁性)に違いが生じていれば、本発明の例は適用でき、磁気特性の違いを利用して、複数の構造体を性質・特性毎に分別できる。それゆえ、カーボンナノチューブ以外の微細な構造体においても、本発明の実施形態で述べた効果と同様の効果を得ることができる。
【0301】
本発明の例は、上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、各構成要素を変形して具体化できる。また、上述の実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を構成できる。例えば、上述の実施形態に開示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよいし、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0302】
【図1】本発明の実施形態を説明するための模式図。
【図2】本発明の実施形態を説明するための模式図。
【図3】第1の実施形態に係るカーボンナノチューブの製造装置を説明するための鳥瞰図。
【図4】第1の実施形態に係るカーボンナノチューブの製造装置を説明するための平面図。
【図5】カーボンナノチューブを分別する方法を説明するための模式図。
【図6】カーボンナノチューブを分別する方法を説明するための模式図。
【図7】カーボンナノチューブを分別する方法を説明するための模式図。
【図8】第2の実施形態に係るカーボンナノチューブの製造装置を説明するための鳥瞰図。
【図9】第2の実施形態に係るカーボンナノチューブの製造装置を説明するための断面図。
【図10】第3の実施形態を説明するための模式図。
【図11】第3の実施形態を説明するための模式図。
【図12】第3の実施形態に係るカーボンナノチューブの製造装置及び分別方法を説明するための断面図。
【図13】第4の実施形態に係るカーボンナノチューブの製造装置の一例を示す図。
【図14】第4の実施形態に係るカーボンナノチューブの製造装置の一例を示す図。
【図15】第4の実施形態に係るカーボンナノチューブを分別する方法を説明するための図。
【図16】第5の実施形態に係るカーボンナノチューブの製造装置の一例を示す図。
【図17】第6の実施形態を説明するための模式図。
【図18】第6の実施形態を説明するための模式図。
【図19】本発明の実施形態の応用例を説明するための図。
【図20】本発明の実施形態の応用例を説明するための図。
【図21】本発明の実施形態の応用例を説明するための図。
【図22】カーボンナノチューブの製造方法を説明するための図。
【図23】カーボンナノチューブの製造方法を説明するための図。
【図24】カーボンナノチューブの製造方法を説明するための図。
【図25】カーボンナノチューブの製造方法を説明するための図。
【図26】カーボンナノチューブの製造方法を説明するための図。
【図27】カーボンナノチューブの製造方法を説明するための図。
【図28】スイッチ素子の構造及び動作を説明するための図。
【図29】トランジスタの構造を説明するための図。
【図30】トランジスタの製造方法を説明するための工程図。
【図31】トランジスタの製造方法を説明するための工程図。
【図32】トランジスタの製造方法を説明するための工程図。
【図33】配線の構造を説明するための図。
【図34】配線の製造方法を説明するための工程図。
【図35】エミッタ素子の構造を説明するための図。
【符号の説明】
【0303】
1A,1B:カーボンナノチューブ分別装置、SCNT,MCNT:カーボンナノチューブ、2:導入部、3:搬送部、4A,4B:回収部、5:磁場発生部、8A,8B:励起部、9:振動印加部、20:基板、25:多孔質層、PT:無機材料結合ペプチド、S:チオール基、41:ゲート電極、42:ゲート絶縁膜、44a,44b:ソース/ドレイン電極、46:ソース/ドレイン拡散層、P:コンタクトホール、Z:溝、60:NEMSスイッチ素子、61:固定部、62:電極、70:マルチエミッタ、20A:カソード電極(基板)、71:アノード電極、73:スイッチ、74:電源。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の磁気特性を有する第1のカーボンナノチューブと前記第1の磁気特性とは異なった第2の磁気特性を有する第2のカーボンナノチューブとが共通に導入される導入部と、
前記第1及び第2のカーボンナノチューブをそれぞれ回収する第1及び第2の回収部と、
前記第1及び第2のカーボンナノチューブを、前記導入部から前記第1及び第2の回収部まで搬送する搬送部と、
前記搬送部に隣接して配置され、前記第1及び第2のカーボンナノチューブに対して磁場を印加する磁場発生部と、を具備し、
前記第1の磁気特性と前記磁場との相互作用によって、前記第1のカーボンナノチューブと前記第2のカーボンナノチューブとを分別する、ことを特徴とするカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項2】
前記第1の磁気特性と前記磁場との間の相互作用によって、前記第1のカーボンナノチューブを、前記第1のカーボンナノチューブと前記第2のカーボンナノチューブとが形成された1つの基板から選択的に切断し、前記第1のカーボンナノチューブと前記第2のカーボンナノチューブとを分別する、ことを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項3】
前記第1のカーボンナノチューブ及び前記第1の磁気特性を有する第3のカーボンナノチューブに対して、外部エネルギーを与える励起部を、さらに具備し、
前記外部エネルギーの大きさは、前記第1のカーボンナノチューブのバンドギャップエネルギーより小さく、前記第3のカーボンナノチューブのバンドギャップエネルギー以上であって、
前記第3のカーボンナノチューブを前記外部エネルギーによって励起させて、前記第3のカーボンナノチューブの磁気特性を、前記第1の磁気特性から前記第2の磁気特性に変化させ、
前記第1の磁気特性と前記磁場との相互作用によって、前記第1のカーボンナノチューブと前記第3のカーボンナノチューブとを分別する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項4】
前記励起部は、レーザ発振器及び加熱装置の少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項3に記載のカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項5】
第1の磁気特性を有する第1のカーボンナノチューブと第2の磁気特性を有する第2のカーボンナノチューブとを共通に導入する工程と、
前記第1及び第2のカーボンナノチューブに磁場を印加し、前記磁場と前記第1の磁気特性との相互作用によって、前記第1のカーボンナノチューブと第2のカーボンナノチューブとを分別する工程と、
前記分別された前記第1のカーボンナノチューブと前記第2のカーボンナノチューブとを、それぞれ異なって回収する工程と、
を具備することを特徴とするカーボンナノチューブを分別する方法。
【請求項1】
第1の磁気特性を有する第1のカーボンナノチューブと前記第1の磁気特性とは異なった第2の磁気特性を有する第2のカーボンナノチューブとが共通に導入される導入部と、
前記第1及び第2のカーボンナノチューブをそれぞれ回収する第1及び第2の回収部と、
前記第1及び第2のカーボンナノチューブを、前記導入部から前記第1及び第2の回収部まで搬送する搬送部と、
前記搬送部に隣接して配置され、前記第1及び第2のカーボンナノチューブに対して磁場を印加する磁場発生部と、を具備し、
前記第1の磁気特性と前記磁場との相互作用によって、前記第1のカーボンナノチューブと前記第2のカーボンナノチューブとを分別する、ことを特徴とするカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項2】
前記第1の磁気特性と前記磁場との間の相互作用によって、前記第1のカーボンナノチューブを、前記第1のカーボンナノチューブと前記第2のカーボンナノチューブとが形成された1つの基板から選択的に切断し、前記第1のカーボンナノチューブと前記第2のカーボンナノチューブとを分別する、ことを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項3】
前記第1のカーボンナノチューブ及び前記第1の磁気特性を有する第3のカーボンナノチューブに対して、外部エネルギーを与える励起部を、さらに具備し、
前記外部エネルギーの大きさは、前記第1のカーボンナノチューブのバンドギャップエネルギーより小さく、前記第3のカーボンナノチューブのバンドギャップエネルギー以上であって、
前記第3のカーボンナノチューブを前記外部エネルギーによって励起させて、前記第3のカーボンナノチューブの磁気特性を、前記第1の磁気特性から前記第2の磁気特性に変化させ、
前記第1の磁気特性と前記磁場との相互作用によって、前記第1のカーボンナノチューブと前記第3のカーボンナノチューブとを分別する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項4】
前記励起部は、レーザ発振器及び加熱装置の少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項3に記載のカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項5】
第1の磁気特性を有する第1のカーボンナノチューブと第2の磁気特性を有する第2のカーボンナノチューブとを共通に導入する工程と、
前記第1及び第2のカーボンナノチューブに磁場を印加し、前記磁場と前記第1の磁気特性との相互作用によって、前記第1のカーボンナノチューブと第2のカーボンナノチューブとを分別する工程と、
前記分別された前記第1のカーボンナノチューブと前記第2のカーボンナノチューブとを、それぞれ異なって回収する工程と、
を具備することを特徴とするカーボンナノチューブを分別する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【公開番号】特開2010−138015(P2010−138015A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314757(P2008−314757)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]