ガソリンエンジン
【課題】熱効率をより高めることができるガソリンエンジンを提供する。
【解決手段】気筒2の幾何学的圧縮比を14以上に設定するとともに、燃焼室6の天井面60を、その径方向中央を頂部として径方向外側に向かうに従ってピストン5の冠面側に傾斜する円錐面形状とし、ピストン5の冠面を、その中央部分に形成されて前記燃焼室6の天井面60から離間する方向に凹みこの凹み方向に湾曲する内周面40bを有するキャビティ40と、キャビティ40の開口縁40aから径方向外側に向かうに従って燃焼室6の天井面60から離間する方向に傾斜して燃焼室6の天井面60と平行に延びる基準面41とし、インジェクタ21を各噴口21aを通じて噴射された燃料が燃焼室6の天井面60の頂部からピストン5の冠面に近づくほど径方向外側に拡がるように、その先端部を燃焼室6の天井面60の頂部近傍に位置する状態で燃焼室6内に臨ませる。
【解決手段】気筒2の幾何学的圧縮比を14以上に設定するとともに、燃焼室6の天井面60を、その径方向中央を頂部として径方向外側に向かうに従ってピストン5の冠面側に傾斜する円錐面形状とし、ピストン5の冠面を、その中央部分に形成されて前記燃焼室6の天井面60から離間する方向に凹みこの凹み方向に湾曲する内周面40bを有するキャビティ40と、キャビティ40の開口縁40aから径方向外側に向かうに従って燃焼室6の天井面60から離間する方向に傾斜して燃焼室6の天井面60と平行に延びる基準面41とし、インジェクタ21を各噴口21aを通じて噴射された燃料が燃焼室6の天井面60の頂部からピストン5の冠面に近づくほど径方向外側に拡がるように、その先端部を燃焼室6の天井面60の頂部近傍に位置する状態で燃焼室6内に臨ませる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気筒に形成された燃料室内に少なくとも一部がガソリンからなる燃料を供給可能なインジェクタを備え、特定運転領域において前記燃焼室内で前記燃料と空気との混合気を自着火により燃焼させることでピストンを往復運動させるガソリンエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガソリンエンジンの分野では、点火プラグの火花点火により強制的に混合気を着火させる燃焼形態(火花点火燃焼)が一般的であったが、近年、このような火花点火燃焼に代えて、いわゆる圧縮自己着火燃焼をガソリンエンジンに適用する研究が進められている。圧縮自己着火燃焼とは、燃焼室(気筒内)に生成された混合気をピストンで圧縮し、高温・高圧の環境下で、火花点火によらず混合気を自着火させるというものである。圧縮自己着火燃焼は、燃焼室の各所で同時多発的に自着火する燃焼であり、火花点火による燃焼に比べて、高い熱効率が得られると言われている。
【0003】
前記圧縮自己着火燃焼が適用されたガソリンエンジンの具体例として、例えば下記特許文献1に開示されたものが知られており、この特許文献1には、気筒の幾何学的圧縮比を14以上として混合気を自着火可能な温度にまで高めることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−154859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃費性能の観点等から熱効率の向上要求は依然として高く、圧縮自己着火燃焼の確実な実現等によって熱効率をより一層高めることが求められている。
【0006】
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、熱効率をより高めることができるガソリンエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、気筒に形成された燃料室内に少なくとも一部がガソリンからなる燃料を供給可能なインジェクタを備え、エンジンの特定運転領域において前記燃焼室内で前記燃料と空気との混合気を自着火により燃焼させることでピストンを往復運動させるガソリンエンジンであって、前記気筒の幾何学的圧縮比は14以上に設定されており、前記燃焼室の天井面は、その径方向中央を頂部として径方向外側に向かうに従ってその高さが低くなるように傾斜した円錐面形状を有し、前記ピストンの冠面は、その中央部分に、所定の曲率をもって凹状に湾曲するキャビティを有するとともに、当該キャビティの開口縁よりも径方向外側に向かうに従って高さが低くなるように傾斜して前記燃焼室の天井面と平行に延びる基準面を有し、前記インジェクタは、前記ピストンの冠面側に向けて燃料を噴射可能な噴口が形成された先端部を有するとともに、当該先端部が前記燃焼室の天井面の頂部近傍に位置するように設けられていることを特徴とするガソリンエンジンを提供する(請求項1)。
【0008】
本発明によれば、気筒を高圧縮比にするとともに混合気から燃焼室の壁面に放熱される放熱量すなわち冷却損失を小さく抑えることができ、より確実に燃焼室内の温度を混合気の自着火が可能な温度にまで高めることができるとともに、前記冷却損失の低減に伴って熱効率をより一層高めることができる。すなわち、高圧縮比に伴って圧縮上死点における燃焼室の容積は小さくなるが、本発明では、ピストンの冠面の径方向中央にキャビティが形成されているので、混合気が燃焼する領域における燃焼室天井面とピストン冠面との間のすきま寸法を確保して混合気の多くをこのキャビティ内で燃焼室の壁面から離間した状態で燃焼させることができ、燃焼室の壁面への放熱をより小さく抑えることができる。また、燃料の燃焼室壁面への付着を抑制して効率よく混合気を燃焼させることができる。
【0009】
しかも、燃焼室の天井面が円錐面状とされており、この天井面に設けられる吸気弁および排気弁の弁面積ひいては吸気量および排気量を確保することができるとともに、ピストンの冠面のキャビティよりも径方向外側の部分(以下、ピストン冠面の外周部分という場合がある)がこの円錐面状の燃焼室の天井面と平行に構成されているので、燃焼室のうち前記キャビティよりも径方向外側部分(以下、燃焼室の外周部分という場合がある)の容積および燃焼室天井面とピストン冠面との間のすきま寸法を確保してこの外側部分における混合気の適正な燃焼を実現しつつ、圧縮上死点における燃焼室容積V_TDCに対する燃焼室表面積Sの割合であるS/V_TDC(SV比)を小さくして、燃焼室壁面への放熱量を小さく抑えることができる。具体的には、燃焼室径および圧縮比が一定の条件下で、燃焼室の外周部分の容積およびすきま寸法をそれぞれ燃焼に必要な所定量に設定した場合、燃焼室の天井面およびピストン冠面の外周部分を円錐面状とした方が、これらを球面状とする場合に比べて、ピストン冠面の外周部分の長さを長くすることができ、これに伴ってキャビティの径方向の長さを短くすることができるため、キャビティの容積が一定の条件下において、キャビティの曲率をより大きくして前記SV比を小さくすることができる。
【0010】
本発明において、前記インジェクタは、前記特定運転領域の少なくとも一部の運転領域において、圧縮上死点よりも前であって噴射した燃料が前記燃焼室のうち前記キャビティよりも径方向外側の部分に到達するタイミングで燃料を噴射する前段噴射と、前記前段噴射よりも後であって噴射した燃料が前記キャビティ内に到達するタイミングで燃料を噴射する後段噴射とを含む複数回に分けて燃料を噴射するのが好ましい(請求項2)。
【0011】
このようにすれば、キャビティの内と外とに分けて混合気が形成されるため、これら混合気が混じり合って同時に燃焼することが回避され、これら混合気が同時に燃焼することに伴う筒内圧力の急上昇による燃焼騒音の増大や、局所的な酸素不足によるスートの大量発生を効果的に防止することができる。
【0012】
また、本発明において、前記燃焼室の天井面に形成された複数の吸気側開口部を介して前記燃焼室と連通する吸気ポートと、前記複数の吸気側開口部をそれぞれ開閉可能な弁体と当該弁体から延びてこの弁体をそれぞれ前記吸気側開口部の開閉方向に移動させるステムとを備えた複数の吸気弁と、前記燃焼室の天井面に形成された複数の排気側開口部を介して前記燃焼室と連通する排気ポートと、前記複数の排気側開口部をそれぞれ開閉可能な弁体と当該弁体から延びてこの弁体をそれぞれ前記排気側開口部の開閉方向に移動させるステムとを備えた複数の排気弁とを備え、前記複数の吸気弁と複数の排気弁の少なくとも一方は、その各弁体の前記燃焼室側の面が前記円錐面状の燃焼室の天井面との接面と平行に延び、かつ、その各ステムが、燃焼室の天井面の頂部からピストン冠面を見た平面視で、前記燃焼室の天井面の頂部を中心とする円の径方向に延びるように、配設されているのが好ましい(請求項3)。
【0013】
このようにすれば、前記吸気弁あるいは排気弁が閉弁した状態において、燃焼室の天井面をより平滑にして燃焼室天井面の表面積をより小さくすることができる。
【0014】
前記構成において、前記燃焼室内の混合気に点火可能な点火プラグを備え、
前記複数の排気弁は、互いに隣接するとともに、その各弁体の前記燃焼室側の面が前記円錐面状の燃焼室の天井面との接面と平行に延び、かつ、その各ステムが、平面視で、前記燃焼室の天井面の頂部を中心とする円の径方向に延びるように、配設されており、前記点火プラグは、前記排気弁の間に配置されているのが好ましい(請求項4)。
【0015】
この構成によれば、排気弁間に点火プラグを配置しつつ、排気弁の弁体が燃焼室の天井面の接面と平行に延びていることによって当該弁体の面積ひいては排気側開口部の開口面積を確保することができる。
【0016】
また、前記複数の吸気弁は、その各弁体が前記円錐面状の燃焼室の天井面との接面と平行に延び、かつ、その各ステムが、燃焼室の天井面の頂部からピストン冠面を見た平面視で、前記燃焼室の天井面の頂部を中心とする円の径方向に延びるように、配設されており、前記吸気側開口部の開口面積は、前記排気側開口部の開口面積よりも大きく設定されているのが好ましい(請求項5)。
【0017】
このようにすれば、吸気弁の弁体の面積ひいては排気側開口部の開口面積を大きくして、燃焼室内に流入する吸気量ひいてはエンジントルクを確保することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、熱効率をより高めることのできるガソリンエンジンを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るガソリンエンジンの全体構成を示す図である。
【図2】図1に示す燃焼室周辺を拡大して示す概略断面図である。
【図3】図2に示す燃焼室周辺の概略平面図である。
【図4】図2に示す燃焼室を模式的に示した図である。
【図5】本発明の比較例の燃焼室を模式的に示した図である。
【図6】(a)〜(e)本発明と比較例のSVを比較したグラフである。
【図7】前記エンジンの制御系を示すブロック図である。
【図8】エンジンの運転状態に応じた燃焼形態を選択するための制御マップの一例を示す図である。
【図9】図5の第1運転領域(A1)における制御内容を説明するためのタイムチャートである。
【図10】図5の第2運転領域(A2)における制御内容を説明するためのタイムチャートである。
【図11】図5の第3運転領域(A3)における制御内容を説明するためのタイムチャートである。
【図12】図5の第4運転領域(A4)における制御内容を説明するためのタイムチャートである。
【図13】(a)〜(f)は、前記第2運転領域(A2)で行われる燃料噴射とそれに基づく混合気の燃焼を模式的に説明するための図である。
【図14】(a)〜(f)は、前記第3運転領域(A3)で行われる燃料噴射とそれに基づく混合気の燃焼を模式的に説明するための図である。
【図15】前記第3運転領域(A3)で行われる複数段の燃料噴射がそれぞれどのような領域で燃焼するかを模式的に説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかるエンジンの全体構成を示す図である。本図に示されるエンジンは、走行駆動用の動力源として車両に搭載される往復ピストン型の多気筒ガソリンエンジンである。このエンジンのエンジン本体1は、紙面に直交する方向に並ぶ複数の気筒2(図中ではそのうちの1つのみを示す)を有するシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、各気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。エンジン本体1に供給される燃料は、ガソリンを主成分とするものである。なお、この燃料はガソリンが主成分であればよく、その中身は、全てガソリンであってもよいし、ガソリンにエタノール(エチルアルコール)等を含有させたものでもよい。以下、適宜、前記ピストン5の軸方向であってその摺動方向を上下方向といい、シリンダヘッド4側を上側、シリンダブロック3側を下側という。
【0021】
前記エンジン本体1すなわち気筒2の幾何学的圧縮比は、理論熱効率の向上や、後述するCI燃焼(圧縮自己着火燃焼)の安定化等を目的として、14以上という高い値に設定されている。なお、この幾何学的圧縮比は、実用上の観点等から20程度が限界であると考えられる。そのため、前記幾何学的圧縮比は、14以上20以下の範囲の適宜の値に設定される。
【0022】
前記ピストン5は、コネクティングロッド8を介してクランク軸7と連結されている。前記ピストン5の往復運動に応じて、前記クランク軸7はその中心軸回りに回転する。前記ピストン5の上方には燃焼室6が形成されている。
【0023】
前記シリンダヘッド4には、先端部から燃焼室6内に燃料(ガソリンを主成分とする燃料)を噴射するインジェクタ21が、各気筒2につき1つずつ取り付けられている。このインジェクタ21は、いわゆる多噴口型のインジェクタである。本実施形態では、前記インジェクタ21は、その先端部I1に12個の噴口を有している。
【0024】
前記インジェクタ21には燃料供給管23が接続されており、インジェクタ21は、この燃料供給管23を通じて供給された燃料を噴射する。前記燃料供給管23の上流側には、クランク軸7と連動連結されたプランジャー式のポンプ等からなる高圧燃料ポンプが接続されているとともに、この高圧燃料ポンプと前記燃料供給管23との間には、全気筒に共通の蓄圧用のコモンレールが設けられている。そして、このコモンレール内で蓄圧された燃料が各気筒2のインジェクタ21に供給されることにより、各インジェクタ21からは、30MPa以上の高い圧力の燃料が噴射される。なお、燃料噴射圧力の上限値は、実用上の観点等から120MPa程度であると考えられるため、前記インジェクタ21からの噴射圧力は、30MPa以上120MPa以下の範囲の適宜の値に設定されている。
【0025】
前記シリンダヘッド4には、燃焼室6内の混合気に点火エネルギーを供給する点火プラグ20が各気筒2につき1つずつ取り付けられている。この点火プラグ20は、その点火点が燃焼室6内に臨む姿勢でシリンダヘッド4に取り付けられている。この点火プラグ20は、図外の点火回路からの給電に応じてその先端から火花を放電して燃焼室6内の混合気に点火する。
【0026】
前記シリンダヘッド4には、燃焼室6と連通する吸気ポート9および排気ポート10が形成されている。すなわち、燃焼室6には、前記吸気ポート9と連通する吸気側開口部61と排気ポート10と開口する排気側開口部62とが形成されている。前記シリンダヘッド4には、各開口部61,62を開閉する吸気弁11および排気弁12がそれぞれ設けられている。なお、図例のエンジンはいわゆるダブルオーバーヘッドカムシャフト式(DOHC)エンジンである。前記吸気側開口部61と排気側開口部62とは、各気筒2につき2つずつ設けられるとともに、前記吸気弁11および排気弁12も2つずつ設けられている。
【0027】
前記吸気弁11および排気弁12は、それぞれ、傘状の前記各開口部61,62を開閉する弁体11a,12aと、この弁体11a,12aから垂直に延びるステム11b,12bとを有するいわゆるポペットバルブである。
【0028】
前記吸気弁11および排気弁12は、それぞれ、シリンダヘッド4に配設された一対のカムシャフト(図示省略)等を含む動弁機構13,14によりクランク軸7の回転に連動して各ステム11b,12bが駆動され、これにより前記吸気側開口部61と排気側開口部62とを開閉する。
【0029】
前記吸気弁11用の動弁機構13には、CVVL15が組み込まれている。CVVL15は、連続可変バルブリフト機構(Continuous Variable Valve Lift Mechanism)と呼ばれるものであり、吸気弁11のリフト量を連続的に(無段階で)変更するものである。CVVL15は、エンジンの全ての吸気弁11のリフト量を変更できるように設けられており、このCVVL15が駆動されると、各気筒2において一対の吸気弁11のリフト量が同時に変更されるようになっている。
【0030】
このような構成のCVVL15は既に公知であり、その具体例として、吸気弁11駆動用のカムをカムシャフトの回転と連動して往復揺動運動させるリンク機構と、リンク機構の配置(レバー比)を可変的に設定するコントロールアームと、コントロールアームを電気的に駆動することによって前記カムの揺動量(吸気弁11を押し下げる量)を変更するステッピングモータとを備えたものを挙げることができる(例えば特開2007−85241号公報参照)。
【0031】
前記排気弁12用の動弁機構14には、吸気行程中に排気弁12を押し下げる機能を有効または無効にするON/OFFタイプの可変バルブリフト機構(Variable Valve Lift Mechanism)であるVVL16が組み込まれている。すなわち、VVL16は、排気弁12を排気行程だけでなく吸気行程でも開弁可能にするとともに、この吸気行程中の排気弁12の開弁動作を実行するか停止するかを切り替える機能を有している。VVL16は、エンジンの全ての排気弁12に対応して設けられており、かつ、各気筒2の一対の排気弁12に対し、それぞれ個別に、吸気行程中の開弁動作を実行または停止できる。
【0032】
このような構成のVVL16は既に公知であり、その具体例として、排気弁12駆動用の通常のカム(排気行程中に排気弁12を押し下げるカム)とは別に吸気行程中に排気弁12を押し下げるサブカムと、このサブカムの駆動力が排気弁12に伝達されるのを有効または無効にするいわゆるロストモーション機構とを備えたものを挙げることができる(例えば特開2007−85241号公報参照)。
【0033】
このVVL16の作用により、排気弁12が排気行程中に加えて吸気行程中に開弁した場合には、排気行程において高温の排気が排気ポート10から燃焼室6に逆流して、燃焼室6内に大量の排気が残留する。すなわち内部EGRガス量が多く確保される。一方、排気弁12が排気行程中にのみ開弁した場合には、内部EGRガス量は少量あるいはない状態に抑えられる。
【0034】
前記エンジン本体1の吸気ポート9および排気ポート10には、吸気通路28および排気通路29がそれぞれ接続されている。
【0035】
前記吸気通路28は、単一の通路からなる共通通路部28cと、共通通路部28cの上流側端部に設けられたサージタンク28bと、気筒2ごとに分岐して設けられ、前記サージタンク28bと各気筒2の吸気ポート9とを接続する分岐通路部28aとを有している。
【0036】
前記排気通路29は、単一の通路からなる共通通路部29cと、気筒2ごとに分岐して設けられ、前記共通通路部29cの上流側端部と各気筒2の排気ポート10とを接続する分岐通路部29aとを有している。
【0037】
前記吸気通路28および排気通路29の間には、排気通路29を通過する排気ガスの一部を吸気通路28に還流させる外部EGR装置30が設けられている。外部EGR装置30は、吸気通路28および排気通路29の各共通通路部28c,29cどうしを連通するEGR通路31と、EGR通路31の途中部に設けられてEGR通路31を通過する排気の流量を制御するEGRバルブ32と、EGR通路31を通過する排気を冷却する水冷式のEGRクーラ33とを有している。
【0038】
前記吸気通路28の共通通路部28cには、吸気通路28を通過する吸入空気の量を調節するスロットル弁25が設けられている。ただし、本実施形態では、前記CVVL15により吸気弁11のリフト量が調整され、また、VVL16により燃焼室6の内部EGRガスの量が調整され、さらには、外部EGR装置30により吸気通路28に還流される排気ガスの量が調整される。したがって、これらの操作に基づいて、スロットル弁25を操作することなく、燃焼室6に導入される空気(新気)の量を調整することが可能である。このため、スロットル弁25は、エンジンの停止時等を除いて、全開もしくはそれに近い値に維持される。
【0039】
前記排気通路29の共通通路部29cには、排気ガス浄化用の触媒コンバータ35が設けられている。触媒コンバータ35には例えば三元触媒が内蔵されており、排気通路29を通過する排気ガス中の有害成分は、前記三元触媒の作用により浄化される。
【0040】
また、前記エンジン本体には、各種センサが取り付けられている。例えば、エンジン冷却水の温度を検出するための水温センサSW1、クランク軸7の回転角度(クランク角)ひいてはエンジン回転数を検出するためのクランク角センサSW2、前記カムシャフトの角度を検出して気筒判別(各気筒が吸気、圧縮、膨張、排気のいずれの行程にあるかの判別)用の信号を出力するカム角センサSW3が、エンジン本体に取り付けられている。
(2)燃焼室の詳細構造
図2は、燃焼室6周辺の概略断面図である。図3は、前記燃焼室6を上方から見た概略平面図である。図2等に示すように、燃焼室6の天井面60すなわちシリンダヘッド4の底面のうちピストン5と対向する部分は、その径方向中心すなわち気筒2の軸線u1上の点を頂部として径方向外側に向かうに従って高さが低くなる円錐面状を有している。
【0041】
前記インジェクタ21は、その先端部がこの燃焼室天井面60の頂部近傍(この頂部よりわずかに下方)に位置して、その軸線が気筒2の軸線u1と一致するように配設されている。インジェクタ21の各噴口21aは、インジェクタ21すなわち気筒2の軸線u1を中心とする円周上に互いに等間隔に形成されており、各噴口21aの軸線すなわち各噴口21aの開口方向は、径方向外側に向かって斜め下方(ピストン4の冠面側)を向いている。前記インジェクタ21の各噴口21aから燃料が噴射された場合、その燃料は、燃焼室6の天井面60とほぼ平行に下方かつ径方向外側に放射状に広がる。
【0042】
図3に示すように、前記吸気側開口部61と排気側開口部62とは、前記燃焼室6の天井面60に、その周方向に並んで開口している。2つの吸気側開口部61と2つの排気側開口部62とは、燃焼室6の天井面60の中心を通る直線を挟んで両側に設けられている。図3に示す例では、2つの吸気側開口部61は、燃焼室天井面60の右側に設けられており、2つの排気側開口部62は、燃焼室天井面60の左側に設けられている。吸気側開口部61の開口面積は、排気側開口部62の開口面積よりも大きく設定されており、より多くの吸気が燃焼室6内に導入され、これにより、高いエンジントルクが得られるように構成されている。
【0043】
図2に戻って、前記吸気弁11および排気弁12は、その各弁体11a,12aの燃焼室6側の平面状のバルブ面11cが、円錐面状の燃焼室天井面60と接する面に沿って延びるように配設されている。これに伴い、これら各弁11,12のステム11b,12bは、円錐面状の燃焼室天井面60からそれぞれ垂直な方向に延びている。すなわち、図3に示すように、これらステム11b,12bは、気筒2の軸線u1方向から見た平面視で、燃焼室天井面60の頂部を中心とする円の径方向に放射状に延びている。このように、各弁11のバルブ面11c,12cが燃焼室天井面60の接面に沿って延びていることで、各弁11の閉弁時において、これらバルブ面11c,12cを含む燃焼室6の天井面は凹凸が小さく抑えられた形状となる。
【0044】
前記点火プラグ20は、前記シリンダヘッド9のうち前記排気弁12どうしの間に配置されている。前述のように、吸気弁11の開口面積の方が排気弁12よりも大きく設定されている。そのため、このように点火プラグ20を開口面積の小さい排気弁12側に配設することで、点火プラグ20の取り付け位置を確保しつつ、吸気弁11の開口面積ひいてはエンジントルクが確保されている。
【0045】
図2に戻って、前記燃焼室6の底面を構成する前記ピストン5の冠面は、その中央部分に形成されて所定の曲率をもって下方に凹状に湾曲するキャビティ40と、このキャビティ40の開口縁40aから径方向外側に向かうに従って下方に傾斜する基準面41とからなる。
【0046】
前記キャビティ40の内周面40bは、気筒2およびインジェクタ21の軸線u1上の点を中心とする球面の一部をなす形状を有しており、このキャビティ40と前記インジェクタ21とは対向している。前記基準面41は、円錐面状の燃焼室天井面60と平行に延びている。すなわち、ピストン5の冠面は、燃焼室天井面と平行に延びる円錐面状の面の中央に前記キャビティ40が形成された形状を有している。
【0047】
前記点火プラグ20は、その点火点が前記キャビティ40の上端の開口縁40aよりも径方向内側となるようにシリンダヘッド9に取り付けられている。
【0048】
前記燃焼室6の天井面60および底面すなわちピストン5の冠面を前記のような形状としたのは、以下の理由による。
【0049】
前記吸気側開口部61および排気側開口部62の開口面積ひいては燃焼室6に流入する吸気の量および燃焼室6から排気される排気の量を確保するためには、これら開口部61,62が開口する燃焼室天井面60は上に凸となる形状、すなわち径方向中央を頂部として径方向外側に向かうに従って高さが低くなる形状を有する必要がある。
【0050】
燃焼室天井面60をこのように上に凸な形状とした上で、気筒2の幾何学的圧縮比をより高くすなわち圧縮上死点における燃焼室6の容積をより小さくするためには、ピストン5の冠面も上に凸となり燃焼室天井面60と平行に延びるような形状にする必要がある。
【0051】
しかしながら、ピストン5の冠面全体を単に燃焼室天井面60と平行に延びる形状とすると、圧縮上死点において、燃焼室6の上下方向の高さ、すなわち燃焼室6の天井面60とピストン5の冠面との間のすきま寸法が全体的に短くなるために燃焼が適正に広がらない、また、後述する多段CI燃焼を行う際に各噴射に基づく混合気を分離して燃焼させることができないという問題が生じる。
【0052】
そこで、本ガソリンエンジンでは、前記のようにピストン5の冠面のうち径方向外側の部分を燃焼室天井面60と平行な基準面41で構成する一方、ピストン5の冠面の中央に下方に凹むキャビティ40を形成することで、混合気を主にこのキャビティ40内において燃焼させることで適正な燃焼を実現するとともに、多段CI燃焼における各噴射に基づく混合気を分離させてこれらが同時に燃焼するのを抑制するようにしている。また、このようにキャビティ40を設ければ、前記効果に加えて、比較的温度の低い燃焼室6の側面すなわちシリンダ3の壁面と接触する部分を少なくして冷却損失をより小さく抑えることができる。
【0053】
ただし、燃焼室6のうち前記キャビティ40よりも径方向外側の部分6bにおいても適正な燃焼が行われる必要がある(以下、適宜、燃焼室6のうち径方向中央であってキャビティ40が形成された部分を単に燃焼室6の中央部分6aといい、この中央部分6aよりも径方向外側部分を単に燃焼室6の外周部分6bという)。具体的には、後述するように、多段CI燃焼では、エンジントルクに対応する噴射量の一部がキャビティ40とキャビティ40よりも径方向外側の部分に分離して噴射されており、燃焼室6の中央部分6aに加えて外周部分6bにおいてもエンジントルクに寄与する適正な燃焼が必要である。また、火花点火による燃焼の場合においても、高い燃費性能を得るためには、燃焼室6の外周部分6bにおいて燃焼が短時間で完了する必要がある。そのため、本ガソリンエンジンでは、前記キャビティ40を設けつつ、圧縮上死点において、ピストン5の冠面のうちのキャビティ40よりも径方向外側の基準面41と燃焼室天井面60との間のすきま寸法d(図4参照)が所定量確保されてこれらで挟まれた領域の容積V2(図4参照)が確保されるように構成されている。例えば、前記多段CI燃焼において、燃焼室6の外周部分6bにおいて適正な燃焼を実現するためには、圧縮上死点において、そのすきま寸法dは2.4mm程度必要であり、その容積は11cc〜15cc程度必要である。
【0054】
ここで、冷却損失を低減して熱効率を高めるためには、圧縮上死点における燃焼室6の全容積V_TDCに対する燃焼室6の表面積Sの割合であるSV比(S/V_TDC)を小さくする必要がある。一般的に、燃焼室6の天井面60を球面で構成した方が、これを平面で構成する場合よりもSV比が小さいといわれている。しかしながら、本発明者らは、鋭意研究の結果、前記のようにピストン5の冠面の中央にキャビティ40を形成し、ピストン5の冠面のうちキャビティ40よりも径方向外側部分(以下、適宜、このピストン5の冠面のうちキャビティ40よりも径方向外側部分を単にピスト5のン冠面の外周部分という)41を燃焼室6の天井面60と平行にし、かつ、燃焼室6の外周部分6bのすきま寸法dおよび容積V2を所定量確保するという条件下においては、燃焼室天井面60およびこれと平行なピストン5の冠面の外周部分41を球面で構成するよりも円錐面状で構成する方がSV比が小さくなることを突き止めた。
【0055】
すなわち、前記条件下では、図4に示すような燃焼室天井面60およびこれと平行なピストン5の冠面の外周部分41を円錐面状とした方が、これらを図5に示すような燃焼室天井面60およびこれと平行なピストン5の冠面の径方向外側部分を球面とし場合に比べて、キャビティ40の上端の開口縁40aの径方向の長さL2(図4および図5参照)が小さくなり、キャビティ40の曲率(1/r、rは図4および図5参照)を大きくすることができるため、SV比が小さくなることが分かった。図4および図5は、前記形状の差を比較するために、燃焼室6の構造を模式的に示した図である。
【0056】
具体的には、燃焼室6の外周部分6bのすきま寸法dおよび容積V2が一定の場合、燃焼室天井面60およびピストン5の冠面の外周部分41を円錐面状とした方が、これらを球面とした場合よりも、燃焼室6の外周部分6bの径方向の長さL1が長くなる。そのため、燃焼室6の外周部分6b容積V2が一定の場合、前記各部位を円錐面状とした方がキャビティ40の上端の開口縁40aの径方向の長さL2が小さくなり、これに伴って、キャビティ40の容積が一定である条件下において、キャビティ40の曲率(1/r、rは図4および図5参照)は大きくなる。
【0057】
図6(a)〜(e)に、前記条件下において、前記燃焼室6の天井面60およびピストン5の冠面の外周部分41を円錐面状とした場合(実線)と、これらを球面状とした場合(破線)とについて、それぞれ、燃焼室6のSV比を調べた結果をに示す。これら図6(a)〜(e)において、横軸は、圧縮上死点における燃焼室6全体の容積V_TDCに対するキャビティ40の容積V1の割合(V1/V_TDC)であり、縦軸は、燃焼室6全体でのSV比である。また、各図6(a)〜(e)は、前記吸気側開口部61および排気側開口部62の開口面積が一定となるように、燃焼室天井面60の水平面(気筒2の軸線u1と平行な面)に対する傾斜角度α(球面形状の場合は燃焼室天井面60の接線の水平面に対する傾斜角度、図4および図5参照)を一定とした場合の比較結果である。具体的には、図6(a)は、前記傾斜角度αが10度の結果であり、図6(b)は、前記傾斜角度αが20度の結果であり、図6(c)は、前記傾斜角度αが30度の結果であり、図6(d)は、前記傾斜角度αが40度の結果であり、図6(e)は、前記傾斜角度αが50度の結果である。なお、これら各図6(a)〜(e)は、排気量2000cc、幾何学的圧縮比20、気筒2のボア径86mm、燃焼室6の外周部分のすきま寸法d=2.4mm、とした場合の結果である。ここで、圧縮上死点における燃焼室6全体の容積V_TDCに対するキャビティ40の容積V1の割合(V1/V_TDC)は、7/10〜9/10が好ましい。
【0058】
これら図6(a)〜(e)に示されるように、燃焼室天井面60およびこれとピストン5の冠面の外周部分41を円錐面状とした方が、いずれの条件においても、球面状の場合よりもSV比は小さくなっている。なお、αが20度以下では、SV比の差は非常に小さく、燃焼室天井面60を円錐面状とすることによるSV比の低減効果を得るためには、αを20度以上とするのが好ましい。
【0059】
(3)制御系
図7は、エンジンの制御系を示すブロック図である。本図に示されるECU50は、エンジンの各部を統括的に制御するための装置であり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。
【0060】
前記ECU50には、エンジン本体に設けられた前記水温センサSW1、クランク角センサSW2、およびカム角センサSW3等の各種センサから種々の情報が入力される。また、ECU50には、車両に設けられた各種センサからの情報も入力される。例えば、運転者により踏み込み操作される図外のアクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサSW4から、アクセル開度の情報がECU50に入力される。
【0061】
前記ECU50は、その主な機能的要素として、判定手段51、インジェクタ制御手段52、吸気制御手段53、内部EGR制御手段54、外部EGR制御手段55、および点火制御手段56を有している。
【0062】
前記判定手段51は、クランク角センサSW2およびアクセル開度センサSW4の各検出値から特定されるエンジンの回転数Neおよび負荷T(目標トルク)に基づいて、現在のエンジンの運転領域が図8の制御マップにおけるいずれの運転領域であるかを判定する。
【0063】
前記図8の制御マップにおいて、エンジン負荷Tが比較的低い領域(低負荷域)には、全ての回転速度域にわたって第1運転領域(特定運転領域)A1が設定されている。また、この第1運転領域A1よりも負荷Tが高い中負荷域には、低回転側から順に第2運転領域(特定運転領域)A2および第3運転領域(特定運転領域)A3が設定されている。つまり、エンジンの中負荷域において、回転速度Neが所定値(例えば2000〜3000rpm程度)よりも低い領域に第2運転領域A2が設定されるとともに、この第2運転領域A2よりも回転速度Neの高い領域に第3運転領域A3が設定されている。さらに、前記第2、第3運転領域A2,A3よりも負荷Tが高い高負荷域には、全ての回転速度域にわたって第4運転領域A4が設定されている。
【0064】
エンジンの運転中においては、エンジンの運転点(負荷Tおよび回転速度Neの各値から特定される制御マップ上でのポイント)が前記図8中のどの運転領域(A1〜A4)に該当するかが都度判断され、各運転領域に応じた適切な制御が実行されるようになっている。
【0065】
前記図8の制御マップに基づく制御の中身について簡単に説明しておく。この制御マップのうち、最も高負荷側に設定された第4運転領域A4を除く部分負荷の領域、つまり第1運転領域A1、第2運転領域A2、および第3運転領域A3は、そのいずれもが、ピストン5の圧縮作用により混合気を自着火させるCI燃焼(圧縮自己着火燃焼)の実行領域(特定領域)として規定されている。ただし、各領域A1〜A3では、インジェクタ21からの燃料噴射の形態や、点火プラグ20を利用した着火アシストの有無、さらには内部EGRまたは外部EGRの有無等が異なる(その詳細については後述する)。ここでは、前記各領域A1〜A3で実行されるCI燃焼用の制御のことを、それぞれ「リーンHCCIモード」「多段CIモード」「SA−多段CIモード」と称する。
【0066】
一方、前記第1〜第3運転領域A1〜A3よりも高負荷側に設定された第4運転領域A4では、CI燃焼ではなく、点火プラグ20を用いた火花点火(Spark Ignition)をきっかけに混合気を火炎伝播により燃焼させる燃焼形態(以下、SI燃焼と略称する)が選択される。ただし、前記第4運転領域A4でのSI燃焼は、一般的なSI燃焼とは異なり、燃料の噴射時期および点火時期を遅めに設定しつつ混合気を急速な火炎伝播により燃焼させるものであり(その詳細については後述する)、このような燃焼を実現するための前記第4運転領域A4での制御のことを、ここでは「急速リタードSIモード」と称する。
【0067】
なお、これら第1〜第4運転領域A1〜A4からなる制御マップは、基本的に、エンジン水温センサSW1により検出された冷却水温が所定値(例えば80℃)以上となる温間状態のときのものである。エンジンが冷間状態にあるときの制御マップについては、ここでは説明を省略する。
【0068】
再び図7に戻って、前記インジェクタ制御手段52は、前記インジェクタ21から燃焼室6に噴射される燃料の噴射量や噴射時期を制御するものである。具体的に、このインジェクタ制御手段52は、負荷Tやエンジン回転数Ne等に基づいて、目標とする燃料の噴射量および噴射時期を演算し、その演算結果に基づいてインジェクタ21を駆動する。
【0069】
前記吸気制御手段53は、前記CVVL15を駆動して吸気弁11のリフト量(開弁量)を変更する。例えば、吸気制御手段53は、エンジンの負荷Tが高い場合には、燃焼室6に多量の空気(新気)を導入すべく、吸気弁11のリフト量を増大させる。一方、吸気制御手段53は、エンジンの負荷Tが低い場合には、吸気弁11のリフト量を低減する。
【0070】
前記内部EGR制御手段54は、前記VVL16を駆動して排気弁12の吸気行程中の開弁を実行または停止することにより、燃焼室6に残留する内部EGRガス量を調整する。なお、本実施形態において、VVL16付きの排気弁12が1気筒あたり2つ設けられているので、吸気行程中に開弁する排気弁12の数を0,1,2の間で切り替えることにより、内部EGRガス量を段階的に変化させることが可能である。
【0071】
前記外部EGR制御手段55は、前記EGR通路31に設けられたEGRバルブ32の開度を変更して、排気通路29から吸気通路28に還流する排気ガス量すなわち外部EGR量を調整する。
【0072】
前記点火制御手段56は、前記点火プラグ20が火花放電を行うタイミング(点火時期)等を制御する。
【0073】
(3)各運転領域の具体的制御手順
次に、前記ECU50が、各運転領域A1〜A4で、それぞれどのような制御を実施するのかを具体的に説明する。
【0074】
まず、ECU50は、エンジンの運転が開始されると、前記クランク角センサSW2およびアクセル開度センサSW4の各検出値に基づいて、エンジンの運転点(負荷Tおよび回転数Ne)が図8の制御マップにおけるどの運転領域に該当するかを逐次判定する。そして、判定された運転領域に応じて、それぞれ以下のような制御を実行する。
【0075】
なお、この説明の前提として、エンジンの冷却水温は充分に暖まっている(つまり温間時の運転である)ものとする。そして、本実施形態では、ECU50は、温間時において、エンジンの運転点が前記運転領域A1〜A4のいずれにあっても、圧縮自己着火燃焼が実現される制御を実施する。ただし、適切な圧縮自己着火燃焼を行わせるには、インジェクタ21からの燃料噴射時期や、内部EGRまたは外部EGRの有無や、点火プラグ20からの点火の有無等を、運転領域によって変化させる必要がある。そのため、ECU50は、前記インジェクタ21、点火プラグ20、CVVL15、VVL16、およびEGRバルブ32等を、エンジンの運転点を逐次判定しながら制御する。
【0076】
(i)第1運転領域A1
図9は、エンジンが第1運転領域A1で運転されている場合の燃料噴射時期と吸排気弁11,12のリフト特性、およびそれに基づく燃焼により生じる熱発生率(J/deg)を示す図である。本図に示すように、第1運転領域A1では、圧縮行程の前に噴射された燃料と空気との混合気をピストン5の圧縮作用によって自着火させる、一般的な予混合圧縮自己着火燃焼が実行される。具体的に、この第1運転領域A1では、吸気行程中の所定時期にインジェクタ21から燃焼室6に燃料が噴射(P)され、この燃料噴射Pにより噴射された燃料と、吸気通路28から燃焼室6に導入される空気(新気)との混合気が、ピストン5の圧縮作用により高温、高圧化し、圧縮上死点(圧縮行程と膨張行程の間のTDC)付近で自着火する。すると、このような自着火に基づき、波形Qaに示すような熱発生を伴う燃焼が生じることになる。
【0077】
ただし、第1運転領域A1は、負荷Tが比較的低く、インジェクタ21から噴射される燃料の量が少ないため、筒内温度を意図的に上昇させないと、失火が起きるおそれがある。そこで、前記第1運転領域A1では、VVL16を駆動して排気弁12を吸気行程中に開弁させることにより、燃焼室6で生成された排気ガスを燃焼室6に逆流させて、燃焼室6内の内部EGRを多量に確保する。すなわち、排気弁12は、排気行程に加えて(図9のリフトカーブEX)、吸気行程でも開弁する(リフトカーブEX’)。このように、高温の内部EGRガス量が多く確保されると、燃焼室6内の混合気の温度は高温となり、混合気の自着火が促進される。なお、内部EGRガス量は、低負荷側ほど多く、高負荷側ほど少なく設定される。そのための制御として、例えば、第1運転領域A1における低負荷域(無負荷に近い領域)では、吸気行程中に開弁する排気弁12の数が2つとされ、それよりも負荷が高くなると、開弁数が1つに減らされる。
【0078】
前記のように、第1運転領域A1では、排気弁12の再開弁(吸気行程中の開弁)に基づく内部EGRガス量が増大されるのに伴い、外部EGRガスの導入は停止される。すなわち、EGR通路31に設けられたEGRバルブ32の開度が全閉に設定されることにより、排気通路29から吸気通路28への排気ガスの還流が停止される。また、点火プラグ20による混合気への点火は停止される。
【0079】
この第1運転領域A1では、燃焼室6内の混合気の空燃比(実空燃比)を理論空燃比(14.7)で割った値である空気過剰率λが、λ=2以上程度という大幅にリーンな値に設定される。そのため、CVVL15の駆動により吸気弁11(リフトカーブIN)のリフト量を増減する制御が実行され、燃焼室6に導入される新気の量が、前記インジェクタ21からの燃料噴射量に対しかなり過剰になるように制御される。このように大幅にリーンに設定された混合気を燃焼させた場合、燃焼温度が大幅に低下するため、冷却損失を低減して熱効率(燃費)を向上させることができる。なお、λ=2以上までリーンになると、三元触媒によるNOxの浄化作用はほとんど期待できなくなるが、λ=2以上であれば、燃焼により生じるNOx量(生のNOx量)が大幅に少なくなるため、三元触媒以外に特別な触媒(例えばNOxトラップ触媒)を設けなくても、排気ガス中に含まれるNOxの量を十分に小さい値に抑制することができる。
【0080】
このように、第1運転領域A1では、λ=2以上という大幅なリーンでの圧縮自己着火燃焼が実施されるが、前述のように、本ガソリンエンジンでは圧縮比が高く設定されつつ、冷却損失が低減されるよう構成されているため、圧縮上死点付近において燃焼室6内の温度を確実に高めることができ適正な圧縮自己着火燃焼を実現することができるとともに、熱効率をより一層高めることができる。
【0081】
(ii)第2運転領域A2
前記第1運転領域A1よりも負荷Tが高く、かつ回転速度Neが比較的低い領域に設定された第2運転領域A2では、図10に示すような制御が実行される。すなわち、第2運転領域A2では、圧縮上死点を挟んだ2回(P1,P2)に分けてインジェクタ21から燃料を噴射させる分割噴射が実行される。以下では、圧縮行程中に実行される1回目の燃料噴射P1を前段噴射、それより後の圧縮上死点付近(図例では膨張行程のごく初期)に実行される2回目の燃料噴射P2を後段噴射と称する。また、点火プラグ20による混合気への点火は停止される。
【0082】
具体的に、当実施形態において、前記多段CIモードのときの前段噴射P1のタイミング(より正確には開始タイミング)は、圧縮上死点(圧縮行程と膨張行程の間のTDC)を基準として、その上死点前(BTDC)60〜50°CA(CAはクランク角を表す)程度の期間内に設定され、後段噴射P2のタイミング(開始タイミング)は、上死点後(ATDC)0〜10°CA程度の期間内に設定される。また、前段噴射P1および後段噴射P2による各噴射量の割合は、3:7〜7:3程度に設定される。
【0083】
前記前段噴射P1および後段噴射P2によるトータルの噴射量は、第2運転領域A2に対応する高い負荷に合わせて、第1運転領域A1のとき(燃料噴射Pによる噴射量)よりも増大される。また、このように増大設定される燃料噴射量に応じた多量の新気を燃焼室6に導入すべく、CVVL15が駆動されて吸気弁11のリフト量が増大される(リフトカーブIN)。そして、前記のように分割噴射された燃料と空気(新気)との混合気が圧縮上死点付近で自着火することにより、図10の波形Qbに示すように、時期の異なる2つのピークを有するような熱発生を伴う燃焼が生じる。なお、このような波形Qbの形状はあくまで概念的なものであり、実際には2つのピークが明確に現れない場合も当然にあり得る。
【0084】
前記のように前段噴射P1および後段噴射P2に分けて燃料を噴射するようにしたのは、燃焼騒音等の問題を考慮してのものである。すなわち、燃料噴射量の多い前記第2運転領域A2では、燃料を1回で噴射してしまうと、噴射された多量の燃料が短時間で全て燃焼する急激な燃焼が起きることにより、筒内圧力が急上昇し、燃焼騒音が著しく増大する等の事態を招くおそれがある。そこで、前記のように燃料を分割噴射することにより、比較的マイルドな燃焼が継続的に起きるようにして、前記のような燃焼騒音の増大等を回避するようにしている。
【0085】
ただし、たとえ燃料噴射を複数回に分割しても、インジェクタ21の配置やピストン5の形状によっては、各回に噴射された燃料どうしが混じり合い、その混じり合った燃料がほとんど同時に燃焼することがある。このように、噴射タイミングが異なる燃料どうしが混じり合った状態で燃焼が起きると、燃焼騒音が過大になるばかりでなく、燃焼時に必要な酸素が局所的に著しく不足し、多量のスート(炭素質粒子)が発生するおそれがある。
【0086】
このような問題に対し、当実施形態では、インジェクタ21が燃焼室6天井の径方向中央部分に配置されるとともに、ピストン5の冠面の径方向中央にキャビティ40が形成されているため、分割噴射された燃料が同時に燃焼してしまうことがなく、前記のような燃焼騒音の増大やスートの大量発生を回避することが可能である(その詳細なメカニズムについては後述する)。また、燃焼室6のうち前記キャビティ40よりも径方向外側部分すなわち燃焼室6の外周部分6bの容積が所定量確保されているため、この外周部分6bにおいて、前段噴射P1により形成された混合気を確実に燃焼させることができる。
【0087】
また、前記第2運転領域A2では、前記のような燃料の分割噴射制御に加えて、吸気行程中に排気弁12を押し下げる機能を無効にするようにVVL16が駆動され、排気弁12の吸気行程中の開弁が停止される。これにより、排気ガスが燃焼室6に逆流することがほとんどなくなり、内部EGRが禁止される。
【0088】
一方、第2運転領域A2では、前記のように禁止された内部EGRに代わり、外部EGRが実行される。すなわち、EGR通路31に設けられたEGRバルブ32が所定開度まで開かれることにより、排気通路29から吸気通路28へ排気ガスを還流させる操作が実行される。
【0089】
このように、内部EGRから外部EGRへと切り替えるのは、燃焼室6内の新気の量を確保するため、および、異常燃焼を回避するためである。すなわち、第2運転領域A2は、第1運転領域A1よりもエンジン負荷Tが高く、より多くの新気量が必要になるとともに、噴射されるトータルの燃料が多いことに伴ってプリイグニッションやノッキング等の異常燃焼が起きるおそれがある。そこで、内部EGRから外部EGRに切り替えて、EGRクーラ33付きのEGR通路31を通過した(つまりEGRクーラ33により冷却された)排気ガスを吸気通路28に還流させることにより、EGRガスの体積を減少させて燃焼室6内の新気の量を確保するとともに、燃焼室6の高温化を防ぎ、前記のような異常燃焼を回避するようにしている。ただし、第2運転領域A2であっても、エンジンの全負荷近傍では、多量の新気を確保するために、外部EGRは停止される。
【0090】
ここで、以上のような制御に基づき実現される第2運転領域A2での燃焼形態について、図13(a)〜(f)を参照しつつより具体的に説明する。図13(a)は、インジェクタ21から前段噴射P1が行われたときの状態を示している。このときのピストン5は、上述したように、圧縮上死点前(BTDC)50〜60°CA程度に位置している。このような位置にあるピストン5の冠面に向けて、前記インジェクタ21の先端部I1に備わる複数(12個)の噴口から放射状に燃料が噴射されると、その燃料の噴霧は、燃焼室6の外周部分6bに向かうことになる。
【0091】
前記燃焼室6の外周部分6bに向けて噴射された燃料(噴霧)は、その後分散し、その分散した燃料に基づき、図13(b)に示すように、主に燃焼室6の外周部分6bに混合気X1が形成される。ここで形成される混合気X1の空燃比は、燃焼室6の外周部分6bだけの局所的な空燃比として、理論空燃比(空気過剰率λ=1)程度に設定される。すなわち、理論空燃比程度の濃さの混合気X1が燃焼室6の外周部に局所的に形成されるように、前記前段噴射P1の噴射時期および噴射量が設定されている。
【0092】
もちろん、前記前段噴射P1によって、燃焼室6の外周部以外(例えばキャビティ40の内部)にも微量の燃料が存在し得るが、その燃料の濃度は、前記燃焼室6の外周部分6bに比べれば極めて薄いものである。言い換えれば、前段噴射P1が実行された時点で、燃焼室6の外周部分6bには、キャビティ40の内部より極めてリッチな混合気X1が形成されていることになる。
【0093】
前記のように燃焼室6の外周部分6bに形成された混合気X1は、ピストン5の上昇により圧縮されて高温・高圧化し、圧縮上死点付近までピストン5が達したところで、図13(c)に示すように自着火により燃焼する(圧縮自己着火)。なお、同図では、混合気X1が燃焼している領域を黒またはグレーに着色して示している。この混合気X1が燃焼する領域Y2は、前記混合気X1が形成された領域に対応して、燃焼室6の外周部分6bに限られる。
【0094】
前記のような前段噴射P1に基づく燃焼が始まると、それとほぼ同時、もしくはわずかな期間をあけて、図13(d)に示すような後段噴射P2が実行される。この後段噴射P2のタイミングは、上述したように、ピストン5が降下を始めて間もない上死点後(ATDC)0〜10°CA程度である。このようにピストン5が上死点に近いタイミングでインジェクタ21から燃料が噴射されると、その燃料の噴霧は、ピストン5の冠面の径方向中央部分に設けられたキャビティ40の内部へと向かうことになる。すると、このキャビティ40の内部に向けて噴射された燃料(噴霧)は、キャビティ40の周壁に沿って上方にガイドされながら分散し、その分散した燃料に基づき、図13(e)に示すように、燃焼室6の径方向中央部分6a(主にキャビティ40の内部)に混合気X2が形成される。この混合気X2の局所的な空燃比も、上述した前段噴射P1に基づく混合気X1と同様、理論空燃比(空気過剰率λ=1)程度に設定される。言い換えれば、前記後段噴射P2により、燃焼室6の径方向中央部分6aには、前段噴射P1の実行時よりもリッチな混合気X2が形成されていることになる。
【0095】
前記のような後段噴射P2に基づく混合気X2は、ピストン5が圧縮上死点に近く、しかも前段噴射P1に基づく混合気X1の燃焼が既に起きている状態で形成されるものである。このため、前記混合気X2は、図13(f)に示すように、後段噴射P2の後、ごく短時間で自着火に至り、燃焼する。この混合気X2が燃焼する領域Y2は、前記混合気X2が形成された領域に対応して、燃焼室6の径方向中央部分6aに限られる。すなわち、上述した前段噴射P1に基づく混合気X1が、燃焼室6の外周部分6b(燃料領域Y1)で燃焼するのに対し、後段噴射P2に基づく混合気X2は、キャビティ40の設置部に対応する燃焼室6の径方向中央部分6a(燃焼領域Y2)で燃焼することになる。
【0096】
以上のように、第2運転領域A2では、負荷Tに応じた比較的多量の燃料を複数回(前段噴射P1および後段噴射P2)に分けて噴射することで、別々の空間に混合気(X1,X2)を形成し、それらを独立して自着火、燃焼させるようにしている。このような制御が行われる前記第2運転領域A2では、分割噴射された燃料が混じり合って同時に燃焼してしまうことがないため、筒内圧力の急上昇による燃焼騒音の増大や、局所的な酸素不足によるスートの大量発生が起きる心配がない。しかも、前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気X1,X2は、それぞれ局所的にλ=1程度の空気過剰率に設定されるので、そのような環境下の燃焼により生成された排気ガスであれば、三元触媒のみによって十分に有害成分の浄化が可能である。
【0097】
特に、キャビティ40を含む燃焼室6の中央部分6aと、燃焼室6の外周部分6bにそれぞれ容積が確保されつつ、燃焼室6のSV比が小さく抑えられて冷却損失が低減されており、燃焼室6内の温度を混合気が自着火可能な温度にまでより確実に高めて各噴射P1、P2で形成される混合気をより確実に自着火させることができる。
【0098】
(iii)第3運転領域A3
前記第1運転領域A1よりも負荷Tが高く、かつ前記第2運転領域A2よりも回転速度Neが高い第3運転領域A3では、図10に示すような制御が実行される。すなわち、第3運転領域A3では、前記第2運転領域A2のときと同様、インジェクタ21からの燃料が複数回に分けて噴射されるが、前記第2運転領域A2のときとは異なり、前段噴射P1および後段噴射P2との間に、自着火を促進するための着火アシストが実行される。なお、図5の制御マップでは、このような分割噴射および着火アシスト(Spark Asist)に基づく圧縮自己着火燃焼が実行されることを指して、第3運転領域A3内に「SA+多段CI」と表記している。
【0099】
具体的に、前記着火アシストとしては、圧縮行程中に実行される前段噴射P1と、圧縮上死点付近に実行される後段噴射P2との間の所定時期に、これら前段および後段噴射P1,P2の各噴射量よりも少量の燃料がインジェクタ21から噴射されるとともに(Pa)、その噴射Paの直後でかつ後段噴射P2よりも前の圧縮行程後期に、点火プラグ20による火花点火Sが実行される。すると、このような着火アシストにより図10の波形Qc’のような少量の熱発生を伴う燃焼が生じるとともに、当該燃焼により燃焼室6が高温化するのをきっかけにして、続く波形Qcに示すように、前記前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気が自着火により燃焼する。なお、以下では、着火アシストのために実行される少量の燃料噴射Pa(着火アシスト用の燃料噴射)のことをアシスト用噴射Pa、着火アシストのために実行される火花点火S(着火アシスト用の火花点火)のことをアシスト用点火Sと称する。
【0100】
前記アシスト用点火Sは、インジェクタ21の先端部(噴口)からアシスト用噴射Paとして噴射された燃料(噴霧)の先端が、インジェクタ格納部62の下端の開口縁62bを通過した直後のタイミングで実行される。
【0101】
なお、第3運転領域A3では、前記のような着火アシストに関する制御を除けば、第2運転領域A2のときとほぼ同様の制御が実行される。例えば、第3運転領域A3では、排気弁12を吸気行程中に開弁させる(排気ガスを燃焼室6に逆流させる)内部EGRが禁止されるとともに、EGR通路31を通じて排気ガスを吸気通路28に還流させる外部EGRが実行される。ただし、エンジンの全負荷近傍では、多量の新気を確保するために、外部EGRは禁止される。
【0102】
図14(a)〜(h)は、以上のような着火アシストに基づく圧縮自己着火燃焼が行われる第3運転領域A3での燃焼の様子を模式的に示す図である。図14(a)に示すように、第3運転領域A3では、上述した第2運転領域A2での前段噴射P1(図14(a))のタイミング(BTDC50〜60°CA程度)とほぼ同じタイミングで前段噴射P1が実行され、この前段噴射P1により、燃焼室6の外周部に、理論空燃比(λ=1)程度の空燃比をもった混合気X1が形成される。ただし、前記前段噴射P1のタイミングは、厳密には、前記第2運転領域A2での前段噴射P1のタイミングよりもわずかに早い時期に設定される。これは、第3運転領域A3では、第2運転領域A2のときよりもエンジン回転速度Neが高く、ピストンスピードが速いからである。つまり、ピストンスピードが速いと、インジェクタ21からの噴射燃料がピストン5の冠面付近に達するまでの間にピストン5が比較的大きく移動するため、ピストン5上の同様の位置に燃料(噴霧)を届かせようとすれば、インジェクタ21からの噴射タイミングをわずかにでも早める必要がある。このことは、後述する後段噴射P2の場合でも同様である。
【0103】
前記前段噴射P1の後は、図14(c)に示す着火アシストが実行される。すなわち、前記前段噴射P1の後、ピストン5がある程度上昇した時点(例えばBTDC30〜10°CA程度)で、着火アシスト用の燃料噴射であるアシスト用噴射Paが実行されるとともに、その直後に、アシストの火花点火であるアシスト用点火Sが実行される。すると、前記アシスト用噴射Paにより噴射された燃料に基づいて、点火プラグ20の電極周りに十分に霧化された燃料を含む混合気が形成されるとともに、その混合気が前記アシスト用点火Sを火種として火炎を形成することにより、図14(d)に示すように、点火プラグ20の電極周りに混合気の燃焼領域Yaが局所的に形成される。
【0104】
前記のようにして着火アシストによる火炎(燃焼領域Ya)が生じると、その火炎による燃焼室6の高温化と、ピストン5の上昇による圧縮作用とが相俟って、燃焼室6の外周部に形成されていた前記前段噴射P1に基づく混合気X1が、図14(e)に示すように、圧縮上死点付近で自着火により燃焼する。この混合気X1の燃焼領域Y1は、燃焼室6の外周部分6bに限られ、点火プラグ20の電極からは径方向外側に離間した領域となる。
【0105】
前記のような前段噴射P1に基づく燃焼が始まると、それ以降は、前記第2運転領域A2のときと同様にして燃焼が進行していく。すなわち、前記前段噴射P1に基づく燃焼の開始とほぼ同時、もしくはわずかな期間をあけて、図14(f)に示すような後段噴射P2が実行され、その後段噴射P2に基づき、燃焼室6の径方向中央部分6a(主にキャビティ40の内部)に、理論空燃比(λ=1)程度の空燃比をもった混合気X2が形成される。すると、この混合気X2は、ごく短い時間で自着火に至り、燃焼室6の径方向中央部分6aに、前記混合気X2の燃料領域Y2を形成する。
【0106】
以上のように、第3運転領域A3では、前段噴射P1および後段噴射P2の間に、点火プラグ20を用いて着火アシストを実行し、その着火アシストにより燃焼室6を高温化することにより、前記着火アシストに引き続いて前記前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気X1,X2をそれぞれ自着火により燃焼させるようにした。このように、着火アシストにより混合気の自着火を促進するようにした第3運転領域A3では、上述した第2運転領域A2のときよりもエンジン回転速度Neが高く、燃料の受熱期間が短くなる状況であるにもかかわらず、混合気が確実に自着火により燃焼し、失火が起きることが回避される。しかも、前記第2運転領域A2のときと同様、前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気X1,X2が別々の空間で独立して自着火、燃焼するため、燃焼騒音の増大やスートの発生についても回避される。特に、前記第2運転領域A2のときと同様、本ガソリンエンジンでは、キャビティ40を含む燃焼室6の中央部分6aと、その径方向外側の燃焼室6の外周部分6bにそれぞれ容積が確保されつつ、燃焼室6のSV比が小さく抑えられて冷却損失が低減されているため、各噴射P1、P2で形成される混合気を燃焼室6の中央部分6aと外周部分6bとにおいてより確実に、また、効率よく燃焼させることができる。
【0107】
なお、図15は、前記第3運転領域A3で、着火アシストに基づく混合気の燃焼領域Yaと、前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気の燃焼領域Y1,Y2との位置関係を模式的に示すための平面図である。上述した第3運転領域A3での燃焼形態によれば、図12のように、まず着火アシストに基づく燃焼領域Yaが点火プラグ20の周辺に限って形成され、これとほぼ重ならない燃焼室6の外周部に、前段噴射P1に基づく燃焼領域Y1が形成され、さらに、後段噴射P2に基づく燃焼領域Y2が、前記燃焼領域Y1よりも径方向内側に形成される。これら各燃焼領域は、Ya→Y1→Y2の順に形成され、その発生位置または発生時期は、ほとんど重なり合うことがない。
【0108】
(iV)第4運転領域A4
高負荷域に設定された前記第4運転領域A4では、多量の燃料が噴射されるため、圧縮自己着火燃焼を行わせようとすると、燃焼騒音が著しく増大する、また、ノッキングが生じるという問題がある。そこで、この第4運転領域A4では、圧縮自己着火燃焼に代わり、混合気に点火して火炎伝播させる火花点火燃焼(SI燃焼)を実施する。
【0109】
ここで、SI燃焼においても、燃焼室6内の温度が過度に高い場合には、ノッキングが生じる。特に、本ガソリンエンジンでは圧縮比が非常に高い値に設定されている。そのため、燃焼室6内の温度は高くなりやすい。
【0110】
そこで、本ガソリンエンジンでは、この第4運転領域A4において、ノッキング等の異常燃焼をより確実に回避するべく、圧縮上死点よりもかなり前(例えば吸気行程中)に燃料を噴射して圧縮上死点付近で火花点火を行わせる通常のSI燃焼ではなく、図11に示すように、圧縮行程中にインジェクタ21から燃料を噴射させ(P3,P4)、この燃料噴射P3,P4の後に点火プラグ20に火花点火を行わせて、圧縮上死点を過ぎたタイミング(膨張行程の初期)から短時間で火炎伝播により混合気を燃焼させる急速リタードSI燃焼モードを実行する。図11は、前記急速リタードSI燃焼モードが実行された際の、燃料噴射時期と吸排気弁11,12のリフト特性、およびそれに基づく燃焼により生じる熱発生率(J/deg)を示す図である。
【0111】
具体的には、この図11に示すように、この急速リタードSI燃焼モードでは、圧縮行程の後期に設定された2回の噴射時期(P3,P4)に分けてインジェクタ21から、30MPa以上の高圧で燃料が噴射される。各燃料噴射P3,P4のタイミングとしては、例えば、1回目の噴射P1の開始時期から、2回目の噴射P2の完了時期までの期間が、概ね圧縮上死点前(BTDC)20〜0°CA程度の期間内に収まるように設定される。
【0112】
このような噴射制御が実施されるこの急速リタードSI燃焼モードでは、前記のように30MPa以上(例えば40MPa)という非常に高い噴射圧力で燃料が噴射されることで、噴射期間を短くすることができるとともに燃料噴霧を微粒化することができ、短時間で多量の燃料を十分に気化霧化させて比較的均質な(もしくは弱成層化した)混合気を形成することができる。また、噴射圧力が高いために、燃焼室6が最も高温・高圧化する圧縮上死点をある程度過ぎるまで大きな乱流エネルギーを維持することができる。従って、燃料が噴射されてから短時間であって、燃料噴射に伴う乱流エネルギーの減衰が小さい間に(乱流エネルギーが大きい状態で)火花点火による燃焼を開始させることができ、この比較的大きな乱流エネルギーによって燃焼期間を短くすることができる。そして、この燃焼期間の短縮化に伴って、燃焼が引き起こされる前に適正な火炎伝播によって混合気を燃焼し切ることができる。すなわち、ノッキング等の異常燃焼を回避しつつ、熱効率およびエンジントルクを高く維持することができる。また、燃焼温度が過度に上昇せず、燃料の気化霧化が不十分なまま燃焼が開始されることもないため、NOxやスートの増大が回避され、エミッション性についても良好に維持される。
【0113】
特に、本ガソリンエンジンでは、キャビティ40と、その径方向外側部分にそれぞれ容積が確保されつつ、燃焼室6のSV比が小さく抑えられて冷却損失が低減されているため、径方向外側部分においても燃焼を急速に完了させることができ、高いエンジントルクを確保することができる。
【0114】
また、燃料が2回に分けて噴射されて2回目の燃料噴射の後に点火が行われており、1回目の燃料噴射P3によって燃料を霧化させつつ、2回目の燃料噴射により点火時点での乱流エネルギーを大きくすることができる。また、12個という多数の噴口から噴射されることによっても乱流エネルギーは増大される。
【0115】
ここで、点火時期を図11の例よりもさらに進角させれば、これに伴って燃焼開始時期θigが圧縮上死点により近づくため、熱効率および出力トルクのさらなる向上が期待できるが、点火時期を早めるとノッキングが起き易くなるため、点火時期は、ノッキングを起こさないという制約の下、できるだけ進角側に設定される。このような事情から、点火時期は、例えば圧縮上死点後(ATDC)0〜20°CA程度の範囲内に設定される。
【0116】
なお、前記急速リタードSI燃焼モードでは、前記燃料噴射P1,P2によるトータルの噴射量に対して燃焼室6全体の平均の空燃比が理論空燃比(空気過剰率λ=1)となるように新気量が制御される。具体的には、この第2運転領域A2では、負荷Tの増大に応じてCVVL15が駆動され、吸気弁11のリフト量が増大され、これに伴って燃料噴射量に応じた新気が導入される(図11のリフトカーブIN)。なお、本実施形態では、吸気弁11のリフトピーク位置を固定したままリフト量が増大される。
【0117】
また、前記急速リタードSI燃焼モードのときは、EGR通路31を通じて排気ガスを吸気通路28に還流させる外部EGRが実行される。なお、エンジンの全負荷近傍では、より多量の新気を確保するために、外部EGRは禁止される。
【0118】
(5)作用効果等
以上説明したように、当実施形態のガソリンエンジンでは、燃焼室天井面60が円錐面状とされ、ピストン5の冠面の径方向中央にキャビティ40が形成され、かつ、ピストン5の冠面のうちキャビティ40よりも径方向外側部分が、前記燃焼室天井面60と平行な円錐面状の基準面41とされて、吸気側開口部61および排気側開口部62の開口面積および燃焼室6の径方向中央部分6aおよび径方向外側部分6bの容積が確保されつつ、燃焼室6のSV比が小さく抑えられて冷却損失が低減されているため、燃焼室6の径方向中央部分6aおよび径方向外側部分6bにおいて効率のよい燃焼を実現することができ、熱効率をより一層高めることができる。
【0119】
特に、前記第2運転領域A2および第3運転領域A3では、キャビティ40を含む燃焼室6aの中央部分6aと、その径方向外側の外周部分6bとにそれぞれ個別に燃料が噴射されて、これら各部位で個別に燃焼が実施されており、これら各部位の燃焼室6の天井面60とピストン5の冠面との間のすきま寸法dおよび容積V1,V2が確保されることで、各部位での適正な燃焼を実現することができ、エンジントルクを確保しつつ燃焼騒音およびSOOTの発生を抑制することができる。
【0120】
また、各弁11,12のバルブ面11c,12cが燃焼室天井面60の接面に沿って延び、かつ、各弁11,12バルブのステム11b,11cが燃焼室天井面60の頂部を中心とする円の径方向に放射状に延びて各弁11に対して垂直に延びており、各弁11,12を安定して駆動しつつ、バルブ面11c,12cを含む燃焼室6の天井面60の凹凸が小さく抑えられているため、この凹凸が大きい場合に比べて燃焼室6内で燃焼を適正に広げることができるとともに燃焼室6の表面積をより確実に小さくして高い熱効率を得ることができる。また、点火プラグ20が排気弁12間に配置され、吸気弁11の面積がより大きく確保されており、吸気量ひいてはエンジントルクを高くすることができる。
【0121】
ここで、本発明は、幾何学的圧縮比が14以上であって、所定の運転領域で圧縮自着火燃焼を実施するエンジンに広く適用可能であって、各運転領域の具体的な燃焼形態は前記に限らない。例えば、第2運転領域、第3運転領域、第4運転領域の全てにおいて、吸気行程で1回燃料を噴射するとともに圧縮上死点付近で火花点火を行う、通常の火花点火式の燃焼を行ってもよい。
【0122】
また、インジェクタ21の噴口の数は12個に限られず、12個より多くても少なくてもよい。ただし、噴口の数があまりに少ないと、インジェクタ21から噴射された燃料の濃度が周方向に大きくばらつくことになる。このため、噴口の数は8個以上とすることが望ましい。
【符号の説明】
【0123】
5 ピストン
6 燃焼室
21 インジェクタ
40 キャビティ
41 基準面
50 ECU(制御手段)
A1 第1運転領域(特定運転領域)
A2 第3運転領域(特定運転領域)
A3 第3運転領域(特定運転領域)
【技術分野】
【0001】
本発明は、気筒に形成された燃料室内に少なくとも一部がガソリンからなる燃料を供給可能なインジェクタを備え、特定運転領域において前記燃焼室内で前記燃料と空気との混合気を自着火により燃焼させることでピストンを往復運動させるガソリンエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガソリンエンジンの分野では、点火プラグの火花点火により強制的に混合気を着火させる燃焼形態(火花点火燃焼)が一般的であったが、近年、このような火花点火燃焼に代えて、いわゆる圧縮自己着火燃焼をガソリンエンジンに適用する研究が進められている。圧縮自己着火燃焼とは、燃焼室(気筒内)に生成された混合気をピストンで圧縮し、高温・高圧の環境下で、火花点火によらず混合気を自着火させるというものである。圧縮自己着火燃焼は、燃焼室の各所で同時多発的に自着火する燃焼であり、火花点火による燃焼に比べて、高い熱効率が得られると言われている。
【0003】
前記圧縮自己着火燃焼が適用されたガソリンエンジンの具体例として、例えば下記特許文献1に開示されたものが知られており、この特許文献1には、気筒の幾何学的圧縮比を14以上として混合気を自着火可能な温度にまで高めることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−154859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃費性能の観点等から熱効率の向上要求は依然として高く、圧縮自己着火燃焼の確実な実現等によって熱効率をより一層高めることが求められている。
【0006】
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、熱効率をより高めることができるガソリンエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、気筒に形成された燃料室内に少なくとも一部がガソリンからなる燃料を供給可能なインジェクタを備え、エンジンの特定運転領域において前記燃焼室内で前記燃料と空気との混合気を自着火により燃焼させることでピストンを往復運動させるガソリンエンジンであって、前記気筒の幾何学的圧縮比は14以上に設定されており、前記燃焼室の天井面は、その径方向中央を頂部として径方向外側に向かうに従ってその高さが低くなるように傾斜した円錐面形状を有し、前記ピストンの冠面は、その中央部分に、所定の曲率をもって凹状に湾曲するキャビティを有するとともに、当該キャビティの開口縁よりも径方向外側に向かうに従って高さが低くなるように傾斜して前記燃焼室の天井面と平行に延びる基準面を有し、前記インジェクタは、前記ピストンの冠面側に向けて燃料を噴射可能な噴口が形成された先端部を有するとともに、当該先端部が前記燃焼室の天井面の頂部近傍に位置するように設けられていることを特徴とするガソリンエンジンを提供する(請求項1)。
【0008】
本発明によれば、気筒を高圧縮比にするとともに混合気から燃焼室の壁面に放熱される放熱量すなわち冷却損失を小さく抑えることができ、より確実に燃焼室内の温度を混合気の自着火が可能な温度にまで高めることができるとともに、前記冷却損失の低減に伴って熱効率をより一層高めることができる。すなわち、高圧縮比に伴って圧縮上死点における燃焼室の容積は小さくなるが、本発明では、ピストンの冠面の径方向中央にキャビティが形成されているので、混合気が燃焼する領域における燃焼室天井面とピストン冠面との間のすきま寸法を確保して混合気の多くをこのキャビティ内で燃焼室の壁面から離間した状態で燃焼させることができ、燃焼室の壁面への放熱をより小さく抑えることができる。また、燃料の燃焼室壁面への付着を抑制して効率よく混合気を燃焼させることができる。
【0009】
しかも、燃焼室の天井面が円錐面状とされており、この天井面に設けられる吸気弁および排気弁の弁面積ひいては吸気量および排気量を確保することができるとともに、ピストンの冠面のキャビティよりも径方向外側の部分(以下、ピストン冠面の外周部分という場合がある)がこの円錐面状の燃焼室の天井面と平行に構成されているので、燃焼室のうち前記キャビティよりも径方向外側部分(以下、燃焼室の外周部分という場合がある)の容積および燃焼室天井面とピストン冠面との間のすきま寸法を確保してこの外側部分における混合気の適正な燃焼を実現しつつ、圧縮上死点における燃焼室容積V_TDCに対する燃焼室表面積Sの割合であるS/V_TDC(SV比)を小さくして、燃焼室壁面への放熱量を小さく抑えることができる。具体的には、燃焼室径および圧縮比が一定の条件下で、燃焼室の外周部分の容積およびすきま寸法をそれぞれ燃焼に必要な所定量に設定した場合、燃焼室の天井面およびピストン冠面の外周部分を円錐面状とした方が、これらを球面状とする場合に比べて、ピストン冠面の外周部分の長さを長くすることができ、これに伴ってキャビティの径方向の長さを短くすることができるため、キャビティの容積が一定の条件下において、キャビティの曲率をより大きくして前記SV比を小さくすることができる。
【0010】
本発明において、前記インジェクタは、前記特定運転領域の少なくとも一部の運転領域において、圧縮上死点よりも前であって噴射した燃料が前記燃焼室のうち前記キャビティよりも径方向外側の部分に到達するタイミングで燃料を噴射する前段噴射と、前記前段噴射よりも後であって噴射した燃料が前記キャビティ内に到達するタイミングで燃料を噴射する後段噴射とを含む複数回に分けて燃料を噴射するのが好ましい(請求項2)。
【0011】
このようにすれば、キャビティの内と外とに分けて混合気が形成されるため、これら混合気が混じり合って同時に燃焼することが回避され、これら混合気が同時に燃焼することに伴う筒内圧力の急上昇による燃焼騒音の増大や、局所的な酸素不足によるスートの大量発生を効果的に防止することができる。
【0012】
また、本発明において、前記燃焼室の天井面に形成された複数の吸気側開口部を介して前記燃焼室と連通する吸気ポートと、前記複数の吸気側開口部をそれぞれ開閉可能な弁体と当該弁体から延びてこの弁体をそれぞれ前記吸気側開口部の開閉方向に移動させるステムとを備えた複数の吸気弁と、前記燃焼室の天井面に形成された複数の排気側開口部を介して前記燃焼室と連通する排気ポートと、前記複数の排気側開口部をそれぞれ開閉可能な弁体と当該弁体から延びてこの弁体をそれぞれ前記排気側開口部の開閉方向に移動させるステムとを備えた複数の排気弁とを備え、前記複数の吸気弁と複数の排気弁の少なくとも一方は、その各弁体の前記燃焼室側の面が前記円錐面状の燃焼室の天井面との接面と平行に延び、かつ、その各ステムが、燃焼室の天井面の頂部からピストン冠面を見た平面視で、前記燃焼室の天井面の頂部を中心とする円の径方向に延びるように、配設されているのが好ましい(請求項3)。
【0013】
このようにすれば、前記吸気弁あるいは排気弁が閉弁した状態において、燃焼室の天井面をより平滑にして燃焼室天井面の表面積をより小さくすることができる。
【0014】
前記構成において、前記燃焼室内の混合気に点火可能な点火プラグを備え、
前記複数の排気弁は、互いに隣接するとともに、その各弁体の前記燃焼室側の面が前記円錐面状の燃焼室の天井面との接面と平行に延び、かつ、その各ステムが、平面視で、前記燃焼室の天井面の頂部を中心とする円の径方向に延びるように、配設されており、前記点火プラグは、前記排気弁の間に配置されているのが好ましい(請求項4)。
【0015】
この構成によれば、排気弁間に点火プラグを配置しつつ、排気弁の弁体が燃焼室の天井面の接面と平行に延びていることによって当該弁体の面積ひいては排気側開口部の開口面積を確保することができる。
【0016】
また、前記複数の吸気弁は、その各弁体が前記円錐面状の燃焼室の天井面との接面と平行に延び、かつ、その各ステムが、燃焼室の天井面の頂部からピストン冠面を見た平面視で、前記燃焼室の天井面の頂部を中心とする円の径方向に延びるように、配設されており、前記吸気側開口部の開口面積は、前記排気側開口部の開口面積よりも大きく設定されているのが好ましい(請求項5)。
【0017】
このようにすれば、吸気弁の弁体の面積ひいては排気側開口部の開口面積を大きくして、燃焼室内に流入する吸気量ひいてはエンジントルクを確保することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、熱効率をより高めることのできるガソリンエンジンを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るガソリンエンジンの全体構成を示す図である。
【図2】図1に示す燃焼室周辺を拡大して示す概略断面図である。
【図3】図2に示す燃焼室周辺の概略平面図である。
【図4】図2に示す燃焼室を模式的に示した図である。
【図5】本発明の比較例の燃焼室を模式的に示した図である。
【図6】(a)〜(e)本発明と比較例のSVを比較したグラフである。
【図7】前記エンジンの制御系を示すブロック図である。
【図8】エンジンの運転状態に応じた燃焼形態を選択するための制御マップの一例を示す図である。
【図9】図5の第1運転領域(A1)における制御内容を説明するためのタイムチャートである。
【図10】図5の第2運転領域(A2)における制御内容を説明するためのタイムチャートである。
【図11】図5の第3運転領域(A3)における制御内容を説明するためのタイムチャートである。
【図12】図5の第4運転領域(A4)における制御内容を説明するためのタイムチャートである。
【図13】(a)〜(f)は、前記第2運転領域(A2)で行われる燃料噴射とそれに基づく混合気の燃焼を模式的に説明するための図である。
【図14】(a)〜(f)は、前記第3運転領域(A3)で行われる燃料噴射とそれに基づく混合気の燃焼を模式的に説明するための図である。
【図15】前記第3運転領域(A3)で行われる複数段の燃料噴射がそれぞれどのような領域で燃焼するかを模式的に説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかるエンジンの全体構成を示す図である。本図に示されるエンジンは、走行駆動用の動力源として車両に搭載される往復ピストン型の多気筒ガソリンエンジンである。このエンジンのエンジン本体1は、紙面に直交する方向に並ぶ複数の気筒2(図中ではそのうちの1つのみを示す)を有するシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、各気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。エンジン本体1に供給される燃料は、ガソリンを主成分とするものである。なお、この燃料はガソリンが主成分であればよく、その中身は、全てガソリンであってもよいし、ガソリンにエタノール(エチルアルコール)等を含有させたものでもよい。以下、適宜、前記ピストン5の軸方向であってその摺動方向を上下方向といい、シリンダヘッド4側を上側、シリンダブロック3側を下側という。
【0021】
前記エンジン本体1すなわち気筒2の幾何学的圧縮比は、理論熱効率の向上や、後述するCI燃焼(圧縮自己着火燃焼)の安定化等を目的として、14以上という高い値に設定されている。なお、この幾何学的圧縮比は、実用上の観点等から20程度が限界であると考えられる。そのため、前記幾何学的圧縮比は、14以上20以下の範囲の適宜の値に設定される。
【0022】
前記ピストン5は、コネクティングロッド8を介してクランク軸7と連結されている。前記ピストン5の往復運動に応じて、前記クランク軸7はその中心軸回りに回転する。前記ピストン5の上方には燃焼室6が形成されている。
【0023】
前記シリンダヘッド4には、先端部から燃焼室6内に燃料(ガソリンを主成分とする燃料)を噴射するインジェクタ21が、各気筒2につき1つずつ取り付けられている。このインジェクタ21は、いわゆる多噴口型のインジェクタである。本実施形態では、前記インジェクタ21は、その先端部I1に12個の噴口を有している。
【0024】
前記インジェクタ21には燃料供給管23が接続されており、インジェクタ21は、この燃料供給管23を通じて供給された燃料を噴射する。前記燃料供給管23の上流側には、クランク軸7と連動連結されたプランジャー式のポンプ等からなる高圧燃料ポンプが接続されているとともに、この高圧燃料ポンプと前記燃料供給管23との間には、全気筒に共通の蓄圧用のコモンレールが設けられている。そして、このコモンレール内で蓄圧された燃料が各気筒2のインジェクタ21に供給されることにより、各インジェクタ21からは、30MPa以上の高い圧力の燃料が噴射される。なお、燃料噴射圧力の上限値は、実用上の観点等から120MPa程度であると考えられるため、前記インジェクタ21からの噴射圧力は、30MPa以上120MPa以下の範囲の適宜の値に設定されている。
【0025】
前記シリンダヘッド4には、燃焼室6内の混合気に点火エネルギーを供給する点火プラグ20が各気筒2につき1つずつ取り付けられている。この点火プラグ20は、その点火点が燃焼室6内に臨む姿勢でシリンダヘッド4に取り付けられている。この点火プラグ20は、図外の点火回路からの給電に応じてその先端から火花を放電して燃焼室6内の混合気に点火する。
【0026】
前記シリンダヘッド4には、燃焼室6と連通する吸気ポート9および排気ポート10が形成されている。すなわち、燃焼室6には、前記吸気ポート9と連通する吸気側開口部61と排気ポート10と開口する排気側開口部62とが形成されている。前記シリンダヘッド4には、各開口部61,62を開閉する吸気弁11および排気弁12がそれぞれ設けられている。なお、図例のエンジンはいわゆるダブルオーバーヘッドカムシャフト式(DOHC)エンジンである。前記吸気側開口部61と排気側開口部62とは、各気筒2につき2つずつ設けられるとともに、前記吸気弁11および排気弁12も2つずつ設けられている。
【0027】
前記吸気弁11および排気弁12は、それぞれ、傘状の前記各開口部61,62を開閉する弁体11a,12aと、この弁体11a,12aから垂直に延びるステム11b,12bとを有するいわゆるポペットバルブである。
【0028】
前記吸気弁11および排気弁12は、それぞれ、シリンダヘッド4に配設された一対のカムシャフト(図示省略)等を含む動弁機構13,14によりクランク軸7の回転に連動して各ステム11b,12bが駆動され、これにより前記吸気側開口部61と排気側開口部62とを開閉する。
【0029】
前記吸気弁11用の動弁機構13には、CVVL15が組み込まれている。CVVL15は、連続可変バルブリフト機構(Continuous Variable Valve Lift Mechanism)と呼ばれるものであり、吸気弁11のリフト量を連続的に(無段階で)変更するものである。CVVL15は、エンジンの全ての吸気弁11のリフト量を変更できるように設けられており、このCVVL15が駆動されると、各気筒2において一対の吸気弁11のリフト量が同時に変更されるようになっている。
【0030】
このような構成のCVVL15は既に公知であり、その具体例として、吸気弁11駆動用のカムをカムシャフトの回転と連動して往復揺動運動させるリンク機構と、リンク機構の配置(レバー比)を可変的に設定するコントロールアームと、コントロールアームを電気的に駆動することによって前記カムの揺動量(吸気弁11を押し下げる量)を変更するステッピングモータとを備えたものを挙げることができる(例えば特開2007−85241号公報参照)。
【0031】
前記排気弁12用の動弁機構14には、吸気行程中に排気弁12を押し下げる機能を有効または無効にするON/OFFタイプの可変バルブリフト機構(Variable Valve Lift Mechanism)であるVVL16が組み込まれている。すなわち、VVL16は、排気弁12を排気行程だけでなく吸気行程でも開弁可能にするとともに、この吸気行程中の排気弁12の開弁動作を実行するか停止するかを切り替える機能を有している。VVL16は、エンジンの全ての排気弁12に対応して設けられており、かつ、各気筒2の一対の排気弁12に対し、それぞれ個別に、吸気行程中の開弁動作を実行または停止できる。
【0032】
このような構成のVVL16は既に公知であり、その具体例として、排気弁12駆動用の通常のカム(排気行程中に排気弁12を押し下げるカム)とは別に吸気行程中に排気弁12を押し下げるサブカムと、このサブカムの駆動力が排気弁12に伝達されるのを有効または無効にするいわゆるロストモーション機構とを備えたものを挙げることができる(例えば特開2007−85241号公報参照)。
【0033】
このVVL16の作用により、排気弁12が排気行程中に加えて吸気行程中に開弁した場合には、排気行程において高温の排気が排気ポート10から燃焼室6に逆流して、燃焼室6内に大量の排気が残留する。すなわち内部EGRガス量が多く確保される。一方、排気弁12が排気行程中にのみ開弁した場合には、内部EGRガス量は少量あるいはない状態に抑えられる。
【0034】
前記エンジン本体1の吸気ポート9および排気ポート10には、吸気通路28および排気通路29がそれぞれ接続されている。
【0035】
前記吸気通路28は、単一の通路からなる共通通路部28cと、共通通路部28cの上流側端部に設けられたサージタンク28bと、気筒2ごとに分岐して設けられ、前記サージタンク28bと各気筒2の吸気ポート9とを接続する分岐通路部28aとを有している。
【0036】
前記排気通路29は、単一の通路からなる共通通路部29cと、気筒2ごとに分岐して設けられ、前記共通通路部29cの上流側端部と各気筒2の排気ポート10とを接続する分岐通路部29aとを有している。
【0037】
前記吸気通路28および排気通路29の間には、排気通路29を通過する排気ガスの一部を吸気通路28に還流させる外部EGR装置30が設けられている。外部EGR装置30は、吸気通路28および排気通路29の各共通通路部28c,29cどうしを連通するEGR通路31と、EGR通路31の途中部に設けられてEGR通路31を通過する排気の流量を制御するEGRバルブ32と、EGR通路31を通過する排気を冷却する水冷式のEGRクーラ33とを有している。
【0038】
前記吸気通路28の共通通路部28cには、吸気通路28を通過する吸入空気の量を調節するスロットル弁25が設けられている。ただし、本実施形態では、前記CVVL15により吸気弁11のリフト量が調整され、また、VVL16により燃焼室6の内部EGRガスの量が調整され、さらには、外部EGR装置30により吸気通路28に還流される排気ガスの量が調整される。したがって、これらの操作に基づいて、スロットル弁25を操作することなく、燃焼室6に導入される空気(新気)の量を調整することが可能である。このため、スロットル弁25は、エンジンの停止時等を除いて、全開もしくはそれに近い値に維持される。
【0039】
前記排気通路29の共通通路部29cには、排気ガス浄化用の触媒コンバータ35が設けられている。触媒コンバータ35には例えば三元触媒が内蔵されており、排気通路29を通過する排気ガス中の有害成分は、前記三元触媒の作用により浄化される。
【0040】
また、前記エンジン本体には、各種センサが取り付けられている。例えば、エンジン冷却水の温度を検出するための水温センサSW1、クランク軸7の回転角度(クランク角)ひいてはエンジン回転数を検出するためのクランク角センサSW2、前記カムシャフトの角度を検出して気筒判別(各気筒が吸気、圧縮、膨張、排気のいずれの行程にあるかの判別)用の信号を出力するカム角センサSW3が、エンジン本体に取り付けられている。
(2)燃焼室の詳細構造
図2は、燃焼室6周辺の概略断面図である。図3は、前記燃焼室6を上方から見た概略平面図である。図2等に示すように、燃焼室6の天井面60すなわちシリンダヘッド4の底面のうちピストン5と対向する部分は、その径方向中心すなわち気筒2の軸線u1上の点を頂部として径方向外側に向かうに従って高さが低くなる円錐面状を有している。
【0041】
前記インジェクタ21は、その先端部がこの燃焼室天井面60の頂部近傍(この頂部よりわずかに下方)に位置して、その軸線が気筒2の軸線u1と一致するように配設されている。インジェクタ21の各噴口21aは、インジェクタ21すなわち気筒2の軸線u1を中心とする円周上に互いに等間隔に形成されており、各噴口21aの軸線すなわち各噴口21aの開口方向は、径方向外側に向かって斜め下方(ピストン4の冠面側)を向いている。前記インジェクタ21の各噴口21aから燃料が噴射された場合、その燃料は、燃焼室6の天井面60とほぼ平行に下方かつ径方向外側に放射状に広がる。
【0042】
図3に示すように、前記吸気側開口部61と排気側開口部62とは、前記燃焼室6の天井面60に、その周方向に並んで開口している。2つの吸気側開口部61と2つの排気側開口部62とは、燃焼室6の天井面60の中心を通る直線を挟んで両側に設けられている。図3に示す例では、2つの吸気側開口部61は、燃焼室天井面60の右側に設けられており、2つの排気側開口部62は、燃焼室天井面60の左側に設けられている。吸気側開口部61の開口面積は、排気側開口部62の開口面積よりも大きく設定されており、より多くの吸気が燃焼室6内に導入され、これにより、高いエンジントルクが得られるように構成されている。
【0043】
図2に戻って、前記吸気弁11および排気弁12は、その各弁体11a,12aの燃焼室6側の平面状のバルブ面11cが、円錐面状の燃焼室天井面60と接する面に沿って延びるように配設されている。これに伴い、これら各弁11,12のステム11b,12bは、円錐面状の燃焼室天井面60からそれぞれ垂直な方向に延びている。すなわち、図3に示すように、これらステム11b,12bは、気筒2の軸線u1方向から見た平面視で、燃焼室天井面60の頂部を中心とする円の径方向に放射状に延びている。このように、各弁11のバルブ面11c,12cが燃焼室天井面60の接面に沿って延びていることで、各弁11の閉弁時において、これらバルブ面11c,12cを含む燃焼室6の天井面は凹凸が小さく抑えられた形状となる。
【0044】
前記点火プラグ20は、前記シリンダヘッド9のうち前記排気弁12どうしの間に配置されている。前述のように、吸気弁11の開口面積の方が排気弁12よりも大きく設定されている。そのため、このように点火プラグ20を開口面積の小さい排気弁12側に配設することで、点火プラグ20の取り付け位置を確保しつつ、吸気弁11の開口面積ひいてはエンジントルクが確保されている。
【0045】
図2に戻って、前記燃焼室6の底面を構成する前記ピストン5の冠面は、その中央部分に形成されて所定の曲率をもって下方に凹状に湾曲するキャビティ40と、このキャビティ40の開口縁40aから径方向外側に向かうに従って下方に傾斜する基準面41とからなる。
【0046】
前記キャビティ40の内周面40bは、気筒2およびインジェクタ21の軸線u1上の点を中心とする球面の一部をなす形状を有しており、このキャビティ40と前記インジェクタ21とは対向している。前記基準面41は、円錐面状の燃焼室天井面60と平行に延びている。すなわち、ピストン5の冠面は、燃焼室天井面と平行に延びる円錐面状の面の中央に前記キャビティ40が形成された形状を有している。
【0047】
前記点火プラグ20は、その点火点が前記キャビティ40の上端の開口縁40aよりも径方向内側となるようにシリンダヘッド9に取り付けられている。
【0048】
前記燃焼室6の天井面60および底面すなわちピストン5の冠面を前記のような形状としたのは、以下の理由による。
【0049】
前記吸気側開口部61および排気側開口部62の開口面積ひいては燃焼室6に流入する吸気の量および燃焼室6から排気される排気の量を確保するためには、これら開口部61,62が開口する燃焼室天井面60は上に凸となる形状、すなわち径方向中央を頂部として径方向外側に向かうに従って高さが低くなる形状を有する必要がある。
【0050】
燃焼室天井面60をこのように上に凸な形状とした上で、気筒2の幾何学的圧縮比をより高くすなわち圧縮上死点における燃焼室6の容積をより小さくするためには、ピストン5の冠面も上に凸となり燃焼室天井面60と平行に延びるような形状にする必要がある。
【0051】
しかしながら、ピストン5の冠面全体を単に燃焼室天井面60と平行に延びる形状とすると、圧縮上死点において、燃焼室6の上下方向の高さ、すなわち燃焼室6の天井面60とピストン5の冠面との間のすきま寸法が全体的に短くなるために燃焼が適正に広がらない、また、後述する多段CI燃焼を行う際に各噴射に基づく混合気を分離して燃焼させることができないという問題が生じる。
【0052】
そこで、本ガソリンエンジンでは、前記のようにピストン5の冠面のうち径方向外側の部分を燃焼室天井面60と平行な基準面41で構成する一方、ピストン5の冠面の中央に下方に凹むキャビティ40を形成することで、混合気を主にこのキャビティ40内において燃焼させることで適正な燃焼を実現するとともに、多段CI燃焼における各噴射に基づく混合気を分離させてこれらが同時に燃焼するのを抑制するようにしている。また、このようにキャビティ40を設ければ、前記効果に加えて、比較的温度の低い燃焼室6の側面すなわちシリンダ3の壁面と接触する部分を少なくして冷却損失をより小さく抑えることができる。
【0053】
ただし、燃焼室6のうち前記キャビティ40よりも径方向外側の部分6bにおいても適正な燃焼が行われる必要がある(以下、適宜、燃焼室6のうち径方向中央であってキャビティ40が形成された部分を単に燃焼室6の中央部分6aといい、この中央部分6aよりも径方向外側部分を単に燃焼室6の外周部分6bという)。具体的には、後述するように、多段CI燃焼では、エンジントルクに対応する噴射量の一部がキャビティ40とキャビティ40よりも径方向外側の部分に分離して噴射されており、燃焼室6の中央部分6aに加えて外周部分6bにおいてもエンジントルクに寄与する適正な燃焼が必要である。また、火花点火による燃焼の場合においても、高い燃費性能を得るためには、燃焼室6の外周部分6bにおいて燃焼が短時間で完了する必要がある。そのため、本ガソリンエンジンでは、前記キャビティ40を設けつつ、圧縮上死点において、ピストン5の冠面のうちのキャビティ40よりも径方向外側の基準面41と燃焼室天井面60との間のすきま寸法d(図4参照)が所定量確保されてこれらで挟まれた領域の容積V2(図4参照)が確保されるように構成されている。例えば、前記多段CI燃焼において、燃焼室6の外周部分6bにおいて適正な燃焼を実現するためには、圧縮上死点において、そのすきま寸法dは2.4mm程度必要であり、その容積は11cc〜15cc程度必要である。
【0054】
ここで、冷却損失を低減して熱効率を高めるためには、圧縮上死点における燃焼室6の全容積V_TDCに対する燃焼室6の表面積Sの割合であるSV比(S/V_TDC)を小さくする必要がある。一般的に、燃焼室6の天井面60を球面で構成した方が、これを平面で構成する場合よりもSV比が小さいといわれている。しかしながら、本発明者らは、鋭意研究の結果、前記のようにピストン5の冠面の中央にキャビティ40を形成し、ピストン5の冠面のうちキャビティ40よりも径方向外側部分(以下、適宜、このピストン5の冠面のうちキャビティ40よりも径方向外側部分を単にピスト5のン冠面の外周部分という)41を燃焼室6の天井面60と平行にし、かつ、燃焼室6の外周部分6bのすきま寸法dおよび容積V2を所定量確保するという条件下においては、燃焼室天井面60およびこれと平行なピストン5の冠面の外周部分41を球面で構成するよりも円錐面状で構成する方がSV比が小さくなることを突き止めた。
【0055】
すなわち、前記条件下では、図4に示すような燃焼室天井面60およびこれと平行なピストン5の冠面の外周部分41を円錐面状とした方が、これらを図5に示すような燃焼室天井面60およびこれと平行なピストン5の冠面の径方向外側部分を球面とし場合に比べて、キャビティ40の上端の開口縁40aの径方向の長さL2(図4および図5参照)が小さくなり、キャビティ40の曲率(1/r、rは図4および図5参照)を大きくすることができるため、SV比が小さくなることが分かった。図4および図5は、前記形状の差を比較するために、燃焼室6の構造を模式的に示した図である。
【0056】
具体的には、燃焼室6の外周部分6bのすきま寸法dおよび容積V2が一定の場合、燃焼室天井面60およびピストン5の冠面の外周部分41を円錐面状とした方が、これらを球面とした場合よりも、燃焼室6の外周部分6bの径方向の長さL1が長くなる。そのため、燃焼室6の外周部分6b容積V2が一定の場合、前記各部位を円錐面状とした方がキャビティ40の上端の開口縁40aの径方向の長さL2が小さくなり、これに伴って、キャビティ40の容積が一定である条件下において、キャビティ40の曲率(1/r、rは図4および図5参照)は大きくなる。
【0057】
図6(a)〜(e)に、前記条件下において、前記燃焼室6の天井面60およびピストン5の冠面の外周部分41を円錐面状とした場合(実線)と、これらを球面状とした場合(破線)とについて、それぞれ、燃焼室6のSV比を調べた結果をに示す。これら図6(a)〜(e)において、横軸は、圧縮上死点における燃焼室6全体の容積V_TDCに対するキャビティ40の容積V1の割合(V1/V_TDC)であり、縦軸は、燃焼室6全体でのSV比である。また、各図6(a)〜(e)は、前記吸気側開口部61および排気側開口部62の開口面積が一定となるように、燃焼室天井面60の水平面(気筒2の軸線u1と平行な面)に対する傾斜角度α(球面形状の場合は燃焼室天井面60の接線の水平面に対する傾斜角度、図4および図5参照)を一定とした場合の比較結果である。具体的には、図6(a)は、前記傾斜角度αが10度の結果であり、図6(b)は、前記傾斜角度αが20度の結果であり、図6(c)は、前記傾斜角度αが30度の結果であり、図6(d)は、前記傾斜角度αが40度の結果であり、図6(e)は、前記傾斜角度αが50度の結果である。なお、これら各図6(a)〜(e)は、排気量2000cc、幾何学的圧縮比20、気筒2のボア径86mm、燃焼室6の外周部分のすきま寸法d=2.4mm、とした場合の結果である。ここで、圧縮上死点における燃焼室6全体の容積V_TDCに対するキャビティ40の容積V1の割合(V1/V_TDC)は、7/10〜9/10が好ましい。
【0058】
これら図6(a)〜(e)に示されるように、燃焼室天井面60およびこれとピストン5の冠面の外周部分41を円錐面状とした方が、いずれの条件においても、球面状の場合よりもSV比は小さくなっている。なお、αが20度以下では、SV比の差は非常に小さく、燃焼室天井面60を円錐面状とすることによるSV比の低減効果を得るためには、αを20度以上とするのが好ましい。
【0059】
(3)制御系
図7は、エンジンの制御系を示すブロック図である。本図に示されるECU50は、エンジンの各部を統括的に制御するための装置であり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。
【0060】
前記ECU50には、エンジン本体に設けられた前記水温センサSW1、クランク角センサSW2、およびカム角センサSW3等の各種センサから種々の情報が入力される。また、ECU50には、車両に設けられた各種センサからの情報も入力される。例えば、運転者により踏み込み操作される図外のアクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサSW4から、アクセル開度の情報がECU50に入力される。
【0061】
前記ECU50は、その主な機能的要素として、判定手段51、インジェクタ制御手段52、吸気制御手段53、内部EGR制御手段54、外部EGR制御手段55、および点火制御手段56を有している。
【0062】
前記判定手段51は、クランク角センサSW2およびアクセル開度センサSW4の各検出値から特定されるエンジンの回転数Neおよび負荷T(目標トルク)に基づいて、現在のエンジンの運転領域が図8の制御マップにおけるいずれの運転領域であるかを判定する。
【0063】
前記図8の制御マップにおいて、エンジン負荷Tが比較的低い領域(低負荷域)には、全ての回転速度域にわたって第1運転領域(特定運転領域)A1が設定されている。また、この第1運転領域A1よりも負荷Tが高い中負荷域には、低回転側から順に第2運転領域(特定運転領域)A2および第3運転領域(特定運転領域)A3が設定されている。つまり、エンジンの中負荷域において、回転速度Neが所定値(例えば2000〜3000rpm程度)よりも低い領域に第2運転領域A2が設定されるとともに、この第2運転領域A2よりも回転速度Neの高い領域に第3運転領域A3が設定されている。さらに、前記第2、第3運転領域A2,A3よりも負荷Tが高い高負荷域には、全ての回転速度域にわたって第4運転領域A4が設定されている。
【0064】
エンジンの運転中においては、エンジンの運転点(負荷Tおよび回転速度Neの各値から特定される制御マップ上でのポイント)が前記図8中のどの運転領域(A1〜A4)に該当するかが都度判断され、各運転領域に応じた適切な制御が実行されるようになっている。
【0065】
前記図8の制御マップに基づく制御の中身について簡単に説明しておく。この制御マップのうち、最も高負荷側に設定された第4運転領域A4を除く部分負荷の領域、つまり第1運転領域A1、第2運転領域A2、および第3運転領域A3は、そのいずれもが、ピストン5の圧縮作用により混合気を自着火させるCI燃焼(圧縮自己着火燃焼)の実行領域(特定領域)として規定されている。ただし、各領域A1〜A3では、インジェクタ21からの燃料噴射の形態や、点火プラグ20を利用した着火アシストの有無、さらには内部EGRまたは外部EGRの有無等が異なる(その詳細については後述する)。ここでは、前記各領域A1〜A3で実行されるCI燃焼用の制御のことを、それぞれ「リーンHCCIモード」「多段CIモード」「SA−多段CIモード」と称する。
【0066】
一方、前記第1〜第3運転領域A1〜A3よりも高負荷側に設定された第4運転領域A4では、CI燃焼ではなく、点火プラグ20を用いた火花点火(Spark Ignition)をきっかけに混合気を火炎伝播により燃焼させる燃焼形態(以下、SI燃焼と略称する)が選択される。ただし、前記第4運転領域A4でのSI燃焼は、一般的なSI燃焼とは異なり、燃料の噴射時期および点火時期を遅めに設定しつつ混合気を急速な火炎伝播により燃焼させるものであり(その詳細については後述する)、このような燃焼を実現するための前記第4運転領域A4での制御のことを、ここでは「急速リタードSIモード」と称する。
【0067】
なお、これら第1〜第4運転領域A1〜A4からなる制御マップは、基本的に、エンジン水温センサSW1により検出された冷却水温が所定値(例えば80℃)以上となる温間状態のときのものである。エンジンが冷間状態にあるときの制御マップについては、ここでは説明を省略する。
【0068】
再び図7に戻って、前記インジェクタ制御手段52は、前記インジェクタ21から燃焼室6に噴射される燃料の噴射量や噴射時期を制御するものである。具体的に、このインジェクタ制御手段52は、負荷Tやエンジン回転数Ne等に基づいて、目標とする燃料の噴射量および噴射時期を演算し、その演算結果に基づいてインジェクタ21を駆動する。
【0069】
前記吸気制御手段53は、前記CVVL15を駆動して吸気弁11のリフト量(開弁量)を変更する。例えば、吸気制御手段53は、エンジンの負荷Tが高い場合には、燃焼室6に多量の空気(新気)を導入すべく、吸気弁11のリフト量を増大させる。一方、吸気制御手段53は、エンジンの負荷Tが低い場合には、吸気弁11のリフト量を低減する。
【0070】
前記内部EGR制御手段54は、前記VVL16を駆動して排気弁12の吸気行程中の開弁を実行または停止することにより、燃焼室6に残留する内部EGRガス量を調整する。なお、本実施形態において、VVL16付きの排気弁12が1気筒あたり2つ設けられているので、吸気行程中に開弁する排気弁12の数を0,1,2の間で切り替えることにより、内部EGRガス量を段階的に変化させることが可能である。
【0071】
前記外部EGR制御手段55は、前記EGR通路31に設けられたEGRバルブ32の開度を変更して、排気通路29から吸気通路28に還流する排気ガス量すなわち外部EGR量を調整する。
【0072】
前記点火制御手段56は、前記点火プラグ20が火花放電を行うタイミング(点火時期)等を制御する。
【0073】
(3)各運転領域の具体的制御手順
次に、前記ECU50が、各運転領域A1〜A4で、それぞれどのような制御を実施するのかを具体的に説明する。
【0074】
まず、ECU50は、エンジンの運転が開始されると、前記クランク角センサSW2およびアクセル開度センサSW4の各検出値に基づいて、エンジンの運転点(負荷Tおよび回転数Ne)が図8の制御マップにおけるどの運転領域に該当するかを逐次判定する。そして、判定された運転領域に応じて、それぞれ以下のような制御を実行する。
【0075】
なお、この説明の前提として、エンジンの冷却水温は充分に暖まっている(つまり温間時の運転である)ものとする。そして、本実施形態では、ECU50は、温間時において、エンジンの運転点が前記運転領域A1〜A4のいずれにあっても、圧縮自己着火燃焼が実現される制御を実施する。ただし、適切な圧縮自己着火燃焼を行わせるには、インジェクタ21からの燃料噴射時期や、内部EGRまたは外部EGRの有無や、点火プラグ20からの点火の有無等を、運転領域によって変化させる必要がある。そのため、ECU50は、前記インジェクタ21、点火プラグ20、CVVL15、VVL16、およびEGRバルブ32等を、エンジンの運転点を逐次判定しながら制御する。
【0076】
(i)第1運転領域A1
図9は、エンジンが第1運転領域A1で運転されている場合の燃料噴射時期と吸排気弁11,12のリフト特性、およびそれに基づく燃焼により生じる熱発生率(J/deg)を示す図である。本図に示すように、第1運転領域A1では、圧縮行程の前に噴射された燃料と空気との混合気をピストン5の圧縮作用によって自着火させる、一般的な予混合圧縮自己着火燃焼が実行される。具体的に、この第1運転領域A1では、吸気行程中の所定時期にインジェクタ21から燃焼室6に燃料が噴射(P)され、この燃料噴射Pにより噴射された燃料と、吸気通路28から燃焼室6に導入される空気(新気)との混合気が、ピストン5の圧縮作用により高温、高圧化し、圧縮上死点(圧縮行程と膨張行程の間のTDC)付近で自着火する。すると、このような自着火に基づき、波形Qaに示すような熱発生を伴う燃焼が生じることになる。
【0077】
ただし、第1運転領域A1は、負荷Tが比較的低く、インジェクタ21から噴射される燃料の量が少ないため、筒内温度を意図的に上昇させないと、失火が起きるおそれがある。そこで、前記第1運転領域A1では、VVL16を駆動して排気弁12を吸気行程中に開弁させることにより、燃焼室6で生成された排気ガスを燃焼室6に逆流させて、燃焼室6内の内部EGRを多量に確保する。すなわち、排気弁12は、排気行程に加えて(図9のリフトカーブEX)、吸気行程でも開弁する(リフトカーブEX’)。このように、高温の内部EGRガス量が多く確保されると、燃焼室6内の混合気の温度は高温となり、混合気の自着火が促進される。なお、内部EGRガス量は、低負荷側ほど多く、高負荷側ほど少なく設定される。そのための制御として、例えば、第1運転領域A1における低負荷域(無負荷に近い領域)では、吸気行程中に開弁する排気弁12の数が2つとされ、それよりも負荷が高くなると、開弁数が1つに減らされる。
【0078】
前記のように、第1運転領域A1では、排気弁12の再開弁(吸気行程中の開弁)に基づく内部EGRガス量が増大されるのに伴い、外部EGRガスの導入は停止される。すなわち、EGR通路31に設けられたEGRバルブ32の開度が全閉に設定されることにより、排気通路29から吸気通路28への排気ガスの還流が停止される。また、点火プラグ20による混合気への点火は停止される。
【0079】
この第1運転領域A1では、燃焼室6内の混合気の空燃比(実空燃比)を理論空燃比(14.7)で割った値である空気過剰率λが、λ=2以上程度という大幅にリーンな値に設定される。そのため、CVVL15の駆動により吸気弁11(リフトカーブIN)のリフト量を増減する制御が実行され、燃焼室6に導入される新気の量が、前記インジェクタ21からの燃料噴射量に対しかなり過剰になるように制御される。このように大幅にリーンに設定された混合気を燃焼させた場合、燃焼温度が大幅に低下するため、冷却損失を低減して熱効率(燃費)を向上させることができる。なお、λ=2以上までリーンになると、三元触媒によるNOxの浄化作用はほとんど期待できなくなるが、λ=2以上であれば、燃焼により生じるNOx量(生のNOx量)が大幅に少なくなるため、三元触媒以外に特別な触媒(例えばNOxトラップ触媒)を設けなくても、排気ガス中に含まれるNOxの量を十分に小さい値に抑制することができる。
【0080】
このように、第1運転領域A1では、λ=2以上という大幅なリーンでの圧縮自己着火燃焼が実施されるが、前述のように、本ガソリンエンジンでは圧縮比が高く設定されつつ、冷却損失が低減されるよう構成されているため、圧縮上死点付近において燃焼室6内の温度を確実に高めることができ適正な圧縮自己着火燃焼を実現することができるとともに、熱効率をより一層高めることができる。
【0081】
(ii)第2運転領域A2
前記第1運転領域A1よりも負荷Tが高く、かつ回転速度Neが比較的低い領域に設定された第2運転領域A2では、図10に示すような制御が実行される。すなわち、第2運転領域A2では、圧縮上死点を挟んだ2回(P1,P2)に分けてインジェクタ21から燃料を噴射させる分割噴射が実行される。以下では、圧縮行程中に実行される1回目の燃料噴射P1を前段噴射、それより後の圧縮上死点付近(図例では膨張行程のごく初期)に実行される2回目の燃料噴射P2を後段噴射と称する。また、点火プラグ20による混合気への点火は停止される。
【0082】
具体的に、当実施形態において、前記多段CIモードのときの前段噴射P1のタイミング(より正確には開始タイミング)は、圧縮上死点(圧縮行程と膨張行程の間のTDC)を基準として、その上死点前(BTDC)60〜50°CA(CAはクランク角を表す)程度の期間内に設定され、後段噴射P2のタイミング(開始タイミング)は、上死点後(ATDC)0〜10°CA程度の期間内に設定される。また、前段噴射P1および後段噴射P2による各噴射量の割合は、3:7〜7:3程度に設定される。
【0083】
前記前段噴射P1および後段噴射P2によるトータルの噴射量は、第2運転領域A2に対応する高い負荷に合わせて、第1運転領域A1のとき(燃料噴射Pによる噴射量)よりも増大される。また、このように増大設定される燃料噴射量に応じた多量の新気を燃焼室6に導入すべく、CVVL15が駆動されて吸気弁11のリフト量が増大される(リフトカーブIN)。そして、前記のように分割噴射された燃料と空気(新気)との混合気が圧縮上死点付近で自着火することにより、図10の波形Qbに示すように、時期の異なる2つのピークを有するような熱発生を伴う燃焼が生じる。なお、このような波形Qbの形状はあくまで概念的なものであり、実際には2つのピークが明確に現れない場合も当然にあり得る。
【0084】
前記のように前段噴射P1および後段噴射P2に分けて燃料を噴射するようにしたのは、燃焼騒音等の問題を考慮してのものである。すなわち、燃料噴射量の多い前記第2運転領域A2では、燃料を1回で噴射してしまうと、噴射された多量の燃料が短時間で全て燃焼する急激な燃焼が起きることにより、筒内圧力が急上昇し、燃焼騒音が著しく増大する等の事態を招くおそれがある。そこで、前記のように燃料を分割噴射することにより、比較的マイルドな燃焼が継続的に起きるようにして、前記のような燃焼騒音の増大等を回避するようにしている。
【0085】
ただし、たとえ燃料噴射を複数回に分割しても、インジェクタ21の配置やピストン5の形状によっては、各回に噴射された燃料どうしが混じり合い、その混じり合った燃料がほとんど同時に燃焼することがある。このように、噴射タイミングが異なる燃料どうしが混じり合った状態で燃焼が起きると、燃焼騒音が過大になるばかりでなく、燃焼時に必要な酸素が局所的に著しく不足し、多量のスート(炭素質粒子)が発生するおそれがある。
【0086】
このような問題に対し、当実施形態では、インジェクタ21が燃焼室6天井の径方向中央部分に配置されるとともに、ピストン5の冠面の径方向中央にキャビティ40が形成されているため、分割噴射された燃料が同時に燃焼してしまうことがなく、前記のような燃焼騒音の増大やスートの大量発生を回避することが可能である(その詳細なメカニズムについては後述する)。また、燃焼室6のうち前記キャビティ40よりも径方向外側部分すなわち燃焼室6の外周部分6bの容積が所定量確保されているため、この外周部分6bにおいて、前段噴射P1により形成された混合気を確実に燃焼させることができる。
【0087】
また、前記第2運転領域A2では、前記のような燃料の分割噴射制御に加えて、吸気行程中に排気弁12を押し下げる機能を無効にするようにVVL16が駆動され、排気弁12の吸気行程中の開弁が停止される。これにより、排気ガスが燃焼室6に逆流することがほとんどなくなり、内部EGRが禁止される。
【0088】
一方、第2運転領域A2では、前記のように禁止された内部EGRに代わり、外部EGRが実行される。すなわち、EGR通路31に設けられたEGRバルブ32が所定開度まで開かれることにより、排気通路29から吸気通路28へ排気ガスを還流させる操作が実行される。
【0089】
このように、内部EGRから外部EGRへと切り替えるのは、燃焼室6内の新気の量を確保するため、および、異常燃焼を回避するためである。すなわち、第2運転領域A2は、第1運転領域A1よりもエンジン負荷Tが高く、より多くの新気量が必要になるとともに、噴射されるトータルの燃料が多いことに伴ってプリイグニッションやノッキング等の異常燃焼が起きるおそれがある。そこで、内部EGRから外部EGRに切り替えて、EGRクーラ33付きのEGR通路31を通過した(つまりEGRクーラ33により冷却された)排気ガスを吸気通路28に還流させることにより、EGRガスの体積を減少させて燃焼室6内の新気の量を確保するとともに、燃焼室6の高温化を防ぎ、前記のような異常燃焼を回避するようにしている。ただし、第2運転領域A2であっても、エンジンの全負荷近傍では、多量の新気を確保するために、外部EGRは停止される。
【0090】
ここで、以上のような制御に基づき実現される第2運転領域A2での燃焼形態について、図13(a)〜(f)を参照しつつより具体的に説明する。図13(a)は、インジェクタ21から前段噴射P1が行われたときの状態を示している。このときのピストン5は、上述したように、圧縮上死点前(BTDC)50〜60°CA程度に位置している。このような位置にあるピストン5の冠面に向けて、前記インジェクタ21の先端部I1に備わる複数(12個)の噴口から放射状に燃料が噴射されると、その燃料の噴霧は、燃焼室6の外周部分6bに向かうことになる。
【0091】
前記燃焼室6の外周部分6bに向けて噴射された燃料(噴霧)は、その後分散し、その分散した燃料に基づき、図13(b)に示すように、主に燃焼室6の外周部分6bに混合気X1が形成される。ここで形成される混合気X1の空燃比は、燃焼室6の外周部分6bだけの局所的な空燃比として、理論空燃比(空気過剰率λ=1)程度に設定される。すなわち、理論空燃比程度の濃さの混合気X1が燃焼室6の外周部に局所的に形成されるように、前記前段噴射P1の噴射時期および噴射量が設定されている。
【0092】
もちろん、前記前段噴射P1によって、燃焼室6の外周部以外(例えばキャビティ40の内部)にも微量の燃料が存在し得るが、その燃料の濃度は、前記燃焼室6の外周部分6bに比べれば極めて薄いものである。言い換えれば、前段噴射P1が実行された時点で、燃焼室6の外周部分6bには、キャビティ40の内部より極めてリッチな混合気X1が形成されていることになる。
【0093】
前記のように燃焼室6の外周部分6bに形成された混合気X1は、ピストン5の上昇により圧縮されて高温・高圧化し、圧縮上死点付近までピストン5が達したところで、図13(c)に示すように自着火により燃焼する(圧縮自己着火)。なお、同図では、混合気X1が燃焼している領域を黒またはグレーに着色して示している。この混合気X1が燃焼する領域Y2は、前記混合気X1が形成された領域に対応して、燃焼室6の外周部分6bに限られる。
【0094】
前記のような前段噴射P1に基づく燃焼が始まると、それとほぼ同時、もしくはわずかな期間をあけて、図13(d)に示すような後段噴射P2が実行される。この後段噴射P2のタイミングは、上述したように、ピストン5が降下を始めて間もない上死点後(ATDC)0〜10°CA程度である。このようにピストン5が上死点に近いタイミングでインジェクタ21から燃料が噴射されると、その燃料の噴霧は、ピストン5の冠面の径方向中央部分に設けられたキャビティ40の内部へと向かうことになる。すると、このキャビティ40の内部に向けて噴射された燃料(噴霧)は、キャビティ40の周壁に沿って上方にガイドされながら分散し、その分散した燃料に基づき、図13(e)に示すように、燃焼室6の径方向中央部分6a(主にキャビティ40の内部)に混合気X2が形成される。この混合気X2の局所的な空燃比も、上述した前段噴射P1に基づく混合気X1と同様、理論空燃比(空気過剰率λ=1)程度に設定される。言い換えれば、前記後段噴射P2により、燃焼室6の径方向中央部分6aには、前段噴射P1の実行時よりもリッチな混合気X2が形成されていることになる。
【0095】
前記のような後段噴射P2に基づく混合気X2は、ピストン5が圧縮上死点に近く、しかも前段噴射P1に基づく混合気X1の燃焼が既に起きている状態で形成されるものである。このため、前記混合気X2は、図13(f)に示すように、後段噴射P2の後、ごく短時間で自着火に至り、燃焼する。この混合気X2が燃焼する領域Y2は、前記混合気X2が形成された領域に対応して、燃焼室6の径方向中央部分6aに限られる。すなわち、上述した前段噴射P1に基づく混合気X1が、燃焼室6の外周部分6b(燃料領域Y1)で燃焼するのに対し、後段噴射P2に基づく混合気X2は、キャビティ40の設置部に対応する燃焼室6の径方向中央部分6a(燃焼領域Y2)で燃焼することになる。
【0096】
以上のように、第2運転領域A2では、負荷Tに応じた比較的多量の燃料を複数回(前段噴射P1および後段噴射P2)に分けて噴射することで、別々の空間に混合気(X1,X2)を形成し、それらを独立して自着火、燃焼させるようにしている。このような制御が行われる前記第2運転領域A2では、分割噴射された燃料が混じり合って同時に燃焼してしまうことがないため、筒内圧力の急上昇による燃焼騒音の増大や、局所的な酸素不足によるスートの大量発生が起きる心配がない。しかも、前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気X1,X2は、それぞれ局所的にλ=1程度の空気過剰率に設定されるので、そのような環境下の燃焼により生成された排気ガスであれば、三元触媒のみによって十分に有害成分の浄化が可能である。
【0097】
特に、キャビティ40を含む燃焼室6の中央部分6aと、燃焼室6の外周部分6bにそれぞれ容積が確保されつつ、燃焼室6のSV比が小さく抑えられて冷却損失が低減されており、燃焼室6内の温度を混合気が自着火可能な温度にまでより確実に高めて各噴射P1、P2で形成される混合気をより確実に自着火させることができる。
【0098】
(iii)第3運転領域A3
前記第1運転領域A1よりも負荷Tが高く、かつ前記第2運転領域A2よりも回転速度Neが高い第3運転領域A3では、図10に示すような制御が実行される。すなわち、第3運転領域A3では、前記第2運転領域A2のときと同様、インジェクタ21からの燃料が複数回に分けて噴射されるが、前記第2運転領域A2のときとは異なり、前段噴射P1および後段噴射P2との間に、自着火を促進するための着火アシストが実行される。なお、図5の制御マップでは、このような分割噴射および着火アシスト(Spark Asist)に基づく圧縮自己着火燃焼が実行されることを指して、第3運転領域A3内に「SA+多段CI」と表記している。
【0099】
具体的に、前記着火アシストとしては、圧縮行程中に実行される前段噴射P1と、圧縮上死点付近に実行される後段噴射P2との間の所定時期に、これら前段および後段噴射P1,P2の各噴射量よりも少量の燃料がインジェクタ21から噴射されるとともに(Pa)、その噴射Paの直後でかつ後段噴射P2よりも前の圧縮行程後期に、点火プラグ20による火花点火Sが実行される。すると、このような着火アシストにより図10の波形Qc’のような少量の熱発生を伴う燃焼が生じるとともに、当該燃焼により燃焼室6が高温化するのをきっかけにして、続く波形Qcに示すように、前記前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気が自着火により燃焼する。なお、以下では、着火アシストのために実行される少量の燃料噴射Pa(着火アシスト用の燃料噴射)のことをアシスト用噴射Pa、着火アシストのために実行される火花点火S(着火アシスト用の火花点火)のことをアシスト用点火Sと称する。
【0100】
前記アシスト用点火Sは、インジェクタ21の先端部(噴口)からアシスト用噴射Paとして噴射された燃料(噴霧)の先端が、インジェクタ格納部62の下端の開口縁62bを通過した直後のタイミングで実行される。
【0101】
なお、第3運転領域A3では、前記のような着火アシストに関する制御を除けば、第2運転領域A2のときとほぼ同様の制御が実行される。例えば、第3運転領域A3では、排気弁12を吸気行程中に開弁させる(排気ガスを燃焼室6に逆流させる)内部EGRが禁止されるとともに、EGR通路31を通じて排気ガスを吸気通路28に還流させる外部EGRが実行される。ただし、エンジンの全負荷近傍では、多量の新気を確保するために、外部EGRは禁止される。
【0102】
図14(a)〜(h)は、以上のような着火アシストに基づく圧縮自己着火燃焼が行われる第3運転領域A3での燃焼の様子を模式的に示す図である。図14(a)に示すように、第3運転領域A3では、上述した第2運転領域A2での前段噴射P1(図14(a))のタイミング(BTDC50〜60°CA程度)とほぼ同じタイミングで前段噴射P1が実行され、この前段噴射P1により、燃焼室6の外周部に、理論空燃比(λ=1)程度の空燃比をもった混合気X1が形成される。ただし、前記前段噴射P1のタイミングは、厳密には、前記第2運転領域A2での前段噴射P1のタイミングよりもわずかに早い時期に設定される。これは、第3運転領域A3では、第2運転領域A2のときよりもエンジン回転速度Neが高く、ピストンスピードが速いからである。つまり、ピストンスピードが速いと、インジェクタ21からの噴射燃料がピストン5の冠面付近に達するまでの間にピストン5が比較的大きく移動するため、ピストン5上の同様の位置に燃料(噴霧)を届かせようとすれば、インジェクタ21からの噴射タイミングをわずかにでも早める必要がある。このことは、後述する後段噴射P2の場合でも同様である。
【0103】
前記前段噴射P1の後は、図14(c)に示す着火アシストが実行される。すなわち、前記前段噴射P1の後、ピストン5がある程度上昇した時点(例えばBTDC30〜10°CA程度)で、着火アシスト用の燃料噴射であるアシスト用噴射Paが実行されるとともに、その直後に、アシストの火花点火であるアシスト用点火Sが実行される。すると、前記アシスト用噴射Paにより噴射された燃料に基づいて、点火プラグ20の電極周りに十分に霧化された燃料を含む混合気が形成されるとともに、その混合気が前記アシスト用点火Sを火種として火炎を形成することにより、図14(d)に示すように、点火プラグ20の電極周りに混合気の燃焼領域Yaが局所的に形成される。
【0104】
前記のようにして着火アシストによる火炎(燃焼領域Ya)が生じると、その火炎による燃焼室6の高温化と、ピストン5の上昇による圧縮作用とが相俟って、燃焼室6の外周部に形成されていた前記前段噴射P1に基づく混合気X1が、図14(e)に示すように、圧縮上死点付近で自着火により燃焼する。この混合気X1の燃焼領域Y1は、燃焼室6の外周部分6bに限られ、点火プラグ20の電極からは径方向外側に離間した領域となる。
【0105】
前記のような前段噴射P1に基づく燃焼が始まると、それ以降は、前記第2運転領域A2のときと同様にして燃焼が進行していく。すなわち、前記前段噴射P1に基づく燃焼の開始とほぼ同時、もしくはわずかな期間をあけて、図14(f)に示すような後段噴射P2が実行され、その後段噴射P2に基づき、燃焼室6の径方向中央部分6a(主にキャビティ40の内部)に、理論空燃比(λ=1)程度の空燃比をもった混合気X2が形成される。すると、この混合気X2は、ごく短い時間で自着火に至り、燃焼室6の径方向中央部分6aに、前記混合気X2の燃料領域Y2を形成する。
【0106】
以上のように、第3運転領域A3では、前段噴射P1および後段噴射P2の間に、点火プラグ20を用いて着火アシストを実行し、その着火アシストにより燃焼室6を高温化することにより、前記着火アシストに引き続いて前記前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気X1,X2をそれぞれ自着火により燃焼させるようにした。このように、着火アシストにより混合気の自着火を促進するようにした第3運転領域A3では、上述した第2運転領域A2のときよりもエンジン回転速度Neが高く、燃料の受熱期間が短くなる状況であるにもかかわらず、混合気が確実に自着火により燃焼し、失火が起きることが回避される。しかも、前記第2運転領域A2のときと同様、前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気X1,X2が別々の空間で独立して自着火、燃焼するため、燃焼騒音の増大やスートの発生についても回避される。特に、前記第2運転領域A2のときと同様、本ガソリンエンジンでは、キャビティ40を含む燃焼室6の中央部分6aと、その径方向外側の燃焼室6の外周部分6bにそれぞれ容積が確保されつつ、燃焼室6のSV比が小さく抑えられて冷却損失が低減されているため、各噴射P1、P2で形成される混合気を燃焼室6の中央部分6aと外周部分6bとにおいてより確実に、また、効率よく燃焼させることができる。
【0107】
なお、図15は、前記第3運転領域A3で、着火アシストに基づく混合気の燃焼領域Yaと、前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気の燃焼領域Y1,Y2との位置関係を模式的に示すための平面図である。上述した第3運転領域A3での燃焼形態によれば、図12のように、まず着火アシストに基づく燃焼領域Yaが点火プラグ20の周辺に限って形成され、これとほぼ重ならない燃焼室6の外周部に、前段噴射P1に基づく燃焼領域Y1が形成され、さらに、後段噴射P2に基づく燃焼領域Y2が、前記燃焼領域Y1よりも径方向内側に形成される。これら各燃焼領域は、Ya→Y1→Y2の順に形成され、その発生位置または発生時期は、ほとんど重なり合うことがない。
【0108】
(iV)第4運転領域A4
高負荷域に設定された前記第4運転領域A4では、多量の燃料が噴射されるため、圧縮自己着火燃焼を行わせようとすると、燃焼騒音が著しく増大する、また、ノッキングが生じるという問題がある。そこで、この第4運転領域A4では、圧縮自己着火燃焼に代わり、混合気に点火して火炎伝播させる火花点火燃焼(SI燃焼)を実施する。
【0109】
ここで、SI燃焼においても、燃焼室6内の温度が過度に高い場合には、ノッキングが生じる。特に、本ガソリンエンジンでは圧縮比が非常に高い値に設定されている。そのため、燃焼室6内の温度は高くなりやすい。
【0110】
そこで、本ガソリンエンジンでは、この第4運転領域A4において、ノッキング等の異常燃焼をより確実に回避するべく、圧縮上死点よりもかなり前(例えば吸気行程中)に燃料を噴射して圧縮上死点付近で火花点火を行わせる通常のSI燃焼ではなく、図11に示すように、圧縮行程中にインジェクタ21から燃料を噴射させ(P3,P4)、この燃料噴射P3,P4の後に点火プラグ20に火花点火を行わせて、圧縮上死点を過ぎたタイミング(膨張行程の初期)から短時間で火炎伝播により混合気を燃焼させる急速リタードSI燃焼モードを実行する。図11は、前記急速リタードSI燃焼モードが実行された際の、燃料噴射時期と吸排気弁11,12のリフト特性、およびそれに基づく燃焼により生じる熱発生率(J/deg)を示す図である。
【0111】
具体的には、この図11に示すように、この急速リタードSI燃焼モードでは、圧縮行程の後期に設定された2回の噴射時期(P3,P4)に分けてインジェクタ21から、30MPa以上の高圧で燃料が噴射される。各燃料噴射P3,P4のタイミングとしては、例えば、1回目の噴射P1の開始時期から、2回目の噴射P2の完了時期までの期間が、概ね圧縮上死点前(BTDC)20〜0°CA程度の期間内に収まるように設定される。
【0112】
このような噴射制御が実施されるこの急速リタードSI燃焼モードでは、前記のように30MPa以上(例えば40MPa)という非常に高い噴射圧力で燃料が噴射されることで、噴射期間を短くすることができるとともに燃料噴霧を微粒化することができ、短時間で多量の燃料を十分に気化霧化させて比較的均質な(もしくは弱成層化した)混合気を形成することができる。また、噴射圧力が高いために、燃焼室6が最も高温・高圧化する圧縮上死点をある程度過ぎるまで大きな乱流エネルギーを維持することができる。従って、燃料が噴射されてから短時間であって、燃料噴射に伴う乱流エネルギーの減衰が小さい間に(乱流エネルギーが大きい状態で)火花点火による燃焼を開始させることができ、この比較的大きな乱流エネルギーによって燃焼期間を短くすることができる。そして、この燃焼期間の短縮化に伴って、燃焼が引き起こされる前に適正な火炎伝播によって混合気を燃焼し切ることができる。すなわち、ノッキング等の異常燃焼を回避しつつ、熱効率およびエンジントルクを高く維持することができる。また、燃焼温度が過度に上昇せず、燃料の気化霧化が不十分なまま燃焼が開始されることもないため、NOxやスートの増大が回避され、エミッション性についても良好に維持される。
【0113】
特に、本ガソリンエンジンでは、キャビティ40と、その径方向外側部分にそれぞれ容積が確保されつつ、燃焼室6のSV比が小さく抑えられて冷却損失が低減されているため、径方向外側部分においても燃焼を急速に完了させることができ、高いエンジントルクを確保することができる。
【0114】
また、燃料が2回に分けて噴射されて2回目の燃料噴射の後に点火が行われており、1回目の燃料噴射P3によって燃料を霧化させつつ、2回目の燃料噴射により点火時点での乱流エネルギーを大きくすることができる。また、12個という多数の噴口から噴射されることによっても乱流エネルギーは増大される。
【0115】
ここで、点火時期を図11の例よりもさらに進角させれば、これに伴って燃焼開始時期θigが圧縮上死点により近づくため、熱効率および出力トルクのさらなる向上が期待できるが、点火時期を早めるとノッキングが起き易くなるため、点火時期は、ノッキングを起こさないという制約の下、できるだけ進角側に設定される。このような事情から、点火時期は、例えば圧縮上死点後(ATDC)0〜20°CA程度の範囲内に設定される。
【0116】
なお、前記急速リタードSI燃焼モードでは、前記燃料噴射P1,P2によるトータルの噴射量に対して燃焼室6全体の平均の空燃比が理論空燃比(空気過剰率λ=1)となるように新気量が制御される。具体的には、この第2運転領域A2では、負荷Tの増大に応じてCVVL15が駆動され、吸気弁11のリフト量が増大され、これに伴って燃料噴射量に応じた新気が導入される(図11のリフトカーブIN)。なお、本実施形態では、吸気弁11のリフトピーク位置を固定したままリフト量が増大される。
【0117】
また、前記急速リタードSI燃焼モードのときは、EGR通路31を通じて排気ガスを吸気通路28に還流させる外部EGRが実行される。なお、エンジンの全負荷近傍では、より多量の新気を確保するために、外部EGRは禁止される。
【0118】
(5)作用効果等
以上説明したように、当実施形態のガソリンエンジンでは、燃焼室天井面60が円錐面状とされ、ピストン5の冠面の径方向中央にキャビティ40が形成され、かつ、ピストン5の冠面のうちキャビティ40よりも径方向外側部分が、前記燃焼室天井面60と平行な円錐面状の基準面41とされて、吸気側開口部61および排気側開口部62の開口面積および燃焼室6の径方向中央部分6aおよび径方向外側部分6bの容積が確保されつつ、燃焼室6のSV比が小さく抑えられて冷却損失が低減されているため、燃焼室6の径方向中央部分6aおよび径方向外側部分6bにおいて効率のよい燃焼を実現することができ、熱効率をより一層高めることができる。
【0119】
特に、前記第2運転領域A2および第3運転領域A3では、キャビティ40を含む燃焼室6aの中央部分6aと、その径方向外側の外周部分6bとにそれぞれ個別に燃料が噴射されて、これら各部位で個別に燃焼が実施されており、これら各部位の燃焼室6の天井面60とピストン5の冠面との間のすきま寸法dおよび容積V1,V2が確保されることで、各部位での適正な燃焼を実現することができ、エンジントルクを確保しつつ燃焼騒音およびSOOTの発生を抑制することができる。
【0120】
また、各弁11,12のバルブ面11c,12cが燃焼室天井面60の接面に沿って延び、かつ、各弁11,12バルブのステム11b,11cが燃焼室天井面60の頂部を中心とする円の径方向に放射状に延びて各弁11に対して垂直に延びており、各弁11,12を安定して駆動しつつ、バルブ面11c,12cを含む燃焼室6の天井面60の凹凸が小さく抑えられているため、この凹凸が大きい場合に比べて燃焼室6内で燃焼を適正に広げることができるとともに燃焼室6の表面積をより確実に小さくして高い熱効率を得ることができる。また、点火プラグ20が排気弁12間に配置され、吸気弁11の面積がより大きく確保されており、吸気量ひいてはエンジントルクを高くすることができる。
【0121】
ここで、本発明は、幾何学的圧縮比が14以上であって、所定の運転領域で圧縮自着火燃焼を実施するエンジンに広く適用可能であって、各運転領域の具体的な燃焼形態は前記に限らない。例えば、第2運転領域、第3運転領域、第4運転領域の全てにおいて、吸気行程で1回燃料を噴射するとともに圧縮上死点付近で火花点火を行う、通常の火花点火式の燃焼を行ってもよい。
【0122】
また、インジェクタ21の噴口の数は12個に限られず、12個より多くても少なくてもよい。ただし、噴口の数があまりに少ないと、インジェクタ21から噴射された燃料の濃度が周方向に大きくばらつくことになる。このため、噴口の数は8個以上とすることが望ましい。
【符号の説明】
【0123】
5 ピストン
6 燃焼室
21 インジェクタ
40 キャビティ
41 基準面
50 ECU(制御手段)
A1 第1運転領域(特定運転領域)
A2 第3運転領域(特定運転領域)
A3 第3運転領域(特定運転領域)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒に形成された燃料室内に少なくとも一部がガソリンからなる燃料を供給可能なインジェクタを備え、エンジンの特定運転領域において前記燃焼室内で前記燃料と空気との混合気を自着火により燃焼させることでピストンを往復運動させるガソリンエンジンであって、
前記気筒の幾何学的圧縮比は14以上に設定されており、
前記燃焼室の天井面は、その径方向中央を頂部として径方向外側に向かうに従ってその高さが低くなるように傾斜した円錐面形状を有し、
前記ピストンの冠面は、その中央部分に、所定の曲率をもって凹状に湾曲するキャビティを有するとともに、当該キャビティの開口縁よりも径方向外側に向かうに従って高さが低くなるように傾斜して前記燃焼室の天井面と平行に延びる基準面を有し、
前記インジェクタは、前記ピストンの冠面側に向けて燃料を噴射可能な噴口が形成された先端部を有するとともに、当該先端部が前記燃焼室の天井面の頂部近傍に位置するように設けられていることを特徴とするガソリンエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載のガソリンエンジンにおいて、
前記インジェクタは、前記特定運転領域の少なくとも一部の運転領域において、圧縮上死点よりも前であって噴射した燃料が前記燃焼室のうち前記キャビティよりも径方向外側の部分に到達するタイミングで燃料を噴射する前段噴射と、前記前段噴射よりも後であって噴射した燃料が前記キャビティ内に到達するタイミングで燃料を噴射する後段噴射とを含む複数回に分けて燃料を噴射することを特徴とするガソリンエンジン。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガソリンエンジンにおいて、
前記燃焼室の天井面に形成された複数の吸気側開口部を介して前記燃焼室と連通する吸気ポートと、前記複数の吸気側開口部をそれぞれ開閉可能な弁体と当該弁体から延びてこの弁体をそれぞれ前記吸気側開口部の開閉方向に移動させるステムとを備えた複数の吸気弁と、前記燃焼室の天井面に形成された複数の排気側開口部を介して前記燃焼室と連通する排気ポートと、前記複数の排気側開口部をそれぞれ開閉可能な弁体と当該弁体から延びてこの弁体をそれぞれ前記排気側開口部の開閉方向に移動させるステムとを備えた複数の排気弁とを備え、
前記複数の吸気弁と複数の排気弁の少なくとも一方は、その各弁体の前記燃焼室側の面が前記円錐面状の燃焼室の天井面との接面と平行に延び、かつ、その各ステムが、燃焼室の天井面の頂部からピストン冠面を見た平面視で、前記燃焼室の天井面の頂部を中心とする円の径方向に延びるように、配設されていることを特徴とするガソリンエンジン。
【請求項4】
請求項3に記載のガソリンエンジンにおいて、
前記燃焼室内の混合気に点火可能な点火プラグを備え、
前記複数の排気弁は、互いに隣接するとともに、その各弁体の前記燃焼室側の面が前記円錐面状の燃焼室の天井面との接面と平行に延び、かつ、その各ステムが、平面視で、前記燃焼室の天井面の頂部を中心とする円の径方向に延びるように、配設されており、
前記点火プラグは、前記排気弁の間に配置されていることを特徴とするガソリンエンジン。
【請求項5】
請求項4に記載のガソリンエンジンにおいて、
前記複数の吸気弁は、その各弁体が前記円錐面状の燃焼室の天井面との接面と平行に延び、かつ、その各ステムが、燃焼室の天井面の頂部からピストン冠面を見た平面視で、前記燃焼室の天井面の頂部を中心とする円の径方向に延びるように、配設されており、
前記吸気側開口部の開口面積は、前記排気側開口部の開口面積よりも大きく設定されていることを特徴とするガソリンエンジン。
【請求項1】
気筒に形成された燃料室内に少なくとも一部がガソリンからなる燃料を供給可能なインジェクタを備え、エンジンの特定運転領域において前記燃焼室内で前記燃料と空気との混合気を自着火により燃焼させることでピストンを往復運動させるガソリンエンジンであって、
前記気筒の幾何学的圧縮比は14以上に設定されており、
前記燃焼室の天井面は、その径方向中央を頂部として径方向外側に向かうに従ってその高さが低くなるように傾斜した円錐面形状を有し、
前記ピストンの冠面は、その中央部分に、所定の曲率をもって凹状に湾曲するキャビティを有するとともに、当該キャビティの開口縁よりも径方向外側に向かうに従って高さが低くなるように傾斜して前記燃焼室の天井面と平行に延びる基準面を有し、
前記インジェクタは、前記ピストンの冠面側に向けて燃料を噴射可能な噴口が形成された先端部を有するとともに、当該先端部が前記燃焼室の天井面の頂部近傍に位置するように設けられていることを特徴とするガソリンエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載のガソリンエンジンにおいて、
前記インジェクタは、前記特定運転領域の少なくとも一部の運転領域において、圧縮上死点よりも前であって噴射した燃料が前記燃焼室のうち前記キャビティよりも径方向外側の部分に到達するタイミングで燃料を噴射する前段噴射と、前記前段噴射よりも後であって噴射した燃料が前記キャビティ内に到達するタイミングで燃料を噴射する後段噴射とを含む複数回に分けて燃料を噴射することを特徴とするガソリンエンジン。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガソリンエンジンにおいて、
前記燃焼室の天井面に形成された複数の吸気側開口部を介して前記燃焼室と連通する吸気ポートと、前記複数の吸気側開口部をそれぞれ開閉可能な弁体と当該弁体から延びてこの弁体をそれぞれ前記吸気側開口部の開閉方向に移動させるステムとを備えた複数の吸気弁と、前記燃焼室の天井面に形成された複数の排気側開口部を介して前記燃焼室と連通する排気ポートと、前記複数の排気側開口部をそれぞれ開閉可能な弁体と当該弁体から延びてこの弁体をそれぞれ前記排気側開口部の開閉方向に移動させるステムとを備えた複数の排気弁とを備え、
前記複数の吸気弁と複数の排気弁の少なくとも一方は、その各弁体の前記燃焼室側の面が前記円錐面状の燃焼室の天井面との接面と平行に延び、かつ、その各ステムが、燃焼室の天井面の頂部からピストン冠面を見た平面視で、前記燃焼室の天井面の頂部を中心とする円の径方向に延びるように、配設されていることを特徴とするガソリンエンジン。
【請求項4】
請求項3に記載のガソリンエンジンにおいて、
前記燃焼室内の混合気に点火可能な点火プラグを備え、
前記複数の排気弁は、互いに隣接するとともに、その各弁体の前記燃焼室側の面が前記円錐面状の燃焼室の天井面との接面と平行に延び、かつ、その各ステムが、平面視で、前記燃焼室の天井面の頂部を中心とする円の径方向に延びるように、配設されており、
前記点火プラグは、前記排気弁の間に配置されていることを特徴とするガソリンエンジン。
【請求項5】
請求項4に記載のガソリンエンジンにおいて、
前記複数の吸気弁は、その各弁体が前記円錐面状の燃焼室の天井面との接面と平行に延び、かつ、その各ステムが、燃焼室の天井面の頂部からピストン冠面を見た平面視で、前記燃焼室の天井面の頂部を中心とする円の径方向に延びるように、配設されており、
前記吸気側開口部の開口面積は、前記排気側開口部の開口面積よりも大きく設定されていることを特徴とするガソリンエンジン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図15】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図15】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−215095(P2012−215095A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80041(P2011−80041)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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