説明

サスペンション制御装置

【課題】アクチュエータのストロークを保持しながら輪荷重を増加させることで急制動時の制動性能向上を長時間にわたって確保できるサスペンション制御装置を提供する。
【解決手段】車両2の制動状態が急制動である場合、制動制御信号27と通常制御信号26とを加算して得た補正通常制御信号28を油圧シリンダ13に出力し推力を発生させる。制動制御信号27が含まれる補正通常制御信号28に基づく油圧シリンダ13の伸縮制御により、推力の発生時には輪荷重が増減される。油圧シリンダ13の伸び制御により輪荷重が増加され、制動性能が向上し制動距離が短縮される。油圧シリンダ13の縮み制御により、油圧シリンダ13の伸びきりが抑制され、その分、ストロークが確保され、ひいては長時間にわたり制動性能を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に用いられてその操縦安定性及び乗り心地の向上を図ることができ、特に制動距離の短縮に寄与可能なサスペンション制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の良好な乗り心地及び操縦安定性を両立させるために、例えばアクティブサスペンションシステムが用いられている。そして、このアクティブサスペンションシステムでは、例えば車体と車輪側部材との間に、油圧の給排が可能な油圧シリンダなどのアクチュエータを介在させ、このアクチュエータに力を発生させ、積極的に車体運動の制御を行うことで、車両の姿勢をフラットに保ち、良好な乗り心地及び操縦安定性の両立を合わせて実現させるようにしている。
【0003】
また、車両の制動に関し、その制動距離の短縮を、アクティブサスペンションシステムを用いて行うことが考えられている。この一例として、特許文献1に示されるサスペンション制御装置がある。
特許文献1に示されるサスペンション制御装置は、スリップ比からタイヤ(車輪)のロック傾向を判定し、輪荷重(接地荷重)を増大させる向きの上下加速度を、ばね上質量及びばね下質量の少なくともいずれか一方に発生させる。
【特許文献1】特開平10−315736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した特許文献1のサスペンション制御装置は、前記輪荷重を増大させる向きの上下加速度の発生の要否判定(車輪のロック傾向の判定)について、スリップ比のみを用いて行っている。このため、車輪のロック傾向の判定精度、ひいては、発生すべき上下加速度の精度が低くなり、この分、装置の制御精度が劣ったものになる。
また、スリップ比に合わせて輪荷重を増加方向のみに制御するので、アクチュエータが次第に伸び、伸びきると輪荷重を増加させることができなくなる。その結果、それ以降、制動性能は向上しないという問題がある。また、このときには、車高が高くなっているので、重心が高く車両の不安定化を招くことになるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、アクチュエータのストロークを保持しながら輪荷重を増加させることで急制動時の制動性能向上を長時間にわたって確保できるサスペンション制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、車両の運動状態を検出する運動状態検出手段と、車体及び車輪側部材間に介在されて、両者の上下方向相対距離を変化させるアクチュエータと、前記運動状態検出手段の検出結果から得られる制御信号に基づいて前記アクチュエータを制御する制御手段と、を備えたサスペンション制御装置において、前記車両の制動状態を検出する制動状態検出手段と、前記車輪の回転速度を検出する車輪速検出手段と、前記車両の走行速度を検出する車速検出手段と、前記車輪速検出手段が得る車輪速検出値及び前記車速検出手段が得る車速検出値に基づいてスリップ比を求めるスリップ比算出手段と、を備え、前記制御手段は、前記制動状態検出手段が検出する前記車両の制動状態が、急制動状態を示す場合、前記スリップ比算出手段が求めたスリップ比が予め設定される目標スリップ比より大きい場合に、前記車体と車輪側部材との間の上下方向相対距離を増加させるように前記制御信号を補正し、また、前記スリップ比算出手段が求めたスリップ比が予め設定される目標スリップ比より小さい場合に、前記車体と車輪側部材との間の上下方向相対距離を減少させるように前記制御信号を補正し、この補正により得られる新たな制御信号を前記アクチュエータの制御に用いることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のサスペンション制御装置において、前記スリップ比算出手段が求めたスリップ比変化率により前記制御信号を補正したことを特徴とする。
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のサスペンション制御装置において、急制動時における前記車輪のロック防止作動を、前記スリップ比に応じて行うアンチロックブレーキ装置を設けたことを特徴とする。
【0008】
請求項4記載の発明は、請求項3記載のサスペンション制御装置において、前記目標スリップ比を、前記アンチロックブレーキ装置が作動するスリップ比より小さく設定したことを特徴とする。
請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれかに記載のサスペンション制御装置において、前記制動状態検出手段の車両の制動状態の検出は、前記車両に設けられるブレーキペダルの操作量を用いて行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1から5に記載の発明によれば、制御手段は、制動状態検出手段が検出する車両の制動状態が、急制動状態を示す場合、スリップ比算出手段が求めたスリップ比が予め設定される目標スリップ比より大きい場合に、車体と車輪側部材との間の上下方向相対距離を増加させるように制御信号を補正し、また、前記スリップ比算出手段が求めたスリップ比が予め設定される目標スリップ比より小さい場合に、前記車体と車輪側部材との間の上下方向相対距離を減少させるように前記制御信号を補正し、この補正により得られる新たな制御信号をアクチュエータの制御に用いており、急制動状態でアクチュエータを伸び作動させて輪荷重の増加を行って車輪の路面に対する摩擦力を大きくして制動性能を向上させて、制動距離を短縮させることができる。また、アクチュエータについて上記輪荷重を増加させる方向のみならず、輪荷重を減少させる方向(縮み方向)に制御することにより、アクチュエータの伸びきりが抑制されて、その分、ストロークを保つことができ、ひいては長時間にわたり制動性能を向上できる。
【0010】
アクチュエータ制御のための制御信号を、スリップ比のみならず、スリップ比算出手段が求めたスリップ比の目標スリップ比との大小比較結果に基づいて補正するので、制御信号の精度ひいては装置の制動性能を精度高いものにできる。
急制動状態でない場合は、制御信号が補正されない状態で、アクチュエータが制御されて良好な乗り心地及び操縦安定性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の第1実施形態に係るサスペンション制御装置を図1ないし図6に基づいて説明する。
図1において、サスペンション制御装置1を搭載する自動車等の車両2の4つの車輪3は、サスペンションアーム4,5(車輪側部材)により、車体6に上下動可能に支持されている。車輪3には、ゴムタイヤ(図示省略)が備えられている。以下、ゴムタイヤを含めて車輪3という。
車輪3はゴムタイヤを備えていることにより、図6に示すように、走行路の路面との摩擦力が、若干スリップしている(スリップ比≠0)場合の方が、スリップしていない(スリップ比=0)場合に比して大きくなる特性を示すことになる。すなわち、図6に示すように、実線8で示すスリップ比・摩擦力特性で、スリップ比A/Bが「0」でない値(図6で例えば値s)で、摩擦力が最大の値Fmaxを示すことになる。
【0012】
サスペンションアーム4,5と車体6との間にはダンパ10、ばね11、後述するサスペンションコントローラ12の油液の給排制御により伸縮する油圧シリンダ13(アクチュエータ)が設けられている。図1には、車両2に設けられる4つの車輪3のうち1つのみを示す。サスペンションアーム4,5、ダンパ10、ばね11、油圧シリンダ13についても同様の表示を行っている。
油圧シリンダ13は、サスペンションコントローラ12の制御信号(制御指令値)により制御され、車体6及び車輪3の上下方向相対距離を変化させるようにしている。
【0013】
車両2には、車体6の上下方向の振動を検出するばね上振動検出手段15(運動状態検出手段)、車高を検出する車高検出手段16(運動状態検出手段)、車両2の制動状態を検出する制動状態検出手段17、車輪3の回転速度を検出する車輪速検出手段18、車両2の走行速度を検出する車速検出手段19が設けられている。車速検出手段19としては、例えば車両2に対して相対的に移動する路面を光学的に観測して車速を得る光学車速センサが用いられる。
また、本実施形態では、ABS21を有しており、車輪速から推定して車速を算出することもできる。この車輪速から車速を推定して得ることについては後述する。
制動状態検出手段17としては、例えば、ブレーキペダル(図示省略)の操作量を検出するブレーキペダルセンサが用いられる。また、制動状態検出手段17として、車輪3に対する制動力をブレーキ油圧により発生するブレーキ制動装置(図示省略)の前記ブレーキ油圧を検出する油圧センサを用いてもよい。
【0014】
車両2には、さらに、ABS21(アンチロックブレーキ装置)及びABS21を制御するABS制御装置22が設けられており、急制動(フルブレーキ)時などの際、車輪3がロックすることを防止して車両2の姿勢を安定させ、ハンドルの効きを確保し得るようにしている。
この場合、車輪速検出手段18が得る車輪速C、車速検出手段19が得る車速Bを用いて得られるスリップ比A/Bが、所定の数値(以下、アンチロック作動スリップ比Gという。)を超えると、車輪3のロックを防止するように作動する。すなわち、急制動(フルブレーキ)をかけた場合、路面に対する車輪のスリップ比A/Bが増加し、スリップ比A/Bがアンチロック作動スリップ比Gを超えるとABS制御装置22の作動によりABS21が作動してブレーキを緩める。すると、スリップ比A/Bが下がり、車輪3は路面と速度差が小さくなる。車輪3が路面との速度差が小さくなったらABS21は再びブレーキをかける。上記作動を繰り返すことで車輪3がロックする状態を作らないまま車両2を止めることが可能となる。
【0015】
上記繰返し作動に伴い、車輪速Cは、時間経過と共に速度0まで略ステップ状に低下する。横軸に時間をとり、縦軸に車輪速Cをとると、車輪速Cは階段状の波形で表現される。ここで、車速Bは、車輪3が路面との速度差が小さい状態の車輪速Cにほぼ等しいはずなので、車輪速Cを示す波形の頂点を結んだ線分で表現される。このようにして上述したように車輪速Cから車速Bを推定することができる。
なお、車輪速Cのデータとして4輪すべての車輪速Cを用いると、各車輪3でABS21がブレーキを緩めるタイミングが異なることから、各車輪3に対応した波形を同じグラフに重ねると波形の頂点が増えるので、その分、車速Bの推定の精度が上がる。
【0016】
本実施形態では、図3及び図4に示すように、後述する制動制御コントローラ23が有するスリップ比算出手段24が、車速検出手段19が得た車速Bから車輪速検出手段18が得た車輪速Cを減算して差分A(A=B−C)を得、差分Aを車速Bで除算することによりスリップ比A/Bを得るようにしている。
【0017】
前記各検出手段及び油圧シリンダ13にサスペンションコントローラ12が接続されている。サスペンションコントローラ12は、前記各検出手段の検出信号に基づいて油圧シリンダ13を制御する機能を有する。なお、サスペンションコントローラ12は、油圧シリンダ13を制御する通常制御サスペンションコントローラ(以下、通常制御コントローラ25という。)と、制動制御サスペンションコントローラ(前記制動制御コントローラ23)と、を含んでいるとして説明する。
【0018】
通常制御コントローラ25は、ばね上振動検出手段15、車高検出手段16の検出結果に基づいて、油圧シリンダ13に対する制御信号(以下、通常制御信号26という。)を生成する。制動制御コントローラ23が制動制御信号27(後述する)を生成しない場合、サスペンションコントローラ12は、通常制御信号26を油圧シリンダ13に入力して油圧シリンダ13に伸縮作動させ良好な乗り心地及び良好な操縦安定性が確保されるようにしている。
また、サスペンションコントローラ12は、制動制御コントローラ23が制動制御信号27を生成した場合、通常制御信号26に制動制御信号27を加えて通常制御信号26を補正して新たな制御信号(以下、便宜上、補正通常制御信号28という。)を得、補正通常制御信号28を油圧シリンダ13に入力して油圧シリンダ13に伸縮作動させ良好な乗り心地及び良好な操縦安定性を図ると共に、後述するように急制動時における制動距離の短縮化を図るようにしている。
【0019】
制動制御コントローラ23は、図3及び図4に示すように、制動状態検出手段17が検出する車両2の制動状態が、急制動状態を示す場合、スリップ比算出手段24が求めたスリップ比A/Bと予め設定される目標スリップ比Mとのスリップ比偏差D(D=M−A/B)を求め、スリップ比偏差DをゲインKpで増幅し、制動制御信号27(制動制御指令)を生成する。この制動制御信号27は、上述したように、通常制御信号26の補正(本実施形態では、加算補正)、ひいては補正通常制御信号28〔(通常制御信号26)+(制動制御信号27)〕の算出に用いられる。
本実施形態では、目標スリップ比Mは、図6に示すように、車輪3と車両2の走行路を対象にして予め得られるスリップ比・摩擦力特性(実線8で示す。)における摩擦力が最大Fmaxであるポイントに対応するスリップ比sとされている。上述したようにして得られるスリップ比・摩擦力特性、スリップ比sは、図示しないメモリに格納されている。
なお、目標スリップ比Mは、前記スリップ比sに限らず、スリップ比sの近傍のスリップ比としてもよい。
【0020】
サスペンションコントローラ12は、図2に示す内容の制御アルゴリズムを実行する。サスペンションコントローラ12の制御アルゴリズムの処理内容について、図2に基づいて説明する。
まず、制動状態検出手段17によって、車両2の制動状態を入手する(ステップS1)。
次に、車両2の制動状態が急制動であるか否かの判定を行う(ステップS2)。
制動状態検出手段17による急制動に関する前記判定は、ブレーキ液圧の変化率を用いて行ってもよいし、ブレーキペダル操作量を用いて行ってもよい。なお、ブレーキペダル操作量を用いて行う場合、他の例に比べて、早い段階で制御することが可能となる。
【0021】
ステップS2で、急制動であると判定された場合、通常制御コントローラ25及び制動制御コントローラ23が夫々、通常制御信号26、制動制御信号27を求める。
このとき、制動制御コントローラ23は、図3に示すように、車輪速Cと車速Bからスリップ比A/Bを求める。さらに、上述したようにスリップ比A/Bと予め設定した目標スリップ比Mとのスリップ比偏差Dを求め、このスリップ比偏差DにゲインKpを乗算し、制動制御信号27(指令値)を得る。
【0022】
続いて、制動制御信号27(指令値)と通常制御信号26(指令値)とを加算して、前記補正通常制御信号28(制御指令値)とする(ステップS3)。
ステップS3で求められた補正通常制御信号28を油圧シリンダ13に出力し推力を発生させる(ステップS5)。このステップS5では、ステップS3で求められた補正通常制御信号28に基づく油圧シリンダ13の制御により、推力の発生時には輪荷重が増減される
【0023】
上述したように制御することにより、スリップ比A/Bが目標スリップ比M(値s)未満(図6左側)であれば、油圧シリンダ13を縮み方向に制御し、サスペンションの伸びきりを抑える。また、スリップ比A/Bが目標スリップ比M(値s)以上(図6右側)であれば、油圧シリンダ13を伸び方向に制御することで輪荷重を増加させ、これにより、スリップ比A/Bが目標スリップ比M(車輪3の摩擦力が最大となる値Fmaxに対応するスリップ比A/B)になるように制御される。このため、摩擦力が大きくなり、制動距離を短縮できる。
また、ステップS2でNO(車両2の制動状態が急制動)と判定すると、通常制御信号26を得(ステップS4)、続くステップS5で、ステップS4で求められた通常制御信号26を油圧シリンダ13に出力し推力を発生させる。
【0024】
上記のように、通常制御信号26のみを用いた制御(便宜上、通常制御という。)を行った場合、補正通常制御信号28(通常制御信号26+制動制御信号27)を用いた制御(便宜上、制動制御という。)を行った場合の夫々について、制動開始時点の位置(制動開始位置)から車両2の停止位置までの距離(制動停止距離L)を測定したところ、図5に示すように、制動停止距離Lは、30〜40mであった。そして、制動制御を行った場合の制動停止距離Lは、通常制御を行った場合の制動停止距離Lに比して、15〜20cm短かった。
上記測定により、制動制御〔補正通常制御信号28(通常制御信号26+制動制御信号27)を用いる〕を行った場合には、通常制御〔通常制御信号26のみを用いる〕を行った場合に比して、制動性能を向上できることを検証できた。
【0025】
上記第1実施形態では、図3及び図4に示すように、スリップ比A/Bを用いて制動制御信号27ひいては補正通常制御信号28(通常制御信号26+制動制御信号27)を算出している。これに対して、図7及び図8に示すように、スリップ比A/Bに加えてスリップ比偏差Dの変化率(スリップ比偏差変化率E)を用いて制動制御信号27ひいては補正通常制御信号28(通常制御信号26+制動制御信号27)を算出するようにしてもよい(第2実施形態)。
この第2実施形態では、第1実施形態(図3)で行う「スリップ比偏差DにゲインKpを乗算して制動制御信号27を得る」処理と並行するように、スリップ比偏差Dを微分回路40で微分してスリップ比偏差Dの変化率(スリップ比偏差変化率E)を求め、増幅回路41でスリップ比偏差変化率EにゲインKdを乗算して増幅しスリップ比偏差変化率信号42を算出する処理を行う。そして、加算部43で制動制御信号27にスリップ比偏差変化率信号42を加算して、新たな制動制御信号を得る。この新たな制動制御信号には、スリップ比偏差変化率信号42が含まれており、制動制御信号27と区別するために、以下、補正制動制御信号44という。この補正制動制御信号44は、第1実施形態における制動制御信号27と同様に、急制動時には、油圧シリンダ13を制御するための信号〔第1実施形態では、補正通常制御信号28が相当する。〕に含まれて用いられる。スリップ比偏差変化率信号42は、その算出から明らかなように、スリップ比偏差Dの変化の状況、ひいては制動状態変化を反映したものになっている。
この第2実施形態によれば、油圧シリンダ13を制御するために用いる信号にスリップ比偏差変化率Eが含まれることから、スリップ比A/Bが急激にロック傾向にあるときに、制動制御信号27ひいては補正通常制御信号28(通常制御信号26+制動制御信号27)を急激に大きくできる。このため、車輪3のロック傾向を効果的に抑制できる。
【0026】
第2実施形態を対象にして、前記第1実施形態(図5)と同様にして、通常制御を行った場合、制動制御を行った場合の夫々について、制動停止距離Lを測定したところ、図9に示す結果を得た。この場合、制動停止距離Lは、30〜40mであった。そして、制動制御を行った場合の制動停止距離Lは、通常制御を行った場合の制動停止距離Lに比して、40〜50cm短かった。上記測定により、制動制御信号27ひいては補正通常制御信号28(通常制御信号26+制動制御信号27)の算出にスリップ比偏差変化率Eを用いた場合には、スリップ比偏差変化率Eを用いない場合に比して、制動性能を向上できることを検証できた。
【0027】
上記実施の形態では、アクチュエータが油圧シリンダ13(油圧式)である場合を例にしたが、これに限らず、電磁式のアクチュエータを用いてもよいし、空圧式のアクチュエータを用いてもよい。
【0028】
上記実施の形態では、通常制御信号26の補正を、通常制御信号26に制動制御信号27を加算して行い、これにより新たな制御信号(新たな制御信号を、上記実施の形態では、便宜上、補正通常制御信号28としている。)を得るようにしている。これに対して、通常制御信号26の補正を、通常制御信号26を制動制御信号27で置換えるように補正を行って新たな制御信号を得る(実質的に、アクチュエータの制御に制動制御信号27を用いる。)ようにしてもよい。
【0029】
上記実施形態において、図10及び図11に示すように、走行路が良路、悪路などのように路面の状態を検出する路面状態検出手段30を設け、路面状態検出手段30の検出結果を用いて、目標スリップ比Mの値を常に摩擦力が最大となる値に変更するようにしてもよい(第3実施形態)。第3実施形態では、路面の状態に合わせて最適な目標スリップ比Mを選択することができる。この場合、良路、悪路などの走行路を対象にして、図11に示すように、予め、スリップ比・摩擦力特性を示すマップ(以下、路面状態対応スリップ比・摩擦力特性マップ31という。)を求めておく。本実施形態では、良路、悪路の夫々を対象にしたスリップ比・摩擦力特性が含まれている。良路を対象にしたスリップ比・摩擦力特性では、摩擦力が最大(Fmax1)となる値(スリップ比)は、s1であり、悪路を対象にしたスリップ比・摩擦力特性では、摩擦力が最大(Fmax2)となる値(スリップ比)は、s2となっている。
【0030】
第3実施形態では、図10に示すように、まず、走行路の路面の状態を検出して検出結果を示す路面状態情報を得る(ステップS31)。次に、路面状態情報から図11の路面状態対応スリップ比・摩擦力特性マップ31を参照して、摩擦力が最大となる値を目標スリップ比Mとする(ステップS32)。路面状態情報が良路であることを示す場合、目標スリップ比Mの値はs1とされる。また、路面状態情報が悪路であることを示す場合、目標スリップ比Mの値はs2とされる。
この第3実施形態によれば、急制動時には、姿勢制御ではなく、輪荷重を制御して車輪3のスリップ比A/Bを車輪3の摩擦力が最大となる値にすることで、制動距離を短縮できるという効果が得られる。このため、安全性の飛躍的な向上に貢献できる。
なお、上記各実施形態において、油圧シリンダから油液を排出させ、縮ませる場合は、急激に縮ませると車両が不安定になるので、縮み方向は、その制御量を制限することにより、より、安定した制動を得ることができる。これは、制御量の上限値を抑える等により達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態に係るサスペンション制御装置を模式的に示す図である。
【図2】図1のサスペンションコントローラの制御内容を示すフローチャートである。
【図3】図1の制動制御コントローラを示すブロック図である。
【図4】図3の制動制御コントローラが得るスリップ比及び補正通常制御信号(制御指令値)28を示す波形図である。
【図5】図1の制動制御信号を用いた場合と用いない場合における制動距離の相違を示す図である。
【図6】スリップ比・摩擦力特性を示す図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るサスペンション制御装置に用いる制動制御コントローラを模式的に示すブロック図である。
【図8】図7の制動制御コントローラが得るスリップ比及び補正通常制御信号(制御指令値)44を示す波形図である。
【図9】図1の制動制御信号を用いた場合と用いない場合における制動距離の相違を示す図である。
【図10】本発明の第3実施形態に係るサスペンション制御装置のサスペンションコントローラの作動内容を示すフローチャートである。
【図11】図10のフローチャートを実行するサスペンションコントローラが予め得るスリップ比・摩擦力特性を示すマップである。
【符号の説明】
【0032】
1…サスペンション制御装置、15…ばね上振動検出手段(運動状態検出手段)、16…車高検出手段(運動状態検出手段)、17…制動状態検出手段、18…車輪速検出手段、19…車速検出手段、23…制動制御コントローラ、24…スリップ比算出手段。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運動状態を検出する運動状態検出手段と、車体及び車輪側部材間に介在されて、両者の上下方向相対距離を変化させるアクチュエータと、前記運動状態検出手段の検出結果から得られる制御信号に基づいて前記アクチュエータを制御する制御手段と、を備えたサスペンション制御装置において、
前記車両の制動状態を検出する制動状態検出手段と、
前記車輪の回転速度を検出する車輪速検出手段と、
前記車両の走行速度を検出する車速検出手段と、
前記車輪速検出手段が得る車輪速検出値及び前記車速検出手段が得る車速検出値に基づいてスリップ比を求めるスリップ比算出手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記制動状態検出手段が検出する前記車両の制動状態が、急制動状態を示す場合、前記スリップ比算出手段が求めたスリップ比が予め設定される目標スリップ比より大きい場合に、前記車体と車輪側部材との間の上下方向相対距離を増加させるように前記制御信号を補正し、また、前記スリップ比算出手段が求めたスリップ比が予め設定される目標スリップ比より小さい場合に、前記車体と車輪側部材との間の上下方向相対距離を減少させるように前記制御信号を補正し、この補正により得られる新たな制御信号を前記アクチュエータの制御に用いることを特徴とするサスペンション制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のサスペンション制御装置において、前記スリップ比算出手段が求めたスリップ比変化率により前記制御信号を補正したことを特徴とするサスペンション制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のサスペンション制御装置において、急制動時における前記車輪のロック防止作動を、前記スリップ比に応じて行うアンチロックブレーキ装置を設けたことを特徴とするサスペンション制御装置。
【請求項4】
請求項3記載のサスペンション制御装置において、前記目標スリップ比を、前記アンチロックブレーキ装置が作動するスリップ比より小さく設定したことを特徴とするサスペンション制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のサスペンション制御装置において、前記制動状態検出手段の車両の制動状態の検出は、前記車両に設けられるブレーキペダルの操作量を用いて行われることを特徴とするサスペンション制御装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2007−320413(P2007−320413A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−152144(P2006−152144)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】