説明

シリーズハイブリッド車両の制御装置

【課題】バッテリ12と、このバッテリ12を電力供給源とする走行用モータジェネレータ14とを備えるシリーズハイブリッド式の車両10において、バッテリ12上がりが発生することで、車両10を走行させることができなくなるおそれがあること。
【解決手段】バッテリ12のSOC及び燃料タンク26の燃料残量の双方に基づき、走行用モータジェネレータ14の駆動による車両10の走行可能距離を算出する。そして、算出された走行可能距離が規定距離未満であると判断された場合、車両10を退避走行させるべくコンプレッサ34の駆動を禁止したり、ナビゲーションシステム62によってバッテリ12の充電場所等をユーザに報知したりするリンプホームモード処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリの蓄電エネルギによって駆動される車載主機としての走行用回転機と、燃料タンクから供給される燃料の燃焼によって駆動されるエンジンと、前記バッテリを充電すべく前記エンジンによって駆動されて発電する補機用回転機とを備えるシリーズハイブリッド車両に適用される該車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バッテリの蓄電エネルギによって駆動される車載主機としての電動機を備える電動車両が知られている。ここで上記電動車両の走行可能距離は通常、例えば車載主機としてエンジンを備える車両と比較して短いため、バッテリ上がりによって電動車両を走行させることができなくなるおそれがある。特に、下記特許文献1に見られるように、バッテリからの給電によって駆動される車載補機としての空調制御用の電動コンプレッサを備える電動車両においては、電動コンプレッサが駆動されることで、バッテリ上がりの発生が顕著となるおそれがある。
【0003】
こうした問題を解決すべく、下記特許文献2に見られるように、バッテリの蓄電エネルギの残量に基づき、電動車両の走行可能距離を算出し、算出された走行可能距離に基づきバッテリを充電場所に関する情報等をユーザに提示する技術が開示されている。
【0004】
ところで、上記電動車両の中には、下記特許文献3に見られるように、上記電動機に加えて、バッテリを充電するための発電機と、燃料タンクから供給される燃料の燃焼によって発電機を駆動するためのエンジンとを備える電動車両であるいわゆるシリーズハイブリッド車両(レンジエクステンダ電動車両ともいう)もある。この車両によれば、車載補機の駆動によるバッテリの蓄電エネルギの不足を補ったり、走行可能距離の拡大を図ったりすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−283838号公報
【特許文献2】特開2003−21522号公報
【特許文献3】特開平11−22503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここでシリーズハイブリッド車両によれば、走行可能距離の拡大を図ること等が可能となるものの、例えばユーザがバッテリの蓄電エネルギや燃料タンクの燃料残量を適切に把握していない場合、バッテリ上がりが発生することで、車両を走行させることができなくなるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、バッテリ上がりの発生を抑制することのできるシリーズハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0009】
請求項1記載の発明は、バッテリの蓄電エネルギによって駆動される車載主機としての走行用回転機と、燃料タンクから供給される燃料の燃焼によって駆動されるエンジンと、前記バッテリを充電すべく前記エンジンによって駆動されて発電する補機用回転機とを備えるシリーズハイブリッド車両に適用され、前記バッテリの蓄電エネルギ及び前記燃料タンクの燃料残量の双方に基づき、前記走行用回転機の駆動による前記車両の走行可能距離を算出する走行距離算出手段と、前記算出された走行可能距離が規定距離未満であると判断された場合、前記車両を退避走行させる処理及び該走行可能距離が規定距離未満である旨の情報をユーザに報知する処理のうち少なくとも1つを行う制御手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
上記発明では、バッテリの蓄電エネルギ及び燃料タンクの燃料残量の双方に基づき車両の走行可能距離を算出するため、車両の走行可能距離を適切に把握することができる。そして、算出された走行可能距離が規定距離未満であると判断された場合、車両を退避走行させる処理及び上記報知する処理のうち少なくとも1つを行う。このため、例えばユーザにその後の対応を適切にとらせることができ、バッテリ上がりの発生を抑制することができる。これにより、車両を走行させることができなくなる事態の発生を抑制することができる。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記車両には、前記バッテリの蓄電エネルギによって駆動される車載機器が備えられ、前記制御手段は、前記退避走行させる処理として、前記蓄電エネルギを用いた前記車載機器の駆動を禁止する処理を行うことを特徴とする。
【0012】
上記発明では、走行可能距離が規定距離未満であると判断された場合、バッテリの蓄電エネルギを用いた車載機器の駆動を禁止するため、バッテリの蓄電エネルギの低下を抑制することができ、バッテリの蓄電エネルギを走行用回転機の駆動に適切に用いることができる。これにより、車両の走行可能距離の減少を抑制し、ひいては車両を適切に退避走行させることができる。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記車載機器は、空気調節用の圧縮機であることを特徴とする。
【0014】
上記発明では、バッテリの蓄電エネルギを用いた圧縮機の駆動を禁止することで、バッテリの蓄電エネルギの低下を適切に抑制することができる。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記圧縮機は、前記バッテリの蓄電エネルギ及び前記エンジンのうちいずれによっても駆動可能なものであり、前記圧縮機の駆動要求があると判断された場合、前記エンジンによって前記圧縮機を駆動させるとともに、前記バッテリに余裕がある限り該バッテリを充電すべく前記補機用回転機を駆動させる駆動手段を更に備えることを特徴とする。
【0016】
上記発明では、エンジンによっても圧縮機が駆動可能となっている。こうした構成において、圧縮機をエンジンで駆動させる場合、燃費低減効果等の観点から、熱効率のよい動作点でエンジンを駆動させることが考えられる。ここで上記動作点において燃料の燃焼によってエンジンで生成されたエネルギは通常、圧縮機の駆動に要するエネルギよりも十分大きい。この点に鑑み、上記発明では、圧縮機の駆動要求があると判断された場合、エンジンによって圧縮機を駆動させるとともに、バッテリに余裕がある限り補機用回転機を駆動させる。これにより、圧縮機の駆動に要する単位エネルギあたりのエンジンの燃料消費量を低減しつつ、エンジンで生成されたエネルギのうち圧縮機の駆動に用いられるエネルギ以外のエネルギをバッテリの充電によって有効に利用することができる。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記制御手段は、前記算出された走行可能距離が規定距離未満であると判断された場合、前記補機用回転機の発電用のみに前記エンジンを駆動させる手段を備えることを特徴とする。
【0018】
上記発明では、補機用回転機の発電用のみにエンジンを駆動させることで、退避走行時において燃料タンクの燃料をバッテリの充電のために適切に用いることができる。
【0019】
請求項6記載の発明は、請求項2〜5のいずれか1項に記載の発明において、前記走行距離算出手段は、前記車載機器の駆動を禁止して且つ前記燃料タンクの残留燃料を前記エンジンの駆動に用いて前記補機用回転機に発電させた場合に想定される前記バッテリの蓄電エネルギに基づき、前記走行可能距離を算出することを特徴とする。
【0020】
上記発明では、上記態様にて走行可能距離を算出するため、退避走行させる処理等を行う状況であるか否かを適切に把握することができる。
【0021】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発明において、前記制御手段は、前記報知する処理として、前記バッテリの充電場所及び前記燃料の補給場所のうち少なくとも1つに関する情報をユーザに報知する処理を行うことを特徴とする。
【0022】
上記発明では、バッテリの充電場所等に関する情報をユーザに報知することができるため、バッテリ上がりが生じないようにユーザにその後の対応をより適切にとらせることができる。
【0023】
請求項8記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記制御手段は、ユーザによって操作される指示手段を介して指示された値に前記規定距離を設定する処理、及び前記バッテリの充電場所又は前記燃料の補給場所と前記車両の現在位置との距離に基づき前記規定距離を都度設定する処理のうち少なくとも1つを行うことを特徴とする。
【0024】
上記発明では、車両を退避走行させる処理等を行う状況であるか否かを判断するための規定距離を適切に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】一実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】一実施形態にかかる補機用モータジェネレータの駆動制御の概要を示す図。
【図3】一実施形態にかかるリンプホームモード処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明にかかる制御装置をシリーズハイブリッド車両に適用した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
図1に本実施形態にかかるシステム構成図を示す。
【0028】
図示される車両10には、高圧バッテリ(以下、バッテリ12)、車載主機としての多相回転機(以下、走行用モータジェネレータ14)、補機駆動用及び発電用の多相回転機(以下、補機用モータジェネレータ16)、エンジン18及び空気調節装置(エアコン装置20)等が備えられている。詳しくは、バッテリ12は、走行用モータジェネレータ14及び補機用モータジェネレータ16を駆動するための蓄電エネルギを蓄えるものである。また、バッテリ12は、補機用モータジェネレータ16の発電や、バッテリ12等に備えられるプラグPGを介した外部の充電設備(例えば急速充電器や家庭用電源)によって充電される。なお、バッテリ12は、図示しないDC−DCコンバータを介して図示しない低圧バッテリ(12Vの補機バッテリ)に電力を供給する。
【0029】
走行用モータジェネレータ14は、これを制御するための図示しないインバータを介してバッテリ12の蓄電エネルギが供給されることで駆動される。走行用モータジェネレータ14によって生成された駆動エネルギは、減速機構22等を介して駆動輪24へと伝達される。なお、走行用モータジェネレータ14は、バッテリ12に充電すべく車両10の減速時に回生発電する機能を有している。
【0030】
上記エンジン18の各気筒には、燃料タンク26から供給された燃料をエンジン18の燃焼室に供給する電磁駆動式の燃料噴射弁28が設けられている。燃料噴射弁28から供給された燃料と吸気との混合気は、上記燃焼室において燃焼に供される。混合気の燃焼によって発生するエネルギは、エンジン18の出力軸(クランク軸30)の回転エネルギとして取り出される。なお、燃焼に供された混合気は、図示しない排気バルブの開動作により排気として排気通路32に排出される。また、燃料タンク26には、このタンクの燃料残量を検出する燃料センサ33が設けられている。
【0031】
補機用モータジェネレータ16は、クランク軸30の回転エネルギによって駆動されることで発電してバッテリ12を充電したり、上記回転エネルギをエアコン装置20の備えるコンプレッサ34に伝達することでこれを駆動したりする機能を有する。詳しくは、充電機能について説明すると、クランク軸30と補機用モータジェネレータ16との間の動力を伝達状態(ON状態)又は遮断状態(OFF状態)とする第1クラッチ36を備え、このクラッチがON状態とされる状況下、インバータ38が操作されることで、補機用モータジェネレータ16の発電エネルギによってバッテリ12が充電される。また、コンプレッサ34の駆動機能について説明すると、補機用モータジェネレータ16とコンプレッサ34との間の動力をON状態又はOFF状態とする第2クラッチ40を備え、このクラッチ及び第1クラッチ36の双方がON状態とされることで、コンプレッサ34が駆動される。また、補機用モータジェネレータ16は、インバータ38を介したバッテリ12からの蓄電エネルギの供給によって駆動されることで、第2クラッチ40がON状態とされる状況下においてコンプレッサ34を駆動する機能、及び第1クラッチ36がON状態とされる状況下においてクランク軸30に初期回転を付与する(クランキングを行う)スタータ機能をも有する。
【0032】
エンジン18のシリンダブロック内等には、エンジン18を冷却する冷却水が充填されるウォータジャケット42が区画形成されている。ウォータジャケット42は、往流路44aと復流路44bとで構成される冷却水通路を介してラジエータ46と接続されている。そして電動ポンプ48の駆動によって、冷却水通路を介して冷却水がウォータジャケット42を循環することで、エンジン18が冷却される。すなわち、冷却水は、ウォータジャケット42を通過する間にエンジン18の熱を奪った後、往流路44aを介してラジエータ46に導入される。そしてこの冷却水がラジエータ46にて冷却された後、復流路44bを介してエンジン18に再び戻される。これにより、エンジン18が適温に保持される。
【0033】
上記排気通路32には、上流側から順に、排気中の有害成分を浄化する触媒50と、排気熱を回収するための熱回収装置52の蒸発部52aとが設けられている。熱回収装置52は、図示しないポンプの駆動によってアンモニアや水などの作動流体が循環する流体通路としての循環通路52bを備えている。循環通路52bの途中位置には、吸熱部としての上記蒸発部52aと、放熱部としての凝縮部52cとが設けられている。詳しくは、循環通路52bを流れる作動流体は、蒸発部52aを通る間に排気との熱交換によって排気から吸熱した後、凝縮部52cにおいてエンジン18の冷却水に対して放熱する。これにより、冷却水の温度を上昇させることができ、後述するヒータコア54によって冷却水の熱を車室内の暖房に用いることが可能となる。
【0034】
上記エアコン装置20は、車室内に温風又は冷風を供給する空気通路56と、この通路を流れる空気を冷却するための冷凍装置とを備えて構成されている。
【0035】
冷凍装置は、冷凍サイクルに冷媒を循環させるべく冷媒を吸入・吐出する上記コンプレッサ34や、コンデンサ58、エバポレータ60(蒸発器)、更にはヒータコア54等を備えて構成されている。なお本実施形態では、コンプレッサ34として、駆動中は吐出容量が一定の固定容量式(例えばスクロール型)のものを想定している。
【0036】
コンデンサ58は、DCモータ等によって回転駆動される図示しないファン(コンデファン)等から送風される空気と、コンプレッサ34から吐出供給される冷媒との熱交換が行われる部材である。コンデンサ58から流出した冷媒は、図示しない膨張弁によって急激に膨張され霧状とされ、霧状とされた冷媒は、上記空気通路56に設けられるエバポレータ60に供給される。エバポレータ60において、空気通路56を流れる空気と上記霧状とされた冷媒とが熱交換することで、空気通路56を流れる空気が冷却される。なお、エバポレータ60で気化した冷媒は、コンプレッサ34の吸入口に吸入される。
【0037】
一方、上記空気通路56には、上記エバポレータ60に加えて、空気通路56に空気流を生じさせる図示しないブロワや、空気通路56を流れる空気を加熱するヒータコア54等が設けられている。詳しくは、ヒータコア54は、往流路44aを介してウォータジャケット42から供給されるエンジン18の冷却水を熱源として空気を加熱するものである。なお、上記ブロワやコンデファンは、補機バッテリに接続され、同バッテリを電力供給源として駆動される。
【0038】
こうした構成において、上記ブロワにより送風された空気は、上記エバポレータ60や、ヒータコア54を通過して所望の温度となるよう熱交換される。そして熱交換された空気が空気通路56に形成された図示しない吹出口から車室内へと供給されることで、車室内を冷房したり暖房したりする。
【0039】
上記車両10には、GPS信号等によって車両10の現在位置を把握する機能等を有するナビゲーションシステム62と、警告灯63とが備えられている。詳しくは、ナビゲーションシステム62は、地図情報等を表示する表示部62a及びユーザによって操作されるユーザインターフェース62b等を備えて構成されている。
【0040】
電子制御装置(以下、ECU64)は、走行用モータジェネレータ14、補機用モータジェネレータ16、エンジン18及びエアコン装置20等のそれぞれを操作対象とし、周知のCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成されている。ECU64には、バッテリ12の電圧を検出する電圧センサ66や、バッテリ12の入出力電流を検出する電流センサ68、更には燃料センサ33等の出力信号が入力される。また、ECU64とナビゲーションシステム62とは、情報のやり取りを行う。詳しくは、ECU64には、ユーザインターフェース62bを介したユーザの入力情報や、車両10の現在位置情報等が入力される。一方、ナビゲーションシステム62には、ECU64の行う処理の結果に関する情報等が入力される。
【0041】
ECU64は、上記入力に応じて、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、走行用モータジェネレータ14の駆動制御や、補機用モータジェネレータ16の発電制御、コンプレッサ34の駆動制御、更にはエンジン18の燃焼制御等を行う。
【0042】
補機用モータジェネレータ16の発電制御は、バッテリ12の充電要求があると判断された場合、バッテリ12の蓄電量(SOC)がその目標値となるまでバッテリ12に充電すべく、補機用モータジェネレータ16を駆動させるものである。詳しくは、第1クラッチ36がON状態とされることでクランク軸30の回転エネルギが補機用モータジェネレータ16に伝達されることでこれが駆動される。ここでバッテリ12の充電要求があるか否かは、例えば、バッテリ12のSOCが規定値未満であるか否かや、走行用モータジェネレータ14の要求トルクを実現するために要求されるSOCとなっていないか否かに基づき判断すればよい。ここでバッテリ12のSOCは、例えば電圧センサ66及び電流センサ68の出力値に基づき算出すればよい。
【0043】
なお、モータジェネレータ、エアコン装置20及びエンジン18等のそれぞれは、実際には各別の電子制御装置のそれぞれによって操作されるが、ここではこれらの電子制御装置をECU64と表記している。
【0044】
次に、ECU64の行う処理のうち、コンプレッサ34の駆動制御について説明する。この制御は、コンプレッサ34の駆動要求があると判断された場合、エンジン18又は補機用モータジェネレータ16によってコンプレッサ34を駆動させるものである。ここで上記駆動要求があるか否かは、例えば、図示しないA/Cスイッチがオンされる状況下、車室内の温度がその目標値を上回るか否かに基づき判断すればよい。以下、図2を用いて、コンプレッサ34の駆動制御について詳述する。
【0045】
図2(A)に、エンジン18によってコンプレッサ34を駆動させるとともに、バッテリ12に余裕がある限りバッテリ12を充電すべく補機用モータジェネレータ16を駆動させる通常モード処理の概要を示す。
【0046】
この処理は、コンプレッサ34の駆動に要する単位エネルギあたりのエンジン18の燃料消費量を低減しつつ、エンジン18の駆動によって生成されたクランク軸30の回転エネルギを有効に利用するためのものである。つまり、コンプレッサ34をエンジン18で駆動させる場合、燃費低減効果等の観点から、熱効率のよい動作点でエンジン18を駆動させることが考えられる反面、この動作点においては燃料の燃焼によって生成されたクランク軸30の回転エネルギは通常、コンプレッサ34の駆動に要するエネルギよりも十分大きい。このため、熱効率のよい動作点でエンジン18を駆動させ、このエンジン18によってコンプレッサ34を駆動させて且つ補機用モータジェネレータ16に発電させる。これにより、コンプレッサ34の駆動に要する単位エネルギあたりの燃料消費量を低減しつつ、エンジン18の生成エネルギのうちコンプレッサ34の駆動に用いられるエネルギ以外のエネルギをバッテリ12の充電によって有効に利用することが可能となる。
【0047】
上記処理について詳述すると、まず、第1クラッチ36及び第2クラッチ40の双方をON状態とすべくこれらクラッチを通電操作する。これにより、クランク軸30の回転エネルギがコンプレッサ34に伝達されることで、コンプレッサ34が駆動される。そして、補機用モータジェネレータ16の発電エネルギによってバッテリ12を充電すべくインバータ38を操作する。詳しくは、バッテリ12のSOCがその目標値となるまで補機用モータジェネレータ16の発電が継続される。なお、走行用モータジェネレータ14の要求トルクが急増したと判断された場合、ドライバビリティを重視する観点からバッテリ12のSOCを増大させるべく、クランク軸30の回転速度(エンジン回転速度)を上昇させる制御を行ってもよい。また、コンプレッサ34の吐出容量を調節すべく、補機用モータジェネレータ16にクランク軸30の回転速度を調節する変速機構が備えられることが望ましい。
【0048】
なお、バッテリ12のSOCが十分である等の状況下においてコンプレッサ34の駆動要求があると判断される場合、図2(B)に示すように、バッテリ12によって補機用モータジェネレータ16を駆動させることでコンプレッサ34を駆動させる通常モード処理が行われる。詳しくは、まず、第1クラッチ36をOFF状態として且つ第2クラッチ40をON状態とすべく、これらクラッチを通電操作する。そして、補機用モータジェネレータ16にバッテリ12の蓄電エネルギを供給すべくインバータ38を操作することで、コンプレッサ34が駆動される。
【0049】
次に、本実施形態にかかるリンプホームモード処理について説明する。この処理は、バッテリ12のSOC及び燃料タンク26の燃料残量の双方に基づき走行用モータジェネレータ14の駆動による車両10の走行可能距離を算出し、算出された走行可能距離が規定距離未満であると判断された場合、車両10を退避走行させる処理等を行うものである。以下、リンプホームモード処理について説明する。
【0050】
図3に、本実施形態にかかるリンプホームモード処理の手順を示す。この処理は、ECU64によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0051】
この一連の処理では、まずステップS10において、バッテリ12のSOCと、燃料センサ33の出力値から算出される燃料タンク26の燃料残量Qとの双方に基づき、車両10の走行可能距離Disを算出する。本実施形態では、図2(C)に示すように、第2クラッチ40をOFF状態としてコンプレッサ34の駆動を停止させて、且つ燃料タンク26の残留燃料の全てをエンジン18の駆動に用いて補機用モータジェネレータ16に発電させた場合に想定されるバッテリ12のSOCに基づき、走行可能距離Disを算出する。これは、リンプホームモード処理を行う状況であるか否かを適切に把握するためである。なお、走行可能距離Disの算出手法としては具体的には、バッテリ12の現在のSOCに基づき算出される走行可能距離と、燃料タンク26の残留燃料の全てをエンジン18の駆動に用いて発電させた場合に想定されるバッテリ12のSOCの増大量に対応する走行可能距離との加算値として算出すればよい。
【0052】
先の図3に戻り、続くステップS12では、上記規定距離αを設定する処理を行う。本実施形態では、ユーザインターフェース62bを介して指示された値(固定値)に規定距離αを設定する処理、及び最寄りの補給設備の位置(バッテリ充電場所又は燃料補給場所)とナビゲーションシステム62から出力される車両の現在位置との距離に基づき規定距離αを都度設定する処理のうちユーザが選択した処理によって、規定距離αを設定する。ここでバッテリ充電場所や燃料補給場所の情報は、ナビゲーションシステム62の地図情報等から取得すればよい。
【0053】
続くステップS14では、走行可能距離Disが規定距離α以上であるか否かを判断する。この処理は、リンプホームモード処理を行う状況であるか否かを判断するための処理である。
【0054】
ステップS14において肯定判断された場合には、リンプホームモード処理を行う状況ではないと判断し、ステップS16において上記通常モード処理を行う。
【0055】
一方、上記ステップS14において否定判断された場合には、ステップS18に進み、リンプホームモード処理を行う。本実施形態では、この処理として、エアコン装置20の駆動禁止処理と報知処理とを行う。ここでエアコン装置20の駆動禁止処理は、図2(C)に示すように、第2クラッチ40をOFF状態としてコンプレッサ34の駆動を停止させるとともに、上記補機バッテリを電力供給源とする車載機器である上記ブロワやコンデファン等の駆動を禁止する処理である。これにより、補機用モータジェネレータ16の発電用のみにエンジン18を駆動させることとなり、リンプホーム時においてバッテリ12のSOCの低下を抑制することが可能となる。
【0056】
また、上記報知処理は、警告灯63を点灯させるとともに、ナビゲーションシステム62の表示部62aに最寄りの充電場所、燃料補給場所及び走行可能距離Disを表示させる処理である。これにより、例えば寄り道をせずに最寄りの燃料補給場所に車両を向かわせる等、ユーザにその後の対応を適切にとらせることが可能となる。
【0057】
ちなみに、警告灯63の点灯に代えて、走行可能距離Disが短い旨を表示部62aに表示して報知したり、音声によって報知したりしてもよい。また、ナビゲーションシステム62によって最寄りの充電場所等までガイドする処理を行ってもよい。
【0058】
なお、ステップS16、S18の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0059】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0060】
(1)バッテリ12のSOC及び燃料タンク26の燃料残量の双方に基づき、車両10の走行可能距離Disを算出した。そして算出された走行可能距離Disが規定距離α未満であると判断された場合、リンプホームモード処理としてエアコン装置20の駆動禁止処理及び報知処理を行った。このため、バッテリ12のSOCの低下を抑制したり、ユーザにその後の対応を適切にとらせたりすることができ、バッテリ上がりの発生を回避することができる。これにより、車両10を走行させることができなくなる事態の発生を好適に回避することができる。
【0061】
(2)リンプホームモード処理が行われた場合、補機用モータジェネレータ16の発電用のみにエンジン18を駆動させた。これにより、リンプホーム時において燃料タンク26の燃料をバッテリ12の充電のために適切に用いることができる。
【0062】
(3)エアコン装置20の駆動を停止させて且つ燃料タンク26の残留燃料全てをエンジン18の駆動に用いて補機用モータジェネレータ16に発電させた場合に想定されるバッテリ12のSOCに基づき、走行可能距離Disを算出した。これにより、リンプホームモード処理を行う状況であるか否かを適切に把握することができる。
【0063】
(4)ユーザインターフェース62bを介して指示された値に規定距離αを設定する処理、及びバッテリ12の充電場所等と車両10の現在位置との距離に基づき規定距離αを都度設定する処理のうち、いずれかを選択して規定距離αを設定可能な構成とした。これにより、走行可能距離Disが短くなることに備えて最寄りの充電場所等を自動的に報知してほしい等、リンプホームモード処理を行う状況であるか否かを判断するための規定距離αをユーザの要求に応じて適切に設定することができる。
【0064】
(5)コンプレッサ34の駆動要求があると判断された場合、熱効率のよい動作点でエンジン18を駆動させてコンプレッサ34を駆動させるとともに、バッテリ12に余裕がある限り補機用モータジェネレータ16に発電させた。これにより、コンプレッサ34の駆動に要する単位エネルギあたりの燃料消費量を低減しつつ、エンジン18で生成されたエネルギのうちコンプレッサ34の駆動に用いられるエネルギ以外のエネルギをバッテリ12の充電によって有効に利用することができる。
【0065】
(その他の実施形態)
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0066】
・リンプホームモード処理によって駆動が禁止される車載機器としては、上記実施形態に例示した高圧バッテリに接続される車載機器(補機用モータジェネレータ16を動力供給源とするコンプレッサ34)及び補機バッテリに接続される車載機器(ブロワ、コンデファン)に限らない。例えば、エアコン装置20に、補機バッテリに接続された暖房用の電気ヒータを備え、このヒータの駆動を禁止してもよい。また例えば、エアコン装置20に限らず、ラジエータ46付近に備えられて且つバッテリに接続された図示しないラジエータファン等、エンジン18の燃焼制御に用いられて且つバッテリを電力供給源とする車載機器の駆動を禁止してもよい。更に例えば、高圧バッテリや補機バッテリのSOCに基づき、高圧バッテリに接続される車載機器と、補機バッテリに接続される車載機器との駆動を選択的に禁止してもよい。
【0067】
・上記実施形態では、コンプレッサ34をエンジン18によって駆動させる場合、熱効率のよい動作点でエンジン18を駆動させる構成としたがこれに限らない。例えば、アイドル運転に対応する動作点等、他の動作点でエンジン18を駆動させてもよい。この場合、バッテリ12の充電要求が生じるなら、エンジン18で生成されるエネルギのうちコンプレッサ34の駆動に要するエネルギ以外のエネルギが、バッテリ12を充電するための補機用モータジェネレータ16の駆動に要するエネルギ以上となるような動作点を選択するのが望ましい。
【0068】
・上記実施形態では、コンプレッサ34をエンジン18や補機用モータジェネレータ16で駆動させる構成としたがこれに限らない。例えば、エンジン18のみによって駆動させる構成としてもよい。
【0069】
・圧縮機としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、通電操作によって吐出容量が可変設定可能な可変容量式のものであってもよい。
【0070】
・上記実施形態では、コンプレッサ34と、補機用モータジェネレータ16とを各別のものとしたがこれに限らない。例えば、これらを一体型の機器として構成してもよい。
【0071】
・上記実施形態では、補機用モータジェネレータ16によって発電された電力がバッテリ12を介して走行用モータジェネレータ14へと供給される構成としたがこれに限らない。例えば、上記発電された電力が走行用モータジェネレータ14へと直接供給される構成としてもよい。
【0072】
・上記実施形態では、バッテリ12の充電要求があると判断された場合、補機用モータジェネレータ16の発電によってバッテリ12が自動的に充電される構成としたがこれに限らない。例えば、ユーザの選択によって、補機用モータジェネレータ16に発電させるべくエンジン18の駆動を許可又は禁止する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0073】
12…バッテリ、14…走行用モータジェネレータ、16…補機用モータジェネレータ、18…エンジン、26…燃料タンク、34…コンプレッサ、62…ナビゲーションシステム、64…ECU(シリーズハイブリッド車両の制御装置の一実施形態)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの蓄電エネルギによって駆動される車載主機としての走行用回転機と、燃料タンクから供給される燃料の燃焼によって駆動されるエンジンと、前記バッテリを充電すべく前記エンジンによって駆動されて発電する補機用回転機とを備えるシリーズハイブリッド車両に適用され、
前記バッテリの蓄電エネルギ及び前記燃料タンクの燃料残量の双方に基づき、前記走行用回転機の駆動による前記車両の走行可能距離を算出する走行距離算出手段と、
前記算出された走行可能距離が規定距離未満であると判断された場合、前記車両を退避走行させる処理及び該走行可能距離が規定距離未満である旨の情報をユーザに報知する処理のうち少なくとも1つを行う制御手段とを備えることを特徴とするシリーズハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記車両には、前記バッテリの蓄電エネルギによって駆動される車載機器が備えられ、
前記制御手段は、前記退避走行させる処理として、前記蓄電エネルギを用いた前記車載機器の駆動を禁止する処理を行うことを特徴とする請求項1記載のシリーズハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記車載機器は、空気調節用の圧縮機であることを特徴とする請求項2記載のシリーズハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記圧縮機は、前記バッテリの蓄電エネルギ及び前記エンジンのうちいずれによっても駆動可能なものであり、
前記圧縮機の駆動要求があると判断された場合、前記エンジンによって前記圧縮機を駆動させるとともに、前記バッテリに余裕がある限り該バッテリを充電すべく前記補機用回転機を駆動させる駆動手段を更に備えることを特徴とする請求項3記載のシリーズハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記算出された走行可能距離が規定距離未満であると判断された場合、前記補機用回転機の発電用のみに前記エンジンを駆動させる手段を備えることを特徴とする請求項4記載のシリーズハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記走行距離算出手段は、前記車載機器の駆動を禁止して且つ前記燃料タンクの残留燃料を前記エンジンの駆動に用いて前記補機用回転機に発電させた場合に想定される前記バッテリの蓄電エネルギに基づき、前記走行可能距離を算出することを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載のシリーズハイブリッド車両の制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記報知する処理として、前記バッテリの充電場所及び前記燃料の補給場所のうち少なくとも1つに関する情報をユーザに報知する処理を行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のシリーズハイブリッド車両の制御装置。
【請求項8】
前記制御手段は、ユーザによって操作される指示手段を介して指示された値に前記規定距離を設定する処理、及び前記バッテリの充電場所又は前記燃料の補給場所と前記車両の現在位置との距離に基づき前記規定距離を都度設定する処理のうち少なくとも1つを行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のシリーズハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−101616(P2012−101616A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250406(P2010−250406)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】