説明

スキャナ装置および物体の三次元形状測定装置

【課題】コヒーレント光源を用いて線状パターンの投影を行いつつ、投影面でのスペックルの発生を抑制する
【解決手段】レーザビームL50を、光ビーム走査装置60によって反射させ、ホログラム記録媒体45に照射する。ホログラム記録媒体45には、走査基点Bに収束する参照光を用いて線状散乱体の像35がホログラムとして記録されている。光ビーム走査装置60は、レーザビームL50を走査基点Bで屈曲させてホログラム記録媒体45に照射する。このとき、レーザビームの屈曲態様を時間的に変化させ、屈曲されたレーザビームL60のホログラム記録媒体45に対する照射位置を時間的に変化させる。ホログラム記録媒体45からの回折光L45は、ステージ210の受光面R上に線状散乱体の再生像35を生成する。受光面Rに物体を載置すると、ホログラム再生光により線状パターンが投影されるので、その投影像を撮影して物体の三次元形状測定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体に対して光の線状パターンを投影し、これを走査するスキャナ装置に関する。また、物体に光の線状パターンを投影した状態を撮影し、得られた画像を解析することにより三次元形状データを作成する物体の三次元形状測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物体の三次元形状を測定する装置は、一般に、三次元スキャナと呼ばれており、様々な原理に基づく装置が知られている。たとえば、下記の特許文献1には、被測定対象となる物体と接触子との間の接触状態をセンサで検出し、物体表面の三次元位置を測定することにより形状測定を行う三次元スキャナが開示されている。また、特許文献2には、光源から物体の各部に光ビームを照射し、反射光の強度に基づいて光源から各部までの距離を測定することにより形状測定を行う三次元スキャナが開示されている。
【0003】
一方、CCDカメラなどで撮影した物体の二次元画像を解析することにより、三次元形状を演算によって求める方法も提案されている。たとえば、特許文献3には、物体に所定のパターン光を投影した状態を2台のカメラで異なる方向から撮影し、ステレオ法を用いた解析により、三次元形状の測定を行う装置が開示されている。特に、物体に光の線状パターンを投影した状態を撮影し、得られた二次元画像を解析することにより、当該物体の三次元形状を測定する方法は、一般に光切断法と呼ばれている。
【0004】
最近はコンピュータによる画像解析技術が向上してきたため、この光切断法を用いて形状測定を行う装置も商業ベースの量産型装置として実用化されており、また、様々な工夫も提案されている。たとえば、特許文献4には、物体の周囲にスリット投光器を配置し、スリットを透過した光により線状パターンの投影を行う三次元形状測定装置が開示されており、特許文献5には、投光器と撮像装置の配置を工夫することにより、測定精度を向上させることが可能な三次元形状測定装置が開示されている。更に、特許文献6には、多数の線を有する縞模様からなる線状パターンを物体に投影し、撮影画像上の縞模様を解析することにより、三次元形状測定を行う装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−12942号公報
【特許文献2】特開平7−91930号公報
【特許文献3】特開平7−91927号公報
【特許文献4】特開2001−255125号公報
【特許文献5】特開2010−14505号公報
【特許文献6】特開2003−50112号公報
【特許文献7】特開平6−208089号公報
【特許文献8】特開2004−144936号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Speckle Phenomena in Optics, Joseph W. Goodman, Roberts & Co., 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、物体に1本もしくは複数の線からなる線状パターンを投影し、その撮影画像を解析することによって三次元形状を測定する場合、できるだけ高い精度をもった線状パターンを投影する必要がある。従来は、レンズなどの光学系を用いて光を集光して線状パターンを形成したり、光源からの光をスリットに通して線状パターンを形成したりする方法を採っているが、形成される線状パターンの精度は必ずしも十分ではない。たとえば、スリットで成形する方法を採れば、構造は単純になるが、スリット内面での反射や回折が生じるため、線状パターンの輪郭が不鮮明になりやすい。
【0008】
また、撮影画像上で線状パターンを抽出するために、物体表面に形成する線状パターンは、できるだけ高い輝度をもったパターンであることが望ましい。そのためには、高圧水銀ランプなどの高輝度放電ランプを光源として用いる必要があるが、このような特殊光源は寿命が比較的短く、頻繁にランプ交換を行う必要がある。
【0009】
このような問題に対処することができる理想的な光源は、レーザ光源などのコヒーレント光源である。たとえば、産業上で広く利用されている半導体レーザは、高圧水銀ランプなどの高輝度放電ランプに比べて極めて長寿命でありながら、高輝度の照明が可能である。しかも指向性に優れているため、光学系やスリットによる成形を行わなくても、鮮明な輪郭をもった線状パターンを投影することができる。
【0010】
ただ、レーザなどのコヒーレント光源を用いた照明には、スペックルの発生という新たな問題が生じる。スペックル(speckle)は、レーザ光などのコヒーレント光を拡散面に照射したときに現れる斑点状の模様であり、物体表面にレーザ光を投影すると斑点状の輝度ムラとして観察される。したがって、レーザ光源を用いて物体に線状パターンを投影すると、物体表面上の線状パターンにスペックルが発生し、輝度ムラが生じることになる。
【0011】
たとえば、レーザポインタでスクリーン上の1点を指示した場合、レーザ光のスポットがスクリーン上でギラギラと光って見える。これは、スクリーン上にスペックルノイズが生じているためである。コヒーレント光を用いるとスペックルが発生する理由は、スクリーンなどの拡散反射面の各部で反射したコヒーレント光が、その極めて高い可干渉性ゆえに、互いに干渉し合うためとされている。たとえば、上記非特許文献1には、スペックル発生についての詳細な理論的考察がなされている。
【0012】
レーザポインタのような用途であれば、観察者には、微小なスポットが見えるだけなので、大きな問題は生じない。しかしながら、三次元形状の測定に用いる線状パターンに、このようなスペックルに基づく輝度ムラが含まれていると、撮影画像上で線状パターンの輪郭形状を正確に抽出することができなくなり、正しい形状解析を行うことができない。
【0013】
もちろん、このようなスペックルノイズを低減させるための具体的な方法もいくつか提案されている。たとえば、上記特許文献7には、レーザ光を散乱板に照射し、そこから得られる散乱光を照明に利用するとともに、散乱板をモータによって回転駆動することにより、スペックルを低減する技術が開示されている。また、特許文献8には、レーザ光源を散乱板に照射してから照明として利用し、この散乱板を振動させることによりスペックルを低減する技術が開示されている。しかしながら、散乱板を回転させたり、振動させたりするには、大掛かりな機械的駆動機構が必要であり、装置全体が大型化するとともに、消費電力も増加する。
【0014】
そこで本発明は、コヒーレント光源を用いて物体に対する線状パターンの投影を行う機能をもち、かつ、物体表面でのスペックルの発生を抑制することが可能なスキャナ装置および物体の三次元形状測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1) 本発明の第1の態様は、物体を光の線状パターンで走査し、当該物体の表面情報を取り込むスキャナ装置において、
物体に光の線状パターンを投影する照明ユニットと、
線状パターンの物体に対する投影位置を時間的に変化させるパターン走査機構と、
線状パターンが投影された物体を所定方向から撮影し、物体の表面情報を取り込む撮影ユニットと、
を設け、
照明ユニットが、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
線状パターンに対応する形状をもった散乱体の像が記録されたホログラム記録媒体と、
光ビームをホログラム記録媒体に照射し、かつ、光ビームのホログラム記録媒体に対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置と、
を有し、
ホログラム記録媒体には、所定光路に沿って照射される参照光を用いて散乱体の像がホログラムとして記録されており、
コヒーレント光源は、散乱体の像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
光ビーム走査装置は、ホログラム記録媒体に対する光ビームの照射方向が参照光の光路に沿った方向になるように、光ビームの走査を行い、
ホログラム記録媒体から得られるホログラムの再生光により線状パターンが投影されるようにしたものである。
【0016】
(2) 本発明の第2の態様は、上述した第1の態様に係るスキャナ装置において、
ホログラム記録媒体に、1本もしくは互いに平行な複数本の線状散乱体の像が記録されており、ホログラムの再生光により1本もしくは互いに平行な複数本の線を有する線状パターンが投影されるようにしたものである。
【0017】
(3) 本発明の第3の態様は、上述した第2の態様に係るスキャナ装置において、
パターン走査機構が、
物体を載置する載置ステージと、
載置ステージを、線状パターンの構成要素となる線に直交する方向に移動させる搬送装置と、
を有するようにしたものである。
【0018】
(4) 本発明の第4の態様は、上述した第2の態様に係るスキャナ装置において、
パターン走査機構が、
物体を載置する載置ステージと、
照明ユニットを載置ステージに対して、線状パターンの構成要素となる線に直交する方向に移動させる搬送装置と、
を有するようにしたものである。
【0019】
(5) 本発明の第5の態様は、上述した第2の態様に係るスキャナ装置において、
パターン走査機構が、
照明ユニットから得られるホログラムの再生光の向きを変える光学系を有し、再生光によって投影される線状パターンを、その構成要素となる線に直交する方向に走査するようにしたものである。
【0020】
(6) 本発明の第6の態様は、上述した第1の態様に係るスキャナ装置において、
ホログラム記録媒体が複数の分割領域に分割されており、個々の分割領域には、それぞれ1本もしくは複数本の線状散乱体の像が記録されており、個々の分割領域から得られるホログラムの再生光により、それぞれ1本もしくは複数本の線を有する線状パターンが投影され、かつ、1つの分割領域から得られるホログラムの再生光により投影される線状パターンと、別な1つの分割領域から得られるホログラムの再生光により投影される線状パターンとが、空間上の異なる位置に形成されるようにしたものである。
【0021】
(7) 本発明の第7の態様は、上述した第6の態様に係るスキャナ装置において、
光ビーム走査装置が、第1番目の分割領域、第2番目の分割領域、第3番目の分割領域、... 、というように、所定の順番で光ビームの走査を行い、第i番目(i=1,2,3,... )の分割領域を走査しているときに、空間上の第i番目の位置に第i番目の線状パターンが投影されるようにし、光ビーム走査装置が、パターン走査機構の役割を兼ねるようにしたものである。
【0022】
(8) 本発明の第8の態様は、上述した第6または第7の態様に係るスキャナ装置において、
ホログラム記録媒体が、横方向に細長い複数の分割領域が縦方向に並んで配置されるように分割されており、個々の分割領域の長手方向と個々の分割領域から得られる再生像の長手方向とが平行になるようにホログラムの記録が行われているようにしたものである。
【0023】
(9) 本発明の第9の態様は、上述した第1〜第8の態様に係るスキャナ装置において、
光ビーム走査装置が、光ビームを所定の走査基点で屈曲させ、屈曲された光ビームをホログラム記録媒体に照射し、かつ、光ビームの屈曲態様を時間的に変化させることにより、屈曲された光ビームのホログラム記録媒体に対する照射位置を時間的に変化させ、
ホログラム記録媒体には、特定の収束点に収束する参照光または特定の収束点から発散する参照光を用いて散乱体の像がホログラムとして記録されており、
光ビーム走査装置が、収束点を走査基点として光ビームの走査を行うようにしたものである。
【0024】
(10) 本発明の第10の態様は、上述した第9の態様に係るスキャナ装置において、
ホログラム記録媒体に、収束点を頂点とした円錐の側面に沿って三次元的に収束もしくは発散する参照光を用いて散乱体の像が記録されているようにしたものである。
【0025】
(11) 本発明の第11の態様は、上述した第9の態様に係るスキャナ装置において、
ホログラム記録媒体に、収束点を含む平面に沿って二次元的に収束もしくは発散する参照光を用いて散乱体の像が記録されているようにしたものである。
【0026】
(12) 本発明の第12の態様は、上述した第1〜第8の態様に係るスキャナ装置において、
光ビーム走査装置が、光ビームを平行移動させながらホログラム記録媒体に照射することにより、光ビームのホログラム記録媒体に対する照射位置を時間的に変化させ、
ホログラム記録媒体には、平行光束からなる参照光を用いて散乱体の像がホログラムとして記録されており、
光ビーム走査装置が、参照光に平行になる方向から光ビームをホログラム記録媒体に照射して、光ビームの走査を行うようにしたものである。
【0027】
(13) 本発明の第13の態様は、物体に光の線状パターンを投影し、当該物体の表面情報を取り込む物体の表面情報取得方法において、
線状パターンを構成するための散乱体の像をホログラムとして記録用媒体上に記録することによりホログラム記録媒体を作成する準備段階と、
ホログラム記録媒体から得られるホログラムの再生光の照射を受ける位置に物体を配置した状態で、ホログラム記録媒体上にコヒーレントな光ビームを照射し、かつ、照射位置が時間的に変化するように光ビームをホログラム記録媒体上で走査し、物体上に線状パターンを投影する投影段階と、
線状パターンが投影された物体を所定方向から撮影し、物体の表面情報を取り込む撮影段階と、
を行い、
準備段階では、コヒーレントな照明光を散乱体に照射し、散乱体から得られる散乱光を物体光として用い、所定光路に沿って記録用媒体に照射され、照明光と同一波長のコヒーレントな光を参照光として用い、物体光と参照光とによって形成される干渉縞を記録用媒体に記録することによりホログラム記録媒体を作成し、
投影段階では、散乱体の像を再生することが可能な波長をもった光ビームが、参照光の光路に沿った光路を通ってホログラム記録媒体上の照射位置へ向かうように走査を行うようにしたものである。
【0028】
(14) 本発明の第14の態様は、物体を光の線状パターンで走査し、当該物体の表面情報を取り込むスキャナ装置において、
物体に光の線状パターンを投影する照明ユニットと、
線状パターンの物体に対する投影位置を時間的に変化させるパターン走査機構と、
線状パターンが投影された物体を所定方向から撮影し、物体の表面情報を取り込む撮影ユニットと、
を設け、
照明ユニットが、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
多数の個別レンズの集合体からなるマイクロレンズアレイと、
光ビームをマイクロレンズアレイに照射し、かつ、光ビームのマイクロレンズアレイに対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置と、
を有し、
マイクロレンズアレイを構成する個別レンズは、それぞれが、光ビーム走査装置から照射された光を屈折させ、物体の近傍面に線状の照射領域を形成する機能を有し、かつ、いずれの個別レンズによって形成される照射領域も、上記近傍面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されているようにしたものである。
【0029】
(15) 本発明の第15の態様は、物体を光の線状パターンで走査し、当該物体の表面情報を取り込むスキャナ装置において、
物体に光の線状パターンを投影する照明ユニットと、
線状パターンの物体に対する投影位置を時間的に変化させるパターン走査機構と、
線状パターンが投影された物体を所定方向から撮影し、物体の表面情報を取り込む撮影ユニットと、
を設け、
照明ユニットが、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
光ビームの向きもしくは位置またはその双方を制御することにより、ビーム走査を行う光ビーム走査装置と、
入射した光ビームを拡散して射出する光拡散素子と、
を有し、
光ビーム走査装置は、コヒーレント光源が発生した光ビームを、光拡散素子に向けて射出し、かつ、光ビームの光拡散素子に対する入射位置が時間的に変化するように走査し、
光拡散素子は、入射した光ビームを拡散させて物体の近傍面上に線状の照射領域を形成する機能を有し、かつ、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、上記近傍面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されているようにしたものである。
【0030】
(16) 本発明の第16の態様は、物体の三次元形状測定装置において、
物体に光の線状パターンを投影する照明ユニットと、
線状パターンが投影された物体を所定方向から撮影する撮影ユニットと、
撮影ユニットによる撮影画像上の線状パターンを解析することにより、物体の三次元形状データを作成する形状解析ユニットと、
を設け、
照明ユニットが、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
線状パターンに対応する形状をもった散乱体の像が記録されたホログラム記録媒体と、
光ビームをホログラム記録媒体に照射し、かつ、光ビームのホログラム記録媒体に対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置と、
を有し、
ホログラム記録媒体には、所定光路に沿って照射される参照光を用いて散乱体の像がホログラムとして記録されており、
コヒーレント光源は、散乱体の像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
光ビーム走査装置は、ホログラム記録媒体に対する光ビームの照射方向が参照光の光路に沿った方向になるように、光ビームの走査を行い、
ホログラム記録媒体から得られるホログラムの再生光により線状パターンが投影されるようにしたものである。
【0031】
(17) 本発明の第17の態様は、上述した第16の態様に係る物体の三次元形状測定装置において、
ホログラム記録媒体に、1本もしくは複数本の線状散乱体の像が記録されており、ホログラムの再生光により1本もしくは複数本の線を有する線状パターンが投影されるようにしたものである。
【0032】
(18) 本発明の第18の態様は、上述した第16の態様に係る物体の三次元形状測定装置において、
ホログラム記録媒体が複数の分割領域に分割されており、個々の分割領域には、それぞれ1本もしくは複数本の線状散乱体の像が記録されており、個々の分割領域から得られるホログラムの再生光により、それぞれ1本もしくは複数本の線を有する線状パターンが投影され、かつ、1つの分割領域から得られるホログラムの再生光により投影される線状パターンと、別な1つの分割領域から得られるホログラムの再生光により投影される線状パターンとが、空間上の異なる位置に形成されるようにしたものである。
【0033】
(19) 本発明の第19の態様は、上述した第18の態様に係る物体の三次元形状測定装置において、
光ビーム走査装置が、第1番目の分割領域、第2番目の分割領域、第3番目の分割領域、... 、というように、所定の順番で光ビームの走査を行い、第i番目(i=1,2,3,... )の分割領域を走査しているときに、空間上の第i番目の位置に第i番目の線状パターンが投影されるようにし、物体に対する線状パターンの投影位置を時間的に変化させるようにしたものである。
【0034】
(20) 本発明の第20の態様は、上述した第18または第19の態様に係る物体の三次元形状測定装置において、
ホログラム記録媒体が、横方向に細長い複数の分割領域が縦方向に並んで配置されるように分割されており、個々の分割領域の長手方向と個々の分割領域から得られる再生像の長手方向とが平行になるようにホログラムの記録が行われているようにしたものである。
【0035】
(21) 本発明の第21の態様は、上述した第16の態様に係る物体の三次元形状測定装置において、
ホログラム記録媒体に、横方向に伸びる線状散乱体を互いに平行になるように縦方向に複数並べた横方向格子状散乱体の像が記録されており、ホログラムの再生光により、互いに平行な複数の線を有する線状パターンが投影されるようにしたものである。
【0036】
(22) 本発明の第22の態様は、上述した第16の態様に係る物体の三次元形状測定装置において、
ホログラム記録媒体に、横方向に伸びる線状散乱体を互いに平行になるように縦方向に複数並べた横方向格子状散乱体の像と、縦方向に伸びる線状散乱体を互いに平行になるように横方向に複数並べた縦方向格子状散乱体の像と、が重畳して記録されており、ホログラムの再生光により、網目格子状の線状パターンが投影されるようにしたものである。
【0037】
(23) 本発明の第23の態様は、上述した第16の態様に係る物体の三次元形状測定装置において、
ホログラム記録媒体に、網目格子状散乱体の像が記録されており、ホログラムの再生光により、網目格子状の線状パターンが投影されるようにしたものである。
【0038】
(24) 本発明の第24の態様は、上述した第16〜第23の態様に係る物体の三次元形状測定装置において、
物体を載置する載置ステージと、
照明ユニットと載置ステージとについて、一方を他方に対して移動させる搬送装置と、
を更に設けるようにしたものである。
【0039】
(25) 本発明の第25の態様は、上述した第16〜第23の態様に係る物体の三次元形状測定装置において、
照明ユニットから得られるホログラムの再生光の向きを変える光学系を更に設け、再生光によって投影される線状パターンを走査するようにしたものである。
【0040】
(26) 本発明の第26の態様は、上述した第16〜第25の態様に係る物体の三次元形状測定装置において、
撮影ユニットが、それぞれ異なる方向から物体を撮影する複数台のカメラを有し、
形状解析ユニットが、複数台のカメラによって撮影された撮影画像上の線状パターンを解析することにより、物体の三次元形状データを作成するようにしたものである。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、コヒーレント光源を用いて物体に対する線状パターンの投影を行う機能をもち、かつ、物体表面でのスペックルの発生を抑制することが可能なスキャナ装置および物体の三次元形状測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る物体の三次元形状測定装置による測定原理を示す斜視図である。
【図2】図1に示す測定装置で撮影された撮影画像について行う画像解析の基本原理を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る物体の三次元形状測定装置の基本構成を示すブロック図である。
【図4】図3に示す照明ユニット100内のホログラム記録媒体に像が記録されている線状散乱体30の斜視図である。
【図5】本発明に係るスキャナ装置に組み込まれているホログラム記録媒体を作成するプロセスを示す光学系の配置図である。
【図6】図5に示すプロセスにおける参照光L23の断面S1とホログラム感光媒体40との位置関係を示す平面図である。
【図7】図5に示すプロセスにおける参照光L23の別な断面S2とホログラム感光媒体40との位置関係を示す平面図である。
【図8】図5に示す光学系における散乱体30およびホログラム感光媒体40の周囲の部分拡大図である。
【図9】図5に示すプロセスで作成されたホログラム記録媒体45を用いて、散乱体の像35を再生するプロセスを示す図である。
【図10】図5に示すプロセスで作成されたホログラム記録媒体45に対して、1本の光ビームのみを照射して散乱体の像35を再生するプロセスを示す図である。
【図11】図5に示すプロセスで作成されたホログラム記録媒体45に対して、1本の光ビームのみを照射して散乱体の像35を再生するプロセスを示す別な図である。
【図12】図10および図11に示す再生プロセスにおける光ビームの照射位置を示す平面図である。
【図13】本発明の基本的実施形態に係るスキャナ装置に用いる照明ユニット100の構成を示す側面図である。
【図14】図13に示す照明ユニット100を用いて、載置ステージ210を照明している状態を示す側面図である。
【図15】図13に示す照明ユニット100を用いて物体M上に線状パターンUを投影した状態を示す側面図である。
【図16】図13に示す照明ユニット100におけるホログラム記録媒体45上の光ビームの走査態様の第1の例を示す平面図である。
【図17】図13に示す照明ユニット100におけるホログラム記録媒体45上の光ビームの走査態様の第2の例を示す平面図である。
【図18】図13に示す照明ユニット100におけるホログラム記録媒体45上の光ビームの走査態様の第3の例を示す平面図である。
【図19】図13に示す照明ユニット100におけるホログラム記録媒体45上の光ビームの走査態様の第4の例を示す平面図である。
【図20】帯状のホログラム記録媒体85を用いた場合の光ビームの走査態様を示す平面図である。
【図21】図20に示す帯状のホログラム記録媒体85を作成するプロセスを示す光学系の配置図である。
【図22】本発明に係るスキャナ装置の構成要素であるホログラム記録媒体を、CGHの手法で作成する原理を示す側面図である。
【図23】図22に示されている仮想の散乱体30′の正面図である。
【図24】本発明によりスペックルの低減効果が得られた実験結果を示す表である。
【図25】本発明に係るスキャナ装置の変形例に用いるホログラム記録媒体88を示す平面図である。
【図26】図25に示すホログラム記録媒体88上の光ビームの走査態様を示す平面図である。
【図27】図25に示すホログラム記録媒体88の再生像によって、載置ステージ210上の受光面Rに形成される線状パターンUを示す平面図である。
【図28】本発明の変形例に係るスキャナ装置に用いるホログラム記録媒体に記録する第1の散乱体30Aの形状を示す平面図である。
【図29】本発明の変形例に係るスキャナ装置に用いるホログラム記録媒体に記録する第2の散乱体30Bの形状を示す平面図である。
【図30】本発明の変形例に係るスキャナ装置に用いるホログラム記録媒体に記録する第3の散乱体30Cの形状を示す平面図である。
【図31】収束参照光を用いて反射型のホログラム記録媒体を作成するプロセスを示す側面図である。
【図32】図31に示す方法で作成された反射型のホログラム記録媒体45の再生プロセスを示す側面図である。
【図33】収束参照光を用いて透過型のホログラム記録媒体を作成するプロセスを示す側面図である。
【図34】図33に示す方法で作成された透過型のホログラム記録媒体45の再生プロセスを示す側面図である。
【図35】発散参照光を用いてホログラム記録媒体を作成する場合の準備プロセスを示す側面図である。
【図36】図35の準備プロセスで作成された準備用ホログラム記録媒体95の再生プロセスを示す側面図である。
【図37】発散参照光を用いて反射型のホログラム記録媒体を作成するプロセスを示す側面図である。
【図38】発散参照光を用いて透過型のホログラム記録媒体を作成するプロセスを示す側面図である。
【図39】発散参照光を用いてホログラム記録媒体を作成する場合の別な準備プロセスを示す側面図である。
【図40】図39の準備プロセスで作成された準備用ホログラム記録媒体95の再生プロセスを示す側面図である。
【図41】本発明の変形例に係るスキャナ装置の構成要素であるホログラム記録媒体を作成するプロセスを示す光学系の配置図である。
【図42】本発明の変形例に係るスキャナ装置に用いる照明ユニット110の基本構成を示す側面図である。
【図43】本発明の別な変形例に係るスキャナ装置に用いる照明ユニット120の基本構成を示す側面図である。
【図44】図43に示す照明ユニット120の動作原理を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
【0044】
<<< §1.本発明に係る三次元形状測定装置の基本構成 >>>
本発明は、コヒーレント光源を用いたスキャナ装置およびこれを利用した物体の三次元形状測定装置に係るものである。そこで、ここでは、本発明に係る三次元形状測定装置の基本構成を説明する。
【0045】
図1は、本発明に係る物体の三次元形状測定装置による測定原理を示す斜視図である。ここでは、照明ユニット100からの照明を用いて、半球状の物体Mの三次元形状を測定する例が示されている。図示のとおり、物体Mは載置ステージ210の上面に置かれており、この載置ステージ210を図の白矢印で示す方向に移動させると、物体Mも同方向に移動する。一方、物体Mの上方には照明ユニット100が配置されており、物体Mに対して線状パターンUを投影する。この線状パターンUは、図では、便宜上、黒い太線で示しているが、実際には、載置ステージ210上に形成される帯状の照明領域である。
【0046】
また、載置ステージ210の上方には、3台のカメラ301,302,303が配置されており、線状パターンUが投影された物体Mをそれぞれ異なる方向から撮影できる。3台のカメラ301,302,303は、載置ステージ210に取り付けられており、載置ステージ210の移動に伴って移動する。載置ステージ210を、図に白矢印で示す方向(通常は、線状パターンUに直交する方向)に所定のステップで移動させながら、3台のカメラ301,302,303で物体Mを撮影すれば、線状パターンUを物体Mの表面の様々な位置に投影した状態の撮影画像が得られる。
【0047】
図2は、こうして得られた多数の撮影画像を解析して、物体Mの三次元形状に関する情報を得る処理の基本原理を示すブロック図である。図2の左に示す画像G(301,i)は第1のカメラ301による撮影画像であり、中央に示す画像G(302,i)は第2のカメラ302による撮影画像であり、右に示す画像G(303,i)は第3のカメラ303による撮影画像である。ここで、iは、載置ステージ210を移動させたステップ数を示すパラメータであり、たとえば、画像G(301,i)は、第i番目の移動ステップにおける第1のカメラ310の撮影画像を意味している。
【0048】
ステップ数iが共通の3枚の撮影画像は、同一の被写体(物体Mと線状パターンU)についての撮影画像であるが、撮影方向がそれぞれ異なるため、画像上に現れる線状パターンUの位置や形状は互いに異なる。そこで、3台のカメラ301,302,303の物体Mに対する幾何学的な配置情報を考慮しながら、各撮影画像に現れる線状パターンUを解析することにより、物体Mの三次元形状データTを得ることができる。
【0049】
図3は、本発明に係る物体の三次元形状測定装置の基本構成を示すブロック図である。図示のとおり、この測定装置は、照明ユニット100,パターン走査機構200,撮影ユニット300,形状解析ユニット400を備えている。照明ユニット100は、図1に例示するように、物体Mに光の線状パターンUを投影する機能を果たす。
【0050】
パターン走査機構200は、線状パターンUの物体Mに対する投影位置を時間的に変化させる機能を有し、図示の基本的な実施形態の場合、載置ステージ210と搬送装置220によって構成されている。載置ステージ210は、図1に示すように、上に物体Mを載置するための構造体であり、搬送装置220は、この載置ステージ210を、図の白矢印に示す方向に移動させる装置である。この搬送装置220は、たとえば、ベルトコンベアなどで構成することができる。載置ステージ210を移動させる方向は、線状パターンUの構成要素となる線に平行な方向でなければ、任意の方向でよいが、実用上は、物体Mに対する効率的な走査を行うために、線状パターンUの構成要素となる線に直交する方向に移動させるのが好ましい。図1に示す実施形態では、そのような向きへの移動が可能になるように、照明ユニット100の位置や向きが調整されている。
【0051】
一方、撮影ユニット300は、線状パターンUが投影された物体Mを所定方向から撮影し、物体Mの表面情報を取り込む機能を果たす。図1に示す例は、3台のカメラ301,302,303(CCDカメラなど)を撮影ユニット300として用いた例であるが、用いるカメラの台数は3台に限定されるわけではなく、物体Mの形状や必要な三次元形状データの内容などに応じて必要な台数を用意すればよい。場合によっては1台のカメラだけで足りることもあるが、一般的には、複数台のカメラを用意し、それぞれ異なる方向から物体Mを撮影できる構成を採るのが好ましい。
【0052】
また、形状解析ユニット400は、図2に示すとおり、撮影ユニット300(3台のカメラ301〜303)によって撮影された撮影画像G上の線状パターンUを解析することにより、物体Mの三次元形状データTを作成する処理を行う。すなわち、形状解析ユニット400は、撮影ユニット300から与えられる撮影画像Gをデジタルデータとして取り込み、撮影ユニット300に関する幾何学的情報(3台のカメラ301〜303の位置、向き、撮影の光学的な条件)を参照して所定のアルゴリズムに基づく演算を行い、物体Mの三次元形状データTを求める機能を有している。
【0053】
実際には、この形状解析ユニット400は、コンピュータに専用の形状解析用プログラムを組み込むことによって構成される。このような形状解析の具体的な方法については、前述したとおり、光切断法として様々なアルゴリズムが知られており(たとえば、Model-based Analysis and Evaluation of Point Sets from Optical 3D Laser Scanners、Shaker Verlag GmbH, Germany (2007年12月17日刊行):ISBN-13: 978-3832267759 には、三次元形状測定の基礎原理から、具体的なレーザスキャンの方法まで、詳細な記載がなされている)、また、本発明の特徴には直接関係しない部分であるため、ここでは詳しい説明は省略する。
【0054】
結局、図3に示す測定装置において、照明ユニット100,パターン走査機構200,撮影ユニット300の部分は、物体Mを光の線状パターンUで走査し、当該物体Mの表面情報を取り込むスキャナ装置としての役割を果たす。図3に示す測定装置は、このようなスキャナ装置によって得られる物体Mの表面情報を解析して、三次元形状データTを作成する形状解析ユニット400を更に付加した装置ということができる。
【0055】
なお、線状パターンUを走査する必要がない三次元形状測定装置の場合は、パターン走査機構200を省略することができる。たとえば、図1に示すように、半球状の物体Mを被測定対象として、その頂点を通る円周の形状のみを測定すれば足りる用途に用いる場合、図示のように物体Mの頂点を通る線状パターンUを投影した状態の撮影画像が得られれば十分なので、パターン走査機構200を省略しても支障はない。また、後に<5−4>で述べる変形例の場合も、パターン走査機構200を省略できる。
【0056】
以上、図1〜図3を参照して、本発明に係るスキャナ装置および三次元形状測定装置の基本構成を説明したが、本発明の本質的な特徴は、これらの構成要素のうち、照明ユニット100の部分にある。照明ユニット100は、物体Mに線状パターンUを投影するための構成要素である。ここで、線状パターンUは、形状解析ユニット400における画像解析において重要な指標を与える要素になるため、できるだけ鮮明な一様パターンであり、かつ、できるだけ輝度の高いパターンであることが望ましい。
【0057】
すなわち、形状解析ユニット400における画像解析では、まず、図2に示すような各撮影画像Gから、線状パターンUの領域を認識し、これを抽出する必要がある。幾何学的な解析は、こうして抽出された線状パターンUに対して行われる。このため、線状パターンUが不鮮明であったり、輝度が低かったりすると、撮影画像G上において、線状パターンUの領域と他の領域との識別が困難になり、正しい領域抽出を行うことができない。
【0058】
そこで、従来装置では、レンズなどの光学系を用いて光を集光して線状パターンUを形成したり、光源からの光をスリットに通して線状パターンUを形成したりする方法を採り、必要に応じて、高圧水銀ランプなどの高輝度光源を利用する工夫を行っていた。しかしながら、既に述べたとおり、このような方法では、必ずしも十分な線状パターンUを形成することができず、また、高輝度光源の寿命が比較的短いという問題も発生する。
【0059】
これに対して、レーザ光源などのコヒーレント光源を用いて照明ユニット100を構成すれば、上記問題を解決することができる。コヒーレント光源は、指向性に優れた光を発生することができるため、たとえば、載置ステージ210上をレーザビームで直線状に走査すれば、輪郭が極めて鮮明な線状パターンUを形成することができる。また、コヒーレント光源は、高輝度の光を発生させることができるため、撮影画像G上において、線状パターンUの領域と他の領域との識別が容易になる。しかも、コヒーレント光源は、単色性に優れているため、撮影画像G上において、色を基準として個々の画素をふるい分けることにより、線状パターンUの領域のみを抽出することが可能になる。また、半導体レーザなどのコヒーレント光源は、高圧水銀ランプなどに比べて極めて長寿命であり、しかも小型化を図ることができる利点もある。
【0060】
このような観点に関する限り、コヒーレント光源は、スキャナ装置や三次元形状測定装置に組み込む照明ユニット用の光源として、理想的な光源と言うことができる。しかしながら、既に述べたとおり、コヒーレント光源を用いた照明には、スペックルの発生という新たな問題が生じる。
【0061】
実際、図1に示す構成において、照明ユニット100内にレーザ光源を組み込み、載置ステージ210上でレーザビームを走査して線状パターンUを投影した場合、得られる線状パターンUにはギラギラしたスペックルが出現する。したがって、このような線状パターンUを用いて撮影ユニット300による撮影を行うと、得られる撮影画像上の線状パターンUの部分には、斑点状の輝度ムラが生じてしまい、何らかの画像処理を施さないと、線状パターンUの領域のみを正確に抽出することができなくなる。
【0062】
もちろん、スペックルノイズを低減させるための工夫として、前掲公報には、レーザ光を散乱板に当て、この散乱板を回転させたり、振動させたりする方法が開示されているが、この方法では、大掛かりな機械的駆動機構が必要であり、装置全体が大型化するとともに、消費電力も増加するという問題がある点は、既に述べたとおりである。
【0063】
本願発明者は、レーザ光源のようなコヒーレント光源を採用しつつ、特有の工夫を施すことにより、スペックルを効果的に低減させるユニークな方法の着想を得た。本発明に係る照明ユニット100は、このような着想に基づく特徴を有している。
【0064】
本願発明者の最初の着想は、図1に示す構成において、線状パターンUを、細長い散乱体のホログラム再生像によって形成する、というアイデアである。たとえば、図4に示すような線状散乱体30を用意する。この散乱体30は、入射した照明光を表面もしくは内部で一様に散乱させる性質をもった物体であれば、どのようなものでもかまわない。ホログラムは、コヒーレント光を用いて、任意の物体の再生像を任意の空間上に再生する技術であり、物体の三次元像を媒体上に記録する技術である。
【0065】
そこで、まず、準備段階として、図4に示すような線状散乱体30を用意し、その三次元像をホログラムとして記録媒体に記録しておく。そして、照明ユニット100の内部には、このような記録が行われたホログラム記録媒体とその再生に必要な構成要素を組み込んでおき、投影段階では、線状散乱体30の再生像によって線状パターンUを形成する。たとえば、図1に示す例の場合、照明ユニット100から図の下方に照射されている照明光は、図4に示す線状散乱体30の再生光ということになる。
【0066】
ここで、再生像の形成位置が、載置ステージ210の上面になるように調整しておけば、載置ステージ210の上面には、線状散乱体30の再生像として、線状パターンUが形成されることになり、物体M上に投影される線状パターンUは、この再生像を形成するための再生光によって生じたパターンということになる。このようにコヒーレント光によって生じた線状パターンUは、高い輝度をもち、単色性に優れ、その輪郭も鮮明なものになる。しかも、散乱体30の再生像によってパターンが形成されるため、全体的に一様な輝度をもったパターンが得られる。
【0067】
ただ、ホログラム再生像を得るためにコヒーレント光を用いているため、何らかの工夫を施さないとスペックルの発生は免れない。そこで、本願発明者は、スペックルを低減するための更なる工夫についての着想を得た。その基本概念は、ホログラムを再生する際に、ホログラム記録媒体をコヒーレントな光ビーム(再生用照明光)で走査し、再生に寄与する媒体上の領域が、時間とともに変化するようにする、というものである。このような方法で再生像を得ると、ホログラム記録媒体から照射される再生光の向きが時間的に変化するため、スペックルの発生要因が時間的に分散し、結果的に、スペックルの発生を抑制する効果が得られる。以下、このような工夫について詳述する。
【0068】
<<< §2.本発明に用いるホログラム記録媒体 >>>
はじめに、本発明の基本的実施形態に係るスキャナ装置(あるいは物体の三次元形状測定装置)に組み込まれる照明ユニット100について、その構成要素として用いるホログラム記録媒体の特徴を説明する。図5は、このホログラム記録媒体を作成するプロセスを示す光学系の配置図である。この光学系により、散乱体の像が記録されたホログラム記録媒体が作成される。
【0069】
図の右上に示されているコヒーレント光源10は、コヒーレントな光ビームL10を生成する光源であり、実際には、断面が円形をした単色レーザ光を発生するレーザ光源が用いられている。このレーザ光源で生成されたコヒーレントな光ビームL10は、ビームスプリッタ20で2本のビームに分けられる。すなわち、光ビームL10の一部は、そのままビームスプリッタ20を透過して図の下方へと導かれ、残りの一部は、ビームスプリッタ20で反射して光ビームL20として図の左方へと導かれる。
【0070】
ビームスプリッタ20を透過した光ビームL10は、散乱体の物体光Lobj を発生させる役割を果たす。すなわち、図の下方へと進んだ光ビームL10は、反射鏡11で反射して光ビームL11となり、更に、ビームエキスパンダー12によって径が広げられ、平行光束L12を構成し、散乱体30の右側の面の全領域に照射される。
【0071】
散乱体30は、図4の斜視図に示されているような細長い線状散乱体である。この線状散乱体30の形状は、載置ステージ210上に形成する線状パターンUに対応する形状にしておけばよい。以下の図では、図示の便宜上、図4に示す線状散乱体30の形状をデフォルメして(全長を縮めて)示してある。
【0072】
この散乱体30としては、一般に光学的拡散板と呼ばれている、照射された光を散乱する性質をもった板状材料を用いればよい。ここに示す実施例の場合、内部に光を散乱するための微小粒子(光の散乱体)が練り込まれた透過型散乱体(たとえば、オパールガラス板)を用いている。したがって、図示のとおり、散乱体30の右側の面に照射された平行光束L12は、散乱体30を透過して、左側の面から散乱光L30として射出する。この散乱光L30は、散乱体30の物体光Lobj を構成する。
【0073】
一方、ビームスプリッタ20で反射した光ビームL20は、参照光Lref を発生させる役割を果たす。すなわち、ビームスプリッタ20から図の左方へと進んだ光ビームL20は、反射鏡21で反射して光ビームL21となり、更に、ビームエキスパンダー22によって径が広げられ、平行光束L22を構成し、点Cを焦点とする凸レンズ23で屈折された後にホログラム感光媒体40に照射される。なお、平行光束L22は、必ずしも厳密な平行光線の集合でなくても、ほぼ平行な光線の集合であれば、実用上は問題ない。ホログラム感光媒体40は、ホログラム像を記録するために用いる感光性の媒体である。このホログラム感光媒体40への照射光L23は、参照光Lref を構成する。
【0074】
結局、ホログラム感光媒体40には、散乱体30の物体光Lobj と、参照光Lref とが照射されることになる。ここで、物体光Lobj および参照光Lref は、いずれもコヒーレント光源10(レーザ光源)で生成された同一波長λをもったコヒーレント光であるから、ホログラム感光媒体40には、両者の干渉縞が記録されることになる。別言すれば、ホログラム感光媒体40には、散乱体30の像がホログラムとして記録される。
【0075】
図6は、図5に示す参照光L23(Lref )の断面S1とホログラム感光媒体40との位置関係を示す平面図である。ビームエキスパンダー22によって径が広げられた平行光束L22は円形断面を有しているため、凸レンズ23で集光された参照光Lref は、レンズの焦点Cを頂点とする円錐状に収束する。ただ、図5に示す例では、ホログラム感光媒体40が、この円錐の中心軸に対して斜めに配置されているため、参照光L23(Lref )をホログラム感光媒体40の表面で切断した断面S1は、図6に示すように楕円になる。
【0076】
このように、図6に示す例では、参照光Lref は、ホログラム感光媒体40の全領域のうち、図にハッチングを示す領域内にのみ照射されるので、散乱体30のホログラムは、このハッチングを施した領域内にのみ記録されることになる。もちろん、ビームエキスパンダー22によって径がより大きな平行光束L22を生成し、径がより大きな凸レンズ23を用いれば、図7に示す例のように、参照光Lref の断面S2内に、ホログラム感光媒体40がそっくり含まれるようにすることもできる。この場合、図にハッチングを施したように、ホログラム感光媒体40の全面に散乱体30のホログラムが記録される。本発明に用いるホログラム記録媒体を作成する上では、図6,図7のいずれの形態で記録を行ってもかまわない。
【0077】
続いて、散乱体30の像が、ホログラム感光媒体40上に記録される光学的なプロセスを、より詳しく見てみよう。図8は、図5に示す光学系における散乱体30およびホログラム感光媒体40の周囲の部分拡大図である。上述したように、参照光Lref は、円形断面を有する平行光束L22を、焦点Cをもつ凸レンズ23で集光したものであり、焦点Cを頂点とする円錐状に収束する。そこで、以下、この焦点Cを収束点と呼ぶことにする。ホログラム感光媒体40に照射される参照光L23(Lref )は、図示のとおり、この収束点Cに収束する光ということになる。
【0078】
一方、散乱体30から発せられる光(物体光Lobj )は散乱光であるから、様々な方向に向かうことになる。たとえば、図示のように、散乱体30の左側面の上端に物体点Q1を考えると、この物体点Q1からは、四方八方に散乱光が射出される。同様に、任意の物体点Q2やQ3からも、四方八方に散乱光が射出される。したがって、ホログラム感光媒体40内の任意の点P1に着目すると、物体点Q1,Q2,Q3からの物体光L31,L32,L33と収束点Cへ向かう参照光Lref との干渉縞の情報が記録されることになる。もちろん、実際には、散乱体30上の物体点は、Q1,Q2,Q3だけではないので、散乱体30上のすべての物体点からの情報が、同様に、参照光Lref との干渉縞の情報として記録される。別言すれば、図示の点P1には、散乱体30の全情報が記録されることになる。また、全く同様に、図示の点P2にも、散乱体30の全情報が記録される。このように、ホログラム感光媒体40内のいずれの部分にも、散乱体30の全情報が記録されることになる。これがホログラムの本質である。
【0079】
さて、このような方法で、散乱体30の情報が記録されたホログラム感光媒体40を、以下、ホログラム記録媒体45と呼ぶことにする。このホログラム記録媒体45を再生して、散乱体30のホログラム再生像を得るためには、記録時に用いた光と同一波長のコヒーレント光を、記録時の参照光Lref に応じた方向から、再生用照明光として照射すればよい。
【0080】
図9は、図8に示すプロセスで作成されたホログラム記録媒体45を用いて、散乱体の像35を再生するプロセスを示す図である。図示のとおり、ホログラム記録媒体45に対して、下方から再生用照明光Lrep が照射されている。この再生用照明光Lrep は、収束点Cに位置する点光源から球面波として発散するコヒーレント光であり、その一部分は、図示のように円錐状に広がりながらホログラム記録媒体45を照射する光になる。また、この再生用照明光Lrep の波長は、ホログラム記録媒体45の記録時の波長(すなわち、図5に示すコヒーレント光源10が発生するコヒーレント光の波長)に等しい。
【0081】
ここで、図9に示すホログラム記録媒体45と収束点Cとの位置関係は、図8に示すホログラム感光媒体40と収束点Cとの位置関係と全く同じである。したがって、図9に示す再生用照明光Lrep は、図8に示す参照光Lref の光路を逆進する光に対応する。このような条件を満たす再生用照明光Lrep をホログラム記録媒体45に照射すると、その回折光L45(Ldif )によって、散乱体30のホログラム再生像35(図では、破線で示す)が得られる。図9に示すホログラム記録媒体45と再生像35との位置関係は、図8に示すホログラム感光媒体40と散乱体30との位置関係と全く同じである。
【0082】
このように、任意の物体の像をホログラムとして記録し、これを再生する技術は、古くから実用化されている公知の技術である。ただ、一般的な用途に利用するホログラム記録媒体を作成する場合、参照光Lref として平行光束が用いられる。平行光束からなる参照光Lref を用いて記録したホログラムは、再生時にも、平行光束からなる再生用照明光Lrepを利用すればよいので、利便性に優れている。
【0083】
これに対して、図8に示すように、収束点Cに収束する光を参照光Lref として利用すると、再生時には、図9に示すように、収束点Cから発散する光を再生用照明光Lrep として用いる必要がある。実際、図9に示すような再生用照明光Lrep を得るためには、特定の位置にレンズなどの光学系を配置する必要がある。また、再生時のホログラム記録媒体45と収束点Cとの位置関係が、記録時のホログラム感光媒体40と収束点Cとの位置関係に一致していないと、正確な再生像35が得られなくなるので、再生時の照明条件が限定されてしまう(平行光束を用いて再生する場合であれば、照明条件は照射角度だけが満足されていればよい)。
【0084】
このような理由から、収束点Cに収束する参照光Lrefを用いて作成したホログラム記録媒体は、一般的な用途には不向きである。それにもかかわらず、ここに示す実施形態において、収束点Cに収束する光を参照光Lref として用いる理由は、再生時に行う光ビーム走査を容易にするためである。すなわち、図9では、説明の便宜上、収束点Cから発散する再生用照明光Lrep を用いて散乱体30の再生像35を生成する方法を示したが、本発明では、実際には、図示のように円錐状に広がる再生用照明光Lrep を用いた再生は行わない。その代わりに、光ビームを走査するという方法を採る。以下、この方法を詳しく説明する。
【0085】
図10は、図8に示すプロセスで作成されたホログラム記録媒体45に対して、1本の光ビームのみを照射して散乱体30の像35を再生するプロセスを示す図である。すなわち、この例では、収束点Cから媒体内の1点P1に向かう1本の光ビームL61のみが再生用照明光Lrep として与えられる。もちろん、光ビームL61は、記録時の光と同じ波長をもったコヒーレント光である。既に図8を参照して説明したとおり、ホログラム記録媒体45内の任意の点P1には、散乱体30全体の情報が記録されている。したがって、図10の点P1の位置に対して、記録時に用いた参照光Lref に対応した条件で再生用照明光Lrep を照射すれば、この点P1の近傍に記録されている干渉縞のみを用いて、散乱体30の再生像35を生成することが可能である。図10には、点P1からの回折光L45(Ldif )によって、再生像35が再生された状態が示されている。
【0086】
一方、図11は、収束点Cから媒体内の別な点P2に向かう1本の光ビームL62のみを再生用照明光Lrep として与えた例である。この場合も、点P2には、散乱体30全体の情報が記録されているので、点P2の位置に対して、記録時に用いた参照光Lref に対応した条件で再生用照明光Lrep を照射すれば、この点P2の近傍に記録されている干渉縞のみを用いて、散乱体30の再生像35を生成することが可能である。図11には、点P2からの回折光L45(Ldif )によって、再生像35が再生された状態が示されている。図10に示す再生像35も、図11に示す再生像35も、同じ散乱体30を原画像とするものであるから、理論的には、同じ位置に生成される同じ再生像ということになる。
【0087】
図12は、図10および図11に示す再生プロセスにおける光ビームの照射位置を示す平面図である。図12の点P1は、図10の点P1に対応し、図12の点P2は、図11の点P2に対応する。A1,A2は、それぞれ再生用照明光Lrep の断面を示している。断面A1,A2の形状および大きさは、光ビームL61,L62の断面の形状および大きさに依存する。また、ホログラム記録媒体45上の照射位置にも依存する。ここでは、便宜上、円形の断面A1,A2を示しているが、実際には、円形断面をもつ光ビームL61,L62を用いた場合、断面形状は照射位置に応じて扁平した楕円になる。
【0088】
このように、図12に示す点P1近傍と、点P2近傍では、それぞれ記録されている干渉縞の内容は全く異なるものであるが、いずれの点に再生用照明光Lrep となる光ビームを照射した場合でも、同じ位置に同じ再生像35が得られることになる。これは、再生用照明光Lrep が収束点Cから各点P1,P2に向かう光ビームであるため、いずれの点についても、図8に示す記録時の参照光Lref の向きに応じた向きの再生用照明光Lrep が与えられるためである。
【0089】
図12には、2つの点P1,P2のみを例示したが、もちろん、ホログラム記録媒体45上の任意の点についても同様のことが言える。したがって、ホログラム記録媒体45上の任意の点に光ビームを照射した場合、当該光ビームが収束点Cからの光である限り、同一位置に同一の再生像35が得られることになる。もっとも、図6に示すように、ホログラム感光媒体40の一部分の領域(図にハッチングを施して示す領域)にのみホログラムを記録した場合、再生像35が得られるのは、当該領域内の点に光ビームを照射した場合に限られる。
【0090】
結局、ここで述べたホログラム記録媒体45は、特定の収束点Cに収束する参照光Lref を用いて散乱体30の像がホログラムとして記録されている媒体であり、この収束点Cを通る光ビームを再生用照明光Lrep として任意の位置に照射すると、散乱体30の再生像35が生成される、という特徴を有している。したがって、再生用照明光Lrep として、収束点Cを通る光ビームを、ホログラム記録媒体45上で走査すると、個々の照射箇所から得られる回折光Ldif によって、同一の再生像35が同一位置に再生されることになる。
【0091】
<<< §3.本発明の基本的実施形態に係る照明ユニット >>>
本発明の特徴は、スキャナ装置あるいは物体の三次元形状測定装置に、スペックル抑制機能をもった特有の照明ユニットを採用した点にある。そこで、ここでは、本発明の基本的実施形態に係る照明ユニット100の構成を、図13の側面図を参照しながら説明する。図示のとおり、この照明ユニット100は、ホログラム記録媒体45、コヒーレント光源50、光ビーム走査装置60によって構成されている。
【0092】
ここで、ホログラム記録媒体45は、§2で述べた特徴を有する媒体であり、散乱体30の像35が記録されている。また、コヒーレント光源50は、ホログラム記録媒体45を作成する際に用いた光(物体光Lobj および参照光Lref )の波長と同一波長をもつコヒーレントな光ビームL50を発生させる光源である。
【0093】
一方、光ビーム走査装置60は、コヒーレント光源50が発生した光ビームL50を、所定の走査基点Bで屈曲させてホログラム記録媒体45に照射し、かつ、光ビームL50の屈曲態様を時間的に変化させることにより、屈曲された光ビームL60のホログラム記録媒体45に対する照射位置が時間的に変化するように走査する装置である。このような装置は、一般に、走査型ミラーデバイスとして公知の装置である。図には、説明の便宜上、時刻t1における屈曲態様を一点鎖線で示し、時刻t2における屈曲態様を二点鎖線で示している。すなわち、時刻t1では、光ビームL50は走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t1)としてホログラム記録媒体45の点P(t1)に照射されるが、時刻t2では、光ビームL50は、走査基点Bで屈曲し光ビームL60(t2)としてホログラム記録媒体45の点P(t2)に照射される。
【0094】
図には、便宜上、時刻t1,t2の2つの時点における屈曲態様しか示されていないが、実際には、時刻t1〜t2の期間において、光ビームの屈曲方向は滑らかに変化し、光ビームL60のホログラム記録媒体45に対する照射位置は、図の点P(t1)〜P(t2)へと徐々に移動してゆくことになる。すなわち、時刻t1〜t2の期間において、光ビームL60の照射位置は、ホログラム記録媒体45上において点P(t1)〜P(t2)へと走査されることになる。
【0095】
ここで、走査基点Bの位置を、図8に示す収束点Cの位置に一致させておけば(別言すれば、図13におけるホログラム記録媒体45と走査基点Bとの位置関係が、図8におけるホログラム感光媒体40と収束点Cとの位置関係に等しくなるようにしておけば)、ホログラム記録媒体45の各照射位置において、光ビームL60は、図8に示す参照光Lref に応じた向き(図8に示す参照光Lref の光路を逆進する向き)に照射されることになる。したがって、光ビームL60は、ホログラム記録媒体45の各照射位置において、そこに記録されているホログラムを再生するための正しい再生用照明光Lrep として機能する。
【0096】
たとえば、時刻t1では、点P(t1)からの回折光L45(t1)によって、散乱体30の再生像35が生成され、時刻t2では、点P(t2)からの回折光L45(t2)によって、散乱体30の再生像35が生成される。もちろん、時刻t1〜t2の期間においても、光ビームL60が照射された個々の位置からの回折光によって、同様に散乱体30の再生像35が生成される。すなわち、光ビームL60が、走査基点Bからホログラム記録媒体45へ向かう光である限り、ホログラム記録媒体45上のどの位置に光ビームL60が照射されたとしても、照射位置からの回折光によって、同一の再生像35が同一位置に生成されることになる。
【0097】
このような現象が起こるのは、図8に示すとおり、ホログラム記録媒体45には、特定の収束点Cに収束する参照光L23を用いて散乱体30の像がホログラムとして記録されており、光ビーム走査装置60が、この収束点Cを走査基点Bとして光ビームL60の走査を行うためである。もちろん、光ビーム走査装置60による走査を停止して、光ビームL60の照射位置をホログラム記録媒体45上の1点に固定したとしても、同じ再生像35が同一位置に生成され続けることに変わりはない。それにもかかわらず、光ビームL60を走査するのは、スペックルノイズを抑制するために他ならない。
【0098】
図14は、図13に示す照明ユニット100を用いて、載置ステージ210を照明している状態を示す側面図である。ここでは、図示の便宜上、右端に配置された載置ステージ210を左方から照明する状態が示されているが、図1に示す三次元形状測定装置に用いる場合、照明ユニット100は、下方に配置された載置ステージ210を上方から照明することになる。
【0099】
既に述べたとおり、照明ユニット100は、ホログラム記録媒体45から得られる散乱体の像35の再生光を照明光として用いる装置である。ここでは、載置ステージ210の左側の面(図1に示す構成の場合は上面)を照明ユニット100によって照明するために、図示のように、散乱体の再生像35の左側面に載置ステージ210の左側面が一致するような位置に、載置ステージ210を配置した場合を考えてみる。この場合、載置ステージ210の左側面が受光面Rとなり、ホログラム記録媒体45からの回折光は、この受光面Rに照射されることになる。
【0100】
そこで、この受光面R上に任意の着目点Qを設定し、この着目点Qに到達する回折光がどのようなものかを考えてみる。まず、時刻t1では、コヒーレント光源50から出た光ビームL50は、図に一点鎖線で示すように走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t1)として点P(t1)に照射される。そして、点P(t1)からの回折光L45(t1)が着目点Qに到達する。一方、時刻t2では、コヒーレント光源50から出た光ビームL50は、図に二点鎖線で示すように走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t2)として点P(t2)に照射される。そして、点P(t2)からの回折光L45(t2)が着目点Qに到達する。
【0101】
結局、このような回折光によって、着目点Qの位置には、常に、散乱体30の着目点Qの位置に対応する再生像が生成されることになるが、着目点Qに対する回折光の入射角は、時刻t1と時刻t2とで異なる。別言すれば、光ビームL60を走査した場合、受光面R上に形成される再生像35に変わりはないものの、受光面R上の個々の点に到達する回折光の入射角度は時間とともに変化することになる。このような入射角度の時間変化は、スペックルを低減させる上で大きな貢献を果たす。
【0102】
前述したとおり、コヒーレント光を用いるとスペックルが発生する理由は、受光面Rの各部で反射したコヒーレント光が、その極めて高い可干渉性ゆえに、互いに干渉し合うためである。ところが、本発明では、光ビームL60の走査により、受光面R(もしくは物体Mの表面)の各部への回折光の入射角度が時間的に変動するため、干渉の態様も時間的に変動し、多重度をもつことになる。このため、スペックルの発生要因は、時間的に分散し、線状パターンUに生じる輝度ムラを低減させることができる。これが図14に示す照明ユニット100のもつ有利な特徴である。
【0103】
本発明に係るスキャナ装置および物体の三次元形状測定装置は、このような特徴をもつ照明ユニット100を用いて、物体Mに対する線状パターンUの投影を行う。図15は、図13に示す照明ユニット100を用いて物体M上に線状パターンUを投影した状態を示す側面図である。線状パターンUは、本来は厚みのないパターンであるが、ここでは、説明の便宜上、黒い太線で示している。
【0104】
図示の例の場合、物体Mを載せるための載置ステージ210の上面を構成する受光面Rに、ホログラム再生像35が形成された状態が示されている。したがって、線状パターンUのうち、受光面R上に形成されている部分は、ホログラム再生像35そのものになるが、物体Mの上面に形成されている部分は、ホログラム再生光が物体Mの表面で遮られて散乱した領域からなるパターンということになる。したがって、前者に比べて後者は、輪郭部分が若干ボケて不鮮明になるが、物体Mの高さに比べて、照明ユニット100と受光面Rとの距離が十分に大きければ、実用上、問題は生じない。
【0105】
同様の理由により、ホログラム再生像35の形成位置は、必ずしも載置ステージ210の上面の位置に正確に一致させる必要はなく、たとえば、ホログラム再生像35が物体Mの上端位置に形成されるようにしてもかまわない。上述したように、物体Mの高さに比べて、照明ユニット100と受光面Rとの距離が十分に大きくなるように設定しておけば、物体Mの近傍面上にホログラム再生像35が形成されるようにすれば、実用上、問題は生じない。
【0106】
かくして、本発明に係る照明ユニット100を用いれば、コヒーレント光を用いることにより、単色性をもった高輝度の線状パターンUを物体M上に投影しつつ、スペックルの低減を図ることができる。しかも、光ビーム走査装置60は、比較的小型の装置で実現することができるので、散乱体を回転させたり、振動させたりする従来装置に比べて、照明ユニット100を小型化することが可能であり、消費電力も低く抑えることができる。
【0107】
<<< §4.照明ユニット各部の詳細な説明 >>>
図13に示す照明ユニット100は、§3で述べたとおり、ホログラム記録媒体45、コヒーレント光源50、光ビーム走査装置60によって構成されている。ここでは、これら各構成要素について、より詳細な説明を行う。
【0108】
<4−1> コヒーレント光源
まず、コヒーレント光源50としては、ホログラム記録媒体45を作成する際に用いた光(物体光Lobj および参照光Lref )の波長と同一波長をもつコヒーレントな光ビームL50を発生させる光源を用いればよい。もっとも、コヒーレント光源50が発生させる光ビームL50の波長は、ホログラム記録媒体45を作成する際に用いた光の波長と完全に同一である必要はなく、近似する波長であれば、ホログラムの再生像を得ることができる。要するに、本発明に用いるコヒーレント光源50は、散乱体の像35を再生することが可能な波長をもったコヒーレントな光ビームL50を発生させる光源であればよい。
【0109】
実際には、図5に示すコヒーレント光源10と同一の光源を、そのままコヒーレント光源50として利用することができる。ここに示す実施形態の場合、波長λ=532nm(緑色)のレーザ光を射出することが可能なDPSS(Diode Pumped Solid State)レーザ装置をコヒーレント光源50として用いた。DPSSレーザは、小型でありながら比較的高出力の所望の波長のレーザ光を得ることができるため、本発明に係るスキャナ装置や物体の三次元形状測定装置への利用に適したコヒーレント光源である。
【0110】
このDPSSレーザ装置は、一般的な半導体レーザに比べてコヒーレント長が長いため、スペックルが発生しやすく、従来は、照明の用途には不適当と考えられていた。すなわち、従来は、スペックルを低減させるためには、レーザ光の発振波長に幅をもたせ、できるだけコヒーレント長を短くする努力が払われてきた。これに対して、本発明では、コヒーレント長が長い光源を用いたとしても、前述した原理により、スペックルの発生を効果的に抑制することができるので、光源としてDPSSレーザ装置を用いたとしても、実用上、スペックルの発生は問題にならなくなる。このような点において、本発明を利用すれば、光源の選択範囲をより広げる効果が得られる。
【0111】
<4−2> 光ビーム走査装置
光ビーム走査装置60は、ホログラム記録媒体45上で、光ビームを走査する機能をもった装置である。ここでは、この光ビーム走査装置60によるビーム走査の具体的な方法を述べておく。図16は、図13に示す照明ユニット100におけるホログラム記録媒体45上の光ビームの走査態様の第1の例を示す平面図である。この例では、ホログラム記録媒体45として、横幅Da=12mm、縦幅Db=10mmの媒体を用い、この媒体上を走査する光ビームL60として、直径1mmの円形断面をもったレーザビームを用いている。図示のとおり、CRTにおける電子線の走査と同様に、光ビームL60の照射位置を、第1行目の開始領域A1Sから終了領域A1Eまで水平方向に走査し、続いて、第2行目の開始領域A2Sから終了領域A2Eまで水平方向に走査し、... 、最後に、第n行目の開始領域AnSから終了領域AnEまで水平方向に走査し、再び、第1行目の開始領域A1Sへ戻って、同様の作業を繰り返す方法が採られている。
【0112】
この図16に示す走査方法では、ホログラム記録媒体45の全面が光ビームによる走査を受けることになるが、本発明では、必ずしもホログラム記録媒体45の全面を漏れなく走査する必要はない。たとえば、図17は、図16に示す走査方法における奇数行目の走査のみを行い、偶数行目の走査を省略した例である。このように、1行おきに走査を行うと、ホログラム記録媒体45の一部の領域に記録されているホログラム情報は、像の再生に全く寄与しないことになるが、それでも特に問題が生じることはない。図18は、更に極端な走査方法を示す例であり、縦幅Dbの中央位置において、開始領域A1Sから終了領域A1Eまで水平方向に1行だけ走査する作業を繰り返し行うものである。
【0113】
もちろん、走査方向の設定も自由であり、1行目の走査を左から右へ行った後、2行目の走査を右から左へ行うようにしてもよい。また、走査方向は必ずしも直線に限定されるものではなく、ホログラム記録媒体45上で円を描くような走査を行うことも可能である。
【0114】
なお、図6に示す例のように、ホログラム感光媒体40の一部の領域(ハッチングを施した領域)にのみ参照光Lref を照射して記録を行った場合は、他の領域(外側の白い領域)にはホログラムが記録されていない。このような場合、外側の白い領域まで走査を行うと再生像35が得られないため、照明が一時的に暗くなってしまう。したがって、実用上は、ホログラムが記録されている領域内のみを走査するようにするのが好ましい。
【0115】
既に述べたとおり、ホログラム記録媒体45上における光ビームの走査は、光ビーム走査装置60によって行われる。この光ビーム走査装置60は、コヒーレント光源50からの光ビームL50を、走査基点B(ホログラム記録時の収束点C)で屈曲させてホログラム記録媒体45に照射する機能を有する。しかも、その屈曲態様(屈曲の方向と屈曲角度の大きさ)を時間的に変化させることにより、屈曲された光ビームL60のホログラム記録媒体45に対する照射位置が時間的に変化するように走査する。このような機能をもった装置は、走査型ミラーデバイスとして種々の光学系で利用されている。
【0116】
たとえば、図13に示す例では、光ビーム走査装置60として、便宜上、単なる反射鏡の図が描かれているが、実際には、この反射鏡を2軸方向に回動させる駆動機構が備わっている。すなわち、図示の反射鏡の反射面の中心位置に走査基点Bを設定し、この走査基点Bを通り、反射面上で互いに直交するV軸およびW軸を定義した場合に、この反射鏡をV軸(図の紙面に垂直な軸)まわりに回動させる機構と、W軸(図に破線で示す軸)まわりに回動させる機構とが備わっている。
【0117】
このように、V軸およびW軸まわりに独立して回動可能な反射鏡を用いれば、反射した光ビームL60を、ホログラム記録媒体45上で水平方向および垂直方向に走査することが可能である。たとえば、上述の機構において、反射光をV軸まわりに回動すれば、図16に示すホログラム記録媒体45上で光ビームL60の照射位置を水平方向に走査することができ、W軸まわりに回動すれば、垂直方向に走査することができる。
【0118】
要するに、光ビーム走査装置60が、走査基点Bを含む平面上で揺動運動を行うように光ビームL60を屈曲させる機能を有していれば、ホログラム記録媒体45上で光ビームL60の照射位置を一次元方向に走査することができる。図18に示す例のように、光ビームを水平方向にのみ走査を行う運用をとるのであれば、光ビーム走査装置60は、ホログラム記録媒体45上での光ビームの照射位置を一次元方向に走査する機能を有していれば足りる。
【0119】
これに対して、ホログラム記録媒体45上で光ビームL60の照射位置を二次元方向に走査する運用をとるのであれば、光ビーム走査装置60に、走査基点Bを含む第1の平面上で揺動運動を行うように光ビームL60を屈曲させる機能と(図13において、V軸まわりに反射鏡を回動させれば、光ビームL60は、紙面に含まれる平面上で揺動運動を行う)、走査基点Bを含み第1の平面と直交する第2の平面上で揺動運動を行うように光ビームL60を屈曲させる機能と(図13において、W軸まわりに反射鏡を回動させれば、光ビームL60は、紙面に垂直な平面上で揺動運動を行う)、をもたせておけばよい。
【0120】
光ビームの照射位置を一次元方向に走査するための走査型ミラーデバイスとしては、ポリゴンミラーが広く利用されている。また、二次元方向に走査するための走査型ミラーデバイスとしては、ポリゴンミラーを2組組み合わせたものを用いることもできるし、ジンバルミラー、ガルバノミラー、MEMSミラーなどのデバイスが知られている。更に、通常のミラーデバイス以外でも、全反射プリズム、屈折プリズム、電気光学結晶(KTN結晶など)等も、光ビーム走査装置60として利用可能である。
【0121】
なお、光ビームL60の径が、ホログラム記録媒体45の寸法に近くなると、スペックルを抑制する効果が損なわれることがあるので留意する必要がある。図16〜図18に示す例の場合、上述したとおり、ホログラム記録媒体45の横幅はDa=12mm、縦幅はDb=10mmであり、光ビームL60は直径1mmの円形断面をもったレーザビームである。このような寸法条件であれば、スペックルを抑制する効果が十分に得られる。これは、ホログラム記録媒体45上のいずれの領域も、光ビームL60の照射を一時的に受けるだけであり、同一領域から継続して回折光が出ることはないためである。
【0122】
ところが、たとえば、図19に示す例のように、ホログラム記録媒体45の寸法に近い径をもった光ビームを照射した場合、継続して回折光を出し続ける領域(図のハッチング部分)が形成されることになる。すなわち、光ビームL60の照射位置を、第1行目の開始領域A1Sから終了領域A1Eまで水平方向に走査したとしても、図にハッチングを施した領域a1は、常に光ビームの照射を受けることになる。同様に、第n行目の開始領域AnSから終了領域AnEまで水平方向に走査したとしても、領域a2は、常に光ビームの照射を受けることになる。また、垂直方向の走査を考えると、各行の開始領域に関しては領域a3が、各行の終了領域に関しては領域a4が、それぞれ重複した領域となるので、走査する行を変えても、常に光ビームの照射を受けることになる。
【0123】
結局、これらハッチングを施した領域については、光ビーム走査の恩恵を受けることができず、継続して回折光が出ることになる。その結果、そのような領域から発せられた回折光は、照明対象物の受光面R上に同一角度で入射し続けることになり、スペックル発生の要因となる。したがって、光ビームL60の径は、ホログラム記録媒体45の寸法に近いほど大きくすべきではない。
【0124】
このような弊害は、走査ピッチを光ビームL60の径より小さく設定した場合にも生じる。たとえば、図16は、縦方向の走査ピッチを光ビームL60の径に等しく設定した例であり、図17は、縦方向の走査ピッチを光ビームL60の径の2倍に設定した例である。このように、縦方向(副走査方向)の走査ピッチを光ビームの径以上に設定しておけば、第i行目の走査領域と第(i+1)行目の走査領域とが重複することはないが、走査ピッチが光ビームの径未満になると、重複領域が発生し、上述したようにスペックル発生の要因になる可能性がある。
【0125】
また、撮影ユニット300の撮影時間(CCDカメラの露光時間)に比べて遅い走査速度も、スペックル発生の要因になる。たとえば、1行の走査に1時間を要するような遅い速度で走査したとしても、撮影ユニット300の撮影時間の尺度からは、走査を行っていないのと同じであり、撮影画像上にはスペックルが現れることになる。光ビームを走査することによりスペックルが低減するのは、前述したとおり、受光面R(もしくは物体Mの表面)の各部に照射される光の入射角度が時間的に多重化されるためである。したがって、ビーム走査によるスペックル低減の効果を十分に得るためには、スペックルを生じさせる原因となる同一の干渉条件が維持される時間が、撮影ユニット300の撮影時間よりも短くなるようにし、1枚の画像を撮影するための露光時間の間に、スペックルを発生させる条件が時間的に変化するようにすればよい。
【0126】
<4−3> ホログラム記録媒体
ホログラム記録媒体45については、既に§2において、詳細な製造プロセスを述べたとおりである。すなわち、本発明に用いるホログラム記録媒体45は、特定の収束点Cに収束する参照光を用いて散乱体30の像がホログラムとして記録されている、という特徴を有している媒体であればよい。そこで、ここでは、本発明に利用するのに適した具体的なホログラム記録媒体の形態を述べておく。
【0127】
ホログラムには、いくつかの物理的な形態がある。本願発明者は、本発明に利用するには、体積型ホログラムが最も好ましいと考えている。特に、フォトポリマーを用いた体積型ホログラムを用いるのが最適である。
【0128】
一般に、キャッシュカードや金券などに偽造防止用シールとして利用されているホログラムは、表面レリーフ(エンボス)型ホログラムと呼ばれており、表面の凹凸構造によってホログラム干渉縞の記録が行われる。もちろん、本発明を実施する上では、散乱体30の像を、表面レリーフ型ホログラムとして記録しているホログラム記録媒体45(一般に、ホログラフィック・ディフーザーと呼ばれている)を利用することも可能である。しかしながら、この表面レリーフ型ホログラムの場合、表面の凹凸構造による散乱が、新たなスペックル生成要因となる可能性があるため、スペックルを低減させる、という観点からは好ましくない。また、表面レリーフ型ホログラムでは、多次回折光が発生するため、回折効率が低くなり、更に、回折性能(回折角をどこまで大きくできるかという性能)にも限界がある。
【0129】
これに対して、体積型ホログラムでは、媒体内部の屈折率分布としてホログラム干渉縞の記録が行われるため、表面の凹凸構造による散乱による影響を受けることはない。また、一般に、回折効率や回折性能も表面レリーフ型ホログラムより優れている。したがって、本発明を実施する際には、散乱体30の像を、体積型ホログラムとして記録している媒体をホログラム記録媒体45として利用するのが最適である。
【0130】
ただ、体積型ホログラムでも、銀塩材料を含む感光媒体を利用して記録するタイプのものは、銀塩粒子による散乱が新たなスペックル生成要因となる可能性があるため、避けた方が好ましい。このような理由から、本願発明者は、本発明に利用するホログラム記録媒体45としては、フォトポリマーを用いた体積型ホログラムが最適であると考えている。このようなフォトポリマーを用いた体積型ホログラムの具体的な化学組成は、たとえば、特許第2849021号公報に例示されている。
【0131】
もっとも、量産性という点では、体積型ホログラムよりも表面レリーフ型ホログラムの方が優れている。表面レリーフ型ホログラムは、表面に凹凸構造をもった原版を作成し、この原版を用いたプレス加工により、媒体の量産を行うことができる。したがって、製造コストを低減させる必要がある場合には、表面レリーフ型ホログラムを利用すればよい。
【0132】
また、ホログラムの物理的な形態としては、平面上に濃淡パターンとして干渉縞を記録した振幅変調型ホログラムも広く普及している。しかしながら、この振幅変調型ホログラムは、回折効率が低く、濃いパターン部分で光の吸収が行われてしまうため、本発明に利用した場合、十分な照明効率を確保することができない。ただ、その製造工程では、平面上に濃淡パターンを印刷する簡便な方法を採ることができるため、製造コストの点ではメリットが得られる。したがって、用途によっては、振幅変調型ホログラムを本発明に採用することも可能である。
【0133】
なお、図5に示す記録方法では、いわゆるフレネルタイプのホログラム記録媒体が作成されることになるが、散乱体30をレンズを通して記録することにより得られるフーリエ変換タイプのホログラム記録媒体を作成してもかまわない。この場合、必要に応じて、回折光L45の光路上にレンズを設けて集光するようにし、照明効率を向上させるようにしてもよいが、レンズなしでも照明ユニット100としての機能を十分に果たすことができる。
【0134】
<<< §5.本発明に用いる照明ユニットの変形例 >>>
これまで、本発明に係るスキャナ装置および物体の三次元形状測定装置を、基本的な実施形態について説明した。この基本的な実施形態の特徴は、図13に示すような、固有の特徴を有する照明ユニット100を用いて、物体Mに対する照明を行う点にある。
【0135】
すなわち、照明ユニット100を利用して照明を行う場合、まず、線状パターンUを構成するための散乱体30の像35をホログラムとして記録用媒体40上に記録することによりホログラム記録媒体45を作成する準備段階を行い、この準備段階で作成したホログラム記録媒体45を用いて照明ユニット100を構成する。そして、ホログラム記録媒体45から得られるホログラムの再生光の照射を受ける位置に物体Mを配置した状態で、ホログラム記録媒体45上にコヒーレントな光ビームL60を照射し、かつ、照射位置が時間的に変化するように光ビームL60をホログラム記録媒体45上で走査し、物体M上に線状パターンUを投影する投影段階と、この線状パターンUが投影された物体Mを所定方向から撮影し、物体Mの表面情報を取り込む撮影段階と、を行い、物体Mの表面情報を取得すればよい。
【0136】
この場合、準備段階では、図5に示すように、コヒーレントな照明光L12を散乱体30に照射し、散乱体30から得られる散乱光L30を物体光Lobj として用いる。また、所定光路に沿って記録用媒体40に照射され、照明光L12と同一波長のコヒーレントな光L23を参照光Lref として用いる。そして、物体光Lobj と参照光Lref とによって形成される干渉縞を記録用媒体40に記録することによりホログラム記録媒体45を作成する。また、投影段階では、図13に示すように、参照光Lref と同一波長(もしくは、ホログラムの再生が可能な近似波長)の光ビームL60が、参照光Lref の光路に沿った光路を通ってホログラム記録媒体45上の照射位置へ向かうように走査を行い(別言すれば、参照光Lref と光学的に共役になる方向から光ビームL60を与え)、ホログラム記録媒体45から得られる、散乱体30の像35の再生光を照明光として投影することになる。
【0137】
ここでは、上述した基本的な実施形態に係るスキャナ装置および物体の三次元形状測定装置に組み込まれる照明ユニット100について、いくつかの変形例を述べておく。
【0138】
<5−1> 一次元走査を前提としたホログラム記録媒体
図5に示すホログラム記録媒体の作成プロセスでは、平行光束L22を凸レンズ23(収束点Cの位置に焦点を有するレンズ)で集光して参照光Lref として媒体40に照射している。すなわち、収束点Cを頂点とした円錐(理論的には、互いに半径の異なる円錐が無限に存在する)の側面に沿って、収束点Cに三次元的に収束する参照光Lref を用いて散乱体30の像が記録されることになる。
【0139】
このように三次元的に収束する参照光Lref を用いているのは、図13に示す照明ユニット100において、走査基点Bから三次元的に発散する光路をとるように、光ビームL60を三次元的に走査すること(反射鏡のV軸まわりの回動とW軸まわりの回動とを組み合わせてビームを走査すること)を前提としているためである。そして、光ビームL60を三次元的に走査する理由は、ホログラム記録媒体45上における光ビームの照射位置を二次元的に走査するため(図16において、横方向の走査と縦方向の走査とを行うため)である。
【0140】
ただ、ホログラム記録媒体45上における光ビームの照射位置の走査は、必ずしも二次元的に行う必要はない。たとえば、図18には、光ビームを水平方向にのみ走査する例が示されている。このように、光ビームの照射位置を一次元的に走査することを前提とすれば、ホログラム記録媒体も、そのような前提で作成しておく方が合理的である。具体的には、一次元的な走査が前提であれば、図18に示すようなホログラム記録媒体45を作成する代わりに、図20に示すような帯状のホログラム記録媒体85を作成すれば足りる。
【0141】
このホログラム記録媒体85を用いた場合、光ビーム走査装置60による走査は、左端の起点領域A1Sから右端の終点領域A1Eに至る1行分の走査を繰り返せばよい。この場合、左から右へと向かう1行分の走査を繰り返してもよいし、左から右へ走査したら、今度は右から左へ走査する、というような往復運動を行ってもかまわない。用いる光ビームL60が直径1mmの円形断面をもったレーザビームである場合、図20に示すホログラム記録媒体85の縦幅は、Db=1mmとすれば十分である。したがって、図18に示すホログラム記録媒体45を用いる場合に比べて省スペース化を図ることができ、装置全体を小型化することが可能になる。
【0142】
このような一次元走査を前提としたホログラム記録媒体85は、図5に示す光学系を用いて作成することも可能であるが、その代わりに、図21に示す光学系を用いて作成することも可能である。この図21に示す光学系は、図5に示す光学系における凸レンズ23をシリンドリカルレンズ24に置き換え、矩形状の平面をもったホログラム感光媒体40を、細長い帯状の平面をもったホログラム感光媒体80に置き換えたものであり、その他の構成要素に変わりはない。ホログラム感光媒体80の横幅Daは、ホログラム感光媒体40の横幅と同じであるが、その縦幅Db(図21において、紙面に垂直方向の幅)は、光ビームの直径程度(前述の例の場合、1mm程度)である。
【0143】
シリンドリカルレンズ24は、図21の紙面に垂直な中心軸を有する円柱の表面を有するレンズであり、図21において、収束点Cを通り紙面に垂直な集光軸を定義した場合に、平行光束L22を当該集光軸に集光する機能を果たす。ただ、シリンドリカルレンズの性質上、光の屈折は、紙面に平行な平面内においてのみ生じ、紙面に垂直な方向への屈折は生じない。別言すれば、収束点Cを含み、シリンドリカルレンズの円柱の中心軸に直交する平面(図21の紙面)に着目すれば、当該平面に沿って二次元的に収束する光L24が、参照光Lref として与えられることになる。
【0144】
このように、本願において「光が収束点Cに収束する」と言った場合、図5の光学系に示す凸レンズ23による三次元的な収束のみならず、図21の光学系に示すシリンドリカルレンズ24による二次元的な収束も意味するものである。そして、図20に例示するような一次元走査を前提としたホログラム記録媒体85を作成する場合は、図21の光学系に示すように、収束点Cを通る所定の集光軸(図の例の場合、収束点Cを通り紙面に垂直な軸)に平行な中心軸をもつ円柱面を有するシリンドリカルレンズ24を用いて、ほぼ平行なコヒーレント光の光束L22を当該集光軸上に集光し、収束点Cに二次元的に収束する光L24を参照光Lref として用いて、散乱体30のホログラム像を記録すればよい。
【0145】
<5−2> CGHからなるホログラム記録媒体
これまで述べたホログラム記録媒体の作成プロセスは、ホログラム感光媒体に実際に光を照射し、そこに生じる干渉縞を感光媒体の化学変化によって固定する、という純然たる光学的な方法をとるものである。これに対して、最近では、このような光学的なプロセスをコンピュータ上でシミュレーションし、演算によって干渉縞の情報を計算し、その結果を何らかの物理的な方法で媒体上に固定する、という手法が確立している。このような手法で作成されたホログラムは、一般に計算機合成ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram)と呼ばれている。
【0146】
本発明に用いるホログラム記録媒体に記録されているホログラムは、このような計算機合成ホログラムであってもかまわない。すなわち、§2で述べた光学的なプロセスでホログラム記録媒体を作成する代わりに、仮想の散乱体からの仮想物体光と仮想の参照光とを用いたシミュレーション演算を実行し、仮想の記録面上に生じる干渉縞の情報を求め、この情報を物理的な方法で媒体上に記録して計算機合成ホログラムを作成すればよい。
【0147】
図22は、本発明に係る照明ユニットの構成要素であるホログラム記録媒体を、CGHの手法で作成する原理を示す側面図であり、図8に示す光学的な現象を、コンピュータ上でシミュレートする方法を示すものである。ここで、図22に示す仮想の散乱体30′は、図8に示す実在の散乱体30に対応し、図22に示す仮想の記録面40′は、図8に示す実在のホログラム感光媒体40に対応する。図示の物体光Lobj は、仮想の散乱体30′から発せられる仮想の光であり、図示の参照光Lref は、この物体光Lobj と同一波長の仮想の光である。参照光Lref が、収束点Cに収束する光である点は、これまで述べた方法と全く同じである。記録面40′上の各点では、この仮想の物体光Lobj と参照光Lref との干渉縞の情報が演算される。
【0148】
なお、仮想の散乱体30′としては、たとえば、ポリゴンなどで表現された微細な三次元形状モデルを用いることも可能であるが、ここでは、平面上に多数の点光源Dを格子状に配列した単純なモデルを用いている。図23は、図22に示されている仮想の散乱体30′の正面図であり、小さな白丸は、それぞれ点光源Dを示している。図示のとおり、多数の点光源Dが、横方向ピッチPa,縦方向ピッチPbで格子状に配列されている。ピッチPa,Pbは、散乱体の表面粗さを定めるパラメータとなる。
【0149】
本願発明者は、点光源DのピッチPa,Pbをそれぞれ10μm程度の寸法に設定して記録面40′上に生じる干渉縞の情報を演算し、その結果に基づいて、実在の媒体表面に凹凸パターンを形成し、表面レリーフ型のCGHを作成した。そして、このCGHをホログラム記録媒体45として用いた照明ユニット100を構成したところ、スペックルを抑制した良好な照明環境が得られた。
【0150】
図24は、本発明によりスペックルの低減効果が得られた実験結果を示す表である。一般に、受光面R上に生じたスペックルの程度を示すパラメータとして、スペックルコントラスト(単位%)という数値を用いる方法が提案されている。このスペックルコントラストは、本来は均一の輝度分布をとるべき条件において、実際に生じる輝度のばらつきの標準偏差を、輝度の平均値で除した値として定義される量である。このスペックルコントラストの値が大きければ大きいほど、受光面上のスペックル発生程度が大きいことを意味し、観察者に対して、斑点状の輝度ムラ模様がより顕著に提示されていることになる。
【0151】
図24の表は、図13に示す照明ユニット100もしくはこれに対比するための従来の照明ユニットを利用して、載置ステージ210を照明する4通りの測定系について、載置ステージ210の上面についてのスペックルコントラストを測定した結果を示すものである。測定例1〜3は、いずれも、緑色のレーザ光を射出することが可能な同一のDPSSレーザ装置を照明ユニット100内のコヒーレント光源50として用いた結果である。なお、測定例2,3で用いるホログラム記録媒体の拡散角(ホログラム記録媒体上の点から再生像35を望む最大角度)は、いずれの場合も20°に設定されている。
【0152】
まず、測定例1として示す測定結果は、図13に示す照明ユニット100を用いる代わりに、コヒーレント光源50からの光ビームL50をビームエキスパンダーで広げて平行光束とし、この平行光束(レーザ平行光)をそのまま載置ステージ210に照射する測定系を用いて得られた結果である。この場合、表に示すとおり、スペックルコントラスト20.1%という結果が得られた。これは、載置ステージ210を肉眼観察した場合に、斑点状の輝度ムラ模様がかなり顕著に観察できる状態であり、実用的な三次元形状測定には不適当なレベルである。
【0153】
一方、測定例2および3として示す測定結果は、いずれも図13に示す照明ユニット100を利用して照明を行った結果である。ここで、測定例2は、ホログラム記録媒体45として、光学的な方法で作成された体積型ホログラムを利用した結果であり、測定例3は、ホログラム記録媒体45として、上述した表面レリーフ型CGHを利用した結果である。いずれも4%に満たないスペックルコントラストが得られており、これは肉眼観察した場合に、輝度ムラ模様がほとんど観察できない極めて良好な状態である(一般に、スペックルコントラスト値が5%以下であれば、観察者に不快感が生じないとされている)。したがって、ホログラム記録媒体45として、光学的な方法で作成された体積型ホログラムを利用した場合も、表面レリーフ型CGHを利用した場合も、実用的に十分な三次元形状測定装置を構成することができる。測定例2の結果(3.0%)が、測定例3の結果(3.7%)よりも良好になった理由は、原画像となる実在の散乱体30の解像度が、仮想の散乱体30′(図23に示す点光源の集合体)の解像度よりも高いためと考えられる。
【0154】
最後の測定例4として示す測定結果は、照明ユニット100を用いる代わりに、緑色のLED光源からの光をそのまま載置ステージ210に照射する測定系を用いて得られた結果である。そもそもLED光源は、コヒーレント光源ではないので、スペックルの発生という問題を考慮する必要はなく、表に示すとおり、スペックルコントラスト4.0%という良好な結果が得られた。非コヒーレント光を用いた測定例4の結果が、コヒーレント光を用いた測定例2,3の結果に劣る理由は、LED光源が発する光自体に輝度ムラが生じていたためと考えられる。
【0155】
<5−3> 線状パターンUの走査形態
図3に示す基本的な実施形態に係る物体の三次元形状測定装置には、パターン走査機構200が設けられている。ここに示すパターン走査機構200は、物体Mを載置する載置ステージ210と、この載置ステージ210を、線状パターンUの構成要素となる線に直交する方向に移動させる搬送装置220と、によって構成されている。すなわち、図1において、載置ステージ210を白矢印の方向に移動させることにより、線状パターンUによる物体Mに対する走査が行われる。
【0156】
ただ、パターン走査機構200の構成は、上例の構成に限定されるものではない。たとえば、搬送装置220は、照明ユニット100と載置ステージ210とについて、一方を他方に対して移動させる機能を有していればよい。したがって、載置ステージ210を移動させる代わりに、照明ユニット100を載置ステージ210に対して、線状パターンUの構成要素となる線に直交する方向に移動させるようにしてもよい。
【0157】
また、パターン走査機構200は、必ずしも上例のような機械式走査を行う機構を採用する必要はなく、光学式走査を行う機構を採用してもよい。たとえば、照明ユニット100から得られるホログラムの再生光の向きを変える光学系(たとえば、ポリゴンミラー)によってパターン走査機構200を構成すれば、再生光によって投影される線状パターンUを、その構成要素となる線に直交する方向に光学的に走査することができる。
【0158】
物体Mに投影される線状パターンUを走査する別な方法は、予め、ホログラム記録媒体を複数の分割領域に分割しておき、個々の分割領域に、それぞれ異なる位置に線状パターンUの再生像を生成する異なるホログラムを記録しておく方法である。すなわち、物体M上に投影される線状パターンUは、ホログラム記録媒体から得られるホログラムの再生光により形成されるので、予め、それぞれ異なる位置に再生像を生成する複数のホログラムを記録しておき、これを順番に再生してゆけば、実質的に、これまで述べてきたパターン走査機構200が行う走査と同等の走査が行われることになる。
【0159】
図25は、このような変形例に用いるホログラム記録媒体88を示す平面図である。図示のとおり、ホログラム記録媒体88は、複数n個の分割領域88−1,88−2,88−3,... ,88−nに分割されており、個々の分割領域88−1,88−2,88−3,... ,88−nには、それぞれ図4に示す線状散乱体30の像が記録されている。
【0160】
既に<5−1>で述べたとおり、光ビームによる一次元走査を前提とする場合、図21に示すシリンドリカルレンズ24を用いた記録方法で、細長い帯状の平面をもったホログラム感光媒体80への記録を行い、図20に示すような縦幅Dbをもった細長いホログラム記録媒体85を作成することができる。図25に示すホログラム記録媒体88は、いわば、図20に示す帯状のホログラム記録媒体85をn組だけ縦に並べたものに相当する。実際、個々の分割領域88−1,88−2,88−3,... ,88−nに記録されているホログラムの干渉縞は、図20に示す帯状のホログラム記録媒体85に記録されている干渉縞と同じものになる。
【0161】
これまで述べてきた基本的実施形態で用いたホログラム記録媒体45と比べると、図25に示すホログラム記録媒体88は、再生像35の位置に相違が生じる。すなわち、前者について再生を行う場合、図16に示すように、媒体上のどの位置に光ビームを照射しても、再生像35が生成される位置は同じである。これは、ホログラム記録媒体45には、全面に同一の線状散乱体30の像が記録されているためである。これに対して、後者について再生を行う場合、光ビームを照射する分割領域に応じて、再生像35が生成される位置が異なる。これは、各分割領域にそれぞれ別個独立した線状散乱体30の像が記録されているためである。
【0162】
図26は、図25に示すホログラム記録媒体88上の光ビームの走査態様を示す平面図である。たとえば、第1の分割領域88−1について再生を行う場合、この分割領域88−1内の開始領域A1Sから終了領域A1Eまで水平方向に走査を行うことになるが、このとき生成される再生像は、図27に示す第1の線状パターンU1を形成する。また、第2の分割領域88−2について再生を行う場合、この分割領域88−2内の開始領域A2Sから終了領域A2Eまで水平方向に走査を行うことになるが、このとき生成される再生像は、図27に示す第2の線状パターンU2を形成する。以下同様であり、最後に、第nの分割領域88−nについて再生を行う場合、この分割領域88−n内の開始領域AnSから終了領域AnEまで水平方向に走査を行うことになるが、このとき生成される再生像は、図27に示す第nの線状パターンUnを形成する。
【0163】
結局、個々の分割領域88−1,88−2,88−3,... ,88−nから得られるホログラムの再生光により、それぞれ1本の線からなる線状パターンU1,U2,U3,... ,Unが投影されることになる。別言すれば、任意の1つの分割領域から得られるホログラムの再生光により投影される線状パターンと、別な任意の1つの分割領域から得られるホログラムの再生光により投影される線状パターンとが、空間上の異なる位置に形成されるようになっている。
【0164】
したがって、図26に示すように、ホログラム記録媒体88の全分割領域を光ビームで走査すると、載置ステージ210上には、図27に示すように、n本の線状パターンU1,U2,U3,... ,Unからなる統合線状パターンUが形成されることになるが、実際には、この統合線状パターンUは同時に現れるパターンではなく、1行ずつ順番に現れるパターンになる。
【0165】
そこで、図13に示す照明ユニット100において、ホログラム記録媒体45の代わりに、図25に示すホログラム記録媒体88を用い、光ビーム走査装置60によって、図26に示すように、第1番目の分割領域88−1、第2番目の分割領域88−2、第3番目の分割領域88−3、... 、というように、所定の順番で光ビームの走査を行うことにする。
【0166】
そうすると、光ビームが第i番目(i=1,2,3,... )の分割領域88−iを走査しているときに、空間上の第i番目の位置に第i番目の線状パターンUiが投影されることになる。すなわち、第1番目の分割領域88−1を走査しているときには、図27に示す第1番目の線状パターンU1が現れ、第2番目の分割領域88−2を走査しているときには、図27に示す第2番目の線状パターンU2が現れ、... というように、1本の線からなる線状パターンUiが順番に現れることになる。これは、物体M上を線状パターンUiで走査していることと同じである。
【0167】
なお、上例では、個々の分割領域に、それぞれ1本の線状散乱体30の像を記録しているが、個々の分割領域に、それぞれ複数本の線状散乱体30の像を記録するようにしてもかまわない。この場合、光ビームが第i番目(i=1,2,3,... )の分割領域88−iを走査しているときに、空間上の第i番目の位置に複数本の線からなる線状パターンUiが投影されることになる。
【0168】
このように、図25に示すホログラム記録媒体88を用い、光ビーム走査装置60によって、図26に示すような走査を行うようにすれば、光ビーム走査装置60が、これまで述べてきた基本的実施形態におけるパターン走査機構200の役割を兼ねることになる。したがって、パターン走査機構200を別途設ける必要はなくなる。
【0169】
なお、ホログラム記録媒体88に形成するn個の分割領域は、理論上は、それぞれ任意の形状をもった領域でかまわない。ただ、図4に示すような細長い線状散乱体30の像を記録するためには、実用上、図25に示す例のように、横方向に細長い複数の分割領域88−1,88−2,88−3,... ,88−nが、縦方向に並んで配置されるような分割を行い、個々の分割領域88−1,88−2,88−3,... ,88−nの長手方向と個々の分割領域88−1,88−2,88−3,... ,88−nから得られる再生像35の長手方向とが平行になるようにホログラムの記録を行うようにするのが好ましい。これは、ホログラム記録媒体上に記録される干渉縞の回折能力(入射光をどの程度大きな角度まで屈曲させられるかを示す能力)には限界があるため、細長い記録領域に細長い現画像を長手方向を一致させて記録した方が効率的であるためである。
【0170】
<5−4> 線状パターンUの形状
上記<5−3>では、物体M上に投影する線状パターンを走査することを前提とした実施形態を述べたが、本発明に係る物体の三次元形状測定装置では、必ずしも線状パターンの走査が必要になるわけではない(もちろん、スペックルを低減させるために光ビームの走査は必要である。本発明において、ホログラム記録媒体上での光ビームの走査と、物体M上での線状パターンの走査とは、全く別な走査である)。
【0171】
そもそも、これまで述べた実施形態において、線状パターンを走査する理由は、線状パターンが1本の線からなるパターンであるという前提で、物体Mの全体形状を測定するためである。たとえば、図1に示す例の場合、線状パターンUの走査を行わないと、半球状の物体Mの頂点を通る円周に沿った部分の形状測定しか行うことができない。線状パターンUを物体Mに対して、図の白矢印方向に走査することにより、はじめて物体Mの全体形状の測定が可能になる。
【0172】
しかしながら、線状パターンは、必ずしも1本の線からなるパターンである必要はない。すなわち、ホログラム記録媒体に、もともと複数の線からなる原画像を記録しておけば、ホログラム再生像も、複数の線からなる線状パターンになるので、物体M上には複数の線からなる縞模様をした線状パターンが一度に投影されることになる。よって、線状パターンを物体M上で走査しなくても、物体Mの全体形状の測定が可能になる。
【0173】
図28は、このような変形例に用いるホログラム記録媒体に記録する散乱体30Aの形状を示す平面図である。これまで述べてきた基本的な実施形態では、図4に示す1本の細長い線状散乱体30をホログラムとして記録し、その再生像を線状パターンUとして利用しているが、ホログラムとして記録する散乱体は、必ずしも1本の線状散乱体である必要はなく、複数本の線状散乱体であってもかまわない。
【0174】
図28に示す散乱体30Aは、互いに平行な複数n本の線状散乱体30A−1,30A−2,30A−3,... ,30A−nによって構成される横方向格子状散乱体と呼ぶべき集合的な散乱体である。このような散乱体30Aをホログラムとして記録しているホログラム記録媒体を用いて再生を行えば、ホログラムの再生光により互いに平行な複数n本の線U1,U2,U3,... ,Unを有する線状パターンUを投影することができる。すなわち、図27に示すような縞模様をした線状パターンUを、物体M上に投影することができ、撮影ユニット300によって、このような縞模様が表面に投影された物体Mを撮影することができる。形状解析ユニット400は、撮影画像上において、物体M上に投影された縞模様の形状を解析することにより、物体Mの全体形状を示す三次元形状データTを作成する。
【0175】
もちろん、図27に示す縞模様の代わりに、縦横の縞模様が交差した網目格子模様の線状パターンを投影することも可能である。具体的には、ホログラム記録媒体に、図28に示すように、横方向に伸びるn本の線状散乱体30A−1,30A−2,30A−3,,... ,30A−nを互いに平行になるように縦方向に並べた横方向格子状散乱体30Aの像と、図29に示すように、縦方向に伸びるm本の線状散乱体30B−1,30B−2,30B−3,,... ,30B−mを互いに平行になるように横方向に並べた縦方向格子状散乱体30Bの像と、を重畳して記録しておけばよい。
【0176】
このように散乱体30A,30Bをホログラムとして重畳記録しているホログラム記録媒体を用いて再生を行えば、ホログラムの再生光により縦縞と横縞とを重ねた網目格子模様の線状パターンを投影することができる。撮影ユニット300は、このような網目格子模様が表面に投影された物体Mを撮影することができるので、形状解析ユニット400は、撮影画像上において、物体M上に投影された網目格子模様の形状を解析することにより、物体Mの全体形状を示す三次元形状データTを作成できる。
【0177】
横方向格子状散乱体30Aと縦方向格子状散乱体30Bとをホログラムとして重畳記録するには、図5に示すような光学系を用いて、同一のホログラム感光媒体40に対して、ホログラムを記録するプロセスを2回繰り返して行えばよい。すなわち、1回目には、図28に示す横方向格子状散乱体30Aを記録するプロセスを行い、2回目には、図29に示す縦方向格子状散乱体30Bを記録するプロセスを行えばよい。あるいは、横方向格子状散乱体30Aを記録した層と、縦方向格子状散乱体30Bを記録した層とを別個に作成し、両者を貼り合わせるようにしてもよい。
【0178】
網目格子模様の線状パターンを投影する別な方法として、予め、図30に示すような網目格子状散乱体30Cを用意しておき、ホログラム記録媒体に、この網目格子状散乱体30Cの像を記録するようにしてもよい。この場合も、ホログラムの再生光により、網目格子状の線状パターンが投影されることになる。
【0179】
このように、本発明において物体Mに投影する線状パターンUは、必ずしも図1に示すような1本の線からなるパターンである必要はなく、図27に示すような複数の線からなる縞状のパターンであってもよいし、このような縞状パターンを縦横に重ねて得られる網目格子状のパターンであってもかまわない。そして、縞状パターンや網目格子状パターンを物体M上に投影するようにすれば、パターン走査機構200を用いることなしに、物体Mの全体形状の測定が可能になる。
【0180】
もちろん、必要に応じて、更にパターン走査機構200を設け、縞状パターンや網目格子状パターンを、物体M上で走査するようにしてもかまわない。たとえば、図27に示すような縞模様からなる線状パターンUを投影した状態において、この線状パターンU全体を図の下方に走査して、パターンUnの下に走査後の新たなパターンU1が来るようにすれば、より広い領域をカバーする線状パターンの投影が可能になる。
【0181】
あるいは、図27に示すn本の線を有する線状パターンUから、偶数番目のパターンU2,U4,U6,... を間引き、奇数番目のパターンU1,U3,U5,... のみからなる線状パターンUを再生するホログラム記録媒体を用意しておき、パターン走査機構200による走査を行うことにより、間引いた偶数番目のパターンU2,U4,U6,... の位置に奇数番目のパターンU1,U3,U5,... を移動させることにより、結果的に、n本の線を有する線状パターンUの投影を行うようなことも可能である。
【0182】
このように、本発明において用いる線状パターンUは、線の成分を含むパターンであれば、どのようなパターンであってもかまわない。形状解析ユニット400は、物体M上に投影された線の成分を解析することにより、三次元形状データTを作成することができる。
【0183】
したがって、ホログラム記録媒体に記録する散乱体も、図4に示すような線状散乱体30に限定されるものではなく、線状パターンUとして利用可能な形状であれば、どのような形状の散乱体を用いてもかまわない。図28に示す散乱体30A,図29に示す散乱体30B,図30に示す散乱体30Cは、このような散乱体の一例である。結局、本発明では、線の成分を有する線状パターンUに対応する形状をもった散乱体の像をホログラム記録媒体に記録しておけばよい。
【0184】
なお、図28〜図30に示すような形状をもった散乱体30A,30B,30Cは、図4に示す線状散乱体30を複数組み合わせて作成することも可能であるが、実用上は、1枚の散乱板(たとえば、オパールガラス板のように、一般に光学的拡散板と呼ばれている板)の上面に、一部の領域の光を遮蔽するマスクを重ねたものを、散乱体の原画像として用いるようにすればよい。
【0185】
たとえば、図28に示す散乱体30Aの像を記録するのであれば、図示の線状散乱体30A−1,30A−2,30A−3,... ,30A−nに対応する領域のみ光が透過し、それ以外の領域の光を遮蔽するマスクを用意し、1枚の透光性散乱板の上面に、このマスクを被せた物を、図5に示す散乱体30として用い、ホログラムの記録を行えばよい。図29に示す散乱体30Bや図30に示す散乱体30Cの像を記録する場合も同様である。また、図4に示す線状散乱体30の像を記録する場合も、1枚の透光性散乱板の上面に、細長いスリット領域のみ光が透過するマスクを重ねて記録を行えばよい。
【0186】
<5−5> ホログラム記録媒体作成の幾何学的バリエーション
§2では、図5を参照して、ホログラム感光媒体40に散乱体30のホログラム像を記録する方法を説明した。この方法は、収束点Cに収束する参照光を用いて反射型のホログラム記録媒体を作成する方法であり、必要な構成要素の幾何学的な配置は、図31の側面図に示すとおりである。
【0187】
図31に示す例の場合、凸レンズ23によって、収束点Cに向かう収束参照光Lref が生成され、媒体40は、凸レンズ23と収束点Cとの間に配置される。また、媒体40は図示のとおり斜めに配置され、その下面側に、散乱体30からの物体光Lobj が照射される。このような方法で作成されたホログラム記録媒体は、反射型の媒体となる。すなわち、再生時には、図32に示すように、再生用照明光Lrep として機能する光ビームが媒体45の下面側に照射され、点Pからの反射回折光Ldif によって再生像35が生成されることになる。
【0188】
このように、これまで説明した例は、ホログラム記録媒体45に記録されているホログラムが、反射型ホログラムであり、光ビームの反射回折光を照明光として用いる例である。これに対して、ホログラム記録媒体45に記録されているホログラムを、透過型ホログラムとし、光ビームの透過回折光を照明光として用いるようにしてもかまわない。
【0189】
図33は、このような透過型ホログラムを作成する場合の幾何学的な配置を示す側面図である。図31に示す配置との相違点は、媒体40の向きである。図31に示す反射型ホログラムの作成方法では、参照光Lref を媒体の上面から照射し、物体光Lobj を媒体の下面から照射している。このように、参照光と物体光とを逆側の面に照射すると反射型のホログラムが記録できる。これに対して、図33に示す方法では、参照光Lref および物体光Lobj の双方が媒体40の上面に照射されている。このように、参照光と物体光とを同じ側から照射すると透過型のホログラムが記録できる。すなわち、再生時には、図34に示すように、再生用照明光Lrep として機能する光ビームが媒体45の下面側に照射され、点Pからの透過回折光Ldif によって再生像35が生成されることになる。
【0190】
また、これまで述べてきた例は、いずれも収束点Cに収束する参照光を用いて反射型もしくは透過型のホログラム記録媒体を作成する方法であるが、その代わりに、収束点Cから発散する参照光を用いて反射型もしくは透過型のホログラム記録媒体を作成することも可能である。ただ、そのためには、予め、準備用ホログラム記録媒体を作成しておく必要がある。以下、この方法を行うためのプロセスを順に説明しよう。
【0191】
まず、図35に示すように、準備用ホログラム感光媒体90と散乱体30とを配置し、媒体90に対して、図示のとおり、斜め右上から平行な参照光Lref を照射する。そして、散乱体30からの物体光Lobj と参照光Lref とによって生じる干渉縞を媒体90に記録する。このように、記録時に、物体光と参照光とを同じ側から照射すると、透過型のホログラムが記録される。ここでは、このような記録が行われた媒体90を、準備用ホログラム記録媒体95と呼ぶことにする。
【0192】
図36は、この準備用ホログラム記録媒体95の再生プロセスを示す側面図である。図示のとおり、媒体95に対して、斜め左下から平行な再生用照明光Lrep を照射すると、透過回折光Ldif によって、図の右方に再生像35が生成される。ここで、再生用照明光Lrep の方向は、その延長線が図35に示す参照光Lref の方向に一致する方向であり、再生像35の生成位置は、図35に示す散乱体30の配置位置に一致する。
【0193】
続いて、準備用ホログラム記録媒体95による再生像35を実物の散乱体30の代用として、ホログラム感光媒体40へ散乱体30の像を記録するプロセスを行う。すなわち、図37に示すように、準備用ホログラム記録媒体95の右方にホログラム感光媒体40を配置し、媒体95に対して、斜め左下から平行な再生用照明光Lrep を照射して、図の右方に再生像35を生成する。この場合、媒体95から右方へと射出する光は、再生像35を再生するための透過回折光Ldif であると同時に、媒体40に対しては、物体光Lobj としての機能を果たす。
【0194】
一方、図の下方から、媒体40に対して、発散参照光Lref を照射する。この発散参照光Lref は、収束点Cから発散する光(収束点Cに点光源が存在する場合に、この点光源から発せられる光)であり、媒体40に対しては、円錐状に広がる光線束が照射されることになる。図示の例では、収束点Cの位置に焦点をもつ凸レンズ25によって、平行光束L10を収束点Cに集光して点光源を生成することにより、発散参照光Lref を発生させている。凸レンズ25として、たとえば、直径1mm程度のマイクロレンズを用いれば、レーザ光源から発せられる断面径1mm程度のレーザビームを、そのまま平行光束L10として利用して、発散参照光Lref を発生させることができる。
【0195】
この図37に示す方法では、物体光Lobj は媒体40の上面に照射され、参照光Lref は媒体40の下面に照射される。このように、参照光と物体光とを逆側の面に照射すると反射型のホログラムが記録できる。したがって、図37に示す方法で作成されたホログラム記録媒体45は、実質的に、図31に示す方法で作成されたホログラム記録媒体45と同じ反射型ホログラムになる。したがって、再生時には、図32に示す幾何学的配置をとればよい。
【0196】
これに対して、図38は、発散参照光Lref を用いて透過型ホログラムを作成する例を示す側面図である。図37に示す配置との相違点は、媒体40の向きである。図37に示す反射型ホログラムの作成方法では、物体光Lobj を媒体の上面から照射し、参照光Lref を媒体の下面から照射している。これに対して、図38に示す方法では、物体光Lobj および参照光Lref の双方が媒体40の下面に照射されている。このように、参照光と物体光とを同じ側から照射すると透過型のホログラムが記録できる。この図38に示す方法で作成されたホログラム記録媒体45は、実質的に、図33に示す方法で作成されたホログラム記録媒体45と同じ透過型ホログラムになる。したがって、再生時には、図34に示す幾何学的配置をとればよい。
【0197】
なお、図37および図38に示す記録プロセスでは、準備用ホログラム記録媒体95として、図35に示す方法で作成された透過型ホログラムを用いたが、準備用ホログラム記録媒体95として、図39に示す方法で作成された反射型ホログラムを用いることも可能である。図39に示す方法では、準備用ホログラム感光媒体90の左側から参照光Lref を照射し、右側から物体光Lobj を照射しているため、作成された準備用ホログラム記録媒体95は反射型ホログラムになる。
【0198】
この反射型の準備用ホログラム記録媒体95を用いて再生を行う場合は、図40に示すように、媒体95の右側から再生用照明光Lrep を照射し、得られる反射回折光Ldif によって再生像35を生成することになる。したがって、図37,図38に示すプロセスでは、再生用照明光Lrep を左側から照射する代わりに、右側から照射することになる。
【0199】
<5−6> 光ビームの平行移動走査
これまで述べた実施形態では、照明ユニット100内の光ビーム走査装置60が、光ビームを所定の走査基点Bで屈曲させ、この屈曲態様(屈曲の方向と屈曲角度の大きさ)を時間的に変化させることにより、屈曲された光ビームを走査する方式をとっていたが、光ビーム走査装置60の走査方法は、光ビームを走査基点Bで屈曲させる方法に限定されるものではない。
【0200】
たとえば、光ビームを平行移動させるような走査方法を採ることも可能である。ただ、その場合は、ホログラム記録媒体45に対する散乱体30の記録方法も変更する必要がある。すなわち、図41に示す例のように、ホログラム感光媒体40に対して、平行光束からなる参照光Lref を照射し、散乱体30からの物体光Lobj との干渉縞の情報を記録するようにする。別言すれば、こうして作成されたホログラム記録媒体46には、平行光束からなる参照光Lref を用いて散乱体30の像35がホログラムとして記録されていることになる。
【0201】
図42は、図41に示す方法で作成されたホログラム記録媒体46を用いた照明ユニット110の側面図である。図示のとおり、この照明ユニット110は、ホログラム記録媒体46、コヒーレント光源50、光ビーム走査装置65によって構成されている。
【0202】
ここで、ホログラム記録媒体46は、図41に示す方法で作成された媒体であり、平行光束からなる参照光Lref を利用して、散乱体30の像35がホログラムとして記録されている。また、コヒーレント光源50は、ホログラム記録媒体46を作成する際に用いた光(物体光Lobj および参照光Lref )の波長と同一波長(もしくは、ホログラムの再生が可能な近似波長)をもつコヒーレントな光ビームL50を発生させる光源である。
【0203】
一方、光ビーム走査装置65は、コヒーレント光源50が発生した光ビームL50をホログラム記録媒体46に照射する機能を有するが、このとき、図41に示す作成プロセスで用いた参照光Lref に平行になる方向から光ビームL65がホログラム記録媒体46に照射されるように走査を行う。より具体的には、光ビームL65を平行移動させながらホログラム記録媒体46に照射することにより、光ビームL65のホログラム記録媒体46に対する照射位置が時間的に変化するように走査する。
【0204】
このような走査を行う光ビーム走査装置65は、たとえば、可動反射鏡66と、この可動反射鏡66を駆動する駆動機構とによって構成することができる。すなわち、図42に示すように、コヒーレント光源50が発生した光ビームL50を受光可能な位置に可動反射鏡66を配置し、この可動反射鏡66を光ビームL50の光軸に沿って摺動させる駆動機構を設けておけばよい。なお、実用上は、MEMSを利用したマイクロミラーデバイスにより、上記機能と同等の機能をもった光ビーム走査装置65を構成することができる。あるいは、図13に示す光ビーム走査装置60によって走査基点Bの位置で屈曲された光ビームL60を、走査基点Bに焦点をもつ凸レンズに通すことによっても、平行に移動する光ビームを生成することができる。
【0205】
図42に示す例の場合、可動反射鏡66で反射した光ビームL65の照射を受けたホログラム記録媒体46は、記録された干渉縞に基づく回折光を発生し、この回折光によって、散乱体30の再生像35が生成される。照明ユニット110は、こうして得られる再生像35の再生光を照明光として利用した照明を行うことになる。
【0206】
図42では、説明の便宜上、時刻t1における光ビームの位置を一点鎖線で示し、時刻t2における光ビームの位置を二点鎖線で示している。すなわち、時刻t1では、光ビームL50は、可動反射鏡66(t1)の位置で反射し、光ビームL65(t1)としてホログラム記録媒体46の点P(t1)に照射されるが、時刻t2では、光ビームL50は、可動反射鏡66(t2)の位置で反射し(図示の可動反射鏡66(t2)は、可動反射鏡66(t1)が移動したものである)、光ビームL65(t2)としてホログラム記録媒体46の点P(t2)に照射される。
【0207】
図には、便宜上、時刻t1,t2の2つの時点における走査態様しか示されていないが、実際には、時刻t1〜t2の期間において、光ビームL65は図の左右に平行移動し、光ビームL65のホログラム記録媒体46に対する照射位置は、図の点P(t1)〜P(t2)へと徐々に移動してゆくことになる。すなわち、時刻t1〜t2の期間において、光ビームL65の照射位置は、ホログラム記録媒体46上において点P(t1)〜P(t2)へと走査されることになる。ここでは、光ビームL65を一次元方向(図の左右方向)に平行移動する例を述べたが、もちろん、光ビーム65を図の紙面に垂直な方向にも平行移動させる機構(たとえば、XYステージ上に反射鏡を配置した機構)を設けておけば、二次元方向に平行移動させることが可能になる。
【0208】
ここで、光ビームL65は、図41に示す作成プロセスで用いた参照光Lref に常に平行になるように走査されるので、光ビームL65は、ホログラム記録媒体46の各照射位置において、そこに記録されているホログラムを再生するための正しい再生用照明光Lrep として機能する。
【0209】
たとえば、時刻t1では、点P(t1)からの回折光L46(t1)によって、散乱体30の再生像35が生成され、時刻t2では、点P(t2)からの回折光L46(t2)によって、散乱体30の再生像35が生成される。もちろん、時刻t1〜t2の期間においても、光ビームL65が照射された個々の位置からの回折光によって、同様に散乱体30の再生像35が生成される。すなわち、光ビームL65が平行移動走査を受ける限り、ホログラム記録媒体46上のどの位置に光ビームL65が照射されたとしても、照射位置からの回折光によって、同一の再生像35が同一位置に生成されることになる。
【0210】
結局、この図42に示す照明ユニット110は、図13に示す照明ユニット100と同様に、ホログラム再生光によって線状パターンUを投影する機能を有している。要するに、本発明では、ホログラム記録媒体に、所定光路に沿って照射される参照光を用いて散乱体の像をホログラムとして記録しておき、光ビーム走査装置によって、このホログラム記録媒体に対する光ビームの照射方向が参照光の光路に沿った方向(光学的に共役な方向)になるように、光ビームの走査を行うようにすればよい。
【0211】
<5−7> マイクロレンズアレイの利用
これまで述べた実施形態は、散乱体のホログラム像が記録されたホログラム記録媒体を用意し、このホログラム記録媒体に対して、コヒーレント光を走査し、得られる回折光を照明光として利用するものであった。ここでは、このホログラム記録媒体の代わりに、マイクロレンズアレイを利用した変形例を述べる。
【0212】
図43は、このマイクロレンズアレイを利用した変形例の側面図である。この変形例に係る照明ユニット120は、マイクロレンズアレイ48、コヒーレント光源50、光ビーム走査装置60によって構成されている。コヒーレント光源50は、これまで述べてきた実施形態と同様に、コヒーレントな光ビームL50を発生させる光源であり、具体的には、レーザ光源を用いることができる。
【0213】
また、光ビーム走査装置60は、これまで述べてきた実施形態と同様に、コヒーレント光源50が発生した光ビームL50の走査を行う装置である。より具体的には、光ビームを走査基点Bで屈曲させてマイクロレンズアレイ48に照射する機能を有し、しかも、光ビームL50の屈曲態様を時間的に変化させることにより、光ビームL60のマイクロレンズアレイ48に対する照射位置が時間的に変化するように走査する。
【0214】
一方、マイクロレンズアレイ48は、多数の個別レンズの集合体からなる光学素子である。このマイクロレンズアレイ48を構成する個別レンズは、それぞれが、走査基点Bから入射した光を屈折させ、所定位置に配置される物体Mの近傍面R(図示の例の場合、物体Mが載せられる載置ステージ210の上面(図の左面))に照射領域Iを形成する機能を有している。
【0215】
この照射領域Iは、これまで述べてきた実施形態における線状パターンUを形成する領域であり、ここに示す実施例の場合、図において上下方向に細長い線状の照射領域になる。すなわち、図の紙面に垂直方向の幅が、投影される線状パターンUの幅になる(あるいは、図の紙面に垂直方向が、投影される線状パターンUの長手方向となるようにしてもかまわない)。
【0216】
ここで重要な点は、いずれの個別レンズによって形成される照射領域Iも、当該近傍面R上において同一の共通領域となるように構成されている点である。別言すれば、いずれの個別レンズを通った光も、近傍面R上の同一位置に同一の照射領域Iを形成することになる。このような機能をもったマイクロレンズアレイとしては、たとえば、「フライアイレンズ」と呼ばれるものが市販されている。
【0217】
図44は、図43に示す照明ユニット100の動作原理を示す側面図である。ここでも、説明の便宜上、光ビームL60の時刻t1における屈曲態様を一点鎖線で示し、時刻t2における屈曲態様を二点鎖線で示している。すなわち、時刻t1では、光ビームL50は走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t1)としてマイクロレンズアレイ48の下方に位置する個別レンズ48−1に入射する。この個別レンズ48−1は、走査基点Bから入射した光ビームについては、これを広げて、物体Mの近傍面R(この例では、載置ステージ210の上面)の二次元照射領域Iに照射する機能を有する。したがって、当該近傍面Rには、図示のように縦方向に細長い照射領域Iが形成され、当該照射領域Iが線状パターンUを構成する。
【0218】
また、時刻t2では、光ビームL50は走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t2)としてマイクロレンズアレイ48の上方に位置する個別レンズ48−2に入射する。この個別レンズ48−2は、走査基点Bから入射した光ビームについては、これを広げて、近傍面R上の二次元照射領域Iに照射する機能を有する。したがって、時刻t2においても、近傍面Rには、図示のように照射領域I(線状パターンU)が形成される。
【0219】
図には、便宜上、時刻t1,t2の2つの時点における動作状態しか示されていないが、実際には、時刻t1〜t2の期間において、光ビームの屈曲方向は滑らかに変化し、光ビームL60のマイクロレンズアレイ48に対する照射位置は、図の下方から上方へと徐々に移動してゆくことになる。すなわち、時刻t1〜t2の期間において、光ビームL60の照射位置は、マイクロレンズアレイ48上で上下に走査されることになる。もちろん、マイクロレンズアレイ48として、多数の個別レンズが二次元的に配置されたものを用いた場合は、光ビーム走査装置60によって、この二次元配列上で光ビームが走査されるようにすればよい。
【0220】
上述したマイクロレンズアレイ48の性質から、光ビームL60がどの個別レンズに入射したとしても、近傍面R上に形成される二次元照射領域I(線状パターンU)は共通になる。すなわち、光ビームの走査状態にかかわらず、近傍面Rには、常に同一の照射領域I(線状パターンU)が形成されることになる。したがって、この照射領域I内に物体Mを配置すれば、その表面には常に線状パターンUが投影された状態になる。もちろん、必要に応じて、パターン走査機構200を設けておけば、線状パターンUを物体M上で走査することもできる。
【0221】
結局、ここに示す照明ユニット120の場合、光ビーム走査装置60は、光ビームL60をマイクロレンズアレイ48に照射し、かつ、光ビームL60のマイクロレンズアレイ48に対する照射位置が時間的に変化するように走査する機能をもっている。一方、マイクロレンズアレイ48を構成する個別レンズは、それぞれが、光ビーム走査装置60から照射された光を屈折させ、物体Mの近傍面R上に線状の照射領域Iを形成する機能を有しており、かつ、いずれの個別レンズによって形成される照射領域Iも、この近傍面R上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されている。このため、この線状の照射領域Iを、これまで述べてきた実施形態における線状パターンUとして利用することができる。
【0222】
この照明ユニット120の場合も、これまで述べてきた基本的実施形態に係る照明ユニット100と同様に、近傍面Rの各部に照射される光の入射角度は、時間的に多重化されることになり、また、光ビームL60を走査しているため、スペックルの発生が抑制される。
【0223】
<5−8> 光拡散素子の利用
これまで、基本的な実施形態として、散乱体30のホログラム像が記録されたホログラム記録媒体を用いて照明ユニットを構成した例を説明し、上記<5−7>では、ホログラム記録媒体の代わりにマイクロレンズアレイを用いて照明ユニットを構成した例を説明した。これらの照明ユニットにおいて、ホログラム記録媒体やマイクロレンズアレイは、結局のところ、入射した光ビームを拡散して所定面上に線状の照射領域を形成する機能を有する光拡散素子の役割を果たしていることになる。しかも、当該光拡散素子は、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、物体Mの近傍面上において同一の共通領域となる、という特徴を有している。
【0224】
したがって、本発明に係る照明ユニットを構成するには、必ずしも上述したホログラム記録媒体やマイクロレンズアレイを用いる必要はなく、一般的に、上記特徴を有する光拡散素子を用いて構成することができる。
【0225】
要するに、本発明に係る装置に用いられる照明ユニットは、本質的には、コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、この光ビームの向きもしくは位置またはその双方を制御することにより、ビーム走査を行う光ビーム走査装置と、入射した光ビームを拡散して射出する光拡散素子と、を用いることによって構成することができる。
【0226】
ここで、光ビーム走査装置は、コヒーレント光源が発生した光ビームを、光拡散素子に向けて射出し、かつ、当該光ビームの光拡散素子に対する入射位置が時間的に変化するように走査する機能を有していればよい。また、光拡散素子は、入射した光ビームを拡散して物体の近傍に位置する特定の近傍面上に線状の照射領域を投影する機能を有し、かつ、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、当該近傍面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されていればよい。
【産業上の利用可能性】
【0227】
本発明に係るスキャナ装置は、物体に対して光学的なスキャンを行う用途に広く利用することができる。上記実施例では、このスキャナ装置を、物体の三次元形状測定装置に利用した例を述べたが、このスキャナ装置の用途は、必ずしも三次元形状測定装置に限定されるものではない。たとえば、紙面などの二次元物体上の情報をスキャンする用途にも利用可能である。
【0228】
一方、本発明に係る物体の三次元形状測定装置は、様々な物体の三次元形状を非接触で測定することができるため、あらゆる物体を対象として、加工を施す分野や検査する分野など、産業上、広く利用することができる。
【符号の説明】
【0229】
10:コヒーレント光源
11:反射鏡
12:ビームエキスパンダー
20:ビームスプリッタ
21:反射鏡
22:ビームエキスパンダー
23:凸レンズ
24:シリンドリカルレンズ
25:凸レンズ
30:線状散乱体
30A,30B:散乱体
30A−1〜30A−n:線状散乱体
30B−1〜30B−m:線状散乱体
30C:網目格子状散乱体
30′:仮想の散乱板
35:散乱板の像
40:ホログラム感光媒体
40′:仮想の記録面
45,46:ホログラム記録媒体
48:マイクロレンズアレイ
48−1,48−2:個別レンズ
50:コヒーレント光源
60,65:光ビーム走査装置
66:可動反射鏡
80:ホログラム感光媒体
85:ホログラム記録媒体
88:ホログラム記録媒体
88−1〜88−n:ホログラム記録媒体の分割領域
90:準備用ホログラム感光媒体
95:準備用ホログラム記録媒体
100,110,120:照明ユニット
200:パターン走査機構
210:載置ステージ
220:搬送装置
300:撮影ユニット
301,302,303:カメラ
400:形状解析ユニット
A1,A2:再生用照明光の断面
A1S,A1E,A2S,A2E,A3S,A3E,AnS,AnE:再生用照明光の断面
a1〜a4:領域
B:走査基点
C:収束点
D:点光源
Da:ホログラム記録媒体の横幅
Db:ホログラム記録媒体の縦幅
G:画像
G(301,i):画像
G(302,i):画像
G(303,i):画像
I:照射領域
L10:光ビーム
L11:光ビーム
L12:平行光束
L20:光ビーム
L21:光ビーム
L22:平行光束
L23:参照光
L24:参照光
L30:散乱光
L31〜L33:物体光
L45,L46:回折光
L50:光ビーム
L60,L61,L62,L65:光ビーム
Ldif :回折光
Lobj :物体光
Lref :参照光
Lrep :再生用照明光
M:物体
P,P1,P2:照射点
Pa,Pb:点光源Dのピッチ
Q:着目点
Q1〜Q3:物体点
R:受光面
S1,S2:参照光の断面
T:三次元形状データ
t1,t2:時刻
U,U1〜Un:線状パターン
V,W:回動軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体(M)を光の線状パターン(U)で走査し、前記物体(M)の表面情報を取り込むスキャナ装置であって、
前記物体(M)に光の線状パターン(U)を投影する照明ユニット(100,110)と、
前記線状パターン(U)の前記物体(M)に対する投影位置を時間的に変化させるパターン走査機構(200)と、
前記線状パターン(U)が投影された前記物体(M)を所定方向から撮影し、前記物体(M)の表面情報を取り込むCCDカメラ(300,301〜303)と、
を備え、
前記照明ユニット(100,110)が、
コヒーレントな光ビーム(L50)を発生させるコヒーレント光源(50)と、
前記線状パターン(U)に対応する形状をもった散乱体(30)の像(35)が記録されたホログラム記録媒体(45,46,85)と、
前記光ビーム(L60,L65)を前記ホログラム記録媒体(45,46,85)に照射し、かつ、前記光ビーム(L60,L65)の前記ホログラム記録媒体(45,46,85)に対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置(60,65)と、
を有し、
前記ホログラム記録媒体(45,46,85)には、所定光路に沿って照射される参照光(L23,Lref )を用いて前記散乱体(30)の像がホログラムとして記録されており、
前記コヒーレント光源(50)は、前記散乱体の像(35)を再生することが可能な波長をもった光ビーム(L50)を発生させ、
前記光ビーム走査装置(60,65)は、前記ホログラム記録媒体(45,46,85)に対する前記光ビーム(L60,L65)の照射方向が前記参照光(L23,Lref )の光路に沿った方向になるように、前記光ビーム(L60,L65)の走査を行い、
前記ホログラム記録媒体(45,46,85)から得られるホログラムの再生光により前記線状パターン(U)が投影されることを特徴とするスキャナ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスキャナ装置において、
ホログラム記録媒体(45,46,85)に、1本もしくは互いに平行な複数本の線状散乱体(30)の像(35)が記録されており、ホログラムの再生光により1本もしくは互いに平行な複数本の線を有する線状パターン(U)が投影されることを特徴とするスキャナ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のスキャナ装置において、
パターン走査機構(200)が、
物体(M)を載置する載置ステージ(210)と、
前記載置ステージ(210)を、線状パターン(U)の構成要素となる線に直交する方向に移動させる搬送装置(220)と、
を有することを特徴とするスキャナ装置。
【請求項4】
請求項2に記載のスキャナ装置において、
パターン走査機構(200)が、
物体(M)を載置する載置ステージ(210)と、
照明ユニット(100,110)を前記載置ステージ(210)に対して、線状パターン(U)の構成要素となる線に直交する方向に移動させる搬送装置と、
を有することを特徴とするスキャナ装置。
【請求項5】
請求項2に記載のスキャナ装置において、
パターン走査機構(200)が、
照明ユニット(100,110)から得られるホログラムの再生光の向きを変える光学系を有し、前記再生光によって投影される線状パターン(U)を、その構成要素となる線に直交する方向に走査することを特徴とするスキャナ装置。
【請求項6】
請求項1に記載のスキャナ装置において、
ホログラム記録媒体(88)が複数の分割領域(88−1,88−2,88−3,... ,88−n)に分割されており、個々の分割領域(88−1,88−2,88−3,... ,88−n)には、それぞれ1本もしくは複数本の線状散乱体(30)の像が記録されており、個々の分割領域(88−1,88−2,88−3,... ,88−n)から得られるホログラムの再生光により、それぞれ1本もしくは複数本の線を有する線状パターンが投影され、かつ、1つの分割領域から得られるホログラムの再生光により投影される線状パターンと、別な1つの分割領域から得られるホログラムの再生光により投影される線状パターンとが、空間上の異なる位置に形成されることを特徴とするスキャナ装置。
【請求項7】
請求項6に記載のスキャナ装置において、
光ビーム走査装置(60,65)が、第1番目の分割領域、第2番目の分割領域、第3番目の分割領域、... 、というように、所定の順番で光ビームの走査を行い、第i番目(i=1,2,3,... )の分割領域を走査しているときに、空間上の第i番目の位置に第i番目の線状パターンが投影されるようにし、光ビーム走査装置(60,65)が、パターン走査機構の役割を兼ねることを特徴とするスキャナ装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載のスキャナ装置において、
ホログラム記録媒体(88)が、横方向に細長い複数の分割領域(88−1,88−2,88−3,... ,88−n)が縦方向に並んで配置されるように分割されており、個々の分割領域(88−1,88−2,88−3,... ,88−n)の長手方向と個々の分割領域(88−1,88−2,88−3,... ,88−n)から得られる再生像の長手方向とが平行になるようにホログラムの記録が行われていることを特徴とするスキャナ装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のスキャナ装置において、
光ビーム走査装置(60)が、光ビーム(L50)を所定の走査基点(B)で屈曲させ、屈曲された光ビーム(L60)をホログラム記録媒体(45)に照射し、かつ、前記光ビーム(L50)の屈曲態様を時間的に変化させることにより、屈曲された光ビーム(L60)の前記ホログラム記録媒体(45)に対する照射位置を時間的に変化させ、
前記ホログラム記録媒体(45)には、特定の収束点(C)に収束する参照光(L23)または特定の収束点(C)から発散する参照光(L23)を用いて散乱体(30)の像がホログラムとして記録されており、
前記光ビーム走査装置(60)が、前記収束点(C)を前記走査基点(B)として光ビーム(L60)の走査を行うことを特徴とするスキャナ装置。
【請求項10】
請求項9に記載のスキャナ装置において、
ホログラム記録媒体(45)に、収束点(C)を頂点とした円錐の側面に沿って三次元的に収束もしくは発散する参照光を用いて散乱体(30)の像が記録されていることを特徴とするスキャナ装置。
【請求項11】
請求項9に記載のスキャナ装置において、
ホログラム記録媒体(45)に、収束点(C)を含む平面に沿って二次元的に収束もしくは発散する参照光を用いて散乱体(30)の像が記録されていることを特徴とするスキャナ装置。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれかに記載のスキャナ装置において、
光ビーム走査装置(65)が、光ビーム(L65)を平行移動させながらホログラム記録媒体(46)に照射することにより、前記光ビーム(L65)の前記ホログラム記録媒体(46)に対する照射位置を時間的に変化させ、
前記ホログラム記録媒体(46)には、平行光束からなる参照光(Lref)を用いて散乱体(30)の像(35)がホログラムとして記録されており、
前記光ビーム走査装置(65)が、前記参照光(Lref)に平行になる方向から光ビーム(L65)を前記ホログラム記録媒体(46)に照射して、光ビーム(L65)の走査を行うことを特徴とするスキャナ装置。
【請求項13】
物体(M)に光の線状パターン(U)を投影し、前記物体(M)の表面情報を取り込む情報取得方法であって、
線状パターン(U)を構成するための散乱体(30)の像(35)をホログラムとして記録用媒体(40,80)上に記録することによりホログラム記録媒体(45,46,85)を作成する準備段階と、
前記ホログラム記録媒体(45,46,85)から得られるホログラムの再生光の照射を受ける位置に前記物体(M)を配置した状態で、前記ホログラム記録媒体(45,46,85)上にコヒーレントな光ビーム(L60)を照射し、かつ、照射位置が時間的に変化するように前記光ビーム(L60)を前記ホログラム記録媒体(45,46,85)上で走査し、前記物体(M)上に前記線状パターン(U)を投影する投影段階と、
前記線状パターン(U)が投影された前記物体(M)を所定方向からCCDカメラにより撮影し、前記物体(M)の表面情報を取り込む撮影段階と、
を有し、
前記準備段階では、コヒーレントな照明光(L12)を前記散乱体(30)に照射し、前記散乱体(30)から得られる散乱光(L30)を物体光として用い、所定光路に沿って前記記録用媒体(40,80)に照射され、前記照明光(L12)と同一波長のコヒーレントな光(L23,Lref )を参照光として用い、前記物体光と前記参照光とによって形成される干渉縞を前記記録用媒体(40,80)に記録することにより前記ホログラム記録媒体(45,46,85)を作成し、
前記投影段階では、前記散乱体の像(35)を再生することが可能な波長をもった光ビーム(L60,L65)が、前記参照光(L23,Lref )の光路に沿った光路を通って前記ホログラム記録媒体(45,46,85)上の照射位置へ向かうように走査を行うことを特徴とする物体の表面情報取得方法。
【請求項14】
物体(M)を光の線状パターン(U)で走査し、前記物体(M)の表面情報を取り込むスキャナ装置であって、
前記物体(M)に光の線状パターン(U)を投影する照明ユニット(120)と、
前記線状パターン(U)の前記物体(M)に対する投影位置を時間的に変化させるパターン走査機構(200)と、
前記線状パターン(U)が投影された前記物体(M)を所定方向から撮影し、前記物体(M)の表面情報を取り込むCCDカメラ(300,301〜303)と、
を備え、
前記照明ユニット(120)が、
コヒーレントな光ビーム(L50)を発生させるコヒーレント光源(50)と、
多数の個別レンズの集合体からなるマイクロレンズアレイ(48)と、
前記光ビーム(L50)を前記マイクロレンズアレイ(48)に照射し、かつ、前記光ビーム(L60)の前記マイクロレンズアレイ(48)に対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置(60)と、
を有し、
前記マイクロレンズアレイ(48)を構成する個別レンズは、それぞれが、前記光ビーム走査装置(60)から照射された光を屈折させ、前記物体(M)の近傍面(R)に線状の照射領域(I)を形成する機能を有し、かつ、いずれの個別レンズによって形成される照射領域(I)も、前記近傍面(R)上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されていることを特徴とするスキャナ装置。
【請求項15】
物体(M)を光の線状パターン(U)で走査し、前記物体(M)の表面情報を取り込むスキャナ装置であって、
前記物体(M)に光の線状パターン(U)を投影する照明ユニット(100,110,120)と、
前記線状パターン(U)の前記物体(M)に対する投影位置を時間的に変化させるパターン走査機構(200)と、
前記線状パターン(U)が投影された前記物体(M)を所定方向から撮影し、前記物体(M)の表面情報を取り込むCCDカメラ(300,301〜303)と、
を備え、
前記照明ユニット(100,110,120)が、
コヒーレントな光ビーム(L50)を発生させるコヒーレント光源(50)と、
前記光ビーム(L50)の向きもしくは位置またはその双方を制御することにより、ビーム走査を行う光ビーム走査装置(60,65)と、
入射した光ビームを拡散して射出する光拡散素子(45,46,48)と、
を備え、
前記光ビーム走査装置(60,65)は、前記コヒーレント光源(50)が発生した前記光ビーム(L50)を、前記光拡散素子(45,46,48)に向けて射出し、かつ、前記光ビーム(L60)の前記光拡散素子(45,46,48)に対する入射位置が時間的に変化するように走査し、
前記光拡散素子(45,46,48)は、入射した光ビームを拡散させて前記物体(M)の近傍面(R)上に線状の照射領域(I)を形成する機能を有し、かつ、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域(I)が、前記近傍面(R)上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されていることを特徴とするスキャナ装置。
【請求項16】
物体(M)の三次元形状を測定する装置であって、
前記物体(M)に光の線状パターン(U)を投影する照明ユニット(100,110)と、
前記線状パターン(U)が投影された前記物体(M)を所定方向から撮影するCCDカメラ(300,301〜303)と、
前記CCDカメラ(300,301〜303)による撮影画像(G)上の前記線状パターン(U)を解析することにより、前記物体(M)の三次元形状データ(T)を作成する形状解析ユニット(400)と、
を備え、
前記照明ユニット(100,110)が、
コヒーレントな光ビーム(L50)を発生させるコヒーレント光源(50)と、
前記線状パターン(U)に対応する形状をもった散乱体(30)の像(35)が記録されたホログラム記録媒体(45,46,85)と、
前記光ビーム(L60,L65)を前記ホログラム記録媒体(45,46,85)に照射し、かつ、前記光ビーム(L60,L65)の前記ホログラム記録媒体(45,46,85)に対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置(60,65)と、
を有し、
前記ホログラム記録媒体(45,46,85)には、所定光路に沿って照射される参照光(L23,Lref )を用いて前記散乱体(30)の像がホログラムとして記録されており、
前記コヒーレント光源(50)は、前記散乱体の像(35)を再生することが可能な波長をもった光ビーム(L50)を発生させ、
前記光ビーム走査装置(60,65)は、前記ホログラム記録媒体(45,46,85)に対する前記光ビーム(L60,L65)の照射方向が前記参照光(L23,Lref )の光路に沿った方向になるように、前記光ビーム(L60,L65)の走査を行い、
前記ホログラム記録媒体(45,46,85)から得られるホログラムの再生光により前記線状パターン(U)が投影されることを特徴とする物体の三次元形状測定装置。
【請求項17】
請求項16に記載の測定装置において、
ホログラム記録媒体(45,46,85)に、1本もしくは複数本の線状散乱体(30)の像(35)が記録されており、ホログラムの再生光により1本もしくは複数本の線を有する線状パターン(U)が投影されることを特徴とする物体の三次元形状測定装置。
【請求項18】
請求項16に記載の測定装置において、
ホログラム記録媒体(88)が複数の分割領域(88−1,88−2,88−3,... ,88−n)に分割されており、個々の分割領域(88−1,88−2,88−3,... ,88−n)には、それぞれ1本もしくは複数本の線状散乱体(30)の像が記録されており、個々の分割領域(88−1,88−2,88−3,... ,88−n)から得られるホログラムの再生光により、それぞれ1本もしくは複数本の線を有する線状パターンが投影され、かつ、1つの分割領域から得られるホログラムの再生光により投影される線状パターンと、別な1つの分割領域から得られるホログラムの再生光により投影される線状パターンとが、空間上の異なる位置に形成されることを特徴とする物体の三次元形状測定装置。
【請求項19】
請求項18に記載の測定装置において、
光ビーム走査装置(60,65)が、第1番目の分割領域、第2番目の分割領域、第3番目の分割領域、... 、というように、所定の順番で光ビームの走査を行い、第i番目(i=1,2,3,... )の分割領域を走査しているときに、空間上の第i番目の位置に第i番目の線状パターンが投影されるようにし、物体(M)に対する線状パターン(U)の投影位置を時間的に変化させることを特徴とする物体の三次元形状測定装置。
【請求項20】
請求項18または19に記載の測定装置において、
ホログラム記録媒体(88)が、横方向に細長い複数の分割領域(88−1,88−2,88−3,... ,88−n)が縦方向に並んで配置されるように分割されており、個々の分割領域(88−1,88−2,88−3,... ,88−n)の長手方向と個々の分割領域(88−1,88−2,88−3,... ,88−n)から得られる再生像の長手方向とが平行になるようにホログラムの記録が行われていることを特徴とする物体の三次元形状測定装置。
【請求項21】
請求項16に記載の測定装置において、
ホログラム記録媒体(45,46,85)に、横方向に伸びる線状散乱体(30A−1,30A−2,30A−3,... ,30A−n)を互いに平行になるように縦方向に複数並べた横方向格子状散乱体(30A)の像が記録されており、ホログラムの再生光により、互いに平行な複数の線(U1,U2,U3,... ,Un)を有する線状パターンが投影されることを特徴とする物体の三次元形状測定装置。
【請求項22】
請求項16に記載の測定装置において、
ホログラム記録媒体(45,46,85)に、横方向に伸びる線状散乱体(30A−1,30A−2,30A−3,... ,30A−n)を互いに平行になるように縦方向に複数並べた横方向格子状散乱体(30A)の像と、縦方向に伸びる線状散乱体(30B−1,30B−2,30B−3,... ,30B−m)を互いに平行になるように横方向に複数並べた縦方向格子状散乱体(30B)の像と、が重畳して記録されており、ホログラムの再生光により、網目格子状の線状パターンが投影されることを特徴とする物体の三次元形状測定装置。
【請求項23】
請求項16に記載の測定装置において、
ホログラム記録媒体(45,46,85)に、網目格子状散乱体(30C)の像が記録されており、ホログラムの再生光により、網目格子状の線状パターンが投影されることを特徴とする物体の三次元形状測定装置。
【請求項24】
請求項16〜23のいずれかに記載の測定装置において、
物体(M)を載置する載置ステージ(210)と、
照明ユニット(100,110)と載置ステージ(210)とについて、一方を他方に対して移動させる搬送装置(220)と、
を更に備えることを特徴とする物体の三次元形状測定装置。
【請求項25】
請求項16〜23のいずれかに記載の測定装置において、
照明ユニット(100,110)から得られるホログラムの再生光の向きを変える光学系を更に有し、前記再生光によって投影される線状パターン(U)を走査することを特徴とする三次元形状測定装置。
【請求項26】
請求項16〜25のいずれかに記載の測定装置において、
CCDカメラ(300)として、それぞれ異なる方向から物体(M)を撮影する複数台のカメラ(301〜303)を有し、
形状解析ユニット(400)が、前記複数台のカメラ(301〜303)によって撮影された撮影画像(G)上の線状パターン(U)を解析することにより、前記物体(M)の三次元形状データ(T)を作成することを特徴とする三次元形状測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【公開番号】特開2012−58226(P2012−58226A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56198(P2011−56198)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【分割の表示】特願2010−549952(P2010−549952)の分割
【原出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】