説明

トロイダル式無段変速機およびそのパワーローラの同期方法

【課題】ストローク方向において複数のパワーローラを同期させることができるトロイダル式無段変速機およびトロイダル式無段変速機のパワーローラの同期方法を提供する。
【解決手段】入力ディスクと出力ディスクとの間に設けられ、複数のパワーローラをストローク方向において同期させるトロイダル式無段変速機のパワーローラの同期方法であって、エンジンの始動時において、各パワーローラを挟持するディスク押圧工程(S2)と、各パワーローラのストローク速度を検出するローラストローク速度検出工程(S4)と、ストローク速度が設定速度よりも遅いかを判別するローラストローク速度判別工程(S5)と、検出したストローク速度が、予め設定された設定速度よりも遅いと判別された場合、各パワーローラが非同期状態であるとして、各パワーローラを同期させる同期制御工程(S6)と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力ディスクと出力ディスクとの間に配置された複数のパワーローラの移動により変速比の変更が行われる、いわゆるトロイダル式無段変速機およびトロイダル式無段変速機のパワーローラの同期方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、トロイダル式無段変速機は、トロイダル面を有する入力ディスクと出力ディスクとの間に、外周面をトロイダル面に対応する曲面としたパワーローラを配設している。そして、トロイダル式無段変速機は、作動油の油圧により入力ディスクと出力ディスクとでパワーローラを挟み込み、これら入力ディスク、出力ディスク及びパワーローラとの間に形成されるトラクションオイルの油膜のせん断力を利用してトルクを伝達するものである。このとき、このパワーローラは、トラニオンにより回転自在に支持され、作動油の油圧によりトラニオンを揺動軸に沿った方向に揺動させている。
【0003】
従って、トラニオンに支持されるパワーローラは、このトラニオンと共に入力ディスク及び出力ディスクに対する中立位置から変速位置に移動する。これにより、パワーローラとディスクとの間に接線力が作用しサイドスリップが発生する。このため、このパワーローラが入力ディスク及び出力ディスクに対して揺動軸を中心として揺動、すなわち、傾転し、この結果、入力ディスクと出力ディスクとの回転数比である変速比が変更される。
【0004】
ところで、車両の運搬時や車両の被牽引時において、車両に衝撃が加わると、複数のパワーローラのそれぞれ位相が異なってしまい、非同期状態となってしまう虞がある。つまり、各パワーローラのそれぞれが、各トラニオンの揺動軸を中心とする回転方向(傾転方向)にズレてしまったり、揺動軸に沿った方向(ストローク方向)にズレてしまったりする。これにより、トロイダル式無段変速機による動力伝達が好適に行われない場合がある。
【0005】
このため、従来のトロイダル式無段変速機では、各トラニオンの外周にワイヤを巻き掛けており、これにより、複数のトラニオンの傾転方向における同期を取ることができる。このため、傾転方向における複数のパワーローラのそれぞれの位相が異なってしまうことを抑制することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平6−34009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のトロイダル式の無段変速機では、ワイヤにより傾転方向における複数のパワーローラのそれぞれの位相が異なってしまうことを抑制することは可能である。しかしながら、ストローク方向における複数のパワーローラのそれぞれの位相が異なってしまうことを抑制することはできない。
【0008】
そこで、本発明は、ストローク方向において複数のパワーローラを同期させることができるトロイダル式無段変速機およびトロイダル式無段変速機のパワーローラの同期方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のトロイダル式無段変速機は、エンジンの駆動により回転可能な入力ディスクと、入力ディスクの回転を出力可能な出力ディスクと、入力ディスクと出力ディスクとの間に設けられた複数のパワーローラと、各パワーローラを中立位置と変速位置との間でストロークさせるローラストローク手段と、入力ディスクと出力ディスクとを相対的に接近移動させて、入力ディスクおよび出力ディスクにより各パワーローラを挟み込むディスク押圧手段と、ローラストローク手段およびディスク押圧手段を制御可能な制御装置と、を備え、制御装置は、エンジンの始動時において、入力ディスクおよび出力ディスクにより各パワーローラを挟持した状態で、各パワーローラをストロークさせて、各パワーローラのストローク速度を検出するローラストローク速度検出部と、検出したストローク速度が、予め設定された設定速度よりも遅いか否かを判別するローラストローク速度判別部と、検出したストローク速度が、予め設定された設定速度よりも遅いと判別された場合、各パワーローラが非同期状態であるとして、各パワーローラを同期させる同期制御部と、を有していることを特徴とする。
【0010】
この場合、同期制御部は、各パワーローラと入力ディスクおよび出力ディスクとの間でスリップ可能なように、入力ディスクおよび出力ディスクにより各パワーローラを挟持させる同期制御を行うことが、好ましい。
【0011】
また、この場合、制御装置は、同期制御部による同期制御時に入力ディスクの駆動力を制限する入力ディスク駆動力制限部を、さらに有していることが、好ましい。
【0012】
これらの場合、設定速度は、各パワーローラを移動させるための作動油の温度に基づいて設定されることが、好ましい。
【0013】
本発明のトロイダル式無段変速機のパワーローラの同期方法は、エンジンの駆動により回転可能な入力ディスクと入力ディスクの回転を出力可能な出力ディスクとの間に設けられ、中間位置と変速位置との間でストローク方向に移動可能な複数のパワーローラを、ストローク方向において同期させるトロイダル式無段変速機のパワーローラの同期方法であって、エンジンの始動時において、入力ディスクおよび出力ディスクにより各パワーローラを挟持するディスク押圧工程と、各パワーローラをストロークさせて、各パワーローラのストローク速度を検出するローラストローク速度検出工程と、検出したストローク速度が、予め設定された設定速度よりも遅いか否かを判別するローラストローク速度判別工程と、検出したストローク速度が、予め設定された設定速度よりも遅いと判別された場合、各パワーローラが非同期状態であるとして、各パワーローラを同期させる同期制御工程と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るトロイダル式無段変速機およびトロイダル式無段変速機のパワーローラの同期方法は、エンジンの始動時において、先ず、入力ディスクおよび出力ディスクにより各パワーローラを挟持し、この状態で、各パワーローラをストロークさせて、ストローク速度を検出する。そして、検出したストローク速度が、設定速度よりも遅ければ、複数のパワーローラが同期していない、すなわち、ストローク方向において複数のパワーローラがそれぞれ異なる位相であると判定する。そして、この判定に基づいて、ストローク方向における複数のパワーローラを同期させることができるため、トロイダル式無段変速機による動力伝達を好適に行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付した図面を参照して、本発明に係るトロイダル式無段変速機およびトロイダル式無段変速機のパワーローラの同期方法について説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0016】
ここで、図1は、本実施例に係るトロイダル式無段変速機の概略断面図であり、図2は、本実施例に係るトロイダル式無段変速機の一対のパワーローラ周りの概略断面図である。また、図3は、エンジン始動時における変速制御ピストンの一連の制御に係るフローチャートである。
【0017】
先ず、図1を参照して、トロイダル式無段変速機8を搭載した車両1について説明する。車両1は、駆動源となるエンジン5と、エンジン5に連結されたトルクコンバータ6と、トルクコンバータ6に連結された前後進切換機構7と、前後進切換機構7に連結されたトロイダル式無段変速機8とを備えている。また、トロイダル式無段変速機8には減速装置9が連結されると共に、減速装置9には差動装置10が連結され、さらに、差動装置10には駆動輪11が連結されている。そして、トルクコンバータ6、前後進切換機構7およびトロイダル式無段変速機8は油圧制御装置26に接続されており、油圧制御装置26は、作動油の油圧をコントロールすることにより、トルクコンバータ6、前後進切換機構7およびトロイダル式無段変速機8を制御する。また、車両1は、エンジン5および油圧制御装置26を制御するECU90を備えており、ECU90により車両1が統括制御される。
【0018】
エンジン5は、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等が用いられており、円筒形状に形成されるシリンダの中心軸方向にピストンが往復運動し、ピストンの往復運動を回転運動に変換するクランクシャフト15から駆動力を出力する。なお、上記の構成に限らず、モータなどの電動機を用いてもよく、また、エンジン及び電動機を併用してもよい。
【0019】
トルクコンバータ6は、流体クラッチの一種であり、エンジン5から出力された駆動力を、作動油を介して前後進切換機構7に伝えるものである。また、トルクコンバータ6は、例えば、ロックアップ機構を有するものがあり、エンジン5からの出力トルクを増加させて、あるいはそのままの出力トルクで、前後進切換機構7に伝達する。
【0020】
前後進切換機構7は、トルクコンバータ6からの回転の回転方向を切り替えてトロイダル式無段変速機8へ前記回転を伝えるものである。
【0021】
トロイダル式無段変速機8は、前後進切換機構7から入力される駆動力の回転速度を、車両の運転状態に応じて所望の回転速度に変更して出力する。なお、トロイダル式無段変速機8の詳細な説明は後述する。
【0022】
減速装置9は、トロイダル式無段変速機8から入力された駆動力の回転速度を減速して差動装置10に駆動力を伝達し、差動装置10は、車両1が旋回する際に生じる旋回の中心側、つまり内側の駆動輪11と、外側の駆動輪11との速度差を吸収する。
【0023】
従って、車両1において、エンジン5が駆動すると、エンジン5から出力された駆動力は、クランクシャフト15を介してトルクコンバータ6に伝達される。そして、トルクコンバータ6によって出力トルクが増幅された駆動力は、前後進切換機構7に伝達され、前後進切換機構7によって所望の回転方向に変更される。所望の回転方向となった駆動力は、トロイダル式無段変速機8に入力され、入力された駆動力は、トロイダル式無段変速機8の所定の変速比に応じて、回転速度が変更される。トロイダル式無段変速機8によって、回転速度が変更された駆動力は、減速装置9に入力され、入力された駆動力は、減速装置9によって減速された後、差動装置10に出力される。そして、差動装置10は、入力された駆動力を駆動輪11に伝達することにより、駆動輪11が回転し、これにより、車両1が走行する。
【0024】
次に、トロイダル式無段変速機8について説明する。トロイダル式無段変速機8は、車両に搭載されたエンジン5からの駆動力を、車両1の走行状態に応じて、適切な駆動力に変換して駆動輪11に伝達するものであり、変速比を無段階(連続的)に制御することができる、いわゆるCVTである。
【0025】
図1および図2に示すように、トロイダル式無段変速機8は、駆動力が入力される一対の入力ディスク20a,20bと、一対の入力ディスク20a,20bの間に配設されると共に、各入力ディスク20a,20bに対向するように配設された一対の出力ディスク21a,21bと、各入力ディスク20a,20bと各出力ディスク21a,21bとの間にそれぞれ設けられた対となる2組のパワーローラ22と、を備えており、各パワーローラ22は、各トラニオン23に回転自在に支持されている。また、トロイダル式無段変速機8は、各入力ディスク20a,20bと各出力ディスク21a,21bとを接近させて各パワーローラ22を挟持させるディスク押圧機構24(ディスク押圧手段)と、各トラニオン23を揺動軸61a,61b(図2参照)に沿って移動させて各パワーローラ22を中立位置と変速位置との間で移動させる油圧サーボ機構25(ローラストローク手段)と、を備えており、ディスク押圧機構24および油圧サーボ機構25は、上記の油圧制御装置26により制御されている。
【0026】
従って、トロイダル式無段変速機8は、ディスク押圧機構24により各入力ディスク20a,20bと各出力ディスク21a,21bとの間に各パワーローラ22を挟み込み、この状態で、油圧サーボ機構25により各トラニオン23を揺動軸61a,61bに沿って移動させる。これにより、各パワーローラ22が中立位置から変速位置に移動することで、各パワーローラ22が傾転し、入力ディスク20a,20bと出力ディスク21a,21bとの回転数比である変速比が変更される。
【0027】
一対の入力ディスク20a,20bは、トロイダル式無段変速機8の入力軸28に連結されたバリエータ軸30に軸支されており、軸線X1を中心にバリエータ軸30と一体となって回転する。そして、一対の入力ディスク20a,20bは、バリエータ軸30に対して、フロント側(エンジン5側)にフロント側入力ディスク20aが設けられ、フロント側入力ディスク20aに対して所定の間隔をあけてリア側(駆動輪11側)にリア側入力ディスク20bが設けられる。
【0028】
各入力ディスク20a,20bは、バリエータ軸30の径方向外側に突出する円板形状に形成され、その軸心には、バリエータ軸30が挿通される開口が形成されている。そして、各入力ディスク20a,20bの各出力ディスク21a,21bと対向する面には、各パワーローラ22にそれぞれ接触するトロイダル面33aが形成されている。
【0029】
フロント側入力ディスク20aは、ボールスプライン35を介してバリエータ軸30に支持されている。このため、フロント側入力ディスク20aは、バリエータ軸30に対して周方向への変位が規制される一方、バリエータ軸30に対して軸方向への変位が許容される。一方、リア側入力ディスク20bは、スプライン36を介してバリエータ軸30に支持されていると共に、バリエータ軸30のリア側端部に設けられたスナップリング37により軸方向への移動が規制されている。このため、リア側入力ディスク20bは、バリエータ軸30に対して周方向への変位が規制される一方、バリエータ軸30に対して軸方向リア側への変位が規制され、軸方向フロント側への変位が許容される。なお、詳細は後述するが、フロント側入力ディスク20aは、ディスク押圧機構24により軸方向リア側に押圧され、リア側入力ディスク20bは、ディスク押圧機構24により軸方向フロント側に押圧される。
【0030】
一対の出力ディスク21a,21bは、バリエータ軸30に対し回転自在に軸支されており、軸線X1を中心に回転する。そして、一対の出力ディスク21a,21bは、一対の入力ディスク20a,20bの間に配設されており、バリエータ軸30に対して、フロント側にフロント側出力ディスク21aが設けられ、フロント側出力ディスク21aに対して所定の間隔をあけてリア側にリア側出力ディスク21bが設けられる。
【0031】
各出力ディスク21a,21bも、各入力ディスク20a,20bと同様に、バリエータ軸30の径方向外側に突出する円板形状に形成され、その軸心には、バリエータ軸30が挿通される開口が形成されている。そして、各出力ディスク21a,21bの各入力ディスク20a,20bと対向する面には、各パワーローラ22にそれぞれ接触するトロイダル面33bが形成されている。
【0032】
フロント側出力ディスク21aおよびリア側出力ディスク21bは、ベアリングを介してバリエータ軸30に支持されている。一対の出力ディスク21a,21bの間には、出力ギア40が連結されており、この出力ギア40は、一対の出力ディスク21a,21bと一体となって回転する。また、出力ギア40には、カウンターギア41が噛み合わされており、このカウンターギア41に出力軸42が連結されている。従って、各出力ディスク21a,21bが回転することにより出力ギア40が回転し、出力ギア40からカウンターギア41に回転を伝達することで、出力軸42が回転する。そして、この出力軸42は、減速装置9、差動装置10等を介して駆動輪11に接続されている。なお、出力軸42周りには、出力軸42の回転数を検出する出力軸回転数検出センサ101が配設されている。
【0033】
ここで、入力軸28周りには、エンジンの回転数を検出する入力軸回転数検出センサ100が配設されると共に、各出力ディスク21a,21bに対し各入力ディスク20a,20bを接近させるディスク押圧機構24が配設されている。ディスク押圧機構24は、各入力ディスク20a,20bと各出力ディスク21a,21bとの間に一対のパワーローラ22を挟み込んで、挟圧力を作用させるものである。このディスク押圧機構24は、挟圧力発生油圧室45と、挟圧押圧力ピストン46とを有している。
【0034】
挟圧力発生油圧室45は、フロント側入力ディスク20a側に設けられており、入力軸28とフロント側入力ディスク20aとの間に配置される。そして、挟圧力発生油圧室45には、油圧制御装置26から作動油が供給される。
【0035】
挟圧押圧力ピストン46は、円板状に形成され、その中心が軸線X1とほぼ一致するようにバリエータ軸30のフロント側の一端部に設けられる。具体的に、バリエータ軸30のフロント側端部には、フランジ部47が形成され、このフランジ部47に挟圧押圧力ピストン46のフロント側端面の中央部を当接させると共に、挟圧押圧力ピストン46のフロント側端面の外周部には、入力軸28が連結されている。つまり、バリエータ軸30のフランジ部47は、入力軸28と挟圧押圧力ピストン46との間に配設されている。そして、挟圧押圧力ピストン46は、X1軸方向に対して、バリエータ軸30のフランジ部47とフロント側入力ディスク20aとの間に所定の間隔をあけて配置される。これにより、この挟圧押圧力ピストン46とフロント側入力ディスク20aとの間には、上述の挟圧力発生油圧室45が形成される。
【0036】
また、挟圧押圧力ピストン46は、このバリエータ軸30と共に軸線X1を中心として回転可能に設けられると共に、軸線X1に沿った方向に移動可能に設けられる。これにより、リア側入力ディスク20b、バリエータ軸30および挟圧押圧力ピストン46は、入力軸28と一体となって軸線X1を中心に回転可能に構成され、軸線X1に沿った方向に移動可能に構成される。また、フロント側入力ディスク20aは、リア側入力ディスク20b、バリエータ軸30および挟圧押圧力ピストン46と共に一体となって軸線X1を中心として回転可能である一方で、ボールスプライン35によって、このリア側入力ディスク20b、バリエータ軸30および挟圧押圧力ピストン46に対して軸線X1に沿った方向に相対的に移動可能である。
【0037】
また、フロント側入力ディスク20aは、そのフロント側端面が、フロント側入力ディスク20aを移動させるための油圧の第1作用面50となっており、挟圧押圧力ピストン46は、そのリア側端面が、リア側入力ディスク20bを移動させるための油圧の第2作用面51となっている。つまり、挟圧力発生油圧室45は、その一部が第1作用面50および第2作用面51により区画されている。
【0038】
従って、ディスク押圧機構24は、挟圧力発生油圧室45内に供給される作動油の油圧により、フロント側入力ディスク20aを軸線X1の軸方向リア側へ移動させると共に、挟圧押圧力ピストン46を軸線X1の軸方向フロント側へ移動させる。これにより、フロント側入力ディスク20aとフロント側出力ディスク21aとの間に配設された一対のパワーローラ22は、フロント側入力ディスク20aとフロント側出力ディスク21aとにより挟持される。一方、リア側入力ディスク20bとリア側出力ディスク21bとの間に配設された一対のパワーローラ22は、挟圧押圧力ピストン46が軸線X1の軸方向フロント側へ移動することにより、リア側入力ディスク20bがフロント側へ移動するため、リア側入力ディスク20bとリア側出力ディスク21bとにより挟持される。この結果、トロイダル式無段変速機8は、各パワーローラ22を介して各入力ディスク20a,20bと各出力ディスク21a,21bとの間で、動力伝達を行うことが可能となる。
【0039】
次に、2組一対のパワーローラ22は、各入力ディスク20a,20bと各出力ディスク21a,21bとの間に配設され、具体的には、一方の一対のパワーローラ22は、フロント側入力ディスク20aとフロント側出力ディスク21aとの間に配設され、他方の一対のパワーローラ22は、リア側入力ディスク20bとリア側出力ディスク21bとの間に配設されている。そして、各パワーローラ22は、ディスク押圧機構24により各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bに挟持された状態で転動することにより、各入力ディスク20a,20bから各出力ディスク21a,21bに駆動力を、あるいは各出力ディスク21a,21bから各入力ディスク20a,20bに被駆動力を伝達する。このとき、各パワーローラ22は、トロイダル式無段変速機8に供給されるトラクションオイルにより各パワーローラ22と各入力ディスク20a,20bとの間および各パワーローラ22と各出力ディスク21a,21bとの間に形成される油膜のせん断力を用いて駆動力あるいは被駆動力を伝達する。
【0040】
さらに具体的に、各パワーローラ22は、パワーローラ本体55と、外輪56とにより構成されている。パワーローラ本体55は、その外周面が各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bのトロイダル面33a,33bに対応した曲面状の接触面57に形成されている。パワーローラ本体55は、外輪56に形成された回転軸58に対し、ラジアルベアリングRBを介して回転自在に支持されている。また、パワーローラ本体55は、外輪56のパワーローラ本体55と対向する面に対して、スラストベアリングSBを介して回転自在に支持されている。従って、パワーローラ本体55は、外輪56の回転軸58の軸線X2を回転中心として回転可能となっている。
【0041】
外輪56には、上述の回転軸58と共に偏心軸59が形成されている。偏心軸59は、その軸線X3が回転軸58の軸線X2に対してずれた位置となるように形成されている。偏心軸59は、後述するトラニオン23に対し、ラジアルベアリングRBを介して回転自在に支持されている。従って、外輪56は、偏心軸59の軸線X3を中心として回転可能である。つまり、各パワーローラ22は、軸線X3を中心として公転可能でかつ軸線X2を中心として自転可能となる。
【0042】
2組一対のパワーローラ22をそれぞれ回転自在に支持する2組一対のトラニオン23は、各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bに対し、各パワーローラ22を中立位置と変速位置との間で移動させるものであり、より具体的には、各パワーローラ22を中立位置を挟んで増速側のストロークエンド位置と減速側のストロークエンド位置との間で移動させるものである。各トラニオン23は、本体部60と、揺動軸61a,61bとにより構成されている。
【0043】
本体部60には、パワーローラ22が配置される空間部が形成されている。また、本体部60には、パワーローラ22の移動方向における両端部に揺動軸61a,61bがそれぞれ一体形成されている。揺動軸61a,61bは、柱状に形成されており、軸線X4を回転中心として本体部60を傾転方向に回転可能に軸支している。図示下方に延びる一方の揺動軸61aは、ロアリンク62を介してケーシング(不図示)に支持されており、図示上方に延びる他方の揺動軸61bは、アッパリンク63を介してケーシング(不図示)に支持されている。また、揺動軸61aは、ラジアルベアリングRBを介してロアリンク62に傾転方向に回転自在かつX4軸方向(ストローク方向)に移動自在に支持され、揺動軸61bは、ラジアルベアリングRBを介してアッパリンク63に傾転方向に回転自在かつストローク方向に移動自在に支持されている。従って、各トラニオン23は、本体部60が揺動軸61a,61bと共に軸線X4を中心として傾転方向に回転自在に支持され、また、軸線X4に沿ったストローク方向に移動自在に支持されている。
【0044】
ここで、各トラニオン23の揺動軸61a周りには、各トラニオン23をX4軸方向に移動させる油圧サーボ機構25が配設され、また、揺動軸61bの一方の周りには、ストロークセンサ64が配設されている。ストロークセンサ64は、一方のトラニオン23のX4軸方向(ストローク方向)への移動量(ストローク量)を検出するものであり、上記のECU90に接続されている。これにより、ECU90は、ストロークセンサ64による検出結果に基づいて、油圧サーボ機構25を制御することにより、各トラニオン23のX4軸方向への移動を制御している。油圧サーボ機構25は、各トラニオン23を介して各パワーローラ22を中立位置を挟んで増速側のストロークエンド位置と減速側のストロークエンド位置との間で移動させるものである。この油圧サーボ機構25は、変速制御油圧室65と、変速制御ピストン66とを有しており、変速制御油圧室65に導入される作動油の油圧を変速制御ピストン66により受圧することで、各トラニオン23を軸線X4に沿った増速側および減速側の2方向(A1方向およびA2方向)に移動させる。なお、前後進切換機構7により各入力ディスク20a,20bの回転の切換が行われると、増速側方向または減速側方向であるA1方向は減速側方向または増速側方向となり、減速側方向または増速側方向であるA2方向は増速側方向または減速側方向となる。
【0045】
変速制御ピストン66は、ピストンベース70とフランジ部71とにより構成されている。ピストンベース70は、円筒形状に形成され一方の揺動軸61aに挿入されて固定されている。フランジ部71は、ピストンベース70から揺動軸61aの径方向外側に突出して円板状に形成されると共にピストンベース70に固定的に設けられている。
【0046】
変速制御油圧室65は、シリンダボディ75内に形成されており、シリンダボディ75は、ボディ本体76と、ボディ本体76の底部に配設されたロアカバー77とにより構成されている。ボディ本体76は、その底部に変速制御油圧室65となる円柱中空状の凹部が形成されている。そして、ロアカバー77は、ボディ本体76の凹部の開口を塞ぐようにボディ本体76の底部に固定される。これにより、変速制御油圧室65は、ボディ本体76とロアカバー77とにより軸線X4を中心とした円柱状(シリンダ状)に区画される。
【0047】
そして、変速制御ピストン66のフランジ部71は、変速制御油圧室65内に収容されると共に、変速制御油圧室65を第1油圧室OP1と第2油圧室OP2とに区分けする。このとき、一対のパワーローラ22を支持する一対のトラニオン23において、各トラニオン23の揺動軸61a周りに形成された第1油圧室OP1は、軸線X4に沿ったA2方向側に形成され、第2油圧室OP2は、軸線X4に沿ったA1方向側に形成されており、一対のトラニオン23の揺動軸61a周りに形成された第1油圧室OP1および第2油圧室OP2は、それぞれ位置関係が逆となっている。
【0048】
ここで、油圧制御装置26は、ディスク押圧機構24による押圧力を調整するための押圧制御弁84と、油圧サーボ機構25によるトラニオン23(変速制御ピストン66)の移動を制御するための変速制御弁85と、を備えている。押圧制御弁84および変速制御弁85は、それぞれECU90に接続され、ECU90による制御信号により、挟圧力発生油圧室45内の油圧と、第1油圧室OP1および第2油圧室OP2内の油圧とをそれぞれ調整する。
【0049】
従って、油圧制御装置26により、第1油圧室OP1の内部に作動油を供給すると共に、第2油圧室OP2の内部から作動油を図示しないオイルパンへ流出させると、各変速制御ピストン66のフランジ部71が軸線X4に沿ったA1方向に移動する。これにより、各トラニオン23は各パワーローラ22をA1方向における変速位置へ移動させる。一方、油圧制御装置26により、第2油圧室OP2の内部に作動油を供給すると共に、第2油圧室OP2の内部から作動油を図示しないオイルパンへ流出させると、各変速制御ピストン66のフランジ部71が軸線X4に沿ったA2方向に移動する。これにより、各トラニオン23は各パワーローラ22をA2方向における変速位置へ移動させる。
【0050】
これにより、油圧サーボ機構25は、各トラニオン23を軸線X4に沿った方向に移動させることにより、各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bに対し、各パワーローラ22を中立位置から増速側または減速側の変速位置に移動させることで、各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bに対し、各パワーローラ22を傾転させることができる。そして、変速位置に臨んだ各パワーローラ22を、再び中立位置に戻すことで、変速比の変更を完了する。このとき、フランジ部71の径方向外側の先端部には、環状のシール部材Sが設けられており、環状のシール部材Sは、第1油圧室OP1および第2油圧室OP2の内部の作動油が互いに漏れないようにシールしている。
【0051】
ところで、車両1の運搬時や車両1の被牽引時において、車両1に衝撃が加わってしまうと、各パワーローラ22が、例えばその自重により、ストローク方向にズレてしまう場合がある。このとき、一対のパワーローラ22が、A1方向とA2方向とにそれぞれ移動してしまうと、各パワーローラ22のストローク方向への移動を好適に行うことができず、トロイダル式無段変速機8による動力伝達が好適に行われない場合がある。このため、本実施例のトロイダル式無段変速機8では、各パワーローラ22のストローク方向における非同期状態を補正している。なお、上記したアッパリンク63およびロアリンク62により各パワーローラ22のストローク方向における同期を機械的にとってはいるが、アッパリンク63およびロアリンク62と各トラニオン23との間には、各種構成部品の寸法公差等により僅かなガタが生じてしまう。このため、このガタ分、ストローク方向において各パワーローラ22が非同期状態となってしまう。以下、図1および図2を参照して、トロイダル式無段変速機8の2組一対のパワーローラ22を同期させるための構成について説明する。
【0052】
油圧制御装置26を制御するECU90(制御装置)は、各パワーローラ22を挟持する各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bの間の押圧力(挟持力)を制御するディスク押圧制御部80と、ストローク方向に移動する各変速制御ピストン66を制御するピストン変速制御部81と、を備えている。また、ECU90は、各パワーローラ22のストローク方向における速度を検出するローラ速度検出部82(ローラストローク速度検出部)と、検出した各パワーローラ22のストローク速度から各パワーローラ22が非同期状態であるか否かを判別するローラ同期判別部83(ローラストローク速度判別部)と、エンジンの駆動力を制限するエンジン駆動力制限部79(入力ディスク駆動力制限部)と、を備えている。
【0053】
ディスク押圧制御部80は、押圧制御弁84を制御して、挟圧力発生油圧室45内の油圧を可変させることにより、各パワーローラ22を挟み込む各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bの挟持力を調整する。そして、ディスク押圧制御部80は、この挟持力を適宜調整することにより、各入力ディスク20a,20bからの回転を各出力ディスク21a,21bへ伝達可能としたり、または、各入力ディスク20a,20bからの回転を各出力ディスク21a,21bへ伝達不能としたり、あるいは、各パワーローラ22と各入力ディスク20a,20bとをスリップ(層間滑り)させた状態で、各入力ディスク20a,20bからの回転を各出力ディスク21a,21bへ伝達可能としたりする。つまり、詳細は後述するが、ディスク押圧制御部80は、ストローク方向における各パワーローラ22を同期させる同期制御部として機能する。
【0054】
ピストン変速制御部81は、変速制御弁85を制御して、第1油圧室OP1内および第2油圧室OP2内の油圧を可変させることにより、各変速制御ピストン66をストローク方向に移動させるものである。そして、ピストン変速制御部81は、各変速制御ピストン66をストローク方向に移動させることで、各トラニオン23を介して各パワーローラ22を中立位置と変速位置との間で移動させることができる。
【0055】
ローラ速度検出部82は、エンジン5始動時において、各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bにより各パワーローラ22を挟持した状態で、各パワーローラ22をストロークさせる。そして、ローラ速度検出部82は、ストロークセンサ64による検出結果に基づいて、各パワーローラ22のストローク方向におけるストローク速度を検出しており、具体的には、単位時間当たりにおける各パワーローラ22のストローク量(移動量)からストローク速度を算出している。
【0056】
ローラ同期判別部83は、ローラ速度検出部82により検出されたストローク速度が、予め設定された設定速度よりも遅いか否かを判別して、各パワーローラ22が非同期状態であるか否かを判別するものである。具体的に、ローラ同期判別部83は、ローラ速度検出部82により検出されたストローク速度が設定速度よりも遅い場合、各パワーローラ22が非同期状態であると判別する一方、ローラ速度検出部82により検出されたストローク速度が設定速度よりも速い場合、各パワーローラ22が同期状態であると判別する。なお、上記の設定速度とは、各パワーローラ22が同期状態であるか否かを判定するしきい値であり、第1油圧室OP1および第2油圧室OP2に流入する作動油の温度に基づいて、任意に設定されている。これにより、作動油の温度変化に伴う粘度変化を考慮して、各パワーローラが同期状態であるか否かを判別することができる。
【0057】
つまり、各パワーローラ22が非同期状態である場合、例えば、一対のパワーローラ22のうち、その一方が中立位置から減速側にズレ、その他方が中立位置から増速側にズレた状態である場合、一対のパワーローラ22を減速側のストロークエンド位置へストロークさせる。すると、一方のパワーローラ22は、中立位置から減速側の変速位置に位置しているため、減速側のストロークエンド位置までの距離は短い。他方のパワーローラ22は、中立位置から増速側の変速位置に位置しているため、減速側のストロークエンド位置までの距離は長い。これにより、減速側のストロークエンド位置までの距離が長い他方のパワーローラ22は、減速側のストロークエンド位置までの距離が短い一方のパワーローラ22に比して、入力ディスク20a,20bを回転させようとする。つまり、他方のパワーローラ22のストローク速度は、入力ディスク20a,20bを介して一方のパワーローラ22のストローク速度に阻害されるため、設定速度よりも遅くなる。
【0058】
これに対し、各パワーローラ22が同期状態である場合、例えば、一対のパワーローラ22のそれぞれが中立位置に位置している場合、一対のパワーローラ22を減速側のストロークエンド位置へストロークさせる。すると、一方のパワーローラ22および他方のパワーローラ22は、中立位置から減速側のストロークエンド位置までの距離は同じとなるため、他方のパワーローラ22のストローク速度は、入力ディスク20a,20bを介して一方のパワーローラ22のストローク速度に阻害されることがないため、設定速度よりも速くなる。
【0059】
エンジン駆動力制限部79は、エンジン回転数およびエンジントルクを制限するものである。エンジン駆動力制限部79は、トロイダル式無段変速機8の入力軸28に設けられた入力軸回転数検出センサ100により入力軸28の回転数を検出しながら、入力軸28(入力ディスク20a,20b)の回転数を所定の回転数以下となるように、エンジン制御を行う。また、エンジン駆動力制限部79は、エンジントルクが所定のトルク以下となるようにエンジン制御を行う。これにより、エンジン駆動力制限部79は、スリップにより生じる各入力ディスク20a,20bと各パワーローラ22との摺動によるダメージを軽減することができる。
【0060】
次に、図3を参照して、エンジン5始動時における各パワーローラ22の一連の動作および制御について説明する。エンジン5を始動させると(S1)、先ず、ECU90のディスク押圧制御部80は、押圧制御弁84を制御して、各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bの間の挟持力を発生させ、各パワーローラ22を挟み込む(S2:ディスク押圧工程)。この後、ピストン変速制御部81は、車両1の前後進に応じて、変速制御弁85を制御して、第1油圧室OP1または第2油圧室OP2に油圧を導入する。これにより、ピストン変速制御部81は、2組一対の変速制御ピストン66を、A1方向またはA2方向にストロークさせる(S3)。
【0061】
このとき、ローラ速度検出部82は、各変速制御ピストン66を介してストロークさせた各パワーローラ22のストローク速度を検出する(S4:ローラストローク速度検出工程)。続いて、ローラ同期判別部83は、ローラ速度検出部82により検出されたストローク速度が、予め設定された設定速度よりも遅いか否かを判別する(S5:ローラストローク速度判別工程)。そして、ローラ同期判別部83は、ローラ速度検出部82により検出したストローク速度が、予め設定された設定速度よりも遅いと判別した場合、各パワーローラ22が非同期状態であると判別する。なお、ローラ同期判別部83は、ローラ速度検出部82により検出したストローク速度が、予め設定された設定速度よりも速いと判別した場合、各パワーローラ22が同期状態であると判別して、後述するS9へ移行する。
【0062】
各パワーローラ22が非同期状態であると判別されると、ディスク押圧制御部80は、押圧制御弁84を制御して、押圧油圧を下げ、ディスク押圧工程において発生させた挟持力よりも低い挟持力とする。これにより、ディスク押圧制御部80は、各パワーローラ22が各入力ディスク20a,20bとの間でスリップしながら回転可能となるようにする(S6:同期制御工程)。
【0063】
続いて、エンジン駆動力制限部79は、入力軸28の回転数が所定の回転数以下となるように、また、入力軸28のトルクが所定のトルク以下となるように、エンジンの駆動力を制限し(S7)、この状態において、各入力ディスク20a,20bを回転させる。これにより、各パワーローラ22は、各入力ディスク20a,20bとの間でスリップしながら、力がバランスする各入力ディスク20a,20bとの接触点へ移動する。そして、接触点が移動することにより、ストローク方向における各パワーローラ22の非同期状態が補正されて同期状態となり、ECU90は、ストローク方向における各パワーローラ22の位相を一致させることができる。そして、各パワーローラ22の位相が一致すると、各入力ディスク20a,20bの回転を各パワーローラ22を介して各出力ディスク21a,21bへ好適に伝達することができる。このため、ECU90は、トロイダル式無段変速機8の出力軸42に設けられた出力軸回転数検出センサ101により、出力軸42が回転したか否かを検出し(S8)、出力軸42が回転したことを検出すると、ECU90は、通常の変速制御を行う(S9)。このとき、通常の変速制御を行う場合、ECU90のディスク押圧制御部80は、各パワーローラ22と各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bとがスリップしないように押圧油圧を上げると共に、S7におけるエンジン回転数の制限を解除する。
【0064】
以上の構成によれば、2組一対の各パワーローラ22がストローク方向に対し、それぞれ異なる位相(非同期状態)となっていた場合、エンジン5の始動時において、各パワーローラをストロークさせることにより、各パワーローラが同期しているか否かを判別することができる。そして、この判別に基づいて、ストローク方向における複数のパワーローラを同期させることができるため、トロイダル式無段変速機による動力伝達を好適に行うことができる。
【0065】
また、同期制御工程において、ディスク押圧制御部80が、各パワーローラ22と各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bとの間でスリップ可能なように、各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bにより各パワーローラ22を挟持することができる。このため、各パワーローラ22は、各入力ディスク20a,20bとの接触点を、力がバランスする接触点へスリップしながら移動することができるため、ディスク押圧制御部80は、ストローク方向における各パワーローラ22を同期させることができる。
【0066】
さらに、エンジン駆動力制限部79は、入力軸28の駆動力(回転数およびトルク)を所定の駆動力以下となるようにエンジンの駆動力を制限することにより、スリップにより生じる各入力ディスク20a,20bと各パワーローラ22との摺動によるダメージを軽減することができる。
【0067】
さらに、S5のローラストローク速度判別工程において、設定速度を作動油の温度に基づいて任意のストローク速度に設定することで、温度変化による作動油の粘度を考慮した設定速度とすることができる。これにより、ローラ同期判別部83は、作動油の温度変化に伴う粘度変化を考慮して、各パワーローラ22が同期状態であるか否かを判別することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上のように、本発明は、エンジン始動時において、トロイダル式無段変速機に設けられた複数のパワーローラを同期させる場合に適している。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本実施例に係るトロイダル式無段変速機の概略断面図である。
【図2】本実施例に係るトロイダル式無段変速機の一対のパワーローラ周りの概略断面図である。
【図3】エンジン始動時におけるパワーローラの一連の制御に係るフローチャートである。
【符号の説明】
【0070】
1 車両
5 エンジン
7 前後進切換機構
8 トロイダル式無段変速機
11 駆動輪
20a,20b 入力ディスク
21a,21b 出力ディスク
22 パワーローラ
23 トラニオン
24 ディスク押圧機構
25 油圧サーボ機構
26 油圧制御装置
45 挟圧力発生油圧室
46 挟圧押圧力ピストン
64 ストロークセンサ
65 変速制御油圧室
66 変速制御ピストン
79 エンジン駆動力制限部
80 ディスク押圧制御部
81 ピストン変速制御部
82 ローラ速度検出部
83 ローラ同期判別部
84 押圧制御弁
85 変速制御弁
90 ECU
100 入力軸回転数検出センサ
101 出力軸回転数検出センサ
OP1 第1油圧室
OP2 第2油圧室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの駆動により回転可能な入力ディスクと、
前記入力ディスクの回転を出力可能な出力ディスクと、
前記入力ディスクと前記出力ディスクとの間に設けられた複数のパワーローラと、
前記各パワーローラを中立位置と変速位置との間でストロークさせるローラストローク手段と、
前記入力ディスクと前記出力ディスクとを相対的に接近移動させて、前記入力ディスクおよび前記出力ディスクにより前記各パワーローラを挟み込むディスク押圧手段と、
前記ローラストローク手段および前記ディスク押圧手段を制御可能な制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
エンジンの始動時において、前記入力ディスクおよび前記出力ディスクにより前記各パワーローラを挟持した状態で、前記各パワーローラをストロークさせて、前記各パワーローラのストローク速度を検出するローラストローク速度検出部と、
検出した前記ストローク速度が、予め設定された設定速度よりも遅いか否かを判別するローラストローク速度判別部と、
検出した前記ストローク速度が、予め設定された設定速度よりも遅いと判別された場合、前記各パワーローラが非同期状態であるとして、前記各パワーローラを同期させる同期制御部と、を有していることを特徴とするトロイダル式無段変速機。
【請求項2】
前記同期制御部は、前記各パワーローラと前記入力ディスクおよび前記出力ディスクとの間でスリップ可能なように、前記入力ディスクおよび前記出力ディスクにより前記各パワーローラを挟持させる同期制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のトロイダル式無段変速機。
【請求項3】
前記制御装置は、前記同期制御部による同期制御時に前記入力ディスクの駆動力を制限する入力ディスク駆動力制限部を、さらに有していることを特徴とする請求項2に記載のトロイダル式無段変速機。
【請求項4】
前記設定速度は、前記各パワーローラを移動させるための作動油の温度に基づいて設定されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のトロイダル式無段変速機。
【請求項5】
エンジンの駆動により回転可能な入力ディスクと前記入力ディスクの回転を出力可能な出力ディスクとの間に設けられ、中間位置と変速位置との間でストローク方向に移動可能な複数のパワーローラを、ストローク方向において同期させるトロイダル式無段変速機のパワーローラの同期方法であって、
前記エンジンの始動時において、前記入力ディスクおよび前記出力ディスクにより前記各パワーローラを挟持するディスク押圧工程と、
前記各パワーローラをストロークさせて、前記各パワーローラのストローク速度を検出するローラストローク速度検出工程と、
検出した前記ストローク速度が、予め設定された設定速度よりも遅いか否かを判別するローラストローク速度判別工程と、
検出した前記ストローク速度が、予め設定された設定速度よりも遅いと判別された場合、前記各パワーローラが非同期状態であるとして、前記各パワーローラを同期させる同期制御工程と、を備えたことを特徴とするトロイダル式無段変速機のパワーローラの同期方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−275888(P2009−275888A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130145(P2008−130145)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】