説明

ハイブリッド車両およびその制御方法

【課題】エンジンおよび、エンジンと動力分割機構を介して接続されたモータを備えるハイブリッド車両において、モータ異常発生時に、エンジン始動に伴なう反力による駆動力の変動を抑制してエンジンを用いた退避走行を可能とする。
【解決手段】第2の電動機の異常発生時には、第2の電動機の運転を停止させるとともに、エンジンおよび第1の電動機を用いた退避走行を実行させる。制御装置は、第2の電動機の異常発生が検知された場合に、第1の電動機からの動力により動力分割機構を介してエンジンを回転駆動することにより、エンジンを始動させる。また、制御装置は、第2の電動機に接続されるインバータのスイッチング素子を所定のスイッチングパターンに従ってオン・オフさせることによって運転停止中の第2の電動機から電磁気的な作用に基づく引きずりトルクを発生させることによりエンジン始動時に出力部材に生じる反力を相殺する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハイブリッド車両およびその制御方法に関し、より特定的には、内燃機関(エンジン)および、エンジンと動力分割機構を介して接続された電動機(モータ)を備えるハイブリッド車両およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のハイブリッド車両としては、たとえば特開2009−280036号公報(特許文献1)には、動力分割機構を介して駆動軸に動力を出力するエンジンと、動力分割機構に接続された発電可能な第1モータと、駆動軸に接続された第2モータと、第1モータを駆動する発電機用インバータ回路と、第2モータを駆動する電動機用インバータ回路とを備えたハイブリッド車両が開示される。このようなハイブリッド車両では、第1モータにより動力分割機構を介してエンジンを回転駆動することによってエンジンを始動する。これにより、始動専用のスタータが不要となるため、部品点数が少なくなってハイブリッド車両に搭載される駆動装置を小型化することができる。
【0003】
特許文献1に記載されるハイブリッド車両では、電動機用インバータ回路の一部のスイッチング素子がオフ故障しているときにエンジンを始動するときには、第1モータによりエンジンがクランキングされるように発電機用インバータ回路を制御するとともに、第1モータによるエンジンのクランキングにより駆動軸に作用する反力を相殺するトルク(反力相殺トルク)を第2モータが出力するように電動機用インバータ回路を制御する。このとき、電動機用インバータ回路は、第2モータを正常に駆動できる電気角の範囲である正常電気角範囲内において第2モータが反力相殺トルクを出力するように制御される。これにより、電動機用インバータ回路にオフ故障が生じたときであっても、エンジンを始動することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−280036号公報
【特許文献2】特開2008−105475号公報
【特許文献3】特開2009−195026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1に記載の車両では、反力相殺トルクを発生させる第2モータが故障によって正常運転不能である場合には、電動機用インバータ回路の制御によって第2モータから反力相殺トルクを発生させることができない。そのため、第1モータによるエンジン始動に伴なう反力によって車両に運転外乱となる駆動力変動が生じ、運転性を損なうおそれがある。
【0006】
特に、車速が低車速領域にある場合には、車両前方に押す慣性力が小さいため反力を相殺することができず、車両を後退させてしまう可能性がある。そのため、エンジンを始動させてエンジンおよび第1モータを用いた退避走行を行なうことができないという問題があった。
【0007】
それゆえ、この発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、その目的は、エンジンおよび、エンジンと動力分割機構を介して接続されたモータを備えるハイブリッド車両において、モータの異常発生時に、エンジン始動に伴なう反力による駆動力の変動を抑制してエンジンを用いた退避走行を実行可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のある局面では、ハイブリッド車両は、燃料の燃焼によって作動するエンジンと、第1の電動機と、動力を出力するための出力部材と、出力部材、エンジンの出力軸および第1の電動機の出力軸とそれぞれ結合された複数の回転要素を互いに相対回転可能に連結し、かつ、第1の電動機による電力および動力の入出力を伴なってエンジンからの出力の少なくとも一部を出力部材へ出力する動力分割機構と、出力部材から駆動輪までの間で動力を加える第2の電動機と、第2の電動機に接続され、複数のスイッチング素子により構成されたインバータと、第1および第2の電動機、ならびにエンジンの運転を制御する制御装置とを備える。制御装置は、第2の電動機の異常を検知するための異常検知手段と、第2の電動機の異常が検知された場合に、第2の電動機の運転を停止させるとともに、エンジンおよび第1の電動機を用いた異常時運転を実行させるための異常制御手段とを含む。異常制御手段は、第2の電動機の異常が検知された場合に、第1の電動機からの動力により動力分割機構を介してエンジンを回転駆動することにより、エンジンを始動させるための始動手段と、複数のスイッチング素子を所定のスイッチングパターンに従ってオン・オフさせることによって、運転停止中の第2の電動機から電磁気的な作用に基づく引きずりトルクを発生させることにより、始動手段によるエンジンの始動に起因して出力部材に生じる反力を相殺するための反力相殺手段とを含む。
【0009】
好ましくは、第2の電動機は、多相モータであり、インバータは、電源線および接地線の間に互いに並列に接続され、多相モータの多相コイルに流れる電流をそれぞれ制御するための多相アームを含む。多相アームの各々は、正母線および負母線の間に、各相コイルとの接続点を介して直列接続された第1および第2のスイッチング素子を含む。反力相殺手段は、多相アームを通じて第1および第2のスイッチング素子の一方を同時にオン状態に制御する多相オン制御を実行することにより、第2の電動機から引きずりトルクを発生させる。
【0010】
好ましくは、反力相殺手段は、引きずりトルクが最大となるときの第2の電動機の回転数を、多相オン制御の実行可否を判定するための判定値に設定するとともに、第2の電動機の運転停止中に第2の電動機の回転数が判定値以下となったときに、多相オン制御を実行する。
【0011】
好ましくは、始動手段は、エンジンの始動に起因して出力部材に生じる反力が引きずりトルクの最大値を超えないように、第1の電動機の運転を制御する。
【0012】
好ましくは、始動手段は、エンジンの始動が完了するまでに第2の電動機の回転数が判定値を超えたときには、エンジンの始動を中止する。
【0013】
好ましくは、始動手段は、エンジンの始動処理の継続時間が所定時間を超えたときには、エンジンの始動を中止する。
【0014】
この発明の別の局面では、ハイブリッド車両の制御方法であって、ハイブリッド車両は、燃料の燃焼によって作動するエンジンと、第1の電動機と、動力を出力するための出力部材と、出力部材、エンジンの出力軸および第1の電動機の出力軸とそれぞれ結合された複数の回転要素を互いに相対回転可能に連結し、かつ、第1の電動機による電力および動力の入出力を伴なってエンジンからの出力の少なくとも一部を出力部材へ出力する動力分割機構と、出力部材から駆動輪までの間で動力を加える第2の電動機とを含む。制御方法は、第2の電動機の異常を検知するステップと、第2の電動機の異常が検知された場合に、第2の電動機の運転を停止させるとともに、エンジンおよび第1の電動機を用いた異常時運転を実行させるステップとを備える。異常時運転を実行させるステップは、第2の電動機の異常が検知された場合に、第1の電動機により動力分割機構を介してエンジンを回転駆動することにより、エンジンを始動させるステップと、第2の電動機の回転数に応じた引きずりトルクを出力部材に発生させることにより、始動手段によるエンジンの始動に起因して出力部材に生じる反力を相殺するステップとを含む。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、エンジンおよび、エンジンと動力分割機構を介して接続されたモータを備えるハイブリッド車両において、モータの異常発生時に、エンジン始動に伴なう反力による駆動力の変動を抑制してエンジンを用いた退避走行を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態によるハイブリッド車両の概略構成図である。
【図2】図1のハイブリッド車両におけるパワートレインの詳細を説明するための模式図である。
【図3】モータジェネレータMG1,MG2の制御構成を示す概略ブロック図である。
【図4】通常の走行時における回転数挙動を説明する共線図である。
【図5】モータジェネレータMG2の異常発生時における回転数挙動を説明する共線図である。
【図6】引きずりトルクを発生させるためのインバータの制御を説明する図である。
【図7】三相オン制御の実行時におけるモータジェネレータMG2の電流(三相電流)およびトルクと回転数との関係を示す図である。
【図8】本実施の形態に従うECUにおける制御構造を示すブロック図である。
【図9】本実施の形態に従うモータジェネレータMG2の異常発生時のエンジン始動制御を説明するタイミングチャートである。
【図10】本発明の実施の形態に従うモータジェネレータMG2の異常発生時の退避走行を説明するフローチャートである。
【図11】本発明の実施の形態の変更例に従うモータジェネレータMG2の異常発生時の退避走行を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明が繰返さない。
【0018】
(ハイブリッド車両の構成)
図1は、本発明の実施の形態によるハイブリッド車両5の概略構成図である。
【0019】
図1を参照して、ハイブリッド車両5は、エンジンENGと、モータジェネレータMG1,MG2と、バッテリ10と、電力変換ユニット(PCU:Power Control Unit)20と、動力分割機構PSDと、減速機RDと、前輪70L,70Rと、後輪80L,80Rと、電子制御ユニット(Electrical Control Unit:ECU)30とを備える。本実施の形態に係る制御装置は、たとえばECU30が実行するプログラムにより実現される。なお、図1には、前輪70L,70Rを駆動輪とするハイブリッド車両5が例示されるが、前輪70L,70Rに代えて後輪80L,80Rを駆動輪としてもよい。あるいは、図1に構成に加えて後輪80L,80R駆動用のモータジェネレータをさらに設けて、4WD構成とすることも可能である。
【0020】
エンジンENGが発生する駆動力は、動力分割機構PSDにより、2経路に分割される。一方は、減速機RDを介して前輪70L,70Rを駆動する経路である。もう一方は、モータジェネレータMG1を駆動させて発電する経路である。
【0021】
モータジェネレータMG1は、代表的には三相交流同期電動発電機により構成される。モータジェネレータMG1は、動力分割機構PSDにより分割されたエンジンENGの駆動力により、発電機として発電する。また、モータジェネレータMG1は、発電機としての機能だけでなく、エンジンENGの回転数を制御するアクチュエータとしても機能をも有する。
【0022】
なお、モータジェネレータMG1により発電された電力は、車両の運転状態やバッテリ10のSOC(State Of Charge)の状態に応じて使い分けられる。たとえば、通常走行時や急加速時では、モータジェネレータMG1により発電された電力はそのままモータジェネレータMG2をモータとして駆動させる動力となる。一方、バッテリ10のSOCが予め定められた値よりも低い場合には、モータジェネレータMG1により発電された電力は、電力変換ユニット20により交流電力から直流電力に変換されてバッテリ10に蓄えられる。
【0023】
このモータジェネレータMG1は、エンジンENGを始動する際の始動機としても利用される。エンジンENGを始動する際、モータジェネレータMG1は、バッテリ10から電力の供給を受けて、電動機として駆動する。そして、モータジェネレータMG1は、エンジンENGをクランキングして始動する。
【0024】
モータジェネレータMG2は、代表的には三相交流同期電動発電機により構成される。モータジェネレータMG2が電動機として駆動される場合には、バッテリ10に蓄えられた電力およびモータジェネレータMG1により発電された電力の少なくともいずれか一方により駆動される。モータジェネレータMG2の駆動力は、減速機RDを介して前輪70L,70Rに伝えられる。これにより、モータジェネレータMG2は、エンジンENGをアシストして車両を走行させたり、モータジェネレータMG2の駆動力のみにより車両を走行させたりする。
【0025】
車両の回生制動時には、減速機RDを介して前輪70L,70RによりモータジェネレータMG2が駆動され、モータジェネレータMG2が発電機として作動させられる。これによりモータジェネレータMG2は、制動エネルギを電気エネルギに変換する回生ブレーキとして作用する。モータジェネレータMG2により発電された電力は、電力変換ユニット20を介してバッテリ10に蓄えられる。
【0026】
バッテリ10は、たとえば、ニッケル水素またはリチウムイオン等の二次電池により構成される。本発明の実施の形態において、バッテリ10は「蓄電装置」の代表例として示される。すなわち、電気二重層キャパシタ等の他の蓄電装置をバッテリ10に代えて用いることも可能である。バッテリ10は、直流電圧を電力変換ユニット20へ供給するとともに、電力変換ユニット20からの直流電圧によって充電される。
【0027】
電力変換ユニット20は、バッテリ10よって供給される直流電力と、モータを駆動制御する交流電力およびジェネレータによって発電される交流電力との間で双方向の電力変換を行なう。
【0028】
ハイブリッド車両5は、さらに、ハンドル40と、アクセルペダルポジションAPを検出するアクセルポジションセンサ44と、ブレーキペダルポジションBPを検出するブレーキペダルポジションセンサ46と、シフトポジションSPを検出するシフトポジションセンサ48とを備える。
【0029】
また、モータジェネレータMG1,MG2には、ロータ回転角を検出する回転角センサ51,52がさらに設けられる。回転角センサ51によって検出されたモータジェネレータMG1のロータ回転角θ1および回転角センサ52によって検出されたモータジェネレータMG2のロータ回転角θ2は、ECU30へ伝達される。なお、回転角センサ51,52は、ECU30においてモータジェネレータMG1の電流、電圧等からロータ回転角θ1を推定し、また、モータジェネレータMG2の電流、電圧等からロータ回転角θ2を推定することによって、配置を省略してもよい。
【0030】
ECU30は、エンジンENG、電力変換ユニット20およびバッテリ10と電気的に接続されている。ECU30は、各種センサからの検出信号に基づいて、ハイブリッド車両5が所望の走行状態となるように、エンジンENGの運転状態と、モータジェネレータMG1,MG2の駆動状態と、バッテリ10の充電状態とを統合的に制御する。
【0031】
図2は、図1のハイブリッド車両5におけるパワートレインの詳細を説明するための模式図である。
【0032】
図2を参照して、ハイブリッド車両5のパワートレイン(ハイブリッドシステム)は、モータジェネレータMG2と、モータジェネレータMG2の出力軸160に接続される減速機RDと、エンジンENGと、モータジェネレータMG1と、動力分割機構PSDとを備える。
【0033】
動力分割機構PSDは、図2に示す例では遊星歯車機構により構成され、クランクシャフト150に軸中心を貫通された中空のサンギヤ軸に結合されたサンギヤ151と、クランクシャフト150と同軸上を回転可能に支持されているリングギヤ152と、サンギヤ151とリングギヤ152との間に配置され、サンギヤ151の外周を自転しながら公転するピニオンギヤ153と、クランクシャフト150の端部に結合され各ピニオンギヤ153の回転軸を支持するプラネタリキャリヤ154とを含む。
【0034】
動力分割機構PSDは、サンギヤ151に結合されたサンギヤ軸と、リングギヤ152に結合されたリングギヤケース155およびプラネタリキャリヤ154に結合されたクランクシャフト150の3軸が動力の入出力軸とされる。そしてこの3軸のうちいずれか2軸へ入出力される動力が決定されると、残りの1軸に入出力される動力は他の2軸へ入出力される動力に基づいて定まる。
【0035】
動力の取出用のカウンタドライブギヤ170がリングギヤケース155の外側に設けられ、リングギヤ152と一体的に回転する。カウンタドライブギヤ170は、動力伝達減速ギヤRGに接続されている。リングギヤケース155は、本発明での「出力部材」に対応する。このようにして、動力分割機構PSDは、モータジェネレータMG1による電力および動力の入出力を伴って、エンジンENGからの出力の少なくとも一部を出力部材へ出力するように動作する。
【0036】
さらに、カウンタドライブギヤ170と動力伝達減速ギヤRGとの間で動力の伝達がなされる。そして、動力伝達減速ギヤRGは、駆動輪である前輪70L、70Rと連結されたディファレンシャルギヤDEFを駆動する。また、下り坂等では駆動輪の回転がディファレンシャルギヤDEFに伝達され、動力伝達減速ギヤRGはディファレンシャルギヤDEFによって駆動される。
【0037】
モータジェネレータMG1は、回転磁界を形成するステータ131と、ステータ131内部に配置され複数個の永久磁石が埋め込まれているロータ132とを含む。ステータ131は、ステータコア133と、ステータコア133に巻回される三相コイル134とを含む。ロータ132は、動力分割機構PSDのサンギヤ151と一体的に回転するサンギヤ軸に結合されている。ステータコア133は、電磁鋼板の薄板を積層して形成されており、図示しないケースに固定されている。
【0038】
モータジェネレータMG1は、ロータ132に埋め込まれた永久磁石による磁界と三相コイル134によって形成される磁界との相互作用によりロータ132を回転駆動する電動機として動作する。またモータジェネレータMG1は、永久磁石による磁界とロータ132の回転との相互作用により三相コイル134の両端に起電力を生じさせる発電機としても動作する。
【0039】
モータジェネレータMG2は、回転磁界を形成するステータ136と、ステータ136内部に配置され複数個の永久磁石が埋め込まれたロータ137とを含む。ステータ136は、ステータコア138と、ステータコア138に巻回される三相コイル139とを含む。
【0040】
ロータ137は、動力分割機構PSDのリングギヤ152と一体的に回転するリングギヤケース155に減速機RDを介して結合されている。ステータコア138は、たとえば電磁鋼板の薄板を積層して形成されており、図示しないケースに固定されている。
【0041】
モータジェネレータMG2は、永久磁石による磁界とロータ137の回転との相互作用により三相コイル139の両端に起電力を生じさせる発電機としても動作する。またモータジェネレータMG2は、永久磁石による磁界と三相コイル139によって形成される磁界との相互作用によりロータ137を回転駆動する電動機として動作する。
【0042】
減速機RDは、プラネタリギヤの回転要素の一つであるプラネタリキャリヤ166がケースに固定された構造により減速を行なう。すなわち、減速機RDは、ロータ137の出力軸160に結合されたサンギヤ162と、リングギヤ152と一体的に回転するリングギヤ168と、リングギヤ168およびサンギヤ162に噛み合いサンギヤ162の回転をリングギヤ168に伝達するピニオンギヤ164とを含む。たとえば、サンギヤ162の歯数に対しリングギヤ168の歯数を2倍以上にすることにより、減速比を2倍以上にすることができる。
【0043】
このようにモータジェネレータMG2の回転力は、減速機RDを介して、リングギヤ152,168と一体的に回転する出力部材(リングギヤケース)155に伝達される。すなわち、モータジェネレータMG2は、出力部材155から駆動輪までの間で動力を加えるように構成される。なお、減速機RDの配置を省略して、すなわち減速比を設けることなく、モータジェネレータMG2の出力軸160および出力部材155の間を連結してもよい。
【0044】
電力変換ユニット20は、コンバータ12と、インバータ14,22とを含む。コンバータ12は、バッテリ10からの直流電圧Vbを電圧変換して電源ラインPLおよび接地ラインGL間に直流電圧VHを出力する。また、コンバータ12は、双方向に電圧変換可能に構成されて、電源ラインPLおよび接地ラインGL間の直流電圧VHをバッテリ10の充電電圧Vbに変換する。
【0045】
インバータ14,22は、一般的な三相インバータで構成されて、電源ラインPLおよび接地ラインGL間の直流電圧VHを交流電圧に変換してそれぞれモータジェネレータMG2,MG1へ出力する。また、インバータ14,22は、モータジェネレータMG2,MG1によって発電された交流電圧を直流電圧VHに変換して、電源ラインPLおよび接地ラインGL間に出力する。
【0046】
図3は、モータジェネレータMG1,MG2の制御構成を示す概略ブロック図である。
図3を参照して、電力変換ユニット20は、コンデンサC1,C2と、コンバータ12と、インバータ14,22と、電流センサ24,28とを含む。
【0047】
図1および図2に示したECU30は、モータジェネレータMG1およびMG2の運転指令および、コンバータ12の電圧指令値VHrefを生成するHV−ECU32と、コンバータ12の出力電圧VHが電圧指令値VHrefに追従し、かつ、モータジェネレータMG1,MG2が運転指令に従って動作するように、コンバータ12およびインバータ14,22を制御するMG−ECU35とを含む。
【0048】
コンバータ12は、リアクトルL1と、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)素子Q1,Q2と、ダイオードD1,D2とを含む。リアクトルL1の一方端は、バッテリ10の電源ラインに接続され、他方端はIGBT素子Q1とIGBT素子Q2との中間点、すなわち、IGBT素子Q1のエミッタとIGBT素子Q2のコレクタとの間に接続される。IGBT素子Q1,Q2は、電源ラインPLと接地ラインGLの間に直列に接続される。IGBT素子Q1のコレクタは電源ラインPLに接続され、IGBT素子Q2のエミッタは接地ラインGLに接続される。また、各IGBT素子Q1,Q2のコレクタ−エミッタ間には、エミッタからコレクタ側へ電流を流すためのダイオードD1,D2はそれぞれ接続されている。
【0049】
インバータ14は、U相アーム15と、V相アーム16と、W相アーム17とからなる。U相アーム15、V相アーム16、W相アーム17は、電源ラインPLおよび接地ラインGLの間に並列に設けられる。U相アーム15は、直列接続されたIGBT素子Q3,Q4から成り、V相アーム16は、直列接続されたIGBT素子Q5,Q6からなり、W相アーム17は、直列接続されたIGBT素子Q7,Q8から成る。また、各IGBT素子Q3〜Q8のコレクタ−エミッタ間には、エミッタ側からコレクタ側へ電流を流すダイオードD3〜D8がそれぞれ接続されている。
【0050】
各相アームの中間点は、モータジェネレータMG2の各相コイルの各相端に接続される。すなわち、U,V,W相の3つのコイルの一端が中性点に共通接続されるとともに、U相コイルの他端がIGBT素子Q3,Q4の中間点に、V相コイルの他端がIGBT素子Q5,Q6の中間点に、W相コイルの他端はIGBT素子Q7,Q8の中間点にそれぞれ接続されている。
【0051】
インバータ22は、インバータ14と同じ構成からなる。
電圧センサ11は、バッテリ10から出力される直流電圧Vbを検出し、その検出した直流電圧VbをMG−ECU35へ出力する。コンデンサC1は、バッテリ10から供給された直流電圧Vbを平滑化し、その平滑化した直流電圧Vbをコンバータ12へ供給する。
【0052】
コンバータ12は、コンデンサC1から供給された直流電圧Vbを昇圧してコンデンサC2へ供給する。具体的には、コンバータ12は、MG−ECU35から信号PWMCを受けると、信号PWMCによってIGBT素子Q2がオンされた期間に応じて直流電圧Vbを昇圧してコンデンサC2に供給する。
【0053】
また、コンバータ12は、MG−ECU35から信号PWMCを受けると、コンデンサC2を介してインバータ14および/またはインバータ22から供給された直流電圧を降圧してバッテリ10を充電する。
【0054】
コンデンサC2は、コンバータ12からの直流電圧を平滑化し、その平滑化した直流電圧を、電源ラインPLおよび接地ラインGLを介してインバータ14,22へ供給する。電圧センサ13は、コンデンサC2の両端の電圧、すなわち、コンバータ12の出力電圧VH(インバータ14,22の入力電圧に相当する。以下同じ。)を検出し、その検出した出力電圧VHをMG−ECU35へ出力する。
【0055】
インバータ14は、コンデンサC2から直流電圧VHが供給されると、MG−ECU35からの信号PWMI2に基づいて直流電圧を交流電圧に変換してモータジェネレータMG2を駆動する。これにより、モータジェネレータMG2は、トルク指令値TR2によって指定されたトルクを発生するように駆動される。
【0056】
また、インバータ14は、ハイブリッド車両5の回生制動時、モータジェネレータMG2が発電した交流電圧をMG−ECU35からの信号PWMI2に基づいて直流電圧に変換し、その変換した直流電圧をコンデンサC2を介してコンバータ12へ供給する。なお、ここにいう回生制動とは、ハイブリッド車両5を運転するドライバーによるフットブレーキ操作があった場合の回生制動を伴なう制動や、フットブレーキを操作しないものの、走行中にアクセルペダルをオフすることで回生発電をさせながら車両を減速(または加速の中止)させることを含む。
【0057】
インバータ22は、コンデンサC2から直流電圧が供給されると、MG−ECU35からの信号PWMI1に基づいて直流電圧を交流電圧に変換してモータジェネレータMG1を駆動する。これにより、モータジェネレータMG1は、トルク指令値TR1によって指定されたトルクを発生するように駆動される。
【0058】
電流センサ24は、モータジェネレータMG1に流れるモータ電流MCRT1を検出し、その検出したモータ電流MCRT1をMG−ECU35へ出力する。電流センサ28は、モータジェネレータMG2に流れるモータ電流MCRT2を検出し、その検出したモータ電流MCRT2をMG−ECU35へ出力する。
【0059】
さらに、回転角センサ51によって検出されたモータジェネレータMG1のロータ回転角θ1および回転角センサ52によって検出されたモータジェネレータMG2のロータ回転角θ2は、MG−ECU35およびHV−ECU32へ伝達される。
【0060】
MG−ECU35は、電圧センサ11から直流電圧Vbを受け、電流センサ24,28からモータ電流MCRT1,MCRT2をそれぞれ受け、電圧センサ13からコンバータ12の出力電圧(すなわち、インバータ14,22の入力電圧)VHを受け、回転角センサ51,52からロータ回転角θ1,θ2をそれぞれ受ける。さらに、MG−ECU35は、HV−ECU32より、モータジェネレータMG1およびMG2の運転指令および、コンバータ12の電圧指令値VHrefを受ける。なお、HV−ECU32から送出される運転指令には、モータジェネレータMG1,MG2の運転許可指令/運転禁止指令(ゲート遮断指令)や、トルク指令TR1,TR2、回転数指令等が含まれる。
【0061】
そして、MG−ECU35は、出力電圧VH、モータ電流MCRT2およびトルク指令TR2に基づいて、インバータ14がモータジェネレータMG2を駆動するときに、インバータ14のIGBT素子Q3〜Q8をスイッチング制御するための信号PWMI2を生成し、その生成した信号PWMI2をインバータ14へ出力する。また、MG−ECU35は、出力電圧VH、モータ電流MCRT1およびトルク指令TR1に基づいて、インバータ22がモータジェネレータMG1を駆動するときに、インバータ22のIGBT素子Q3〜Q8をスイッチング制御するための信号PWMI1を生成し、その生成した信号PWMI1をインバータ22へ出力する。これらの際に、信号PWMI1,PWMI2は、たとえば周知のPWM制御方式に従う、センサ検出値を用いたフィードバック制御により生成される。
【0062】
一方、HV−ECU32によりモータジェネレータMG2のゲート遮断指令が発せられている場合には、MG−ECU35は、インバータ14を構成するIGBT素子Q3〜Q8の各々がスイッチング動作を停止(すべてオフ)するように、ゲート遮断信号SDNを生成する。また、HV−ECU32によりモータジェネレータMG1のゲート遮断指令が発せられている場合には、MG−ECU35は、インバータ22を構成するIGBT素子Q3〜Q8の各々がスイッチング動作を停止(すべてオフ)するように、ゲート遮断信号SDNを生成する。
【0063】
さらに、MG−ECU35は、電圧指令値VHrefと、直流電圧Vbおよび出力電圧VHとに基づいて、コンバータ12のIGBT素子Q1,Q2をスイッチング制御するための信号PWMCを生成してコンバータ12へ出力する。
【0064】
また、MG−ECU35によって検知されたモータジェネレータMG1,MG2の異常に関する情報は、モータジェネレータMG1,MG2の運転指令とは反対方向に、HV−ECU32に対して送出される。HV−ECU32は、これらの異常情報をモータジェネレータMG1,MG2の運転指令へ反映することが可能に構成されている。
【0065】
図1から図3に示した構成において、モータジェネレータMG1は本発明における「第1の電動機」に対応し、モータジェネレータMG2は本発明における「第2の電動機」に対応する。HV−ECU32およびMG−ECU35は、本発明における「制御装置」を構成する。
【0066】
再び図2を参照して、モータジェネレータMG2に異常が発生した場合には、モータジェネレータMG2の運転を停止して、エンジンENGおよびモータジェネレータMG1を用いた異常時運転によってハイブリッド車両5の退避走行が実行可能である。
【0067】
ここで、上述のように構成されたハイブリッド車両5では、動力分割機構PSDによる差動動作により、モータジェネレータMG1の回転数、エンジンENGの回転数および出力部材(リングギヤケース)155の回転数は、図4の共線図L1,L2に示されるように、出力部材155に対するモータジェネレータMG1およびエンジンENGの回転数差が、一定比率を維持するように、それぞれの回転数が変化する。
【0068】
図4は、通常の走行時における回転数挙動を説明する共線図である。
図4を参照して、通常の走行時においては、エンジンENGを始動する場合には、ECU30(HV−ECU32)からのトルク指令TR1に応じてモータジェネレータMG1が電動機として駆動する。すると、動力分割機構PSDのリングギヤ152が反力要素となりモータジェネレータMG1のトルクは、プラネタリキャリヤ154およびクランクシャフト150を介してエンジンENGに伝達され、エンジンENGがクランキング(回転駆動)される。エンジンENGのクランキングに伴ない、HV−ECU32の指令に応じて、燃料の噴射および点火が行なわれ、エンジンENGの自立運転が確立される。エンジンENGの自立運転が確立されると、クランクシャフト150、プラネタリキャリヤ154およびリングギヤ152を介して、出力部材155にエンジンENGからのトルクが伝達される。出力部材155のトルクは、カウンタドライブギヤ170、動力伝達減速ギヤRGおよびディファレンシャルギヤDEFを介して、駆動輪である前輪70L,70Rに動力が伝達されて駆動力が発生する。
【0069】
このように、ハイブリッド車両5では、モータジェネレータMG1によってエンジンENGを始動する構成とすることで、始動専用のスタータが不要となり、部品点数が少なくなってパワートレインを小型化できる。
【0070】
一方で、モータジェネレータMG1によって動力分割機構PSDを介してエンジンENGを回転駆動すると、エンジンENGの回転抵抗(フリクションなど)によって出力部材155に反力が生じたり、エンジンENGの始動に伴なってモータジェネレータMG1の出力トルクが出力部材155に作用する可能性がある。
【0071】
具体的には、図4において、共線図L1の状態からモータジェネレータMG1がエンジンENGのクランキング用のトルクTgを出力すると、共線図L2に示すような状態となり、モータジェネレータMG1の出力トルク(クランキングトルク)TgによりエンジンENGの回転数が上昇する。これに伴ない、出力部材155には、エンジンENGからの反力トルクTepが発生する。モータジェネレータMG2が発生する車両駆動トルクTmの方向を「正」と規定すると、「負」の方向に反力トルクTepが生じる。この反力トルクTepは、動力分割機構PSDのギヤ比をρとして、式(1)により表わされる。
Tep=−(1/ρ)×Tg×(1−Ktepng) (1)
ただし、Ktepngは慣性率である。
【0072】
これにより、モータジェネレータMG2の発生するトルクTmから反力トルクTepを減じたトルクが車両の駆動トルクとして、動力分割機構PSDから出力部材155に出力される。このような現象が発生すると、車両の駆動トルクが実質的に減少することにより、車両に運転外乱となる駆動力変動が生じ、運転性を損なうおそれがある。
【0073】
そこで、エンジンENGの始動時には、運転外乱となる駆動力変動が生じることがないように、モータジェネレータMG1に加えてモータジェネレータMG2のトルク制御を行なうことが知られている。具体的には、モータジェネレータMG1によりエンジンENGを回転駆動するとともに、その反力で発生する駆動力変動を相殺するように、モータジェネレータMG2から反力相殺トルクを発生させる。
【0074】
しかしながら、モータジェネレータMG2の異常発生によりモータジェネレータMG2が正常運転不能である場合には、上記のようなモータジェネレータMG2のトルク制御を行なうことができない。そのため、モータジェネレータMG2から反力相殺トルクを発生させることができない。
【0075】
ここで、モータジェネレータMG2が正常運転不能であっても、出力部材155の回転数が高い状態では、車両前方に押す慣性力が出力部材155に働くことによって反力トルクTepによる駆動力の変動を相殺することができる。したがって、出力部材155の回転数が高回転数領域であれば、エンジンENGを始動させてエンジンENGおよびモータジェネレータMG1を用いた退避走行を行なうことができる。
【0076】
これに対して、図5の共線図L3に示されるように、出力部材155の回転数が低い状態では、モータジェネレータMG1がクランキングトルクTgを出力することによって共線図L4の状態となると、車両前方に押す慣性力が小さいため、出力部材155に発生した反力トルクTepを相殺することができない。その結果、出力部材155に伝わるトルクが、回転数を正転領域から逆転領域に遷移させる方向に増大することにより、車両を後退させてしまう可能性がある。このような不具合から、出力部材155の回転数が低回転数領域では、エンジンENGおよびモータジェネレータMG1を用いた退避走行を行なうことができないという問題があった。
【0077】
そこで、本実施の形態に係るハイブリッド車両5においては、モータジェネレータMG2の異常発生時には、出力部材155の回転に伴なって回転されるモータジェネレータMG2から電磁気的な作用に基づいた引きずりトルクTdrを発生させる。図5の共線図L4に示されるように、この引きずりトルクTdrが、出力部材155に発生した反力トルクTepを相殺するトルク(反力相殺トルク)となる。これにより、エンジンENGの始動時に生じる駆動力の変動を相殺することができ、エンジンENGの始動時に車両が後退するのを防止することができる。
【0078】
ここで、図5に示される引きずりトルクTdrとは、運転停止中のモータジェネレータMG2に接続されるインバータ14を所定のスイッチングパターンに従ってオン・オフさせることによって、モータジェネレータMG2から電磁気的な作用により発生するトルクである。
【0079】
図6は、引きずりトルクを発生させるためのインバータ14の制御を説明する図である。図6では、モータジェネレータMG2の異常発生の一例として、オン状態を維持して制御不能となる短絡故障がインバータ14のU相上アームを構成するIGBT素子Q3に発生したケースが示されている。
【0080】
図6に示すように、出力部材155の回転に伴なってモータジェネレータMG2が回転すると、その回転子(図示せず)に装着された磁石PMが回転する。これにより、モータジェネレータMG2の三相コイル巻線に誘起電圧が発生する。
【0081】
したがって、ゲート遮断信号SDNによりインバータ14を構成するIGBT素子Q3〜Q8の各々がスイッチング動作を停止(すべてオフ)するように制御しても、短絡故障したIGBT素子Q3を介した短絡経路が形成される。具体的には、電源ラインPL〜IGBT素子Q3(短絡故障)〜U相コイル巻線〜中性点〜V相コイル巻線〜ダイオードD3(またはW相コイル巻線〜ダイオードD5)を経由する、短絡経路(図中のRt1)が形成される。このため、誘起電圧および当該短絡経路の電気抵抗に応じた異常電流が発生する。
【0082】
なお、コイル巻線に発生する誘起電圧は、モータジェネレータMG2の回転数に比例するため、モータジェネレータMG2の回転数が上昇すれば、モータジェネレータMG2に発生する誘起電圧も高くなり、インバータ14中の異常電流も増大してしまう。異常電流が過大になると、インバータの構成部品を超える高温の発生によって、さらなる素子損傷を発生してしまう可能性がある。
【0083】
このようなインバータ14の1相の上アームまたは下アームのIGBT素子に短絡故障が発生した場合(1相短絡)には、強制的に他の2相の対応するアームをオン状態に制御する。図6の例では、U相上アームのIGBT素子Q3が短絡故障したことに応じて、V相上アームのIGBT素子Q5およびW相上アームのIGBT素子Q7を同時にオン状態に制御する。以下では、インバータの多相アームを通じて上アームおよび下アームの一方のIGBT素子を同時にオン状態に制御することを「多相オン制御」といい、本実施の形態のように、インバータの三相アーム(U相アーム15,V相アーム16,W相アーム17)を通じて上アームおよび下アームのIGBT素子を同時にオン状態に制御することを「三相オン制御」と呼ぶこととする。また、この三相オン制御によって各IGBT素子Q3〜Q8がオン・オフされている状態を「三相オン状態」と呼ぶこととする。
【0084】
図6に示すようにインバータ14の三相オン制御を実行することにより、モータジェネレータMG2の磁石PMが回転すると、IGBT素子Q3を介した短絡経路に加えて、IGBT素子Q5を介した経路および、IGBT素子Q7を介した経路が形成されることとなる。これにより、モータジェネレータMG2のU相コイル巻線、V相コイル巻線、W相コイル巻線には、互いに略同じ振幅の交流波形を示すモータ電流Iu,Iv,Iwが誘起される。そして、この誘起されたモータ電流によって回転磁界が形成されることにより、モータジェネレータMG2には引きずりトルク(制動トルク)が発生する。この引きずりトルクは出力部材155に伝達される。
【0085】
図7は、三相オン制御の実行時におけるモータジェネレータMG2の電流(三相電流)およびトルクと回転数との関係を示す図である。
【0086】
図7に示されるように、三相オン制御時には、モータジェネレータMG2から引きずりトルク(負トルク)が出力される。この引きずりトルクは、モータジェネレータMG2の回転数(以下、単にMG2回転数とも称する)Nm2が低下するに従って増大し、低回転域内の所定の回転数Nthで最大となる。一方、三相電流は、MG2回転数Nm2が低下するに従って減少している。
【0087】
本実施の形態によるインバータ14の制御においては、この所定の回転数Nthを三相オン制御の実行可否を判定するための判定値に設定する。そして、MG2回転数Nm2が判定値Nth以下となったときに、三相オン制御を実行する。
【0088】
このような構成としたことにより、MG2回転数Nm2が判定値Nth以下となる低回転数領域(図中の領域RGN1)において、インバータ14の三相オン制御が実行される。上述したようにMG2回転数Nm2が低回転数領域では、エンジンENGの始動による反力トルクTepを車両の慣性力では相殺することができないところ、この低回転数領域で高トルクとなる引きずりトルクTdrを発生させることによって、反力トルクTepを効果的に相殺することができる。この結果、エンジン始動に伴なう車両の駆動力の変動を抑制でき、車両が後退するのを防止することが可能となる。
【0089】
なお、図6では、モータジェネレータMG2の異常発生の一例として、インバータ14中の短絡故障を示したが、モータジェネレータMG2に設けられた回転角センサ52(図3)の故障や、インバータ14の各IGBT素子Q3〜Q8に内蔵された自己保護回路から異常検知信号FINVが出力された場合などにおいても、上記の三相オン制御を行なうことができる。なお、異常検知信号FINVは、自己保護回路に含まれる電流センサ(または温度センサ)の出力に過電流(または過熱)が検出されたことに応じて、自己保護回路から出力される信号である。これらの異常が発生した場合には、通常のPWM制御に基づいたスイッチング制御はできないものの、インバータ14のIGBT素子Q3〜Q8をオン状態またはオフ状態とすることが可能であるため、ゲート遮断されたインバータ14を三相オン制御に切換えることによりモータジェネレータMG2に引きずりトルクを発生させることができる。
【0090】
(制御構造)
次に、図8を参照して、本実施の形態による車両の走行モードの切換え動作を実現するための制御構造について説明する。について、図面を参照して説明する。
【0091】
図8は、本実施の形態に従うECU30における制御構造を示すブロック図である。図8に示す各機能ブロックは、代表的にECU30が予め格納されたプログラムを実行することで実現されるが、その機能の一部または全部を専用のハードウェアとして実装してもよい。
【0092】
図3および図8を参照して、ECU30は、HV−ECU32と、MG−ECU35と、エンジンENGの運転を制御するエンジンECU37とを含む。なお、MGECU35は、モータジェネレータMG1の運転を制御するMG1−ECU352と、モータジェネレータMG2の運転を制御するMG2−ECU350とを含む。
【0093】
MG2−ECU350は、モータ制御用相電圧演算部320と、インバータ用駆動信号変換部340と、MG2異常検出部360とを含む。
【0094】
モータ制御用相電圧演算部320は、HV−ECU32から運転指令としてのトルク指令TRを受け、回転数センサ52からモータジェネレータMG2のロータ回転角θ2を受け、電流センサ28からモータ電流MCRT2を受け、電圧センサ13からコンバータ12の出力電圧(すなわち、インバータ14,22の入力電圧)VHを受ける。そして、モータ制御用相電圧演算部32は、これらの入力信号に基づいて、モータジェネレータMG1の各相コイルに印加する電圧の操作量(以下、電圧指令とも称する)Vu*,Vv*,Vw*を演算し、その演算結果をインバータ用駆動信号変換部340へ出力する。
【0095】
インバータ用駆動信号変換部340は、モータ制御用相電圧演算部320からの各相コイルの電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に基づいて、実際にインバータ14のIGBT素子Q3〜Q8をスイッチング制御するための信号PWMI2を生成し、その生成した信号PWMI2をインバータ14へ送出する。
【0096】
MG2異常検出部360は、モータジェネレータMG2の運転時においてモータジェネレータMG2に発生した異常を検知する。具体的には、MG2異常検出部360は、回転数センサ52からのロータ回転角θ2、電流センサ28からのモータ電流MCRT2およびインバータ14のIGBT素子Q3〜Q8に内蔵される自己保護回路からの異常検知信号FINVなどに基づいて、モータジェネレータMG2に発生した異常を検知する。たとえば、図6に示したようなインバータ14中の短絡故障については、公知の様々な検出方法を採用すれば良いが、例えば、インバータ14の各相のIGBT素子のオン/オフの制御パターンと、各相に流れる電流の検出パターンとに基づいて、1相短絡や2相短絡を検知するようにすれば良い。MG2異常検出部360によって検知されたモータジェネレータMG2の異常に関する情報は、HV−ECU32およびインバータ用駆動信号変換部340に対して送出される。この異常に関する情報には、モータジェネレータMG2の異常発生時にオンに設定されるMG2異常判定フラグが含まれている。
【0097】
HV−ECU32は、MG2異常検出部360からモータジェネレータMG2の異常に関する情報を受けると、モータジェネレータMG2のゲート遮断指令を発生する。インバータ用駆動信号変換部340は、モータジェネレータMG2のゲート遮断指令に従って、インバータ14を構成するIGBT素子Q3〜Q8の各々がスイッチング動作を停止(すべてオフ)するように、ゲート遮断信号SDNを生成する。
【0098】
HV−ECU32は、さらに、MG2異常検出部36から受けたモータジェネレータMG2の異常に関する情報に基づいて、インバータ14を三相オン制御することが可能であるか否かを判定する。たとえば、図6に示したインバータ14中の短絡故障、回転数センサ52の故障およびインバータ14の過電流のいずれかが発生している場合には、HV−ECU32は、インバータ14の三相オン制御が実行可能であると判定する。
【0099】
三相オン制御が実行可能であると判定された場合には、HV−ECU32は、回転数センサ52により検出されたロータ回転角θ2に基づいてMG2回転数Nm2を検出し、検出されたMG2回転数Nm2に基づいて三相オン制御指令を生成して、インバータ用駆動信号変換部340へ送出する。具体的には、HV−ECU32は、検出されたMG2回転数Nm2が、所定の判定値Nth以下の低回転数領域(図中の領域RGN1に相当)の範囲内に入っていると判定されたときには、三相オン制御指令を発生する。
【0100】
インバータ用駆動信号変換部340は、三相オン制御指令が発せられている場合には、インバータ14の三相アームを通じて上アームおよび下アームの一方のIGBT素子をオン状態(三相オン状態)に制御するための信号Tonを発生する。信号Tonは、MG2異常検出部360によって検知されたモータジェネレータMG2の異常に関する情報に基づいて生成される。
【0101】
さらに、HV−ECU32は、MG1−ECU352およびエンジンECU37に対しては、エンジン始動指令を発生する。このとき、HV−ECU32は、モータジェネレータMG1がエンジンENGのクランキングに必要なトルク(クランキングトルク)を出力するためのトルク指令TR1を生成し、その生成したトルク指令TR1をMG1−ECU352に与える。
【0102】
このとき、モータジェネレータMG1に対するトルク指令TR1は、エンジンENGの始動に伴ない出力部材155に生じ得る反力トルクTepが、絶対値が最大となる引きずりトルク(最大引きずりトルク)を超えないように制限される。一例として、HV−ECU32は、図7に示すような関係に従って、MG2回転数Nm2が判定値Nthとなるときの引きずりトルクTdrの絶対値を最大引きずりトルクに設定し、反力トルクTepが最大引きずりトルクを超えないように、上記の式(1)を用いてトルク指令TR1を算出する。
【0103】
MG1−ECU352は、HV−ECU32から出力されるトルク指令TR1、回転角センサ51からのロータ回転角θ1および電流センサ24からのモータ電流MCRT1を受ける。そして、MG1−ECU352は、回転角センサ51および電流センサ24からの検出値に基づくフィードバック制御により、トルク指令TR1に従ってモータジェネレータMG1が動作するように、インバータ22のIGBT素子Q3〜Q8をスイッチング制御するための信号PWMI1を発生する。
【0104】
モータジェネレータMG1の回転駆動によりエンジンENGの始動が開始されると、HV−ECU32は、エンジンECU37により検出されるエンジンENGの回転数(以下、エンジン回転数ともいう)Neを監視することにより、エンジン始動が完了したか否かを判定する。具体的には、HV−ECU32は、エンジン回転数Neが所定回転数Nref以上に至ったときには、HV−ECU32は、燃料噴射制御および点火制御が開始されるように制御信号を生成して、エンジンECU37へ送出する。そして、エンジン回転数Neの変化に基づいて、エンジンENGが完爆状態になったと判断されると、HV−ECU32は、エンジンENGの始動が完了したと判定して始動処理を終了する。
【0105】
エンジンENGの始動が完了すると、HV−ECU32は、三相オン制御指令をオフ(無効化)するとともに、ゲート遮断指令をオン(有効化)する。これにより、インバータ用駆動信号変換部340は、インバータ14を三相オン状態に制御するための信号Tonの生成を停止して、ゲート遮断信号SDNを生成してインバータ14へ出力する。すなわち、エンジンENGの始動が完了したことにより、インバータ14を構成するIGBT素子Q3〜Q8のスイッチング動作が再び停止(すべてオフ)される。エンジンENGの始動完了により、始動に伴ない発生する反力トルクを相殺する必要がなくなるためである。これにより、モータジェネレータMG2の回転に伴なう引きずりトルクを生じさせることなく、エンジンENGおよびモータジェネレータMG1を用いた退避走行が実行可能となる。
【0106】
図9は、本実施の形態に従うモータジェネレータMG2の異常発生時のエンジン始動制御を説明するタイミングチャートである。
【0107】
図9を参照して、時刻t1において、モータジェネレータMG2の異常発生が検知されると、MG2−ECU350内のMG2異常検出部360は、MG2異常判定フラグをオンに設定する。このMG2異常判定フラグを含むモータジェネレータMG2の異常に関する情報を受けると、HV−ECU32は、モータジェネレータMG2のゲート遮断指令を有効化(オン)する。MG2−ECU350内のインバータ用駆動信号変換部340は、このゲート遮断指令に従ってゲート遮断信号SDNを生成することにより、インバータ14のIGBT素子Q3〜Q8の各々のスイッチング動作を停止(すべてオフ)するように制御する。
【0108】
ゲート遮断指令に従ってモータジェネレータMG2の動作を停止させたことにより、MG2回転数Nm2は次第に低下する。HV−ECU32は、時刻t2において、MG2回転数Nm2が所定の判定値Nth以下となると、三相オン制御指令をオン(有効化)する。三相オン制御指令に従って、MG1−ECU350内のインバータ用駆動信号変換部340が信号Tonによりインバータ14のIGBT素子Q3〜Q8を三相オン状態に制御すると、HV−ECU32は、エンジン始動指令をオン(有効化)する。
【0109】
MG1−ECU352は、エンジン始動指令に従ってモータジェネレータMG1を回転駆動させ、エンジンENGを始動する。エンジンENGにおけるクランキングの開始後、モータジェネレータMG1によるエンジン回転数の増大に伴ない、出力部材155に「負」の方向に反力トルクTepが生じる。同時に、出力部材155には、インバータ14の三相オン制御により、モータジェネレータMG2の回転数に応じた引きずりトルクTdrが「正」の方向に生じる。この引きずりトルクが反力相殺トルクとして働くことにより、車両の駆動力の変動が抑制される。
【0110】
そして、時刻t3において、エンジンENGの始動が完了したと判定されると、HV−ECU32は、エンジン始動指令および三相オン制御指令をオフ(無効化)するとともに、モータジェネレータMG2のゲート遮断指令をオン(有効化)する。これにより、エンジンENGの始動が完了すると、モータジェネレータMG2の動作が停止され、エンジンENGおよびモータジェネレータMG1を用いたハイブリッド車両5の退避走行が実行される。この際、ゲート遮断信号SDNにより、インバータ14の各IGBT素子Q3〜Q8のスイッチング動作を停止するように制御しているため、退避走行時のモータジェネレータMG2の回転に伴ないモータジェネレータMG2から引きずりトルクが発生することはない。
【0111】
以上の処理は、図10に示すような処理フローにまとめることができる。
(処理フロー)
図10は、本発明の実施の形態に従うモータジェネレータMG2の異常発生時の退避走行を説明するフローチャートである。図10に示したフローチャートは、図1および図2に示したECU30が図8に示す各制御ブロックとして機能することで実現される。
【0112】
図10を参照して、HV−ECU32は、MG2−ECU350から送出されるモータジェネレータMG2の異常に関する情報(たとえばMG2異常判定フラグ)に基づいて、モータジェネレータMG2に異常が発生しているか否かを判定する(ステップS01)。
【0113】
モータジェネレータMG2に異常が発生していない場合(ステップS01でのNO判定時)には、HV−ECU32は異常時運転(退避走行)を指示することなく、退避走行に係る制御処理を終了する。
【0114】
一方、モータジェネレータMG2に異常が発生している場合(ステップS01でのYES判定時)には、HV−ECU32は、退避走行を指示する。このとき、HV−ECU32は、MG2−ECU350に対してモータジェネレータMG2のゲート遮断指令を発生する(ステップS02)。これに応答して、MG2−ECU350からゲート遮断信号SDNが出力されることにより、インバータ14のIGBT素子Q3〜Q8はすべてオフ状態とされる。
【0115】
次に、HV−ECU32は、ハイブリッド車両5の車速が低車速領域の範囲内に入っているか否かを判定する(ステップS03)。具体的には、HV−ECU32は、車速に対応して決定される出力部材155の回転数が所定の低回転数領域の範囲内に入っているか否かを判定する。この所定の低回転数領域は、出力部材155に働く車両の進行方向の慣性力を考慮して、該車両の慣性力がエンジンENGに始動に伴ない出力部材155に生じる反力を相殺できない場合を想定して設定される。
【0116】
ハイブリッド車両5が低車速領域の範囲内に入っていない場合(ステップS03でのNO判定時)、すなわち、反力を相殺できるだけの車両の慣性力が出力部材155に働いている場合には、HV−ECU32は、インバータ14の三相オン制御を指示することなく、エンジンENGの始動指令を発生する。これに応答して、MG1−ECU352は、モータジェネレータMG1の回転駆動によりエンジンENGをクランキングする(ステップS07)。
【0117】
これに対して、ハイブリッド車両5が低車速領域の範囲内に入っている場合(ステップS03でのYES判定時)、すなわち、反力を相殺できるだけの車両の慣性力が出力部材155に働いていない場合には、HV−ECU32は、MG2−ECU350により検知されたモータジェネレータMG2の異常に関する情報に基づいて、インバータ14の三相オン制御が実行可能か否かを判定する(ステップS04)。一例として、モータジェネレータMG2の異常が、インバータ14の短絡故障、回転数センサ52の故障、およびインバータ14の過電流のいずれかに該当する場合には、HV−ECU32は、インバータ14の三相オン制御が実行可能であると判定する。
【0118】
インバータ14が三相オン制御を実行不能である場合(ステップS04でのNO判定時)には、HV−ECU32は、インバータ14の三相オン制御およびエンジンENGの始動を指示することなく。退避走行に係る制御処理を終了する。
【0119】
これに対して、インバータ14が三相オン制御を実行可能である場合(ステップS04でのYES判定時)には、HV−ECU32は、MG2回転数Nm2が所定の判定値Nth以下であるか否かを判定する(ステップS05)。MG2回転数Nm2が所定の判定値Nth以下である場合(ステップS05でのYES判定時)、すなわち、MG2回転数Nm2が所定の判定値Nth以下の低回転数領域(図7の領域RGN1)の範囲内に入っている場合には、HV−ECU32は、モータジェネレータMG2のゲート遮断指令をオフ(無効化)するとともに、MG2−ECU350に対して三相オン制御指令を発生する。これに応答して、MG2−ECU350は、インバータ14のIGBT素子Q3〜Q8を三相オン状態に制御するように信号Tonを発生する(ステップS06)。
【0120】
次いで、HV−ECU32は、MG1−ECU352およびエンジンECU37に対してエンジン始動指令を発生する。これに応答して、MG1−ECU352は、モータジェネレータMG1の回転駆動によりエンジンENGをクランキングする(ステップS07)。
【0121】
HV−ECU32は、エンジン回転数Neを監視することにより、エンジンENGの始動が完了したか否かを判定する(ステップS08)。エンジンENGの始動が完了していない場合(ステップS08でのNO判定時)には、処理はステップS07に戻される。
【0122】
一方、エンジンENGの始動が完了した場合(ステップS08でのYES判定時)には、HV−ECU32は、三相オン制御指令およびエンジン始動指令をオフするとともに、モータジェネレータMG2のゲート遮断指令を再びオンする(ステップS09)。これに応答して、MG2−ECU352からゲート遮断信号SDNが出力されることにより、インバータ14のIGBT素子Q3〜Q8はすべてオフ状態とされる。したがって、ハイブリッド車両5では、モータジェネレータMG2の動作を停止して、エンジンENGおよびモータジェネレータMG1を用いた退避走行が行なわれる。
【0123】
(変更例)
上述した実施の形態においては、エンジンENGの始動に際しては、エンジン始動時に出力部材155に生じる反力トルクTepが三相オン制御の実行により発生する最大引きずりトルクを超えないように、モータジェネレータMG1が出力するクランキングトルクTgを制限する構成について説明したが、このようにクランキングトルクTgを制限したことによって、エンジンENGを始動させることができないという問題が生じる場合がある。
【0124】
本発明の実施の形態の変更例では、このようなクランキングトルクの制限に伴ない上記の実施の形態によるエンジン始動処理を行なっても、エンジンENGを始動できない場合の制御について説明する。
【0125】
図11は、本発明の実施の形態の変更例に従うモータジェネレータMG2の異常発生時の退避走行を説明するフローチャートである。図10に示したフローチャートは、図1および図2に示したECU30が図8に示す各制御ブロックとして機能することで実現される。
【0126】
図11を参照して、ECU30(HV−ECU32)は、図10のステップS01〜S05により上述の実施の形態と同様の三相オン制御を行なう(ステップS06)。
【0127】
さらに、HV−ECU32は、MG1−ECU352およびエンジンECU37に対してエンジン始動指令を発生する。これに応答して、MG1−ECU352は、モータジェネレータMG1の回転駆動によりエンジンENGをクランキングする(ステップS07)。
【0128】
HV−ECU32は、エンジン回転数Neを監視することにより、エンジンENGの始動が完了したか否かを判定する(ステップS08)。エンジンENGの始動が完了していない場合(ステップS08でのNO判定時)には、HV−ECU32は、回転数センサ52からのロータ回転角θ2に基づいて、MG2回転数Nm2が所定の判定値Nthを超えるか否かを判定する(ステップS11)。
【0129】
MG2回転数Nm2が所定の判定値Nthを超えている場合(ステップS11でのYES判定時)には、HV−ECU32は、引きずりトルクがエンジン始動に伴なう反力を相殺できないと判断して、エンジンENGの始動処理を中止する(ステップS13)。MG2回転数Nm2が低回転数領域(図中のRGN1)を超えて増加することによって引きずりトルクが低下してしまい、エンジン始動時に車両を後退させるおそれがあるためである。
【0130】
一方、MG2回転数Nm2が所定の判定値Nth以下となる場合(ステップS11でのNO判定時)には、HV−ECU32は、ステップS07によるエンジン始動処理の開始からの経過時間である始動処理時間が所定時間を超えたか否かを判定する(ステップS12)。始動処理時間が所定時間を超えていない場合(ステップS12でのNO判定時)には、ステップS07の処理が繰り返し実行される。一方、始動処理時間が所定時間を超えている場合(ステップS12でのYES判定時)には、HV−ECU32は、エンジンENGの始動処理を中止する(ステップS13)。
【0131】
エンジンENGの始動が完了した場合(ステップS08でのYES判定時)あるいは、エンジンENGの始動処理を中止した場合(ステップS13)には、HV−ECU32は、三相オン制御指令およびエンジン始動指令をオフするとともに、モータジェネレータMG2のゲート遮断指令を再びオンする(ステップS09)。これに応答して、MG2−ECU352からゲート遮断信号SDNが出力されることにより、インバータ14のIGBT素子Q3〜Q8はすべてオフ状態とされる。なお、エンジンENGの始動処理を中止した場合には、エンジンENGおよびモータジェネレータMG1を用いた退避走行が禁止される。
【0132】
なお、上述の説明においては、モータジェネレータMG2に接続されるインバータ14のIGBT素子Q3〜Q8を、三相を通じて上アームおよび下アームの一方が同時にオン状態(三相オン状態)とすることによって、運転停止中のモータジェネレータMG2から電磁気的な作用に基づく引きずりトルクを発生させる構成について例示したが、インバータ14の制御は、この三相オン制御に限定されるものではなく、出力部材155の回転に伴ないモータジェネレータMG2に発生する誘起電圧から三相コイルに回転磁界を形成することができる限りにおいて、これ以外のスイッチングパターンを適用することも可能である。
【0133】
以上説明したように、この発明の実施の形態によれば、モータジェネレータMG2の異常発生時においてエンジンENGを始動させる際には、モータジェネレータMG2に接続されるインバータ14のIGBT素子Q3〜Q8を所定のスイッチングパターンに従ってオン・オフすることによってモータジェネレータMG2から電磁気的な作用による引きずりトルクを発生させる。これにより、エンジン始動に伴なう反力を相殺することができるため、エンジン始動時の駆動力の変動を抑制することができる。この結果、モータジェネレータMG2の異常発生時には、エンジンENGおよびモータジェネレータMG1を用いた退避走行を実行する。
【0134】
また、この発明の実施の形態によれば、出力部材155が低回転数領域に入る場合には、エンジンENGの始動に伴なう反力の影響を受けやすいところ、該低回転数領域で増大するように引きずりトルクを発生させることができるため、エンジン始動時の駆動力の変動を効果的に抑制することができる。これにより、車速が低い状態でもエンジン始動に伴ない車両が後退するのを抑制できるため、エンジンENGおよびモータジェネレータMG1を用いた退避走行を行なうことができる。
【0135】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0136】
5 ハイブリッド車両、10 バッテリ、11,13 電圧センサ、12 コンバータ、14,22 インバータ、15 U相アーム、16 V相アーム、17 W相アーム、20 電力変換ユニット、24,28 電流センサ、30 ECU、32 HV−ECU、35 MG−ECU、37 エンジンECU、40 ハンドル、44 アクセルポジションセンサ、46 ブレーキペダルポジションセンサ、48 シフトポジションセンサ、51,52 回転角センサ、70L,70R 前輪、80L,80R 後輪、131,136 ステータ、132,137 ロータ、133,138 ステータコア、134,139 三相コイル、150 クランクシャフト、151,162 サンギヤ、152,168 リングギヤ、153,164 ピニオンギヤ、154,166 プラネタリキャリヤ、155 リングギヤケース(出力部材)、160 出力軸、170 カウンタドライブギヤ、C1,C2 コンデンサ、D1〜D8 ダイオード、DEF ディファレンシャルギヤ、L1 リアクトル、MG1,MG2 モータジェネレータ、PSD 動力分割機構、Q1〜Q8 IGBT素子、RD 減速機、RG 動力伝達減速ギヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料の燃焼によって作動するエンジンと、
第1の電動機と、
動力を出力するための出力部材と、
前記出力部材、前記エンジンの出力軸および前記第1の電動機の出力軸とそれぞれ結合された複数の回転要素を互いに相対回転可能に連結し、かつ、前記第1の電動機による電力および動力の入出力を伴なって前記エンジンからの出力の少なくとも一部を前記出力部材へ出力する動力分割機構と、
前記出力部材から駆動輪までの間で動力を加える第2の電動機と、
前記第2の電動機に接続され、複数のスイッチング素子により構成されたインバータと、
前記第1および第2の電動機、ならびに前記エンジンの運転を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記第2の電動機の異常を検知するための異常検知手段と、
前記第2の電動機の異常が検知された場合に、前記第2の電動機の運転を停止させるとともに、前記エンジンおよび前記第1の電動機を用いた異常時運転を実行させるための異常制御手段とを含み、
前記異常制御手段は、
前記第2の電動機の異常が検知された場合に、前記第1の電動機からの動力により前記動力分割機構を介して前記エンジンを回転駆動することにより、前記エンジンを始動させるための始動手段と、
前記複数のスイッチング素子を所定のスイッチングパターンに従ってオン・オフさせることによって、運転停止中の前記第2の電動機から電磁気的な作用に基づく引きずりトルクを発生させることにより、前記始動手段による前記エンジンの始動に起因して前記出力部材に生じる反力を相殺するための反力相殺手段とを含む、ハイブリッド車両。
【請求項2】
前記第2の電動機は、多相モータであり、
前記インバータは、電源線および接地線の間に互いに並列に接続され、前記多相モータの多相コイルに流れる電流をそれぞれ制御するための多相アームを含み、
前記多相アームの各々は、前記正母線および前記負母線の間に、各相コイルとの接続点を介して直列接続された第1および第2のスイッチング素子を含み、
前記反力相殺手段は、前記多相アームを通じて前記第1および第2のスイッチング素子の一方を同時にオン状態に制御する多相オン制御を実行することにより、前記第2の電動機から前記引きずりトルクを発生させる、請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記反力相殺手段は、前記引きずりトルクが最大となるときの前記第2の電動機の回転数を、前記多相オン制御の実行可否を判定するための判定値に設定するとともに、前記第2の電動機の運転停止中に前記第2の電動機の回転数が前記判定値以下となったときに、前記多相オン制御を実行する、請求項2に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記始動手段は、前記エンジンの始動に起因して前記出力部材に生じる反力が前記引きずりトルクの最大値を超えないように、前記第1の電動機の運転を制御する、請求項1から3のいずれか1項に記載のハイブリッド車両。
【請求項5】
前記始動手段は、前記エンジンの始動が完了するまでに前記第2の電動機の回転数が前記判定値を超えたときには、前記エンジンの始動を中止する、請求項4に記載のハイブリッド車両。
【請求項6】
前記始動手段は、前記エンジンの始動処理の継続時間が所定時間を超えたときには、前記エンジンの始動を中止する、請求項4に記載のハイブリッド車両。
【請求項7】
ハイブリッド車両の制御方法であって、
前記ハイブリッド車両は、
燃料の燃焼によって作動するエンジンと、
第1の電動機と、
動力を出力するための出力部材と、
前記出力部材、前記エンジンの出力軸および前記第1の電動機の出力軸とそれぞれ結合された複数の回転要素を互いに相対回転可能に連結し、かつ、前記第1の電動機による電力および動力の入出力を伴なって前記エンジンからの出力の少なくとも一部を前記出力部材へ出力する動力分割機構と、
前記出力部材から駆動輪までの間で動力を加える第2の電動機とを含み、
前記制御方法は、
前記第2の電動機の異常を検知するステップと、
前記第2の電動機の異常が検知された場合に、前記第2の電動機の運転を停止させるとともに、前記エンジンおよび前記第1の電動機を用いた異常時運転を実行させるステップとを備え、
前記異常時運転を実行させるステップは、
前記第2の電動機の異常が検知された場合に、前記第1の電動機により前記動力分割機構を介して前記エンジンを回転駆動することにより、前記エンジンを始動させるステップと、
前記第2の電動機の回転数に応じた引きずりトルクを前記出力部材に発生させることにより、前記始動手段による前記エンジンの始動に起因して前記出力部材に生じる反力を相殺するステップとを含む、ハイブリッド車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−136064(P2012−136064A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287946(P2010−287946)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】