説明

ハイブリッド車両のオイルポンプ駆動装置

【課題】テストコース上とシャシダイナモメーター上とで同じ油量の作動油を供給し得るオイルポンプ駆動装置を提供する。
【解決手段】自動変速機(3)の入力軸で駆動され自動変速機(3)に作動油を供給する機械式オイルポンプ(27)と、作動指令により自動変速機(3)への作動油の供給を行い、非作動指令により自動変速機(3)への作動油の供給停止を行う電動式オイルポンプ(28)と、自動変速機(3)のシフトレンジを検出するシフトレンジ検出手段(30)と、シフトレンジ検出手段(30)が検出する自動変速機(3)のシフトレンジがニュートラルレンジである場合に、車速が低下して所定の閾値になる直前までモータジェネレータ(2)を駆動することによって機械式オイルポンプ(27)を作動し、電動式オイルポンプ(28)に対しては非作動指令を出力する制御手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両のオイルポンプ駆動装置、特に機械式オイルポンプと電動式オイルポンプとを共に備えるものの駆動制御に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機に作動油を安定して供給するため、モータジェネレータの回転軸に連結される機械式オイルポンプと、指令に応動する電動式オイルポンプとを共に備え、運転条件によりこれら2つのオイルポンプのいずれかを選択するものがある(特許文献1参照)。このものでは、モータジェネレータの回転速度と、機械式オイルポンプが自動変速機の油圧を最低限確保できる最低回転速度相当のしきい値とを比較する。そして、モータジェネレータの回転速度がしきい値以上であれば、機械式オイルポンプだけで安定して作動油を供給できるため電動式オイルポンプを非作動とする。一方、モータジェネレータの回転速度がしきい値未満となったときには、機械式オイルポンプでは安定して作動油を供給できないので、電動式オイルポンプを作動させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−149683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、認証試験で用いられるロードセット値は、実車を用いてテストコース上でコースティングした区間タイムを計測しておき、シャシダイナモメーター上でもこの計測した区間タイムと同様の区間タイムを再現するために用いられる。シャシダイナモメーター上では、走行負荷(Load)をテストコース上と同一として扱い、燃費測定や排気測定に使用する。
【0005】
しかしながら、テストコース上とシャシダイナモメーター上とでは、コースティング時に特に車両に当たる風量が異なっている。このため、電動式オイルポンプの作動、停止を自動変速機に供給する作動油の油温に依存させている場合に、コースティング時の油温の低下度合いが両者で異なり、電動式オイルポンプが作動するタイミングが相違する。電動式オイルポンプが作動するタイミングが相違すると、変速機内の作動油の油量が変化する。この油量の変化がロードセット値に影響してしまうという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、電動式オイルポンプの作動タイミングに影響されることなく、テストコース上とシャシダイナモメーター上とで同じ油量の作動油を供給し得るオイルポンプ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、動力源としてエンジン及びモータジェネレータを備え、エンジンを停止させモータジェネレータからの動力のみによる第1運転モードと、エンジン及びモータジェネレータの双方からの動力による第2運転モードとが選択可能であるハイブリッド車両を前提とするものである。そして、本発明のオイルポンプ駆動装置は、モータジェネレータの回転軸に入力軸が連結される自動変速機と、この自動変速機の入力軸で駆動され自動変速機に作動油を供給する機械式オイルポンプと、作動指令により自動変速機への作動油の供給を行い、非作動指令により自動変速機への作動油の供給停止を行う電動式オイルポンプと、自動変速機のシフトレンジを検出するシフトレンジ検出手段と、シフトレンジ検出手段が検出する自動変速機のシフトレンジがニュートラルレンジである場合に、車速が低下して所定の閾値になる直前までモータジェネレータを駆動することによって機械式オイルポンプを作動し、電動式オイルポンプに対しては非作動指令を出力する制御手段とを備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コースティング中の変速機内の作動油の油量を変化させないようにするために、変速機入力軸で駆動される機械式オイルポンプをコースティング中は常に作動させている。これにより、電動式オイルポンプの作動タイミングに影響されることなく、テストコース上とシャシダイナモメーター上とで同じ油量の作動油を自動変速機に供給することが可能となり、ロードセット値に影響することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態のハイブリッド車両のパワートレインの一例の概略構成図である。
【図2】第1実施形態のハイブリッドシステムの構成図である。
【図3】第1実施形態の統合コントローラの演算ブロック図である。
【図4】目標定常駆動トルクマップの特性図である。
【図5】アシストトルクマップの特性図である。
【図6】エンジン始動停止線の特性図である。
【図7】走行中要求発電出力の特性図である。
【図8】エンジン最良燃費線を示す特性図である。
【図9】変速線図である。
【図10】油温及び変速機入力軸回転速度に対する電動式オイルポンプの作動・停止の特性図である。
【図11】油温及び変速機入力軸回転速度に対する電動式オイルポンプの作動・停止の特性図である。
【図12】電動式オイルポンプの駆動制御を説明するためのフローチャートである。
【図13】第1実施形態のハイブリッド車両のパワートレインの他の例の概略構成図である。
【図14】第1実施形態のハイブリッド車両のパワートレインの他の例の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明の第1実施形態のハイブリッド車両のパワートレインの一例の概略構成図を示している。なお、図13、図14に示したようにハイブリッド車両のパワートレインの構成、特に第2クラッチ5の位置は図1に示すものに限定されない。
【0012】
エンジン1の出力軸とモータジェネレータ2の入力軸とが、トルク容量可変の第1クラッチ4を介して、モータジェネレータ2の出力軸と、トルクコンバータを有しない自動変速機3の入力軸とが連結されている。自動変速機3は、複数の遊星歯車機構を備えた有段式の自動変速機である。自動変速機3の出力軸にはディファレンシャルギア6を介してタイヤ7が連結されている。
【0013】
自動変速機3内には、シフト状態に応じて異なる動力伝達を担っているトルク容量可変のクラッチを有するので、これらのクラッチのうちの1つを第2クラッチ5として用いる。これにより自動変速機3は、第1クラッチ4を介して入力されるエンジン1の動力と、モータジェネレータ2から入力される動力を合成してタイヤ7へ出力する。上記の第1クラッチ4とこの第2クラッチ5とには、例えば比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多版クラッチを用いればよい。
【0014】
自動変速機3には、自動変速機3に作動油を供給するため、機械式オイルポンプ27と電動式オイルポンプ28とを備えている。
【0015】
一方の機械式オイルポンプ27は自動変速機3の入力軸で駆動されるものである。自動変速機3の入力軸とモータジェネレータ2とを連結しているので、モータジェネレータ2の回転軸で駆動されるとも言える。
【0016】
他方の電動式オイルポンプ28は、機械式オイルポンプ27により自動変速機3に作動油を供給できないようなときや作動油圧を確保できないような状況で作動される。電動式オイルポンプ28は、自動変速機3の油圧回路を介して機械式オイルポンプ27と連通している。
【0017】
ハイブリッド車両のパワートレインには、第1クラッチ4の接続状態に応じて2つの運転モードを有している。まず、第1クラッチ4の切断状態では、モータジェネレータ2の動力のみで運転(走行)する電気運転モード(以下「EVモード」という。)となる。第1クラッチ4の接続状態では、エンジン1とモータジェネレータ2の双方の動力で運転(走行)するハイブリッド運転モード(以下「HEVモード」という。)となる。なお、第2クラッチ5は後述するようにエンジンの始動時に半クラッチとされるくらいで、車両運転中は常に接続状態にある。
【0018】
図2は制御装置を含んだハイブリッドシステムの構成図を示している。
【0019】
ハイブリッドシステムは、主にパワートレインの動作点を統合制御する統合コントローラ20、エンジン1を制御するエンジンコントローラ21、モータジェネレータ2を制御するモータジェネレータコントローラ22、モータジェネレータ2を駆動するインバータ8、電気エネルギーを蓄えるバッテリ9からなっている。バッテリ9としては例えばリチウムイオン2次電池が用いられる。
【0020】
統合コントローラ20には、パワートレインの動作点を決定するために、エンジンの回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサ10からの信号と、モータジェネレータ2の回転速度Nmを検出するモータジェネレータ回転速度センサ11からの信号と、自動変速機3の入力軸回転速度Niを検出する自動変速機入力軸回転速度センサ12からの信号と、自動変速機3の出力軸回転速度Noを検出する自動変速機出力軸回転速度センサ13からの信号と、アクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ17からの信号と、ブレーキ油圧BPSを検出するブレーキ油圧センサ23からの信号と、バッテリ9の充電状態を検出するSOCセンサ16からの信号とが入力する。
【0021】
統合コントローラ20は、アクセル開度APOとバッテリ充電状態SOCと、車速VSP(自動変速機出力軸回転速度Noに比例)とに応じて、運転者が望む駆動力を実現できる運転モードを選択すると共に、モータジェネレータコントローラ22に目標モータジェネレータトルクもしくは目標モータジェネレータ回転速度を、エンジンコントローラ21に目標エンジントルクを、第1クラッチ4の油圧を制御するソレノイドバルブ14、第2クラッチ5の油圧を制御するソレノイドバルブ15に駆動信号を指令する。また、自動変速機コントーラ25にも指令信号や指令値を出力する。また、電動式オイルポンプコントローラ29には電動式オイルポンプ28を作動する指令と非作動とする指令とを出力する。
【0022】
エンジンコントローラ21は、エンジントルクが目標エンジントルクとなるようにエンジン1を制御し、モータジェネレータコントローラ22はモータジェネレータ2のトルクが目標モータジェネレータトルクとなるよう(またはモータジェネレータの回転速度が目標モータジェネレータの回転速度となるよう)、バッテリ9及びインバータ8を介してモータジェネレータ2を制御する。自動変速機コントローラ25は、自動変速機3内のソレノイドバルブを制御するためのシフトソレノイド26へ制御信号を出力し、自動変速機3の変速制御を行う。電動式オイルポンプコントローラ29は、統合コントローラ20から作動指令を受けたときには電動式オイルポンプ28を作動させ、非作動指令を受けたときには電動式オイルポンプ28を非作動とする。
【0023】
ここで、統合コントローラ20で行われる制御を、図3に示すブロック図を用いて説明する。
【0024】
目標定常駆動トルク演算部100では、アクセル開度APOと変速機入力軸回転速度Niから図4に示す目標定常駆動トルクマップを用いて目標定常駆動トルクを算出する。アシストトルク演算部110では、アクセル開度APOと変速機入力軸回転速度Niから図5に示すモータジェネレータ2のアシストトルクマップを用いてモータジェネレータ2のアシストトルクを算出する。
【0025】
運転モード選択部200では、図6に示すエンジン始動停止線マップを用いて、運転モード(HEVモード、EVモード)を演算する。ここで、エンジン始動停止線とはエンジン始動線(実線参照)及びエンジン停止線(破線参照)の総称である。エンジン始動線及びエンジン停止線は、車速VSPとアクセル開度APOとをパラメータとして設定されている。また、エンジン始動線及びエンジン停止線は、バッテリ充電状態SOCが低くなるにつれて、アクセル開度が小さくなる方向に低下する。車速VSPは、変速機入力軸回転速度Niから車速演算部120が算出している。
【0026】
例えば、運転点がエンジン始動線を下方より上方へと横切るとき、それまで停止状態にあったエンジン1が始動され、これによってEV走行からHEV走行に切換わる。一方、運転点がエンジン停止線を上方より下方へと横切るとき、それまで運転状態にあったエンジン1が停止され、これによってHEV走行からEV走行に切換わる。
【0027】
目標発電出力演算部300では、バッテリ充電状態SOCから図7に示す走行中発電要求出力マップを用いて走行中発電要求出力を演算し、この走行中発電要求出力を目標発電出力とする。要求発電出力演算部310では、エンジン1の現在の動作点から図8で示す最良燃費線までエンジントルクを上げるために必要な出力を演算し、前記目標発電出力と比較して少ない出力を要求発電出力とする。
【0028】
動作点指令部400では、アクセル開度APO、目標定常駆動トルク、モータジェネレータ2のアシストトルク、運転モード、車速VSP、要求発電出力から、これらを動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標モータジェネレータトルクと目標第2クラッチトルク容量と目標変速比と第1クラッチ4のソレノイド電流指令を演算する。
【0029】
変速制御部500では、目標第2クラッチトルク容量と目標変速比とから、これらを達成するように自動変速機3内のソレノイドバルブを駆動制御する。また、変速制御部500では、車速VSPとアクセル開度APOから図9に変速線図を用いて現在の変速段から次変速段をいくつにするか判定し、変速要求があれば変速クラッチを制御をして変速させる。
【0030】
エンジン1の始動処理は、統合コントローラ20が次にように行う。すなわち、EVモード状態で図6に示すエンジン始動線をアクセル開度APOが越えた時点で、第2クラッチ5を半クラッチ状態にスリップさせるように第2クラッチ5のトルク容量を制御し、第2クラッチ5がスリップを開始したと判断した後に第1クラッチ4の締結を開始してエンジン回転速度Neを上昇させる。エンジン回転速度Neが初爆可能な回転速度に到達したらエンジン1を作動させ、モータジェネレータ回転速度Nmとエンジン回転速度Neが近くなったところで第1クラッチ4を完全に締結し、その後第2クラッチ5をロックアップさせてHEVモードに遷移させる。
【0031】
次に、強制発電モードについて説明する。
【0032】
車両の減速コースト運転中(後述するコースティング中)にモータジェネレータ2により回生できる電力は、目標減速度からエンジンフリクショントルクや車両走行抵抗等を差し引いた分に対応し、かつ、モータジェネレータ2の定格、バッテリ容量等により制限される。ここで、減速コースト運転中とは、車両要求駆動力がゼロまたは負の値(典型的にはアクセルペダルが開放されている状態、つまりアクセル開度APOがゼロの状態)での車両走行中(車速がゼロを超える値のとき)である。
【0033】
このため、例えば減速コースト運転中にエアコン用コンプレッサ等の補機を駆動しているような場合に、バッテリ9からの消費電力が回生電力を上回る状態が長く続くと、バッテリ9の蓄電値すなわちSOC(ステート・オブ・チャージ)が減少していき、最終的にバッテリ9のSOCが過度に小さい過放電の状態となって、バッテリ9の性能の低下を招いたり、補機等の駆動が不可能となり、車両運転性に支障をきたすおそれがある。以下、SOCを「バッテリ充電状態」という。
【0034】
そこで、車両の減速コースト運転中に、通常減速モードであるか強制発電モードであるかを判定し、通常減速モードであると判定された場合、少なくともエンジン1を非作動状態とする。これによりエンジンフリクションによるエンジンブレーキトルクが車両減速トルクとして作用する。
【0035】
一方、強制発電モードであると判定された場合、エンジン1のフュエルカットリカバー指令信号を出力して、燃料噴射を再開し、エンジン1を作動状態にする。かつ、モータジェネレータ2を目標回転速度へ向けて回転速度制御する。これによって作動状態のエンジン1でモータジェネレータ2を連れ回しての発電である強制発電を行わせる。
【0036】
このときの目標回転速度は、駆動輪側回転速度が所定のアイドル回転速度以上の場合、駆動輪側回転速度以下の範囲で設定し、駆動輪側回転速度がアイドル回転速度未満の場合、好ましくはアイドル回転速度に設定する。
【0037】
強制発電モードでは、エンジン1を作動状態とすると共に、モータジェネレータ2を目標回転速度へ向けて回転速度制御することにより、減速コースト運転中にエアコン用コンプレッサ等の補機を駆動しているような状況、つまりバッテリ充電状態SOCが徐々に減少していくような状況においても、十分な回生トルクを得ることができる。従ってバッテリ9の過放電を招くことなく、減速コースト運転を安定して継続することができる。
【0038】
この強制発電モードにおける目標回転速度は、タービン回転速度がアイドル回転速度以上の場合、駆動輪側回転速度以下の範囲で設定される。従って、モータ回転速度がタービン回転速度以下の状態に維持され、制動トルクを相殺するような駆動トルクがエンジン1およびモータジェネレータ2側から駆動輪側に伝達されることはなく、減速コースト運転中に予期せぬ加速感等を与える恐れはない。これで従来装置の強制発電モードの説明を終了する。
【0039】
さて、認証試験で用いられるロードセット値は、実車を用いてテストコース上でコースティングした区間タイムを計測しておき、シャシダイナモメーター上でもこの計測した区間タイムと同様の区間タイムを再現するために用いられる。シャシダイナモメーター上では、走行負荷(Load)をテストコース上と同一として扱い、燃費測定や排気測定に使用する。ここで、「コースティング」とは、変速機をニュートラルレンジにして車両の惰行で走らせることをいう。
【0040】
しかしながら、テストコース上とシャシダイナモメーター上とでは、コースティング時に特に車両に当たる風量が異なっている。このため、電動式オイルポンプの作動、停止を自動変速機に供給する作動油の油温に依存させている場合に、コースティング時の油温の低下度合いが両者で異なり、電動式オイルポンプが作動するタイミングが相違する。電動式オイルポンプが作動するタイミングが相違すると、変速機内の作動油の油量が変化する。この油量の変化がロードセット値に影響してしまう。
【0041】
ロードセットが安定しない、つまりテストコース上とシャシダイナモメーター上とでロードセット値が異なってしまうメカニズムは次の通りである。
【0042】
テストコース上でのコースティングはニュートラルレンジで行う。車両を高い車速まで上げてアクセルペダルを開放し、シフトポジションをニュートラルレンジに切換えたときに、アイドルストップへ移行する。このとき、エンジン1が停止し、第1クラッチ4を開放するので、変速機入力軸に回転を与えるものが無くなり、変速機入力軸で駆動される機械式オイルポンプ27が停止する一方で、電動式オイルポンプ28が作動する。
【0043】
電動式オイルポンプ28の作動と停止は、図10に示したように、変速機入力軸回転速度Niと、自動変速機に供給する作動油の油温とで定まっている。図10に示したように、作動油の油温が0℃を超える領域では、油温が高くなるほど電動式オイルポンプ28を作動・停止するときの変速機入力軸回転速度Niを高くしている。これは、高油温側では、低油温側より作動油の粘度が落ちその分油圧が低下するので、その低下する油圧の分だけ電動式オイルポンプ28を作動させる変速機入力軸回転速度Niを高くする(電動式オイルポンプ28を作動させるタイミングを早める)必要があるためである。
【0044】
なお、電動式オイルポンプ28を非作動から作動へ切換えるときの変速機入力軸回転速度(図では「電動式オイルポンプ作動時の変速機入力軸回転速度」で略記。)を破線で、電動式オイルポンプ28を作動から非作動へ切換えるときの変速機入力軸回転速度(図では「電動式オイルポンプ停止時の変速機入力軸回転速度」で略記。)を実線で示す。両者がずれているのは、ヒステリシスを有させているためである。例えば、油温が一定の条件で左矢印のように実際の変速機入力軸回転速度が低下するとき、破線を横切ったA点のタイミングで電動式オイルポンプ28が非作動状態から作動状態へと切換わる。油温が一定の条件で右矢印のように実際の変速機入力軸回転速度が上昇するとき、実線を横切ったB点のタイミングで電動式オイルポンプ28が作動状態から非作動状態へと切換わる。
【0045】
テストコース上でのコースティングでは、車両全体が走行風に覆われるため、油温の低下が早く起きる。シャシダイナモメーター上ではというと、シャシダイナモメーターからの風量は設備差によって異なり、最も風が少ない状態はハーツェルファン(可搬式のファン)による送風である。ハーツェルファンが使われたときには、風量がテストコース上より少ないため、コースティング時の油温の低下がテストコース上より遅い。
【0046】
例えば、図11に示したようにコースティングによってC点から変速機入力軸回転速度及び油温が低下する場合、テストコース上では油温の低下がシャシダイナモメーター上より相対的に早いので、例えば一点鎖線矢印のように変化する。一方、シャシダイナモメーター上では油温の低下がテストコース上より相対的に遅いので、実線矢印のように変化する。このため、テストコース上ではD点で電動式オイルポンプ28が非作動状態から作動状態へと切換わるのに対して、シャシダイナモメーター上ではE点で電動式オイルポンプ28が非作動状態から作動状態へと切換わる。
【0047】
このように、テストコース上とシャシダイナモメーター上とで油温の低下度合いが異なり、電動式オイルポンプ28の作動タイミングが相違すると、変速機内の作動油の油量が変化する。この油量の変化を受けてコースティング時の自動変速機の動きがテストコースト上とシャシダイナモメーター上とで異なったものとなってしまう。シャシダイナモメーター上でロードセットを行うときに、実車実測時の状態と同等条件で行うことができなくなるのである。従って、シャシダイナモメーター上でロードセットを行うときには、実車実測時の状態と同等条件で行う必要があり、作動油の油温に影響されずに常に同じ状態を保てる方法を用意する必要がある。
【0048】
そこで本実施形態では、自動変速機3のシフトレンジがニュートラルレンジである場合に、車速VSPが低下して所定の閾値以下になる直前までモータジェネレータ2を駆動し、電動式オイルポンプ28に対しては非作動指令を出力することとする。モータジェネレータ2を駆動すれば、モータジェネレータ2と直結している自動変速機3の入力軸が回転し、この変速機入力軸の回転で機械式オイルポンプ27が作動される。すなわち、機械式オイルポンプ27を所定の車速(閾値に相当する車速)以下になる直前まで作動させることで、電動式オイルポンプ28を作動させることが必要でなくなる。電動式オイルポンプ28を作動させないのであるから、テストコース上とシャシダイナモメーター上とでコースティング時の油温の低下度合いが変化し、電動式オイルポンプ28の作動タイミングが相違し、変速機内の作動油の油量が変化することになる、といった問題から解放される。
【0049】
このように、本実施形態では、シフトレンジがニュートラルレンジにある場合に基本的に電動式オイルポンプ28を作動させず、代わりに機械式オイルポンプ27を作動させて作動油を供給することにしたので、テストコース上とシャシダイナモメーター上とで同じ油量の作動油を供給することが可能となり、ロードセット値への影響を回避できることとなった。
【0050】
統合コントローラ20で行われるこの制御を図12のフローチャートを参照して説明する。図12のフローは一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。
【0051】
ステップ1、2はコースティング時であるか否かを判定する部分である。ステップ1ではアクセル開度センサ17により検出されるアクセル開度APOがゼロであるか否か、ステップ2では実際のシフトレンジがニュートラルレンジにあるか否かをみる。実際のシフトレンジはシフトレンジ検出センサ30(シフトレンジ検出手段)により検出する(図1、図2参照)。アクセル開度APOがゼロでかつシフトレンジがニュートラルレンジにあれば、コースティング時であると判定してステップ3に進み、それ以外の場合にはそのまま今回の処理を終了する。
【0052】
ステップ3ではEVモードであるか否かをみる。EVモードでなければそのまま今回の処理を終了する。
【0053】
ステップ3でEVモードであるときにはステップ4に進み車速VSPと所定の閾値とを比較する。ここで、閾値はシャシダイナモメーター上で行うコースティング時のロードセットに影響する高車速側の領域と、シャシダイナモメーター上で行うコースティング時のロードセットに影響しない低車速側の領域とを分ける境界の値である。閾値としては例えば5km/hを設定する。車速VSPは、車速演算部120が算出しているので(図3参照)、この算出される車速を用いればよい。
【0054】
車速VSPが閾値を超えている場合には(車速が低下して閾値以下になる直前まで)、シャシダイナモメーター上で行うコースティング時のロードセットに影響すると判断し、ステップ5に進んでモータジェネレータ2を駆動する。すなわち、モータジェネレータ2の回転速度が設定回転速度となるように回転速度制御を行う。これによって機械式オイルポンプ27が作動されるので、ステップ6では電動式オイルポンプ28に対して非作動指令を出力する。
【0055】
一方、車速VSPが低下して閾値以下になったときには、シャシダイナモメーター上で行うコースティング時のロードセットに影響しないと判断し、ステップ7、8に進んでモータジェネレータ2の駆動を停止し、電動式オイルポンプ28に対して作動指令を出力する。
【0056】
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
【0057】
本実施形態において、ロードセットを安定できる、つまりテストコース上とシャシダイナモメーター上とでロードセット値を同じにできるメカニズムは次の通りである。
【0058】
本実施形態では、コースティング中の変速機内の作動油の油量を変化させないようにするために、変速機入力軸で駆動される機械式オイルポンプ27をコースティング中は常に作動させている。これにより、作動油の油温に関係なく常時同じ作動油の油量を保ち続けることができる。
【0059】
また、変速機入力軸を回転させるための動力源として、モータジェネレータ2を用いている。これは、ニュートラルレンジのアイドルストップ中は、第1クラッチ4は開放されエンジン1は自動変速機3と接続されていないため変速機入力軸を回転させることができないことと、第2クラッチ5も開放されているため、プロペラシャフト側から変速機入力軸を回転させることもできないこととからである。
【0060】
一方、作動油の油量の確保をするためだけであれば、電動式オイルポンプ28をコースティング中は止めずに作動状態を維持させる制御とすることでも可能であるが、電動式オイルポンプコントローラ29は、自動変速機コントローラ25と別体である。別体であるため、シフトレンジ検出センサ30からの信号が電動式オイルポンプコントローラ29に入力されていないので、電動式オイルポンプコントローラ29はシフトレンジを認識することができない。このため、電動式オイルポンプ28をコースティング中は止めずに作動状態を維持させる制御とするには、この点を解決する必要がある。
【0061】
また、電動式オイルポンプ28をコースティング中は止めずに作動状態を維持させる制御とする場合に、電動式オイルポンプ28が故障で非作動状態になってしまうと、コースティング中の作動油の油量を確保できなくなる。しかしながら、電動式オイルポンプ28の故障を検出する手段は設けられていない。
【0062】
これに対して本実施形態のように、コースティング中、機械式オイルポンプ27を常時作動させることにしておけば、高車速側からのコースティング中の作動油の油量を確保できる。
【0063】
このように本実施形態によれば、動力源としてエンジン1及びモータジェネレータ2を備え、エンジン1を停止させモータジェネレータ2からの動力のみによる第1運転モードと、エンジン1及びモータジェネレータ2の双方からの動力による第2運転モードとが選択可能であるハイブリッド車両において、モータジェネレータ2の回転軸に入力軸が連結される自動変速機3と、この自動変速機3の入力軸で駆動され自動変速機3に作動油を供給する機械式オイルポンプ27と、作動指令により自動変速機3への作動油の供給を行い、非作動指令により自動変速機3への作動油の供給停止を行う電動式オイルポンプ28と、シフトレンジ検出センサ30(シフトレンジ検出手段)と、シフトレンジ検出センサ30が検出する自動変速機3のシフトレンジがニュートラルレンジである場合に、車速VSPが低下して所定の閾値以下になる直前までモータジェネレータを駆動することによって機械式オイルポンプ27を作動し、電動式オイルポンプ28に対しては非作動指令を出力する制御手段(図12のステップ1、2、5、6参照)とを備えるので、電動式オイルポンプ28の作動タイミングに影響されることなく、テストコース上とシャシダイナモメーター上とで同じ油量の作動油を自動変速機3に供給することが可能となり、ロードセット値に影響することを防止できる。
【0064】
車速VSPが低下して閾値以下となる低車速域でもモータジェネレータ2を駆動させたのでは、効率が悪く電力消費が大きくなる。これに対して、本実施形態によれば、車速VSPが低下して閾値以下となる低車速域で、モータジェネレータ2の駆動を停止することによって機械式オイルポンプ27を非作動とし、電動式オイルポンプ28に対しては作動指令を出力する(図12のステップ4、7、8参照)。これによって、効率の悪い大きなモータであるモータジェネレータ2を駆動するよりも、効率の良い小さいモータである電動式オイルポンプ28を作動させることとなり、無駄な電力消費を抑えることができる。
【0065】
本実施形態によれば、閾値としてシャシダイナモメーター上で行なうコースティング時のロードセットに影響しない車速を設定するので、ロードセットを行う車速域の全てでロードセット値に影響を与えることがない。
【符号の説明】
【0066】
1 エンジン
2 モータジェネレータ
3 自動変速機
4 第1クラッチ
5 第2クラッチ
20 統合コントローラ
27 機械式オイルポンプ
28 電動式オイルポンプ
30 シフトレンジ検出センサ(シフトレンジ検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源としてエンジン及びモータジェネレータを備え、
エンジンを停止させモータジェネレータからの動力のみによる第1運転モードと、エンジン及びモータジェネレータの双方からの動力による第2運転モードとが選択可能であるハイブリッド車両において、
モータジェネレータの回転軸に入力軸が連結される自動変速機と、
この自動変速機の入力軸で駆動され自動変速機に作動油を供給する機械式オイルポンプと、
作動指令により自動変速機への作動油の供給を行い、非作動指令により自動変速機への作動油の供給停止を行う電動式オイルポンプと、
自動変速機のシフトレンジを検出するシフトレンジ検出手段と、
シフトレンジ検出手段が検出する自動変速機のシフトレンジがニュートラルレンジである場合に、車速が低下して所定の閾値になる直前までモータジェネレータを駆動することによって機械式オイルポンプを作動し、電動式オイルポンプに対しては非作動指令を出力する制御手段と
を備えることを特徴とするハイブリッド車両のオイルポンプ駆動装置。
【請求項2】
車速が低下して前記閾値以下になったときには、前記モータジェネレータの駆動を停止することによって前記機械式オイルポンプを非作動とし、前記電動式オイルポンプに対しては作動指令を出力することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両のオイルポンプ駆動装置。
【請求項3】
前記閾値として、シャシダイナモメーター上で行なうコースティング時のロードセットに影響しない車速を設定することを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド車両のオイルポンプ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−86808(P2012−86808A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237690(P2010−237690)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】