説明

ハイブリッド部材で構成される石英製の内面を有する装置

【課題】半導体薄膜等の成膜装置において、成膜室を機械的強度に優れかつ高純度な部材で作製する。
【解決手段】石英板材と金属部材を一体化したハイブリッド部材を使用して成膜室が作製される。ハイブリッド部材は、石英板材を金属部材に真空吸着することによって作製され、ハイブリッド部材の石英板材側が成膜室の内面となるように成膜室が組み立てられる。原料ガスに接する成膜室の内面が石英面になっていて、石英板材でカバーされた金属面は成膜室の内部から隔離されるので、金属部材からの放出ガスの影響を抑制できる。成膜室の外殻が金属部材で構成されるので機械的強度に優れている。石英板材を金属部材と一体化した状態で成膜室の組み立て等を行えるので、石英板材の破損の危険性を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体等の製造工程で使用される成膜装置に関し、特に成膜室内の雰囲気を高純度に保つとともに、成膜室内の温度を制御性よく調整できる成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造工程において、基板表面に半導体薄膜を積層するために化学気相成長法が広く使用されている。コールドウォール型の化学気相成長法においては、サセプタ上に載置して所定の温度に加熱された基板に向けてプロセスガスを供給することで、プロセスガス中の原料が基板表面近傍で分解し、基板表面に半導体薄膜が堆積する。
【0003】
近年、青色発光ダイオードやレーザダイオードなどの発光デバイス用の材料として窒化物系の化合物半導体が注目されている。化学気相成長法による化合物半導体の成膜装置には、基板表面の垂直方向からプロセスガスを基板に吹きつけて成膜する装置や、プロセスガスのガス流が基板近傍で基板表面とほぼ平行になるようにプロセスガスを供給して成膜する装置等がある。それらの成膜装置を使用して、温度、圧力、プロセスガスの流量や流速等を適宜設定して成膜が行われる。例えば、窒化物系半導体薄膜の場合、水素ガスをキャリアガスとして、III族原料にトリメチルガリウム、トリメチルインジウム等の有機金属ガス、V族原料にアンモニアガス等を使用し、成膜する材料の種類に応じて基板温度を600℃〜1050℃程度、圧力を大気圧〜1kPa程度に設定して成膜がなされる。
【0004】
半導体デバイスの生産効率を高めるためには、基板全面にわたって厚みや組成等が均一で高純度な薄膜を積層することが必要不可欠である。厚み等の均一性向上に関しては、基板を加熱する加熱手段の改良、基板の回転、基板表面を下に向けての成膜等、成膜装置の構造についての種々の改良がなされた装置が開発されている。それら構造上の改良とともに、温度、圧力、プロセスガスの流速等の成膜条件を最適化して厚み等の均一性の改善がなされている。薄膜の高純度化に関しては、高純度な原料ガスの使用や成膜条件の最適化はもとより、成膜装置の構成部材の選択も薄膜の高純度化に影響する重要な因子となる。成膜装置の構成部材、特に、大気に晒されやすい成膜室の内面を構成する部材からの放出ガスも薄膜の高純度化に影響を与える大きな要因の1つである。そのため、成膜室の構成部材には、できるだけ放出ガス量が少ない部材の使用が好まし。
【0005】
成膜室の構成部材からの放出ガス低減の観点から、成膜室を構成する部材として石英ガラスが広く使われている。石英ガラスは、高純度で高温でも使える等、優れた特長を有する部材である。しかし、石英ガラスは機械的強度が弱く、機械的な耐久性についての難点がある。特に、装置が大型化し、減圧して使用するような場合、石英ガラスのみで成膜室を作製するには、石英製造技術、コスト、破損したときの安全面の点で困難がある。これに対して、ステンレスやアルミニウム等の金属を使って成膜室を作製することによって機械的強度を保ち、比較的安価に成膜室を作製することができる。そのため、成膜室のサイズが大きくなるほど、金属製の成膜室が使われている。また、金属は石英ガラスに比べて熱伝導率が大きいので、成膜室内の温度制御が行いやすいという有利な特長を有している。しかし、一方で、金属は水分等を吸着しやすく、使用時の放出ガス量が石英ガラスに比べて大きいという問題も併せ持っている。
【0006】
そこで、石英ガラスと金属の両方の特長を生かした成膜装置も作製されている。例えば、特許文献1には、ステンレスに石英が積層された2層構造からなる部材で構成された反応菅が開示されている。円形の石英からなる上板と、ステンレスに石英が積層された2層構造からなる下板とを水平に対峙して反応菅が形成されるというものである。この反応菅が、気密性を保ったステンレスからなるチャンバー内に配設されて機械的強度が保たれている。そして、均一な薄膜を得るために、下板が半径方向に傾斜して作製されて、基板付近の原料ガスの流速を一定に保つようになっている。しかし、金属上に石英を載せて金属をカバーするだけでは、端部からの回り込みがあるので、金属からの放出ガスの抑制に必ずしも十分ではない。また、傾斜したステンレス板に石英を積層させるために、石英板も円錐状の形状に加工する必要があり、石英をこのような形状に加工することは、加工技術的に難しく、高コストにもなるという問題もある。
【0007】
成膜室内の温度環境を制御することも重要である。コールドウォール型の成膜装置では成膜室内の温度は一定ではない。特許文献1に示されているように、下板を傾斜させて上板との間隔を予め調節しておいても、成膜時の原料ガスの流速は、原料ガスの熱膨張により必ずしも一定にならない。特に、成膜条件を変更して、温度条件を大きく変えるような場合には十分に対応できない。また、熱対流の影響も考慮する必要がある。プロセスガスを大量に流してガス流速を上げることで、ある程度プロセスガスの熱膨張や熱対流による影響を緩和することができる。しかし、装置が大型化すると、プロセスガスを大量に流すことは実質的に困難になる。
【0008】
基板の表面を下に向けて成膜することで、高温ガスの上昇圧力により原料を基板表面に比較的効率よく到達させることもできる。この場合でも、基板表面と対向する面の温度が変化すると、熱対流に変化が生じる。実効的な成膜条件が変動し、成膜速度や薄膜の膜厚均一性、混晶の組成の均一性に影響する。
【0009】
基板表面と対向する位置にある成膜室の内壁の温度制御やその位置に設置した対向板等の温度制御により成膜室内の温度環境を制御することもなされている。例えば、特許文献2に、基板の表面に対向する位置にある石英板の温度を制御する技術が開示されている。石英板とステンレス製の水冷ジャケットの間に熱伝導調整治具を設け、その熱伝導調整治具の形状等を調整して、成膜室内部の温度を制御するというものである。それによって、膜厚や組成比の均一性に優れた半導体薄膜を得ることができるとしている。この方法は成膜室内部の温度制御に有効であるが、熱伝導調整治具が固定されるので、1回の工程内で成膜条件を変更するような場合は、必ずしも十分であるとはいえない。
【0010】
金属で成膜室を作製した場合、金属は熱伝導性がよいので、成膜室内の温度制御に有利である。しかし、熱伝導率が大きいと成膜室内面からの放熱が大きくなり、却って基板加熱等のエネルギー効率を低下させる要因となる。例えば、窒化物系半導体等の成膜時には基板の温度を600℃〜1050℃に所定時間維持する。このような温度を維持する場合、成膜室内面の近傍からの放熱が大きく、加熱のエネルギーロスが大きくなる。この観点から、本発明者は、特許文献3に示すように、加熱室にシール部材を介して装着された石英製の仕切板を設けることで加熱のエネルギーロスを軽減できる技術を開発した。仕切板の板厚を薄くして加熱ヒータからの光放射エネルギーロスを軽減して、昇温および降温に対する加熱応答性をよくすることができ、電力消費が低減できるというものである。この方法では、基板を均一に加熱でき、かつ処理室の内面からの放出ガスを低減できるが、処理室内面の温度制御の点では必ずしも十分とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−266173号公報
【特許文献2】特開2004−281836号公報
【特許文献3】特許第3383784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
化合物半導体等の成膜装置において、成膜室の機械的強度の観点からは、機械的強度が強く、様々な形状に精度よく加工できる金属製の部材を使って成膜室を作製することが好ましい。一方で、金属は吸着した不純物等の放出ガスが多いという問題がある。そこで、不純物低減の観点から、原料ガスに接する成膜室の内面には石英ガラスのような高純度の部材を使うのが好ましい。しかし、石英製の部材は機械的強度が弱いので、成膜室のサイズが大きくなるほど、成膜室作製のための加工技術的課題が増大し、それに伴って加工コストも増加するという問題がある。また、石英は熱伝導率が金属に比べて小さいので、厚みが増すと、成膜室内壁の温度制御性が悪くなるという問題もある。
【0013】
このような課題に鑑みて、本発明は、優れた機械的強度を有する金属の特長と高純度な材料である石英の特長を兼ね備え、かつ温度制御性に優れた成膜装置を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、基板加熱時のエネルギーロスを軽減して加熱効率が向上する成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、成膜室内に設置したサセプタに基板を載置し、前記基板を加熱するとともに前記成膜室内にプロセスガスを導入して前記基板の表面に薄膜を形成する成膜装置であって、成膜室が複数の部材から構成され、該複数の部材のうち少なくとも1つの部材が石英板材を金属部材に重ね合わせて真空吸着により一体化したハイブリッド部材であり、該ハイブリッド部材の石英板材側が前記成膜室の内面になるように前記成膜室が組み立てられることを特徴とするものである。
【0016】
原料ガスに接する成膜室の内面が石英製の部材になっており、石英板材でカバーされた金属面は完全に成膜室の内部と隔離されるので、金属からの放出ガスを抑制できる。使用する石英板材は単純な形状なので、加工が容易で大型化にも対応できる。そして、石英板材と金属部材とを一体化した後に成膜室の組み立て等がなされるので、石英板材を破損する危険性を低減できる。
【0017】
また、本発明は、成膜室を構成する部材のうち少なくとも1つの部材に加熱手段を備えたハイブリッド部材を使って成膜室が組み立てられることを特徴とするものである。使用箇所を適宜選択して、サセプタの加熱や成膜室内面の温度制御等に使用する。
【0018】
さらに、本発明は、ハイブリッド部材を構成する石英板材がシール部材によって複数の区画に区切られ、その複数の区画が区画毎に独立に真空引きされて金属部材に真空吸着されることを特徴とするものである。石英の熱伝導度が小さいので、薄い石英板材では、その表面に平行な方向の熱伝導は垂直方向の熱伝導に比べて極めて少なくなる。ハイブリッド部材の石英板材の表面温度制御を区画毎に行いやすくなる。分割した区画毎に真空度を調整等することで、区画毎の温度制御が効果的に行える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、成膜室の外殻構造が金属となっているので、成膜室の機械的強度を保持できる。そして、成膜室内の石英板材でカバーされた金属部分が成膜室の内部から完全に隔離された構造となっているので、金属部材からの放出ガスの影響を抑制できる。
【0020】
また、本発明によれば、石英板材をハイブリッド部材として一体化して取り扱うので、石英板材の破損の危険性を低減でき、成膜装置の大型化にも対応できる。
【0021】
さらに、本発明によれば、ハイブリッド部材の真空吸着の真空度を適当に設定することで、基板加熱のエネルギーロスを低減でき、それによって、成膜工程の電力消費を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る成膜装置の概略断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿っての概略断面図である。
【図3】ハイブリッド部材の基本構造を示す概略断面図である。
【図4】図3のハイブリッド部材の平面図である。
【図5】加熱手段を備えたハイブリッド部材の概略断面図である。
【図6】図5のハイブリッド部材の金属部材部分の平面図である。
【図7】他の形態の加熱手段を備えたハイブリッド部材の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の成膜装置において、成膜室は、複数の部材から構成されている。その複数の部材のうちの少なくとも1以上の部材にハイブリッド部材が使用される。ここで、本発明における「ハイブリッド部材」は、石英板材と金属部材を構成要素とする部材であり、石英板材が真空吸着によって金属部材に吸着されて、それらの部材が一体化している部材のことを意味する。このハイブリッド部材には、冷却手段、加熱手段、その他の付加機能を適宜付加した構成をもつ部材も含まれる。例えば、使用箇所に対応して、金属部材に加熱用ヒータ等の加熱手段を組み込んだ部材、金属部材に冷却用の冷媒流路を設けた部材、石英板材と金属部材を貫通するプロセスガス給排気部を設けた部材等、種々のタイプのハイブリッド部材が作製される。
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図1から図7を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態に係る成膜装置の概略断面図、図2は図1のA−A線に沿っての概略断面図、図3はハイブリッド部材の基本構造を示す概略断面図、図4は図3のハイブリッド部材の平面図、図5は加熱手段を備えたハイブリッド部材の概略断面図、図6は図5のハイブリッド部材の金属部材部分の平面図、図7は他の形態の加熱手段を備えたハイブリッド部材の概略断面図を示す。
【0025】
本発明のポイントは、成膜室を構成するハイブリッド部材にあるので、まず、ハイブリッド部材の作製について説明する。ハイブリッド部材は以下のようにして作製する。
図3、図4に示すように、基本的な構造のハイブリッド部材は石英板材11、金属部材12、シール部材13,14、および真空シール枠15から構成されている。ハイブリッド部材の作製のため、石英板材11を金属部材12の上に載せて重ね合わせ、その上からシール部材13,14を装着したシール枠15が被せられる。シール部材13は石英板材11の外周部表面に当接し、シール部材14は石英板材11の外周部の外側で金属部材12に当接するような位置関係にある。このような構造で、石英板材11と金属部材12の接触面がシール部材13、14によって外部から隔離される。
【0026】
金属部材12の側面には開閉バルブを備えた真空ポート17が設けてある。この真空ポート17は石英板材11に接触する側の表面まで連通している。真空ポート17を真空系(図示省略)に接続して石英板材11と金属部材12の間を真空引きする。石英板材11が金属部材12に真空吸着した状態になる。真空ポート17の開閉バルブを閉にして、真空吸着状態を保ったまま真空系から切り離して、ハイブリッド部材が作製される。運搬や成膜室の組み立て等の作業をハイブリッド部材として一体化した形で行うことができるので、薄い石英板材でも取扱いが容易になる。特に、石英板材が大型化した場合には利便性が高い。尚、真空ポート17は石英板材11と接触していない側の金属部材12の表面に設けてもよい。また、ハイブリッド部材の使用箇所に対応して、金属部材12に冷却手段が適宜設けられる。
【0027】
金属部材12の石英板材11側の表面には、真空ポート17からの真空引きを容易にするため、溝を設けるのが好ましい。図4に示すように、溝16を蛇行して這い回し、真空ポート17と連通させる。尚、溝16の形状はこれに限るものではなく、格子状等にしてもよい。また、溝16を複数の区画に分割して設け、分割した区画毎に独立に真空引きするようにしてもよい。溝16の深さは、例えば0.1mmから1.0mmとする。好ましくは深さを0.3mmから0.5mmとする。石英板材11の大きさにもよるが、溝16の幅は2mmから15mmとする。好ましくは幅を3mmから10mmとする。石英板材が金属部材の溝16のない部分に接触した状態で支持されるので、幅が狭いほうが石英の強度維持に好ましい。溝16の深さが浅いと真空引き時間が長くなり、溝16の幅が狭いと真空引き時間が長くなる。溝16の深さと幅は、真空引きに要する時間との兼ね合いで決定すればよい。また、真空ポート17は少なくとも1本あればよく、図4のように2本に限るものではない。
【0028】
熱伝導性の観点においては、深さ0.5mm程度の深さの溝16があっても、0.1Pa程度の真空度の場合、溝16が無い場合と伝熱の効果に大きな違いはない。溝16が無い場合でも、石英板材11と金属部材12との間は厳密には全面で接触していないので、実際の接触面積は小さい。そのため、空隙に存在する残存分子による対流熱伝導によって熱伝導性に大きな違いが生じないと考えられる。しかし、真空度を0.001Pa程度まで高めると、深さが0.3mmから0.5mm程度でも、空隙の対流熱伝導が極めて少なくなり、断熱効果が大きくなる。このため、真空度を調整することで熱伝導性を制御できることになる。
【0029】
石英板材11と金属部材12との間にシール部材を配置して複数の独立した区画に分割し、その複数の区画をそれぞれ独立に真空引きしてもよい。真空度が0.1Paから0.001Pa付近では断熱効果が大きく変化し、真空度を高めるほど断熱効果が高くなる。真空吸着の真空度を変えることによって、区画毎に温度変化をもたせやすくなる。
【0030】
金属部材12の材質として、例えば、アルミニウムやステンレス等が使用できる。シール枠15もアルミニウムやステンレス等で作製される。熱伝導性の観点からはアルミニウムの使用が好ましい。また、シール部材としては、例えば、O−リング等を使用する。
【0031】
ハイリッド部材は、機械的強度に優れた金属の特長と放出ガスの比較的少ない石英の特長を兼ね備えた部材である。したがって、成膜装置を作製するための高純度な部材として使用でき、装置を大型化する場合にも対応可能な部材である。
【0032】
ハイブリッド部材は、加熱手段を組み込むことができる。加熱手段を備えたハイブリッド部材の作製は、基本的には上述のハイブリッド部材の作製と同様の手順で行う。図5、図6に示すように、加熱手段を備えたハイブリッド部材は石英板材21、金属部材22、シール部材23,24、真空シール枠25、加熱室41、および加熱ヒータ42等から構成されている。
【0033】
加熱手段は金属部材に設けた複数の直線状の加熱室41とその中に収容される加熱ヒータ42から構成される。加熱室41はシール部材43によって石英板材21の他の部分から隔離された1区画に配置されている。加熱室41は、石英板材21側が開放されており、その内面は鏡面加工された反射面が形成してある。そして、複数の加熱室41が平行に並べられている。また、隣接する加熱室41は連通孔46を介して互いに連通してある。サセプタの加熱に使う場合、加熱ヒータ42には、輻射により加熱するハロゲンランプ等の光放射加熱ヒータが好ましい。石英板材21を透過してサセプタを効率的に加熱できる。図6においては直線状の加熱ヒータ42を3本示してあるが、本数はこれに限るものではない。サセプタのサイズに合わせて加熱ヒータ42の使用本数を適宜決定できる。また、加熱ヒータ42の形状についても、直線状の形状に限るものではない。直径の異なる複数の環状の加熱室および加熱ヒータを同心円状に配置してもよい。
【0034】
加熱手段を備えたハイブリッド部材の作製のため、加熱ヒータ42とシール部材43を取り付けた後、石英板材21を金属部材22の上に重ね合わせ、その上にシール部材23,24を装着したシール枠25が被せられる。シール部材23は石英板材21の外周部表面に当接し、シール部材24は石英板材21の外周部の外側で金属部材22に当接するような位置関係にある。このような構造で、石英板材21と金属部材22の接触面がシール部材23、24によって外部から隔離される。金属部材22の側面に開閉バルブを備えた真空ポート27,45が設けてある。真空ポート27は石英板材21側の表面まで連通している。真空ポート45は加熱室41に連通している。真空ポート27,45を真空系(図示省略)に接続して石英板材21と金属部材22、および石英板材21と加熱手段の間を独立に真空引きする。石英板材21が金属部材22に真空吸着した状態になる。真空ポート27,45の開閉バルブを閉にして、真空吸着状態を保ったまま真空系から切り離して、加熱手段を備えたハイブリッド部材が作製される。尚、真空ポート27,45は石英板材21と接触していない側の金属部材22の表面に設けてもよい。また、金属部材22の石英板材21側の表面には、真空ポート27からの真空引きを容易にするため、溝26を設けるのが好ましい。加熱手段の区画においては、加熱室41が真空引きの溝の役割を果たすが、それ以外に溝44を設けてもよい。溝26,44の深さと幅は基本構造のハイブリッド部材の場合と同様に、例えば、深さを0.1mmから1.0mmとする。好ましくは深さを0.3mmから0.5mmとする。溝26,44の幅は2mmから15mmとする。好ましくは幅を3mmから10mmとする。溝26,44の深さと幅は、真空引きに要する時間との兼ね合いで決定する。
【0035】
金属部材22には冷却手段(図示省略)が配置され、加熱室41の冷却およびハイブリッド部材の温度制御に使われる。冷却手段には、水等の冷媒を使用する通常のものを使用できる。また、シール部材としては、例えば、O−リング等を使用する。
【0036】
ハイブリッド部材に他の形態の加熱手段を取り付けることができる。図7に示すように、加熱室47が金属部材32の内部に設けられ、石英板材31側に開放していない構造としてもよい。この場合も隣接する加熱室47は連通孔49を介して互いに連通してある。そして、加熱室47の中に加熱ヒータ48が収容される。加熱ヒータ48には、例えば、シースヒータが使用される。ハイブリッド部材の石英板材31の温度を制御する場合に適している。複数の加熱ヒータ48を独立して制御することで石英板材31の温度分布を調整できる。石英板材31が金属部材32に強く吸着されているので、石英板材31の吸着面の温度は金属部材32の温度とほぼ同じになる。石英板材31の板厚を薄くしておけば、石英板材31の表面の温度を追従性よく制御できる。尚、図7には、加熱ヒータ48が5本示してあるが、本数はこれに限るものではなく、ハイブリッド部材のサイズに合わせて加熱ヒータの使用本数、配置を適宜決定できる。また、加熱ヒータ48は、直線状、環状等が使用でき、特定の形状に限るものではない。
【0037】
さらに、石英板材31と金属部材32の間をシール部材で複数の区画に区切って独立に真空引きできるようにしてもよい。真空吸着の真空度を調節することによって、石英板材41に温度分布をつける等の温度調整が容易なる。
【0038】
上記のようにして作製したハイブリッド部材を用いて成膜室を作製する。図1、図2に示すように、成膜室4は、下面部材1、上面部材2、および側面部材3,3で囲まれるようにして形成される。プロセスガス供給部7およびプロセスガス排出部8が配設されて気密構造の成膜室4が形成される。下面部材1と側面部材3,3は、図3に示された基本構造のハイブリッド部材であり、上面部材2は、図5に示された構造の加熱手段を備えたハイブリッド部材である。尚、これらのハイブリッド部材はすべて冷却手段(図示省略)を備えている。各ハイブリッド部材の石英板材側を内側に配置することで、外殻構造が金属製の部材で形成され、内面が石英製の部材で形成された成膜室4が作製される。そして、各ハイブリッド部材の真空ポートが真空系(図示省略)と接続され、真空吸着の真空度が調節される。プロセスガスの供給部7とプロセスガス排出部8にもハイブリッド部材が使われ、成膜室4の内側の面が石英板材になるように取り付けられている。プロセスガスの供給部7とプロセスガス排出部8のハイブリッド部材には、プロセスガス供給管またはプロセスガス排出管が石英板材と金属板材を貫通して配設されている。
【0039】
尚、上記の実施形態では、成膜室4を構成する部材のすべてにハイブリッド部材を使用したが、必ずしもこれに限るものではない。例えば、下面部材1、上面部材2および側面部材3,3にハイブリッド部材を使用し、プロセスガス供給部7とプロセスガス排出部8は通常の金属部材を使用するようにしてもよい。また、下面部材1と上面部材2のみにハイブリッド部材を使用するようにしてもよい。
【0040】
成膜室4の組み立ては、例えば、次のように行う。形状が直方体で、その各々の面が開放した所定サイズの金属製枠体を作製する。その枠体の所定の面に、下面部材1、上面部材2、側面部材3,3、プロセスガスの供給部7、およびプロセスガス排出部8がO−リング等のシール部材を介して配設され、気密構造の成膜室4が作製される。
【0041】
成膜室4内には、上面部材2に接するようにサセプタ5が設置され、サセプタ5に成膜面を下に向けた基板6がセットされる。温度測定子10がサセプタ5に取り付けられて、加熱ヒータ42の制御装置(図示省略)に接続して温度制御できる構成となっている。そして、プロセスガスの流れを調節する石英製のガイド9が取り付けられる。
【0042】
下面部材1のハイブリッド部材に加熱手段を備えたハイブリッド部材を使ってもよい。基板6の成膜面に対向する壁面の温度制御が容易になり、成膜室4の温度環境を調節しやすくなる。
【0043】
基板への薄膜の成膜は、温度、圧力等の通常の成膜条件の設定に加えて、ハイリッド部材の真空吸着の真空度を適宜設定して行う。例えば、加熱と冷却の工程でハイブリッド部材の真空度を変え、成膜中はハイブリッド部材の真空度を所定の圧力に保つようにする。サセプタの加熱効率や温度制御性等を向上できる。
【0044】
本発明の成膜装置により成膜できる代表的なものとして、GaAs(ガリウムヒ素)、AlGaAs(アルミニウムガリウムヒ素)、InGaAs(インジウムガリウムヒ素)、InP(インジウムリン)、InGaAsP(インジウムガリウムヒ素リン)、GaN(ガリウムナイトライド)、AlN(アルミニウムナイトライド)、InN(インジウムナイトライド)、InGaN(インジウムガリウムナイトライド)等の混晶薄膜があげられる。
【0045】
ここでは、GaNの成膜を一例として説明する。III族原料としてトリメチルガリウム(TMG)、V族原料としてアンモニアを使用し、キャリアガスには水素を使用する。サファイア基板をサセプタにセットし、成膜室内を水素に置換した後、所定の圧力にする。成膜室内の圧力は、典型的には、常圧から1kPa程度に設定する。流速を考えると、3kPa〜40kPa程度の減圧が好ましい。サセプタは高純度カーボンで作られているが、炭化ケイ素やボロンナイトライド等でコーティングするのが好ましい。
【0046】
プロセスガス供給部7よりキャリアガスの水素を供給し、成膜室内を水素雰囲気にする。プロセスガスは基板6の表面に沿って水平に流れ、プロセスガス排出部8から排出される。成膜室を所定の圧力に設定した後、基板6を加熱ヒータ42で1100℃程度に加熱して5〜10分間サーマルクリーニングする。基板6の温度を600℃に下げ、プロセスガス供給部7よりキャリアガスの水素とともにIII族原料のTMGおよびV族原料のアンモニアを供給してGaNの低温バッファ層を成膜する。次いで、基板6を1050℃まで昇温してGaNを成膜する。ここで、基板の昇温から成膜を終了するまでは加熱手段を備えたハイブリッド部材の真空度を0.001Pa程度に保っておく。断熱性が高くなり、加熱効率がよくなる。尚、他のハイブリッド部材の真空度は0.1Paに設定してある。成膜が終了して温度を下げる工程では、加熱手段を備えたハイブリッド部材の真空度を0.1Pa程度にする。放熱がよくなって基板温度の冷却を速くできる。成膜の工程によってハイブリッド部材の真空度を変えてやれば、ハイブリッド部材の熱伝導を調節できるので、基板加熱のエネルギーロスを減少することができる。
【実施例1】
【0047】
石英とアルミニウムからなるハイブリッド部材を作製し、それを使って真空容器を組み立てた。減圧試験および温度の昇降温試験を行って、ハイブリッド部材の耐久性を試験した。
【0048】
ハイブリッド部材は2種類のサイズのものを作製した。1つは真空容器の上下の壁面を構成するハイブリッド部材で、石英板材のサイズが長さ400mm×幅200mm×厚さ5mmで、アルミニウム部材のサイズが長さ440mm×幅240mm×厚さ40mmである。このうちの1つには直線状のハロゲンランプが3本組み込んである。他のサイズのハイブリッド部材は真空容器の側壁を構成するもので、石英板材のサイズが長さ400mm×幅100mm×厚さ5mmで、アルミニウム部材のサイズが長さ440mm×幅140mm×厚さ40mmである。これらのハイブリッド部材を、アルミニウム製の直方体の骨格枠にO−リングをシール部材として張り合わせ、直方体の筒が組み立てられる。開放した両端の一方に窒素ガスの供給ポートを取り付け、他方に真空ポンプに連結する排気ポートを取り付けて真空容器が組み立てられる。真空容器内にカーボンサセプタを設置し、サセプタに挿入した熱電対で温度を測定した。サセプタのサイズは、長さ120mm×幅100mm×高さ15mmである。尚、すべてのハイブリッド部材は、水冷の冷却手段を備えている。
【0049】
真空容器の圧力を0.1Paまで真空引きし、ハロゲンランプの出力を調整してサセプタの温度を1000℃まで昇温した。1000℃の温度に5分間保持した後、室温まで降温した。降温の途中(500℃程度)で窒素ガスを供給して大気圧に戻した。この工程のサイクルを30回繰り返した。石英板材に破損等は見られず、5mmの厚さでも使用上問題ないことか確認できた。尚、ハイブリッド部材の吸着真空度は真空容器の圧力0.1Paを超えないようにしておくことが、石英板材の破損を避けるために重要である。
【実施例2】
【0050】
実施例1で作製した真空容器を使って、サセプタ加熱時のエネルギーロスとハイブリッド部材の吸着真空度の依存性を調べた。真空容器内の圧力が1kPa、サセプタの温度が600℃〜900℃の条件で、ハイブリッド部材の真空度を0.1Paとした場合に、サセプタ温度が平均50℃/分で昇温するようにハロゲンランプの出力を設定した。ハロゲンランプの出力を同じ値に設定して、ハイブリッド部材の真空度が0.001Paの場合の昇温特性を調べた。真空度が0.001Paの場合のサセプタ温度の昇温は平均80℃/分であった。真空度が0.001Paの場合は断熱効果が大きく、サセプタ加熱のエネルギーロスが少なくて済むことが確認できた。効率的にサセプタを加熱でき、電力消費量を低減できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0051】
ハイブリッド部材を使って、基板の加熱効率を向上し、成膜室の内面からの放出ガスを低減できるとともに装置の大型化が容易になる。半導体薄膜の成膜装置等において基板の大口径化や多数枚化に有用である。また、LCD等に使用する大型ガラス基板の処理装置等にも応用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 下面部材
2 上面部材
3 側面部材
4 成膜室
5 サセプタ
6 基板
7 プロセスガス供給部
8 プロセスガス排出部
9 ガイド
10 温度測定子
11,21,31 石英板材
12,22,32 金属部材
13,14,23,24,33,34 シール部材
15,25,35 真空シール枠
16,26 溝
17,27 真空ポート
41,47 加熱室
42,48 加熱ヒータ
43 シール部材
44 溝
45 真空ポート
46,49 連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜室内に設置したサセプタに基板を載置し、前記基板を加熱するとともに前記成膜室内にプロセスガスを導入して前記基板の表面に薄膜を形成する成膜装置であって、
前記成膜室が複数の部材によって構成されており、複数の前記部材のうちの少なくとも1つが石英板材を金属部材に真空吸着して一体化したハイブリッド部材であり、前記ハイブリッド部材の石英板材側が前記成膜室の内面側に配向していることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前期成膜室を構成するハイブリッド部材の少なくとも1つが、前記サセプタを加熱する加熱手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前期成膜室を構成するハイブリッド部材の少なくとも1つが、該ハイブリッド部材自身を加熱する加熱手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記石英板材の真空吸着領域が複数の区画に区切られ、該区画が互いに独立に真空引きされることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記金属部材の表面に、深さが0.1mmから1.0mm、幅が2mmから15mmの蛇行する溝を設けることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−151304(P2011−151304A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13191(P2010−13191)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(504370302)株式会社アイ・アール (8)
【Fターム(参考)】