ハイブリッド電気自動車の制御装置
【課題】良好な燃費性能を維持しつつ、電動機の温度上昇を防止することが可能なハイブリッド電気自動車の制御装置を提供する。
【解決手段】ハイブリッド電気自動車(1)は、内燃機関(2)と電動機(4)の動力で走行し、制御装置(26)によって車速が設定速度VSに維持されるように定速走行制御されている。制御装置(26)は特に、勾配情報を取得する勾配情報取得手段(17)と、走行路面が降坂である場合に、第1の制動力P_req_r、第2の制動力P_soc_r及び第3の制動力P_maxのうち、最小の制動力が電動機(4)から出力されるように制御する制御手段(26)とを備える。
【解決手段】ハイブリッド電気自動車(1)は、内燃機関(2)と電動機(4)の動力で走行し、制御装置(26)によって車速が設定速度VSに維持されるように定速走行制御されている。制御装置(26)は特に、勾配情報を取得する勾配情報取得手段(17)と、走行路面が降坂である場合に、第1の制動力P_req_r、第2の制動力P_soc_r及び第3の制動力P_maxのうち、最小の制動力が電動機(4)から出力されるように制御する制御手段(26)とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関とバッテリに蓄えられた電力を動力源として力行する電動機との少なくとも一方から出力される動力で走行するハイブリッド電気自動車に搭載され、走行速度を予め設定された設定速度に維持するように定速走行制御を行うハイブリッド電気自動車の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関、及び、バッテリに蓄えられた電力で動作可能な電動機(モータ)の少なくとも一方を動力源として走行可能なハイブリッド電気自動車が注目されている。ハイブリッド電気自動車では、減速時に電動機を回生制御させて発電し、得られた電力をバッテリに充電して蓄える。そして、力行時に当該充電した電力を用いて電動機を駆動させることにより、内燃機関の燃料消費量を削減し、燃費性能の改善を図っている。
【0003】
ハイブリッド電気自動車などに用いられるモータは、高負荷作動時などにコイル温度が規定値を超えて上昇した場合、モータ保護のために最大トルクを制限し、発熱を抑制するための制御が広く実施されている。また、特許文献1では、勾配情報を取得するための勾配情報取得手段の一種であるナビゲーション装置を利用して、勾配情報を含むGPS信号を受信することにより走行路面を把握している。そして、把握した走行路面に基づいて走行時のモータの温度変化を事前に予測し、温度が規定値を超えると予測される場合には、モータの冷却水路に予め冷却水を循環させることでモータコイルの温度上昇を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−324613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1では、モータ温度上昇に備えて、冷却水を冷却するためのラジエータや、冷却水を循環させるための循環ポンプ等を駆動させる必要があるために、それらの駆動損失が生じる。その結果、ハイブリッド電気自動車における内燃機関の燃料消費量の削減率が低下してしまい、燃費性能が悪化してしまうという問題点がある。また、特許文献1ではモータの発熱自体を抑制するための対策が特になされていないため、ラジエータなどの冷却手段が大型化してしまうという問題点も有している。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、良好な燃費性能を維持しつつ、電動機の過度な温度上昇を防止することが可能なハイブリッド電気自動車の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るハイブリッド電気自動車の制御装置は上記課題を解決するために、内燃機関とバッテリに蓄えられた電力を動力源として力行する電動機との少なくとも一方から出力される動力で走行するハイブリッド電気自動車に搭載され、走行速度を予め設定された設定速度に維持するように定速走行制御を行うハイブリッド電気自動車の制御装置であって、走行路面の平均勾配及び勾配継続距離を含む勾配情報を取得する勾配情報取得手段と、前記取得した勾配情報に基づいて前記走行路面が降坂であると判定された場合に、走行速度を前記設定速度に維持するために要求される第1の制動力、降坂開始地点から降坂終了地点までに前記バッテリの充電量が上限値に達するために要求される第2の制動力、及び、前記電動機が出力可能な最大制動力である第3の制動力のうち、最小の制動力が前記電動機から出力されるように前記電動機を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、降坂走行時に電動機から出力される制動力を第1の制動力から第3の制動力のうち最小のものに設定することにより、電動機から出力される制動力を抑制し、電動機の温度上昇を軽減することができる。このような温度上昇の抑制は専ら電動機の出力制御によって実現でき、上記特許文献1のような冷却水を冷却するためのラジエータや、冷却水を循環させるための循環ポンプ等の駆動損失がないため、燃費性能を良好に確保することができる。
【0009】
この場合、前記制御手段は、前記電動機から出力される制動力が前記第1の制動力より小さい場合に、エンジンブレーキをかけることによって前記設定速度が維持されるように前記内燃機関を制御するとよい。本態様では、電動機による制動力が走行速度を予め設定された設定速度に維持するために要求される第1の制動力に満たない場合には、エンジンブレーキをかけることによって足りない制動力を補てんすることができる。これにより、降坂走行時に車両が加速することによって走行速度が設定速度から乖離することがないように、走行速度を維持することができる。
【0010】
また、前記制御手段は、前記取得した勾配情報に基づいて前記走行路面が登坂であると判定された場合に、走行速度を前記設定速度に維持するために要求される第1の駆動力、降坂開始地点から降坂終了地点までに前記バッテリの充電量が下限値に達するために要求される第2の駆動力、及び、前記電動機が出力可能な最大駆動力である第3の駆動力のうち、最小の駆動力が前記電動機から出力されるように前記電動機を制御するとよい。この態様によれば、登坂走行時に電動機から出力される駆動力を第1の駆動力から第3の駆動力のうち最小のものに設定することにより、電動機から出力される駆動力を抑制し、電動機の温度上昇を軽減することができる。このような温度上昇の抑制は専ら電動機の出力制御によって実現でき、上記特許文献1のような冷却水を冷却するためのラジエータや、冷却水を循環させるための循環ポンプ等の駆動損失がないため、燃費性能を良好に確保することができる。
【0011】
この場合、前記制御手段は、前記電動機から出力される駆動力が前記第1の駆動力より小さい場合に、前記内燃機関から出力される駆動力によって前記設定速度が維持されるように前記内燃機関を制御するとよい。この態様では、電動機による駆動力が走行速度を予め設定された設定速度に維持するために要求される第1の駆動力に満たない場合には、内燃機関の出力によって足りない駆動力を補てんすることができる。これにより、登坂走行時に車両が減速することによって走行速度が設定速度から乖離することがないように、走行速度を維持することができる。
【0012】
好ましくは、前記電動機を冷却するための冷却手段を更に備え、
前記制御手段は、前記電動機の出力に基づいて降坂終了地点又は登坂終了地点における前記電動機の温度を予測し、該予測した温度が所定温度値より高い場合に前記冷却手段を作動させるとよい。この場合、上述したように電動機の温度上昇を抑制した場合であっても、降坂終了地点又は登坂終了地点における電動機の予測温度が高温に達してしまう場合には、冷却手段を作動させることによって電動機の冷却を行うことができる。本発明では、このように冷却手段を設けた場合であっても、その前提として上述のように電動機を制御することによって、電動機における発熱量が予め抑制されているので、冷却手段を小型化することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、降坂走行時に電動機から出力される制動力を第1の制動力から第3の制動力のうち最小のものに設定することにより、電動機から出力される制動力を抑制し、電動機の温度上昇を軽減することができる。このような温度上昇の抑制は専ら電動機の出力制御によって実現でき、上記特許文献1のような冷却水を冷却するためのラジエータや、冷却水を循環させるための循環ポンプ等の駆動損失がないため、燃費性能を良好に確保することができる。
【0014】
また、登坂走行時に電動機から出力される駆動力を第1の駆動力から第3の駆動力のうち最小のものに設定することにより、電動機から出力される駆動力を抑制し、電動機の温度上昇を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るハイブリッド電気自動車の全体構成を概念的に示すブロック図である。
【図2】本発明に係るハイブリッド電気自動車が備えるモータ用の冷却システムの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明に係るハイブリッド電気自動車が下り勾配を有する走行路面を走行する様子を模式的に示す模式図である。
【図4】本発明に係るハイブリッド電気自動車が下り勾配を有する走行路面を走行する際に実行される制御内容を示すフローチャート図である。
【図5】モータの制動力の設定方法を示すグラフ図である。
【図6】本発明に係るハイブリッド電気自動車が下り勾配を有する走行路面を走行する際のモータの温度推移を示すグラフ図である。
【図7】本発明に係るハイブリッド電気自動車が下り勾配を有する走行路面を走行する際のモータの積算熱量の推移を示すグラフ図である。
【図8】本発明に係るハイブリッド電気自動車が上り勾配を有する走行路面を走行する様子を模式的に示す模式図である。
【図9】本発明に係るハイブリッド電気自動車が上り勾配を有する走行路面を走行する際に実行される制御内容を示すフローチャート図である。
【図10】モータ4の駆動力の設定方法を示すグラフ図である。
【図11】本発明に係るハイブリッド電気自動車におけるモータの出力、温度、バッテリのSOC、走行路面の標高の推移を併せて示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0017】
まず、図1を参照して、本発明に係るハイブリッド電気自動車1の全体構成について説明する。ここに図1は、本発明に係るハイブリッド電気自動車1の全体構成を概念的に示すブロック図である。
【0018】
ハイブリッド電気自動車1はパラレル式ハイブリッド電気自動車であり、ディーゼルエンジン2(以下、「エンジン2」と称する)の出力軸にクラッチ3の入力軸が連結されており、クラッチ3の出力軸にモータ4の回転軸を介して変速機5の入力軸が連結されている。変速機5の出力軸には、プロペラシャフト6、差動装置7及び駆動軸8を介して左右の駆動輪9が接続されている。
【0019】
エンジン2は、ハイブリッド電気自動車1の動力源の一つとして機能する内燃機関である。エンジン2はディーゼルエンジンであり、例えば燃焼室において空気を高温圧縮し燃料を噴射することで、自然発火を利用した燃焼による爆発力によって生じるピストンの往復運動を出力軸の回転運動に変換することが可能に構成されている。
【0020】
クラッチ3は、エンジン2の出力軸とモータ4の回転軸との間に設けられており、これらの機械的な接続状態を切り替え可能に構成された動力伝達機構である。クラッチ3が接続されている場合、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸に機械的に接続されるため、駆動輪9はエンジン2の出力軸及びモータ4の回転軸の双方に接続されることとなる。一方、クラッチ3が切断されている場合、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸と機械的に切断されるため、駆動輪9にはモータ4の回転軸のみが変速機5を介して機械的に接続されることとなる。
【0021】
モータ4は、力行時にはバッテリ11に蓄えられた電力を用いて力行駆動することによりハイブリッド電気自動車1の動力源の一つとして機能すると共に、回生時にはバッテリ11を充電するための電力を発電する発電機として機能する電動機である。
【0022】
ここで、モータ4には、高負荷作動時などにコイル温度が規定値を超えて上昇した場合に作動する冷却システム20が備えられている。図2は本発明に係るハイブリッド電気自動車1が備えるモータ4用の冷却システム20の構成を示すブロック図である。
【0023】
冷却システム20は、冷却水が流れる冷却配管21、冷却配管21に冷却水を循環させるための循環ポンプ22、モータ4及びインバータ10によって加熱された冷却水を冷却するためのラジエータ23、ラジエータ23の冷却効率を向上させるための送風ファン24を含んでなる。循環ポンプ22及び送風ファン24の駆動電力は、エンジン2で駆動されるオルタネータ(不図示)又はバッテリ11からインバータ10を介して供給される。
【0024】
再び図1に戻って、変速機5は、エンジン2及びモータ4から出力される動力を変換し、プロペラシャフト6、差動装置7及び駆動軸8を介して左右の駆動輪9に伝達する変速機である。尚、変速機5の変速比は、段階的に可変であってもよいし、連続的に可変であってもよい。
【0025】
バッテリ11は、モータ4を力行するための電力供給源として機能する、充電可能な蓄電池である。バッテリ11には直流電力が蓄えられており、当該直流電力はインバータ10によって交流変換された後、モータ4に供給される。一方、モータ4の回生時に発電された電力は、インバータ10によって直流変換された後、バッテリ11に供給されることによって充電される。
【0026】
クラッチ3が接続状態にある場合、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸と機械的に接続されるため、駆動輪9はエンジン2の出力軸及びモータ4の回転軸の双方と接続される。この場合、モータ4の力行時には、駆動輪9にはエンジン2の出力トルクとモータ4の出力トルクの双方が変速機5を介して伝達される。即ち、駆動輪9を駆動させるためのトルクの一部はエンジン2から供給されると共に、残りはモータ4から供給される。また、走行中にバッテリ11の充電量が少なくなった場合には、エンジン2の出力トルクの一部を用いて駆動輪9を駆動しつつ、エンジン2の出力トルクの残りを用いてモータ4を回生駆動させることにより、バッテリ11を充電することもできる。一方、ハイブリッド電気自動車1の制動時には、モータ4を回生駆動することによって発電機として機能させ、バッテリ11を充電することもできる。
【0027】
クラッチが切断されている場合(即ち、接続状態にない場合)には、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸と機械的に切断され、駆動輪9にはモータ4の回転軸のみが変速機5を介して機械的に接続される。この場合、モータ4の力行時には、駆動輪9にエンジン2の出力トルクは伝達されず、モータ4の出力トルクのみが伝達される。即ち、ハイブリッド電気自動車1の走行は、専ら、バッテリ11に蓄えられた電力を用いてモータ4を駆動することによって行われる。一方、ハイブリッド電気自動車1の制動時には、モータ4を回生駆動することによって発電機として機能させ、バッテリ11を充電することができる。
【0028】
バッテリ充電量検出手段15は、例えばバッテリ11に印加される電流及び電圧をモニタするバッテリ電流センサやバッテリ電圧センサからなり、バッテリ11の充電量(SOC)を検出可能な検出手段である。また、車速センサ16はハイブリッド電気自動車1の走行速度を検出するためのセンサたる走行速度検出手段である。また、ナビゲーション装置17はハイブリッド電気自動車の位置情報及び走行路面の勾配情報(位置情報)としてGPS信号をGPS通信衛星から受信するための勾配情報取得手段である。
【0029】
車両ECU26は、エンジンECU27、インバータECU28及びバッテリECU29、並びにバッテリ充電量検出手段15、車速センサ16及びナビゲーション装置17などから取得した各種情報に基づいて、ハイブリッド電気自動車1の動作全体を制御可能に構成された電子制御ユニットである。具体的には、車両ECU26は、エンジンECU27、インバータECU28及びバッテリECU29に制御信号を送受信することによって、エンジン2、クラッチ3、モータ4及び変速機5をはじめとするハイブリッド電気自動車1を構成する各部位の動作状態を制御する。
【0030】
エンジンECU27は、エンジン2の動作に必要な各種制御を行うための電子制御ユニットであり、例えば、車両ECU26によって設定されたエンジン2から出力すべきトルクを出力可能なようにエンジン2における燃料の噴射量や噴射タイミングなどを制御する。
【0031】
インバータECU28は、インバータ10の動作に必要な各種制御を行うための電子制御ユニットであり、例えば、車両ECU26によって設定されたモータ4から出力すべきトルクを出力可能なようにインバータ10を制御することにより、モータ4を力行又は回生駆動するように制御する。
【0032】
バッテリECU29は、バッテリ充電量検出手段15からの情報を、車両ECU26を介して取得することにより、バッテリ11の充電量を求め、当該求めたSOCを車両ECU26に送信する。
【0033】
上述の車両ECU26、エンジンECU27、インバータECU28及びバッテリECU29は、それぞれCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備えて構成される電子制御ユニットであり、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する各種制御を実行することが可能に構成されている。これらの各種の制御の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではない。
【0034】
続いて、以上のように構成されたハイブリッド電気自動車1の具体的な動作について説明する。ここでハイブリッド電気自動車1は、走行速度Vがドライバーによって予め設定された設定速度Vsに維持されるように定速走行制御(いわゆるオートクルーズ制御)下におかれている。
【0035】
まず図3及び図4を参照して、ハイブリッド電気自動車1の走行路面が下り勾配を有しており、走行速度Vをモータ4の回生制動力によって設定速度Vsに維持する場合に実行される制御内容について説明する。図3は本発明に係るハイブリッド電気自動車1が下り勾配を有する走行路面を走行する様子を模式的に示す模式図であり、図4は、本発明に係るハイブリッド電気自動車1が下り勾配を有する走行路面を走行する際に実行される制御内容を示すフローチャート図である。
【0036】
図3に示すように、ハイブリッド電気自動車1は降坂開始地点Aから降坂終了地点Bにかけて続く下り勾配を有する走行路面を走行しており、その走行速度Vは定速走行制御によって設定速度Vsに維持されている。
【0037】
図4に示すように、まず車両ECU26は、ドライバーによって指定された設定速度Vs、及び、ナビゲーション装置17からGPS信号を取得することによって走行路面の勾配情報を取得する(ステップS101&S102)。続いて、車両ECU26は、前記取得した設定速度Vs及び勾配情報に基づいて、ハイブリッド電気自動車1の走行速度Vを設定速度Vsに維持するために必要な第1の制動力であるP_req_rを算出する(ステップS103)。続いて、車両ECU26は、バッテリ充電量検出手段15から検出したバッテリ11のSOC及び勾配情報に基づいて、降坂開始地点Aから降坂終了地点Bまでに前記バッテリが満充電となるために要求される第2の制動力であるP_soc_rを算出する(ステップS104)。続いて、車両ECU26は、メモリ等の記憶手段(図不示)に予め記憶されたモータ4の最大制動力である第3の制動力たるP_maxを取得する(ステップS105)。
【0038】
続いて、車両ECU26はステップS106からS108においてP_req_r、P_soc_r、P_maxの大小を比較し、それらのうち最小のものをモータ4の制動力P_mot_rに設定する(ステップS109乃至S111)。ここで図5を参照して、モータ4の制動力P_mot_rの設定方法について、具体例を用いて詳細に説明する。図5はモータ4の制動力P_mot_rの設定方法を示すグラフ図である。
【0039】
図5(a)に示すように、P_soc_r、P_req_r、P_maxの順で制動力が大きくなる場合、P_mot_rを仮にP_soc_rより大きなP_req_rに設定すると、降坂走行途中でバッテリ11のSOCが上限値に達してしまい、それ以上充電することができなくなってしまう。つまり、モータ4が高負荷作動状態となり、モータ4が過度に発熱してしまう。この場合、モータ4の制動力P_mot_rとして最小値であるP_soc_rに設定することによって、モータ4の温度上昇を抑制することができる。このような温度上昇の抑制は専らモータ4の制動力制御によって実現できるため、冷却水を冷却するためのラジエータや、冷却水を循環させるための循環ポンプ等の駆動損失がなく、良好な燃費性能を得ることができる。また、この時、モータ4の制動力P_mot_rはP_soc_rに設定されているので、バッテリ11のSOCは、ハイブリッド電気自動車1が降坂終了地点Bに到達するタイミングで上限値に達するように制御される。その結果、バッテリ11の充電効率も良好に確保することができる。
【0040】
尚、図5(a)の場合、モータ4の制動力P_mot_rが走行速度Vを設定速度Vsに維持するための第1の制動力P_req_rより小さく設定されているため、エンジンブレーキ又はサービスブレーキからの制動力を補助的に加えることによって、設定速度Vsを維持するとよい。これにより、降坂走行時にハイブリッド電気自動車1が加速することによって走行速度Vが設定速度Vsから乖離することを防止することができる。
【0041】
図5(b)に示すように、P_req_r、P_max、P_soc_rの順で制動力が大きくなる場合、P_soc_rはP_maxを超えてしまっているため、P_soc_rは選択できない。また、仮にモータ4の制動力P_mot_rを仮にP_req_rより大きなP_maxに設定すると、必要以上に走行速度Vが減速してしまい、定速走行状態を維持できなくなってしまう(即ち、定速走行制御におけるドライバビリティが悪化してしまう)。この場合、モータ4の制動力P_mot_rをP_req_rに設定することによって、ドライバビリティを確保可能な範囲内で、モータ4を回生駆動させてバッテリ11の充電量の回復を図ることができる。
【0042】
図5(c)に示すように、P_max、P_req_r、P_soc_rの順で制動力が大きくなる場合、P_req_r、P_soc_rは共にP_maxを超えてしまっているため選択できない。その結果、モータ4の制動力P_mot_rとしてP_maxが選択される。この場合、モータ4の制動力P_mot_rは第1の制動力P_req_rより小さいため、図5(a)の場合と同様に、エンジンブレーキ又はサービスブレーキからの制動力を補助的に加えることによって、設定車速Vsを維持するとよい。また、P_mot_rがP_soc_rより小さく設定されているため、ハイブリッド電気自動車1が降坂終了地点Bに到達した際にバッテリ11のSOCを上限値まで回復することができないが、ドライバビリティを悪化させない範囲内でバッテリ11の充電量の回復を図ることができる。
【0043】
図5(d)に示すように、P_soc_r、P_max、P_req_rの順で制動力大きくなる場合、P_req_rはP_maxを超えてしまっているため選択できない。また、モータ4の制動力P_mot_rを仮にP_maxに設定すると、降坂走行途中でバッテリ11のSOCが上限値に達してしまい、それ以上充電することができなくなってしまう。つまり、モータ4が高負荷作動状態となり、モータ4が過度に発熱してしまうおそれがある。この場合、モータ4の制動力P_mot_rとして最小値であるP_soc_rを設定することによって、モータ4の温度上昇を抑制することができる。また、この時、モータ4の制動力P_mot_rがP_soc_rに設定されているので、バッテリ11のSOCは、ハイブリッド電気自動車1が降坂終了地点Bに到達するタイミングで上限値に達するように制御される。そのため、バッテリ11の充電効率も良好に確保することができる。
【0044】
尚、図5(d)の場合、図5(a)の場合と同様に、モータ4の制動力P_mot_rが走行速度Vを設定速度Vsに維持するための第1の制動力P_req_rより小さく設定されているため、エンジンブレーキ又はサービスブレーキからの制動力を補助的に加えることによって、設定車速Vsを維持するとよい。これにより、降坂走行時にハイブリッド電気自動車1が加速することによって走行速度Vが設定速度Vsから乖離することがないように、走行速度Vを維持することができる。
【0045】
図5(e)に示すように、P_req_r、P_soc_r、P_maxの順で制動力が大きくなる場合、モータ4の制動力P_mot_rとしてP_req_rが選択される。この場合、定速走行制御における設定速度Vsを維持できるので、ドライバビリティを確保可能な範囲内で、モータ4を回生駆動させてバッテリ11のSOCの回復を図ることができる。
【0046】
図5(f)に示すように、P_max、P_soc_r、P_req_rの順で制動力が大きくなる場合、モータ4の制動力P_mot_rとしてP_maxが選択される。
この場合、P_req_r、P_soc_rが共にP_maxを超えてしまっているため選択できない。その結果、モータ4の制動力P_mot_rとしてP_maxが選択されることとなる。この場合、モータ4の制動力P_mot_rが第1の制動力P_req_rより小さく設定されているため、図5(a)及び(c)の場合と同様に、エンジンブレーキ又はサービスブレーキをモータ4の制動力に加えて補助的にかけることによって、設定速度Vsを維持するとよい。また、P_mot_rがP_soc_rより小さいため、ハイブリッド電気自動車1が降坂終了地点Bに到達した際にバッテリ11のSOCを上限値まで回復することができないが、ドライバビリティを悪化させない範囲内でバッテリ11の充電量の回復を図ることができる。
【0047】
再び図4に戻って、ステップS109からS111にて、モータ4の制動力P_mot_rが設定されると、車両ECU26は当該設定された制動力P_mot_rでモータ4を回生駆動させた状態で、ハイブリッド電気自動車1が降坂終了地点Bに到達した際のモータ4の予測温度T_mot_r_eを算出する(ステップS112)。尚、モータ4の予測温度T_mot_r_eの具体的な算出方法については後述する。
【0048】
続いて車両ECU26は、算出したモータ4の予測温度T_mot_r_eが予め設定されたモータ温度基準値Tcri以下であるか否かを判定する(ステップS113)。ここで、モータ温度基準値Tcriはモータ4を正常に動作可能な温度範囲の上限値を規定する閾値である。T_mot_r_eがTcri以下である場合(ステップS113:YES)、車両ECU26は冷却システム20の送風ファン24を作動させる必要がないとして、送風ファン24をOFFに設定し(ステップS114)、ステップS109からS111において設定された制動力P_mot_rでモータ4を制御する(ステップS115)。
【0049】
一方、T_mot_r_eがTcriより高い場合(ステップS113:NO)、車両ECU26はモータ4の温度がTcriを超過させないための最高出力であるP_mot_tmp、及び、送風ファン24の作動時間であるt_fanを算出する(ステップS116&S117)。尚、P_mot_tmp及びt_fanの算出方法については後述する。
【0050】
続いて車両ECU26は算出したt_fanが、ハイブリッド電気自動車1が降坂終了地点Bに到達するまでに要する時間であるtc以下であるか否かを判定する(ステップS118)。t_fanがtc以下である場合(ステップS118:YES)、車両ECU26は送風ファン24を駆動することによってモータ4を冷却しつつ(ステップS119)、ステップS109からS111にて設定された制動力P_mot_rでモータ4を制御する(ステップS115)。
【0051】
一方、t_fanがtcより長い場合(ステップS118:NO)、制動力P_mot_rをステップS116にて算出したP_mot_tmpに設定し直し(ステップS120)、モータ4の出力を制御する(ステップS115)。
【0052】
ここで図6を参照して、ステップS116におけるモータ4の予測温度T_mot_r_eの算出方法について説明する。図6は本発明に係るハイブリッド電気自動車1が下り勾配を有する走行路面を走行する際のモータ4の温度推移を示すグラフ図である。
【0053】
次式により算出される。
【0054】
から、降坂開始地点Aから降坂終了地点Bに至るまでの間のモータ4の温度上昇は、次式により予測される。
ここで、Cmはモータ熱容量[J/deg]、LABはA−B間距離[km]、VSは設定速度である。そして、ハイブリッド電気自動車1が降坂終了地点Bに到達した際のモータ4の予測温度T_mot_r_eは、次式により算出される。
T_mot_r_e=Tm+ΔTAB (4)
【0055】
続いて図7を参照して、ステップS117における送風ファン24の作動時間t_fanの算出方法について説明する。図7は本発明に係るハイブリッド電気自動車1が下り勾配を有する走行路面を走行する際のモータ4の積算熱量の推移を示すグラフ図である。
【0056】
モータ4の温度がTcriを超過させないための最高出力であるP_mot_tmpは、上記(3)式に(1)(2)式を代入してモータ出力P_mot_r[kW]について解いた式において、ΔTAB=(Tcri―Tm)とすることにより、次式により算出される。
これを用いて、モータ出力P_mot_r[kW]でモータ4を駆動させた場合に、
モータ4の温度がTcriを超過させないために必要な冷却量
また、ラジエータに要求される放熱量は、
である。ここでηradは熱交換機温度効率[%]、Rradは熱交換機熱抵抗[deg/W]、Taは大気温度[deg]である。これにより、送風ファンの動作時間t_fanは次式により算出される。
【0057】
次に、図8及び図9を参照して、ハイブリッド電気自動車1の走行路面が上り勾配を有しており、走行速度Vをモータ4の力行駆動力によって設定速度Vsに維持する場合に実行される制御内容について説明する。図8は本発明に係るハイブリッド電気自動車1が上り勾配を有する走行路面を走行する様子を模式的に示す模式図であり、図9は、本発明に係るハイブリッド電気自動車1が上り勾配を有する走行路面を走行する際に実行される制御内容を示すフローチャート図である。
【0058】
図8に示すように、ハイブリッド電気自動車1は登坂開始地点Cから登坂終了地点Dにかけて続く上り勾配を有する走行路面を走行しており、その走行速度Vは定速走行制御によって設定速度Vsに維持されている。
【0059】
図9に示すように、まず車両ECU26は、ドライバーによって指定された設定速度Vs、及び、GPS受信機17からGPS信号を取得することによって走行路面の勾配情報を取得する(ステップS201&S202)。続いて、車両ECU26は、前記取得した設定速度Vs及び勾配情報に基づいて、ハイブリッド電気自動車1の走行速度Vを設定速度Vsに維持するために必要な第1の駆動力であるP_req_dを算出する(ステップS203)。続いて、車両ECU26は、バッテリ充電量検出手段15から検出したバッテリ11のSOC及び勾配情報に基づいて、登坂開始地点Cから登坂終了地点Dまでに前記バッテリの充電量を使い果たすために要求される第2の駆動力であるP_soc_dを算出する(ステップS204)。続いて、車両ECU26は、メモリ等の記憶手段(図不示)に予め記憶されたモータ4の最大駆動力である第3の駆動力たるP_maxを取得する(ステップS205)。
【0060】
続いて、車両ECU26はステップS206からS208においてP_req_d、P_soc_d、P_maxの大小を比較し、それらのうち最小のものをモータ4の駆動力P_mot_dに設定する(ステップS209乃至S211)。ここで図10を参照して、モータ4の駆動力P_mot_dの設定方法について、具体例を用いて詳細に説明する。図10はモータ4の駆動力P_mot_dの設定方法を示すグラフ図である。
【0061】
図10(a)に示すように、P_soc_d、P_req_d、P_maxの順で駆動力が大きくなる場合、P_mot_dを仮にP_req_dに設定すると、登坂走行途中でバッテリ11のSOCを使い果たしてしまい、それ以上モータ4を力行駆動させることができなくなってしまう。つまり、モータ4が高負荷作動状態となり、モータ4が過度に発熱してしまう。この場合、モータ4の駆動力P_mot_dとして最小値であるP_soc_dに設定することによって、モータ4が高負荷作動状態に陥ることを回避することによってモータ4の温度上昇を抑制することができる。このような温度上昇の抑制は専らモータ4の駆動力制御によって実現できるため、冷却水を冷却するためのラジエータや、冷却水を循環させるための循環ポンプ等の駆動損失がなく、良好な燃費性能を得ることができる。また、この時、モータ4の駆動力P_mot_dがP_soc_dに設定されているので、バッテリ11のSOCは、ハイブリッド電気自動車1が登坂終了地点Dに到達するタイミングで下限値に達するように制御されるので、バッテリ11の充電量の使用効率も良好に確保することができる。
【0062】
尚、図10(a)の場合、モータ4の駆動力P_mot_dが走行速度Vを設定速度Vsに維持するための第1の駆動力P_req_dより小さく設定されているため、エンジン2から駆動力を補助的に加えることによって、設定速度Vsを維持するとよい。これにより、登坂走行時にハイブリッド電気自動車1が減速することによって走行速度Vが設定速度Vsから乖離することがないように、走行速度Vを維持することができる。
【0063】
図10(b)に示すように、P_req_d、P_max、P_soc_dの順で駆動力が大きくなる場合、P_soc_dはP_maxを超えてしまっているため、P_soc_dを選択することはできない。また、仮にモータ4の駆動力P_mot_dを仮にP_maxに設定すると、P_req_dより大きな駆動力が発生してしまい、必要以上に走行速度Vが加速してしまい、定速走行状態を維持できなくなってしまう(即ち、定速走行制御におけるドライバビリティが悪化してしまう)。この場合、モータ4の駆動力P_mot_dをP_req_dに設定することによって、ドライバビリティを確保可能な範囲内で、モータ4を力行駆動させてバッテリ11の充電量の効率的な使用を図ることができる。
【0064】
図10(c)に示すように、P_max、P_req_d、P_soc_dの順で駆動力が大きくなる場合、P_req_d、P_soc_dは共にP_maxを超えてしまっているため、選択することはできない。その結果、モータ4の駆動力P_mot_dとしてP_maxが選択される。この場合、モータ4の駆動力P_mot_dが第1の駆動力P_req_dより小さく設定されているため、図10(a)の場合と同様に、エンジン2からの出力を補助的に加えることによって、設定速度Vsを維持するとよい。また、P_mot_dがP_soc_dより小さく設定されているため、ハイブリッド電気自動車1が登坂終了地点Dに到達した際にバッテリ11のSOCを下限値まで使い果たすことができないが、ドライバビリティを悪化させない範囲内でバッテリ11のSOCの効率的な消費を行うことができる。
【0065】
図10(d)に示すように、P_soc_d、P_max、P_req_dの順で駆動力大きくなる場合、P_req_dはP_maxを超えてしまっているため選択することができない。また、モータ4の駆動力P_mot_dを仮にP_maxに設定すると、登坂走行途中でバッテリ11のSOCが下限値に達してしまい、それ以上消費することができなくなってしまう。つまり、モータ4が高負荷作動状態となり、モータ4が過度に発熱してしまうおそれがある。この場合、モータ4の駆動力P_mot_dとして最小値であるP_soc_dを設定することによって、モータ4が高負荷作動状態に陥ることを回避することによってモータ4の温度上昇を抑制することができる。また、この時、モータ4の駆動力P_mot_dがP_soc_dであるので、バッテリ11のSOCは、ハイブリッド電気自動車1が登坂終了地点Dに到達するタイミングで下限値に達するように制御されるので、バッテリ11のSOCの消費効率も良好に確保することができる。
【0066】
尚、図10(d)の場合、図10(a)の場合と同様に、モータ4の駆動力P_mot_dが走行速度Vを設定速度Vsに維持するための第1の駆動力P_req_dより小さく設定されているため、エンジン2の出力を補助的に加えることによって、設定車速Vsを維持するとよい。これにより、登坂走行時にハイブリッド電気自動車1が減速することによって走行速度Vが設定速度Vsから乖離することがないように、走行速度Vを維持することができる。
【0067】
図10(e)に示すように、P_req_d、P_soc_d、P_maxの順で駆動力が大きくなる場合、モータ4の駆動力P_mot_dとしてP_req_dが選択される。この場合、定速走行制御における設定速度Vsを維持できるので、ドライバビリティを確保可能な範囲内で、モータ4を力行駆動させてバッテリ11のSOCの消費することができる。
【0068】
図10(f)に示すように、P_max、P_soc_d、P_req_dの順で駆動力が大きくなる場合、モータ4の駆動力P_mot_dとしてP_maxが選択される。
この場合、P_req_d、P_soc_dが共にP_maxを超えてしまっているため選択することができない。その結果、モータ4の駆動力P_mot_dとしてP_maxが選択されることとなる。この場合、モータ4の駆動力P_mot_rが第1の駆動力P_req_dより小さく設定されているため、図10(a)及び(c)の場合と同様に、エンジン2の出力を補助的に加えることによって、設定速度Vsを維持するとよい。また、P_mot_dがP_soc_dより小さく設定されるため、ハイブリッド電気自動車1が登坂終了地点Dに到達した際にバッテリ11のSOCを下限値まで消費することができないが、ドライバビリティを悪化させない範囲内でバッテリ11の充電量の消費することができる。
【0069】
再び図9に戻って、ステップS209からS211にて、モータ4の駆動力P_mot_dが設定されると、車両ECU26は当該設定された駆動力P_mot_dでモータ4を力行駆動させた状態で、ハイブリッド電気自動車1が登坂終了地点Dに到達した際のモータ4の予測温度T_mot_d_eを算出する(ステップS212)。尚、モータ4の予測温度T_mot_d_eの算出方法については、上記T_mot_r_eの算出方法と同様である。
【0070】
続いて車両ECU26は、算出したモータ4の予測温度T_mot_d_eが予め設定されたモータ温度基準値Tcri以下であるか否かを判定する(ステップS213)。T_mot_d_eがTcri以下である場合(ステップS213:YES)、車両ECU26は冷却システム20の送風ファン24を作動させる必要がないとして、送風ファン24をOFFに設定し(ステップS214)、ステップS209からS211において設定された駆動力P_mot_dでモータ4を制御する(ステップS215)。
【0071】
一方、T_mot_d_eがTcriより高い場合(ステップS213:NO)、車両ECU26はモータ4の温度がTcriを超過させないための最高出力であるP_mot_tmp、及び、送風ファン24の作動時間であるt_fanを算出する(ステップS216&S217)。
【0072】
続いて車両ECU26は算出したt_fanが、ハイブリッド電気自動車1が登了地点Dに到達するまでに要する時間であるtc以下であるか否かを判定する(ステップS218)。t_fanがtc以下である場合(ステップS218:YES)、車両ECU26は送風ファン24を駆動することによってモータ4を冷却しつつ(ステップS219)、ステップS209からS211にて設定された駆動力P_mot_dでモータ4を制御する(ステップS215)。
【0073】
一方、t_fanがtcより長い場合(ステップS218:NO)、駆動力P_mot_dをステップS216にて算出されたP_mot_tmpに設定し直し(ステップS220)、モータ4の出力を制御する(ステップS215)。
【0074】
次に図11を参照して、本発明に係るハイブリッド電気自動車1におけるモータ4の出力及び温度、バッテリのSOCの推移について説明する。図11は本発明に係るハイブリッド電気自動車1におけるモータ4の出力、温度、バッテリのSOC、走行路面の標高の推移を併せて示すグラフ図である。尚、図11では、参考のために、背景技術で説明したような典型的なモータ4の出力及び温度、バッテリのSOCの推移を一点鎖線で併せて表記している。
【0075】
ハイブリッド電気自動車1は降坂と登坂を繰り返す走行路面を走行している。降坂と登坂では上記説明したように、降坂走行時にはモータ4を回生制動させて制動力を出力する一方で、登坂走行時にはモータ4を力行駆動させて駆動力を出力するように制御が行われる。
【0076】
降坂走行時には、モータ4の制動力は第1の制動力P_req_r、第2の制動力P_soc_r、第3の制動力P_maxのうち最小のものに設定され、且つ、ハイブリッド電気自動車1が降坂終了地点に達するまでの間当該制動力が継続的に出力されるように、モータ4が制御される。一方、登坂走行時においても、モータ4の駆動力は第1の駆動力P_req_d、第2の駆動力P_soc_d、第3の駆動力P_maxのうち最小のものに設定され、且つ、ハイブリッド電気自動車1が登坂終了地点に達するまでの間当該駆動力が継続的に出力されるように、モータ4が制御される。その結果、走行中のモータ4の温度上昇は図11に示すように、所定の温度値に収束するように抑制される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、内燃機関とバッテリに蓄えられた電力を動力源として力行する電動機との少なくとも一方から出力される動力で走行するハイブリッド電気自動車において、走行速度を予め設定された設定速度に維持するように定速走行制御を行うハイブリッド電気自動車の制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 ハイブリッド電気自動車
2 エンジン
3 クラッチ
4 モータ
5 変速機
9 駆動輪
11 バッテリ
15 充電量検出手段
16 車速センサ
17 ナビゲーション装置
20 冷却システム
21 冷却配管
22 循環ポンプ
23 ラジエータ
24 送風ファン
26 車両ECU
27 エンジンECU
28 インバータECU
29 バッテリECU
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関とバッテリに蓄えられた電力を動力源として力行する電動機との少なくとも一方から出力される動力で走行するハイブリッド電気自動車に搭載され、走行速度を予め設定された設定速度に維持するように定速走行制御を行うハイブリッド電気自動車の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関、及び、バッテリに蓄えられた電力で動作可能な電動機(モータ)の少なくとも一方を動力源として走行可能なハイブリッド電気自動車が注目されている。ハイブリッド電気自動車では、減速時に電動機を回生制御させて発電し、得られた電力をバッテリに充電して蓄える。そして、力行時に当該充電した電力を用いて電動機を駆動させることにより、内燃機関の燃料消費量を削減し、燃費性能の改善を図っている。
【0003】
ハイブリッド電気自動車などに用いられるモータは、高負荷作動時などにコイル温度が規定値を超えて上昇した場合、モータ保護のために最大トルクを制限し、発熱を抑制するための制御が広く実施されている。また、特許文献1では、勾配情報を取得するための勾配情報取得手段の一種であるナビゲーション装置を利用して、勾配情報を含むGPS信号を受信することにより走行路面を把握している。そして、把握した走行路面に基づいて走行時のモータの温度変化を事前に予測し、温度が規定値を超えると予測される場合には、モータの冷却水路に予め冷却水を循環させることでモータコイルの温度上昇を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−324613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1では、モータ温度上昇に備えて、冷却水を冷却するためのラジエータや、冷却水を循環させるための循環ポンプ等を駆動させる必要があるために、それらの駆動損失が生じる。その結果、ハイブリッド電気自動車における内燃機関の燃料消費量の削減率が低下してしまい、燃費性能が悪化してしまうという問題点がある。また、特許文献1ではモータの発熱自体を抑制するための対策が特になされていないため、ラジエータなどの冷却手段が大型化してしまうという問題点も有している。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、良好な燃費性能を維持しつつ、電動機の過度な温度上昇を防止することが可能なハイブリッド電気自動車の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るハイブリッド電気自動車の制御装置は上記課題を解決するために、内燃機関とバッテリに蓄えられた電力を動力源として力行する電動機との少なくとも一方から出力される動力で走行するハイブリッド電気自動車に搭載され、走行速度を予め設定された設定速度に維持するように定速走行制御を行うハイブリッド電気自動車の制御装置であって、走行路面の平均勾配及び勾配継続距離を含む勾配情報を取得する勾配情報取得手段と、前記取得した勾配情報に基づいて前記走行路面が降坂であると判定された場合に、走行速度を前記設定速度に維持するために要求される第1の制動力、降坂開始地点から降坂終了地点までに前記バッテリの充電量が上限値に達するために要求される第2の制動力、及び、前記電動機が出力可能な最大制動力である第3の制動力のうち、最小の制動力が前記電動機から出力されるように前記電動機を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、降坂走行時に電動機から出力される制動力を第1の制動力から第3の制動力のうち最小のものに設定することにより、電動機から出力される制動力を抑制し、電動機の温度上昇を軽減することができる。このような温度上昇の抑制は専ら電動機の出力制御によって実現でき、上記特許文献1のような冷却水を冷却するためのラジエータや、冷却水を循環させるための循環ポンプ等の駆動損失がないため、燃費性能を良好に確保することができる。
【0009】
この場合、前記制御手段は、前記電動機から出力される制動力が前記第1の制動力より小さい場合に、エンジンブレーキをかけることによって前記設定速度が維持されるように前記内燃機関を制御するとよい。本態様では、電動機による制動力が走行速度を予め設定された設定速度に維持するために要求される第1の制動力に満たない場合には、エンジンブレーキをかけることによって足りない制動力を補てんすることができる。これにより、降坂走行時に車両が加速することによって走行速度が設定速度から乖離することがないように、走行速度を維持することができる。
【0010】
また、前記制御手段は、前記取得した勾配情報に基づいて前記走行路面が登坂であると判定された場合に、走行速度を前記設定速度に維持するために要求される第1の駆動力、降坂開始地点から降坂終了地点までに前記バッテリの充電量が下限値に達するために要求される第2の駆動力、及び、前記電動機が出力可能な最大駆動力である第3の駆動力のうち、最小の駆動力が前記電動機から出力されるように前記電動機を制御するとよい。この態様によれば、登坂走行時に電動機から出力される駆動力を第1の駆動力から第3の駆動力のうち最小のものに設定することにより、電動機から出力される駆動力を抑制し、電動機の温度上昇を軽減することができる。このような温度上昇の抑制は専ら電動機の出力制御によって実現でき、上記特許文献1のような冷却水を冷却するためのラジエータや、冷却水を循環させるための循環ポンプ等の駆動損失がないため、燃費性能を良好に確保することができる。
【0011】
この場合、前記制御手段は、前記電動機から出力される駆動力が前記第1の駆動力より小さい場合に、前記内燃機関から出力される駆動力によって前記設定速度が維持されるように前記内燃機関を制御するとよい。この態様では、電動機による駆動力が走行速度を予め設定された設定速度に維持するために要求される第1の駆動力に満たない場合には、内燃機関の出力によって足りない駆動力を補てんすることができる。これにより、登坂走行時に車両が減速することによって走行速度が設定速度から乖離することがないように、走行速度を維持することができる。
【0012】
好ましくは、前記電動機を冷却するための冷却手段を更に備え、
前記制御手段は、前記電動機の出力に基づいて降坂終了地点又は登坂終了地点における前記電動機の温度を予測し、該予測した温度が所定温度値より高い場合に前記冷却手段を作動させるとよい。この場合、上述したように電動機の温度上昇を抑制した場合であっても、降坂終了地点又は登坂終了地点における電動機の予測温度が高温に達してしまう場合には、冷却手段を作動させることによって電動機の冷却を行うことができる。本発明では、このように冷却手段を設けた場合であっても、その前提として上述のように電動機を制御することによって、電動機における発熱量が予め抑制されているので、冷却手段を小型化することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、降坂走行時に電動機から出力される制動力を第1の制動力から第3の制動力のうち最小のものに設定することにより、電動機から出力される制動力を抑制し、電動機の温度上昇を軽減することができる。このような温度上昇の抑制は専ら電動機の出力制御によって実現でき、上記特許文献1のような冷却水を冷却するためのラジエータや、冷却水を循環させるための循環ポンプ等の駆動損失がないため、燃費性能を良好に確保することができる。
【0014】
また、登坂走行時に電動機から出力される駆動力を第1の駆動力から第3の駆動力のうち最小のものに設定することにより、電動機から出力される駆動力を抑制し、電動機の温度上昇を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るハイブリッド電気自動車の全体構成を概念的に示すブロック図である。
【図2】本発明に係るハイブリッド電気自動車が備えるモータ用の冷却システムの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明に係るハイブリッド電気自動車が下り勾配を有する走行路面を走行する様子を模式的に示す模式図である。
【図4】本発明に係るハイブリッド電気自動車が下り勾配を有する走行路面を走行する際に実行される制御内容を示すフローチャート図である。
【図5】モータの制動力の設定方法を示すグラフ図である。
【図6】本発明に係るハイブリッド電気自動車が下り勾配を有する走行路面を走行する際のモータの温度推移を示すグラフ図である。
【図7】本発明に係るハイブリッド電気自動車が下り勾配を有する走行路面を走行する際のモータの積算熱量の推移を示すグラフ図である。
【図8】本発明に係るハイブリッド電気自動車が上り勾配を有する走行路面を走行する様子を模式的に示す模式図である。
【図9】本発明に係るハイブリッド電気自動車が上り勾配を有する走行路面を走行する際に実行される制御内容を示すフローチャート図である。
【図10】モータ4の駆動力の設定方法を示すグラフ図である。
【図11】本発明に係るハイブリッド電気自動車におけるモータの出力、温度、バッテリのSOC、走行路面の標高の推移を併せて示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0017】
まず、図1を参照して、本発明に係るハイブリッド電気自動車1の全体構成について説明する。ここに図1は、本発明に係るハイブリッド電気自動車1の全体構成を概念的に示すブロック図である。
【0018】
ハイブリッド電気自動車1はパラレル式ハイブリッド電気自動車であり、ディーゼルエンジン2(以下、「エンジン2」と称する)の出力軸にクラッチ3の入力軸が連結されており、クラッチ3の出力軸にモータ4の回転軸を介して変速機5の入力軸が連結されている。変速機5の出力軸には、プロペラシャフト6、差動装置7及び駆動軸8を介して左右の駆動輪9が接続されている。
【0019】
エンジン2は、ハイブリッド電気自動車1の動力源の一つとして機能する内燃機関である。エンジン2はディーゼルエンジンであり、例えば燃焼室において空気を高温圧縮し燃料を噴射することで、自然発火を利用した燃焼による爆発力によって生じるピストンの往復運動を出力軸の回転運動に変換することが可能に構成されている。
【0020】
クラッチ3は、エンジン2の出力軸とモータ4の回転軸との間に設けられており、これらの機械的な接続状態を切り替え可能に構成された動力伝達機構である。クラッチ3が接続されている場合、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸に機械的に接続されるため、駆動輪9はエンジン2の出力軸及びモータ4の回転軸の双方に接続されることとなる。一方、クラッチ3が切断されている場合、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸と機械的に切断されるため、駆動輪9にはモータ4の回転軸のみが変速機5を介して機械的に接続されることとなる。
【0021】
モータ4は、力行時にはバッテリ11に蓄えられた電力を用いて力行駆動することによりハイブリッド電気自動車1の動力源の一つとして機能すると共に、回生時にはバッテリ11を充電するための電力を発電する発電機として機能する電動機である。
【0022】
ここで、モータ4には、高負荷作動時などにコイル温度が規定値を超えて上昇した場合に作動する冷却システム20が備えられている。図2は本発明に係るハイブリッド電気自動車1が備えるモータ4用の冷却システム20の構成を示すブロック図である。
【0023】
冷却システム20は、冷却水が流れる冷却配管21、冷却配管21に冷却水を循環させるための循環ポンプ22、モータ4及びインバータ10によって加熱された冷却水を冷却するためのラジエータ23、ラジエータ23の冷却効率を向上させるための送風ファン24を含んでなる。循環ポンプ22及び送風ファン24の駆動電力は、エンジン2で駆動されるオルタネータ(不図示)又はバッテリ11からインバータ10を介して供給される。
【0024】
再び図1に戻って、変速機5は、エンジン2及びモータ4から出力される動力を変換し、プロペラシャフト6、差動装置7及び駆動軸8を介して左右の駆動輪9に伝達する変速機である。尚、変速機5の変速比は、段階的に可変であってもよいし、連続的に可変であってもよい。
【0025】
バッテリ11は、モータ4を力行するための電力供給源として機能する、充電可能な蓄電池である。バッテリ11には直流電力が蓄えられており、当該直流電力はインバータ10によって交流変換された後、モータ4に供給される。一方、モータ4の回生時に発電された電力は、インバータ10によって直流変換された後、バッテリ11に供給されることによって充電される。
【0026】
クラッチ3が接続状態にある場合、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸と機械的に接続されるため、駆動輪9はエンジン2の出力軸及びモータ4の回転軸の双方と接続される。この場合、モータ4の力行時には、駆動輪9にはエンジン2の出力トルクとモータ4の出力トルクの双方が変速機5を介して伝達される。即ち、駆動輪9を駆動させるためのトルクの一部はエンジン2から供給されると共に、残りはモータ4から供給される。また、走行中にバッテリ11の充電量が少なくなった場合には、エンジン2の出力トルクの一部を用いて駆動輪9を駆動しつつ、エンジン2の出力トルクの残りを用いてモータ4を回生駆動させることにより、バッテリ11を充電することもできる。一方、ハイブリッド電気自動車1の制動時には、モータ4を回生駆動することによって発電機として機能させ、バッテリ11を充電することもできる。
【0027】
クラッチが切断されている場合(即ち、接続状態にない場合)には、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸と機械的に切断され、駆動輪9にはモータ4の回転軸のみが変速機5を介して機械的に接続される。この場合、モータ4の力行時には、駆動輪9にエンジン2の出力トルクは伝達されず、モータ4の出力トルクのみが伝達される。即ち、ハイブリッド電気自動車1の走行は、専ら、バッテリ11に蓄えられた電力を用いてモータ4を駆動することによって行われる。一方、ハイブリッド電気自動車1の制動時には、モータ4を回生駆動することによって発電機として機能させ、バッテリ11を充電することができる。
【0028】
バッテリ充電量検出手段15は、例えばバッテリ11に印加される電流及び電圧をモニタするバッテリ電流センサやバッテリ電圧センサからなり、バッテリ11の充電量(SOC)を検出可能な検出手段である。また、車速センサ16はハイブリッド電気自動車1の走行速度を検出するためのセンサたる走行速度検出手段である。また、ナビゲーション装置17はハイブリッド電気自動車の位置情報及び走行路面の勾配情報(位置情報)としてGPS信号をGPS通信衛星から受信するための勾配情報取得手段である。
【0029】
車両ECU26は、エンジンECU27、インバータECU28及びバッテリECU29、並びにバッテリ充電量検出手段15、車速センサ16及びナビゲーション装置17などから取得した各種情報に基づいて、ハイブリッド電気自動車1の動作全体を制御可能に構成された電子制御ユニットである。具体的には、車両ECU26は、エンジンECU27、インバータECU28及びバッテリECU29に制御信号を送受信することによって、エンジン2、クラッチ3、モータ4及び変速機5をはじめとするハイブリッド電気自動車1を構成する各部位の動作状態を制御する。
【0030】
エンジンECU27は、エンジン2の動作に必要な各種制御を行うための電子制御ユニットであり、例えば、車両ECU26によって設定されたエンジン2から出力すべきトルクを出力可能なようにエンジン2における燃料の噴射量や噴射タイミングなどを制御する。
【0031】
インバータECU28は、インバータ10の動作に必要な各種制御を行うための電子制御ユニットであり、例えば、車両ECU26によって設定されたモータ4から出力すべきトルクを出力可能なようにインバータ10を制御することにより、モータ4を力行又は回生駆動するように制御する。
【0032】
バッテリECU29は、バッテリ充電量検出手段15からの情報を、車両ECU26を介して取得することにより、バッテリ11の充電量を求め、当該求めたSOCを車両ECU26に送信する。
【0033】
上述の車両ECU26、エンジンECU27、インバータECU28及びバッテリECU29は、それぞれCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備えて構成される電子制御ユニットであり、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する各種制御を実行することが可能に構成されている。これらの各種の制御の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではない。
【0034】
続いて、以上のように構成されたハイブリッド電気自動車1の具体的な動作について説明する。ここでハイブリッド電気自動車1は、走行速度Vがドライバーによって予め設定された設定速度Vsに維持されるように定速走行制御(いわゆるオートクルーズ制御)下におかれている。
【0035】
まず図3及び図4を参照して、ハイブリッド電気自動車1の走行路面が下り勾配を有しており、走行速度Vをモータ4の回生制動力によって設定速度Vsに維持する場合に実行される制御内容について説明する。図3は本発明に係るハイブリッド電気自動車1が下り勾配を有する走行路面を走行する様子を模式的に示す模式図であり、図4は、本発明に係るハイブリッド電気自動車1が下り勾配を有する走行路面を走行する際に実行される制御内容を示すフローチャート図である。
【0036】
図3に示すように、ハイブリッド電気自動車1は降坂開始地点Aから降坂終了地点Bにかけて続く下り勾配を有する走行路面を走行しており、その走行速度Vは定速走行制御によって設定速度Vsに維持されている。
【0037】
図4に示すように、まず車両ECU26は、ドライバーによって指定された設定速度Vs、及び、ナビゲーション装置17からGPS信号を取得することによって走行路面の勾配情報を取得する(ステップS101&S102)。続いて、車両ECU26は、前記取得した設定速度Vs及び勾配情報に基づいて、ハイブリッド電気自動車1の走行速度Vを設定速度Vsに維持するために必要な第1の制動力であるP_req_rを算出する(ステップS103)。続いて、車両ECU26は、バッテリ充電量検出手段15から検出したバッテリ11のSOC及び勾配情報に基づいて、降坂開始地点Aから降坂終了地点Bまでに前記バッテリが満充電となるために要求される第2の制動力であるP_soc_rを算出する(ステップS104)。続いて、車両ECU26は、メモリ等の記憶手段(図不示)に予め記憶されたモータ4の最大制動力である第3の制動力たるP_maxを取得する(ステップS105)。
【0038】
続いて、車両ECU26はステップS106からS108においてP_req_r、P_soc_r、P_maxの大小を比較し、それらのうち最小のものをモータ4の制動力P_mot_rに設定する(ステップS109乃至S111)。ここで図5を参照して、モータ4の制動力P_mot_rの設定方法について、具体例を用いて詳細に説明する。図5はモータ4の制動力P_mot_rの設定方法を示すグラフ図である。
【0039】
図5(a)に示すように、P_soc_r、P_req_r、P_maxの順で制動力が大きくなる場合、P_mot_rを仮にP_soc_rより大きなP_req_rに設定すると、降坂走行途中でバッテリ11のSOCが上限値に達してしまい、それ以上充電することができなくなってしまう。つまり、モータ4が高負荷作動状態となり、モータ4が過度に発熱してしまう。この場合、モータ4の制動力P_mot_rとして最小値であるP_soc_rに設定することによって、モータ4の温度上昇を抑制することができる。このような温度上昇の抑制は専らモータ4の制動力制御によって実現できるため、冷却水を冷却するためのラジエータや、冷却水を循環させるための循環ポンプ等の駆動損失がなく、良好な燃費性能を得ることができる。また、この時、モータ4の制動力P_mot_rはP_soc_rに設定されているので、バッテリ11のSOCは、ハイブリッド電気自動車1が降坂終了地点Bに到達するタイミングで上限値に達するように制御される。その結果、バッテリ11の充電効率も良好に確保することができる。
【0040】
尚、図5(a)の場合、モータ4の制動力P_mot_rが走行速度Vを設定速度Vsに維持するための第1の制動力P_req_rより小さく設定されているため、エンジンブレーキ又はサービスブレーキからの制動力を補助的に加えることによって、設定速度Vsを維持するとよい。これにより、降坂走行時にハイブリッド電気自動車1が加速することによって走行速度Vが設定速度Vsから乖離することを防止することができる。
【0041】
図5(b)に示すように、P_req_r、P_max、P_soc_rの順で制動力が大きくなる場合、P_soc_rはP_maxを超えてしまっているため、P_soc_rは選択できない。また、仮にモータ4の制動力P_mot_rを仮にP_req_rより大きなP_maxに設定すると、必要以上に走行速度Vが減速してしまい、定速走行状態を維持できなくなってしまう(即ち、定速走行制御におけるドライバビリティが悪化してしまう)。この場合、モータ4の制動力P_mot_rをP_req_rに設定することによって、ドライバビリティを確保可能な範囲内で、モータ4を回生駆動させてバッテリ11の充電量の回復を図ることができる。
【0042】
図5(c)に示すように、P_max、P_req_r、P_soc_rの順で制動力が大きくなる場合、P_req_r、P_soc_rは共にP_maxを超えてしまっているため選択できない。その結果、モータ4の制動力P_mot_rとしてP_maxが選択される。この場合、モータ4の制動力P_mot_rは第1の制動力P_req_rより小さいため、図5(a)の場合と同様に、エンジンブレーキ又はサービスブレーキからの制動力を補助的に加えることによって、設定車速Vsを維持するとよい。また、P_mot_rがP_soc_rより小さく設定されているため、ハイブリッド電気自動車1が降坂終了地点Bに到達した際にバッテリ11のSOCを上限値まで回復することができないが、ドライバビリティを悪化させない範囲内でバッテリ11の充電量の回復を図ることができる。
【0043】
図5(d)に示すように、P_soc_r、P_max、P_req_rの順で制動力大きくなる場合、P_req_rはP_maxを超えてしまっているため選択できない。また、モータ4の制動力P_mot_rを仮にP_maxに設定すると、降坂走行途中でバッテリ11のSOCが上限値に達してしまい、それ以上充電することができなくなってしまう。つまり、モータ4が高負荷作動状態となり、モータ4が過度に発熱してしまうおそれがある。この場合、モータ4の制動力P_mot_rとして最小値であるP_soc_rを設定することによって、モータ4の温度上昇を抑制することができる。また、この時、モータ4の制動力P_mot_rがP_soc_rに設定されているので、バッテリ11のSOCは、ハイブリッド電気自動車1が降坂終了地点Bに到達するタイミングで上限値に達するように制御される。そのため、バッテリ11の充電効率も良好に確保することができる。
【0044】
尚、図5(d)の場合、図5(a)の場合と同様に、モータ4の制動力P_mot_rが走行速度Vを設定速度Vsに維持するための第1の制動力P_req_rより小さく設定されているため、エンジンブレーキ又はサービスブレーキからの制動力を補助的に加えることによって、設定車速Vsを維持するとよい。これにより、降坂走行時にハイブリッド電気自動車1が加速することによって走行速度Vが設定速度Vsから乖離することがないように、走行速度Vを維持することができる。
【0045】
図5(e)に示すように、P_req_r、P_soc_r、P_maxの順で制動力が大きくなる場合、モータ4の制動力P_mot_rとしてP_req_rが選択される。この場合、定速走行制御における設定速度Vsを維持できるので、ドライバビリティを確保可能な範囲内で、モータ4を回生駆動させてバッテリ11のSOCの回復を図ることができる。
【0046】
図5(f)に示すように、P_max、P_soc_r、P_req_rの順で制動力が大きくなる場合、モータ4の制動力P_mot_rとしてP_maxが選択される。
この場合、P_req_r、P_soc_rが共にP_maxを超えてしまっているため選択できない。その結果、モータ4の制動力P_mot_rとしてP_maxが選択されることとなる。この場合、モータ4の制動力P_mot_rが第1の制動力P_req_rより小さく設定されているため、図5(a)及び(c)の場合と同様に、エンジンブレーキ又はサービスブレーキをモータ4の制動力に加えて補助的にかけることによって、設定速度Vsを維持するとよい。また、P_mot_rがP_soc_rより小さいため、ハイブリッド電気自動車1が降坂終了地点Bに到達した際にバッテリ11のSOCを上限値まで回復することができないが、ドライバビリティを悪化させない範囲内でバッテリ11の充電量の回復を図ることができる。
【0047】
再び図4に戻って、ステップS109からS111にて、モータ4の制動力P_mot_rが設定されると、車両ECU26は当該設定された制動力P_mot_rでモータ4を回生駆動させた状態で、ハイブリッド電気自動車1が降坂終了地点Bに到達した際のモータ4の予測温度T_mot_r_eを算出する(ステップS112)。尚、モータ4の予測温度T_mot_r_eの具体的な算出方法については後述する。
【0048】
続いて車両ECU26は、算出したモータ4の予測温度T_mot_r_eが予め設定されたモータ温度基準値Tcri以下であるか否かを判定する(ステップS113)。ここで、モータ温度基準値Tcriはモータ4を正常に動作可能な温度範囲の上限値を規定する閾値である。T_mot_r_eがTcri以下である場合(ステップS113:YES)、車両ECU26は冷却システム20の送風ファン24を作動させる必要がないとして、送風ファン24をOFFに設定し(ステップS114)、ステップS109からS111において設定された制動力P_mot_rでモータ4を制御する(ステップS115)。
【0049】
一方、T_mot_r_eがTcriより高い場合(ステップS113:NO)、車両ECU26はモータ4の温度がTcriを超過させないための最高出力であるP_mot_tmp、及び、送風ファン24の作動時間であるt_fanを算出する(ステップS116&S117)。尚、P_mot_tmp及びt_fanの算出方法については後述する。
【0050】
続いて車両ECU26は算出したt_fanが、ハイブリッド電気自動車1が降坂終了地点Bに到達するまでに要する時間であるtc以下であるか否かを判定する(ステップS118)。t_fanがtc以下である場合(ステップS118:YES)、車両ECU26は送風ファン24を駆動することによってモータ4を冷却しつつ(ステップS119)、ステップS109からS111にて設定された制動力P_mot_rでモータ4を制御する(ステップS115)。
【0051】
一方、t_fanがtcより長い場合(ステップS118:NO)、制動力P_mot_rをステップS116にて算出したP_mot_tmpに設定し直し(ステップS120)、モータ4の出力を制御する(ステップS115)。
【0052】
ここで図6を参照して、ステップS116におけるモータ4の予測温度T_mot_r_eの算出方法について説明する。図6は本発明に係るハイブリッド電気自動車1が下り勾配を有する走行路面を走行する際のモータ4の温度推移を示すグラフ図である。
【0053】
次式により算出される。
【0054】
から、降坂開始地点Aから降坂終了地点Bに至るまでの間のモータ4の温度上昇は、次式により予測される。
ここで、Cmはモータ熱容量[J/deg]、LABはA−B間距離[km]、VSは設定速度である。そして、ハイブリッド電気自動車1が降坂終了地点Bに到達した際のモータ4の予測温度T_mot_r_eは、次式により算出される。
T_mot_r_e=Tm+ΔTAB (4)
【0055】
続いて図7を参照して、ステップS117における送風ファン24の作動時間t_fanの算出方法について説明する。図7は本発明に係るハイブリッド電気自動車1が下り勾配を有する走行路面を走行する際のモータ4の積算熱量の推移を示すグラフ図である。
【0056】
モータ4の温度がTcriを超過させないための最高出力であるP_mot_tmpは、上記(3)式に(1)(2)式を代入してモータ出力P_mot_r[kW]について解いた式において、ΔTAB=(Tcri―Tm)とすることにより、次式により算出される。
これを用いて、モータ出力P_mot_r[kW]でモータ4を駆動させた場合に、
モータ4の温度がTcriを超過させないために必要な冷却量
また、ラジエータに要求される放熱量は、
である。ここでηradは熱交換機温度効率[%]、Rradは熱交換機熱抵抗[deg/W]、Taは大気温度[deg]である。これにより、送風ファンの動作時間t_fanは次式により算出される。
【0057】
次に、図8及び図9を参照して、ハイブリッド電気自動車1の走行路面が上り勾配を有しており、走行速度Vをモータ4の力行駆動力によって設定速度Vsに維持する場合に実行される制御内容について説明する。図8は本発明に係るハイブリッド電気自動車1が上り勾配を有する走行路面を走行する様子を模式的に示す模式図であり、図9は、本発明に係るハイブリッド電気自動車1が上り勾配を有する走行路面を走行する際に実行される制御内容を示すフローチャート図である。
【0058】
図8に示すように、ハイブリッド電気自動車1は登坂開始地点Cから登坂終了地点Dにかけて続く上り勾配を有する走行路面を走行しており、その走行速度Vは定速走行制御によって設定速度Vsに維持されている。
【0059】
図9に示すように、まず車両ECU26は、ドライバーによって指定された設定速度Vs、及び、GPS受信機17からGPS信号を取得することによって走行路面の勾配情報を取得する(ステップS201&S202)。続いて、車両ECU26は、前記取得した設定速度Vs及び勾配情報に基づいて、ハイブリッド電気自動車1の走行速度Vを設定速度Vsに維持するために必要な第1の駆動力であるP_req_dを算出する(ステップS203)。続いて、車両ECU26は、バッテリ充電量検出手段15から検出したバッテリ11のSOC及び勾配情報に基づいて、登坂開始地点Cから登坂終了地点Dまでに前記バッテリの充電量を使い果たすために要求される第2の駆動力であるP_soc_dを算出する(ステップS204)。続いて、車両ECU26は、メモリ等の記憶手段(図不示)に予め記憶されたモータ4の最大駆動力である第3の駆動力たるP_maxを取得する(ステップS205)。
【0060】
続いて、車両ECU26はステップS206からS208においてP_req_d、P_soc_d、P_maxの大小を比較し、それらのうち最小のものをモータ4の駆動力P_mot_dに設定する(ステップS209乃至S211)。ここで図10を参照して、モータ4の駆動力P_mot_dの設定方法について、具体例を用いて詳細に説明する。図10はモータ4の駆動力P_mot_dの設定方法を示すグラフ図である。
【0061】
図10(a)に示すように、P_soc_d、P_req_d、P_maxの順で駆動力が大きくなる場合、P_mot_dを仮にP_req_dに設定すると、登坂走行途中でバッテリ11のSOCを使い果たしてしまい、それ以上モータ4を力行駆動させることができなくなってしまう。つまり、モータ4が高負荷作動状態となり、モータ4が過度に発熱してしまう。この場合、モータ4の駆動力P_mot_dとして最小値であるP_soc_dに設定することによって、モータ4が高負荷作動状態に陥ることを回避することによってモータ4の温度上昇を抑制することができる。このような温度上昇の抑制は専らモータ4の駆動力制御によって実現できるため、冷却水を冷却するためのラジエータや、冷却水を循環させるための循環ポンプ等の駆動損失がなく、良好な燃費性能を得ることができる。また、この時、モータ4の駆動力P_mot_dがP_soc_dに設定されているので、バッテリ11のSOCは、ハイブリッド電気自動車1が登坂終了地点Dに到達するタイミングで下限値に達するように制御されるので、バッテリ11の充電量の使用効率も良好に確保することができる。
【0062】
尚、図10(a)の場合、モータ4の駆動力P_mot_dが走行速度Vを設定速度Vsに維持するための第1の駆動力P_req_dより小さく設定されているため、エンジン2から駆動力を補助的に加えることによって、設定速度Vsを維持するとよい。これにより、登坂走行時にハイブリッド電気自動車1が減速することによって走行速度Vが設定速度Vsから乖離することがないように、走行速度Vを維持することができる。
【0063】
図10(b)に示すように、P_req_d、P_max、P_soc_dの順で駆動力が大きくなる場合、P_soc_dはP_maxを超えてしまっているため、P_soc_dを選択することはできない。また、仮にモータ4の駆動力P_mot_dを仮にP_maxに設定すると、P_req_dより大きな駆動力が発生してしまい、必要以上に走行速度Vが加速してしまい、定速走行状態を維持できなくなってしまう(即ち、定速走行制御におけるドライバビリティが悪化してしまう)。この場合、モータ4の駆動力P_mot_dをP_req_dに設定することによって、ドライバビリティを確保可能な範囲内で、モータ4を力行駆動させてバッテリ11の充電量の効率的な使用を図ることができる。
【0064】
図10(c)に示すように、P_max、P_req_d、P_soc_dの順で駆動力が大きくなる場合、P_req_d、P_soc_dは共にP_maxを超えてしまっているため、選択することはできない。その結果、モータ4の駆動力P_mot_dとしてP_maxが選択される。この場合、モータ4の駆動力P_mot_dが第1の駆動力P_req_dより小さく設定されているため、図10(a)の場合と同様に、エンジン2からの出力を補助的に加えることによって、設定速度Vsを維持するとよい。また、P_mot_dがP_soc_dより小さく設定されているため、ハイブリッド電気自動車1が登坂終了地点Dに到達した際にバッテリ11のSOCを下限値まで使い果たすことができないが、ドライバビリティを悪化させない範囲内でバッテリ11のSOCの効率的な消費を行うことができる。
【0065】
図10(d)に示すように、P_soc_d、P_max、P_req_dの順で駆動力大きくなる場合、P_req_dはP_maxを超えてしまっているため選択することができない。また、モータ4の駆動力P_mot_dを仮にP_maxに設定すると、登坂走行途中でバッテリ11のSOCが下限値に達してしまい、それ以上消費することができなくなってしまう。つまり、モータ4が高負荷作動状態となり、モータ4が過度に発熱してしまうおそれがある。この場合、モータ4の駆動力P_mot_dとして最小値であるP_soc_dを設定することによって、モータ4が高負荷作動状態に陥ることを回避することによってモータ4の温度上昇を抑制することができる。また、この時、モータ4の駆動力P_mot_dがP_soc_dであるので、バッテリ11のSOCは、ハイブリッド電気自動車1が登坂終了地点Dに到達するタイミングで下限値に達するように制御されるので、バッテリ11のSOCの消費効率も良好に確保することができる。
【0066】
尚、図10(d)の場合、図10(a)の場合と同様に、モータ4の駆動力P_mot_dが走行速度Vを設定速度Vsに維持するための第1の駆動力P_req_dより小さく設定されているため、エンジン2の出力を補助的に加えることによって、設定車速Vsを維持するとよい。これにより、登坂走行時にハイブリッド電気自動車1が減速することによって走行速度Vが設定速度Vsから乖離することがないように、走行速度Vを維持することができる。
【0067】
図10(e)に示すように、P_req_d、P_soc_d、P_maxの順で駆動力が大きくなる場合、モータ4の駆動力P_mot_dとしてP_req_dが選択される。この場合、定速走行制御における設定速度Vsを維持できるので、ドライバビリティを確保可能な範囲内で、モータ4を力行駆動させてバッテリ11のSOCの消費することができる。
【0068】
図10(f)に示すように、P_max、P_soc_d、P_req_dの順で駆動力が大きくなる場合、モータ4の駆動力P_mot_dとしてP_maxが選択される。
この場合、P_req_d、P_soc_dが共にP_maxを超えてしまっているため選択することができない。その結果、モータ4の駆動力P_mot_dとしてP_maxが選択されることとなる。この場合、モータ4の駆動力P_mot_rが第1の駆動力P_req_dより小さく設定されているため、図10(a)及び(c)の場合と同様に、エンジン2の出力を補助的に加えることによって、設定速度Vsを維持するとよい。また、P_mot_dがP_soc_dより小さく設定されるため、ハイブリッド電気自動車1が登坂終了地点Dに到達した際にバッテリ11のSOCを下限値まで消費することができないが、ドライバビリティを悪化させない範囲内でバッテリ11の充電量の消費することができる。
【0069】
再び図9に戻って、ステップS209からS211にて、モータ4の駆動力P_mot_dが設定されると、車両ECU26は当該設定された駆動力P_mot_dでモータ4を力行駆動させた状態で、ハイブリッド電気自動車1が登坂終了地点Dに到達した際のモータ4の予測温度T_mot_d_eを算出する(ステップS212)。尚、モータ4の予測温度T_mot_d_eの算出方法については、上記T_mot_r_eの算出方法と同様である。
【0070】
続いて車両ECU26は、算出したモータ4の予測温度T_mot_d_eが予め設定されたモータ温度基準値Tcri以下であるか否かを判定する(ステップS213)。T_mot_d_eがTcri以下である場合(ステップS213:YES)、車両ECU26は冷却システム20の送風ファン24を作動させる必要がないとして、送風ファン24をOFFに設定し(ステップS214)、ステップS209からS211において設定された駆動力P_mot_dでモータ4を制御する(ステップS215)。
【0071】
一方、T_mot_d_eがTcriより高い場合(ステップS213:NO)、車両ECU26はモータ4の温度がTcriを超過させないための最高出力であるP_mot_tmp、及び、送風ファン24の作動時間であるt_fanを算出する(ステップS216&S217)。
【0072】
続いて車両ECU26は算出したt_fanが、ハイブリッド電気自動車1が登了地点Dに到達するまでに要する時間であるtc以下であるか否かを判定する(ステップS218)。t_fanがtc以下である場合(ステップS218:YES)、車両ECU26は送風ファン24を駆動することによってモータ4を冷却しつつ(ステップS219)、ステップS209からS211にて設定された駆動力P_mot_dでモータ4を制御する(ステップS215)。
【0073】
一方、t_fanがtcより長い場合(ステップS218:NO)、駆動力P_mot_dをステップS216にて算出されたP_mot_tmpに設定し直し(ステップS220)、モータ4の出力を制御する(ステップS215)。
【0074】
次に図11を参照して、本発明に係るハイブリッド電気自動車1におけるモータ4の出力及び温度、バッテリのSOCの推移について説明する。図11は本発明に係るハイブリッド電気自動車1におけるモータ4の出力、温度、バッテリのSOC、走行路面の標高の推移を併せて示すグラフ図である。尚、図11では、参考のために、背景技術で説明したような典型的なモータ4の出力及び温度、バッテリのSOCの推移を一点鎖線で併せて表記している。
【0075】
ハイブリッド電気自動車1は降坂と登坂を繰り返す走行路面を走行している。降坂と登坂では上記説明したように、降坂走行時にはモータ4を回生制動させて制動力を出力する一方で、登坂走行時にはモータ4を力行駆動させて駆動力を出力するように制御が行われる。
【0076】
降坂走行時には、モータ4の制動力は第1の制動力P_req_r、第2の制動力P_soc_r、第3の制動力P_maxのうち最小のものに設定され、且つ、ハイブリッド電気自動車1が降坂終了地点に達するまでの間当該制動力が継続的に出力されるように、モータ4が制御される。一方、登坂走行時においても、モータ4の駆動力は第1の駆動力P_req_d、第2の駆動力P_soc_d、第3の駆動力P_maxのうち最小のものに設定され、且つ、ハイブリッド電気自動車1が登坂終了地点に達するまでの間当該駆動力が継続的に出力されるように、モータ4が制御される。その結果、走行中のモータ4の温度上昇は図11に示すように、所定の温度値に収束するように抑制される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、内燃機関とバッテリに蓄えられた電力を動力源として力行する電動機との少なくとも一方から出力される動力で走行するハイブリッド電気自動車において、走行速度を予め設定された設定速度に維持するように定速走行制御を行うハイブリッド電気自動車の制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 ハイブリッド電気自動車
2 エンジン
3 クラッチ
4 モータ
5 変速機
9 駆動輪
11 バッテリ
15 充電量検出手段
16 車速センサ
17 ナビゲーション装置
20 冷却システム
21 冷却配管
22 循環ポンプ
23 ラジエータ
24 送風ファン
26 車両ECU
27 エンジンECU
28 インバータECU
29 バッテリECU
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関とバッテリに蓄えられた電力を動力源として力行する電動機との少なくとも一方から出力される動力で走行するハイブリッド電気自動車に搭載され、走行速度を予め設定された設定速度に維持するように定速走行制御を行うハイブリッド電気自動車の制御装置であって、
走行路面の平均勾配及び勾配継続距離を含む勾配情報を取得する勾配情報取得手段と、
前記取得した勾配情報に基づいて前記走行路面が降坂であると判定された場合に、走行速度を前記設定速度に維持するために要求される第1の制動力、降坂開始地点から降坂終了地点までに前記バッテリの充電量が上限値に達するために要求される第2の制動力、及び、前記電動機が出力可能な最大制動力である第3の制動力のうち、最小の制動力が前記電動機から出力されるように前記電動機を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とするハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記電動機から出力される制動力が前記第1の制動力より小さい場合に、エンジンブレーキをかけることによって前記設定速度が維持されるように前記内燃機関を制御することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記取得した勾配情報に基づいて前記走行路面が登坂であると判定された場合に、走行速度を前記設定速度に維持するために要求される第1の駆動力、降坂開始地点から降坂終了地点までに前記バッテリの充電量が下限値に達するために要求される第2の駆動力、及び、前記電動機が出力可能な最大駆動力である第3の駆動力のうち、最小の駆動力が前記電動機から出力されるように前記電動機を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記電動機から出力される駆動力が前記第1の駆動力より小さい場合に、前記内燃機関から出力される駆動力によって前記設定速度が維持されるように前記内燃機関を制御することを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項5】
前記電動機を冷却するための冷却手段を更に備え、
前記制御手段は、前記電動機の出力に基づいて降坂終了地点又は登坂終了地点における前記電動機の温度を予測し、該予測した温度が所定温度値より高い場合に前記冷却手段を作動させることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項1】
内燃機関とバッテリに蓄えられた電力を動力源として力行する電動機との少なくとも一方から出力される動力で走行するハイブリッド電気自動車に搭載され、走行速度を予め設定された設定速度に維持するように定速走行制御を行うハイブリッド電気自動車の制御装置であって、
走行路面の平均勾配及び勾配継続距離を含む勾配情報を取得する勾配情報取得手段と、
前記取得した勾配情報に基づいて前記走行路面が降坂であると判定された場合に、走行速度を前記設定速度に維持するために要求される第1の制動力、降坂開始地点から降坂終了地点までに前記バッテリの充電量が上限値に達するために要求される第2の制動力、及び、前記電動機が出力可能な最大制動力である第3の制動力のうち、最小の制動力が前記電動機から出力されるように前記電動機を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とするハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記電動機から出力される制動力が前記第1の制動力より小さい場合に、エンジンブレーキをかけることによって前記設定速度が維持されるように前記内燃機関を制御することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記取得した勾配情報に基づいて前記走行路面が登坂であると判定された場合に、走行速度を前記設定速度に維持するために要求される第1の駆動力、降坂開始地点から降坂終了地点までに前記バッテリの充電量が下限値に達するために要求される第2の駆動力、及び、前記電動機が出力可能な最大駆動力である第3の駆動力のうち、最小の駆動力が前記電動機から出力されるように前記電動機を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記電動機から出力される駆動力が前記第1の駆動力より小さい場合に、前記内燃機関から出力される駆動力によって前記設定速度が維持されるように前記内燃機関を制御することを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項5】
前記電動機を冷却するための冷却手段を更に備え、
前記制御手段は、前記電動機の出力に基づいて降坂終了地点又は登坂終了地点における前記電動機の温度を予測し、該予測した温度が所定温度値より高い場合に前記冷却手段を作動させることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−131290(P2012−131290A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283682(P2010−283682)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】
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