説明

フォトレジスト残渣およびポリマー残渣除去液組成物

【課題】金属配線を有する半導体回路素子の製造工程において生じるフォトレジスト残渣およびポリマー残渣を除去する除去液組成物、ならびにそれを用いた残渣の除去方法、特に含窒素有機ヒドロキシ化合物、アンモニア、フッ素化合物を含有せず、残渣除去成分として金属酸化物を主成分とする残渣の除去性に優れる融点が25℃以上の脂肪族ポリカルボン酸を含有し、洗浄装置の液を吐出するノズルや洗浄槽およびチャンバーの周辺に溶液が付着後、水の蒸発により脂肪族ポリカルボン酸が再結晶することを抑制することが可能なフォトレジスト残渣およびポリマー残渣除去液組成物、ならびにそれを用いた残渣の除去方法を提供する。
【解決手段】融点が25℃以上の脂肪族ポリカルボン酸を含有するフォトレジスト残渣およびポリマー残渣除去液組成物において、20℃での蒸気圧が17mmHg以下で構造内に水酸基を有する水と混和可能な有機溶剤を含有する前記除去液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属配線を有する半導体回路素子の製造工程において、ドライエッチング後およびアッシング後に残留するフォトレジスト残渣およびポリマー残渣を除去する組成物、ならびにそれを用いた残渣の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体回路素子は、益々微細化、高集積化の方向に進み、それに伴い、素子構造の微細化が必要となり、新たな配線材料や層間絶縁膜材料が採用されるようになってきた。配線材料は、銅及び銅を主成分とする銅合金が使用され、層間絶縁膜材料は、より低誘電率(low−k)なアリールエーテル化合物を代表した有機系材料、シリコン酸化膜にメチル基(−CH)を導入したSiOCH系材料が使用されている。またlow−k材料は、更なる低誘電率化を目的として、材料のポーラス化が進んでいる。そのため、これらの新規材料をドライエッチングによりパターニングする場合、ドライエッチング及びアッシング条件が異なるため、当然生成するフォトレジスト残渣及びポリマー残渣の組成も異なる。さらに銅及び銅合金は、耐酸化性が低く、low−k材料もシリコン酸化膜と比較すると化学的、物理的強度が低く脆弱な材料である。
【0003】
フォトレジスト残渣およびポリマー残渣除去液としては、例えば、配線がアルミニウムまたはアルミニウム合金の場合、「フッ素化合物+第四級アンモニウム化合物+水+有機溶剤」からなる組成物(特許文献1)や「ヒドロキシルアミン+アルカノールアミン(+有機溶剤)」からなる組成物が提案されている(特許文献2)。しかしながら、これらの組成物は、アルミニウムまたはアルミニウム合金に対して腐食を最小限に抑制し、残留したフォトレジスト残渣およびポリマー残渣を除去することが出来るものの、銅、銅合金、low−k材料に対応しておらず、残渣除去性が不十分な場合や、これらの材料をアタックしてしまう場合がある。
【0004】
一方、配線が銅、銅合金、層間絶縁膜がlow−k材料の場合、「1種または2種以上のフッ素化合物+1種または2種以上のグリオキシル酸等+水」からなる組成物(特許文献3)、「フッ化アンモニウム+水溶性有機溶剤+緩衝剤+水+塩基性化合物」からなる組成物(特許文献4)が提案されている。しかしながら、これらの組成物はフッ素化合物を含有しているため、SiOCH系のlow−kをドライエッチングにより加工した場合、ドライエッチングおよびアッシング時に生成するSiOCH表面にポーラスなシリコン酸化膜に類似した変質層が形成される。フッ素化合物を含有した組成物は、変質層を溶解してしまうため、意図するエッチング寸法よりも実際のエッチング寸法が拡大してしまう恐れがある。
【0005】
フッ素化合物を含有しない組成物としては、主にカルボン酸をはじめとした有機酸を含有した組成が提案されている。有機酸を含有した組成としては、「有機溶剤を含有しない、脂肪族ポリカルボン酸および/またはその塩(+アミノポリカルボン酸)+水」からなる組成物(特許文献5)、「脂肪族ポリカルボン酸+グリオキシル酸等の還元性化合物+水」からなる組成物(特許文献6)が提案されている。
【0006】
また、「カルボン酸+水溶性有機溶剤+水」からなる組成物(特許文献7)、「有機酸および/またはその塩+水+有機溶剤」からなる組成物(特許文献8)、「有機酸またはその塩+水(+有機溶剤)」からなる組成物(特許文献9)、「モノカルボン酸+水(+有機溶剤+ポリカルボン酸)」からなる組成物(特許文献10)なども提案されている。
【0007】
さらに、「含窒素有機ヒドロキシ化合物+分子中に水酸基を有しないカルボキシル基含有有機化合物」からなる組成物(特許文献11)、「ポリカルボン酸アンモニウム塩またはアミノポリカルボン酸アンモニウム塩+水溶性有機溶剤+水」からなる組成物(特許文献12)が提案されている。
【0008】
しかしながら、以上の従来技術のいずれにおいても、ドライエッチングによる加工後、フォトレジストのアッシング処理により生じるフォトレジスト残渣及びポリマー残渣を除去する残渣除去液組成物は、バッチ式洗浄(複数枚の被洗浄物を浸漬して、同時に洗浄する方式)が適用されているところ、バッチ式洗浄における、汚染異物の転写や持ち越しなどに対する問題意識から、近年枚葉式洗浄方式が注目されている。
枚葉式洗浄方式の例としては、用途は異なるものの、基板表面に存在する微細粒子(パーティクル)や各種金属由来の不純物(金属不純物)を有効に除去する洗浄液組成物として「カルボキシル基を含んだ有機酸+有機溶剤」からなる組成物(特許文献13)、ベアシリコンやlow−k材料等の疎水性表面からの粒子除去能力が高い洗浄液として、「脂肪族ポリカルボン酸+水酸基及び/またはエーテル基を有する有機溶剤」からなる組成物(特許文献14)も提案されている。
【0009】
また、枚葉式洗浄において使用され得る、フッ素化合物を含有する残渣除去液組成物も提案されている(特許文献16)が、金属配線を有する半導体回路素子への用途として必ずしも十分とはいえない。
このように、金属配線および層間絶縁膜にアタックがなく、しかも、低温で、短時間での処理が不可欠となる、枚葉式洗浄に適したフォトレジスト残渣およびポリマー残渣除去液組成物のとしては、未だ十分に満足できないものが得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特平7−201794号公報
【特許文献2】米国特許第5334332号公報
【特許文献3】特開2003−280219号公報
【特許文献4】特開2003−241400号公報
【特許文献5】特開平11−316464号公報
【特許文献6】特開平2003−167360号公報
【特許文献7】特開平10−256210号公報
【特許文献8】特開2000−206709号公報
【特許文献9】特開2002−75993号公報
【特許文献10】特開平11−67703号公報
【特許文献11】特開7−219240号公報
【特許文献12】特開2001−242641号公報
【特許文献13】国際特許公開2005−040324号公報
【特許文献14】特開2004−307725号公報
【特許文献15】特開2008−107494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、アルミニウム、銅またはそれらの合金をはじめ、近年導入されている各種金属の配線形成後に残留する多様な組成のフォトレジスト残渣およびポリマー残渣を、各種金属配線や層間絶縁膜をアタックせず、室温において短時間処理が不可欠な枚葉式洗浄により除去するためには、ポリマー残渣の主成分であるアルミニウム、銅やその合金を溶解せずに、アルミニウムや銅等の金属酸化物を溶解する効果する、脂肪族ポリカルボン酸が、大変効果的であることに着目した。
しかしながら、これらの脂肪族ポリカルボン酸は、融点が高く室温では固体であり、枚葉式洗浄装置で使用した際に、液を吐出するノズルや吐出した液が飛散してチャンバーに付着したまま放置すると、水が蒸発して溶解している脂肪族ポリカルボン酸が再結晶し、この結晶物が洗浄したウェハ表面に付着して逆汚染が生じるという問題に直面した。
【0012】
したがって本発明の目的は、上記の新たな問題点を解決し、金属配線を有する半導体回路素子の製造工程において生じるフォトレジスト残渣およびポリマー残渣を枚葉式洗浄により除去するフォトレジスト残渣およびポリマー残渣除去液組成物、ならびにそれを用いた残渣の除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決すべく鋭意研究する中で、本発明者は、融点の高い脂肪族ポリカルボン酸に、特定の化合物を組み合わせることにより、脂肪族ポリカルボン酸の残渣除去の性能を変化させることなく再結晶を抑制でき、再結晶物によるウェハの逆汚染の抑制と半導体製造工程におけるフォトレジスト残渣およびポリマー除去工程の作業効率が向上することを見出し、更に研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、以下の枚葉式洗浄により残渣を除去するための組成物およびそれを用いた残渣を除去する方法に関する。
[1]
フォトレジストおよび/またはポリマー残渣を枚葉式洗浄により除去するための組成物であって、融点が25℃以上の脂肪族ポリカルボン酸および20℃での蒸気圧が17mmHg以下であり、水酸基を有する有機溶剤を含有する、前記組成物。
[2]
水を含有する、請求項[1]に記載の組成物。
【0015】
[3]
有機溶剤が、1価から3価の脂肪族アルコール、グリセリンの1個または2個の水酸基をアルコキシ基に置換した化合物、テトラヒドロフルフリルアルコール、モノアルキレングリコールのモノアルキルエーテル、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールのモノアルキルエーテルである、[1]または[2]に記載の組成物。
【0016】
[4]
有機溶剤が、水に混和可能である、請求項[1]〜[3]のいずれか一項に記載の組成物。
[5]
有機溶剤の含有量が、30容量%以上である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の組成物。
【0017】
[6]
脂肪族ポリカルボン酸が、シュウ酸である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の組成物。
[7]
[1]〜[6]のいずれか一項に記載の組成物を用いる、フォトレジストおよび/またはポリマー残渣を枚葉式洗浄により除去する方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、融点の高い脂肪族ポリカルボン酸に、20℃での蒸気圧が17mmHg以下であり、水酸基を有する有機溶剤を組み合わせることにより、脂肪族ポリカルボン酸のフォトレジスト残渣除去性およびポリマー残渣除去性、各材料へのダメージ等の基本特性を変化させずに、洗浄装置の液を吐出するノズルや洗浄槽およびチャンバーの周辺における、水の蒸発による脂肪族ポリカルボン酸の再結晶を抑制でき、再結晶物によるウェハの逆汚染の抑制と半導体製造工程におけるフォトレジスト残渣およびポリマー除去工程の作業効率が向上することができる。
【0019】
本発明のフォトレジスト残渣およびポリマー残渣除去液組成物は、脂肪族ポリカルボン酸を含有するため、アルミニウムまたはアルミニウム合金の配線形成後に残留する酸化アルミニウム含有ポリマー残渣やビアホール形成後にビアホール底部の銅または銅合金表面およびその周辺のビアホール側壁に残留する酸化銅含有ポリマーに対して溶解性が高く、且つ配線材料のアルミニウムまたはアルミニウム合金、銅または銅合金をほとんど腐食しない。これは、脂肪族ポリカルボン酸とこれら金属イオンとの錯形成能が高いため、金属酸化物含有ポリマー残渣除去性が高く、加えて脂肪族ポリカルボン酸が硝酸や過酸化水素等のような酸化力がないため、配線材料の金属自身は、イオン化せず、配線材料を腐食しないためと考えられる。
【0020】
また、本発明のフォトレジスト残渣およびポリマー残渣除去液組成物は、用いられる脂肪族ポリカルボン酸の融点が25℃以上であるため、室温付近で揮発せず、組成物を循環使用した際の組成変動が少なく、有機酸特有の臭気もないため、作業環境を良好に保つことができる。
【0021】
前記のような融点が25℃以上の脂肪族ポリカルボン酸を水に溶解させて使用した場合、蒸気圧が高く蒸発しやすい水の蒸発により、脂肪族ポリカルボン酸が再結晶して析出してしまう。したがって、これら組成物を洗浄装置に導入して使用した場合、組成物を吐出するノズルや洗浄槽の縁、飛散したチャンバー周辺に付着し、洗浄中および洗浄後のウェハを逆汚染させてしまい、製造デバイスの歩留まり低下の原因となる。そのため、一定期間毎にノズル、洗浄槽およびチャンバーを洗浄する必要があり、作業効率の低下を招く。
【0022】
本発明のフォトレジスト残渣およびポリマー残渣除去液組成物は、水の蒸気圧(17.536mmHg(20℃)、溶剤ハンドブックより抜粋)よりも低い、即ち20℃で17mmHg以下の脂肪族ポリカルボン酸の溶解性が高い溶媒を含有するため、大気中に放置しても溶媒の蒸発がなく、脂肪族ポリカルボン酸の再結晶化および結晶析出を防ぐことが出来る。
さらに、本発明のフォトレジスト残渣およびポリマー残渣除去液組成物における有機溶剤は、構造内に水酸基を有するため、脂肪族ポリカルボン酸の溶解度が向上し、さらなる結晶析出の抑制に効果があることも見出した。またこれらの有機溶剤は、フォトレジスト残渣およびポリマー残渣除去性や各材料への腐食性に大きく影響しない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、有機溶剤と水との容量比を変化させた溶液のシュウ酸溶解量を示す図である。
【図2】図2は、有機溶剤の結晶析出抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本願明細書において、フォトレジストおよび/またはポリマー残渣除去液組成物は、金属配線を有する半導体回路素子の製造工程において、フォトレジストをマスクとしてドライエッチングを行い、更にアッシングを行った後の半導体基板や無機材料をマスクとしてドライエッチングを行った後の半導体基板に残留するフォトレジスト残渣およびポリマー残渣を、枚葉式洗浄により除去するために用いられるものであり、融点が25℃以上の脂肪族ポリカルボン酸および20℃での蒸気圧が17mmHg以下であり、水酸基を有する有機溶剤を含有する。
【0025】
本発明において、「フォトレジスト残渣」および「ポリマー残渣除去液組成物」は、金属配線形成後のフォトレジスト残渣、ならびに銅、アルミニウム、チタン、タンタル、タングステン、ゲルマニウム、アンチモンおよびテルル等の金属の酸化物およびハロゲン化物含有ポリマー残渣を意味する。
本発明において、「枚葉式洗浄」とは、基板をスピン回転させながらノズルから残渣除去液組成物を基板表面に噴霧する洗浄方法である。スポンジブラシなどによるブラシスクラブ洗浄や、高周波を用いるメガソニック洗浄などの物理的洗浄を併用することも可能ではあるが、基板上に形成されたパターンへのダメージを防止する観点から、物理的作用を併用しないことが好ましい。
【0026】
本発明のフォトレジスト残渣およびポリマー残渣除去液組成物に用いる融点が25℃以上の脂肪族ポリカルボン酸は、シュウ酸、クエン酸、マロン酸、酒石酸、コハク酸およびリンゴ酸等が挙げられる。中でも単純な分子構造で各種金属酸化物との錯体安定度定数が高いシュウ酸が好ましい。シュウ酸は、銅酸化物との錯体安定度定数が高いため、銅酸化物を含有したポリマー残渣の除去性に優れる。また、2価のカルボン酸の中で最もシンプルな構造であり分子量も小さく、低い含有量でも高い効果を発揮するため、他の有機酸と比較して、廃液中の全有機炭素量(TOC)、生物化学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)が少なく、廃液処理への負荷が小さい。
【0027】
脂肪族ポリカルボン酸の含有量は特に限定されないが、フォトレジスト残渣およびポリマー残渣の除去性の観点から、好ましくは、0.3〜10.0容量%、さらに好ましくは3.0〜5.0容量%である。
【0028】
また本発明のフォトレジスト残渣およびポリマー残渣除去液組成物に用いる、20℃での蒸気圧が17mmHg以下であり、水酸基を有する有機溶剤は、水と混和可能であることが好ましい。
【0029】
具体的には、1−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、ジアセトンアルコール等の1価の脂肪族アルコール;ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール等のその他の1価のアルコール;1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール等のモノアルキレングリコールである2価の脂肪族アルコール;グリセリン等の3価の脂肪族アルコール;3−メトキシ1,2−プロパンジオール、1,3−ジメトキシ−2−プロパノール等のジリセリンの1個または2個の水酸基をアルコキシ基に置換した化合物;
【0030】
プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル等のモノアルキレングリコールのモノアルキルエーテル;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;およびジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコール等のポリアルキレングリコールのモノアルキルエーテル等が挙げられる。
【0031】
中でも比較的入手がしやすく安価で、人体への影響が少ない1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセリン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、テトラヒドロフルフリルアルコールが好ましく、中でも、脂肪族ポリカルボン酸の溶解度を向上させる観点から、脂肪族アルコール、脂肪族グリコールおよびその誘導体である1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、グリセリン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフルフリルアルコールが特に好ましい。
【0032】
有機溶剤の含有量は特に限定されないが、その他の成分の含有量も考慮して、フォトレジスト残渣およびポリマー残渣の除去性、前記金属や層間絶縁膜への腐食性によって適宜決定されるが、好ましくは30.0容量%以上、さらに好ましくは50.0容量%以上である。含有量が低すぎる場合、水が蒸発しやすく、脂肪族ポリカルボン酸の溶解度が向上しない。また、含有量が高すぎる場合、粘度が高くなったり、引火点を持ち危険物に該当する可能性が生じたり、取り扱いが困難となる。
【0033】
また本発明のフォトレジスト残渣およびポリマー残渣除去液組成物は、水を含有してもよい。水の含有量の増加に伴い、脂肪族ポリカルボン酸の解離が進行し、金属との錯化合物の溶解性も向上するため、一般的にはフォトレジスト残渣およびポリマー残渣の除去性が高くなる。しかしながら、脂肪族ポリカルボン酸の再結晶を防ぐためには、ある程度の水と20℃での蒸気圧が17mmHg以下で構造内に水酸基を有する水と混和可能な有機溶剤が必要である。したがって、水の含有量は、0〜80.0容量%、より好ましくは20.0〜70.0容量%、さらに好ましくは30.0〜60.0容量%である。
【0034】
一方、フォトレジスト残渣および/またはポリマー残渣除去液組成物の成分として多用されているフッ素化合物については、残渣の主成分である金属酸化物との反応性が高く、枚葉式洗浄装置で使用できる範囲まで処理時間を短縮させることやシリコン酸化物を溶解できるという観点からは、これを含有してもよいが、フッ素化合物は、層間絶縁膜として使用される脆弱なlow−k材料のドライエッチング又はアッシングによる変質層を溶解してしまうため、意図するエッチング寸法よりも実際のエッチング寸法が拡大してしまう恐れがあり、近年の微細化が進んだ半導体素子において、従来許容されてきた寸法の変化で素子の電気特性に大きな影響を与える可能性がある。したがって、本発明のフォトレジスト残渣および/またはポリマー残渣除去液組成物の使用態様によっては、フッ素化合物を含有しないことが好ましい場合もある。
【0035】
また、本発明のフォトレジスト残渣および/またはポリマー残渣除去液組成物は、銅または銅合金を腐食を防止するために、その使用態様によっては、含窒素有機ヒドロキシ化合物および/またはアンモニアを含有しないことが好ましい場合もある。
【0036】
本発明の本発明のフォトレジスト残渣および/またはポリマー残渣除去液組成物は、トランジスター部に使用されるシリコン、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜およびシリコン酸化窒化膜、ならびに、ゲート絶縁膜として高誘電率材料であるハフニウム系材料、ゲート電極としてチタン、タンタル、タングステン、ルテニウム等の材料を有する半導体基板に適用し得る。
【0037】
また、本発明のフォトレジスト残渣および/またはポリマー残渣除去液組成物は、不揮発性メモリーデバイスとして開発が進んでいる相変化メモリーに用いられる、加熱による結晶化と冷却による非晶質化により抵抗値が変化する材料である、ゲルマニウム、アンチモン及びセレンの合金を有する半導体基板にも適用し得る。
【実施例】
【0038】
次に、本発明のフォトレジスト残渣およびポリマー残渣除去液組成物について、実施例および比較例によって、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<評価1:脂肪族カルボン酸の溶解度評価>
各溶液(100ml)中にシュウ酸(無水物)(20g)を投入し、攪拌状態で12時間以上密閉放置した。その後上澄み液を100倍希釈し、分光光度計で255nmの吸光度を測定し、シュウ酸の溶解度を算出した。
表1に各溶液のシュウ酸溶解量を示した。
【0039】
【表1】

【0040】
有機溶剤と水との容量比を変化させた各溶液のシュウ酸溶解量を図1に示す。図中のPGはプロピレングリコール、TPGMMEはトリプロピレングリコールモノメチルエーテル、GLはグリセリンを示す。
これらの結果より、PG、TPGMME、GL等の蒸気圧が17mmHg以下で構造内に水酸基を有する水と混和可能な有機溶剤は、構造内に水酸気を有する無機酸のHPOと異なり、含有量の増加に伴い、シュウ酸の溶解度が向上させる効果を持つことを確認した。
【0041】
<評価2:開放放置時の脂肪族ポリカルボン酸の結晶発生確認>
プロピレングリコールと水との混合溶媒(プロピレングリコール/水比=50/50(容量比))と水とを溶媒とした脂肪族ポリカルボン酸溶液(脂肪族ポリカルボン酸含有量3.4質量%)を各々調製した。各溶液(10ml)を時計皿に入れ、開放放置した。その後所定時間毎に目視で結晶析出の有無を確認した。表2及び図2に開放放置後の各溶液の状態を示した。
【0042】
【表2】

【0043】
溶媒が水のシュウ酸溶液(比較例6)は、開放放置24時間で既に結晶が析出しており、開放放置96時間後に乾固した、一方、溶媒がプロピレングリコールと水との混合の各脂肪族ポリカルボン酸溶液(実施例18〜20)は、開放放置168時間後も結晶の析出がなかった。これらの結果より、有機溶剤と水を混合した溶媒は、大気中で開放放置した際に液の蒸発がなく、かつ脂肪族ポリカルボン酸の結晶の発生を抑制できることを確認した。
【0044】
<評価3:パターンウェハを用いた残渣除去性の確認>
評価用パターンウェハは、次の方法を用いて作製した。
シリコンウェハ上にTiN/Tiをバリアメタルとして用いた銅ダマシン配線、層間絶縁膜材料(SiOC系low−k膜)、ハードマスク用SiO等を順次成膜する。次にSiO上に塗布、露光、現像したレジストをマスクとして、ハードマスク用SiOをドライエッチングして加工する。続いて、レジストをアッシングにより除去後、SiOをマスクとして層間絶縁膜材料をドライエッチングにより加工してビアホールを形成し、フォトレジスト残渣及びポリマー残渣が付着したウェハを得た。
【0045】
そのウェハを各除去液組成物中に25℃、10分間浸漬処理し、超純水にて流水リンス処理、乾燥を行った後、電子顕微鏡によりフォトレジスト残渣およびポリマー残渣の除去性と銅及び層間絶縁膜材料に対する腐食性を確認した。その結果を表3に示す。表中のtert−BuOHは2−メチル−2−プロパノール、EGはエチレングリコール、PGはプロピレングリコール、1,3−PGは1,3−プロパンジオール、1,4−BDは1,4−ブタンジオール、GLはグリセリン、DPGはジプロピレングリコール、DPGMMEはジプロピレングリコールモノメチルエーテル、TPGMMEはトリプロピレングリコールモノメチルエーテル、THFAはテトラヒドロフルフリルアルコールを示す。
【0046】
表3より明らかなように、シュウ酸の水溶液は、残渣の主成分である酸化銅に対して高い溶解性を持つため、良好な残渣除去性を有するが、有機溶剤を組み合わせた場合でも、ほぼ同等の残渣除去性であり、かつ銅や層間絶縁膜に対する腐食性が小さいことを確認した。
【0047】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のフォトレジスト残渣およびポリマー残渣除去液組成物は、金属配線を有する半導体回路素子の製造工程において、ドライエッチングによる加工後、フォトレジストのアッシングにより生じるフォトレジスト残渣およびポリマー残渣を、低温で短時間の処理が不可欠な枚葉式洗浄装置を用いて除去することができる洗浄装置の液を吐出するノズルや洗浄槽およびチャンバーの周辺に溶液が付着後、水の蒸発により脂肪族ポリカルボン酸が再結晶することを抑制することが可能なフォトレジスト残渣およびポリマー残渣除去液組成物、ならびにそれを用いた残渣の除去方法を提供することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトレジストおよび/またはポリマー残渣を枚葉式洗浄により除去するための組成物であって、融点が25℃以上の脂肪族ポリカルボン酸および20℃での蒸気圧が17mmHg以下であり、水酸基を有する有機溶剤を含有する、前記組成物。
【請求項2】
水を含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
有機溶剤が、1価から3価の脂肪族アルコール、グリセリンの1個または2個の水酸基をアルコキシ基に置換した化合物、テトラヒドロフルフリルアルコール、モノアルキレングリコールのモノアルキルエーテル、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールのモノアルキルエーテルである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
有機溶剤が、水に混和可能である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
有機溶剤の含有量が、30容量%以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
脂肪族ポリカルボン酸が、シュウ酸である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物を用いる、フォトレジストおよび/またはポリマー残渣を枚葉式洗浄により除去する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−58273(P2012−58273A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198302(P2010−198302)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(591045677)関東化学株式会社 (99)
【Fターム(参考)】