説明

プラズマ表面処理装置

【課題】ロール電極の内部を流通する冷却液が、ロール電極を構成する部材どうしの接合面を通してロール電極の外面へ漏れ出たとしても、処理の安定性が損なわれるのを防止するプラズマ表面処理装置の提供。
【解決手段】ロール電極1の円筒部20の端壁部30Lを構成する複数の部材31L,33Lどうしの接合面54Lが、冷却液路60に達して内側接合線55Lを形成し、かつ端壁部30Lの外面に達して外側接合線56Lを形成している。端壁部30Lの外面における、放電面21aとの境界1bと外側接合線56Lとの間に、端壁部30Lの周方向に沿って延びる溝41Lを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ロール電極を含むプラズマ表面処理装置に関し、特に上記ロール電極内に冷却液の流路が設けられたプラズマ表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載のプラズマ表面処理装置では、ロール電極と他の電極との間にプラズマ放電を生成し、被処理物のプラズマ処理を行う。一般に、ロール電極は、円筒部と、この円筒部の中心軸に設けられた軸部を備えている。円筒部の外周部が金属にて構成され、その外周面が放電面となる。ロール電極の内部には、冷却液路が形成されている。この冷却液路に水等の冷却液を流通させることにより、ロール電極を冷却できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−299732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、上記冷却液路は、ロール電極の2つ以上の部材によって構成される。したがって、冷却液路を構成する2つの部材の接合面がロール電極の外面に達していることがあり得る。例えば、円筒部の軸方向の両端の端壁の外周面から径方向に延びる孔を形成し、この孔の端壁外周面の開口を栓にて塞ぎ、孔の内部空間を冷却液路の一部とする場合、冷却液路は、少なくとも端壁及び栓にて構成される。端壁の孔内周と栓の外周との接合面は、端壁の外周面に達する。万が一、冷却液が、冷却液路から上記接合面を伝ってロール電極の外面に漏れ出て、更に放電面へ流れると、放電が不安定になり処理に支障を来すおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、放電によって被処理物の表面をプラズマ処理するプラズマ表面処理装置において、
軸方向に沿う軸部と、前記軸部と同軸をなす円筒部とを有するロール電極を備え、
前記円筒部が、外周面が前記放電を生成する放電面となる金属製の筒本体と、この筒本体の軸方向の両端部に前記放電面より軸方向の外側へ突出するよう設けられた端壁部とを含み、かつ前記ロール電極の内部には冷却液を流す冷却液路が形成され、前記端壁部を構成する複数の部材どうし又は前記端壁部と前記軸部どうしの接合面が、前記冷却液路に達して内側接合線を形成し、かつ前記端壁部の外面に達して外側接合線を形成しており、
前記外面における、前記放電面との境界と前記外側接合線との間には、前記端壁部の周方向又は前記外側接合線に沿って延びる溝が形成されていることを特徴とする。
これにより、冷却液が前記接合面を透過して端壁の外面に漏れ出て放電面へ向けて流れようとしても、途中で前記溝に入り込み、放電面まで達するのを阻止される。これによって、処理の安定性が損なわれるのを防止できる。
【0006】
前記溝が、前記端壁部の外周面に環状に設けられ、前記外側接合線が、前記端壁部の外周面における前記溝よりも前記軸方向の外側部分又は前記端壁部の外側面に設けられていることが好ましい。
これにより、漏出冷却液を端壁部の外周面において溝に入り込ませることができる。溝が環状になっているため、漏出冷却液が端壁部の周方向のどの位置から放電面の側へ流れようとしても、溝内に確実に入り込ませることができる。したがって、漏出冷却液が放電面に達するのを確実に阻止でき、処理の安定性が損なわれるのを確実に防止することができる。
【0007】
前記端壁部には外面から内部へ延びて前記冷却液路の一部を構成する加工孔が形成され、前記加工孔の前記外面への開口に閉塞部材(栓)が設けられ、前記開口の内周面と閉塞部材の外周面とによって前記接合面が形成されており、前記溝が、前記外面における前記閉塞部材にて塞がれた前記開口と前記境界との間に設けられていてもよい。
前記閉塞部材は、前記端壁部における前記接合面を形成する複数の部材のうちの1つを構成する。
冷却液が、加工孔の開口の内周面と閉塞部材の外周面との間を通って端壁の外面に漏れ出て放電面へ向けて流れようとしたときは、この漏出冷却液を溝に入り込ませることができ、漏出冷却液が放電面まで達するのを阻止できる。
【0008】
前記放電面との間に前記放電を生成する第2のロール電極を更に備え、前記端壁部が、前記第2のロール電極の円筒部より前記軸方向の外側に突出するよう設けられ、前記溝が、前記第2のロール電極の円筒部より前記軸方向の外側に配置されていることが好ましい。
これにより、端壁部の外周面上の漏出冷却液が第2のロール電極の円筒部に移るのを防止できる。更に、溝内に入った漏出冷却液が第2のロール電極の円筒部に移るのを防止できる。これにより、処理の安定性を一層確実に確保できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷却液が接合面を透過してロール電極の外面へ漏れ出たとしても、その冷却液を溝の内部に入り込ませることで、冷却液が放電面に達するのを阻止できる。これにより、処理の安定性が損なわれるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係るプラズマ表面処理装置の概略構成を示す解説平面図である。
【図2】上記プラズマ表面処理装置の側面図である。
【図3】上記プラズマ表面処理装置の第1のロール電極の左側部分の平面断面図である。
【図4】上記第1のロール電極の右側部分の平面断面図である。
【図5】図3のV−V線に沿う、上記第1のロール電極の断面図である。
【図6】上記第1のロール電極の一部分の斜視図である。
【図7】上記第1のロール電極の左側部分を拡大して示す平面断面図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係るプラズマ表面処理装置の第1のロール電極の左側部分を拡大して示す平面断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係るプラズマ表面処理装置の第1のロール電極の左側部分を拡大して示す平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
図1及び図2は、本発明の第1実施形態に係るプラズマ表面処理装置Mを示したものである。プラズマ表面処理装置Mは、一対のロール電極1,2を備えている。第1のロール電極1は、軸部10と、円筒部20を有している。同様に、第2のロール電極2は、軸部2bと、円筒部2aを有している。第1のロール電極1が、電源3に接続され、電圧が印加される電源電極になっている。第2のロール電極2が、電気的に接地されて接地電極になっている。これとは逆に、第1のロール電極1が電気的に接地され、第2のロール電極2が電源3に接続されていてもよい。これらロール電極1,2の円筒部10,2aに連続シート状の被処理物9が半周程度掛け回されている。ロール電極1,2間の被処理物9は、ガイドロール4に掛け回されて折り返されている。
【0012】
電源3からロール電極1への電圧供給によって、ロール電極1,2間に電界が印加され、大気圧近傍のプラズマ放電が生成される。電源3からの供給電圧は、パルス等の間欠波状でもよく、連続波状でもよい。第1実施形態において、プラズマ放電はグロー状であるが、コロナ状であってもよい。放電状態は、被処理物9に過度のダメージを与えない限り、特に限定されない。電界印加と併行して、図示しない処理ガス供給系から処理ガスがロール電極1,2間に供給されてプラズマ化される。プラズマ化された処理ガスが被処理物9に接触して反応が起き、被処理物9が表面処理される。更に、ロール電極1,2及びガイドロール4が回転することによって、被処理物9がその連続方向に搬送され、連続的に処理される。
【0013】
表面処理の内容としては、特に限定がなく、エッチングでもよく、洗浄でもよく、表面改質(親水化、撥水化等)でもよく、成膜でもよい。処理ガスの成分は、処理内容に応じて選択される。例えば、洗浄処理では、処理ガス成分として窒素、酸素等を用いる。撥水化処理では、処理ガス成分としてCF、C等のフッ素系ガスを用いる。ロール電極1,2間でのプラズマ生成及び被処理物9の表面処理は、大気圧近傍下にて行うことが好ましい。ここで、大気圧近傍とは、1.013×10〜50.663×10Paの範囲を言い、圧力調整の容易化や装置構成の簡便化を考慮すると、1.333×10〜10.664×10Paが好ましく、9.331×10〜10.397×10Paがより好ましい。
【0014】
第1ロール電極1について詳述する。
図1に示すように、ロール電極1の軸部10は、左右両端の端軸部分11と、中間の軸部分13を含み、ロール電極1の軸線Lに沿って一直線に配置されている。軸部分11,13は、ステンレスやアルミニウム等の金属にて構成されている。左右の端軸部分11がそれぞれ支持部5にて回転可能に支持されている。中間軸部分13が、直管状をなし、左右の端軸部分11を連結している。左右何れか一方の端軸部分11が、回転駆動部(図示省略)に接続されている。回転駆動部によって軸部10ひいてはロール電極1が軸線Lのまわりに回転される。以下、左右の端軸部分11を互いに区別するときは、左側の端軸部分11の符号に「L」を付し、右側の端軸部分11の符号に「R」を付す。
【0015】
図3及び図4に示すように、ロール電極1の円筒部20は、軸方向Lに被処理物9の連続方向と直交する幅方向より長く延びている。円筒部20は、同軸をなす三重の筒21,22,23と、左右一対の端壁部30を含む。三重筒の外筒を構成する筒本体21は、ステンレスやアルミニウム等の金属にて構成され、軸部10と同軸の円筒状になっている。筒本体21に電源3が電気的に接続されている。筒本体21の外周面が、放電面21aになっている。放電面21aと他の電極2との間に放電が生成され、被処理物9の上記プラズマ表面処理がなされる。図7に示すように、放電面21aは、薄い固体誘電体層24(図3及び図4において省略)にて覆われている。固体誘電体層24は、例えばシリコンゴムにて構成されているが、これに限定されるものではなく、アルミナの溶射膜であってもよい。
【0016】
図1に示すように、筒本体21の左右両端部ひいては円筒部20の左右両端部は、第2のロール電極2の円筒部2より軸方向Lの外側へ突出している。図3に示すように、放電面21の左端部は、第2のロール電極2の円筒部2より左方へ延出している。図4に示すように、放電面21の右端部は、第2のロール電極2の円筒部2より右方へ延出している。
【0017】
筒本体21の内部に中間筒22が収容されている。中間筒22は、ポリ塩化ビニル(PVC)等の樹脂にて構成され、筒本体21と同軸かつ筒本体21より少し小径の円筒状になっている。
【0018】
中間筒22の内部に内筒23が収容されている。内筒23は、ステンレスやアルミニウム等の金属にて構成され、筒本体21及び中間筒22と同軸かつ中間筒22より小径の円筒状になっている。内筒23の内部には中心軸Lに沿って中間軸部分13が配置されている。内筒23の内周面と中間軸部分13の外周面との間は空洞になっている。
【0019】
三重筒21〜23の左右両端部がそれぞれ端壁部30にて塞がれている。左右の各端壁部30は、外壁部材31と、内壁部材32を含む。以下、左右の端壁部30を互いに区別するときは、左側の端壁部30及びその構成要素の符号に「L」を付し、右側の端壁部30及びその構成要素の符号に「R」を付す。
【0020】
図5及び図6に示すように、外壁部材31は、PVC等の樹脂にて構成され、軸部10及び三重筒21〜23と同軸の円環形の板状になっている。外壁部材31の外径は筒本体21の外径とほぼ等しく、外壁部材31の外周面が筒本体21の外周面とほぼ面一になっている。外壁部材13が筒本体21より大径でもよく小径でもよい。図3に示すように、左側の外壁部材31Lは、第2のロール電極2の円筒部2aより左外方へ突出して配置されている。図4に示すように、右側の外壁部材31Rは、第2のロール電極2の円筒部2aより右外方へ突出して配置されている。
【0021】
図3及び図4に示すように、左右の各外壁部材31の内周側(径方向rの内側)の端面が、端軸部分11の外周面と接合されている。左右の各外壁部材31の内側面(円筒部20の内部を向く側の面)には、環状凸部35が形成されている。環状凸部35は、当該外壁部材31と同軸の環状になっている。外壁部材31における環状凸部35より径方向rの外側部分に、筒本体21の軸方向Lの端部が接合されている。環状凸部35の突出端部に中間筒22の軸方向Lの端部が接合されている。環状凸部35の径方向rの内側に内筒23の軸方向Lの端部が接合されている。
【0022】
図3及び図4に示すように、左右の各内壁部材32は、ステンレスやアルミニウム等の金属にて構成され、外壁部材31と同軸の円環形になっている。図3に示すように、左側の内壁部材32Lの軸方向Lの外側面が、外壁部材31Lの軸方向Lの内側面に当てられ、内外の壁部材32L,31Lが接合されている。内壁部材32Lの内周側(径方向rの内側)の端面が、端軸部分11Lの外周面と接合されている。内壁部材32Lの外周側(径方向rの外側)の部分に内筒23の左端部が接合されている。図4に示すように、右側の内壁部材32Rの軸方向Lの外側面が、外壁部材31Rの軸方向Lの内側面に当てられ、内外の壁部材32R,31Rが接合されている。内壁部材32Rの内周側(径方向rの内側)の端面が、端軸部分11Rの外周面と接合されている。内壁部材32Rの外周側(径方向rの外側)の部分に内筒23の右端部が接合されている。
【0023】
図1に示すように、ロール電極1の内部には、冷却液供給源6からの冷却液を流す冷却液路60が形成されている。冷却液としては、例えば水が用いられている。冷却液は、水に限られるものではなく、例えば不凍液を用いてもよい。冷却液路60は、導入路61と、往路62と、冷却路63と、還路64とを含む。導入路61は、軸線Lに沿って軸部10の例えば左端から右方向へ延びている。往路62は、右端壁部30R内を径方向rの外側へ延びている。冷却路63は、円筒部20の周壁内を軸線Lに沿って右端から左方向へ延びている。還路64は、左端壁部30L内を径方向rの内側へ延びている。以下、詳述する。
【0024】
図3及び図4に示すように、導入路61は、中間軸部分13の内部空間61aと、その右端部に続く右側端軸部分11Rの軸孔61bとにより構成されている。冷却液供給源6からの供給路6aが、左側端軸部分11Lを軸方向Lに貫通し、導入路61の左端部に連なっている。
【0025】
図3及び図4に示すように、左右の各外壁部材31には、複数(例えば8つ)の径方向加工孔66が形成されている。加工孔66は、ドリル等の孔開け機にて形成してもよく、外壁部材31の成型時に同時成型してもよい。各加工孔66は、断面円形をなし、外壁部材31の外周面から内周面へ径方向rに貫通している。図5に示すように、これら加工孔66は、外壁部材31の周方向に間隔を置いて、好ましくは等角度置きに放射状に配置されている。図5及び図6に示すように、各加工孔66における外壁部材31の外周面への開口が閉塞部材33にて塞がれている。閉塞部材33は、ゴム又は樹脂にて構成され、円柱状になっている。
【0026】
図3及び図4に示すように、左右の各外壁部材31には、更に、複数の軸方向加工孔69が形成されている。加工孔69は、ドリル等の孔開け機にて形成してもよく、外壁部材31の成型時に同時成型してもよい。これら加工孔69は、外壁部材31の周方向に間隔を置いて、径方向加工孔66と一対一に対応するよう等角度置きに配置されている。各軸方向加工孔69は、断面円形をなし、環状凸部35の突出端面から外壁部材31の内部へ軸方向Lに延びている。軸方向加工孔69の奥端部が、対応する径方向加工孔66における閉塞部材33の近傍部分にそれぞれ連通している。
【0027】
図3及び図4に示すように、左右の各外壁部材31の内周面には、環状凹部67が形成されている。環状凹部67は、外壁部材31の周方向に沿う環状になっている。各加工孔66の径方向rの内側の端部が、環状凹部67の内底面に達して開口している。
【0028】
図3及び図4に示すように、左右の各端軸部分11の内部には、複数(例えば8つ)の径方向加工孔68が形成されている。図5に示すように、これら加工孔68は、軸部分11の周方向に間隔を置いて、好ましくは等角度置きに放射状に配置されている。各加工孔68は、端軸部分11の外周面から径方向rへ延びている。加工孔68における軸部分11の外周側の端部が、環状凹部67の内部に連なっている。
【0029】
図4に示すように、右側の加工孔68Rにおける軸部分11Rの内周側の端部が、軸孔61bに連なっている。右側の加工孔66R,68R,69Rの内部空間及び環状凹部67Rの内部空間によって、往路62が構成されている。往路62における軸部分11Rの内周側の端部(上流端)が、導入路61の右端部(下流端)に連なっている。
【0030】
図3及び図4に示すように、筒本体21の内周面と中間筒22の外周面との間に冷却路63が形成されている。冷却路63は、円筒部20と同軸の円筒形状の空間になっている。図4に示すように、冷却路63の右端部(上流端)が、軸方向加工孔69R(往路62の下流端)に連なっている。筒本体21の内径と中間筒22の外径との差を小さくすることにより、冷却路63の厚さを小さくできる。
【0031】
図3に示すように、左側の加工孔66L,68L,69Lの内部空間及び環状凹部67Lの内部空間によって、還路63が構成されている。軸方向加工孔69Lが、還路63の上流端を構成し、冷却路63の左端部(下流端)に連なっている。
【0032】
左端軸部分11Lの軸孔の内周面と供給路6aを構成する管との間に排出路65が形成されている。排出路65に径方向加工孔68L(還路64の下流端)が連なっている。排出路65がロール電極1の外部へ引き出されている。
【0033】
図7に示すように、軸部分11と外壁部材31との接合面51が、往復路62,64における加工孔68と環状凹部67との連通部分に達して内側接合線52を形成している。かつ接合面51は、外壁部材31の外面(外側面と内周端面との角)に達して外側接合線53を形成している。内側接合線52は、環状凹部67の周縁に沿う閉曲線になっている。外側接合線53は、端軸部分11を囲む閉曲線になっている。接合面51における加工孔68と環状凹部67との連通部分より軸方向Lの外側には、Oリング71が設けられている。
【0034】
図6及び図7に示すように、閉塞部材33の外周面と加工孔66の開口の内周面との接合面54が、加工孔66の内部空間ひいては往復路62,64に達して内側接合線55を形成している。かつ、接合面54は、外壁部材31の外周面に達して外側接合線56を形成している。接合線55,56は、それぞれ閉塞部材33の周面に沿う円形の閉曲線になっている。
【0035】
図1及び図7に示すように、左右の端壁部30の外面には、溝41が形成されている。図5及び図6に示すように、溝41は、外壁部材41の外周面の周方向に沿って環状に延びている。溝41の断面形状は、例えば四角形状でる。溝41の幅は、例えば1〜3mmである。溝41の深さは、例えば1〜3mm程度である。溝41は、外壁部材41の外周面における外側接合線56及び閉塞部材33(ひいては径方向加工孔66における外壁部材41の外周面への開口)と、放電面21aとの境界1bとの間に配置されている。言い換えると、外側接合線56が、外壁部材41の外周面における溝41よりも軸方向Lの外側部分に配置されている。さらに、図3及び図4に示すように、溝41は、第2のロール電極2の円筒部2aより軸方向Lの外側に配置されている。
【0036】
上記のように構成されたプラズマ表面処理装置Mにおいて、水等の冷却液が、冷却液供給源6から供給路6aを経て導入路61の左端部に導入され、導入路61内を右方向へ流れる。この冷却液が、導入路61の右端部から複数の往路62に入って放射状に拡がるように各往路62内を径方向rの外側へ流れる。この冷却液が、各往路62の外周側端部から冷却路63に入り、冷却路63内をロール電極1の軸方向Lに沿って左方向へ流れる。この過程で筒本体21を冷却することができる。冷却路63の厚さを小さくすることで、冷却液の流量を低減できる。冷却路63の左端部に達した冷却液は、複数の還路64内を径方向rの内側へ流れる。その後、冷却液は排出路65を経て排出される。
【0037】
冷却液路60を流れる冷却液は、Oリング71及び閉塞部材33等にて外部への漏出を防止できる。
万が一、冷却液が、内側接合線55から加工孔66の開口の内周面と閉塞部材33の外周面との間(接合面54)を通って、外側接合線56から端壁部30の外周面に漏れ出て、更に外側接合線56から筒本体21の側へ向けて流れたとしても、この漏出冷却液を放電面21aとの境界1bの手前で溝41内に入り込ませることができる。また、冷却液が、内側接合線52から端軸部分11の外周面と外壁部材31の内周面との間(接合面51)を通り、外側接合線53から端壁部30の外側面に漏れ出て、端壁部30の外側面を伝って径方向rの外側へ流れ、更に端壁部30の外周面を伝って筒本体21の側へ流れたとしても、この漏出冷却液を溝41内に入り込ませることができる。溝41が端壁部30の周方向に沿う環状であるため、漏出冷却液が端壁部30の周方向のどの位置から筒本体21の側へ流れようとしても、溝41内に確実に入り込ませることができる。したがって、漏出冷却液が放電面21aに達するのを確実に阻止できる。これにより、安定的な放電を確保でき、処理の安定性が損なわれるのを防止することができる。
【0038】
外壁部材31が第2のロール電極2の円筒部2aより軸方向Lの外側に突出するよう設けられているため、外壁部材31の外周面上の漏出冷却液が第2のロール電極2の円筒部2aに移るのを防止できる。更に、溝41が第2のロール電極2の円筒部2aより軸方向Lの外側に配置されているため、溝41内に入った漏出冷却液の液面が溝41の外部にはみ出していても、その漏出冷却液が第2のロール電極2の円筒部2aに移るのを防止できる。これにより、処理の安定性を一層確実に確保できる。
【0039】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の形態と重複する構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を省略する。
漏出冷却液の流れ止め用の溝は、端壁部30の外周面及び外側面からなる外面に設けられていればよく、外壁部材31の外周面に限られず、外壁部材31の外側面に設けられていてもよい。
図8に示す第2実施形態では、外壁部材31の外周面の溝41に加えて、外壁部材31の外側面にも溝42が形成されている。溝42は、外壁部材31及び端軸部分11の周方向に沿って延びる環状になっており、ひいては外側接合線31に沿って延びる環状になっている。溝42の断面形状は、例えば四角形状でる。溝42の幅は、例えば1〜3mmである。溝42の深さは、例えば1〜3mm程度である。外側接合線53が溝42によって囲まれている。
【0040】
冷却液が接合面51を伝って外側接合線53から端壁部30の外側面に漏れ出たときは、この漏出冷却液を溝42内に入り込ませることができる。これによって、漏出冷却液が放電面21aまで達するのを一層確実に阻止することができる。
【0041】
図9に示す第3実施形態では、複数(図9では1つのみ図示)の軸方向加工孔69の各々が、径方向加工孔66と交差し、外壁部材31の外側面に達している。加工孔69における外壁部材31の外側面への開口は、閉塞部材34にて塞がれている。閉塞部材34は、ゴム又は樹脂にて構成され、円柱状になっている。加工孔69の上記開口の内周面と閉塞部材34との接合面57が、加工孔69内の冷却液路60に達して内側接合線58を形成している。かつ接合面57は、外壁部材31の外側面に達して外側接合線59を形成している。外壁部材31の外側面に溝43が形成されている。溝43は、閉塞部材34にて塞がれた加工孔66の開口より径方向rの外側に設けられ、外壁部材31の周方向に延びる環状になっている。溝43の断面形状は、例えば四角形状でる。溝43の幅は、例えば1〜3mmである。溝43の深さは、例えば1〜3mm程度である。
【0042】
冷却液が接合面57を伝って外側接合線59から端壁部30の外側面に漏れ出て、径方向rの外側へ流れようとしたときは、この漏出冷却液を溝43に入り込ませることができる。これによって、漏出冷却液が放電面21aまで達するのを防止することができる。
【0043】
本発明は、上記実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変をなすことができる。
例えば、溝41,42,43は、1条に限られない。複数条の溝41,42,43を平行に設けてもよい。
溝41,42,43の断面形状は、四角形状に限られず、半円状や三角形状であってもよい。溝41,42,43の幅と深さは、それぞれ1〜3mmが好ましいが、この数値範囲に限られるものではなく、想定される冷却液の漏出量に応じて溝の断面形状とともに設計すればよい。
外側接合線56ごとに溝41が設けられ、各溝41が対応する1つの外側接合線56を囲む環状になっていてもよい。
第3実施形態において、外側接合線59ごとに溝43が設けられ、各溝43が対応する1つの外側接合線59を囲む環状になっていてもよい。第3実施形態において、溝43を省略してもよい。
電源電極となる1つのロール電極1を挟んで両側に接地電極となるロール電極2を配置してもよい。さらに、図示は省略するが、合計で4つ以上のロール電極1,2を交互に配置してもよい。
ロール電極1との間に放電空間を形成する他の電極は、第2ロール電極2に限られず、平板電極でもよく、ロール電極1の周面に沿う凹曲面を有する電極でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、半導体装置や液晶表示装置の製造に適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
M プラズマ表面処理装置
1 (第1の)ロール電極
1b 境界
2 第2のロール電極
2a 円筒部
2b 軸部
3 電源
4 折り返しロール
5 支持部
6 冷却液供給源
6a 供給路
9 被処理物
10 軸部
11 端軸部分
13 中間軸部分
20 円筒部
21 外筒
21a 放電面
22 中間筒
23 内筒
24 固体誘電体層
30 端壁部
31 外壁部材
35 環状凸部
32 内壁部材
33,34 閉塞部材
41,42,43 溝
51,54,57 接合面
52,55,58 内側接合線
53,56,59 外側接合線
60 冷却液路
61 導入路
62 往路
63 冷却路
64 還路
65 排出路
66 加工孔
71 Oリング(シール部材)
L 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電によって被処理物の表面をプラズマ処理するプラズマ表面処理装置において、
軸方向に沿う軸部と、前記軸部と同軸をなす円筒部とを有するロール電極を備え、
前記円筒部が、外周面が前記放電を生成する放電面となる金属製の筒本体と、この筒本体の軸方向の両端部に前記放電面より軸方向の外側へ突出するよう設けられた端壁部とを含み、かつ前記ロール電極の内部には冷却液を流す冷却液路が形成され、前記端壁部を構成する複数の部材どうし又は前記端壁部と前記軸部どうしの接合面が、前記冷却液路に達して内側接合線を形成し、かつ前記端壁部の外面に達して外側接合線を形成しており、
前記外面における、前記放電面との境界と前記外側接合線との間には、前記端壁部の周方向又は前記外側接合線に沿って延びる溝が形成されていることを特徴とするプラズマ表面処理装置。
【請求項2】
前記溝が、前記端壁部の外周面に環状に設けられ、前記外側接合線が、前記端壁部の外周面における前記溝よりも前記軸方向の外側部分又は前記端壁部の外側面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ表面処理装置。
【請求項3】
前記端壁部には外面から内部へ延びて前記冷却液路の一部を構成する加工孔が形成され、前記加工孔の前記外面への開口に閉塞部材が設けられ、前記開口の内周面と閉塞部材の外周面とによって前記接合面が形成されており、前記溝が、前記外面における前記閉塞部材にて塞がれた前記開口と前記境界との間に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマ表面処理装置。
【請求項4】
前記放電面との間に前記放電を生成する第2のロール電極を更に備え、前記端壁部が、前記第2のロール電極の円筒部より前記軸方向の外側に突出するよう設けられ、前記溝が、前記第2のロール電極の円筒部より前記軸方向の外側に配置されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のプラズマ表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−71016(P2011−71016A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222398(P2009−222398)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】