メタマテリアル電力増幅器システム
電力増幅システムならびにそのモジュールおよび構成要素が、CRLH構造に基づいて設計され、高効率および高線形性が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張および関連出願
本特許出願は、2008年2月18日に出願され、“A Metamaterial Power Amplifier System and Method for Generating Highly Efficient and Linear Multi-Band Power Amplifiers”と題された米国仮特許出願第61/153,398号の恩典を主張する。上記仮出願の開示内容は、参照により本明細書に組み入れられる。本特許出願は、2007年4月27日に出願され、“Antennas, Devices and Systems based on Metamaterial Structures”と題された米国特許出願第11/741,674号、2009年9月22日に発行され、“Antennas Based on Metamaterial Structures”と題された米国特許第7,592,952号、および2007年12月21日に出願され、“Power Combiners and Dividers Based on Composite Right and Left Handed Metamaterial Structures”と題された米国特許出願第11/963,710号に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
本書類は、メタマテリアル構造に基づいた電力増幅器システムおよびその構成要素に関する。
【0003】
大半の物質における電磁波の伝播は、電界をE、磁界をH、および波数ベクトル(すなわち伝播定数)をβとした場合、(E,H,β)ベクトル場の右手の法則に従う。位相速度方向は、信号エネルギー伝播(群速度)の方向と同一であり、屈折率は正の数である。このような物質は、右手系(RH)物質と呼ばれる。大半の自然物質は、RH物質である。人工物質にも、RH物質が存在し得る。
【0004】
メタマテリアル(MTM)は、人工的な構造を有する。メタマテリアルにより誘導される電磁エネルギーの波長よりも大幅に小さい構造平均ユニットセルサイズで設計される場合、該メタマテリアルは、誘導される電磁エネルギーに対して均質媒質のような挙動を取ることが可能である。RH物質とは異なり、メタマテリアルは負の屈折率を示すことが可能であり、位相速度方向は、信号エネルギー伝播の方向と逆であり、(E,H,β)ベクトル場の相対的な方向は、左手の法則に従う。誘電率εおよび透磁率μが同時に負であり、負の屈折率を有するメタマテリアルは、純粋な左手系(LH)メタマテリアルと呼ばれる。
【0005】
多くのメタマテリアルが、LHメタマテリアルとRH物質との混合物であるため、右手/左手系複合(CRLH)メタマテリアルである。CRLHメタマテリアルは、低周波数ではLHメタマテリアルのような挙動を取り、高周波数ではRH物質のような挙動を取ることが可能である。様々なCRLHメタマテリアルの実装および特性は、例えば、Caloz and Itoh, “Electromagnetic Metamaterials: Transmission Line Theory and Microwave Applications,” John Wiley & Sons (2006年)(非特許文献1)に記載されている。CRLHメタマテリアルおよびそれらのアンテナへの適用は、Tatsuo Itoh, “Invited paper: Prospects for Metamaterials,” Electronics Letters, Vol. 40, No. 16 (2004年8月)(非特許文献2)に記載されている。CRLHメタマテリアルは、特定の用途に合った電磁特性を示すように構成されて操作され得、他の物質を用いることが困難、非実用的、または実行不可能であるかもしれない用途に用いられ得る。さらに、CRLHメタマテリアルは、RH物質では可能ではなかったかもしれない新たな用途を開発し、新たなデバイスを構築するのに用いられ得る。
【0006】
いくつかの用途において、MTMおよびCRLHの構造および構成要素は、左手系(LH)構造の概念を適用した技術に基づいている。本明細書において用いられるところの用語「メタマテリアル」、「MTM」、「CRLH」、および「CRLH MTM」は、従来の誘電体および導電体を用いて操作され、特有の電磁気的特性を生じさせたLHとRHとの複合構造を指す。この場合の複合ユニットセルは、伝播する電磁波の波長よりも大幅に小さい。
【0007】
本明細書において用いられるところのメタマテリアル技術は、導電体部分および誘電体部分からなる小型のデバイスを可能にし、電磁波を送受信するのに用いられる技術的手段、方法、装置、発明、および操作処理を含む。MTM技術を用いた場合、アンテナおよびRF構成要素を、競合する方法と比較して非常に小型に製造し得、望ましくない干渉および電磁結合を最小化するのと同時に、相互または他の隣接構成要素と非常に接近して配置され得る。このようなアンテナおよびRF構成要素は、無線通信デバイス内のアンテナおよびRF構成要素を設計し、一体化し、最適化する様々な構造の1つまたは複数に由来する有用かつ特有の電磁気的挙動をさらに示す。
【0008】
CRLH構造は、ある周波数範囲で同時の負の誘電率(ε)および負の透磁率(μ)を示し、別の周波数範囲で同時の正のεおよび正のμを示す構造としての挙動を取る構造である。伝送線路(TL)に基づいたCRLH構造は、TL伝播を可能にし、ある周波数範囲で同時の負の誘電率(ε)および負の透磁率(μ)を示し、別の周波数範囲で同時の正のεおよび正のμを示す構造としての挙動を取る構造である。CRLH系アンテナおよびTLは、従来のRF設計構造を用いても用いなくても、設計し、実装し得る。
【0009】
従来の導電部分および誘電体部分からなるアンテナ、RF構成要素、および他のデバイスは、MTM構造としての挙動を取るように設計された場合、「MTMアンテナ」や「MTM構成要素」等と称され得る。MTM構成要素は、従来の導電体および絶縁体ならびに標準的な製造技術を用いて簡単に製造し得る。該製造技術には、FR4、セラミック、LTCC、MMIC、柔軟性のあるフィルム、プラスチック、またはさらには紙等の基材上に、導電層を印刷、エッチング、およびサブトラクティブする工程が非限定的に含まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Caloz and Itoh, “Electromagnetic Metamaterials: Transmission Line Theory and Microwave Applications,” John Wiley & Sons (2006年)
【非特許文献2】Tatsuo Itoh, “Invited paper: Prospects for Metamaterials,” Electronics Letters, Vol. 40, No. 16 (2004年8月)
【発明の概要】
【0011】
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】区間pで直列接続された少なくとも3つのCRLHユニットセルを有するMTM伝送線路(TL)の等価回路を示す。
【図1A】CRLHユニットセルの様々な構成を示す。
【図1B】CRLHユニットセルの様々な構成を示す。
【図1C】CRLHユニットセルの様々な構成を示す。
【図1D】CRLHユニットセルの様々な構成を示す。
【図1E】CRLHユニットセルの様々な構成を示す。
【図1F】等価のRHシャントキャパシタンスCRおよびRH直列インダクタンスLRで表わされた直列RH TLを示す。
【図1G】等価のRHシャントキャパシタンスC’RおよびRHシャントインダクタンスL’Rで表わされたシャントRH TLを示す。
【図2】均衡CRLHユニットセルに対するCRLH分散曲線を、RH分散曲線およびLH分散曲線と比較して示す。
【図3】点線、1点鎖線、および実線でそれぞれ示されるRH位相応答、LH位相応答、およびCRLH位相応答の例を示す。
【図4】電力増幅器(PA)中のトランジスタにバイアスをかけるRF信号経路に結合された従来のシングルバンドバイアス回路の一例を示す。
【図5】図4に示す従来のシングルバンドバイアス回路を用いた、WiFi用途の2.4GHzおよび5.8GHzの2つの周波数に対するスミスチャートにおけるインピーダンスのシミュレーション結果をプロットしたものである。
【図6】PA中のトランジスタにバイアスをかけるRF信号経路に結合されたデュアルバンドバイアス回路の一例を示す。
【図7】図6に示すデュアルバンドバイアス回路を用いた、2.4GHzおよび5.8GHzの2つの周波数に対するスミスチャートにおけるインピーダンスの測定結果をプロットしたものである。
【図8】シャントCRLH TL構成を有する周波数セレクタの一例を示す。
【図9】一方のCRLH TLがシャントであり、他方が直列である2つのCRLH TLを有する周波数セレクタの一例を示す。
【図10】図9の周波数セレクタの一実装例における挿入損失のシミュレーション結果をプロットしたものである。
【図11】直列RH TLおよびシャントCRLH TLを有する周波数セレクタの一例を示す。
【図12】図11の周波数セレクタの一実装例のレイアウトを示す。
【図13】図12の実装例における反射損失および挿入損失のシミュレーション結果および測定結果をプロットしたものである。
【図14】直列CRLH TLおよび開放シャントRH TLを有する周波数セレクタの一例を示す。
【図15】直列CRLH TLおよび短絡シャントRH TLを有する周波数セレクタの一例を示す。
【図16】ある1つの周波数の信号を通過させ、2つの異なる周波数の信号をフィルタ処理する周波数セレクタの一例を示す。
【図17】ポートP3が開放である図16の周波数セレクタの一実装例のレイアウトを示す。
【図18】図17の実装例におけるCRLH TLの位相応答曲線を、RH応答曲線およびLH応答曲線との比較としてプロットしたものであり、それぞれを、実線、点線、および破線で示す。
【図19】図17の実装例における反射損失および挿入損失の測定結果およびシミュレーション結果をプロットしたものである。
【図20】一次周波数の信号を通過させ、第二高調波および第三高調波の信号をフィルタ処理する周波数セレクタの一例を示す。
【図21】拡張CRLH(extended-CRLH)(E-CRLH)ユニットセルを示す。
【図22】図16のように構成されているが、従来のCRLH(C-CRLH)TLの代わりにE-CRLH TLを有する周波数セレクタの挿入損失のシミュレーション結果をプロットしたものである。
【図23】直列素子X1, X2, …, Xnおよびシャント素子Y1, Y2, …, Ynを有するマルチバンド周波数セレクタの一例を示す。
【図24】Y1, Y2, …, YnおよびY1a, Y2a, …, Ynaで示されるように、2つのシャント素子が各ブランチに結合されているマルチバンド周波数セレクタの一例を示す
【図25】周波数セレクタおよびハイパスフィルタ(HPF)を有するダイプレクサの一実装例のレイアウトを示す。
【図26】図25の実装例において、挿入損失P2-P1、挿入損失P3-P1、およびアイソレーションP3-P2の測定結果をプロットしたものである。
【図27】図27A〜図27Cは、並列接続された2つの周波数セレクタの3つの異なるオン/オフ構成を示す。
【図28】シャント接続された2つのCRLH TLを有する能動周波数セレクタの一例を示す。
【図29】シャント接続され、能動高調波トラップとして用いられる2つのCRLH TLを有する能動周波数セレクタの一例を示す。
【図30】複数の周波数帯域に対する第1の電力増幅システムのブロック図を示す。
【図31】複数の周波数帯域に対する第2の電力増幅システムのブロック図を示す。
【図32】能動周波数セレクタを用いた、図30の電力増幅システムに基づいたデュアルバンドPAの一例を示す。
【図33】2つの入力ポートおよび2つの出力ポートを有する、図30の電力増幅システムに基づいたデュアルバンドPAの一例を示す。
【図34】2つの入力ポートおよび2つの出力ポートを有する、図30の電力増幅システムに基づいたデュアルバンドPAの一例を示す。
【図35】MESFETのI-V特性を様々な級動作のバイアス点とともに示す。
【図36】図36A〜図36Bは、PAにおいて高調波を除去する3つの異なる構成の模式図を示す。
【図37】図36BのMTM高調波トラップを有するJ級MTM PAの一実装例のレイアウトを示す。
【図38】図37の実装例における入力電力(Pin)の関数として、電力付加効率(PAE)および出力電力(Pout)の測定結果をプロットしたものである。
【図39】図36Cの出力整合インピーダンス(OMN)一体化MTM高調波トラップを有するJ級MTM PAの一実装例のレイアウトを示す。
【図40】図39の実装例についてPout対Pinの測定結果をプロットしたものである。
【図41】図39の実装例についてPAE対Poutの測定結果をプロットしたものである。
【図42】図39の実装例についてPAE対Pinの測定結果を示す。
【図43】図39のJ級MTM PAのモノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)実装についてPAE対周波数のシミュレーション結果をプロットしたものである。
【図44】バラクタを含むCRLH TLを用いた電力増幅器構成例の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
現代の通信システムにおいて、様々な仕様に合致し、特定の性能レベルを実現するために、電力増幅器(PA)が高線形性および/または高効率を有することが一般的に好適である。高効率は、送受話器をより長時間作動させるように、送受話器の電池寿命を延長するのに重要である。高線形性は、歪みを最小にして信号の完全性を維持するのに重要である。
【0014】
MTM構造は、アンテナ、伝送線路、ならびに他のRF構成要素およびデバイスを構築するのに用いて、機能増強、サイズ縮小、および性能向上等の広範囲の技術進歩を可能にし得る。本書類では、MTM構造を用いて高効率および高線形性の両方を実現するPAおよび構成要素の設計を記載する。
【0015】
MTM構造は、1つまたは複数のユニットセルを有する。MTM系構成要素およびデバイスは、これらのユニットセルに基づいて設計され得る。該ユニットセルは、分布回路素子、集中回路素子、またはこれらの組み合わせを用いて実装され得る。図1は、区間pで直列接続された少なくとも3つのCRLHユニットセルを有するMTM伝送線路(TL)の等価回路10を示す。MTM TLの長さをlとし、CRLHユニットセルの数をNとすると、一般にl=N×pの関係が成り立つ。各ユニットセル12に対する等価回路は、RH直列インダクタンスLR、RHシャントキャパシタンスCR、LH直列キャパシタンスCL、およびLHシャントインダクタンスLLを有する。LHシャントインダクタンスLLおよびLH直列キャパシタンスCLを、構築し、接続して、ユニットセル12にLH特性を提供し得、RH直列インダクタンスLRおよびRHシャントキャパシタンスCRを、構築し、接続して、ユニットセル12にRH特性を提供し得る。
【0016】
図1A〜図1Eは、CRLHユニットセルの様々な構成を示す。直列RHブロック100は、図1Fに示すようにRHシャントキャパシタンスCR102およびRH直列インダクタンスLR104で等価に表わされ得る従来のマイクロストリップ等のRH TLを表す。図1Gに示すようにRH TLがシャント構成に用いられる場合、シャントRH TL106は、RHシャントキャパシタンスC’R108およびRHシャントインダクタンスL’R110で等価に表わされ得る。なお、直列RH TL100およびシャントRH TL106を同様のTLサイズで組み合わせた場合、LR値がL’R値よりも優勢であり、C’R値がCR値よりも優勢である。これは、直列RH TLとシャントRH TLとの組み合わせが、RH特性に1つの総RHシャントキャパシタンスおよび1つの総RH直列インダクタンスを依然として提供していることを示す。図1Dおよび図1Eは、図1の元のCRLHユニットセルで、CRおよびLRがRH TLで置換されている例を示す。図1A〜図1Cにおける「RH/2」は、RH TLの長さが2で割られていることを示す。図1Aは、図1のCRLHユニットセルを対称となるように示したものであり、CRおよびLRがRH TLで置換され、さらにRH TLが2つのRH/2に対称的に分割されている。変更例には、図1Aに示すような構成で、RH/2とCLとを入れ替えたもの、および図1A〜図1Cに示すような構成で、両側にRH/2がある代わりに一方の側にRH/4が他方の側に3RH/4があるものが含まれる。あるいは、RH伝送線路を分割するのに、別の補完的な分数が用いられ得る。MTM構造は、分布回路素子、集中回路素子、またはこれらの組み合わせを用いて、CRLHユニットセルに基づいて実装され得る。このようなMTM構造は、FR-4プリント回路基板(PCB)またはフレキシブルプリント回路(FPC)基板等の回路基板を含む様々な回路プラットフォーム上に製造され得る。他の製造技術の例は、薄膜製造技術、システムオンチップ(SOC)技術、低温同時焼成セラミックス(LTCC)技術、モノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)技術、およびMEMS(Micro-Electro Mechanical System)技術を含む。MTM構造に基づいたアンテナ構造、伝送線路、および他のRF構成要素のいくつかの例および実装が、2007年4月27日に出願され、“Antennas, Devices and Systems based on Metamaterial Structures”と題された米国特許出願第11/741,674号、2009年9月22日に発行され、“Antennas Based on Metamaterial Structures”と題された米国特許第7,592,957号、および2007年12月21日に出願され、“Power Combiners and Dividers Based on Composite Right and Left Handed Metamaterial Structures”と題された米国特許出願第11/963,710号に記載されている。
【0017】
純粋なLHメタマテリアルは、ベクトル3要素(E,H,β)について左手の法則に従い、位相速度方向は、信号エネルギー伝播方向と逆となる。LH物質の誘電率εおよび透磁率μの両方が同時に負となる。CRLHメタマテリアルは、動作の状態または周波数によって、左手系や右手系の電磁特性を示す。さらにCRLH構造は、信号の波数ベクトルβ(すなわち伝播定数)がゼロとなる場合、非ゼロの群速度を示し得る。CRLL≠CLLRとなる不均衡状態では、電磁波の伝播が禁止されるバンドギャップが存在する。CRLL=CLLRとなる均衡状態では、分散曲線には、LH領域とRH領域との間で、伝播定数β(ωo)=0の転移点において、不連続箇所が見られない。この場合、誘導される波長は無限、すなわち、λg=2π/|β|→∞であり、群速度は正の値をとる。
この状態は、TL実装における0次モードに相当する。
【0018】
図2は、CRLL=CLLRとなる均衡のとれたCRLHユニットセルに対するCRLH分散曲線βを、RH分散曲線βRおよびLH分散曲線βLと比較して示す。この場合のCRLH分散曲線は、以下の式によって近似され得る。
CRLL≠CLLRとなる不均衡状態では、分散曲線βは、以下のように表され得る。
式中、
不均衡状態では、2つの可能な0次共振であるωseおよびωshが存在する。これらは、無限の波長(β=0、基本モード)に対応可能であり、以下の式で表される。
ωseおよびωshにおいて、群速度(vg=dω/dβ)はゼロであり、位相速度(vp=ω/β)は無限である。CRLHユニットセルの均衡がとれている場合、これらの共振周波数は、図2に示すように一致し、以下のように示される。
ここで、式(1)のような正の群速度(vg=dω/dβ)および無限の位相速度(vp=ω/β)を得ることが可能である。RH TL共振器において、共振周波数は、電気長θm=βπl=mπ(m=1, 2, 3, …)に相当する。但し、lは、TLの長さである。図2において、RH分散曲線およびLH分散曲線は、それぞれβRおよびβLで表される。図2において、CRLH分散曲線は、β=βR+βLで表され、ここで、βRおよびβLは、それぞれ式(2)における第一項および第二項に相当する。CRLH TL共振器において、共振周波数は、電気長θm=βml=mπに相当する。但し、lは、CRLH TLの長さであり、1=N×pの関係が成り立ち、パラメータは、m=0, +1, ±2, ±3, …, ±∞である。したがって、CRLH構造は、図2においてCRLH分散曲線を区切っている縦線で示されるように、負のβ領域および正のβ領域の両方に延びる分散曲線を有する共振周波数のスペクトルに対応している。
【0019】
式(2)に表すような分散曲線を有する均衡状態において、位相応答は、以下のように表され得る。
但し、l=N×pである。したがって、CRLH位相の傾きは、以下のように与えられる。
特性インピーダンスは、以下のように与えられる。
したがって、式(11)のインピーダンス整合条件等の制約内で、等価回路パラメータ値CR、LL、CL、およびLR、ならびにユニットセルの数Nを、選択し、制御して、CRLH構造の望ましい位相応答曲線を生成し得る。また、RH構造の場合と異なり、CRLH構造では、0度で非ゼロ周波数を得ることが可能である。
【0020】
以下に、デュアルバンドMTM構造の等価回路パラメータを決定する例を示す。同様の技術が、3つ以上の帯域のパラメータを決定するのに用いられ得る。デュアルバンドMTMの設計において、まず、2つの帯域を表す信号周波数f1およびf2が、2つの異なる位相値に対して選択され得る。すなわち、f1でφ1、f2でφ2とする。式(7)〜(11)を用いて、パラメータLR、CR、LL、およびCLの値を、以下のように得ることができる。
但し、Ztは、前提となるシステムの特性インピーダンスを表すZ0CRLHに対する任意の値(例えば、50Ω)である。CRLH TLは、N個のユニットセルで物理的な長さlを有する。各ユニットセルは区間pであり、l=N×pが成り立つ。信号位相値は、φ=-βlによって規定される。したがって、以下が成り立つ。
これにより、以下が示される。
但し、i=1または2である。よって、2つの異なる周波数f1およびf2で2つの異なる位相φ1およびφ2がそれぞれ選択可能となる。
したがって、上記で得られたような5つのパラメータLL、CR、LR、CL、およびNが、N個の共振周波数および位相応答曲線、対応するバンド幅、ならびにこれらの共振付近の入力/出力TLインピーダンス変動を決定可能である。上記の理論およびその派生理論は、例えば、Caloz and Itoh, “Electromagnetic Metamaterials: Transmission Line Theory and Microwave Applications,” John Wiley & Sons (2006年)に記載されている。
【0021】
図3は、点線、1点鎖線、および実線でそれぞれ示されるRH位相応答、LH位相応答、およびCRLH位相応答の一例を示す。CRLH位相応答は、式(7)、(8)、および(9)に表すように、RH構成要素の位相応答とLH構成の位相応答との組み合わせとして表され得る。CRLH TL位相応答は、低周波ではLH位相応答に接近し、高周波ではRH位相応答に接近する。特に、CRLH位相応答曲線は、ゼロからずれた周波数でゼロ位相軸と交差し、正負両方に無限に延びる。したがって、CRLH位相応答曲線は、任意に選択された非ゼロ周波数のペアで望ましい位相のペアを区切るように操作され得る。パラメータLL、CR、LR、CL、およびNの値を、選択し、制御して、望ましい位相応答を生成し得る。ユニットセルの数Nとして、1、2、または3等の小さい数を選択することによって、回路を簡素にし、構成要素の数を減少させ得る。このような固定化されたN値により、CRLH設計のためにパラメータ値を決定する際の元の4自由度、すなわち、LL、CR、LR、およびCLが、式(11)で与えられるインピーダンス整合条件等の制約により、2に低下する。例えば、図3は、第1の周波数f1で選択された位相が0度であり、第2の周波数f2で選択された位相が-360度であるCRLH設計例を示す。
【0022】
これらのCRLH特性は、シングルバンド動作およびマルチバンド動作のための、アンテナ、方向性結合器、整合ネットワーク、PA、フィルタ、電力合成器および電力分配器、ならびに他の様々なRF構成要素および一体化システムを提供するのに利用され得る。ここで用いられるPAおよび構成要素または回路のいくつかの実装例を、従来例との比較において、CRLH構造に基づいて下記に記載する。
【0023】
図4は、PA中のトランジスタにバイアスをかけるRF信号経路に結合された従来のシングルバンドバイアス回路の例400を示す。RF通信システムにおいて、バイアス回路は、一般的に、トランジスタにDC電力を供給するが、RF信号に対して透過的であるように設計され、RF信号がバイアス回路内へと漏洩してバイアス回路が含まれるPAの性能が劣化する可能性を防止する。図4の従来のシングルバンドバイアス回路は、各TLの一端で放射状に接続され、バイアスライン424を介してRF信号経路414に結合される3つのRH TL404、408、および412を含む。シングルバンドが、動作周波数f1によって表され、バイアス電圧または電流が、RH TL404を介して供給され、RF信号経路414が、2つの回路ブロック416および420を通る矢印で示される。回路ブロック416および420は、トランジスタおよび他の周辺RF回路機構を表す。RH TL408および412のそれぞれの電気長を、f1で1/4波長となるように選択して、接続端(基端(proximal end))に短絡回路を生成し、他端(末端(distal end))に開放回路を生成し得る。同様に、RH TL408のf1での位相φ1およびRH TL412のf1での位相φ2は、-90°×(2k+1)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように選択され得る。なお、RH位相は、式(8)および図2に示すように、DC点以外では負である。短絡点および開放点の位置を、図4のスミスチャートに示す。本例において、RH TL408の末端が、グランド、回路、または構成要素に短絡されるのではなく、開放されるように構成される。f1で1/4波長となる場合、RH TL408は、末端での開放から基端での短絡へとインピーダンスを変化させるインピーダンス変成器として作用する。また、f1で1/4波長となる場合、RH TL412は、基端での短絡から末端での開放へとインピーダンスを変化させる別のインピーダンス変成器として作用し、バイアスライン424を介してトランジスタに結合される。したがって、f1のRF信号に開放されることになるため、RF信号経路414は、バイアスライン424に影響されない。この構成によって、1/4波長RH TLの使用に基づいて、単一の周波数または選択された周波数の奇数倍で同一の動作が可能となる。というのも、RH位相の選択は、式(8)および図2に示すように、周波数における線形ライン上に位置するように制限されるからである。したがって、RH TLに基づいた従来の設計は、相互に倍数となり得ない2つ以上の任意の周波数に係るマルチバンド用途に対して適切となり得ない。
【0024】
上記の例において、1/4波長RH TLの形状が、直線スタブ(straight stub)となるように選択される。別の従来例において、1/4波長RH TLの形状が、放射状となるように選択され得、これによって、バンド幅の増加に寄与し得る。しかし、このような放射状RH TLは、一般的に、スタブ形状のRH TLよりも占める面積が大きくなる。
【0025】
図5は、図4に示す従来のシングルバンドバイアス回路を用いた、WiFi用途の2.4GHzおよび5.8GHzの2つの周波数に対するスミスチャートにおけるインピーダンスのシミュレーション結果をプロットしたものである。結果は、従来のシングルバンドバイアススキームにおいて、2つ以上の選択された周波数に対して同時にバイアスライン424上に開放回路を有することができないことを示す。具体的には、バイアスラインは、対象となる周波数のうちの1つ(例えば、2.4GHz)では、開放回路を形成し得るが、他の周波数(例えば、5.8GHz)では、図5に示すようなスミスチャート上の異なる点となり得るインピーダンスを提供する。2つの任意の周波数に対応する2つのインピーダンスの調整が困難な原因は、図3および式(8)の点線で示すように実質的に線形の位相応答を有する従来のRH TLを用いるためであると考えられる。
【0026】
マルチバンドバイアス回路をMTM構造に基づいて構築して、上記のような従来のシングルバンドバイアス回路に関する欠点のいくつかを克服し得る。図6は、PA中のトランジスタにバイアスをかけるRF信号経路に結合されたデュアルバンドバイアス回路の例600を示す。このデュアルバンドバイアス回路は、各TLの基端で放射状に接続され、バイアスライン624を介してRF信号経路614に結合される2つのRH TL604および612ならびに1つのCRLH TL608を含む。デュアルバンドが、動作周波数f1およびf2によって表され、バイアス電圧または電流が、RH TL604を介して供給され、周波数f1およびf2のRF信号経路614が、2つの回路ブロック616および620を通る矢印で示される。回路ブロック616および620は、トランジスタおよび他の周辺回路機構を表す。この構成は、1つのCRLH TL608、および、インピーダンス変成のために、図4の従来のシングルバンドバイアス回路中のような2つの1/4波長RH TLの代わりに1つのRH TL612を有する。CRLH TL608を用いることによって、図中のスミスチャートを参照して下記に説明するように、DC電力をトランジスタへ流しながら、2つの異なるRF周波数f1およびf2で開放バイアスライン624が可能となる。RH TL612の電気長を、2つの周波数f1およびf2で2つの任意の位相φ3=X°およびφ4=Y°をそれぞれ有するように選択し得る(直線関係にある場合)。すなわち、これらの2つの点は、図3に示す点線のようなRH位相応答線上の点のペアに相当する。RH位相応答の線形性のため、一方の位相(X°またはY°)が選択された場合、他方(Y°またはX°)は、固定化f1およびf2に対して自動的に固定化される。CRLH TL608の末端を開放しながらRH TL612の末端に開放回路を有するために、位相X°およびY°に対応するインピーダンスZXおよびZYがCRLH TL608によって補償されなくてはならない。これは、RH位相応答の場合よりもCRLH位相応答を決定する自由度が大きいために可能である。CRLH TL608の電気長を、例えば、f1でφ1=360°-X°、f2でφ2=360°-Y°となるように選択して、ZX/ZYと開放との間でインピーダンス変成器としてCRLH TL608を作用させ得る。これらの2つの点は、図3に示す実線のようなCRLH位相応答線上の点のペアに相当する。開放点となるZX点およびZY点の位置を、図6のスミスチャートに示す。RF経路614は、バイアスライン624がf1およびf2のRF信号に開放されるため、影響されない。本例において、開放からバイアスライン624までの全電気長(すなわち、CRLH TL608の開口端からRH TL612の開口端まで)が、360°となるように選択される。一般に、全電気長は、開放-開放のインピーダンス変成が得られるように、0°、180°、360°、または180°の倍数となるように選択され得る。すなわち、f1でφ1=k×180°-X°、f2でφ2=k×180°-Y°(但し、k = 0, ±1, ±2, …)となる。
【0027】
図6に示すデュアルバンドMTMバイアス手法は、図3の点線のようなRH位相応答線上の複数の周波数に対応するRH TL612に対して複数の位相を選択し、それぞれのRH位相を補償するようにCRLH位相を選択することにより、マルチバンドMTMバイアス手法に拡張され得る。また、この構成は、CRLH TL608の末端が開放ではなく短絡される場合にも拡張され得る。この場合、CRLH TL608の位相を選択して、短絡からZX/ZYへの変成を行うインピーダンス変成器としてCRLH TL608を作用させ得る。本例において、短絡からバイアスライン624までの全電気長(すなわち、CRLH TL608の短絡端からRH TL612の開口端まで)が、f1でφ1=k×90°-X°、f2でφ2=k×90°-Y°(但し、k = ±1, ±2, …)となるように選択され得る。CRLH構造に基づいた同様の設計手法を、3つ以上の帯域のバイアスに対して用いて、短絡CRLH TLを有するマルチバンドMTMバイアス回路を提供することもできる。
【0028】
図7は、図6に示すデュアルバンドバイアス回路を用いた、2.4GHzおよび5.8GHzの2つの周波数に対するスミスチャートにおけるインピーダンスの測定結果をプロットしたものである。本例において、図1に示すような1つのCRLHユニットセルが、CRLH TL608を構築するのに用いられ、等価回路パラメータ値が、CL=約0.61pF、LL=約5.25nH、CR=約1.96pF、およびLR=約16.9nHとなり、デュアルバンド用途に適切なCRLH位相応答が提供される。結果は、CRLH TLを用いることによる設計および位相柔軟性のために、f1=2.4GHzおよびf2=5.8GHzの両方に対するバイアスラインで、開放回路を得ることが可能であるということを示す。
【0029】
別の例において、CRLH TLに基づくデュアルバンドバイアス回路は、1つの周波数f1で開放バイアスラインを有し、異なる周波数f2で短絡バイアスラインを有するように構成され得る。あるいは、第2の周波数f2が、第二またはそれより上次の高調波となるように選択され得る。
【0030】
上記のデュアルバンドバイアス回路設計の例600において、RH TL612およびCRLH TL608は、バイアスラインで単一RF信号または二重RF信号を遮断するように構成される。遮断の代わりに、特定の周波数の信号が、望ましい経路を通るように選択され得る。このような周波数セレクタは、ある周波数f1の信号を伝送可能とし、異なる周波数f2の別の信号を遮断またはフィルタ処理するCRLH構造を用いて、構築され得る。したがって、周波数セレクタは、例えば、ノッチフィルタに典型的に示されるようにフィルタ処理機能を提供し得、PAまたは他の通信システムに対するビルディングブロックとして設計され得る。以下に、CRLH構造に基づいた周波数セレクタのいくつかの例を示す。
【0031】
図8は、シャントCRLH TL構成を有する、一例としての周波数セレクタ800を示す。ポートP1は、RF信号が入力される入力ポートであり、ポートP2は、RF信号が出力される出力ポートである。CRLH TL804の一端(末端)は、短絡されていても開放されていてもよいポートP3に結合されている。CRLH TL804の他端(基端)は、シャントライン808を介して信号経路P1-P2に結合されている。シャントライン808は、CRLH位相応答に基づいてf1およびf2の信号に対して適切な位相を有するようにCRLH TL804を構成することにより、f1の信号に開放され、f2の信号に短絡されるように制御され得る。本例において、CRLH TL804は、ポートP3でのインピーダンスZ3(例えば、開放または短絡)を、シャントライン808でf1では開放f2では短絡となるように変成するインピーダンス変成器として用いられる。その結果、f1の信号は、P1-P2経路を通るが、f2の信号は、シャントライン808およびCRLH TL804を通じてフィルタ処理または除去され、出力ポートP2への到達を阻止される。理論的には、インピーダンスZ3は、ポートP3が開放の場合、無限であり、ポートP3が短絡の場合、ゼロとなる。しかし、実際のところ、かつ本書類では、用語「開放」は、実装および適用の際に達成可能な高インピーダンスを指すのに用いられ、用語「短絡」は、実装および適用の際に達成可能な低インピーダンスを指すのに用いられる。
【0032】
CRLH TL804の電気長は、図3のCRLH位相応答曲線で示されるように、特定の周波数で特定の位相に対応するように操作され得る。ポートP3が開放の場合に、シャントライン808をf1で開放させ、f2で短絡させるために、様々な位相組み合わせが用いられ得る。CRLH TLを用いて、シャントライン808で開放回路を有するために、f1での位相φ1は以下のように構成され得る:
φ1 = 0°±(k×180°) 式(16)
(但し、k = 0, 1, 2, …)。同様に、シャントライン808で短絡回路を有するために、f2での位相φ2は以下のように構成され得る:
φ2 = 90°±(k×180°) 式(17)
(但し、k = 0, 1, 2, …)。あるいは、ポートP3が短絡の場合に、f1で開放シャントライン808とし、f2で短絡シャントライン808とするために、様々な位相組み合わせが用いられ得る。シャントCRLH TL804をグランド、回路、または構成要素に短絡させる場合、シャントライン808で開放回路を有するために、f1での位相φ1は以下のように構成され得る:
φ1 = 90°±(k×180°) 式(18)
(但し、k = 0, 1, 2, …)。同様に、シャントライン808で短絡回路を有するために、f2での位相φ2は以下のように構成され得る:
φ2 = 0°±(k×180°) 式(19)
(但し、k = 0, 1, 2, …)。
【0033】
上記で説明したようなシャントCRLH TL804を用いた周波数選択スキームに基づいて、CRLH TLおよびRH TLの組み合わせを用いて、様々な周波数セレクタが構築され得る。周波数選択機能を実施するため、例えば、周波数セレクタは、2つのCRLH TLの組み合わせを含み得、別の例では、CRLH TLおよびRH TLを含み得る。図9は、一方のCRLH TL904がシャントであり、他方のCRLH TL912が信号経路P1-P2に直列である2つのCRLH TLを有する、一例としての周波数セレクタ900を示す。図8に示す構成と同様に、シャントCRLH TL904の一端(末端)は、短絡されていても開放されていてもよいポートP3に結合されている。CRLH TL904の他端(基端)は、シャントライン908を介して信号経路P1-P2に結合されている。シャントライン908は、f1およびf2の信号に対してそれぞれ適切な位相φ1およびφ2を有するようにシャントCRLH TL904を構成することにより、f1の信号に開放され、f2の信号に短絡されるように制御され得る。シャントCRLH TL904の位相φ1およびφ2は、P3が開放の場合、式(16)および式(17)の値からそれぞれ選択され得、P3が短絡の場合、式(18)および式(19)の値からそれぞれ選択され得る。直列CRLH TL912の一端は、入力ポートP1に結合され、他端は、シャントライン908に結合されている。直列CRLH TL912の位相φ3およびφ4は、ポートP3が開放または短絡である場合、以下のように選択され得る。f1の信号に対して、シャントCRLH TL904は、信号経路P1-P2から結合解除される。したがって、直列CRLH TL912は、f1での位相φ3が任意で、入力インピーダンスと出力インピーダンスとの間に整合インピーダンス(例えば、50Ω)を有するように構築され得る。f2の信号に対して、シャントライン908は短絡され、入力ポートP1は、好ましくは、最大信号反射となるよう開放されるように設計される。したがって、直列CRLH TL912のf2でのφ4を、90°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように選択して、短絡から開放へとインピーダンスを変成し得る。あるいは、短絡されるように入力ポートP1を設計するために、直列CRLH TL912のf2でのφ4を、0°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように選択して、短絡から短絡へとインピーダンスを変成または維持し得る。また、CRLH TL904を、位相φ3およびφ4が前提となる用途に適した別の値をとるように異なる設計にして、信号の伝送および反射を調整し得る。上記の例のように直列TLおよびシャントTLを用いることで、シャントTLに対応付けられた位相φ1およびφ2によって、特定の周波数の信号を遮断または送信するように開放または短絡を提供し続けながら、直列TLに対応付けられた位相φ3およびφ4を調整する柔軟性が得られる。
【0034】
一実装例において、図9の周波数セレクタ900は、ポートP3が開放の場合、直列CRLH TL912が、周波数f1=2.4GHzで位相φ3=0°となり、周波数f2=5.8GHzで位相φ4=-90°となり、シャントCRLH TL904が、周波数f1=2.4GHzで位相φ1=0°となり、周波数f2=5.8GHzで位相φ2=-90°となるように構築され得る。これらの位相応答は、2つのCRLHユニットセルを有する直列CRLH TL912および1つのCRLHユニットセルを有するシャントCRLH TL904であって、各ユニットセルが、CL=約1.7pF、LL=約4.25nH、LR=約2.6nH、およびCR=約1pFの等価回路パラメータ値を有するものを設計することによって得ることが可能である。
【0035】
図10は、上記の等価回路パラメータ値を有し、FR4基板に基づく図9の周波数セレクタ900の一実装例における挿入損失のシミュレーション結果をプロットしたものである。これにより、点m3で示される2.4GHzにおける挿入損失がゼロに近く、点m4で示される5.8GHzにおける挿入損失が-30dBに近いことが示されている。したがって、これらの結果は、2.4GHz付近の信号が周波数セレクタ900を通過し、5.8GHz付近の信号が遮断されることを示す。
【0036】
図11は、別の例としての周波数セレクタ1100を示す。この周波数セレクタは、直列RH TL1112およびシャントCRLH TL1104を有する。一般に、RH TLを用いることで、ある周波数での位相の制御が可能になる。RH位相応答の線形性のため、第2の周波数での位相は、任意に選択され得ない。上記のように、信号をポートP3を介してフィルタ処理することによって、周波数f1の信号をポートP1からポートP2へと通過させ、周波数f2の信号を遮断するために、シャントCRLH TL1104の位相φ1およびφ2を、ポートP3が開放の場合、式(16)および式(17)で表すように選択し得、ポートP3が短絡の場合、式(18)および式(19)で表すように選択し得る。直列RH TL1112の位相φ3およびφ4は、ポートP3が開放または短絡である場合、以下のように選択され得る。f1の信号に対して、シャントCRLH TL1104は、信号経路P1-P2から結合解除される。したがって、直列RH TL1112は、f1での位相φ3が任意で、入力インピーダンスと出力インピーダンスとの間に整合インピーダンス(例えば、50Ω)を有するように構築され得る。f2の信号に対して、シャントライン1108は短絡され、入力ポートP1は、好ましくは、最大信号反射となるよう開放されるように設計される。したがって、直列RH TL1112のf2でのφ4を、-90°-(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように選択して、短絡から開放へとインピーダンスを変成し得る。一般に、RH位相値は、非DC周波数に対して負となるように制限される。本例において、f2でのφ4値によって決定される線形のRH位相応答上にある限り、位相φ3は任意であり得る。あるいは、短絡されるように入力ポートP1を設計するために、直列RH TL1112のf2でのφ4を、0°-(k×180°)(但し、k = 1, 2, …)となるように選択して、短絡から短絡へとインピーダンスを変成または維持し得る。また、RH TL1112を、位相φ3およびφ4が前提となる用途に適した別の値をとるように異なる設計にして、信号の伝送および反射を調整し得る。
【0037】
周波数セレクタ1100の構成に基づく一実装例において、開放ポートP3の場合のシャントCRLH TL1104は、f1=2.4GHzでφ1=0°となり、f2=5.8GHzでφ2=-90°となるように構築され得る。直列RH TL1112に対しては、f2=5.8GHzでの位相φ4が-90°となるように選択され、f1=2.4GHzでの位相φ3は、これら2つの点が同一のRH位相応答線上にある限り、任意の値をとり得る。厚み約31milで誘電率約4.4のFR4基板を用いて、5.8GHzでの位相φ4が-90°の場合、2.4GHzでの位相φ3は約-37°となるように選択され得る。
【0038】
図12は、図11における周波数セレクタ1100の上記実装例のレイアウト1200を示す。このレイアウトにおいて、白い部分は、FR4基板上に印刷された導電性パッチおよびラインを表し、黒い部分は、導電性パッチおよびライン間に形成された誘電性ギャップを表す。シャントCRLH TL1204は、CL=2pF、LL=5nH、CR=1pF、およびLR=2.6pFである1つのCRLHユニットセルを有するように設計される。本例において、図1Aのように、それぞれが2CLを有する2つの集中キャパシタが直列接続され、1つのCLが提供される。あるいは、2つの直列キャパシタの代わりに、単一のキャパシタを用いて、キャパシタンス値CLを提供し得る。また、本例では、2つのマイクロストリップを接続して、L字状のRH TL(LL)1216を形成し、LLを提供する。あるいは、同一の全電気長を有する単一のマイクロストリップが用いられ得る。さらに、印刷されたマイクロストリップの代わりに、集中インダクタを用いて、LLを実現し得る。図1Fに示すように、シャントCRLH TL1204のRH部分、すなわち、CRおよびLRを、マイクロストリップを用いて実装して、RH TL(CR、LR)1208を提供する。また、本例において、RH TL1212もマイクロストリップを用いて実装される。
【0039】
図13は、図12の上記実装例1200における反射損失および挿入損失のシミュレーション結果および測定結果をプロットしたものである。シミュレーションおよび測定のいずれにおいても、挿入損失は、5GHz付近で一時的に低下し、2.4GHz付近でゼロに近くなる。これは、2.4GHz付近の信号は、少ない信号損失で周波数セレクタを通じて伝送されることを示す。一方、5GHz付近の信号は、同じ周波数セレクタを通じての伝送が阻止される。シミュレーションおよび測定のいずれも、反射損失が2.4GHz付近で一時的に低下し、5GHz付近でゼロに近くなる。これは、入力ポートP1において、2.4GHz付近で最小信号反射の良好な共振が得られ、5GHzp付近でほぼ完全な信号反射が生じ、ほぼ開放の入力ポートP1が提供されることを示す。
【0040】
図14は、別の例としての周波数セレクタ1400を示す。この周波数セレクタ1400は、直列CRLH TL1412、およびP3で開放されるシャントRH TL1404を含む。本例において、f2の信号は、ポートP1からポートP2へと伝送可能であるが、f1の信号送信は、ポートP3を通じてフィルタ処理されて遮断される。シャントRH TL1404のf1での位相φ1を、φ1=-90°-(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)から選択して、開放から短絡へとインピーダンスを変成し、f1に対する短絡シャントライン1408を有し得る。RH位相は、周波数が線形であるため、f1での位相φ1およびf2での位相φ2の選択が制限される。簡単な選択の1つとして、f2をf1の高調波とする選択がある。φ1=-90°を選択した場合、シャントRH TL1404のf2での位相φ2を、f2=(n+1)×f1でφ2=2n×(-90°)(但し、n=1, 2, 3, …)から選択して、f2の信号をP1からP2へと通過させる開放シャントライン1408を有し得る。直列CRLH TL1412の位相φ3およびφ4は、以下のように決定され得る。f1の信号に対して、シャントライン1408は短絡され、入力ポートP1は、好ましくは、最大信号反射となるよう開放されるように設計される。したがって、直列CRLH TL1412のf1でのφ3を、90°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)から選択して、短絡から開放へとインピーダンスを変成し得る。この場合、n×f1(但し、nは正の偶数)であるf2の信号に対して、シャントRH TL1404は、信号経路P1-P2から結合解除される。したがって、直列CRLH TL1412は、f2での位相φ4が任意で、入力インピーダンスと出力インピーダンスとの間に整合インピーダンス(例えば、50Ω)を有するように構築され得る。あるいは、短絡されるように入力ポートP1を設計するために、直列CRLH TL1412のf1でのφ3を、0°±(k×180°)(但し、k = 1, 2, …)となるように選択して、短絡から短絡へとインピーダンスを変成または維持し得る。また、CRLH TL1412を、位相φ3およびφ4が前提となる用途に適した別の値をとるように異なる設計にし得る。
【0041】
図15は、別の例としての周波数セレクタ1500を示す。この周波数セレクタ1500は、直列CRLH TL1512、およびグランドに短絡されるシャントRH TL1504を含む。シャントRH TL1504のf1での位相φ1を、φ1=-(k×180°)(但し、k = 1, 2, …)から選択して、短絡から短絡へとインピーダンスを変成または維持し、f1の信号をポートP3を通じてフィルタ処理する短絡シャントライン1508を有し得る。RH位相は、周波数が線形であるため、f1での位相φ1およびf2での位相φ2の選択が制限される。簡単な選択の1つとして、f1をf2の高調波とする選択がある。φ1=-180°を選択した場合、シャントRH TL1504のf2での位相φ2を、f2=(n+1)×f1でφ2=(2n-l)×(-90°)(但し、n=1, 2, 3, …)から選択して、f2の信号をP1からP2へと通過させる開放シャントライン1508を有し得る。直列CRLH TL1512の位相φ3およびφ4は、以下のように決定され得る。f1の信号に対して、シャントライン1508は短絡され、入力ポートP1は、好ましくは、最大信号反射となるよう開放されるように設計される。したがって、直列CRLH TL1512のf1でのφ3を、90°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)から選択して、短絡から開放へとインピーダンスを変成し得る。この場合、(n+1)×f1であるf2の信号に対して、シャントRH TL1504は、信号経路P1-P2から結合解除される。したがって、直列CRLH TL1512は、f2での位相φ4が任意で、入力インピーダンスと出力インピーダンスとの間に整合インピーダンス(例えば、50Ω)を有するように構築され得る。あるいは、短絡されるように入力ポートP1を設計するために、直列CRLH TL1512のf1でのφ3を、0°±(k×180°)(但し、k = 1, 2, …)となるように選択して、短絡から短絡へとインピーダンスを変成または維持し得る。また、CRLH TL1512を、位相φ3およびφ4が前提となる用途に適した別の値をとるように異なる設計にし得る。
【0042】
図8に戻って、周波数セレクタ800は、ある周波数f1の信号は経路P1-P2を通過するが、異なる周波数f2の別の信号は遮断される、2つの異なる周波数f1およびf2での位相を提供するように設計されたシャントCRLH TL804を有する。ある1つの周波数の信号は経路P1-P2を通過するが、別の2つの周波数の信号は遮断される、3つの異なる周波数での位相を提供するようにシャントCRLH TLを設計可能である。図16は、周波数f2の信号に経路P1-P2を通過させ、周波数f1の信号および周波数f3の信号をフィルタ処理する周波数セレクタ1600の一例を示す。CRLH TL1604の一端(末端)は、短絡されていても開放されていてもよいポートP3に結合されている。CRLH TL1604の他端(基端)は、シャントライン1608を介して信号経路P1-P2に結合されている。シャントライン1608は、CRLH位相応答に基づいてf1、f2、およびf3の信号に対して適切な位相を有するようにCRLH TL1604を構成することにより、f2の信号に開放され、f1およびf3の信号に短絡されるように制御され得る。本例において、CRLH TL1604は、ポートP3でのインピーダンスZ3(例えば、開放または短絡)を、シャントラインで1608でf2では開放f1およびf3では短絡となるように変成するインピーダンス変成器として用いられる。その結果、f2の信号は、P1-P2経路を通るが、f1の信号およびf3の信号は、シャントライン1608およびCRLH TL1604を通じてフィルタ処理または除去され、出力ポートP2への到達を阻止される。理論的には、インピーダンスZ3は、ポートP3が開放の場合、無限であり、ポートP3が短絡の場合、ゼロとなる。しかし、実際のところ、かつ本書類では、用語「開放」は、実装および適用の際に達成可能な高インピーダンスを指すのに用いられ、用語「短絡」は、実装および適用の際に達成可能な低インピーダンスを指すのに用いられる。
【0043】
CRLH TL1604の電気長は、図3のCRLH位相応答曲線で示されるように、特定の周波数で特定の位相に対応するように操作され得る。ポートP3が開放の場合に、シャントライン1608をf2で開放させるために、f2での位相φ2を、式(16)のようにφ2=0°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように構成し得る。同様に、シャントライン1608をf1およびf3で短絡させるために、f1での位相φ1およびf3での位相φ3を、式(17)のようにφ1、φ3=90°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように構成し得る。あるいは、ポートP3が短絡の場合、f2での位相φ2を、式(18)のようにφ2=90°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように構成して、シャントライン1608で開放回路を有し得る。同様に、f1での位相φ1およびf3での位相φ3を、式(19)のようにφ1、φ3=0°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように構成して、シャントライン1608で短絡回路を有し得る。
【0044】
802.11b、802.11g、および802.11n等のいくつかのWiFi用途に対して、一方のブランチ路で5GHz帯域だけではなく1880MHz〜1900MHzの範囲のDigital Enhanced Cordless Telecommunication(DECT)帯域(以下、1.9GHz帯域という)を除去し、他方のブランチ路で2.4GHz〜2.48GHzの範囲の2.4GHz帯域を通過させることが望ましい。従来のダイプレクサは、典型的に、一方のブランチで1つのローパスフィルタ(LPF)を用い、他方のブランチで1つのハイパスフィルタ(HPF)を用いる。今回の場合、通過させる必要があるのは、2.4GHz帯域であり、遮断する必要があるのは、1.9GHz帯域および5GHz帯域であり、ブロック-パス-ブロックの順番となる。したがって、従来のダイプレクサでは、一般的にパス-ブロック-パスの順番となるHPFとLPFとの単純な組み合わせのために、このような複雑なフィルタ処理には適し得ない。
【0045】
図16の周波数セレクタ1600は、ダブルノッチフィルタ機能を提供するため、1.9GHz帯域および5GHz帯域を除去し、2.4GHz帯域を通過させるように構成され得る。これは、CRLH構造に基づいてFR4基板上に印刷された小型の設計で可能であり、サイズの縮小ひいては電力損失の低下に繋がる。
【0046】
図17は、ポートP3が開放である図16の周波数セレクタ1600の実装例1700のレイアウトを示す。このレイアウトは、1つの対称的なCRLHユニットセルを含むシャントCRLH TL1704および直列RH TL1 1708を有する点で、周波数セレクタ1200と同様である。実装例1700は、1.9GHz帯域および5GHz帯域を除去し、2.4GHz帯域を通過させるように設計される。本例において、図1Aのように、それぞれが2CLを有する2つの集中キャパシタが直列接続され、1つのCLが提供される。また、このCRLHユニットセルは、2つのマイクロストリップを接続して、L字状のRH TL(LL)1712を形成し、LLを提供する。図1Fに示すように、シャントCRLH TL1704のRH部分、すなわち、CRおよびLRを、マイクロストリップを用いて実装して、RH TL(CR、LR)1716を提供する。また、本例において、直列RH TL1708もマイクロストリップを用いて実装される。CRLHパラメータ値は、長さ7mmでLL=4nH、CL=1pF、LR=2.66nH、CR=1pFとなるように選択される。用いられる基材は厚み10milのFR4である。
【0047】
図18は、上記のパラメータ値を有する図17のCRLH TL1704の位相応答曲線を、RH応答曲線およびLH応答曲線との比較としてプロットしたものであり、それぞれを、実線、点線、および破線で示す。実装例1700において、開放ポートP3を有するシャントCRLH TL1704は、上記のパラメータ値で構築され、図18のCRLH位相応答曲線上の3つの点で示されるように、f1=1.9GHzでφ1=およそ90°、f2=2.4GHzでφ2=およそ0°、f3=5GHzでφ3=およそ-90°となる。
【0048】
図19は、周波数セレクタ1600の上記実装例1700における反射損失および挿入損失の測定結果およびシミュレーション結果をプロットしたものである。これにより、この周波数セレクタは、1.9GHzおよび5GHz付近の信号をフィルタ処理し、2.4GHz付近の信号を通過させ、ダブルノッチフィルタとしての特徴を示すことが示されている。
【0049】
図11に戻って、周波数セレクタ1100において、最大信号反射を得るのにポートP1における開放回路が好適となる特定の用途に対して、RH位相を制御するのに直列RH TL1112が用いられる。同様の構成は、図16のようなCRLH TL設計を、図11の直列RH TL1112等の直列RH TLと組み合わせることによって、3つの異なる周波数での3つの位相の制御に拡張し得る。図20は、一次周波数fの信号を通過させ、第二高調波および第三高調波2fおよび3fの信号をフィルタ処理する周波数セレクタ2000の一例を示す。周波数セレクタ2000は、シャントCRLH TL2004および直列RH TL2012を有し、高調波トラップとしての能力を有する。CRLH TL2004の一端(末端)は、短絡されていても開放されていてもよいポートP3に結合されている。CRLH TL2004の他端(基端)は、シャントライン2008を介して信号経路P1-P2に結合されている。シャントライン2008は、CRLH位相応答に基づいてf、2f、および3fの信号に対して適切な位相を有するようにCRLH TL1604を構成することにより、一次周波数fの信号に開放され、高調波2fおよび3fの信号に短絡されるように制御され得る。ポートP3が開放の場合にシャントライン2008をfで開放させるために、fでの位相φ1を、式(16)のようにφ1=0°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように構成し得る。同様に、シャントライン2008を2fおよび3fで短絡させるために、2fでの位相φ2および3fでの位相φ3を、式(17)のようにφ2、φ3=90°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように構成し得る。あるいは、ポートP3が短絡の場合、fでの位相φ1を、式(18)のようにφ1=90°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように構成して、シャントライン2008で開放回路を有し得る。同様に、2fでの位相φ2および3fでの位相φ3を、式(19)のようにφ2、φ3=0°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように構成して、シャントライン2008で短絡回路を有し得る。ポートP3が開放または短絡である場合、直列RH TL2012のfでの位相φ4、2fでの位相φ5、および3fでの位相φ6は、以下のように選択され得る。fの信号に対して、シャントCRLH TL2004は、信号経路P1-P2から結合解除される。したがって、直列RH TL2012は、fでの位相φ4が任意で、入力インピーダンスと出力インピーダンスとの間に整合インピーダンス(例えば、50Ω)を有するように構築され得る。2fおよび3fの信号に対して、シャントライン2008は、短絡され、入力ポートP1は、特定の用途において、奇数次高調波に開放され、偶数次高調波に短絡されることが好ましい。したがって、直列RH TL2012の2fでの位相φ5を、0°-(k×180°)(但し、k = 1, 2, …)となるように選択して、短絡から短絡へとインピーダンスを変成または維持し得、直列RH TL2012の3fでのφ6を、-90°-(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように選択して、短絡から開放へとインピーダンスを変成し得る。なお、RH位相値は、周波数が負で直線状となるように制限される。したがって、例えば、これら3つの位相は、RH位相応答に基づいて、fでφ4=-90°、2fでφ5=-180°、3fでφ6=-270°となるように選択され得る。
【0050】
以上の設計例で述べたように、組み合わせ結果のCRLH位相応答曲線を、位相と周波数との望ましい2つまたは3つのペアを表す2つまたは3つの点に一致させるために、等価回路パラメータが操作される。したがって、2つまたは3つの周波数帯域における信号の通過および遮断が、選択された位相によって操作される。CRLH位相応答曲線上の可能な一致点の数は、設計パラメータの自由度に基づく。一般的に、設計の柔軟性ひいては一致点の数は、パラメータの数が増加するにつれて増加する。例えば、1つのCRLHユニットセルを用いることにより、4つのパラメータCL、LL、CR、およびLRが得られるが、式(11)のようなインピーダンス整合条件等の条件は、調整可能なパラメータの数を減少させ得る。以下に説明するように、より多くのパラメータを有する異なる種類のCRLHユニットセルを用いることは、設計の柔軟性ひいてはCRLH位相応答曲線上の一致点の数を増加させる1つの可能な解決法である。その結果、多数の帯域を通過および遮断可能なフィルタデバイスを、設計し、実装し得る。
【0051】
図21は、拡張CRLH(E-CRLH)ユニットセル2100を示す。図1に示したような元のCRLHユニットセル12を、比較のために、従来のCRLH(C-CRLH)ユニットセルという。E-CRLHユニットセル2100は、区間pを有するC-CRLHユニットセルとデュアルCRLH(D-CRLH)セルとの組み合わせとして規定し得る。C-CRLH直列部分2104は、直列結合されたRH直列インダクタLCRおよびLH直列キャパシタCCLを有し、C-CRLHシャント部分2108は、並列結合されたRHシャントキャパシタCCRおよびLHシャントインダクタLCLを有し、D-CRLH直列部分2112は、並列結合されたRH直列インダクタLdRおよびLH直列キャパシタCdLを有し、D-CRLHシャント部分2116は、直列結合されたRHシャントキャパシタCdRおよびLHシャントインダクタLdLを有する。したがって、1つのE-CRLHユニットセル2100は、8つの等価回路パラメータLCR、CCL、CCR、LCL、LdR、CdL、CdR、およびLdLを提供する。インピーダンス整合条件等の条件によって調整可能なパラメータが減少したとしても、E-CRLHユニットセル2100は、C-CRLH部分またはD-CRLH部分単独の場合よりも多くの調整可能なパラメータを提供する。
【0052】
図22は、図16のように構成されているが、C-CRLH TL1604の代わりにE-CRLH TLを有する周波数セレクタの挿入損失のシミュレーション結果をプロットしたものである。E-CRLH等価パラメータを操作して、点m5、点m6、点m7、および点m8でそれぞれ示すように、910MHz、2.06GHz、3.69GHz、および6.23GHzでの挿入損失で4つのノッチを提供し、これら4つの帯域では信号が遮断される。したがって、この種のE-CRLHユニットセルに基づいた周波数セレクタを、マルチノッチフィルタということができる。
【0053】
周波数セレクタ(シングルノッチまたはマルチノッチ)と、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、バンドストップフィルタ、または他の異なるフィルタとを組み合わせることによって、従来のフィルタでは実現不可能であった複雑なフィルタ処理機能を提供し得る。CRLH構造に固有の位相選択における柔軟性に基づいて、組み合わせられたフィルタは、前提となる用途に応じて周波数帯域の望ましい遮断および通過を提供するようにされ得る。本書類に記載の周波数セレクタ例は、2ポートデバイスであるため、信号の遮断および通過が異なる時間間隔で起こるように異なる周波数の信号が異なる時間間隔で順番に受信される用途に適している。異なる周波数の信号が同時に受信されるシステムでは、複数の周波数選択のために複数のブランチを有することが効果的であり得る。ダイプレクサは、2つのそのようなブランチを有する1つの例であり、3ポートデバイスである。一方のブランチの周波数セレクタと他方のブランチのハイパスフィルタ(HPF)とを組み合わせることで、例えば、ダイプレクサの能力に従来のダイプレクサのものよりも優れた性能を与え得る。また、複数のブランチを有する複数の周波数セレクタを、複数の周波数を通過させ、かつ遮断するように構成して、マルチプレクサ機能を提供し得る。
【0054】
図23は、入力周波数および出力周波数が、f1, f2, …, fnによって表され、直列素子が、X1, X2, …, Xnによって表され、シャント素子が、Y1, Y2, …, Yn(nは、1より大きい正の整数)によって表されるマルチバンド周波数セレクタ2300の一例を示す。したがって、マルチバンド周波数セレクタ2300は、1つのポートからn個のポートへ向かう方向またはn個のポートから1つのポートへ向かう方向のいずれにも信号が伝送可能な(n+1)ポート双方向デバイスである。直列素子Xmおよびシャント素子Ym(但し、1<m<n)は、同一のm番目のブランチに結合され、周波数fmを選択して、ブランチを通って出力部まで通過させる。各ブランチは、図8〜図20を参照して説明した周波数セレクタのような周波数セレクタを含む。したがって、m番目のブランチにおける直列素子Xmおよびシャント素子Ymのペアは、図8〜図20を参照して説明した周波数セレクタのように、両方がCRLH TLであり得るか、RH TLとCRLH TLとの組み合わせであり得る。さらに、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、バンドストップフィルタ、または他の種類のフィルタ等の従来のフィルタが、1つまたは複数のブランチに用いられ得る。また、図21および図22に示すようなE-CRLH構造に基づいたマルチノッチフィルタが、複雑なフィルタ処理機能に対応する周波数セレクタとして、1つまたは複数のブランチに用いられ得る。したがって、図23のマルチバンド周波数セレクタ2300は、本質的に、多分岐したブランチ上に分布した周波数セレクタのネットワークであり、周波数セレクタは、従来のフィルタおよび周波数セレクタを含み得る。このような周波数選択ネットワークは、(n+1)ポート(但し、nは、マルチバンド動作で対応する周波数帯域の数を表す)を有し、1つのポートからn個のポートへ向かう方向またはn個のポートから1つのポートへ向かう方向のいずれにも信号が伝送可能な双方向デバイスである。
【0055】
図24は、Y1, Y2, …, YnおよびY1a, Y2a, …, Ynaで示されるように、2つのシャント素子が各ブランチに結合されている、別の例としてのマルチバンド周波数セレクタ2400を示す。例えば、第1のシャント素子を、第1の周波数の信号を除去するように設計し、同一のブランチ内の第2のシャント素子を、第2の周波数の信号を除去するように設計して、3つの異なる周波数の信号がブランチに入力された場合、第3の周波数の信号がブランチを通過するようにし得る。別の例において、第1のシャント素子を、第1の周波数の信号を除去するように設計し、第2のシャント素子を、第2の周波数の信号から高調波を除去するように設計して、異なる周波数の信号がブランチに入力された場合、高調波なしの第2の周波数の信号がブランチを通過するようにし得る。用途を拡張するために、3つ以上のシャント素子を1つのブランチに結合してもよく、または、ブランチ毎のシャント素子の数を、ブランチ毎に変更してもよい。同様に、ブランチ毎の直列素子の数は、1つより多くてもよく、ブランチ毎に変更してもよい。本書類に記載の周波数セレクタの設計において、直列およびシャント素子のそれぞれが、集中定数構成要素、分布定数構成要素、またはこれらの組み合わせを用いて実装可能なRH構造またはCRLH構造を有するように選択することができる。
【0056】
図25は、ダイプレクサ2500の一実装例のレイアウトを示す。この実装は、周波数セレクタ2504とHPF2508との組み合わせに基づくダイプレクサ機能を提供するように考案されたものである。図17のダブルノッチ周波数セレクタ1700と同様に、本例の周波数セレクタ2504は、2.4GHz帯域を通過させ、1.9GHz帯域および5GHz帯域をフィルタ処理するように設計される。図17のレイアウトと比較して、最適化のために、設計が少し変更されている。例えば、この場合のCRLHユニットセル2502は、対称的なユニットセルを形成していた図17の2つの2CLキャパシタの代わりに、1つのCLキャパシタを有し、L字状のRH TLは、図17のRH TL(LL)1712とは異なり、最適化されたLL値が得られるような寸法を有する。図25のダイプレクサ2500は、従来のダイプレクサと同様に3ポートデバイスである。アンテナまたは他の任意のデバイスが、ポートP1に接続され得る。ダイプレクサ2500のポートP2は、周波数セレクタ2504に結合されている。ポートP3は、3つのキャパシタC1、C2、およびC3ならびに3つのマイクロストリップ2510を有して、2.4GHz帯域をフィルタ処理し、5GHz帯域を通過させるように設計されたHPF2508に結合されている。1つの例において、ダイプレクサ2500は、全体の設置面積を10mm×10mmとし得る。本例の設計において、3つのポートは、50Ωに整合される。しかし、いくつかの実装例において、ダイプレクサ2500は、柔軟性のあるCRLH位相応答ひいては設計の柔軟性のために、異なるポートを異なるインピーダンスに整合させ得る。図25に示すように、本実装例は、3つのマイクロストリップ2510を含むHPF2508を有する。最も長いL字状のマイクロストリップは、HPF2508の入力部に設置され、HPFによってフィルタ処理される周波数(すなわち、本例においては2.4GHz)に対応付けられた位相を回転させる。したがって、HPF2508は、ポートP1で開放回路を有し、2.4GHz付近の信号がブランチP1-P3内へ入ることを防止する。
【0057】
図26は、図25のダイプレクサ2500の実装例において、挿入損失P2-P1、挿入損失P3-P1、およびアイソレーションP3-P2の測定結果をプロットしたものである。5GHz付近において、挿入損失P3-P1はゼロに近く、挿入損失P2-P1は-20dBに近い。これは、5GHz帯域の信号が、選択的に、HPF2508を通ってポートP3へ送信され、周波数セレクタ2504によって排除されることを示している。同様に、2.4GHz付近において、挿入損失P2-P1はゼロに近く、挿入損失P3-P1は-35dBに近い。これは、2.4GHz帯域の信号が、選択的に、周波数セレクタ2504を通ってポートP2へ送信され、HPF2508によって排除されることを示している。1.9GHz付近においては、挿入損失P2-P1およびP3-P1の両方が非常に低く、-25dBmを下回る。これは、1.9GHz帯域の信号が、周波数セレクタ2504およびHPF2508の両方によって排除されることを示している。
【0058】
上記の周波数セレクタ例は、ダイオードまたはスイッチ等の能動構成要素によって制御されることなく適切な位相を提供するRHおよび/またはCRLH TL設計に基づいて周波数選択が決定されるため、受動セレクタであると考え得る。別の例において、受動周波数セレクタの組み合わせ、RH TLとCRLH TLとの組み合わせ、およびCRLH TLの組み合わせを、能動的に制御して、単一の周波数または複数の周波数を選択するように構築され得る。したがって、本書類ではこれらの周波数セレクタを、能動周波数セレクタという。
【0059】
図27A〜図27Cは、並列接続された2つの受動周波数セレクタ2704および2708を用いた能動周波数セレクタ2700の一例を示す。能動周波数セレクタ2700は、1つの入力ポートP1および1つの出力ポートP2を有し、周波数f1およびf2の2つの信号が、同時にまたは順番に異なる時間間隔で入力ポートP1へ供給され得る。これらの受動周波数セレクタは、CRLHに基づくもの、従来のもの、またはこれらの組み合わせであり得る。能動周波数セレクタは、信号の同時入力に用いることが可能である。というのも、2つの異なる周波数f1およびf2が同時に入力ポートP1へ供給される場合、能動構成要素によって周波数選択が制御され得るためである。本例において、周波数セレクタ(f1で非f2)2704は、周波数f1の信号を選択して、周波数f2の信号を遮断するように構成され、周波数セレクタ(f2で非f1)2708は、周波数f2の信号を選択して、周波数f1の信号を遮断するように構成される。周波数セレクタ2704および2708のオン/オフは、例えば、外部制御回路によって制御され得る。図27Aにおいて、周波数セレクタ(f1で非f2)2704は、他方の周波数セレクタ(f2で非f1)2708がオフの場合に、オンとなる。能動周波数セレクタ2700がこの状態にある場合、f1の信号のみが、このシステムを通過してポートP2へ到達する。図27Bにおいて、周波数セレクタ(f1で非f2)2704は、他方の周波数セレクタ(f2で非f1)2708がオンの場合に、オンとなる。能動周波数セレクタ2700がこの状態にある場合、f2の信号のみが、このシステムを通過してポートP2へ到達する。図27Cにおいて、周波数セレクタ(f1で非f2)2704および他方の周波数セレクタ(f2で非f1)2708の両方が、オンとなる。能動周波数セレクタ2700がこの状態にある場合、f1の信号およびf2の信号の両方が、このシステムを通過してポートP2へ到達する。
【0060】
図28は、シャント接続された2つのCRLH TL2804および2808を有する能動周波数セレクタ2800の一例を示す。本例において、2つの異なる周波数f1およびf2が、同時にまたは順番に異なる時間間隔でポートP1へ供給され得る。本例において、CRLH TL2804および2808は、それぞれダイオード1 2816およびダイオード2 2818を介した開放シャントの構成で、信号経路P1-P2に結合されている。シャントラインが、ダイオード1 2816およびダイオード2 2818の代わりに接続に用いられる場合、CRLH TL(f1で非f2)2804は、周波数f1の信号に経路P1-P2を通過させ、周波数f2の信号をフィルタ処理するように構成され、CRLH TL(f2で非f1)2808は、周波数f2の信号に経路P1-P2を通過させ、周波数f1の信号をフィルタ処理するように構成される。これらのCRLH TL2804および2808は、図8に示すようなCRLH TL設計に基づいて設計され得る。ダイオード1 2816およびダイオード2 2818のオン/オフは、例えば、外部制御回路によって制御され得る。ダイオード1 2816がオンで、ダイオード2 2818がオフの場合、CRLH TL(f1で非f2)2804は、f1の信号が経路P1-P2を通過し、f2の信号が遮断されるように経路P1-P2に結合される。ダイオード1 2816がオフで、ダイオード2 2818がオンの場合、CRLH TL(f2で非f1)2808は、f2の信号が経路P1-P2を通過し、f1の信号が遮断されるように経路P1-P2に結合される。本例において、直列TL2822は、経路P1-P2に含まれる。このTLを、位相φ3およびφ4が前提となる用途に適した値をとるように従来のマイクロストリップ等のRH構造またはCRLH構造を用いて設計し、信号の伝送および反射を調整し得る。このようなTLも、別の回路機能を一体化するのに用いることができる(例えば、インピーダンス整合ネットワーク)。
【0061】
図29は、別の例としての能動周波数セレクタ2900を示す。本例において、CRLH TL2904および2908はそれぞれ、ダイオード1 2916およびダイオード2 2918を介した開放シャントの構成で、経路P1-P2に結合され、高調波を効果的に除去する能動高調波トラップとして用いられる。シャントCRLH TL2904および2908の設計は、図20のシャントCRLH TL2004の設計と同様であり得る。本例において、直列TL2920は、経路P1-P2に含まれる。このTL2920を、前提となる用途に応じて位相および周波数の選択に柔軟性をもたせるように、従来のマイクロストリップ等のRH構造またはCRLH構造を用いて設計し得る。シャントラインが、ダイオード1 2916の代わりに接続に用いられる場合、CRLH TL(f1で非[2f1,3f1])2904は、周波数f1の信号に経路P1-P2を通過させ、高調波2f1および3f1をフィルタ処理するように構成される。これは、例えば、f1でφ11=180°(開放)、2f1でφ12=90°(短絡)、および3f1でφ12=-90°(短絡)を選択することによって、達成され得る。同様に、シャントラインが、ダイオード2 2918の代わりに接続に用いられる場合、CRLH TL(f2で非[2f2,3f2])は、周波数f2の信号に経路P1-P2を通過させ、高調波2f2および3f2をフィルタ処理するように構成される。これは、例えば、f2でφ21=180°(開放)、2f2でφ22=90°(短絡)、および3f2でφ22=-90°(短絡)を選択することによって、達成され得る。ダイオード1 2916およびダイオード2 2918のオン/オフを、外部制御回路(図示せず)によって制御して、f1の信号またはf2の信号のどちらを経路P1-P2を通って送信するかを選択し得る。TL2920は、前提となる用途に対して適切な位相を有するようにRH TLまたはCRLH TLを備えて設計し得る。例えば、F級PA用途は、ポートP1が、第二高調波に短絡され、第三高調波に開放される必要がある場合を含む。この場合、CRLH TLを用いて、例えば、TL2920の位相を、f1でφ'11=任意、2f1でφ'12=180°、3f1でφ'13=90°、f2でφ'21=任意、2f2でφ'22=-180°、3f2でφ'23=-90°となるように選択し得る。同様に、反転F級PA用途は、ポートP1が、第二高調波に開放され、第三高調波に短絡される必要がある場合を含む。この場合、CRLH TLを用いて、例えば、TL2920の位相を、f1でφ'11=任意、2f1でφ'12=90°、3f1でφ'13=180°、f2でφ'21=任意、2f2でφ'22=-90°、3f2でφ'23=-180°となるように選択し得る。
【0062】
上記のように、高線形性および/または高効率の獲得は、PA設計における主たる目的の1つである。従来のシングルバンドPAで用いられる場合、出力整合ネットワーク(OMN)は、一般的には、トランジスタの出力インピーダンスを出力負荷に整合して、トランジスタから負荷への出力電力伝達を最大化するように設計される。したがって、OMNは、線形性および効率を向上するようにされ得る。同様に、入力整合ネットワーク(IMN)は、トランジスタの入力インピーダンスを入力負荷に整合するように設計され得る。したがって、従来のシングルバンドPAにおいて、IMNおよびOMNは、シングルバンドより上のPAの効率および線形性を最適化するのに利用され得る。しかし、マルチバンド動作に対しては、他の回路素子を、追加、設計、または最適化して、複数の周波数帯域に対する効率、線形性、および他の考慮に合致するようにする必要がある場合がある。
【0063】
図30は、複数の周波数帯域に対する第1の電力増幅システム3000のブロック図を示す。この電力増幅システム3000は、マルチバンドPAの一例を表す。第1のシステム3000は、複数の周波数帯域を個別に扱うための複数の入力ポートおよび複数の出力ポートを有し、マルチバンドバイアス回路3004、入力側の周波数選択モジュール1 3008、出力側の別の周波数選択モジュール2 3012、それぞれの周波数帯域に対する入力インピーダンス整合のためのIMN(f1), IMN(f2), …, IMN(fn)を備えたIMN3016、それぞれの周波数帯域に対する出力インピーダンス整合のためのOMN(f1), OMN(f2), …, OMN(fn)を備えたOMN3020、ならびにマルチバンドバイアス回路3004からバイアス信号を受信し、周波数選択モジュール1 3008および周波数選択モジュール2 3012に結合されているトランジスタ3024を含む。トランジスタ3024は、複数の周波数帯域に対して動作可能なマルチバンドトランジスタであり、前提となるマルチバンド用途に対して考慮された周波数範囲および電力レベルを扱う複数の基本トランジスタを含み得る。マルチバンドバイアス回路3004は、トランジスタ3004の異なる端子にバイアスをかける複数の基本バイアス回路を含み得る。典型的に、ドレインバイアスおよびゲートバイアスは、金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)型のトランジスタに対して必要であり、コレクタバイアスおよびベースバイアスは、バイポーラ接合トランジスタ(BJT)またはヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)型のトランジスタに対して必要である。一般に、バイアス回路は、トランジスタにDC電力を供給するが、RF信号に対して透過的であるように設計され、RF信号がバイアス回路内へと漏洩してバイアス回路が含まれるPAの効率および線形性が劣化する可能性を防止する。同様の動作を2つ以上の周波数帯域に対して行うために、マルチバンドバイアス回路3004は、図6に示すようなマルチバンドバイアス回路を含み得る。
【0064】
異なる周波数f1, f2, …, およびfnの異なる信号が同時に入力される場合、周波数選択モジュール1 3008は、IMN3016から出てくる入力信号から1つの周波数f1, f2, …, またはfnの信号を選択するように構成される。入力側の周波数選択モジュール1 3008の役割の1つは、異なる周波数の混合信号の代わりに、ある1つの周波数の信号を任意の時間間隔でトランジスタ3024に送信することにある。一般的に、2つの異なる周波数の信号が同時にトランジスタへ送信される場合、いくつかの相互変調積がトランジスタから出力され得る。このような相互変調は、トランジスタの入力と出力との間の非線形性によって生じ、悪影響を及ぼす可能性がある。したがって、トランジスタ3024に対応付けられた相互変調は、異なる周波数の複数の信号が同時に入力される場合に周波数選択モジュール1 3008を用いることによって避けることができる。さらに、周波数選択モジュール1 3008は、信号の間違った経路への反射を防止して、信号混合を最小化し、電力伝達を最大化することによって、線形性および効率を向上させるように構成される。異なる周波数f1, f2, …, およびfnの複数の信号が順番に異なる時間間隔で入力される場合、トランジスタ3024の相互変調は、通常条件下では起こらない。しかし、周波数選択モジュール1 3008が、信号の間違った経路への反射を防止して、信号混合を最小化し、電力伝達を最大化することによって、線形性および効率を向上させるのに用いられる。出力側の周波数選択モジュール2 3012は、特定の周波数fm(1≦m≦n)の信号をm番目の出力ポートへ送信し、および/または、トランジスタ3024からの出力信号から高調波を除去するように構成される。
【0065】
図31は、複数の周波数帯域に対する第2の電力増幅システム3100のブロック図を示す。第2のシステム3100は、1つのチャネルで複数の周波数帯域を扱うための単一の入力ポートおよび単一の出力ポートを有し、マルチバンドバイアス回路3104、1つの周波数fmの信号をm番目のブランチ(1≦m≦n)へ送信する入力側の周波数選択モジュール1 3108、1つの周波数の信号を選択し、選択された信号を出力ポートへ送信する出力側の別の周波数選択モジュール2 3112、それぞれの周波数帯域に対する入力インピーダンス整合のためのIMN(f1), IMN(f2), …, IMN(fn)を備えたIMN3116、それぞれの周波数帯域に対する出力インピーダンス整合のためのOMN(f1), OMN(f2), …, OMN(fn)を備えたOMN3120、ならびに、それぞれが、マルチバンドバイアス回路3104からバイアス信号を受信し、IMN(f1), IMN(f2), …, IMN(fn)のうちの1つおよびOMN(f1), OMN(f2), …, OMN(fn)のうちの1つに結合されている複数のトランジスタ3124を含む。各トランジスタ3124は、シングルバンドトランジスタであり、前提となる用途に対して考慮された周波数範囲および電力レベルを扱う複数の基本トランジスタを含み得る。トランジスタ3124は、ICチップ上の分割された基本トランジスタの分離した離散パッケージまたはバンクを用いて実装され得る。マルチバンドバイアス回路3104は、複数のトランジスタ3104および各トランジスタ3104の異なる端子にバイアスをかける複数の基本バイアス回路を含み得る。マルチバンドバイアス回路3104は、図6に示すようなマルチバンドバイアス回路を含み得る。
【0066】
図31の第2のシステム3100において、異なる周波数f1, f2, …, およびfnの複数の信号が、同時にまたは順番に異なる時間間隔で入力され得る。図31の第2のシステム3100の入力側の周波数選択モジュール1 3108は、図30の第1のシステム3000の出力側の周波数選択モジュール2 3012と同様に作動し、図31の第2のシステム3100の出力側の周波数選択モジュール2 3112は、図30の第1のシステム3000の入力側の周波数選択モジュール1 3008と同様に作動する。
【0067】
図31の第2の電力増幅システム3100は、マルチバンドPAの一例を表す。さらに、IMN(fm)、fm帯域を扱うトランジスタ3124のうちの1つ、およびOMN(fm)(但し、1≦m≦n)をそれぞれ含むシングルバンドPAのアレイを用いて、マルチバンド動作のための小型の設計の電力増幅システムが実現可能である。
【0068】
図31の第2のシステム3100は、出力側から周波数選択モジュール2 3112を除去して、1つの入力ポートおよび複数の出力ポート用に変形され得る。同様に、このシステム3100は、入力側から周波数選択モジュール1 3108を除去して、複数の入力ポートおよび1つの出力ポート用に変形され得る。
【0069】
図30および図31の上記の電力増幅システム3000および3100の周波数選択モジュールは、図23または図24に示すようなマルチバンド周波数セレクタを含むように構成され得る。さらに、周波数選択モジュールは、図28または図29に示すような能動周波数セレクタを含むように構成され得る。また、マルチバンド周波数セレクタと能動周波数セレクタとの組み合わせは、1つの周波数選択モジュール内で利用され得る。
【0070】
図32は、第1の周波数モジュールおよび第2の周波数モジュールに対して能動周波数セレクタおよび受動周波数セレクタを用いた、図30の第1の電力増幅システム3000に基づいたデュアルバンドPA3200の一例を示す。デュアルバンドPA3200は、2つの入力ポートP1およびP2ならびに2つの出力ポートP3およびP4を有する。周波数f1およびf2の2つの信号が、同時にまたは順番に異なる時間間隔で入力ポートP1およびP2へそれぞれ供給され得る。本例において、図28の能動周波数セレクタ2800のような能動周波数セレクタ3204が、入力側に配置され、図29の能動周波数セレクタ2900のような高調波トラップ3212が、出力側に配置される。能動周波数セレクタ3204のダイオードのオン/オフを制御して、f1の信号またはf2の信号のいずれかを選択し、選択された信号はトランジスタ3208へ送られて増幅される。トランジスタは、金属半導体電界効果トランジスタ(MESFET)、仮像高電子移動度トランジスタ(pHEMT)、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)、または他の適切な技術のトランジスタであり得る。高調波トラップ3212は、本例において、f1およびf2に対して第二高調波および第三高調波を除去するように設計される。具体的には、高調波トラップ3212におけるダイオードのオン/オフを制御することによって、f1の信号がトランジスタ3208から出力される場合に、高調波2f1および3f1が除去され得る、または、f2の信号がトランジスタ3208から出力される場合に、高調波2f2および3f2が除去され得る。高調波トラップ3212の出力部は、ダイプレクサの形態で接続される周波数セレクタ(f1で非f2)3216および周波数セレクタ(f2で非f1)3220に結合されている。したがって、f1の信号が、上側ブランチを通って出力ポートP3へと通過するように選択され、f2の信号が、下側ブランチを通って出力ポートP4へと通過するように選択される。出力側の各周波数セレクタは、図8〜図22を参照して説明した受動周波数セレクタを含み得る。IMN1 3224は、入力ポートP1に結合され、IMN2 3228は、入力ポートP2に結合され、OMN1 3232は、出力ポートP3に結合され、OMN2 3236は、出力ポートP4に結合されている。
【0071】
図33は、図30の第1の電力増幅システム3000に基づいた別の例としてのデュアルバンドPA3300を示す。デュアルバンドPA3300は、2つの入力ポートP1およびP2ならびに2つの出力ポートP3およびP4を有し、入力側の2つの受動周波数セレクタ3304および3308ならびに出力側の2つの受動周波数セレクタ3316および3320を含む。図8〜図22を参照して説明した受動周波数セレクタ例は、これらの受動周波数セレクタ3304、3308、3316および3320を構築するのに利用され得る。IMN1 3324は、入力ポートP1に結合され、IMN2 3328は、入力ポートP2に結合され、OMN1 3332は、出力ポートP3に結合され、OMN2 3336は、出力ポートP4に結合されている。f1およびf2の信号が、それぞれ入力ポートP1およびP2で供給される。本例において入力側で受動周波数セレクタ3304および3308を用いるため、入力ポートP1およびP2の両方からの信号が同時に入力され、トランジスタに同時に到達する場合に生じ得る相互変調を避けるために、信号は、順番に異なる時間間隔で入力する必要がある場合がある。周波数セレクタ(f1で非f2)3304は、f2の信号ではなくf1の信号を選択し、信号f2の反射を遮断する。周波数セレクタ(f2で非f1)3308は、f1の信号ではなくf2の信号を選択し、信号f1の反射を遮断する。選択されたf1またはf2の信号は、次いで、トランジスタ3312によって増幅される。出力周波数は、f1を選択する一方のブランチ上の周波数セレクタ(f1で非f2)3316およびf2を選択する他方のブランチ上の周波数セレクタ(f2で非f1)3320を有する出力ブランチで選択される。したがって、f1の信号は、出力ポートP3へ出力され、f2の信号は、ポートP4へ出力される。
【0072】
図34は、図30の第1の電力増幅システム3000に基づいた別の例としてのデュアルバンドPA3400を示す。デュアルバンドPA3400は、2つの入力ポートP1およびP2ならびに2つの出力ポートP3およびP4を有し、図28の能動周波数セレクタ2800のような入力側の能動周波数セレクタ3404ならびに出力側の2つの受動周波数セレクタ3416および3420を含む。IMN1 3416は、入力ポートP1に結合され、IMN2 3420は、入力ポートP2に結合され、OMN1 3432は、出力ポートP3に結合され、OMN2 3436は、出力ポートP4に結合されている。f1およびf2の信号が、同時にまたは順番に異なる時間間隔で入力ポートP1およびP2へそれぞれ入力され得る。能動周波数セレクタ3404のダイオードのオン/オフを制御して、周波数f1の信号または周波数f2の信号のいずれかを選択する。選択されたf1またはf2の信号は、次いで、トランジスタ3412によって増幅される。出力周波数は、f1を選択する一方のブランチ上の周波数セレクタ(f1で非f2)3416およびf2を選択する他方のブランチ上の周波数セレクタ(f2で非f1)3420を有する出力ブランチで選択される。
【0073】
上記のように、通信システムにおいて、様々な仕様に合致し、十分な性能レベルを実現するために、PAが高線形性および/または高効率を有することが一般的に好適である。汎欧州デジタル移動電話方式(Global System for Mobile (GSM) communications)等のシステムにおいて、PAが高効率率を有することが好適であるが、一定のエンベロープ信号が用いられているため、線形性の考慮はあまりストリンジェントではない可能性がある。符号分割多元接続(CDMA)システム等の別のシステムでは、一定ではないエンベロープ信号が用いられているため、線形性の考慮は、ストリンジェントである可能性が高い。一般的に、PAにおいて、効率と線形性とはトレードオフの関係にある。図35は、MESFETのI-V特性を一例として示す。様々な級動作のバイアス点が図中に示されている。MESFETは、Vgs=0で最大電流となる負のゲート・ツー・ソース電圧Vgsによって駆動される。VgsがVgs=Vpでのピンチオフまで低くなるのにつれて、ドレイン・ツー・ソース電流Idsが減少する。Vgs=Vpのラインよりも下は、カットオフ領域である。A級PAは、高Vgs値ひいては高Ids値のバイアス点を有する。これは、高出力電力ひいては高線形性と同等である。しかし、A級動作は、信号包絡線が変動するにもかかわらず、大抵はオン状態であるため、電力損失が延長されるために効率が低くなる。したがって、A級PAは、線形増幅器であると考えられるが、一般的に、効率性評価は低い。C級は、特別な用途に対して、ピンチオフよりも下の非常に低Vgs値で操作される。B級、E級、F級、およびそれらの反転は、ピンチオフに近いVgs値のバイアス点を有するため、変動する信号包絡線に応じてオン/オフ制御を行い、電力損失を低下させて、効率をA級よりも高くすることができる。しかし、これらのPAの線形性は、低Ids電流ひいては低出力電力のために、特定の用途に対して十分でない場合がある。いくつかの場合では、例えば、PAのバイアス点を変化させることによって、PAをAB級とF級との2つのモードで動作するように設計し得る。この種の動作は、トレードオフの関係であっても高効率および高線形性を達成するのに寄与し得る。中程度の効率および中程度の線形性の両方が好適な用途において、バイアス点がA級とB級、E級、およびF級との間に位置するため、AB級PAが選択され得る。J級PAは、一般的に、高調波を除去する高調波トラップをAB級PAに合わせたものとして考えられ得る。J級スキームにおいて、第二高調波および第三高調波の両方を短絡させることが可能である。したがって、ドレイン(コレクタ)電流および電圧に正弦波形を持たせることが可能であり、これによって、J級PAの線形性が増強される。
【0074】
本書類における以下のPAアーキテクチャは、J級PAに基づいている。J級PAにおける高調波トラップに対してCRLH TLを用いて、J級MTM PAの一例を以下のように考案し、説明する。CRLH構造を用いることによって、回路サイズ縮小および電力損失低下に寄与し得、その結果、効率を向上させ得る。さらに、AB級バイアス点の近くまでPAにバイアスをかけることにより、B級、E級、F級、およびそれらの反転よりもよい線形性が得られると予想される。しかし、CRLH構造に基づいた同様の高調波トラップスキームは、前提となる用途の効率および線形性の考慮によっては、他の級に対しても用いることが可能である。
【0075】
図36A〜図36Cは、PAにおいて高調波を除去する3つの異なる構成の模式図を示す。図36Aは、複数の高調波を個別に除去する複数のRH TLを含む従来の高調波トラップ3616を用いたJ級PAの従来の構成を示す。このPAは、入力側のIMN3604および出力側のOMN3612、ならびにマイクロストリップ等のRH TL3608を介してトランジスタドレイン(またはコレクタ)端子に結合されている高調波トラップ3616を含む。図36Bは、図36Aの複数のTLの代わりに1つのCRLH TLに基づいて複数の高調波を除去するMTM高調波トラップ3620を有するJ級MTM PAの構成を示す。図20の周波数セレクタ2000を、例えば、第二高調波および第三高調波を除去する高調波トラップ3620に利用することにより、従来の高調波トラップ3616よりも構成要素を少なくすることができる。このような回路の全体サイズ縮小の結果、総電力損失を減少させ、効率を向上させ得る。図36Cは、OMN一体化MTM高調波トラップ3624を有するJ級MTM PAを示す。この一体化例において、CRLH TLのRH部分、すなわちRHインダクタンスLRおよびRHキャパシタンスCRは、MTM高調波トラップ3624におけるCRLH TLの一部として適切な位相を提供することに加えて、出力インピーダンス整合を最適化するように構築される。
【0076】
図37は、図36BのMTM高調波トラップ3620を有するJ級MTM PAの一実装例3700のレイアウトを示す。本例において、前提となる周波数範囲に対する離散パッケージが利用可能なため、MESFET3704が用いられる。しかし、トランジスタは、異なる製造技術による異なる種類のものであり得る。図37は、このPAを実現するのに用いられる追加の離散構成要素を概略的に示す。MESFET3704のゲートは、2つのキャパシタ、抵抗器、およびRFチョークを含むゲートバイアス回路3708によってバイアスがかけられる。MESFET3704のドレインは、キャパシタおよびRFチョークを含むドレインバイアス回路3712によってバイアスがかけられる。この実装例3700において従来のシングルバンドバイアス回路が用いられているが、ゲートバイアス回路およびドレインバイアス回路の一方または両方に対して、図6に示すようなバイアス回路を用いることができる。IMN3716は、RH TL1 3720およびRH TL2 3724としてそれぞれ示される直列RH TLおよびシャントRH TLを含む。図1Fおよび図1Gを参照して上記に説明したように、直列RH TLおよびシャントRH TLの組み合わせは、RH直列インダクタンスLRおよびRHシャントキャパシタCRでモデル化され得る。RH TL3720および3724の長さおよび幅を構築することによって、これらの等価回路パラメータを調整して、最適な入力インピーダンス整合を提供し得る。DCブロック1 3728が、RH TL1 3720に沿った経路に含まれ、DC信号を遮断する。同様に、OMN3732は、RH TL3 3736およびRH TL4 3740としてそれぞれ示される直列RH TLおよびシャントRH TLを含む。RH TL3736および3740の長さおよび幅を構築することによって、等価回路パラメータを調整して、最適な出力インピーダンス整合を提供し得る。DCブロック2 3744が、RH TL3 3736に沿った経路に含まれ、DC信号を遮断する。周波数セレクタ3748は、MTM高調波トラップの役割を果たす。本例において、4つのシャントLHキャパシタ(すなわち、2つの2CLおよび2つのCL)、3つのシャントLLインダクタ(すなわち、3つのLL)、ならびにRH TL5 3752は、3つのCRLHユニットセルを提供するように構成される。これらのパラメータ値は、CRLH位相曲線が3つの点に一致する図20を参照して説明した高調波トラップに対してCRLH設計スキームを用いることで、高調波トラップ機能を提供するように、すなわち、第二高調波および第三高調波を除去して、一次周波数の信号を通過させるように操作される。RH TL6 3756の位相も、J級用途に一般的に考えられるように、MESFET3704のドレイン端子に結合された入力ポートP1が、奇数次高調波に対して開放回路を有し、偶数次高調波に対して短絡回路を有する図20を参照して説明したRH設計スキームを用いて決定され得る。RH TL6 3756の位相を、前提となる用途に応じて異なるように調整して、信号の伝送および反射を調整し得る。図36Aの従来のRH高調波トラップよりも周波数セレクタ3748のサイズが小さいために、効率が向上し得る。また、AB級バイアスが用いられるため、十分な線形性も得ることができる。
【0077】
図38は、図37のJ級MTM PAの実装例3700における入力電力(Pin)の関数として、電力付加効率(PAE)および出力電力(Pout)の測定結果をプロットしたものである。RF PAにおいて、PAEは、PoutとPinとの間の差のDC消費電力に対する割合として規定され、効率は、PoutのDC消費電力に対する割合として規定される。Pout=18dBmが電力飽和に相当する本測定範囲において、図38のPout対Pin曲線は、ほぼ直線状であり、良好な線形性を示している。線形性は、点が理想的な格子点からどの程度離れているかをパーセントで表すエラーベクトル振幅(EVM)を用いても評価し得る。一般的に、EVM図は、固定化された格子点は、信号形状に歪みがない状態に相当し、歪みは、格子点からの逸脱によって定量化されることを示す。したがって、線形性が向上するのにつれて、EVM値が減少する。EVM値0%は、歪みがない状態、ひいては理想的な線形性に相当する。本例でのEVM測定値は、約5.6%であり、本用途で中程度に良好な線形性であると考えられる。図38のPAE対Pin曲線は、このPAのピークPAEが約52%であり、直線領域の総PAEが30%より大きいことを示している。このPAE値は、約15%である従来のAB級PAE値より顕著に高い。
【0078】
図39は、図36CのOMN一体化MTM高調波トラップ3624を有するJ級MTM PAの一実装例3900のレイアウトを示す。本例において、前提となる周波数範囲に対する離散パッケージが利用可能なため、pHEMTが用いられる。しかし、トランジスタは、異なる製造技術による異なる種類のものであり得る。図39は、このPAを実現するのに用いられる追加の離散構成要素も示す。pHEMT3904のベースは、キャパシタおよび抵抗器を含むベースバイアス回路3908によってバイアスがかけられる。pHEMT3904のコレクタは、キャパシタを含むコレクタバイアス回路3912によってバイアスがかけられる。これらのバイアス回路は、放射状の1/4波長RH TL3916/3917およびスタブ形状の1/4波長RH TL3918/3919をそれぞれ含み、図4に示すように開放から開放へとインピーダンスを変成させるトータル1/2波長が提供される。放射状の1/4波長RH TLの使用は、一般的に、バンド幅の増加に寄与する。これらのバイアス回路は、従来のシングルバンドバイアススキームに基づいて設計されているが、ベースバイアス回路およびコレクタバイアス回路の一方または両方に対して、図6に示すようなCRLH構造に基づいたバイアス回路600を用いることができる。IMN3924は、図37のJ級MTM PA実装におけるIMN3716と同様に、直列RH TLおよびシャントRH TLを含む。図1Fおよび図1Gを参照して上記に説明したように、直列RH TLとシャントRH TLの組み合わせは、RH直列インダクタンスLRおよびRHシャントキャパシタCRでモデル化され得る。これら2つのRH TLの長さおよび幅を構築することによって、等価回路パラメータを調整して最適な入力インピーダンス整合を提供し得る。DCブロック1 3928が、IMN3924に含まれ、DC信号を遮断する。OMN一体化MTM周波数セレクタ3932は、RH TL1 3936およびRH TL2 3940を含む、図36CのOMN一体化MTM周波数セレクタ3624の一実装例である。DCブロック2 3944が、RH TL1 3936に沿った経路に含まれ、DC信号を遮断する。本例において、4つのシャントLHキャパシタ(すなわち、2つの2CLおよび2つのCL)、3つのシャントLLインダクタ(すなわち、3つのLL)、ならびにRH TL2 3940は、3つのCRLHユニットセルを提供するように構成される。これらのキャパシタンス値およびインダクタンス値ならびにRH TL2 3940の寸法は、RH部分(CRおよびLR)に対する等価回路パラメータが、OMNとして最適な出力インピーダンス整合を提供するのと同時に、LH部分およびRH部分(CL、LL、CR、およびLR)に対する等価回路パラメータが、高調波トラップ機能を提供する、すなわち、第二高調波および第三高調波をフィルタ処理して、一次周波数の信号を通過させるように調整される。高調波トラップに対するCRLH設計スキームは、CRLH位相曲線が3つの点に一致する図20を参照して説明したものと同様であってもよい。RH TL1 3936の位相も、J級用途に一般的に考えられるように、pHEMT3904のコレクタ端子に結合された入力ポートP1が、奇数次高調波に開放され、偶数次高調波に短絡される図20を参照して説明したRH設計スキームを用いて決定され得る。あるいは、位相は、トランジスタのコレクタ端子が、前提となる用途に応じて、奇数次高調波に短絡され偶数次高調波に開放されるか、すべての高調波に短絡されるか、すべての高調波に開放されるように調整可能である。
【0079】
図39のJ級MTM PA実装3900に対する設計は、図36Cに示すようなOMNのMTM高調波トラップへの一体化に係る。上記のように、MTM高調波トラップを用いることによって、回路の全体サイズを減少させ得る。図36Aのように、高調波トラップに対する従来の設計で複数のRH TLが用いられるのに対して、図36Bおよび図36Cのように、1つのCRLHスタブが、第二高調波および第三高調波をフィルタ処理するように設計され得る。さらに、図39の実装例3900は、MTM高調波トラップの一部であるCRLH TLにOMNを一体化させて、回路サイズおよび構成要素数をさらに減少させる。回路の全体サイズおよび複雑性が減少することによって、一般的に、電力損失が減少し、ひいては、効率が向上する。
【0080】
図40は、図39のJ級MTM PAの実装例3900についてPout対Pinの測定結果をプロットしたものである。このAB級の場合、ベースバイアスVbe=1VおよびコレクタバイアスVce=3.5Vが選択される。これにより、本用途において約15dBmまでのPoutで良好な線形性が得られることが示されている。なお、MTM J級PAの本実装は、低Pin領域であったとしても、いくらかのゲインを有する。
【0081】
図41は、図39のJ級MTM PAの実装例3900についてPAE対Poutの測定結果をプロットしたものである。これにより、ピークPAE測定値が約Pout=20dBmで約60%となることが示されている。図中、EVM測定値が付け加えられ、Pout値が約14dBmでPAE値が約30%まで3%を下回るEVM値が得られることを示している。なお、3%以下のEVM値は、WiFi用途の通信システムに対して一般的に考えられるが、ここでPoutはこの3%のEVM点まで引き下げられて、線形性を再び得るが、効率が低下する。
【0082】
図42は、図39のJ級MTM PAの実装例3900についてPAE対Pinの測定結果をプロットしたものである。これにより、Pin値が約-2dBmでEVM値が約3%のときに、PAE測定値が約30%となることが示されている。ピーク効率測定値は、Pin値が約7dBmのときに、約60%となる。
【0083】
図43は、ドライバPAが結合された図39のJ級MTM PA3900のモノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)実装についてPAE対周波数のシミュレーション結果をプロットしたものである。OFDM信号がシミュレーションに用いられ、この場合のEVMは、約3%である。これにより、現行のJ級MTM PA設計を用いて、少なくとも1.7GHzから2.7GHZまでの広帯域にわたって良好な効率が得られることが示されている。
【0084】
位相歪みは、固有の非線形性により、トランジスタの出力部で生じ得る。追加の回路または構成要素をPAに組み合わせて、位相歪みを最小化し得る。図44は、バラクタを含むCRLH TL4404を用いた構成例の模式図を示す。本例において、CRLH TL4404は、トランジスタ4408の入力側に位置する。CRLH TL4404の拡大図を点線で囲んで示し、図1BのようにCRLHユニットセルを用いることを示す。このCRLH TL4404は、一例として2つのRH/2TLを含み、RHパラメータCRおよびLRを提供するが、集中定数素子(lumped element)を代わりに用いてもよい。異なる種類のCRLHユニットセルを、集中定数素子、分布定数素子(distributed element)、またはこれらの組み合わせと用いることも可能である。CRLH TL4404は、キャパシタの代わりにバラクタ4420を含み、調整可能なCLを提供する。本例において、OMN4412の後、出力された電力および/または対応付けられた信号が、検出器4416によって検出される。フィードバックループが、検出器4416から提供されて、CRLH TL4404内のバラクタ4420を制御する。検出器4416によって検出された電力および/または対応付けられた信号にしたがって、バラクタ4420のキャパシタンス値は、CRLH TL4404の位相ひいては入力位相が調整されるように変動する。LR、CR、およびLL等の他のCRLHパラメータは、最適化のために、一定にしてもよいし、変動させてもよい。周波数が負で線形であるRH位相応答とは異なり、CRLH位相応答は、周波数が、正または負であって、非線形である。したがって、いかなる位相歪みも、PAの入力側にバラクタ4420を含むCRLH TL4404を用いて調整され得る。
【0085】
別の例において、IMNは、CRLH TLに一体化され得、入力インピーダンス整合および位相歪み最小化の両方を行う。一体化は、図36Cおよび図39を参照して説明したOMN一体化MTM周波数セレクタと同様に実現され得る。
【0086】
なお、上記のMTM PA例も、64-QAM OFDMの802.11bや802.11g等のWLAN用途に対して最適化し得る。本明細書において提示された2つのJ級MTM PA実装は、1つの周波数(例えば、2.4GHz)で最適に動作するように設計されているが、異なる選択された周波数に対して設計することも可能であるため、これらのMTM PAを、WCDMA、LTE、WLAN802.11x、またはGSM等の用途に適切にし得る。
【0087】
本書類は多くの具体例を含むが、これらは本発明または特許請求の範囲を限定するものであると解釈されるべきではなく、本発明の特定の態様に特有の特徴を説明するものとして解されるべきである。別々の態様の文脈で本書類に記載されたいくつかの特徴は、単一の態様で組み合わせても実装可能である。逆に、単一の態様の文脈で記載された様々な特徴は、多数の態様で、別々に、または任意の適切なサブ組み合わせとしても実装可能である。さらに、ある組み合わせで特徴が動作するように記載されて当初はそのように主張され得たとしても、場合によっては、主張された組み合わせからの1つまたは複数の特徴を、該組み合わせから排除することが可能であり、主張された組み合わせは、サブ組み合わせまたはサブ組み合わせ変更例へと向けられ得る。
【0088】
わずかな実装のみが開示されています。開示された実装および他の実装は、開示および説明に基づいて変更および拡大し得る。
【技術分野】
【0001】
優先権主張および関連出願
本特許出願は、2008年2月18日に出願され、“A Metamaterial Power Amplifier System and Method for Generating Highly Efficient and Linear Multi-Band Power Amplifiers”と題された米国仮特許出願第61/153,398号の恩典を主張する。上記仮出願の開示内容は、参照により本明細書に組み入れられる。本特許出願は、2007年4月27日に出願され、“Antennas, Devices and Systems based on Metamaterial Structures”と題された米国特許出願第11/741,674号、2009年9月22日に発行され、“Antennas Based on Metamaterial Structures”と題された米国特許第7,592,952号、および2007年12月21日に出願され、“Power Combiners and Dividers Based on Composite Right and Left Handed Metamaterial Structures”と題された米国特許出願第11/963,710号に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
本書類は、メタマテリアル構造に基づいた電力増幅器システムおよびその構成要素に関する。
【0003】
大半の物質における電磁波の伝播は、電界をE、磁界をH、および波数ベクトル(すなわち伝播定数)をβとした場合、(E,H,β)ベクトル場の右手の法則に従う。位相速度方向は、信号エネルギー伝播(群速度)の方向と同一であり、屈折率は正の数である。このような物質は、右手系(RH)物質と呼ばれる。大半の自然物質は、RH物質である。人工物質にも、RH物質が存在し得る。
【0004】
メタマテリアル(MTM)は、人工的な構造を有する。メタマテリアルにより誘導される電磁エネルギーの波長よりも大幅に小さい構造平均ユニットセルサイズで設計される場合、該メタマテリアルは、誘導される電磁エネルギーに対して均質媒質のような挙動を取ることが可能である。RH物質とは異なり、メタマテリアルは負の屈折率を示すことが可能であり、位相速度方向は、信号エネルギー伝播の方向と逆であり、(E,H,β)ベクトル場の相対的な方向は、左手の法則に従う。誘電率εおよび透磁率μが同時に負であり、負の屈折率を有するメタマテリアルは、純粋な左手系(LH)メタマテリアルと呼ばれる。
【0005】
多くのメタマテリアルが、LHメタマテリアルとRH物質との混合物であるため、右手/左手系複合(CRLH)メタマテリアルである。CRLHメタマテリアルは、低周波数ではLHメタマテリアルのような挙動を取り、高周波数ではRH物質のような挙動を取ることが可能である。様々なCRLHメタマテリアルの実装および特性は、例えば、Caloz and Itoh, “Electromagnetic Metamaterials: Transmission Line Theory and Microwave Applications,” John Wiley & Sons (2006年)(非特許文献1)に記載されている。CRLHメタマテリアルおよびそれらのアンテナへの適用は、Tatsuo Itoh, “Invited paper: Prospects for Metamaterials,” Electronics Letters, Vol. 40, No. 16 (2004年8月)(非特許文献2)に記載されている。CRLHメタマテリアルは、特定の用途に合った電磁特性を示すように構成されて操作され得、他の物質を用いることが困難、非実用的、または実行不可能であるかもしれない用途に用いられ得る。さらに、CRLHメタマテリアルは、RH物質では可能ではなかったかもしれない新たな用途を開発し、新たなデバイスを構築するのに用いられ得る。
【0006】
いくつかの用途において、MTMおよびCRLHの構造および構成要素は、左手系(LH)構造の概念を適用した技術に基づいている。本明細書において用いられるところの用語「メタマテリアル」、「MTM」、「CRLH」、および「CRLH MTM」は、従来の誘電体および導電体を用いて操作され、特有の電磁気的特性を生じさせたLHとRHとの複合構造を指す。この場合の複合ユニットセルは、伝播する電磁波の波長よりも大幅に小さい。
【0007】
本明細書において用いられるところのメタマテリアル技術は、導電体部分および誘電体部分からなる小型のデバイスを可能にし、電磁波を送受信するのに用いられる技術的手段、方法、装置、発明、および操作処理を含む。MTM技術を用いた場合、アンテナおよびRF構成要素を、競合する方法と比較して非常に小型に製造し得、望ましくない干渉および電磁結合を最小化するのと同時に、相互または他の隣接構成要素と非常に接近して配置され得る。このようなアンテナおよびRF構成要素は、無線通信デバイス内のアンテナおよびRF構成要素を設計し、一体化し、最適化する様々な構造の1つまたは複数に由来する有用かつ特有の電磁気的挙動をさらに示す。
【0008】
CRLH構造は、ある周波数範囲で同時の負の誘電率(ε)および負の透磁率(μ)を示し、別の周波数範囲で同時の正のεおよび正のμを示す構造としての挙動を取る構造である。伝送線路(TL)に基づいたCRLH構造は、TL伝播を可能にし、ある周波数範囲で同時の負の誘電率(ε)および負の透磁率(μ)を示し、別の周波数範囲で同時の正のεおよび正のμを示す構造としての挙動を取る構造である。CRLH系アンテナおよびTLは、従来のRF設計構造を用いても用いなくても、設計し、実装し得る。
【0009】
従来の導電部分および誘電体部分からなるアンテナ、RF構成要素、および他のデバイスは、MTM構造としての挙動を取るように設計された場合、「MTMアンテナ」や「MTM構成要素」等と称され得る。MTM構成要素は、従来の導電体および絶縁体ならびに標準的な製造技術を用いて簡単に製造し得る。該製造技術には、FR4、セラミック、LTCC、MMIC、柔軟性のあるフィルム、プラスチック、またはさらには紙等の基材上に、導電層を印刷、エッチング、およびサブトラクティブする工程が非限定的に含まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Caloz and Itoh, “Electromagnetic Metamaterials: Transmission Line Theory and Microwave Applications,” John Wiley & Sons (2006年)
【非特許文献2】Tatsuo Itoh, “Invited paper: Prospects for Metamaterials,” Electronics Letters, Vol. 40, No. 16 (2004年8月)
【発明の概要】
【0011】
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】区間pで直列接続された少なくとも3つのCRLHユニットセルを有するMTM伝送線路(TL)の等価回路を示す。
【図1A】CRLHユニットセルの様々な構成を示す。
【図1B】CRLHユニットセルの様々な構成を示す。
【図1C】CRLHユニットセルの様々な構成を示す。
【図1D】CRLHユニットセルの様々な構成を示す。
【図1E】CRLHユニットセルの様々な構成を示す。
【図1F】等価のRHシャントキャパシタンスCRおよびRH直列インダクタンスLRで表わされた直列RH TLを示す。
【図1G】等価のRHシャントキャパシタンスC’RおよびRHシャントインダクタンスL’Rで表わされたシャントRH TLを示す。
【図2】均衡CRLHユニットセルに対するCRLH分散曲線を、RH分散曲線およびLH分散曲線と比較して示す。
【図3】点線、1点鎖線、および実線でそれぞれ示されるRH位相応答、LH位相応答、およびCRLH位相応答の例を示す。
【図4】電力増幅器(PA)中のトランジスタにバイアスをかけるRF信号経路に結合された従来のシングルバンドバイアス回路の一例を示す。
【図5】図4に示す従来のシングルバンドバイアス回路を用いた、WiFi用途の2.4GHzおよび5.8GHzの2つの周波数に対するスミスチャートにおけるインピーダンスのシミュレーション結果をプロットしたものである。
【図6】PA中のトランジスタにバイアスをかけるRF信号経路に結合されたデュアルバンドバイアス回路の一例を示す。
【図7】図6に示すデュアルバンドバイアス回路を用いた、2.4GHzおよび5.8GHzの2つの周波数に対するスミスチャートにおけるインピーダンスの測定結果をプロットしたものである。
【図8】シャントCRLH TL構成を有する周波数セレクタの一例を示す。
【図9】一方のCRLH TLがシャントであり、他方が直列である2つのCRLH TLを有する周波数セレクタの一例を示す。
【図10】図9の周波数セレクタの一実装例における挿入損失のシミュレーション結果をプロットしたものである。
【図11】直列RH TLおよびシャントCRLH TLを有する周波数セレクタの一例を示す。
【図12】図11の周波数セレクタの一実装例のレイアウトを示す。
【図13】図12の実装例における反射損失および挿入損失のシミュレーション結果および測定結果をプロットしたものである。
【図14】直列CRLH TLおよび開放シャントRH TLを有する周波数セレクタの一例を示す。
【図15】直列CRLH TLおよび短絡シャントRH TLを有する周波数セレクタの一例を示す。
【図16】ある1つの周波数の信号を通過させ、2つの異なる周波数の信号をフィルタ処理する周波数セレクタの一例を示す。
【図17】ポートP3が開放である図16の周波数セレクタの一実装例のレイアウトを示す。
【図18】図17の実装例におけるCRLH TLの位相応答曲線を、RH応答曲線およびLH応答曲線との比較としてプロットしたものであり、それぞれを、実線、点線、および破線で示す。
【図19】図17の実装例における反射損失および挿入損失の測定結果およびシミュレーション結果をプロットしたものである。
【図20】一次周波数の信号を通過させ、第二高調波および第三高調波の信号をフィルタ処理する周波数セレクタの一例を示す。
【図21】拡張CRLH(extended-CRLH)(E-CRLH)ユニットセルを示す。
【図22】図16のように構成されているが、従来のCRLH(C-CRLH)TLの代わりにE-CRLH TLを有する周波数セレクタの挿入損失のシミュレーション結果をプロットしたものである。
【図23】直列素子X1, X2, …, Xnおよびシャント素子Y1, Y2, …, Ynを有するマルチバンド周波数セレクタの一例を示す。
【図24】Y1, Y2, …, YnおよびY1a, Y2a, …, Ynaで示されるように、2つのシャント素子が各ブランチに結合されているマルチバンド周波数セレクタの一例を示す
【図25】周波数セレクタおよびハイパスフィルタ(HPF)を有するダイプレクサの一実装例のレイアウトを示す。
【図26】図25の実装例において、挿入損失P2-P1、挿入損失P3-P1、およびアイソレーションP3-P2の測定結果をプロットしたものである。
【図27】図27A〜図27Cは、並列接続された2つの周波数セレクタの3つの異なるオン/オフ構成を示す。
【図28】シャント接続された2つのCRLH TLを有する能動周波数セレクタの一例を示す。
【図29】シャント接続され、能動高調波トラップとして用いられる2つのCRLH TLを有する能動周波数セレクタの一例を示す。
【図30】複数の周波数帯域に対する第1の電力増幅システムのブロック図を示す。
【図31】複数の周波数帯域に対する第2の電力増幅システムのブロック図を示す。
【図32】能動周波数セレクタを用いた、図30の電力増幅システムに基づいたデュアルバンドPAの一例を示す。
【図33】2つの入力ポートおよび2つの出力ポートを有する、図30の電力増幅システムに基づいたデュアルバンドPAの一例を示す。
【図34】2つの入力ポートおよび2つの出力ポートを有する、図30の電力増幅システムに基づいたデュアルバンドPAの一例を示す。
【図35】MESFETのI-V特性を様々な級動作のバイアス点とともに示す。
【図36】図36A〜図36Bは、PAにおいて高調波を除去する3つの異なる構成の模式図を示す。
【図37】図36BのMTM高調波トラップを有するJ級MTM PAの一実装例のレイアウトを示す。
【図38】図37の実装例における入力電力(Pin)の関数として、電力付加効率(PAE)および出力電力(Pout)の測定結果をプロットしたものである。
【図39】図36Cの出力整合インピーダンス(OMN)一体化MTM高調波トラップを有するJ級MTM PAの一実装例のレイアウトを示す。
【図40】図39の実装例についてPout対Pinの測定結果をプロットしたものである。
【図41】図39の実装例についてPAE対Poutの測定結果をプロットしたものである。
【図42】図39の実装例についてPAE対Pinの測定結果を示す。
【図43】図39のJ級MTM PAのモノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)実装についてPAE対周波数のシミュレーション結果をプロットしたものである。
【図44】バラクタを含むCRLH TLを用いた電力増幅器構成例の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
現代の通信システムにおいて、様々な仕様に合致し、特定の性能レベルを実現するために、電力増幅器(PA)が高線形性および/または高効率を有することが一般的に好適である。高効率は、送受話器をより長時間作動させるように、送受話器の電池寿命を延長するのに重要である。高線形性は、歪みを最小にして信号の完全性を維持するのに重要である。
【0014】
MTM構造は、アンテナ、伝送線路、ならびに他のRF構成要素およびデバイスを構築するのに用いて、機能増強、サイズ縮小、および性能向上等の広範囲の技術進歩を可能にし得る。本書類では、MTM構造を用いて高効率および高線形性の両方を実現するPAおよび構成要素の設計を記載する。
【0015】
MTM構造は、1つまたは複数のユニットセルを有する。MTM系構成要素およびデバイスは、これらのユニットセルに基づいて設計され得る。該ユニットセルは、分布回路素子、集中回路素子、またはこれらの組み合わせを用いて実装され得る。図1は、区間pで直列接続された少なくとも3つのCRLHユニットセルを有するMTM伝送線路(TL)の等価回路10を示す。MTM TLの長さをlとし、CRLHユニットセルの数をNとすると、一般にl=N×pの関係が成り立つ。各ユニットセル12に対する等価回路は、RH直列インダクタンスLR、RHシャントキャパシタンスCR、LH直列キャパシタンスCL、およびLHシャントインダクタンスLLを有する。LHシャントインダクタンスLLおよびLH直列キャパシタンスCLを、構築し、接続して、ユニットセル12にLH特性を提供し得、RH直列インダクタンスLRおよびRHシャントキャパシタンスCRを、構築し、接続して、ユニットセル12にRH特性を提供し得る。
【0016】
図1A〜図1Eは、CRLHユニットセルの様々な構成を示す。直列RHブロック100は、図1Fに示すようにRHシャントキャパシタンスCR102およびRH直列インダクタンスLR104で等価に表わされ得る従来のマイクロストリップ等のRH TLを表す。図1Gに示すようにRH TLがシャント構成に用いられる場合、シャントRH TL106は、RHシャントキャパシタンスC’R108およびRHシャントインダクタンスL’R110で等価に表わされ得る。なお、直列RH TL100およびシャントRH TL106を同様のTLサイズで組み合わせた場合、LR値がL’R値よりも優勢であり、C’R値がCR値よりも優勢である。これは、直列RH TLとシャントRH TLとの組み合わせが、RH特性に1つの総RHシャントキャパシタンスおよび1つの総RH直列インダクタンスを依然として提供していることを示す。図1Dおよび図1Eは、図1の元のCRLHユニットセルで、CRおよびLRがRH TLで置換されている例を示す。図1A〜図1Cにおける「RH/2」は、RH TLの長さが2で割られていることを示す。図1Aは、図1のCRLHユニットセルを対称となるように示したものであり、CRおよびLRがRH TLで置換され、さらにRH TLが2つのRH/2に対称的に分割されている。変更例には、図1Aに示すような構成で、RH/2とCLとを入れ替えたもの、および図1A〜図1Cに示すような構成で、両側にRH/2がある代わりに一方の側にRH/4が他方の側に3RH/4があるものが含まれる。あるいは、RH伝送線路を分割するのに、別の補完的な分数が用いられ得る。MTM構造は、分布回路素子、集中回路素子、またはこれらの組み合わせを用いて、CRLHユニットセルに基づいて実装され得る。このようなMTM構造は、FR-4プリント回路基板(PCB)またはフレキシブルプリント回路(FPC)基板等の回路基板を含む様々な回路プラットフォーム上に製造され得る。他の製造技術の例は、薄膜製造技術、システムオンチップ(SOC)技術、低温同時焼成セラミックス(LTCC)技術、モノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)技術、およびMEMS(Micro-Electro Mechanical System)技術を含む。MTM構造に基づいたアンテナ構造、伝送線路、および他のRF構成要素のいくつかの例および実装が、2007年4月27日に出願され、“Antennas, Devices and Systems based on Metamaterial Structures”と題された米国特許出願第11/741,674号、2009年9月22日に発行され、“Antennas Based on Metamaterial Structures”と題された米国特許第7,592,957号、および2007年12月21日に出願され、“Power Combiners and Dividers Based on Composite Right and Left Handed Metamaterial Structures”と題された米国特許出願第11/963,710号に記載されている。
【0017】
純粋なLHメタマテリアルは、ベクトル3要素(E,H,β)について左手の法則に従い、位相速度方向は、信号エネルギー伝播方向と逆となる。LH物質の誘電率εおよび透磁率μの両方が同時に負となる。CRLHメタマテリアルは、動作の状態または周波数によって、左手系や右手系の電磁特性を示す。さらにCRLH構造は、信号の波数ベクトルβ(すなわち伝播定数)がゼロとなる場合、非ゼロの群速度を示し得る。CRLL≠CLLRとなる不均衡状態では、電磁波の伝播が禁止されるバンドギャップが存在する。CRLL=CLLRとなる均衡状態では、分散曲線には、LH領域とRH領域との間で、伝播定数β(ωo)=0の転移点において、不連続箇所が見られない。この場合、誘導される波長は無限、すなわち、λg=2π/|β|→∞であり、群速度は正の値をとる。
この状態は、TL実装における0次モードに相当する。
【0018】
図2は、CRLL=CLLRとなる均衡のとれたCRLHユニットセルに対するCRLH分散曲線βを、RH分散曲線βRおよびLH分散曲線βLと比較して示す。この場合のCRLH分散曲線は、以下の式によって近似され得る。
CRLL≠CLLRとなる不均衡状態では、分散曲線βは、以下のように表され得る。
式中、
不均衡状態では、2つの可能な0次共振であるωseおよびωshが存在する。これらは、無限の波長(β=0、基本モード)に対応可能であり、以下の式で表される。
ωseおよびωshにおいて、群速度(vg=dω/dβ)はゼロであり、位相速度(vp=ω/β)は無限である。CRLHユニットセルの均衡がとれている場合、これらの共振周波数は、図2に示すように一致し、以下のように示される。
ここで、式(1)のような正の群速度(vg=dω/dβ)および無限の位相速度(vp=ω/β)を得ることが可能である。RH TL共振器において、共振周波数は、電気長θm=βπl=mπ(m=1, 2, 3, …)に相当する。但し、lは、TLの長さである。図2において、RH分散曲線およびLH分散曲線は、それぞれβRおよびβLで表される。図2において、CRLH分散曲線は、β=βR+βLで表され、ここで、βRおよびβLは、それぞれ式(2)における第一項および第二項に相当する。CRLH TL共振器において、共振周波数は、電気長θm=βml=mπに相当する。但し、lは、CRLH TLの長さであり、1=N×pの関係が成り立ち、パラメータは、m=0, +1, ±2, ±3, …, ±∞である。したがって、CRLH構造は、図2においてCRLH分散曲線を区切っている縦線で示されるように、負のβ領域および正のβ領域の両方に延びる分散曲線を有する共振周波数のスペクトルに対応している。
【0019】
式(2)に表すような分散曲線を有する均衡状態において、位相応答は、以下のように表され得る。
但し、l=N×pである。したがって、CRLH位相の傾きは、以下のように与えられる。
特性インピーダンスは、以下のように与えられる。
したがって、式(11)のインピーダンス整合条件等の制約内で、等価回路パラメータ値CR、LL、CL、およびLR、ならびにユニットセルの数Nを、選択し、制御して、CRLH構造の望ましい位相応答曲線を生成し得る。また、RH構造の場合と異なり、CRLH構造では、0度で非ゼロ周波数を得ることが可能である。
【0020】
以下に、デュアルバンドMTM構造の等価回路パラメータを決定する例を示す。同様の技術が、3つ以上の帯域のパラメータを決定するのに用いられ得る。デュアルバンドMTMの設計において、まず、2つの帯域を表す信号周波数f1およびf2が、2つの異なる位相値に対して選択され得る。すなわち、f1でφ1、f2でφ2とする。式(7)〜(11)を用いて、パラメータLR、CR、LL、およびCLの値を、以下のように得ることができる。
但し、Ztは、前提となるシステムの特性インピーダンスを表すZ0CRLHに対する任意の値(例えば、50Ω)である。CRLH TLは、N個のユニットセルで物理的な長さlを有する。各ユニットセルは区間pであり、l=N×pが成り立つ。信号位相値は、φ=-βlによって規定される。したがって、以下が成り立つ。
これにより、以下が示される。
但し、i=1または2である。よって、2つの異なる周波数f1およびf2で2つの異なる位相φ1およびφ2がそれぞれ選択可能となる。
したがって、上記で得られたような5つのパラメータLL、CR、LR、CL、およびNが、N個の共振周波数および位相応答曲線、対応するバンド幅、ならびにこれらの共振付近の入力/出力TLインピーダンス変動を決定可能である。上記の理論およびその派生理論は、例えば、Caloz and Itoh, “Electromagnetic Metamaterials: Transmission Line Theory and Microwave Applications,” John Wiley & Sons (2006年)に記載されている。
【0021】
図3は、点線、1点鎖線、および実線でそれぞれ示されるRH位相応答、LH位相応答、およびCRLH位相応答の一例を示す。CRLH位相応答は、式(7)、(8)、および(9)に表すように、RH構成要素の位相応答とLH構成の位相応答との組み合わせとして表され得る。CRLH TL位相応答は、低周波ではLH位相応答に接近し、高周波ではRH位相応答に接近する。特に、CRLH位相応答曲線は、ゼロからずれた周波数でゼロ位相軸と交差し、正負両方に無限に延びる。したがって、CRLH位相応答曲線は、任意に選択された非ゼロ周波数のペアで望ましい位相のペアを区切るように操作され得る。パラメータLL、CR、LR、CL、およびNの値を、選択し、制御して、望ましい位相応答を生成し得る。ユニットセルの数Nとして、1、2、または3等の小さい数を選択することによって、回路を簡素にし、構成要素の数を減少させ得る。このような固定化されたN値により、CRLH設計のためにパラメータ値を決定する際の元の4自由度、すなわち、LL、CR、LR、およびCLが、式(11)で与えられるインピーダンス整合条件等の制約により、2に低下する。例えば、図3は、第1の周波数f1で選択された位相が0度であり、第2の周波数f2で選択された位相が-360度であるCRLH設計例を示す。
【0022】
これらのCRLH特性は、シングルバンド動作およびマルチバンド動作のための、アンテナ、方向性結合器、整合ネットワーク、PA、フィルタ、電力合成器および電力分配器、ならびに他の様々なRF構成要素および一体化システムを提供するのに利用され得る。ここで用いられるPAおよび構成要素または回路のいくつかの実装例を、従来例との比較において、CRLH構造に基づいて下記に記載する。
【0023】
図4は、PA中のトランジスタにバイアスをかけるRF信号経路に結合された従来のシングルバンドバイアス回路の例400を示す。RF通信システムにおいて、バイアス回路は、一般的に、トランジスタにDC電力を供給するが、RF信号に対して透過的であるように設計され、RF信号がバイアス回路内へと漏洩してバイアス回路が含まれるPAの性能が劣化する可能性を防止する。図4の従来のシングルバンドバイアス回路は、各TLの一端で放射状に接続され、バイアスライン424を介してRF信号経路414に結合される3つのRH TL404、408、および412を含む。シングルバンドが、動作周波数f1によって表され、バイアス電圧または電流が、RH TL404を介して供給され、RF信号経路414が、2つの回路ブロック416および420を通る矢印で示される。回路ブロック416および420は、トランジスタおよび他の周辺RF回路機構を表す。RH TL408および412のそれぞれの電気長を、f1で1/4波長となるように選択して、接続端(基端(proximal end))に短絡回路を生成し、他端(末端(distal end))に開放回路を生成し得る。同様に、RH TL408のf1での位相φ1およびRH TL412のf1での位相φ2は、-90°×(2k+1)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように選択され得る。なお、RH位相は、式(8)および図2に示すように、DC点以外では負である。短絡点および開放点の位置を、図4のスミスチャートに示す。本例において、RH TL408の末端が、グランド、回路、または構成要素に短絡されるのではなく、開放されるように構成される。f1で1/4波長となる場合、RH TL408は、末端での開放から基端での短絡へとインピーダンスを変化させるインピーダンス変成器として作用する。また、f1で1/4波長となる場合、RH TL412は、基端での短絡から末端での開放へとインピーダンスを変化させる別のインピーダンス変成器として作用し、バイアスライン424を介してトランジスタに結合される。したがって、f1のRF信号に開放されることになるため、RF信号経路414は、バイアスライン424に影響されない。この構成によって、1/4波長RH TLの使用に基づいて、単一の周波数または選択された周波数の奇数倍で同一の動作が可能となる。というのも、RH位相の選択は、式(8)および図2に示すように、周波数における線形ライン上に位置するように制限されるからである。したがって、RH TLに基づいた従来の設計は、相互に倍数となり得ない2つ以上の任意の周波数に係るマルチバンド用途に対して適切となり得ない。
【0024】
上記の例において、1/4波長RH TLの形状が、直線スタブ(straight stub)となるように選択される。別の従来例において、1/4波長RH TLの形状が、放射状となるように選択され得、これによって、バンド幅の増加に寄与し得る。しかし、このような放射状RH TLは、一般的に、スタブ形状のRH TLよりも占める面積が大きくなる。
【0025】
図5は、図4に示す従来のシングルバンドバイアス回路を用いた、WiFi用途の2.4GHzおよび5.8GHzの2つの周波数に対するスミスチャートにおけるインピーダンスのシミュレーション結果をプロットしたものである。結果は、従来のシングルバンドバイアススキームにおいて、2つ以上の選択された周波数に対して同時にバイアスライン424上に開放回路を有することができないことを示す。具体的には、バイアスラインは、対象となる周波数のうちの1つ(例えば、2.4GHz)では、開放回路を形成し得るが、他の周波数(例えば、5.8GHz)では、図5に示すようなスミスチャート上の異なる点となり得るインピーダンスを提供する。2つの任意の周波数に対応する2つのインピーダンスの調整が困難な原因は、図3および式(8)の点線で示すように実質的に線形の位相応答を有する従来のRH TLを用いるためであると考えられる。
【0026】
マルチバンドバイアス回路をMTM構造に基づいて構築して、上記のような従来のシングルバンドバイアス回路に関する欠点のいくつかを克服し得る。図6は、PA中のトランジスタにバイアスをかけるRF信号経路に結合されたデュアルバンドバイアス回路の例600を示す。このデュアルバンドバイアス回路は、各TLの基端で放射状に接続され、バイアスライン624を介してRF信号経路614に結合される2つのRH TL604および612ならびに1つのCRLH TL608を含む。デュアルバンドが、動作周波数f1およびf2によって表され、バイアス電圧または電流が、RH TL604を介して供給され、周波数f1およびf2のRF信号経路614が、2つの回路ブロック616および620を通る矢印で示される。回路ブロック616および620は、トランジスタおよび他の周辺回路機構を表す。この構成は、1つのCRLH TL608、および、インピーダンス変成のために、図4の従来のシングルバンドバイアス回路中のような2つの1/4波長RH TLの代わりに1つのRH TL612を有する。CRLH TL608を用いることによって、図中のスミスチャートを参照して下記に説明するように、DC電力をトランジスタへ流しながら、2つの異なるRF周波数f1およびf2で開放バイアスライン624が可能となる。RH TL612の電気長を、2つの周波数f1およびf2で2つの任意の位相φ3=X°およびφ4=Y°をそれぞれ有するように選択し得る(直線関係にある場合)。すなわち、これらの2つの点は、図3に示す点線のようなRH位相応答線上の点のペアに相当する。RH位相応答の線形性のため、一方の位相(X°またはY°)が選択された場合、他方(Y°またはX°)は、固定化f1およびf2に対して自動的に固定化される。CRLH TL608の末端を開放しながらRH TL612の末端に開放回路を有するために、位相X°およびY°に対応するインピーダンスZXおよびZYがCRLH TL608によって補償されなくてはならない。これは、RH位相応答の場合よりもCRLH位相応答を決定する自由度が大きいために可能である。CRLH TL608の電気長を、例えば、f1でφ1=360°-X°、f2でφ2=360°-Y°となるように選択して、ZX/ZYと開放との間でインピーダンス変成器としてCRLH TL608を作用させ得る。これらの2つの点は、図3に示す実線のようなCRLH位相応答線上の点のペアに相当する。開放点となるZX点およびZY点の位置を、図6のスミスチャートに示す。RF経路614は、バイアスライン624がf1およびf2のRF信号に開放されるため、影響されない。本例において、開放からバイアスライン624までの全電気長(すなわち、CRLH TL608の開口端からRH TL612の開口端まで)が、360°となるように選択される。一般に、全電気長は、開放-開放のインピーダンス変成が得られるように、0°、180°、360°、または180°の倍数となるように選択され得る。すなわち、f1でφ1=k×180°-X°、f2でφ2=k×180°-Y°(但し、k = 0, ±1, ±2, …)となる。
【0027】
図6に示すデュアルバンドMTMバイアス手法は、図3の点線のようなRH位相応答線上の複数の周波数に対応するRH TL612に対して複数の位相を選択し、それぞれのRH位相を補償するようにCRLH位相を選択することにより、マルチバンドMTMバイアス手法に拡張され得る。また、この構成は、CRLH TL608の末端が開放ではなく短絡される場合にも拡張され得る。この場合、CRLH TL608の位相を選択して、短絡からZX/ZYへの変成を行うインピーダンス変成器としてCRLH TL608を作用させ得る。本例において、短絡からバイアスライン624までの全電気長(すなわち、CRLH TL608の短絡端からRH TL612の開口端まで)が、f1でφ1=k×90°-X°、f2でφ2=k×90°-Y°(但し、k = ±1, ±2, …)となるように選択され得る。CRLH構造に基づいた同様の設計手法を、3つ以上の帯域のバイアスに対して用いて、短絡CRLH TLを有するマルチバンドMTMバイアス回路を提供することもできる。
【0028】
図7は、図6に示すデュアルバンドバイアス回路を用いた、2.4GHzおよび5.8GHzの2つの周波数に対するスミスチャートにおけるインピーダンスの測定結果をプロットしたものである。本例において、図1に示すような1つのCRLHユニットセルが、CRLH TL608を構築するのに用いられ、等価回路パラメータ値が、CL=約0.61pF、LL=約5.25nH、CR=約1.96pF、およびLR=約16.9nHとなり、デュアルバンド用途に適切なCRLH位相応答が提供される。結果は、CRLH TLを用いることによる設計および位相柔軟性のために、f1=2.4GHzおよびf2=5.8GHzの両方に対するバイアスラインで、開放回路を得ることが可能であるということを示す。
【0029】
別の例において、CRLH TLに基づくデュアルバンドバイアス回路は、1つの周波数f1で開放バイアスラインを有し、異なる周波数f2で短絡バイアスラインを有するように構成され得る。あるいは、第2の周波数f2が、第二またはそれより上次の高調波となるように選択され得る。
【0030】
上記のデュアルバンドバイアス回路設計の例600において、RH TL612およびCRLH TL608は、バイアスラインで単一RF信号または二重RF信号を遮断するように構成される。遮断の代わりに、特定の周波数の信号が、望ましい経路を通るように選択され得る。このような周波数セレクタは、ある周波数f1の信号を伝送可能とし、異なる周波数f2の別の信号を遮断またはフィルタ処理するCRLH構造を用いて、構築され得る。したがって、周波数セレクタは、例えば、ノッチフィルタに典型的に示されるようにフィルタ処理機能を提供し得、PAまたは他の通信システムに対するビルディングブロックとして設計され得る。以下に、CRLH構造に基づいた周波数セレクタのいくつかの例を示す。
【0031】
図8は、シャントCRLH TL構成を有する、一例としての周波数セレクタ800を示す。ポートP1は、RF信号が入力される入力ポートであり、ポートP2は、RF信号が出力される出力ポートである。CRLH TL804の一端(末端)は、短絡されていても開放されていてもよいポートP3に結合されている。CRLH TL804の他端(基端)は、シャントライン808を介して信号経路P1-P2に結合されている。シャントライン808は、CRLH位相応答に基づいてf1およびf2の信号に対して適切な位相を有するようにCRLH TL804を構成することにより、f1の信号に開放され、f2の信号に短絡されるように制御され得る。本例において、CRLH TL804は、ポートP3でのインピーダンスZ3(例えば、開放または短絡)を、シャントライン808でf1では開放f2では短絡となるように変成するインピーダンス変成器として用いられる。その結果、f1の信号は、P1-P2経路を通るが、f2の信号は、シャントライン808およびCRLH TL804を通じてフィルタ処理または除去され、出力ポートP2への到達を阻止される。理論的には、インピーダンスZ3は、ポートP3が開放の場合、無限であり、ポートP3が短絡の場合、ゼロとなる。しかし、実際のところ、かつ本書類では、用語「開放」は、実装および適用の際に達成可能な高インピーダンスを指すのに用いられ、用語「短絡」は、実装および適用の際に達成可能な低インピーダンスを指すのに用いられる。
【0032】
CRLH TL804の電気長は、図3のCRLH位相応答曲線で示されるように、特定の周波数で特定の位相に対応するように操作され得る。ポートP3が開放の場合に、シャントライン808をf1で開放させ、f2で短絡させるために、様々な位相組み合わせが用いられ得る。CRLH TLを用いて、シャントライン808で開放回路を有するために、f1での位相φ1は以下のように構成され得る:
φ1 = 0°±(k×180°) 式(16)
(但し、k = 0, 1, 2, …)。同様に、シャントライン808で短絡回路を有するために、f2での位相φ2は以下のように構成され得る:
φ2 = 90°±(k×180°) 式(17)
(但し、k = 0, 1, 2, …)。あるいは、ポートP3が短絡の場合に、f1で開放シャントライン808とし、f2で短絡シャントライン808とするために、様々な位相組み合わせが用いられ得る。シャントCRLH TL804をグランド、回路、または構成要素に短絡させる場合、シャントライン808で開放回路を有するために、f1での位相φ1は以下のように構成され得る:
φ1 = 90°±(k×180°) 式(18)
(但し、k = 0, 1, 2, …)。同様に、シャントライン808で短絡回路を有するために、f2での位相φ2は以下のように構成され得る:
φ2 = 0°±(k×180°) 式(19)
(但し、k = 0, 1, 2, …)。
【0033】
上記で説明したようなシャントCRLH TL804を用いた周波数選択スキームに基づいて、CRLH TLおよびRH TLの組み合わせを用いて、様々な周波数セレクタが構築され得る。周波数選択機能を実施するため、例えば、周波数セレクタは、2つのCRLH TLの組み合わせを含み得、別の例では、CRLH TLおよびRH TLを含み得る。図9は、一方のCRLH TL904がシャントであり、他方のCRLH TL912が信号経路P1-P2に直列である2つのCRLH TLを有する、一例としての周波数セレクタ900を示す。図8に示す構成と同様に、シャントCRLH TL904の一端(末端)は、短絡されていても開放されていてもよいポートP3に結合されている。CRLH TL904の他端(基端)は、シャントライン908を介して信号経路P1-P2に結合されている。シャントライン908は、f1およびf2の信号に対してそれぞれ適切な位相φ1およびφ2を有するようにシャントCRLH TL904を構成することにより、f1の信号に開放され、f2の信号に短絡されるように制御され得る。シャントCRLH TL904の位相φ1およびφ2は、P3が開放の場合、式(16)および式(17)の値からそれぞれ選択され得、P3が短絡の場合、式(18)および式(19)の値からそれぞれ選択され得る。直列CRLH TL912の一端は、入力ポートP1に結合され、他端は、シャントライン908に結合されている。直列CRLH TL912の位相φ3およびφ4は、ポートP3が開放または短絡である場合、以下のように選択され得る。f1の信号に対して、シャントCRLH TL904は、信号経路P1-P2から結合解除される。したがって、直列CRLH TL912は、f1での位相φ3が任意で、入力インピーダンスと出力インピーダンスとの間に整合インピーダンス(例えば、50Ω)を有するように構築され得る。f2の信号に対して、シャントライン908は短絡され、入力ポートP1は、好ましくは、最大信号反射となるよう開放されるように設計される。したがって、直列CRLH TL912のf2でのφ4を、90°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように選択して、短絡から開放へとインピーダンスを変成し得る。あるいは、短絡されるように入力ポートP1を設計するために、直列CRLH TL912のf2でのφ4を、0°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように選択して、短絡から短絡へとインピーダンスを変成または維持し得る。また、CRLH TL904を、位相φ3およびφ4が前提となる用途に適した別の値をとるように異なる設計にして、信号の伝送および反射を調整し得る。上記の例のように直列TLおよびシャントTLを用いることで、シャントTLに対応付けられた位相φ1およびφ2によって、特定の周波数の信号を遮断または送信するように開放または短絡を提供し続けながら、直列TLに対応付けられた位相φ3およびφ4を調整する柔軟性が得られる。
【0034】
一実装例において、図9の周波数セレクタ900は、ポートP3が開放の場合、直列CRLH TL912が、周波数f1=2.4GHzで位相φ3=0°となり、周波数f2=5.8GHzで位相φ4=-90°となり、シャントCRLH TL904が、周波数f1=2.4GHzで位相φ1=0°となり、周波数f2=5.8GHzで位相φ2=-90°となるように構築され得る。これらの位相応答は、2つのCRLHユニットセルを有する直列CRLH TL912および1つのCRLHユニットセルを有するシャントCRLH TL904であって、各ユニットセルが、CL=約1.7pF、LL=約4.25nH、LR=約2.6nH、およびCR=約1pFの等価回路パラメータ値を有するものを設計することによって得ることが可能である。
【0035】
図10は、上記の等価回路パラメータ値を有し、FR4基板に基づく図9の周波数セレクタ900の一実装例における挿入損失のシミュレーション結果をプロットしたものである。これにより、点m3で示される2.4GHzにおける挿入損失がゼロに近く、点m4で示される5.8GHzにおける挿入損失が-30dBに近いことが示されている。したがって、これらの結果は、2.4GHz付近の信号が周波数セレクタ900を通過し、5.8GHz付近の信号が遮断されることを示す。
【0036】
図11は、別の例としての周波数セレクタ1100を示す。この周波数セレクタは、直列RH TL1112およびシャントCRLH TL1104を有する。一般に、RH TLを用いることで、ある周波数での位相の制御が可能になる。RH位相応答の線形性のため、第2の周波数での位相は、任意に選択され得ない。上記のように、信号をポートP3を介してフィルタ処理することによって、周波数f1の信号をポートP1からポートP2へと通過させ、周波数f2の信号を遮断するために、シャントCRLH TL1104の位相φ1およびφ2を、ポートP3が開放の場合、式(16)および式(17)で表すように選択し得、ポートP3が短絡の場合、式(18)および式(19)で表すように選択し得る。直列RH TL1112の位相φ3およびφ4は、ポートP3が開放または短絡である場合、以下のように選択され得る。f1の信号に対して、シャントCRLH TL1104は、信号経路P1-P2から結合解除される。したがって、直列RH TL1112は、f1での位相φ3が任意で、入力インピーダンスと出力インピーダンスとの間に整合インピーダンス(例えば、50Ω)を有するように構築され得る。f2の信号に対して、シャントライン1108は短絡され、入力ポートP1は、好ましくは、最大信号反射となるよう開放されるように設計される。したがって、直列RH TL1112のf2でのφ4を、-90°-(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように選択して、短絡から開放へとインピーダンスを変成し得る。一般に、RH位相値は、非DC周波数に対して負となるように制限される。本例において、f2でのφ4値によって決定される線形のRH位相応答上にある限り、位相φ3は任意であり得る。あるいは、短絡されるように入力ポートP1を設計するために、直列RH TL1112のf2でのφ4を、0°-(k×180°)(但し、k = 1, 2, …)となるように選択して、短絡から短絡へとインピーダンスを変成または維持し得る。また、RH TL1112を、位相φ3およびφ4が前提となる用途に適した別の値をとるように異なる設計にして、信号の伝送および反射を調整し得る。
【0037】
周波数セレクタ1100の構成に基づく一実装例において、開放ポートP3の場合のシャントCRLH TL1104は、f1=2.4GHzでφ1=0°となり、f2=5.8GHzでφ2=-90°となるように構築され得る。直列RH TL1112に対しては、f2=5.8GHzでの位相φ4が-90°となるように選択され、f1=2.4GHzでの位相φ3は、これら2つの点が同一のRH位相応答線上にある限り、任意の値をとり得る。厚み約31milで誘電率約4.4のFR4基板を用いて、5.8GHzでの位相φ4が-90°の場合、2.4GHzでの位相φ3は約-37°となるように選択され得る。
【0038】
図12は、図11における周波数セレクタ1100の上記実装例のレイアウト1200を示す。このレイアウトにおいて、白い部分は、FR4基板上に印刷された導電性パッチおよびラインを表し、黒い部分は、導電性パッチおよびライン間に形成された誘電性ギャップを表す。シャントCRLH TL1204は、CL=2pF、LL=5nH、CR=1pF、およびLR=2.6pFである1つのCRLHユニットセルを有するように設計される。本例において、図1Aのように、それぞれが2CLを有する2つの集中キャパシタが直列接続され、1つのCLが提供される。あるいは、2つの直列キャパシタの代わりに、単一のキャパシタを用いて、キャパシタンス値CLを提供し得る。また、本例では、2つのマイクロストリップを接続して、L字状のRH TL(LL)1216を形成し、LLを提供する。あるいは、同一の全電気長を有する単一のマイクロストリップが用いられ得る。さらに、印刷されたマイクロストリップの代わりに、集中インダクタを用いて、LLを実現し得る。図1Fに示すように、シャントCRLH TL1204のRH部分、すなわち、CRおよびLRを、マイクロストリップを用いて実装して、RH TL(CR、LR)1208を提供する。また、本例において、RH TL1212もマイクロストリップを用いて実装される。
【0039】
図13は、図12の上記実装例1200における反射損失および挿入損失のシミュレーション結果および測定結果をプロットしたものである。シミュレーションおよび測定のいずれにおいても、挿入損失は、5GHz付近で一時的に低下し、2.4GHz付近でゼロに近くなる。これは、2.4GHz付近の信号は、少ない信号損失で周波数セレクタを通じて伝送されることを示す。一方、5GHz付近の信号は、同じ周波数セレクタを通じての伝送が阻止される。シミュレーションおよび測定のいずれも、反射損失が2.4GHz付近で一時的に低下し、5GHz付近でゼロに近くなる。これは、入力ポートP1において、2.4GHz付近で最小信号反射の良好な共振が得られ、5GHzp付近でほぼ完全な信号反射が生じ、ほぼ開放の入力ポートP1が提供されることを示す。
【0040】
図14は、別の例としての周波数セレクタ1400を示す。この周波数セレクタ1400は、直列CRLH TL1412、およびP3で開放されるシャントRH TL1404を含む。本例において、f2の信号は、ポートP1からポートP2へと伝送可能であるが、f1の信号送信は、ポートP3を通じてフィルタ処理されて遮断される。シャントRH TL1404のf1での位相φ1を、φ1=-90°-(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)から選択して、開放から短絡へとインピーダンスを変成し、f1に対する短絡シャントライン1408を有し得る。RH位相は、周波数が線形であるため、f1での位相φ1およびf2での位相φ2の選択が制限される。簡単な選択の1つとして、f2をf1の高調波とする選択がある。φ1=-90°を選択した場合、シャントRH TL1404のf2での位相φ2を、f2=(n+1)×f1でφ2=2n×(-90°)(但し、n=1, 2, 3, …)から選択して、f2の信号をP1からP2へと通過させる開放シャントライン1408を有し得る。直列CRLH TL1412の位相φ3およびφ4は、以下のように決定され得る。f1の信号に対して、シャントライン1408は短絡され、入力ポートP1は、好ましくは、最大信号反射となるよう開放されるように設計される。したがって、直列CRLH TL1412のf1でのφ3を、90°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)から選択して、短絡から開放へとインピーダンスを変成し得る。この場合、n×f1(但し、nは正の偶数)であるf2の信号に対して、シャントRH TL1404は、信号経路P1-P2から結合解除される。したがって、直列CRLH TL1412は、f2での位相φ4が任意で、入力インピーダンスと出力インピーダンスとの間に整合インピーダンス(例えば、50Ω)を有するように構築され得る。あるいは、短絡されるように入力ポートP1を設計するために、直列CRLH TL1412のf1でのφ3を、0°±(k×180°)(但し、k = 1, 2, …)となるように選択して、短絡から短絡へとインピーダンスを変成または維持し得る。また、CRLH TL1412を、位相φ3およびφ4が前提となる用途に適した別の値をとるように異なる設計にし得る。
【0041】
図15は、別の例としての周波数セレクタ1500を示す。この周波数セレクタ1500は、直列CRLH TL1512、およびグランドに短絡されるシャントRH TL1504を含む。シャントRH TL1504のf1での位相φ1を、φ1=-(k×180°)(但し、k = 1, 2, …)から選択して、短絡から短絡へとインピーダンスを変成または維持し、f1の信号をポートP3を通じてフィルタ処理する短絡シャントライン1508を有し得る。RH位相は、周波数が線形であるため、f1での位相φ1およびf2での位相φ2の選択が制限される。簡単な選択の1つとして、f1をf2の高調波とする選択がある。φ1=-180°を選択した場合、シャントRH TL1504のf2での位相φ2を、f2=(n+1)×f1でφ2=(2n-l)×(-90°)(但し、n=1, 2, 3, …)から選択して、f2の信号をP1からP2へと通過させる開放シャントライン1508を有し得る。直列CRLH TL1512の位相φ3およびφ4は、以下のように決定され得る。f1の信号に対して、シャントライン1508は短絡され、入力ポートP1は、好ましくは、最大信号反射となるよう開放されるように設計される。したがって、直列CRLH TL1512のf1でのφ3を、90°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)から選択して、短絡から開放へとインピーダンスを変成し得る。この場合、(n+1)×f1であるf2の信号に対して、シャントRH TL1504は、信号経路P1-P2から結合解除される。したがって、直列CRLH TL1512は、f2での位相φ4が任意で、入力インピーダンスと出力インピーダンスとの間に整合インピーダンス(例えば、50Ω)を有するように構築され得る。あるいは、短絡されるように入力ポートP1を設計するために、直列CRLH TL1512のf1でのφ3を、0°±(k×180°)(但し、k = 1, 2, …)となるように選択して、短絡から短絡へとインピーダンスを変成または維持し得る。また、CRLH TL1512を、位相φ3およびφ4が前提となる用途に適した別の値をとるように異なる設計にし得る。
【0042】
図8に戻って、周波数セレクタ800は、ある周波数f1の信号は経路P1-P2を通過するが、異なる周波数f2の別の信号は遮断される、2つの異なる周波数f1およびf2での位相を提供するように設計されたシャントCRLH TL804を有する。ある1つの周波数の信号は経路P1-P2を通過するが、別の2つの周波数の信号は遮断される、3つの異なる周波数での位相を提供するようにシャントCRLH TLを設計可能である。図16は、周波数f2の信号に経路P1-P2を通過させ、周波数f1の信号および周波数f3の信号をフィルタ処理する周波数セレクタ1600の一例を示す。CRLH TL1604の一端(末端)は、短絡されていても開放されていてもよいポートP3に結合されている。CRLH TL1604の他端(基端)は、シャントライン1608を介して信号経路P1-P2に結合されている。シャントライン1608は、CRLH位相応答に基づいてf1、f2、およびf3の信号に対して適切な位相を有するようにCRLH TL1604を構成することにより、f2の信号に開放され、f1およびf3の信号に短絡されるように制御され得る。本例において、CRLH TL1604は、ポートP3でのインピーダンスZ3(例えば、開放または短絡)を、シャントラインで1608でf2では開放f1およびf3では短絡となるように変成するインピーダンス変成器として用いられる。その結果、f2の信号は、P1-P2経路を通るが、f1の信号およびf3の信号は、シャントライン1608およびCRLH TL1604を通じてフィルタ処理または除去され、出力ポートP2への到達を阻止される。理論的には、インピーダンスZ3は、ポートP3が開放の場合、無限であり、ポートP3が短絡の場合、ゼロとなる。しかし、実際のところ、かつ本書類では、用語「開放」は、実装および適用の際に達成可能な高インピーダンスを指すのに用いられ、用語「短絡」は、実装および適用の際に達成可能な低インピーダンスを指すのに用いられる。
【0043】
CRLH TL1604の電気長は、図3のCRLH位相応答曲線で示されるように、特定の周波数で特定の位相に対応するように操作され得る。ポートP3が開放の場合に、シャントライン1608をf2で開放させるために、f2での位相φ2を、式(16)のようにφ2=0°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように構成し得る。同様に、シャントライン1608をf1およびf3で短絡させるために、f1での位相φ1およびf3での位相φ3を、式(17)のようにφ1、φ3=90°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように構成し得る。あるいは、ポートP3が短絡の場合、f2での位相φ2を、式(18)のようにφ2=90°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように構成して、シャントライン1608で開放回路を有し得る。同様に、f1での位相φ1およびf3での位相φ3を、式(19)のようにφ1、φ3=0°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように構成して、シャントライン1608で短絡回路を有し得る。
【0044】
802.11b、802.11g、および802.11n等のいくつかのWiFi用途に対して、一方のブランチ路で5GHz帯域だけではなく1880MHz〜1900MHzの範囲のDigital Enhanced Cordless Telecommunication(DECT)帯域(以下、1.9GHz帯域という)を除去し、他方のブランチ路で2.4GHz〜2.48GHzの範囲の2.4GHz帯域を通過させることが望ましい。従来のダイプレクサは、典型的に、一方のブランチで1つのローパスフィルタ(LPF)を用い、他方のブランチで1つのハイパスフィルタ(HPF)を用いる。今回の場合、通過させる必要があるのは、2.4GHz帯域であり、遮断する必要があるのは、1.9GHz帯域および5GHz帯域であり、ブロック-パス-ブロックの順番となる。したがって、従来のダイプレクサでは、一般的にパス-ブロック-パスの順番となるHPFとLPFとの単純な組み合わせのために、このような複雑なフィルタ処理には適し得ない。
【0045】
図16の周波数セレクタ1600は、ダブルノッチフィルタ機能を提供するため、1.9GHz帯域および5GHz帯域を除去し、2.4GHz帯域を通過させるように構成され得る。これは、CRLH構造に基づいてFR4基板上に印刷された小型の設計で可能であり、サイズの縮小ひいては電力損失の低下に繋がる。
【0046】
図17は、ポートP3が開放である図16の周波数セレクタ1600の実装例1700のレイアウトを示す。このレイアウトは、1つの対称的なCRLHユニットセルを含むシャントCRLH TL1704および直列RH TL1 1708を有する点で、周波数セレクタ1200と同様である。実装例1700は、1.9GHz帯域および5GHz帯域を除去し、2.4GHz帯域を通過させるように設計される。本例において、図1Aのように、それぞれが2CLを有する2つの集中キャパシタが直列接続され、1つのCLが提供される。また、このCRLHユニットセルは、2つのマイクロストリップを接続して、L字状のRH TL(LL)1712を形成し、LLを提供する。図1Fに示すように、シャントCRLH TL1704のRH部分、すなわち、CRおよびLRを、マイクロストリップを用いて実装して、RH TL(CR、LR)1716を提供する。また、本例において、直列RH TL1708もマイクロストリップを用いて実装される。CRLHパラメータ値は、長さ7mmでLL=4nH、CL=1pF、LR=2.66nH、CR=1pFとなるように選択される。用いられる基材は厚み10milのFR4である。
【0047】
図18は、上記のパラメータ値を有する図17のCRLH TL1704の位相応答曲線を、RH応答曲線およびLH応答曲線との比較としてプロットしたものであり、それぞれを、実線、点線、および破線で示す。実装例1700において、開放ポートP3を有するシャントCRLH TL1704は、上記のパラメータ値で構築され、図18のCRLH位相応答曲線上の3つの点で示されるように、f1=1.9GHzでφ1=およそ90°、f2=2.4GHzでφ2=およそ0°、f3=5GHzでφ3=およそ-90°となる。
【0048】
図19は、周波数セレクタ1600の上記実装例1700における反射損失および挿入損失の測定結果およびシミュレーション結果をプロットしたものである。これにより、この周波数セレクタは、1.9GHzおよび5GHz付近の信号をフィルタ処理し、2.4GHz付近の信号を通過させ、ダブルノッチフィルタとしての特徴を示すことが示されている。
【0049】
図11に戻って、周波数セレクタ1100において、最大信号反射を得るのにポートP1における開放回路が好適となる特定の用途に対して、RH位相を制御するのに直列RH TL1112が用いられる。同様の構成は、図16のようなCRLH TL設計を、図11の直列RH TL1112等の直列RH TLと組み合わせることによって、3つの異なる周波数での3つの位相の制御に拡張し得る。図20は、一次周波数fの信号を通過させ、第二高調波および第三高調波2fおよび3fの信号をフィルタ処理する周波数セレクタ2000の一例を示す。周波数セレクタ2000は、シャントCRLH TL2004および直列RH TL2012を有し、高調波トラップとしての能力を有する。CRLH TL2004の一端(末端)は、短絡されていても開放されていてもよいポートP3に結合されている。CRLH TL2004の他端(基端)は、シャントライン2008を介して信号経路P1-P2に結合されている。シャントライン2008は、CRLH位相応答に基づいてf、2f、および3fの信号に対して適切な位相を有するようにCRLH TL1604を構成することにより、一次周波数fの信号に開放され、高調波2fおよび3fの信号に短絡されるように制御され得る。ポートP3が開放の場合にシャントライン2008をfで開放させるために、fでの位相φ1を、式(16)のようにφ1=0°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように構成し得る。同様に、シャントライン2008を2fおよび3fで短絡させるために、2fでの位相φ2および3fでの位相φ3を、式(17)のようにφ2、φ3=90°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように構成し得る。あるいは、ポートP3が短絡の場合、fでの位相φ1を、式(18)のようにφ1=90°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように構成して、シャントライン2008で開放回路を有し得る。同様に、2fでの位相φ2および3fでの位相φ3を、式(19)のようにφ2、φ3=0°±(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように構成して、シャントライン2008で短絡回路を有し得る。ポートP3が開放または短絡である場合、直列RH TL2012のfでの位相φ4、2fでの位相φ5、および3fでの位相φ6は、以下のように選択され得る。fの信号に対して、シャントCRLH TL2004は、信号経路P1-P2から結合解除される。したがって、直列RH TL2012は、fでの位相φ4が任意で、入力インピーダンスと出力インピーダンスとの間に整合インピーダンス(例えば、50Ω)を有するように構築され得る。2fおよび3fの信号に対して、シャントライン2008は、短絡され、入力ポートP1は、特定の用途において、奇数次高調波に開放され、偶数次高調波に短絡されることが好ましい。したがって、直列RH TL2012の2fでの位相φ5を、0°-(k×180°)(但し、k = 1, 2, …)となるように選択して、短絡から短絡へとインピーダンスを変成または維持し得、直列RH TL2012の3fでのφ6を、-90°-(k×180°)(但し、k = 0, 1, 2, …)となるように選択して、短絡から開放へとインピーダンスを変成し得る。なお、RH位相値は、周波数が負で直線状となるように制限される。したがって、例えば、これら3つの位相は、RH位相応答に基づいて、fでφ4=-90°、2fでφ5=-180°、3fでφ6=-270°となるように選択され得る。
【0050】
以上の設計例で述べたように、組み合わせ結果のCRLH位相応答曲線を、位相と周波数との望ましい2つまたは3つのペアを表す2つまたは3つの点に一致させるために、等価回路パラメータが操作される。したがって、2つまたは3つの周波数帯域における信号の通過および遮断が、選択された位相によって操作される。CRLH位相応答曲線上の可能な一致点の数は、設計パラメータの自由度に基づく。一般的に、設計の柔軟性ひいては一致点の数は、パラメータの数が増加するにつれて増加する。例えば、1つのCRLHユニットセルを用いることにより、4つのパラメータCL、LL、CR、およびLRが得られるが、式(11)のようなインピーダンス整合条件等の条件は、調整可能なパラメータの数を減少させ得る。以下に説明するように、より多くのパラメータを有する異なる種類のCRLHユニットセルを用いることは、設計の柔軟性ひいてはCRLH位相応答曲線上の一致点の数を増加させる1つの可能な解決法である。その結果、多数の帯域を通過および遮断可能なフィルタデバイスを、設計し、実装し得る。
【0051】
図21は、拡張CRLH(E-CRLH)ユニットセル2100を示す。図1に示したような元のCRLHユニットセル12を、比較のために、従来のCRLH(C-CRLH)ユニットセルという。E-CRLHユニットセル2100は、区間pを有するC-CRLHユニットセルとデュアルCRLH(D-CRLH)セルとの組み合わせとして規定し得る。C-CRLH直列部分2104は、直列結合されたRH直列インダクタLCRおよびLH直列キャパシタCCLを有し、C-CRLHシャント部分2108は、並列結合されたRHシャントキャパシタCCRおよびLHシャントインダクタLCLを有し、D-CRLH直列部分2112は、並列結合されたRH直列インダクタLdRおよびLH直列キャパシタCdLを有し、D-CRLHシャント部分2116は、直列結合されたRHシャントキャパシタCdRおよびLHシャントインダクタLdLを有する。したがって、1つのE-CRLHユニットセル2100は、8つの等価回路パラメータLCR、CCL、CCR、LCL、LdR、CdL、CdR、およびLdLを提供する。インピーダンス整合条件等の条件によって調整可能なパラメータが減少したとしても、E-CRLHユニットセル2100は、C-CRLH部分またはD-CRLH部分単独の場合よりも多くの調整可能なパラメータを提供する。
【0052】
図22は、図16のように構成されているが、C-CRLH TL1604の代わりにE-CRLH TLを有する周波数セレクタの挿入損失のシミュレーション結果をプロットしたものである。E-CRLH等価パラメータを操作して、点m5、点m6、点m7、および点m8でそれぞれ示すように、910MHz、2.06GHz、3.69GHz、および6.23GHzでの挿入損失で4つのノッチを提供し、これら4つの帯域では信号が遮断される。したがって、この種のE-CRLHユニットセルに基づいた周波数セレクタを、マルチノッチフィルタということができる。
【0053】
周波数セレクタ(シングルノッチまたはマルチノッチ)と、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、バンドストップフィルタ、または他の異なるフィルタとを組み合わせることによって、従来のフィルタでは実現不可能であった複雑なフィルタ処理機能を提供し得る。CRLH構造に固有の位相選択における柔軟性に基づいて、組み合わせられたフィルタは、前提となる用途に応じて周波数帯域の望ましい遮断および通過を提供するようにされ得る。本書類に記載の周波数セレクタ例は、2ポートデバイスであるため、信号の遮断および通過が異なる時間間隔で起こるように異なる周波数の信号が異なる時間間隔で順番に受信される用途に適している。異なる周波数の信号が同時に受信されるシステムでは、複数の周波数選択のために複数のブランチを有することが効果的であり得る。ダイプレクサは、2つのそのようなブランチを有する1つの例であり、3ポートデバイスである。一方のブランチの周波数セレクタと他方のブランチのハイパスフィルタ(HPF)とを組み合わせることで、例えば、ダイプレクサの能力に従来のダイプレクサのものよりも優れた性能を与え得る。また、複数のブランチを有する複数の周波数セレクタを、複数の周波数を通過させ、かつ遮断するように構成して、マルチプレクサ機能を提供し得る。
【0054】
図23は、入力周波数および出力周波数が、f1, f2, …, fnによって表され、直列素子が、X1, X2, …, Xnによって表され、シャント素子が、Y1, Y2, …, Yn(nは、1より大きい正の整数)によって表されるマルチバンド周波数セレクタ2300の一例を示す。したがって、マルチバンド周波数セレクタ2300は、1つのポートからn個のポートへ向かう方向またはn個のポートから1つのポートへ向かう方向のいずれにも信号が伝送可能な(n+1)ポート双方向デバイスである。直列素子Xmおよびシャント素子Ym(但し、1<m<n)は、同一のm番目のブランチに結合され、周波数fmを選択して、ブランチを通って出力部まで通過させる。各ブランチは、図8〜図20を参照して説明した周波数セレクタのような周波数セレクタを含む。したがって、m番目のブランチにおける直列素子Xmおよびシャント素子Ymのペアは、図8〜図20を参照して説明した周波数セレクタのように、両方がCRLH TLであり得るか、RH TLとCRLH TLとの組み合わせであり得る。さらに、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、バンドストップフィルタ、または他の種類のフィルタ等の従来のフィルタが、1つまたは複数のブランチに用いられ得る。また、図21および図22に示すようなE-CRLH構造に基づいたマルチノッチフィルタが、複雑なフィルタ処理機能に対応する周波数セレクタとして、1つまたは複数のブランチに用いられ得る。したがって、図23のマルチバンド周波数セレクタ2300は、本質的に、多分岐したブランチ上に分布した周波数セレクタのネットワークであり、周波数セレクタは、従来のフィルタおよび周波数セレクタを含み得る。このような周波数選択ネットワークは、(n+1)ポート(但し、nは、マルチバンド動作で対応する周波数帯域の数を表す)を有し、1つのポートからn個のポートへ向かう方向またはn個のポートから1つのポートへ向かう方向のいずれにも信号が伝送可能な双方向デバイスである。
【0055】
図24は、Y1, Y2, …, YnおよびY1a, Y2a, …, Ynaで示されるように、2つのシャント素子が各ブランチに結合されている、別の例としてのマルチバンド周波数セレクタ2400を示す。例えば、第1のシャント素子を、第1の周波数の信号を除去するように設計し、同一のブランチ内の第2のシャント素子を、第2の周波数の信号を除去するように設計して、3つの異なる周波数の信号がブランチに入力された場合、第3の周波数の信号がブランチを通過するようにし得る。別の例において、第1のシャント素子を、第1の周波数の信号を除去するように設計し、第2のシャント素子を、第2の周波数の信号から高調波を除去するように設計して、異なる周波数の信号がブランチに入力された場合、高調波なしの第2の周波数の信号がブランチを通過するようにし得る。用途を拡張するために、3つ以上のシャント素子を1つのブランチに結合してもよく、または、ブランチ毎のシャント素子の数を、ブランチ毎に変更してもよい。同様に、ブランチ毎の直列素子の数は、1つより多くてもよく、ブランチ毎に変更してもよい。本書類に記載の周波数セレクタの設計において、直列およびシャント素子のそれぞれが、集中定数構成要素、分布定数構成要素、またはこれらの組み合わせを用いて実装可能なRH構造またはCRLH構造を有するように選択することができる。
【0056】
図25は、ダイプレクサ2500の一実装例のレイアウトを示す。この実装は、周波数セレクタ2504とHPF2508との組み合わせに基づくダイプレクサ機能を提供するように考案されたものである。図17のダブルノッチ周波数セレクタ1700と同様に、本例の周波数セレクタ2504は、2.4GHz帯域を通過させ、1.9GHz帯域および5GHz帯域をフィルタ処理するように設計される。図17のレイアウトと比較して、最適化のために、設計が少し変更されている。例えば、この場合のCRLHユニットセル2502は、対称的なユニットセルを形成していた図17の2つの2CLキャパシタの代わりに、1つのCLキャパシタを有し、L字状のRH TLは、図17のRH TL(LL)1712とは異なり、最適化されたLL値が得られるような寸法を有する。図25のダイプレクサ2500は、従来のダイプレクサと同様に3ポートデバイスである。アンテナまたは他の任意のデバイスが、ポートP1に接続され得る。ダイプレクサ2500のポートP2は、周波数セレクタ2504に結合されている。ポートP3は、3つのキャパシタC1、C2、およびC3ならびに3つのマイクロストリップ2510を有して、2.4GHz帯域をフィルタ処理し、5GHz帯域を通過させるように設計されたHPF2508に結合されている。1つの例において、ダイプレクサ2500は、全体の設置面積を10mm×10mmとし得る。本例の設計において、3つのポートは、50Ωに整合される。しかし、いくつかの実装例において、ダイプレクサ2500は、柔軟性のあるCRLH位相応答ひいては設計の柔軟性のために、異なるポートを異なるインピーダンスに整合させ得る。図25に示すように、本実装例は、3つのマイクロストリップ2510を含むHPF2508を有する。最も長いL字状のマイクロストリップは、HPF2508の入力部に設置され、HPFによってフィルタ処理される周波数(すなわち、本例においては2.4GHz)に対応付けられた位相を回転させる。したがって、HPF2508は、ポートP1で開放回路を有し、2.4GHz付近の信号がブランチP1-P3内へ入ることを防止する。
【0057】
図26は、図25のダイプレクサ2500の実装例において、挿入損失P2-P1、挿入損失P3-P1、およびアイソレーションP3-P2の測定結果をプロットしたものである。5GHz付近において、挿入損失P3-P1はゼロに近く、挿入損失P2-P1は-20dBに近い。これは、5GHz帯域の信号が、選択的に、HPF2508を通ってポートP3へ送信され、周波数セレクタ2504によって排除されることを示している。同様に、2.4GHz付近において、挿入損失P2-P1はゼロに近く、挿入損失P3-P1は-35dBに近い。これは、2.4GHz帯域の信号が、選択的に、周波数セレクタ2504を通ってポートP2へ送信され、HPF2508によって排除されることを示している。1.9GHz付近においては、挿入損失P2-P1およびP3-P1の両方が非常に低く、-25dBmを下回る。これは、1.9GHz帯域の信号が、周波数セレクタ2504およびHPF2508の両方によって排除されることを示している。
【0058】
上記の周波数セレクタ例は、ダイオードまたはスイッチ等の能動構成要素によって制御されることなく適切な位相を提供するRHおよび/またはCRLH TL設計に基づいて周波数選択が決定されるため、受動セレクタであると考え得る。別の例において、受動周波数セレクタの組み合わせ、RH TLとCRLH TLとの組み合わせ、およびCRLH TLの組み合わせを、能動的に制御して、単一の周波数または複数の周波数を選択するように構築され得る。したがって、本書類ではこれらの周波数セレクタを、能動周波数セレクタという。
【0059】
図27A〜図27Cは、並列接続された2つの受動周波数セレクタ2704および2708を用いた能動周波数セレクタ2700の一例を示す。能動周波数セレクタ2700は、1つの入力ポートP1および1つの出力ポートP2を有し、周波数f1およびf2の2つの信号が、同時にまたは順番に異なる時間間隔で入力ポートP1へ供給され得る。これらの受動周波数セレクタは、CRLHに基づくもの、従来のもの、またはこれらの組み合わせであり得る。能動周波数セレクタは、信号の同時入力に用いることが可能である。というのも、2つの異なる周波数f1およびf2が同時に入力ポートP1へ供給される場合、能動構成要素によって周波数選択が制御され得るためである。本例において、周波数セレクタ(f1で非f2)2704は、周波数f1の信号を選択して、周波数f2の信号を遮断するように構成され、周波数セレクタ(f2で非f1)2708は、周波数f2の信号を選択して、周波数f1の信号を遮断するように構成される。周波数セレクタ2704および2708のオン/オフは、例えば、外部制御回路によって制御され得る。図27Aにおいて、周波数セレクタ(f1で非f2)2704は、他方の周波数セレクタ(f2で非f1)2708がオフの場合に、オンとなる。能動周波数セレクタ2700がこの状態にある場合、f1の信号のみが、このシステムを通過してポートP2へ到達する。図27Bにおいて、周波数セレクタ(f1で非f2)2704は、他方の周波数セレクタ(f2で非f1)2708がオンの場合に、オンとなる。能動周波数セレクタ2700がこの状態にある場合、f2の信号のみが、このシステムを通過してポートP2へ到達する。図27Cにおいて、周波数セレクタ(f1で非f2)2704および他方の周波数セレクタ(f2で非f1)2708の両方が、オンとなる。能動周波数セレクタ2700がこの状態にある場合、f1の信号およびf2の信号の両方が、このシステムを通過してポートP2へ到達する。
【0060】
図28は、シャント接続された2つのCRLH TL2804および2808を有する能動周波数セレクタ2800の一例を示す。本例において、2つの異なる周波数f1およびf2が、同時にまたは順番に異なる時間間隔でポートP1へ供給され得る。本例において、CRLH TL2804および2808は、それぞれダイオード1 2816およびダイオード2 2818を介した開放シャントの構成で、信号経路P1-P2に結合されている。シャントラインが、ダイオード1 2816およびダイオード2 2818の代わりに接続に用いられる場合、CRLH TL(f1で非f2)2804は、周波数f1の信号に経路P1-P2を通過させ、周波数f2の信号をフィルタ処理するように構成され、CRLH TL(f2で非f1)2808は、周波数f2の信号に経路P1-P2を通過させ、周波数f1の信号をフィルタ処理するように構成される。これらのCRLH TL2804および2808は、図8に示すようなCRLH TL設計に基づいて設計され得る。ダイオード1 2816およびダイオード2 2818のオン/オフは、例えば、外部制御回路によって制御され得る。ダイオード1 2816がオンで、ダイオード2 2818がオフの場合、CRLH TL(f1で非f2)2804は、f1の信号が経路P1-P2を通過し、f2の信号が遮断されるように経路P1-P2に結合される。ダイオード1 2816がオフで、ダイオード2 2818がオンの場合、CRLH TL(f2で非f1)2808は、f2の信号が経路P1-P2を通過し、f1の信号が遮断されるように経路P1-P2に結合される。本例において、直列TL2822は、経路P1-P2に含まれる。このTLを、位相φ3およびφ4が前提となる用途に適した値をとるように従来のマイクロストリップ等のRH構造またはCRLH構造を用いて設計し、信号の伝送および反射を調整し得る。このようなTLも、別の回路機能を一体化するのに用いることができる(例えば、インピーダンス整合ネットワーク)。
【0061】
図29は、別の例としての能動周波数セレクタ2900を示す。本例において、CRLH TL2904および2908はそれぞれ、ダイオード1 2916およびダイオード2 2918を介した開放シャントの構成で、経路P1-P2に結合され、高調波を効果的に除去する能動高調波トラップとして用いられる。シャントCRLH TL2904および2908の設計は、図20のシャントCRLH TL2004の設計と同様であり得る。本例において、直列TL2920は、経路P1-P2に含まれる。このTL2920を、前提となる用途に応じて位相および周波数の選択に柔軟性をもたせるように、従来のマイクロストリップ等のRH構造またはCRLH構造を用いて設計し得る。シャントラインが、ダイオード1 2916の代わりに接続に用いられる場合、CRLH TL(f1で非[2f1,3f1])2904は、周波数f1の信号に経路P1-P2を通過させ、高調波2f1および3f1をフィルタ処理するように構成される。これは、例えば、f1でφ11=180°(開放)、2f1でφ12=90°(短絡)、および3f1でφ12=-90°(短絡)を選択することによって、達成され得る。同様に、シャントラインが、ダイオード2 2918の代わりに接続に用いられる場合、CRLH TL(f2で非[2f2,3f2])は、周波数f2の信号に経路P1-P2を通過させ、高調波2f2および3f2をフィルタ処理するように構成される。これは、例えば、f2でφ21=180°(開放)、2f2でφ22=90°(短絡)、および3f2でφ22=-90°(短絡)を選択することによって、達成され得る。ダイオード1 2916およびダイオード2 2918のオン/オフを、外部制御回路(図示せず)によって制御して、f1の信号またはf2の信号のどちらを経路P1-P2を通って送信するかを選択し得る。TL2920は、前提となる用途に対して適切な位相を有するようにRH TLまたはCRLH TLを備えて設計し得る。例えば、F級PA用途は、ポートP1が、第二高調波に短絡され、第三高調波に開放される必要がある場合を含む。この場合、CRLH TLを用いて、例えば、TL2920の位相を、f1でφ'11=任意、2f1でφ'12=180°、3f1でφ'13=90°、f2でφ'21=任意、2f2でφ'22=-180°、3f2でφ'23=-90°となるように選択し得る。同様に、反転F級PA用途は、ポートP1が、第二高調波に開放され、第三高調波に短絡される必要がある場合を含む。この場合、CRLH TLを用いて、例えば、TL2920の位相を、f1でφ'11=任意、2f1でφ'12=90°、3f1でφ'13=180°、f2でφ'21=任意、2f2でφ'22=-90°、3f2でφ'23=-180°となるように選択し得る。
【0062】
上記のように、高線形性および/または高効率の獲得は、PA設計における主たる目的の1つである。従来のシングルバンドPAで用いられる場合、出力整合ネットワーク(OMN)は、一般的には、トランジスタの出力インピーダンスを出力負荷に整合して、トランジスタから負荷への出力電力伝達を最大化するように設計される。したがって、OMNは、線形性および効率を向上するようにされ得る。同様に、入力整合ネットワーク(IMN)は、トランジスタの入力インピーダンスを入力負荷に整合するように設計され得る。したがって、従来のシングルバンドPAにおいて、IMNおよびOMNは、シングルバンドより上のPAの効率および線形性を最適化するのに利用され得る。しかし、マルチバンド動作に対しては、他の回路素子を、追加、設計、または最適化して、複数の周波数帯域に対する効率、線形性、および他の考慮に合致するようにする必要がある場合がある。
【0063】
図30は、複数の周波数帯域に対する第1の電力増幅システム3000のブロック図を示す。この電力増幅システム3000は、マルチバンドPAの一例を表す。第1のシステム3000は、複数の周波数帯域を個別に扱うための複数の入力ポートおよび複数の出力ポートを有し、マルチバンドバイアス回路3004、入力側の周波数選択モジュール1 3008、出力側の別の周波数選択モジュール2 3012、それぞれの周波数帯域に対する入力インピーダンス整合のためのIMN(f1), IMN(f2), …, IMN(fn)を備えたIMN3016、それぞれの周波数帯域に対する出力インピーダンス整合のためのOMN(f1), OMN(f2), …, OMN(fn)を備えたOMN3020、ならびにマルチバンドバイアス回路3004からバイアス信号を受信し、周波数選択モジュール1 3008および周波数選択モジュール2 3012に結合されているトランジスタ3024を含む。トランジスタ3024は、複数の周波数帯域に対して動作可能なマルチバンドトランジスタであり、前提となるマルチバンド用途に対して考慮された周波数範囲および電力レベルを扱う複数の基本トランジスタを含み得る。マルチバンドバイアス回路3004は、トランジスタ3004の異なる端子にバイアスをかける複数の基本バイアス回路を含み得る。典型的に、ドレインバイアスおよびゲートバイアスは、金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)型のトランジスタに対して必要であり、コレクタバイアスおよびベースバイアスは、バイポーラ接合トランジスタ(BJT)またはヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)型のトランジスタに対して必要である。一般に、バイアス回路は、トランジスタにDC電力を供給するが、RF信号に対して透過的であるように設計され、RF信号がバイアス回路内へと漏洩してバイアス回路が含まれるPAの効率および線形性が劣化する可能性を防止する。同様の動作を2つ以上の周波数帯域に対して行うために、マルチバンドバイアス回路3004は、図6に示すようなマルチバンドバイアス回路を含み得る。
【0064】
異なる周波数f1, f2, …, およびfnの異なる信号が同時に入力される場合、周波数選択モジュール1 3008は、IMN3016から出てくる入力信号から1つの周波数f1, f2, …, またはfnの信号を選択するように構成される。入力側の周波数選択モジュール1 3008の役割の1つは、異なる周波数の混合信号の代わりに、ある1つの周波数の信号を任意の時間間隔でトランジスタ3024に送信することにある。一般的に、2つの異なる周波数の信号が同時にトランジスタへ送信される場合、いくつかの相互変調積がトランジスタから出力され得る。このような相互変調は、トランジスタの入力と出力との間の非線形性によって生じ、悪影響を及ぼす可能性がある。したがって、トランジスタ3024に対応付けられた相互変調は、異なる周波数の複数の信号が同時に入力される場合に周波数選択モジュール1 3008を用いることによって避けることができる。さらに、周波数選択モジュール1 3008は、信号の間違った経路への反射を防止して、信号混合を最小化し、電力伝達を最大化することによって、線形性および効率を向上させるように構成される。異なる周波数f1, f2, …, およびfnの複数の信号が順番に異なる時間間隔で入力される場合、トランジスタ3024の相互変調は、通常条件下では起こらない。しかし、周波数選択モジュール1 3008が、信号の間違った経路への反射を防止して、信号混合を最小化し、電力伝達を最大化することによって、線形性および効率を向上させるのに用いられる。出力側の周波数選択モジュール2 3012は、特定の周波数fm(1≦m≦n)の信号をm番目の出力ポートへ送信し、および/または、トランジスタ3024からの出力信号から高調波を除去するように構成される。
【0065】
図31は、複数の周波数帯域に対する第2の電力増幅システム3100のブロック図を示す。第2のシステム3100は、1つのチャネルで複数の周波数帯域を扱うための単一の入力ポートおよび単一の出力ポートを有し、マルチバンドバイアス回路3104、1つの周波数fmの信号をm番目のブランチ(1≦m≦n)へ送信する入力側の周波数選択モジュール1 3108、1つの周波数の信号を選択し、選択された信号を出力ポートへ送信する出力側の別の周波数選択モジュール2 3112、それぞれの周波数帯域に対する入力インピーダンス整合のためのIMN(f1), IMN(f2), …, IMN(fn)を備えたIMN3116、それぞれの周波数帯域に対する出力インピーダンス整合のためのOMN(f1), OMN(f2), …, OMN(fn)を備えたOMN3120、ならびに、それぞれが、マルチバンドバイアス回路3104からバイアス信号を受信し、IMN(f1), IMN(f2), …, IMN(fn)のうちの1つおよびOMN(f1), OMN(f2), …, OMN(fn)のうちの1つに結合されている複数のトランジスタ3124を含む。各トランジスタ3124は、シングルバンドトランジスタであり、前提となる用途に対して考慮された周波数範囲および電力レベルを扱う複数の基本トランジスタを含み得る。トランジスタ3124は、ICチップ上の分割された基本トランジスタの分離した離散パッケージまたはバンクを用いて実装され得る。マルチバンドバイアス回路3104は、複数のトランジスタ3104および各トランジスタ3104の異なる端子にバイアスをかける複数の基本バイアス回路を含み得る。マルチバンドバイアス回路3104は、図6に示すようなマルチバンドバイアス回路を含み得る。
【0066】
図31の第2のシステム3100において、異なる周波数f1, f2, …, およびfnの複数の信号が、同時にまたは順番に異なる時間間隔で入力され得る。図31の第2のシステム3100の入力側の周波数選択モジュール1 3108は、図30の第1のシステム3000の出力側の周波数選択モジュール2 3012と同様に作動し、図31の第2のシステム3100の出力側の周波数選択モジュール2 3112は、図30の第1のシステム3000の入力側の周波数選択モジュール1 3008と同様に作動する。
【0067】
図31の第2の電力増幅システム3100は、マルチバンドPAの一例を表す。さらに、IMN(fm)、fm帯域を扱うトランジスタ3124のうちの1つ、およびOMN(fm)(但し、1≦m≦n)をそれぞれ含むシングルバンドPAのアレイを用いて、マルチバンド動作のための小型の設計の電力増幅システムが実現可能である。
【0068】
図31の第2のシステム3100は、出力側から周波数選択モジュール2 3112を除去して、1つの入力ポートおよび複数の出力ポート用に変形され得る。同様に、このシステム3100は、入力側から周波数選択モジュール1 3108を除去して、複数の入力ポートおよび1つの出力ポート用に変形され得る。
【0069】
図30および図31の上記の電力増幅システム3000および3100の周波数選択モジュールは、図23または図24に示すようなマルチバンド周波数セレクタを含むように構成され得る。さらに、周波数選択モジュールは、図28または図29に示すような能動周波数セレクタを含むように構成され得る。また、マルチバンド周波数セレクタと能動周波数セレクタとの組み合わせは、1つの周波数選択モジュール内で利用され得る。
【0070】
図32は、第1の周波数モジュールおよび第2の周波数モジュールに対して能動周波数セレクタおよび受動周波数セレクタを用いた、図30の第1の電力増幅システム3000に基づいたデュアルバンドPA3200の一例を示す。デュアルバンドPA3200は、2つの入力ポートP1およびP2ならびに2つの出力ポートP3およびP4を有する。周波数f1およびf2の2つの信号が、同時にまたは順番に異なる時間間隔で入力ポートP1およびP2へそれぞれ供給され得る。本例において、図28の能動周波数セレクタ2800のような能動周波数セレクタ3204が、入力側に配置され、図29の能動周波数セレクタ2900のような高調波トラップ3212が、出力側に配置される。能動周波数セレクタ3204のダイオードのオン/オフを制御して、f1の信号またはf2の信号のいずれかを選択し、選択された信号はトランジスタ3208へ送られて増幅される。トランジスタは、金属半導体電界効果トランジスタ(MESFET)、仮像高電子移動度トランジスタ(pHEMT)、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)、または他の適切な技術のトランジスタであり得る。高調波トラップ3212は、本例において、f1およびf2に対して第二高調波および第三高調波を除去するように設計される。具体的には、高調波トラップ3212におけるダイオードのオン/オフを制御することによって、f1の信号がトランジスタ3208から出力される場合に、高調波2f1および3f1が除去され得る、または、f2の信号がトランジスタ3208から出力される場合に、高調波2f2および3f2が除去され得る。高調波トラップ3212の出力部は、ダイプレクサの形態で接続される周波数セレクタ(f1で非f2)3216および周波数セレクタ(f2で非f1)3220に結合されている。したがって、f1の信号が、上側ブランチを通って出力ポートP3へと通過するように選択され、f2の信号が、下側ブランチを通って出力ポートP4へと通過するように選択される。出力側の各周波数セレクタは、図8〜図22を参照して説明した受動周波数セレクタを含み得る。IMN1 3224は、入力ポートP1に結合され、IMN2 3228は、入力ポートP2に結合され、OMN1 3232は、出力ポートP3に結合され、OMN2 3236は、出力ポートP4に結合されている。
【0071】
図33は、図30の第1の電力増幅システム3000に基づいた別の例としてのデュアルバンドPA3300を示す。デュアルバンドPA3300は、2つの入力ポートP1およびP2ならびに2つの出力ポートP3およびP4を有し、入力側の2つの受動周波数セレクタ3304および3308ならびに出力側の2つの受動周波数セレクタ3316および3320を含む。図8〜図22を参照して説明した受動周波数セレクタ例は、これらの受動周波数セレクタ3304、3308、3316および3320を構築するのに利用され得る。IMN1 3324は、入力ポートP1に結合され、IMN2 3328は、入力ポートP2に結合され、OMN1 3332は、出力ポートP3に結合され、OMN2 3336は、出力ポートP4に結合されている。f1およびf2の信号が、それぞれ入力ポートP1およびP2で供給される。本例において入力側で受動周波数セレクタ3304および3308を用いるため、入力ポートP1およびP2の両方からの信号が同時に入力され、トランジスタに同時に到達する場合に生じ得る相互変調を避けるために、信号は、順番に異なる時間間隔で入力する必要がある場合がある。周波数セレクタ(f1で非f2)3304は、f2の信号ではなくf1の信号を選択し、信号f2の反射を遮断する。周波数セレクタ(f2で非f1)3308は、f1の信号ではなくf2の信号を選択し、信号f1の反射を遮断する。選択されたf1またはf2の信号は、次いで、トランジスタ3312によって増幅される。出力周波数は、f1を選択する一方のブランチ上の周波数セレクタ(f1で非f2)3316およびf2を選択する他方のブランチ上の周波数セレクタ(f2で非f1)3320を有する出力ブランチで選択される。したがって、f1の信号は、出力ポートP3へ出力され、f2の信号は、ポートP4へ出力される。
【0072】
図34は、図30の第1の電力増幅システム3000に基づいた別の例としてのデュアルバンドPA3400を示す。デュアルバンドPA3400は、2つの入力ポートP1およびP2ならびに2つの出力ポートP3およびP4を有し、図28の能動周波数セレクタ2800のような入力側の能動周波数セレクタ3404ならびに出力側の2つの受動周波数セレクタ3416および3420を含む。IMN1 3416は、入力ポートP1に結合され、IMN2 3420は、入力ポートP2に結合され、OMN1 3432は、出力ポートP3に結合され、OMN2 3436は、出力ポートP4に結合されている。f1およびf2の信号が、同時にまたは順番に異なる時間間隔で入力ポートP1およびP2へそれぞれ入力され得る。能動周波数セレクタ3404のダイオードのオン/オフを制御して、周波数f1の信号または周波数f2の信号のいずれかを選択する。選択されたf1またはf2の信号は、次いで、トランジスタ3412によって増幅される。出力周波数は、f1を選択する一方のブランチ上の周波数セレクタ(f1で非f2)3416およびf2を選択する他方のブランチ上の周波数セレクタ(f2で非f1)3420を有する出力ブランチで選択される。
【0073】
上記のように、通信システムにおいて、様々な仕様に合致し、十分な性能レベルを実現するために、PAが高線形性および/または高効率を有することが一般的に好適である。汎欧州デジタル移動電話方式(Global System for Mobile (GSM) communications)等のシステムにおいて、PAが高効率率を有することが好適であるが、一定のエンベロープ信号が用いられているため、線形性の考慮はあまりストリンジェントではない可能性がある。符号分割多元接続(CDMA)システム等の別のシステムでは、一定ではないエンベロープ信号が用いられているため、線形性の考慮は、ストリンジェントである可能性が高い。一般的に、PAにおいて、効率と線形性とはトレードオフの関係にある。図35は、MESFETのI-V特性を一例として示す。様々な級動作のバイアス点が図中に示されている。MESFETは、Vgs=0で最大電流となる負のゲート・ツー・ソース電圧Vgsによって駆動される。VgsがVgs=Vpでのピンチオフまで低くなるのにつれて、ドレイン・ツー・ソース電流Idsが減少する。Vgs=Vpのラインよりも下は、カットオフ領域である。A級PAは、高Vgs値ひいては高Ids値のバイアス点を有する。これは、高出力電力ひいては高線形性と同等である。しかし、A級動作は、信号包絡線が変動するにもかかわらず、大抵はオン状態であるため、電力損失が延長されるために効率が低くなる。したがって、A級PAは、線形増幅器であると考えられるが、一般的に、効率性評価は低い。C級は、特別な用途に対して、ピンチオフよりも下の非常に低Vgs値で操作される。B級、E級、F級、およびそれらの反転は、ピンチオフに近いVgs値のバイアス点を有するため、変動する信号包絡線に応じてオン/オフ制御を行い、電力損失を低下させて、効率をA級よりも高くすることができる。しかし、これらのPAの線形性は、低Ids電流ひいては低出力電力のために、特定の用途に対して十分でない場合がある。いくつかの場合では、例えば、PAのバイアス点を変化させることによって、PAをAB級とF級との2つのモードで動作するように設計し得る。この種の動作は、トレードオフの関係であっても高効率および高線形性を達成するのに寄与し得る。中程度の効率および中程度の線形性の両方が好適な用途において、バイアス点がA級とB級、E級、およびF級との間に位置するため、AB級PAが選択され得る。J級PAは、一般的に、高調波を除去する高調波トラップをAB級PAに合わせたものとして考えられ得る。J級スキームにおいて、第二高調波および第三高調波の両方を短絡させることが可能である。したがって、ドレイン(コレクタ)電流および電圧に正弦波形を持たせることが可能であり、これによって、J級PAの線形性が増強される。
【0074】
本書類における以下のPAアーキテクチャは、J級PAに基づいている。J級PAにおける高調波トラップに対してCRLH TLを用いて、J級MTM PAの一例を以下のように考案し、説明する。CRLH構造を用いることによって、回路サイズ縮小および電力損失低下に寄与し得、その結果、効率を向上させ得る。さらに、AB級バイアス点の近くまでPAにバイアスをかけることにより、B級、E級、F級、およびそれらの反転よりもよい線形性が得られると予想される。しかし、CRLH構造に基づいた同様の高調波トラップスキームは、前提となる用途の効率および線形性の考慮によっては、他の級に対しても用いることが可能である。
【0075】
図36A〜図36Cは、PAにおいて高調波を除去する3つの異なる構成の模式図を示す。図36Aは、複数の高調波を個別に除去する複数のRH TLを含む従来の高調波トラップ3616を用いたJ級PAの従来の構成を示す。このPAは、入力側のIMN3604および出力側のOMN3612、ならびにマイクロストリップ等のRH TL3608を介してトランジスタドレイン(またはコレクタ)端子に結合されている高調波トラップ3616を含む。図36Bは、図36Aの複数のTLの代わりに1つのCRLH TLに基づいて複数の高調波を除去するMTM高調波トラップ3620を有するJ級MTM PAの構成を示す。図20の周波数セレクタ2000を、例えば、第二高調波および第三高調波を除去する高調波トラップ3620に利用することにより、従来の高調波トラップ3616よりも構成要素を少なくすることができる。このような回路の全体サイズ縮小の結果、総電力損失を減少させ、効率を向上させ得る。図36Cは、OMN一体化MTM高調波トラップ3624を有するJ級MTM PAを示す。この一体化例において、CRLH TLのRH部分、すなわちRHインダクタンスLRおよびRHキャパシタンスCRは、MTM高調波トラップ3624におけるCRLH TLの一部として適切な位相を提供することに加えて、出力インピーダンス整合を最適化するように構築される。
【0076】
図37は、図36BのMTM高調波トラップ3620を有するJ級MTM PAの一実装例3700のレイアウトを示す。本例において、前提となる周波数範囲に対する離散パッケージが利用可能なため、MESFET3704が用いられる。しかし、トランジスタは、異なる製造技術による異なる種類のものであり得る。図37は、このPAを実現するのに用いられる追加の離散構成要素を概略的に示す。MESFET3704のゲートは、2つのキャパシタ、抵抗器、およびRFチョークを含むゲートバイアス回路3708によってバイアスがかけられる。MESFET3704のドレインは、キャパシタおよびRFチョークを含むドレインバイアス回路3712によってバイアスがかけられる。この実装例3700において従来のシングルバンドバイアス回路が用いられているが、ゲートバイアス回路およびドレインバイアス回路の一方または両方に対して、図6に示すようなバイアス回路を用いることができる。IMN3716は、RH TL1 3720およびRH TL2 3724としてそれぞれ示される直列RH TLおよびシャントRH TLを含む。図1Fおよび図1Gを参照して上記に説明したように、直列RH TLおよびシャントRH TLの組み合わせは、RH直列インダクタンスLRおよびRHシャントキャパシタCRでモデル化され得る。RH TL3720および3724の長さおよび幅を構築することによって、これらの等価回路パラメータを調整して、最適な入力インピーダンス整合を提供し得る。DCブロック1 3728が、RH TL1 3720に沿った経路に含まれ、DC信号を遮断する。同様に、OMN3732は、RH TL3 3736およびRH TL4 3740としてそれぞれ示される直列RH TLおよびシャントRH TLを含む。RH TL3736および3740の長さおよび幅を構築することによって、等価回路パラメータを調整して、最適な出力インピーダンス整合を提供し得る。DCブロック2 3744が、RH TL3 3736に沿った経路に含まれ、DC信号を遮断する。周波数セレクタ3748は、MTM高調波トラップの役割を果たす。本例において、4つのシャントLHキャパシタ(すなわち、2つの2CLおよび2つのCL)、3つのシャントLLインダクタ(すなわち、3つのLL)、ならびにRH TL5 3752は、3つのCRLHユニットセルを提供するように構成される。これらのパラメータ値は、CRLH位相曲線が3つの点に一致する図20を参照して説明した高調波トラップに対してCRLH設計スキームを用いることで、高調波トラップ機能を提供するように、すなわち、第二高調波および第三高調波を除去して、一次周波数の信号を通過させるように操作される。RH TL6 3756の位相も、J級用途に一般的に考えられるように、MESFET3704のドレイン端子に結合された入力ポートP1が、奇数次高調波に対して開放回路を有し、偶数次高調波に対して短絡回路を有する図20を参照して説明したRH設計スキームを用いて決定され得る。RH TL6 3756の位相を、前提となる用途に応じて異なるように調整して、信号の伝送および反射を調整し得る。図36Aの従来のRH高調波トラップよりも周波数セレクタ3748のサイズが小さいために、効率が向上し得る。また、AB級バイアスが用いられるため、十分な線形性も得ることができる。
【0077】
図38は、図37のJ級MTM PAの実装例3700における入力電力(Pin)の関数として、電力付加効率(PAE)および出力電力(Pout)の測定結果をプロットしたものである。RF PAにおいて、PAEは、PoutとPinとの間の差のDC消費電力に対する割合として規定され、効率は、PoutのDC消費電力に対する割合として規定される。Pout=18dBmが電力飽和に相当する本測定範囲において、図38のPout対Pin曲線は、ほぼ直線状であり、良好な線形性を示している。線形性は、点が理想的な格子点からどの程度離れているかをパーセントで表すエラーベクトル振幅(EVM)を用いても評価し得る。一般的に、EVM図は、固定化された格子点は、信号形状に歪みがない状態に相当し、歪みは、格子点からの逸脱によって定量化されることを示す。したがって、線形性が向上するのにつれて、EVM値が減少する。EVM値0%は、歪みがない状態、ひいては理想的な線形性に相当する。本例でのEVM測定値は、約5.6%であり、本用途で中程度に良好な線形性であると考えられる。図38のPAE対Pin曲線は、このPAのピークPAEが約52%であり、直線領域の総PAEが30%より大きいことを示している。このPAE値は、約15%である従来のAB級PAE値より顕著に高い。
【0078】
図39は、図36CのOMN一体化MTM高調波トラップ3624を有するJ級MTM PAの一実装例3900のレイアウトを示す。本例において、前提となる周波数範囲に対する離散パッケージが利用可能なため、pHEMTが用いられる。しかし、トランジスタは、異なる製造技術による異なる種類のものであり得る。図39は、このPAを実現するのに用いられる追加の離散構成要素も示す。pHEMT3904のベースは、キャパシタおよび抵抗器を含むベースバイアス回路3908によってバイアスがかけられる。pHEMT3904のコレクタは、キャパシタを含むコレクタバイアス回路3912によってバイアスがかけられる。これらのバイアス回路は、放射状の1/4波長RH TL3916/3917およびスタブ形状の1/4波長RH TL3918/3919をそれぞれ含み、図4に示すように開放から開放へとインピーダンスを変成させるトータル1/2波長が提供される。放射状の1/4波長RH TLの使用は、一般的に、バンド幅の増加に寄与する。これらのバイアス回路は、従来のシングルバンドバイアススキームに基づいて設計されているが、ベースバイアス回路およびコレクタバイアス回路の一方または両方に対して、図6に示すようなCRLH構造に基づいたバイアス回路600を用いることができる。IMN3924は、図37のJ級MTM PA実装におけるIMN3716と同様に、直列RH TLおよびシャントRH TLを含む。図1Fおよび図1Gを参照して上記に説明したように、直列RH TLとシャントRH TLの組み合わせは、RH直列インダクタンスLRおよびRHシャントキャパシタCRでモデル化され得る。これら2つのRH TLの長さおよび幅を構築することによって、等価回路パラメータを調整して最適な入力インピーダンス整合を提供し得る。DCブロック1 3928が、IMN3924に含まれ、DC信号を遮断する。OMN一体化MTM周波数セレクタ3932は、RH TL1 3936およびRH TL2 3940を含む、図36CのOMN一体化MTM周波数セレクタ3624の一実装例である。DCブロック2 3944が、RH TL1 3936に沿った経路に含まれ、DC信号を遮断する。本例において、4つのシャントLHキャパシタ(すなわち、2つの2CLおよび2つのCL)、3つのシャントLLインダクタ(すなわち、3つのLL)、ならびにRH TL2 3940は、3つのCRLHユニットセルを提供するように構成される。これらのキャパシタンス値およびインダクタンス値ならびにRH TL2 3940の寸法は、RH部分(CRおよびLR)に対する等価回路パラメータが、OMNとして最適な出力インピーダンス整合を提供するのと同時に、LH部分およびRH部分(CL、LL、CR、およびLR)に対する等価回路パラメータが、高調波トラップ機能を提供する、すなわち、第二高調波および第三高調波をフィルタ処理して、一次周波数の信号を通過させるように調整される。高調波トラップに対するCRLH設計スキームは、CRLH位相曲線が3つの点に一致する図20を参照して説明したものと同様であってもよい。RH TL1 3936の位相も、J級用途に一般的に考えられるように、pHEMT3904のコレクタ端子に結合された入力ポートP1が、奇数次高調波に開放され、偶数次高調波に短絡される図20を参照して説明したRH設計スキームを用いて決定され得る。あるいは、位相は、トランジスタのコレクタ端子が、前提となる用途に応じて、奇数次高調波に短絡され偶数次高調波に開放されるか、すべての高調波に短絡されるか、すべての高調波に開放されるように調整可能である。
【0079】
図39のJ級MTM PA実装3900に対する設計は、図36Cに示すようなOMNのMTM高調波トラップへの一体化に係る。上記のように、MTM高調波トラップを用いることによって、回路の全体サイズを減少させ得る。図36Aのように、高調波トラップに対する従来の設計で複数のRH TLが用いられるのに対して、図36Bおよび図36Cのように、1つのCRLHスタブが、第二高調波および第三高調波をフィルタ処理するように設計され得る。さらに、図39の実装例3900は、MTM高調波トラップの一部であるCRLH TLにOMNを一体化させて、回路サイズおよび構成要素数をさらに減少させる。回路の全体サイズおよび複雑性が減少することによって、一般的に、電力損失が減少し、ひいては、効率が向上する。
【0080】
図40は、図39のJ級MTM PAの実装例3900についてPout対Pinの測定結果をプロットしたものである。このAB級の場合、ベースバイアスVbe=1VおよびコレクタバイアスVce=3.5Vが選択される。これにより、本用途において約15dBmまでのPoutで良好な線形性が得られることが示されている。なお、MTM J級PAの本実装は、低Pin領域であったとしても、いくらかのゲインを有する。
【0081】
図41は、図39のJ級MTM PAの実装例3900についてPAE対Poutの測定結果をプロットしたものである。これにより、ピークPAE測定値が約Pout=20dBmで約60%となることが示されている。図中、EVM測定値が付け加えられ、Pout値が約14dBmでPAE値が約30%まで3%を下回るEVM値が得られることを示している。なお、3%以下のEVM値は、WiFi用途の通信システムに対して一般的に考えられるが、ここでPoutはこの3%のEVM点まで引き下げられて、線形性を再び得るが、効率が低下する。
【0082】
図42は、図39のJ級MTM PAの実装例3900についてPAE対Pinの測定結果をプロットしたものである。これにより、Pin値が約-2dBmでEVM値が約3%のときに、PAE測定値が約30%となることが示されている。ピーク効率測定値は、Pin値が約7dBmのときに、約60%となる。
【0083】
図43は、ドライバPAが結合された図39のJ級MTM PA3900のモノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)実装についてPAE対周波数のシミュレーション結果をプロットしたものである。OFDM信号がシミュレーションに用いられ、この場合のEVMは、約3%である。これにより、現行のJ級MTM PA設計を用いて、少なくとも1.7GHzから2.7GHZまでの広帯域にわたって良好な効率が得られることが示されている。
【0084】
位相歪みは、固有の非線形性により、トランジスタの出力部で生じ得る。追加の回路または構成要素をPAに組み合わせて、位相歪みを最小化し得る。図44は、バラクタを含むCRLH TL4404を用いた構成例の模式図を示す。本例において、CRLH TL4404は、トランジスタ4408の入力側に位置する。CRLH TL4404の拡大図を点線で囲んで示し、図1BのようにCRLHユニットセルを用いることを示す。このCRLH TL4404は、一例として2つのRH/2TLを含み、RHパラメータCRおよびLRを提供するが、集中定数素子(lumped element)を代わりに用いてもよい。異なる種類のCRLHユニットセルを、集中定数素子、分布定数素子(distributed element)、またはこれらの組み合わせと用いることも可能である。CRLH TL4404は、キャパシタの代わりにバラクタ4420を含み、調整可能なCLを提供する。本例において、OMN4412の後、出力された電力および/または対応付けられた信号が、検出器4416によって検出される。フィードバックループが、検出器4416から提供されて、CRLH TL4404内のバラクタ4420を制御する。検出器4416によって検出された電力および/または対応付けられた信号にしたがって、バラクタ4420のキャパシタンス値は、CRLH TL4404の位相ひいては入力位相が調整されるように変動する。LR、CR、およびLL等の他のCRLHパラメータは、最適化のために、一定にしてもよいし、変動させてもよい。周波数が負で線形であるRH位相応答とは異なり、CRLH位相応答は、周波数が、正または負であって、非線形である。したがって、いかなる位相歪みも、PAの入力側にバラクタ4420を含むCRLH TL4404を用いて調整され得る。
【0085】
別の例において、IMNは、CRLH TLに一体化され得、入力インピーダンス整合および位相歪み最小化の両方を行う。一体化は、図36Cおよび図39を参照して説明したOMN一体化MTM周波数セレクタと同様に実現され得る。
【0086】
なお、上記のMTM PA例も、64-QAM OFDMの802.11bや802.11g等のWLAN用途に対して最適化し得る。本明細書において提示された2つのJ級MTM PA実装は、1つの周波数(例えば、2.4GHz)で最適に動作するように設計されているが、異なる選択された周波数に対して設計することも可能であるため、これらのMTM PAを、WCDMA、LTE、WLAN802.11x、またはGSM等の用途に適切にし得る。
【0087】
本書類は多くの具体例を含むが、これらは本発明または特許請求の範囲を限定するものであると解釈されるべきではなく、本発明の特定の態様に特有の特徴を説明するものとして解されるべきである。別々の態様の文脈で本書類に記載されたいくつかの特徴は、単一の態様で組み合わせても実装可能である。逆に、単一の態様の文脈で記載された様々な特徴は、多数の態様で、別々に、または任意の適切なサブ組み合わせとしても実装可能である。さらに、ある組み合わせで特徴が動作するように記載されて当初はそのように主張され得たとしても、場合によっては、主張された組み合わせからの1つまたは複数の特徴を、該組み合わせから排除することが可能であり、主張された組み合わせは、サブ組み合わせまたはサブ組み合わせ変更例へと向けられ得る。
【0088】
わずかな実装のみが開示されています。開示された実装および他の実装は、開示および説明に基づいて変更および拡大し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の周波数帯域における入力信号に対して入力インピーダンス整合を行うように構成された入力整合ネットワークと、
前記入力整合ネットワークに結合され、かつ前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記入力信号を、該周波数帯域に対応付けられた入力信号経路へ方向付ける第1の周波数選択モジュールと、
前記複数の周波数帯域における前記入力信号を受信し、かつ前記入力信号を増幅して、該複数の周波数帯域における出力信号を生成する1つまたは複数のトランジスタと、
前記1つまたは複数のトランジスタにバイアスをかけるバイアス回路と、
前記複数の周波数帯域における前記出力信号に対して出力インピーダンス整合を行うように構成された出力整合ネットワークと、
前記出力整合ネットワークに結合され、かつ前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記出力信号を、該周波数帯域に対応付けられた出力信号経路へ方向付ける第2の周波数選択モジュールと
を含む、複数の周波数帯域に対して動作するように構成された電力増幅システム。
【請求項2】
それぞれ前記入力整合ネットワークに結合され、かつ前記複数の周波数帯域における前記入力信号を受信する複数の入力ポートと、
それぞれ前記出力整合ネットワークに結合され、かつ前記複数の周波数帯域における前記出力信号を出力する複数の出力ポートと
をさらに含み、
前記1つまたは複数のトランジスタが、前記複数の周波数帯域に対して動作するように構成されたマルチバンドトランジスタを含み、
前記入力整合ネットワークが、前記複数の入力ポートから前記入力信号を受信し、かつ該入力信号を処理して前記第1の周波数選択モジュールへ送信し、
前記第1の周波数選択モジュールが、前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記入力信号を、該複数の周波数帯域に対応付けられ、かつ前記マルチバンドトランジスタに結合されている前記入力信号経路へ方向付け、かつ
前記第2の周波数選択モジュールが、前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記出力信号を、該周波数帯域に対応付けられ、かつ該周波数帯域における該出力信号を出力する前記複数の出力ポートのうちの1つに前記出力整合ネットワークを介して結合されている前記出力信号経路へ方向付ける、請求項1記載の電力増幅システム。
【請求項3】
前記第1の周波数選択モジュールに結合され、かつ前記複数の周波数帯域における前記入力信号を受信する入力ポートと、
前記第2の周波数選択モジュールに結合され、かつ前記複数の周波数帯域における前記出力信号を出力する出力ポートと
をさらに含み、
前記1つまたは複数のトランジスタが、それぞれ前記複数の周波数帯域に対して動作するように構成された複数のシングルバンドトランジスタを含み、
前記第1の周波数選択モジュールが、前記入力ポートから前記複数の周波数帯域における前記入力信号を受信し、かつ該複数の周波数帯域のそれぞれにおける該入力信号を、該周波数帯域に対応付けられ、かつ該周波数帯域に対して動作する前記複数のシングルバンドトランジスタのうちの1つに前記入力整合ネットワークを介して結合されている前記入力信号経路へ方向付け、
前記出力整合ネットワークが、前記複数のシングルバンドトランジスタから前記出力信号を受信し、かつ該出力信号を処理して前記第2の周波数選択モジュールへ送信し、かつ
前記第2の周波数選択モジュールが、前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記出力信号を、該複数の周波数帯域に対応付けられ、かつ前記出力ポートに結合されている前記出力信号経路へ方向付ける、請求項1記載の電力増幅システム。
【請求項4】
前記バイアス回路が、CRLH構造を含む、請求項1記載の電力増幅システム。
【請求項5】
前記第1の周波数選択モジュールおよび前記第2の周波数選択モジュールが、複数の周波数セレクタを含み、該周波数セレクタのそれぞれは、該周波数セレクタに対応付けられた周波数帯域における信号を伝送し、かつ該周波数セレクタに対応付けられた周波数帯域とは異なる1つまたは複数の周波数帯域における信号を除去するように構成された、請求項1記載の電力増幅システム。
【請求項6】
前記複数の周波数セレクタのうちの少なくとも1つが、能動周波数セレクタを形成する能動制御を受けるように構成されて該周波数セレクタに対応付けられた周波数帯域における前記信号を伝送し、該周波数セレクタに対応付けられた該周波数帯域が時間によって変動する、請求項5記載の電力増幅システム。
【請求項7】
前記周波数セレクタのうちの少なくとも1つが、右手/左手系複合(CRLH)構造を含む、請求項5記載の電力増幅システム。
【請求項8】
前記第1の周波数選択モジュールおよび前記第2の周波数選択モジュールが、
第1のポートと、
前記複数の周波数帯域にそれぞれ対応付けられた複数の第2のポートと、
前記第1のポートと前記複数の第2のポートとをそれぞれ結合して、多分岐したブランチを形成する複数の信号経路であって、前記複数の周波数セレクタにそれぞれ結合されている複数の信号経路と
をそれぞれ含む、1つまたは複数の周波数選択ネットワークを含み、
前記周波数セレクタのそれぞれが、該周波数セレクタに対応付けられた前記周波数帯域における前記信号を、前記周波数帯域に対応付けられた前記第1のポートと前記第2のポートとの間で伝送するように構成された、請求項5記載の電力増幅システム。
【請求項9】
前記第1のポートが、前記複数の周波数帯域における前記信号を時間間隔をあけて順番に受信するように構成され、かつ
前記複数の第2のポートが、前記信号を出力するように構成された、請求項8記載の電力増幅システム。
【請求項10】
前記複数の第2のポートが、時間間隔をあけて順番に入力された前記複数の周波数帯域における前記信号をそれぞれ受信するように構成され、
前記第1のポートが、前記信号を出力するように構成された、請求項8記載の電力増幅システム。
【請求項11】
前記能動周波数セレクタが、
前記複数の周波数帯域における前記信号を、同時にまたは時間間隔をあけて順番に受信する第1のポートと、
所定の時間間隔で、所定の周波数帯域における前記信号を出力する第2のポートであって、該所定の周波数帯域が該時間間隔が変化するのにつれて連続的に変化する、第2のポートと、
前記第1のポートと前記第2のポートとを結合する信号経路と、
前記信号経路に結合され、かつ前記時間間隔が変化するのにつれてオンとオフとが切り替わるように制御されて、前記時間間隔が変化するのにつれて変化する前記所定の周波数帯域を選択する複数の能動構成要素と
を含む、請求項6記載の電力増幅システム。
【請求項12】
周波数帯域における入力信号に対して入力インピーダンス整合を行うように構成された入力整合ネットワークと、
前記入力整合ネットワークに結合されたトランジスタであって、前記周波数帯域における前記入力信号を受信し、かつ該入力信号を増幅して、前記周波数帯域における出力信号を生成する、トランジスタと、
CRLH構造に基づいたシャント素子と、直列素子とを有するように構成され、かつ前記トランジスタに結合された周波数セレクタであって、前記トランジスタから前記出力信号を受信し、かつ該入力信号を処理する、周波数セレクタと
を含む電力増幅器。
【請求項13】
前記トランジスタに、AB級でバイアスがかけられる、請求項12記載の電力増幅器。
【請求項14】
前記周波数帯域における前記出力信号に対して出力インピーダンス整合を行うように構成された出力整合ネットワークをさらに含み、
前記シャント素子が、前記CRLH構造に基づいて、前記周波数帯域における前記出力信号に対応付けられた高調波を除去し、かつ該出力信号を前記出力整合ネットワークへ送信するための位相応答を有するように構成され、かつ
前記直列素子が、伝送および反射を含む信号特性を調整するための位相応答を有するように構成された、請求項12記載の電力増幅器。
【請求項15】
前記直列素子が、右手系(RH)構造に基づいて、前記周波数セレクタの入力端で、奇数次高調波に対して開放回路を有し、かつ偶数次高調波に対して短絡回路を有するための位相応答を有するように構成された、請求項14記載の電力増幅器。
【請求項16】
前記シャント素子が、前記CRLH構造に基づいて、前記周波数帯域における前記出力信号に対応付けられた高調波を除去し、かつ該出力信号に対して出力インピーダンス整合を行うための位相応答を有するように構成され、
前記直列素子が、伝送および反射を含む信号特性を調整するための位相応答を有するように構成された、請求項12記載の電力増幅器。
【請求項17】
前記直列素子が、RH構造に基づいて、前記周波数セレクタの入力端で、奇数次高調波に対して開放回路を有し、かつ偶数次高調波に対して短絡回路を有するための位相応答を有するように構成された、請求項16記載の電力増幅器。
【請求項18】
第1の端子と第2の端子とを有するトランジスタであって、該第1の端子で入力信号を受信し、該入力信号を増幅して、出力信号を生成し、かつ該第2の端子で該出力信号を出力するトランジスタと、
前記トランジスタの前記第1の端子に結合されたCRLH伝送線路(TL)であって、バラクタを含むCRLH構造を含む、CRLH TLと、
前記トランジスタの前記第2の端子に結合され、前記出力信号を検出し、前記出力信号の位相歪みに対応付けられた信号を前記CRLH TLへ送信する検出器と
を含み、
前記入力信号に対応付けられた位相が、前記検出器から送信された前記位相歪みに対応付けられた前記信号によって制御される前記バラクタによって変動させられる、電力増幅器。
【請求項19】
前記第2の端子と前記検出器との間に結合された出力整合ネットワークをさらに含む、請求項18記載の電力増幅器。
【請求項20】
前記CRLH構造が、入力インピーダンス整合をさらに行うように構成された、請求項18記載の電力増幅器。
【請求項21】
第1のポートと、
複数の周波数帯域にそれぞれ対応付けられた複数の第2のポートと、
前記第1のポートと前記複数の第2のポートとにそれぞれ結合して、多分岐したブランチを形成する複数の信号経路であって、複数の周波数セレクタにそれぞれ結合されている、複数の信号経路と
を含み、
前記周波数セレクタのそれぞれが、該周波数セレクタに対応付けられた周波数帯域における信号を、前記第1のポートと前記周波数帯域に対応付けられた前記第2のポートとの間で伝送するように構成され、
少なくとも1つの周波数セレクタが、CRLH構造を含む、周波数選択ネットワーク。
【請求項22】
前記少なくとも1つの周波数セレクタが、
前記CRLH構造を有するシャント素子であって、該CRLH構造に基づいて、前記周波数セレクタに対応付けられた前記周波数帯域における前記信号を伝送するために該周波数セレクタにおける所定の位置で所定のインピーダンスを発生するための位相応答を有するように構成された、シャント素子を含む、請求項21記載の周波数選択ネットワーク。
【請求項23】
前記少なくとも1つの周波数セレクタが、第2のCRLH構造を有する第2のシャント素子をさらに含む、請求項22記載の周波数選択ネットワーク。
【請求項24】
前記少なくとも1つの周波数セレクタが、前記CRLH構造を有する直列素子を含む、請求項21記載の周波数選択ネットワーク。
【請求項25】
前記少なくとも1つの周波数セレクタが、RH構造を有する直列素子をさらに含む、請求項22記載の周波数選択ネットワーク。
【請求項26】
複数の周波数帯域における信号を受信する入力ポートと、
前記複数の周波数帯域から選択された所定の周波数帯域における信号を出力する出力ポートと、
前記入力ポートと前記出力ポートとを結合する信号経路と、
第1の端部と第2の端部とを有するTLであって、該第1の端部は該TLの末端(distal end)であり、かつ該第2の端部は前記信号経路にシャント結合された基端(proximal end)であるTLと
を含み、
前記TLが、前記所定の周波数帯域に対して該第2の端部で開放回路を提供し、かつ該所定の周波数帯域とは異なる周波数帯域に対して該第2の端部で短絡回路を提供する位相応答を有するように構成された、周波数セレクタ。
【請求項27】
前記TLが、CRLH構造を含み、かつ該CRLH構造に基づいて、前記第1の端部が開放回路を有するように構成される場合、前記所定の周波数帯域に対して、0°±(k×180°)、但しk = 0, 1, 2, …、のうちの1つを提供し、かつ該所定の周波数帯域とは異なる前記周波数帯域に対して、90°±(k×180°)、但しk = 0, 1, 2, …、のうちの1つを提供する位相応答を有するように構成され、かつ
前記TLが、CRLH構造を含み、かつ該CRLH構造に基づいて、前記第1の端部が短絡回路を有するように構成される場合、前記所定の周波数帯域に対して、90°±(k×180°)、但しk = 0, 1, 2, …、のうちの1つを提供し、かつ該所定の周波数帯域以外の周波数帯域に対して、0°±(k×180°)、但しk = 0, 1, 2, …、のうちの1つを提供する位相応答を有するように構成された、請求項26記載の周波数セレクタ。
【請求項28】
前記信号経路に直列結合された第2のTLであって、伝送および反射を含む信号特性を調整するための位相応答を有するように構成された第2のTLをさらに含む、請求項26記載の周波数セレクタ。
【請求項29】
前記第2のTLが、前記所定の周波数帯域とは異なる前記周波数帯域における前記信号に対して、前記入力ポートで開放を提供する位相応答を有するように構成された、請求項28記載の周波数セレクタ。
【請求項30】
前記第2のTLが、RH構造を含む、請求項28記載の周波数セレクタ。
【請求項31】
前記第2のTLが、CRLH構造を含む、請求項28記載の周波数セレクタ。
【請求項32】
前記TLが、拡張CRLH(extended-CRLH)構造を含み、かつ前記拡張CRLH構造に基づいて、前記所定の周波数帯域とは異なる3つより多い周波数帯域に対して、前記第2の端部で短絡回路を提供する位相応答を有するように構成された、請求項26記載の周波数セレクタ。
【請求項33】
前記TLが、前記所定の周波数帯域に対して前記第2の端部で開放回路を提供し、かつ該所定の周波数帯域の高調波に対して該第2の端部で短絡回路を提供する位相応答を有するように構成された、請求項26記載の周波数セレクタ。
【請求項34】
第3の端部と第4の端部とを有する第3のTLであって、該第3の端部は該第3のTLの末端であり、かつ該第4の端部は前記信号経路にシャント結合された基端である、第3のTLをさらに含み、該第3のTLが、前記所定の周波数帯域に対して該第4の端部で開放回路を提供し、かつ該所定の周波数帯域とは異なる周波数帯域に対して該第4の端部で短絡回路を提供する位相応答を有するように構成された、請求項28記載の周波数セレクタ。
【請求項35】
複数の周波数帯域における信号を受信する入力ポートと、
第1の所定の周波数帯域における第1の信号および第2の所定の周波数帯域における第2の信号を出力する出力ポートであって、該第1の周波数帯域および該第2の周波数帯域が、前記複数の周波数帯域から選択される出力ポートと、
前記入力ポートと前記出力ポートとを結合する信号経路と、
第1の端部と第2の端部とを有する第1のTLであって、該第1の端部は該第1のTLの末端である、第1のTLと、
前記第2の端部と前記信号経路とをシャント結合する第1の能動構成要素と、
第3の端部と第4の端部とを有する第2のTLであって、該第3の端部は該第2のTLの末端である、第2のTLと、
前記第4の端部と前記信号経路とをシャント結合する第2の能動構成要素と
を含み、
前記第1のTLが、前記第1の所定の周波数帯域に対して前記第2の端部で開放回路を提供し、かつ前記第2の周波数帯域に対して該第2の端部で短絡回路を提供する位相応答を有するように構成され、
前記第2のTLが、前記第2の所定の周波数帯域に対して前記第4の端部で開放回路を提供し、かつ前記第1の周波数帯域に対して前記第2の端部で短絡回路を提供する位相応答を有するように構成され、かつここで
前記第1の能動構成要素が、オン状態となって、前記第1のTLを前記信号経路に結合するように制御され、かつ前記第2の能動構成要素が、オフ状態となって、前記第2のTLを結合解除して、前記第1の所定の周波数帯域における前記第1の信号を前記出力ポートへ方向付けるように制御され、かつ
前記第2の能動構成要素が、オン状態となって、前記第2のTLを前記信号経路に結合するように制御され、かつ前記第1の能動構成要素が、オフ状態となって、前記第1のTLを結合解除して、前記第2の所定の周波数帯域における前記第2の信号を前記出力ポートへ方向付けるように制御される、能動周波数セレクタ。
【請求項36】
前記第1のTLおよび前記第2のTLが、CRLH構造を含む、請求項35記載の能動周波数セレクタ。
【請求項37】
前記複数の周波数帯域における前記信号が、前記入力ポートで同時に受信される、請求項35記載の能動周波数セレクタ。
【請求項38】
前記複数の周波数帯域における前記信号が、時間間隔をあけて順番に受信される、請求項35記載の能動周波数セレクタ。
【請求項39】
前記信号経路に直列結合された第3のTLであって、伝送および反射を含む信号特性を調整するための位相応答を有するように構成された第3のTLをさらに含む、請求項35記載の能動周波数セレクタ。
【請求項40】
前記第1のTLが、前記第1の所定の周波数帯域に対して前記第2の端部で開放回路を提供し、かつ前記第2の所定の周波数帯域および前記第1の所定の周波数帯域の高調波に対して該第2の端部で短絡回路を提供する位相応答を有するように構成され、かつ
前記第2のTLが、前記第2の所定の周波数帯域に対して前記第4の端部で開放回路を提供し、かつ前記第1の周波数帯域および前記第2の所定の周波数帯域の高調波に対して前記第2の端部で短絡回路を提供する位相応答を有するように構成された、請求項35記載の能動周波数セレクタ。
【請求項41】
第1の端部と第2の端部とを有する第1のTLと、
第3の端部と第4の端部とを有する第2のTLと、
CRLH構造を含み、かつ第5の端部と第6の端部とを有する第3のTLと
を含み、
前記第1のTL、前記第2のTL、および前記第3のTLが、放射状に結合されて、前記第1の端部、前記第3の端部、および前記第5の端部を伴う共通部分を形成し、
前記第1のTLが、外部供給源から前記第2の端部を介してバイアス信号を受信するように構成され、かつ
前記第2のTLが、前記第4の端部を介してRF信号経路へ前記バイアス信号を送信し、該RF信号経路に結合されている前記トランジスタにバイアスをかけるように構成された、トランジスタにバイアスをかけるバイアス回路。
【請求項42】
前記第2のTLおよび前記第3のTLが、第2の位相応答および第3の位相応答をそれぞれ有して、複数の周波数帯域における信号に対して、前記第2のTLの前記第4の端部で開放回路を提供するように構成された、請求項41記載のバイアス回路。
【請求項43】
前記第2のTLが、前記複数の周波数帯域における前記信号に対して前記共通部分で任意のインピーダンスを提供するための第2の位相応答を有するように構成され、かつ
前記第3のTLが、前記CRLH構造に基づいて、前記任意のインピーダンスを補償するための前記第3の位相応答を有するように構成された、請求項42記載のバイアス回路。
【請求項44】
前記第6の端部が開放の場合、前記第3の位相応答が、前記複数の周波数帯域に対してk×180°、但しk = 0, ±1, ±2, …、から選択される位相を前記第4の端部と前記第6の端部との間に提供して、前記任意のインピーダンスを補償し、前記複数の周波数帯域に対して前記第4の端部で開放回路を有するようにし、かつ
前記第6の端部が短絡の場合、前記第3の位相応答が、前記複数の周波数帯域に対してk×90°、但しk = ±1, ±2, …、から選択される位相を前記第4の端部と前記第6の端部との間に提供して、前記任意の位相を補償し、前記複数の周波数帯域に対して前記第4の端部で開放回路を有するようにする、請求項43記載のバイアス回路。
【請求項45】
複数の周波数帯域における入力信号に対して入力インピーダンス整合を行うように構成された入力整合ネットワークと、
前記入力整合ネットワークに結合され、かつ前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記入力信号を該周波数帯域に対応付けられた入力信号経路へ方向付ける周波数選択モジュールと、
前記複数の周波数帯域における前記入力信号を受信し、かつ該入力信号を増幅して、該複数の周波数帯域における出力信号を生成する1つまたは複数のトランジスタと、
前記1つまたは複数のトランジスタにバイアスをかけるバイアス回路と、
前記複数の周波数帯域における前記出力信号に対して出力インピーダンス整合を行い、かつ該出力信号を出力するように構成された出力整合ネットワークと
を含む、複数の周波数帯域に対して動作するように構成された電力増幅システム。
【請求項46】
前記バイアス回路が、CRLH構造を含む、請求項45記載の電力増幅システム。
【請求項47】
前記周波数選択モジュールが、少なくとも1つの周波数セレクタを含み、これは、該周波数セレクタに対応付けられた前記周波数帯域における信号を送信し、かつ該周波数セレクタに対応付けられた該周波数帯域とは異なる1つまたは複数の周波数帯域における信号を除去するように構成された、請求項45記載の電力増幅システム。
【請求項48】
前記少なくとも1つの周波数セレクタが、該周波数セレクタに対応付けられた前記周波数帯域における前記信号を伝送する能動周波数セレクタを形成する能動制御を受けるように構成され、該周波数セレクタに対応付けられた該周波数帯域が時間によって変動する、請求項47記載の電力増幅システム。
【請求項49】
前記少なくとも1つの周波数セレクタが、CRLH構造を含む、請求項47記載の電力増幅システム。
【請求項50】
複数の周波数帯域における入力信号に対して入力インピーダンス整合を行うように構成された入力整合ネットワークと、
前記複数の周波数帯域における前記入力信号を受信し、かつ該入力信号を増幅して、該複数の周波数帯域における出力信号を生成する1つまたは複数のトランジスタと、
前記1つまたは複数のトランジスタにバイアスをかけるバイアス回路と、
前記複数の周波数帯域における前記出力信号に対して出力インピーダンス整合を行うように構成された出力整合ネットワークと、
前記出力整合ネットワークに結合され、かつ前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記出力信号を出力信号経路へ方向付け、該出力信号を出力する周波数選択モジュールと
を含む、複数の周波数帯域に対して動作するように構成された電力増幅システム。
【請求項51】
前記バイアス回路が、CRLH構造を含む、請求項50記載の電力増幅システム。
【請求項52】
前記周波数選択モジュールが、少なくとも1つの周波数セレクタを含み、これは、該周波数セレクタに対応付けられた周波数帯域における信号を伝送し、かつ該周波数セレクタに対応付けられた周波数帯域とは異なる1つまたは複数の周波数帯域における信号を除去するように構成された、請求項50記載の電力増幅システム。
【請求項53】
前記少なくとも1つの周波数セレクタが、該周波数セレクタに対応付けられた前記周波数帯域における前記信号を伝送する能動周波数セレクタを形成する能動制御を受けるように構成され、該周波数セレクタに対応付けられた該周波数帯域が時間によって変動する、請求項52記載の電力増幅システム。
【請求項54】
前記少なくとも1つの周波数セレクタが、CRLH構造を含む、請求項52記載の電力増幅システム。
【請求項55】
複数の周波数帯域における入力信号に対して入力インピーダンス整合を行う入力整合ネットワークを形成する工程、
前記複数の周波数帯域における前記入力信号をそれぞれ受信する複数の入力ポートを前記入力整合ネットワークに結合する工程、
第1の周波数選択モジュールを前記入力整合ネットワークに結合して、前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記入力信号を、該複数の周波数帯域に対応付けられた入力信号経路へ方向付ける工程、
マルチバンドトランジスタを前記入力信号経路に結合して、前記複数の周波数帯域における前記入力信号を受信し、かつ該入力信号を増幅して、該複数の周波数帯域における出力信号を生成する工程、
前記複数の周波数帯域における出力信号に対して出力インピーダンス整合を行う出力整合ネットワークを形成する工程、
第2の周波数選択モジュールを前記マルチバンドトランジスタと前記出力整合ネットワークとの間に結合して、前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記出力信号を該周波数帯域に対応付けられた出力信号経路へ方向付ける工程、および
複数の出力ポートを前記複数の周波数帯域に対応付けられた前記出力信号経路にそれぞれ結合して、前記出力信号を出力する工程
を含む、複数の周波数帯域に対して動作可能な電力増幅システムの作製方法。
【請求項56】
前記第1の周波数モジュールおよび前記第2の周波数モジュールを、複数の周波数セレクタを含めることによって形成する工程、および
前記複数の周波数セレクタのそれぞれを、該周波数セレクタに対応付けられた周波数帯域における信号を伝送し、かつ該周波数セレクタに対応付けられた該周波数帯域とは異なる1つまたは複数の周波数帯域における信号を除去するように構成する工程
をさらに含む、請求項55記載の方法。
【請求項57】
前記周波数セレクタのうちの少なくとも1つを、該周波数セレクタに対応付けられた前記周波数帯域が時間によって変動する場合、該周波数セレクタに対応付けられた該周波数帯域における信号を伝送する能動制御を受けるように構成する工程をさらに含む、請求項56記載の方法。
【請求項58】
前記周波数セレクタのうちの少なくとも1つをCRLH構造に基づいて形成する工程をさらに含む、請求項55記載の方法。
【請求項59】
複数の周波数帯域における入力信号に対して入力インピーダンス整合を行う入力整合ネットワークを形成する工程、
第1の周波数選択モジュールを前記入力整合ネットワークに結合して、前記複数の周波数帯域のぞれぞれにおける前記入力信号を、該周波数帯域に対応付けられた入力信号経路に方向付ける工程、
前記複数の周波数帯域における前記入力信号を受信する入力ポートを前記周波数選択モジュールに結合する工程、
それぞれ前記入力信号を前記複数の周波数帯域に対応付けられた前記入力信号経路を介して受信し、かつ該入力信号を増幅して、該複数の周波数帯域における出力信号を生成する複数のトランジスタを結合する工程、
前記複数の周波数帯域における出力信号に対して出力インピーダンス整合を行う出力整合ネットワークを形成する工程、
第2の周波数選択モジュールを前記出力整合ネットワークに結合して、前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記出力信号を該複数の周波数帯域に対応付けられた出力信号経路へ方向付ける工程、および
出力ポートを前記出力信号経路に結合して、前記出力信号を出力する工程
を含む、複数の周波数帯域に対して動作可能な電力増幅システムの作製方法。
【請求項60】
前記第1の周波数モジュールおよび前記第2の周波数モジュールを、複数の周波数セレクタを含めることによって形成する工程、および
前記複数の周波数セレクタのそれぞれを、該周波数セレクタに対応付けられた前記周波数帯域における信号を伝送し、かつ該周波数セレクタに対応付けられた該周波数帯域とは異なる1つまたは複数の周波数帯域における信号を除去するように構成する工程
をさらに含む、請求項59記載の方法。
【請求項61】
前記周波数セレクタのうちの少なくとも1つを、該周波数セレクタに対応付けられた前記周波数帯域が時間によって変動する場合、該周波数セレクタに対応付けられた該周波数帯域における信号を伝送する能動制御を受けるように構成する工程をさらに含む、請求項60記載の方法。
【請求項62】
前記複数の周波数セレクタのそれぞれを構成する前記工程が、CRLH構造に基づいて、該周波数セレクタに対応付けられた前記周波数帯域における前記信号を伝送し、かつ該周波数セレクタに対応付けられた該周波数帯域とは異なる1つまたは複数の周波数帯域における信号を除去するための位相応答を有するように周波数セレクタを形成する工程を含む、請求項60記載の方法。
【請求項63】
周波数帯域における入力信号に対して入力インピーダンス整合を行う入力整合ネットワークを形成する工程、
トランジスタを前記入力整合ネットワークに結合して、前記周波数帯域における前記入力信号を受信し、かつ該入力信号を増幅して、該周波数帯域における出力信号を生成する工程、
前記トランジスタにAB級でバイアスをかけるバイアス回路を形成する工程、
CRLH構造に基づいたシャント素子とRH構造に基づいた直列素子とを有する周波数セレクタを形成する工程、および
前記周波数セレクタを前記トランジスタに結合して、前記出力信号を受信し、かつ処理する工程
を含む、J級電力増幅器の作製方法。
【請求項64】
前記周波数帯域における前記出力信号に対して出力インピーダンス整合を行う出力整合ネットワークを形成する工程をさらに含み、
前記周波数セレクタを形成する前記工程が、
前記CRLH構造に基づいて、前記周波数帯域における前記出力信号に対応付けられた高調波を除去し、かつ該出力信号を前記出力整合ネットワークへ送信するための位相応答を有するように前記シャント素子を構成する工程、および
前記RH構造に基づいて、伝送および反射を含む信号特性を調整するための位相応答を有するように前記直列素子を構成する工程
を含む、請求項63記載の方法。
【請求項65】
前記直列素子を構成する前記工程が、前記RH構造に基づいて、前記周波数セレクタの入力端で、奇数次高調波に対して開放回路を有し、かつ偶数次高調波に対して短絡回路を有するための位相応答を有するように前記直列素子を構成する工程を含む、請求項64記載の方法。
【請求項66】
前記周波数セレクタを形成する前記工程が、
前記CRLH構造に基づいて、前記周波数帯域における前記出力信号に対応付けられた高調波を除去し、かつ前記出力信号に対して出力入力インピーダンス整合を行うための位相応答を有するように前記シャント素子を構成する工程、および
前記RH構造に基づいて、伝送および反射を含む信号特性を調整するための位相応答を有するように前記直列素子を構成する工程
を含む、請求項63記載の方法。
【請求項67】
前記直列素子を構成する前記工程が、前記RH構造に基づいて、前記周波数セレクタの入力端で、奇数次高調波に対して開放回路を有し、かつ偶数次高調波に対して短絡回路を有するための位相応答を有するように該直列素子を構成する工程を含む、請求項66記載の方法。
【請求項68】
複数の周波数帯域における信号を受信する入力ポートを形成する工程、
前記複数の周波数帯域から選択された所定の周波数帯域における信号を出力する出力ポートを形成する工程、
前記入力ポートと前記出力ポートとの間に信号経路を形成する工程、
第1の端部と第2の端部とを有するTLを形成する工程、
前記TLの前記第2の端部を前記信号経路にシャント結合する工程、および
前記所定の周波数帯域に対して前記第2の端部で開放回路を提供し、該所定の周波数帯域以外の周波数帯域に対して前記第2の端部で短絡回路を提供する位相応答を有するように前記TLを構成する工程
を含む、周波数セレクタの作製方法。
【請求項69】
前記TLを構成する前記工程が、CRLH構造に基づいて、前記第1の端部が開放回路を有するように構成される場合、前記所定の周波数帯域に対して0°±(k×180°)、但しk = 0, 1, 2, …、のうちの1つを提供し、かつ該所定の周波数帯域以外の周波数帯域に対して90°±(k×180°)、但しk = 0, 1, 2, …、のうちの1つを提供する位相応答を有し、および前記第1の端部が短絡回路を有するように構成される場合、前記所定の周波数帯域に対して、90°±(k×180°)、但しk = 0, 1, 2, …、のうちの1つを提供し、かつ該所定の周波数帯域以外の周波数帯域に対して、0°±(k×180°)、但しk = 0, 1, 2, …、のうちの1つを提供する位相応答を有するように前記TLを形成する工程を含む、請求項68記載の方法。
【請求項70】
伝送および反射を含む信号特性を調整する位相応答を有するように第2のTLを構成する工程、および
前記第2のTLを前記信号経路に直列結合する工程
をさらに含む、請求項68記載の方法。
【請求項71】
前記複数の周波数帯域における入力信号を受信する工程、
前記複数の周波数帯域における入力信号に対して入力整合ネットワークに基づいて入力インピーダンス整合を行う工程、
第1の周波数選択モジュールを前記入力整合ネットワークに結合することによって、前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記入力信号を該周波数帯域に対応付けられた入力信号経路に方向付ける工程、
1つまたは複数のトランジスタを用いて、前記入力信号を増幅して、前記複数の周波数帯域における出力信号を生成する工程、
前記複数の周波数帯域における出力信号に対して出力整合ネットワークに基づいて出力インピーダンス整合を行う工程、
第2の周波数選択モジュールを前記出力整合ネットワークに結合することによって、前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記出力信号を該周波数帯域に対応付けられた出力信号経路へ方向付ける工程、および
前記出力信号を出力する工程
を含む、複数の周波数帯域に対して動作可能な電力増幅システムの使用方法。
【請求項72】
前記入力信号を方向付ける前記工程が、前記第1の周波数モジュールにおいてCRLH構造の位相応答を用いることを含む、請求項71記載の方法。
【請求項73】
前記出力信号を方向付ける前記工程が、前記第2の周波数モジュールにおいてCRLH構造の位相応答を用いることを含む、請求項71記載の方法。
【請求項74】
周波数帯域における入力信号を受信する工程、
前記周波数帯域における前記入力信号に対する入力インピーダンス整合を行う工程、
トランジスタを前記入力整合ネットワークに結合することによって、トランジスタを用いて、前記入力信号を増幅させ、前記周波数帯域における出力信号を生成する工程、
前記トランジスタにAB級でバイアスをかける工程、および
CRLH構造に基づいたシャント素子とRH構造に基づいた直列素子とを有するように形成された周波数セレクタを前記トランジスタに結合することによって、前記出力信号を処理する工程
を含む、J級電力増幅器の使用方法。
【請求項75】
前記出力信号を処理する前記工程が、前記CRLH構造の位相応答を用いることによって、前記周波数帯域における前記出力信号に対応付けられた高調波を除去することを含む、請求項74記載の方法。
【請求項76】
前記出力信号を処理する前記工程が、前記出力信号に対して出力入力インピーダンス整合を行うことをさらに含む、請求項75記載の方法。
【請求項1】
複数の周波数帯域における入力信号に対して入力インピーダンス整合を行うように構成された入力整合ネットワークと、
前記入力整合ネットワークに結合され、かつ前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記入力信号を、該周波数帯域に対応付けられた入力信号経路へ方向付ける第1の周波数選択モジュールと、
前記複数の周波数帯域における前記入力信号を受信し、かつ前記入力信号を増幅して、該複数の周波数帯域における出力信号を生成する1つまたは複数のトランジスタと、
前記1つまたは複数のトランジスタにバイアスをかけるバイアス回路と、
前記複数の周波数帯域における前記出力信号に対して出力インピーダンス整合を行うように構成された出力整合ネットワークと、
前記出力整合ネットワークに結合され、かつ前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記出力信号を、該周波数帯域に対応付けられた出力信号経路へ方向付ける第2の周波数選択モジュールと
を含む、複数の周波数帯域に対して動作するように構成された電力増幅システム。
【請求項2】
それぞれ前記入力整合ネットワークに結合され、かつ前記複数の周波数帯域における前記入力信号を受信する複数の入力ポートと、
それぞれ前記出力整合ネットワークに結合され、かつ前記複数の周波数帯域における前記出力信号を出力する複数の出力ポートと
をさらに含み、
前記1つまたは複数のトランジスタが、前記複数の周波数帯域に対して動作するように構成されたマルチバンドトランジスタを含み、
前記入力整合ネットワークが、前記複数の入力ポートから前記入力信号を受信し、かつ該入力信号を処理して前記第1の周波数選択モジュールへ送信し、
前記第1の周波数選択モジュールが、前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記入力信号を、該複数の周波数帯域に対応付けられ、かつ前記マルチバンドトランジスタに結合されている前記入力信号経路へ方向付け、かつ
前記第2の周波数選択モジュールが、前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記出力信号を、該周波数帯域に対応付けられ、かつ該周波数帯域における該出力信号を出力する前記複数の出力ポートのうちの1つに前記出力整合ネットワークを介して結合されている前記出力信号経路へ方向付ける、請求項1記載の電力増幅システム。
【請求項3】
前記第1の周波数選択モジュールに結合され、かつ前記複数の周波数帯域における前記入力信号を受信する入力ポートと、
前記第2の周波数選択モジュールに結合され、かつ前記複数の周波数帯域における前記出力信号を出力する出力ポートと
をさらに含み、
前記1つまたは複数のトランジスタが、それぞれ前記複数の周波数帯域に対して動作するように構成された複数のシングルバンドトランジスタを含み、
前記第1の周波数選択モジュールが、前記入力ポートから前記複数の周波数帯域における前記入力信号を受信し、かつ該複数の周波数帯域のそれぞれにおける該入力信号を、該周波数帯域に対応付けられ、かつ該周波数帯域に対して動作する前記複数のシングルバンドトランジスタのうちの1つに前記入力整合ネットワークを介して結合されている前記入力信号経路へ方向付け、
前記出力整合ネットワークが、前記複数のシングルバンドトランジスタから前記出力信号を受信し、かつ該出力信号を処理して前記第2の周波数選択モジュールへ送信し、かつ
前記第2の周波数選択モジュールが、前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記出力信号を、該複数の周波数帯域に対応付けられ、かつ前記出力ポートに結合されている前記出力信号経路へ方向付ける、請求項1記載の電力増幅システム。
【請求項4】
前記バイアス回路が、CRLH構造を含む、請求項1記載の電力増幅システム。
【請求項5】
前記第1の周波数選択モジュールおよび前記第2の周波数選択モジュールが、複数の周波数セレクタを含み、該周波数セレクタのそれぞれは、該周波数セレクタに対応付けられた周波数帯域における信号を伝送し、かつ該周波数セレクタに対応付けられた周波数帯域とは異なる1つまたは複数の周波数帯域における信号を除去するように構成された、請求項1記載の電力増幅システム。
【請求項6】
前記複数の周波数セレクタのうちの少なくとも1つが、能動周波数セレクタを形成する能動制御を受けるように構成されて該周波数セレクタに対応付けられた周波数帯域における前記信号を伝送し、該周波数セレクタに対応付けられた該周波数帯域が時間によって変動する、請求項5記載の電力増幅システム。
【請求項7】
前記周波数セレクタのうちの少なくとも1つが、右手/左手系複合(CRLH)構造を含む、請求項5記載の電力増幅システム。
【請求項8】
前記第1の周波数選択モジュールおよび前記第2の周波数選択モジュールが、
第1のポートと、
前記複数の周波数帯域にそれぞれ対応付けられた複数の第2のポートと、
前記第1のポートと前記複数の第2のポートとをそれぞれ結合して、多分岐したブランチを形成する複数の信号経路であって、前記複数の周波数セレクタにそれぞれ結合されている複数の信号経路と
をそれぞれ含む、1つまたは複数の周波数選択ネットワークを含み、
前記周波数セレクタのそれぞれが、該周波数セレクタに対応付けられた前記周波数帯域における前記信号を、前記周波数帯域に対応付けられた前記第1のポートと前記第2のポートとの間で伝送するように構成された、請求項5記載の電力増幅システム。
【請求項9】
前記第1のポートが、前記複数の周波数帯域における前記信号を時間間隔をあけて順番に受信するように構成され、かつ
前記複数の第2のポートが、前記信号を出力するように構成された、請求項8記載の電力増幅システム。
【請求項10】
前記複数の第2のポートが、時間間隔をあけて順番に入力された前記複数の周波数帯域における前記信号をそれぞれ受信するように構成され、
前記第1のポートが、前記信号を出力するように構成された、請求項8記載の電力増幅システム。
【請求項11】
前記能動周波数セレクタが、
前記複数の周波数帯域における前記信号を、同時にまたは時間間隔をあけて順番に受信する第1のポートと、
所定の時間間隔で、所定の周波数帯域における前記信号を出力する第2のポートであって、該所定の周波数帯域が該時間間隔が変化するのにつれて連続的に変化する、第2のポートと、
前記第1のポートと前記第2のポートとを結合する信号経路と、
前記信号経路に結合され、かつ前記時間間隔が変化するのにつれてオンとオフとが切り替わるように制御されて、前記時間間隔が変化するのにつれて変化する前記所定の周波数帯域を選択する複数の能動構成要素と
を含む、請求項6記載の電力増幅システム。
【請求項12】
周波数帯域における入力信号に対して入力インピーダンス整合を行うように構成された入力整合ネットワークと、
前記入力整合ネットワークに結合されたトランジスタであって、前記周波数帯域における前記入力信号を受信し、かつ該入力信号を増幅して、前記周波数帯域における出力信号を生成する、トランジスタと、
CRLH構造に基づいたシャント素子と、直列素子とを有するように構成され、かつ前記トランジスタに結合された周波数セレクタであって、前記トランジスタから前記出力信号を受信し、かつ該入力信号を処理する、周波数セレクタと
を含む電力増幅器。
【請求項13】
前記トランジスタに、AB級でバイアスがかけられる、請求項12記載の電力増幅器。
【請求項14】
前記周波数帯域における前記出力信号に対して出力インピーダンス整合を行うように構成された出力整合ネットワークをさらに含み、
前記シャント素子が、前記CRLH構造に基づいて、前記周波数帯域における前記出力信号に対応付けられた高調波を除去し、かつ該出力信号を前記出力整合ネットワークへ送信するための位相応答を有するように構成され、かつ
前記直列素子が、伝送および反射を含む信号特性を調整するための位相応答を有するように構成された、請求項12記載の電力増幅器。
【請求項15】
前記直列素子が、右手系(RH)構造に基づいて、前記周波数セレクタの入力端で、奇数次高調波に対して開放回路を有し、かつ偶数次高調波に対して短絡回路を有するための位相応答を有するように構成された、請求項14記載の電力増幅器。
【請求項16】
前記シャント素子が、前記CRLH構造に基づいて、前記周波数帯域における前記出力信号に対応付けられた高調波を除去し、かつ該出力信号に対して出力インピーダンス整合を行うための位相応答を有するように構成され、
前記直列素子が、伝送および反射を含む信号特性を調整するための位相応答を有するように構成された、請求項12記載の電力増幅器。
【請求項17】
前記直列素子が、RH構造に基づいて、前記周波数セレクタの入力端で、奇数次高調波に対して開放回路を有し、かつ偶数次高調波に対して短絡回路を有するための位相応答を有するように構成された、請求項16記載の電力増幅器。
【請求項18】
第1の端子と第2の端子とを有するトランジスタであって、該第1の端子で入力信号を受信し、該入力信号を増幅して、出力信号を生成し、かつ該第2の端子で該出力信号を出力するトランジスタと、
前記トランジスタの前記第1の端子に結合されたCRLH伝送線路(TL)であって、バラクタを含むCRLH構造を含む、CRLH TLと、
前記トランジスタの前記第2の端子に結合され、前記出力信号を検出し、前記出力信号の位相歪みに対応付けられた信号を前記CRLH TLへ送信する検出器と
を含み、
前記入力信号に対応付けられた位相が、前記検出器から送信された前記位相歪みに対応付けられた前記信号によって制御される前記バラクタによって変動させられる、電力増幅器。
【請求項19】
前記第2の端子と前記検出器との間に結合された出力整合ネットワークをさらに含む、請求項18記載の電力増幅器。
【請求項20】
前記CRLH構造が、入力インピーダンス整合をさらに行うように構成された、請求項18記載の電力増幅器。
【請求項21】
第1のポートと、
複数の周波数帯域にそれぞれ対応付けられた複数の第2のポートと、
前記第1のポートと前記複数の第2のポートとにそれぞれ結合して、多分岐したブランチを形成する複数の信号経路であって、複数の周波数セレクタにそれぞれ結合されている、複数の信号経路と
を含み、
前記周波数セレクタのそれぞれが、該周波数セレクタに対応付けられた周波数帯域における信号を、前記第1のポートと前記周波数帯域に対応付けられた前記第2のポートとの間で伝送するように構成され、
少なくとも1つの周波数セレクタが、CRLH構造を含む、周波数選択ネットワーク。
【請求項22】
前記少なくとも1つの周波数セレクタが、
前記CRLH構造を有するシャント素子であって、該CRLH構造に基づいて、前記周波数セレクタに対応付けられた前記周波数帯域における前記信号を伝送するために該周波数セレクタにおける所定の位置で所定のインピーダンスを発生するための位相応答を有するように構成された、シャント素子を含む、請求項21記載の周波数選択ネットワーク。
【請求項23】
前記少なくとも1つの周波数セレクタが、第2のCRLH構造を有する第2のシャント素子をさらに含む、請求項22記載の周波数選択ネットワーク。
【請求項24】
前記少なくとも1つの周波数セレクタが、前記CRLH構造を有する直列素子を含む、請求項21記載の周波数選択ネットワーク。
【請求項25】
前記少なくとも1つの周波数セレクタが、RH構造を有する直列素子をさらに含む、請求項22記載の周波数選択ネットワーク。
【請求項26】
複数の周波数帯域における信号を受信する入力ポートと、
前記複数の周波数帯域から選択された所定の周波数帯域における信号を出力する出力ポートと、
前記入力ポートと前記出力ポートとを結合する信号経路と、
第1の端部と第2の端部とを有するTLであって、該第1の端部は該TLの末端(distal end)であり、かつ該第2の端部は前記信号経路にシャント結合された基端(proximal end)であるTLと
を含み、
前記TLが、前記所定の周波数帯域に対して該第2の端部で開放回路を提供し、かつ該所定の周波数帯域とは異なる周波数帯域に対して該第2の端部で短絡回路を提供する位相応答を有するように構成された、周波数セレクタ。
【請求項27】
前記TLが、CRLH構造を含み、かつ該CRLH構造に基づいて、前記第1の端部が開放回路を有するように構成される場合、前記所定の周波数帯域に対して、0°±(k×180°)、但しk = 0, 1, 2, …、のうちの1つを提供し、かつ該所定の周波数帯域とは異なる前記周波数帯域に対して、90°±(k×180°)、但しk = 0, 1, 2, …、のうちの1つを提供する位相応答を有するように構成され、かつ
前記TLが、CRLH構造を含み、かつ該CRLH構造に基づいて、前記第1の端部が短絡回路を有するように構成される場合、前記所定の周波数帯域に対して、90°±(k×180°)、但しk = 0, 1, 2, …、のうちの1つを提供し、かつ該所定の周波数帯域以外の周波数帯域に対して、0°±(k×180°)、但しk = 0, 1, 2, …、のうちの1つを提供する位相応答を有するように構成された、請求項26記載の周波数セレクタ。
【請求項28】
前記信号経路に直列結合された第2のTLであって、伝送および反射を含む信号特性を調整するための位相応答を有するように構成された第2のTLをさらに含む、請求項26記載の周波数セレクタ。
【請求項29】
前記第2のTLが、前記所定の周波数帯域とは異なる前記周波数帯域における前記信号に対して、前記入力ポートで開放を提供する位相応答を有するように構成された、請求項28記載の周波数セレクタ。
【請求項30】
前記第2のTLが、RH構造を含む、請求項28記載の周波数セレクタ。
【請求項31】
前記第2のTLが、CRLH構造を含む、請求項28記載の周波数セレクタ。
【請求項32】
前記TLが、拡張CRLH(extended-CRLH)構造を含み、かつ前記拡張CRLH構造に基づいて、前記所定の周波数帯域とは異なる3つより多い周波数帯域に対して、前記第2の端部で短絡回路を提供する位相応答を有するように構成された、請求項26記載の周波数セレクタ。
【請求項33】
前記TLが、前記所定の周波数帯域に対して前記第2の端部で開放回路を提供し、かつ該所定の周波数帯域の高調波に対して該第2の端部で短絡回路を提供する位相応答を有するように構成された、請求項26記載の周波数セレクタ。
【請求項34】
第3の端部と第4の端部とを有する第3のTLであって、該第3の端部は該第3のTLの末端であり、かつ該第4の端部は前記信号経路にシャント結合された基端である、第3のTLをさらに含み、該第3のTLが、前記所定の周波数帯域に対して該第4の端部で開放回路を提供し、かつ該所定の周波数帯域とは異なる周波数帯域に対して該第4の端部で短絡回路を提供する位相応答を有するように構成された、請求項28記載の周波数セレクタ。
【請求項35】
複数の周波数帯域における信号を受信する入力ポートと、
第1の所定の周波数帯域における第1の信号および第2の所定の周波数帯域における第2の信号を出力する出力ポートであって、該第1の周波数帯域および該第2の周波数帯域が、前記複数の周波数帯域から選択される出力ポートと、
前記入力ポートと前記出力ポートとを結合する信号経路と、
第1の端部と第2の端部とを有する第1のTLであって、該第1の端部は該第1のTLの末端である、第1のTLと、
前記第2の端部と前記信号経路とをシャント結合する第1の能動構成要素と、
第3の端部と第4の端部とを有する第2のTLであって、該第3の端部は該第2のTLの末端である、第2のTLと、
前記第4の端部と前記信号経路とをシャント結合する第2の能動構成要素と
を含み、
前記第1のTLが、前記第1の所定の周波数帯域に対して前記第2の端部で開放回路を提供し、かつ前記第2の周波数帯域に対して該第2の端部で短絡回路を提供する位相応答を有するように構成され、
前記第2のTLが、前記第2の所定の周波数帯域に対して前記第4の端部で開放回路を提供し、かつ前記第1の周波数帯域に対して前記第2の端部で短絡回路を提供する位相応答を有するように構成され、かつここで
前記第1の能動構成要素が、オン状態となって、前記第1のTLを前記信号経路に結合するように制御され、かつ前記第2の能動構成要素が、オフ状態となって、前記第2のTLを結合解除して、前記第1の所定の周波数帯域における前記第1の信号を前記出力ポートへ方向付けるように制御され、かつ
前記第2の能動構成要素が、オン状態となって、前記第2のTLを前記信号経路に結合するように制御され、かつ前記第1の能動構成要素が、オフ状態となって、前記第1のTLを結合解除して、前記第2の所定の周波数帯域における前記第2の信号を前記出力ポートへ方向付けるように制御される、能動周波数セレクタ。
【請求項36】
前記第1のTLおよび前記第2のTLが、CRLH構造を含む、請求項35記載の能動周波数セレクタ。
【請求項37】
前記複数の周波数帯域における前記信号が、前記入力ポートで同時に受信される、請求項35記載の能動周波数セレクタ。
【請求項38】
前記複数の周波数帯域における前記信号が、時間間隔をあけて順番に受信される、請求項35記載の能動周波数セレクタ。
【請求項39】
前記信号経路に直列結合された第3のTLであって、伝送および反射を含む信号特性を調整するための位相応答を有するように構成された第3のTLをさらに含む、請求項35記載の能動周波数セレクタ。
【請求項40】
前記第1のTLが、前記第1の所定の周波数帯域に対して前記第2の端部で開放回路を提供し、かつ前記第2の所定の周波数帯域および前記第1の所定の周波数帯域の高調波に対して該第2の端部で短絡回路を提供する位相応答を有するように構成され、かつ
前記第2のTLが、前記第2の所定の周波数帯域に対して前記第4の端部で開放回路を提供し、かつ前記第1の周波数帯域および前記第2の所定の周波数帯域の高調波に対して前記第2の端部で短絡回路を提供する位相応答を有するように構成された、請求項35記載の能動周波数セレクタ。
【請求項41】
第1の端部と第2の端部とを有する第1のTLと、
第3の端部と第4の端部とを有する第2のTLと、
CRLH構造を含み、かつ第5の端部と第6の端部とを有する第3のTLと
を含み、
前記第1のTL、前記第2のTL、および前記第3のTLが、放射状に結合されて、前記第1の端部、前記第3の端部、および前記第5の端部を伴う共通部分を形成し、
前記第1のTLが、外部供給源から前記第2の端部を介してバイアス信号を受信するように構成され、かつ
前記第2のTLが、前記第4の端部を介してRF信号経路へ前記バイアス信号を送信し、該RF信号経路に結合されている前記トランジスタにバイアスをかけるように構成された、トランジスタにバイアスをかけるバイアス回路。
【請求項42】
前記第2のTLおよび前記第3のTLが、第2の位相応答および第3の位相応答をそれぞれ有して、複数の周波数帯域における信号に対して、前記第2のTLの前記第4の端部で開放回路を提供するように構成された、請求項41記載のバイアス回路。
【請求項43】
前記第2のTLが、前記複数の周波数帯域における前記信号に対して前記共通部分で任意のインピーダンスを提供するための第2の位相応答を有するように構成され、かつ
前記第3のTLが、前記CRLH構造に基づいて、前記任意のインピーダンスを補償するための前記第3の位相応答を有するように構成された、請求項42記載のバイアス回路。
【請求項44】
前記第6の端部が開放の場合、前記第3の位相応答が、前記複数の周波数帯域に対してk×180°、但しk = 0, ±1, ±2, …、から選択される位相を前記第4の端部と前記第6の端部との間に提供して、前記任意のインピーダンスを補償し、前記複数の周波数帯域に対して前記第4の端部で開放回路を有するようにし、かつ
前記第6の端部が短絡の場合、前記第3の位相応答が、前記複数の周波数帯域に対してk×90°、但しk = ±1, ±2, …、から選択される位相を前記第4の端部と前記第6の端部との間に提供して、前記任意の位相を補償し、前記複数の周波数帯域に対して前記第4の端部で開放回路を有するようにする、請求項43記載のバイアス回路。
【請求項45】
複数の周波数帯域における入力信号に対して入力インピーダンス整合を行うように構成された入力整合ネットワークと、
前記入力整合ネットワークに結合され、かつ前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記入力信号を該周波数帯域に対応付けられた入力信号経路へ方向付ける周波数選択モジュールと、
前記複数の周波数帯域における前記入力信号を受信し、かつ該入力信号を増幅して、該複数の周波数帯域における出力信号を生成する1つまたは複数のトランジスタと、
前記1つまたは複数のトランジスタにバイアスをかけるバイアス回路と、
前記複数の周波数帯域における前記出力信号に対して出力インピーダンス整合を行い、かつ該出力信号を出力するように構成された出力整合ネットワークと
を含む、複数の周波数帯域に対して動作するように構成された電力増幅システム。
【請求項46】
前記バイアス回路が、CRLH構造を含む、請求項45記載の電力増幅システム。
【請求項47】
前記周波数選択モジュールが、少なくとも1つの周波数セレクタを含み、これは、該周波数セレクタに対応付けられた前記周波数帯域における信号を送信し、かつ該周波数セレクタに対応付けられた該周波数帯域とは異なる1つまたは複数の周波数帯域における信号を除去するように構成された、請求項45記載の電力増幅システム。
【請求項48】
前記少なくとも1つの周波数セレクタが、該周波数セレクタに対応付けられた前記周波数帯域における前記信号を伝送する能動周波数セレクタを形成する能動制御を受けるように構成され、該周波数セレクタに対応付けられた該周波数帯域が時間によって変動する、請求項47記載の電力増幅システム。
【請求項49】
前記少なくとも1つの周波数セレクタが、CRLH構造を含む、請求項47記載の電力増幅システム。
【請求項50】
複数の周波数帯域における入力信号に対して入力インピーダンス整合を行うように構成された入力整合ネットワークと、
前記複数の周波数帯域における前記入力信号を受信し、かつ該入力信号を増幅して、該複数の周波数帯域における出力信号を生成する1つまたは複数のトランジスタと、
前記1つまたは複数のトランジスタにバイアスをかけるバイアス回路と、
前記複数の周波数帯域における前記出力信号に対して出力インピーダンス整合を行うように構成された出力整合ネットワークと、
前記出力整合ネットワークに結合され、かつ前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記出力信号を出力信号経路へ方向付け、該出力信号を出力する周波数選択モジュールと
を含む、複数の周波数帯域に対して動作するように構成された電力増幅システム。
【請求項51】
前記バイアス回路が、CRLH構造を含む、請求項50記載の電力増幅システム。
【請求項52】
前記周波数選択モジュールが、少なくとも1つの周波数セレクタを含み、これは、該周波数セレクタに対応付けられた周波数帯域における信号を伝送し、かつ該周波数セレクタに対応付けられた周波数帯域とは異なる1つまたは複数の周波数帯域における信号を除去するように構成された、請求項50記載の電力増幅システム。
【請求項53】
前記少なくとも1つの周波数セレクタが、該周波数セレクタに対応付けられた前記周波数帯域における前記信号を伝送する能動周波数セレクタを形成する能動制御を受けるように構成され、該周波数セレクタに対応付けられた該周波数帯域が時間によって変動する、請求項52記載の電力増幅システム。
【請求項54】
前記少なくとも1つの周波数セレクタが、CRLH構造を含む、請求項52記載の電力増幅システム。
【請求項55】
複数の周波数帯域における入力信号に対して入力インピーダンス整合を行う入力整合ネットワークを形成する工程、
前記複数の周波数帯域における前記入力信号をそれぞれ受信する複数の入力ポートを前記入力整合ネットワークに結合する工程、
第1の周波数選択モジュールを前記入力整合ネットワークに結合して、前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記入力信号を、該複数の周波数帯域に対応付けられた入力信号経路へ方向付ける工程、
マルチバンドトランジスタを前記入力信号経路に結合して、前記複数の周波数帯域における前記入力信号を受信し、かつ該入力信号を増幅して、該複数の周波数帯域における出力信号を生成する工程、
前記複数の周波数帯域における出力信号に対して出力インピーダンス整合を行う出力整合ネットワークを形成する工程、
第2の周波数選択モジュールを前記マルチバンドトランジスタと前記出力整合ネットワークとの間に結合して、前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記出力信号を該周波数帯域に対応付けられた出力信号経路へ方向付ける工程、および
複数の出力ポートを前記複数の周波数帯域に対応付けられた前記出力信号経路にそれぞれ結合して、前記出力信号を出力する工程
を含む、複数の周波数帯域に対して動作可能な電力増幅システムの作製方法。
【請求項56】
前記第1の周波数モジュールおよび前記第2の周波数モジュールを、複数の周波数セレクタを含めることによって形成する工程、および
前記複数の周波数セレクタのそれぞれを、該周波数セレクタに対応付けられた周波数帯域における信号を伝送し、かつ該周波数セレクタに対応付けられた該周波数帯域とは異なる1つまたは複数の周波数帯域における信号を除去するように構成する工程
をさらに含む、請求項55記載の方法。
【請求項57】
前記周波数セレクタのうちの少なくとも1つを、該周波数セレクタに対応付けられた前記周波数帯域が時間によって変動する場合、該周波数セレクタに対応付けられた該周波数帯域における信号を伝送する能動制御を受けるように構成する工程をさらに含む、請求項56記載の方法。
【請求項58】
前記周波数セレクタのうちの少なくとも1つをCRLH構造に基づいて形成する工程をさらに含む、請求項55記載の方法。
【請求項59】
複数の周波数帯域における入力信号に対して入力インピーダンス整合を行う入力整合ネットワークを形成する工程、
第1の周波数選択モジュールを前記入力整合ネットワークに結合して、前記複数の周波数帯域のぞれぞれにおける前記入力信号を、該周波数帯域に対応付けられた入力信号経路に方向付ける工程、
前記複数の周波数帯域における前記入力信号を受信する入力ポートを前記周波数選択モジュールに結合する工程、
それぞれ前記入力信号を前記複数の周波数帯域に対応付けられた前記入力信号経路を介して受信し、かつ該入力信号を増幅して、該複数の周波数帯域における出力信号を生成する複数のトランジスタを結合する工程、
前記複数の周波数帯域における出力信号に対して出力インピーダンス整合を行う出力整合ネットワークを形成する工程、
第2の周波数選択モジュールを前記出力整合ネットワークに結合して、前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記出力信号を該複数の周波数帯域に対応付けられた出力信号経路へ方向付ける工程、および
出力ポートを前記出力信号経路に結合して、前記出力信号を出力する工程
を含む、複数の周波数帯域に対して動作可能な電力増幅システムの作製方法。
【請求項60】
前記第1の周波数モジュールおよび前記第2の周波数モジュールを、複数の周波数セレクタを含めることによって形成する工程、および
前記複数の周波数セレクタのそれぞれを、該周波数セレクタに対応付けられた前記周波数帯域における信号を伝送し、かつ該周波数セレクタに対応付けられた該周波数帯域とは異なる1つまたは複数の周波数帯域における信号を除去するように構成する工程
をさらに含む、請求項59記載の方法。
【請求項61】
前記周波数セレクタのうちの少なくとも1つを、該周波数セレクタに対応付けられた前記周波数帯域が時間によって変動する場合、該周波数セレクタに対応付けられた該周波数帯域における信号を伝送する能動制御を受けるように構成する工程をさらに含む、請求項60記載の方法。
【請求項62】
前記複数の周波数セレクタのそれぞれを構成する前記工程が、CRLH構造に基づいて、該周波数セレクタに対応付けられた前記周波数帯域における前記信号を伝送し、かつ該周波数セレクタに対応付けられた該周波数帯域とは異なる1つまたは複数の周波数帯域における信号を除去するための位相応答を有するように周波数セレクタを形成する工程を含む、請求項60記載の方法。
【請求項63】
周波数帯域における入力信号に対して入力インピーダンス整合を行う入力整合ネットワークを形成する工程、
トランジスタを前記入力整合ネットワークに結合して、前記周波数帯域における前記入力信号を受信し、かつ該入力信号を増幅して、該周波数帯域における出力信号を生成する工程、
前記トランジスタにAB級でバイアスをかけるバイアス回路を形成する工程、
CRLH構造に基づいたシャント素子とRH構造に基づいた直列素子とを有する周波数セレクタを形成する工程、および
前記周波数セレクタを前記トランジスタに結合して、前記出力信号を受信し、かつ処理する工程
を含む、J級電力増幅器の作製方法。
【請求項64】
前記周波数帯域における前記出力信号に対して出力インピーダンス整合を行う出力整合ネットワークを形成する工程をさらに含み、
前記周波数セレクタを形成する前記工程が、
前記CRLH構造に基づいて、前記周波数帯域における前記出力信号に対応付けられた高調波を除去し、かつ該出力信号を前記出力整合ネットワークへ送信するための位相応答を有するように前記シャント素子を構成する工程、および
前記RH構造に基づいて、伝送および反射を含む信号特性を調整するための位相応答を有するように前記直列素子を構成する工程
を含む、請求項63記載の方法。
【請求項65】
前記直列素子を構成する前記工程が、前記RH構造に基づいて、前記周波数セレクタの入力端で、奇数次高調波に対して開放回路を有し、かつ偶数次高調波に対して短絡回路を有するための位相応答を有するように前記直列素子を構成する工程を含む、請求項64記載の方法。
【請求項66】
前記周波数セレクタを形成する前記工程が、
前記CRLH構造に基づいて、前記周波数帯域における前記出力信号に対応付けられた高調波を除去し、かつ前記出力信号に対して出力入力インピーダンス整合を行うための位相応答を有するように前記シャント素子を構成する工程、および
前記RH構造に基づいて、伝送および反射を含む信号特性を調整するための位相応答を有するように前記直列素子を構成する工程
を含む、請求項63記載の方法。
【請求項67】
前記直列素子を構成する前記工程が、前記RH構造に基づいて、前記周波数セレクタの入力端で、奇数次高調波に対して開放回路を有し、かつ偶数次高調波に対して短絡回路を有するための位相応答を有するように該直列素子を構成する工程を含む、請求項66記載の方法。
【請求項68】
複数の周波数帯域における信号を受信する入力ポートを形成する工程、
前記複数の周波数帯域から選択された所定の周波数帯域における信号を出力する出力ポートを形成する工程、
前記入力ポートと前記出力ポートとの間に信号経路を形成する工程、
第1の端部と第2の端部とを有するTLを形成する工程、
前記TLの前記第2の端部を前記信号経路にシャント結合する工程、および
前記所定の周波数帯域に対して前記第2の端部で開放回路を提供し、該所定の周波数帯域以外の周波数帯域に対して前記第2の端部で短絡回路を提供する位相応答を有するように前記TLを構成する工程
を含む、周波数セレクタの作製方法。
【請求項69】
前記TLを構成する前記工程が、CRLH構造に基づいて、前記第1の端部が開放回路を有するように構成される場合、前記所定の周波数帯域に対して0°±(k×180°)、但しk = 0, 1, 2, …、のうちの1つを提供し、かつ該所定の周波数帯域以外の周波数帯域に対して90°±(k×180°)、但しk = 0, 1, 2, …、のうちの1つを提供する位相応答を有し、および前記第1の端部が短絡回路を有するように構成される場合、前記所定の周波数帯域に対して、90°±(k×180°)、但しk = 0, 1, 2, …、のうちの1つを提供し、かつ該所定の周波数帯域以外の周波数帯域に対して、0°±(k×180°)、但しk = 0, 1, 2, …、のうちの1つを提供する位相応答を有するように前記TLを形成する工程を含む、請求項68記載の方法。
【請求項70】
伝送および反射を含む信号特性を調整する位相応答を有するように第2のTLを構成する工程、および
前記第2のTLを前記信号経路に直列結合する工程
をさらに含む、請求項68記載の方法。
【請求項71】
前記複数の周波数帯域における入力信号を受信する工程、
前記複数の周波数帯域における入力信号に対して入力整合ネットワークに基づいて入力インピーダンス整合を行う工程、
第1の周波数選択モジュールを前記入力整合ネットワークに結合することによって、前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記入力信号を該周波数帯域に対応付けられた入力信号経路に方向付ける工程、
1つまたは複数のトランジスタを用いて、前記入力信号を増幅して、前記複数の周波数帯域における出力信号を生成する工程、
前記複数の周波数帯域における出力信号に対して出力整合ネットワークに基づいて出力インピーダンス整合を行う工程、
第2の周波数選択モジュールを前記出力整合ネットワークに結合することによって、前記複数の周波数帯域のそれぞれにおける前記出力信号を該周波数帯域に対応付けられた出力信号経路へ方向付ける工程、および
前記出力信号を出力する工程
を含む、複数の周波数帯域に対して動作可能な電力増幅システムの使用方法。
【請求項72】
前記入力信号を方向付ける前記工程が、前記第1の周波数モジュールにおいてCRLH構造の位相応答を用いることを含む、請求項71記載の方法。
【請求項73】
前記出力信号を方向付ける前記工程が、前記第2の周波数モジュールにおいてCRLH構造の位相応答を用いることを含む、請求項71記載の方法。
【請求項74】
周波数帯域における入力信号を受信する工程、
前記周波数帯域における前記入力信号に対する入力インピーダンス整合を行う工程、
トランジスタを前記入力整合ネットワークに結合することによって、トランジスタを用いて、前記入力信号を増幅させ、前記周波数帯域における出力信号を生成する工程、
前記トランジスタにAB級でバイアスをかける工程、および
CRLH構造に基づいたシャント素子とRH構造に基づいた直列素子とを有するように形成された周波数セレクタを前記トランジスタに結合することによって、前記出力信号を処理する工程
を含む、J級電力増幅器の使用方法。
【請求項75】
前記出力信号を処理する前記工程が、前記CRLH構造の位相応答を用いることによって、前記周波数帯域における前記出力信号に対応付けられた高調波を除去することを含む、請求項74記載の方法。
【請求項76】
前記出力信号を処理する前記工程が、前記出力信号に対して出力入力インピーダンス整合を行うことをさらに含む、請求項75記載の方法。
【図1】
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
【図9】
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【図11】
【図12】
【図13】
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【図15】
【図16】
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【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【公表番号】特表2012−518373(P2012−518373A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551223(P2011−551223)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際出願番号】PCT/US2010/024619
【国際公開番号】WO2010/096582
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(512075947)ホリンワース ファンド,エル.エル.シー. (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際出願番号】PCT/US2010/024619
【国際公開番号】WO2010/096582
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(512075947)ホリンワース ファンド,エル.エル.シー. (2)
【Fターム(参考)】
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