説明

二酸化ケイ素膜の製造方法

【課題】低収縮かつ低応力である絶縁膜を製造することができる方法の提供。
【解決手段】基板表面にポリシラザン組成物を塗布して塗膜を形成させ、引き続き前記塗膜を過酸化水素雰囲気下、50〜200℃で加熱することを含んでなることを特徴とする、二酸化ケイ素膜の製造方法。この二酸化ケイ素膜の製造方法によって各種絶縁膜などのアイソレーション構造を形成させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスにおける二酸化ケイ素膜の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明は半導体素子などの電子デバイスの製造において、電子デバイスに用いられる絶縁膜の形成、例えばシャロー・トレンチ・アイソレーション構造の形成に用いるための二酸化ケイ素膜を形成させる方法に関するものである
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置の様な電子デバイスにおいては、半導体素子、例えばトランジスタ、抵抗、およびその他、が基板上に配置されているが、これらは電気的に絶縁されている必要がある。したがって、これら素子の間には、素子を分離するためのアイソレーション構造が必要である。
【0003】
一方、電子デバイスの分野においては、近年、高密度化、および高集積化が進んでいる。このような高密度および高集積度化が進むと、必要な集積度に見合った、微細なアイソレーション構造を形成させることが要求される。そのようなニーズに合致した新たなアイソレーション構造のひとつとして、トレンチ・アイソレーション構造が挙げられる。この構造は、半導体基板の表面に微細な溝を形成させ、その溝の内部に絶縁物を充填して、溝の両側に形成される素子の間を電気的に分離する構造である。このような素子分離のための構造は、従来の方法に比べてアイソレーション領域を狭くできるため、昨今要求される高集積度を達成するために有効な素子分離構造である。また、素子を三次元に積層して高密度化を図る場合には、導電性材料の層の間に絶縁層を設けることも必要である。このような絶縁膜としては金属膜下絶縁膜や金属配線層間絶縁膜などがある。
【0004】
このようなアイソレーション構造を形成させるための方法として、溝構造を有する基板の表面に、ポリシラザン化合物を含む組成物を塗布し、溝を埋設した後に焼成して酸化膜を形成させる方法が知られている。
【0005】
このような焼成は、通常は水蒸気雰囲気下において行うことが一般的であるが、ポリシラザンの酸化を促進するために、過酸化水素の存在下において焼成を行う技術が知られている。
【0006】
例えば、特許文献1にはパー・ハイドロ・シラザン重合体の脱水縮合によりSOG膜を形成する方法が開示されているが、その脱水縮合は水分(HO)とオゾン(O)とを含んだ雰囲気で熱処理することにより行われており、そのときに過酸化水素雰囲気で行うことが可能であることも示されている。しかしながら、この特許文献においては、焼成温度は明確に記載されておらず、実施例では400℃程度での焼成を行っているだけである。このためこの特許文献に記載された方法では焼成温度は高い。また、その記載を見る限り、いわゆる層間絶縁膜についての適用を意図しており、たとえば、プラスチックなどの基材に酸化ケイ素膜を設けることを意図していない。
【0007】
特許文献2にもポリシラザン塗膜を過酸化水素蒸気中で焼成してセラミックを得る方法が開示されているが、その焼成温度は500〜1800℃である。
【0008】
しかし、本発明者らの検討によれば、高温で焼成を行うと、雰囲気中に飛散物があり、その影響によって得られる二酸化ケイ素膜の収縮および膜応力が増加する傾向があることがわかった。このため、特許文献1または2に記載の方法により形成された二酸化ケイ素膜は、物性の観点からはさらなる改良の余地があった。
【0009】
また、特許文献3には、プラスチックフィルムにポリシラザンを塗布して、アミン化合物及び/又は酸化合物と接触させることでSiO系セラミックスに転化する方法が開示されている。この特許文献には、酸化合物の一つとして過酸化水素が挙げられており、その過酸化水素蒸気の存在下に25℃で乾燥させた後、水蒸気雰囲気下95℃/85%RHの条件にて焼成を行って、酸化ケイ素膜を得ている。しかし、本発明者らの検討によれば、優れた特性を有する二酸化ケイ素膜を得るためにはさらなる改良の余地があった。具体的には、特許文献3に記載された条件で酸化膜を形成させる場合、過酸化水素蒸気のみでは酸化反応を促進するというよりも酸化反応開始のきっかけをあたえるのみであり、酸化反応そのものは過酸化水素蒸気に接触させた後の水蒸気処理によって生じるものであることがわかった。また、特許文献3に記載された方法では、形成された酸化膜中に無視できない量のシラノール基(Si−OH基)が含まれることがわかった。このシラノール基は、引き続き行われる焼成処理によって、脱水縮合を起こして最終的には二酸化ケイ素膜を形成するが、脱水縮合に伴う水の脱離に伴って酸化膜の収縮を引き起こすことがあることもわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−275135号公報
【特許文献2】米国特許第5,055,431号明細書
【特許文献3】特開平9−183663号公報、段落[0067]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような従来技術に対して、低収縮かつ低応力である絶縁膜を製造することができる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による二酸化ケイ素膜の製造方法は、
(A)基板表面にポリシラザン組成物を塗布して塗膜を形成させる塗布工程、
(B)前記塗膜を過酸化水素雰囲気下、50〜200℃で加熱する酸化工程
を含んでなることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明によるシャロー・トレンチ・アイソレーション構造の形成方法は、表面に溝構造を有する基板の表面に、前記の方法により、前記溝を埋設する二酸化ケイ素膜を形成させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来の方法に比較して短時間で優れた特性の二酸化ケイ素膜を形成させることができる。特に、本発明により形成された二酸化ケイ素膜はシラノール基の含有量が少ないので、低収縮かつ低応力であるという特徴を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
二酸化ケイ素膜の製造方法
本発明による二酸化ケイ素膜の製造方法は、ポリシラザンを含む塗膜を過酸化水素雰囲気下で特定の温度範囲で加熱することによりポリシラザンを二酸化ケイ素に転化させる酸化工程を含むことをひとつの特徴としている。ここで、前記したとおり、過酸化水素の存在下にポリシラザンを酸化して二酸化ケイ素に転化されることは知られていた。しかし、過酸化水素雰囲気で加熱する場合であっても、加熱温度が高すぎると塗膜中に最初から存在する低分子量成分や酸化処理中に生成した低分子量成分の飛散や昇華が生じ、その結果、得られる二酸化ケイ素膜の収縮率が大きくなってしまう。これに対して、加熱温度が低すぎれば酸化反応そのものが進行せず、また過酸化水素蒸気が塗膜中に十分に浸透せずに酸化反応が進行しにくいこともある。このように、十分な特性を有する二酸化ケイ素膜を得るためには焼成を行う工程の条件が特定の条件を満たす必要がある。このような酸化工程を含む本発明による二酸化ケイ素膜の製造方法について、より詳細に説明すると以下の通りである。
【0016】
(A)塗布工程
まず、二酸化ケイ素膜を形成させる基板を準備する。本発明による二酸化ケイ素膜の製造方法は、酸化工程における加熱温度が相対的に低いため、一般的な二酸化ケイ素膜の製造方法よりもより広範な範囲から基板の材料を選択することができる。具体的には、シリコン基板などの半導体材料からなる基板、ガラスなどの無機材料からなる基板、プラスチックなどの有機材料からなる基板など、任意に選択することができる。
このような基板の表面に二酸化ケイ素膜を形成させる場合、二酸化ケイ素膜に種々の機能をもたせることができる。例えば、基板の表面に配置された素子を分離するためのシャロー・トレンチ・アイソレーション構造を構成する絶縁層にしたり、基板上に回路構造を積層する際の層間絶縁膜にすることもできる。
【0017】
シャロー・トレンチ・アイソレーション構造を形成させる場合には、溝構造、すなわち凹凸を有する基板を用意する。また基板表面に溝を形成するには、任意の方法を用いることができる。具体的な方法は、以下に示すとおりである。
【0018】
まず、例えばシリコン基板表面に、例えば熱酸化法により、二酸化ケイ素膜を形成させる。ここで形成させる二酸化ケイ素膜の厚さは一般に5〜30nmである。
【0019】
必要に応じて、形成された二酸化ケイ素膜上に、例えば減圧CVD法により、窒化シリコン膜を形成させる。この窒化シリコン膜は、後のエッチング工程におけるマスク、あるいは後述する研磨工程におけるストップ層として機能させることのできるものである。窒化シリコン膜は、形成させる場合には、一般に100〜400nmの厚さで形成させる。
【0020】
このように形成させた二酸化ケイ素膜または窒化シリコン膜の上に、フォトレジストを塗布する。必要に応じてフォトレジスト膜を乾燥または硬化させた後、所望のパターンで露光および現像してパターンを形成させる。露光の方法はマスク露光、走査露光など、任意の方法で行うことができる。また、フォトレジストも解像度などの観点から任意のものを選択して用いることができる。
【0021】
形成されたフォトレジスト膜をマスクとして、窒化シリコン膜およびその下にある二酸化ケイ素膜を順次エッチングする。この操作によって、窒化シリコン膜および二酸化ケイ素膜に所望のパターンが形成される。
【0022】
パターンが形成された窒化シリコン膜および二酸化ケイ素膜をマスクとして、シリコン基板をドライエッチングして、トレンチ・アイソレーション溝を形成させる。
【0023】
形成されるトレンチ・アイソレーション溝の幅は、フォトレジスト膜を露光するパターンにより決定される。半導体素子におけるトレンチ・アイソレーション溝の幅は、目的とする半導体素子により適切に設定されるが、本発明においては、溝の幅が5〜50nmであることが好ましく、5〜40nmであることが好ましい。また、溝の幅に対する溝の深さの比、すなわちアスペクト比が10〜100であることが好ましく、10〜50であることがより好ましい。
【0024】
次いで、このように準備された基板上に、二酸化ケイ素膜の材料となるポリシラザン組成物を塗布して、塗膜を形成させる。このポリシラザン組成物は、従来知られている任意のポリシラザン化合物を溶媒に溶解させたものを用いることができる。
【0025】
本発明に用いられるポリシラザン化合物は特に限定されず、本発明の効果を損なわない限り任意に選択することができる。これらは、無機化合物あるいは有機化合物のいずれのものであってもよい。これらポリシラザンのうち、好ましいものとして下記一般式(Ia)〜(Ic)で表される単位の組み合わせからなるものが挙げられる:
【化1】

(式中、m1〜m3は重合度を表す数である)
このうち、特に好ましいものとしてスチレン換算重量平均分子量が700〜30,000であるものが好ましい。
【0026】
また、他のポリシラザンの例として、例えば、主として一般式:
【化2】

(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、もしくはこれらの基以外でフルオロアルキル基等のケイ素に直結する基が炭素である基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基またはアルコキシ基を表す。但し、R、RおよびRの少なくとも1つは水素原子であり、nは重合度を表す数である)で表される構造単位からなる骨格を有する数平均分子量が約100〜50,000のポリシラザンまたはその変性物が挙げられる。これらのポリシラザン化合物は2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0027】
本発明に用いられるポリシラザン組成物は、前記のポリシラザン化合物を溶解し得る溶媒を含んでなる。ここで用いられる溶媒は、前記の浸漬用溶液に用いられる溶媒とは別のものである。このような溶媒としては、前記の各成分を溶解し得るものであれば特に限定されるものではないが、好ましい溶媒の具体例としては、次のものが挙げられる:
(a)芳香族化合物、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン等、(b)飽和炭化水素化合物、例えばn−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、i−ヘキサン、n−ヘプタン、i−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、n−ノナン、i−ノナン、n−デカン、i−デカン等、(c)脂環式炭化水素化合物、例えばエチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、p−メンタン、デカヒドロナフタレン、ジペンテン、リモネン等、(d)エーテル類、例えばジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル(以下、MTBEという)、アニソール等、および(e)ケトン類、例えばメチルイソブチルケトン(以下、MIBKという)等。これらのうち、(b)飽和炭化水素化合物、(c)脂環式炭化水素化合物(d)エーテル類、および(e)ケトン類がより好ましい。
【0028】
これらの溶媒は、溶剤の蒸発速度の調整のため、人体への有害性を低くするため、または各成分の溶解性の調製のために、適宜2種以上混合したものも使用できる。
【0029】
本発明に用いられるポリシラザン組成物は、必要に応じてその他の添加剤成分を含有することもできる。そのような成分として、例えばポリシラザンの架橋反応を促進する架橋促進剤等、二酸化ケイ素に転化させる反応の触媒、組成物の粘度を調製するための粘度調整剤などが挙げられる。また、半導体装置に用いられたときにナトリウムのゲッタリング効果などを目的に、リン化合物、例えばトリス(トリメチルシリル)フォスフェート等、を含有することもできる。
【0030】
また、前記の各成分の含有量は、塗布条件や焼成条件などによって変化する。ただし、ポリシラザン化合物の含有率がポリシラザン組成物の総重量を基準として1〜40重量%であることが好ましく、2〜35重量%とすることがより好ましい。ただし、ポリシラザン組成物に含まれるポリシラザンの濃度はこれに限定されるものではなく、本発明において特定されたトレンチ・アイソレーション構造を形成できるのであれば、任意濃度のポリシラザン組成物を用いることができる。また、ポリシラザン以外の各種添加剤の含有量は、添加剤の種類などによって変化するが、ポリシラザン化合物に対する添加量が0.001〜40重量%であることが好ましく、0.005〜30重量%であることがより好ましく、0.01〜20重量%であることがさらに好ましい。
【0031】
前記のポリシラザン組成物は、任意の方法で基板上に塗布することができる。具体的には、スピンコート、カーテンコート、ディップコート、およびその他が挙げられる。これらのうち、塗膜面の均一性などの観点からスピンコートが特に好ましい。塗布される塗膜の厚さは、5〜10,000nmであることが好ましく、20〜5,000nmであることがより好ましい。なお、基板表面に溝などが形成されている場合には基板表面の溝のない部分における塗膜の厚さをいう。この塗膜の厚さが過度に高いと、基板に近い部分における酸化反応が十分進行しないことがあり、一方で膜厚が薄すぎると、十分な膜厚の二酸化ケイ素膜が形成できないことがあるので注意が必要である。
【0032】
(B)酸化工程
塗布工程に引き続き、過酸化水素雰囲気下でポリシラザン塗膜を加熱して、塗膜全体を二酸化ケイ素膜に転化させる。この加熱によって、ポリシラザンが二酸化ケイ素膜、すなわち絶縁膜に転化される。加熱は、温度および過酸化水素雰囲気を制御できるものであれば任意の装置、例えば硬化炉やホットプレートを用いて行うことができる。特に、過酸化水素水を供給することにより、それを過酸化水素雰囲気に転換することできる装置が好ましい。例えば、ホットプレートを用いた装置では、ホットプレート上にカバーを設けて密閉し、その密閉された空間内に塗布済み基板を配置し、さらにその密閉空間内に過酸化水素水を滴下することにより、ホットプレートの熱により過酸化水素が密閉空間内に蒸気として存在することになり、本発明の酸化工程の条件を満たすことができる。
【0033】
過酸化水素を過酸化水素水として供給する場合には、一般に5〜90重量%濃度水溶液を用いることができるが、市販されている30w/v%を用いることも簡便であり好ましい。
【0034】
過酸化水素雰囲気に含まれる過酸化水素濃度は、一般に高いほうが酸化反応を促進され、生産効率が改善されるので好ましい。したがって、一般に5モル%以上であることが好ましく、7モル%以上であることがより好ましい。しかしながら、過酸化水素の濃度が高すぎると爆発の危険性がある。このため爆発下限界よりも低い濃度とすることが好ましい。爆発下限界は温度によっても変化するが、本発明においては過酸化水素濃度は50モル%以下であることが好ましく、28モル%以下であることがより好ましい。
【0035】
過酸化水素雰囲気は、水蒸気をさらに含んでもよい。雰囲気に水蒸気が含まれることによりポリシラザンの酸化反応の促進が期待できる。通常、過酸化水素は水溶液として流通しているので、それをそのまま用いることにより、容易に水蒸気を含んだ換算か水素雰囲気を生成させることができる。一方、水蒸気濃度が低いと、加熱時のシラノール基生成が抑制されることが期待できる。このため、具体的には雰囲気中の水蒸気濃度は5〜90モル%であることが好ましく、20〜80モル%であることがより好ましい。また、雰囲気はその他の不活性ガス、例えば窒素やアルゴンをさらに含んでもよい。
【0036】
酸化工程における温度条件は、用いるポリシラザン組成物の種類や、工程の組み合わせ方によって変化する。一般的に温度が高いほうがポリシラザン化合物が二酸化ケイ素膜に転化される速度が速くなる傾向にあり、生産効率も高くなる。しかしながら酸化処理の温度が過度に高いと最初から存在する低分子量成分や酸化処理中に生成した低分子量成分の飛散や昇華が生じ、二酸化ケイ素膜の収縮が大きくなることがある。また、基板がシリコン基板である場合には基板の酸化によるデバイス特性への悪影響を与える場合もある。このような観点から、本発明による方法では、酸化工程における温度は200℃以下であることが必要であり、好ましくは180℃以下である。一方、酸化工程における温度は50℃以上であること必要であり、好ましくは70℃以上、より好ましくは100℃以上である。必要に応じて酸化工程の加熱温度を段階的に変化させることもできる。なお、本発明によれば、比較的低温で二酸化ケイ素膜を形成させることができ、またこの二酸化ケイ素膜は低収縮かつ低応力であるので、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートなどのプラスチック基材の表面に、耐擦傷膜、パッシベーション膜、プライマー膜などを形成させるのに有効である。
【0037】
酸化工程の加熱時間は、酸化反応が十分に進行するように選択される。加熱時間は一般に、0.5〜60分、好ましくは1〜30分とされる。
【0038】
この加熱により、塗布膜中に存在するポリシラザン化合物を二酸化ケイ素に転化させて二酸化ケイ素膜を得ることができる。このようにして得られた二酸化ケイ素膜は、収縮および膜応力が低く、またウェットエッチング耐性も高い、優れた物性を有するものである。
【0039】
本発明によるシャロー・トレンチ・アイソレーション構造の形成方法は、前記した(A)および(B)の工程を必須とするが、必要に応じて、下記の補助工程を組み合わせることもできる。
【0040】
(a)溶媒除去工程
塗布工程後、焼成工程に先立って、ポリシラザン組成物が塗布された基板をプリベーク処理をすることができる。この工程では、塗膜中に含まれる溶媒の少なくとも一部を除去することを目的とする。
【0041】
通常、溶媒除去工程では、実質的に一定温度で加熱する方法がとられる。このとき、実質的にポリシラザンの酸化または重合反応が起こらない条件で溶媒除去を行うべきである。したがって、溶媒除去工程における温度は通常200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下で行われる。一方、十分に溶媒を除去するために、溶媒除去工程の温度は一般的に50℃以上とされる。溶媒除去工程の所要時間は一般に0.5〜10分、好ましくは1〜5分、である。なお、一般に溶媒除去工程の加熱温度は、溶媒除去工程に引き続いて行われる酸化工程の温度を上回らないように選択する。これは溶媒乾燥工程での飛散物の発生を極力抑えるためである。
【0042】
(b)水蒸気酸化工程
酸化工程後の基板を、さらに水蒸気雰囲気下で加熱して、さらに酸化反応を進行させることができる。水蒸気酸化は、硬化炉やホットプレートを用いて、水蒸気を含んだ不活性ガスまたは酸素雰囲気下で行うことが好ましい。水蒸気はポリシラザン化合物を二酸化ケイ素に十分に転化させるのに有効であり、雰囲気中の濃度は、好ましくは1モル%以上、より好ましくは10モル%以上、最も好ましくは20モル%以上とする。特に水蒸気濃度が20モル%以上であると、酸化反応がより進行しやすくなり、ボイドなどの欠陥が発生が少なくなり、二酸化ケイ素膜の特性が改良されるので好ましい。雰囲気ガスとして不活性ガスを用いる場合には、窒素、アルゴン、またはヘリウムなどを用いる。
【0043】
水蒸気酸化工程における温度条件は、用いるポリシラザン組成物の種類や、工程の組み合わせ方によって変化する。一般的に温度が高いほうが酸化反応が速くなる傾向にあり、生産効率も高くなる。一方、基板がシリコン基板である場合には酸化または結晶構造の変化によるデバイス特性への悪影響が小さくなる傾向がある。なお、先の酸化工程により低温で酸化反応が進んでいるため、水蒸気酸化工程でより高い温度による加熱を行っても、飛散物に起因する膜物性の低下はほとんど起こらない。このような観点から、本発明による方法では、水蒸気酸化工程における温度は300〜1000℃であることが好ましく、350〜700℃であることがより好ましい。なお、必要に応じて水蒸気酸化工程の加熱温度や水蒸気濃度を段階的に変化させることもできる。
【0044】
なお、本発明によれば、水蒸気酸化を行わなくても、十分に酸化反応を進行させることができる。すなわち、水蒸気酸化は、過酸化水素雰囲気下における酸化反応を補う場合に必要になるものである。したがって過酸化水素雰囲気における酸化が十分に進行していれば、製造効率や製造コストの点から水蒸気酸化は行わないことが好ましい。
【0045】
(c)研磨工程
酸化工程後、得られた二酸化ケイ素膜の不要な部分は除去することが好ましい。そのために、まず研磨工程により、基板上の溝部内側に形成された二酸化ケイ素膜を残し、基板表面の平坦部上に形成された二酸化ケイ素膜を研磨により除去する。この工程が研磨工程である。この研磨工程は、硬化処理の後に行うほか、溶媒除去工程を組み合わせる場合には、溶媒除去直後に行うこともできる。
【0046】
研磨は、一般的にCMPにより行う。このCMPによる研磨は、一般的な研磨剤および研磨装置により行うことができる。具体的には、研磨剤としてはシリカ、アルミナ、またはセリアなどの研磨材と、必要に応じてその他の添加剤とを分散させた水溶液などを用いることができる、研磨装置としては、市販の一般的なCMP装置を用いることができる。
【0047】
(d)エッチング工程
前記の研磨工程において、基板表面の平坦部上に形成されたポリシラザン組成物に由来する二酸化ケイ素膜はほとんど除去されるが、基板表面の平坦部に残存している二酸化ケイ素膜を除去するために、さらにエッチング処理を行うことが好ましい。エッチング処理はエッチング液を用いるのが一般的であり、エッチング液としては、二酸化ケイ素膜を除去できるものであれば特に限定されないが、通常はフッ化アンモニウムを含有するフッ酸水溶液を用いる。この水溶液のフッ化アンモニウム濃度は5%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。
【0048】
本発明を諸例を用いて説明すると以下の通りである。
【0049】
実施例1(過酸化水素の効果)
シリコン基板にポリシラザン溶液(20重量%ジブチルエーテル溶液)を回転数1000rpmにてスピン塗布し、70℃のプリベークを3分間ほどこした。これにより膜厚600nmのポリシラザン塗膜を得た。これを150℃に加熱したホットプレート上に置き、石英シャーレで覆った。このシャーレの外側には直径3mmほどの穴が開けられていた。この穴から過酸化水素水(30重量%)を0.2cc/minの速度で滴下した。滴下された過酸化水素水はホットプレートに接触し、速やかに液相から気相(蒸気)に変わり、シャーレの中に一様に行き渡った。なおこの時のシャーレ内の過酸化水素濃度は約25mo1%、水蒸気濃度は約75mo1%と算出される。この酸化処理を10分間行った。得られた二酸化ケイ素膜を赤外分光スペクトルを測定したところ、ポリシラザン中のシラザン結合のほとんどがシロキサン結合に変わっており、シラノール基はほとんど残存していないことが分かった。
【0050】
赤外分光スペクトルを測定した後、さらに窒素雰囲気下850℃で30分間加熱を行い、その後、得られた二酸化ケイ素膜の収縮率、誘電率、絶縁破壊電圧の測定を行った。得られた結果は表1に示すとおりであった。
【0051】
比較例1
実施例1に対して、過酸化水素水の代わりに純水を滴下し、その他は同様にして塗布済み基板を加熱処理した。処理後に塗膜の赤外分光スペクトルを測定したところ、酸化反応がほとんど進行しておらず、酸化前のポリシラザンとほぼ同等であった。
【0052】
比較例2
実施例1と同様にしてシリコン基板にポリシラザン溶液を塗布し、ポリシラザン膜を得た。この試料を350℃80%HO/Oの過熱水蒸気雰囲気中に30分間放置した後、窒素雰囲気下850℃で30分間加熱した。得られた二酸化ケイ素膜の収縮率、誘電率、絶縁破壊電圧の測定を行った。得られた結果は表1に示すとおりであった。
【0053】
比較例3
実施例1と同様にしてシリコン基板にポリシラザン溶液を塗布し、ポリシラザン膜を得た。一方、容器中に40℃に保温した30重量%過酸化水素水溶液を封入し、内部雰囲気が温度25℃相対湿度60%になるよう調整した保温容器を準備した。この保温容器内に試料を10分間放置し、さらにその後95℃相対湿度80%の水蒸気雰囲気中に5分間放置した。さらにその後窒素雰囲気下850℃で30分間加熱した。得られた二酸化ケイ素膜の赤外分光スペクトルを測定したところ、3300cm−1付近にブロードなピークが認められた。このピークは、シラノール基に帰属するものと考えられ、酸化反応が十分に進行していないことを示していた。得られた二酸化ケイ素膜の収縮率、誘電率、絶縁破壊電圧の測定を行った。得られた結果は表1に示すとおりであった。
【0054】
【表1】

表中、応力の「+」は引張応力、「−」は圧縮応力を示す。
【0055】
この結果より、実施例1で得られた二酸化ケイ素膜は、優れた収縮率と絶縁破壊電圧を達成していることがわかる。また二酸化ケイ素膜の誘電率は一般に3.5〜4.0程度であることが知られているが、比較例3による膜の誘電率はそれよりも高く、反応が完全に進んでおらず、膜中に窒素原子が残存していると推測される。また応力は二酸化ケイ素膜の用途に応じて好ましい範囲が変わるが、例えばアイソレーション構造に用いる絶縁膜においては低いことが好ましく、実施例1による二酸化ケイ素膜はこの点でも優れている。
【0056】
実施例2および3
過酸化水素水の濃度を10モル%(実施例2)または5モル%(実施例3)に変更したほかは、実施例1と同様にしてポリシラザン塗膜を加熱した。加熱時間が10分の場合、実施例2および3の塗膜は十分に酸化反応が進行していなかったので、それぞれさらに過熱を継続させた。実施例2は加熱時間15分で、実施例3は加熱時間40分で実施例1と同程度まで酸化反応が進行することがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)基板表面にポリシラザン組成物を塗布して塗膜を形成させる塗布工程、
(B)前記塗膜を過酸化水素雰囲気下、50〜200℃で加熱する酸化工程
を含んでなることを特徴とする、二酸化ケイ素膜の製造方法。
【請求項2】
前記酸化工程を100〜200℃の温度で行う、請求項1に記載の二酸化ケイ素膜の製造方法。
【請求項3】
前記酸化工程における過酸化水素雰囲気に含まれる過酸化水素濃度が、5〜50モル%である、請求項1または2に記載の二酸化ケイ素膜の製造方法。
【請求項4】
前記酸化工程における過酸化水素雰囲気に含まれる水蒸気濃度が、5〜50モル%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の二酸化ケイ素膜の製造方法。
【請求項5】
前記酸化工程の加熱時間が0.5〜60分間である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の二酸化ケイ素膜の製造方法。
【請求項6】
前記塗布工程と前記酸化工程との間に、溶媒除去工程をさらに含む、1〜5のいずれか1項に記載の二酸化ケイ素膜の製造方法。
【請求項7】
前記酸化工程の後に、水蒸気雰囲気下、300〜1000℃で加熱する水蒸気酸化工程をさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の二酸化ケイ素膜の製造方法。
載の二酸化ケイ素膜の製造方法。
【請求項8】
前記ポリシラザン組成物の固形分含有量が組成物の総重量を基準として、1〜40重量%である、1〜7のいずれか1項に記載の二酸化ケイ素膜の製造方法。
【請求項9】
前記塗布工程において形成された塗膜の厚さが5〜10,000nmである、1〜8のいずれか1項に記載の二酸化ケイ素膜の製造方法。
【請求項10】
前記基板がプラスチック材料である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の二酸化ケイ素膜の製造方法。
【請求項11】
表面に溝または孔を有する基板の表面に、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法により、前記溝または孔を埋設する二酸化ケイ素膜を形成させることを特徴とする、アイソレーション構造の製造方法。
【請求項12】
前記二酸化ケイ素膜が、金属膜下絶縁膜または金属配線層間絶縁膜である、請求項11に記載のアイソレーション構造の製造方法。
【請求項13】
前記二酸化ケイ素膜が、シャロー・トレンチ・アイソレーション構造を構成する、請求項11に記載のアイソレーション構造の形成方法。
【請求項14】
前記溝の溝幅が5〜50nm、アスペクト比が10〜100である、請求項13に記載のアイソレーション構造の形成方法。

【公開番号】特開2012−174717(P2012−174717A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32099(P2011−32099)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(312001188)AZエレクトロニックマテリアルズIP株式会社 (14)
【Fターム(参考)】