説明

作業車

【課題】 ボンネットが不必要に大きくなることに起因した不都合の発生を防止する。
【解決手段】 エンジン3を覆うボンネット25に膨出部25Cを設け、この膨出部25Cの内部にエンジン3の周辺機器Aを配備してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを覆うボンネットを備えた作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車においては、見栄えを良くするなどの理由から、ボンネットを左右対称に形成することが一般的に行われていた(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3599479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の構成によると、ボンネット内に配備されるエンジンやその周辺機器などの一部が部分的に左右一側方に張り出すような場合には、その張り出した部分に合わせてボンネットを左右対称に形成することから、ボンネットが不必要に大きくなって、コストの高騰など招く傾向にある。
【0004】
特に、ボンネットが搭乗運転部の前方に位置する場合には、前下方の視界を妨げることになって、前下方の作業地の状況を把握しながら車体を走行させる作業走行などにおいて悪影響を及ぼすようになる。
【0005】
本発明の目的は、ボンネットが不必要に大きくなることに起因した不都合の発生を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明のうちの請求項1に記載の発明では、エンジンを覆うボンネットに膨出部を設け、この膨出部の内部に前記エンジンの周辺機器を配備してあることを特徴とする。
【0007】
この特徴構成によると、ボンネット内に配備されるエンジンやその周辺機器などの一部が部分的に左右一側方に張り出す場合には、その張り出した部分に応じた膨出部をボンネットに設け、その膨出部の内部に、部分的に張り出すエンジンやその周辺機器などを位置させることになる。
【0008】
これによって、張り出した部分に合わせてボンネットを左右対称に形成する場合に比較して、ボンネットが不必要に大きくなることを防止することができ、ボンネットの大型化に起因したコストの高騰などを回避することができる。
【0009】
又、ボンネットが搭乗運転部の前方に位置する場合には、ボンネットによって前下方の視界が妨げられることを抑制することができ、前下方の作業地の状況を把握しながら車体を走行させる作業走行などが行い易くなる。
【0010】
従って、ボンネットの大型化に起因したコストの高騰などを回避することができる上に作業性の向上を図ることができる。
【0011】
本発明のうちの請求項2に記載の発明では、上記請求項1に記載の発明において、前記周辺機器が、出力軸が左右向きになる姿勢で前記ボンネットの内部に配備した前記エンジンからの動力を伝達する伝動機構であることを特徴とする。
【0012】
この特徴構成によると、車体の左右バランスを向上させるために、例えば、エンジンやその周辺機器の一例であるラジエータなどの重量物を車体の左右中央にバランス良く配置するようにすると、エンジンの左右一側部から延出する比較的軽量の伝動機構が左右一側方に張り出した状態で配備される傾向にある。
【0013】
そこで、ボンネットにおける伝動機構の対応箇所に膨出部を形成し、その膨出部の内部に伝動機構を位置させるようにしているのであり、これによって、ボンネットが不必要に大きくなることを防止しながら、エンジンやラジエータなどの重量物を車体の左右中央にバランス良く配置することができる。
【0014】
従って、ボンネットの大型化に起因したコストの高騰などを回避しながら、車体の左右バランスを向上させることができる。
【0015】
本発明のうちの請求項3に記載の発明では、上記請求項1又2に記載の発明において、前記エンジンの周囲にステップを敷設するとともに、前記ステップにおける前記膨出部との重合箇所に切欠部を形成してあることを特徴とする。
【0016】
この特徴構成によると、張り出した部分に合わせてボンネットを左右対称に形成し、そのボンネットに合わせて、ステップにおけるボンネットとの重合箇所を切り欠く場合に比較して、ステップの面積をより広く確保することができる。
【0017】
従って、ステップを利用した乗降やステップ上での作業が行い易くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1〜5には、作業車の一例である乗用型田植機における走行車体1の前部に形成した原動部2が示されており、この田植機は、走行車体1の前部に防振搭載した水冷式のエンジン3からの動力を、ベルト式の伝動機構4(周辺機器Aの一例)、主変速装置として備えた静油圧式の無段変速装置5、及び、副変速装置としてミッションケース6に内装したギヤ式の変速装置(図示せず)、などを介して左右一対の前輪(図示せず)及び後輪(図示せず)に伝達する4輪駆動型に構成されている。
【0019】
図示は省略するが、走行車体1の後部には、油圧シリンダの作動で上下方向に揺動駆動されるリンク機構を介して苗植付装置が駆動昇降可能に連結されている。
【0020】
又、苗植付装置は、ミッションケース6に内装した作業伝動系からの作業用動力が動力分配機構に伝達されることで、複数のマット状苗を載置する苗載台が左右方向に一定ストロークで往復駆動されるとともに、左右方向に一定間隔を隔てて並設した複数のロータリ式の植付機構が、苗載台の下端から植付苗を所定量ずつ取り出して、複数の整地フロートで整地した圃場の泥土部に植え付けるように駆動され、かつ、苗載台が左右のストローク端に到達するごとに各マット状苗が苗載台の下端に向けて所定ピッチで縦送りされることで、複数条の苗の植え付けを行うように構成されている。
【0021】
図1〜5に示すように、エンジン3は、ミッションケース6から前方に向けて延設したエンジンフレーム7に、4つのマウントゴム8や前後一対で左右2組の支持部材9などを介して、その出力軸3Aが左右向きになる姿勢で支持されている。
【0022】
エンジンフレーム7は、エンジン3の支持位置である前部側ほど上方に位置するように形成され、その前部の地上高(下縁の高さ位置)が、ミッションケース6から左右に延設した前車軸ケース10の上端と略同じ高さ位置になるように設定されている。
【0023】
これによって、エンジン3は、その出力軸3Aの高さ位置が、原動部2の後方に形成した搭乗運転部11に敷設したステップ12の踏み面12aの高さ位置と略同じになる比較的高い位置に配置されている。
【0024】
ステップ12は、その前部の左右中央に、エンジン3やステアリング操作系13などの配備を許容する開口12Aが形成された板金製で、エンジン3の後方に位置する後側部分12Bが運転時の足置き場となる搭乗ステップとして機能し、エンジン3の左右に位置する前側部分12Cが、左右の前輪を上方から覆うフロントフェンダ、及び、走行車体1に対する前方からの乗降を可能にする乗降ステップとして機能するように形成されている。
【0025】
ステアリング操作系13は、ステップ12における開口12Aの後部側を覆うように立設されたパネル14の上部に配備したステアリングホイール15を、このステアリングホイール15から下方に向けて延出するステアリング軸16や、ミッションケース6の上部に配備したパワーステアリング装置17、などを介して、左右の前輪に連係するように構成されている。
【0026】
エンジン3の左側部には、スタータ18(周辺機器Aの一例)が、その全体がステップ12の踏み面12aよりも上方に位置するように装備されている。
【0027】
エンジン3の右上部には、ファンベルト19を介して伝達される出力軸3Aからの動力で駆動される冷却ファン20(周辺機器Aの一例)、ウォータポンプ21(周辺機器Aの一例)、及び、発電機22(周辺機器Aの一例)が、それらの全体がステップ12の踏み面12aよりも上方に位置するように装備されている。
【0028】
エンジン3の右側方には、ラジエータ23(周辺機器Aの一例)が、その全体がステップ12の踏み面12aよりも上方に位置するように配備されている。
【0029】
エンジン3の上方には、エアクリーナ24(周辺機器Aの一例)が、吸気口24Aを上向けにした状態で配備されている。
【0030】
エンジン3及び上述したエンジン3の周辺機器Aは、ボンネット25によって上方から覆われるようになっており、そのボンネット25の左前方に、マフラ26(周辺機器Aの一例)が、排気口26Aが上方に位置する縦向き姿勢で、その全体がステップ12の踏み面12aよりも上方に位置するように配備されている。
【0031】
つまり、エンジン3の周辺機器Aである、スタータ18、冷却ファン20、ウォータポンプ21、発電機22、ラジエータ23、エアクリーナ24、及び、マフラ26を、本来より運転者に泥水がかかり難いように比較的高い位置に配置設定されているステップ12の踏み面12aよりも上方の位置に配備するとともに、エンジン3を、その出力軸3Aがステップ12の踏み面12aと略同じ高さとなる比較的高い位置に配置することから、深田で作業を行った場合であっても、車輪で跳ね上げられた泥がエンジン3やその周辺機器Aにかかることを効果的に防止することができ、これによって、スタータ18に泥水がかかってスタータモータ(図示せず)が動かなくなる、ラジエータ23に泥の付着による目詰まりが発生してエンジン冷却効率が低下する、あるいは、エアクリーナ24から泥水を吸い込んでエンジン3が故障する、などの不都合が発生する虞を効果的に防止することができる。
【0032】
又、マフラ26をボンネット25の外部に配備したことで、ボンネット25の内部にマフラ26を配備することによるエンジン周りの昇温を防止することができ、エンジン冷却効率の向上を図ることができる。
【0033】
図1〜5に示すように、ボンネット25は、その左前下部に、エンジン3からマフラ26にわたる排気管27を通すための切欠部25Aが形成されており、これによって、マフラ26をボンネット25の外部に配備しながらも、マフラ26を取り外す手間を要することなく、ボンネット25の開閉操作を行うことができる。
【0034】
図1〜4示すように、ボンネット25は、冷却ファン20及びラジエータ23が、それらの全体がステップ12の踏み面12aよりも上方に位置する比較的高い位置に配置されたことで、その内部のラジエータ23やエンジン3の周辺などに冷却風を導入するためのスリット状の複数の吸気孔25Bが、その左右両側部におけるステップ12の踏み面12aから離れる比較的高い上方の位置に形成されている。
【0035】
これによって、例えば、畦への予備苗補給回数を削減するために、エンジン3の左右に位置するステップ12の前側部分12Cに予備苗を載置しても、その予備苗によって吸気孔25Bが覆い隠されることを防止することができ、又、施肥装置や薬剤散布装置を追加装備した場合に、畦への肥料袋や薬剤袋の補給回数を削減するために、ステップ12の前側部分12Cに肥料袋や薬剤袋を載置しても、その肥料袋や薬剤袋によって吸気孔25Bが覆い隠されることを防止することができ、結果、冷却性能を確保しながら作業効率の向上を図れるようになる。
【0036】
尚、冷却風は、冷却ファン20の吸引作用で、ボンネット25の右側の各吸気孔25Bからボンネット25の内部に取り入れられ、ラジエータ23やエンジン3の周辺などを通過した後、ボンネット25の左側の各吸気孔25Bからボンネット25の外部に排出される一方で、無段変速装置5の入力軸5Aに備えたファン28の吸引作用で無段変速装置5の周辺に導かれ、その後、車体の左外方に排出される。
【0037】
図3に示すように、ラジエータ23は、その中心が冷却ファン22の回転中心よりも走行車体1の後方側に位置するように配置設定されている。つまり、冷却ファン22よりも嵩張るラジエータ23を走行車体1の後方側に寄せた状態で配備することから、ラジエータ23の中心と冷却ファン22の回転中心とを一致させた状態で配備する場合に比較して、ラジエータ23の走行車体1の前方側への張り出しを抑制することができ、その分、ボンネット25の上部側の前方への延出長さをより短く、又、ボンネット25の前部側の高さをより低くすることができ、結果、前方の視界をより広く確保することができ、前下方の作業地の状況を把握しながら車体を走行させる作業走行などが行い易くなる。
【0038】
図3〜5に示すように、ラジエータ23は、エンジン3と対応するマウントゴム8との間に介装される右側の前後の支持部材9に支持台29を介して支持されている。つまり、ラジエータ23は、エンジンフレーム7に4つのマウントゴム8を介して支持された前後の支持部材9に、エンジン3とともに支持されており、これによって、ラジエータ23を、専用のマウントゴムなどを介してエンジンフレーム7に支持させる場合に比較して、ウォータポンプ21とラジエータ23とにわたる冷却ホース30に、エンジン3や車体の振動などに起因した曲げや捻れなどの負担をかかり難くすることができ、冷却ホース30の耐久性の向上を図ることができる。
【0039】
図4及び図5に示すように、エンジン3、無段変速装置5、ミッションケース6、及び、ラジエータ23などの重量物は、車体の左右バランスを向上させるために、車体前部の左右中央にバランス良く配備されている。そのため、エンジン3の出力軸3Aと、ミッションケース6の左側部に連結装備した無段変速装置5の入力軸5Aとにわたる比較的軽量の伝動機構4が、エンジン3及び無段変速装置5の左側方に張り出した状態で位置することになる。
【0040】
そこで、ボンネット25の左下部に左外方に向けて膨出する膨出部25Cを形成し、かつ、ステップ12における膨出部25Cとの重合箇所に切欠部12Dを形成して、その膨出部25Cの内部に、伝動機構4の出力プーリ31側を位置させるようにしてある。
【0041】
つまり、ボンネット25の内部に伝動機構4の出力プーリ31側を位置させるのに必要最小限の空間が得られるように、ボンネット25に膨出部25Cを形成することから、左方に張り出す伝動機構4を考慮してボンネット25を左右対称に形成する場合に比較して、ボンネット25が不必要に大きくなることや、乗降ステップとして機能するステップ12の左右の前側部分12Cのうちの、伝動機構4が配備されない右前側部分12Cが、伝動機構4が配備される左側の前側部分12Cと同じに不必要に狭くなることを防止することができる。
【0042】
その結果、ボンネット25によって搭乗運転部11から前下方の視界が妨げられることを抑制することができ、前下方の作業地の状況を把握しながら車体を走行させる作業走行などが行い易くなる。又、乗降ステップとして機能するステップ12の左右の前側部分12Cのうちの右前側部分12Cの面積をより広く確保することができ、ステップ12の右前側部分12Cを利用した乗降や、畦側から供給される予備苗を受け取って車体後部の苗植付装置に補給する、といった右前側部分12Cを利用した作業が行い易くなる。
【0043】
〔別実施形態〕
【0044】
〔1〕乗用型作業車としては、施肥作業や薬剤散布作業などの管理作業を行う乗用型の管理機やトラクタなどであってもよい。
【0045】
〔2〕エンジン3としては空冷式のものであってもよい。又、エンジン3を、その出力軸3Aが前後向きになる姿勢で搭載してもよい。
【0046】
〔3〕エンジン3やその周辺機器Aを、搭乗運転部11における運転座席の下方や、搭乗運転部11の後方に配備するものであってもよい。
【0047】
〔4〕エンジン3の周辺機器Aを、ステップ12の踏み面12aの近傍や踏み面12aよりも下方の位置に配備するようにしてもよい。
【0048】
〔5〕ボンネット25における膨出部25Cの形成位置としては、周辺機器Aの配置に応じて種々の変更が可能である。
【0049】
〔6〕膨出部25Cの内部に配置される周辺機器Aとしては、スタータ18、冷却ファン20、ウォータポンプ21、発電機22、ラジエータ23、エアクリーナ24、マフラ26、あるいは、フライホイール、などであってもよい。
【0050】
〔7〕伝動機構4としては、伝動軸やベベルギヤ又は自在継手などを備える軸式のものや、伝動チェーンやスプロケットなどを備えるチェーン式のものであってもよい。
【0051】
〔8〕ステップ12における切欠部12Dの形成位置は、膨出部25Cの形成位置に応じて変更されるものであり、又、膨出部25Cの形成位置によっては、形成する必要がない場合もある。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】乗用型田植機の原動部の構成を示す左側面図
【図2】乗用型田植機の原動部の構成を示す縦断左側面図
【図3】乗用型田植機の原動部の構成を示す縦断右側面図
【図4】乗用型田植機の原動部の構成を示す縦断正面図
【図5】乗用型田植機の原動部の構成を示す横断平面図
【符号の説明】
【0053】
3 エンジン
25 ボンネット
25C 膨出部
A 周辺機器
3A 出力軸
4 伝動機構
12 ステップ
12D 切欠部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを覆うボンネットに膨出部を設け、この膨出部の内部に前記エンジンの周辺機器を配備してあることを特徴とする作業車。
【請求項2】
前記周辺機器が、出力軸が左右向きになる姿勢で前記ボンネットの内部に配備した前記エンジンからの動力を伝達する伝動機構であることを特徴とする請求項1に記載の作業車。
【請求項3】
前記エンジンの周囲にステップを敷設するとともに、前記ステップにおける前記膨出部との重合箇所に切欠部を形成してあることを特徴とする請求項1又2に記載の作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−87490(P2008−87490A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266923(P2006−266923)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】