内燃機関の排気再循環を制御する方法およびそのシステム
【課題】 外部に排出される煤量を抑制しつつ、NOx発生量も抑制する。
【解決手段】 ターボ過給機20のタービン20aの下流側の排気通路12とコンプレッサ20bの上流側の吸気通路14とを連通する低圧EGR通路18と、タービンの上流側の排気通路とコンプレッサの下流側の吸気通路とを連通する高圧EGR通路16と、排気ガス中の煤を捕集するパティキュレートフィルタ22とを有する圧縮着火式の内燃機関10の排気再循環を制御する方法であって、低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、該フィルタの煤捕集能力が低い場合は、全還流量に対する低圧EGR通路の還流量と高圧EGR通路の還流量との配分比が所定の比である第1配分比で排気ガスを還流する第1工程を実行し、煤捕集能力が高い場合は、第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第2配分比で排気ガスを還流する第2工程を実行する。
【解決手段】 ターボ過給機20のタービン20aの下流側の排気通路12とコンプレッサ20bの上流側の吸気通路14とを連通する低圧EGR通路18と、タービンの上流側の排気通路とコンプレッサの下流側の吸気通路とを連通する高圧EGR通路16と、排気ガス中の煤を捕集するパティキュレートフィルタ22とを有する圧縮着火式の内燃機関10の排気再循環を制御する方法であって、低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、該フィルタの煤捕集能力が低い場合は、全還流量に対する低圧EGR通路の還流量と高圧EGR通路の還流量との配分比が所定の比である第1配分比で排気ガスを還流する第1工程を実行し、煤捕集能力が高い場合は、第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第2配分比で排気ガスを還流する第2工程を実行する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気通路から吸気通路へ還流する排気ガス量を制御して内燃機関の燃焼室内の酸素濃度を調節し、NOxの発生を抑制する内燃機関の排気再循環を制御する方法およびそのシステムに関し、排気浄化技術の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、排気ガスの一部を排気通路からEGR通路を介して吸気通路に還流し、それにより燃焼室内の酸素量をエンジンの要求出力が達成できる必要最低限の量まで減少する方法が知られている。これにより、必要以上の酸素の燃焼によって燃焼室内が過剰に高温・高圧になることを原因とする、NOxの発生を抑制する。
【0003】
このような方法において、例えば特許文献1に記載しているエンジンのように、エンジンが排気ターボ過給機を備える場合、該過給機のタービンの下流側の排気通路から該過給機のコンプレッサの上流側の吸気通路とを連通して低圧の排気ガスを還流する低圧EGR通路と、タービンの上流側の排気通路からコンプレッサの下流側の吸気通路とを連通して高圧の排気ガスを還流する高圧EGR通路とが設けられる。また、それぞれのEGR通路に、還流量(EGR量)を調節するEGR弁が設けられる。
【0004】
このようなエンジンの場合、高負荷時は、燃焼室内の酸素量を十分に確保するために、還流する排気ガスの温度が高圧EGR通路に比べて低い(ガス密度が高いので酸素量が多い)低圧EGR通路が使用される。
【0005】
一方、低負荷時は、高負荷時に比べて燃焼室内の酸素量が少なくても済むので、還流する排気ガスの温度が低圧EGR通路に比べて高い(ガス密度が低いので酸素量が少ない)高圧EGR通路が使用される。
【0006】
また、いずれの負荷においても、エンジンの回転数が高くなると、すなわち必要な酸素量が増えると、EGR量が減少するようにEGR弁が制御される。
【0007】
このように、エンジンの運転状態により、高圧EGR通路と低圧EGR通路を使い分けるとともに、各通路のEGR量を調整することにより、エンジンの出力要求を達成しつつ、NOxの発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−336547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1に記載されたエンジンのように低圧EGR通路と高圧EGR通路とが設けられている場合、低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態でエンジンの負荷が減少すると、低圧EGR通路によるEGR量が増加するように(燃焼室内の酸素量が減少するように)EGR弁が制御される。しかし、EGR弁が設けられている低圧EGR通路の位置から燃焼室までは長い経路であるため、エンジン負荷の減少に遅れて燃焼室内の酸素量が減少する。その結果、エンジン負荷が減少したときからその減少先の負荷値に対応した酸素量に減少するまでの間、燃焼室内の酸素濃度が一時的に過剰になり、その過剰分の酸素に対応する量のNOxが発生する。
【0010】
そこで、本発明は、排気ターボ過給機と、該過給機のタービンの下流側の排気通路から該過給機のコンプレッサの上流側の吸気通路とを連通して低圧の排気ガスを還流する低圧EGR通路と、タービンの上流側の排気通路からコンプレッサの下流側の吸気通路とを連通して高圧の排気ガスを還流する高圧EGR通路とを有するエンジンにおいて、低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態でエンジンの負荷が減少したときに、すぐに燃焼室内の酸素濃度を減少させ、NOxの発生を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、排気通路に配置されたタービンと吸気通路に配置されたコンプレッサとでなる排気ターボ過給機と、前記タービンの下流側の排気通路と前記コンプレッサの上流側の吸気通路とを連通する低圧EGR通路と、前記タービンの上流側の排気通路と前記コンプレッサの下流側の吸気通路とを連通する高圧EGR通路と、前記低圧EGR通路に設けられて該通路を通過する排気ガスの還流量を調節する低圧EGR量調節手段と、前記高圧EGR通路に設けられて該通路を通過する排気ガスの還流量を調節する高圧EGR量調節手段と、排気通路に設けられて排気ガス中の煤を捕集するパティキュレートフィルタとを有する圧縮着火式の内燃機関の排気再循環を制御する方法であって、
前記低圧EGR量調節手段および高圧EGR量調節手段の少なくとも一方を制御して、燃焼室内の酸素濃度を内燃機関の負荷に対応する濃度に制御する酸素濃度制御工程を含み、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記酸素濃度制御工程として、
前記パティキュレートフィルタの煤捕集能力が所定捕集能力より低い場合は、全排気ガス還流量に対する前記低圧EGR通路による還流量と前記高圧EGR通路による還流量との配分比が所定の比である第1配分比で排気ガスを還流する第1工程を実行し、
前記パティキュレートフィルタの煤捕集能力が所定捕集能力より高い場合は、前記第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第2配分比で排気ガスを還流する第2工程を実行することを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の排気再循環を制御する方法であって、
排気ガス中のNOxを処理することにより該NOxの外部への排出を抑制するNOx処理装置が備えられている場合において、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記パティキュレートフィルタの煤捕集能力が前記所定捕集能力より低く、かつ前記NOx処理装置のNOx処理能力が所定処理能力より低い場合は、前記酸素濃度制御工程として、前記第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第3配分比で排気ガスを還流する第3工程を実行し、
それとともに、燃料の分割噴射の回数を増加する燃料噴射制御工程を実行することを特徴とする。
【0013】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の内燃機関の排気再循環を制御する方法であって、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記酸素濃度制御工程として前記第1工程を実行する場合、該第1工程の実行開始時に、減少先の負荷値に基づく全排気ガス還流量を一時的に増量補正し、その増量補正に従い前記低圧EGR量調節手段を制御することを特徴とする。
【0014】
一方、請求項4に記載の発明は、排気通路に配置されたタービンと吸気通路に配置されたコンプレッサとでなる排気ターボ過給機と、前記タービンの下流側の排気通路と前記コンプレッサの上流側の吸気通路とを連通する低圧EGR通路と、前記タービンの上流側の排気通路と前記コンプレッサの下流側の吸気通路とを連通する高圧EGR通路と、前記低圧EGR通路に設けられて該通路を通過する排気ガスの還流量を調節する低圧EGR量調節手段と、前記高圧EGR通路に設けられて該通路を通過する排気ガスの還流量を調節する高圧EGR量調節手段と、排気通路に設けられて排気ガス中の煤を捕集するパティキュレートフィルタとを有する圧縮着火式の内燃機関の排気再循環を制御するシステムであって、
前記低圧EGR量調節手段および高圧EGR量調節手段の少なくとも一方を制御して、燃焼室内の酸素濃度を内燃機関の負荷に対応する濃度に制御する酸素濃度制御手段と、
前記パティキュレートフィルタの煤捕集能力を検出する煤捕集能力検出手段とを有し、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記酸素濃度制御手段が、
前記煤捕集能力検出手段が検出するパティキュレートフィルタの煤捕集能力が所定捕集能力より低い場合は、全排気ガス還流量に対する前記低圧EGR通路による還流量と前記高圧EGR通路による還流量との配分比が所定の比である第1配分比で排気ガスを還流する第1制御を実行し、
前記煤捕集能力検出手段が検出するパティキュレートフィルタの煤捕集能力が所定捕集能力より高い場合は、前記第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第2配分比で排気ガスを還流する第2制御を実行することを特徴とする。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の内燃機関の排気再循環を制御するシステムであって、
排気ガス中のNOxを処理することにより該NOxの外部への排出を抑制するNOx処理装置と、
前記NOx処理装置の処理能力を検出するNOx処理能力検出手段と、
燃焼室への燃料噴射を制御する燃料噴射制御手段とを有し、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記煤捕集能力検出手段が検出するパティキュレートフィルタの煤捕集能力が前記所定捕集能力より低く、かつ前記NOx処理能力検出手段が検出するNOx処理装置のNOx処理能力が所定処理能力より低い場合は、前記酸素濃度制御手段は、前記第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第3配分比で排気ガスを還流する第3制御を実行し、
それとともに、前記燃料噴射制御手段が、燃料の分割噴射の回数を増加することを特徴とする。
【0016】
さらに、請求項6に記載の発明は、請求項4または5に記載の内燃機関の排気再循環を制御するシステムであって、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記酸素濃度制御手段が前記第1制御を実行する場合、該第1制御の実行開始時に、減少先の負荷値に基づく全排気ガス還流量を一時的に増量補正し、その増量補正に従い前記低圧EGR量調節手段を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明によれば、低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、低圧EGR通路とともに、高圧EGR通路も使用される。高圧EGR通路に設けられた高圧EGR量調節手段から燃焼室までの距離は、低圧EGR通路に設けられた低圧EGR量調節手段から燃焼室までの距離より短いので、内燃機関の負荷の減少とほぼ同時に、燃焼室に供給する排気ガス量を増加する、言い換えると燃焼室内の酸素濃度を減少することができる。その結果、内燃機関の負荷の減少直後において、燃焼室内の酸素が過剰になることが抑制され、NOxの発生が抑制される。
【0018】
また、パティキュレートフィルタの煤捕集能力が、所定捕集能力より低い場合は、全排気ガス還流量に対する低圧EGR通路による還流量と高圧EGR通路による還流量の配分比が所定の比である第1配分比で、一方、所定捕集能力より高い場合は第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第2配分比で排気ガスが還流される。
【0019】
すなわち、高圧EGR通路を介して排気ガスを還流することによって発生する煤(酸素量不足による噴霧混合気の局所リッチ部によって生成される煤)をパティキュレートフィルタが十分に捕集できるときは、高圧EGR通路による還流量を多くする。一方、煤をパティキュレートフィルタが十分に捕集できないときは、高圧EGR通路の還流量を少なくする。
【0020】
これにより、外気に排出される煤を抑制しつつ、NOxの発生を抑制することができる。
【0021】
また、請求項2に記載の発明によれば、排気ガス中のNOxを処理することにより、NOxの外部への排出を抑制するNOx処理装置が備えられている場合、低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、パティキュレートフィルタの煤捕集能力が前記所定捕集能力より低く、かつNOx処理装置のNOx処理能力が所定処理能力より低い場合、前記第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第3配分比で排気ガスが還流される。それとともに、燃料の分割噴射の回数が増加される。
【0022】
NOx処理装置の処理能力が低くても、高圧EGR通路による還流量が多いので、すなわち燃焼室内の酸素濃度が減少するのでNOxの発生が抑制される。その結果、外部に排出されるNOx量は抑制される。
【0023】
このとき、パテキュレートフィルタの煤捕集能力が低い場合、煤の溜まり過ぎによってパティキュレートフィルタが異常燃焼する問題が懸念されるが、この問題は、燃料の分割噴射の回数を増加して不完全燃焼を抑制することにより、煤の発生量が抑制されるので解決される。その結果、高圧EGR通路による還流量が多くても、且つパティキュレートフィルタの煤捕集能力が低くても、パティキュレートフィルタが異常燃焼することを防止できる。
【0024】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、前記第1配分比による排気ガスの還流の開始時(第1工程開始時)に、減少先の負荷値に基づく全排気ガス還流量を一時的に増量補正し、その増量補正に従い前記低圧EGR量調節手段を制御する。これにより、増量補正しない場合に比べて、内燃機関の負荷の減少直後において、NOxの発生量の増加が抑制される。
【0025】
一方、請求項4に記載の発明によれば、低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、低圧EGR通路とともに、高圧EGR通路も使用される。高圧EGR通路に設けられた高圧EGR量調節手段から燃焼室までの距離は、低圧EGR通路に設けられた低圧EGR量調節手段から燃焼室までの距離より短いので、内燃機関の負荷の減少とほぼ同時に、燃焼室に供給する排気ガス量を増加する、言い換えると燃焼室内の酸素濃度を減少することができる。その結果、内燃機関の負荷の減少直後において、燃焼室内の酸素が過剰になることが抑制され、NOxの発生が抑制される。
【0026】
また、パティキュレートフィルタの煤捕集能力が、所定捕集能力より低い場合は、全排気ガス還流量に対する低圧EGR通路による還流量と高圧EGR通路による還流量の配分比が所定の比である第1配分比で、一方、所定捕集能力より高い場合は第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第2配分比で排気ガスが還流される。
【0027】
すなわち、高圧EGR通路を介して排気ガスを還流することによって発生する煤(酸素量不足による噴霧混合気の局所リッチ部によって生成される煤)をパティキュレートフィルタが十分に捕集できるときは、高圧EGR通路による還流量を多くする。一方、煤をパティキュレートフィルタが十分に捕集できないときは、高圧EGR通路の還流量を少なくする。
【0028】
これにより、外気に排出される煤を抑制しつつ、NOxの発生を抑制することができる。
【0029】
また、請求項5に記載の発明によれば、気ガス中のNOxを処理することにより、NOxの外部への排出を抑制するNOx処理装置が備えられている場合、低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、パティキュレートフィルタの煤捕集能力が前記所定捕集能力より低く、かつNOx処理装置のNOx処理能力が所定処理能力より低い場合、前記第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第3配分比で排気ガスが還流される。それとともに、燃料の分割噴射の回数が増加される。
【0030】
NOx処理装置の処理能力が低くても、高圧EGR通路による還流量が多いので、すなわち燃焼室内の酸素濃度が減少するのでNOxの発生が抑制される。その結果、外部に排出されるNOx量は抑制される。
【0031】
このとき、パテキュレートフィルタの煤捕集能力が低い場合、煤の溜まり過ぎによってパテキュレートフィルタが異常燃焼する問題が懸念されるが、この問題は、燃料の分割噴射の回数を増加して不完全燃焼を抑制することにより、煤の発生量が抑制されるので解決される。その結果、高圧EGR通路による還流量が多くても、且つパティキュレートフィルタの煤捕集能力が低くても、パティキュレートフィルタが異常燃焼することを防止できる。
【0032】
さらに、請求項6に記載の発明によれば、低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、前記第1配分比による排気ガスの還流の開始時(第1制御開始時)に、減少先の負荷値に基づく全排気ガス還流量を一時的に増量補正し、その増量補正に従い前記低圧EGR量調節手段を制御する。これにより、増量補正しない場合に比べて、内燃機関の負荷の減少直後において、NOxの発生量の増加が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態に係るディーゼルエンジンおよびその吸排気系の概略的な構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るディーゼルエンジンの制御装置を含む制御系の概略図である。
【図3】エンジン回転数とエンジン負荷との基づいて使用するEGR通路を決定するためのマップを示す図である。
【図4】低圧EGR領域内においてエンジン負荷が減少するときに実行する複数の制御のタイムチャートと、該制御を実行しない場合のタイムチャートを示す図である。
【図5】排気ガスの還流量を一時的に増量補正するための変化率と偏差を説明するための図である。
【図6】変化率に基づいて還流量の増量補正量を決定するためのマップを示す図である。
【図7】偏差に基づいて還流量の増量補正量を決定するためのマップを示す図である。
【図8】分割噴射を説明するためのタイムチャートを示す図である。
【図9】一実施形態に係る制御のフローを示す図である。
【図10】他の実施形態に係る制御のフローを示す図である。
【図11】さらに別の実施形態に係る制御のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0035】
図1は本発明の一実施形態に係る、ディーゼルエンジンおよびその吸排気系の構成を簡略的に示している。また、図2は、ディーゼルエンジンの制御系を示している。
【0036】
図1に示すディーゼルエンジン10は、排気ガスの一部が排気通路12から吸気通路14に還流されるエンジンであって、排気ガスを還流するために、高圧EGR通路16と低圧EGR通路18とが設けられている。
【0037】
また、ディーゼルエンジン10は、排気ターボ過給機20を有し、そのタービン20aが排気通路12に、コンプレッサ20bが吸気通路14に配置されている。
【0038】
高圧EGR通路16は、このターボ過給機20のタービン20aの上流側の排気通路12部分と、コンプレッサ20bの下流側の吸気通路14部分とを連通している。また、高圧EGR通路16には、該通路16を通過する排気ガスの還流量(EGR量)を調節する高圧EGR弁16aが設けられている。
【0039】
低圧EGR通路18は、ターボ過給機20のタービン20aの下流側の排気通路12部分と、コンプレッサ20bの上流側の吸気通路14部分とを連通している。また、低圧EGR通路18には、該通路18を通過する排気ガスのEGR量を調節する低圧EGR弁18aと、還流排気ガスを冷却するEGRクーラ18bとが設けられている。
【0040】
また、ディーゼルエンジン10は、その排気通路12に、具体的にはターボ過給機20のタービン20aと低圧EGR通路18との間の排気通路12部分に、排気ガス中の煤を捕集するパティキュレートフィルタ22と、低圧EGR通路18の下流側の排気通路12部分に、排気ガス中のNOxを処理(トラップ)して、NOxの外部への排出を抑制するリーンNOxトラップ触媒(以下、「NOx触媒」と称する。)24とを備える。
【0041】
さらに、ディーゼルエンジン10は、吸気を冷却するインタークーラ26を、ターボ過給機20のコンプレッサ20bと高圧EGR通路16との間の吸気通路14部分に備えるとともに、吸気を清浄化するエアクリーナ28を、低圧EGR通路18の上流側の吸気通路14部分に備える。
【0042】
さらにまた、ディーゼルエンジン10は、低圧EGR通路18とエアクリーナ28との間の吸気通路14部分に負圧調整弁30を備えるとともに、高圧EGR通路16とインタークーラ26との間の吸気通路14部分にスロットル弁32とを備える。
【0043】
負圧調整弁30は、吸気通路14のコンプレッサ20bの上流側の圧力を調節する弁であって、その開度量を制御することにより外気の吸気通路14への流入を調節する。負圧調整弁30の開度量を調節すると、この弁30とコンプレッサ20bとの間の吸気通路14部分の負圧が調節され、その負圧調整により低圧EGR通路18を介して排気通路12から吸気通路14に向かって流れる排気ガス量が調節される。
【0044】
このようなディーゼルエンジン10の制御装置50は、図2に示すように、乗員のアクセルペダル踏込み量を検出するアクセル開度センサ52(この開度量はディーゼルエンジン10の負荷に対応)と、ディーゼルエンジン10の回転数を検出するエンジン回転数センサ54と、パティキュレートフィルタ22の上流側の圧力を検出するフィルタ上流側圧センサ56と、該フィルタ58の下流側の圧力を検出するフィルタ下流側圧センサ58からの信号に基づいて、高圧EGR弁16a、低圧EGR弁18a、および燃焼噴射ノズル10bに対して種々の制御を実行するように構成されている。
【0045】
まず、制御装置50は、エンジン回転数センサ54とアクセル開度センサ52からの信号に基づいて、すなわちエンジン回転数Nとエンジン負荷Lとに基づいて、ディーゼルエンジン10の燃焼室10aに還流する総EGR量(高圧EGR通路16によるEGR量と低圧EGR通路18によるEGR量の和)を決定するように構成されている。
【0046】
具体的には、図3に示すマップによって総EGR量を決定する。エンジン回転数Nが規定回転数Npを超える場合、制御装置50は、ディーゼルエンジン10の燃焼室10aに排気ガスを還流しない(高圧EGR弁16aと低圧EGR弁18aとを閉じる。)。このNpを超えるエンジン回転数であるときに排気ガスを燃焼室10aに還流すると、燃焼室10a内の酸素量が低下して燃焼が弱まり、その回転数での出力を達成できないためである。
【0047】
エンジン回転数NがNpを超えず、エンジン負荷Lが低い場合、制御装置50は、高圧EGR通路16のみを介して排気ガスをディーゼルエンジン10の燃焼室10aに還流し(低圧EGR弁18aを閉じる。)、一方エンジン負荷Lが高い場合は低圧EGR通路18のみを介して排気ガスを還流する(高圧EGR弁16aを閉じる。)。なお、その間のエンジン負荷である場合(過渡領域の場合)、両方のEGR通路を介して排気ガスを還流する。
【0048】
説明すると、低圧EGR通路18を介して燃焼室10aに還流される排気ガスは、EGRクーラ18bとインタクーラ26によって冷却されるため、高圧EGR通路16を介して還流される排気ガスに比べて、その温度は低い、すなわちガス密度が高いので酸素量が多い。したがって、エンジン負荷Lが高負荷であるときは、その負荷での出力を達成するために、すなわち燃焼室10a内の酸素量を多くするために低圧EGR通路18を介する排気ガスを燃焼室10aに還流する。一方、エンジン負荷Lが低負荷であるときは、燃焼室10a内の酸素量が高負荷の場合に比べて少なくてもすむので、高圧EGR通路16を介する排気ガスを燃焼室10aに還流する。
【0049】
高圧EGR通路16または低圧EGR通路18のいずれかによって排気ガスを還流する場合、制御装置50は、エンジン回転数Nとエンジン負荷Lとに基づいて、すなわちディーゼルエンジン10の出力に基づいて、その総EGR量を算出する。言い換えるとその出力を達成できる必要最低限の燃焼室10a内の酸素濃度を算出する。そして、算出した酸素濃度になるようにEGR弁16aおよび/または18aの開度量を制御する。これにより、NOxの発生を抑制しつつ、必要なディーゼルエンジン10の出力を確保する。
【0050】
また、制御装置50は、フィルタ上流側圧センサ56とフィルタ下流側圧センサ58とからの信号に基づいて、パティキュレートフィルタ22の上流側圧と下流側圧との圧力差を算出し、算出した圧力差から該フィルタ22が捕集している煤量を算出するように構成されている。具体的には、実験的に圧力差と煤の捕集量との関係が求められており、その関係と算出した圧力差からパティキュレートフィルタ22が捕集している煤量を算出する。
【0051】
さらに、制御装置50は、エンジン回転数センサ54とアクセル開度センサ52からの信号の変化の履歴に基づいて、すなわちディーゼルエンジン10の出力の変化の履歴に基づいて、発生したNOxの総量を算出し、その算出した総量のNOxを処理したものとして、NOx触媒24の残りのNOxの処理可能量(処理能力)を算出するように構成されている。
【0052】
さらにまた、制御装置50は、本発明に係る制御として、図3に示す低圧EGR領域においてエンジン負荷が減少するとき(単位時間あたりの負荷減少量が規定量を超えて減少するとき)、すなわち低圧EGR通路18で排気ガスを還流している状態でディーゼルエンジン10の負荷が減少するときに、以下の制御を実行する。
【0053】
説明すると、低圧EGR通路18で排気ガスを還流している状態でディーゼルエンジン10の負荷が減少すると、その減少先の負荷値に対応する燃焼室10a内酸素濃度値に低下するように低圧EGR弁18aの開度量を大きくするが、この場合、実際には負荷の減少に遅れて燃焼室10a内の酸素濃度は低下する。すなわち、図4(A)のタイムチャートに示すように、燃焼室10a内の酸素濃度Cの実値Crが、エンジン負荷Lに基づく目標値Ctに遅れて低下する。この遅れの分、図に示すように、エンジン負荷Lが減少した直後に、一時的にNOxの発生量が増加する。
【0054】
これは、低圧EGR弁18aから燃焼室10aまでの経路が長いために起こることで、燃焼室10a内の酸素濃度Cの低下が遅れた分だけ燃焼室10a内の酸素が過剰になり、それに対応して、エンジン負荷が減少した直後において、NOxの発生量が増加する。
【0055】
この対処として、制御装置50は、低圧EGR領域内においてエンジン負荷が減少すると、高圧EGR弁16aの開度量を一時的に大きくする、または、減少先の負荷値に基づく排気ガスの総EGR量を一時的に増量補正するように構成されている。
【0056】
まず、図4(B)に示すように、条件としてパテキュレートフィルタ22の煤捕集量が規定量より少ない場合(煤捕集能力が高い場合)、制御装置50は、図3の低圧EGR領域内においてエンジン負荷Lが減少すると、その減少先の負荷値に対応する燃焼室10a内酸素濃度Cに低下するように低圧EGR弁18aの開度量を大きくするとともに(図4(A)と同様)、実値Crと目標値Ctとが一致して燃焼室10a内の酸素濃度Cが低下するように、高圧EGR弁16aの開度量を一時的に大きくする(高圧EGR通路16によるEGR量を一時的に増量する。)。すなわち、総EGR量に対する低圧EGR通路18によるEGR量と高圧EGR通路16によるEGR量との比(配分比)において、高圧EGR通路16の値を一時的に高くする。これにより、図4(B)に示すように、エンジン負荷が減少した直後において、NOx発生量の増加を抑制することができる。
【0057】
この場合、高圧EGR通路16によるEGR量が多くなることにより(燃焼室10a内の酸素量が低下することにより)、噴霧混合気の局所リッチ部が生成されて煤の発生量が多くなるものの、パティキュレートフィルタ22が発生した煤を捕集するため、外部に排出される煤量は抑制される。
【0058】
一方、条件としてパテキュレートフィルタ22の煤捕集量が規定量より多く(煤捕集能力が低く)、且つNOx触媒24の残りのNOxの処理可能量が多い(NOx処理能力が高い)場合、制御装置50は、低圧EGR領域内においてエンジン負荷Lが減少すると、図4(C)に示すように、その減少先の負荷値に対応する燃焼室10a内酸素濃度Cに負荷Lに遅れずに低下するように、低圧EGR弁18aの開度量を一時的に増量補正しながら大きくする。言い換えると、減少先の負荷値に基づく排気ガスの総EGR量を一時的に増量補正し、それに従い低圧EGR弁18aを制御する。
【0059】
排気ガスの総EGR量の増量補正量は、エンジン負荷Lに基づいて算出される酸素濃度Cの目標値Ctの変化率ΔCtと、目標値Ctと実値Crとの偏差Dとに基づいて決定される。具体的には、図6に示すような変化率ΔCtと増量補正量Eaとの関係を表すマップと、図7に示すような偏差Dと増量補正量ELaとの関係を表すマップとが実験的に予め作成されており、この2つのマップと変化率ΔCtと偏差Dとに基づいて、排気ガスの総EGR量が増量補正される。
【0060】
この場合、排気ガスの総EGR量の増量補正により、燃焼室10a内の酸素濃度Cの低下の遅れ(酸素濃度Cの目標値Crに対する実値Ctの遅れ)は、図4(A)の増量補正しない場合に比べて短くなるものの、図4(B)に比べては長い。また、エンジン負荷Lが減少した直後において、NOx発生量の増加量は図4(A)の場合に比べて少ないものの、図4(B)に比べては多い。これは、図1に示すように、低圧EGR弁18aから燃焼室10aまでの距離が、高圧EGR弁16aから燃焼室10aまでの距離に比べて長いためである。
【0061】
さらに、条件としてパテキュレートフィルタ22の煤捕集量が規定量より多く(煤捕集能力が低く)、且つNOx触媒24の残りのNOxの処理可能量が少ない(NOx処理能力が低い)場合、制御装置50は、制御装置50は、図4(D)に示すように、図4(B)と同様の制御を、高圧EGR弁16aと低圧EGR弁18aに対して実行するとともに、燃料の分割噴射の回数を増加する。
【0062】
図8は、燃料の分割噴射と、それに伴う発生熱量と、ピストン行程との関係を示している。
【0063】
制御装置50は、図8に示すように、燃料噴射ノズル10bを制御して、一回の燃料噴射を主噴射と副噴射とに分割し、その副噴射を主噴射による燃焼の後期に実行し(主噴射の燃焼による発生した熱量がゼロになる前に副噴射の燃焼を開始し)、不完全燃焼の発生を抑制する、すなわち不完全燃焼による煤の発生を抑制する。これにより、パティキュレートフィルタ22の煤捕集能力が低くても、外部に排出される煤量は抑制される。
【0064】
ここからは、図4(B)〜(D)に示す制御のいずれを実行するかを決定する制御の流れを、図9に示すフローを参照しながら説明する。
【0065】
まず、図9に示すフローは、ステップS100において低圧EGR領域であること、ステップS110においてエンジン負荷の単位時間あたりの減少量ΔLが規定量より大きいこと、ステップS120において燃焼室10b内の酸素濃度Cの実値Crと目標値Ctとの偏差Dが規定値より大きいこと、すなわち低圧EGR領域内においてエンジン負荷が減少したことを検出して開始される。
【0066】
ステップS130において、制御装置50は、パティキュレートフィルタ22の煤捕集量が規定量より少ないか否かを判定する。少ない場合はステップS140に進む。そうでない場合はステップS150に進む。
【0067】
ステップS140において、制御装置50は、高圧EGR弁16aの開度量を増量し、高圧EGR通路16によるEGR量を増量する(図4(B)参照。)。
【0068】
一方、ステップS130でパティキュレートフィルタ22の煤捕集量が多いと判定すると、ステップS150において、制御装置50は、NOx触媒24の残りの処理能力が規定能力より大きいか否か、すなわち残りのNOxの処理可能量が規定量より大きいか否かを判定する。大きい場合はステップS160に進む。そうでない場合はステップS170に進む。
【0069】
ステップS160において、制御装置50は、低圧EGR弁18aの開度量を増量補正する(図4(C)参照。)。
【0070】
一方、ステップS150でNOx触媒24の処理能力が小さいと判定すると、ステップS170において、制御装置50は、高圧EGR弁16aの開度量を増量し、高圧EGR通路16によるEGR量を増量するとともに、燃料の分割噴射の回数を増加する。
【0071】
ステップS180において、制御装置50は、燃焼室10b内の酸素濃度Cの実値Crと目標値Ctとの偏差Dがほぼゼロであるか否かを判定する。ほぼゼロの場合はステップS190に進む。そうでない場合はステップS130に戻る。
【0072】
ステップS190において、制御装置50は、通常の低圧EGR領域での制御にリセットする。そして、リターンに進み、スタートに戻る。
【0073】
本実施形態によれば、低圧EGR領域内においてディーゼルエンジン10の負荷が減少したときに、すぐに燃焼室10a内の酸素濃度を減少することができる。それにより、負荷が減少した直後において、NOxの発生量が増加することが抑制される。また、それを、パティキュレートフィルタ22やNOx触媒23の状態を考慮して、すなわち外部に排出される煤やNOxの量を抑制して実行できる。
【0074】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0075】
例えば、上述の実施形態の場合、図4(C)に示すタイムチャートに関する制御は、低圧EGR領域においてディーゼルエンジン10の負荷が減少したときに、減少先の負荷値に基づく排気ガスの総EGR量を一次的に増量補正し、その増量補正に従い低圧EGR弁18aの開度量を一時的に増量補正しているが、それとともに、または代わって、高圧EGR弁18aの開度量を増量してもよい。ただし、排気ガスの総EGR量が増量補正されているので、高圧EGR弁18aの開度量が増量しすぎると、燃焼室10aの酸素濃度が大きく低下し、煤が大量に発生することになる。
【0076】
また、上述の実施形態の制御は、図9にも示すように、NOx触媒24の処理能力を考慮し、燃料を燃焼室10aに分割噴射できるディーゼルエンジン10に対するものであるが、NOx触媒を備えず分割噴射を実行しないディーゼルエンジンにも本発明は適用可能である。
【0077】
この場合、図10に示すフローのような制御の流れになる。図9に示すフローと異なる点は、NOx触媒24の処理能力を判定するステップ(S150)と、高圧EGR弁16aの開度量を増量するとともに、副噴射を実行するステップ
(S170)とが存在しない点である。
【0078】
図10に示すフローを説明すると、このフローは、ステップS300において低圧EGR領域であること、ステップS310においてエンジン負荷の単位時間あたりの減少量ΔLが規定量より大きいこと、ステップS320において燃焼室内の酸素濃度Cの実値Crと目標値Ctとの偏差Dが規定値より大きいこと、すなわち低圧EGR領域内においてエンジン負荷が減少したことを検出して開始される。
【0079】
ステップS330において、制御装置は、パティキュレートフィルタの煤捕集量が規定量より少ないか否かを判定する。少ない場合はステップS340に進む。そうでない場合はステップS350に進む。
【0080】
ステップS340において、制御装置は、高圧EGR弁の開度量を増量し、高圧EGR通路によるEGR量を増量する。
【0081】
一方、ステップS330でパティキュレートフィルタの煤捕集量が多いと判定すると、ステップS350において、制御装置は、低圧EGR弁の開度量を増量補正する。
ステップS360において、制御装置は、燃焼室内の酸素濃度Cの実値Crと目標値Ctとの偏差Dがほぼゼロであるか否かを判定する。ほぼゼロの場合はステップS370に進む。そうでない場合はステップS330に戻る。
【0082】
ステップS370において、制御装置は、通常の低圧EGR領域での制御にリセットする。そして、リターンに進み、スタートに戻る。
【0083】
さらに、図9の実施形態の制御は、NOx触媒を備えず分割噴射を実行できるディーゼルエンジンにおいて、燃費を多少犠牲にしてでもNOxを極力抑えたい場合に、低圧EGR弁の開度量を増量する代わりに高圧EGR弁の開度量を増量するとともに副噴射を実行してもよい。
【0084】
この場合、図11に示すフローのような制御の流れになる。図9に示すフローと異なる点は、NOx触媒24の処理能力を判定するステップ(S150)と、低圧EGR弁18aの開度量を増量補正するステップ(S160)とが存在しない点である。
【0085】
図11に示すフローを説明すると、このフローは、ステップS500において低圧EGR領域であること、ステップS510においてエンジン負荷の単位時間あたりの減少量ΔLが規定量より大きいこと、ステップS520において燃焼室内の酸素濃度Cの実値Crと目標値Ctとの偏差Dが規定値より大きいこと、すなわち低圧EGR領域内においてエンジン負荷が減少したことを検出して開始される。
【0086】
ステップS530において、制御装置は、パティキュレートフィルタの煤捕集量が規定量より少ないか否かを判定する。少ない場合はステップS540に進む。そうでない場合はステップS550に進む。
【0087】
ステップS540において、制御装置は、高圧EGR弁の開度量を増量し、高圧EGR通路によるEGR量を増量する。
【0088】
一方、ステップS530でパティキュレートフィルタの煤捕集量が多いと判定すると、ステップS550において、制御装置は、高圧EGR弁の開度量を増量するとともに副噴射を実行する。
ステップS560において、制御装置は、燃焼室内の酸素濃度Cの実値Crと目標値Ctとの偏差Dがほぼゼロであるか否かを判定する。ほぼゼロの場合はステップS570に進む。そうでない場合はステップS530に戻る。
【0089】
ステップS570において、制御装置は、通常の低圧EGR領域での制御にリセットする。そして、リターンに進み、スタートに戻る。
【産業上の利用可能性】
【0090】
以上のように、本発明は、排気ターボ過給機と、該過給機のタービンの下流側の排気通路から該過給機のコンプレッサの上流側の吸気通路とを連通して低圧の排気ガスを還流する低圧EGR通路と、タービンの上流側の排気通路からコンプレッサの下流側の吸気通路とを連通して高圧の排気ガスを還流する高圧EGR通路とを有するエンジンにおいて、低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態でエンジンの負荷が減少したときに、すぐに燃焼室内の酸素濃度を減少させ、NOxの発生を抑制することができる。したがって、ディーゼルエンジンを搭載した車両の分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0091】
10 内燃機関(ディーゼルエンジン)
12 排気通路
14 吸気通路
16 高圧EGR通路
18 低圧EGR通路
20 ターボ過給機
20a タービン
20b コンプレッサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気通路から吸気通路へ還流する排気ガス量を制御して内燃機関の燃焼室内の酸素濃度を調節し、NOxの発生を抑制する内燃機関の排気再循環を制御する方法およびそのシステムに関し、排気浄化技術の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、排気ガスの一部を排気通路からEGR通路を介して吸気通路に還流し、それにより燃焼室内の酸素量をエンジンの要求出力が達成できる必要最低限の量まで減少する方法が知られている。これにより、必要以上の酸素の燃焼によって燃焼室内が過剰に高温・高圧になることを原因とする、NOxの発生を抑制する。
【0003】
このような方法において、例えば特許文献1に記載しているエンジンのように、エンジンが排気ターボ過給機を備える場合、該過給機のタービンの下流側の排気通路から該過給機のコンプレッサの上流側の吸気通路とを連通して低圧の排気ガスを還流する低圧EGR通路と、タービンの上流側の排気通路からコンプレッサの下流側の吸気通路とを連通して高圧の排気ガスを還流する高圧EGR通路とが設けられる。また、それぞれのEGR通路に、還流量(EGR量)を調節するEGR弁が設けられる。
【0004】
このようなエンジンの場合、高負荷時は、燃焼室内の酸素量を十分に確保するために、還流する排気ガスの温度が高圧EGR通路に比べて低い(ガス密度が高いので酸素量が多い)低圧EGR通路が使用される。
【0005】
一方、低負荷時は、高負荷時に比べて燃焼室内の酸素量が少なくても済むので、還流する排気ガスの温度が低圧EGR通路に比べて高い(ガス密度が低いので酸素量が少ない)高圧EGR通路が使用される。
【0006】
また、いずれの負荷においても、エンジンの回転数が高くなると、すなわち必要な酸素量が増えると、EGR量が減少するようにEGR弁が制御される。
【0007】
このように、エンジンの運転状態により、高圧EGR通路と低圧EGR通路を使い分けるとともに、各通路のEGR量を調整することにより、エンジンの出力要求を達成しつつ、NOxの発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−336547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1に記載されたエンジンのように低圧EGR通路と高圧EGR通路とが設けられている場合、低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態でエンジンの負荷が減少すると、低圧EGR通路によるEGR量が増加するように(燃焼室内の酸素量が減少するように)EGR弁が制御される。しかし、EGR弁が設けられている低圧EGR通路の位置から燃焼室までは長い経路であるため、エンジン負荷の減少に遅れて燃焼室内の酸素量が減少する。その結果、エンジン負荷が減少したときからその減少先の負荷値に対応した酸素量に減少するまでの間、燃焼室内の酸素濃度が一時的に過剰になり、その過剰分の酸素に対応する量のNOxが発生する。
【0010】
そこで、本発明は、排気ターボ過給機と、該過給機のタービンの下流側の排気通路から該過給機のコンプレッサの上流側の吸気通路とを連通して低圧の排気ガスを還流する低圧EGR通路と、タービンの上流側の排気通路からコンプレッサの下流側の吸気通路とを連通して高圧の排気ガスを還流する高圧EGR通路とを有するエンジンにおいて、低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態でエンジンの負荷が減少したときに、すぐに燃焼室内の酸素濃度を減少させ、NOxの発生を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、排気通路に配置されたタービンと吸気通路に配置されたコンプレッサとでなる排気ターボ過給機と、前記タービンの下流側の排気通路と前記コンプレッサの上流側の吸気通路とを連通する低圧EGR通路と、前記タービンの上流側の排気通路と前記コンプレッサの下流側の吸気通路とを連通する高圧EGR通路と、前記低圧EGR通路に設けられて該通路を通過する排気ガスの還流量を調節する低圧EGR量調節手段と、前記高圧EGR通路に設けられて該通路を通過する排気ガスの還流量を調節する高圧EGR量調節手段と、排気通路に設けられて排気ガス中の煤を捕集するパティキュレートフィルタとを有する圧縮着火式の内燃機関の排気再循環を制御する方法であって、
前記低圧EGR量調節手段および高圧EGR量調節手段の少なくとも一方を制御して、燃焼室内の酸素濃度を内燃機関の負荷に対応する濃度に制御する酸素濃度制御工程を含み、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記酸素濃度制御工程として、
前記パティキュレートフィルタの煤捕集能力が所定捕集能力より低い場合は、全排気ガス還流量に対する前記低圧EGR通路による還流量と前記高圧EGR通路による還流量との配分比が所定の比である第1配分比で排気ガスを還流する第1工程を実行し、
前記パティキュレートフィルタの煤捕集能力が所定捕集能力より高い場合は、前記第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第2配分比で排気ガスを還流する第2工程を実行することを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の排気再循環を制御する方法であって、
排気ガス中のNOxを処理することにより該NOxの外部への排出を抑制するNOx処理装置が備えられている場合において、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記パティキュレートフィルタの煤捕集能力が前記所定捕集能力より低く、かつ前記NOx処理装置のNOx処理能力が所定処理能力より低い場合は、前記酸素濃度制御工程として、前記第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第3配分比で排気ガスを還流する第3工程を実行し、
それとともに、燃料の分割噴射の回数を増加する燃料噴射制御工程を実行することを特徴とする。
【0013】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の内燃機関の排気再循環を制御する方法であって、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記酸素濃度制御工程として前記第1工程を実行する場合、該第1工程の実行開始時に、減少先の負荷値に基づく全排気ガス還流量を一時的に増量補正し、その増量補正に従い前記低圧EGR量調節手段を制御することを特徴とする。
【0014】
一方、請求項4に記載の発明は、排気通路に配置されたタービンと吸気通路に配置されたコンプレッサとでなる排気ターボ過給機と、前記タービンの下流側の排気通路と前記コンプレッサの上流側の吸気通路とを連通する低圧EGR通路と、前記タービンの上流側の排気通路と前記コンプレッサの下流側の吸気通路とを連通する高圧EGR通路と、前記低圧EGR通路に設けられて該通路を通過する排気ガスの還流量を調節する低圧EGR量調節手段と、前記高圧EGR通路に設けられて該通路を通過する排気ガスの還流量を調節する高圧EGR量調節手段と、排気通路に設けられて排気ガス中の煤を捕集するパティキュレートフィルタとを有する圧縮着火式の内燃機関の排気再循環を制御するシステムであって、
前記低圧EGR量調節手段および高圧EGR量調節手段の少なくとも一方を制御して、燃焼室内の酸素濃度を内燃機関の負荷に対応する濃度に制御する酸素濃度制御手段と、
前記パティキュレートフィルタの煤捕集能力を検出する煤捕集能力検出手段とを有し、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記酸素濃度制御手段が、
前記煤捕集能力検出手段が検出するパティキュレートフィルタの煤捕集能力が所定捕集能力より低い場合は、全排気ガス還流量に対する前記低圧EGR通路による還流量と前記高圧EGR通路による還流量との配分比が所定の比である第1配分比で排気ガスを還流する第1制御を実行し、
前記煤捕集能力検出手段が検出するパティキュレートフィルタの煤捕集能力が所定捕集能力より高い場合は、前記第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第2配分比で排気ガスを還流する第2制御を実行することを特徴とする。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の内燃機関の排気再循環を制御するシステムであって、
排気ガス中のNOxを処理することにより該NOxの外部への排出を抑制するNOx処理装置と、
前記NOx処理装置の処理能力を検出するNOx処理能力検出手段と、
燃焼室への燃料噴射を制御する燃料噴射制御手段とを有し、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記煤捕集能力検出手段が検出するパティキュレートフィルタの煤捕集能力が前記所定捕集能力より低く、かつ前記NOx処理能力検出手段が検出するNOx処理装置のNOx処理能力が所定処理能力より低い場合は、前記酸素濃度制御手段は、前記第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第3配分比で排気ガスを還流する第3制御を実行し、
それとともに、前記燃料噴射制御手段が、燃料の分割噴射の回数を増加することを特徴とする。
【0016】
さらに、請求項6に記載の発明は、請求項4または5に記載の内燃機関の排気再循環を制御するシステムであって、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記酸素濃度制御手段が前記第1制御を実行する場合、該第1制御の実行開始時に、減少先の負荷値に基づく全排気ガス還流量を一時的に増量補正し、その増量補正に従い前記低圧EGR量調節手段を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明によれば、低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、低圧EGR通路とともに、高圧EGR通路も使用される。高圧EGR通路に設けられた高圧EGR量調節手段から燃焼室までの距離は、低圧EGR通路に設けられた低圧EGR量調節手段から燃焼室までの距離より短いので、内燃機関の負荷の減少とほぼ同時に、燃焼室に供給する排気ガス量を増加する、言い換えると燃焼室内の酸素濃度を減少することができる。その結果、内燃機関の負荷の減少直後において、燃焼室内の酸素が過剰になることが抑制され、NOxの発生が抑制される。
【0018】
また、パティキュレートフィルタの煤捕集能力が、所定捕集能力より低い場合は、全排気ガス還流量に対する低圧EGR通路による還流量と高圧EGR通路による還流量の配分比が所定の比である第1配分比で、一方、所定捕集能力より高い場合は第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第2配分比で排気ガスが還流される。
【0019】
すなわち、高圧EGR通路を介して排気ガスを還流することによって発生する煤(酸素量不足による噴霧混合気の局所リッチ部によって生成される煤)をパティキュレートフィルタが十分に捕集できるときは、高圧EGR通路による還流量を多くする。一方、煤をパティキュレートフィルタが十分に捕集できないときは、高圧EGR通路の還流量を少なくする。
【0020】
これにより、外気に排出される煤を抑制しつつ、NOxの発生を抑制することができる。
【0021】
また、請求項2に記載の発明によれば、排気ガス中のNOxを処理することにより、NOxの外部への排出を抑制するNOx処理装置が備えられている場合、低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、パティキュレートフィルタの煤捕集能力が前記所定捕集能力より低く、かつNOx処理装置のNOx処理能力が所定処理能力より低い場合、前記第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第3配分比で排気ガスが還流される。それとともに、燃料の分割噴射の回数が増加される。
【0022】
NOx処理装置の処理能力が低くても、高圧EGR通路による還流量が多いので、すなわち燃焼室内の酸素濃度が減少するのでNOxの発生が抑制される。その結果、外部に排出されるNOx量は抑制される。
【0023】
このとき、パテキュレートフィルタの煤捕集能力が低い場合、煤の溜まり過ぎによってパティキュレートフィルタが異常燃焼する問題が懸念されるが、この問題は、燃料の分割噴射の回数を増加して不完全燃焼を抑制することにより、煤の発生量が抑制されるので解決される。その結果、高圧EGR通路による還流量が多くても、且つパティキュレートフィルタの煤捕集能力が低くても、パティキュレートフィルタが異常燃焼することを防止できる。
【0024】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、前記第1配分比による排気ガスの還流の開始時(第1工程開始時)に、減少先の負荷値に基づく全排気ガス還流量を一時的に増量補正し、その増量補正に従い前記低圧EGR量調節手段を制御する。これにより、増量補正しない場合に比べて、内燃機関の負荷の減少直後において、NOxの発生量の増加が抑制される。
【0025】
一方、請求項4に記載の発明によれば、低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、低圧EGR通路とともに、高圧EGR通路も使用される。高圧EGR通路に設けられた高圧EGR量調節手段から燃焼室までの距離は、低圧EGR通路に設けられた低圧EGR量調節手段から燃焼室までの距離より短いので、内燃機関の負荷の減少とほぼ同時に、燃焼室に供給する排気ガス量を増加する、言い換えると燃焼室内の酸素濃度を減少することができる。その結果、内燃機関の負荷の減少直後において、燃焼室内の酸素が過剰になることが抑制され、NOxの発生が抑制される。
【0026】
また、パティキュレートフィルタの煤捕集能力が、所定捕集能力より低い場合は、全排気ガス還流量に対する低圧EGR通路による還流量と高圧EGR通路による還流量の配分比が所定の比である第1配分比で、一方、所定捕集能力より高い場合は第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第2配分比で排気ガスが還流される。
【0027】
すなわち、高圧EGR通路を介して排気ガスを還流することによって発生する煤(酸素量不足による噴霧混合気の局所リッチ部によって生成される煤)をパティキュレートフィルタが十分に捕集できるときは、高圧EGR通路による還流量を多くする。一方、煤をパティキュレートフィルタが十分に捕集できないときは、高圧EGR通路の還流量を少なくする。
【0028】
これにより、外気に排出される煤を抑制しつつ、NOxの発生を抑制することができる。
【0029】
また、請求項5に記載の発明によれば、気ガス中のNOxを処理することにより、NOxの外部への排出を抑制するNOx処理装置が備えられている場合、低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、パティキュレートフィルタの煤捕集能力が前記所定捕集能力より低く、かつNOx処理装置のNOx処理能力が所定処理能力より低い場合、前記第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第3配分比で排気ガスが還流される。それとともに、燃料の分割噴射の回数が増加される。
【0030】
NOx処理装置の処理能力が低くても、高圧EGR通路による還流量が多いので、すなわち燃焼室内の酸素濃度が減少するのでNOxの発生が抑制される。その結果、外部に排出されるNOx量は抑制される。
【0031】
このとき、パテキュレートフィルタの煤捕集能力が低い場合、煤の溜まり過ぎによってパテキュレートフィルタが異常燃焼する問題が懸念されるが、この問題は、燃料の分割噴射の回数を増加して不完全燃焼を抑制することにより、煤の発生量が抑制されるので解決される。その結果、高圧EGR通路による還流量が多くても、且つパティキュレートフィルタの煤捕集能力が低くても、パティキュレートフィルタが異常燃焼することを防止できる。
【0032】
さらに、請求項6に記載の発明によれば、低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、前記第1配分比による排気ガスの還流の開始時(第1制御開始時)に、減少先の負荷値に基づく全排気ガス還流量を一時的に増量補正し、その増量補正に従い前記低圧EGR量調節手段を制御する。これにより、増量補正しない場合に比べて、内燃機関の負荷の減少直後において、NOxの発生量の増加が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態に係るディーゼルエンジンおよびその吸排気系の概略的な構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るディーゼルエンジンの制御装置を含む制御系の概略図である。
【図3】エンジン回転数とエンジン負荷との基づいて使用するEGR通路を決定するためのマップを示す図である。
【図4】低圧EGR領域内においてエンジン負荷が減少するときに実行する複数の制御のタイムチャートと、該制御を実行しない場合のタイムチャートを示す図である。
【図5】排気ガスの還流量を一時的に増量補正するための変化率と偏差を説明するための図である。
【図6】変化率に基づいて還流量の増量補正量を決定するためのマップを示す図である。
【図7】偏差に基づいて還流量の増量補正量を決定するためのマップを示す図である。
【図8】分割噴射を説明するためのタイムチャートを示す図である。
【図9】一実施形態に係る制御のフローを示す図である。
【図10】他の実施形態に係る制御のフローを示す図である。
【図11】さらに別の実施形態に係る制御のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0035】
図1は本発明の一実施形態に係る、ディーゼルエンジンおよびその吸排気系の構成を簡略的に示している。また、図2は、ディーゼルエンジンの制御系を示している。
【0036】
図1に示すディーゼルエンジン10は、排気ガスの一部が排気通路12から吸気通路14に還流されるエンジンであって、排気ガスを還流するために、高圧EGR通路16と低圧EGR通路18とが設けられている。
【0037】
また、ディーゼルエンジン10は、排気ターボ過給機20を有し、そのタービン20aが排気通路12に、コンプレッサ20bが吸気通路14に配置されている。
【0038】
高圧EGR通路16は、このターボ過給機20のタービン20aの上流側の排気通路12部分と、コンプレッサ20bの下流側の吸気通路14部分とを連通している。また、高圧EGR通路16には、該通路16を通過する排気ガスの還流量(EGR量)を調節する高圧EGR弁16aが設けられている。
【0039】
低圧EGR通路18は、ターボ過給機20のタービン20aの下流側の排気通路12部分と、コンプレッサ20bの上流側の吸気通路14部分とを連通している。また、低圧EGR通路18には、該通路18を通過する排気ガスのEGR量を調節する低圧EGR弁18aと、還流排気ガスを冷却するEGRクーラ18bとが設けられている。
【0040】
また、ディーゼルエンジン10は、その排気通路12に、具体的にはターボ過給機20のタービン20aと低圧EGR通路18との間の排気通路12部分に、排気ガス中の煤を捕集するパティキュレートフィルタ22と、低圧EGR通路18の下流側の排気通路12部分に、排気ガス中のNOxを処理(トラップ)して、NOxの外部への排出を抑制するリーンNOxトラップ触媒(以下、「NOx触媒」と称する。)24とを備える。
【0041】
さらに、ディーゼルエンジン10は、吸気を冷却するインタークーラ26を、ターボ過給機20のコンプレッサ20bと高圧EGR通路16との間の吸気通路14部分に備えるとともに、吸気を清浄化するエアクリーナ28を、低圧EGR通路18の上流側の吸気通路14部分に備える。
【0042】
さらにまた、ディーゼルエンジン10は、低圧EGR通路18とエアクリーナ28との間の吸気通路14部分に負圧調整弁30を備えるとともに、高圧EGR通路16とインタークーラ26との間の吸気通路14部分にスロットル弁32とを備える。
【0043】
負圧調整弁30は、吸気通路14のコンプレッサ20bの上流側の圧力を調節する弁であって、その開度量を制御することにより外気の吸気通路14への流入を調節する。負圧調整弁30の開度量を調節すると、この弁30とコンプレッサ20bとの間の吸気通路14部分の負圧が調節され、その負圧調整により低圧EGR通路18を介して排気通路12から吸気通路14に向かって流れる排気ガス量が調節される。
【0044】
このようなディーゼルエンジン10の制御装置50は、図2に示すように、乗員のアクセルペダル踏込み量を検出するアクセル開度センサ52(この開度量はディーゼルエンジン10の負荷に対応)と、ディーゼルエンジン10の回転数を検出するエンジン回転数センサ54と、パティキュレートフィルタ22の上流側の圧力を検出するフィルタ上流側圧センサ56と、該フィルタ58の下流側の圧力を検出するフィルタ下流側圧センサ58からの信号に基づいて、高圧EGR弁16a、低圧EGR弁18a、および燃焼噴射ノズル10bに対して種々の制御を実行するように構成されている。
【0045】
まず、制御装置50は、エンジン回転数センサ54とアクセル開度センサ52からの信号に基づいて、すなわちエンジン回転数Nとエンジン負荷Lとに基づいて、ディーゼルエンジン10の燃焼室10aに還流する総EGR量(高圧EGR通路16によるEGR量と低圧EGR通路18によるEGR量の和)を決定するように構成されている。
【0046】
具体的には、図3に示すマップによって総EGR量を決定する。エンジン回転数Nが規定回転数Npを超える場合、制御装置50は、ディーゼルエンジン10の燃焼室10aに排気ガスを還流しない(高圧EGR弁16aと低圧EGR弁18aとを閉じる。)。このNpを超えるエンジン回転数であるときに排気ガスを燃焼室10aに還流すると、燃焼室10a内の酸素量が低下して燃焼が弱まり、その回転数での出力を達成できないためである。
【0047】
エンジン回転数NがNpを超えず、エンジン負荷Lが低い場合、制御装置50は、高圧EGR通路16のみを介して排気ガスをディーゼルエンジン10の燃焼室10aに還流し(低圧EGR弁18aを閉じる。)、一方エンジン負荷Lが高い場合は低圧EGR通路18のみを介して排気ガスを還流する(高圧EGR弁16aを閉じる。)。なお、その間のエンジン負荷である場合(過渡領域の場合)、両方のEGR通路を介して排気ガスを還流する。
【0048】
説明すると、低圧EGR通路18を介して燃焼室10aに還流される排気ガスは、EGRクーラ18bとインタクーラ26によって冷却されるため、高圧EGR通路16を介して還流される排気ガスに比べて、その温度は低い、すなわちガス密度が高いので酸素量が多い。したがって、エンジン負荷Lが高負荷であるときは、その負荷での出力を達成するために、すなわち燃焼室10a内の酸素量を多くするために低圧EGR通路18を介する排気ガスを燃焼室10aに還流する。一方、エンジン負荷Lが低負荷であるときは、燃焼室10a内の酸素量が高負荷の場合に比べて少なくてもすむので、高圧EGR通路16を介する排気ガスを燃焼室10aに還流する。
【0049】
高圧EGR通路16または低圧EGR通路18のいずれかによって排気ガスを還流する場合、制御装置50は、エンジン回転数Nとエンジン負荷Lとに基づいて、すなわちディーゼルエンジン10の出力に基づいて、その総EGR量を算出する。言い換えるとその出力を達成できる必要最低限の燃焼室10a内の酸素濃度を算出する。そして、算出した酸素濃度になるようにEGR弁16aおよび/または18aの開度量を制御する。これにより、NOxの発生を抑制しつつ、必要なディーゼルエンジン10の出力を確保する。
【0050】
また、制御装置50は、フィルタ上流側圧センサ56とフィルタ下流側圧センサ58とからの信号に基づいて、パティキュレートフィルタ22の上流側圧と下流側圧との圧力差を算出し、算出した圧力差から該フィルタ22が捕集している煤量を算出するように構成されている。具体的には、実験的に圧力差と煤の捕集量との関係が求められており、その関係と算出した圧力差からパティキュレートフィルタ22が捕集している煤量を算出する。
【0051】
さらに、制御装置50は、エンジン回転数センサ54とアクセル開度センサ52からの信号の変化の履歴に基づいて、すなわちディーゼルエンジン10の出力の変化の履歴に基づいて、発生したNOxの総量を算出し、その算出した総量のNOxを処理したものとして、NOx触媒24の残りのNOxの処理可能量(処理能力)を算出するように構成されている。
【0052】
さらにまた、制御装置50は、本発明に係る制御として、図3に示す低圧EGR領域においてエンジン負荷が減少するとき(単位時間あたりの負荷減少量が規定量を超えて減少するとき)、すなわち低圧EGR通路18で排気ガスを還流している状態でディーゼルエンジン10の負荷が減少するときに、以下の制御を実行する。
【0053】
説明すると、低圧EGR通路18で排気ガスを還流している状態でディーゼルエンジン10の負荷が減少すると、その減少先の負荷値に対応する燃焼室10a内酸素濃度値に低下するように低圧EGR弁18aの開度量を大きくするが、この場合、実際には負荷の減少に遅れて燃焼室10a内の酸素濃度は低下する。すなわち、図4(A)のタイムチャートに示すように、燃焼室10a内の酸素濃度Cの実値Crが、エンジン負荷Lに基づく目標値Ctに遅れて低下する。この遅れの分、図に示すように、エンジン負荷Lが減少した直後に、一時的にNOxの発生量が増加する。
【0054】
これは、低圧EGR弁18aから燃焼室10aまでの経路が長いために起こることで、燃焼室10a内の酸素濃度Cの低下が遅れた分だけ燃焼室10a内の酸素が過剰になり、それに対応して、エンジン負荷が減少した直後において、NOxの発生量が増加する。
【0055】
この対処として、制御装置50は、低圧EGR領域内においてエンジン負荷が減少すると、高圧EGR弁16aの開度量を一時的に大きくする、または、減少先の負荷値に基づく排気ガスの総EGR量を一時的に増量補正するように構成されている。
【0056】
まず、図4(B)に示すように、条件としてパテキュレートフィルタ22の煤捕集量が規定量より少ない場合(煤捕集能力が高い場合)、制御装置50は、図3の低圧EGR領域内においてエンジン負荷Lが減少すると、その減少先の負荷値に対応する燃焼室10a内酸素濃度Cに低下するように低圧EGR弁18aの開度量を大きくするとともに(図4(A)と同様)、実値Crと目標値Ctとが一致して燃焼室10a内の酸素濃度Cが低下するように、高圧EGR弁16aの開度量を一時的に大きくする(高圧EGR通路16によるEGR量を一時的に増量する。)。すなわち、総EGR量に対する低圧EGR通路18によるEGR量と高圧EGR通路16によるEGR量との比(配分比)において、高圧EGR通路16の値を一時的に高くする。これにより、図4(B)に示すように、エンジン負荷が減少した直後において、NOx発生量の増加を抑制することができる。
【0057】
この場合、高圧EGR通路16によるEGR量が多くなることにより(燃焼室10a内の酸素量が低下することにより)、噴霧混合気の局所リッチ部が生成されて煤の発生量が多くなるものの、パティキュレートフィルタ22が発生した煤を捕集するため、外部に排出される煤量は抑制される。
【0058】
一方、条件としてパテキュレートフィルタ22の煤捕集量が規定量より多く(煤捕集能力が低く)、且つNOx触媒24の残りのNOxの処理可能量が多い(NOx処理能力が高い)場合、制御装置50は、低圧EGR領域内においてエンジン負荷Lが減少すると、図4(C)に示すように、その減少先の負荷値に対応する燃焼室10a内酸素濃度Cに負荷Lに遅れずに低下するように、低圧EGR弁18aの開度量を一時的に増量補正しながら大きくする。言い換えると、減少先の負荷値に基づく排気ガスの総EGR量を一時的に増量補正し、それに従い低圧EGR弁18aを制御する。
【0059】
排気ガスの総EGR量の増量補正量は、エンジン負荷Lに基づいて算出される酸素濃度Cの目標値Ctの変化率ΔCtと、目標値Ctと実値Crとの偏差Dとに基づいて決定される。具体的には、図6に示すような変化率ΔCtと増量補正量Eaとの関係を表すマップと、図7に示すような偏差Dと増量補正量ELaとの関係を表すマップとが実験的に予め作成されており、この2つのマップと変化率ΔCtと偏差Dとに基づいて、排気ガスの総EGR量が増量補正される。
【0060】
この場合、排気ガスの総EGR量の増量補正により、燃焼室10a内の酸素濃度Cの低下の遅れ(酸素濃度Cの目標値Crに対する実値Ctの遅れ)は、図4(A)の増量補正しない場合に比べて短くなるものの、図4(B)に比べては長い。また、エンジン負荷Lが減少した直後において、NOx発生量の増加量は図4(A)の場合に比べて少ないものの、図4(B)に比べては多い。これは、図1に示すように、低圧EGR弁18aから燃焼室10aまでの距離が、高圧EGR弁16aから燃焼室10aまでの距離に比べて長いためである。
【0061】
さらに、条件としてパテキュレートフィルタ22の煤捕集量が規定量より多く(煤捕集能力が低く)、且つNOx触媒24の残りのNOxの処理可能量が少ない(NOx処理能力が低い)場合、制御装置50は、制御装置50は、図4(D)に示すように、図4(B)と同様の制御を、高圧EGR弁16aと低圧EGR弁18aに対して実行するとともに、燃料の分割噴射の回数を増加する。
【0062】
図8は、燃料の分割噴射と、それに伴う発生熱量と、ピストン行程との関係を示している。
【0063】
制御装置50は、図8に示すように、燃料噴射ノズル10bを制御して、一回の燃料噴射を主噴射と副噴射とに分割し、その副噴射を主噴射による燃焼の後期に実行し(主噴射の燃焼による発生した熱量がゼロになる前に副噴射の燃焼を開始し)、不完全燃焼の発生を抑制する、すなわち不完全燃焼による煤の発生を抑制する。これにより、パティキュレートフィルタ22の煤捕集能力が低くても、外部に排出される煤量は抑制される。
【0064】
ここからは、図4(B)〜(D)に示す制御のいずれを実行するかを決定する制御の流れを、図9に示すフローを参照しながら説明する。
【0065】
まず、図9に示すフローは、ステップS100において低圧EGR領域であること、ステップS110においてエンジン負荷の単位時間あたりの減少量ΔLが規定量より大きいこと、ステップS120において燃焼室10b内の酸素濃度Cの実値Crと目標値Ctとの偏差Dが規定値より大きいこと、すなわち低圧EGR領域内においてエンジン負荷が減少したことを検出して開始される。
【0066】
ステップS130において、制御装置50は、パティキュレートフィルタ22の煤捕集量が規定量より少ないか否かを判定する。少ない場合はステップS140に進む。そうでない場合はステップS150に進む。
【0067】
ステップS140において、制御装置50は、高圧EGR弁16aの開度量を増量し、高圧EGR通路16によるEGR量を増量する(図4(B)参照。)。
【0068】
一方、ステップS130でパティキュレートフィルタ22の煤捕集量が多いと判定すると、ステップS150において、制御装置50は、NOx触媒24の残りの処理能力が規定能力より大きいか否か、すなわち残りのNOxの処理可能量が規定量より大きいか否かを判定する。大きい場合はステップS160に進む。そうでない場合はステップS170に進む。
【0069】
ステップS160において、制御装置50は、低圧EGR弁18aの開度量を増量補正する(図4(C)参照。)。
【0070】
一方、ステップS150でNOx触媒24の処理能力が小さいと判定すると、ステップS170において、制御装置50は、高圧EGR弁16aの開度量を増量し、高圧EGR通路16によるEGR量を増量するとともに、燃料の分割噴射の回数を増加する。
【0071】
ステップS180において、制御装置50は、燃焼室10b内の酸素濃度Cの実値Crと目標値Ctとの偏差Dがほぼゼロであるか否かを判定する。ほぼゼロの場合はステップS190に進む。そうでない場合はステップS130に戻る。
【0072】
ステップS190において、制御装置50は、通常の低圧EGR領域での制御にリセットする。そして、リターンに進み、スタートに戻る。
【0073】
本実施形態によれば、低圧EGR領域内においてディーゼルエンジン10の負荷が減少したときに、すぐに燃焼室10a内の酸素濃度を減少することができる。それにより、負荷が減少した直後において、NOxの発生量が増加することが抑制される。また、それを、パティキュレートフィルタ22やNOx触媒23の状態を考慮して、すなわち外部に排出される煤やNOxの量を抑制して実行できる。
【0074】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0075】
例えば、上述の実施形態の場合、図4(C)に示すタイムチャートに関する制御は、低圧EGR領域においてディーゼルエンジン10の負荷が減少したときに、減少先の負荷値に基づく排気ガスの総EGR量を一次的に増量補正し、その増量補正に従い低圧EGR弁18aの開度量を一時的に増量補正しているが、それとともに、または代わって、高圧EGR弁18aの開度量を増量してもよい。ただし、排気ガスの総EGR量が増量補正されているので、高圧EGR弁18aの開度量が増量しすぎると、燃焼室10aの酸素濃度が大きく低下し、煤が大量に発生することになる。
【0076】
また、上述の実施形態の制御は、図9にも示すように、NOx触媒24の処理能力を考慮し、燃料を燃焼室10aに分割噴射できるディーゼルエンジン10に対するものであるが、NOx触媒を備えず分割噴射を実行しないディーゼルエンジンにも本発明は適用可能である。
【0077】
この場合、図10に示すフローのような制御の流れになる。図9に示すフローと異なる点は、NOx触媒24の処理能力を判定するステップ(S150)と、高圧EGR弁16aの開度量を増量するとともに、副噴射を実行するステップ
(S170)とが存在しない点である。
【0078】
図10に示すフローを説明すると、このフローは、ステップS300において低圧EGR領域であること、ステップS310においてエンジン負荷の単位時間あたりの減少量ΔLが規定量より大きいこと、ステップS320において燃焼室内の酸素濃度Cの実値Crと目標値Ctとの偏差Dが規定値より大きいこと、すなわち低圧EGR領域内においてエンジン負荷が減少したことを検出して開始される。
【0079】
ステップS330において、制御装置は、パティキュレートフィルタの煤捕集量が規定量より少ないか否かを判定する。少ない場合はステップS340に進む。そうでない場合はステップS350に進む。
【0080】
ステップS340において、制御装置は、高圧EGR弁の開度量を増量し、高圧EGR通路によるEGR量を増量する。
【0081】
一方、ステップS330でパティキュレートフィルタの煤捕集量が多いと判定すると、ステップS350において、制御装置は、低圧EGR弁の開度量を増量補正する。
ステップS360において、制御装置は、燃焼室内の酸素濃度Cの実値Crと目標値Ctとの偏差Dがほぼゼロであるか否かを判定する。ほぼゼロの場合はステップS370に進む。そうでない場合はステップS330に戻る。
【0082】
ステップS370において、制御装置は、通常の低圧EGR領域での制御にリセットする。そして、リターンに進み、スタートに戻る。
【0083】
さらに、図9の実施形態の制御は、NOx触媒を備えず分割噴射を実行できるディーゼルエンジンにおいて、燃費を多少犠牲にしてでもNOxを極力抑えたい場合に、低圧EGR弁の開度量を増量する代わりに高圧EGR弁の開度量を増量するとともに副噴射を実行してもよい。
【0084】
この場合、図11に示すフローのような制御の流れになる。図9に示すフローと異なる点は、NOx触媒24の処理能力を判定するステップ(S150)と、低圧EGR弁18aの開度量を増量補正するステップ(S160)とが存在しない点である。
【0085】
図11に示すフローを説明すると、このフローは、ステップS500において低圧EGR領域であること、ステップS510においてエンジン負荷の単位時間あたりの減少量ΔLが規定量より大きいこと、ステップS520において燃焼室内の酸素濃度Cの実値Crと目標値Ctとの偏差Dが規定値より大きいこと、すなわち低圧EGR領域内においてエンジン負荷が減少したことを検出して開始される。
【0086】
ステップS530において、制御装置は、パティキュレートフィルタの煤捕集量が規定量より少ないか否かを判定する。少ない場合はステップS540に進む。そうでない場合はステップS550に進む。
【0087】
ステップS540において、制御装置は、高圧EGR弁の開度量を増量し、高圧EGR通路によるEGR量を増量する。
【0088】
一方、ステップS530でパティキュレートフィルタの煤捕集量が多いと判定すると、ステップS550において、制御装置は、高圧EGR弁の開度量を増量するとともに副噴射を実行する。
ステップS560において、制御装置は、燃焼室内の酸素濃度Cの実値Crと目標値Ctとの偏差Dがほぼゼロであるか否かを判定する。ほぼゼロの場合はステップS570に進む。そうでない場合はステップS530に戻る。
【0089】
ステップS570において、制御装置は、通常の低圧EGR領域での制御にリセットする。そして、リターンに進み、スタートに戻る。
【産業上の利用可能性】
【0090】
以上のように、本発明は、排気ターボ過給機と、該過給機のタービンの下流側の排気通路から該過給機のコンプレッサの上流側の吸気通路とを連通して低圧の排気ガスを還流する低圧EGR通路と、タービンの上流側の排気通路からコンプレッサの下流側の吸気通路とを連通して高圧の排気ガスを還流する高圧EGR通路とを有するエンジンにおいて、低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態でエンジンの負荷が減少したときに、すぐに燃焼室内の酸素濃度を減少させ、NOxの発生を抑制することができる。したがって、ディーゼルエンジンを搭載した車両の分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0091】
10 内燃機関(ディーゼルエンジン)
12 排気通路
14 吸気通路
16 高圧EGR通路
18 低圧EGR通路
20 ターボ過給機
20a タービン
20b コンプレッサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に配置されたタービンと吸気通路に配置されたコンプレッサとでなる排気ターボ過給機と、前記タービンの下流側の排気通路と前記コンプレッサの上流側の吸気通路とを連通する低圧EGR通路と、前記タービンの上流側の排気通路と前記コンプレッサの下流側の吸気通路とを連通する高圧EGR通路と、前記低圧EGR通路に設けられて該通路を通過する排気ガスの還流量を調節する低圧EGR量調節手段と、前記高圧EGR通路に設けられて該通路を通過する排気ガスの還流量を調節する高圧EGR量調節手段と、排気通路に設けられて排気ガス中の煤を捕集するパティキュレートフィルタとを有する圧縮着火式の内燃機関の排気再循環を制御する方法であって、
前記低圧EGR量調節手段および高圧EGR量調節手段の少なくとも一方を制御して、燃焼室内の酸素濃度を内燃機関の負荷に対応する濃度に制御する酸素濃度制御工程を含み、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記酸素濃度制御工程として、
前記パティキュレートフィルタの煤捕集能力が所定捕集能力より低い場合は、全排気ガス還流量に対する前記低圧EGR通路による還流量と前記高圧EGR通路による還流量との配分比が所定の比である第1配分比で排気ガスを還流する第1工程を実行し、
前記パティキュレートフィルタの煤捕集能力が所定捕集能力より高い場合は、前記第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第2配分比で排気ガスを還流する第2工程を実行することを特徴とする内燃機関の排気再循環を制御する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の排気再循環を制御する方法であって、
排気ガス中のNOxを処理することにより該NOxの外部への排出を抑制するNOx処理装置が備えられている場合において、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記パティキュレートフィルタの煤捕集能力が前記所定捕集能力より低く、かつ前記NOx処理装置のNOx処理能力が所定処理能力より低い場合は、前記酸素濃度制御工程として、前記第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第3配分比で排気ガスを還流する第3工程を実行し、
それとともに、燃料の分割噴射の回数を増加する燃料噴射制御工程を実行することを特徴とする内燃機関の排気再循環を制御する方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の内燃機関の排気再循環を制御する方法であって、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記酸素濃度制御工程として前記第1工程を実行する場合、該第1工程の実行開始時に、減少先の負荷値に基づく全排気ガス還流量を一時的に増量補正し、その増量補正に従い前記低圧EGR量調節手段を制御することを特徴とする内燃機関の排気再循環を制御する方法。
【請求項4】
排気通路に配置されたタービンと吸気通路に配置されたコンプレッサとでなる排気ターボ過給機と、前記タービンの下流側の排気通路と前記コンプレッサの上流側の吸気通路とを連通する低圧EGR通路と、前記タービンの上流側の排気通路と前記コンプレッサの下流側の吸気通路とを連通する高圧EGR通路と、前記低圧EGR通路に設けられて該通路を通過する排気ガスの還流量を調節する低圧EGR量調節手段と、前記高圧EGR通路に設けられて該通路を通過する排気ガスの還流量を調節する高圧EGR量調節手段と、排気通路に設けられて排気ガス中の煤を捕集するパティキュレートフィルタとを有する圧縮着火式の内燃機関の排気再循環を制御するシステムであって、
前記低圧EGR量調節手段および高圧EGR量調節手段の少なくとも一方を制御して、燃焼室内の酸素濃度を内燃機関の負荷に対応する濃度に制御する酸素濃度制御手段と、
前記パティキュレートフィルタの煤捕集能力を検出する煤捕集能力検出手段とを有し、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記酸素濃度制御手段が、
前記煤捕集能力検出手段が検出するパティキュレートフィルタの煤捕集能力が所定捕集能力より低い場合は、全排気ガス還流量に対する前記低圧EGR通路による還流量と前記高圧EGR通路による還流量との配分比が所定の比である第1配分比で排気ガスを還流する第1制御を実行し、
前記煤捕集能力検出手段が検出するパティキュレートフィルタの煤捕集能力が所定捕集能力より高い場合は、前記第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第2配分比で排気ガスを還流する第2制御を実行することを特徴とする内燃機関の排気再循環を制御するシステム。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関の排気再循環を制御するシステムであって、
排気ガス中のNOxを処理することにより該NOxの外部への排出を抑制するNOx処理装置と、
前記NOx処理装置の処理能力を検出するNOx処理能力検出手段と、
燃焼室への燃料噴射を制御する燃料噴射制御手段とを有し、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記煤捕集能力検出手段が検出するパティキュレートフィルタの煤捕集能力が前記所定捕集能力より低く、かつ前記NOx処理能力検出手段が検出するNOx処理装置のNOx処理能力が所定処理能力より低い場合は、前記酸素濃度制御手段は、前記第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第3配分比で排気ガスを還流する第3制御を実行し、
それとともに、前記燃料噴射制御手段が、燃料の分割噴射の回数を増加することを特徴とする内燃機関の排気再循環を制御するシステム。
【請求項6】
請求項4または5に記載の内燃機関の排気再循環を制御するシステムであって、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記酸素濃度制御手段が前記第1制御を実行する場合、該第1制御の実行開始時に、減少先の負荷値に基づく全排気ガス還流量を一時的に増量補正し、その増量補正に従い前記低圧EGR量調節手段を制御することを特徴とする内燃機関の排気再循環を制御するシステム。
【請求項1】
排気通路に配置されたタービンと吸気通路に配置されたコンプレッサとでなる排気ターボ過給機と、前記タービンの下流側の排気通路と前記コンプレッサの上流側の吸気通路とを連通する低圧EGR通路と、前記タービンの上流側の排気通路と前記コンプレッサの下流側の吸気通路とを連通する高圧EGR通路と、前記低圧EGR通路に設けられて該通路を通過する排気ガスの還流量を調節する低圧EGR量調節手段と、前記高圧EGR通路に設けられて該通路を通過する排気ガスの還流量を調節する高圧EGR量調節手段と、排気通路に設けられて排気ガス中の煤を捕集するパティキュレートフィルタとを有する圧縮着火式の内燃機関の排気再循環を制御する方法であって、
前記低圧EGR量調節手段および高圧EGR量調節手段の少なくとも一方を制御して、燃焼室内の酸素濃度を内燃機関の負荷に対応する濃度に制御する酸素濃度制御工程を含み、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記酸素濃度制御工程として、
前記パティキュレートフィルタの煤捕集能力が所定捕集能力より低い場合は、全排気ガス還流量に対する前記低圧EGR通路による還流量と前記高圧EGR通路による還流量との配分比が所定の比である第1配分比で排気ガスを還流する第1工程を実行し、
前記パティキュレートフィルタの煤捕集能力が所定捕集能力より高い場合は、前記第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第2配分比で排気ガスを還流する第2工程を実行することを特徴とする内燃機関の排気再循環を制御する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の排気再循環を制御する方法であって、
排気ガス中のNOxを処理することにより該NOxの外部への排出を抑制するNOx処理装置が備えられている場合において、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記パティキュレートフィルタの煤捕集能力が前記所定捕集能力より低く、かつ前記NOx処理装置のNOx処理能力が所定処理能力より低い場合は、前記酸素濃度制御工程として、前記第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第3配分比で排気ガスを還流する第3工程を実行し、
それとともに、燃料の分割噴射の回数を増加する燃料噴射制御工程を実行することを特徴とする内燃機関の排気再循環を制御する方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の内燃機関の排気再循環を制御する方法であって、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記酸素濃度制御工程として前記第1工程を実行する場合、該第1工程の実行開始時に、減少先の負荷値に基づく全排気ガス還流量を一時的に増量補正し、その増量補正に従い前記低圧EGR量調節手段を制御することを特徴とする内燃機関の排気再循環を制御する方法。
【請求項4】
排気通路に配置されたタービンと吸気通路に配置されたコンプレッサとでなる排気ターボ過給機と、前記タービンの下流側の排気通路と前記コンプレッサの上流側の吸気通路とを連通する低圧EGR通路と、前記タービンの上流側の排気通路と前記コンプレッサの下流側の吸気通路とを連通する高圧EGR通路と、前記低圧EGR通路に設けられて該通路を通過する排気ガスの還流量を調節する低圧EGR量調節手段と、前記高圧EGR通路に設けられて該通路を通過する排気ガスの還流量を調節する高圧EGR量調節手段と、排気通路に設けられて排気ガス中の煤を捕集するパティキュレートフィルタとを有する圧縮着火式の内燃機関の排気再循環を制御するシステムであって、
前記低圧EGR量調節手段および高圧EGR量調節手段の少なくとも一方を制御して、燃焼室内の酸素濃度を内燃機関の負荷に対応する濃度に制御する酸素濃度制御手段と、
前記パティキュレートフィルタの煤捕集能力を検出する煤捕集能力検出手段とを有し、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記酸素濃度制御手段が、
前記煤捕集能力検出手段が検出するパティキュレートフィルタの煤捕集能力が所定捕集能力より低い場合は、全排気ガス還流量に対する前記低圧EGR通路による還流量と前記高圧EGR通路による還流量との配分比が所定の比である第1配分比で排気ガスを還流する第1制御を実行し、
前記煤捕集能力検出手段が検出するパティキュレートフィルタの煤捕集能力が所定捕集能力より高い場合は、前記第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第2配分比で排気ガスを還流する第2制御を実行することを特徴とする内燃機関の排気再循環を制御するシステム。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関の排気再循環を制御するシステムであって、
排気ガス中のNOxを処理することにより該NOxの外部への排出を抑制するNOx処理装置と、
前記NOx処理装置の処理能力を検出するNOx処理能力検出手段と、
燃焼室への燃料噴射を制御する燃料噴射制御手段とを有し、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記煤捕集能力検出手段が検出するパティキュレートフィルタの煤捕集能力が前記所定捕集能力より低く、かつ前記NOx処理能力検出手段が検出するNOx処理装置のNOx処理能力が所定処理能力より低い場合は、前記酸素濃度制御手段は、前記第1配分比よりも高圧EGR通路による還流量の割合が高い第3配分比で排気ガスを還流する第3制御を実行し、
それとともに、前記燃料噴射制御手段が、燃料の分割噴射の回数を増加することを特徴とする内燃機関の排気再循環を制御するシステム。
【請求項6】
請求項4または5に記載の内燃機関の排気再循環を制御するシステムであって、
前記低圧EGR通路で排気ガスを還流している状態で内燃機関の負荷が減少するときに、
前記酸素濃度制御手段が前記第1制御を実行する場合、該第1制御の実行開始時に、減少先の負荷値に基づく全排気ガス還流量を一時的に増量補正し、その増量補正に従い前記低圧EGR量調節手段を制御することを特徴とする内燃機関の排気再循環を制御するシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−203282(P2010−203282A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47827(P2009−47827)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]