説明

内燃機関の燃焼制御装置

【課題】 燃焼温度が低い条件で運転された際に燃焼室に残留する煤やオイルの固形成分である残留固体成分(燃焼室デポジット)の堆積を低減させる。
【解決手段】 燃焼温度が低い領域の割合が多いときに、EGR率を低下させる、点火時期を進角させる、冷却水温を上昇させる等、燃焼温度を上昇させる施策を実施し、吸気流制御弁25を閉じた状態でEGR率を高めて排気を多量に導入して燃焼室6に煤等が残留しやすい場合でも、燃焼室6の燃焼室デポジットが堆積し難い状態の運転を的確に行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼制御装置に関し、燃焼温度が低い条件で運転された際に燃焼室に残留する煤やオイルの固形成分である残留固体成分の堆積を低減させるようにしたものである。
【0002】
特に、本発明は、排気ガス還流手段及び吸気通路を開閉して前記燃焼室に流入する吸気の流れを制御する吸気流制御手段が備えられた内燃機関において、吸気通路が閉じられた際に排気ガスの還流量を増加する状態、即ち、燃焼温度が低く煤やオイルの固形成分が残留しやすい状態で、燃焼室に残留する煤やオイルの固形成分である残留固体成分の堆積を低減させるようにしたものである。
【背景技術】
【0003】
排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を低減する装置として、内燃機関(エンジン)の排気の一部を吸気系に還流させる排気還流装置(EGR装置)が知られている。EGR装置は、吸気通路と排気通路とを連通して排気を吸気通路に導入するEGR通路を備え、EGR弁でEGR通路を開閉することでエンジンの運転状態に応じて排気の還流量を制御している(例えば、下記特許文献1参照)。
【0004】
一方、エンジンの燃焼室内に流入する吸気の流れを制御して、燃焼室内で吸気に回転流(タンブル流)を発生させ、燃料の燃焼を促進させる吸気制御装置が知られている。吸気制御装置は、吸気通路にフローコントロールバルブ(吸気流制御弁)を設け、例えば、吸気通路の下部を吸気流制御弁で閉じることで吸気通路内の上方に吸気を偏らせて流通させ、縦タンブル流を発生させるようになっている(例えば、下記特許文献2参照)。
【0005】
吸気流制御弁で吸気通路を閉じた場合、EGR通路を開いて排気を吸気通路に多量に導入しても燃焼変動が悪化せずに燃費がよくなることが知られている。つまり、吸気流制御弁を閉じた状態でEGR率を高めて排気を多量に導入することにより、燃焼を悪化させずに燃費を向上させることが可能になる。
【0006】
燃焼温度が低い状態でエンジンの運転を繰り返した場合、例えば、暖気運転が終了するまでの走行を繰り返すような運転を行った場合、煤やオイルの固形成分である残留固体成分(燃焼室デポジット)がエンジンの燃焼室に堆積しやすくなる。EGR装置により排気を還流させる割合が高くなると燃焼室デポジットの堆積量が増加する虞がある。特に、吸気制御装置が備えられたエンジンでは、吸気流制御弁を閉じた状態でEGR率を高めて排気を多量に導入するようになっているため、燃焼室の温度が低下し、残留固体成分の堆積量が増加する傾向にある。
【0007】
【特許文献1】特開2007−32315号公報
【特許文献2】特開2004−293484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、燃焼温度が低い条件で運転された場合であっても、燃焼室に残留する煤やオイルの固形成分である残留固体成分(燃焼室デポジット)の堆積を低減させることができる内燃機関の燃焼制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の内燃機関の燃焼制御装置は、内燃機関の燃焼室の単位期間あたりの燃焼温度を検出または推定する燃焼温度検出手段と、前記内燃機関の燃焼室の燃焼温度を上げる昇温施策手段と、前記昇温施策手段を作動させる燃焼制御手段とを備え、前記燃焼制御手段は、少なくとも燃焼温度が低い低温燃焼領域と燃料温度が高い高温燃焼領域とを有する複数の領域を備え、前記所定期間内の前記燃焼温度検出手段で検出された複数の燃焼温度の分布状態に基づいて前記昇温施策手段を作動させることを特徴とする。
【0010】
請求項1に係る本発明では、残留固形成分の堆積に影響のある内燃機関の燃焼室の燃焼温度を検出または推定し、燃焼温度が低い状態が続いたとき、または燃焼温度が高い状態が少ないときに昇温施策手段により燃焼室の燃焼温度が上昇するように内燃機関の運転を行い、燃費を考慮しつつ残留固形成分の堆積量を減少させることができる。
【0011】
好ましくは、低温燃焼領域での運転の割合が所定値を超えたときに昇温施策手段を作動させるとよい。この構成によれば、低温燃焼領域での運転による残留固形成分の堆積量の増加と高温燃焼領域での運転による残留固形成分の堆積量の減少を考慮して、過度な昇温施策手段の作動を抑制することができる。
【0012】
請求項2に係る本発明の内燃機関の燃焼制御装置は、請求項1において、前記燃焼制御手段は、前記昇温施策手段の作動期間内の前記燃焼温度検出手段で検出された複数の燃焼温度の分布状態に基づいて前記昇温施策手段を中止させることを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る本発明では、燃焼温度が高い状態が続いたとき、または燃焼温度が低い状態が少ないときに昇温施策手段の作動を中止し、過度な昇温施策手段の作動継続を抑制することができる。
【0014】
好ましくは、高温燃焼領域での運転が所定値となったときに昇温施策手段の作動を中止させるとよい。この構成によれば、昇温施策手段の作動中は基本的に残留固形成分が堆積しにくい状態となっているため、高温燃焼領域のみ考慮することで制御をシンプルにできる。
【0015】
請求項3に係る本発明の内燃機関の燃焼制御装置は、請求項1又は2において、前記燃焼温度検出手段は、単位時間あたりの前記内燃機関のエンジン回転数と負荷の平均値に基づいて検出されることを特徴とする。
【0016】
請求項3に係る本発明では、エンジン回転数と負荷により簡単に燃焼温度を検出することができる。例えば、低回転低負荷領域を低温燃焼領域、高回転高負荷を高温燃焼領域と設定し、単位期間の平均エンジン回転数と平均負荷に基づいて単位期間の燃焼温度を得ることができる。
【0017】
好ましくは、内燃機関の始動から停止までを単位期間とするとよい。この構成によれば、頻繁に平均エンジン回転数や平均負荷、燃焼温度を検出する必要がなく、燃焼室の燃焼温度を検出することができ残留固形成分の堆積量を得ることができる。
【0018】
請求項4に係る本発明の内燃機関の燃焼制御装置は、請求項1〜3の何れかにおいて、前記昇温施策手段は、前記排気ガス還流手段により還流させる排気ガスの量を減少させる手段、点火時期を進角する手段、前記内燃機関の冷却水温度を高くする手段の少なくとも一つの手段であることを特徴とする。
【0019】
請求項4に係る本発明では、EGR率を低くして還流する排気量を減らすことで燃焼温度の低下を抑制する、点火時期を進角して最高圧力を高くして最高圧力の位置を上死点に近づけることで燃焼温度を上昇させる、冷却水温を高くすることで燃焼温度を上昇させる、ことの少なくとも一つの手段により燃焼温度を上昇させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の内燃機関の燃焼制御装置は、燃焼温度が低い条件で運転された場合であっても、燃焼室に残留する煤やオイルの固形成分である残留固体成分(燃焼室デポジット)の堆積を低減させることができる。
【0021】
特に、排気ガス還流手段及び吸気通路を開閉して前記燃焼室に流入する吸気の流れを制御する吸気流制御手段が備えられた内燃機関において、吸気通路が閉じられた際に排気ガスの還流量を増加する状態、即ち、燃焼温度が低く煤やオイルの固形成分が残留しやすい状態で、燃焼室に残留する燃焼室デポジットの堆積を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下図面に基づいて本発明の一実施形態例を説明する。以下の実施形態例の内燃機関は、吸気管噴射型の多気筒(例えば4気筒)ガソリンエンジンを例示してある。また、排気の一部を吸気系に還流させる排気還流装置(EGR装置)及び吸気通路にフローコントロールバルブ(吸気流制御弁)を有する吸気制御装置が設けられたガソリンエンジンを例示してある。
【0023】
尚、内燃機関としては、多気筒ガソリンエンジンだけでなく、筒内噴射型ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等を適用することも可能である。また、EGR装置及び吸気制御装置を備えていない内燃機関を適用することも可能である。
【0024】
図1には本発明の一実施形態例に係る内燃機関の燃焼制御装置の概略構成、図2には運転領域を設定するための制御フローチャート、図3には燃焼温度の制御フローチャート、図4には運転領域を設定するためのマップ、図5には燃焼温度とEGR率との関係を表すグラフ、図6には燃焼温度と点火時期との関係を表すグラフ、図7には燃焼温度と冷却水温との関係を表すグラフを示してある。
【0025】
図1に基づいて内燃機関の燃焼制御装置の構成を説明する。
【0026】
図に示すように、内燃機関(エンジン)であるエンジン本体(以下、エンジンと称する)1のシリンダヘッド2には気筒毎に点火プラグ3が取り付けられ、点火プラグ3には高電圧を出力する点火コイル4が接続されている。シリンダヘッド2には気筒毎に吸気ポート5が形成され、各吸気ポート5の燃焼室6側には吸気弁7がそれぞれ設けられている。吸気弁7は、エンジン回転に応じて回転するカムシャフト(図示省略)のカムに倣って開閉作動され、各吸気ポート5と燃焼室6との連通・遮断を行なうようになっている。
【0027】
各吸気ポート5には吸気マニホールド9の一端がそれぞれ接続され、各吸気ポート5に吸気マニホールド9が連通している。吸気マニホールド9には電磁式の燃料噴射弁(インジェクション)10が取り付けられ、燃料タンクから燃料パイプを介して燃料噴射弁10に燃料が供給される。
【0028】
また、シリンダヘッド2には気筒毎に排気ポート11が形成され、各排気ポート11の燃焼室6側には排気弁12がそれぞれ設けられている。排気弁12は、エンジン回転に応じて回転するカムシャフト(図示省略)のカムに倣って開閉作動され、各排気ポート11と燃焼室6との連通・遮断を行なうようになっている。そして、各排気ポート11には排気マニホールド13の一端がそれぞれ接続され、各排気ポート11に排気マニホールド13が連通している。
【0029】
尚、このようなエンジンは公知のものであるため、構成の詳細については省略してある。
【0030】
燃料噴射弁10の上流側における吸気マニホールド9には吸気管14(吸気通路)が接続され、吸気管14には電磁式のスロットル弁15が取り付けられ、スロットル弁15の弁開度を検出するスロットルポジションセンサ16が設けられている。スロットル弁15の上流側には吸入空気量を計測するエアフローセンサ17が設けられている。エアフローセンサ17としては、カルマン渦流式やホットフィルム式のエアフローセンサが使用される。また、吸気マニホールド9とスロットル弁15との間における吸気管14にはサージタンク18が設けられている。
【0031】
排気マニホールド13の他端には排気管20が接続され、排気マニホールド13には排気ガス循環ポート(EGRポート)21が分岐している。EGRポート21にはEGR管22の一端が接続され、EGR管22の他端はサージタンク18の上流部の吸気管14に接続されている。サージタンク18に近接するEGR管22にはEGRバルブ23が設けられ、EGRバルブ23が開かれることにより排気ガスの一部がEGR管22を介してサージタンク18の上流部の吸気管14に導入される。
【0032】
つまり、EGR管22及びEGRバルブ23により排気ガス還流手段(EGR装置)が構成されている。EGR装置は、排気ガスの一部をエンジン1の吸気系(サージタンク18)に還流させ、エンジン1の燃焼室6内の燃焼温度を低下させ、窒素酸化物(NOx)の排出量を低減させるための装置であり、EGRバルブ23が開閉動作されることにより開度に応じて所定のEGR率で排気ガスの一部がEGRガスとして吸気系に還流される。
【0033】
一方、吸気マニホールド9にはフローコントロールバルブ(吸気流制御弁)25が設けられ、吸気流制御弁25は負圧アクチュエータ等のアクチュエータ26によって開閉される。吸気流制御弁25はバタフライバルブやシャッターバルブ等の開閉式のバルブで構成され、図に示したように、吸気通路の下半分を開閉するようになっている。即ち、吸気流制御弁25を閉じることにより、吸気通路の断面の上側に開口部を形成し、吸気通路の断面積を狭くすることで燃焼室6の内部に縦タンブル流を発生させるようになっている。
【0034】
ECU(電子コントロールユニット)31は、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えている。このECU31により、エンジン1及びEGRバルブ23、吸気流制御弁25を含めた燃焼制御装置の総合的な制御が行われる。
【0035】
ECU31の入力側には、上述したTPS16、エアフローセンサ17、エンジンのクランク角を検出してエンジン回転速度(Ne)を求めるクランク角センサ32、エンジン1の冷却水温を検出する水温センサ33等の各種センサ類が接続され、これらセンサ類からの検出情報が入力される。
【0036】
一方、ECU31の出力側には、上述の燃料噴射弁10、点火コイル4、スロットル弁15、EGRバルブ23、吸気流制御弁25のアクチュエータ26等の各種出力デバイスが接続されている。これら各種出力デバイスには、各種センサ類からの検出情報に基づきECU31で演算された燃料噴射量、燃料噴射時間、点火時期、EGRバルブ23の操作時期・操作量、吸気流制御弁25の操作時期等がそれぞれ出力される。
【0037】
各種センサ類からの検出情報に基づき空燃比が適正な目標空燃比に設定され、目標空燃比に応じた量の燃料が適正なタイミングで燃料噴射弁10から噴射され、また、スロットル弁15が適正な開度に調整され、点火プラグ3により適正なタイミングで火花点火が実施される。
【0038】
また、クランク角センサ32等の検出情報に基づきエンジン1の回転速度(Ne)や負荷が求められ、回転速度(Ne)や負荷に応じて吸気流制御弁25が開閉制御されて燃焼室6内での吸気のタンブル流の強さが切り換えられる。例えば、エンジン1の低回転・低負荷時には吸気流制御弁25を閉動作させてタンブル流を強くして燃焼性を向上させ、高回転・高負荷時には吸気流制御弁25を開動作させて吸気の流動抵抗の上昇を抑制して高い出力を確保している。
【0039】
更に、エンジン1の速度(Ne)や負荷に応じてEGR率が設定され、所定のEGR率になるようにEGRバルブ23が開閉動作され、排気ガスの一部をエンジン1の吸気系(サージタンク18)に還流させて、エンジン1の燃焼室6内の燃焼温度を低下させ、窒素酸化物(NOx)の排出量を低減させている。特に、エンジン1の低回転・低負荷時に吸気流制御弁25を閉動作させてタンブル流を強くしている場合、燃焼性が向上して燃焼が安定し燃焼変動が生じ難い状態なので、排気ガスの一部を大量に導入して燃費を向上させている。
【0040】
燃焼温度が低い状態でエンジンの運転を繰り返した場合、例えば、暖気運転が終了するまでの短時間の走行を繰り返したり、点火時期を遅角(リタード)した運転を行った場合、煤やオイルの固形成分である残留固体成分(燃焼室デポジット)がエンジンの燃焼室に堆積しやすくなる。EGR装置により排気を還流させる割合が高くなると燃焼室デポジットの堆積量が増加する虞がある。特に、吸気制御装置が備えられたエンジンでは、吸気流制御弁を閉じた状態でEGR率を高めて排気を多量に導入するようになっているため、燃焼室の温度が低下し、燃焼室デポジットの堆積量が増加する傾向にある。
【0041】
本実施形態例のエンジン1では、エンジン1の回転速度(Ne)と負荷とに基づいて燃焼温度を推定し(燃焼温度検出手段)、燃焼温度の低い運転領域の割合が所定割合を超えた時に燃焼室デポジットが増加したとして、燃焼温度を上昇させる施策(昇温施策手段)を実施して燃焼室6の燃焼温度を上昇させるようにしている(昇温施策手段の作動:燃焼制御手段)。
【0042】
燃焼温度を上昇させる施策は、排気ガスの還流量を減らして(EGR率を低下させる)燃焼温度の低下を抑制したり、点火時期を進角して最高圧力を高くして最高圧力の位置を上死点に近づけることで燃焼温度を上昇させたり、冷却水温を高くすることで燃焼温度を上昇させることが実施される。
【0043】
燃焼温度を上昇させる施策は、この他にも、エンジン1の制御パラメータを調整して燃焼温度を変更する等、燃焼室6の燃焼温度を上昇させるものであれば、種々の手段を講じることが可能である。
【0044】
このため、燃焼温度の低い運転領域の割合が多い運転状態の時に、燃焼温度が上昇するようにエンジン1の運転を行い、吸気流制御弁を閉じた状態でEGR率を高めて排気を多量に導入して燃焼室6に煤等が残留しやすい場合でも、燃焼室6の燃焼室デポジットが堆積し難い状態の運転を的確に行なうことができる。この結果、吸気流制御弁を閉じた状態でEGR率を高めて燃費を向上させることができるエンジン1で、燃焼温度が低い条件で運転された場合であっても、燃焼室6の燃焼室デポジットを低減させることができ、燃焼室デポジットの抑制と燃費の向上とを両立させることが可能になる。
【0045】
図2〜図6に基づいて上述した燃焼制御装置の処理の詳細を説明する。
【0046】
図2に示した処理により運転領域の状態が検証され、図3に示した処理により運転領域の状況に応じた燃焼温度の上昇処理が実行される。
【0047】
図4に示すように、エンジン1の回転速度(Ne)と負荷(Load)とにより3つの運転領域A、B、Cに設定され、低負荷・低回転側で燃焼温度が低いA領域(低温燃焼領域)、高負荷・高回転側で燃焼温度が高いC領域(高温燃焼領域)、中間のB領域に設定されている。図4に示した領域のマップは、吸気流制御弁の開閉状況に応じて異なるものを用いることも可能である。例えば、吸気流制御弁を閉じた状態の場合はタンブル流が促進されるため、運転領域Aと運転領域Bの境界を低負荷・低回転側にシフトすると共に、運転領域Bと運転領域Cの境界を同様に低負荷・低回転側にシフトすることも可能である。
【0048】
図2の処理では、単位期間となるエンジン1の始動から停止までの1サイクル(1トリップ)の間での平均回転速度(平均Ne)と平均負荷(平均Load)がどの領域にあるかを判定し、各領域のカウンタを加算(アップ)する処理が実行される。そして、図3の処理では、図2の処理が繰り返された状態で、所定期間となる所定距離が走行したことを判定して燃焼温度が異なる各領域の割合を求め、各領域の割合に応じ、燃焼温度が低いA領域の割合が多いときに燃焼温度を上昇させる施策を講じる処理が実行される。
【0049】
図2に基づいて運転領域の検証の処理を説明する。
【0050】
図に示すように、処理がスタートすると、ステップS1でエンジン1の回転速度(Ne)・負荷(Load)の情報が読み込まれ、ステップS2、ステップS3で今回のNe(n)及び今回のLoad(n)が設定される。
【0051】
ステップS2では、前回のNe(n-1)に係数kを乗じた値と、瞬時の回転速度であるNesに(1−k)を乗じた値とを加算して、次式により今回の回転速度であるNe(n)を設定する。つまり、ソフトフィルタ処理により平均化されたNe(n)を設定する。
Ne(n)=(1−k)*Nes+k*Ne(n-1)
【0052】
ステップS3では、前回のLoad(n-1)に係数kを乗じた値と、瞬時の負荷であるLoadsに(1−k)を乗じた値とを加算して、次式により今回の負荷であるLoad(n)を設定する。つまり、ソフトフィルタ処理により平均化されたLoad(n)を設定する。
Load(n)=(1−k)*Loads+k*Load(n-1)
【0053】
ステップS2で今回のNe(n)を設定し、ステップS3で今回のLoad(n)を設定した後、ステップS4でエンジン1の始動から停止までの1サイクル(1トリップ)が完了したか否かが判断される。ステップS2で1トリップが完了していない(No)と判断された場合、1トリップが完了するまでステップS1からステップS3までの処理を繰り返す。
【0054】
ステップS2で1トリップが完了した(Yes)と判断された場合、1トリップの間で平均化されたNe(n)及びLoad(n)がどの領域であるかがステップS5で判定される。つまり、1トリップの間で平均化されたNe(n)及びLoad(n)が図4に示した運転領域A、B、Cのどこに位置するかが判定される。
【0055】
ステップS5で領域が判定された後、判定された領域がA領域であるか否かがステップS6で判断され、ステップS6でA領域である(Yes)と判断された場合、ステップS7でA領域カウンタ(Ca)をアップする。ステップS6でA領域ではない(No)と判断された場合、判定された領域がB領域であるか否かがステップS8で判断される。ステップS8でB領域である(Yes)と判断された場合、ステップS9でB領域カウンタ(Cb)をアップする。ステップS8でB領域ではない(No)と判断された場合、1トリップの間で平均化されたNe(n)及びLoad(n)に基づく領域はC領域であるので、ステップS10でC領域カウンタ(Cc)をアップする。
【0056】
これにより、1トリップの間の運転が、低負荷・低回転側で燃焼温度が低いA領域になるか、高負荷・高回転側で燃焼温度が高いC領域になるか、中間のB領域になるかを判定していずれかの領域のカウンタがアップされる。図2の処理は、所定距離を走行するまでの間、1トリップでの運転の領域がカウントされていく。
【0057】
図3に基づいて燃焼温度を上昇させる施策の処理を説明する。
【0058】
図に示すように、処理がスタートすると、ステップS11で燃焼温度上昇処理の状態で所定距離2を走行したか否かが判断される。始めは燃焼温度上昇処理が行われていない(No)ためステップS12に進む。ステップS12で所定距離1を走行したか否かが判断され、ステップS12で所定距離1を走行していない(No)と判断された場合、リターンとなる(R)。ステップS12で所定距離1を走行している(Yes)と判断された場合、ステップS13でカウンタCa、Cb、Ccの値を加算してカウント値の積算Tを求める。ステップS13でカウント値の積算Tを求めた後、ステップS14で各領域の比率を求める。なお、所定距離1<所定距離2と設定している。
【0059】
つまり、カウント値の積算Tに対するCaの割合(Ca/T)をA領域の比率Arとし、カウント値の積算Tに対するCbの割合(Cb/T)をB領域の比率Brとし、カウント値の積算Tに対するCcの割合(Cc/T)をC領域の比率Crとする。これにより、所定走行距離における全体の運転領域のなかで(カウント値の積算Tのなかで)、燃焼温度が低いA領域、燃焼温度が高いC領域、中間のB領域がそれぞれどれ位存在するかが求められ、所定走行距離における燃焼温度が低い状況が求められる。即ち、燃焼室デポジットの状況が導出される。
【0060】
ステップS14で各領域の比率を求められた後、ステップS15で燃焼温度上昇フラグがONであるか否かが判断され、燃焼温度上昇の条件が整って処置を実行するフラグが立っているか否かが判断される。初めは、燃焼温度上昇フラグがONではない(No)と判断されるので、ステップS16に移行して燃焼温度を上昇させるための係数Kを設定する。
【0061】
係数Kは、燃焼温度が低いA領域の比率Arに重み係数Waを乗じた値と、燃焼温度が高いC領域の比率Crに重み係数Wcを乗じた値と、中間のB領域の比率Brに重み係数Wbを乗じた値とを加算して演算される。重み係数Wa、Wb、Wcは、エンジン1の経年変化、トータルの走行距離、運転状況等に応じて適宜設定される。また、重み係数Wa、Wb、Wcは、Wa>Wb>0、Wc<0の関係に設定されている。つまり、係数Kを求めるに際し、燃焼温度が低いA領域の比率Arが増加すると係数Kが増加すると共に、燃焼温度が高いC領域の比率Crが増加すると係数Kが減少するようにされ、燃焼温度上昇施策を実施させる状態に係数Kが設定されている。
【0062】
ステップS16で係数Kが設定された後、ステップS17で係数Kが所定値1(燃焼温度上昇を開始するための所定値)を超えているか否かが判断され、ステップS17で係数Kが所定値1を超えていない(No)と判断された場合、燃焼温度が高いC領域の比率Cr及び中間のB領域の比率Brが多いと判断、すなわち、燃焼室デポジットの堆積量が少ないと判断され、ステップS18に移行してカウンタCa、Cb、Ccをクリアし、燃焼温度上昇の施策を実施することなくリターンとなる。
【0063】
ステップS17で係数Kが所定値1を超えている(Yes)と判断された場合、燃焼温度が低いA領域の比率Arが多いと判断、すなわち、燃焼室デポジットの堆積量が多いと判断され、ステップS19で燃焼温度上昇の施策が実施され、燃焼温度を上昇させる。そして、ステップS20で燃焼温度上昇フラグをONにしてステップS18に移行する。燃焼温度が低いA領域の比率Arが多いと判断された時に、即ち、燃焼デポジットが増加する傾向にある運転状態が多いと判断された時に、燃焼温度を上昇させて燃焼室デポジットが減少するようにしている。その後ステップS18に移行してカウンタCa、Cb、Ccをクリアし、燃焼温度上昇の施策を実施状態としてリターンとなる。
【0064】
燃焼温度上昇の施策としては、EGRバルブ23(図1参照)を閉側に動作させ排気の還流量を減少させてEGR率を低下させることが挙げられる。図5に示すように、EGR率を低くすると燃焼温度が高くなるので、EGR率を低下させることで、燃焼温度を上昇させることができる。
【0065】
また、燃焼温度上昇の施策としては、点火プラグ3(図1参照)による点火時期を進角し、最高圧力を高くして最高圧力の位置を上死点に近づけることが挙げられる。図6に示すように、点火時期を進角すると燃焼温度が高くなるので、点火時期を進角することで燃焼温度を上昇させることができる。
【0066】
また、燃焼温度上昇の施策としては、冷却水の冷却を抑制してエンジン1(図1参照)の冷却水温を上昇させることが考えられる。図7に示すように、冷却水温を上昇させると燃焼温度が高くなるので、冷却水温を上昇させることで燃焼温度を上昇させることができる。
【0067】
尚、燃焼温度上昇の施策は、EGR率の低下、点火時期の進角、冷却水温の上昇を適宜組み合わせて行なうことも可能である。
【0068】
図3のフローチャートに戻り、燃焼温度上昇の施策を実施状態でリターンとなった場合、まずステップS11で燃焼温度上昇処理の状態で所定距離2を走行したか否か、ステップS12で所定距離1を走行したか否かが判断される。ここで、所定距離1<所定距離2と設定しているため、所定距離1まではステップS12でリターンされる。その後、所定距離1に到達したらステップS13に移行しカウンタCa、Cb、Ccの値を加算してカウント値の積算Tを求める。ステップS13でカウント値の積算Tを求めた後、ステップS14で各領域の比率を求める。ステップS15では既に燃焼温度を上昇させる施策が実施されているので、燃焼温度上昇フラグがONである(Yes)と判断され、ステップS21で燃焼温度を上昇させるための係数Kを変更する。ステップS21では、燃焼温度が高いC領域の比率Crに重み係数Wc(Wc<0)を乗じて係数Kを求め、C領域の比率のみの係数Kに変更する。
【0069】
ステップS21で係数Kを変更した後、ステップS22で係数Kが所定値2(燃焼温度上昇を中止するための所定値)以下であるか否かが判断され、ステップS22で係数Kが所定値2以下である(Yes)と判断された場合、ステップS23に移行して燃焼温度上昇施策を中止する。つまり、燃焼温度が高いC領域の運転状態が判断された場合に、燃焼温度上昇施策を中止する。ステップS22で係数Kが所定値2以下ではない(越えている:No)と判断された場合にはリターンとなり(R)、再び所定距離1を走行するまでステップS12でリターンを継続する。
【0070】
ここで、ステップS11で燃焼温度上昇処理の状態で所定距離2を走行したと判断された場合、ステップS23に移行して燃焼温度上昇施策を中止する。つまり、所定距離1(<所定距離2)を数回繰り返したが、C領域の比率が所定値2に到達しなくとも、燃焼温度上昇処理の状態を所定距離2が継続したなら燃焼温度上昇施策を中止することで適切な制御を実施できる。
【0071】
そして、ステップS24で燃焼温度上昇フラグをOFFにし、ステップS18に移行してカウンタCa、Cb、Ccをクリアしてリターンとなる。
【0072】
上述したように、低負荷・低回転側で燃焼温度が低いA領域、高負荷・高回転側で燃焼温度が高いC領域、中間のB領域の割合を求め、燃焼温度が低いA領域の割合が多いときに燃焼温度を上昇させる施策が実施されるので、低温燃焼領域での運転による残留固形成分の堆積量の増加と高温燃焼領域での運転による残留固形成分の堆積量の減少を考慮し、単純に低温燃焼領域での運転が増加しただけで過度に燃焼温度を上昇させる施策が実施されることを抑制できる。
【0073】
このため、吸気流制御弁を閉じた状態でEGR率を高めて燃費を向上させることができるエンジン1で、燃焼温度が低い条件で運転された場合であっても、燃焼室6の燃焼室デポジットを低減させることができ、燃焼室デポジットの抑制と燃費の向上とを両立させることが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、燃焼温度が低い条件で運転された際に燃焼室に残留する煤やオイルの固形成分である残留固体成分の堆積を低減させるようにした内燃機関の燃焼制御装置の産業分野で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態例に係る内燃機関の燃焼制御装置の概略構成図である。
【図2】運転領域を設定するための制御フローチャートである。
【図3】燃焼温度の制御フローチャートである。
【図4】運転領域を設定するためのマップである。
【図5】燃焼温度とEGR率との関係を表すグラフである。
【図6】燃焼温度と点火時期との関係を表すグラフである。
【図7】燃焼温度と冷却水温との関係を表すグラフである。
【符号の説明】
【0076】
1 エンジン本体(エンジン)
2 シリンダヘッド
3 点火プラグ
4 点火コイル
5 吸気ポート
6 燃焼室
7 吸気弁
9 吸気マニホールド
10 燃料噴射弁(インジェクション)
11 排気ポート
12 排気弁
13 排気マニホールド
14 吸気管
15 スロットル弁
16 スロットルポジションセンサ
17 エアフローセンサ
18 サージタンク
20 排気管
21 排気ガス循環ポート(EGRポート)
22 EGR管
23 EGRバルブ
25 フローコントロールバルブ(吸気流制御弁)
26 アクチュエータ
31 ECU(電子コントロールユニット)
32 クランク角センサ
33 水温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室の単位期間あたりの燃焼温度を検出または推定する燃焼温度検出手段と、
前記内燃機関の燃焼室の燃焼温度を上げる昇温施策手段と、
前記昇温施策手段を作動させる燃焼制御手段とを備え、
前記燃焼制御手段は、少なくとも燃焼温度が低い低温燃焼領域と燃焼温度が高い高温燃焼領域とを有する複数の領域を備え、前記所定期間内の前記燃焼温度検出手段で検出された複数の燃焼温度の分布状態に基づいて前記昇温施策手段を作動させる
ことを特徴とする内燃機関の燃焼制御装置。
【請求項2】
前記燃焼制御手段は、前記昇温施策手段の作動期間内の前記燃焼温度検出手段で検出された複数の燃焼温度の分布状態に基づいて前記昇温施策手段を中止させる
ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃焼制御装置。
【請求項3】
前記燃焼温度検出手段は、単位時間あたりの前記内燃機関のエンジン回転数と負荷の平均値に基づいて検出される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の燃焼制御装置。
【請求項4】
前記昇温施策手段は、前記排気ガス還流手段により還流させる排気ガスの量を減少させる手段、点火時期を進角する手段、前記内燃機関の冷却水温度を高くする手段の少なくとも一つの手段である
ことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の内燃機関の燃焼制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−248785(P2008−248785A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90704(P2007−90704)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】