説明

処理装置及び成膜方法

【課題】排気能力の向上を図り、大流量のガス供給時においても処理容器内の圧力を迅速に且つ効率的に減圧雰囲気にすることが可能な処理装置を提供する。
【解決手段】複数枚の被処理体Wに所定の処理を施すための処理装置において、処理空間の一側にノズル収容エリア48が設けられると共に、他側にノズル収容エリアより水平方向に放出されたガスを排気させるための排気口52が形成された処理容器44を有する処理容器構造34と、該処理容器構造の下端の開口部側を塞ぐ蓋部36と、前記被処理体を支持すると共に、前記処理容器構造内へ挿脱可能になされた支持体構造38と、ノズル収容エリア内に収容されてガスを導入するガスノズルを有するガス導入手段40と、処理容器構造内の雰囲気を排気するための複数の排気系41A,41Bを有する排気手段41と、前記被処理体を加熱するための加熱手段42と、装置全体を制御する制御手段112と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の被処理体に成膜処理を施す処理装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体集積回路を製造するためにはシリコン基板等よりなる半導体ウエハに対して、成膜処理、エッチング処理、酸化処理、拡散処理、改質処理、自然酸化膜の除去処理等の各種の処理が行なわれる。これらの処理は、ウエハを1枚ずつ処理する枚葉式の処理装置や複数枚のウエハを一度に処理するバッチ式の処理装置で行われる。例えばこれらの処理を特許文献1等に開示されている縦型の、いわゆるバッチ式の処理装置にて行う場合には、まず、半導体ウエハを複数枚、例えば25枚程度収容できるカセットから、半導体ウエハを縦型のウエハボートへ移載してこれに多段に支持させる。
【0003】
このウエハボートは、例えばウエハサイズにもよるが25〜150枚程度のウエハを載置できる。上記ウエハボートは、排気可能な処理容器内にその下方より搬入(ロード)された後、処理容器内が気密に維持される。そして、処理ガスの流量、プロセス圧力、プロセス温度等の各種のプロセス条件を制御しつつ所定の熱処理が施される。この熱処理で例えば成膜処理を例にとれば、成膜処理の方法としてCVD(Chemical Vapor Deposition)法(特許文献2)やALD(Atomic Layer Deposition)法が知られている。
【0004】
そして、回路素子の特性の向上を目的として半導体集積回路の製造工程における熱履歴も低減化することが望まれており、このため、ウエハをそれ程の高温に晒さなくても目的とする処理が可能なことから、原料ガス等を間欠的に供給しながら原子レベルで1層〜数層ずつ、或いは分子レベルで1層〜数層ずつ繰り返し成膜するALD法が多用される傾向にある(特許文献3、4等)。
【0005】
ここで従来のバッチ式の処理装置の一例について説明する。図10は従来のバッチ式の処理装置の一例を示す概略構成図である。図10に示すように、このバッチ式の処理装置は、有天井の石英製の処理容器2と、この周囲を同芯状に覆う有天井の石英製のカバー容器4とよりなる処理容器構造6を有している。上記処理容器2内が処理空間7として構成される。この処理容器構造6の下端の開口部は、蓋部8により気密に開閉可能になされている。
【0006】
上記処理容器2内には、石英製のウエハボート10に多段に支持されたウエハWが、処理容器構造6の下方より挿脱可能に収容されている。また上記処理容器2内には、その下方よりガスノズル12が挿入されており、このガスノズル12に、その長手方向に沿って設けた多数のガス孔12Aから必要なガスを流量制御しつつ水平方向へ向けて供給できるようになっている。図示例ではガスノズルは1本しか記載していないが、実際には、複数本、例えば使用するガス種に応じた3本のガスノズルが設けられる。
【0007】
上記ガスノズル12に対向する処理容器2の側壁には、上下方向に延びるスリット状の排気口16が形成されており、この排気口16より排出したガスをカバー容器4の下部側壁に設けたガス出口18から系外へ排気できるようになっている。このガス出口18には、排気系19が接続されている。この排気系19は、ガス出口18に接続された排気通路20を有しており、この排気通路20には、圧力調整弁22及び真空ポンプ24が介設されている。また処理容器構造6の外周側には、筒体状の加熱ヒータ19が設けられており、ウエハボート10に支持されたウエハWを加熱するようになっている。上記ウエハボート10は、複数本の石英製の支柱よりなる保温台26上に載置されている。
【0008】
このような処理装置において、上記各ガスノズル12のガス孔12Aから原料ガスと、この原料ガスと反応して薄膜を形成する反応ガス、例えば酸化ガスとを交互に繰り返し水平方向へ噴射させることにより、各ウエハWの表面に薄膜をALD法によって堆積させるようになっている。また原料ガスの供給と反応ガスの供給との間には、N ガス等をパージガスとして供給して残留ガスを排出するようにしている。そして、処理容器2内のガスはスリット状の排気口16から排出され、最終的にカバー容器4の下部側壁に設けたガス出口18より系外へ排出されて行く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−275608号公報
【特許文献2】特開2004−006551号公報
【特許文献3】特開平6−45256号公報
【特許文献4】特開平11−87341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、最近にあっては、半導体ウエハ上に、半導体素子を多層に形成する場合が多くなり、これに伴ってウエハ表面の凹凸のアスペクト比も40程度まで大きくなって、しかも線幅や溝幅も更に微細化されている。このような状況下において、上述したようなALD法による成膜処理では、原料ガスの供給と反応ガスの供給との間に行われるパージ工程では、スループット向上の必要から処理容器2内に残留するガスや反応によって生じた脱ガスを迅速に且つ効率的に排気してガス分子の平均自由工程が十分に長くなる1Torr程度まで迅速に減圧しなければならない。この際、残留ガスや脱ガスを効率的に排気するためには、多量のパージガスを供給して処理容器2内のガスを置換する必要がある。
【0011】
しかしながら、上述した従来の処理装置の排気系19では、例えば内径が3インチ(1インチ=2.54cm)、或いは4インチ程度の排気通路20が用いられており、排気能力不足のために迅速な真空引きができなかった。特に、処理容器2内の迅速なガス置換を行うためにはウエハ1枚当たり1リットル/min程度の流量のパージガスを供給する必要があり、このような多量のパージガスの供給に対応できる処理装置が望まれていた。
【0012】
本発明は、以上のような問題点に着目し、これを有効に解決すべく創案されたものである。本発明は、排気能力の向上を図ることによって大流量のガス供給時においても処理容器内の圧力を迅速に且つ効率的に減圧雰囲気に維持することが可能な処理装置及び成膜方法である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、複数枚の被処理体に所定の処理を施すための処理装置において、下端が開口され、処理空間の一側にノズル収容エリアが設けられると共に他側に前記ノズル収容エリアより水平方向に放出されたガスを排気させるためのスリット状の排気口が形成された処理容器を有する処理容器構造と、前記処理容器構造の下端の開口部側を塞ぐ蓋部と、前記複数枚の被処理体を支持すると共に、前記処理容器構造内へ挿脱可能になされた支持体構造と、前記ノズル収容エリア内に収容されてガスを導入するガスノズルを有するガス導入手段と、前記処理容器構造内の雰囲気を排気するための複数の排気系を有する排気手段と、前記被処理体を加熱するための加熱手段と、装置全体を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする処理装置である。
【0014】
このように、処理容器内の雰囲気を排気するために複数の排気系を有する排気手段を設けるようにしたので、排気能力の向上を図ることができ、よって大流量のガス供給時においても処理容器内の圧力を迅速に且つ効率的に減圧雰囲気に維持することが可能となる。
【0015】
請求項11に係る発明は、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の処理装置を用いて複数の被処理体の表面に薄膜を形成する成膜方法において、処理容器構造内へ原料ガスを供給する第1工程と前記原料ガスと反応する反応ガスを供給する第2工程とを、間に前記処理容器構造内へパージガスを供給して残留ガスを排気するパージ工程を挟んで交互に複数回繰り返し行うと共に、前記第1工程と第2工程を行う時には、前記複数の排気系の内の一方の排気系を用いて前記処理容器構造内の雰囲気を排気し、前記パージ工程を行う時には他方の排気系を用いて前記処理容器構造内の雰囲気を排気するようにしたことを特徴とする成膜方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る処理装置及び成膜方法によれば、次のように優れた作用効果を発揮することができる。
処理容器内の雰囲気を排気するために複数の排気系を有する排気手段を設けるようにしたので、排気能力の向上を図ることができ、よって大流量のガス供給時においても処理容器内の圧力を迅速に且つ効率的に減圧雰囲気に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る支持体構造を有する処理装置の第1実施例の一例を示す断面構成図である。
【図2】処理装置の処理容器構造の部分を示す横断面図である。
【図3】処理容器を示す斜視図である。
【図4】カバー容器を示す斜視図である。
【図5】複数の排気系を有する排気手段を示す図である。
【図6】各ガスの供給態様と排気手段の弁操作との関係を示すタイミングチャートである。
【図7】8インチ配管のシミュレーション結果を示す図である。
【図8】スリット状の排気口の幅とウエハ間の圧力との関係を示すグラフである。
【図9】本発明の第2実施例の処理容器構造を示す模式図である。
【図10】従来のバッチ式の処理装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る処理装置及び成膜方法の一実施例を添付図面に基づいて詳述する。
<第1実施例>
図1は本発明に係る支持体構造を有する処理装置の第1実施例の一例を示す断面構成図、図2は処理装置の処理容器構造の部分を示す横断面図、図3は処理容器を示す斜視図、図4はカバー容器を示す斜視図、図5は複数の排気系を有する排気手段を示す図である。
【0019】
ここでは処理装置として薄膜を形成する成膜処理を行う場合を例にとって説明する。図1に示すように、この処理装置32は、被処理体を収容する処理容器構造34と、この処理容器構造34の下端の開口部側を気密に塞ぐ蓋部36と、被処理体である複数枚の半導体ウエハWを所定のピッチで支持して上記処理容器構造34内へ挿脱される支持体構造38と、処理容器構造34内へ必要なガスを導入するガス導入手段40と、処理容器構造34内の雰囲気を排気する排気手段41と、半導体ウエハWを加熱する加熱手段42とを主に有している。ここで、本発明の特徴として上記排気手段41は、複数、ここでは2つの排気系、すなわち第1の排気系41Aと第2の排気系41Bとを有している。
【0020】
具体的には、まず、上記処理容器構造34は、下端部が開放された有天井の円筒体状の処理容器44と、下端部が開放されて上記処理容器44の外側を覆う有天井の円筒体状のカバー容器46とを有している。上記処理容器44とカバー容器46は共に耐熱性の石英よりなり、同軸状に配置されて二重管構造になされている。この処理容器44内が処理空間45として形成されている。
【0021】
ここでは上記処理容器44の天井部は平坦になされている。上記処理容器44の一側には、その長さ方向に沿って後述するガスノズルを収容するノズル収容エリア48が形成されている。ここでは図2にも示すように、処理容器44の側壁の一部を外側へ向けて突出させて凸部50を形成し、この凸部50内を上記ノズル収容エリア48として形成している。
【0022】
また、上記ノズル収容エリア48に対向させて上記処理容器44の反対側の側壁には、その長さ方向(上下方向)に沿って一定の幅L1(図3参照)のスリット状の排気口52(図3参照)が形成されており、処理容器44内の雰囲気を排気できるようになっている。ここで、このスリット状の排気口52の長さは、排気をより円滑に行うために上記支持体構造38の長さと同じか、これよりも長く上下方向へそれぞれ延びるようにして形成されており、この排気口52の上端は、支持体構造38の上端に対応する位置以上の高さに延びて位置され、排気口52の下端は、支持体構造38の下端に対応する位置以下の高さに延びて位置されている。
【0023】
このスリット状の排気口52の幅L1は、例えば15〜30mmの範囲が好ましい。また、このスリット状の排気口52に対応するカバー容器46の側壁は、図4にも示すように円弧状に外側に突出させて部分的に容積が大きくなされた排気空間部53が上下方向に沿って形成されており、排気を円滑に行うようにしている。
【0024】
上記処理容器44の下端とカバー容器46の下端は、例えばステンレススチールよりなる円筒体状のマニホールド54によって支持されている。このマニホールド54は、円筒状になされており、処理容器構造34の一部として形成されている。
【0025】
このマニホールド54の上端部にはフランジ部56が形成されており、このフランジ部56上に上記カバー容器46の下端部を設置して支持するようになっている。そして、このフランジ部56とカバー容器46との下端部との間にはOリング等のシール部材58を介在させてカバー容器46内を気密状態にしている。また、上記マニホールド54の上部の内壁には、リング状の支持部60が設けられており、この支持部60上に上記処理容器44の下端部を設置してこれを支持するようになっている。このマニホールド54の下端の開口部には、上記蓋部36がOリング等のシール部材62を介して気密に取り付けられており、上記処理容器構造34の下端の開口部側、すなわちマニホールド54の開口部を気密に塞ぐようになっている。この蓋部36は例えばステンレススチールにより形成される。
【0026】
この蓋部36の中央部には、磁性流体シール部64を介して回転軸66が貫通させて設けられている。この回転軸66の下部は、ボートエレベータよりなる昇降手段68のアーム68Aに回転自在に支持されており、図示しないモータによって回転されるようになっている。また回転軸66の上端には回転プレート70が設けられる。そして、この回転プレート70上に、石英製の保温台72を介してウエハWを保持する上記支持体構造38が載置されるようになっている。従って、上記昇降手段68を昇降させることによって蓋部36と支持体構造38とは一体的に上下動し、この支持体構造38を処理容器構造34内に対して挿脱できるようになっている。
【0027】
上記石英製の保温台72は、基台74上に起立させた4本の支柱76(図1及び図4では2本のみ記す)を有しており、この支柱76上に上記支持体構造38を設置して支持するようになっている。また上記支柱76の長さ方向の途中には、複数枚の保温プレート78が適宜間隔で設けられている。
【0028】
上記支持体構造38の全体は、前述したように耐熱性の石英によって形成されている。この支持体構造38は、上端部に位置する天板部80と、下端部に位置する底部82と、これら天板部80と底部82とを連結すると共に、上記複数枚のウエハWを多段に支持する複数の支持支柱84とを有している。ここでは支持支柱84として3本の支持支柱84A、84B、84C(図2参照)を有しており、これらの3本の支持支柱84A〜84Cは、ウエハWのほぼ半円弧の軌跡上に沿って等間隔で配置されている。
【0029】
これらの支持支柱84A〜84Cを設けていない他の半円弧の側よりウエハの移載が行われる。更に、上記天板部80と底部82との間には、上記3本の支持支柱84A〜84C間のほぼ中央部に位置させるようにして板状の石英製の補強支柱86(図2参照)が連結されており、このウエハボート自体の強度を補強している。
【0030】
そして、上記3本の各支持支柱84A〜84Cの内周側には、その長さ方向に沿って所定のピッチでウエハWを支持する支持溝よりなる支持部88が形成されている。この支持部88にウエハWの周縁部を載置させることによってウエハWを多段に支持できるようになっている。このウエハWの直径は例えば300mmであり、最大収容枚数で50〜150枚程度のウエハWを支持できるようになっている。上記ピッチP1は、5.0〜16.0mm程度の範囲内であり、ここでは6.5mm程度に設定されている。この場合、処理容器44内の容積は、例えば120〜150リットル程度の範囲であり、ここではウエハを100枚収容でき、容積は130リットルに設定されている。
【0031】
一方、上記処理容器44内へガスを導入するガス導入手段40は、上記マニホールド54に設けられている。具体的には、このガス導入手段40は、複数本、図示例では3本の石英製のガスノズル90、92、94を有している。各ガスノズル90〜94は、上記処理容器44内にその長さ方向に沿って設けられると共に、その基端部がL字状に屈曲されて上記マニホールド54を貫通するようにして支持されている。
【0032】
上記ガスノズル90〜94は、図2にも示すように上記処理容器44のノズル収容エリア48内に周方向に沿って一列になるように設置されている。上記各ガスノズル90〜94には、その長手方向に沿って所定のピッチで複数のガス孔90A、92A、94Aが形成されており、各ガス孔90A〜94Aより水平方向に向けて各ガスを放出できるようになっている。ここでは、上記所定のピッチは、支持体構造38に支持されるウエハWのピッチと同じになるように設定され、且つ、高さ方向の位置は、各ガス孔90A〜94Aが上下方向に隣り合うウエハW間の中間に位置するように設定されており、各ガスをウエハW間の空間部に効率的に供給できるようになっている。
【0033】
ここでは用いるガスとしては、原料ガスと反応ガスとパージガスとが用いられ、各ガスを流量制御しつつ必要に応じて上記各ガスノズル90〜94を介して供給できるようになっている。ここでは原料ガスとしてジルコニアトラメチルを用い、反応ガスとして酸化ガスであるオゾンを用い、パージガスとしてN ガスを用い、ALD法によりZrOx膜を形成できるようになっている。尚、用いるガス種は成膜すべき膜種に応じて種々変更するのは勿論である。
【0034】
また、上記マニホールド54の上部の側壁であって、上記支持部60の上方には、第1のガス出口96が形成されると共に、カバー容器46の上部、具体的には天井部には上記第1のガス出口96よりも直径が大きくなされた第2のガス出口98が形成されており、上記処理容器44内の雰囲気を上記処理容器44とカバー容器46との間の空間部を介して両排気口96、98より系外へ排気できるようになっている。上記第1の出口96には、排気手段41の一部を形成する上記第1の排気系41Aが設けられ、上記第2の出口98には、上記排気手段41の一部を形成する上記第2の排気系41Bが設けられる。具体的には、上記第1の排気系41Aは、図5(A)にも示すように、上記第1のガス出口96に接続された排気通路100を有しており、この排気通路100には、圧力調整弁102及び第1の真空ポンプ104が順次介設されて、真空引きできるようになっている。
【0035】
上記圧力調整弁102は、完全密閉が可能になされていると共に、その弁開度を調整して容器内の圧力調整ができるようになされている。またこの第1の真空ポンプ104の排気能力は、例えば30000リットル/min程度である。またこの排気通路100は、内径が例えば3インチ(1インチ=2.54cm)、或いは4インチ程度の配管を用いることができる。このような第1の排気系41Aとしては、従来において一般的に用いられていた排気系を用いることができる。
【0036】
また上記第2の排気系41Bは、図5(B)にも示すように、上記第2のガス出口98に接続された排気通路106を有しており、この排気通路106には、開閉弁108及び第2の真空ポンプ110が順次介設されて、真空引きできるようになっている。上記開閉弁108は、完全密閉が可能になされている。この開閉弁108としては、複数段階に弁開度を制御できるものを用いてもよい。また、上記第2の真空ポンプ110の排気能力は、上記第1の真空ポンプ104と比較して非常に大きく設定され、例えば80000〜160000リットル/min程度の排気能力を有し、処理容器44内へガスを多量に供給しても迅速に且つ効率的に排気できるようになっている。
【0037】
このため、上記排気通路106は、先の第1の排気系41Aの排気通路100の内径とは異なり、これよりもかなり大きく設定されており、ここでは例えば内径が8インチの配管が用いられている。この第2の排気系41Bは後述するように、ALD成膜時のパージ工程での排気に用いられることになる。ここで上記第2の排気系41Bの排気通路106のサイズは、大流量のパージガスを流す時の排気コンダクタンスの低下を防止するためには6インチ以上が必要であり、より好ましくは8インチ以上である。
【0038】
そして、図1へ戻って、上記カバー容器46の外周を覆うようにして円筒体状になされた上記加熱手段42が設けられており、ウエハWを加熱するようになっている。このように形成された処理装置32の全体の動作、例えば各ガスの供給開始と供給停止、排気手段41の制御等は、例えばコンピュータ等よりなる制御手段112により制御されるようになっており、この動作を行うコンピュータのプログラムは、記憶媒体114に記憶されている。この記憶媒体114は、例えばフレキシブルディスク、CD(Compact Disc)、ハードディスク、フラッシュメモリ或いはDVD等よりなる。
【0039】
<動作説明>
次に、以上のように構成された処理装置32を用いて行なわれる成膜方法について図6も参照して説明する。図6は各ガスの供給態様と排気手段の弁操作との関係を示すタイミングチャートである。ここでは原料ガス、例えばジルコニアテトラメチルと反応ガス、例えばオゾンとをそれぞれ一定の供給期間でパルス状に供給する1サイクルを複数回繰り返し実行して薄膜、例えばZrOx膜をALD法で形成するようにしたものである。またパージガスとして、例えばN ガスが用いられる。
【0040】
まず、常温の多数枚、例えば50〜150枚の300mmサイズのウエハWが載置された状態のウエハボートよりなる支持体構造38を予め所定の温度になされた処理容器構造34の処理容器44内にその下方より上昇させてロードし、蓋部36でマニホールド54の下端開口部を閉じることにより容器内を密閉する。
【0041】
そして、排気手段41の第1の排気系41A及び第2の排気系41Bの各真空ポンプ104、110を連続的に駆動させることにより、処理容器44内を連続的に真空引きして所定のプロセス圧力に維持すると共に、加熱手段42への供給電力を増大させることにより、ウエハ温度を上昇させてプロセス温度を維持する。そして、上記原料ガスをガス導入手段40のガスノズル90から供給し、反応ガス(オゾン)をガスノズル92から供給し、そして、パージガス(N ガス)をガスノズル94から供給する。具体的には、原料ガスはガスノズル90の各ガス孔90Aから水平方向へ噴射され、また、反応ガスはガスノズル92の各ガス孔92Aから水平方向へ噴射され、またパージガスはパージガスノズル94の各ガス孔94Aから水平方向へ噴射される。これにより、原料ガスと反応ガスとが反応して回転している支持体構造38に支持されているウエハWの表面にZrOx薄膜を形成する。
【0042】
図6に示すように、この場合、上述したように原料ガスと反応ガスとは交互にパルス状に繰り返し供給され、且つ上記両ガスの供給期間の間にパージ期間が設けられて残留ガスがその都度、排出されている。上記パージ期間の時に、パージガスが流されて残留ガスの排出が促進されることになる。各ガスノズル90〜94の各ガス孔90A〜94Aより噴射された各ガスは多段に支持された各ウエハW間を水平方向へ流れて反対側に位置するスリット状の排気口52に向かい、この排気口52を介して処理容器44とカバー容器46との間の空間部である排気空間部53に流れ込み、これより第1のガス出口96、或いは第2のガス出口98を介して処理容器構造34の外側へ排出されて行くことになる。
【0043】
そして、各ガス孔90A〜94Aは、ウエハW間の空間部に対応させて、その水平方向の同一レベル上に配置されているので、各ガスはウエハW間の空間部に乱流を生ずることなくほぼ層流状態になって流れて行くことになる。ここで各ガスの供給態様につてい詳しく説明すると、図6において、図6(A)は原料ガスの供給態様を示し、図6(B)は反応ガスの供給態様を示し、図6(C)はパージガスの供給態様を示し、それぞれパルスが立っている期間でガスが供給されている。すなわち、原料ガスを供給する第1工程T1と反応ガスを供給する第2工程T2とを、間にパージガスを供給するパージ工程T3、T4を挟んで交互に複数回繰り返し行っている。ここで原料ガスの供給開始から、次の原料ガスの供給開始までの間を1サイクルと称し、成膜すべき膜厚に対応させてサイクル数を制御する。
【0044】
すなわち、上記第1工程で原料ガスを供給するとウエハ表面に原料ガスが原子レベル、或いは分子レベルの厚さで付着し、次のパージ工程T3でパージガスを供給しつつ残留ガスを排気し、次に第2工程で反応ガスを供給することにより、この反応ガスが先に付着していた原料ガスと反応して薄膜が形成され、更に、次のパージ工程T4でパージガスを供給しつつ残留ガスを排気して最初に戻ることになる。これにより、1サイクルで原子レベル、或いは分子レベルの厚さの薄膜が一層形成されることになる。以後、上記1サイクルの操作を繰り返し行うことにより薄膜が積層される。
【0045】
ここで本発明の成膜方法では、残留ガス(反応によって生じた脱ガスも含む)を迅速に且つ効率的に排除するために排気系を2系統設け、且つ大流量のパージガスを流している。すなわち、図6(D)は第1の排気系41Aの圧力調整弁102の動作を示し、図6(E)は第2の排気系41Bの開閉弁108の動作を示している。
【0046】
図示するように、原料ガスを供給する第1工程や反応ガスを供給する第2工程の時には、開閉弁108を完全に閉状態として第2の排気系41Bからはガスが流れないようにし、この状態で圧力調整弁102の弁開度を調整して第1の排気系41Aからガスを排気しつつ圧力を制御するようにしている。この時、第1工程及び第2工程における各ガス流量は少なく、例えば原料ガスが20sccm程度、反応ガスが20sccm程度であり、またプロセス圧力は、共に例えば0.5〜2.0Torr程度である。
【0047】
これに対して、パージ工程T3、T4では、上記とは逆に、圧力調整弁102は完全に閉状態として、第1の排気系41Aからはガスが排気されないようにし、他方の開閉弁108は開状態としてパージガス及び残留ガスを第2の排気系41Bから排気する。この時、パージガスの流量は、上記原料ガスや反応ガスの流量と比較すると非常に多くなっており、例えばウエハ1枚当たり1リットル/min程度の流量でパージガスを供給する。従って、ウエハWを処理容器44内に100枚程度収容している場合には、100リットル/minの大流量でパージガスを流すことになる。
【0048】
この場合、前述したように、大口径の排気通路106と大きな排気能力の真空ポンプ110を有する第2の排気系41Bを設けてあるので、大流量のパージガスを供給しても、このパージガスや容器内の残留ガスを迅速に且つ効率的に排気することができる。この結果、大流量のパージガスを流しても処理容器44内の圧力を1Torr程度、或いはそれ以下の減圧雰囲気に維持することができることになる。
【0049】
従って、ウエハ表面の凹凸のアスペクト比が例えば40程度になっても、ALD法による成膜を十分に行うことができるのみならず、膜質も高く維持することが可能となる。
ここで上記パージ工程T3、T4の時に、圧力調整弁102を閉状態とする理由は、第2の排気系41Bの第2の真空ポンプ110の排気能力が他方の第1の真空ポンプ104よりもかなり大きいので、上記圧力調整弁102を開状態としていると第1の排気系41Aからパーティクル等を含んだ気体が逆流する危惧があるので、この現象を阻止するためである。
【0050】
また、パージガスの排気に際しては、スリット状の排気口52に対応するカバー容器46の側壁部分を例えば円弧状に外側へ膨らませて排気空間部53を設けることにより、この部分の排気コンダクタンスが低下しないようにしているので、その分、パージガスや残留ガスの排気をより迅速に且つ効率的に行うことができる。尚、パージガスとしてはN ガスに限定されず、He等の希ガスを用いることができる。
【0051】
このように、処理容器44内の雰囲気を排気するために複数の排気系41A、41Bを有する排気手段41を設けるようにしたので、排気能力の向上を図ることができ、よって大流量のガス供給時においても処理容器44内の圧力を迅速に且つ効率的に減圧雰囲気に維持することができる。
【0052】
<8インチ配管のシミュレーション評価>
次に、実際に8インチ配管を排気通路106として用いた時の真空引きのシミュレーションを行ったので、その時の評価結果について説明する。図7は8インチ配管のシミュレーション結果を示す図であり、図7(A)は処理容器(Tube)内の圧力分布を示す図、図7(B)は真空ポンプ(Pump)で排気されている8インチ配管内の圧力分布を示す図である。ここでは、処理容器の容積を130リットルとし、パージガスとしてN ガスを100slmの流量で流し、8インチ配管の長さを10mに設定している。また真空ポンプの排気能力は16000リットル/minを用いた。この結果、処理容器(Tube)内の圧力をほぼ1Torr程度まで減圧できることを確認することができた。
【0053】
<スリット状の排気口の幅のシミュレーション評価>
次にスリット状の排気口52の幅L1を変化させた時のウエハ間(処理容器内)における圧力の変化についてシミュレーションを行ったので、その時の評価結果について説明する。図8はスリット状の排気口の幅とウエハ間の圧力との関係を示すグラフである。ここでは図7で示した処理容器と同じものを用い、パージガスとしてN ガスを100slmの流量で流した。そして、排気口52の幅L1を5〜30mmの範囲で変化させた。
【0054】
図8から明らかなように、排気口52の幅L1が5〜15mmまでの間は、幅L1の増加に伴ってウエハ間の圧力は急激に且つ直線的に低下しており、最低値は1.2Torr程度になっている。しかし、幅L1が15以上になると、ウエハ間の圧力の低下の傾向は非常に少なくなり、幅L1が30mmになるまでウエハ間の圧力は僅かずつしか低下せず、圧力低下はほぼ飽和状態となっている。従って、上記排気口52の幅L1は、15〜30mmの範囲内に設定するのがよいことが判る。
【0055】
<第2実施例>
先の実施例にあっては、処理容器構造として、内側の処理容器44と、この外側を囲むカバー容器46との二重管構造を例にとって説明したが、これに限定されず、例えば特開2008−227460号公報に示すように、処理容器構造を単管構造とし、この単管構造に本発明を適用するようにしてもよい。
【0056】
図9は本発明の第2実施例の処理容器構造を示す模式図である。図9においては処理容器構造のみを記載し、他の部分の記載は省略する。ここでは処理容器構造として単管構造になっている処理容器44の一側に上下方向に延びる開口122とこれを覆う区画壁124を設けてノズル収容エリア48を形成している。また、上記ノズル収容エリア48に対向する反対側の容器側壁にスリット状の排気口52を形成し、更にこの排気口52を覆うようにして排気カバー部材126を設けている。そして、この排気カバー部材126の上方に形成した第2のガス出口98に第2の排気系41Bを接続し、マニホールド54の第1のガス出口96に第1の排気系41Aを接続する。
【0057】
ここで、単管構造の処理容器構造の場合には、マニホールド54を用いないで全体を石英製の処理容器で構成した形状のものも用いることができる。このように構成した処理容器構造に先に説明した本発明を適用しても、前述したと同じような作用効果を発揮することができる。
【0058】
尚、以上説明した各実施例では、ZrOx膜の成膜処理を例にとって説明したが、パージ工程でパージガスを流してALD成膜を行う処理装置ならば、成膜すべき膜種に関係なく本発明を適用することができる。また、上記した各実施例では、第1の排気系41Aを下部に設け、第2の排気系41Bを上部に設けたが、これに限定されず、第1のガス出口96を第2のガス出口98よりも大きく設定し、この第1のガス出口96に第2の排気系41Bを接続し、第2のガス出口98に第1の排気系41Aを接続するようにしてもよい。
【0059】
また、上記各実施例では、プラズマを用いない成膜処理について説明したが、これに限定されず、プラズマを用いた成膜処理を行う場合にも本発明を適用することができる。この場合には、例えばノズル収容エリア48を区画する凸部50の区画壁の外側に、その長手方向に沿ってプラズマ発生用の高周波電力を印加する電極板を設けてプラズマを発生させるようにする。
【0060】
また、上記各実施例では、被処理体として半導体ウエハを例にとって説明したが、この半導体ウエハにはシリコン基板やGaAs、SiC、GaNなどの化合物半導体基板も含まれ、更にはこれらの基板に限定されず、液晶表示装置に用いるガラス基板やセラミック基板等にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
32 処理容器
34 処理容器構造
36 蓋部
38 支持体構造
40 ガス導入手段
41 排気手段
41A 第1の排気系
41B 第2の排気系
42 加熱手段
44 処理容器
46 カバー容器
48 ノズル収容エリア
52 排気口
54 マニホールド
90,92,94 ガスノズル
90A,92A,94A ガス孔
96 第1のガス出口
98 第2のガス出口
100 排気通路
102 圧力調整弁
104 第1の真空ポンプ
106 排気通路
108 開閉弁
110 第2の真空ポンプ
112 制御手段
W 半導体ウエハ(被処理体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の被処理体に所定の処理を施すための処理装置において、
下端が開口され、処理空間の一側にノズル収容エリアが設けられると共に他側に前記ノズル収容エリアより水平方向に放出されたガスを排気させるためのスリット状の排気口が形成された処理容器を有する処理容器構造と、
前記処理容器構造の下端の開口部側を塞ぐ蓋部と、
前記複数枚の被処理体を支持すると共に、前記処理容器構造内へ挿脱可能になされた支持体構造と、
前記ノズル収容エリア内に収容されてガスを導入するガスノズルを有するガス導入手段と、
前記処理容器構造内の雰囲気を排気するための複数の排気系を有する排気手段と、
前記被処理体を加熱するための加熱手段と、
装置全体を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする処理装置。
【請求項2】
前記複数の各排気系には、それぞれ真空ポンプが設けられていることを特徴とする請求項1記載の処理装置。
【請求項3】
前記複数の排気系は、
前記処理容器構造の下部に設けた第1の排気系と、
前記処理容器構想の上部に設けた第2の排気系とよりなることを特徴とする請求項2記載の処理装置。
【請求項4】
前記第1と第2の各排気系は排気通路を有しており、前記排気通路の内径は互いに異なるように設定されていることを特徴とする請求項3記載の処理装置。
【請求項5】
前記第1と第2の排気系の内、内径が大きい排気通路を有する排気系は、該排気通路を開閉することができる開閉弁を有し、内径が小さい排気通路を有するは排気系は、弁開度を制御することができる圧力調整弁を有していることを特徴とする請求項4記載の処理装置。
【請求項6】
前記内径が大きい排気通路の内径は、8インチ以上であることを特徴とする請求項5記載の処理装置。
【請求項7】
前記スリット状の排気口の幅は、15〜30mmの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項8】
前記処理容器の容積は、前記被処理体を収容できる最大の枚数が50〜150枚の範囲内となるような大きさに設定されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項9】
前記被処理体の直径は300mm以上の大きさであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項10】
前記所定の処理は、原料ガスを供給する第1工程と反応ガスを供給する第2工程とを、間にパージ工程を挟み込んで交互に複数回繰り返す工程であり、前記制御手段は、前記第1工程と第2工程を行う時には、前記複数の排気系の内の一方の排気系を用いて前記処理容器構造内の雰囲気を排気し、前記パージ工程を行う時には他方の排気系を用いて前記処理容器構造内の雰囲気を排気するように制御することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の処理装置を用いて複数の被処理体の表面に薄膜を形成する成膜方法において、
処理容器構造内へ原料ガスを供給する第1工程と前記原料ガスと反応する反応ガスを供給する第2工程とを、間に前記処理容器構造内へパージガスを供給して残留ガスを排気するパージ工程を挟んで交互に複数回繰り返し行うと共に、
前記第1工程と第2工程を行う時には、前記複数の排気系の内の一方の排気系を用いて前記処理容器構造内の雰囲気を排気し、前記パージ工程を行う時には他方の排気系を用いて前記処理容器構造内の雰囲気を排気するようにしたことを特徴とする成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−4409(P2012−4409A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139146(P2010−139146)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】