説明

制動制御装置および制動制御方法

【課題】ホイールシリンダ圧を迅速に増圧させることを要する場合においても、適切に制動力を発生させることが可能な制動制御技術を提供する。
【解決手段】制動制御装置20において、レギュレータ流路62は、ホイールシリンダ23と接続され、ブレーキペダル24の踏み込み操作にしたがってホイールシリンダ23へ作動液が流動することによりホールシリンダ圧が増圧される。アキュムレータ流路63は、ホイールシリンダ23と接続され、ホイールシリンダ23へ作動液が流動することによりホールシリンダ圧が増圧される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータ流路62の液圧を検出する。ブレーキECU70は、レギュレータ流路62の液圧変動を補償した値を利用して目標ホイールシリンダ圧を決定する補償決定処理を実行する。ブレーキECU70は、決定した目標ホイールシリンダ圧に近づけるようホイールシリンダ圧を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は制動制御技術に関し、特に、決定した目標ホイールシリンダ圧に近づけるようホイールシリンダ圧を制御する制動制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両において、増圧弁を開閉させることによりアキュムレータからホイールシリンダに作動液を供給してホイールシリンダ圧を増圧させる制動制御技術が従来より知られている。このような制動制御技術として、例えばホイールシリンダに接続され中途に増圧リニア制御弁が設けられたアキュムレータ流路と、ホイールシリンダに接続され中途にレギュレータカット弁が設けられたレギュレータ流路との双方を有する制動制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−131247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の特許文献に記載される制動制御装置では、通常はレギュレータカット流路からホイールシリンダに作動液を供給して車輪に制動力を与える。一方、例えば緊急時において、運転者によってブレーキペダルが強く踏み込み操作されるときがある。このような場合、レギュレータカット流路のみによる場合よりもさらにホイールシリンダ圧を迅速に増圧させることが求められる場合がある。
【0004】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ホイールシリンダ圧を迅速に増圧させることを要する場合においても、適切に制動力を発生させることが可能な制動制御技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の制動制御装置は、ホイールシリンダと接続され、ブレーキペダルの踏み込み操作にしたがってホイールシリンダへ作動液が流動することによりホールシリンダ圧が増圧される第1流路と、ホイールシリンダと接続され、ホイールシリンダへ作動液が流動することによりホールシリンダ圧が増圧される第2流路と、第1流路の液圧を検出する第1液圧センサと、第1液圧センサの検出値を利用して目標ホイールシリンダ圧を決定し、第2流路を通じたホイールシリンダへの作動液の流動を制御することにより、決定された目標ホイールシリンダ圧に近づけるようホイールシリンダ圧を制御するホイールシリンダ圧制御手段と、を備える。ホイールシリンダ圧制御手段は、第1流路を通じてホイールシリンダへ作動液が供給される場合、第1流路の液圧変動を補償した値を利用して目標ホイールシリンダ圧を決定する補償決定処理を実行する。
【0006】
例えば第2流路だけでなく第1流路も利用してホイールシリンダに作動液を供給することにより、ホイールシリンダ圧を迅速に増圧することが可能となる。一方、第1流路を通じてホイールシリンダに作動液を供給する場合、第1流路における一時的な液圧変動が生じる可能性がある。この態様によれば、このような液圧変動の影響を抑制して目標ホイールシリンダ圧を決定することができ、精度の高い制動力制御を実現することができる。
【0007】
ホイールシリンダ圧制御手段は、第1流路を通じたホイールシリンダへの作動液の供給停止および供給停止解除を制御可能に設けられ、ホイールシリンダ圧の急峻な増圧を要求されたとする急制動条件を満たさないと判定した場合、第1流路を通じたホイールシリンダへの作動液の供給を停止させ、急制動条件を満たしたと判定した場合、第1流路を通じたホイールシリンダへの作動液の供給停止を解除させると共に補償決定処理を実行してもよい。
【0008】
この態様によれば、ホイールシリンダへの作動液の供給停止が解除されることによって第1流路の液圧が低下した場合においても、そのことによる目標ホイールシリンダ圧の低下を抑制することができる。このため、第2流路を通じてホイールシリンダへ充分に作動液が流動しないよう制御されることにより運転者のブレーキフィーリングに与える影響を抑制することができる。
【0009】
ホイールシリンダ圧制御手段は、第1流路を通じたホイールシリンダへの作動液の供給が停止されているときに、第1流路においてブレーキペダルが急踏みされたことを示す液圧変化が検出された場合、急制動条件を満たしたと判定してもよい。
【0010】
第1流路を通じたホイールシリンダへの作動液の供給が停止されているときにブレーキペダルが急踏みされた場合、第1流路は急峻に増圧する。この態様によれば、このような第1流路の液圧変化を利用して急制動条件を満たした否かを精度良く判定することができる。
【0011】
本発明のある態様の制動制御装置は、第1流路と第2流路とが合流した主流路の液圧を検出する第2液圧センサをさらに備えてもよい。ホイールシリンダ圧制御手段は、第2液圧センサの検出値が上昇していると判定した場合に補償決定処理を実行してもよい。
【0012】
第1流路を通じたホイールシリンダへの作動液の流動が開始されたとき、作動液の流動によって第1液圧センサは液圧の減少を検出する可能性がある。しかし、このように第1流路における液圧が減少している場合においても、このような主流路では第2流路からの作動液の流動により液圧が適切に増加する可能性が第1流路よりも高い。この態様によれば、このような主流路の液圧を利用して補償決定処理を実行するか否かを判定することにより、実行すべき適切な時期に補償決定処理を実行することが可能となる。
【0013】
ホイールシリンダ圧制御手段は、所定時間毎に取得した第1液圧センサの検出値を順次保持し、急制動条件を満たさないと判定した場合は第1液圧センサの最新の検出値を利用して目標ホイールシリンダ圧を決定し、急制動条件を満たすと判定した場合は、連続して取得された所定数の第1液圧センサの検出値の中の最大値を利用して目標ホイールシリンダ圧を決定する補償決定処理を実行してもよい。
【0014】
この態様によれば、第1液圧センサの液圧が減少する可能性がある場合において、その減少を抑制する補償決定処理を経て目標ホイールシリンダ圧を決定することができる。このため、所定数の第1液圧センサの検出値の中の最大値を取得するという簡易な構成によって精度の高い目標ホイールシリンダ圧を算出することができる。
【0015】
ホイールシリンダ圧制御手段は、第1流路を通じてホイールシリンダに作動液を供給するときの第1流路における液圧の低下期間に基づいて設定された所定数を示すデータを予め保持し、保持された当該データを利用して、連続して取得された所定数の第1液圧センサの検出値の中の最大値を取得してもよい。
【0016】
この態様によれば、液圧の低下期間に基づいて設定された適切な数だけ第1液圧センサの検出値を参照して目標ホイールシリンダ圧を決定することができる。このため、制御負荷の増大を抑制しつつ精度のよい補償決定処理を実現することができる。
【0017】
本発明のある態様の制動制御装置は、ブレーキペダルの操作量を検出するストロークセンサをさらに備えてもよい。ホイールシリンダ圧制御手段は、第1液圧センサの検出値の利用を回避しストロークセンサの検出値を利用して目標ホイールシリンダ圧を決定する補償決定処理を実行してもよい。
【0018】
この態様によれば、検出値が低下する可能性がある第1液圧センサの検出値の利用を回避して目標ホイールシリンダ圧を決定することができる。このため、目標ホイールシリンダ圧の決定における第1流路の液圧変動の影響を抑制することができ、精度良く目標ホイールシリンダ圧を決定することができる。
【0019】
本発明のある態様の制動制御装置は、第2流路を通じてホイールシリンダに作動液を供給する作動液供給手段と、作動液供給手段の液圧を検出する第3液圧センサと、をさらに備えてもよい。ホイールシリンダ圧制御手段は、最大減速度を設定すると共に設定した最大減速度を超えない目標ホイールシリンダ圧を決定するよう設けられ、急制動条件を満たすと判定した場合は第3液圧センサの検出値を利用して最大減速度を設定してもよい。
【0020】
このような作動液供給手段は、ホイールシリンダ圧を増圧させるために高い液圧に維持されている場合がある。この態様によれば、最大限速度の設定における、第1流路を通じてホイールシリンダに作動液を供給することによる第1流路の液圧変動の影響を抑制することができる。このため、適切な最大限速度に基づいて目標ホイールシリンダ圧を精度良く決定することができる。
【0021】
本発明のある態様の制動制御装置は、第1流路と第2流路とが合流した主流路の液圧を検出する第2液圧センサをさらに備えてもよい。ホイールシリンダ圧制御手段は、第1液圧センサの検出値とストロークセンサの検出値との関係を利用してストロークセンサに異常が発生しているか否かを判定する第1判定を実行すると共に、第2液圧センサの検出値とストロークセンサの検出値との関係を利用してストロークセンサに異常が発生しているか否かを判定する第2判定を実行し、第1判定または第2判定においてストロークセンサに異常が発生していないと判定した場合に、第1液圧センサの検出値の利用を回避しストロークセンサの検出値を利用して目標ホイールシリンダ圧を決定する補償決定処理を実行してもよい。この態様によれば、ストロークセンサの異常を適切に検出することができ、ストロークセンサに異常が発生した場合にその検出値の利用を回避して目標ホイールシリンダ圧を適切に決定することができる。
【0022】
本発明のある態様の制動制御装置は、第2流路を通じてホイールシリンダに作動液を供給する作動液供給手段と、作動液供給手段の液圧を検出する第3液圧センサと、をさらに備えてもよい。ホイールシリンダ圧制御手段は、第1液圧センサの検出値の利用を回避し第3液圧センサの検出値を利用して目標ホイールシリンダ圧を決定する補償決定処理を実行するしてもよい。
【0023】
この態様によれば、検出値が低下する可能性がある第1液圧センサの検出値の利用を回避して目標ホイールシリンダ圧を決定することができる。このため、目標ホイールシリンダ圧の決定における第1流路の液圧変動の影響を抑制することができ、精度良く目標ホイールシリンダ圧を決定することができる。
【0024】
ホイールシリンダ圧制御手段は、第1流路を通じたホイールシリンダへの作動液の供給が停止されるときに、補償決定処理による目標ホイールシリンダ圧の決定を終了してもよい。
【0025】
第1流路を通じたホイールシリンダへの作動液の供給が停止されるとき、第1流路の液圧変動が与える目標ホイールシリンダ圧算出への影響は低下する。この態様によれば、このようなときに第1流路の液圧に基づいて目標ホイールシリンダ圧を決定する制御に戻すことにより、制動力をより適切に制御することが可能となる。
【0026】
本発明のある態様の制動制御装置は、ブレーキペダルの操作量を検出するストロークセンサをさらに備えてもよい。ホイールシリンダ圧制御手段は、ストロークセンサの検出値を利用してブレーキペダルの操作速度を算出し、算出したブレーキペダルの操作速度が所定の速度閾値より遅くなった場合に、補償決定処理による目標ホイールシリンダ圧の決定を終了してもよい。
【0027】
ブレーキペダルの操作速度が遅ければ、第1流路を通じたホイールシリンダへの作動液の流動も少なくなるため、第1流路における液圧変動は低下する可能性がある。この態様によれば、この態様によれば、このようなときに第1流路の液圧に基づいて目標ホイールシリンダ圧を決定する制御に戻すことにより、制動力をより適切に制御することが可能となる。
【0028】
ホイールシリンダ圧制御手段は、補償決定処理による目標ホイールシリンダ圧の決定を終了するとき、補償決定処理を実行しない場合に決定される目標ホイールシリンダ圧に徐々に近づくよう目標ホイールシリンダ圧を決定する徐変処理を実行してもよい。
【0029】
この態様によれば、補償決定処理による目標ホイールシリンダ圧の決定を終了させることによって、目標ホイールシリンダ圧が大幅に変化することを回避することができる。このため、運転者に与えるブレーキフィーリングに与える影響を抑制することができる。
【0030】
ホイールシリンダ圧制御手段は、補償決定処理による目標ホイールシリンダ圧の決定を終了するとき、補償決定処理を実行して算出した第1減速度と補償決定処理を実行せずに算出した第2減速度との差に1未満の所定の正数を乗じた値を目標減速度に決定し、決定した目標減速度に基づいて目標ホイールシリンダ圧を決定する徐変処理を実行してもよい。この態様によれば、簡易な制御によって目標ホイールシリンダ圧を適切に徐変させることができる。
【0031】
本発明の別の態様は、制動制御方法である。この方法は、ホイールシリンダ圧の急峻な増圧を要求されたとするための急制動条件を満たすか否かを判定するステップと、急制動条件を満たすと判定した場合に、ホイールシリンダと接続されブレーキペダルの踏み込み操作にしたがってホイールシリンダへ作動液が流動することによりホールシリンダ圧が増圧される第1流路を通じたホイールシリンダへの作動液の供給停止を解除させるステップと、第1流路を通じてホイールシリンダへ作動液が供給される場合、第1流路の液圧変動を補償した値を利用して目標ホイールシリンダ圧を決定する補償決定処理を実行するステップと、ホイールシリンダと接続されホイールシリンダへ作動液が流動することによりホールシリンダ圧が増圧される第2流路を通じたホイールシリンダへの作動液の流動を制御することにより、決定された目標ホイールシリンダ圧に近づけるようホイールシリンダ圧を制御するステップと、を備える。
【0032】
この態様によれば、このような急制動条件を満たすと判定した場合に第1流路における液圧変動の影響を抑制して目標ホイールシリンダ圧を決定することができる。このため、精度の高い制動力制御を実現することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、ホイールシリンダ圧を迅速に増圧させることを要する場合においても、適切に制動力を発生させることが可能な制動制御技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(以下、「実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0035】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る制動制御装置20を示す系統図である。同図に示される制動制御装置20は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、車両に設けられた4つの車輪に付与される制動力を制御する。第1の実施形態に係る制動制御装置20は、例えば、走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両を制動する回生制動と、制動制御装置20による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。第1の実施形態における車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
【0036】
制動制御装置20は、図1に示されるように、各車輪に対応して設けられたディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット27と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40とを含む。
【0037】
ディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。第1の実施形態におけるマニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット27は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の運転者による操作量に応じて加圧されたブレーキフルードをディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。動力液圧源30は、動力の供給により加圧された作動流体としてのブレーキフルードを、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出することが可能である。液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット27から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。
【0038】
ディスクブレーキユニット21FR〜21RL、マスタシリンダユニット27、動力液圧源30、および液圧アクチュエータ40のそれぞれについて以下で更に詳しく説明する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。
【0039】
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、第1の実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
【0040】
マスタシリンダユニット27は、第1の実施形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を含む。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
【0041】
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。なお、マスタシリンダ圧とレギュレータ圧とは厳密に同一圧にされる必要はなく、例えばレギュレータ圧のほうが若干高圧となるようにマスタシリンダユニット27を設計することも可能である。
【0042】
マスタシリンダ32とレギュレータ33には、いわゆるアイドルストロークがある。アイドルストロークとは、ブレーキ操作がなされていない状態からブレーキペダル24が踏み込まれてマスタシリンダ32及びレギュレータ33のそれぞれとリザーバ34との接続が遮断されるまでのストロークである。アイドルストロークの間はリザーバ34に連通されているためマスタシリンダ32及びレギュレータ33の液圧は上がらない。第1の実施形態のマスタシリンダユニット27は、ブレーキペダル踏込当初はストローク増加につれて初めにレギュレータ33のアイドルストロークが縮まり、次いでマスタシリンダ32のアイドルストロークが縮まるように構成されている。つまり、レギュレータ33、マスタシリンダ32の順にリザーバ34との接続が遮断される。
【0043】
以下では便宜上、レギュレータ33とリザーバ34との接続が遮断されるときのペダルストロークを第1遮断ストロークと称し、マスタシリンダ32とリザーバ34との接続が遮断されるときのストロークを第2遮断ストロークと称する。第1の実施形態においては第2遮断ストロークのほうが第1遮断ストロークよりも大きい。ペダルストロークが第1遮断ストロークと第2遮断ストロークの間にある場合には、レギュレータ33のほうがマスタシリンダ32よりも高圧となり2つの作動液室間に差圧が生じる。これは、レギュレータ33はリザーバ34から遮断されてストロークに応じて作動液が加圧されるのに対し、マスタシリンダ32はリザーバ34に接続されて液圧が上がらないからである。
【0044】
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギ、例えば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。ポンプ36により、アキュムレータ圧は維持されるべき設定範囲(本明細書ではこれを許容範囲という場合もある)に保たれる。ブレーキECU70は、アキュムレータ圧センサ72の測定値に基づいて、アキュムレータ圧が許容範囲の下限を下回った場合にポンプ36をオンとしてアキュムレータ圧を加圧し、アキュムレータ圧が許容範囲の上限を超えた場合にポンプ36をオフとして加圧を終了する。
【0045】
また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット27に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
【0046】
上述のように、制動制御装置20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
【0047】
液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42,43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL,21RR,21RLのホイールシリンダ23FR、23FL,23RR,23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
【0048】
また、個別流路41,42,43および44の中途には、ABS保持弁51,52,53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0049】
更に、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46,47,48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46,47,48および49の中途には、ABS減圧弁56,57,58および59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット27のリザーバ34に接続されている。
【0050】
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪用のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪用のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
【0051】
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
【0052】
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
【0053】
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、マスタシリンダ32から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0054】
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により開弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
【0055】
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましい。
【0056】
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65は、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0057】
液圧アクチュエータ40には、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
【0058】
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。
【0059】
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧制御弁として設けられている。つまり、第1の実施形態においては、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動流体を各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。このように増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67を各ホイールシリンダ23に対して共通化すれば、ホイールシリンダ23ごとにリニア制御弁を設けるのと比べて、コストの観点からは好ましい。
【0060】
なお、ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と主流路45におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力とリザーバ34におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。従って、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
【0061】
制動制御装置20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、第1の実施形態における制御部としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU(図示せず)などと通信可能であり、ハイブリッドECUからの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54,56〜59,60,64〜68を制御する。
【0062】
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に格納保持される。
【0063】
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。更に、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動流体圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
【0064】
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。
【0065】
また、ブレーキECU70にはストップランプスイッチが接続されている。ストップランプスイッチはブレーキペダル24が踏み込まれるとオン状態となる。これによりストップランプが点灯される。また、ブレーキペダル24の踏込が解除されるとストップランプスイッチはオフ状態となり、ストップランプは消灯される。ストップランプスイッチの点灯状態を示す信号がストップランプスイッチからブレーキECU70へと所定時間おきに入力され、ブレーキECU70の所定の記憶領域に格納保持される。
【0066】
上述のように構成された制動制御装置20は、ブレーキ回生協調制御を実行することができる。制動制御装置20は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、例えば運転者がブレーキペダル24を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。制動要求を受けてブレーキECU70は要求制動力を演算し、要求制動力から回生による制動力を減じることにより制動制御装置20により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力の実効値は、ハイブリッドECUから制動制御装置20に供給される。そして、ブレーキECU70は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧を算出する。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように、フィードバック制御則により増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に供給する制御電流の値を決定する。
【0067】
その結果、制動制御装置20においては、ブレーキフルードが動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介して各ホイールシリンダ23に供給され、車輪に制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ23からブレーキフルードが減圧リニア制御弁67を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。第1の実施形態においては、動力液圧源30、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67等を含んでホイールシリンダ圧制御系統が構成されている。ホイールシリンダ圧制御系統によりいわゆるブレーキバイワイヤ方式の制動力制御が行われる。ホイールシリンダ圧制御系統は、マスタシリンダユニット27からホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路に並列に設けられている。なお、第1の実施形態に係る制動制御装置20は、回生制動力を利用せずに液圧制動力だけで要求制動力をまかなう場合にも、当然ホイールシリンダ圧制御系統により制動力を制御することができる。
【0068】
ブレーキバイワイヤ方式の制動力制御を行う場合には、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65を閉状態とし、レギュレータ33から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23へ供給されないようにする。更にブレーキECU70は、マスタカット弁64を閉状態とするとともにシミュレータカット弁68を開状態とする。これは、運転者によるブレーキペダル24の操作に伴ってマスタシリンダ32から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23ではなくストロークシミュレータ69へと供給されるようにするためである。ブレーキ回生協調制御中は、レギュレータカット弁65及びマスタカット弁64の上下流間には、回生制動力の大きさに対応する差圧が作用する。またブレーキECU70は、分離弁60を開状態とする。これにより各ホイールシリンダ圧が共通の液圧に制御される。
【0069】
ブレーキペダル24が踏み込み操作されると、ブレーキECU70は、ストロークセンサ25および制御圧センサ73の検出結果を利用して目標ホイールシリンダ圧の算出を開始する。ブレーキECU70は、算出された目標ホイールシリンダ圧を実現するよう、液圧アクチュエータ40を制御してホイールシリンダ圧を増減させる。したがって、ブレーキECU70は、液圧アクチュエータを制御してホイールシリンダ圧を増減させるホイールシリンダ圧制御部として機能する。
【0070】
図2は、第1の実施形態に係る制動制御装置20におけるホイールシリンダ圧制御処理の詳細な手順を示すフローチャートである。本フローチャートにおける処理は、車両のイグニッションスイッチがオンにされたときに開始し、イグニッションスイッチがオフにされるまで所定時間毎に繰り返し実行される。
【0071】
ブレーキECU70は、ストロークセンサ25の検出値とレギュレータ圧センサ71の検出値とを利用して、運転者が車両を制動させるべくブレーキペダル24を踏み込み操作しているか否かを判定することにより、車両を制動させる制動要求があるか否かを判定する(S10)。このような制動要求の存否判定は公知であるため説明を省略する。制動要求はないと判定された場合(S10のN)、本フローチャートにおける処理を一旦終了する。
【0072】
例えば走行状況によっては運転者によりブレーキペダル24が強く踏み込み操作される、いわゆる急踏みがなされることがある。ブレーキペダル24が急踏みされる場合は運転者が迅速に制動力を得たい場合と考えられることから、このような場合ホイールシリンダ圧を急峻に増圧させる必要がある。このため第1の実施形態に係る制動制御装置20は、ブレーキペダル24が急踏みされた場合、アキュムレータ流路63だけでなくレギュレータ流路62を通じて作動液を供給することにより急峻なホイールシリンダの増圧を実現するレギュレータアシストを実行することが可能となっている。
【0073】
制動要求があると判定した場合(S10のY)、ブレーキECU70は、レギュレータアシストフラグを参照してレギュレータカット弁65が閉弁しているか否かを判定することにより、このレギュレータアシストがすでに実行されているか否かを判定する(S12)。レギュレータカット弁65が閉弁している場合(S12のY)、すなわちレギュレータアシストがまだ実行されていない場合、ブレーキECU70は、運転者によってブレーキペダル24が急踏みされたとするための急踏み判定条件を満たすか否かを判定する(S14)。この急踏み判定条件は、ホイールシリンダ圧の急峻な増圧を要求されたとするための急制動条件として利用される。
【0074】
具体的には、ブレーキECU70は、制動要求があると判定したときからカウンタにより時間を計測している。ブレーキECU70は、制動要求があると判定され、増圧リニア制御弁66の開弁を開始してから所定時間を経過するまでにアキュムレータ圧センサ72の検出値が所定の圧力閾値に達した場合に、レギュレータ流路62においてブレーキペダル24が急踏みされたことを示す液圧変化が検出されたと判定し、この場合に急踏み判定条件を満たしたと判定する。
【0075】
急踏み判定条件を満たさないと判定した場合(S14のN)、ブレーキECU70は、運転者によってホイールシリンダの急峻な増圧が要求されていないと判定し、レギュレータカット弁65の閉弁状態を維持してレギュレータアシストの実行を回避する。このとき、ブレーキECU70は、ブレーキペダル24の検出値とレギュレータ圧センサ71の検出値の双方に基づいて目標ホイールシリンダ圧を決定する通常決定処理を実行する(S20)。ブレーキECU70は、通常決定処理によって決定された目標ホイールシリンダ圧に基づいて増圧リニア制御弁66を開弁させる。これによりアキュムレータ流路63はホイールシリンダ23と連通され、ホイールシリンダ23へ作動液が流動することによりホールシリンダ圧が増圧される。こうしてブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧を目標ホイールシリンダ圧に近づけるよう制御するホイールシリンダ圧制御を実行する(S26)。
【0076】
急踏み判定条件を満たすと判定した場合(S14のY)、運転者によってホイールシリンダの急峻な増圧が要求されたと判定し、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65を開弁してレギュレータアシストの実行を開始すると共に(S16)、レギュレータアシストフラグをオンに設定する。これによりレギュレータ流路62はホイールシリンダ23と連通され、ブレーキペダル24の踏み込み操作にしたがってホイールシリンダ23へ作動液が流動してホールシリンダ圧が増圧される。したがって、レギュレータアシストの実行時は、アキュムレータ流路63およびレギュレータ流路62の双方を通じてホイールシリンダ23に作動液が供給されるため、迅速にホイールシリンダ圧の増圧を実現することができる。
【0077】
ブレーキペダル24が踏み込み操作され続けていれば、主流路45は、レギュレータ流路62と異なりレギュレータカット弁65が開弁された直後においも液圧が低下することなく上昇する。このため、レギュレータカット弁65が開弁されレギュレータアシストの実行が開始された場合、ブレーキECU70は、制御圧センサ73の検出値は上昇中か否かを判定し(S18)、ブレーキペダル24が踏み込まれ続けているか否かを判定する。
【0078】
ここで、ブレーキECU70は、レギュレータ流路62の液圧がある程度増圧してからレギュレータカット弁65を開弁してレギュレータアシストを実行する。このため、レギュレータカット弁65を開弁した直後はレギュレータ流路62の作動液がホイールシリンダに急激に流動する。このため、ブレーキペダル24を踏み続けているにもかかわらず、レギュレータ流路62の液圧が低下する可能性がある。このような場合においてもS20の通常決定処理によって目標ホイールシリンダ圧を決定すると、ブレーキペダル24の操作から本来決定すべき値よりも低い目標ホイールシリンダ圧が決定され、運転者のブレーキフィーリングに影響を及ぼすおそれがある。
【0079】
このため、制御圧センサ73の検出値が上昇中と判定した場合(S18のY)、目標ホイールシリンダ圧の補償決定処理を実行する(S22)。具体的には、ブレーキECU70は、レギュレータ流路62を通じたホイールシリンダ23への作動液の流動によるレギュレータ流路62の液圧変動を補償した値を利用して目標ホイールシリンダ圧を決定する補償決定処理を実行する。これにより、レギュレータ流路62の液圧低下による目標ホイールシリンダ圧の低下を抑制することができる。補償決定処理の詳細な実行手順については後述する。なお、通常決定処理によって目標ホイールシリンダ圧を決定する場合、ブレーキECU70は、通常決定処理フラグをオフに設定するとともに補償決定処理フラグをオンに設定する。
【0080】
レギュレータカット弁65の開弁直後も制御圧センサ73の検出値が上昇していない場合(S18のN)、ブレーキECU70は、ブレーキペダル24が踏み込み操作が継続して行われていない可能性があると判定し、目標ホイールシリンダ圧の通常決定処理を実行する(S20)。ブレーキECU70は、補償決定処理によって決定された目標ホイールシリンダ圧にホイールシリンダ圧を近づけるよう制御するホイールシリンダ圧制御を実行する(S26)。
【0081】
レギュレータアシストがすでに実施されておりレギュレータカット弁65が開弁している場合(S12のN)、ブレーキECU70は、目標ホイールシリンダ圧の補償要否判定処理を実行する(S24)。補償要否判定処理については後述する。ブレーキECU70は、補償要否判定処理を経て決定された目標ホイールシリンダ圧にホイールシリンダ圧を近づけるよう制御するホイールシリンダ圧制御を実行する(S26)。
【0082】
図3は、第1の実施形態の図2におけるS20の通常決定処理の実行手順を示すフローチャートである。ブレーキECU70は、レギュレータ圧センサ71の最新の検出値とストロークセンサ25の検出値との双方を利用して目標減速度を決定する(S40)。具体的には、ブレーキECU70は、レギュレータ圧センサ71の検出値のみを利用した目標減速度を算出する。また、ブレーキECU70は、ストロークセンサ25の検出値のみを利用した目標減速度を算出する。ブレーキECU70は、算出した2つの目標減速度を利用して、1つの統合的な目標減速度を決定する。こうして目標減速度が決定されると、ブレーキECU70は、決定された目標減速度に基づいて目標ホイールシリンダ圧を決定する(S42)。このような目標減速度および目標ホイールシリンダ圧の算出方法は公知であることから、詳細な説明は省略する。
【0083】
図4は、第1の実施形態の図2におけるS22の補償決定処理の実行手順を示すフローチャートである。第1の実施形態では、ブレーキECU70は、所定時間毎に取得したレギュレータ圧センサ71の検出値をRAMなどの記憶部に順次格納して液圧変動履歴を構築する。また、レギュレータカット弁65を開弁させることによりレギュレータ流路62の液圧が低下する期間は、同様の液圧アクチュエータ40のハードウェア構成においては概ね一定であることが、発明者らの研究開発によって明らかとなった。このため、レギュレータ圧センサ71の検出値の検出間隔に、履歴を構築する検出値の数を表す構築数Nとを乗じた値がレギュレータ流路62の液圧低下期間に相当するよう、この構築数Nが予め設定されている。ブレーキECU70のROMには、この構築数Nを示すデータが予め格納されている。
【0084】
ブレーキECU70は、この構築数Nのデータを参照し、連続して取得されたレギュレータ圧センサ71の最新N個の検出値のうち最大値を取得する(S60)。次にブレーキECU70は、取得した最大値とストロークセンサ25の検出値との双方を利用して目標減速度を決定する(S62)。具体的には、ブレーキECU70は、レギュレータ圧センサ71の検出値に代えてこの最大値を用いる以外は、S20の通常決定処理と同様の算出方法で目標減速度を決定する。目標減速度が決定されると、ブレーキECU70は、決定した目標減速度に基づいて目標ホイールシリンダ圧を決定する(S64)。
【0085】
図5は、第1の実施形態に係る補償決定処理を実行した場合における、制動制御に用いられる各種の値の変化を示す図である。図5において、「A」は、ストロークセンサ25の検出値を示す。「B」は、ストロークセンサ25の検出値のみを用いて算出された目標減速度を示す。「C」は、目標減速度の算出に利用するためレギュレータ圧センサ71の最新N個の検出値のうち最大値を取得したときの値を示す。「D」は、レギュレータ圧センサ71の検出値のみを用いて算出された目標減速度を示す。「E」は、BとDの双方を利用して算出される目標減速度を示す。「F」は、制御圧センサ73の検出値を示す。「G」は、増圧リニア制御弁66の開度を示す。「H」は、レギュレータカット弁65の開度を示す。なお、図5において破線で示す曲線は、補償決定処理に代えて通常決定処理によって目標減速度が算出された場合を示している。
【0086】
図5に示すように、Hに示すタイミングでレギュレータカット弁65が開弁したときに、その直後からレギュレータ圧センサ71の検出値が一時的に低下する場合がある。このようにレギュレータ圧センサ71における最新N個の検出値のうち最大値を取得することにより、Cに示すように、レギュレータ圧センサ71の検出値が補償されて値の低下が抑制される。したがってCの値を利用して算出される目標減速度の値も、Dに示すようにその低下が抑制される。これにより、BとDの双方を利用して算出される目標減速度も、Eに示すように通常決定処理による場合に比べてその低下が抑制される。
【0087】
以上より、Gに示すように、レギュレータカット弁65が開弁されレギュレータ圧センサ71の検出値が低下した場合においても、レギュレータ圧センサ71の検出値を補償したCに示す値を利用して目標ホイールシリンダ圧を決定することにより、増圧リニア制御弁66の開度が絞られることが抑制される。なお、主流路45は、レギュレータカット弁65が開弁した直後からレギュレータ流路62から作動液が供給されることにより増圧されるため、主流路45の液圧を示すFの値は、レギュレータ流路62の液圧と異なり低下しない。
【0088】
図6は、第1の実施形態の図2におけるS24の補償要否判定処理の実行手順を示すフローチャートである。レギュレータカット弁65が開弁され、レギュレータアシストが実行されている場合においても、後述するように所定の場合には補償決定処理ではなく通常決定処理によって目標ホイールシリンダ圧を決定する。ブレーキECU70は、通常決定処理フラグを参照して通常決定処理に移行済みか否かを判定する(S80)。通常決定処理に移行済みの場合(S80のY)、ブレーキECU70は、通常決定処理で目標ホイールシリンダ圧を決定する(S20)。
【0089】
通常決定処理に移行していない場合(S80のN)、ブレーキECU70は、補償終了処理フラグを参照して、補償決定処理から通常決定処理に移行するための補償終了処理中か否かを判定する(S82)。補償終了処理中の場合(S82のY)、ブレーキECU70は、補償終了処理の終了条件を満たすか否かを判定する(S84)。第1の実施形態では、補償決定処理を実行して算出した第1減速度と、補償決定処理を実行せずに算出した第2減速度との差が所定の値より小さくなることが補償終了処理の終了条件とされている。なお、補償終了処理の終了条件がこれに限られないことは勿論である。
【0090】
補償終了処理の終了条件を満たすと判定した場合(S84のY)、ブレーキECU70は、補償終了処理フラグをオフにして補償終了処理を終了し、これと共に通常決定処理フラグをオンにして通常決定処理に移行する(S20)。補償終了処理の終了条件を満たさないと判定した場合(S84のN)、ブレーキECU70は、補償終了処理により目標ホイールシリンダ圧を決定する(S88)。
【0091】
通常決定処理中でも補償終了処理中でもない場合(S82のN)、補償決定処理中ということになる。この場合、ブレーキECU70は、ストロークセンサ25の検出値を利用してブレーキペダル24の操作速度を算出し、算出したブレーキペダル24の踏み込み速度Vstが速度閾値Vthより小さいか否かを判定することにより、ブレーキペダル24の踏み込みが継続しているか否かを判定する(S86)。踏み込み速度Vstが速度閾値Vthより小さい場合(S86のY)、ブレーキペダル24の踏み込みが継続して行われていない可能性があるため、ブレーキECU70は、補償決定処理を終了させるための補償終了処理を実行する(S88)。
【0092】
第1の実施形態では、補償終了処理中において、ブレーキECU70は、補償決定処理を実行しない場合に決定される目標ホイールシリンダ圧に徐々に近づくよう目標ホイールシリンダ圧を決定する徐変処理を実行する。補償決定処理を突然終了することによる目標ホイールシリンダ圧の急激な変動を抑制するためである。具体的には、ブレーキECU70は、補償決定処理による目標ホイールシリンダ圧の決定を終了するとき、上述した第1減速度と第2減速度との差に1未満の所定の正数を乗じた値を目標減速度に決定する。ブレーキECU70は、決定した目標減速度に基づいて目標ホイールシリンダ圧を決定する。なお、補償終了処理がこのような処理に限定されないことは勿論である。
【0093】
踏み込み速度Vstが速度閾値Vth以上と判定した場合(S86のN)、ブレーキECU70は、レギュレータアシスト終了条件を満たすか否かを判定する(S90)。第1の実施形態では、ABS(アンチロック・ブレーキシステム(AntilockBrakeSystem))の作動条件がそのままレギュレータアシスト終了条件として利用されている。なお、レギュレータアシスト終了条件として他の条件が採用されてもよいとは勿論である。
【0094】
レギュレータアシスト終了条件を満たす場合(S90のY)、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65を閉弁し(S92)、レギュレータアシストフラグをオフに設定してレギュレータアシストの実行を終了させる。レギュレータアシストの実行を終了させると、ブレーキECU70は、補償終了処理による目標ホイールシリンダ圧の算出を開始する(S88)。このとき、ブレーキECU70は、補償決定処理フラグをオフにするとともに補償終了処理フラグをオンに設定する。レギュレータカット弁65を閉弁させると、レギュレータ流路62の液圧低下のおそれが減少する。こうしてレギュレータカット弁65の閉弁に併せて補償決定処理から徐々に通常決定処理に移行することで、適切な制動力制御を実現することができる。レギュレータアシスト終了条件を満たさない場合(S90のN)、ブレーキECU70は、引き続き補償決定処理によって目標ホイールシリンダ圧を決定する(S22)。
【0095】
(第2の実施形態)
図7は、第2の実施形態の図2におけるS22の補償決定処理の実行手順を示すフローチャートである。第2の実施形態に係る制動制御装置の構成は第1の実施形態と同様であり、制動制御の実行手順も、特に言及しない限り第1の実施形態と同様である。
【0096】
補償決定処理においてブレーキECU70は、まずストロークセンサ25の検出値とレギュレータ圧センサ71の検出値との関係からストロークセンサ25に異常はあるか否かを判定する第1判定を実施する(S120)。第1判定の結果、ストロークセンサ25に異常があると判定した場合(S120のY)、ブレーキECU70は、今度はストロークセンサ25の検出値と制御圧センサ73の検出値との関係からストロークセンサ25に異常はあるか否かを判定する第2判定を実施する(S122)。このように第2の実施形態では、第1判定および第2判定によるゾーン判定を実施することで、ストロークセンサ25に異常があるか否を高い精度で判定している。
【0097】
第1判定および第2判定の双方においてストロークセンサ25に異常があると判定した場合(S122のY)、ブレーキECU70は、電子制御ブレーキシステムのフェール処理を実行する(S124)。このフェール処理においては、ブレーキECU70は増圧リニア制御弁66を閉弁させると共にレギュレータカット弁65を開弁させる。これによって、ブレーキペダル24の踏み込み操作によってレギュレータ流路62を通じてホイールシリンダ圧を直接増圧可能な状態となる。このようなフェール処理は公知であるため説明を省略する。フェール処理が実行されると、増圧リニア制御弁66などによる制動制御は終了される。
【0098】
第1判定および第2判定の少なくとも一方においてストロークセンサ25に異常がないと判定した場合(S120のN、およびS122のN)、ブレーキECU70は、アキュムレータ圧センサ72の検出値を利用して最大減速度を決定する(S126)。具体的には、レギュレータ圧センサ71の検出値に代えて、アキュムレータ圧センサ72の検出値から所定の値を差し引いた値を用いる以外は、S20の通常決定処理と同様の算出方法によって目標減速度を算出し、これを最大減速度として決定する。アキュムレータ圧は、ポンプ36によって一定の高圧に保たれているため、レギュレータカット弁65を開弁させることによる影響が少ない。したがって、アキュムレータ圧センサ72の検出値を利用することにより、適切な最大減速度を設定することができる。
【0099】
こうして最大減速度が決定されると、ブレーキECU70は、最大減速度を超えないようストロークセンサ25の検出値を利用して目標減速度を決定し(S128)、決定された目標減速度に基づいて目標ホイールシリンダ圧を決定する(S130)。このように、第2の実施形態では、ブレーキECU70は、レギュレータ圧センサ71の検出値の利用を回避しストロークセンサ25の検出値のみを利用して目標ホイールシリンダ圧を決定する補償決定処理を実行する。これにより、検出値が低下する可能性があるレギュレータ圧センサ71の検出値の利用を回避して目標ホイールシリンダ圧を決定することができる。また、このように最大減速度を適切に設定し、これを超えないよう目標減速度を算出することで、ストロークセンサ25に異常が生じていた場合の目標ホイールシリンダ圧の決定値への影響を抑制している。
【0100】
(第3の実施形態)
図8は、第3の実施形態の図2におけるS22の補償決定処理の実行手順を示すフローチャートである。第3の実施形態に係る制動制御装置の構成は第1の実施形態と同様であり、制動制御の実行手順も、特に言及しない限り第1の実施形態と同様である。
【0101】
第3の実施形態では、ブレーキECU70は、アキュムレータ圧センサ72の検出値から所定の値を差し引いた値を利用して目標減速度を決定する補償決定処理を実行する(S160)。なお、目標減速度の決定方法はこのような方法に限られず、例えばアキュムレータ圧センサ72の検出値を利用した他の方法によって目標減速度を決定してもよい。目標減速度が決定されると、ブレーキECU70は、目標減速度に基づいて目標ホイールシリンダ圧を決定する(S162)。このように、第3の実施形態では、レギュレータアシストが開始された場合、アキュムレータ圧センサ72の検出値を利用して目標ホイールシリンダ圧を決定する。これにより、検出値が低下する可能性があるレギュレータ圧センサ71の検出値の利用を回避して目標ホイールシリンダ圧を決定することができる。
【0102】
本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、各実施形態の各要素を適宜組み合わせたものも、本発明の実施形態として有効である。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を各実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】第1の実施形態に係る制動制御装置を示す系統図である。
【図2】第1の実施形態に係る制動制御装置におけるホイールシリンダ圧制御処理の詳細な手順を示すフローチャートである。
【図3】第1の実施形態の図2におけるS20の通常決定処理の実行手順を示すフローチャートである。
【図4】第1の実施形態の図2におけるS22の補償決定処理の実行手順を示すフローチャートである。
【図5】第1の実施形態に係る補償決定処理を実行した場合における、制動制御に用いられる各種の値の変化を示す図である。
【図6】第1の実施形態の図2におけるS24の補償要否判定処理の実行手順を示すフローチャートである。
【図7】第2の実施形態の図2におけるS22の補償決定処理の実行手順を示すフローチャートである。
【図8】第3の実施形態の図2におけるS22の補償決定処理の実行手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0104】
20 制動制御装置、 23 ホイールシリンダ、 24 ブレーキペダル、 25 ストロークセンサ、 45 主流路、 62 レギュレータ流路、 63 アキュムレータ流路、 65 レギュレータカット弁、 66 増圧リニア制御弁、 70 ブレーキECU、 71 レギュレータ圧センサ、 72 アキュムレータ圧センサ、 73 制御圧センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールシリンダと接続され、ブレーキペダルの踏み込み操作にしたがってホイールシリンダへ作動液が流動することによりホールシリンダ圧が増圧される第1流路と、
ホイールシリンダと接続され、ホイールシリンダへ作動液が流動することによりホールシリンダ圧が増圧される第2流路と、
前記第1流路の液圧を検出する第1液圧センサと、
前記第1液圧センサの検出値を利用して目標ホイールシリンダ圧を決定し、前記第2流路を通じたホイールシリンダへの作動液の供給を制御することにより、決定された目標ホイールシリンダ圧に近づけるようホイールシリンダ圧を制御するホイールシリンダ圧制御手段と、
を備え、
前記ホイールシリンダ圧制御手段は、前記第1流路を通じてホイールシリンダへ作動液が供給される場合、前記第1流路の液圧変動を補償した値を利用して目標ホイールシリンダ圧を決定する補償決定処理を実行することを特徴とする制動制御装置。
【請求項2】
前記ホイールシリンダ圧制御手段は、前記第1流路を通じたホイールシリンダへの作動液の供給停止および供給停止解除を制御可能に設けられ、ホイールシリンダ圧の急峻な増圧を要求されたとするための急制動条件を満たさないと判定した場合、前記第1流路を通じたホイールシリンダへの作動液の供給を停止させ、前記急制動条件を満たしたと判定した場合、前記第1流路を通じたホイールシリンダへの作動液の供給停止を解除させると共に前記補償決定処理を実行することを特徴とする請求項1に記載の制動制御装置。
【請求項3】
前記ホイールシリンダ圧制御手段は、前記第1流路を通じたホイールシリンダへの作動液の供給が停止されているときに、前記第1流路においてブレーキペダルが急踏みされたことを示す液圧変化が検出された場合、前記急制動条件を満たしたと判定することを特徴とする請求項2に記載の制動制御装置。
【請求項4】
前記第1流路と前記第2流路とが合流した主流路の液圧を検出する第2液圧センサをさらに備え、
前記ホイールシリンダ圧制御手段は、前記第1流路を通じたホイールシリンダへの作動液の供給停止が解除され且つ前記第2液圧センサの検出値の上昇が検出された場合に前記補償決定処理を実行することを特徴とする請求項2または3に記載の制動制御装置。
【請求項5】
前記ホイールシリンダ圧制御手段は、所定時間毎に取得した前記第1液圧センサの検出値を順次保持し、急制動条件を満たさないと判定した場合は前記第1液圧センサの最新の検出値を利用して目標ホイールシリンダ圧を決定し、急制動条件を満たすと判定した場合は、連続して取得された所定数の第1液圧センサの検出値の中の最大値を利用して目標ホイールシリンダ圧を決定する補償決定処理を実行することを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の制動制御装置。
【請求項6】
前記ホイールシリンダ圧制御手段は、前記第1流路を通じてホイールシリンダに作動液を供給するときの前記第1流路における液圧の低下期間に基づいて設定された前記所定数を示すデータを予め保持し、保持された当該データを利用して、連続して取得された所定数の第1液圧センサの検出値の中の最大値を取得することを特徴とする請求項5に記載の制動制御装置。
【請求項7】
ブレーキペダルの操作量を検出するストロークセンサをさらに備え、
前記ホイールシリンダ圧制御手段は、前記第1液圧センサの検出値の利用を回避し前記ストロークセンサの検出値を利用して目標ホイールシリンダ圧を決定する補償決定処理を実行することを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の制動制御装置。
【請求項8】
前記第2流路を通じてホイールシリンダに作動液を供給する作動液供給手段と、
前記作動液供給手段の液圧を検出する第3液圧センサと、
をさらに備え、
前記ホイールシリンダ圧制御手段は、最大減速度を設定すると共に設定した最大減速度を超えない目標ホイールシリンダ圧を決定するよう設けられ、急制動条件を満たすと判定した場合は前記第3液圧センサの検出値を利用して最大減速度を設定することを特徴とする請求項7に記載の制動制御装置。
【請求項9】
前記第1流路と前記第2流路とが合流した主流路の液圧を検出する第2液圧センサをさらに備え、
前記ホイールシリンダ圧制御手段は、前記第1液圧センサの検出値と前記ストロークセンサの検出値との関係を利用してストロークセンサに異常が発生しているか否かを判定する第1判定を実行すると共に、前記第2液圧センサの検出値と前記ストロークセンサの検出値との関係を利用してストロークセンサに異常が発生しているか否かを判定する第2判定を実行し、第1判定または第2判定においてストロークセンサに異常が発生していないと判定した場合に、前記第1液圧センサの検出値の利用を回避し前記ストロークセンサの検出値を利用して目標ホイールシリンダ圧を決定する補償決定処理を実行することを特徴とする請求項7または8に記載の制動制御装置。
【請求項10】
前記第2流路を通じてホイールシリンダに作動液を供給する作動液供給手段と、
前記作動液供給手段の液圧を検出する第3液圧センサと、
をさらに備え、
前記ホイールシリンダ圧制御手段は、前記第1液圧センサの検出値の利用を回避し前記第3液圧センサの検出値を利用して目標ホイールシリンダ圧を決定する補償決定処理を実行することを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の制動制御装置。
【請求項11】
前記ホイールシリンダ圧制御手段は、前記第1流路を通じたホイールシリンダへの作動液の供給が停止されるときに、前記補償決定処理による目標ホイールシリンダ圧の決定を終了することを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の制動制御装置。
【請求項12】
ブレーキペダルの操作量を検出するストロークセンサをさらに備え、
前記ホイールシリンダ圧制御手段は、前記ストロークセンサの検出値を利用してブレーキペダルの操作速度を算出し、算出したブレーキペダルの操作速度が所定の速度閾値より遅くなった場合に、前記補償決定処理による目標ホイールシリンダ圧の決定を終了することを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の制動制御装置。
【請求項13】
前記ホイールシリンダ圧制御手段は、前記補償決定処理による目標ホイールシリンダ圧の決定を終了するとき、補償決定処理を実行しない場合に決定される目標ホイールシリンダ圧に徐々に近づくよう目標ホイールシリンダ圧を決定する徐変処理を実行することを特徴とする請求項11または12に記載の制動制御装置。
【請求項14】
前記ホイールシリンダ圧制御手段は、前記補償決定処理による目標ホイールシリンダ圧の決定を終了するとき、補償決定処理を実行して算出した第1減速度と補償決定処理を実行せずに算出した第2減速度との差に1未満の所定の正数を乗じた値を目標減速度に決定し、決定した目標減速度に基づいて目標ホイールシリンダ圧を決定する徐変処理を実行することを特徴とする請求項13に記載の制動制御装置。
【請求項15】
ホイールシリンダ圧の急峻な増圧を要求されたとするための急制動条件を満たすか否かを判定するステップと、
急制動条件を満たすと判定した場合に、ホイールシリンダと接続されブレーキペダルの踏み込み操作にしたがってホイールシリンダへ作動液が流動することによりホールシリンダ圧が増圧される第1流路を通じたホイールシリンダへの作動液の供給停止を解除させるステップと、
前記第1流路を通じてホイールシリンダへ作動液が供給される場合、前記第1流路の液圧変動を補償した値を利用して目標ホイールシリンダ圧を決定する補償決定処理を実行するステップと、
ホイールシリンダと接続されホイールシリンダへ作動液が流動することによりホールシリンダ圧が増圧される第2流路を通じたホイールシリンダへの作動液の流動を制御することにより、決定された目標ホイールシリンダ圧に近づけるようホイールシリンダ圧を制御するステップと、
を備えることを特徴とする制動制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−13014(P2010−13014A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176175(P2008−176175)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】