説明

制駆動力制御装置

【課題】車輌が路面摩擦係数の異なる路面へと乗り移る際のドライバビリティ向上
【解決手段】車輌の前輪10FL,10FR側で測定した路面摩擦係数の変化を検知した際に、路面摩擦係数の低い路面への乗り移りであれば後輪10RL,10RRの制動力又は駆動力を低下させ、路面摩擦係数の高い路面への乗り移りであれば後輪10RL,10RRの制動力又は駆動力を上昇させる後輪制駆動力制御手段1eを備え、この後輪制駆動力制御手段1eは、乗り移り後の路面の路面摩擦係数に対応させた後輪10RL,10RRの制動力又は駆動力の制御態様を少なくとも路面摩擦係数の変化度合いと車輌の走行状態の情報に基づいて変更するように構成すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力が少なくとも後輪で発生させられる車輌における当該後輪の制駆動力の制御を行う制駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高摩擦係数の路面から低摩擦係数の路面への変化を前輪で検知し、その低摩擦係数の路面に後輪が到達する時間を予測して、その時間の経過後に後輪の車輪ブレーキ圧を減圧させる下記の特許文献1に開示された制動制御装置が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−138904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示された制動制御装置は、車輌の減速度、換言すれば、路面摩擦係数の変化度合いや車輌に対する運転者からの要求減速度の大きさに関係なく後輪の制動力を低下させているので、その低下の程度如何でドライバビリティの悪化を招いてしまう虞がある。即ち、運転者の要求減速度が高いにも拘わらず後輪の制動力が大きく低下されてしまった場合には、運転者の意図する減速感が得られないので、運転者にとっては違和感を覚える扱い難い車輌になってしまう。一方、運転者の要求減速度が低いにも拘わらず後輪の制動力が大きく低下されてしまった場合には、運転者の意図する以上の制動力が後輪に掛かるので、運転者に違和感を与える虞がある。
【0005】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、車輌が路面摩擦係数の異なる路面へと乗り移る際のドライバビリティを向上させ得る制駆動力制御装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する為、請求項1記載の発明では、車輌の前輪側で測定した路面摩擦係数の変化を検知した際に、路面摩擦係数の低い路面への乗り移りであれば後輪の制動力又は駆動力を低下させ、路面摩擦係数の高い路面への乗り移りであれば後輪の制動力又は駆動力を上昇させる後輪制駆動力制御手段を備えた制駆動力制御装置において、その後輪制駆動力制御手段は、乗り移り後の路面の路面摩擦係数に対応させた後輪の制動力又は駆動力の制御態様を少なくとも路面摩擦係数の変化度合いと車輌の走行状態の情報に基づいて変更するように構成している。
【0007】
この請求項1記載の制駆動力制御装置においては、路面摩擦係数の変化度合いに対応させ、且つ、運転者の意思や車輌側の制御要求を反映する所望の走行状態にも従わせた後輪の制動力又は駆動力の制御を行うことができる。
【0008】
例えば、その車輌の走行状態の情報には、請求項2記載の発明に示す如く、車輌の加減速状態の基となる車輌への要求制動力と要求駆動力が含まれている。これが為、この請求項2記載の制駆動力制御装置によれば、路面摩擦係数の変化度合いに対応させ、且つ、運転者の意思や車輌側の制御要求を反映する所望の要求車輌制動力又は要求車輌駆動力となるように後輪の制動力制御又は駆動力制御が行われるようになる。
【0009】
また、上記目的を達成する為、請求項3記載の発明では、上記請求項1又は2に記載の制駆動力制御装置において、後輪制駆動力制御手段は、乗り移り後の路面の路面摩擦係数に対応させた後輪の制動力制御又は駆動力制御の開始時期の変更を行うように構成している。
【0010】
この請求項3記載の制駆動力制御装置においては、路面摩擦係数の変化度合いに対応させ、且つ、運転者の意思や車輌側の制御要求を反映する所望の走行状態にも従わせた後輪の制動力制御又は駆動力制御の開始時期が後輪の乗り移りまでに設定されるので、その路面摩擦係数の変化度合い等に合わせた適切な制動力又は駆動力を後輪に発生させることができる。
【0011】
また、上記目的を達成する為、請求項4記載の発明では、上記請求項1記載の制駆動力制御装置において、後輪制駆動力制御手段は、後輪が路面摩擦係数の低い路面へと乗り移る場合であれば、車輌への要求制動力又は要求駆動力が大きいほど乗り移り後の路面摩擦係数に対応させた後輪の制動力制御又は駆動力制御の開始時期を遅らせる一方、後輪が路面摩擦係数の高い路面へと乗り移る場合であれば、車輌への要求制動力又は要求駆動力が大きいほど乗り移り後の路面摩擦係数に対応させた後輪の制動力制御又は駆動力制御の開始時期を早めるよう構成している。
【0012】
この請求項4記載の制駆動力制御装置によれば、大きな車輌減速度又は車輌加速度を得たいときには、後輪に大きな制動力又は駆動力を与えて十分に車輌を減速又は加速させることができ、また、然程大きな車輌減速度又は車輌加速度を必要としないときには、後輪に小さめの制動力又は駆動力を与えて後輪のスリップを抑えることができる。
【0013】
また、上記目的を達成する為、請求項5記載の発明では、上記請求項1,2,3又は4に記載の制駆動力制御装置において、後輪制駆動力制御手段は、後輪が路面摩擦係数の異なる路面へと乗り移るまでに変更処理を行うよう構成している。
【0014】
この請求項5記載の制駆動力制御装置においては、後輪が路面摩擦係数の異なる路面へと乗り移る前に後輪の制動力制御若しくは駆動力制御を開始させる又は後輪の制動力制御若しくは駆動力制御の待機状態を作り出すことができるので、応答性の良い車輌の減速若しくは加速又はスリップの抑制が可能になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る制駆動力制御装置は、路面摩擦係数の変化度合いに対応させ、且つ、運転者の意思や車輌側の制御要求を反映する所望の走行状態にも従わせた後輪の制動力又は駆動力の制御を行うことができるので、その路面摩擦係数の変化度合い等に合わせた要求車輌制動力又は要求車輌駆動力で車輌を減速又は加速させることができる。これが為、この制駆動力制御装置によれば、ドライバビリティの向上が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明に係る制駆動力制御装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
本発明に係る制駆動力制御装置の実施例1を図1から図17に基づいて説明する。
【0018】
本実施例1の制駆動力制御装置は、少なくとも後輪で駆動力を発生させる車輌に対して適用されるものであり、その車輌に搭載された電子制御装置(ECU)1の制御機能の1つとして用意されている。
【0019】
最初に、この制駆動力制御装置が適用される車輌の一例について図1に示す。
【0020】
この図1に示す車輌は、後輪10RL,10RRで駆動力を発生させる後輪駆動車であり、その後輪10RL,10RRに駆動源たる駆動力発生装置を配備したものである。この本実施例1における駆動力発生装置としては、左右夫々の後輪10RL,10RRに各々組み込まれ、制駆動力制御装置によって動作制御されるインホイールモータ20RL,20RRを例示する。
【0021】
本実施例1においては、そのインホイールモータ20RL,20RRの駆動制御を行う駆動力制御手段1aが電子制御装置1に用意されており、その駆動力制御手段1aの後輪駆動力発生指令に従い、夫々のインホイールモータ20RL,20RRに対して要求車輪駆動力(要求車輪駆動トルク)に応じたモータ出力を発生させる。これにより、後輪10RL,10RRにはその要求車輪駆動力に応じた後輪駆動力(後輪駆動トルクTdrr)が発生し、これに伴い、車輌に対しては運転者や車輌からの要求車輌駆動力が働く。
【0022】
その要求車輌駆動力や要求車輪駆動力については、電子制御装置1に用意した要求駆動力算出手段1bに算出させる。この要求駆動力算出手段1bは、駆動力制御の技術分野における周知の演算手法を用いて要求車輌駆動力や要求車輪駆動力の演算処理を行う。例えば、その要求車輌駆動力は、運転者のアクセル操作、車輌の走行モード(例えば、先進安全自動車(所謂ASV)の如き車輌の走行支援モードや自動走行モードなど)に応じて設定される。また、その要求車輪駆動力は、車輌に要求車輌駆動力を発生させるべく駆動輪(後輪10RL,10RR)に対して各々分担させる駆動力のことであり、例えば、加速中であれば、後輪10RL,10RRを路面上でスリップさせずに転動させることのできる路面摩擦係数に応じた最大値に設定する。
【0023】
また、本実施例1の車輌には、少なくとも前輪10FL,10FRと後輪10RL,10RRとに分けて制動力を発生させる制動力発生装置が設けられている。本実施例1の制動力発生装置としては、各々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに対して個別に制動力を発生させるものを例示する。
【0024】
例えば、ここでは、各車輪10FL,10FR,10RL,10RR毎のディスクロータ31FL,31FR,31RL,31RRと、このディスクロータ31FL,31FR,31RL,31RRを各々に押圧して機械的な制動力を発生させるブレーキパッド(図示略)及びピストン(図示略)が配備されたキャリパ32FL,32FR,32RL,32RRと、この各キャリパ32FL,32FR,32RL,32RRのピストンを各々に作動させる油圧の供給を行う油圧配管33FL,33FR,33RL,33RRと、これら各油圧配管33FL,33FR,33RL,33RRの油圧を個別に調節する油圧調節手段(以下、「ブレーキアクチュエータ」という。)34と、運転者が制動力を発生させる際に操作するブレーキペダル35と、運転者によるブレーキペダル35の踏み込み操作に応じて駆動されるブレーキマスタシリンダ36と、を備えた制動力発生装置について示す。更に、図示しないが、この制動力発生装置には、ブレーキペダル35の踏み込みによって生じる圧力を増圧し、ブレーキマスタシリンダ36に入力するブースタ等も設けられている。
【0025】
ここで、そのブレーキアクチュエータ34は、オイルリザーバ,オイルポンプ,夫々の油圧配管33FL,33FR,33RL,33RRの油圧を各々に増減させる為の増減圧制御弁の如き種々の弁装置等を含んで構成されている。その増減圧制御弁は、運転者のブレーキ操作量に応じた要求制動力を各車輪10FL,10FR,10RL,10RRに発生させる為の通常モード、又は運転者のブレーキ操作(ブレーキ操作量やブレーキ操作速度等)や車輌の走行状態に応じて各車輪10FL,10FR,10RL,10RRの要求制動力の制御を行う制動力制御介入モードの何れか一方で動作する。
【0026】
その通常モードにおいては、増減圧制御弁が運転者のブレーキ操作量に応じてブレーキマスタシリンダ36により制御され、そのブレーキ操作量に応じた夫々の要求車輪制動力(要求車輪制動トルク)を発生させる為に必要な油圧を各キャリパ32FL,32FR,32RL,32RRへと印加させる。これにより、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRには各々の要求車輪制動力が発生し、これに伴い、運転者のブレーキ操作量に従った要求車輌制動力が働く。その際、後輪10RL,10RRにおいては、各々の要求車輪制動力に応じた後輪制動力(後輪制動トルクTbrr)が発生している。
【0027】
一方、本実施例1の電子制御装置1にはブレーキアクチュエータ34の増減圧制御弁を駆動制御する制動力制御手段1cが用意されており、制動力制御介入モードにおいては、その制動力制御手段1cが運転者のブレーキ操作や車輌の走行状態(ここでは、主に車輌の減速状態や車輌挙動の状態のことを指す。)に応じて増減圧制御弁の制御指令(車輪制動力発生指令)を行い、そのブレーキ操作等に応じた夫々の要求車輪制動力(要求車輪制動トルク)を発生させる為に必要な油圧を各キャリパ32FL,32FR,32RL,32RRへと印加させる。この制動力制御介入モードは、例えば、運転者のブレーキ操作量に従った上記の要求車輌制動力よりも大きな制動力が必要とされる状況、各車輪10FL,10FR,10RL,10RRの内の少なくとも一輪に車輪制動力を発生させる又はその内の少なくとも一輪の車輪制動力を増減させることによって車輌の挙動を安定方向へと導かせる状況等に使用される。これにより、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRには各々の要求車輪制動力が発生し、これに伴い、運転者は普通のブレーキ操作量で大きな要求車輌制動力を働かせることができる。また、制御対象の車輪10FL,10FR,10RL,10RRには要求車輪制動力が発生し、これに伴い、車輌の挙動を安定させることができる。
【0028】
この制動力制御介入モードにおける要求車輌制動力や要求車輪制動力については、電子制御装置1に用意した要求制動力算出手段1dに算出させる。この要求制動力算出手段1dは、制動力制御の技術分野における周知の演算手法を用いて要求車輌制動力や要求車輪制動力の演算処理を行う。例えば、その要求車輌制動力は、運転者のブレーキ操作量やブレーキ操作速度、上述した先進安全自動車の如き車輌の走行モードに応じて設定される。また、その要求車輪制動力は、車輌に要求車輌制動力を発生させるべく各車輪10FL,10FR,10RL,10RRに対して各々分担させる制動力のことであり、例えば、各車輪10FL,10FR,10RL,10RRを路面上でスリップやロックさせずに転動させることのできる路面摩擦係数に応じた最大値に設定する。尚、車輌の挙動を安定させるべく設定される要求車輪制動力については、車輌の前後加速度や横加速度、ヨーモーメント等の情報に基づいて算出させる。
【0029】
このように上述した制動力発生装置が夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに要求車輪制動力(要求車輪制動トルク)を発生させることによって、その際の車輌には、これらを合わせた大きさの要求車輌制動力が働く。しかしながら、ここで例示している車輌においては、その後輪10RL,10RRにインホイールモータ20RL,20RRが配備されており、この夫々のインホイールモータ20RL,20RRに回生制動力を発生させることができる。従って、この車輌の後輪10RL,10RRに関しては、通常モードや制動力制御介入モードに拘わらず制動力制御手段1cに制動力発生装置の車輪制動力とインホイールモータ20RL,20RRの回生制動力の内の少なくとも何れか一方を発生させ、これにより要求車輪制動力を発生させる。例えば、制動力制御手段1cが後輪10RL,10RRに要求車輪制動力を発生させる際には、バッテリ(図示略)への蓄電可能容量が十分に残っていれば回生制動力の発生割合を増加させる一方、その蓄電可能容量が少なくなっていれば回生制動力の発生割合を減少させる。また、その際には、その蓄電可能容量が無くなっていれば制動力発生装置のみで要求車輪制動力を発生させ、その蓄電可能容量が残っており且つ回生制動力のみで要求車輪制動力を満たすことができるのであれば回生制動力のみを発生させる。
【0030】
ところで、この車輌は、加速状態であろうが減速状態であろうが関係なく、一律に要求車輌制動力や要求車輌駆動力に応じて要求車輪制動力や要求車輪駆動力を設定してしまうと、異なる摩擦係数の路面(以下、「異μ路」という。)へと乗り移った際に、運転者の要求とは異なる動きを示すことがあるので、ドライバビリティの悪化を招く虞がある。例えば、摩擦係数の高い路面(以下、「高μ路」という。)から摩擦係数の低い路面(以下、「低μ路」という。)へと乗り移った場合には、車輪(特に、後輪10RL,10RR)がスリップして加速力や減速力を低下させてしまい、これが運転者に伝わると、自分の意思に反して加速又は減速されないので、運転者が違和感を覚える。また、これとは逆に低μ路から高μ路へと乗り移った場合には、車輪(特に、後輪10RL,10RR)のグリップが高くなって加速力や減速力を上昇させてしまい、これが運転者に伝わると、自分の意思に反して加速又は減速されるので、運転者が違和感を覚える。
【0031】
そこで、本実施例1においては、前輪10FL,10FRが異μ路へと乗り移った際に、少なくともその乗り移り前後における路面の路面摩擦係数の変化の形態(即ち、「高μ路→低μ路」なのか「低μ路→高μ路」なのか)と車輌の走行状態(ここでは、主に車輌の加減速状態)に応じて、運転者に加速の意思があれば可能な限り要求車輌駆動力に沿った加速を行わせ、運転者に減速の意思があれば可能な限り要求車輌制動力に沿った減速を行わせるとように後輪10RL,10RRの駆動力又は制動力の制御態様の変更を行う。
【0032】
ここでは、かかる後輪10RL,10RRの駆動力又は制動力の制御を実行する後輪制駆動力制御手段1eが電子制御装置1に用意されている。
【0033】
また、この後輪制駆動力制御手段1eには、走行路の路面摩擦係数の変化の形態や変化の度合い(何μの路面から何μの路面へと乗り移ったのか)を検知する機能についても用意されている。ここで、本実施例1の車輌には前輪10FL,10FR側で走行路の路面摩擦係数を測定する路面摩擦係数測定装置40が配設されており、後輪制駆動力制御手段1eは、その路面摩擦係数測定装置40の測定信号に基づいて走行路の路面摩擦係数の変化の形態や変化の度合いを検知する。例えば、この路面摩擦係数測定装置40としては、前輪10FL,10FRに各々設けた車輪速度センサ(図示略)を利用することができる。この場合には、車輪速度センサの測定信号を後輪制駆動力制御手段1eに渡し、この後輪制駆動力制御手段1eに前輪10FL,10FRのスリップ率を算出させることによって、路面摩擦係数の変化の形態や変化の度合いを推定させる。また、路面摩擦係数測定装置40としては、車輌前方又は前輪10FL,10FRの近傍の路面を撮る撮像装置(図示略)を利用することができる。この場合、後輪制駆動力制御手段1eには、撮影した画像を解析させ、路面の濃淡や色調等の情報を読み取って、路面摩擦係数の変化の形態や変化の度合いを推定させる。尚、例えば、本実施例1の車輌の前輪10FL,10FRに対してもインホイールモータ等の電動機を配備した車輌(即ち、四輪駆動車)であれば、その前輪10FL,10FRのインホイールモータに対しての要求モータ出力と実際のモータ出力との差に基づいて、後輪制駆動力制御手段1eに路面摩擦係数の変化の形態や変化の度合いを推定させてもよい。
【0034】
以下、本実施例1の制駆動力制御装置の動作の一例について図2から図6のフローチャートを用いて説明する。
【0035】
後輪制駆動力制御手段1eは、前輪10FL,10FRが異μ路に乗り移ったか否かの判定を路面摩擦係数測定装置40の測定信号に基づいて行い(ステップST1)、ここで肯定判定が為されるまで繰り返す。そして、この後輪制駆動力制御手段1eは、このステップST1にて肯定判定(前輪10FL,10FRが異μ路へと乗り移ったとの判定)が為された際に、この前輪乗り移り時点t0を時間軸上の起算点に設定(即ち、時間t=0にリセット)する(ステップST2)。
【0036】
続いて、この後輪制駆動力制御手段1eは、後輪10RL,10RRの異μ路乗り移り前の路面における最大ノンスリップトルクTbforeと異μ路乗り移り後の路面における最大ノンスリップトルクTafterを算出する(ステップST3)。ここで、その最大ノンスリップトルクとは、該当する路面上でスリップさせることなく発生させることのできる後輪10RL,10RRの車輪駆動トルク(後輪駆動トルクTdrr)や車輪制動トルク(後輪制動トルクTbrr)の最大値のことをいう。この最大ノンスリップトルクは、低μ路よりも高μ路の方が高トルクになる。
【0037】
また、この後輪制駆動力制御手段1eは、前輪乗り移り時点t0から起算した後輪10RL,10RRの異μ路への乗り移りまでの時間(以下、「後輪乗り移り時間」という。)twbを算出する(ステップST4)。この後輪乗り移り時間twbについては、前輪乗り移り時点t0の車速V0,前輪乗り移り時点t0における車輌の前後加速度a及び車輌のホイールベースLを用いて下記の式1から算出することができる。その車速V0と前後加速度aは、図1に示す車速センサ51と前後加速度センサ52から各々検出する。
【0038】
【数1】

【0039】
そして、この後輪制駆動力制御手段1eは、上記の車輌の前後加速度a、運転者や車輌からの要求(要求車輌駆動力、要求車輌制動力)等の情報を利用して、車輌が加速中であるのか、それとも減速中であるのかを判断し(ステップST5)、加速中であれば後輪10RL,10RRの駆動力制御を実行する一方(ステップST6)、減速中であれば後輪10RL,10RRの制動力制御を実行する(ステップST7)。
【0040】
初めに、後輪10RL,10RRの駆動力制御について図3及び図4のフローチャートを用いて詳述する。
【0041】
後輪制駆動力制御手段1eは、後輪駆動力発生指令最短出力開始時間tDRS-min,後輪駆動力の出力追従時間tDR及び許容後輪スリップ時間tslip-alを算出する(ステップST11,ST12,ST13)。
【0042】
ここで、後輪駆動力発生指令最短出力開始時間tDRS-minとは、例えば、図7に示す如く、後輪制駆動力制御手段1eがインホイールモータ20RL,20RRに対してこれまでとは異なる後輪駆動力発生指令を行い(その図7では、前輪10FL,10FRの異μ路への乗り移りを検知した前輪乗り移り時点t0、及び後輪駆動力発生指令開始時点t1)、そのインホイールモータ20RL,20RRが新たな後輪駆動力発生指令による後輪駆動力を最も早く出力し始める(後輪駆動力出力開始時点tout)までの時間のことをいう。この後輪駆動力発生指令最短出力開始時間tDRS-minは、電子制御装置1の処理能力に依存するものであり時間軸上の全体から見れば僅かなものであるが、緻密な後輪駆動力制御を行うべく、ここで求めておく。本実施例1においては、この後輪駆動力発生指令最短出力開始時間tDRS-minを電子制御装置1に固有の既定値として予め一時記憶等に用意しておく。
【0043】
また、後輪駆動力の出力追従時間tDRとは、インホイールモータ20RL,20RRが上記の新たな後輪駆動力発生指令による後輪駆動力を出力し始めた後(後輪駆動力出力開始時点tout)、その指令値に相当する後輪駆動力に実際の後輪駆動力が追いつく(出力追従完了時点t2)までの時間のことをいう(例えば、図7や図8)。即ち、後輪駆動力の出力追従時間tDRは、後輪駆動力出力開始時点toutから出力追従完了時点t2までの時間を指す。実際の後輪駆動力は、ステップ波形の後輪駆動力発生指令から観れば応答性に劣るものであり、その指令値に相当する後輪駆動力へと徐々に増減していくので、その指令値に相当する後輪駆動力になるまでには時間を要するからである。
【0044】
また、許容後輪スリップ時間tslip-al(例えば、図8)とは、低μ路において車輌の操縦安定性等を鑑みた上で許容できる最大限のスリップ量(以下、「許容スリップ量」という。)Slalと、この許容スリップ量Slalを発生させているときの後輪10RL,10RRのスリップトルク(以下、「許容スリップトルク」という。)Tslipと、後輪10RL,10RRの駆動伝達系における全てのイナーシャIと、に基づいて下記の式2から求めることのできる時間である。これら許容後輪スリップ時間tslip-alや許容スリップ量Slal等については、図8に示すように、後輪10RL,10RRの異μ路乗り移り前後の夫々の路面における最大ノンスリップトルクTbefore,Tafterの組み合わせに従って既定されるものであり、予めマップデータ等のような形で用意しておくことが好ましい。その許容スリップ量Slalや許容スリップトルクTslipについては、よほど鋭敏で無ければ運転者が感じない又は感じたとしても不快感や不安感を与えない程度の値が設定される。
【0045】
【数2】

【0046】
続いて、後輪制駆動力制御手段1eは、異μ路の変化態様(ここでは、高μ路から低μ路への乗り移りか否か)を判定し(ステップST14)、高μ路から低μ路への乗り移りであればステップST15に進み、その逆であれば図4のステップST25に進む。
【0047】
先ず、高μ路から低μ路への乗り移りの場合、この後輪制駆動力制御手段1eは、後輪10RL,10RRが低μ路へと乗り移る前に、後輪駆動力発生指令の指令値に相当する後輪駆動力へと実際に出力された後輪駆動力が追従し終えるのか否か、即ち、後輪乗り移り時間twbが後輪駆動力発生指令最短出力開始時間tDRS-minと後輪駆動力の出力追従時間tDRの合計時間以上であるのか否か(twb≧tDRS-min+tDR)について判定する(ステップST15)。
【0048】
そして、この後輪制駆動力制御手段1eは、そのステップST15にて肯定判定された場合(即ち、後輪駆動トルクTdrrの出力追従完了時点t2が図7に示すように後輪乗り移り時点t3よりも先に来る場合)、要求車輌加速度が所定値以上であるのか否かを更に判定し(ステップST16)、その判定結果に応じた後輪駆動力発生指令開始時間tDRSを算出する。
【0049】
このステップST16においては、要求車輌駆動力が車輌に対しての要求加速度を示す基となり、これらの間に相関関係があるので、その要求車輌駆動力に基づいて要求車輌加速度を算出する。また、この要求車輌加速度と比較される所定値については、少量のスリップを許容してでも運転者や車輌が加速度の持続を求めているような状況下においての値(例えば、0.4G)を設定する。
【0050】
ここで、そのステップST16で肯定判定されて要求車輌加速度が大きいとの判断が為された場合、後輪制駆動力制御手段1eは、後輪乗り移り後に許容スリップトルクTslipの範囲内でスリップさせてでも加速を優先させることの可能な後輪駆動力発生指令開始時間tDRSを算出する(ステップST17)。ここでは、例えば図8に示すように、後輪乗り移り時点t3において許容スリップトルクTslipでのスリップを最大限のものとした後輪駆動力発生指令開始時間tDRSを下記の式3から求める。
【0051】
【数3】

【0052】
一方、そのステップST16で否定判定されて要求車輌加速度が比較的小さいとの判断が為された場合、後輪制駆動力制御手段1eは、後輪乗り移り前後に拘わらず、スリップさせることのない後輪駆動力発生指令開始時間tDRSを算出する(ステップST18)。ここでは、例えば図9に示すように、後輪10RL,10RRが低μ路へと乗り移ったと同時に、後輪駆動力発生指令の指令値に相当する後輪駆動力へと実際に出力された後輪駆動力が追従し終えるような後輪駆動力発生指令開始時間tDRSを下記の式4から求める。
【0053】
【数4】

【0054】
このようにして後輪駆動力発生指令開始時間tDRSを求めた後、この後輪制駆動力制御手段1eは、前輪乗り移り時点t0から後輪駆動力発生指令開始時間tDRS分だけ進めた時点を後輪駆動力発生指令開始時点t1として設定し(ステップST19)、この後輪駆動力発生指令開始時点t1となった時に後輪駆動力発生指令を行い、後輪10RL,10RRの駆動力制御を実行する(ステップST20)。
【0055】
これにより、この車輌は、要求車輌加速度が大きい場合、許容範囲内でスリップしながら要求車輌駆動力に即した加速状態が継続させられる。これが為、かかる場合の運転者は、路面摩擦係数の変化があったとしても、不快感や不安感を感じずに違和感なく自分の意思に沿った加速操作を続け、所望の加速感を得ることができる。また、この車輌は、要求車輌加速度が小さい場合、スリップさせることなく加速動作を行う。これが為、要求車輌加速度が小さいときのスリップは認識し易いので運転者に不快感や不安感を与えるが、かかる場合の運転者は、そのような不快感や不安感を抱くことなく違和感のない加速操作を続けることができる。
【0056】
続いて、上記ステップST15にて否定判定された場合(即ち、後輪駆動トルクTdrrの出力追従完了時点t2が図10や図11に示すように後輪乗り移り時点t3よりも後に来る場合)について説明する。この場合、後輪制駆動力制御手段1eは、後輪駆動力発生指令が最短で行われる際の後輪スリップ時間tslipを下記の式5から算出する(ステップST21)。
【0057】
【数5】

【0058】
そして、この後輪制駆動力制御手段1eは、その後輪スリップ時間tslipが許容後輪スリップ時間tslip-alを超えているか否か判定し(ステップST22)、図10に示す如く超えていなければ、上記ステップST16と同様に要求車輌加速度が所定値(例えば、0.4G)以上であるのか否かを更に判定する(ステップST23)。
【0059】
ここで、そのステップST23で肯定判定された場合には、上記ステップST16で肯定判定された場合と同様の考えを適用することができる。これが為、この場合の後輪制駆動力制御手段1eは、上記ステップST17に進み、許容スリップトルクTslipの範囲内でスリップさせてでも加速を優先させることの可能な後輪駆動力発生指令開始時間tDRSを算出する。
【0060】
一方、上記ステップST22にて肯定判定された場合(図11に示す如く後輪スリップ時間tslipが許容後輪スリップ時間tslip-alを超えている場合)には、後輪駆動力発生指令開始時点t1を早めることができず、また、これを遅らせてしまうと、ただでさえ後輪駆動トルクTdrrが許容スリップトルクTslipを超えているにも拘わらず更に大きなスリップを発生させてしまう。また、上記ステップST23にて否定判定された場合には、要求車輌加速度が小さいのでスリップさせたくないにも拘わらず、後輪駆動力発生指令開始時点t1を早めることができず、許容範囲内ではあるがスリップが発生してしまう。
【0061】
そこで、本実施例1の後輪制駆動力制御手段1eは、かかる場合、後輪乗り移り後に後輪駆動トルクTdrrが許容スリップトルクTslipを超えないような後輪駆動力発生指令の指令値を設定して、これに基づき後輪10RL,10RRの駆動力制御を実行する(ステップST24)。例えば、図12に示すように、後輪駆動力出力開始時点toutにおける異μ路乗り移り前の最大ノンスリップトルクTbeforeと後輪乗り移り時点t3における許容スリップトルクTslipとを結び、これを異μ路乗り移り後の最大ノンスリップトルクTafterまで延ばした出力値によって、後輪乗り移り後に後輪駆動トルクTdrrが許容スリップトルクTslipを超えることのない後輪10RL,10RRの駆動力制御を行うことができる。これにより、この場合においては、許容範囲内を超えるような過剰なスリップを回避することができる。
【0062】
続いて、上記ステップST14にて低μ路から高μ路への乗り移りと判定(否定判定)された場合について図4のフローチャートを用いて説明する。
【0063】
この場合の後輪制駆動力制御手段1eは、上記ステップST14にて肯定判定されたときのステップST15と同様の判定(twb≧tDRS-min+tDR)を行う(ステップST25)。
【0064】
そして、この後輪制駆動力制御手段1eは、そのステップST25にて肯定判定された場合(即ち、後輪駆動トルクTdrrの出力追従完了時点t2が図13に示すように後輪乗り移り時点t3よりも先に来る場合)、要求車輌加速度が所定値(例えば、0.4G)以上であるのか否かを更に判定し(ステップST26)、その判定結果に応じた後輪駆動力発生指令開始時間tDRSを算出する。
【0065】
ここで、そのステップST26で肯定判定されて要求車輌加速度が大きいとの判断が為された場合、後輪制駆動力制御手段1eは、後輪乗り移り前に許容スリップトルクTslipの範囲内でスリップさせてでも加速を優先させることの可能な後輪駆動力発生指令開始時間tDRSを算出する(ステップST27)。ここでは、例えば図14に示すように、後輪乗り移り時点t3で許容スリップトルクTslipの限界までのスリップが許容された後輪駆動力発生指令開始時間tDRSを下記の式6から求める。
【0066】
【数6】

【0067】
一方、そのステップST26で否定判定されて要求車輌加速度が比較的小さいとの判断が為された場合、後輪制駆動力制御手段1eは、後輪乗り移り前後に拘わらず、スリップさせることのない後輪駆動力発生指令開始時間tDRSを算出する(ステップST28)。ここでは、例えば図15に示すように、後輪10RL,10RRが低μ路へと乗り移ったと同時に後輪駆動力発生指令が開始されるような後輪駆動力発生指令開始時間tDRSを下記の式7から求める。
【0068】
【数7】

【0069】
続いて、上記ステップST25にて否定判定された場合(即ち、後輪駆動トルクTdrrの出力追従完了時点t2が図16や図17に示すように後輪乗り移り時点t3よりも後に来る場合)について説明する。この場合の後輪制駆動力制御手段1eは、後輪駆動力発生指令が最短で行われる際の後輪スリップ時間tslipを上記とは異なる下記の式8から算出する(ステップST29)。
【0070】
【数8】

【0071】
その後、この後輪制駆動力制御手段1eは、その後輪スリップ時間tslipが許容後輪スリップ時間tslip-alを超えているか否か判定する(ステップST30)。
【0072】
ここで、この後輪制駆動力制御手段1eは、そのステップST30にて否定判定された場合(即ち、図16に示す如く後輪スリップ時間tslipが許容後輪スリップ時間tslip-alを超えていなければ)、上記ステップST26と同様に要求車輌加速度が所定値(例えば、0.4G)以上であるのか否かを更に判定する(ステップST31)。一方、この後輪制駆動力制御手段1eは、そのステップST30にて肯定判定された場合(即ち、図17に示す如く後輪スリップ時間tslipが許容後輪スリップ時間tslip-alを超えている場合)に上記ステップST26へと進み、同じく要求車輌加速度が所定値(例えば、0.4G)以上であるのか否かの判定を行う。
【0073】
そして、そのステップST31又はステップST26にて否定判定された場合には、要求車輌加速度が比較的小さく、スリップさせることは好ましくない。これが為、この場合の後輪制駆動力制御手段1eは、上記ステップST28に進んで、後輪乗り移り前後に拘わらずスリップさせることのない後輪駆動力発生指令開始時間tDRSを算出する。
【0074】
一方、そのステップST31にて肯定判定された場合、要求車輌加速度が大きいので許容スリップトルクTslipでスリップさせることによって最も効果的な加速を行わせることができるが、ここでは、図16に示す如く後輪駆動力発生指令開始時点t1を前輪乗り移り時点t0よりも早めることができない。これが為、この場合の後輪制駆動力制御手段1eは、後輪駆動力発生指令開始時間tDRSを「0」に設定する(ステップST32)。これにより、上記ステップST19へと進んだ際に、その前輪乗り移り時点t0が後輪駆動力発生指令開始時点t1に設定される。
【0075】
尚、そのステップST26にて肯定判定された場合には上記ステップST27に進むので、後輪駆動力発生指令開始時間tDRSとしては、後輪乗り移り前に許容スリップトルクTslipの範囲内でスリップさせてでも加速を優先させることのできる時間が算出される。
【0076】
このようにして後輪駆動力発生指令開始時間tDRSを求めた後、この後輪制駆動力制御手段1eは、上記ステップST19,ST20に進み、後輪駆動力発生指令開始時点t1となった時に後輪駆動力発生指令を行い、後輪10RL,10RRの駆動力制御を実行する。
【0077】
これにより、この車輌においては、上記のステップST27,ST28の後輪駆動力発生指令開始時間tDRSで後輪10RL,10RRの駆動力制御が行われたのであれば、夫々において上記のステップST17,ST18を経たときと同様の作用効果を得ることができる。また、上記のステップST32の後輪駆動力発生指令開始時間tDRSで後輪10RL,10RRの駆動力制御が行われた場合には、電子制御装置1の処理能力の範疇において後輪乗り移り前に許容スリップトルクTslipの範囲内でスリップさせつつも加速が優先される。
【0078】
次に、後輪10RL,10RRの制動力制御について図5及び図6のフローチャートを用いて詳述する。尚、ここでは、上述した駆動力制御の場合と同様の処理動作を行う重複箇所については簡略又は省略して説明する。
【0079】
この制動力制御を行う際の後輪制駆動力制御手段1eは、後輪制動力発生指令最短出力開始時間tBKS-min,後輪制動力の出力追従時間tBK及び許容後輪スリップ時間tslip-alを算出する(ステップST41,ST42,ST43)。
【0080】
ここで、後輪制動力発生指令最短出力開始時間tBKS-minとは、例えば、図7に示す如く、前述した後輪駆動力発生指令最短出力開始時間tDRS-minと同じように、後輪制駆動力制御手段1eがブレーキアクチュエータ34に対してこれまでとは異なる後輪制動力発生指令を行い(その図7では、前輪10FL,10FRの異μ路への乗り移りを検知した前輪乗り移り時点t0、及び後輪制動力発生指令開始時点t1)、そのブレーキアクチュエータ34が新たな後輪制動力発生指令による後輪制動力を最も早く出力し始める(後輪制動力出力開始時点tout)までの時間のことをいう。
【0081】
また、後輪制動力の出力追従時間tBKとは、ブレーキアクチュエータ34が上記の新たな後輪制動力発生指令による後輪制動力を出力し始めた後(後輪制動力出力開始時点tout)、その指令値に相当する後輪制動力に実際の後輪制動力が追いつく(出力追従完了時点t2)までの時間のことをいう(例えば、図7や図8)。この後輪制動力の出力追従時間tBKについても、後輪制動力出力開始時点toutから出力追従完了時点t2までの時間を指す。前述した後輪駆動力と同様に、実際の後輪制動力についても後輪制動力発生指令のステップ波形の指令値に相当する後輪制動力になるまでには時間を要するからである。
【0082】
続いて、後輪制駆動力制御手段1eは、異μ路の変化態様(ここでも高μ路から低μ路への乗り移りか否か)を判定し(ステップST44)、高μ路から低μ路への乗り移りであればステップST45に進み、その逆であれば図6のステップST55に進む。
【0083】
先ず、高μ路から低μ路への乗り移りの場合、この後輪制駆動力制御手段1eは、後輪10RL,10RRが低μ路へと乗り移る前に、後輪制動力発生指令の指令値に相当する後輪制動力へと実際に出力された後輪制動力が追従し終えるのか否か、即ち、後輪乗り移り時間twbが後輪制動力発生指令最短出力開始時間tBKS-minと後輪制動力の出力追従時間tBKの合計時間以上であるのか否か(twb≧tBKS-min+tBK)について判定する(ステップST45)。
【0084】
そして、この後輪制駆動力制御手段1eは、そのステップST45にて肯定判定された場合(即ち、後輪制動トルクTbrrの出力追従完了時点t2が図7に示すように後輪乗り移り時点t3よりも先に来る場合)、要求車輌加速度が所定値以上であるのか否かを更に判定し(ステップST46)、その判定結果に応じた後輪制動力発生指令開始時間tBKSを算出する。
【0085】
このステップST46においては、要求車輌制動力が車輌に対しての要求減速度を示す基となり、これらの間に相関関係があるので、その要求車輌制動力に基づいて要求車輌減速度を算出する。また、この要求車輌減速度と比較される所定値については、少量のスリップを許容してでも運転者や車輌が減速度の持続を求めているような状況下においての値(例えば、0.4G)を設定する。
【0086】
ここで、そのステップST46で肯定判定されて要求車輌減速度が大きいとの判断が為された場合、後輪制駆動力制御手段1eは、後輪乗り移り後に許容スリップトルクTslipの範囲内でスリップさせてでも減速を優先させることの可能な後輪制動力発生指令開始時間tBKSを算出する(ステップST47)。ここでは、例えば図8に示すように、後輪乗り移り時点t3において許容スリップトルクTslipでのスリップを最大限のものとした後輪制動力発生指令開始時間tBKSを下記の式9から求める。
【0087】
【数9】

【0088】
一方、そのステップST46で否定判定されて要求車輌減速度が比較的小さいとの判断が為された場合、後輪制駆動力制御手段1eは、後輪乗り移り前後に拘わらず、スリップさせることのない後輪制動力発生指令開始時間tBKSを算出する(ステップST48)。ここでは、例えば図9に示すように、後輪10RL,10RRが低μ路へと乗り移ったと同時に、後輪制動力発生指令の指令値に相当する後輪制動力へと実際に出力された後輪制動力が追従し終えるような後輪制動力発生指令開始時間tBKSを下記の式10から求める。
【0089】
【数10】

【0090】
このようにして後輪制動力発生指令開始時間tBKSを求めた後、この後輪制駆動力制御手段1eは、前輪乗り移り時点t0から後輪制動力発生指令開始時間tBKS分だけ進めた時点を後輪制動力発生指令開始時点t1として設定し(ステップST49)、この後輪制動力発生指令開始時点t1となった時に後輪制動力発生指令を行い、後輪10RL,10RRの制動力制御を実行する(ステップST50)。
【0091】
これにより、この車輌は、要求車輌減速度が大きい場合、許容範囲内でスリップしながら要求車輌制動力に即した減速状態が継続させられる。これが為、かかる場合の運転者は、路面摩擦係数の変化があったとしても、不快感や不安感を感じずに違和感なく自分の意思に沿った減速操作を続け、所望の減速感を得ることができる。また、この車輌は、要求車輌減速度が小さい場合、スリップさせることなく減速動作を行う。これが為、要求車輌減速度が小さいときのスリップは認識し易いので運転者に不快感や不安感を与えるが、かかる場合の運転者は、そのような不快感や不安感を抱くことなく違和感のない減速操作を続けることができる。
【0092】
続いて、上記ステップST45にて否定判定された場合(即ち、後輪制動トルクTbrrの出力追従完了時点t2が図10や図11に示すように後輪乗り移り時点t3よりも後に来る場合)、後輪制駆動力制御手段1eは、後輪制動力発生指令が最短で行われる際の後輪スリップ時間tslipを下記の式11から算出する(ステップST51)。
【0093】
【数11】

【0094】
そして、この後輪制駆動力制御手段1eは、その後輪スリップ時間tslipが許容後輪スリップ時間tslip-alを超えているか否か判定し(ステップST52)、図10に示す如く超えていなければ、上記ステップST46と同様に要求車輌減速度が所定値(例えば、0.4G)以上であるのか否かを更に判定する(ステップST53)。
【0095】
ここで、そのステップST53で肯定判定された場合、後輪制駆動力制御手段1eは、上記ステップST47に進み、許容スリップトルクTslipの範囲内でスリップさせてでも減速を優先させることの可能な後輪制動力発生指令開始時間tBKSを算出する。
【0096】
一方、上記ステップST52にて肯定判定された場合(図11に示す如く後輪スリップ時間tslipが許容後輪スリップ時間tslip-alを超えている場合)には、駆動力制御のときと同様に、後輪制動力発生指令開始時点t1を早めることができず、また、これを遅らせてしまうと更に大きなスリップを発生させてしまう。また、上記ステップST53にて否定判定された場合には、要求車輌減速度が小さいのでスリップさせたくないにも拘わらず、後輪制動力発生指令開始時点t1を早めることができず、許容範囲内ではあるがスリップが発生してしまう。
【0097】
そこで、本実施例1の後輪制駆動力制御手段1eは、かかる場合、後輪乗り移り後に後輪制動トルクTbrrが許容スリップトルクTslipを超えないような後輪制動力発生指令の指令値を設定して、これに基づき後輪10RL,10RRの制動力制御を実行する(ステップST54)。例えば、この場合においても、駆動力制御のときと同様にして図12に示す如き出力値を設定する。つまり、後輪制動力出力開始時点toutにおける異μ路乗り移り前の最大ノンスリップトルクTbeforeと後輪乗り移り時点t3における許容スリップトルクTslipとを結び、これを異μ路乗り移り後の最大ノンスリップトルクTafterまで延ばした出力値によって、後輪乗り移り後に後輪制動トルクTbrrが許容スリップトルクTslipを超えることのない後輪10RL,10RRの制動力制御を行うことができる。これにより、この場合においては、許容範囲内を超えるような過剰なスリップを回避することができる。
【0098】
続いて、上記ステップST44にて低μ路から高μ路への乗り移りと判定(否定判定)された場合について図6のフローチャートを用いて説明する。
【0099】
この場合の後輪制駆動力制御手段1eは、上記ステップST44にて肯定判定されたときのステップST45と同様の判定(twb≧tBKS-min+tBK)を行う(ステップST55)。
【0100】
そして、この後輪制駆動力制御手段1eは、そのステップST55にて肯定判定された場合(即ち、後輪制動トルクTbrrの出力追従完了時点t2が図13に示すように後輪乗り移り時点t3よりも先に来る場合)、要求車輌減速度が所定値(例えば、0.4G)以上であるのか否かを更に判定し(ステップST56)、その判定結果に応じた後輪制動力発生指令開始時間tBKSを算出する。
【0101】
ここで、そのステップST56で肯定判定されて要求車輌減速度が大きいとの判断が為された場合、後輪制駆動力制御手段1eは、後輪乗り移り前に許容スリップトルクTslipの範囲内でスリップさせてでも減速を優先させることの可能な後輪制動力発生指令開始時間tBKSを算出する(ステップST57)。ここでは、例えば図14に示すように、後輪乗り移り時点t3で許容スリップトルクTslipの限界までのスリップが許容された後輪制動力発生指令開始時間tBKSを下記の式12から求める。
【0102】
【数12】

【0103】
一方、そのステップST56で否定判定されて要求車輌減速度が比較的小さいとの判断が為された場合、後輪制駆動力制御手段1eは、後輪乗り移り前後に拘わらず、スリップさせることのない後輪制動力発生指令開始時間tBKSを算出する(ステップST58)。ここでは、例えば図15に示すように、後輪10RL,10RRが低μ路へと乗り移ったと同時に後輪制動力発生指令が開始されるような後輪制動力発生指令開始時間tBKSを下記の式13から求める。
【0104】
【数13】

【0105】
続いて、上記ステップST55にて否定判定された場合(即ち、後輪制動トルクTbrrの出力追従完了時点t2が図16や図17に示すように後輪乗り移り時点t3よりも後に来る場合)、後輪制駆動力制御手段1eは、後輪駆動力発生指令が最短で行われる際の後輪スリップ時間tslipを下記の式14から算出する(ステップST59)。
【0106】
【数14】

【0107】
その後、この後輪制駆動力制御手段1eは、その後輪スリップ時間tslipが許容後輪スリップ時間tslip-alを超えているか否か判定する(ステップST60)。
【0108】
ここで、この後輪制駆動力制御手段1eは、そのステップST60にて否定判定された図16に示す如き場合、上記ステップST56と同様に要求車輌減速度が所定値(例えば、0.4G)以上であるのか否かを更に判定する(ステップST61)。一方、この後輪制駆動力制御手段1eは、そのステップST60にて肯定判定された図17に示す如き場合に上記ステップST56へと進み、同じく要求車輌減速度が所定値(例えば、0.4G)以上であるのか否かの判定を行う。
【0109】
そして、そのステップST61又はステップST56にて否定判定された場合には、要求車輌減速度が比較的小さく、スリップさせることは好ましくない。これが為、この場合の後輪制駆動力制御手段1eは、上記ステップST58に進んで、後輪乗り移り前後に拘わらずスリップさせることのない後輪制動力発生指令開始時間tBKSを算出する。
【0110】
一方、そのステップST61にて肯定判定された場合、要求車輌減速度が大きいので許容スリップトルクTslipでスリップさせることによって最も効果的な減速を行わせることができるが、ここでは、図16に示す如く後輪制動力発生指令開始時点t1を前輪乗り移り時点t0よりも早めることができない。これが為、この場合の後輪制駆動力制御手段1eは、後輪制動力発生指令開始時間tBKSを「0」に設定する(ステップST62)。これにより、上記ステップST49へと進んだ際に、その前輪乗り移り時点t0が後輪制動力発生指令開始時点t1に設定される。
【0111】
このようにして後輪制動力発生指令開始時間tBKSを求めた後、この後輪制駆動力制御手段1eは、上記ステップST49,ST50に進み、後輪制動力発生指令開始時点t1となった時に後輪制動力発生指令を行い、後輪10RL,10RRの制動力制御を実行する。
【0112】
これにより、この車輌においては、上記のステップST57,ST58の後輪制動力発生指令開始時間tBKSで後輪10RL,10RRの制動力制御が行われたのであれば、夫々において上記のステップST47,ST48を経たときと同様の作用効果を得ることができる。また、上記のステップST62の後輪制動力発生指令開始時間tBKSで後輪10RL,10RRの制動力制御が行われた場合には、電子制御装置1の処理能力の範疇において後輪乗り移り前に許容スリップトルクTslipの範囲内でスリップさせつつも減速が優先される。
【0113】
このように、本実施例1の制駆動力制御装置は、前輪10FL,10FRが路面摩擦係数の変化を検知した後、後輪10RL,10RRが路面摩擦係数の異なる路面へと乗り移るまでに、路面摩擦係数の変化度合いに対応させ、且つ、運転者の意思や車輌側の制御要求を反映する所望の走行状態にも従わせた後輪10RL,10RRの制動力制御又は駆動力制御の開始時期を設定している。これが為、この制駆動力制御装置は、その路面摩擦係数の変化度合い等に合わせた適切な制動力又は駆動力を後輪10RL,10RRに発生させることができる。従って、この制駆動力制御装置によれば、その路面摩擦係数の変化度合い等に合わせた要求車輌制動力又は要求車輌駆動力で車輌を減速又は加速させることができるので、車輌が運転者にとって扱い易いものとなり、ドライバビリティの向上が図れる。
【0114】
また、本実施例1の制駆動力制御装置は、後輪10RL,10RRが低μ路へと乗り移るのであれば、要求車輌制動力又は要求車輌駆動力が大きいほど乗り移り後の路面摩擦係数に対応させた後輪10RL,10RRの制動力制御又は駆動力制御の開始時期を遅らせる一方、後輪10RL,10RRが高μ路へと乗り移るのであれば、要求車輌制動力又は要求車輌駆動力が大きいほど乗り移り後の路面摩擦係数に対応させた後輪10RL,10RRの制動力制御又は駆動力制御の開始時期を早めている。これが為、この制駆動力制御装置によれば、大きな車輌減速度又は車輌加速度を得たいときには、後輪10RL,10RRに大きな制動力又は駆動力を与えて十分に車輌を減速又は加速させることができ、また、然程大きな車輌減速度又は車輌加速度を必要としないときには、後輪10RL,10RRに小さめの制動力又は駆動力を与えて後輪のスリップを抑えることができる。
【0115】
また、本実施例1の制駆動力制御装置は、後輪10RL,10RRの異μ路への乗り移るまでに、その後輪10RL,10RRの制動力制御又は駆動力制御の開始時期を設定している。これが為、この制駆動力制御装置によれば、後輪10RL,10RRが異μ路へと乗り移る前に後輪10RL,10RRの制動力制御若しくは駆動力制御を開始させる又は後輪10RL,10RRの制動力制御若しくは駆動力制御の待機状態を作り出すことができるので、応答性の良い車輌の減速若しくは加速又はスリップの抑制が可能になる。
【実施例2】
【0116】
本発明に係る制駆動力制御装置の実施例2について説明する。
【0117】
前述した実施例1においては、その制駆動力制御装置の適用対象として後輪10RL,10RRに駆動力発生装置たる電動機(インホイールモータ20RL,20RR)が配備された後輪駆動車を例示したが、その制駆動力制御装置は、左右の後輪10RL,10RRを1つの電動機で駆動させる車輌に対して適用してもよい。更に、その適用対象の車輌としては、必ずしもかかる電動機を駆動源とする車輌に限定するものではない。例えば、その制駆動力制御装置は、内燃機関や外燃機関等の原動機の出力トルクが変速機等の動力伝達装置を介して少なくとも後輪10RL,10RRに伝達される車輌に対して適用してもよい。この場合、後輪駆動力は原動機と動力伝達装置の双方によって変えられるので、この場合の後輪制駆動力制御手段1eは、その原動機と動力伝達装置の内の少なくとも一方の制御開始時期を路面摩擦係数の変化や要求車輌駆動力に応じて前後に変更する。
【0118】
また、前述した実施例1においては、その制駆動力制御装置の適用対象として所謂電子制御油圧ブレーキを供えた車輌を例示したが、適用対象の車輌としては、必ずしもかかる駆動源を備えた車輌に限定するものではない。例えば、その制駆動力制御装置は、夫々のキャリパ32FL,32FR,32RL,32RRのピストンを各々に設けた電動機の出力で作動させる所謂電動ブレーキを供えた車輌に対して適用してもよい。この場合、後輪制駆動力制御手段1eは、後輪10RL,10RRのピストン作動用電動機に対しての制御開始時期を路面摩擦係数の変化や要求車輌制動力に応じて前後に変更する。
【産業上の利用可能性】
【0119】
以上のように、本発明に係る制駆動力制御装置は、車輌が路面摩擦係数の異なる路面へと乗り移る際のドライバビリティを向上させる技術として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明に係る制駆動力制御装置の実施例1の構成について示す図である。
【図2】実施例1の制駆動力制御装置の全体動作について示すフローチャートである。
【図3】実施例1の制駆動力制御装置の駆動力制御動作について示すフローチャートである。
【図4】図3の続きの駆動力制御動作について示すフローチャートである。
【図5】実施例1の制駆動力制御装置の制動力制御動作について示すフローチャートである。
【図6】図5の続きの制動力制御動作について示すフローチャートである。
【図7】高μ路から低μ路へと乗り移る際においての後輪駆動力又は後輪制動力の制御態様の基本状態の一形態について説明する図である。
【図8】高μ路から低μ路へと乗り移る際においての後輪駆動力又は後輪制動力の制御態様の基本状態からの変化の一例について説明する図である。
【図9】高μ路から低μ路へと乗り移る際においての後輪駆動力又は後輪制動力の制御態様の基本状態からの変化の他の例について説明する図である。
【図10】高μ路から低μ路へと乗り移る際においての後輪駆動力又は後輪制動力の制御態様の基本状態の他の形態について説明する図である。
【図11】高μ路から低μ路へと乗り移る際においての後輪駆動力又は後輪制動力の制御態様の基本状態の他の形態について説明する図である。
【図12】高μ路から低μ路へと乗り移る際においての後輪駆動力又は後輪制動力の制御態様の基本状態からの変化の一例について説明する図である。
【図13】低μ路から高μ路へと乗り移る際においての後輪駆動力又は後輪制動力の制御態様の基本状態の一形態について説明する図である。
【図14】低μ路から高μ路へと乗り移る際においての後輪駆動力又は後輪制動力の制御態様の基本状態からの変化の一例について説明する図である。
【図15】低μ路から高μ路へと乗り移る際においての後輪駆動力又は後輪制動力の制御態様の基本状態からの変化の他の例について説明する図である。
【図16】低μ路から高μ路へと乗り移る際においての後輪駆動力又は後輪制動力の制御態様の基本状態の他の形態について説明する図である。
【図17】低μ路から高μ路へと乗り移る際においての後輪駆動力又は後輪制動力の制御態様の基本状態の他の形態について説明する図である。
【符号の説明】
【0121】
1 電子制御装置
1a 駆動力制御手段
1b 要求駆動力算出手段
1c 制動力制御手段
1d 要求制動力算出手段
1e 後輪制駆動力制御手段
10FL,10FR 前輪
10RL,10RR 後輪
20RL,20RR インホイールモータ
31FL,31FR,31RL,31RR ディスクロータ
32FL,32FR,32RL,32RR キャリパ
33FL,33FR,33RL,33RR 油圧配管
34 ブレーキアクチュエータ
35 ブレーキペダル
36 ブレーキマスタシリンダ
40 路面摩擦係数測定装置
51 車速センサ
52 前後加速度センサ
t0 前輪乗り移り時点
t1 後輪駆動力発生指令開始時点(後輪制動力発生指令開始時点)
t2 後輪駆動トルクの出力追従完了時点(後輪制動トルクの出力追従完了時点)
t3 後輪乗り移り時点
Tdrr 後輪駆動トルク
Tbrr 後輪制動トルク
DRS 後輪駆動力発生指令開始時間
BKS 後輪制動力発生指令開始時間
out 後輪駆動力出力開始時点(後輪制動力出力開始時点)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輌の前輪側で測定した路面摩擦係数の変化を検知した際に、路面摩擦係数の低い路面への乗り移りであれば後輪の制動力又は駆動力を低下させ、路面摩擦係数の高い路面への乗り移りであれば後輪の制動力又は駆動力を上昇させる後輪制駆動力制御手段を備えた制駆動力制御装置であって、
前記後輪制駆動力制御手段は、乗り移り後の路面の路面摩擦係数に対応させた後輪の制動力又は駆動力の制御態様を少なくとも前記路面摩擦係数の変化度合いと車輌の走行状態の情報に基づいて変更するように構成したことを特徴とする制駆動力制御装置。
【請求項2】
前記車輌の走行状態の情報には、車輌の加減速状態の基となる車輌への要求制動力と要求駆動力が含まれることを特徴とした請求項1記載の制駆動力制御装置。
【請求項3】
前記後輪制駆動力制御手段は、乗り移り後の路面の路面摩擦係数に対応させた後輪の制動力制御又は駆動力制御の開始時期の変更を行うように構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の制駆動力制御装置。
【請求項4】
前記後輪制駆動力制御手段は、後輪が路面摩擦係数の低い路面へと乗り移る場合であれば、車輌への要求制動力又は要求駆動力が大きいほど乗り移り後の路面の路面摩擦係数に対応させた後輪の制動力制御又は駆動力制御の開始時期を遅らせる一方、後輪が路面摩擦係数の高い路面へと乗り移る場合であれば、車輌への要求制動力又は要求駆動力が大きいほど乗り移り後の路面の路面摩擦係数に対応させた後輪の制動力制御又は駆動力制御の開始時期を早めるよう構成したことを特徴とする請求項1記載の制駆動力制御装置。
【請求項5】
前記後輪制駆動力制御手段は、後輪が路面摩擦係数の異なる路面へと乗り移るまでに前記変更処理を行うよう構成したことを特徴とする請求項1,2,3又は4に記載の制駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−120218(P2008−120218A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305611(P2006−305611)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】