説明

化合物半導体装置及びその製造方法

【課題】素子形成領域となる素子形成層の高品質化を実現し、また基板の反りを低減させると共に確実な素子分離を図り、信頼性の高い装置構成を得ることができる化合物半導体装置を実現する。
【解決手段】下地層3上に、素子分離領域に相当する部位に開口4aを有する第1のマスク4を形成し、開口4aを埋め込み、第1のマスク4上を覆うようにELO−GaN層5を成長し、ELO−GaN層5上に、素子形成領域に相当する部位に開口6aを有する第2のマスク6を形成し、開口6aを埋め込むように素子形成層7を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体装置は、高い飽和電子速度及びワイドバンドギャップ等の特徴を利用し、高耐圧及び高出力の半導体装置としての開発が活発に行われている。窒化物半導体デバイスとしては、電界効果トランジスタ、特に高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor:HEMT)についての報告が数多くなされている。特に、GaNを電子走行層として、AlGaNを電子供給層として用いたAlGaN/GaN・HEMTが注目されている。AlGaN/GaN・HEMTでは、GaNとAlGaNとの格子定数差に起因した歪みがAlGaNに生じる。これにより発生したピエゾ分極及びAlGaNの自発分極によって、高濃度の2次元電子ガス(Two-Dimensional Electron Gas:2DEG)が得られる。そのため、高耐圧及び高出力が実現できる。AlGaN/GaN・HEMTは、電源装置及び高周波増幅器に用いる半導体装置として注目を集めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−23023号公報
【特許文献2】特開2006−298752号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】III族窒化物半導体 (培風館 赤崎勇編著)
【非特許文献2】A. Sakai, H. Sunakawa and A. Usui, Appl. Phys. Lett., Vol. 71, No. 16 (1997)
【非特許文献3】B. Beaumont, Ph. Vennegues, and P. Gibart, phys. stat. sol. (b), 227, No. 1 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
AlGaN/GaN・HEMT等の窒化物半導体装置は、一般に、基板上にAlN又はGaN等の下地層をエピタキシャル成長した後、逐次に層構造を形成することで作製される。下地層は、基板との界面における格子不整合に起因する転位を多く含む。そのため、素子形成される上部層にも転位が伝搬し、上部層の結晶性が下地層に依存して悪化、或いは高品質化が抑制されるという問題がある。
【0006】
上記問題の対処として、いわゆるELO(Epitaxially Lateral Overgrowth)法による半導体層の成長が検討されている。この成長法を用いて、下地層の上方に開口を持つマスクを形成し、開口から選択的に化合物半導体を成長して横方向に展開し、マスクを埋め込んだ構造に化合物半導体層を形成する。マスク上に横方向成長した領域では、下地層から伝搬する転位がマスクでブロックされる。そのため、転位の上部層への伝搬が抑制される。
【0007】
しかしながら、上記のようにELO法で化合物半導体を成長する場合、下地層から上部層まで素子形成領域となる素子形成層を含むように一様に平坦に化合物半導体層が形成される。そのため、成長後の降温時に、化合物半導体層と基板との熱膨張係数差に基づく歪により、基板に大きな反りが発生したり、化合物半導体層に多数のクラックが発生し、素子形成領域における化合物半導体の結晶性が大きく損なわれる。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、素子形成領域となる素子形成層の高品質化を実現し、また基板の反りを低減させると共に確実な素子分離を図り、信頼性の高い装置構成を得ることができる化合物半導体装置の製造方法及び化合物半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
化合物半導体装置の一態様は、下地層と、前記下地層上に形成された、素子分離領域に相当する部位に第1の開口を有する第1のマスクと、前記第1の開口を埋め込み、前記第1のマスク上を覆うように形成された第1の化合物半導体層と、前記第1の化合物半導体層上に形成された、素子形成領域に相当する部位に第2の開口を有する第2のマスクと、前記第2の開口を埋め込むように形成された第2の化合物半導体層とを含む。
【0010】
化合物半導体装置の製造方法の一態様は、下地層上に、素子分離領域に相当する部位に第1の開口を有する第1のマスクを形成する工程と、前記第1の開口を埋め込み、前記第1のマスク上を覆うように第1の化合物半導体層を形成する工程と、前記第1の化合物半導体層上に、素子形成領域に相当する部位に第2の開口を有する第2のマスクを形成する工程と、前記第2の開口を埋め込むように第2の化合物半導体層を形成する工程とを含む。
【発明の効果】
【0011】
上記の各態様によれば、素子形成領域となる素子形成層の高品質化を実現し、また基板の反りを低減させると共に確実な素子分離を図り、信頼性の高い装置構成を得ることができる化合物半導体装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態によるAlGaN/GaN・HEMTの製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【図2】図1に引き続き、第1の実施形態によるAlGaN/GaN・HEMTの製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【図3】第1の実施形態において、ELO−GaNの形成工程を説明するための概略断面図である。
【図4】第1の実施形態において、形成された第2のマスクを示す概略平面図である。
【図5】第1の実施形態の変形例によるAlGaN/GaN・HEMTの製造方法の主要工程を示す概略断面図である。
【図6】第1の実施形態の変形例において、形成された第2のマスクを示す概略平面図である。
【図7】第2の実施形態による電源装置の概略構成を示す結線図である。
【図8】第3の実施形態による高周波増幅器の概略構成を示す結線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、諸実施形態について図面を参照して詳細に説明する。以下の諸実施形態では、化合物半導体装置の構成について、その製造方法と共に説明する。
なお、以下の図面において、図示の便宜上、相対的に正確な大きさ及び厚みに示していない構成部材がある。
【0014】
(第1の実施形態)
本実施形態では、化合物半導体装置として、いわゆるシングルヘテロ構造のAlGaN/GaN・HEMTを開示する。
図1及び図2は、第1の実施形態によるAlGaN/GaN・HEMTの製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【0015】
先ず、図1(a)に示すように、SiC基板1上に、初期層2及び下地層3を順次形成する。
詳細には、成長用基板として例えば半絶縁性のSiC基板1を用意し、SiC基板1をH2雰囲気、基板温度1100℃程度で10分間の熱処理をした後、SiC基板1上の全面に例えばAlNを成長する。AlNは、例えば気相成長法、ここではMOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)法により、基板温度1100℃で厚み100nm程度に成長する。これにより、初期層2が形成される。初期層2は、下地層3を形成するための核形成層となる。初期層2として、AlNの代わりに低温成長AlN(LT−AlN)を堆積しても良い。LT−AlNは、基板温度600℃程度で例えば厚み20nm程度に成長する。初期層2としてLT−AlNを用いた場合、転位の少ない上部層を形成するためのLT−AlNの膜厚は50nm以下であることが知られている(非特許文献1を参照)。
【0016】
初期層2上に、例えばMOVPE法により、AlN、GaN、又はAlGaNを成長する。これらの混晶を成長しても良い。成長温度は、AlNでは1050℃程度、GaNでは1000℃程度、AlGaNではこれらの中間の1020℃程度とする。ここでは、例えばGaNを成長する。これにより、下地層3が形成される。下地層3の初期成長領域には、SiC基板1と初期層2との界面における格子不整合に由来する転位を多く含む。そのため、転位の少ない高品質な素子形成層を成長すべく、下地層3を1μm程度の厚みに形成することが望ましい。
【0017】
続いて、図1(b)に示すように、下地層3上に、第1のマスク4を形成する。
詳細には、下地層3上にレジストを塗布し、レジストをリソグラフィーにより加工して、SiC基板1の上方で素子形成領域(素子活性領域)に相当する部位を開口し、素子分離領域に相当する部位を覆うレジストマスクを形成する。下地層3上及びレジストマスク上の全面にマスク材料、ここではアルミナ(Al23)をスパッタ法等により例えば厚み100nm程度に堆積する。所定の薬液を用い、レジストマスクをその上のアルミナと共に剥離する。
なお、第1のマスクの絶縁材料としては、Al23の代わりに、シリコン酸化物(SiO2)等を用いても良い。
【0018】
本実施形態では、素子分離領域はストライプ状に形成される。上記の剥離により、下地層3の表面で素子分離領域に相当する部位を露出するストライプ状の開口4aを有し、素子形成領域に相当する部位を覆うストライプ状の第1のマスク4が形成される。ELO成長を効率的に行うため、第1のマスク4のストライプの線幅、ピッチは、それぞれ500nm程度、1μm程度とされる。後述するように、第1のマスク4では、ELO法による横方向成長を助長すべく、開口4aの端部の長手方向が規定される。
【0019】
続いて、図1(c)に示すように、ELO−GaN層5を形成する。
本実施形態では、ELO法によりGaNを成長する場合を例示するが、GaNの代わりに、AlGaN等をELO法により形成するようにしても良い。
ここで、ELO−GaN層5の形成工程を、特に図3を用いて詳細に説明する。図3の各図では、図示の便宜上、下地層3から上方の構成部材のみを示す。
【0020】
ELO−GaN層5を形成する際には、図3(a)のように、上記した多くの転位3aを含む下地層3上に、第1のマスク4が形成されている。第1のマスク4では、直上に形成されるELO−GaN層5の積層方向である<0001>方向に対する横方向である<11−20>方向への成長速度をより高めるため、開口4aの端部の長手方向がGaNの<1−100>方向とされる(非特許文献1,2を参照)。
【0021】
そして、図3(b)〜(d)のように、下地層3及び第1のマスク4上に、ELO−GaN層5を形成する。
ELO法は、基板温度が例えば1000℃程度で行われる。GaNの原料ガスには、Ga源であるトリメチルガリウム(TMG)ガスと、N源であるアンモニア(NH3)ガスとの混合ガスを用いる。原料ガスは、キャリアガス(例えばH2)により反応炉へ供給される。後述するように、GaNの素子形成層に侵入する転位を抑制するため、<0001>方向及び<11−20>方向の成長速度の比が最適な値となるように、成長圧力及びV/III比(TMGガスとNH3ガスの流量比)を調整する。
【0022】
下地層3の第1のマスク4の開口4aで露出する表面から矢印Aの方向に成長が開始され、図3(b)のように開口4aをGaNで充填する。その後、図3(c)のように、更に矢印Aの方向に成長すると共に、第1のマスク4上で矢印Bの方向に横方向成長してゆく。そして、図3(d)のように、開口4aを埋め込み第1のマスク4上を覆うELO−GaN層5が形成される。
【0023】
ELO−GaN層では、<0001>方向と<11−20>方向との成長速度の比に基づいて、成長過程におけるGaNの形状が異なる(非特許文献3を参照)。第1のマスクの開口からELO−GaN層に貫通する転位は、成長過程のGaNの形状に依存してその向きを変える。<0001>方向の成長速度に対して、<11−20>方向の成長速度が小さい場合には、開口に断面三角形型のGaNが形成され、貫通した転位は<11−20>方向に曲げられる。この場合、第1のマスク上のGaNにも転位が伝搬してしまう。
【0024】
これに対して、本実施形態のように、<0001>方向の成長速度に対して<11−20>方向の成長速度が十分に大きい場合には、第1のマスク4の開口4aには、図3(c)のように断面台形型のGaNが形成される。転位3aは、GaNの台形部分の上辺に向かって<0001>方向にほぼ平行に伸びる。そのため、図3(d)のように、第1のマスク4上の素子形成領域に相当する部位のGaNには、転位3aは殆ど伝搬せず、当該部位における転位3aの密度は極めて小さい。
【0025】
続いて、図1(d)に示すように、ELO−GaN層5上に、第2のマスク6を形成する。第2のマスク6の平面図を図4に示す。
詳細には、ELO−GaN層5上にレジストを塗布し、レジストをリソグラフィーにより加工して、SiC基板1の上方で素子分離領域に相当する部位を開口し、素子形成領域に相当する部位を覆うレジストマスクを形成する。下地層3上及びレジストマスク上の全面に、後述する素子形成層の化合物半導体が成長しない絶縁材料、ここではシリコン酸化物(SiO2)をCVD法等により例えば厚み100nm程度に堆積する。所定の薬液を用い、レジストマスクをその上のシリコン酸化物と共に剥離する。これにより、ELO−GaN層5の表面で素子形成領域に相当する部位を露出するストライプ状の開口6aを有し、素子分離領域に相当する部位を覆うストライプ状の第2のマスク6が形成される。
なお、第2のマスクの絶縁材料としては、SiO2の代わりに、シリコン窒化物(SiN)、シリコン酸窒化物(SiON)等を用いても良い。
【0026】
第2のマスク6は、その開口6aの端部と、第1のマスク4の開口4aの端部とが、平面視(上方から眺めた状況)により、平行する部位で一部重畳するように形成することが望ましい。図1(d)に第2のマスク6の重畳部位6bとして示す。このように第2のマスク6を形成することにより、後述する素子形成層の形成時に、化合物半導体内に侵入しようとする転位3aが重畳部位6bでブロックされ、転位3aの侵入が阻止される。
【0027】
続いて、図2(a)に示すように、素子形成層7を形成する。
詳細には、例えばMOVPE法により、GaN及びAlGaNを順次成長する。MOVPE法の代わりに、分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法等を用いても良い。
【0028】
第2のマスク6の開口6aから露出する、ELO−GaN層5の表面に、GaN及びAlGaNを順次成長する。GaNの原料ガスには、Ga源であるTMGガスと、N源であるNH3ガスとの混合ガスを用いる。AlGaNの原料ガスには、Ga源であるTMGガス、Al源であるTMA(トリメチルアルミニウム)ガス、及びN源であるNH3ガスの混合ガスを用いる。各原料ガスは、キャリアガス(例えばH2)により反応炉へ供給される。GaNは基板温度1000℃程度で厚み1μm程度に、AlGaNは基板温度1020℃程度で厚み20nm程度に成長する。AlGaNのAl比率は、GaNとの格子不整合による結晶性の劣化を防止するため、0.3(30%)以下とする。以上により、第2のマスク6の開口6aには、GaNからなる電子走行層7a及びAlGaNからなる電子供給層7bが積層され、素子形成層7が形成される。
【0029】
本実施形態では、先ずELO−GaN層5を形成した後に、第2のマスク6により形成位置が規制された素子形成層7を形成する。この場合、ELO法により下地層から上部層まで素子形成領域となる素子形成層を含むように一様に平坦に化合物半導体を成長する場合等とは異なり、SiC基板1には反りが発生せず、クラックの発生もない。そのため、素子形成層7は優れた結晶性に形成される。
【0030】
第2のマスク6は、素子形成層7のGaN及びAlGaNの成長時において、素子形成層7への転位3aの伝搬をブロックして阻止する。また、第2のマスク6は、素子分離領域を覆うように形成された絶縁膜であって、隣り合う素子形成層7同士を電気的に分離する素子分離構造となる。このように、第2のマスク6は、転位3aの素子形成層7への伝搬防止機能と、素子分離機能との双方を兼ね備えている。
【0031】
続いて、図2(b)に示すように、リフトオフ法により、ソース電極8及びドレイン電極9を形成する。
詳細には、電子供給層7b上にレジストを塗付し、リソグラフィーによりレジストを加工して、ソース電極の形成部位及びドレイン電極の形成部位に開口を有するレジストマスクを形成する。電極材料として例えばTi/Alを用い、蒸着法等により、各開口を埋め込むようにレジストマスク上にTi/Alを堆積する。リフトオフ法により、レジストマスク及びその上に堆積するTi/Alを除去する。その後、SiC基板1を、例えば窒素雰囲気中において例えば600℃程度で熱処理し、オーミックコンタクトを確立する。以上により、電子供給層7b上には、ソース電極8及びドレイン電極9が形成される。
【0032】
続いて、図2(c)に示すように、リフトオフ法により、ゲート電極11を形成する。
詳細には、先ず、電子供給層7b上にレジストを塗付し、リソグラフィーによりレジストを加工して、ゲート電極の形成部位に開口を有するレジストマスクを形成する。電極材料として例えばNi/Auを用い、蒸着法等により、開口を埋め込むようにレジストマスク上にNi/Auを堆積する。リフトオフ法により、レジストマスク及びその上に堆積するNi/Auを除去する。以上により、電子供給層7b上には、ソース電極8とドレイン電極9との間にゲート電極11が形成される。
【0033】
しかる後、保護膜としてSiN等のパッシベーション膜の形成、ソース電極8、ドレイン電極9、及びゲート電極11と接続される配線の形成等の諸工程を経る。これにより、本実施形態のAlGaN/GaN・HEMTが形成される。
【0034】
なお、本実施形態では、ゲート電極11が電子供給層7b上にショットキー接合されるショットキー型のAlGaN/GaN・HEMTを例示したが、これに限定されるものではない。例えば、ソース電極8及びドレイン電極9を形成した後に、電子供給層7b上にSiO2等の薄い絶縁膜を堆積してゲート絶縁膜を形成し、電子供給層7b上にゲート絶縁膜を介してゲート電極11を形成するようにしても良い。この場合、MIS型のAlGaN/GaN・HEMTが形成される。
【0035】
以上説明したように、本実施形態によれば、素子形成領域となる素子形成層7の高品質化を実現し、またSiC基板1の反りを低減させると共に確実な素子分離を図り、信頼性の高い装置構成を得ることができるAlGaN/GaN・HEMTが実現する。
【0036】
―変形例―
以下、第1の実施形態の変形例について説明する。本例では、第1の実施形態と同様にAlGaN/GaN・HEMTを開示するが、素子形成領域の形状が異なる点で第1の実施形態と相違する。なお、第1の実施形態と同様の構成部材等については、同符号を付して詳しい説明を省略する。
図5は、第1の実施形態の変形例によるAlGaN/GaN・HEMTの製造方法の主要工程を示す概略断面図である。
【0037】
先ず、第1の実施形態と同様に、図1(a)〜図1(c)の諸工程を実行する。
続いて、図5(a)に示すように、ELO−GaN層5上に、第2のマスク12を形成する。本例では、素子分離領域を格子状に形成し、これにより素子形成領域を言わば碁盤目状に形成する。第2のマスク12の平面図を図6に示す。
【0038】
詳細には、ELO−GaN層5上にレジストを塗布し、レジストをリソグラフィーにより加工して、SiC基板1の上方で素子分離領域に相当する部位を開口し、素子形成領域に相当する部位を覆う形状、即ち碁盤目状のレジストマスクを形成する。下地層3上及びレジストマスク上の全面に、後述する素子形成層の化合物半導体が成長しない絶縁材料、ここではシリコン酸化物(SiO2)をCVD法等により例えば厚み100nm程度に堆積する。所定の薬液を用い、レジストマスクをその上のシリコン酸化物と共に剥離する。これにより、ELO−GaN層5の表面で素子形成領域に相当する部位を露出する碁盤目状の開口12aを有し、素子分離領域に相当する部位を覆う格子状の第2のマスク12が形成される。
なお、第2のマスクの絶縁材料としては、SiO2の代わりに、シリコン窒化物(SiN)、シリコン酸窒化物(SiON)等を用いても良い。
【0039】
第2のマスク12は、その開口12aの端部で第1のマスク4の開口4aの端部と平行な部位と、開口4aの端部とが、平面視により、平行する部位で一部重畳するように形成することが望ましい。図4(a)に第2のマスク12の重畳部位12bとして示す。このように第2のマスク12を形成することにより、素子形成層7の形成時に、化合物半導体内に侵入しようとする転位3aが重畳部位12bでブロックされ、転位3aの侵入が阻止される。
【0040】
続いて、図5(b)に示すように、素子形成層13を形成する。
詳細には、例えばMOVPE法により、GaN及びAlGaNを順次成長する。MOVPE法の代わりに、MBE法等を用いても良い。
【0041】
第2のマスク12の開口12aから露出する、ELO−GaN層5の表面に、GaN及びAlGaNを順次成長する。GaNの原料ガスには、Ga源であるTMGガスと、N源であるNH3ガスとの混合ガスを用いる。AlGaNの原料ガスには、Ga源であるTMGガス、Al源であるTMA(トリメチルアルミニウム)ガス、及びN源であるNH3ガスの混合ガスを用いる。各原料ガスは、キャリアガス(例えばH2)により反応炉へ供給される。GaNは基板温度1000℃程度で厚み1μm程度に、AlGaNは基板温度1020℃程度で厚み20nm程度に成長する。AlGaNのAl比率は、GaNとの格子不整合による結晶性の劣化を防止するため、0.3(30%)以下とする。以上により、第2のマスク12の開口12aには、GaNからなる電子走行層13a及びAlGaNからなる電子供給層13bが積層され、素子形成層13が形成される。
【0042】
本例では、先ずELO−GaN層5を形成した後に、第2のマスク12により形成位置が規制された素子形成層13を形成する。この場合、ELO法により下地層から上部層まで素子形成領域となる素子形成層を含むように一様に平坦に化合物半導体を成長する場合等とは異なり、SiC基板1には反りが発生せず、クラックの発生もない。そのため、素子形成層13は優れた結晶性に形成される。
【0043】
第2のマスク12は、素子形成層13のGaN及びAlGaNの成長時において、素子形成層13への転位3aの伝搬をブロックして阻止する。また、第2のマスク12は、素子分離領域を覆うように形成された絶縁膜であって、隣り合う素子形成層13同士を電気的に分離する素子分離構造となる。このように、第2のマスク12は、転位3aの素子形成層13への伝搬防止機能と、素子分離機能との双方を兼ね備えている。
【0044】
しかる後、図5(c)に示すように、第1の実施形態の図2(b),(c)と同様に、電子供給層13b上にソース電極8及びドレイン電極9と、ゲート電極11とを順次形成する。
【0045】
しかる後、保護膜としてSiN等のパッシベーション膜の形成、ソース電極8、ドレイン電極9、及びゲート電極11と接続される配線の形成等の諸工程を経る。これにより、本例のAlGaN/GaN・HEMTが形成される。
【0046】
なお、本例では、ゲート電極11が電子供給層13b上にショットキー接合されるショットキー型のAlGaN/GaN・HEMTを例示したが、これに限定されるものではない。例えば、ソース電極8及びドレイン電極9を形成した後に、電子供給層13b上にSiO2等の薄い絶縁膜を堆積してゲート絶縁膜を形成し、電子供給層13b上にゲート絶縁膜を介してゲート電極11を形成するようにしても良い。この場合、MIS型のAlGaN/GaN・HEMTが形成される。
【0047】
以上説明したように、本例によれば、素子形成領域となる素子形成層13の高品質化を実現し、またSiC基板1の反りを低減させると共に確実な素子分離を図り、信頼性の高い装置構成を得ることができるAlGaN/GaN・HEMTが実現する。
【0048】
なお、第1の実施形態及びその変形例では、基板としてSiC基板1を用いているが、これに限定されるものではない。電界効果トランジスタの機能を持つエピタキシャル構造の部分が窒化物半導体を用いていれば、サファイア、Si、GaAs等、他の基板を用いても問題ない。また、基板の導電性は、半絶縁性、導電性を問わない。また、第1の実施形態及びその変形例におけるソース電極8、ドレイン電極9及びゲート電極11の各電極の層構造は一例であり、単層・多層を問わず他の層構造であっても問題ない。また、各電極の形成方法についても一例であり、他の如何なる形成方法でも問題ない。また、第1の実施形態及びその変形例では、ソース電極8及びドレイン電極9の形成時に熱処理を行っているが、オーミック特性が得られるならば熱処理を行わなくとも良く、またゲート電極11の形成後に更なる熱処理を施しても良い。
【0049】
(第2の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態及びその変形例から選ばれた1種のAlGaN/GaN・HEMTを備えた電源装置を開示する。
図7は、第2の実施形態による電源装置の概略構成を示す結線図である。
【0050】
本実施形態による電源装置は、高圧の一次側回路21及び低圧の二次側回路22と、一次側回路21と二次側回路22との間に配設されるトランス23とを備えて構成される。
一次側回路21は、交流電源24と、いわゆるブリッジ整流回路25と、複数(ここでは4つ)のスイッチング素子26a,26b,26c,26dとを備えて構成される。また、ブリッジ整流回路25は、スイッチング素子26eを有している。
二次側回路22は、複数(ここでは3つ)のスイッチング素子27a,27b,27cを備えて構成される。
【0051】
本実施形態では、一次側回路21のスイッチング素子26a,26b,26c,26d,26eが、第1の実施形態及びその変形例から選ばれた1種のAlGaN/GaN・HEMTとされている。一方、二次側回路22のスイッチング素子27a,27b,27cは、シリコンを用いた通常のMIS・FETとされている。
【0052】
本実施形態では、素子形成領域となる素子形成層7(13)の高品質化を実現し、またSiC基板1の反りを低減させると共に確実な素子分離を図り、信頼性の高い装置構成を得ることができるAlGaN/GaN・HEMTを高圧回路に適用する。これにより、信頼性の高い大電力の電源回路が実現する。
【0053】
(第3の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態及びその変形例から選ばれた1種のAlGaN/GaN・HEMTを備えた高周波増幅器を開示する。
図8は、第3の実施形態による高周波増幅器の概略構成を示す結線図である。
【0054】
本実施形態による高周波増幅器は、ディジタル・プレディストーション回路31と、ミキサー32a,32bと、パワーアンプ33とを備えて構成される。
ディジタル・プレディストーション回路31は、入力信号の非線形歪みを補償するものである。ミキサー32aは、非線形歪みが補償された入力信号と交流信号をミキシングするものである。パワーアンプ33は、交流信号とミキシングされた入力信号を増幅するものであり、第1の実施形態及びその変形例から選ばれた1種のAlGaN/GaN・HEMTを有している。なお図8では、例えばスイッチの切り替えにより、出力側の信号をミキサー32bで交流信号とミキシングしてディジタル・プレディストーション回路31に送出できる構成とされている。
【0055】
本実施形態では、素子形成領域となる素子形成層7(13)の高品質化を実現し、またSiC基板1の反りを低減させると共に確実な素子分離を図り、信頼性の高い装置構成を得ることができるAlGaN/GaN・HEMTを高周波増幅器に適用する。これにより、信頼性の高い高耐圧の高周波増幅器が実現する。
【0056】
(他の実施形態)
第1〜第3の実施形態及び変形例では、化合物半導体装置としてAlGaN/GaN・HEMTを例示した。化合物半導体装置としては、AlGaN/GaN・HEMT以外にも、以下のようなHEMTに適用できる。
【0057】
・その他のHEMT例1
本例では、化合物半導体装置として、InAlN/GaN・HEMTを開示する。
InAlNとGaNは、組成によって格子定数を近くすることが可能な化合物半導体である。この場合、上記した第1〜第3の実施形態及び変形例では、電子走行層がGaN、電子供給層がInAlNで形成される。また、この場合のピエゾ分極がほとんど発生しないため、2次元電子ガスは主にInAlNの自発分極により発生する。
【0058】
本例によれば、上述したAlGaN/GaN・HEMTと同様に、素子形成領域となる素子形成層7(13)の高品質化を実現し、またSiC基板1の反りを低減させると共に確実な素子分離を図り、信頼性の高い装置構成を得ることができる信頼性の高いInAlN/GaN・HEMTが実現する。
【0059】
・その他のHEMT例2
本例では、化合物半導体装置として、InAlGaN/GaN・HEMTを開示する。
GaNとInAlGaNは、後者の方が前者よりも格子定数が小さい化合物半導体である。この場合、上記した第1〜第3の実施形態及び変形例では、電子走行層がGaN、電子供給層がInAlGaNで形成される。
【0060】
本例によれば、上述したAlGaN/GaN・HEMTと同様に、素子形成領域となる素子形成層7(13)の高品質化を実現し、またSiC基板1の反りを低減させると共に確実な素子分離を図り、信頼性の高い装置構成を得ることができる信頼性の高いInAlGaN/GaN・HEMTが実現する。
【0061】
以下、化合物半導体装置及びその製造方法の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0062】
(付記1)下地層と、
前記下地層上に形成された、素子分離領域に相当する部位に第1の開口を有する第1のマスクと、
前記第1の開口を埋め込み、前記第1のマスク上を覆うように形成された第1の化合物半導体層と、
前記第1の化合物半導体層上に形成された、素子形成領域に相当する部位に第2の開口を有する第2のマスクと、
前記第2の開口を埋め込むように形成された第2の化合物半導体層と
を含むことを特徴とする化合物半導体装置。
【0063】
(付記2)前記第1のマスクの前記第1の開口の端部と、前記第2のマスクの前記第2の開口の端部とは、平面視により、平行する部位で一部重畳することを特徴とする付記1に記載の化合物半導体装置。
【0064】
(付記3)前記第1のマスクは、前記第1の開口によりストライプ状に形成されていることを特徴とする付記1又は2に記載の化合物半導体装置。
【0065】
(付記4)前記第1のマスクは、ストライプ状の長手方向が前記第1の化合物半導体層の結晶の<1−100>方向に形成されていることを特徴とする付記3に記載の化合物半導体装置。
【0066】
(付記5)前記第2のマスクの前記第2の開口は、格子状に形成されていることを特徴とする付記1〜4のいずれか1項に記載の化合物半導体装置。
【0067】
(付記6)下地層上に、素子分離領域に相当する部位に第1の開口を有する第1のマスクを形成する工程と、
前記第1の開口を埋め込み、前記第1のマスク上を覆うように第1の化合物半導体層を形成する工程と、
前記第1の化合物半導体層上に、素子形成領域に相当する部位に第2の開口を有する第2のマスクを形成する工程と、
前記第2の開口を埋め込むように第2の化合物半導体層を形成する工程と
を含むことを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。
【0068】
(付記7)前記第1のマスクの前記第1の開口の端部と、前記第2のマスクの前記第2の開口の端部とは、平面視により、平行する部位で一部重畳することを特徴とする付記6に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0069】
(付記8)前記第1のマスクは、前記第1の開口によりストライプ状に形成されることを特徴とする付記6又は7に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0070】
(付記9)前記第1のマスクは、ストライプ状の長手方向が前記第1の化合物半導体層の結晶の<1−100>方向に形成されることを特徴とする付記8に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0071】
(付記10)前記第2のマスクの前記第2の開口は、格子状に形成されることを特徴とする付記6〜9のいずれか1項に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【0072】
(付記11)変圧器と、前記変圧器を挟んで高圧回路及び低圧回路とを備えた電源回路であって、
前記高圧回路はトランジスタを有しており、
前記トランジスタは、
下地層と、
前記下地層上に形成された、素子分離領域に相当する部位に第1の開口を有する第1のマスクと、
前記第1の開口を埋め込み、前記第1のマスク上を覆うように形成された第1の化合物半導体層と、
前記第1の化合物半導体層上に形成された、素子形成領域に相当する部位に第2の開口を有する第2のマスクと、
前記第2の開口を埋め込むように形成された第2の化合物半導体層と
を含むことを特徴とする電源回路。
【0073】
(付記12)入力した高周波電圧を増幅して出力する高周波増幅器であって、
トランジスタを有しており、
前記トランジスタは、
下地層と、
前記下地層上に形成された、素子分離領域に相当する部位に第1の開口を有する第1のマスクと、
前記第1の開口を埋め込み、前記第1のマスク上を覆うように形成された第1の化合物半導体層と、
前記第1の化合物半導体層上に形成された、素子形成領域に相当する部位に第2の開口を有する第2のマスクと、
前記第2の開口を埋め込むように形成された第2の化合物半導体層と
を含むことを特徴とする高周波増幅器。
【符号の説明】
【0074】
1 SiC基板
2 初期層
3 下地層
3a 転位
4 第1のマスク
4a,6a,12a 開口
5 ELO−GaN層
6,12 第2のマスク
6b,12b 重畳部位
7,13 素子形成層
7a 電子走行層
7b 電子供給層
8 ソース電極
9 ドレイン電極
11 ゲート電極
21 一次側回路
22 二次側回路
23 トランス
24 交流電源
25 ブリッジ整流回路
26a,26b,26c,26d,26e,27a,27b,27c スイッチング素子
31 ディジタル・プレディストーション回路
32a,32b ミキサー
33 パワーアンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地層と、
前記下地層上に形成された、素子分離領域に相当する部位に第1の開口を有する第1のマスクと、
前記第1の開口を埋め込み、前記第1のマスク上を覆うように形成された第1の化合物半導体層と、
前記第1の化合物半導体層上に形成された、素子形成領域に相当する部位に第2の開口を有する第2のマスクと、
前記第2の開口を埋め込むように形成された第2の化合物半導体層と
を含むことを特徴とする化合物半導体装置。
【請求項2】
前記第1のマスクの前記第1の開口の端部と、前記第2のマスクの前記第2の開口の端部とは、平面視により、平行する部位で一部重畳することを特徴とする請求項1に記載の化合物半導体装置。
【請求項3】
前記第1のマスクは、前記第1の開口によりストライプ状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の化合物半導体装置。
【請求項4】
下地層上に、素子分離領域に相当する部位に第1の開口を有する第1のマスクを形成する工程と、
前記第1の開口を埋め込み、前記第1のマスク上を覆うように第1の化合物半導体層を形成する工程と、
前記第1の化合物半導体層上に、素子形成領域に相当する部位に第2の開口を有する第2のマスクを形成する工程と、
前記第2の開口を埋め込むように第2の化合物半導体層を形成する工程と
を含むことを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1のマスクの前記第1の開口の端部と、前記第2のマスクの前記第2の開口の端部とは、平面視により、平行する部位で一部重畳することを特徴とする請求項4に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記第1のマスクは、前記第1の開口によりストライプ状に形成されることを特徴とする請求項4又は5に記載の化合物半導体装置の製造方法。
【請求項7】
変圧器と、前記変圧器を挟んで高圧回路及び低圧回路とを備えた電源回路であって、
前記高圧回路はトランジスタを有しており、
前記トランジスタは、
下地層と、
前記下地層上に形成された、素子分離領域に相当する部位に第1の開口を有する第1のマスクと、
前記第1の開口を埋め込み、前記第1のマスク上を覆うように形成された第1の化合物半導体層と、
前記第1の化合物半導体層上に形成された、素子形成領域に相当する部位に第2の開口を有する第2のマスクと、
前記第2の開口を埋め込むように形成された第2の化合物半導体層と
を含むことを特徴とする電源回路。
【請求項8】
入力した高周波電圧を増幅して出力する高周波増幅器であって、
トランジスタを有しており、
前記トランジスタは、
下地層と、
前記下地層上に形成された、素子分離領域に相当する部位に第1の開口を有する第1のマスクと、
前記第1の開口を埋め込み、前記第1のマスク上を覆うように形成された第1の化合物半導体層と、
前記第1の化合物半導体層上に形成された、素子形成領域に相当する部位に第2の開口を有する第2のマスクと、
前記第2の開口を埋め込むように形成された第2の化合物半導体層と
を含むことを特徴とする高周波増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−134243(P2012−134243A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283579(P2010−283579)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】