説明

化合物半導体電子デバイス、及び化合物半導体集積電子デバイス

【課題】ウルツ鉱構造の化合物半導体を用いてノーマリ・オフの化合物半導体電子デバイスを提供する。
【解決手段】キャリア走行半導体層15はスペーサ半導体層17と支持体13との間に位置する。基準軸Nxは、支持体13のウルツ鉱のc軸に直交する。電子デバイス11では、基準軸Nxに直交した基準平面R2に沿ってヘテロ接合が延びるので、ピエゾ電界Pzが基準平面R2に平行な方向に向く。ピエゾ電界Pzはヘテロ接合21に沿って延在する内部電界として働き、これはヘテロ接合21の二次元キャリアに作用して、ゲート電極19直下のヘテロ接合における電子濃度が調整される。内部電界の働きによりゲート電極19にゼロボルトが印加されるとき、二次元電子はゲート電極19直下のヘテロ接合21のバンドの屈曲部に実質的に蓄積されず、電子デバイス11はノーマリ・オフ特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体電子デバイス、及び化合物半導体集積電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ノーマリ・オフを実現する窒化物半導体素子が記載されている。Al0.3Ga0.7N層からなる電子供給層上に、GaNからなる電子走行層が形成されている。電子走行層の格子定数は、電子供給層の格子定数よりも大きな格子定数を有する。電子供給層と電子走行層との接合における電子供給層の界面はIII族面であるので、電子走行層の自発分極電界は、電子走行層側から電子供給層側の方向である。また、上述のように、GaN層の格子定数はAl0.3Ga0.7N層の格子定数よりも大きいので、電子走行層には圧縮応力がかかる。電子走行層を歪ませることにより、電子供給層側から電子走行層側へと向かうピエゾ分極電界が生じる。
【0003】
非特許文献1は、非極性GaNの(11−20)面(a面)上に形成されたヘテロ接合型トランジスタが記載されている。このヘテロ接合型トランジスタでは、GaN系半導体の成長方向にピエゾ電界がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−165719号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kuroda et.al., Journal of Applied Physics 102, 093703 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、電子走行層への歪みを制御するために、電子走行層の上側及び下側にそれぞれ位置する2つの層の格子定数を選択することによって、電子走行層に発生するピエゾ電界を打ち消している。この打ち消しによって、電子走行層を無電界にして、ノーマリ・オフの半導体装置を実現する。
【0007】
非特許文献1では、非極性面の法線方向(縦方向)に関するピエゾ電界は抑制できている。非極性面に沿った横方向に関する電界を利用していないので,キャリア濃度が高ければ,ノーマリ・オンとなる。故に、ノーマリ・オフを実現するためには,n型キャリア濃度を低減する必要がある。
【0008】
本発明は、このような事情を鑑みて為されたものであり、ウルツ鉱構造の化合物半導体を用いてノーマリ・オフの化合物半導体電子デバイスを提供することを目的とし、また、該化合物半導体電子デバイスを含む化合物半導体集積電子デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面に係る化合物半導体電子デバイスは、(a)ウルツ鉱構造の第1の化合物からなり、該ウルツ鉱構造のc軸方向に直交する基準軸に交差する無極性主面を有する支持体と、(b)前記支持体上に設けられたキャリア走行半導体層と前記キャリア走行半導体層にヘテロ接合を成すスペーサ半導体層とを含む半導体領域と、(c)前記半導体領域上に設けられ、前記ヘテロ接合におけるキャリア濃度を制御するゲート電極と、(d)ソース電極及びドレイン電極とを備え、前記キャリア走行半導体層はウルツ鉱構造の第2の化合物からなり、前記スペーサ半導体層はウルツ鉱構造の第3の化合物からなり、前記キャリア走行半導体層及び前記スペーサ半導体層は、前記無極性主面上に搭載されており、前記ヘテロ接合は、前記基準軸に交差する基準平面に沿って延びており、前記キャリア走行半導体層は圧縮歪みを内包し、前記半導体領域上に設けられ前記ソース電極及び前記ドレイン電極の一方である第1の電極及び前記ゲート電極は、前記半導体領域の主面上において前記c軸方向に向く第1の軸に直交する第2の軸に対して傾斜した第3の軸に沿って配置されている。
【0010】
この化合物半導体電子デバイスによれば、ヘテロ接合は、ウルツ鉱構造のc軸方向に直交する基準軸に交差する基準平面に沿って延びるので、ピエゾ電界は、実質的にヘテロ界面に沿った成分からなる。このため、ヘテロ界面におけるピエゾ電界をヘテロ界面に垂直な縦成分とヘテロ界面に沿った横成分として規定するとき、横成分はc軸方向(第1の軸の方向)に向いている。そして、第1の電極及びゲート電極が半導体領域の主面上において、第1の軸に直交する第2の軸に対して傾斜する第3の軸に沿って配置されるので、ピエゾ電界の横成分が、ヘテロ接合に沿って延在する内部電界として働く。この内部電界は、ヘテロ接合の二次元キャリアに作用して、ゲート電極直下のヘテロ接合におけるキャリア濃度が低減される。
【0011】
本発明に係る化合物半導体電子デバイスでは、前記半導体領域上に設けられ前記ソース電極及び前記ドレイン電極の他方である第2の電極及び前記ゲート電極は、第4の軸に沿って配置されていることが好ましい。この化合物半導体電子デバイスにおいては、第4の軸は第1の軸の方向に向いていてもよい。また、第4の軸は第2の軸の方向に向いていてもよい。さらに、第4の軸は第3の軸の方向に向いていてもよい。またさらに、前記第4の軸は前記半導体領域の前記主面上において前記第2の軸に対して傾斜していてもよい。
【0012】
本発明に係る化合物半導体電子デバイスでは、第1の電極はソース電極であることが好ましく、第2の電極はドレイン電極であることが好ましい。この化合物半導体電子デバイスによれば、ソース電極及びゲート電極の配列において、ヘテロ接合における内部電界が有効に利用できる。また、本発明に係る化合物半導体電子デバイスでは、第2の電極はソース電極であることができ、第1の電極はドレイン電極であることが好ましい。この化合物半導体電子デバイスによれば、ドレイン電極及びゲート電極の配列において、ヘテロ接合における内部電界が有効に利用できる。さらに、本発明に係る化合物半導体電子デバイスでは、前記ソース電極、前記ドレイン電極及び前記ゲート電極は、前記半導体領域の主面上において、前記第1の軸に沿って配置されていることが好ましい。この電極配置によれば、ヘテロ界面において内部電界を有効に利用できる。
【0013】
本発明に係る化合物半導体電子デバイスでは、前記ドレイン電極及び前記ゲート電極は、前記無極性主面上において前記第1の軸に沿って配置されていることが好ましい。この化合物半導体電子デバイスによれば、ゲート電極及びドレイン電極の配列が複雑にならない。また、本発明に係る化合物半導体電子デバイスでは、前記第1の電極及び前記ゲート電極は、前記半導体領域の前記主面上において前記第1の軸に沿って配置されており、前記第4の軸は前記半導体領域の前記主面上において前記第2の軸の方向に向いており、前記第2の電極及び前記ゲート電極は、前記半導体領域の前記主面上において前記第2の軸に沿って配置されていることが好ましい。この化合物半導体電子デバイスによれば、ソース電極、ゲート電極及びドレイン電極を規則的に配置できる。
【0014】
本発明に係る化合物半導体電子デバイスでは、前記第3の軸は、前記第1及び第2の軸に対して傾斜しており、前記第2の電極と前記ゲート電極との間の前記ヘテロ界面におけるキャリア伝導経路は、前記第1の軸の方向に前記第2の電極から前記ゲート電極の直下のチャネルまで前記ヘテロ界面に形成されることが好ましい。この化合物半導体電子デバイスによれば、様々な電極配置において、キャリアは、第2の電極及びゲート電極の一方から他方まで第1の軸の方向に延在するヘテロ界面を伝搬できる。
【0015】
また、本発明に係る化合物半導体電子デバイスでは、前記第3の軸は、前記第1及び第2の軸に対して傾斜しており、前記第1の電極と前記ゲート電極との間の前記ヘテロ界面におけるキャリア伝導経路は、前記第1の軸の方向に前記第1の電極から前記ゲート電極の直下のチャネルまで前記ヘテロ界面に形成されることが好ましい。この化合物半導体電子デバイスによれば、様々な電極配置において、キャリアは、第1の電極及びゲート電極の一方から他方まで第1の軸の方向に延在するヘテロ界面を伝搬できる。
【0016】
本発明の別の側面は、複数の化合物半導体電子デバイスを含む化合物半導体集積電子デバイスに係る。この化合物半導体集積電子デバイスは、(a)ウルツ鉱構造の第1の化合物からなり、該ウルツ鉱構造のc軸方向に直交する基準軸に交差する無極性主面を有する支持体と、(b)前記支持体上に設けられたキャリア走行半導体層と前記キャリア走行半導体層にヘテロ接合を成すスペーサ半導体層とを含む半導体領域と、(c)前記半導体領域上に設けられ、第1の化合物半導体電子デバイスのためのソース電極、ドレイン電極及びゲート電極と、(d)前記半導体領域上に設けられ、第2の化合物半導体電子デバイスのためのソース電極、ドレイン電極及びゲート電極とを備える。前記キャリア走行半導体層はウルツ鉱構造の第2の化合物からなり、前記スペーサ半導体層はウルツ鉱構造の第3の化合物からなり、前記キャリア走行半導体層及び前記スペーサ半導体層は、前記無極性主面上に搭載されており、前記ヘテロ接合は、前記基準軸に交差する基準平面に沿って延びており、前記キャリア走行半導体層は圧縮歪みを内包し、前記第1の化合物半導体電子デバイスの前記ソース、前記ゲート電極及び前記ドレイン電極は、前記半導体領域の主面上において、前記c軸方向に向いた第1の軸に直交する第2の軸に対して傾斜した第3の軸に沿って配置されており、前記第2の化合物半導体電子デバイスの前記ソース電極、前記ゲート電極及び前記ドレイン電極は、前記半導体領域の主面上において第2の軸に沿って配置されている。
【0017】
この化合物半導体集積電子デバイスによれば、第1の化合物半導体電子デバイスのソース電極、ゲート電極及びドレイン電極の配列方向は、第2の化合物半導体電子デバイスのソース電極、ゲート電極及びドレイン電極の配列方向と異なる。第1の化合物半導体電子デバイスのヘテロ接合におけるピエゾ電界における第3の軸方向に関する横成分の大きさは、第2の化合物半導体電子デバイスのヘテロ接合におけるピエゾ電界における第2の軸方向に関する横成分の大きさと異なる。第1の化合物半導体電子デバイスのゲート電極直下のヘテロ接合における実効内部電界の大きさは、第2の化合物半導体電子デバイスのゲート電極直下のヘテロ接合における実効内部電界の大きさと異なるものになる。
【0018】
本発明の別の側面に係る化合物半導体集積電子デバイスでは、前記第1の化合物半導体電子デバイスの前記ソース、前記ドレイン電極及び前記ゲート電極は、前記半導体領域の主面上において、前記第1の軸に沿って配置されていることが好ましい。
【0019】
この化合物半導体集積電子デバイスによれば、第1の化合物半導体電子デバイスは、ピエゾ電界の寄与を利用してノーマリ・オン特性を得ている。一方、第2の化合物半導体電子デバイスは、ピエゾ電界の寄与を利用しないので、そのしきい値のキャリア濃度依存性が第1の化合物半導体電子デバイスと比べて大きい。単一の基板上に、異なるI−V特性の化合物半導体電子デバイスを集積することができる。
【0020】
本発明の更なる別の側面は、化合物半導体電子デバイスのためのエピタキシャル基板である。エピタキシャル基板は、(a)ウルツ鉱構造の第1の化合物からなり、該ウルツ鉱構造のc軸方向に直交する基準軸に交差する無極性主面を有する基板と、(b)前記基板上に設けられ、キャリア走行半導体層のための第1の半導体層と、(c)前記第1の化合物半導体層にヘテロ接合を成し、第3の化合物からなり、スペーサ半導体層のための第2の半導体層とを備える。前記第1の半導体層は、前記第2の半導体層と前記基板との間に設けられており、前記第1の半導体層はウルツ鉱構造の第1の化合物からなり、前記第2の半導体層はウルツ鉱構造の第2の化合物からなり、前記第2の半導体層の表面は無極性を示し、前記ヘテロ接合は、前記基準軸に対して交差した第2の基準平面に沿って延びており、前記第1の半導体層は圧縮歪みを内包する。
【0021】
このエピタキシャル基板によれば、基準軸に対して交差した第2の基準平面に沿ってヘテロ接合が延びるので、ピエゾ電界も、第2の基準平面に平行な方向に向いている。これ故に、このピエゾ電界を、第2の基準平面に平行な横成分と垂直な縦成分とにより規定するとき、その縦成分は実質的にゼロである。一方、ピエゾ電界の横成分は、ヘテロ接合に沿って延在する内部電界として働く。この内部電界は、ヘテロ接合の二次元キャリアに作用するので、ゲート電極をエピタキシャル基板上に設けたとき、ゲート電極直下のヘテロ接合におけるキャリア濃度が減少される。
【0022】
本発明では、前記キャリア走行半導体層は、窒化ガリウム系半導体からなることが好ましく、前記スペーサ半導体層は、窒化ガリウム系半導体からなることが好ましい。この発明によれば、ウルツ鉱構造の化合物として窒化ガリウム系半導体を利用できる。窒化ガリウム系半導体は高い飽和ドリフト速度を示すので、高速なトランジスタが提供される。
【0023】
本発明では、前記キャリア走行半導体層はGaNからなり、前記スペーサ半導体層は、GaNの格子定数より小さい格子定数の窒化ガリウム系半導体からなることが好ましい。この発明によれば、キャリア走行半導体層として、ウルツ鉱構造化合物のGaNを利用できる。この材料は高品質な結晶性に起因する高い移動度と高い飽和ドリフト速度とを有するので、高速なトランジスタが提供される。
【0024】
本発明では、前記スペーサ半導体層はAlGa1−XNからなることが好ましい。この発明によれば、スペーサ半導体層として、ウルツ鉱構造の化合物のAlGa1−XNを利用できる。この材料は、キャリア走行層との格子整合を得やすく、またウルツ鉱構造の化合物領域にエピタキシャルに成長できる。また、本発明では、前記スペーサ半導体層のアルミニウム組成Xは0.03以上0.30以下の範囲にあることが好ましい。この組成範囲によれば、より高い結晶性を得ることが可能であり、高速で且つハイパワーな電子デバイスを提供できる。
【0025】
本発明では、前記スペーサ半導体層のキャリア濃度は5×1018cm−3以下であることが好ましい。この発明では、スペーサ半導体層はキャリア走行半導体層に電子を供給できる。電子濃度が上記の値以下であるとき、本発明の寄与が有効に発揮されて、電子デバイスはノーマリ・オフ特性を得ることができる。
【0026】
本発明では、前記支持体はAlGa1−YNからなり、前記支持体のアルミニウム組成Xは0以上1以下の範囲にあることが好ましい。この発明によれば、支持体として、GaN、AlGaN又はAlNを用いることが好ましい。これらの材料からなる支持体上に半導体結晶を成長するとき、その半導体結晶のエピタキシャル成長が容易である。これ故に、上記の材料系を用いるとき、高い結晶品質のスペーサ半導体層及びキャリア走行半導体層を得ることができ、また高速で且つハイパワーな電子デバイスを提供できる。
【0027】
本発明では、前記キャリア走行半導体層は、前記スペーサ半導体層と前記支持体との間に位置することが好ましい。キャリア走行半導体層が、支持体のウルツ鉱構造の化合物領域にエピタキシャルに成長されるとき、その結晶品質は高く、これ故にキャリア走行半導体層は高い移動度を有する。また、スペーサ半導体層が高結晶品質のキャリア走行半導体層上に設けられるので、スペーサ半導体層上のゲート電極を用いて、キャリア走行半導体層における高い移動度の二次元キャリアを制御できる。
【0028】
本発明では、前記無極性主面は、前記第1の化合物のa面、m面、並びに該a面及びm面のいずれかを基準に前記c軸の回りの回転により有限な角度で傾斜した面のいずれかであることが好ましい。
【0029】
本発明の上記の目的および他の目的、特徴、並びに利点は、添付図面を参照して進められる本発明の好適な実施の形態の以下の詳細な記述から、より容易に明らかになる。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本発明の一側面によれば、ウルツ鉱構造の化合物半導体を用いてノーマリ・オフの化合物半導体電子デバイスが提供される。また、本発明の別の側面によれば、該化合物半導体電子デバイスを含む化合物半導体集積電子デバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本実施の形態に係る化合物半導体電子デバイスを概略的に示す図面である。
【図2】図2は、化合物半導体電子デバイスの動作を概略的に示す図面である。
【図3】図3は、本実施の形態に係る化合物半導体電子デバイスの一例の電極配置を示す図面である。
【図4】図4は、本実施の形態に係る化合物半導体電子デバイスの別の例の電極配置を示す図面である。
【図5】図5は、本実施の形態に係る化合物半導体集積電子デバイスを概略的に示す図面である。
【図6】図6は、本実施に係る化合物半導体電子デバイスを作製する方法、及びエピタキシャル基板を作製する方法における主要な工程を示す図面である。
【図7】図7は、本実施に係る化合物半導体電子デバイスを作製する方法、及びエピタキシャル基板を作製する方法における主要な工程を示す図面である。
【図8】図8は、本実施に係る化合物半導体電子デバイスを作製する方法、及びエピタキシャル基板を作製する方法における主要な工程を示す図面である。
【図9】図9は、二次元ヘテロ接合トランジスタのドレイン電流とソース−ゲート電圧との関係を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の知見は、例示として示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解できる。引き続いて、添付図面を参照しながら、本発明の化合物半導体電子デバイス、化合物半導体集積電子デバイス及びエピタキシャル基板、並びにこれらの製造方法に係る実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。
【0033】
図1は、本実施の形態に係る化合物半導体電子デバイスを概略的に示す図面である。図1には、直交座標系Sが示されている。化合物半導体電子デバイス11(以下「電子デバイス11」として参照する)は、支持体13と、キャリア走行半導体層15と、スペーサ半導体層17と、ゲート電極19とを備える。支持体13は、ウルツ鉱構造の第1の化合物からなる。支持体13のウルツ鉱構造の化合物として、例えばIII族窒化物、窒化ガリウム系半導体、II−VI族半導体、硫化セレン等からなることができる。また、支持体13は無極性主面13a及び裏面13bを有する。無極性主面13aは、該ウルツ鉱構造のc軸方向に直交する基準軸Nxに交差しており、無極性主面13aは直交座標系SのX軸及びY軸によって規定される平面に沿って設けられている。好適な実施例では、直交座標系SのX軸はc軸の方向に向いている。裏面13bは無極性主面13aに実質的に平行であることができる。図1にはc軸ベクトルVC13、VC15、VC17が示されている。c軸ベクトルVC13、VC15、VC17は、それぞれ、支持体13、キャリア走行半導体層15及びスペーサ半導体層17におけるc軸の方向を示す。これらのc軸ベクトルは、<0001>軸の方向または<000−1>軸の方向を向いており、<000−1>軸は<0001>軸の反対方向を向く。支持体13における代表的なc面は基準平面R1に沿って延びており、軸Cxに直交している。キャリア走行半導体層15及びスペーサ半導体層17は、無極性主面13a上に搭載されている。ゲート電極19は、キャリア走行半導体層15及びスペーサ半導体層17並びに支持体13の無極性主面13a上に設けられる。キャリア走行半導体層15はウルツ鉱構造の第2の化合物からなり、またスペーサ半導体層17はウルツ鉱構造の第3の化合物からなる。スペーサ半導体層17及びキャリア走行半導体層15のためのウルツ鉱構造化合物として、窒化ガリウム系半導体、CdS系半導体、CdSe系半導体等を使用できる。第2の化合物は第3の化合物と異なり、スペーサ半導体層17はキャリア走行半導体層15とヘテロ接合21を形成する。キャリア走行半導体層15は圧縮歪みを内包する。ヘテロ接合21はX軸及びY軸の方向に延在する。ヘテロ接合21では、キャリア走行半導体層15に二次元キャリアガスが生成される。ゲート電極19は、ヘテロ接合21における二次元キャリアの濃度を制御する。ヘテロ接合21は、基準軸Nxに交差した第2の基準平面R2に沿って延びる。好適な実施例では、基準軸Nxは基準平面R2にほぼ直交しており、無極性主面13aにほぼ直交している。スペーサ半導体層17の厚みは、例えばキャリア走行半導体層15の厚みより薄い。電子デバイス11は、支持体13上に設けられたソース電極23と、支持体13上に設けられたドレイン電極25とを更に備える。ゲート電極19は、ソース電極23とドレイン電極25との間を流れるキャリア流を制御する。
【0034】
図1を参照すると、電子デバイス11では、キャリア走行半導体層15及びスペーサ半導体層17は、無極性主面13a上においてZ軸の方向に配置されている。c軸ベクトルVC13、VC15、VC17は、実質的にX軸方向に向いている。この実施例では、ゲート電極19、ソース電極23及びドレイン電極25の各々は、エピタキシャル領域29の主面29aにおいてY軸方向に延在している。必要な場合には、支持体13とキャリア走行半導体層15との間にバッファ層12を設けることができる。バッファ層12は例えばウルツ鉱構造の化合物からなる。
【0035】
図2は、化合物半導体電子デバイスの動作を概略的に示す図面である。図2(a)に示されるように、キャリア走行半導体層15はスペーサ半導体層17と支持体13との間に位置することができる。電子デバイス11では、基準軸Nxに交差した基準平面R2に沿ってヘテロ接合が延びる。ピエゾ電界Pz(電界ベクトルPz)も、基準平面R2の延在方向に向いており、このピエゾ電界Pzは、基準平面R2に平行な横成分Pz(T)と垂直な縦成分Pz(L)とを有する。ピエゾ電界の平行な成分Pz(T)が、ヘテロ接合21に沿って延在する内部電界として働く。無極性を利用するとき、縦成分Pz(L)は横成分Pz(T)に比べて非常に小さく、実質的にゼロであるので、引き続く説明では、ピエゾ電界Pzは横成分Pz(T)を示す。内部電界は、ヘテロ接合21の二次元キャリアに作用して、ゲート電極19直下のヘテロ接合におけるキャリア濃度が調整される。内部電界の働きにより、二次元キャリアCAは例えばソース領域に引かれ、ゲート電極19直下におけるキャリア濃度は、ソース領域近傍におけるキャリア濃度に比べて小さくなり、ゲート電極19にゼロボルトが印加されているとき、二次元キャリアCAは、ゲート電極19直下のヘテロ接合21のバンドに実質的に蓄積されていない。これ故に、この電子デバイス11は、ノーマリ・オフ特性を有する。
【0036】
図2(b)を参照すると、c面上に作製された化合物半導体電子デバイスCが示されている。化合物半導体電子デバイスCは、支持体33と、キャリア走行半導体層35と、スペーサ半導体層37と、ゲート電極39aと、ドレイン電極39bと、ソース電極39cとを備える。支持体33は、ウルツ鉱構造の第1の化合物からなる。また、支持体33はc面主面33aを有する。キャリア走行半導体層35はウルツ鉱構造の第2の化合物からなり、またスペーサ半導体層37はウルツ鉱構造の第3の化合物からなる。図2(b)には、c軸ベクトルVC33、VC35、VC37が示されている。c軸ベクトルVC33、VC35、VC37は、それぞれ、支持体33、半導体層35及び半導体層37におけるc軸の方向を示す。スペーサ半導体層37はキャリア走行半導体層35とヘテロ接合41を形成する。化合物半導体電子デバイスCでは、ヘテロ接合41のキャリア走行半導体層35に二次元キャリアが生成される。しかしながら、キャリア走行半導体層35及びスペーサ半導体層37はc面主面33a上に搭載されているので、ピエゾ電界が、ヘテロ接合41に垂直な方向に向いている。故に、ピエゾ電界は、ヘテロ接合41に平行な成分を持たない。したがって、ゲート電極39aにゼロボルトが印加されているとき、二次元キャリアは、キャリア走行半導体層35におけるヘテロ接合41のバンドの屈曲部に蓄積される。この化合物半導体電子デバイスCは、ノーマリ・オン特性を有する。
【0037】
再び図1を参照しながら、電子デバイス11を説明する。電子デバイス11は、支持体13上に設けられたソース電極23及びドレイン電極25を備える。ソース電極23の直下にはソース半導体領域27aが設けられ、ドレイン電極25の直下にはドレイン半導体領域27bが設けられることができる。これらの半導体領域27a、27bは、ヘテロ接合21に到達しており、また所望の導電性(例えばn型)を示すようにドーパントが添加されている。
【0038】
図1は、ゲート電極19、ソース電極23及びドレイン電極25の配列の一例を示している。軸Cxは、無極性主面13aの法線に直交しており、X軸の方向に向いている。ソース電極23及びゲート電極19は、無極性主面13a上においてX軸に沿って配置されている。この電極配置では、ピエゾ電界Pzを最も有効にチャネル方向の内部電界として利用できる。図2(a)に示されるように、この内部電界(ピエゾ電界Pz)の作用により、ソース電極23近傍のヘテロ接合21における二次元キャリア濃度に比べて、ゲート電極19直下のヘテロ接合21における二次元キャリア濃度が小さくなる。また、図1に示された電子デバイス11では、ゲート電極19及びドレイン電極25は、無極性主面13a上においてX軸に沿って配置されている。ソース電極23とドレイン電極25との間に印加される電位差は、ゲート電極19の直下におけるヘテロ接合21を通過したキャリアをドレイン電極25に加速する。
【0039】
内部電界の大きさと、ソース電極23及びゲート電極19の配列との関係を説明する。ソース電極23及びゲート電極19が半導体領域29の主面29aにおいてある軸(以下「配列軸」と記す)に沿って配置される化合物半導体電子デバイスでは、この配列軸の方向がY軸の方向であるとき、ヘテロ接合21におけるピエゾ電界PzはY方向にはゼロである。これ故に、配列軸がY軸の方向に交差するとき、内部電界の寄与を得ることができる。
【0040】
図3は、本実施の形態に係る化合物半導体電子デバイスの一電極配置を示す図面である。ソース電極23a及びゲート電極19aが半導体領域29の主面29aにおいて配列軸Ax1に沿って配置される電子デバイス11aでは、この配列軸Ax1がY軸の方向に対して傾斜する。ソース電極23a直下のヘテロ接合21からゲート電極19a直下のヘテロ接合21に向かう経路CH1をX軸の方向に形成できるとき、電子デバイス11aは内部電界の寄与を得ることができる。この経路CH1によって、ソース電極23aとゲート電極19aとの間のキャリア伝導経路が提供される。また、電子デバイス11aでは、ドレイン電極25a及びゲート電極19aがエピタキシャル領域29の主面29aにおいて配列軸Ax1に沿って配置される。ゲート電極19a直下のヘテロ接合21からドレイン電極25a直下のヘテロ接合21に向かう経路DRF1がX軸の方向に形成される。この経路DRF1によって、ゲート電極19aとドレイン電極25aとの間のキャリア伝導経路が提供される。
【0041】
図4は、本実施の形態に係る化合物半導体電子デバイスの別の電極配置を示す図面である。電子デバイス11bでは、ソース電極23b及びゲート電極19bが半導体領域29の主面29aにおいて配列軸Ax2に沿って配置される。電子デバイス11bでは、この配列軸Ax2がX軸の方向に向いている。ソース電極23b直下のヘテロ接合21からゲート電極19b直下のヘテロ接合21に向かう経路CH2をX軸の方向に形成できるので、電子デバイス11bは、内部電界の寄与を有効に得ることができる。この経路CH2によって、ゲート電極19bとソース電極23bとの間のキャリア伝搬経路が提供される。また、電子デバイス11bでは、ドレイン電極25b及びゲート電極19bがエピタキシャル領域29の主面29aにおいて配列軸Ax3に沿って配置される。ゲート電極19b直下のヘテロ接合21からドレイン電極25b直下のヘテロ接合21に向かう経路DRF2がY軸の方向に向いている。この経路DRF2によって、ゲート電極19bとドレイン電極25bとの間のキャリア伝搬経路が提供される。
【0042】
上記の電子デバイス11、11a、11bでは、ウルツ鉱構造の化合物として窒化ガリウム系半導体を利用できる。このため、キャリア走行半導体層15は窒化ガリウム系半導体からなることができる。この窒化ガリウム系半導体は、例えばGaN、AlGaN、InGaN等からなることができる。スペーサ半導体層17は窒化ガリウム系半導体からなることができる。この窒化ガリウム系半導体は、例えばGaN、AlGaN、InGaN等からなることができる。さらに、スペーサ半導体層17のバンドギャップは、キャリア走行半導体層15のバンドギャップより大きい。また、スペーサ半導体層17の格子定数は、キャリア走行半導体層15の格子定数より小さい。この条件においては、スペーサ半導体層17はキャリア走行半導体層15に圧縮歪みを加え得る。
【0043】
キャリア走行半導体層15は例えばGaNからなることができ、スペーサ半導体層17は例えばGaNの格子定数より小さい格子定数の窒化ガリウム系半導体からなることができる。キャリア走行半導体層15として、ウルツ鉱構造の化合物のGaNを利用できる。結晶成長技術に進歩により、良好な結晶品質のGaNが利用可能になっている。また、キャリア走行半導体層15はアンドープ半導体からなるとき、移動度を大きくできる。例えば、アンドープGaNのキャリアは電子である。
【0044】
また、スペーサ半導体層17として、ウルツ鉱構造の化合物のAlGaN半導体を利用できる。結晶成長技術により、良好な結晶品質のAlGaNとヘテロ接合とが利用可能になる。スペーサ半導体層17はAlGa1−XNからなることが好ましい。スペーサ半導体層17としてウルツ鉱構造の化合物のAlGa1−XNを利用するとき、この材料は、キャリア走行層との格子整合を得やすく、またウルツ鉱構造の化合物領域にエピタキシャルに成長できる。例えば、このAlGa1−XNのアルミニウム組成Xは0.03以上であることが好ましい。このアルミニウム組成Xは0.30以下であることが好ましい。この組成範囲によれば、より高い結晶性を得ることが可能であり、高速でかつハイパワーな電子デバイスを提供できる。スペーサ半導体層17はn型ドーパントを添加したドープ半導体からなることがよい。例えば、SiドープAlGaNはn導電性を示す。
【0045】
スペーサ半導体層17の電子濃度は5×1018cm−3以下であることが好ましい。電子濃度が上記の値以下であるとき、本電実施の形態における寄与が有効に発揮されて、電子デバイス11はノーマリ・オフ特性を得ることができる。スペーサ半導体層17はキャリア走行半導体層15に電子を供給することができる。このキャリア濃度は1×1015cm−3以上であることができる。
【0046】
支持体13はAlGa1−YNからなることができ、アルミニウム組成Xは0以上1以下の範囲にあることができる。この材料として、GaN、AlGaN又はAlNを用いることができる。これらの材料からなる支持体13上に半導体結晶を成長するとき、その半導体結晶のエピタキシャルが容易である。これ故に、上記の材料系を用いるとき、高い結晶品質のスペーサ半導体層17はキャリア走行半導体層15を得ることができ、また高速で且つハイパワーな電子デバイスを提供できる。
【0047】
無極性主面13aは、第1の化合物のa面(結晶学的に等価な面を含む)及びm面(結晶学的に等価な面を含む)のいずれかであることが好ましい。また、無極性主面13aは、c軸の回りの回転により上記のa面及びm面のいずれかを基準に有限な角度で傾斜した面のいずれかであれば良い。より好ましくは、結晶成長が容易なためより高い結晶性が得られ、より高い移動度が得られるため、より高速な電子デバイスを提供できるm面、もしくはa面が良い。
【0048】
好適な実施例では、図1に示される基準軸Nxは基準平面R2にほぼ直交しており、無極性主面13aにほぼ直交している。無極性主面13aの法線ベクトルNVとC軸ベクトルとの成す角度は、支持体13のウルツ鉱構造の化合物結晶の結晶品質(例えば歪み)等による反り、支持体13の表面を形成する際の研磨、結晶母材からの支持体13のスライス等に起因したばらつきにより厳格な直角に対してばらつく。
【0049】
図5は、本実施の形態に係る化合物半導体集積電子デバイスを概略的に示す図面である。化合物半導体集積電子デバイス(以下「集積電子デバイス11c」と記す)11cは、複数の化合物半導体電子デバイスを含む。集積電子デバイス11cは、電子デバイス11と同様に、支持体13と、キャリア走行半導体層15と、スペーサ半導体層17とを備える。図5にも、図1と同様に、c軸ベクトルVC13、VC15、VC17が示されている。支持体13のための代表的なc面が基準平面R1として示されている。ヘテロ接合21は、基準軸Nxに交差した基準平面R2に沿って延び、キャリア走行半導体層15は圧縮歪みを内包する。ヘテロ接合21では、キャリア走行半導体層15に二次元キャリアガスが生成される。この二次元キャリアガスを第1及び第2の電子デバイス51、53が利用可能である。第1の電子デバイス51は、ゲート電極19c、ソース電極23c及びドレイン電極25cを含み、ゲート電極19cは、ソース電極23cとドレイン電極25cとの間を流れるキャリア流を制御する。また、第2の電子デバイス53は、ゲート電極19d、ソース電極23d及びドレイン電極25dを含み、ゲート電極19dは、ソース電極23dとドレイン電極25dとの間を流れるキャリア流を制御する。ゲート電極19c、19dは、キャリア走行半導体層15及びスペーサ半導体層17並びに支持体13の無極性主面13a上に設けられる。ゲート電極19c、19dは、ゲート電極19と同様に、ヘテロ接合21における二次元キャリアの濃度を制御する。
【0050】
基準軸Nxは、無極性主面13aの法線(法線ベクトルNVで示される)の方向に向いており、軸Cxは、法線ベクトルNVをc軸の方向に90度の角度で傾けたベクトルの方向を延在する。第1の化合物半導体電子デバイス51のソース電極23c及びゲート電極19cは、無極性主面13a上において軸Ax4に沿って配置される。この軸Ax4は、無極性主面13a上においてX軸の方向(c軸の方向)に延在する。第2の化合物半導体電子デバイス53のソース電極23d及びゲート電極19dは、無極性主面13a上において軸Ax5に沿って配置される。この軸Ax5の方向は軸Ax4の方向と異なる。軸Ax5の方向はX軸の方向とは異なっており、軸Ax5はX軸に交差する方向に延びる。電子デバイス51、53の電極配置として、電子デバイス11、11a、11bの配置を利用できる。
【0051】
この集積電子デバイス11cによれば、第1の電子デバイス51のソース電極23c及びゲート電極19cの配列方向は、第2の電子デバイス53のソース電極23d及びゲート電極19dの配列方向と異なる。第1の電子デバイス51におけるピエゾ電界Pz(軸Ax4の方向の成分)の大きさは、第2の電子デバイス53におけるピエゾ電界Pz(軸Ax5の方向の成分)の大きさと異なる。同一のゲートバイアスの下で、第1の電子デバイス51におけるゲート電極19c直下のヘテロ接合におけるキャリア濃度を、第2の電子デバイス53におけるゲート電極19d直下のヘテロ接合におけるキャリア濃度と異なるものにできる。
【0052】
より具体的な例には、第1の電子デバイス51のためのソース電極23c及びゲート電極19cは、X軸の方向に配列される。第2の電子デバイス53のためのソース電極23d及びゲート電極19dはY軸の方向に配列される。この集積電子デバイス11dによれば、第1の電子デバイス51は、ピエゾ電界Pzの寄与を利用してノーマリ・オン特性を有する。第2の電子デバイス53におけるノーマリ・オフ/ノーマリ・オンに関しては、ヘテロ界面における二次元電子濃度への依存性が、第1の電子デバイス51に比べて大きい。単一の支持体13上に、ノーマリ・オフ特性の電子デバイスと、この電子デバイスと異なるI−V特性を有する別の電子デバイスを集積できる。
【0053】
ウルツ鉱構造に特有の圧電特性を利用して、ノーマリ・オフ型ヘテロ接合トランジスタ(HEMT)を実現することができる。ウルツ鉱構造の半導体領域に、c面ではなく無極性面を形成する。無極性面上の電子走行層が圧縮歪みを内包するとき、c軸方向にピエゾ電界が発生する。このピエゾ電界はヘテロ界面に平行な成分からなる。例えば、無極性(1−100)面GaN基板(例えばm面GaN基板)上に、AlGaN/アンドープGaNからなる半導体ヘテロ接合を形成するとき、電子走行層にはAlGaNから圧縮歪みが加えられる。この歪みは、電子走行層においてc軸方向にピエゾ電界を生成させる。このピエゾ電界は、ヘテロ界面に平行な横成分とヘテロ界面に垂直な縦成分とより規定でき、無極性面では縦成分は実質的にゼロである。横成分により、電子走行層の電子ガスをドリフトさせることが可能となる。これによって、ゲート電極直下の二次元電子ガスの濃度を非常に小さくでき、ノーマリ・オフ型(エンハンスメント型)HEMTを実現することが可能となる。例えば、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を接続してこれらを等電位にしたとき、ゲート電極とソース電極との間におけるヘテロ界面またはゲート電極をドレイン電極との間におけるヘテロ界面を二次元電子ガス・フリーにすることが可能となる。また、c軸の方向を示す軸に沿ってソース電極及びゲート電極を配置するとき、或いは、c軸の方向を示す軸に沿ってドレイン電極及びゲート電極を配置するとき、ピエゾ電界の横成分を有効に利用できる。
【0054】
(実施例)
図6、図7及び図8は、本実施に係る化合物半導体電子デバイスを作製する方法、及びエピタキシャル基板を作製する方法に主要な工程を示す図面である。この工程フローに従ってHEMT構造を作製した。図6(a)に示されるように、工程S101では、無極性主面41aを有するGaN基板41を準備した。この半極性面41aは(11−20)面を有する。GaN基板41におけるc軸の向きはベクトルVC41で示される。このGaN基板41上に窒化ガリウム系半導体を成長炉10aを用いて成長した。この成長は有機金属気相成長法で行った。原料として、トリメチルガリウム(TMG),トリメチルアルミニウム(TMA)、アンモニア(NHを用い、n型ドーパントガスとしてシランを用いた。図6(b)に示されるように、工程S102では、GaNバッファ層43を無極性主面41a上に成長した。GaNバッファ層43の表面も無極性を示す。次いで、図6(c)に示されるように、工程S103では、1.0μm厚のノンドープGaN電子走行層45をGaNバッファ層43上に成長した。GaN電子走行層45の表面も無極性を示す。図7(a)に示されるように、工程S104では、0.02μm厚のAl0.25Ga0.85N層47をGaN電子走行層45上に成長してエピタキシャル基板Epiを作製した。エピタキシャル基板Epi上に、マスク層を堆積した。マスク層の材料は、例えばシリコン酸化物であった。マスク層のパターン形成のために、マスク層上にレジストを塗布した。フォトリソグラフィを利用して、図7(b)に示されるように、工程S105では、ソース領域及びドレイン領域に開口を有するエッチングマスク49を作製した。このエッチングマスク49を用いて、エッチング装置10bを用いてマスク層をエッチングしてマスク50を作製した、エッチングマスク49を除去した後に、図7(c)に示されるように、工程S106では、エッチング装置10cを用いてさらにAl0.25Ga0.85N層47をエッチングして、電子走行層45を露出させると共にAl0.25Ga0.85Nスペーサ層47aを形成した。このエッチングとして、塩素系ガスを用いるドライエッチングを使用した。マスク50は、ソース領域及びドレイン領域に開口を有すると共に、ゲート電極のためのエリアを覆っている。このマスク50を用いて、図8(a)に示されるように、工程S107では、0.02μm厚のn型GaN52をスペーサ層47aの開口領域に再成長した。再成長の後に、工程S108では、マスク層51を除去した。シリコン酸化物からなるマスク層51はフッ化水素酸を用いて除去して、図8(b)に示されるように、基板生産物Pを作製した。この後に、図8(c)に示されるように、工程S109では、ドレイン電極55a、ソース電極55b及びゲート電極55cを基板生産物P上に形成した。電子ビーム法により、ドレイン電極55a及びソース電極55bの形成のためにチタン、アルミニウムを基板生産物P上に蒸着した。抵抗加熱法により、ゲート電極55cの形成のためにニッケル、金を基板生産物P上に蒸着した。これらの蒸着の後に、摂氏500度の温度及び1分間の熱処理で合金化を行った。
【0055】
図9は、このHEMTのドレイン電流Iとソース−ドレイン電圧VDSとの関係を示す図面である。図9(a)に示されるように、ゲート電圧VGSゼロボルト(0volt)において、ドレイン電流Iは流れなかった。故に、ノーマリ・オフ特性のHEMTが実現できた。この測定において、図9(b)に示される接続を用いた。
【0056】
また、ヘテロ界面54に沿ったピエゾ電界成分を発生させるために、電子走行層45に積極的に圧縮歪みを印加するように電子走行層に接触を成すAlGa1−YN層を様々なAl組成で形成した。ノーマリ・オフの実現に有効な圧縮歪みを印加するために、Al組成Yは0.03以上であることが好ましい。また、結晶欠陥の増加抑止に有効な圧縮歪みを印加するために、Al組成Yは0.30以下であることが好ましい。Al組成Yが0.30を越えると、リーク電流が増加した。
【0057】
また、(1−100)面(m面)を有するGaN基板を用いて、上記の実施例と同様にHEMTを作製した。(1−100)面は無極性を示す。このHEMTも、ノーマリ・オフ特性を示した。
【0058】
次いで、電極の配置について検討した。実施例1のGaN基板41を用いて作製されたエピタキシャル基板上に、実施例1と同様に、ソース電極及びドレイン電極並びにゲート電極を形成した。このGaN基板41のベクトルVC41は、所定軸(c軸)の方向に向いている。ソース電極、ゲート電極及びドレイン電極の配列が異なる3種類のHEMTを作製した。3種類のHEMTは、それぞれ、所定軸に沿った電極配列、該所定軸に垂直な軸に沿った電極配列、及び該所定軸に45度の角度の軸に沿った電極配列を有する。所定軸に沿った電極の配列のHEMTが最も良好なノーマリ・オフ特性を示すと共に、二次元電子ガスの濃度が高いとき、所定軸に垂直な軸に沿った電極配列のHEMTは、ノーマリ・オフ特性からはずれた特性を示した。これは,ヘテロ界面内のピエゾ電界成分がc軸に沿っているからであると考えられる。また、所定軸に垂直な軸に沿った電極配列のHEMTでは、二次元電子ガス濃度(キャリア濃度)を調整したとき、ノーマリ・オン特性を示す。一方、所定軸に沿った電極の配列のHEMTはノーマリ・オフ特性を有する。このとき、窒化ガリウム系半導体におけるキャリア濃度の範囲は、5×1018cm−3以下である。
【0059】
本実施例によれば、電極配列の方向及びキャリア濃度を調整することによって、単一の支持体上に、ノーマリ・オフ特性のHEMT(E)及びノーマリ・オン特性のHEMT(D)を集積できる。これを利用することによって、反転(INV)回路、否定論理和(NOR)回路及び否定論理積(NAND)回路といった論理ゲートを形成できる。反転(INV)回路は、HEMT(E)のゲート電極に入力を受ける。HEMT(E)のソース電極を低電源線に接続し、HEMT(E)のドレイン電極をHEMT(D)のソース電極及びゲート電極に接続し、HEMT(D)のドレイン電極を高電源線に接続する。INV回路の出力は、HEMT(E)のドレイン電極とHEMT(D)のソース電極との接続点から提供される。
【0060】
ウルツ鉱構造の材料としては窒化物半導体に限定されることなく、CdS系材料を用いてHEMTを作製し、ドレイン電流とソース−ドレイン電圧との関係を示すI−V特性を測定した。このHEMTもノーマリ・オフ特性を示した。
【0061】
好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。
【符号の説明】
【0062】
11、11a、11b…電子デバイス、12…バッファ層、13…支持体、13a…半極性主面、13b…裏面、15…キャリア走行半導体層、17…スペーサ半導体層、19…ゲート電極、R1、R2…基準平面、Nx…基準軸、VC13、VC15、VC17…c軸ベクトル、21…ヘテロ接合、23…ソース電極、25…ドレイン電極、Pz…ピエゾ電界、CA…二次元キャリア、23a、23b、23c、23d…ソース電極、19a、19b、19c、19d…ゲート電極、29…エピタキシャル領域、25a、25b、25c、25d…ドレイン電極、11c…化合物半導体集積電子デバイス、51、53…電子デバイス、41a…半極性主面、41…GaN基板、10a…成長炉、10b…エッチング装置、10c…エッチング装置、43…GaNバッファ層、45…GaN電子走行層、47…Al0.25Ga0.85N層、47a…Al0.25Ga0.85Nスペーサ層、Epi…エピタキシャル基板、49…エッチングマスク、50…マスク、52…n型GaN、P…基板生産物、55a…ドレイン電極、55b…ソース電極、55c…ゲート電極、33…支持体、35…キャリア走行半導体層、37…スペーサ半導体層、39a…ゲート電極、39b…ドレイン電極、39c…ソース電極、VC33、VC35、VC37…c軸ベクトル、41…ヘテロ接合、C…化合物半導体電子デバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウルツ鉱構造の第1の化合物からなり、該ウルツ鉱構造のc軸方向に直交する基準軸に交差する無極性主面を有する支持体と、
前記支持体上に設けられたキャリア走行半導体層と前記キャリア走行半導体層にヘテロ接合を成すスペーサ半導体層とを含む半導体領域と、
前記半導体領域上に設けられ、前記ヘテロ接合におけるキャリア濃度を制御するゲート電極と、
ソース電極及びドレイン電極と
を備え、
前記キャリア走行半導体層はウルツ鉱構造の第2の化合物からなり、
前記スペーサ半導体層はウルツ鉱構造の第3の化合物からなり、
前記キャリア走行半導体層及び前記スペーサ半導体層は、前記無極性主面上に搭載されており、
前記ヘテロ接合は、前記基準軸に交差する基準平面に沿って延びており、
前記キャリア走行半導体層は圧縮歪みを内包し、
前記半導体領域上に設けられ前記ソース電極及び前記ドレイン電極の一方である第1の電極及び前記ゲート電極は、前記半導体領域の主面上において、前記c軸方向に向く第1の軸に直交する第2の軸に対して傾斜した第3の軸に沿って配置されている、ことを特徴とする化合物半導体電子デバイス。
【請求項2】
前記半導体領域上に設けられ前記ソース電極及び前記ドレイン電極の他方である第2の電極及び前記ゲート電極は、第4の軸に沿って配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載された化合物半導体電子デバイス。
【請求項3】
前記第4の軸は前記半導体領域の前記主面上において前記第2の軸に対して傾斜する、ことを特徴とする請求項2に記載された化合物半導体電子デバイス。
【請求項4】
前記ソース電極、前記ゲート電極及び前記ドレイン電極は、前記半導体領域の主面上に延在する第1の軸に沿って配置されている、ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載された化合物半導体電子デバイス。
【請求項5】
前記第1の電極及び前記ゲート電極は、前記半導体領域の前記主面上において前記第1の軸に沿って配置されており、
前記第4の軸は前記半導体領域の前記主面上において前記第2の軸の方向に向いており、
前記第2の電極及び前記ゲート電極は、前記半導体領域の前記主面上において前記第2の軸に沿って配置されている、ことを特徴とする請求項2に記載された化合物半導体電子デバイス。
【請求項6】
前記第3の軸は、前記第1及び第2の軸に対して傾斜しており、
前記第2の電極と前記ゲート電極との間の前記ヘテロ界面におけるキャリア伝導経路は、前記第1の軸の方向に前記第2の電極から前記ゲート電極の直下のチャネルまで前記ヘテロ界面に形成される、ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載された化合物半導体電子デバイス。
【請求項7】
前記第3の軸は、前記第1及び第2の軸に対して傾斜しており、
前記第1の電極と前記ゲート電極との間の前記ヘテロ界面におけるキャリア伝導経路は、前記第1の軸の方向に前記第1の電極から前記ゲート電極の直下のチャネルまで前記ヘテロ界面に形成される、ことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3または請求項6に記載された化合物半導体電子デバイス。
【請求項8】
前記キャリア走行半導体層は、窒化ガリウム系半導体からなり、
前記スペーサ半導体層は、窒化ガリウム系半導体からなる、ことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載された化合物半導体電子デバイス。
【請求項9】
前記キャリア走行半導体層は、GaNからなり、
前記スペーサ半導体層は、GaNの格子定数より小さい格子定数の窒化ガリウム系半導体からなる、ことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載された化合物半導体電子デバイス。
【請求項10】
前記スペーサ半導体層は、AlGa1−XNからなり、
前記スペーサ半導体層のアルミニウム組成Xは0.03以上0.30以下の範囲にある、ことを特徴とする請求項9に記載された化合物半導体電子デバイス。
【請求項11】
前記スペーサ半導体層のキャリア濃度は5×1018cm−3以下である、ことを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載された化合物半導体電子デバイス。
【請求項12】
前記支持体は、AlGa1−YNからなり、
前記支持体のアルミニウム組成Xは0以上1以下の範囲にある、ことを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載された化合物半導体電子デバイス。
【請求項13】
前記無極性主面は、前記第1の化合物のa面、m面、並びに該a面及びm面のいずれかを基準に前記c軸の回りの回転により有限な角度で傾斜した面のいずれかである、ことを特徴とする請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載された化合物半導体電子デバイス。
【請求項14】
前記キャリア走行半導体層は、前記スペーサ半導体層と前記支持体との間に位置する、ことを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれか一項に記載された化合物半導体電子デバイス。
【請求項15】
複数の化合物半導体電子デバイスを含む化合物半導体集積電子デバイスであって、
ウルツ鉱構造の第1の化合物からなり、該ウルツ鉱構造のc軸方向に直交する基準軸に交差する無極性主面を有する支持体と、
前記支持体上に設けられたキャリア走行半導体層と前記キャリア走行半導体層にヘテロ接合を成すスペーサ半導体層とを含む半導体領域と、
前記半導体領域上に設けられ、第1の化合物半導体電子デバイスのためのソース電極、ドレイン電極及びゲート電極と、
前記半導体領域上に設けられ、第2の化合物半導体電子デバイスのためのソース電極、ドレイン電極及びゲート電極と
を備え、
前記キャリア走行半導体層はウルツ鉱構造の第2の化合物からなり、
前記スペーサ半導体層はウルツ鉱構造の第3の化合物からなり、
前記キャリア走行半導体層及び前記スペーサ半導体層は、前記無極性主面上に搭載されており、
前記ヘテロ接合は、前記基準軸に交差する基準平面に沿って延びており、
前記キャリア走行半導体層は圧縮歪みを内包し、
前記第1の化合物半導体電子デバイスの前記ソース、前記ゲート電極及び前記ドレイン電極は、前記半導体領域の主面上において、前記c軸方向に向いた第1の軸に直交する第2の軸に対して傾斜した第3の軸に沿って配置されており、
前記第2の化合物半導体電子デバイスの前記ソース電極、前記ゲート電極及び前記ドレイン電極は、前記半導体領域の主面上において第2の軸に沿って配置されている、ことを特徴とする化合物半導体集積電子デバイス。
【請求項16】
前記第1の化合物半導体電子デバイスの前記ソース、前記ドレイン電極及び前記ゲート電極は、前記半導体領域の主面上において、前記第1の軸に沿って配置されている、ことを特徴とする請求項15に記載された化合物半導体集積電子デバイス。
【請求項17】
前記キャリア走行半導体層は窒化ガリウム系半導体からなり、
前記スペーサ半導体層は窒化ガリウム系半導体からなる、ことを特徴とする請求項15又は請求項16に記載された化合物半導体集積電子デバイス。
【請求項18】
前記キャリア走行半導体層は、GaNからなり、
前記スペーサ半導体層は、GaNの格子定数より小さい格子定数の窒化ガリウム系半導体からなる、ことを特徴とする請求項15〜請求項17のいずれか一項に記載された化合物半導体集積電子デバイス。
【請求項19】
前記無極性主面は、前記第1の化合物のa面、m面、並びに該a面及びm面のいずれかを基準に前記c軸の回りの回転により有限な角度で傾斜した面のいずれかである、ことを特徴とする請求項15〜請求項18のいずれか一項に記載された化合物半導体集積電子デバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−251660(P2010−251660A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102237(P2009−102237)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】