説明

半導体素子及びその製造方法

【課題】 加熱処理により、ランタンやアルミニウムがhigh−k材料とシリコン基板との間の酸化シリコン膜まで拡散する。ランタンやアルミニウムの拡散が、チャネル移動度の低下や素子の信頼性の低下の原因になる。
【解決手段】 半導体基板の一部の領域上に、SiとOとを含む絶縁層が形成されている。絶縁層の上に、ハフニウムシリケートを含む下側高誘電率膜が形成されている。下側高誘電率膜の上に、ハフニウム酸化物、またはHfとSiとの合計の原子数に対するHfの原子数の比が、下側高誘電率膜のそれよりも大きいハフニウムシリケートを含む上側高誘電率膜が形成されている。上側高誘電率膜の上にゲート電極が形成されている。ゲート電極の両側にソース及びドレインが配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲート絶縁膜に、酸化シリコンよりも高誘電率の誘電体材料を用いた半導体素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、MOSFET等の半導体素子のゲート絶縁膜に、熱的安定性、界面特性等の観点から、長年に亘り酸化シリコンが用いられていた。今後、半導体素子の高性能化を進めるために、MOSFETのさらなる微細化が図られており、ゲート絶縁膜を1nmに満たない程度まで薄くすることが期待されている。
【0003】
ところが、ゲート絶縁膜を2nm程度まで薄くすると、またはそれ以下まで薄くすると、直接トンネル効果によるゲートリーク電流の増大が深刻な問題となる。そこで、ゲート絶縁膜材料として、酸化シリコンに代えて、誘電率の高い所謂high−k材料(高誘電率材料)が注目されている。ゲート絶縁膜にhigh−k材料を用いると、等価酸化シリコン膜厚(EOT)を1nm未満に抑えつつ、物理的な膜厚を厚くすることが可能である。このため、ゲートリーク電流の増大を抑制することができる。
【0004】
ゲート絶縁膜に用いるhigh−k材料には、物理的な膜厚を十分厚くしてもEOTを薄く維持するために、誘電率が高いことが望まれる。また、リーク電流の増大の要因になるゲート絶縁膜の結晶化を引き起こさないようにするために、結晶化温度が十分高いことが好ましい。さらには、バンドギャップが大きいことが望ましい。これらの要請を満たす材料として、ジルコニウムシリケート、ハフニウムシリケート、ランタンシリケート、イットリウムシリケート等の金属珪酸化物や、それを窒化した金属珪酸窒化物が有望視されている。
【0005】
上部ゲート電極材料として、従来から多結晶シリコンが用いられている。従来、多結晶シリコンにドープする不純物濃度を制御することにより、MOSFETのしきい値の制御を行っていた。ところが、ゲート絶縁膜にhigh−k材料を用いた場合、ゲート電極を形成して加熱処理を行うと、フェルミレベルピニング現象が生じ、ゲート電極の実効仕事関数を制御することができなくなる。すなわち、MOSFETのしきい値電圧を制御することができなくなる。High−k材料を用いたゲート絶縁膜中に、ランタンやアルミニウム等の遷移金属の酸化物層を挿入することにより、しきい値電圧を制御できることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】C. Hobbs et al., "Fermi Level Pinning at the Poly Si/metal Oxide Interface", VLSI Tech. Dig. pp.9-10 (2003)
【非特許文献2】Y. Kamimuta et al., "Comprehensive Study of VFB Shift in High-k CMOS - Dipole Formation, Fermi-level Pinning and Oxygen Vacancy Effect -", IEDM Tech. Dig. pp.341-344 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MOSFETのしきい値電圧を制御するために、high−k材料を用いたゲート絶縁膜中に、ランタンやアルミニウム等の遷移金属の酸化物層を挿入し、加熱処理が行われる。この加熱処理により、ランタンやアルミニウムがhigh−k材料とシリコン基板との間の酸化シリコン膜まで拡散する。ランタンやアルミニウムの拡散は、チャネル移動度の低下や素子の信頼性の低下の原因になる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する半導体素子は、
半導体基板と、
前記半導体基板の一部の領域上に形成され、SiとOとを含む絶縁層と、
前記絶縁層の上に配置され、ハフニウムシリケートを含む下側高誘電率膜と、
前記下側高誘電率膜の上に配置され、ハフニウム酸化物、またはHfとSiとの合計の原子数に対するHfの原子数の比が、前記下側高誘電率膜のそれよりも大きいハフニウムシリケートを含む上側高誘電率膜と、
前記上側高誘電率膜の上に形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極の両側に配置されたソース及びドレインと
を有する。
【0009】
上記課題を解決する他の半導体素子は、
半導体基板と、
前記半導体基板の一部の領域上に形成され、SiとOとを含む絶縁層と、
前記絶縁層の上に配置され、HfSi1−x(0<x≦1、y>2)で形成された下側高誘電率膜と、
前記下側高誘電率膜の上に配置され、HfSi1−u(0<u≦1、v=2)で形成された上側高誘電率膜と、
前記上側高誘電率膜の上に形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極の両側に配置されたソース及びドレインと
を有する。
【0010】
上記課題を解決する半導体素子の製造方法は、
半導体基板の上に、SiとOとを含む絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層の上に、ハフニウムシリケートを含む下側高誘電率膜を形成する工程と、
前記下側高誘電率膜の上に、ハフニウム酸化物、またはHfとSiとの合計の原子数に対するHfの原子数の比が、前記下側高誘電率膜のそれよりも大きいハフニウムシリケートを含む上側高誘電率膜を形成する工程と、
前記上側高誘電率膜の上に、Hfとは異なる第1の金属元素を含有する金属、または該第1の金属元素を含有する金属の酸化物を含むキャップ膜を形成する工程と、
前記下側高誘電率膜、上側高誘電率膜、及びキャップ膜を加熱する工程と、
前記界面層、下側高誘電率膜、及び前記上側高誘電率膜をゲート絶縁膜として、該ゲート絶縁膜の上にゲート電極を形成する工程と、
前記ゲート電極の両側に不純物を注入して、ソース及びドレインを形成する工程と
を有する。
【0011】
上記課題を解決する半導体素子の他の製造方法は、
半導体基板の上に、SiとOとを含む絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層の上に、ハフニウム酸化物またはハフニウムシリケートを含む下側高誘電率膜を形成する工程と、
前記下側高誘電率膜に酸素を添加し、酸素の組成比を化学量論的組成比よりも高くする工程と、
前記下側高誘電率膜に酸素を添加した後、該下側高誘電率膜の上に、ハフニウム酸化物またはハフニウムシリケートを含む上側高誘電率膜を形成する工程と、
前記上側高誘電率膜の上に、Hfとは異なる第1の金属元素を含有する金属、または該第1の金属元素を含有する金属の酸化物を含むキャップ膜を形成する工程と、
前記下側高誘電率膜、上側高誘電率膜、及びキャップ膜を加熱する工程と、
前記絶縁層、下側高誘電率膜、及び前記上側高誘電率膜をゲート絶縁膜として、該ゲート絶縁膜の上にゲート電極を形成する工程と、
前記ゲート電極の両側に不純物を注入して、ソース及びドレインを形成する工程と
を有する。
【発明の効果】
【0012】
下側高誘電率膜に、ゲート絶縁膜から拡散した金属元素が蓄積される。このため、絶縁層や半導体基板への金属元素の拡散を抑制することができる。これにより、チャネル移動度の低下や素子の信頼性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1−1】(1A)〜(1D)は、実施例1による半導体素子の、製造途中段階における素子の断面図である。
【図1−2】(1E)〜(1F)は、実施例1による半導体素子の、製造途中段階における素子の断面図であり、(1G)は、実施例1による半導体素子の断面図である。
【図2】(2A)は、評価用試料の断面図であり、(2B)は、陽電子消滅法による評価結果を示すグラフである。
【図3】(3A)は、評価用試料の窒素プラズマ処理中の断面図であり、(3B)は、試料の窒素濃度の測定結果を示すグラフである。
【図4】(4A)及び(4B)は、それぞれ実施例1及び比較例による半導体素子の実効仕事関数制御用金属元素の濃度分布の一例を示すグラフである。
【図5】(5A)〜(5C)は、実施例2による半導体素子の、製造途中段階における素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、実施例1及び実施例2について説明する。
【実施例1】
【0015】
図1A〜図1Gを参照して実施例1による半導体素子の製造方法について説明する。
【0016】
図1Aに示すように、シリコン等からなる半導体基板10の表層部に素子分離絶縁膜11を形成し、活性領域を画定する。素子分離絶縁膜11は、例えばシャロートレンチアイソレーション(STI)等により形成される。必要に応じて、n型またはp型ウェルを形成する。活性領域の表層部に所定の導電型の不純物を注入し、活性化アニールを行うことにより、チャネル不純物拡散領域12を形成する。一般的に、pMOSFETを作製する場合には、チャネル不純物はn型であり、nMOSFETを作製する場合には、チャネル不純物はp型である。
【0017】
図1Bに示すように、半導体基板10の表面を熱酸化することにより、酸化シリコンからなる厚さ0.3〜1nmの界面層13を形成する。酸化条件は、例えば下記の通りである。
・圧力 13Pa〜1×10Pa
・温度 500℃〜1000℃
・時間 1秒〜100秒
なお、熱酸化した後、窒化処理を行うことにより、界面層13を酸窒化シリコンで形成してもよい。
【0018】
図1Cに示すように、半導体基板10の上に、ハフニウムシリケート(HfSiO)からなる下側高誘電率膜15を有機金属化学気相成長(MOCVD)により形成する。成膜条件は、例えば下記の通りである。
・Hf原料 テトラキスジエチルアミノハフニウム(TDEAHf)
・シリコン原料 テトラキスジメチルアミノシラン(Si(NMe
・酸化剤 Oガス、Oガス、またはH
・成長温度 400℃〜700℃
・厚さ 0.3nm〜0.5nm
・Hf/(Hf+Si) 10%〜20%
ここで、Hf/(Hf+Si)は、HfとSiとの合計の原子数に対するHfの原子数の比を意味する。なお、HfとSiとの合計の原子数と、Oの原子数との化学量論的組成比は1:2である。下側高誘電率膜15の酸素の組成比は、化学量論的組成比に近い。
【0019】
下側高誘電率膜15の上に、ハフニウム酸化物(HfO)またはハフニウムシリケートからなる上側高誘電率膜16を、MOCVDにより形成する。上側高誘電率膜16は、Hf/(Hf+Si)が、下側高誘電率膜15のHf/(Hf+Si)よりも大きくなる条件で形成する。上側高誘電率膜16の厚さは、例えば1nm〜2nmである。なお、HfSiOの高い誘電率を維持するために、上側高誘電率膜16のHf/(Hf+Si)を50%以上にすることが好ましい。なお、上側高誘電率膜16のHf/(Hf+Si)を100%としてもよい。Hf/(Hf+Si)を100%であるということは、上側高誘電率膜16がハフニウム酸化物(HfO)であることを意味する。
【0020】
上側高誘電率膜16の上に、キャップ膜17を形成する。キャップ膜17は、ゲート電極の実効仕事関数の制御を可能にする金属元素(以下、「実効仕事関数制御用金属元素」という。)を含む金属、または実効仕事関数制御用金属元素を含む金属の酸化物で形成される。実効仕事関数制御用金属元素として、Mg、Al、Ti、Sr、Y、ランタノイド族金属が挙げられる。例えば、pMOSFETを作製する場合には、キャップ膜17に、Alを含む金属またはアルミニウム酸化物(Al)を用いることができる。nMOSFETを作製する場合には、キャップ膜17に、Laを含む金属またはランタン酸化物(La)を用いることができる。
【0021】
キャップ膜17は、例えばスパッタリングにより形成することができる。キャップ膜17を金属で形成する場合には、ターゲットとして所望の金属を用い、スパッタリングガスとしてArを用いる。キャップ膜17を金属酸化物で形成する場合には、ターゲットとして所望の金属を用い、スパッタリングガスとして酸素等の酸化性ガスを用いる。
【0022】
図1Dに示した工程において、加熱処理を行う。加熱処理の条件は、例えば下記の通りである。
・雰囲気 窒素ガス
・圧力 1.3×10Pa〜1.3×10Pa
・温度 600℃〜1050℃
・加熱時間 1秒〜30秒
下側高誘電率膜15、上側高誘電率膜16、及びキャップ膜17が加熱されることにより、キャップ膜中の実効仕事関数制御用金属元素、例えばLaまたはAlが上側高誘電率膜16及び下側高誘電率膜15内に拡散する。拡散後もキャップ膜17は残留する。なお、当初のキャップ膜17が薄い場合には、加熱処理後にキャップ膜17が消滅する場合もある。実効仕事関数制御用金属元素の還元を防止するために、加熱雰囲気に酸素を添加してもよい。
【0023】
図1Eに示すように、キャップ膜17の上に、金属ゲート電極膜20を、例えばスパッタリングにより形成する。金属ゲート電極膜20には、例えばTiN、TiAlN、TaCN、TaAlN等が用いられる。金属ゲート電極膜20は、これらの金属からなる複数金属層を積層した構造にしてもよい。TiN膜の堆積条件は、例えば下記の通りである。
・ガス N:Ar=5:95
・パワー 100W
・圧力 1Pa
・ターゲット基板間距離 50mm
・堆積時間 50秒
・堆積膜厚 10nm
金属ゲート電極膜20の上に、CVDによりポリシリコン膜21を形成する。
【0024】
図1Fに示すように、界面層13からポリシリコン膜21までの積層構造をパターニングすることにより、ゲートパターン22を形成する。ゲートパターン22は、平面視において、活性領域と交差する平面形状を有する。
【0025】
図1Gに示す構造に至るまでの工程について説明する。ゲートパターン22をマスクとして、半導体基板10の表層部に不純物を注入することにより、ソース及びドレインのエクステンション部24を形成する。ゲートパターン22の側面にサイドウォールスペーサ25を形成する。ゲートパターン22及びサイドウォールスペーサ25をマスクとして、半導体基板10の表層部に不純物を注入することにより、ソース及びドレインの深い領域26を形成する。
【0026】
pMOSFETを作製する場合に、ソース及びドレインのエクステンション部24及び深い領域26に注入される不純物はp型不純物、例えばボロン(B)等である。nMOSFETを作製する場合に、ソース及びドレインのエクステンション部24及び深い領域26に注入される不純物はn型不純物、例えばリン(P)または砒素(As)等である。
【0027】
ソース及びドレインの深い領域26、及びゲートパターン22の上面に露出しているポリシリコン膜21の表面に、金属シリサイド膜28を形成する。金属シリサイド膜28には、例えばNiSi、CoSi、TiSi等が用いられる。
【0028】
次に、図2〜図4を参照して、上記実施例1による半導体素子の構造を採用することの効果について説明する。
【0029】
図2Aに、評価用試料の断面図を示す。評価用試料は、シリコン基板50の表面に形成された酸化シリコン膜51、及びその上に形成されたハフニウムシリケート膜52を有する。ハフニウムシリケート膜52の成膜条件を異ならせることにより、Hf/(Hf+Si)の異なる複数の試料を作製した。ハフニウムシリケート膜52の厚さは2nmとした。各試料のハフニウムシリケート膜について、陽電子消滅法による評価を行った。
【0030】
図2Bに、陽電子消滅法による評価結果を示す。横軸は、試料のハフニウムシリケート膜52のHf/(Hf+Si)を単位「%」で表し、縦軸はSパラメータを任意単位で表す。Hf/(Hf+Si)が20%未満になると、Sパラメータが急激に増加することがわかる。Sパラメータの増加は、膜中の空孔の密度が高いことを意味する。
【0031】
図3Aに示すように、各試料のハフニウムシリケート膜52を窒素プラズマに晒すことにより、窒化処理を行った。
【0032】
図3Bに、窒化処理後の各試料のハフニウムシリケート膜52中の窒素濃度の測定結果を示す。横軸は、試料のハフニウムシリケート膜52のHf/(Hf+Si)を単位「%」で表し、縦軸は、窒素濃度を任意単位で表す。Hf/(Hf+Si)が20%未満になると、急激に窒素濃度が増加していることがわかる。これは、ハフニウムシリケート膜52内の空孔密度が高いために、窒素を蓄積し易いためと考えられる。
【0033】
これらの評価結果から、ハフニウムシリケート膜52は、そのHf/(Hf+Si)が小さくなると、不純物を含有し易くなることがわかる。特に、Hf/(Hf+Si)が20%未満の範囲で、不純物を含有しやすくなる効果が顕著である。
【0034】
図4Aに、実施例1による半導体素子の実効仕事関数制御用金属元素の濃度分布の一例を示す。上側高誘電率膜16の上面にキャップ膜17が配置されているため、上側高誘電率膜16内においては、深くなるに従って、濃度が低下する。実効仕事関数制御用金属元素が、下側高誘電率膜15内に蓄積されやすいため、下側高誘電率膜15内における濃度が、上側高誘電率膜16の最も深い位置における濃度よりも高くなる。
【0035】
実効仕事関数制御用金属元素が下側高誘電率膜15内に蓄積されやすいため、それよりも深い領域への拡散が抑制される。このため、界面層13及び半導体基板10内においては、深くなるに従って濃度が急激に低下する。
【0036】
比較のために、図4Bに、下側高誘電率膜15を配置しない場合の、実効仕事関数制御用金属元素の濃度分布の一例を示す。下側高誘電率膜15が配置されていないため、図4Aに示したような濃度分布のピークは見られない。また、図4Aに示した場合よりも、界面層13及び半導体基板10内へ多くの実効仕事関数制御用金属元素が拡散する。
【0037】
上記実施例1では、図1Cに示した下側高誘電率膜15のHf/(Hf+Si)が、上側高誘電率膜16のHf/(Hf+Si)よりも小さい。このため、図1Dに示した加熱処理工程において、キャップ膜17から拡散した実効仕事関数制御用金属元素が、上側高誘電率膜16よりも下側高誘電率膜15に蓄積されやすい。すなわち、酸化シリコン等からなる界面層13と、高誘電率膜15、16との界面に、実効仕事関数制御用金属元素が優先的に分布する。
【0038】
下側高誘電率膜15内に実効仕事関数制御用金属元素を蓄積する顕著な効果を得るために、下側高誘電率膜15のHf/(Hf+Si)を20%未満にすることが好ましい。また、Hf/(Hf+Si)を小さくし過ぎると誘電率が低下してしまい、high−k材料を用いる十分な効果が期待できなくなる。High−k材料を用いる十分な効果を得るために、下側高誘電率膜15のHf/(Hf+Si)を10%以上にすることが好ましい。
【0039】
LaやAl等を、高誘電率膜と酸化シリコン膜との界面に分布させることにより、ゲート電極の実効仕事関数を制御しやすくなることが知られている。実施例1では、実効仕事関数制御用金属元素を、高誘電率膜15、16と界面層13との界面に優先的に分布させることができる。このため、ゲート電極の実効仕事関数をより制御し易くなる。
【0040】
また、実効仕事関数制御用金属元素が、下側高誘電率膜15に蓄積されるため、界面層13まで拡散し難い。このため、実効仕事関数制御用金属元素の拡散に起因するチャネル移動度の低下を抑制することができる。さらに、半導体素子の信頼性の低下を抑制することができる。
【0041】
下側高誘電率膜15の誘電率は、上側高誘電率膜16の誘電率よりも低い。ゲート絶縁膜の等価酸化シリコン膜厚(EOT)を薄くするためには、下側高誘電率膜15を相対的に薄くし、上側高誘電率膜16を相対的に厚くすることが好ましい。また、下側高誘電率膜15を薄くし過ぎると、表面全面を覆うことが困難になる。これらの観点から、下側高誘電率膜15の厚さを0.3nm〜0.5nmとすることが好ましい。
【0042】
上記実施例1では、実効仕事関数制御用金属元素を拡散させるための加熱処理を、キャップ膜17の成膜直後に行ったが、金属ゲート電極膜20を形成した後に加熱処理を行ってもよい。ただし、エクステンション部24に注入した不純物の再拡散を防止するために、エクステンション部24形成用の不純物を注入する前に加熱処理を行うことが好ましい。
【実施例2】
【0043】
図5A〜図5Cを参照して、実施例2による半導体素子の製造方法について説明する。
【0044】
図5Aに示した界面層13の形成までは、実施例1における図1Aから図1Bまでの工程と共通である。
【0045】
界面層13の上に、下側高誘電率膜15Aを形成する。下側高誘電率膜15Aの形成方法は、図1Dに示した上側高誘電率膜16の形成方法と同一である。下側高誘電率膜15AのHf/(Hf+Si)は、50%以上100%以下である。Hf/(Hf+Si)が100%ということは、下側高誘電率膜15AがSiを含まず、ハフニウム酸化物であることを意味する。下側高誘電率膜15Aのハフニウムシリケートまたはハフニウム酸化物の酸素組成比は、化学量論的組成比とほぼ等しい。
【0046】
図5Bに示すように、下側高誘電率膜15Aを酸素プラズマに晒すことにより、下側高誘電率膜15A内に酸素を導入する。これにより、下側高誘電率膜15Aのハフニウムシリケートまたはハフニウム酸化物が酸素過剰な状態になる。
【0047】
図5Cに示すように、酸素過剰になった下側高誘電率膜15Aの上に、上側高誘電率膜16及びキャップ膜17を順番に形成する。これらの膜の形成方法は、実施例1における図1Cに示した上側高誘電率膜16及びキャップ膜17の形成方法と同じである。その後の工程は、実施例1における図1D〜図1Gに示した工程と共通である。
【0048】
実施例2では、下側高誘電率膜15Aが酸素過剰な状態にされている。実効仕事関数制御用金属元素は、酸素と結合しやすいため、酸素過剰な下側高誘電率膜15A内に蓄積されやすい。このため、実施例1の場合と同様に、実効仕事関数制御用金属元素を、高誘電率膜15A、16と界面層13との界面に優先的に分布させることができる。また、実効仕事関数制御用金属元素の拡散に起因するチャネル移動度の低下を抑制し、かつ半導体素子の信頼性の低下を抑制することができる。
【0049】
下側高誘電率膜15Aの組成をHfSi1−xとし、上側高誘電率膜16の組成をHfSi1−uとしたとき、0<x≦1かつ0<u≦1である。さらに、下側高誘電率膜15Aの酸素の組成比が化学量論的組成比よりも大きい。すなわち、y>2である。また、上側高誘電率膜16における酸素の組成比は、化学量論的組成比に等しい。すなわち、v=2である。
【0050】
下側高誘電率膜15A内に、実効仕事関数制御用金属元素を蓄積する十分な効果を得るために、2.1≦yとすることが好ましい。また、下側高誘電率膜15Aの膜質を維持するという条件で、酸素過剰の上限は十数%である。この観点から、y≦2.3とすることが好ましい。
【0051】
また、下側高誘電率膜15Aの厚さは、実施例1の場合と同様に、0.3nm〜0.5nmとすることが好ましい。
【0052】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【0053】
以上の実施例1〜実施例2を含む実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0054】
(付記1)
半導体基板と、
前記半導体基板の一部の領域上に形成され、SiとOとを含む絶縁層と、
前記絶縁層の上に配置され、ハフニウムシリケートを含む下側高誘電率膜と、
前記下側高誘電率膜の上に配置され、ハフニウム酸化物、またはHfとSiとの合計の原子数に対するHfの原子数の比が、前記下側高誘電率膜のそれよりも大きいハフニウムシリケートを含む上側高誘電率膜と、
前記上側高誘電率膜の上に形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極の両側に配置されたソース及びドレインと
を有する半導体素子。
【0055】
(付記2)
前記下側高誘電率膜の、HfとSiとの合計の原子数に対するHfの原子数の比が20%未満である付記1に記載の半導体素子。
【0056】
(付記3)
前記下側高誘電率膜の、HfとSiとの合計の原子数に対するHfの原子数の比が10%以上である付記2に記載の半導体素子。
【0057】
(付記4)
前記上側高誘電率膜の、HfとSiとの合計の原子数に対するHfの原子数の比が50%以上である付記1乃至3のいずれか1項に記載の半導体素子。
【0058】
(付記5)
半導体基板と、
前記半導体基板の一部の領域上に形成され、SiとOとを含む絶縁層と、
前記絶縁層の上に配置され、HfSi1−x(0<x≦1、y>2)で形成された下側高誘電率膜と、
前記下側高誘電率膜の上に配置され、HfSi1−u(0<u≦1、v=2)で形成された上側高誘電率膜と、
前記上側高誘電率膜の上に形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極の両側に配置されたソース及びドレインと
を有する半導体素子。
【0059】
(付記6)
前記下側高誘電率膜において、2.1≦y≦2.3である付記5に記載の半導体素子。
【0060】
(付記7)
前記前記下側高誘電率膜及び前記上側高誘電率膜が、Mg、Al、Ti、Sr、Y、またはランタノイド金属を含む付記1乃至5のいずれか1項に記載の半導体素子。
【0061】
(付記8)
前記下側高誘電率膜の厚さが0.3nm〜0.5nmの範囲内である付記1乃至7のいずれか1項に記載の半導体素子。
【0062】
(付記9)
前記上側高誘電率膜と前記ゲート電極との間に、さらに、Mg、Al、Ti、Sr、Y、またはランタノイド金属を含有する金属、またはMg、Al、Ti、Sr、Y、またはランタノイド金属を含有する金属の酸化物からなるキャップ膜を有する付記1乃至8のいずれか1項に記載の半導体素子。
【0063】
(付記10)
半導体基板の上に、SiとOとを含む絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層の上に、ハフニウムシリケートを含む下側高誘電率膜を形成する工程と、
前記下側高誘電率膜の上に、ハフニウム酸化物、またはHfとSiとの合計の原子数に対するHfの原子数の比が、前記下側高誘電率膜のそれよりも大きいハフニウムシリケートを含む上側高誘電率膜を形成する工程と、
前記上側高誘電率膜の上に、Hfとは異なる第1の金属元素を含有する金属、または該第1の金属元素を含有する金属の酸化物を含むキャップ膜を形成する工程と、
前記下側高誘電率膜、上側高誘電率膜、及びキャップ膜を加熱する工程と、
前記界面層、下側高誘電率膜、及び前記上側高誘電率膜をゲート絶縁膜として、該ゲート絶縁膜の上にゲート電極を形成する工程と、
前記ゲート電極の両側に不純物を注入して、ソース及びドレインを形成する工程と
を有する半導体素子の製造方法。
【0064】
(付記11)
前記下側高誘電率膜の、HfとSiとの合計の原子数に対するHfの原子数の比が20%未満になる条件で前記下側高誘電率膜の形成する付記10に記載の半導体素子の製造方法。
【0065】
(付記12)
前記上側高誘電率膜の、HfとSiとの合計の原子数に対するHfの原子数の比が50%以上になる条件で、前記上側高誘電率膜を形成する付記10または11に記載の半導体素子の製造方法。
【0066】
(付記13)
半導体基板の上に、SiとOとを含む絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層の上に、ハフニウム酸化物またはハフニウムシリケートを含む下側高誘電率膜を形成する工程と、
前記下側高誘電率膜に酸素を添加し、酸素の組成比を化学量論的組成比よりも高くする工程と、
前記下側高誘電率膜に酸素を添加した後、該下側高誘電率膜の上に、ハフニウム酸化物またはハフニウムシリケートを含む上側高誘電率膜を形成する工程と、
前記上側高誘電率膜の上に、Hfとは異なる第1の金属元素を含有する金属、または該第1の金属元素を含有する金属の酸化物を含むキャップ膜を形成する工程と、
前記下側高誘電率膜、上側高誘電率膜、及びキャップ膜を加熱する工程と、
前記絶縁層、下側高誘電率膜、及び前記上側高誘電率膜をゲート絶縁膜として、該ゲート絶縁膜の上にゲート電極を形成する工程と、
前記ゲート電極の両側に不純物を注入して、ソース及びドレインを形成する工程と
を有する半導体素子の製造方法。
【0067】
(付記14)
前記下側高誘電率膜に酸素を添加する工程において、前記下側高誘電率膜を酸素プラズマに晒すことにより、該下側高誘電率膜の組成がHfSi1−x(0<x≦1、2.1≦y≦2.3)になる条件で該下側高誘電率膜に酸素を添加する付記13に記載の半導体素子の製造方法。
【0068】
(付記15)
前記第1の金属元素が、Mg、Al、Ti、Sr、Y、またはランタノイド金属である付記10乃至14のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【0069】
(付記16)
前記下側高誘電率膜の厚さが0.3nm〜0.5nmの範囲内になる条件で前記下側高誘電率膜を形成する付記10乃至15のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【符号の説明】
【0070】
10 半導体基板
11 素子分離絶縁膜
12 チャネル不純物拡散領域
13 界面層
15、15A 下側高誘電率膜
16 上側高誘電率膜
17 キャップ膜
20 金属ゲート電極膜
21 ポリシリコン膜
22 ゲートパターン
24 エクステンション部
25 サイドウォールスペーサ
26 ソース及びドレインの深い領域
28 金属シリサイド膜
50 半導体基板
51 酸化シリコン膜
52 ハフニウムシリケート膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板の一部の領域上に形成され、SiとOとを含む絶縁層と、
前記絶縁層の上に配置され、ハフニウムシリケートを含む下側高誘電率膜と、
前記下側高誘電率膜の上に配置され、ハフニウム酸化物、またはHfとSiとの合計の原子数に対するHfの原子数の比が、前記下側高誘電率膜のそれよりも大きいハフニウムシリケートを含む上側高誘電率膜と、
前記上側高誘電率膜の上に形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極の両側に配置されたソース及びドレインと
を有する半導体素子。
【請求項2】
前記下側高誘電率膜の、HfとSiとの合計の原子数に対するHfの原子数の比が20%未満である請求項1に記載の半導体素子。
【請求項3】
半導体基板と、
前記半導体基板の一部の領域上に形成され、SiとOとを含む絶縁層と、
前記絶縁層の上に配置され、HfSi1−x(0<x≦1、y>2)で形成された下側高誘電率膜と、
前記下側高誘電率膜の上に配置され、HfSi1−u(0<u≦1、v=2)で形成された上側高誘電率膜と、
前記上側高誘電率膜の上に形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極の両側に配置されたソース及びドレインと
を有する半導体素子。
【請求項4】
前記下側高誘電率膜において、2.1≦y≦2.3である請求項3に記載の半導体素子。
【請求項5】
前記前記下側高誘電率膜及び前記上側高誘電率膜が、Mg、Al、Ti、Sr、Y、またはランタノイド金属を含む請求項1乃至4のいずれか1項に記載の半導体素子。
【請求項6】
半導体基板の上に、SiとOとを含む絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層の上に、ハフニウムシリケートを含む下側高誘電率膜を形成する工程と、
前記下側高誘電率膜の上に、ハフニウム酸化物、またはHfとSiとの合計の原子数に対するHfの原子数の比が、前記下側高誘電率膜のそれよりも大きいハフニウムシリケートを含む上側高誘電率膜を形成する工程と、
前記上側高誘電率膜の上に、Hfとは異なる第1の金属元素を含有する金属、または該第1の金属元素を含有する金属の酸化物を含むキャップ膜を形成する工程と、
前記下側高誘電率膜、上側高誘電率膜、及びキャップ膜を加熱する工程と、
前記界面層、下側高誘電率膜、及び前記上側高誘電率膜をゲート絶縁膜として、該ゲート絶縁膜の上にゲート電極を形成する工程と、
前記ゲート電極の両側に不純物を注入して、ソース及びドレインを形成する工程と
を有する半導体素子の製造方法。
【請求項7】
半導体基板の上に、SiとOとを含む絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層の上に、ハフニウム酸化物またはハフニウムシリケートを含む下側高誘電率膜を形成する工程と、
前記下側高誘電率膜に酸素を添加し、酸素の組成比を化学量論的組成比よりも高くする工程と、
前記下側高誘電率膜に酸素を添加した後、該下側高誘電率膜の上に、ハフニウム酸化物またはハフニウムシリケートを含む上側高誘電率膜を形成する工程と、
前記上側高誘電率膜の上に、Hfとは異なる第1の金属元素を含有する金属、または該第1の金属元素を含有する金属の酸化物を含むキャップ膜を形成する工程と、
前記下側高誘電率膜、上側高誘電率膜、及びキャップ膜を加熱する工程と、
前記絶縁層、下側高誘電率膜、及び前記上側高誘電率膜をゲート絶縁膜として、該ゲート絶縁膜の上にゲート電極を形成する工程と、
前記ゲート電極の両側に不純物を注入して、ソース及びドレインを形成する工程と
を有する半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記第1の金属元素が、Mg、Al、Ti、Sr、Y、またはランタノイド金属である請求項6または7に記載の半導体素子の製造方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−206099(P2010−206099A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52416(P2009−52416)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(308014341)富士通セミコンダクター株式会社 (2,507)
【Fターム(参考)】