説明

半導体装置、電気光学装置、電子機器

【課題】ある応力がかかっても回路全体としての動作特性が変化しない薄膜の半導体素子を実現し、これによって、動作マージンが広く大型化が容易なフレキシブルな半導体装置、電気光学装置、電子機器を提供する。
【解決手段】本発明の半導体装置は、基板100上に薄膜トランジスタ8を有し、この薄膜トランジスタ8は、基板100の湾曲に対してチャネル内のキャリアの移動度が相補的に変化する第1のチャネル領域1cおよび第2のチャネル領域1cを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置、電気光学装置、電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックや金属薄膜上に薄膜トランジスタを形成することによって、曲げることのできる半導体装置を実現することが可能である。また、これらを利用した薄くて軽い曲げることのできる電子機器に関する感心が高まっている。例えば、表示装置、ICカード、指紋認証装置、電子ペーパー、電子ブック、パーソナルコンピューターなどである。
【0003】
可塑性基板上に薄膜トランジスタを形成する手法としては、直接形成法、転写法、化学機械研磨(CMP)法、或いは基板エッチング法などがある。直接形成法は、可塑性基板上に薄膜トランジスタを直接形成する方法で、可塑性基板の熱膨張を鑑みて石英基板上やガラス基板上を利用する際よりも低温で形成するのが一般的である。この技術を利用して薄膜トランジスタをプラスチック基板や金属ホイールに直接形成する技術がある。
【0004】
転写法は、予め石英基板やガラス基板上に形成した薄膜トランジスタを可塑性基板に転写する方法で、薄膜トランジスタの形成行程を、直接形成法と比べて高温で行なえることが特徴である。この技術を利用して、ガラス基板上に形成したポリシリコンTFT回路をプラスチック基板に転写する技術は周知となっている。
【0005】
CMP法は、シリコンや石英、或いはガラスといった基板上に薄膜トランジスタ回路を形成した後、基板裏面を機械的に研磨して薄くする手法である。同様に、溶剤などを使って、基板裏面をエッチングする手法も用いられている。
【0006】
ところで、一般的にシリコンのような半導体結晶に歪みを加えると、電子・正孔の移動度が変化することが知られている。これは、シリコン結晶は歪が加えられることによってその原子間隔が変化し、無歪状態では縮退していた伝導帯端・荷電子帯端のバンドが分裂して電子・正孔の有効質量が減少するためである。ここで、電子・正孔の移動度は次式で表される。
【0007】
【数1】

【0008】
μは移動度、eは電子の電荷量、mは有効質量である。即ち、有効質量が減少すると移動度が向上し、有効質量が増加すると移動度は低下することがわかる。
【0009】
歪を加える方向と、n型MOSトランジスタ(NMOS)及びp型MOSトランジスタ(PMOS)の移動度変化の関係は、既に明らかにされている。チャネル方向に引張り応力を加えた時のNMOS、PMOSそれぞれの移動度の変化を表1に表す。同様に、圧縮応力を加えた時の移動度の変化を表2に示す。
【0010】
例えばNMOSの場合、チャネル方向に引っ張り応力がかかると移動度は増加し、反対に圧縮応力がかかると移動度は低下する。一方、PMOSの場合、チャネル方向に引っ張り応力がかかると移動度は低下し、圧縮応力がかかると移動度は増加する。
【0011】
表1に引張応力を加えた時の移動度の変化を示す。
【表1】

【0012】
表2に圧縮応力を加えた時の移動度の変化を示す。
【表2】

【0013】
また、このような歪みによる半導体特性の変化は、結晶シリコンだけでなく、ポリシリコンのような薄膜半導体においても同様に起こることが観測されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平10−125931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、可塑性基板上に形成した半導体装置の最大の特徴は、可塑性基板そのものが曲がることであるが、このとき半導体素子には何らかの歪み応力が発生することになるので、キャリア移動度などの素子特性は基板の形状の影響を受けて変化することになる。
【0016】
ここで、近年の半導体装置の殆どは、NMOSとPMOSを組み合わせたCMOS回路で構成されているが、可塑性基板上に形成されたCMOS回路にある一定方向の歪み応力が加えられた場合、NMOS、PMOSの移動度は相反する変化を示す。例えば、NMOSの移動度が高くなる向きの歪みが加えられた場合、PMOSの移動度は概して低くなる。こうしたキャリアの移動度の変化は、MOSトランジスタの閾値特性やオン電流といった動作特性に影響を及ぼす。これによりCMOS回路を構成しているNMOSとPMOSの特性のバランスが悪くなると、突入電流の増大などによって回路が誤動作を起こすことが懸念される。
【0017】
即ち、可塑性基板上に形成した半導体装置では、基板を湾曲させた状態で回路を動作させたときに回路の動作が不安定になり、誤動作を起こす可能性が生じる。
一般的に、このような半導体装置の設計過程では、NMOS、PMOSそれぞれの動作特性における、その製造工程や動作温度特性による変動幅を考慮したマージン設計を行なうが、可塑性基板上に形成した半導体装置では、この変動が大きくなる為、動作マージンが狭く製造歩留まりも低くなってしまうことが課題となっていた。また、このことから、大型基板上への回路形成や複雑な回路構成の実現が困難となっていた。
【0018】
また、電気光学パネルの場合、基板と基板上に形成される薄膜等との熱膨張係数の違いから、使用環境の温度によっては表示パネルに反りなどの変形が生じてしまう。これが要因となって回路の動作特性が変動し、視認性が低下するという問題がある。
【0019】
本発明の目的は、上記課題を鑑み、ある方向の応力がかかっても回路全体としての動作特性が変動しない薄膜の半導体素子を実現することである。これにより、動作マージンが広く、大型化が容易なフレキシブルな半導体装置、電気光学表示装置、電子機器を実現可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の半導体装置は、上記課題を解決するために、基板上に薄膜トランジスタを有する半導体装置であって、前記薄膜トランジスタは、前記基板の湾曲に対してチャネル内のキャリアの移動度が相補的に変化する第1のチャネル領域および第2のチャネル領域を有していることを特徴とする。
本発明によれば、基板の湾曲による第1のトランジスタのキャリアの移動度を第2のトランジスタのキャリアの移動度によって相殺することができるので、基板を湾曲させた状態で薄膜トランジスタを駆動させた場合でも、動作が安定し、誤動作を起こす可能性を低減させることができる。これにより、動作マージンが広く、大型化が容易なフレキシブルな半導体装置となる。
【0021】
また、前記第1のチャネル領域および前記第2のチャネル領域が、1つのチャネルを形成していることが好ましい。
本発明によれば、第1のチャネル領域および第2のチャネル領域により、基板の湾曲に対してチャネル内のキャリアの移動度を相補的に変化させることができる。これにより、歪によるトランジスタ特性の変動を抑えることが可能となり、誤動作を起こす可能性を低減させることができる。
また、基板の湾曲の影響が補償されて出力電流の変動を抑えることができる。
【0022】
また、前記薄膜トランジスタは、前記第1のチャネル領域を有する第1のトランジスタと、前記第2のチャネル領域を有する第2のトランジスタとを接続してなることが好ましい。
本発明によれば、互いに接続された第1のトランジスタおよび第2のトランジスタにより、基板の湾曲に対してキャリアの移動度を相補的に変化させることができる。これにより、歪によるトランジスタ特性の変動を抑えることが可能となり、誤動作を起こす可能性を低減させることができる。
また、基板の湾曲の影響が補償されて出力電流の変動を抑えることができる。
【0023】
また、複数の薄膜トランジスタを有する回路を備え、複数の前記薄膜トランジスタは、それぞれのチャネル領域が前記基板の湾曲に対してチャネル内のキャリアの移動度を相補的に変化させるように配置されているように配置されていることが好ましい。
本発明によれば、対を成す薄膜トランジスタのチャネル領域が、基板の湾曲に対してチャネル内のキャリアの移動度が相補的に変化するように配置されていることから、歪によるトランジスタ特性変動を抑えることが可能となり、誤動作を引き起こす可能性を低減させることができる。
また、基板の湾曲の影響が補償されて出力電流の変動を抑えることができる。
【0024】
また、前記第1のチャネル領域及び前記第2のチャネル領域が、90°の点対称な形状とされていることが好ましい。
本発明によれば、薄膜トランジスタのチャネル面に平行な方向であればどの方向に基板を曲げても、歪による特性変化のない半導体装置とすることができる。本明細書において「90°の点対称」とは、ある点を中心として基板面に沿って90°回転させたときに形状が一致する関係をいう。
【0025】
また、前記第1のチャネル領域及び前記第2のチャネル領域が、平面視L字型の形状とされていることが好ましい。
本発明によれば、薄膜トランジスタのチャネル面に平行な方向であればどの方向に基板を曲げても、歪による特性変化のない半導体装置とすることができる。
【0026】
また、前記第1のチャネル領域及び前記第2のチャネル領域が、平面視扇形状とされていることが好ましい。
本発明によれば、薄膜トランジスタのチャネル面に平行な方向であればどの方向に基板を曲げても、歪による特性変化のない半導体装置とすることができる。
【0027】
また、前記第1のチャネル領域及び前記第2のチャネル領域が、平面視半円形状とされていることが好ましい。
本発明によれば、薄膜トランジスタのチャネル面に平行な方向であればどの方向に基板を曲げても、歪による特性変化のない半導体装置とすることができる。
【0028】
また、前記第1のチャネル領域及び前記第2のチャネル領域が、平面視で円形状とされていることが好ましい。
本発明によれば、薄膜トランジスタのチャネル面に平行な方向であればどの方向に基板を曲げても、歪による特性変化のない半導体装置とすることができる。また、第1及び第2のチャネル領域が平面視で円形状とされていることから、液相プロセスを用いて容易に製造することができる。
【0029】
また、前記第1のトランジスタ及び前記第2のトンランジスタが、互いのチャネル方向を直交させて配置されていることが好ましい。
本発明によれば、薄膜トランジスタのチャネル面に平行な方向であればどの方向に基板を曲げても、歪による特性変化のない半導体装置とすることができる。
【0030】
また、2つの前記第1のトランジスタと、2つの前記第2のトランジスタとを有し、4つの前記トランジスタが、90°の点対称な配置とされていることが好ましい。
本発明によれば、薄膜トランジスタのチャネル面に平行な方向であればどの方向に基板を曲げても、歪による特性変化のない半導体装置とすることができる。
【0031】
また、一対の前記薄膜トランジスタが、インバーターを構成していることが好ましい。
本発明によれば、インバーターを構成するPMOSとNMOSのキャリアの移動度が湾曲に対して相補的に変化するので、基板を湾曲させても不具合の生じにくいインバーターとなる。
【0032】
また、複数の前記薄膜トランジスタが、SRAMを構成していることが好ましい。
本発明によれば、複数の薄膜トランジスタによってSRAMが構成されていることから、基板が湾曲しても歪による特性変化のないものとすることができる。
【0033】
本発明の電気光学装置は、先に記載の半導体装置を備えたことを特徴とする。
本発明によれば、湾曲させた状態であっても誤動作を起こす可能性を低減させた構成の半導体装置を備えたことから、フレキシブルで信頼性の高い電気光学装置が得られる。
【0034】
本発明の電子機器は、先に記載の電気光学装置を備えたことを特徴とする。
本発明によれば、フレキシブルで信頼性の高い電気光学装置を備えたことから、他用途に応用可能な高品位な電子機器が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】(a)は実施例1の半導体装置における薄膜トランジスタの模式図、(b)は薄膜トランジスタの全体構成図、(c)は薄膜トランジスタの回路図。
【図2】TFTの基本構造を示す概略構成図。
【図3】従来の単体TFTを備えた基板の湾曲に対してチャネル方向に印加される応力を示す図。
【図4】実施例1における2つのTFTを備えた基板の湾曲に対してチャネル方向に印加される応力を示す図。
【図5】基板の曲げ方向とチャネル領域に加わる歪の関係を示す図。
【図6】TFTの歪量と電気特性の関係を示すグラフ(凸型湾曲)。
【図7】TFTの歪量と電気特性の関係を示すグラフ(凹型湾曲)。
【図8】(a)は、従来技術によるインバーターのTFT回路構成を示す図、(b)は(a)の回路図。
【図9】(a)は、実施例2におけるインバーターのTFT回路構成を示す図、(b)は(a)の回路図。
【図10】入力電圧と出力電圧との関係を示すグラフ。
【図11】(a)にSRAMの概略構成図を示し、(b)にSRAM用いられるインバーターINV1の回路構成を示し、(c)にSRAMの回路図を示す。
【図12】L字型TFTの構成を示す図。
【図13】四角形型TFTの構成を示す図。
【図14】十字型TFTの構成を示す図。
【図15】円形型TFTの構成を示す図。
【図16】扇型TFTの構成を示す図。
【図17】半円形型TFTの構成を示す図。
【図18】電気泳動表示装置の電気的な全体構成を示す図。
【図19】電気泳動表示装置の各画素の構造を示す図。
【図20】(a)〜(c)は、本発明による電子機器の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0037】
[実施例1]
図1(a)は、本実施例の半導体装置が備える薄膜トランジスタ1の半導体層11,11を示す模式図、図1(b)は、薄膜トランジスタ1の全体構成図、図1(c)は薄膜トランジスタ1の回路図である。
本実施例における半導体装置は、チャネル長L、チャネル幅W/2の一対のTFT3およびTFT4を有した薄膜トランジスタ1を備えている。これらTFT3,4は、互いのチャネル方向が直交する向きに配置され、且つ電気的に並列に接続されている。具体的にこれら一対のTFT3,4は、各々のチャネル領域1c,1c’が、基板100の湾曲に対してチャネル内のキャリアの移動度を相補的に変化させる向きとなるように配置されている。換言すれば、TFT3,4は、基板100の湾曲に対してチャネル領域1c,1c’の一方がチャネル方向に引張応力を受け、他方がチャネル方向に圧縮応力を受けるように配置されている。
【0038】
図2(a)にTFT3(4)の基本構造を示す。また、図2(b)に、TFT3(4)の半導体層11の構造を示し、図2(c)にTFT3(4)の回路構造を示す。
TFTとしては様々な種類があるが、ここではトップゲート構造を示す。
トップゲート型のTFT3(第1のトランジスタ)は、基板100上に形成された半導体層11と、半導体層11を覆うゲート絶縁膜12と、ゲート絶縁膜12を介して半導体層11のチャネル領域1c(第1のチャネル領域)と対向するように形成されたゲート電極13と、半導体層11のソース領域1aに接合されるソース電極14と、ドレイン領域1bに接合されるドレイン電極15と、ゲート電極13とソース電極14およびドレイン電極15とを電気的に分離するための層間絶縁膜16と、を備えて構成されている。
【0039】
同様に、TFT4(第2のトランジスタ)は、基板100上に形成された半導体層11と、半導体層11を覆うゲート絶縁膜12と、ゲート絶縁膜12を介して半導体層11のチャネル領域1c’(第2のチャネル領域)と対向するように形成されたゲート電極13と、半導体層11のソース領域1aに接合されるソース電極14と、ドレイン領域1bに接合されるドレイン電極15と、ゲート電極13とソース電極14およびドレイン電極15とを電気的に分離するための層間絶縁膜16と、を備えて構成されている。
TFT3,4における各半導体層11のチャネル領域1c(1c’)は、チャネル長L、チャネル幅W/2とされている。
【0040】
ここで、各TFT3(4)の半導体層11は、図2(b)に示すように、ゲート電極13と重なる領域がチャネル領域1c(1c’)、ソース電極14と接合される領域がソース領域1a、ドレイン電極15と接合される領域がドレイン領域1bである。一般的に、TFTは図1(c)に示すような回路記号で表され、略号Sがソース電極14、略号Gがゲート電極13、略号Dがドレイン電極15に相当する。同図に示すように、本実施形態ではTFT3,4が並列に接続されている。
【0041】
ここで、上記基板100が可撓性を有する基板である場合、このような基板100上に図2に示すようなチャネル長L、チャネル幅WのTFT8が単体で形成されていると、外部からの力により基板100が曲がった際に、半導体層11には圧縮・引張りの何れかの歪みが印可される。
【0042】
一般的なシリコン(Si)結晶においては、結晶に歪みが加えられたときに、無歪状態では縮退していた伝道帯端及び価電子帯端のバンドが分裂し、電子及び正孔の有効質量が変化することによって、電子・正孔移動度が変化することが知られている。同様に、可塑性を有する基板100上に形成された単体のTFT8において、基板100を曲げることによりTFT8の半導体層11に歪み応力が印可されると、素子特性が変化すると考えられる。
【0043】
ここで、可撓性を有する基板100を様々な方向に曲げた時のTFT8のキャリアの移動度及びオン電流の変化について説明する。
まず、可塑性の基板100上に形成された、チャネル長L、チャネル幅WのTFT8のチャネルに加わる応力について、図3を用いて説明する。具体的には、チャネル方向に沿って、或いは直行してTFT8に曲げ歪み(凸歪み、或いは凹歪み)を加えたときに、基板100上のTFT8のチャネル方向にどのような応力が加わるかを説明する。ここで、チャネル方向とは、オン状態におけるキャリアが移動する方向である。
【0044】
図3(a)に示すように、チャネル方向に沿ってTFT8に凸型の曲げ歪みを加えると、半導体層11のチャネル方向に対して引張り応力εが加えられる。
【0045】
図3(b)に示すように、チャネル方向に沿ってTFT8に凹型の曲げ歪みを加えると、半導体層11のチャネル方向に対して圧縮応力−εが加えられる。
【0046】
図3(c)に示すように、チャネル方向と直行する方向に沿ってTFT8に凸型の曲げ歪みを加えると、曲げ方向には引張り歪みがかかることにより、半導体層11はチャネル方向に圧縮される。これによりチャネル方向には圧縮応力−εが加わる。
【0047】
図3(d)に示すように、チャネル方向と直行する方向に沿ってTFT8に凹型の曲げ歪みを加えると、曲げ方向に圧縮歪みがかかることにより、半導体層11はチャネル方向に膨張する。これによりチャネル方向には引張り応力εが加わる。
【0048】
以上により、図3(a),(d)に示すようにTFT8に歪みを加えたときに引張り応力εが、図3(b),(c)に示すようにTFT8に歪みを加えたときは圧縮応力−εが、TFT8のチャネル方向に印可されることになる。
【0049】
次に、チャネル方向に、圧縮応力または引張り応力が加えられたときの素子特性の変化について説明する。
n型TFTにおいて、チャネル方向に引張り応力を加えたときは、オン電流、移動度ともに線形的に増大する。反対に、圧縮応力を加えたときには、オン電流、移動度ともに線形的に減少する。
【0050】
一方、p型TFTにおいては、チャネル方向に引張り応力を加えたときに、オン電流、移動度ともに線形的に減少する。反対に、圧縮応力を加えたときには、オン電流、移動度ともに線形的に増大する。
【0051】
このように、オン電流および移動度の何れも、加えられた歪み量に対して線形に変化することが既に知られている。また、n型、p型で比較すると、加えられた歪みに対して相反する特性変化を示すことが分かっている。
【0052】
即ち、チャネル長L、チャネル幅Wのn型TFTのオン電流をIとすれば、歪みεを加えたときのオン電流の変化量ΔIεNは、ΔIεN=AεI(A;定数)となる。
同様に、p型TFTのオン電流の変化量ΔIεは、ΔIεN=−AεI(A;定数)
となる。
【0053】
ここで、この特性変化が半導体装置に及ぼす影響を考える。n型TFTの特性が良くなる方向に曲がったとしても、p型TFTの特性は悪くなる方向に変動する。逆に、p型TFTの特性が良くなる方向に曲がったとしても、同時にn型TFTの特性は悪くなる方向に変動する。図2(c)に示すように、従来のTFT回路においては、一つのTFT機能を実現するのに、上述したようなTFT8を単体で使用しているので、基板100を曲げたときの特性変動によって回路全体の動作特性のバランスが悪くなり、誤動作を起こすことが課題となっていた。
【0054】
そこで、本実施例では、TFT3,4が、チャネル幅W、チャネル長LのTFT8と同等の機能を実現する場合、図1に示したように、チャネル幅2/W・チャネル長Lを持つLとWの等しい2つのTFT3およびTFT4を互いのチャネル方向が直交する向きに配置し、且つ電気的に並列に接続する構成とした。このようにして、基板100の曲げによる特性変動に対して、2つのTFT3,4が相互に特性を補償し合うようにした。
【0055】
ここで、図4及び図5を用いて、TFT3及びTFT4の動作特性の補償を説明する。
図5(a)に、基板100に図4(a)に示すような凸歪みを加えた場合におけるTFT3及びTFT4のオン電流の変化率を示す。
まず、TFT3及びTFT4がn型TFTの場合を考えると、非歪み時のTFT3のオン電流をI0a=I/2とすると、TFT4のチャネル領域1c’には引張り応力εがかかるので、TFT3のオン電流の変化量は、
ΔIεNa=AεI0a=AεI/2(A;定数)となり、歪みを加えない時より増大する。
一方、非歪み時のTFT4のオン電流を、I0b=I/2とすると、TFT4のチャネル領域1c’には圧縮応力−εがかかるので、TFT4単体のオン電流の変化量は、
ΔIεNb=−AεI0b=−AεI/2(A;定数)となり、歪みを加えない時より減少する。
【0056】
同様に、TFT3及びTFT4がp型TFTの場合を考えると、非歪み時のTFT3のオン電流を、I0b=I/2とすると、
TFT3のオン電流の変化量は、
ΔIεPa=−AεI0a=−AεI/2(A;定数)
となり、歪みを加えない時と比較して減少する。
TFT4単体のオン電流の変化量は、
ΔIεPb=AεI0b=AεI/2(A;定数)
となり、歪みを加えない歪み時と比較して増大する。
【0057】
本発明では、図1(c)に示すとおり、TFT3およびTFT4が並列に接続されているので、回路全体のオン電流はTFT3とTFT4の和となる。従って、n、pそれぞれの型におけるオン電流の変化量は、
n型TFT; ΔIεN=ΔIεNa+ΔIεNb=AεI/2−AεI/2=0
p型TFT; ΔIεP=ΔIεPa+ΔIεPb=−AεI/2+AεI/2=0
となる。
即ち、図1に示す回路構成で、基板100に凸歪みを加えた場合、TFT3とTFT4が相補的に作用し、回路全体のオン電流の変動は理論的にはゼロとなる。
【0058】
次に、図5(b)に、基板100に図4(b)に示すような凹歪みを加えた場合の、TFT3及びTFT4のオン電流の変化率を示す。
まず、TFT3及びTFT4がn型TFTの場合を考えると、先程と同様に、非歪み時のTFT3のオン電流をI0a=I/2とすると、TFT3のチャネル領域1cには圧縮応力−εがかかるので、TFT4のオン電流の変化量は、ΔIεNa=−AεI0a=−AεI/2(A;定数)となり、歪みを加えない時より減少する。
【0059】
一方、非歪み時のTFT4のオン電流を、I0b=I/2とすると、TFT4のチャネルには圧縮応力-εがかかるので、TFT4単体のオン電流の変化量は、
ΔIεNb=AεI0b=AεI/2(A;定数)となり、歪みを加えない時より増加する。
【0060】
TFT3及びTFT4がp型TFTの場合も同様に、非歪み時のTFT3のオン電流をI0b=I/2とすると、TFT3のオン電流の変化量は、
ΔIεPa=AεI0a=AεI/2(A;定数)となり、歪みを加えない時と比較して増加する。
【0061】
TFT4単体のオン電流の変化量は、
ΔIεPb=−AεI0b=−AεI/2(A;定数)となり、歪みを加えない歪み時と比較して減少する。
【0062】
図1(c)に示す回路全体のオン電流はTFT3とTFT4の和であるので、n、pそれぞれの型におけるオン電流の変化量は、
n型TFT; ΔIεNa+ΔIεNb=AεI/2−AεI/2=0
p型TFT; ΔIεPa+ΔIεPb=−AεI/2+AεI/2=0
となる。即ち、図1に示す回路構成で、TFT基板100に凹歪みを加えた場合でも、TFT3とTFT4が相補的に作用し、回路全体のオン電流の変動は、理論的にはゼロとなる。
【0063】
次に、TFT3,4のチャネル方向に対して基板100を角度θだけ回転させて歪みを加えたときの動作特性の補償について説明する。
図6を用いて、本発明のTFT基板100を角度θ回転してから、基板100を凸型に変形させたときの、TFT3,4のチャネル領域1c,1c’に加わる歪について説明する。
図6(a)〜(b)に示すように、基板100を凸型に変形させた場合、TFT3及びTFT4には、基板100の曲げ方向に引張り応力ε、基板100の曲げ方向と直交する方向に圧縮応力-εが加わる。それぞれをチャネル方向にかかる応力に分解すると、
TFT3のチャネル方向にかかる引張り応力:εcosθ、
TFT3のチャネル方向にかかる圧縮応力:−εsinθ、
TFT4のチャネル方向にかかる引張り応力:εsinθ、
TFT4のチャネル方向にかかる圧縮応力:−εcosθ、
となる。
【0064】
チャネル長L、チャネル幅Wのn型TFTのオン電流をI0Nとすれば、
TFT3のオン電流の変化率は、
ΔIεNa=Aε(cosθ−sinθ)I/2となる。
TFT4のオン電流の変化率は、
ΔIεNb=Aε(−cosθ+sinθ)I/2であるので、これらが並列接続されたTFT回路のオン電流の変化率は、
ΔIεN=IεNa+IεNb=Aε(cosθ−sinθ)I/2+Aε(−cosθ+sinθ)I/2=0となる。
【0065】
図7を用いて、本発明のTFT基板100を角度θ回転してから、基板100を凹型に変形させたときの、TFT3,4のチャネル領域1c,1c’に加わる歪について説明する。
図7(a)〜(b)に示すように、基板100を凹型に変形させた場合、TFT3及びTFT4には、基板の曲げ方向に引張り応力ε、基板の曲げ方向と直交する方向に圧縮応力-εが加わる。それぞれをチャネル方向にかかる応力に分解すると、
TFT3のチャネル方向にかかる引張り応力:−εcosθ、
TFT3のチャネル方向にかかる圧縮応力:εsinθ、
TFT4のチャネル方向にかかる引張り応力:−εsinθ、
TFT4のチャネル方向にかかる圧縮応力:εcosθ、
となる。
【0066】
チャネル長L、チャネル幅Wのn型TFTのオン電流をI0Nとすれば、
TFT3のオン電流の変化率は、
ΔIεNa=Aε(−cosθ+sinθ)I/2となる。
TFT4のオン電流の変化率は、
ΔIεNb=Aε(cosθ−sinθ)I/2であるので、これらが並列接続されたTFT回路のオン電流の変化率は、
ΔIεN=IεNa+IεNb=Aε(−cosθ+sinθ)I/2+Aε(cosθ−sinθ)I/2=0となる。
なお、p型のTFTの場合も同様となる。
【0067】
したがって、基板100にどのような応力がかかっても、図2に示したようなチャネル長L、チャネル幅WのTFT8のオン電流と等しくなる。
このことから、本発明の薄膜トランジスタ1によれば、基板100を、TFT3,4のチャネル方向に対していかなる方向に曲げたとしても、歪による特性変動は理論的にゼロとなる。これにより、基板100を曲げた際にも、チャネル幅W、チャネル長LのTFT8と同等の機能を実現することが可能となる。したがって、基板100を湾曲させた状態での安定した動作を実現し得るため、動作マージンの拡大、高歩留まりを達成することができる。
【0068】
このように、本実施形態によれば、一対のTFT3,4を有する薄膜トランジスタ1を備え、各TFT3,4を互いのチャネル領域1c,1c’が基板100の湾曲に対してチャネル内のキャリアの移動度が相補的に変化するように配置したことにより、基板100の湾曲状態に関わらず安定した動作出力が得られる。これにより、信頼性の高い半導体装置を得ることができる。
【0069】
本実施例において、2つのTFT3,4は離れて配置されていても良いが、できるだけ近くに配置されている方が好ましい。これにより、配線遅延などによって発生する誤動作を防ぐことができる。
【0070】
また、本実施例では、TFT3およびTFT4を異なる2つの半導体アイランドにて形成したが、TFT3,4のソース領域1a或いはドレイン領域1bの半導体層11を共通にした一つの半導体層で形成してもよい。
【0071】
[実施例2]
インバーター回路の構成例
実施例1を適用して、インバーター回路を形成した例を説明する。
まず、図8(a)に、従来技術によるインバーターのTFT回路構成を示し、図8(b)にその回路図を示す。
従来技術におけるインバーター回路は、n型のTFT105のゲート電極13と入力IN、ソース電極14と低電位電源VSS、ドレイン電極15と出力OUTがそれぞれ接続されている。p型のTFT106のゲート電極13と入力IN、ソース電極14と高電位電源VDD、ドレイン電極15と出力OUTがそれぞれ接続されている。これらのTFT回路は、不図示の可塑性基板上に形成されている。
【0072】
このようなインバーター回路の一般的な出力特性を図10に示す。図10において、横軸は入力電圧、縦軸が出力電圧である。
このインバーター回路基板をある方向に曲げて歪みを加えたとする。このとき、チャネル方向に掛かる歪みの種類(引張りまたは圧縮)によって、TFTのオン電流は増大或いは減少の何れかに変化する。また、n型のTFT105(第1のトランジスタ)と、p型のTFT106(第2のトランジスタ)とでは同じ歪みに対するオン電流の増減は逆の変化を示す。例えばn型のTFT105のオン電流が増大(n−TFT Enhanced)したときには、p型のTFT106のオン電流は減少する。反対に、p型のTFT106のオン電流が増大(p−TFT Enhanced)したときには、n型のTFT105のオン電流は減少する。
【0073】
ここで、インバーター回路に歪みが加えられたときのインバーターの出力特性は、
(a)通常時(無歪み時)、
(b)基板歪み時(n−TFT Enhanced)、
(c)基板歪み時(p−TFT Enhanced)、で示すグラフになる。
ここで、n型のTFT105のオン電流が増大されるような歪みが加えられた場合、出力特性は図10のグラフ(a)からグラフ(b)にシフトする。また、p型のTFT106のオン電流が増大されるような歪みが加えられた場合、出力特性はグラフ(a)からグラフ(c)にシフトする。こうした回路特性変動は、回路全体に誤動作を引き起こす可能性が高い。すなわち、基板を曲げたときの歪みによるTFT105,106の特性変動は、回路特性に決定的な変化を与え兼ねない。
【0074】
次に、本実施例におけるインバーター回路を図9(a)に示し、その回路図を図9(b)に示す。
図9(a),(b)に示すように、本実施例におけるインバーター回路は、n型のTFT5、p型のTFT6を有しており、それぞれがチャネル幅W/2の2つのTFTにて構成されている。具体的には、TFT5がnTFT5a及びnTFT5bからなり、TFT6が、pTFT6a及びpTFT6bからなる。そして、TFT5のnTFT5a及びnTFT5bを互いにチャネル方向が直交するように配置するとともに、TFT6のpTFT6a及びpTFT6bを互いにチャネル方向が直交するように配置し、対応するnTFT5a,5b同士、pTFT6a,6b同士を電気的に並列に接続する。こうすることにより、図8(a),(b)に示す回路と電気的には等価となる。
【0075】
この回路基板にある方向の曲げ歪みを加えたとする。実施例1にて説明したとおり、かかる構成によれば、nTFT5a及びnTFT5b、あるいはpTFT6a及びpTFT6bの歪みによるオン電流の変動は相殺されるので、インバーター回路としての出力特性は、無歪み時(図10において示した通常時のグラフ(a))と同等となる。
すなわち、基板100(半導体層11)の湾曲に応じてn型TFT5およびp型TFT6の両方のキャリアの移動度が一緒に増減することによって、出力電圧が大きく変動することがない。
【0076】
したがって、本実施例の構成によれば、インバーターを構成するPMOSトランジスタとNMOSトランジスタのキャリアの移動度が、基板の湾曲に対して相補的に変化するので、基板を湾曲させても不具合の生じにくいインバーターとなる。
したがって、基板(半導体層)を湾曲させた状態でインバーター回路を駆動させた場合でも回路の動作が安定し、誤動作を起こす可能性を低減させることができる。
【0077】
本実施例では、一対のTFT5およびTFT6(nTFT5a,nTFT5b,pTFT6a,pTFT6b)によって構成されるインバーターを例に挙げて述べたが、このようなインバーター回路を用いて、SRAM(Static Random Access Memory)を構成してもよい。
【0078】
[実施例3]
SRAM回路の構成例
図11(a)にSRAMの概略構成図を示し、(b)にSRAM用いられるインバーターINV1の回路構成を示し、(c)にSRAMの回路図を示す。
図11(a),(c)に示すように、SRAMは2つの第1インバーターINV1および第2インバーターINV2を有している。第1インバーターINV1は、nTFT5c(第1のトランジスタ)とpTFT5d(第2のトランジスタ)とを含み、第2インバーターINV2は、nTFT6c(第1のトランジスタ)とpTFT6d(第2のトランジスタ)とを含む。これらインバーターINV1,INV2は、互いの入力端と出力端とを接続したフリップフロップ回路を形成している。
【0079】
図11(b)に示すように、第1インバーターINV1を構成するnTFT5cおよびpTFT5dは、それぞれチャネル領域1c(第1のチャネル領域)、チャネル領域1c’(第2のチャネル領域)を有しており、各々のチャネル方向を直交させた構成となっている。また、図示してはいないが、第2インバーターINV2を構成するnTFT6cおよびpTFT6dにおいても同様の構成となっている。
【0080】
このような構成のSRAMによれば、インバーターINV1,2のそれぞれを構成するNMOSトランジスタ及びPMOSトランジスタのキャリアの移動度が、基板の湾曲に対して相補的に変化するので、基板を湾曲させても不具合の生じにくいインバーターとなる。
【0081】
[実施例4]
次に、チャネル面に平行な方向であれば、どの方向に曲げても歪による特性変化のない形状のTFTを用いて構成した回路を例示する。この条件を満たす素子配置形状としては、以下のような構成が挙げられる。図12〜図17に例示する。各図において、(a)は半導体層及びチャネル形状を示し、(b)はTFT形状を示す。
【0082】
図12(a),(b)に示す薄膜トランジスタ1Aは、チャネル長L、チャネル幅W/2のTFTであって、平面視L字形状を呈する半導体層11Aを備えている。半導体層11Aは、一対のチャネル領域1c,1c(第1、第2のチャネル領域)、一対のソース領域1a,1a、これらチャネル領域1c及びソース領域1aに共通するドレイン領域1bを有する。チャネル領域1c,1cは、互いのチャネル方向が直交した状態となっている。L字形状とされたゲート電極13はチャネル領域1c,1cの両方に対向し、同じくL字形状とされたソース電極14はソース領域1a,1aの両方に対向するとともにそれぞれに接合されている。ドレイン電極15は、ドレイン領域1bに対向し且つ当該領域1bに接合されている。
【0083】
図13(a),(b)に示す薄膜トランジスタ1Bは、チャネル長L、チャネル幅W/2のTFTであって、平面視四角形状を呈する半導体層11Bを備えており、L字形状のソース領域1aおよびチャネル領域1cと、半導体層11Bの一角に形成されたドレイン領域1bとを有している。
【0084】
図14(a),(b)に示す薄膜トランジスタ1Cは、チャネル長L、チャネル幅W/2のTFTであって、十字形状を呈する半導体層11Cを備えている。半導体層11Cは、4つのチャネル領域1cと、4つのドレイン領域1bと、1つのソース領域1aとを有している。
【0085】
図15(a),(b)に示す薄膜トランジスタ1Dは、チャネル長LのTFTであって、円形を呈する半導体層11Dを備えている。半導体層11Dは、ソース領域1aを中心とし、そこから半径方向外側へ向かってチャネル領域1cおよびドレイン領域1bを順に有している。
【0086】
図16(a),(b)に示す薄膜トランジスタ1Eは、チャネル長LのTFTであって、扇形状(1/4円形状)を呈する半導体層11Eを備えている。半導体層11Eは、ソース領域1aを中心として、半径方向外側へ向かってチャネル領域1cおよびドレイン領域1bを順に有している。
【0087】
図17(a),(b)に示す薄膜トランジスタ1Fは、チャネル長のTFTであって、半円形状を呈する半導体層11Fを備えている。半導体層11Fは、ソース領域1aを中心として、半径方向外側へ向かってチャネル領域1c及びドレイン領域1bを順に有している。
【0088】
以上述べた構成によれば、薄膜トランジスタ1のチャネル領域1cの形状が基板100の湾曲に対して対称的な形状とされていることから、基板100をチャネル面に平行な方向へ湾曲させた場合、チャネル内のキャリアの移動度を相補的に変化させることができる。これにより、歪によるトランジスタ特性の変動を抑えることが可能となり、誤動作を引き起こす可能性を低減させることができる。
【0089】
また、図13、図14、図16の薄膜トランジスタ1B,1C,1Eは、チャネル領域1cが90°に亘って連続して延在する点対称な形状であることから、チャネルに平行な方向であればどの方向に基板100を曲げても、歪による特性変化のない回路とすることができる。
したがって、動作マージンが広く、大型化が容易なフレキシブルな半導体装置が得られる。
さらに、図15に示したような円形の半導体層11Dを備えた薄膜トランジスタ1Dは、液相プロセスで半導体層11Dを形成する場合に製造し易いという利点がある。
【0090】
[電気泳動表示装置]
次に、上記した半導体装置を適用した電気光学表示装置の一例として、電気泳動表示装置について述べる。
図18は、上記した半導体装置を適用した電気泳動表示装置10の電気的な全体構成を示す図である。
電気泳動表示パネルA(表示部)は複数の画素から構成されており、これらの画素は、後述するスイッチング素子としてのTFT(Thin Film Transistor:薄膜トランジスタ)103や、このTFT103に接続された画素電極104を含んで構成されている。
本実施形態においては、上記各実施例のいずれかの半導体装置より構成される画素回路を有している。
【0091】
一方、素子基板100の周辺領域には、走査線駆動回路130やデータ線駆動回路140が形成されている。また、素子基板100の電気泳動表示パネルAには、図示のX方向に沿って平行に複数本の走査線101が形成されている。また、これと直交するY方向に沿って平行に複数本のデータ線102が形成されている。そして、各画素は走査線101とデータ線102との交差に対応してマトリクス状に配列されている。
【0092】
電気泳動表示装置10の周辺回路には、コントローラ(制御部)300が設けられている。このコントローラ300は画像信号処理回路およびタイミングジェネレータを含んでいる。ここで、画像信号処理回路は、画像データ及び対向電極制御信号を生成し、それぞれデータ線駆動回路140及び対向電極変調回路150に入力する。
【0093】
対向電極変調回路150は、画素の共通電極及び保持容量の対向電極にそれぞれバイアス信号Vcom及び電源電圧Vsを供給する。例えば、正又は負の高レベルのバイアス信号Vcom(リセット信号)によって画像のリセットが設定される。
【0094】
リセット信号は、データ線駆動回路140が画像データを出力する前の所定期間に出力される。リセットは、分散媒中を泳動している電気泳動粒子を画素電極又は共通電極に引き寄せ、空間的な状態を初期化するために用いられる。
【0095】
また、タイミングジェネレータは、リセット設定や画像データが画像信号処理回路から出力されるときに、走査線駆動回路130やデータ線駆動回路140を制御するための各種タイミング信号を生成する。
【0096】
図19は、電気泳動表示装置10の各画素の構造を示す図である。
i行、j列目の画素(i,j)は、TFT103、画素電極104及び保持容量Csを含んで構成されている。TFT103のゲート端子が走査線101に接続され、そのソース端子がデータ線102に接続されている。さらに、TFT103のドレイン端子が画素電極104及び保持容量Csに接続されている。
【0097】
保持容量Csは、TFT103によって画素電極104に印加された電圧を保持する。画素は、画素電極104と共通電極Comとの間に電気泳動層を挟持して構成されているので、電極面積、電極間の距離、および電気泳動層の誘電率に応じた画素容量Cepdを形成している。共通電極Comは、配線201を介して対向電極変調回路150に接続されている。また、保持容量Csの他方は保持容量線106に接続されている。保持容量線106は、対向電極変調回路150で電源Vsに接続されている。
【0098】
このような電気泳動表示装置10の駆動について、まず、リセット動作について説明する。リセットタイミングにおいて、走査線駆動回路130が全走査線101に対して選択信号を出力し、全走査線信号がアクティブになると、これら走査線101に接続される全ての画素に接続されるTFT103がオン状態となる。このときデータ線駆動回路140は、全データ線に対してハイレベル、若しくはローレベルを出力する。この信号は、全ての画素電極に対して供給される。
【0099】
また、対向電極変調回路150は共通電極Comに対し、全データ線にハイレベルが供給されている時はローレベルを、全データ線にローレベルが供給されている時はハイレベルの信号を供給する。このとき、全ての画素の画素電極と共通電極の間には同様の電位差が与えられるので、全画素領域において電気泳動表示素子が第1の階調、若しくは第2の階調にリセットされる。
【0100】
次に、画像の書き込み動作について説明する。画像書き込み動作時は、走査線駆動回路130は走査線101に順次選択信号を供給する。j番目の走査線101に選択信号が供給され選択状態となると、この走査線101に接続されたTFT103がオン状態になる。このとき、走査線選択に同期してデータ線駆動回路140から供給されるデータ信号Xi(画像信号)が画素電極104に書き込まれる。このとき、データ信号Xiの電圧レベルで保持容量Csも充電され、TFT103の遮断後も画素(画素電極と共通電極)の電荷保持を図り、電気泳動粒子による画像の維持を図る。各画素がデータ信号の電圧レベルに応じた表示を行うことによって画像が表示される。
【0101】
本実施例における電気泳動表示装置10は、上記実施例1〜3で述べたいずれかの薄膜トランジスタを有する半導体装置を素子基板100として備え、その薄膜トランジスタをTFT103として適用させていることから、電気泳動表示装置10を湾曲させた状態で駆動させても表示品質への影響がほとんどなく、曲面形状を有する表示装置への利用に好適である。
【0102】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0103】
[電子機器]
図20は、本発明の電気泳動表示装置を適用した電子機器の具体例を説明する斜視図で
ある。図20(A)は、電子機器の一例である電子ブックを示す斜視図である。この電子
ブック1000は、ブック形状のフレーム1001と、このフレーム1001に対して回
動自在に設けられた(開閉可能な)カバー1002と、操作部1003と、本発明の電気
泳動表示装置によって構成された表示部1004と、を備えている。
【0104】
図20(B)は、電子機器の一例である腕時計を示す斜視図である。この腕時計110
0は、本発明の電気泳動表示装置によって構成された表示部1101を備えている。
【0105】
図20(C)は、電子機器の一例である電子ペーパーを示す斜視図である。この電子ペーパー1200は、紙と同様の質感および柔軟性を有するリライタブルシートで構成され
る本体部1201と、本発明の電気泳動表示装置によって構成された表示部1202を備
えている。
【0106】
例えば電子ブックや電子ペーパーなどは、パネルが湾曲された状態で使用されることが多いため、誤作動なく表示を行うことが必要とされる。本発明の電気泳動表示装置を適用すれば、湾曲することによる引張りや圧縮の影響を受けることなく視認性の高い表示が得れる。
【0107】
なお、本発明の電気泳動表示装置を適用可能な電子機器の範囲はこれに限定されず、ICカード、リライタブルペーパー、携帯電話、PDA、電子辞書、指紋認証装置、中央演算処理装置、電子扇子、電子値札、電子広告などにも適用可能である。
【符号の説明】
【0108】
1…薄膜トランジスタ、1c…チャネル領域(第1のチャネル領域)、1c’…チャネル領域(第2のチャネル領域)、3,5,nTFT5a,nTFT5c,nTFT6a,nTFT6c…TFT(第1のトランジスタ)、4,6,pTFT5b,pTFT5d,pTFT6b,pTFT6d…TFT(第2のトランジスタ)、11,11A,11B,11C,11D,11E,11F…半導体層、10…電気泳動表示装置、100…基板、1000…電子ブック(電子機器)、1100…腕時計(電子機器)、1200…電子ペーパー(電子機器)、INV1,INV2…インバーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に薄膜トランジスタを有する半導体装置であって、
前記薄膜トランジスタは、前記基板の湾曲に対してチャネル内のキャリアの移動度が相補的に変化する第1のチャネル領域および第2のチャネル領域を有していることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記第1のチャネル領域および前記第2のチャネル領域が、1つのチャネルを形成していることを特徴とする請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記薄膜トランジスタは、前記第1のチャネル領域を有する第1のトランジスタと、前記第2のチャネル領域を有する第2のトランジスタとを接続してなることを特徴とする請求項1記載の半導体装置。
【請求項4】
複数の薄膜トランジスタを有する回路を備え、
複数の前記薄膜トランジスタは、それぞれのチャネル領域が前記基板の湾曲に対してチャネル内のキャリアの移動度を相補的に変化させるように配置されていることを特徴とする請求項1記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第1のチャネル領域及び前記第2のチャネル領域が、90°の点対称な形状とされていることを特徴とする請求項1又は2記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第1のチャネル領域及び前記第2のチャネル領域が、平面視L字型の形状とされていることを特徴とする請求項5記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第1のチャネル領域及び前記第2のチャネル領域が、平面視扇形状とされていることを特徴とする請求項5記載の半導体装置。
【請求項8】
前記第1のチャネル領域及び前記第2のチャネル領域が、平面視半円形状とされていることを特徴とする請求項5記載の半導体装置。
【請求項9】
前記第1のチャネル領域及び前記第2のチャネル領域が、平面視で円形状とされていることを特徴とする請求項1又は2記載の半導体装置。
【請求項10】
前記第1のトランジスタ及び前記第2のトンランジスタが、互いのチャネル方向を直交させて配置されていることを特徴とする請求項1又は3記載の半導体装置。
【請求項11】
2つの前記第1のトランジスタと、2つの前記第2のトランジスタとを有し、
4つの前記トランジスタが、90°の点対称な配置とされていることを特徴とする請求項10記載の半導体装置。
【請求項12】
一対の前記薄膜トランジスタが、インバーターを構成していることを特徴とする請求項1又は4記載の半導体装置。
【請求項13】
複数の前記薄膜トランジスタが、SRAMを構成していることを特徴とする請求項12記載の半導体装置。
【請求項14】
請求項1から13のいずれかに記載の半導体装置を備えたことを特徴とする電気光学装置。
【請求項15】
請求項14記載の電気光学装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2011−35260(P2011−35260A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181599(P2009−181599)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】