説明

回転電機

【課題】可動機構の誤動作に対しても好適な有効磁束範囲内での運転を可能とし、且つ無駄な有効磁束可変スペースを無くし、可動機構の移動距離が短くなり、さらなる小型化が可能な回転電機を提供することである。
【解決手段】巻線を有する固定子と、その固定子に空隙を介して回転可能に配設され、回転軸方向に第一回転子4と第二回転子5に二分割され、それぞれに極性の異なる界磁用磁石が回転方向に交互に配置された回転子と、第一回転子4に対する第二回転子5の相対的な回転軸方向位置を可変する磁束可変機構と、第一回転子4と第二回転子5の距離が予め定めた値を超えた場合は、第二回転子5を停止するフェイルセーフストッパー10と、を有する回転電機とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁束可変型の回転電機及び、その回転電機を用いた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の誘導電動機(IMモータ)に代わり、効率に優れ、小型化や低騒音化も期待できる永久磁石同期電動機(PMモータ)が普及し始めている。例えば、家電,鉄道車両,電気自動車向けの駆動モータとしてPMモータが利用されるようになってきている。IMモータは、磁束自体をステータからの励磁電流によって作り出すため、励磁電流を流すことによる損失が発生する問題点がある。一方、PMモータは、ロータに永久磁石を備え、永久磁石の磁束を利用してトルクを出力するモータである。そのため、PMモータでは励磁電流を印加する必要はなく、IMモータのように、励磁電流による損失は発生しない。
【0003】
しかしながら、PMモータは、回転数に比例して永久磁石により電機子コイルに誘起電圧が発生する。鉄道車両や自動車など回転範囲が広い応用範囲では、最高回転数において生じる誘起電圧によって、PMモータを駆動制御するインバータが過電圧によって破壊しないことが必要である。このような特性を有するPMモータでは、電源電圧を一定として定出力運転を行う場合に、前述の最高回転数をさらに上昇させて運転速度を広くするための方策として、電機子コイルに永久磁石による磁束を打ち消す電流を流して等価的に誘起電圧を下げるといういわゆる弱め界磁制御がある。しかし、この弱め界磁制御は、トルクに寄与しない電流を流すため効率の低下を招いていた。また、電機子コイルに大電流を流す必要があり、おのずとコイルに発生する熱が増大する。そのため、高回転領域における回転電機としての効率の低下,冷却能力を超えた発熱による永久磁石の減磁等が起こり得る可能性があった。
【0004】
そこで、電気的な弱め界磁の代わりに、機械的に有効磁束量を可変することができる回転電機としては、例えば特許文献1に記載された回転電機が知られている。
【0005】
特許文献1に記載された回転電機は、回転軸方向に二分割され、それぞれに極性の異なる界磁用磁石が回転方向に交互に配置された回転子を有する。そして、回転電機を電動機として動作させる場合は、二分割回転子の一方の界磁用磁石と二分割回転子の他方の界磁用磁石との間の磁気作用力と回転子のトルク方向との釣り合いによって二分割回転子の界磁用磁石の磁極中心を揃える。回転電機を発電機として動作させる場合は、回転子のトルク方向が反対になるに伴って二分割回転子の界磁用磁石の磁極中心をずらす。このように、分割した二つの回転子の磁極中心を変化させることで機械的に有効磁束量を可変にしている。
【0006】
さらに、機械的な可変機構を用いた回転電機では、被搭載体、例えば自動車に対する信頼性を向上させるために、例えば回転子のトルク方向の変化に伴って二分割回転子の一方が可変した時に二分割回転子の一方や機械的な可変機構に生じる衝撃を緩和できる機構を設けた回転電機が特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−069609号公報
【特許文献2】特開2003−244875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述した回転電機は、運転点範囲と効率に応じて、有効磁束量を変える可変範囲を定める構造を有していないため、可変機構の誤動作に対する備えがないという問題点がある。
【0009】
例えば、自動車の場合では、下り坂での高速運転時に有効磁束が0になると、加速に抗するトルクを発生できなくなるため、減速を摩擦ブレーキにのみ頼ることになる。摩擦ブレーキは使い過ぎて熱をもつと効きが悪くなるため、できるなら回転電機側でも減速トルクを受けもつことが望ましい。
【0010】
本発明の目的は、可動機構の誤動作に対しても好適な有効磁束範囲内での運転を可能とし、且つ無駄な有効磁束可変スペースを無くし、可動機構の移動距離が短くなり、さらなる小型化が可能な回転電機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、巻線を有する固定子と、固定子に空隙を介して回転可能に配設され、回転軸方向に第一回転子と第二回転子に二分割され、それぞれに極性の異なる界磁用磁石が回転方向に交互に配置された回転子と、第一回転子に対する第二回転子の相対的な回転軸方向位置を可変する磁束可変機構と、第一回転子と第二回転子の距離が予め定めた値を超えた場合は、第二回転子を停止する回転子停止手段と、を有する回転電機とする。
【0012】
また、巻線を有する固定子と、固定子に空隙を介して回転可能に配設され、回転軸方向に三分割以上分割され、それぞれに極性の異なる界磁用磁石が回転方向に交互に配置された回転子と、その回転子の分割された個々の分割回転子の相対的な回転軸方向位置を可変する磁束可変機構と、それぞれの分割回転子の相対距離が予め定めた値を超えた場合は、少なくとも1つの分割回転子を停止する回転子停止手段と、を有する回転電機とする。
【0013】
また、車輪と、車輪を駆動する内燃機関と、速度を制御する変速機と、内燃機関と変速機間に機械的に連結された本発明の回転電機と、電力の充放電を行う蓄電手段と、蓄電手段と回転電機間に接続され、電力の変換を行う電力変換器の構成とする。
【発明の効果】
【0014】
可動機構の誤動作に対しても好適な有効磁束範囲内での運転が可能となり、且つ無駄な有効磁束可変スペースを無くし、可動機構の移動距離が短くなり、さらなる小型化が可能な回転電機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る最大有効磁束時の磁束可変型回転電機の一構成例を示す図である。
【図2】本発明に係る0.5倍最大有効磁束時の磁束可変型回転電機の一構成例を示す図である。
【図3】本発明に係る0有効磁束時の磁束可変型回転電機の一構成例を示す図である。
【図4】従来の回転電機の有効磁束可変の効率マップを示す図である。
【図5】本発明の磁束可変型回転電機の効率マップを示す図である。
【図6】本発明の磁束可変型回転電機を電気自動車に搭載した場合の効果を評価した結果を示す図である。
【図7】回転電機の定常走行時の効率比較を説明するための車両形式に一例を示す図である。
【図8】回転電機の定常走行時の効率比較を示す図である。
【図9】本発明に係る回転電機の制御手順の一例を示す図である。
【図10】本発明に係る回転電機の制御手順の他の例を示す図である。
【図11】本発明に係る回転電機を搭載したハイブリッド自動車の駆動装置の一配置構成例を示す図である。
【図12】本発明に係る回転電機を搭載したハイブリッド自動車の駆動装置の一配置構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
本発明に係る磁束可変型回転電機の一構成例を図1,図2,図3に基づいて説明する。
【0018】
図1,図2,図3は本実施例の回転電機の構成を示す。図1,図2,図3に示すように、円筒状の固定子鉄心1の内周部には、軸方向に連続し、開口した溝(以後「スロット」と記す)が周方向に複数形成され、複数のスロットの各々には電機子巻線2(固定子巻線又は一次巻線ともいう)が装着されている。
【0019】
固定子鉄心1の外周側には、ハウジング(図に示していない)が存在し、固定子鉄心ハウジングとは焼嵌或いは圧入などによってより締結される。回転軸方向端部にはブラケット(図に示していない)が締結され、固定子鉄心の露出を防いでいる。
【0020】
固定子鉄心1の内周側には空隙を介して回転子が回転可能に配設されている。回転子は回転軸方向に二分割されて構成されたものであり、シャフト3(回転軸ともいう)に固定された第一回転子4と、シャフト3に設けたスプライン9上を回転しながら、回転軸方向に移動可能な第二回転子5とを有している。
【0021】
第一回転子4には、極性が回転方向に順次異なるように第一回転子の界磁用磁石である永久磁石4Aが複数埋め込まれている。また、第二回転子5にも、極性が回転方向に順次異なるように、第二回転子の界磁用磁石である永久磁石5Aが複数埋め込まれている。つまり、第一回転子4と第二回転子5は、それぞれに極性の異なる界磁用磁石が回転方向に交互に配置される。シャフト3の中心軸方向の両端部は、軸受装置(図に示していない)によって回転可能に支持されている。
【0022】
支持機構は、軸受6,ストッパー7,アクチュエータ8から構成されている。第二回転子5を第一回転子4の反対側から、可動部のアクチュエータアーム8Aが軸受6,ストッパー7を介して第二回転子5を所定位置に移動させることができる。つまり支持機構は、回転子の第一回転子4に対する回転子の第二回転子5の相対的な回転軸方向位置を可変する磁束可変機構である。
【0023】
本実施例では、図1に示すように、トルクや回転数の変化に応じて第二回転子5を動作させている。すなわち本実施例では、図1の状態から図3の状態までの任意状態としている。
【0024】
ここで、図1は、最大有効磁束が必要とされる場合、第一回転子4と第二回転子5を接近させて一体とし、永久磁石4A,5Aの同極性のもの同士を回転軸方向に並ばせて永久磁石4A,5Aの磁極の中心を揃えた状態である。この時、支持機構は、第二回転子5を第一回転子4側とは反対側から支持している。すなわちアクチュエータ8を制御信号によって制御し、可動部が軸受6,ストッパー7を介して第二回転子5を所定位置に移動させる。この状態では、第二回転子5の磁極位相13は第一回転子4の磁極位相12と同じ電気角になる。
【0025】
図2,図3は、図1の状態より有効磁束を減らした状態である。第二回転子5を、シャフト3上を回転させながら回転軸方向の一方側(第一回転子4側とは反対側)に移動させて第一回転子4から離し、任意所定位置に移動させる。図2の状態では、第二回転子5の磁極位相13は第一回転子4の磁極位相12と90°の電気角になる。図3の状態では、第二回転子5の磁極位相13は第一回転子4の磁極位相12と180°の電気角になる。磁極8極の場合では、第二回転子5の磁極位相13は第一回転子4の磁極位相12との最大機械角θは45°になる。つまり、界磁用の有効磁束量は0となり、逆起電圧を0にすることができる。この有効磁束0の特性は回転電機の保護機能に利用できる。
【0026】
本実施例では、図1,図2,図3に示すように、シャフト3に可調節式のフェイルセーフストッパー10を設けた。フェイルセーフストッパー10は、回転電機の運転点と回転電機効率に対応する有効磁束量範囲を定める構造であり、可動機構の誤動作による異常な高速回転を防ぐことが可能である。つまり、フェイルセーフストッパー10は、第一回転子4と第二回転子5間の距離(相対距離)が予め定めた値を超えた場合は、第二回転子5を停止する機能を有する回転子停止手段である。これにより第一回転子4と第二回転子5との距離に比例する有効磁束量を最適な範囲内で制御することができることが可能である。この第一回転子4と第二回転子5との距離は、界磁用の永久磁石の極数と、可動回転子と回転軸間に設けるスプライン9によって決められる。
【0027】
ここでの有効磁束は、回転電機の回転トルクに寄与する磁束量である。回転電機の回転トルクと固定子の巻線に流れる電流から求められる。
【0028】
例えば、回転電機の運転点と回転電機効率に対応する有効磁束量範囲が0〜Φとすると、第二回転子5が第一回転子4に対して回転軸方向に最大距離Lを移動することになる。この状態のフェイルセーフストッパー10は、図3に示すように、第二回転子5と可動機構をL以上に移動させない位置に固定される。同様に、回転電機の運転点と回転電機効率に対応する有効磁束量範囲が0.5Φ〜Φとすると、第二回転子5が第一回転子4に対して回転軸方向に最大距離L/2を移動することになる。この状態のフェイルセーフストッパー10は、第二回転子5と可動機構をL/2以上に移動させない位置に固定される。その結果、無駄な有効磁束可変スペースを無くし、可動機構の移動距離が短くなり、回転電機のさらなる安全性を確保できる。
【0029】
図4は、従来回転電機の効率マップを示す図であり、有効磁束を従来型回転電機の1.0倍,0.75倍,0.5倍,0.25倍に変えた場合の回転電機の効率を示す。以後、有効磁束が1.0倍,0.75倍、0.5倍,0.25倍となっていることを、それぞれΦ,0.75Φ,0.5Φ,0.25Φと表記する。図において、横軸は回転電機の回転数、縦軸は回転電機のトルク、図中は回転電機効率分布である。さらに、有効磁束を0〜Φに変化させたときの結果を各有効磁束中の最大効率点を取り出し、合成した結果を磁束可変型回転電機の効率マップとして図5に示す。
【0030】
ここで、図4の有効磁束をΦとした結果を従来型回転電機効率マップ、図5の結果を磁束可変型回転電機効率マップと呼称する。従来型回転電機に比べ、磁束可変型回転電機は、高効率域が高回転領域側に大きく拡大している。さらに、回転電機の有効磁束が回転電機効率に影響を及ぼす範囲も図5に示す。
【0031】
上記得られた効率マップの結果を用い、磁束可変型回転電機を電気自動車に搭載した場合の効果を評価した結果を図6に示す。図中×点は速度60km/h,80km/h,100km/h,120km/h,140km/h,160km/hにおける定常運転時の運転点を示す。速度60km/h,80km/hの運転点において両者の差がないが、100km/h,120km/h,140km/hの運転点は従来型回転電機の90%と92%から磁束可変型回転電機の94%、160km/hの運転点は従来型回転電機の90%から磁束可変型回転電機の92%とに入っている。従って、磁束可変型回転電機は、自動車に用いた場合、高速走行領域の効率を向上させる効果がある。
【0032】
図5,図6により、回転電機の運転点が違うと、それに対応する最も効果のある有効磁束量も変わる。従って、回転電機の用途や運転範囲から回転電機の有効磁束可変範囲を限定できる。その結果、無駄な有効磁束可変スペースや軸長を無くし、可動機構の移動距離が短くなり、回転電機のさらなる小型化が可能となる。
【0033】
本実施例では、磁極が8極、第二回転子5が相対回転可能とするスプライン9のリードが24mm(1周回転で軸方向に24mm移動)の場合では、有効磁束を0〜Φ範囲内に変化させると、軸長方向の移動距離が3mmである。ここで、回転電機の運転範囲や運転点によって有効磁束0.5Φ〜Φ範囲内に限定すると移動距離は1.5mmになり、移動距離が半減できる。さらに、有効磁束の範囲が限定されることでより、分割された回転子の異なる極性磁石間の吸引力が小さくなり、容量の小さいアクチュエータが可能となる。その結果、さらなるシステムの小型化が期待できる。
【0034】
本実施例では、回転子の磁極は8極について説明したが、高速回転対応の回転電機(高速回転用回転電機)で界磁用永久磁石の極数がより少ない場合においては、有効磁束の範囲を限定することにより、軸長方向移動距離の短縮にもっと効果がある。例えば、回転子磁極は4極になると、有効磁束を0〜Φに変化させるのに移動距離が最大6mmとなる。有効磁束0.5Φ〜Φ範囲内に限定すると移動距離は3mmになり、前記回転子磁極8極の場合より回転電機の小型化が期待できる。
【0035】
なお、上記形態では、回転子が二分割される回転電機の場合について説明したが、三分割以上でも良いことは言うまでもない。つまり、固定子鉄心1に空隙を介して回転可能に配設され、回転軸方向に三分割以上分割され、それぞれに極性の異なる界磁用磁石が回転方向に交互に配置された回転子と、その回転子の分割された個々の分割回転子の相対的な回転軸方向位置を可変する磁束可変機構と、それぞれの分割回転子の相対距離が予め定めた値を超えた場合は、少なくとも1つの分割回転子を停止する回転子停止手段のフェイルセーフストッパー10と、を有する構成でも、図1,図2,図3に記載した回転子が二分割された構成と同様の効果を達成できる。また、有効磁束を限定する観点から、本実施例以外の他の磁束可変構造においても適用できる。
【0036】
図7,図8は回転電機の有効磁束量を0.5Φ〜Φ範囲内に限定する可変機構をもつ回転電機の効果を説明する図である。
【0037】
回転電機に変速機を含めた場合の定常走行時の効率比較を行う。検討した車両形式は図7に示すように、定常走行における従来型回転電機(a),磁束可変型回転電機(b),従来型回転電機+変速機(変速機効率100%)(c),従来回転電機+変速機(変速機効率95%)(d)の4つである。前述の自動車シミュレータを用い各定常速度毎の効率を比較した結果を図8(横軸に車速(km/h)、縦軸に効率)に示す。変速機の機械損失はゼロ、つまり変速機効率100%(c)の場合では、従来型回転電機+変速機の効率は磁束可変型回転電機より良くなっているが、変速機の機械損失約5%を考慮すると、図8(d)に示すように、磁束可変型回転電機より、効率が約4%低下している。一方、磁束可変型回転電機は高効率動作範囲が広いために必ずしも変速機を必要としない。従って、変速機による効率低下分がなく、自動車の効率向上のうえで有利であると考えられる。
【0038】
以上、本実施例によれば、上述した通り、第一回転子と第二回転子の距離が所定の値を超えた場合は、相対的に可動の第二回転子を停止するフェイルセーフストッパーを有することによって、可動機構の誤動作に対しても好適な有効磁束範囲内での運転が可能となり、且つ無駄な有効磁束可変スペースを無くし、可動機構の移動距離が短くなり、回転電機のさらなる小型化が可能となる。
【実施例2】
【0039】
本実施例では、本発明で提案した回転電機の制御手段の例について説明する。
【0040】
提案した回転電機の制御手段は、軸受6,ストッパー7,アクチュエータ8から構成され、回転子の第一回転子4に対する回転子の第二回転子5の相対的な回転軸方向位置を可変する磁束可変機構を制御する制御手段である。
【0041】
図9に示すように、有効磁束に関する複数の回転電機効率ηマップを有し、要求回転数及び要求トルクにおける効率値(回転電機の出力パワー/入力パワー)を複数の回転電機効率ηマップより取得し、複数の回転電機効率ηマップより得られる複数の効率値のうち最も効率の高い値を示す有効磁束を選択する有効磁束決定手段を有する。言い換えれば、有効磁束決定手段は、予め記憶手段(図示なし)に記憶された回転子の要求回転数と要求トルクにおける複数の効率値が示された複数の回転電機効率マップから最も効率値が高い有効磁束量を選択し、選択された有効磁束に基づく指令値を磁束可変機構へ出力するものである。
【0042】
例えば、図9に示す運転点における回転数とトルクが出力要求される場合では、予め取得した複数の回転電機効率ηマップより最も高い値の有効磁束(最大の回転電機効率η)を選択し、この有効磁束量を回転電機の磁束可変機構に指令して決定することによって、各運転点において最も高い回転電機の効率を実現する。有効磁束を固定し、それぞれ効率マップを測って、有効磁束可変運転時の効率マップと比較すれば、容易に最適な有効磁束を選択できる。
【0043】
なお、本実施例では、効率生成手段としては、効率マップの例以外に、数式でも近似式でもよい。また、いくつの回転電機効率ηマップを例として挙げたが、より最適な有効磁束を選択するために、さらに有効磁束を細かく分割し効率マップを取得することが望ましい。
【実施例3】
【0044】
本実施例では、本発明で提案した回転電機の制御手段の他の例について説明する。
【0045】
提案した回転電機の制御手段は、図10に示すように、回転数及びトルクに関する有効磁束マップを有し、その有効磁束マップは要求回転数及び要求トルクに対し最大効率を得る有効磁束を出力とする有効磁束決定手段である。例えば、図10に示す運転点における回転数とトルクが出力要求される場合では、予め取得した複数の回転電機効率ηマップより最も高い値で合成効率ηマップを取得し、要求回転数とトルクに対応する有効磁束量を回転電機の磁束可変機構に指令して決定することによって、各運転点において最も高い回転電機の効率を実現する。有効磁束可変運転時の効率マップと比較すれば、容易に最適な有効磁束を選択できる。
【0046】
なお、本実施例では、有効磁束量の生成手段としては、有効磁束マップの例以外に、数式でも近似式でもよい。いくつの回転電機効率ηマップを例として挙げたが、より最適な有効磁束を選択するために、さらに有効磁束を細かく分割し効率マップを取得することが望ましい。
【実施例4】
【0047】
本実施例では、本発明で提案した回転電機をハイブリッド自動車の駆動装置に適用した例について説明する。
【0048】
図11はハイブリッド自動車の駆動装置の配置構成を示す。ハイブリッド自動車は、車輪と、その車輪を駆動する駆動装置と、を有し、その駆動装置は、車両の駆動力を発生する、つまり車輪を駆動する内燃機関であるエンジン14と、車両の速度を制御する変速機であるトランスミッション16との間に回転電機15(永久磁石型同期回転電機)が機械的に連結されて構成されている。この回転電機15は、実施例1の回転電機の特徴を有する回転電機である。
【0049】
エンジン14と回転電機15との連結には、エンジン14の出力軸と回転電機15の回転軸を直結する方法、或いは遊星歯車減速機構などで構成された変速を介して連結する方法が一般的に採られている。回転電機15は、電動機或いは発電機として動作するので、回転電機15には、電力変換器であるインバータ17を介して電力の充放電を行う蓄電手段であるバッテリ18に電気的に接続されている。つまり、電力変換器であるインバータ17は、蓄電手段であるバッテリ18と回転電機15間に接続され、電力の変換を行う。
【0050】
回転電機15を電動機として用いる場合は、バッテリ18から出力された直流電力をインバータ17で交流電力に変換して回転電機15に供給する。回転電機15の駆動力は、エンジン14の始動用或いはアシスト用として用いられる。
【0051】
回転電機15を発電機として用いる場合は、回転電機15によって発電された交流電力をインバータ17(コンバータ機能)で直流電力に変換してバッテリ18に供給する。これにより、変換された直流電力はバッテリ18に蓄電される。
【0052】
従来の永久磁石同期回転電機は、回転数の上昇と共に磁石による逆起電力が大きくなるため、バッテリ,インバータの制約により高回転領域で駆動するのが困難であった。高回転領域で回転電機を駆動する方式として、電流により永久磁石の界磁用磁束を等価的に弱める弱め界磁制御があるが、トルクに寄与しない電流を流すため効率の低下を招いていた。
【0053】
よって、この回転電機に本発明の実施例1に記載のような磁束可変型回転電機を用いることで、回転数,トルクに応じて機械的に最適な界磁用有効磁束を発生させることができる。従って、逆起電力によるバッテリやインバータの制約が低減でき、さらにトルクに寄与しない電流を流さないため、効率を向上させることができる。
【0054】
本実施例によれば、本発明の回転電機を導入すると、無駄な有効磁束可変スペースや軸長を無くし、可動機構の移動距離が短くなり、回転電機のさらなる小型化が可能となる。その結果、回転電機の体積低減を図ることができる。さらに、本発明の磁束可変型回転電機は、広い回転速度範囲での高効率運転ができるため、変速ギア段の減少、または変速ギアの省略を実現することが可能となる。従って、駆動装置全体の小型化を図ることもできる。
【実施例5】
【0055】
本実施例では、本発明で提案した回転電機をハイブリッド自動車の駆動装置に適用した他の例について説明する。基本的には、実施例4の図11と同じ構成であり、異なる構成は、回転電機15がエンジン14とトランスミッション16の間ではなく、且つ内燃機関であるエンジン14のクランクプーリ19と回転電機15のシャフトに結合されたプーリ21とが連結された金属ベルト20を設けた点である。
【0056】
図12は、実施例1の回転電機が搭載される自動車の駆動装置の配置構成を示す。
【0057】
本実施例の駆動装置は、エンジン14のクランクプーリ19と、回転電機15のシャフトに結合されたプーリ21が金属ベルト20で連結されたものである。従って、エンジン14および回転電機15は並列に配置されている。
【0058】
また、本実施例の自動車の駆動装置においては、回転電機15を電動機単体,発電機単体、もしくはモータ・ジェネレータのどの形態で用いてもよい。本実施例によれば、クランクプーリ19,金属ベルト20,プーリ21によって、エンジン14と回転電機15の間にある速度比をもった変速機構を構成することができる。
【0059】
例えば、クランクプーリ19とプーリ21の半径比を2:1にすることにより、回転電機15をエンジン14の2倍の速度で回転させることができ、エンジン14の始動時、回転電機15のトルクをエンジン14の始動時に必要なトルクの1/2にすることができる。従って、回転電機15を小型化することができる。
【0060】
また、実施例1の回転電機が用いられる自動車の実施形態を以下3つ列挙する。
【0061】
(1)車輪を駆動する内燃機関と、電力の充放電を行うバッテリと、内燃機関のクランク軸と機械的に連結され、バッテリから供給された電力によって駆動されて内燃機関を駆動すると共に、内燃機関からの動力によって駆動されて発電し、バッテリにその発電電力を供給するモータ・ジェネレータと、モータ・ジェネレータに供給される電力及びモータ・ジェネレータから供給された電力を制御する電力変換装置と、電力変換装置を制御する制御装置とを有し、モータ・ジェネレータが実施例1の回転電機で構成された自動車。この自動車は、内燃機関で車輪を駆動する通常の自動車、或いは内燃機関とモータ・ジェネレータで車輪を駆動するハイブリッド自動車である。
【0062】
(2)車輪を駆動する内燃機関と、電力の充放電を行うバッテリと、バッテリから供給された電力によって駆動されて車輪を駆動すると共に、車輪からの駆動力を受けて発電し、バッテリにその発電力を供給するモータ・ジェネレータと、モータ・ジェネレータに供給された電力及びモータ・ジェネレータから供給された電力を制御する電力変換装置と、電力変換装置を制御する制御装置を有し、モータ・ジェネレータが実施例1の回転電機で構成された自動車。この自動車は、内燃機関とモータ・ジェネレータで車輪を駆動するハイブリッド自動車である。
【0063】
(3)電力の充放電を行うバッテリと、バッテリから供給された電力によって駆動されて車輪を駆動すると共に、車輪からの駆動力を受けて発電し、バッテリにその発電電力を供給するモータ・ジェネレータと、モータ・ジェネレータに供給される電力及びモータ・ジェネレータから供給された電力を制御する電力変換装置と、電力変換装置を制御する制御装置とを有し、モータ・ジェネレータが実施例1の回転電機で構成された自動車。この自動車は、回転電機で車輪を駆動する電気自動車である。
【実施例6】
【0064】
本実施例では、本発明で提案した回転電機を洗濯機の電動機に適用した例について説明する。
【0065】
洗濯機の従来技術で、電動機のトルクはプーリを介してベルトとギアによりトルクを伝達する場合、ベルトとギアの摺動,打撃音等の騒音が大きい問題がある。また、電動機のトルクを直接回転体や脱水槽に伝達するためのダイレクトドライブ方式では、電気的な弱め界磁制御技術により高速運転領域を広げることは、弱め界磁電流による発熱や効率低下などにより限界がある。前記ダイレクトドライブ方式は減速機構がないために、低速高トルクの洗いや濯ぎ行程と高速大出力の脱水行程の広範囲速度領域を賄う電動機の体格は大型になる。
【0066】
前記電動機は本発明の磁束可変型回転電機を用いる場合、洗いもしくは濯ぎ行程で、電動機の分割された回転子の同極性の中心が揃えるようにすれば、固定子磁極と対向する永久磁石による有効磁束量を多くして、高トルク特性が得られる。一方、脱水行程のような高速回転領域において運転する時は、相対的に回転できる回転子を同極性磁極の中心がずれる方向に回転させれば、固定子磁極と対向する永久磁石による有効磁束量を少なくすることになり、言い換えると機械的な弱め界磁効果があり、高回転領域において定出力特性がえられる。
【実施例7】
【0067】
本実施例は、本発明で提案した回転電機を風力発電システムの発電機に適用した例について説明する。
【0068】
従来の風力発電システムの発電機において、低速領域で高トルクが得られるが、回転数の可変範囲が狭いために高速領域の運転は困難であった。そこで、電気的な弱め界磁制御技術により高速運転領域を広げることが考えられる。また、風力発電システムの発電機は広い速度範囲で所定の出力を確保するためにギア機構やピッチモータ等を備えて、さまざまな風速条件に対応できるようにした。発電機の各相巻線を主軸の回転速度に応じて巻線切り替え装置を用いて、低速用巻線と高速用巻線に切り替えて駆動するようにしているものもある。電気的な弱め界磁制御により高速運転領域を広げることは、弱め界磁電流による発熱や効率低下などにより限界がある。各相巻線を主軸の回転速度に応じて巻線切り替え装置を用いた場合は、発電機本体からのリード線の数が多く、さらに巻線切り替え制御装置とその構造が複雑になる問題などがある。
【0069】
実施例1,実施例2,実施例3の回転電機で構成された回転電機を用いた風力発電システムの発電機が風力の広い範囲で高効率を行う実施例として、分割された回転子は以下の状態で運転されればよい。
【0070】
風が弱い低速回転領域においては、回転子の同極性磁極の中心が揃えるようにして、固定子磁極と対向する永久磁石による有効磁束量を多くし、高出力特性が得られるようにする。一方、風が強い高速回転領域においては、相対的に回転できる回転子を同極性磁極の中心がずれる方向に回転させれば、固定子磁極と対向する永久磁石による有効磁束量を少なくすることになり、言い換えると機械的な弱め界磁効果があり、高回転領域において定出力特性がえられる。
【0071】
本実施例によれば、機械的に永久磁石の界磁用有効磁束量を可変できるという効果がある。特に、風力発電システムの主軸発電機の機械的な弱め界磁が簡単にでき、広範囲可変速制御には大きな効果がある。発電機構造が簡単になることにより、発電機が軽量になるため、タワーの構造が簡単になるという効果がある。
【実施例8】
【0072】
本実施例では、本発明で提案した回転電機を輸送車両の電動機・発電機に適用した例について説明する。
【0073】
永久磁石同期電動機は誘導電動機に比べ高効率であり、小型軽量化に有利である。また、高効率であることは消費電力量やCO2排出量の削減も期待できる。輸送車両の駆動用電動機は小型軽量であることが強く求められるため、永久磁石同期電動機は有力な候補である。また、電動機だけでなくインバータも含めた主回路全体の軽量化が求められる。主変換装置保護の観点から、永久磁石による逆誘起電圧は、そのピーク値がすくなくとも直流中間回路電圧の過電圧保護動作設定値を超えないように設計すべきである。しかし、そのように電動機を設計した場合、必要とするインバータ容量を増大させてしまう。
【0074】
前記電動機は本発明の磁束可変型回転電機を用いる場合、低速大トルクで、電動機の分割された回転子の同極性の中心が揃えるようにすれば、固定子磁極と対向する永久磁石による有効磁束量を多くして、高トルク特性が得られる。一方、高速回転領域において運転する時は、相対的に回転できる回転子を同極性磁極の中心がずれる方向に回転させれば、固定子磁極と対向する永久磁石による有効磁束量を少なくすることになり、言い換えると機械的な弱め界磁効果があり、高回転領域において定出力特性がえられる。
【0075】
本実施例によれば、機械的に永久磁石の界磁用有効磁束量を可変できるという効果がある。また、輸送車両の発電機の機械的な弱め界磁が簡単にでき、広範囲可変速制御には大きな効果がある。さらに、機械的に有効磁束を可変することにより、逆誘起電圧を抑えることができる。その結果、インバータの容量を低減することができる。従って、インバータのコスト低減や駆動装置全体の小型化を図ることもできる。
【符号の説明】
【0076】
1 固定子鉄心
2 電機子巻線
3 シャフト
4 第一回転子
4A,5A 永久磁石
5 第二回転子
6 軸受
7 ストッパー
8 アクチュエータ
8A アクチュエータのアーム
9 スプライン
10 フェイルセーフストッパー
11 固定子磁極
12 第一回転子の磁極位相
13 第二回転子の磁極位相
14 エンジン
15 回転電機
16 トランスミッション
17 インバータ
18 バッテリ
19 クランクプーリ
20 金属ベルト
21 プーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線を有する固定子と、
前記固定子に空隙を介して回転可能に配設され、回転軸方向に第一回転子と第二回転子に二分割され、それぞれに極性の異なる界磁用磁石が回転方向に交互に配置された回転子と、
前記回転子の前記第一回転子に対する前記回転子の前記第二回転子の相対的な回転軸方向位置を可変する磁束可変機構と、
前記第一回転子と前記第二回転子の距離が予め定めた値を超えた場合は、前記第二回転子を停止する回転子停止手段と、を有することを特徴とする回転電機。
【請求項2】
巻線を有する固定子と、
前記固定子に空隙を介して回転可能に配設され、回転軸方向に三分割以上分割され、それぞれに極性の異なる界磁用磁石が回転方向に交互に配置された回転子と、
前記回転子の分割された個々の分割回転子の相対的な回転軸方向位置を可変する磁束可変機構と、
それぞれの前記分割回転子の相対距離が予め定めた値を超えた場合は、少なくとも1つの前記分割回転子を停止する回転子停止手段と、を有することを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の回転電機において、
前記磁束可変機構を制御する制御手段を有し、
前記制御手段は、予め記憶手段に記憶された回転子の要求回転数と要求トルクにおける複数の効率値が示された複数の回転電機効率マップから最も効率値が高い有効磁束量を選択し、選択された有効磁束に基づく指令値を前記磁束可変機構へ出力する有効磁束決定手段を有する回転電機。
【請求項4】
車輪と、
前記車輪を駆動する内燃機関と、
速度を制御する変速機と、
請求項1又は請求項2記載の回転電機であって、前記内燃機関と前記変速機間に機械的に連結された回転電機と、
電力の充放電を行う蓄電手段と、
前記蓄電手段と前記回転電機間に接続され、電力の変換を行う電力変換器と、を有する自動車。
【請求項5】
車輪と、
前記車輪を駆動する内燃機関と、
速度を制御する変速機と、
請求項1又は請求項2記載の回転電機と、
前記内燃機関のクランクプーリと前記回転電機のシャフトに結合されたプーリとが連結された金属ベルトと、
電力の充放電を行う蓄電手段と、
前記蓄電手段と前記回転電機間に接続され、電力の変換を行う電力変換器と、を有する自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−213429(P2010−213429A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55869(P2009−55869)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】