説明

基板の洗浄方法

【課題】「パターン剥がれ」が生じない条件で、高いパーティクル除去比を期待できる半導体基板等の洗浄方法を提供する。
【解決手段】洗浄槽として、主洗浄槽1を用意し、主洗浄槽1内において、洗浄対象となるウェーハ2の表面に、導入口3からエッチング液を供給してエッチングを行い、その後、pH調整用媒体として、pHが9.5〜10.5未満に保たれたアルカリイオン水を供給して洗浄を行い、次いで、洗浄媒体として、pHが10.5〜12.5に保たれたアルカリイオン水を供給して洗浄を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細パーティクルの除去を目的とする基板(ウェーハ、或いは、銅ダマシン配線層等の半導体基板、及び、液晶ディスプレーや有機ELディスプレーに用いられるパネル等)の洗浄方法に関し、「パターン剥がれ」等が生じない条件で、高いパーティクル除去比を実現できる基板の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン窒化物、アルミナなどの微細パーティクルの除去を目的とする半導体基板の洗浄は、従来、APM(アンモニアと過酸化水素水との混合液)等を用いた基板表面のエッチングにより行われているが、パーティクル除去比(洗浄比)は0.1程度と低い。
【特許文献1】特開平8−24865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このため、半導体基板の性能向上、歩留まり向上を図る上で、更に高いパーティクル除去比を達成できる洗浄方法の開発が望まれている。尚、パーティクル除去比の向上を期待して、高い超音波パワー(例えば、4.5W/cm程度)を印加するという試みもなされているが、殆どのパータンで「剥がれ」が生じてしまうという問題があり、実用的でない。
【0004】
本発明は、「パターン剥がれ」が生じない条件で、高いパーティクル除去比を期待できる半導体基板等の洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1に記載の基板の洗浄方法は、洗浄槽として、主洗浄槽を用意し、この主洗浄槽内において、洗浄対象となる基板の表面に、洗浄媒体として、エッチング液を含まないpHが9.0〜12.5に保たれたアルカリイオン水を供給して洗浄を行うことを特徴としている。
【0006】
本発明の請求項2に記載の基板の洗浄方法は、洗浄槽として、主洗浄槽を用意し、この主洗浄槽内において、洗浄対象となる基板の表面に、エッチング液を供給してエッチングを行い、次いで、洗浄媒体として、pHが10.5〜12.5に保たれたアルカリイオン水を供給して洗浄を行うことを特徴としている。
【0007】
本発明の請求項3に記載の基板の洗浄方法は、洗浄槽として、主洗浄槽を用意し、この主洗浄槽内において、洗浄対象となる基板の表面に、エッチング液を供給してエッチングを行い、その後、pH調整用媒体として、pHが9.5〜10.5未満に保たれたアルカリイオン水を供給して洗浄を行い、次いで、洗浄媒体として、pHが10.5〜12.5に保たれたアルカリイオン水を供給して洗浄を行うことを特徴としている。
【0008】
本発明の請求項4に記載の基板の洗浄方法は、洗浄槽として、主洗浄槽を用意し、この主洗浄槽には、洗浄媒体として、pHが9.0〜12.5に保たれたアルカリイオン水を貯留し、洗浄対象となる基板を、主洗浄槽内の洗浄媒体中に浸漬して洗浄することを特徴としている。
【0009】
本発明の請求項5に記載の基板の洗浄方法は、洗浄槽として、エッチング槽と、主洗浄槽とを用意し、エッチング槽には、エッチング液を貯留し、主洗浄槽には、洗浄媒体として、pHが10.5〜12.5に保たれたアルカリイオン水を貯留し、洗浄対象となる基板を、エッチング槽内のエッチング液中に浸漬してエッチングを行い、次いで、基板を主洗浄槽へ移送し、洗浄媒体中に浸漬して洗浄することを特徴としている。
【0010】
本発明の請求項6に記載の基板の洗浄方法は、洗浄槽として、エッチング槽と、中間洗浄槽と、主洗浄槽とを用意し、エッチング槽には、エッチング液を貯留し、中間洗浄槽には、pH調整用媒体として、pHが9.5〜10.5未満に保たれたアルカリイオン水を貯留し、主洗浄槽には、洗浄媒体として、pHが10.5〜12.5に保たれたアルカリイオン水を貯留し、洗浄対象となる基板を、エッチング槽内のエッチング液中に浸漬してエッチングを行い、その後、基板を中間洗浄槽へ移送し、洗浄媒体中に浸漬して洗浄し、次いで、基板を主洗浄槽へ移送し、洗浄媒体中に浸漬して洗浄することを特徴としている。
【0011】
尚、主洗浄槽に貯留する、又は、主洗浄槽内に供給する洗浄媒体としては、高純度のアルカリイオン水に脱イオン水を混合することによってpHを調整したものを使用することが好ましい。また、洗浄媒体には、酸素ガス又は窒素ガスを添加することが好ましく、その添加量は、10〜20ppmとすることが好ましい。
【0012】
また、主洗浄槽内の基板に対し、超音波パワーを印加した場合には、より高いパーティクル除去比を達成することができる。尚、ウェーハを洗浄対象とする場合には、洗浄の実施に先立ち、使用する超音波発生装置による超音波の出力を調整しながら試材ウェーハに対してパターン剥がれテストを行い、一枚の試材ウェーハにおいて生じるパターン剥がれの総個数が100個以下となる超音波の出力範囲を求め、その出力範囲内において、ウェーハに対して印加する超音波の最大許容パワーの値を設定し、洗浄対象となるウェーハに対し、設定された最大許容パワーの超音波を印加して洗浄を行うことが好ましい。
【0013】
また、主洗浄槽内の基板に対し、高速回転化学スピン離脱法を実施した場合にも、高いパーティクル除去比を期待することができる。この場合、主洗浄槽に貯留する、又は、主洗浄槽内に供給する洗浄媒体に、イソプロピルアルコール又は非可燃性水溶性溶剤ハイドロフルオロエーテルを添加することが好ましい。
【0014】
更に、高速回転化学スピン離脱法を実施する際には、主洗浄槽内の洗浄媒体として、回転開始から少なくとも10秒間は、高純度のアルカリイオン水に脱イオン水を混合してなる洗浄媒体を用い、その後、洗浄媒体に、イソプロピルアルコール又は非可燃性水溶性溶剤ハイドロフルオロエーテルの添加を開始し、洗浄媒体中におけるイソプロピルアルコール又は非可燃性水溶性溶剤ハイドロフルオロエーテルの濃度を漸次増加させることが好ましい。
【0015】
また、洗浄媒体中におけるイソプロピルアルコール又は非可燃性水溶性溶剤ハイドロフルオロエーテルの濃度を、高純度のアルカリイオン水に脱イオン水を混合してなる液体に対するイソプロピルアルコール又は非可燃性水溶性溶剤ハイドロフルオロエーテルのモル比が所定値となるまで漸次増加させ、当該モル比が所定値に達した後、イソプロピルアルコール又は非可燃性水溶性溶剤ハイドロフルオロエーテルの添加を少なくとも10秒間停止することが好ましく、また、モル比の所定値は、0.4〜1.0の範囲内で設定されることが好ましい。
【0016】
更に、高速回転化学スピン離脱法を実施する際、回転数を変化させ、500rpm以下の低速回転と、1000rpm以上の高速回転とを交互に行うようにした場合にも、パーティクル除去比の向上を期待することができる。尚、この場合、500rpm以下の低速回転の継続時間を、1000rpm以上の高速回転の継続時間よりも長く、或いは、等しくすることが好ましい。
【0017】
また、高速回転化学スピン離脱法を実施する際、回転方向を単位時間毎に反転させるようにしても良く、更に、回転プロセスと、停止プロセスを交互に行うようにしても良い。
【0018】
更に、高速回転化学スピン離脱法を実施する際、洗浄対象となる基板の表面に対し垂直方向へ500mT以上の磁場を印加し、界面制御を行うことも、パーティクル除去比を向上させようとするうえで効果的である。
【0019】
また、主洗浄槽に貯留する、又は、主洗浄槽内に供給する洗浄媒体に、表面活性剤を添加することも有効である。尚、表面活性剤としては、エチレングリコールオクタデセルエーテルを使用することが好ましく、その添加量については、高純度のアルカリイオン水に脱イオン水を混合してなる液体に対するモル比が0.001〜0.01の範囲となるように設定することが好ましい。
【0020】
高速回転化学スピン離脱法を実施する際、主洗浄槽に貯留する、又は、主洗浄槽内に供給する洗浄媒体の温度を50〜70℃の範囲に保持することも有効である。
【0021】
また、洗浄対象となる基板に対する前記高速回転化学スピン離脱法を、主洗浄槽内の気体中で行うこともでき、この場合、主洗浄槽内に、ヘリウムガス或いは水素ガスを充填し、主洗浄槽内の圧力を、0.1〜1.0気圧の範囲内に保持することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
従来の基板洗浄方法において必要なパーティクルの除去比を得るには、高い超音波パワーを印加する必要があった。しかし、高い超音波パワーを印加すると、パターンの大部分で「剥がれ」が生じ、実用的でない。一方、印加する超音波パワーを低く抑えると、パーティクル除去比は0.1程度に止まってしまい、有効な洗浄を行うことができなかった。本発明に係る基板の洗浄方法によれば、「パターン剥がれ」を生じさせることなく、高いパーティクル除去比にて基板の洗浄を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
ここで、本発明に係る基板の洗浄方法を実施するための最良の形態について説明する。まず、第1の実施形態として、三つの洗浄槽(エッチング槽、中間洗浄槽、及び、主洗浄槽)を使用して基板(ウェーハ)を洗浄する方法について説明する。
【0024】
三つの洗浄槽のうち、エッチング槽は、ウェーハ表面のエッチングを行うための槽で、中和が生じていないウェーハ表面のエッチングが可能なpHが9.0以下のエッチング液(希釈APM)を貯留する。そして、中間洗浄槽には、洗浄媒体として、pHが9.5以上に保たれたアルカリイオン水を、主洗浄槽には、洗浄媒体として、pHが10.5〜12.5に保たれたアルカリイオン水を、それぞれ貯留する。
【0025】
尚、主洗浄槽内に貯留する洗浄媒体として、高純度のアルカリイオン水に脱イオン水を混合することによってpHを調整したものを使用する。また、高純度のアルカリイオン水として、特開平8−24865号公報に記載されている方法によって製造したアルカリイオン水を使用する。このアルカリイオン水は、熱的に、時間的に安定しており、他の方法によって製造したアルカリイオン水と異なり、一年間室温で放置した場合でもpH値は初期の値に保持されるという点で、非常に優れている。このアルカリイオン水によってリンスしたウェーハの表面は、リンス後にNa汚染が生じるというようなことはなく、70℃の脱イオン水による洗浄により、全ての表面不純物の濃度は、TXRF測定の検出限界以下(1×10原子/cm)となる。
【0026】
三つの洗浄槽についての準備が完了したら、洗浄対象となるウェーハを、エッチング槽内の希釈APM中に浸漬し、エッチングを行い、ウェーハ表面に付着したパーティクルを浮遊させる。エッチング槽内において、パーティクルの浮遊に必要な厚さの表面エッチングを行った後、ウェーハを中間洗浄槽へ移送し、洗浄媒体(アルカリイオン水)中に浸漬して洗浄し、パーティクルの浮遊を持続させ、再付着を抑制する。
【0027】
次に、ウェーハを主洗浄槽へ移送し、洗浄媒体(アルカリイオン水)中に浸漬して洗浄し、パーティクルをウェーハ表面から離脱させる。このような手順を実行することにより、高いパーティクル除去比にてウェーハの洗浄を行うことができる。
【0028】
尚、主洗浄槽内に貯留する洗浄媒体には、10〜20ppmの酸素ガス又は窒素ガスを添加する。これにより、パーティクル除去比を向上させることができる。
【0029】
また、主洗浄槽内のウェーハに対し、超音波発生装置を用いて超音波パワーを印加した場合には、より高いパーティクル除去比を達成することができる。尚、ウェーハを洗浄対象とする場合には、洗浄の実施に先立ち、使用する超音波発生装置による超音波の出力を調整しながら試材ウェーハに対してパターン剥がれテストを行い、一枚の試材ウェーハにおいて生じるパターン剥がれの総個数が100個以下となる超音波の出力範囲を求め、その出力範囲内において、ウェーハに対して印加する超音波の最大許容パワーの値を設定し、洗浄対象となるウェーハに対し、設定された最大許容パワーの超音波を印加して洗浄を行う。このような洗浄方法を実施することにより、パターン剥がれ生じない低超音波パワー(ここでは1.0W/cm)で、高いパーティクル除去比を実現できる。
【0030】
また、主洗浄槽内のウェーハに対し、超音波パワーを印加する代わりに、或いは、これと併せて、高速回転化学スピン離脱法(chemical spin removing)を実施した場合にも、高いパーティクル除去比を期待することができる。この場合、主洗浄槽に貯留する、又は、主洗浄槽内に供給する洗浄媒体に、イソプロピルアルコール又は非可燃性水溶性溶剤ハイドロフルオロエーテルを添加する。
【0031】
尚、通常の高速回転化学スピン離脱法では、洗浄媒体として、脱イオン水が使用されているため、ウェーハ表面に厚い定常層が形成され、パーティクルの離脱、洗浄は殆どできない。この原因は、ウェーハ表面に厚い脱イオン水の定常層が形成されるためである。本実施形態においては、洗浄媒体として、脱イオン水の代わりにpHが10.5〜12.5の範囲にあるアルカリイオン水が用いられ、かつ、当該洗浄媒体に対し、40%以上のイソプロピルアルコール(或いは、非可燃性水溶性溶剤ハイドロフルオロエーテル)を加えることにより、薄い定常層を形成し、ウェーハ表面で浮遊したパーティクルの離脱、洗浄を、パターン剥がれなしに実現することができる。
【0032】
尚、高速回転化学スピン離脱法を実施する際には、主洗浄槽内の洗浄媒体として、回転開始から少なくとも10秒間は、高純度のアルカリイオン水に脱イオン水を混合してなる洗浄媒体を用い、その後、洗浄媒体に、イソプロピルアルコール又は非可燃性水溶性溶剤ハイドロフルオロエーテルの添加を開始し、洗浄媒体中におけるイソプロピルアルコール又は非可燃性水溶性溶剤ハイドロフルオロエーテルの濃度を漸次増加させる。
【0033】
洗浄媒体中におけるイソプロピルアルコール又は非可燃性水溶性溶剤ハイドロフルオロエーテルの濃度を、高純度のアルカリイオン水に脱イオン水を混合してなる液体に対するイソプロピルアルコール又は非可燃性水溶性溶剤ハイドロフルオロエーテルのモル比が所定値(0.4〜1.0の範囲内で設定する)となるまで漸次増加させ、当該モル比が所定値に達した後、イソプロピルアルコール又は非可燃性水溶性溶剤ハイドロフルオロエーテルの添加を少なくとも10秒間停止する。
【0034】
高速回転化学スピン離脱法を実施する際には、回転数を変化させ、500rpm以下の低速回転と、1000rpm以上の高速回転とを交互に行うようにする。この場合にも、パーティクル除去比の向上を期待することができる。尚、この場合、500rpm以下の低速回転の継続時間を、1000rpm以上の高速回転の継続時間よりも長く、或いは、等しくする。これにより、高いパーティクル除去比を期待することができる。
【0035】
また、高速回転化学スピン離脱法を実施する際、回転方向を単位時間毎に反転させる。この場合、順方向回転と逆方向回転を交互に、それぞれ同じ時間で3回以上繰り返し行う。また、回転プロセスと、停止プロセスを交互に行う。このような方法を実施した場合も、パーティクル除去比を向上させることができる。
【0036】
更に、高速回転化学スピン離脱法を実施する際、洗浄対象となるウェーハの表面に対し垂直方向へ500mT以上の磁場を印加し、界面制御を行う。この場合も、パーティクル除去比を向上させようとするうえで効果的である。
【0037】
また、主洗浄槽に貯留する洗浄媒体に、表面活性剤を添加することも有効である。この場合、表面反応が促進され、パーティクル除去比を向上させることができる。尚、表面活性剤としては、デカエチレングリコールオクタデセルエーテル(C1837(OCHCH)nOH,n〜10)を使用する。その添加量については、洗浄媒体(高純度のアルカリイオン水に脱イオン水を混合してなる液体)に対するモル比が0.001〜0.01の範囲となるように設定する。これにより、パーティクル除去比を0.10以上増加できる。
【0038】
高速回転化学スピン離脱法を実施する際、主洗浄槽に貯留する洗浄媒体の温度を50〜70℃の範囲に保持する。また、洗浄対象となるウェーハに対する高速回転化学スピン離脱法を、主洗浄槽内の気体中で行うこともでき、この場合、主洗浄槽内に、ヘリウムガス或いは水素ガスを充填し、主洗浄槽内の圧力を、0.1〜1.0気圧の範囲内に保持する。
【0039】
尚、本実施形態においては、上述の通り、エッチング槽、中間洗浄槽、及び、主洗浄槽という三つの洗浄槽を準備し、順次洗浄を進めていくことを特徴としているが、場合によっては、中間洗浄槽を省略することもできる。この場合、洗浄対象となるウェーハを、エッチング槽内の希釈APM中に浸漬し、エッチングを行い、ウェーハ表面に付着したパーティクルを浮遊させ、その後、ウェーハを主洗浄槽へ移送し、洗浄媒体中に浸漬して洗浄し、パーティクルをウェーハ表面から離脱させる、という洗浄プロセスを実行する。
【0040】
また、更にエッチング槽を省略し、洗浄対象となるウェーハを主洗浄槽内の洗浄媒体中に浸漬して洗浄する、というシンプルな構成とすることもできる。尚、この場合に用いる洗浄媒体としては、pHが9.0〜12.5に保持されたアルカリイオン水を使用する。この場合でも、従来の洗浄方法と比べ、有利な効果(高いパーティクル除去比)を期待することができる。
【0041】
次に、本発明の第2の実施形態として、単一の洗浄槽(主洗浄槽)を使用して基板(ウェーハ)のエッチングと洗浄を順次実行する方法(基板の洗浄方法)について説明する。
【0042】
第1の実施形態においては、上述の通り、三つの洗浄槽を用いてウェーハの洗浄が行われるが、本実施形態においては、装置の小型化、薬液使用量の低減を図るべく、単一の洗浄槽のみを用いる。図1は、本実施形態に係る基板の洗浄方法を実施するための洗浄装置の構成図である。この図において1は主洗浄槽、2は洗浄対象となるウェーハ、3は導入口、4は排出口である。
【0043】
まず、主洗浄槽1内にウェーハ2をセットし、導入口3から主洗浄槽1内にエッチング液(希釈APM)を導入(供給)し、エッチングを行う。そして、パーティクルの浮遊に必要な表面エッチング(厚さ0.4nm程度)を行った時点で、導入口3から主洗浄槽1内へ、pHが9.5〜10.5未満に保持されたpH調整用媒体(高純度のアルカリイオン水に脱イオン水を混合することによってpHを調整したアルカリイオン水)を導入(供給)する。このとき、排出口4を開放し、エッチング液の排出を行う。
【0044】
主洗浄槽1内においては、エッチング液とアルカリイオン水とが混合されることになり、ウェーハ2の表面近傍の液体のpH値は急速に上昇する。pHが9.5以上に上昇すると、ウェーハ2の表面のエッチングはそれ以上行われなくなり、pHが10.5以上に上昇すると、パーティクルが浮遊した状態(図6b参照)となる。
【0045】
次に、導入口3から主洗浄槽1内へ、pHが10.5〜12.5に保持された洗浄媒体(高純度のアルカリイオン水に脱イオン水を混合することによってpHを調整したアルカリイオン水)を導入(供給)する。このときも、排出口4は開放しておく。そして、この高いpH値のアルカリイオン水によりウェーハ2を洗浄し、パーティクルを離脱させる。
【0046】
尚、ここで使用される装置の具体的な態様としては、主洗浄槽1内にセットされるウェーハ2の高さ位置を上下させることができるリフト手段を装備し、導入口3(媒体供給用ノズル)は主洗浄槽1に対し固定されるような装置構成としても良いし、ウェーハ2の高さ位置が固定で、導入口3(媒体供給用ノズル)が上下に移動するような装置構成としても良い。
【0047】
尚、高いpH値の洗浄媒体によってウェーハ2を洗浄する際に、超音波発生装置を用いて超音波パワーを印加した場合には、より高いパーティクル除去比を達成することができる。また、主洗浄槽内のウェーハに対し、超音波パワーを印加する代わりに、或いは、これと併せて、高速回転化学スピン離脱法を実施した場合にも、高いパーティクル除去比を期待することができる。
【0048】
尚、本実施形態においては、上述の通り、エッチング液、pH調整用媒体、及び、洗浄媒体という三つの媒体を主洗浄槽1内へ順次供給して、洗浄を進めていくことを特徴としているが、場合によっては、pH調整用媒体の供給を省略することもできる。この場合、洗浄対象となるウェーハに対してエッチングを行ってウェーハ2の表面に付着したパーティクルを浮遊させ、その後、主洗浄槽1内へ洗浄媒体を供給して洗浄し、パーティクルをウェーハ2の表面から離脱させる、という洗浄プロセスを実行する。
【0049】
また、更にエッチング液の供給を省略し、洗浄対象となるウェーハを主洗浄槽1内に供給した洗浄媒体によって洗浄する、というシンプルな構成とすることもできる。尚、この場合に用いる洗浄媒体としては、pHが9.0〜12.5に保持されたアルカリイオン水を使用する。この場合でも、従来の洗浄方法と比べ、有利な効果(高いパーティクル除去比)を期待することができる。
【0050】
次に、本発明の第3の実施形態として、銅ダマシン配線層を対象とする洗浄方法について説明する。銅ダマシン配線層の平坦化プロセスでは、高速、高圧下で研磨が行なわれ、層間膜表面で大量の銅汚染が生じる。この銅の洗浄は、一般的には、ナイロンブラシを用いて機械的に行われている。しかし、このブラシ表面は、永久に銅の汚染源となり、ウェーハ全面で再汚染が生じ、高いパーティクル除去比を実現するのは困難である。このため、希フッ酸による酸化膜表面のエッチングも行われているが、一度浮遊した銅は直ちに再付着してしまうため、高いパーティクル除去比を得ることはできなかった。
【0051】
本実施形態においては、表面に強く密着したパーティクルの洗浄を下記の方法で行い、高い除去比を実現する。まず、エッチング槽で希フッ酸による基板表面のエッチングを行い、パーティクルを浮遊させる。この表面エッチングでは、銅配線層の表面はエッチングされないため、このエッチングにより浮遊したアルミナなどのパーティクルは、従来の洗浄方法における洗浄プロセスでは再付着が生じ、除去は困難であったが、本発明の洗浄方法では、pHが10.5から12.5の範囲にある洗浄媒体(アルカリイオン水)中で20〜180秒間行うことにより、パーティクルを浮遊させ、かつ、再付着を抑制することができ、低い超音波パワーを印加(印加時間:10〜60秒間)することにより、容易に、効率よくパーティクルを離脱させることができ、高いパーティクル除去比が得られる。
【0052】
従来の洗浄方法による場合、酸化膜表面のエッチングで得られるパーティクル除去比は0.15程度であるところ、本発明に係る洗浄方法によれば、0.55程度の高いパーティクル除去比を容易に実現できる。この方法は、バッチ式でも可能であり、スループット、洗浄コストの点で有利である。
【0053】
微細幅メッキダマシン銅配線層上において、CoWP又はCoWB伝導性キャッピング膜を無電界メッキ法により選択的にコートする。この改善された無電界メッキでは、銅基板/酸化膜基板上に30/1と高い選択比で堆積できる。層間膜の銅は、このキャッピング膜をマスクとして化学的にエッチングでき、十分な表面洗浄を行える。
【0054】
図10において、1)は微細銅ダマシン配線層の平坦化後のモデルである。この研磨により銅配線層の表面は平坦化されるが、酸化膜表面には大量の銅が付着、汚染が生じる。
【0055】
図10において、2)は研磨された銅ダマシン配線層の表面を化学スピンエッチング法(chemical spin etching)により形成し、凹型の銅配線層表面をリセスエッチング法により形成したモデルである。このリセスエッチングにより凹型表面には、低ストレスで膜の「剥がれ」が生じない導電性CoWP又はCoWBキャップ膜が堆積される。このリセスエッチングの表面形状は、化学スピンエッチングの条件、回転数、使用するエッチング液により制御可能である。
【0056】
図10において、3)は銅配線層上のみをCoWPキャップ層で選択的にコートしたモデルである。この選択堆積により銅膜表面はすべてこのキャップ膜によりコートされ、表面が露出した銅配線層は存在しない。
【0057】
図10において、4)は層間膜、バリア膜上に付着した銅を、化学スピンエッチングにより全て除去したモデルである。このような方法によって、十分な銅洗浄が行われる。
【0058】
尚、ここでは、銅のエッチング液として、H−HOを用いる。H/HOのモル比が1〜5のエッチング液を用いた結果、エッチング速度(nm/min.):銅:140、TaN<0.1,SiO<0.4、エッチング選択比Cu/TaN:>1400、Cu/SiO:>350を実現できる。この結果、平坦化後の銅の洗浄を、0.8以上の除去比で実現できる。
【0059】
次に、本発明の第4の実施形態として、液晶ディスプレー、有機ELディスプレーに用いられるパネルを対象とする洗浄方法について説明する。ディスプレーパネル表面の洗浄は、ディスプレーの画質、歩留まりを決定する上で特に重要である。このため、高いパーティクル除去比を実現できる洗浄方法の開発が望まれている。本発明に係る基板の洗浄方法をディスプレーパネルの洗浄に適用することによって、高いパーティクル除去比を有する洗浄が可能となる。
【0060】
ここでは、まず最初に、エッチング槽内でパネル(ガラス基板)表面を希フッ酸などにより、薄くエッチングする。この表面エッチングにより、パーティクルは表面から浮遊する。次に、このパネルを、主洗浄槽に移送し、pHが10.5〜12.5に保持された洗浄媒体中に浸漬してパーティクルの離脱、洗浄を行う。具体的には、パネルを洗浄媒体中において1〜20分間静止保持する。この方法により、0.6以上のパーティクル除去比を実現できる。
【0061】
尚、洗浄媒体中に酸素ガス又は窒素ガスを添加すると、更に高いパーティクル除去比を実現できる。ここで酸素ガス又は窒素ガスの添加量は、いずれも10〜20ppmが最適値である。この洗浄プロセスで洗浄媒体に超音波パワーを印加し、或いは、その他の方法によって機械的な振動を与えることにより、パーティクル離脱時間の短縮化、効率化を図ることができる。
【0062】
尚、エッチング槽内での表面エッチングプロセスについては、場合によっては省略することもできる。また、この洗浄方法を実施するに際し、10.5〜12.5に保持された洗浄媒体(アルカリイオン水)に代わり、pHが10.5以下のアルカリイオン水、又は、アルカリ重炭酸ソーダなどを添加してpH値を調整した洗浄媒体を用いた場合には、このような高いパーティクル除去比を得ることはできない。
【実施例】
【0063】
ここで、本発明に係る基板の洗浄方法の実施例について説明する。パーティクルによって汚染されたウェーハを複数枚用意し、それらの汚染ウェーハを対象として、本発明に係る基板の洗浄方法を実施し、その洗浄効果の試験を行った。また、比較例として、同一条件の汚染ウェーハに対して従来の基板洗浄方法を実施するとともに、これに付随して各種の予備的な試験を行った。
【0064】
尚、汚染ウェーハとして、スピンコート法により、表面にパーティクル(Siパーティクル(粒径65nm))を均一にコートし、その後1週間室内に放置したものを用いた。尚、スピンコート法によってウェーハ表面にコートしたパーティクルは、通常の汚染ウェーハ表面のパーティクルと比べて、洗浄による離脱が難しいとされている。
【0065】
まず、本発明の実施例として行った基板(ウェーハ)の洗浄方法の詳細について説明する。まず、エッチング槽、中間洗浄槽、及び、主洗浄槽を用意し、エッチング槽には、中和が生じていない基板表面のエッチングが可能なpHが9.5以下のエッチング液(希釈APM)を貯留し、中間洗浄槽には、pH調整用媒体として、pHが9.5〜10.5未満に保たれたアルカリイオン水を貯留し、主洗浄槽には、洗浄媒体として、pHが10.5〜12.5に保たれたアルカリイオン水を貯留した。
【0066】
洗浄対象となるウェーハを、エッチング槽内の希釈APM中に浸漬し、エッチングを行い、表面に付着したパーティクルを浮遊させ、エッチング槽内において、パーティクルの浮遊に必要な厚さの表面エッチングを行った後、ウェーハを中間洗浄槽へ移送し、洗浄媒体中に浸漬して洗浄し、パーティクルの浮遊を持続させ、再付着の抑制を図り、その後、ウェーハを主洗浄槽へ移送し、洗浄媒体中に浸漬して洗浄し、パーティクルをウェーハ表面から離脱させた。
【0067】
一方、比較例として実施した従来の基板洗浄方法は、一つの洗浄槽内にエッチング液(希釈APM)を貯留し、汚染ウェーハをエッチング液中に浸漬した状態で、超音波パワーを印加するというものであり、ウェーハ表面のエッチングと、超音波パワーの印加によるパーティクルの離脱が同時に行われる。この洗浄方法では、二つのプロセスが十分に区分されていない点が特徴である。
【0068】
図5は、本発明の実施例に係る基板の洗浄方法によるパーティクル除去比の測定結果(図中の白丸)、及び、比較例として実施した従来の基板洗浄方法によるパーティクル除去比の測定結果(図中の黒丸)を示すグラフである。
【0069】
図5に表示されている二つの黒丸(従来方法)のうち、左側の黒丸(pH9.2)は、一般的なAPMを用いた場合の結果を示しており、高い超音波パワーを印加しても、ウェーハに密着したパーティクルの離脱は困難で、除去比は0.05と非常に低い。これは、パーティクルが大きな正のゼータ電位を有し、ウェーハから強い引力を受けており、エッチングを行ってもパーティクルが短時間内に表面に再付着してしまうためであると考えられる。
【0070】
図5に表示されているもう一つの黒丸(右側の黒丸、pH10.2)は、APMに80%のアルカリイオン水を加え、pHを増加させた場合におけるパーティクル除去比の測定結果を示している。この結果(除去比0.14)から、APMに対し、単純にアルカリイオン水を加えてpHを上昇させたとしても、パーティクル除去比を実用レベルまで向上させることはできない、ということが確認された。これは、添加したアルカリイオン水と、APM中のHとの間で中和が生じ、ウェーハのエッチング速度が1/5に減少し、その結果、パーティクルの浮遊が抑制され、図6aに示すように、一旦浮遊したパーティクルがウェーハに再付着(密着)してしまうためである、と考えられる。
【0071】
図5に表示されている白丸は、本発明の基板の洗浄方法による洗浄効果の測定結果(主洗浄槽内の洗浄媒体のpHによるパーティクル除去比の変化)を示している。図5の白丸のグラフからも明らかなように、本発明の基板の洗浄方法を実施する際、主洗浄槽の洗浄媒体のpHを上昇させることにより(特に、pHを11.5以上まで上昇させた場合に)、従来方法では達成できなかった高いパーティクル除去比を得ることができる。
【0072】
本実施例の基板の洗浄方法においては、3種類の洗浄槽を設け、順次洗浄を進めていくこと、そして、主洗浄槽にpH値の高い洗浄媒体を用いることによって、高いパーティクル除去比を実現することができたと考えられる。(尚、従来の基板洗浄方法において、APMのpHを10.0以上に上昇させると、パーティクル除去比は顕著に低下してしまうため、従来の方法においては、pH値の高い媒体を用いて基板を洗浄することは有効ではなかった。)
【0073】
本実施例の基板の洗浄方法においては、主洗浄槽の洗浄媒体中におけるパーティクルの浮遊を、パーティクルのゼータ電位を制御すること、より具体的には、高い負の電位を形成し、反発力を増大させることによって、高いパーティクル除去比を達成している。そして、この「ゼータ電位の制御」は、洗浄媒体のpHの調整によって行われる。
【0074】
ここで、媒体中に分散させたパーティクルのゼータ電位と、当該媒体のpHとの関係について説明する。図7は、媒体のpHを変化させた場合における、当該媒体中のSiパーティクルのゼータ電位の変化を示すグラフである。このグラフから、ゼータ電位は、pHが7.6〜9.5の範囲で正の値(+45mV)に保たれることがわかる。このため、pHが7.6〜9.5の媒体中にウェーハを浸漬すると、パーティクルはウェーハから強い引力を受け、密着することになる。この場合、高い超音波パワーを印加しても、パーティクルの離脱、洗浄は困難である。一方、図7のグラフから、媒体のpHが10.5以上になると、ゼータ電位は負の値(−45mV)となることがわかる。このpH値の媒体中にウェーハを浸漬すると、図6bに示すように、パーティクルは浮遊した状態となり、低い超音波パワーを印加するだけで、高いパーティクル除去比を得ることができる。
【0075】
図5に示したように、主洗浄槽内の洗浄媒体のpHが7.8である場合、パーティクル除去比は0.1と低い(図5において最も左側の白丸参照)。これは、ゼータ電位が正で、表面に強く密着したパーティクルの離脱は困難なためである。pHが上昇するに従って、パーティクル除去比は急速に増加し、pH12.5で除去比0.80となった。図5のグラフからも分かるように、本発明に係る基板の洗浄方法による場合、主洗浄槽内の洗浄媒体のpHが10.5以上であれば、高いパーティクル除去比を得ることができる。本発明では、ウェーハ表面の定常層の薄膜化と、洗浄媒体とウェーハとの界面におけるベルヌーイ力の制御と、ゼータ電位によるパーティクルの浮遊を同時に実現し、従来困難とされてきたパーティクルの離脱を可能にしている。
【0076】
ここで、超音波パワーの印加の有無、エッチング厚さ、及び、パーティクル除去比の関係について、従来の基板洗浄方法を対象として行った予備的な実験の結果を図2に示す。この図の中で、白丸は、従来の基板洗浄方法において、汚染ウェーハをエッチング液中に浸漬した状態で、超音波パワーを印加(2.0W/cmの超音波パワーを30秒間印加)した場合についてのパーティクル除去比の測定結果を示し、黒丸は、超音波パワーを印加せず、エッチング(30秒間)のみを行った場についての測定結果を示している。図示されているように、超音波パワーを印加しない場合の除去比は約0.05と低く、エッチング厚さを増加しても増加しなかった。この測定結果から、超音波パワーを印加しないと、パーティクル除去比は非常に低いレベルに止まることが確認された。一方、超音波パワーを印加した場合、除去比は0.05から0.27に増加したが、十分な結果は得られなかった。
【0077】
次に、印加する超音波パワーの大きさと、パーティクル除去比の関係について、従来の基板洗浄方法を対象として行った予備的な実験の結果を図3に示す。この測定結果は、超音波パワーの増加により、パーティクル除去比が2段階に変化(増加)することを示している。より具体的には、パーティクル除去比は、印加した超音波パワーが2.4W/cm以下の場合には緩やかに増加し、2.4W/cm以上になると急激に増加する。ここで注目すべきは、2.4W/cm以上の高い超音波パワーを印加すれば、「0.9以上」という驚異的な除去比を達成できるが、その直前の2.4W/cmでは、比較的高い値であるにも拘わらず、除去比0.27程度の低いレベルに止まってしまうということである。そして、2.4W/cmという比較的高い超音波パワーを印加すると、ほとんどのパターンで「剥がれ」が生じてしまうため、実際のウェーハの洗浄においては、そのような高い超音波パワーを印加することはできない。
【0078】
そこで、微細テストパターンを用い、印加する超音波パワーの出力を変化させた場合のパーティクルの除去比と、ウェーハ表面におけるパターン剥がれ個数の変化を測定した。その結果を図4に示す。この図に示すように、パターン剥がれが生じた個数は、印加した超音波パワーの増加によって指数関数的に増加した。具体的には、2.0W/cmで既に5.0×10個のパターンが剥がれ、2.4W/cmでは殆どのパターンで剥がれが生じた。この結果、高いパーティクル除去比は、パターンが殆ど剥がれた状態で実現されるということが判明した。このようなパターン剥がれが生じる条件での洗浄は意味がないと考えられる。
【0079】
このため、本発明に係る基板の洗浄方法を実施する場合には、パターン剥がれが生じない条件で超音波パワーを印加して、パーティクルの離脱、洗浄を行うことが有効であると考えられる。ここでは、ウェーハ表面においてパターン剥がれが100個生じる超音波パワーを「最大許容パワー」と定義し、この最大許容パワー、或いは、それ以下の超音波パワーを印加して洗浄を行うこととした。本実施例においては、最大許容パワーの値を、図4に示した測定結果より、1.0W/cmと設定した。尚、この最大許容パワーの値(パターン剥がれが100個生じる超音波パワーの値)は、超音波発生装置の性能により異なるため、実際には装置毎に校正を行う必要がある。
【0080】
本発明の係る基板の洗浄方法を実施する場合、主洗浄槽内のウェーハに対し超音波パワーを印加することにより、ウェーハ表面で浮遊したパーティクル(図6b参照)を、高い除去比にて離脱させることができると考えられる。そこで、超音波パワー(2.0W/cm)の印加時間によるパーティクル除去比の変化を測定してみた。その結果を図8に示す。図8のグラフから、パーティクル除去比は、超音波パワーを長く印加すれば、それだけ高くなるということが分かった。但し、印加時間が30秒を超えると、増加率は緩やかとなる。尚、印加時間を60秒とすることにより、パーティクル除去比0.85を得ることができた。また、図8には示されていないが、印加時間を120秒とした場合、パーティクル除去比0.88を得ることができた。これらの結果、浮遊した、或いは、弱く密着したパーティクルの離脱には、超音波パワーの印加を継続的に行うことが有効であるということが確認された。
【0081】
最後に、本発明の基板の洗浄方法の他の実施例について説明する。洗浄対象物の種類によっては、エッチングを行うと「表面荒れ」や、ゲートリーク電流の増大等が問題となることがある。そのような特性を有する基板を対象とする場合には、エッチング槽での基板の表面エッチングを行わない方が賢明である。そこで、主洗浄槽内の洗浄媒体中で、パーティクルの離脱プロセスのみを実行する基板の洗浄方法を実施し、その洗浄効果を測定してみた。
【0082】
尚、ここでは、主洗浄槽には高いpH(10.5〜12.5)に保持された洗浄媒体を用いた。その結果、パーティクルと基板との間に高い反発力が形成され、パーティクルの離脱が容易になり、高いパーティクル除去比が得られた。
【0083】
図9は、洗浄媒体のpHによるパーティクル除去比の変化の測定結果を示すグラフである。除去比は、pH8.0以下では低いが、pHが上昇するに従って急激に増加し、pH12.2で高いパーティクル除去比0.88(従来のAPMによる表面エッチングなしに得られることができなかったレベル)を得た。
【0084】
尚、ここで印加した超音波パワーは2.0W/cm、印加時間は30秒とした。この洗浄方法によれば、ウェーハ表面のエッチングを行わずに、高いパーティクル除去比を実現できるため、基板表面の「荒れ」の問題を解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る基板の洗浄方法を実施するための洗浄装置の構成図。
【図2】超音波パワーの印加の有無、エッチング厚さ、及び、パーティクル除去比の関係について、従来の基板洗浄方法を対象として行った予備的な実験の結果を示すグラフ。
【図3】印加する超音波パワーの大きさと、パーティクル除去比の関係について、従来の基板洗浄方法を対象として行った予備的な実験の結果を示すグラフ。
【図4】印加する超音波パワーの出力を変化させた場合のパーティクルの除去比と、ウェーハ表面におけるパターン剥がれ個数の変化の測定結果を示すグラフ。
【図5】本発明の実施例によるパーティクル除去比の測定結果、及び、従来の基板洗浄方法によるパーティクル除去比の測定結果を示すグラフ。
【図6】一旦浮遊したパーティクルがウェーハに再付着してしまう状態、及び、パーティクルが浮遊した状態を示すモデル。
【図7】媒体のpHを変化させた場合における、当該媒体中のSiパーティクルのゼータ電位の変化を示すグラフ。
【図8】超音波パワーの印加時間によるパーティクル除去比の変化の測定結果を示すグラフ。
【図9】洗浄媒体のpHによるパーティクル除去比の変化の測定結果を示すグラフ。
【図10】微細銅ダマシン配線層の平坦化後のモデル。
【符号の説明】
【0086】
1:主洗浄槽、
2:ウェーハ、
3:導入口、
4:排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄槽として、主洗浄槽を用意し、
前記主洗浄槽内において、洗浄対象となる基板の表面に、洗浄媒体として、pHが9.0〜12.5に保たれたアルカリイオン水を供給して、前記基板を洗浄することを特徴とする基板の洗浄方法。
【請求項2】
洗浄槽として、主洗浄槽を用意し、
前記主洗浄槽内において、洗浄対象となる基板の表面に、エッチング液を供給してエッチングを行い、
次いで、洗浄媒体として、pHが10.5〜12.5に保たれたアルカリイオン水を供給して、前記基板を洗浄することを特徴とする基板の洗浄方法。
【請求項3】
洗浄槽として、主洗浄槽を用意し、
前記主洗浄槽内において、洗浄対象となる基板の表面に、エッチング液を供給してエッチングを行い、
その後、pH調整用媒体として、pHが9.5〜10.5未満に保たれたアルカリイオン水を供給して前記基板を洗浄し、
次いで、洗浄媒体として、pHが10.5〜12.5に保たれたアルカリイオン水を供給して前記基板を洗浄することを特徴とする基板の洗浄方法。
【請求項4】
洗浄槽として、主洗浄槽を用意し、
前記主洗浄槽には、洗浄媒体として、pHが9.0〜12.5に保たれたアルカリイオン水を貯留し、
洗浄対象となる基板を、前記主洗浄槽内の前記洗浄媒体中に浸漬して洗浄することを特徴とする基板の洗浄方法。
【請求項5】
洗浄槽として、エッチング槽と、主洗浄槽とを用意し、
前記エッチング槽には、エッチング液を貯留し、
前記主洗浄槽には、洗浄媒体として、pHが10.5〜12.5に保たれたアルカリイオン水を貯留し、
洗浄対象となる基板を、前記エッチング槽内のエッチング液中に浸漬してエッチングを行い、
次いで、前記基板を前記主洗浄槽へ移送し、前記洗浄媒体中に浸漬して洗浄することを特徴とする基板の洗浄方法。
【請求項6】
洗浄槽として、エッチング槽と、中間洗浄槽と、主洗浄槽とを用意し、
前記エッチング槽には、エッチング液を貯留し、
前記中間洗浄槽には、pH調整用媒体として、pHが9.5〜10.5未満に保たれたアルカリイオン水を貯留し、
前記主洗浄槽には、洗浄媒体として、pHが10.5〜12.5に保たれたアルカリイオン水を貯留し、
洗浄対象となる基板を、前記エッチング槽内のエッチング液中に浸漬してエッチングを行い、
その後、前記基板を前記中間洗浄槽へ移送し、前記洗浄媒体中に浸漬して洗浄し、
次いで、前記基板を前記主洗浄槽へ移送し、前記洗浄媒体中に浸漬して洗浄することを特徴とする基板の洗浄方法。
【請求項7】
前記主洗浄槽に貯留する、又は、前記主洗浄槽内に供給する前記洗浄媒体として、エッチング液を含まない高純度のアルカリイオン水に脱イオン水を混合することによってpHを調整したものを使用することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の基板の洗浄方法。
【請求項8】
前記主洗浄槽内に貯留した、又は、前記主洗浄槽内に供給する前記洗浄媒体中に酸素ガス又は窒素ガスを添加することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の基板の洗浄方法。
【請求項9】
前記酸素ガス又は窒素ガスの添加量を10〜20ppmとすることを特徴とする、請求項8に記載の基板の洗浄方法。
【請求項10】
前記主洗浄槽内の基板に対し、超音波パワーを印加することを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の基板の洗浄方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の基板の洗浄方法において、
ウェーハを洗浄対象とし、
洗浄の実施に先立ち、使用する超音波発生装置による超音波の出力を調整しながら試材ウェーハに対してパターン剥がれテストを行い、一枚の試材ウェーハにおいて生じるパターン剥がれの総個数が100個以下となる超音波の出力範囲をそれぞれの超音波発生装置で求め、
その出力範囲内において、ウェーハに対して印加する超音波の最大許容パワーの値を設定し、
洗浄対象となるウェーハに対し、設定された最大許容パワーの超音波を印加して洗浄を行うことを特徴とする基板の洗浄方法。
【請求項12】
前記主洗浄槽内の基板に対し、高速回転化学スピン離脱法を実施することを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の基板の洗浄方法。
【請求項13】
前記主洗浄槽に貯留する、又は、前記主洗浄槽内に供給する前記洗浄媒体に、イソプロピルアルコール又は非可燃性水溶性溶剤ハイドロフルオロエーテルを添加することを特徴とする、請求項12に記載の基板の洗浄方法。
【請求項14】
前記高速回転化学スピン離脱法を実施する際、前記主洗浄槽内の洗浄媒体として、回転開始から少なくとも10秒間は、高純度のアルカリイオン水に脱イオン水を混合してなる洗浄媒体を用い、
その後、前記洗浄媒体に、イソプロピルアルコール又は非可燃性水溶性溶剤ハイドロフルオロエーテルの添加を開始し、前記洗浄媒体中におけるイソプロピルアルコール又は非可燃性水溶性溶剤ハイドロフルオロエーテルの濃度を漸次増加させることを特徴とする、請求項13に記載の基板の洗浄方法。
【請求項15】
エッチング液を含まない前記洗浄媒体中におけるイソプロピルアルコール又は非可燃性水溶性溶剤ハイドロフルオロエーテルの濃度を、前記高純度のアルカリイオン水に脱イオン水を混合してなる液体に対するイソプロピルアルコール又は非可燃性水溶性溶剤ハイドロフルオロエーテルのモル比が所定値となるまで漸次増加させ、
当該モル比が所定値に達した後、イソプロピルアルコール又は非可燃性水溶性溶剤ハイドロフルオロエーテルの添加を少なくとも10秒間停止することを特徴とする、請求項14に記載の基板の洗浄方法。
【請求項16】
前記モル比の所定値が、0.4〜1.0の範囲内で設定されることを特徴とする、請求項15に記載の基板の洗浄方法。
【請求項17】
前記高速回転化学スピン離脱法を実施する際、回転数を変化させ、500rpm以下の低速回転と、1000rpm以上の高速回転とを交互に行うことを特徴とする、請求項12〜16のいずれかに記載の基板の洗浄方法。
【請求項18】
前記高速回転化学スピン離脱法を実施する際、500rpm以下の低速回転の継続時間を、1000rpm以上の高速回転の継続時間よりも長く、或いは、等しくすることを特徴とする、請求項17に記載の基板の洗浄方法。
【請求項19】
前記高速回転化学スピン離脱法を実施する際、回転方向を単位時間毎に反転させることを特徴とする、請求項12〜18のいずれかに記載の基板の洗浄方法。
【請求項20】
前記高速回転化学スピン離脱法を実施する際、回転プロセスと、停止プロセスを交互に行うことを特徴とする、請求項12〜19のいずれかに記載の基板の洗浄方法。
【請求項21】
前記高速回転化学スピン離脱法を実施する際、洗浄対象となる基板の表面に対し垂直方向へ500mT以上の磁場を印加し、界面制御を行うことを特徴とする、請求項12〜20のいずれかに記載の基板の洗浄方法。
【請求項22】
前記主洗浄槽に貯留する、又は、前記主洗浄槽内に供給する前記洗浄媒体に、表面活性剤を添加することを特徴とする、請求項21に記載の基板の洗浄方法。
【請求項23】
前記表面活性剤として、エチレングリコールオクタデセルエーテルを使用することを特徴とする、請求項22に記載の基板の洗浄方法。
【請求項24】
前記表面活性剤の添加量を、前記高純度のアルカリイオン水に脱イオン水を混合してなる液体に対するモル比が0.001〜0.01の範囲となるように設定することを特徴とする、請求項23に記載の基板の洗浄方法。
【請求項25】
前記主洗浄槽に貯留する、又は、前記主洗浄槽内に供給する前記洗浄媒体の温度を50〜70℃の範囲に保持して前記高速回転化学スピン離脱法を実施することを特徴とする、請求項12〜24のいずれかに記載の基板の洗浄方法。
【請求項26】
洗浄対象となる基板に対する前記高速回転化学スピン離脱法を、前記主洗浄槽内の気体中で行うことを特徴とする、請求項12に記載の基板の洗浄方法。
【請求項27】
前記主洗浄槽内に、ヘリウムガス或いは水素ガスを充填し、
前記主洗浄槽内の圧力を、0.1〜1.0気圧の範囲内に保持し、
前記高速回転化学スピン離脱法を、前記気体中で行うことを特徴とする、請求項26に記載の基板の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【図6】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−206300(P2009−206300A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47077(P2008−47077)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(508061457)
【出願人】(591087703)株式会社アロンワールド (13)
【Fターム(参考)】