説明

外部制御を必要としないデジタル位相ロックによるクロック抽出装置

本発明は、注入ロック発振器(19)と、デジタル位相検出器(26)を有する位相制御ループ(25)とを備えた、ベースバンドシリアル信号からクロックを抽出する装置に関する。発振器(19)はその周波数の値を制御するデジタル制御入力部(24)を備え、位相制御ループ(25)は、デジタル位相検出器(26)から供給されるデジタル信号の相対値を累算し、発振器(19)用のデジタル形態の制御信号を渡す、カウント回路(30、35)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクロック抽出装置に関し、より詳細には、公称周波数fnに少なくともほぼ相当するビットクロック周波数fsrを有するクロック信号により符号化され、デジタルデータを表し、受信データと呼ばれるベースバンドシリアル信号から、クロック及びデジタルデータを抽出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの適用分野において、特に、超高速伝送(500Mbit/秒を超え、10Gbit/秒を超えることがあり、SONET OC−768及びSDH STM−256規格の場合には40Gbit/秒に達することがあり、将来これらの値を大きく超えることがあり得る)に相当する超高周波数(500MHzを超える周波数であって、10GHzを超えることがあり、現在40GHzに達することがあり、将来これらの値を大きく超えることがあり得る周波数)の領域では、クロック信号を混合させたデジタルデータを含む信号をベースバンドシリアルリンクの伝送路(その作製技術は、電気、光、無線など任意)で送信して、これら2種類の情報を2つの異なる伝送路で送信しなければならなくなることを回避している。これにより信号伝送長のマッチングという微妙な作業を回避することができる。そのような信号を用いる場合、受信器のレベルでは、アナログの受信信号から、デジタルデータ値ならびにこれらのデータに対応するクロック信号を抽出する必要がある。データ値を得るために、あらかじめデータから抽出したクロック信号を基にして受信信号をサンプリングする。
【0003】
そのようなクロック及びデータ抽出装置を作製するための最も一般的な解決策は、ループフィルタを介してVCOと呼ばれる電圧制御発振器に設定信号を供給する位相比較器を、受信信号の立ち上がり及び立ち下がりに対応するパルスを発生する回路の出力側に主に備える、PLLと呼ばれる少なくとも1つの位相ロックループを含む回路を使用することである。VCOは、フリップフロップに内部クロック信号を供給し、受信信号からデータを抽出する、サンプリング回路を構成する。弛張発振器又はLC発振器、位相/周波数比較器、及び高周波デジタル分周器を使用するこれら従来のPLL回路は種々の欠点を有する。すなわちそれらの回路は、超高速伝送リンクには適合しないこと、外部周波数基準を必要とすること、必ず受信信号内に存在しなければならないデータプレアンブルによる始動時の同期を必要とするがこれは用途によっては認められていないこと、動作及び作製の最適化がきわめて複雑であること、特に位相/周波数比較回路に関して相互依存し相反する多くのパラメータを考慮しなければならないこと、エネルギ消費量がきわめて高いこと、アナログ部分の作製が使用される半導体構成部品の製造技術に大きく依存することである。その結果、クロック抽出機能を実現するためにPLL回路を作製する場合には、長い経験及び深いノウハウを持つアナログ回路の専門家の参加が必要であると同時に、長い開発期間が必要であり、技術が発展する毎に定期的に更新しなければならないが、これは工業的規模における現在の利用上の制約の点からすると許容できるものではない。
【0004】
クロック抽出を実施するための別の周知の解決策は、DLLと呼ばれる遅延ロックループの使用に基くものである。しかしながらこれらの回路は、特に、各ワード内の基準遷移を形成するスタートビット及びストップビットを有する受信信号に関して、専用のコードを必要とする(これにより、データが到達可能な最大伝送周波数が低下し、典型的には8ビット有効データ及び8B/12Bのようなコードの場合、33%低下する)。さらに、回収されたデータは比較的大きな位相ドリフト(「ジッタ」)を有するので、無視できないビットエラー率が生じることがある。同様に、そのようなDLL回路は受信信号上のノイズに対してきわめて敏感である。最後に、デジタル構成部品で実施されるこの技術は超高速伝送速度には適さない。
【0005】
FR2838265は、注入発振器、すなわちオープンループ回路内の受信データのエッジ周波数注入ロック発振器を使用する方法を提案している。これを行うために、注入発振器は、MOSトランジスタ結合対を使用する負抵抗発振器であり、同期パルス発生器から発信され、受信信号のビットクロック周波数fsrに合わせた同期パルス信号を受信する。自由振動周波数fosを有するこの注入ロック発振器は、パルス信号の周波数が、引込み範囲と呼ばれるその動作範囲内にある場合には、それ自体をパルス信号にロックすることができる。その場合、同注入ロック発振器は、周波数がビットクロック周波数fsrと厳密に対応するクロック信号を供給する。
【0006】
しかしながら、受信信号に対して、発振器から供給されたクロック信号の位相同期も確保しなければならないという問題が生じる。この点に関して、発振器によって生じる位相シフト量は、発振器の入力側における信号の周波数と発振器の固有周波数fosの差に比例することがわかっている。したがって回路の設計時に、受信信号のビットクロック周波数fsrに応じて発振器の固有周波数の値を調節することを考えることができる。しかしながらこのビットクロック周波数fsrの値が正確にわからない限りこの方法は不完全なままである(そのことが当初、受信器内にクロック抽出回路があることを必要とする主な技術的問題になる)。さらに、いずれにせよこの方法は用途毎に回路の調整を必要とする。研究室のプロトタイプという状況下であればそのような調整も許容されるが、そのような回路の工業的利用では多くの場合、その調整は認められない。
【0007】
FR2838265は、受信クロック信号のパルスを基準とする、異なるシフト時間に応じてシフトされた複数のサンプリングフリップフロップから供給された種々の値のうちから1つの値を選択するための判断ロジックを設けることにより、この位相シフトの問題を解決することを提案した。実際にはこの方法は全ての状況下においてあまり効果的でないことがわかった。
【0008】
同じく、US6924705は、デジタル位相検出器、チャージポンプ、電圧制御発振器を制御するループフィルタを備え、電圧制御発振器が周波数逓倍器を介して入力側でデータ信号を受信するPLL回路を記載している。デジタル位相検出器の実用的な作製方法が示されていないことに加え、チャージポンプ及びループフィルタがアナログタイプの構成部品であるため、この回路は完全にデジタルな形態で作製することはできないという欠点を有する。したがって実際には、この特許による回路が作製されるかどうかは、用いられる半導体技術に密接に依存し、あらかじめ回路を新たに設計しないと他の半導体技術に簡単且つすばやく適合させることはできない。さらに、この回路は入力側の許容周波数範囲が狭く、受信信号には自動的に適合されないため、発振器の自由周波数、ならびに種々の伝送線間、特にデータを抽出できる線とクロックを抽出できる線との間の伝播遅延の差について外部の手動調整を必要とする。したがって、この明細書に記載の回路は、開発時間を最小限にとどめなければならない用途及び/又はある半導体技術を他の半導体技術に頻繁に移行することが必要な用途及び/又は受信信号の周波数が広い値の範囲内で変化することのある用途においては、工業規模で利用する対象にはならない。
【0009】
US5671259は、個別の構成部品をプリント回路上に実装して作製された共振回路と、共振回路の周波数の調節制御信号を整形することができるカウント回路を有するデジタル位相ロックループとを備えるクロック抽出回路を記載している。そのような共振回路の動作は集積回路の作製と適合せず(構成部品の品質係数が非常に低い)、高くない動作周波数にしか達することができない(入力データのレートは2MHz程度)。さらに、そのような共振回路を使用した場合、データ信号中には遷移がなく数サイクル後には発振が消失するため、このタイプの回路は、数周期のうちで遷移がほとんどない又は全くないデータ信号には不向きである。またこの特許では、入力信号の位相はおよそ1/4ビット変化することがあるが、これは位相ロックループが反応することがない状態で半ビットの絶対変化量であり、したがって0%〜50%の突発的な位相シフトは検出されない。また、カウント回路は20ビットカウンタであるが、共振回路の制御には最上位の8ビットしか用いられていない。そのようなきわめて高いフィルタリング(調節を発生させるためには4096個の連続する位相シフトの差が必要である)は実質上全く無益である。この明細書が示唆するところとは反対に、そのようなフィルタリングでは、入力信号内に存在する突発的位相シフトを解決することはどうしてもできない。
【0010】
このように、これらのクロック抽出回路に関して長期間行われてきた集中的な研究にもかかわらず、エネルギ消費が妥当であり、外部制御も専用の設計も必要とせず、用いられる製造技術とは無関係な設計のため、製造された各回路が必然的に調節され、入力データ信号が、遷移をほとんど含まないあるいは遷移のない期間又は突発的な位相シフトを多く含む期間を有する場合も含めて、きわめて多様な入力データ信号に適合しながらそのような入力データ信号と完全に同相な状態に留まる、特に500Mbit/秒を超える超高速伝送及び/且つ特に500MHzを超える超高周波リンクを含めてこれらの回路の現在の実際の大部分の適用例における工業規模の大量生産での利用に適合する簡単な解決策を提供することができることが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
したがって本発明はそのような方法を提供することを目的とする。実際、本発明者は、専用のアーキテクチャを用いることにより、これらの特長を有し、特に、きわめて多様な入力データ信号に適合しつつきわめて広いロッキングレンジ及びきわめて低いビット誤り率を有し、きわめて簡単な製造により「自己調節される」(すなわち外部の手動調節を全く必要としない)クロック抽出装置、具体的にはクロック及びデータ抽出装置を初めて提供することができたことを確認した。
【0012】
本発明は、受信信号の品質変化の影響をほとんど受けず、特に、変化する遷移密度及びノイズを有する可能性がある信号に適合する、そのような装置を提供することも目的とする。
【0013】
本発明は、ほぼ完全にデジタル構成部品の形態で作製することができ、特に位相ロックループが全てデジタル構成部品の形態で作製されるそのような装置を提供することも目的とする。実際、本発明者は、そのような装置は、一方では、受信信号に対して許容される周波数の範囲がより広いこと、他方では、装置が簡単に作製できること、特に半導体技術を特に簡単且つすばやく他の技術に移植できることによって実現されることがわかった。先行技術の装置(たとえばDLL回路内の電圧制御ゲート又はPLL回路のアナログ構成部品)とは異なり、専用の構成部品の調整を必要とすることなく、標準の機能ライブラリを基にして各回路の設計を行うことができる。
【0014】
全文を通じて、「デジタル構成部品」とは、少なくとも1つの入力及び/又は出力端子を有する任意の電子構成部品であって、対応する信号の実際のアナログ値が、この構成部品、又はその構成部品が組み込まれている回路の動作に影響を与えることなく、複数の離散的状態、特に1及び0の間で状態が変化することができる信号を各端子が伝達する構成部品を指す。また全文を通じて、ある構成部品の「入力部」及び「出力部」とは、単独信号を受け取りあるいは渡す接続端子又は一式の接続端子を指す。したがって、ある入力部に加えられる信号又は出力部から渡される信号は、追加的な詳細情報がある場合は別として、シリアル信号とすることもパラレル信号とすることもでき、単数又は複数のチャンネルで構成することができる(特にディファレンシャルタイプのアーキテクチャの場合)。
【0015】
したがって本発明は、ビットクロック周波数fsrを有するクロック信号により符号化された、デジタルデータを表し受信データと呼ばれるベースバンドシリアル信号から、クロックを抽出する装置であって、
− 受信信号から出されビットクロック周波数fsrに合わせた信号を受け取り、受信信号のビットクロック周波数fsrと少なくともほぼ同期され同相である受信クロック信号と呼ばれるクロック信号を少なくとも1つのクロック出力部に渡す回路と、
位相ロックループとを備え、前記位相ロックループが、
− 受信クロック信号を渡す回路のクロック出力部に接続された第一入力部と、
− 受信信号から出された信号が供給される第二入力部と、
− 第一及び第二入力部に接続された進み−遅れ検出器を備え、受信クロック信号と受信信号の間の位相シフトならびにこのシフトの方向を表す位相状態信号と呼ばれるデジタル信号を少なくとも1つの出力部に渡すデジタル位相検出器と、
− 受信クロック信号を渡す回路の制御入力部と呼ばれる入力部に接続され、受信クロック信号の周波数の値がこの制御入力部で受け取った制御信号の値に依存する、制御信号と呼ばれる信号を渡す出力部と、
− デジタル位相検出器の前記出力部に接続された入力部を有するカウント回路と呼ばれる回路であって、位相検出器から経時的に渡されるデジタル信号の相対値の変動に対しデジタル増分/減分による少なくとも1つのフィルタリングを行うようになされ、且つこの(これらの)フィルタリングの結果に応じて変化する値を有し、この値が受信クロック信号のビットクロック周波数fsrのこのようにフィルタリングされた値に等しい受信クロック信号の周波数の値を課すように適合されたデジタル形態の制御信号を渡すカウント回路とを備え、
− 受信クロック信号を渡す回路が、デジタル形態の位相ロックループから渡される制御信号を受け取ることができる、且つ発振器の固有周波数fosの値がこの制御入力部で受け取られた制御信号の値に依存するデジタル制御入力部を備える、デジタル制御注入ロック発振器であり、
− 位相ロックループが、進み−遅れ検出器の単数(複数)の出力部にそれぞれ接続された少なくとも1つの入力部を有し、フィルタリング済みの位相状態信号と呼ばれるデジタル信号を少なくとも1つの出力部に渡し、前記フィルタリング済みの位相状態信号が、
− 進み−遅れ検出器が同方向に位相シフトを検出した受信信号の連続するN個のデータビットに対応する、連続する同一の値を入力部において所定の回数N回(Nは2以上)受け取った後は、第一の相対値を有し、
− 進み−遅れ検出器が逆方向に位相シフトを検出した受信信号の連続するN個のデータビットに対応する、連続する同一の値を入力部においてN回受け取った後は、第二の相対値を有し、
− その他の場合は、第三の相対値を有し、
その結果、フィルタリング済みの位相状態信号の相対値が、受信クロック信号のエッジと受信信号の対応するデータビットとの間の受信信号の連続するN個のデータビットについて、同方向への位相シフトが存在すること、及びこの位相シフトの方向を表すことを特徴とする装置に関する。
【0016】
本発明は、本発明によるクロック抽出装置を備えるクロック及びデジタルデータ抽出装置にも関する。本発明によるクロック及びデジタルデータ抽出装置はさらに、受信クロック信号で受信信号をサンプリングする回路を備え、この回路は、受信入力部に接続された信号入力部と呼ばれる第一入力部と、注入ロック発振器のクロック出力部に接続されたクロック入力部と呼ばれる第二入力部とを有し、このサンプリング回路は、受信信号によって伝送されたデジタルデータを少なくとも1つのデータ出力部に渡すようになされており、サンプリング回路の信号入力部とクロック入力部との間に一定の位相差を導入する少なくとも1つの移相回路を備え、各移相回路に由来するこれら2つの入力部間の合計位相差が、信号入力部における信号とクロック入力部における信号の位相整合を保証することを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、進み−遅れ検出器は、受信クロック信号と受信信号の間に位相進みが存在することを表すデジタル信号を第一出力部に渡すように、また受信クロック信号と受信信号との間に位相遅れが存在することを表すデジタル信号を第二出力部に渡すと有利である。
【0018】
本発明によれば、進み−遅れ検出器は、受信クロック信号の立ち上がり及び立ち下がりで受信信号をサンプリングすると有利である。具体的には、本発明によれば、有利には、進み−遅れ検出器は、二重のサンプリング、すなわち受信クロック信号のエッジと同相のサンプリングと、受信クロック信号のエッジに対して直角位相のサンプリングとを実施することにより、受信信号の中間状態を決定する。
【0019】
また、本発明によれば、本発明による装置は、フィルタリング済みの位相状態信号を渡す前記回路が判断変換器であるのが有利である。
【0020】
本発明の一実施形態ではN=2である。しかしながら、所望のフィルタリングレベルに応じて他の任意の値を選択することができる。実際、そのような判断変換器は、デジタル位相検出器によって検出された位相シフトの相対値を基にして第一タイプのフィルタリングを行う機能を有する。この第一のフィルタリングにより、突発的な位相シフトをノイズとみなすことができる。なぜなら位相シフトの一連のN個の同一な状態のみが判断変換器の出力部に対し作用するからである。典型的には、この第一フィルタリングにより「ジッタ」現象など非永続的で突発的な位相偏移現象が取り込まれるのを防止することができる。特に、N−1まで行くことがあるデータビット数を含む同方向への位相シフトを有するデータビット列は、フィルタリング済みの位相状態信号の値を変化させないことに留意すべきである。
【0021】
また、本発明によれば、前記カウント回路は、進み−遅れ検出器から供給された各位相状態信号から出されたデジタル信号を受け取る少なくとも1つの入力部を有する累算回路と呼ばれる少なくとも1つの回路を備えるのが有利であり、この累算回路は、この累算回路の単数(又は複数)の入力部に提出された相対値の累計を受け取ったことを表す相対値を有する増分/減分信号と呼ばれるデジタル信号を渡すようになされている。
【0022】
また、本発明によれば、前記カウント回路は、判断変換器と、判断変換器から供給されたフィルタリング済みの位相状態信号の相対値を累計する累算回路とを相次いで備えるのが有利である。
【0023】
本発明による装置においては、上で説明した第一のタイプのフィルタリングと組み合わせて、あるいは変形形態として、前記カウント回路により別のタイプのフィルタリングを行うことができる。このように本発明によれば、累算回路はパラレル出力部を有し、このパラレル出力部に、増分/減分パラレルデジタル信号を渡すと有利であり、注入ロック発振器は、累算回路のパラレルデジタル出力部のビット数よりも少ないビット数を含む制御パラレルデジタル入力部を備え、累算回路のパラレルデジタル出力部の上位ビットの一部分だけが注入ロック発振器の制御パラレルデジタル入力のビットに結合され、その結果、カウント回路から渡される前記制御信号が前記増分/減分信号の上位ビットの前記部分で形成されるようになる。
【0024】
したがって、制御信号の値が変更されるのは、受信クロック信号のエッジと受信信号の対応するデータビットとの間に同方向の位相シフトを有する所定のしきい数であるM個のデータビットを累算回路が増分/減分した瞬間以降である。
【0025】
本発明による一実施形態においては、累算回路のパラレルデジタル出力部はたとえば8ビット又は9ビットを有し、注入ロック発振器のパラレルデジタル入力部は5ビットを有するが、累算回路のパラレルデジタル出力部の上位5ビットのみが、注入ロック発振器の制御パラレルデジタル入力の5ビットに結合される。したがって、制御信号の値が変更されるのは、累算回路が、その入力部で受け取る相対値に関して少なくとも111(バイナリ値)に等しい累計値の不均衡(同方向における位相シフトを表す)を検出した瞬間以降である。この例では、判断変換器がないためM=111が得られることになる。
【0026】
前記累算回路は単数又は複数の加算器及び/あるいは単数又は複数のカウンタにより作製することができる。増分及び減分機能上、制御出力の変更をトリガする同じ位相シフトのデータビット列のM個のデータビットは必ずしも連続しているとは限らないことに留意されたい。その反対に、これらのビットは、たとえば位相シフトが検出されないデータビットにより分離され、さらには逆方向への位相シフトを有し、後続の他のデータビットにより後で補償されるデータビットにより分離されることが可能である。したがってこの第二のタイプのフィルタリングは少なくともM個のデータビットに対する全体的な位相偏移を検出する。
【0027】
このように注入ロック発振器の制御信号の役割を果たすために累算回路のパラレルデジタル出力の(上位)ビットの一部分のみを利用することにより、第一のタイプのフィルタリングとは若干異なる特徴を有する第二のタイプのフィルタリングを行うことが可能になる。いずれにせよ、位相シフトの変動に対して行われるフィルタリングは、ロックループについて所望される動的応答に応じて適合される。
【0028】
二つのタイプのフィルタリングが組み合わされて相次いで使用される本発明による装置の変形実施形態では、このフィルタリングを2つの連続する段、すなわち判断変換器で形成される段と前記累算回路で形成される段で実施することができることにより、特に累算回路の動作周波数を下げることができ、そのため高周波における累算回路の使用が容易になる。さらに第一のタイプのフィルタリングにより、制御信号の変動をトリガするしきい値に近い同じ位相シフトの連続したデータビット数を前記累算回路が先に減分しているのに、データが突発的な位相偏移(「ジッタ」)を示すとき、高周波制御信号の変動のリスクを最小限に抑えることができる。この高周波変動現象を防止するために、前記しきい値を超過したとき、たとえば中央値などの中間値を再ロードする装置にカスケード接続され、その結果、この中間値から増分/減分を再開する複数の加算器及び/又は複数のカウンタを用いて累算回路を作製することも可能である。
【0029】
判断変換器の構造、及び/又は累算回路と注入ロック発振器の制御デジタル入力部との間のリンクに伴うこの(これらの)デジタルフィルタリングにより、位相ロックループにおける全ての専用フィルタリング構成部品を解消することができる。
【0030】
本発明によれば、有利な一実施形態において、注入ロック発振器の制御デジタル入力部は複数のスイッチを備える回路に接続され、各スイッチは、発振器の固有周波数を変えるように発振器の回路内に組み込まれた少なくとも1つのコンデンサに直列接続される。本発明によれば、制御デジタル入力部の各ビットがスイッチの1つに結合されるのが有利である。
【0031】
さらに、本発明によれば、クロック抽出回路はさらに、受信信号のエッジ周波数で電流パルス信号を発生し、注入ロック発振器の動作に適合され、注入ロック発振器の電流入力部にのみ接続された単一の出力部に電流パルス信号を渡す、同期パルス発生回路と呼ばれる回路を備えるのが有利である。この同期パルス発生回路から渡される電流パルスは、注入ロック発振器の動作、すなわちビットクロック周波数fsrへの発振器のロックを確実に行うようにこの発振器の入力部に適合されるのが有利である。
【0032】
さらに、本発明の範囲内であらゆるタイプの注入ロック発振器を使用することができる。特に、RCタイプ又は電流源タイプの弛張発振器、論理ゲート又はエミッタ結合型非安定発振器、リング発振器、ウィーンブリッジ、移送差又はLC型準正弦波発振器、コルピッツ、ハートレイ、クラップ、ピアース型、又はLC共振回路付き負抵抗発振器、伝送路発振器、又はクォーツ型共振器、表面波共振器、MEMS又は圧電素子組込み型共振器がそれに該当する。しかしながら、本発明によれば、注入ロック発振器はLC共振回路で形成されるタイプとするのが有利である。そのような発振器は特に、固有位相シフト(「ジッタ」)を最小にするという長所を有する。具体的には、本発明によれば、注入ロック発振器は、負抵抗電界効果トランジスタをそれぞれが備える2つの分岐を備え、この2つのトランジスタが差分トポロジに従って結合されることが有利である。FR2838265に記載されたような発振器がこれに該当し得る。
【0033】
このように本発明により、動作が注入ロック発振器に基づく回路の工業規模での利用を可能にしながら、クロック抽出装置、具体的にはクロック及びデジタルデータの抽出装置の設計において決定的な長所をもたらすことが可能になる。
【0034】
特に、本発明による装置は、位相ロックループにおいて、チャージポンプ及びループフィルタ、より一般的にはアナログ構成部品がない。よって本発明による装置内では、均質で、完全にデジタルで、簡単且つ迅速な設計により位相ロックループを開発することができる。
【0035】
したがって、本発明による装置は完全に自律型である、すなわち、手動又はその他の外部調節もキャリブレーションも必要としない。したがって本発明による装置は外部手動調節手段を一切持たないのが有利である。さらに、きわめて簡単な実施方法によりこの自律性が得られる。
【0036】
本発明による装置は、従来のPLLとは異なり、外部の周波数基準が存在する必要がない。さらに、起動時の同期を確保するのに数個のデータビットで足りる。本発明による装置のアーキテクチャはきわめて単純であるため、エネルギ消費が少なく(したがって総表面積が小さく総消費量が少ない)きわめて少数の基本的構成部品で装置を作製することが可能である。本発明による装置は、特に位相ロックループに関して、デジタル技術で設計することもでき、(高周波で動作する位相/周波数比較器を作製することが特にきわめて困難な、PLLに基づく先行の装置とは異なり)高いノウハウを有する設計者の介入を必要としない。また、設計が簡単な本発明による装置を使用することにより、半導体技術によって提供される限界に近い伝送速度に達することが可能である。特定の場合には、PLL又はDLLに基づく先行の回路を用いる場合よりも実質的に高い伝送速度に到達することが可能である。さらに、任意の半導体技術(CMOS、バイポーラ、SiGe、...)で本発明による装置を作製することが可能である。
【0037】
DLLに基づく回路とは異なり、本発明による装置は、受信信号上のノイズの影響を受け難く、データの符号化は、従来のPLLの拡張率と同様の拡張率、すなわちDLLの場合に必要な拡張率よりもはるかに低い拡張率を有する。
【0038】
また、位相ロックループの簡単さと効果を考慮すると、本発明による装置においては、発振器の固有周波数fosは受信クロック信号のビットクロック周波数fsrに常に等しく、したがって発振器から発信されるクロック信号と受信信号の間の位相差は一定である。ところで、装置を構成するその他の要素一式がサンプリング回路の2つの入力部間に一定の移相を生じさせることがあるため、サンプリング回路のこの2つの入力部間の一定の構造位相の差分遅延を決定することが可能である。したがってサンプリング回路の2つの入力部間の位相の整合を確保するのに1つ(又は複数)の移相回路を設けるだけでよく、本発明による装置が広い取り込み範囲を持って自律的且つ安定して動作できるようにするために、外部調節はなんら必要ではない。さらに、本発明による装置では、サンプリング回路は簡単なフリップフロップDで簡単に構成することができる。
【0039】
この点に関し、位相比較器などの回路の入力部に場合によっては必然的に設けられる移相回路に追加して、このタイプの回路のアーキテクチャにより場合によっては生じる移相を補償するために、この(これらの)移相回路が設けられることに留意されたい。そのような移相回路からの供給を受ける位相比較器の動作に必要な移相回路は、サンプリング回路の2つの入力部間の合計移相量を補償するために追加の移相を導入する機能を有する、本発明による装置の移相回路とは機能的に異なる。
【0040】
本発明による装置は、少なくとも注入ロック発振器を組み込んだ少なくとも1つの集積回路の形態で作製されるのが有利である。本発明によるクロック及びデジタルデータ抽出装置は500MHzを超えるビットクロック周波数fsrで動作することができるようになされている。
【0041】
このように、本発明により、初めて、完全に自律的且つ安定し、多くの適用例において工業規模での利用の対象となることができるクロック抽出回路、具体的にはクロック及びデジタルデータ抽出回路を得ることが可能になる。
【0042】
本発明は、上記又は下記の特徴の全て又は一部が組み合わされることを特徴とする、クロック抽出回路、具体的にはクロック及びデジタルデータ抽出回路にも関する。
【0043】
本発明のその他の目的、特徴及び長所は、非限定的な例として示し添付の図面を参照して行う以下の説明を読むことにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第一の実施形態によるクロック及びデジタルデータ抽出装置を示す全体的な機能概略図である。
【図2】図1の装置の進み−遅れ検出装置の一実施形態の機能概略図である。
【図3】図1の装置の判断変換器の一実施形態の機能概略図である。
【図4】本発明による装置内で使用することができる注入ロック発振器の一実施形態を示す略図である。
【図5】図1の装置内で使用することができる8ビット加算器の一実施形態を示す略図である。
【図6】図5の加算器を作製するために使用することができる2ビット累算器の一実施形態を示す略図である。
【図7】図4の発振器の制御デジタル入力部のキャパシタブロックの一実施形態を示す略図である。
【図8】本発明による装置のカウント回路の第二の実施形態を示す略図である。
【図9】本発明による装置のカウント回路の第三の実施形態を示す略図である。
【図10】本発明による装置のカウント回路の第四の実施形態を示す略図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1に示す本発明によるクロック及びデジタルデータ抽出装置は、デジタルデータDを表すベースバンドシリアル信号であり、ビットクロック周波数fsrを有するクロック信号で符号化された、受信信号と呼ばれる信号を受信入力部10と呼ばれる主入力部で受信する。一般的にこの受信信号は、ベースバンドシリアルリンクの伝送チャンネル上で受信されるNRZ(「non return to zero」)タイプの符号化信号である。この伝送チャンネルは、単線の導電線、又は単線の光ファイバ、又はシングルチャンネル無線周波数(非微分信号)リンクで形成することができる。しかしながら本発明は、差分送信型の受信信号の場合にも適用可能であり、その場合、伝送チャンネルは、2つの逆位相成分を送信する2つの線を備える。本発明は、受信信号について他のタイプの符号化、たとえばNRZI(「non return to zero inverted」)型の符号化にも適用可能である。
【0046】
受信入力部10は、2つのパラレル分岐、すなわち、本発明による、受信信号のビットクロック周波数fsrに同期され同位相の受信クロック信号Hと呼ばれるクロック信号をクロック出力部13上に発生する第一クロック抽出分岐12と、受信信号によって伝送されたデジタルデータをデータ出力部16に渡すことができる、受信クロック信号Hによる受信信号のサンプリング回路15を備える第二分岐14とが接続されたバイパスノード11に接続される。
【0047】
クロック抽出回路12は、同期パルス発生器20から供給を受ける注入ロック発振器19を備え、同期パルス発生器は受信入力部10のノード11に接続された入力部21を有する。同期パルス発生器20は注入ロック発振器19の電流入力部23のみに接続された単一の出力部22(差分トポロジの場合、2本の線によって形成することができる)を有する。同期パルス発生器20から供給される電流パルス信号は、注入ロック発振器19の動作に適合され、受信信号のデータエッジDの周波数に合わせられる。全体はたとえばFR2838265に記載されているようにして作製することができる。その場合、特に、注入ロック発振器19は自由発振周波数fosを規定する対称LC共振回路で形成されるタイプのものであり、負抵抗電界効果トランジスタをそれぞれが備える2つの交差分岐を具備し、2つのトランジスタは差分トポロジに従って結合される。注入ロック発振器19は、受信信号のビットクロック周波数に同期された同位相のクロック信号を渡す、クロック出力部29を有する。
【0048】
サンプリング回路15は、第二分岐14により受信入力部10に接続された信号入力部17と呼ばれる第一入力部と、クロック抽出回路12のクロック出力部、すなわち発振器19のクロック出力部29に接続されたクロック入力部18と呼ばれる第二入力部とを備える。このサンプリング回路15は単純なフリップフロップDから形成することができる。
【0049】
注入ロック発振器19はまた、発振器の固有周波数fosの値が制御入力部24上で受け取ったデジタル制御信号の値に依存する制御入力部24と呼ばれる入力部も備える。制御入力部24は、図示の例では、24a、24b、24c、24d、24eの5ビットを備えるデジタルパラレル入力部である。
【0050】
発振器19は、以下に説明するようなデジタル制御入力部24を有することができるので、任意のタイプの発振器を基にして作製することができる。特に、RCタイプ又は電流源タイプの弛張発振器、論理ゲート又はエミッタ結合型非安定発振器、リング発振器、ウィーンブリッジ、位相差又はLC型準正弦波発振回路、コルピッツ、ハートレイ、クラップ、ピアース型、又はLC共振回路付き負抵抗発振器、伝送路発振器、又はクォーツ型共振器、表面波共振器、MEMS又は圧電素子組込み型共振器がそれに該当する。
【0051】
発振器19は、たとえばFR2838265に記載され図4に概略が示されているようにして作製することができる。その場合、発振器は、自由発振器周波数fosを規定し、電界効果トランジスタ41a及び負抵抗トランジスタ41bをそれぞれ備える2つの交差分岐40a、40bを具備する対称LC共振回路で形成されるタイプのものであり、したがって2つのトランジスタ41a、41bは差分トポロジに従って結合される。一対のトランジスタ41a、41bは、2つのインダクタンス42a、42bの間に印加される分極基準電圧V2と、出力が最も低い電位差でありトランジスタ41a、41bの2つの源の接合ノードに接続されたシリアル抵抗で簡単に形成することができる電流源47とを基にして発振周波数を規定する対称LC回路から充電される。
【0052】
また各トランジスタ41a、41bは、直列抵抗48a、48bならびに並列コンデンサ49a、49bを介してドレイン50a、50bに印加される適切な分極電圧V1により分極される。
【0053】
LC共振回路の並列コンデンサは、それぞれスイッチ45a、45b、45c、45d、45eに結合されたコンデンサのブロック43で形成され、各スイッチは、発振器19の制御パラレルデジタル入力部24からビット24a、24b、24c、24d、24eのうちの1つを受け取る。並列コンデンサは、入力部24で受け取ったデジタル信号の増分(1単位)の変動により発振器19の発振周波数fosも同じ値Δfだけ変動するように結合される。図8の実施形態においては、各スイッチ45a、45b、45c、45d、45eは、このスイッチに関して対称に直列で同じ値で配列された2つのコンデンサ44a’、44b’、44c’、44d’又は44e’と44a”、44b”、44c”、44d”又は44e”の間にそれぞれ間置され、これら2つのコンデンサはスイッチに組み合わされたキャパシタを形成する。各スイッチ45a、45b、45c、45d、45eは電界効果トランジスタで形成され、キャパシタの値は2×2Cに等しく、nはデジタル入力部24a、24b、24c、24d、24eに加えられるデジタル制御信号の当該ビットb3、b4、b5、b6、b7の順位(0、1、2、3、4)であり、Cは所定のキャパシタンス値であり、各コンデンサ44a’、44b’、44c’、44d’、44e’、44a”、44b”、44c”、44d”、44e”のキャパシタンス値は、図7に示すようにC、C、2C、2C、4C、4C、8C、8C、16C、16Cに等しい。
【0054】
変化の増分値Δfは、充分に小さな値、好ましくは発振周波数fosの平均値の1%未満、特にこの平均値の0.3%程度の値が選択される。たとえば10GHz程度の発振周波数の場合、Δfは30MHz程度である。
【0055】
発振器19の発振振幅は、フィルタリングキャパシタ52a、52bを介して、対応する各トランジスタ41a、41bのドレイン50a、50bとグリッド51a、51bの間に実装された2つのダイオード46a、46bにより制御される。
【0056】
本発明による装置のクロック抽出回路12は、全てデジタル構成部品で形成された位相ロックループ25を備える。この位相ロックループ25は、2つの入力部27、28を有する進み−遅れ検出器26を備える。進み−遅れ検出器26の第一入力部27は、発振器により発振器19の出力部29上で発生する受信クロック信号Hを受け取るように、この発振器の出力部29に接続される。第二入力部28は、バイパスノード11に接続され、したがって受信入力部10に接続される。したがって、受信信号は進み−遅れ検出器26の第二入力部28に供給される。
【0057】
進み−遅れ検出器26の一実施形態を図2に示す。この進み−遅れ検出器26は2つのパラレルデジタル出力部33a、33bを有し、そのそれぞれの出力部に同検出器は、その2つの入力部27、28の間、すなわち受信信号のデータDと、発振器19から供給される受信クロック信号Hとの間に位相シフトが存在すること、及びその方向を表す、位相状態信号E及びLと呼ばれる信号を供給する。具体的には、進み−遅れ検出器26のパラレルデジタル出力部33a、33bにそれぞれ渡される信号E及びLは、これら2つの入力部27、28上の信号が同位相にあるとき0になる。進み−遅れ検出器26の第一出力33aは、2つの入力27、28間における位相進みの存在を識別する1ビットデジタル信号Eである。説明している例では、位相進みが検出されたときにはこの信号Eは1に等しく、2つの入力27、28が同位相であるときには0に等しい。進み−遅れ検出器26の第二出力33bは、2つの入力27、28間における位相遅れの存在を識別する1ビットデジタル信号Lである。説明している例では、位相遅れが検出されたときにはこの信号Lは1に等しく、2つの入力27、28が同位相であるときには0に等しい。
【0058】
本発明による装置ではあらゆるタイプのデジタル進み−遅れ検出器26を使用することができる。特にアレキサンダーのセル(J.D.H.Alexander≪Clock recovery from random binary signals)≫、Electronics Letters、1975年10月30日、11巻22号)が該当する。このように、図2に示す実施形態においては、進み−遅れ検出器26は、受信信号の二重サンプリング、すなわち受信クロック信号Hと同相の第一サンプリング及びこの信号に対して直角位相の第二サンプリングに基づくアレキサンダーのセルで形成される。この進み−遅れ検出器26は、受信信号及び受信クロック信号Hを受信する第一段の2つのフリップフロップD61、62を備え、直角位相シフトゲート65が、クロック信号を受信する端子上の第一段の第二フリップフロップD62の入力側に間置される。検出器26は、位相シフトを表す信号を形成するために、第二段の2つのフリップフロップD63、64及び2つの排他的ORゲート66、67を備える。第一段の第一フリップフロップ61の出力部は、受信信号のn個のビットの位相のサンプリングを表す信号DI(n)を供給する。第1段の第一フリップフロップ61の後に接続された第二段の第一フリップフロップ63の出力部は、受信信号内の前記ビットnの直前のビットn−1の同相サンプリングを表すDI(n−1)信号を供給する。第一段の第二フリップフロップ62の出力部は、データビットnとn+1の間の直角位相サンプリングを表す信号DQ(n+1/2)を供給する。第二段の第二フリップフロップ64の出力部は、データビットnとn−1の間の直角位相サンプリングを表す信号DQ(n−1/2)を供給する。さらに、受信クロックに信号を同期させることが可能な出力レジスタを形成するために、2つのフリップフロップD68、69が設けられる。
【0059】
以下の表1はそのような進み−遅れ検出器26の例の真理表である:
【表1】

【0060】
進み−遅れ検出器26で形成されるデジタル位相検出器によって検出できるのは、位相シフトが存在することとその方向のみであり、この位相シフトの振幅は検出できないことに留意されたい。
【0061】
進み−遅れ検出器26の2つの出力部33a、33bは、位相ロックループの判断変換回路30の2つの入力部32a、32bにそれぞれ接続され、その一実施形態を図3に示す。この判断変換回路30により、位相状態信号が有する値、すなわち進み−遅れ検出器26から受信信号の各データビットについて供給された進み信号E及び遅れ信号L、に応じた3つの状態のフィルタリング済みの位相状態信号と呼ばれるデジタル信号を、2端子31a、31b型パラレルデジタル出力部に渡すことができる。
【0062】
判断変換器30は、進み−遅れ検出器26が同方向の位相シフトを検出した受信信号の所定の数の連続するデータビットに相当する所定の数の同一値をその入力部32a、32bで連続して受け取ったときのみ、そのパラレルデジタル出力部に供給されたフィルタリング位相状態信号の値を変更する。
【0063】
フィルタリング位相状態信号はたとえば、2ビットa0及びa1で符号化された署名済みバイナリ信号であり、各ビットは2つの出力端子31a、31bのうちの一方に対応する。検出された連続するデータビットの位相シフトが第一方向であるとき、たとえば受信クロック信号Hが進んでいるときには、フィルタリング位相状態信号は1に等しく、a0=1及びa1=0で符号化される。検出された連続するデータビットの位相シフトが他方の方向であるとき、たとえば受信クロック信号Hが遅れているときには、フィルタリング位相状態信号は−1に等しく、a0=a1=0で符号化される。データビットが同位相であるときは、フィルタリング済みの位相状態信号は0に等しくa0=a1=0で符号化される。
【0064】
その結果、判断変換器30は、受信信号の連続する2以上の数N個のデータビット上で発生する位相シフトしか取り込まないように検出器26によって検出された位相シフトの変動のフィルタリングを行う機能を有する。判断変換器30は位相状態信号E及びLをフィルタリング済みの位相状態信号a0及びa1に変換する機能も有する。
【0065】
判断変換器30はまず、ビットn−1について入力部32a、32bで受け取った信号E及びLそれぞれの状態E(n−1)、L(n−1)を、すぐ次のビットnについてのこの信号の状態E(n)、L(n)との関連で記憶することができる、2つのフリップフロップD70、71からなる段を備える。判断変換器30はまた、図示の例では、その入力部32a、32b上で受け取り、それに続く2つのデータビット上で同一な状態なままの信号E及びLそれぞれの状態を検出することができる、2段のANDゲート72、73及び1つのORゲート74を備える。判断変換器によって取り込まれる連続するデータビットの数を増やすには、入力フリップフロップD及びANDゲートの数を増加させればよい。
【0066】
さらに、判断変換器30の出力端子31a、31b上に渡される信号a0、a1を受信クロックと同期させることのできる出力レジスタを形成するために、2つのフリップフロップD75、76が設けられる。
【0067】
以下の表2は、N=2の場合の判断変換器30の例の真理表である:
【表2】

【0068】
判断変換器30の2つの出力端子31a、31bは、位相ロックループの加算器35の2つの入力端子34a、34bに接続される。この加算器35はフィルタリング済みの位相状態信号の相対値+1、0、−1を累計するようになされている。説明している例では、加算器35は8ビットパラレル出力部36を有し、そこに累計結果が付与される。本発明によれば、発振器19を制御するのに出力部36の全てのビットが用いられているわけではない。事実、加算器35から発振器19に渡される制御パラレルデジタル信号を構成するには、パラレル出力部36に渡される信号の上位ビット36aしか用いられない。実際には相対位相ノイズ(「ジッタ」)を表すだけのものである下位ビット36bは用いられない。図示の例では、発振器19の制御信号として上位5ビットが用いられている。したがって加算器35の出力側で信号の上位ビットの一部分だけを使用して、デジタル位相検出器26、30から供給される信号を連続的に積分することによりフィルタリングを行う。
【0069】
図5は、直列の4つの2ビット累算器81、82、83、84のカスケードで形成されたそのような加算器35の実施形態を示したものである。図6は、図5の加算器内で使用することができる2ビット累算器の実施形態の例を示したものである。そのような2ビット累算器は、2つのAND/ORゲート101、102と、2つの3入力排他的ORゲート103、104で構成される。3つのフリップフロップD105、106、107が出力レジスタを構成する。
【0070】
加算器35内では、3つの同期フリップフロップD85,86、87と、3つのフリップフロップD88、89、90、第一2ビット累算器81の出力フリップフロップ105、106、第二2ビット累算器82の出力フリップフロップ105、最後の2ビット累算器84の出力フリップフロップ105、106によって形成される出力レジスタを備える、パイプラインアーキテクチャに従って、4つの2ビット累算器81、82、83、84が組み合わされる。この8ビット加算器により8ビット累算信号b0、b1、b2、b3、b4、b5、b6、b7を出力側に渡すことが可能になる。説明している例では、上位ビットb3、b4、b5、b6、b7のみが注入ロック発振器19に渡される。本発明の範囲内で、同じ機能を有する他の任意の構造の既知の8ビット加算器を使用することができることは言うまでもない。
【0071】
本発明による装置の位相ロックループ25は、位相ノイズの標準偏差が増加するときこの位相ロックループのゲインが減少し、そのためフィルタの全体的な帯域幅が減少するので、受信信号の位相ノイズのレベルにおける自己適応特性を有することに留意されたい。
【0072】
一方では判断変換器30によって、他方では加算器35の出力側において下位ビットを除去することによって行われる二重のデジタルフィルタリングにより、アナログループフィルタの使用を免れることができる。
【0073】
本発明による装置において、発振器19の固有周波数fosに関して、手動による外部調節は一切必要がない。さらに、受信信号の如何に関わらず、位相ロックループ25により、発振器19から供給される受信クロック信号Hが受信信号と常に同相になるようにすることが可能である。
【0074】
これらの状況において、本発明による装置においては、回路の種々の分岐内での伝播遅延による位相のシフトは全て既知且つ一定であり、したがって、バイパスノード11と、サンプリング回路15の各入力部17、18との間に設置された1つ(又は複数)の移相回路37により補償することができる。実際、サンプリング回路15が、対応する電圧値が最も安定し且つ騒音余裕が最も高い受信信号の各データビットの期間の中央ゾーン内で受信信号のサンプリングを行うことが重要であるが、それは、立ち上がり中に信号の電圧が位相偏移(従来「ジッタ」と呼ばれているもの)を受ける各ビット期間の開始又は終了時でサンプリングを行うことを防止するためである。通常、ノイズを受けた受信信号中では、位相偏移(「ジッタ」)があるため、各ビットは「目」の形状を呈する。サンプリングは目の中心で行われなければならない。
【0075】
ところで、受信ビットのビットクロック周波数fsrと発振器19の発振周波数fosとの差は本発明による装置内では0であるが、回路のその他の構成部品によって遅延全体が導入される可能性があり、回路の種々の分岐での伝播遅延全体は制御され既知であるので、受信信号中に含まれるデータと発振器19から渡される受信クロック信号Hとの間の一定の構造的な位相の差分遅延を決定することが可能である。この差分遅延は、単数(複数)の移相回路37により補償される。
【0076】
本発明による装置では、移相回路37を1つだけ任意の適当な場所に設けることができる。変形形態では、各分岐の複数の場所に分布する複数の移相回路37により、2つの分岐12、14間の移相を得ることができる。後者の場合、各移相回路37によって導入される移相の累計は、2つの分岐12、14間で行わなければならない合計移相に等しい。
【0077】
図1には、移相回路37を設けることができる種々の可能な位置を点線で示した。このように、バイパスノード11とサンプリング回路15の信号入力部17との間に移送回路37aを、発振器19の出力部29とサンプリング回路15のクロック入力部18との間に移相回路37bを、バイパスノード11と発振器19への供給を行うパルス発生装置20の入力部21との間に移相回路37cを、パルス発生装置20の出力部22と発振器19の入力部23との間に移相回路37dを、バイパスノード11と進み−遅れ検出器26の第二入力部28との間に移相回路37eを、発振器19の出力部29と進み−遅れ検出器26第一入力部27との間に移相回路37fを設けることができる。各移相回路37は単純な遅延線で形成することができる。
【0078】
本発明による装置のアーキテクチャは、発振器19がロックモードになったときのイオン化粒子による信号の状態変化などの一過性事象の影響を非常に受け難い。実際、受信信号のタイミングに発振器を同期させることにより、外部発生源の妨害を隠すことができる。
【0079】
図8は、本発明による装置内で用いることができるカウント回路の第二の実施形態を表す。この第二の実施形態は、判断変換器30及び加算回路35が、8ビット出力部57を有し、進み−遅れ検出器26の第一出力部33aに接続された増分(「UP」)入力部56a上の位相進み信号E及び進み−遅れ検出器26の第二出力部33bに接続された減分(「DOWN」)入力部56b上の位相遅れ信号Lなど、位相検出器26から供給された位相状態信号を入力部で直接受け取る単一の増分/減分回路55の構成部品で置き換えられている点で、直前の実施形態と異なる。増分/減分カウンタ55は受信クロック信号Hによりタイミングを定められる。同装置は、その入力部56a及び56bに提示される値が非アクティブであるとき、出力57の値が変更されない状態のままとなるように選ばれる。
【0080】
1つのみのフィルタリングレベルは、前の第一実施形態と同様、発振器19の制御入力を形成するのに増分/減分カウンタ55から供給された出力信号の上位ビットの一部分(図示の例ではb3、b4、b5、b6、b7)しか用いられないことによって得られる。
【0081】
図9に示す第三の実施形態は、加算回路35が2段の加算器91、92で置き換えられる点で第一の実施形態と異なり、その低位の第一加算段91は下位ビットすなわち図示の例では増分/減分信号の下位4ビットb0、b1、b2、b3を出力側に供給し、高位の第二加算段92は上位ビットすなわち図示の例では増分/減分信号の上位5ビットb4、b5、b6、b7、b8を出力側に供給する。
【0082】
第一加算段91は、2つの4ビットパラレルデジタル入力の合計を4ビットデジタル出力部に供給する2つの4ビットパラレルデジタル入力部を有する加算回路93を備える。この加算回路93の第一入力部は、位相状態信号E、Lを基にして、進み−遅れ検出器26の出力部33a、33bにより、判断変換器30を介して供給を受ける。フィルタリング済みの位相状態信号a1を渡す判断変換器30の出力部31bは、加算器93の3つの入力部に接続される。E=1の場合、判断変換器30は、信号0001(相対値+1に相当)を加算回路93の入力部に渡す。L=1の場合、判断変換器30は、信号1111(相対値−1に相当)を加算回路93の入力部に渡す。加算回路93の出力部はマルチプレクサ98の入力部に接続され、このマルチプレクサはまた、4ビットレジスタ97に格納されている値を入力側で受け取る。この値は好ましくは中間値、すなわち発振器19の制御入力の値つまり第二加算段92の出力信号の変更をトリガするために、一方向又は他の方向に同じ数の変動(必ずしも直接連続するものでなくともよい)をそれを出発点としてカウントしなければならない、初期値であることが好ましい。
【0083】
マルチプレクサ98の出力は、受信クロック信号Hのタイミングで動作するレジスタ95に渡される4ビットパラレル出力である。このレジスタ95は下位ビットの出力ビットb0、b1、b2、b3を供給し、これらはループ循環により加算回路93の第二入力に渡される。
【0084】
第二加算段92は、下位ビット出力b0、b1、b2、b3の極値(最小、0、最大)を検出する繰上げ計算回路100から供給を受ける5ビット加算回路94を備える。この繰上げ計算回路100により、加算回路94の5ビット入力部に、第一加算段91の下位出力b0、b1、b2、b3に対する上位5ビットを構成するパラレルデジタル信号を供給することができる。これを行うために、下位b0、b1、b2、b3の出力信号が、繰上げ計算回路100の2つのゲート105、106の入力部に供給される。ビットb0、b1、b2、b3が全て0に等しいとき、ANDゲート105の出力は1に等しい。ビットb0、b1、b2、b3の少なくとも1つが1に等しいとき、同ゲート出力は0に等しい。ゲート105の出力部は、ANDゲート110の入力部に接続され、ANDゲート110の出力は、第二段92の加算回路94の2つの入力部のうちの一方の入力部の上位4ビットc2、c3、c4、c5に印加される。ビットb0、b1、b2、b3が全て1に等しいとき、ゲート106の出力は1に等しい。ビットb0、b1、b2、b3の少なくとも1つが0に等しいとき、同ゲート出力は0に等しい。ゲート106の出力部は、ANDゲート113の入力部に接続され、ANDゲート113の出力部はORゲート112の入力部に接続され、このORゲートの出力は、第二段92の加算回路94の同じ入力の下位ビットc1を形成する。また、ゲート110の出力部は、ORゲート112の第二入力部に接続される。
【0085】
ビットb0、b1、b2、b3が全て0に等しいとき、ゲート105の出力は1に等しく、また、ゲート110によりそれが可能であれば、加算回路94の入力及びゲート112の入力の1つの上位ビットc2、c3、c4、c5についても同様である。したがってゲート112の出力は1に等しく、加算回路94の入力の下位ビットc1についても同様である。したがってこの状況下では、第二段の加算回路94の入力c1、c2、c3、c4、c5は11111に等しく、これはレジスタ96の値を1だけ減分することを指令する−1という相対値に相当する。
【0086】
同様に、ビットb0、b1、b2、b3が全て1に等しいとき、ゲート106の出力は1に等しく、また、ゲート113によりそれが可能であれば、加算回路94の入力の下位ビットc1についても同様である。同時に、ゲート105の出力は0に等しく、加算回路94の入力の上位ビットc2、c3、c4、c5についても同様である。したがってこの状況下では、第二段の加算回路94の入力c1、c2、c3、c4、c5は00001に等しく、これはレジスタ96の値を1だけ増分することを指令する+1という相対値に相当する。
【0087】
ビットb0、b1、b2、b3の1つが0に等しく、ビットb0、b1、b2、b3の1つが1に等しい限り、すなわち第一加算段91の下位出力が、極値のいずれかに相当しない値を有するときは、2つのゲート105、106の出力は双方とも0に等しく、その結果、第二段の加算回路94の入力c1、c2、c3、c4、c5は00000に等しくなり、したがって、レジスタ96の値は変更されない。
【0088】
したがって下位b0、b1、b2、b3出力信号の極値に達すると、一方では、ゲート105又は106により、相対値+1又は−1を加算器94の入力c1、c2、c3、c4、c5の前に伝播させることができるため、レジスタ96の内容が増分又は減分され、他方では、加算回路94の下位ビットc1が1に等しいので、この+1又は−1の値によりマルチプレクサ98の制御信号がアクティブになり、レジスタ97に格納されている値のレジスタ95への再ロードが強制的に行われる。
【0089】
このようにして、出力部36aに供給された制御信号が確かに変更されるように、レジスタ97に登録された中間値を基にして、同方向に位相シフト7又は8が生じることが必要になることが保証される。
【0090】
加算回路94は、受信クロック信号Hのタイミングで動作するレジスタ96に記憶された5ビット出力b4、b5、b6、b7、b8を有し、その結果、このレジスタの出力部は、デジタル発振器19の制御入力部24に供給を行う出力部36aaを構成する。
【0091】
レジスタ96の出力は、ループ循環により加算回路94の第二入力部にも供給される。また、繰上げ計算回路100により、システムのダイナミックス上必要であれば、この信号の値が極値に達したときに、上位出力部36a上の信号の不意の変動を防止することができる。これを行うために、繰上げ計算回路100は、出力部36aから上位ビットb4、b5、b6、b7、b8の値を受け取る2つのゲート107、108を備え、また繰上げ計算回路100は、ビットb4、b5、b6、b7、b8上の信号が11111に等しいとき1つずつの増分を禁止し、ビットb4、b5、b6、b7、b8上の信号が00000に等しいとき1つずつの減分を禁止するようになされている。この機能は、ゲート107、108の出力をそれぞれ入力部で受け取るゲート110、113により得られる。ビットb4、b5、b6、b7、b8が最大値11111をとるとき、ゲート108の出力は0に等しく、その結果、ゲート113の出力は強制的に0にされ、また105の出力は0に等しいので、加算回路94の入力c1、c2、c3、c4、c5は0に等しいままであり、レジスタ96が1だけ増分するのが禁止される。同様に、ビットb4、b5、b6、b7、b8が最小値00000をとるとき、ゲート107の出力は0に等しく、その結果、ゲート110の出力及び加算回路94の入力の上位ビットc2、c3、c4、c5は強制的に0にされ、加算回路の入力c1は0であるので、レジスタ96が1だけ減分するのが禁止される。
【0092】
図10は、機能的には図9の実施形態と同様であるが、加算器93、94を増分/減分カウンタ116、117で置き換えることにより作製した第四の実施形態を示す図である。第一カウンタ116はその増分入力部及び減分入力部でそれぞれ、位相状態信号E及びLを受け取る。このカウンタは、レジスタ97に登録された中央値を受け取る4ビット入力部INを有する。その出力部OUTは下位のb0、b1、b2、b3出力信号を供給する。このカウンタは、上位繰上げ出力113a、下位繰上げ出力113b、ならびに入力部INの再ロード制御入力114も有する。上位繰上げ出力113aは、カウント入力が1だけ増分され、その出力OUTがその最大値1111にあるときONになる。同様に、下位繰上げ出力113bは、減分入力が1だけ増分され、その出力OUTがその最小値0000にあるときONになる。
【0093】
上位繰上げ出力113a及び下位繰上げ出力113bは、第二増分/減分カウンタ117の増分入力部及び減分入力部に供給される。また、ゲート115は、これらの2つの出力、すなわち上位繰上げ出力113a及び下位繰上げ出力113bのアクティブ状態を検出し、これら上位繰上げ出力113a及び下位繰上げ出力113bの一方がアクティブ状態になったとき、第一カウンタ116の入力INの再ロードを課す。その結果、下位出力b0、b1、b2、b3がその極値のいずれかを超過すると、第一カウンタ116は、レジスタ97に格納されている中央値に再初期化される。したがって、この場合も、上位出力36aの値が制御信号変更されるように、下位出力b0、b1、b2、b3の極値を基にして、少なくとも8つ又は9つ(あるいはレジスタ97に格納されている値による別の数)の連続する状態について位相シフトを確認することが必要になることが保証される。
【0094】
第二増分/減分カウンタ117は、発振器19の制御入力部24への供給を行う上位出力部36aを形成するパラレル5ビット出力を有する。直前の実施形態と同様に、出力部36aから上位ビット値b4、b5、b6、b7、b8を受け取り、ビットb4、b5、b6、b7、b8上の信号が11111に等しいときには1つずつの増分を禁止し、ビットb4、b5、b6、b7、b8上の信号が00000に等しいときには1つずつの減分を禁止する、ゲート107、108が設けられる。
【0095】
本発明による装置において、注入ロック発振器は、デジタル制御信号の増分により、発振器の固有周波数が所定の値Δfずつ変更されるようになされている。累算回路のパラレル出力部を基にして制御信号バスを形成するために繰り上げられるビット数の選択ならびに調節ステップΔfの選択は、位相ロックループ25にとって必要なダイナミックスによって異なる。たとえば注入ロック発振器19の固有周波数が10GHz程度であり、ステップΔfが1%未満、特に0.3%程度である場合、デジタル制御信号を1ずつ増分する毎に、この固有周波数が30MHz程度変化する。また、同じ例において、説明した例の場合のように、発振器19の制御信号が5ビットを含む場合、この信号により32の増分を行うことが可能であり、したがって10%程度、すなわち1GHz程度の注入ロック発振器19の固有周波数fosの調節範囲が提供される。
【実施例1】
【0096】
STMicroelectronics社にて、0.13μmCMOS技術によるASCI回路の形態で、本発明による第一実施形態による装置のプロトタイプを作製した。このプロトタイプはハウジングにカプセル装填したものであり、それをガラス−テフロンプリント回路上に移し、それにより、このアーキテクチャの動作全体を検証することができ、その完全な電気的特徴付けに成功した。
【0097】
本発明は、上で図示し説明してきた実施形態に対する、きわめて多数の変形実施形態の対象となることができる。特に、本装置の種々の構成要素(進み−遅れ検出器、判断変換器、カウント回路、発振器、パルス発生器...)を、それ自体公知で同じ機能を提供する他の回路構造により作製することができる。たとえば回路100、107、108は、例として示したものとは別の、同じ技術的機能を有する他の実装(他のタイプの論理ゲート、又は論理ゲート他の組み合せ)の対象とすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビットクロック周波数fsrを示すクロック信号により符号化された、デジタルデータを表し且つ受信データと呼ばれるベースバンドシリアル信号から、クロックを抽出する装置であって、
−受信信号から得られ、ビットクロック周波数fsrに合わせられた信号を受け取り、受信信号のビットクロック周波数fsrと少なくともほぼ同期されて同相である受信クロック信号と呼ばれるクロック信号を、少なくとも1つのクロック出力部(29)に供給する回路(19)と、
−位相制御ループ(25)と
を備え、前記位相制御ループ(25)が、
−受信クロック信号を供給する回路(19)のクロック出力部(29)に接続された第一入力部(27)と、
−受信信号から得られる信号が供給される第二入力部(28)と、
−第一及び第二入力部(27、28)に接続された進み−遅れ検出器を含み、受信クロック信号と受信信号の間の位相シフトとこのシフトの方向とを表す位相状態信号と呼ばれる少なくとも1つのデジタル信号を、少なくとも1つの出力部(33a、33b)に供給するデジタル位相検出器(26)と、
−受信クロック信号を供給する回路(19)の制御入力部と呼ばれる入力部(24)に接続されて、制御信号と呼ばれる信号を供給する出力部(36a)であって、受信クロック信号の周波数の値がこの制御入力部(24)で受け取った制御信号の値に依存するように構成される出力部(36a)と、
−デジタル位相検出器(26)の前記出力部(33a、33b)に接続された入力部を有する、カウント回路(30、35、55、91、92、116、117)と呼ばれる回路であって、位相検出器(26)から経時的に供給されるデジタル信号の相対値の変動に対するデジタル増分/減分により少なくとも1つのフィルタリングを実行し、且つこのフィルタリングの結果に応じた値を有するデジタル形態の制御信号を供給し、制御信号の値が、受信クロック信号の周波数の値を、ビットクロック周波数fsrのこのようにフィルタリングされた値に等しく設定するように構成された回路と
を含み、
−受信クロック信号を供給する回路(19)が、デジタル形態の位相制御ループ(25)から供給される制御信号を受け取ることができ、且つ発振器(19)の固有周波数fosの値がこの制御入力部(24)で受け取られた制御信号の値に依存するデジタル制御入力部(24)を含む、デジタル制御による注入ロック発振器(19)であり、
−位相制御ループ(25)が、進み−遅れ検出器(26)の一又は複数の出力部にそれぞれ接続された少なくとも1つの入力部(32a、32b)を有し、フィルタリング済みの位相状態信号と呼ばれるデジタル信号を少なくとも1つの出力部(31a、31b)に供給し、前記フィルタリング済みの位相状態信号が、
−進み−遅れ検出器(26)が同方向に位相シフトを検出した受信信号の連続するN個のデータビットに対応して、連続する同一の値を入力部において所定の回数N回(Nは2以上)に亘って受け取った後に、第一の相対値を有し、
−進み−遅れ検出器(26)が逆方向に位相シフトを検出した受信信号の連続するN個のデータビットに対応して、連続する同一の値を入力部において所定の回数N回(Nは2以上)に亘って受け取った後に、第二の相対値を有し、且つ
−その他の場合に第三の相対値を有し、その結果、フィルタリング済みの位相状態信号の相対値が、受信クロック信号のエッジと受信信号の対応するデータビットの間の受信信号の連続するN個のデータビットについて、同方向への位相シフトの存在と、及びこの位相シフトの方向を表す、装置。
【請求項2】
進み−遅れ検出器(26)が、受信クロック信号と受信信号の間に位相の進みが存在することを表すデジタル信号(E)を第一出力部(33a)に供給し、受信クロック信号と受信信号の間に位相遅れが存在することを表すデジタル信号(L)を第二出力部(33b)に供給する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
進み−遅れ検出器(26)が、受信クロック信号の立ち上がり及び立ち下がりで受信信号をサンプリングする、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
進み−遅れ検出器(26)が、二重のサンプリング、すなわち受信クロック信号のエッジと同相のサンプリングと、受信クロック信号のエッジに対して直角位相のサンプリングを実施することにより、受信信号の中間状態を決定する、請求項1から3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
フィルタリング済みの位相状態信号を供給する前記回路(30)が判断変換器(30)である、請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記カウント回路が、進み−遅れ検出器(26)から供給される各位相状態信号から得られたデジタル信号を受け取る少なくとも1つの入力部(32a、32b)を有する、累算回路(35、55、91、92、116、117)と呼ばれる少なくとも1つの回路を含み、前記累算回路が、この累算回路の一又は複数の入力部(32a、32b)に示される複数の相対値の受信を表す相対値を有する、増分/減分信号と呼ばれるデジタル信号を供給する、請求項1から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記カウント回路が、判断変換器(30)と、判断変換器(30)から供給されたフィルタリング済みの位相状態信号の相対値を累計する累算回路(35、91、92)とを連続して含む、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
累算回路が、パラレル出力部(36)を有し、前記パラレル出力部(36)に増分/減分パラレルデジタル信号を供給するように構成されており、注入ロック発振器(19)が、累算回路のパラレルデジタル出力部(36)のビット数よりも少ないビット数を含む制御パラレルデジタル入力部を備え、累算回路のパラレルデジタル出力部(36)の上位ビットの一部分(36a)だけが、注入ロック発振器(19)の制御パラレルデジタル入力(24)のビットに結合され、その結果、カウント回路から供給される前記制御信号が、前記増分/減分信号の上位ビットの前記部分(36a)から形成される、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
注入ロック発振器(19)のパラレルデジタル入力部が5ビットを有し、累算回路のパラレルデジタル出力部(36)の上位5ビットのみが、注入ロック発振器の制御パラレルデジタル入力(24)の5ビットに結合される、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
注入ロック発振器(19)の制御デジタル入力部(24)が、複数のスイッチ(45a、45b、45c、45d、45e)を備える回路に接続され、各スイッチが、発振器の固有周波数を変えるように発振器(19)の回路内に組み込まれた少なくとも1つのコンデンサに直列接続される、請求項1から9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
制御デジタル入力部(24)の各ビットがスイッチの1つに結合される、請求項7から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
クロック抽出回路がさらに、同期パルス発生回路(20)と呼ばれる回路を含み、この回路が、受信信号のエッジ周波数で電流パルス信号を生成し、注入ロック発振器(19)の動作に適合され、且つ注入ロック発振器(19)の電流入力部(23)にのみ接続された単一の出力部(22)に電流パルス信号を供給する、請求項1から11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
クロックの抽出及びデジタルデータの抽出を行う請求項1から12のいずれか一項に記載の装置であって、受信クロック信号で受信信号をサンプリングする回路(15)をさらに含み、前記サンプリング回路(15)が、受信入力部に接続された信号入力部(17)と呼ばれる第一入力部と、注入ロック発振器のクロック出力部(29)に接続されたクロック入力部(18)と呼ばれる第二入力部とを有し、前記サンプリング回路(15)が、受信信号によって伝送されたデジタルデータを少なくとも1つのデータ出力部(16)に供給し、
サンプリング回路(15)の信号入力部(17)とクロック入力部(18)の間に一定の位相差を導入する少なくとも1つの移相シフト回路(37a、37b、37c、37d、37e、37f)を含み、各移相回路に由来するこれら2つの入力部(17、18)間の合計位相差が、信号入力部(17)における信号と、クロック入力部(18)における信号の位相整合を保証する、装置。
【請求項14】
サンプリング回路(15)が簡単なフリップフロップDで構成される、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
外部調整手段を持たない、請求項1から14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
差分アーキテクチャに従って実施される、請求項1から15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
少なくとも注入ロック発振器(19)を組み込んだ少なくとも1つの集積回路の形態で実施される、請求項1から16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
500MHzより高いビットクロック周波数fsrで動作できる、請求項1から17のいずれか一項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−524317(P2010−524317A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501556(P2010−501556)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【国際出願番号】PCT/FR2008/000479
【国際公開番号】WO2008/139064
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(509181714)セントル ナショナル デチュード スパシアル (セー.エヌ.エ.エス) (7)
【Fターム(参考)】