説明

多気筒内燃機関の燃料噴射量制御装置

【課題】上流側空燃比センサの出力値を用いて精度のよい空燃比不均衡指標値を取得することのできる燃料噴射装置を提供する
【解決手段】排気集合部HKと三元触媒43との間の位置に配設される上流側空燃比センサ56を備える。制御装置は、三元触媒に流入する排ガスの空燃比が目標空燃比に一致するように燃料噴射弁33から噴射される燃料の量を上流側空燃比センサの出力値に基いてフィードバック補正する。制御装置は、上流側空燃比センサの出力値に対してハイパスフィルタ処理を施すことにより、上流側空燃比センサの出力値に含まれる機関の中心空燃比の変動による成分を除去したハイパスフィルタ処理後出力値VHPFを取得する。制御装置は、そのハイパスフィルタ処理後出力値VHPFに基いて、気筒別空燃比の不均一性の程度が大きいほど大きくなる空燃比不均衡指標値を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多気筒内燃機関の燃料噴射量制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、図1に示したように、多気筒内燃機関10の排気通路に配設された三元触媒43と、その三元触媒43の上流に配置された上流側空燃比センサ56と、を備えた空燃比制御装置が広く知られている。
【0003】
この空燃比制御装置は、機関10に供給される混合気の空燃比(機関の空燃比、従って、排ガスの空燃比)が目標空燃比と一致するように、上流側空燃比センサ56の出力値に基いて空燃比フィードバック量(メインフィードバック量)を算出し、そのフィードバック量により機関の空燃比をフィードバック制御するようになっている。このフィードバック量は、全気筒に対して共通する制御量である。目標空燃比は、三元触媒43のウインドウ内の所定の基準空燃比に設定される。基準空燃比は、一般に、理論空燃比である。基準空燃比は、機関の吸入空気量及び三元触媒43の劣化度等に応じて理論空燃比の近傍の値に変更され得る。
【0004】
ところで、一般に、このような空燃比制御装置は電子制御式燃料噴射装置を採用した内燃機関に適用される。その内燃機関は、各気筒又は各気筒に連通した吸気ポートに少なくとも一つの燃料噴射弁33を備えている。従って、ある特定の気筒の燃料噴射弁の特性が「指示された燃料噴射量(指示燃料噴射量)よりも過大な量の燃料を噴射する特性」となると、その特定の気筒に供給される混合気の空燃比(その特定気筒の空燃比)のみが大きくリッチ側に変化する。即ち、気筒間における空燃比の不均一性(空燃比気筒間ばらつき、空燃比の気筒間インバランス割合)が大きくなる。換言すると、各気筒に供給される混合気の空燃比である「気筒別空燃比」の間に著しい不均衡が生じ、気筒別空燃比の不均一性の程度が大きくなる。
【0005】
なお、以下において、「指示燃料噴射量よりも過大又は過小な量の燃料を噴射する特性を有する燃料噴射弁」に対応する気筒を「インバランス気筒」とも称呼し、残りの気筒(「指示燃料噴射量の燃料を噴射する燃料噴射弁」に対応する気筒)を非インバランス気筒(又は正常気筒)とも称呼する。
【0006】
ある特定の気筒の燃料噴射弁の特性が「指示燃料噴射量よりも過大な量の燃料を噴射する特性」となると、機関全体に供給される混合気の空燃比の平均は、基準空燃比に設定された目標空燃比よりもリッチ側の空燃比となる。従って、全気筒に対して共通する空燃比のフィードバック量により、上記特定の気筒の空燃比は基準空燃比に近づけられるようにリーン側へと変更させられ、同時に、他の気筒の空燃比は基準空燃比から遠ざけられるようにリーン側へと変更させられる。この結果、機関全体に供給される混合気の空燃比の平均(排ガスの平均空燃比)は基準空燃比の近傍の空燃比に一致する。
【0007】
しかしながら、上記特定の気筒の空燃比は依然として基準空燃比よりもリッチ側の空燃比となり、残りの気筒の空燃比は基準空燃比よりもリーン側の空燃比となる。この結果、各気筒の空燃比が基準空燃比である場合に比べ、各気筒から排出されるエミッションの量(未燃物の量及び/又は窒素酸化物の量)が増大する。このため、機関に供給される混合気の空燃比の平均が基準空燃比であったとしても、増大したエミッションを三元触媒が浄化しきれず、結果として、エミッションが悪化する虞がある。
【0008】
従って、気筒別空燃比の気筒間における不均一性が過大になっていること(気筒間における空燃比の不均一性が過大になっていること、即ち、空燃比気筒間インバランス状態が発生していること)を検出し、何らかの対策を講じさせるようにすることは、エミッションを悪化させないために重要である。なお、空燃比気筒間インバランスは、特定の気筒の燃料噴射弁の特性が「指示燃料噴射量よりも過小な量の燃料を噴射する特性」となった場合等にも発生する。
【0009】
従来の燃料噴射量制御装置の一つは、三元触媒43の上流に配置された起電力式の酸素濃度センサの出力値(出力信号)の軌跡長を取得する。更に、この制御装置は、その軌跡長と「機関回転速度に応じて変化する参照値」とを比較し、その比較結果に基いて空燃比気筒間インバランス状態が発生したか否かを判定する(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第7,152,594号明細書
【発明の概要】
【0011】
ところで、上流側空燃比センサ56には、各気筒からの排ガスが点火順(故に、排気順)に到達する。気筒別空燃比差がない場合(気筒別空燃比の不均一性が発生していない場合)、各気筒から排出され且つ上流側空燃比センサ56に到達する排ガスの空燃比は互いに略同一である。従って、気筒別空燃比差がない場合の上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsは、例えば、図3の(B)において破線C1により示したように変化する。即ち、気筒間における空燃比の不均一性がない場合、上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsの波形は略平坦である。このため、上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfs値の軌跡長は短くなる。更に、図3の(C)において破線C3により示したように、出力値Vabyfsの微分値d(Vabyfs)/dt(変化率ΔAF)の絶対値は小さい。
【0012】
一方、「特定気筒(例えば、第1気筒)に対して燃料を噴射する燃料噴射弁33」の特性が「指示燃料噴射量よりも多い燃料を噴射する特性」となると、気筒別空燃比差が大きくなる。即ち、その特定気筒の排ガスの空燃比(インバランス気筒の空燃比)と、その特定気筒以外の気筒の排ガスの空燃比(非インバランス気筒の空燃比)と、は大きく相違する。
【0013】
従って、気筒別空燃比の不均一性の程度が大きくなった場合の出力値Vabyfsは、例えば図3の(B)の実線C2により示したように、単位燃焼サイクル期間毎に大きく変動する。このため、上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsの軌跡長は長くなる。更に、図3の(C)において実線C4により示したように、気筒別空燃比の不均一性の程度が大きくなった場合、微分値d(Vabyfs)/dt(変化率ΔAF)の絶対値は大きくなる。なお、単位燃焼サイクル期間は、前記上流側空燃比センサに到達する排ガスを排出する総ての気筒がそれぞれ一回の燃焼行程を終了するために必要とするクランク角度が経過する期間である。
【0014】
しかも、軌跡長及び変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|等は、インバランス気筒の空燃比が非インバランス気筒の空燃比から乖離するほど大きく変動する。例えば、インバランス気筒の空燃比と非インバランス気筒の空燃比との差の大きさが第1の値であるときの出力値Vabyfsが図3(B)の実線C2のように変化するとすれば、インバランス気筒の空燃比と非インバランス気筒の空燃比との差の大きさが「第1の値の値よりも大きい第2の値」であるときの出力値Vabyfsは図3(B)の一点鎖線C2aのように変化する。
【0015】
以上から理解されるように、気筒別空燃比の不均一性の程度が大きいほど、上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsの変動が大きくなるので、その出力値Vabyfsに基づいて気筒別空燃比の不均一性の程度を表す空燃比不均衡指標値を取得することができる。
【0016】
ところで、例えば、機関10の運転状態が加速状態及び減速状態等の過渡状態にある場合、機関の空燃比の中心(中心空燃比)は比較的低い周波数にて大きく変化することがある(図4の破線L1を参照。)。そのような中心空燃比の変化は上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsに現れる。従って、上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsは、気筒別空燃比の不均一性に起因する空燃比変動を表す信号(図4の実線L2を参照。)と機関の中心空燃比の変動を表す信号(図4及び図5の破線L1を参照。)とが重ね合わさった信号(図5の実線L3を参照。)となる。
【0017】
このような場合、気筒別空燃比の不均一性の程度が小さくても、上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsは大きく変動する。例えば、空燃比不均衡指標値を出力値Vabyfsの微分値d(Vabyfs)/dt(変化率ΔAF、即ち、傾き)に基いて算出する場合、機関の中心空燃比が変動していない場合の傾きは図4に示したθ1であるが、機関の中心空燃比が変動している場合には気筒別空燃比の不均一性の程度が同じであっても傾きは図5に示したθ2(θ2>θ1)となる。その結果、上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsに基づいて空燃比不均衡指標値を取得すると、その空燃比不均衡指標値は気筒別空燃比の不均一性の程度を精度良く表さない場合が生じる。
【0018】
このため、上記のように取得される空燃比不均衡指標値に基づいて空燃比気筒間インバランス状態が発生したか否かを判定すると、誤判定する虞がある。或いは、そのような空燃比不均衡指標値に基いて「後述するリーン誤補正補償増量制御」を制御すると、機関の空燃比を適切な空燃比へと制御できない虞がある。
【0019】
本発明は上述した課題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的の一つは、上流側空燃比センサの出力値を用いて精度の良い空燃比不均衡指標値を取得することができる多気筒内燃機関の燃料噴射量制御装置を提供することにある。
【0020】
本発明に係る多気筒内燃機関の燃料噴射量制御装置(以下、単に「本発明装置」と称呼する。)は、三元触媒と、上流側空燃比センサと、複数の燃料噴射弁と、指示燃料噴射量決定手段と、噴射指示信号送出手段と、を備え、更に、ハイパスフィルタ処理手段と、空燃比不均衡指標値取得手段と、を備える。
【0021】
前記三元触媒は、前記内燃機関が有する複数の気筒から排出された排ガスが集合する「前記機関の排気通路の排気集合部」よりも下流側の位置に配設される。
【0022】
前記上流側空燃比センサは、前記排気通路の前記排気集合部と前記三元触媒との間の位置に配設される。この上流側空燃比センサは、限界電流式の空燃比センサであってもよく、起電力式(濃淡電池型)の酸素濃度センサであってもよい。
【0023】
前記複数の燃料噴射弁のそれぞれは、前記複数の気筒のそれぞれの燃焼室に供給される混合気に含まれる燃料を噴射するように構成されている。
【0024】
前記指示燃料噴射量決定手段は、前記三元触媒に流入する排ガスの空燃比が目標空燃比に一致するように、「前記燃料噴射弁から噴射される燃料の量」を「少なくとも前記上流側空燃比センサの出力値に基いてフィードバック補正(フィードバック制御)すること」により「前記複数の燃料噴射弁のそれぞれから噴射される燃料の量の指示値(即ち、指示燃料噴射量)」を決定する。
【0025】
前記噴射指示信号送出手段は、前記指示燃料噴射量に応じた量の燃料が前記複数の燃料噴射弁のそれぞれから噴射されるように前記複数の燃料噴射弁に噴射指示信号を送出する。
【0026】
前記ハイパスフィルタ処理手段は、前記上流側空燃比センサの出力値に対してハイパスフィルタ処理を実行することによりハイパスフィルタ処理後出力値を取得する。換言すると、ハイパスフィルタ処理手段のハイパスフィルタ処理の時定数は、気筒別空燃比の不均一性の程度に起因する上流側空燃比センサの出力値の変動を通過させるが、機関の中心空燃比の変動に起因する上流側空燃比センサの出力値の変動を通過させないように設定される。このハイパスフィルタ処理は、所謂「ソフトウェアによるハイパスフィルタ処理」であってもよく、「ハードウェアのハイパスフィルタを用いた処理」であってもよい。
【0027】
前記空燃比不均衡指標値取得手段は、前記複数の気筒のそれぞれの燃焼室に供給される混合気の空燃比(即ち、気筒別空燃比)の「その複数の気筒間における不均一性の程度」が大きいほど大きくなる値であって「前記ハイパスフィルタ処理後出力値の変動が大きいほど大きくなる値」を、前記ハイパスフィルタ処理後出力値に基いて空燃比不均衡指標値として取得する。
【0028】
ハイパスフィルタ処理後出力値は、上流側空燃比センサの出力値に含まれている「機関の中心空燃比」の変動を上流側空燃比センサの出力値から除去した値に近づく。即ち、ハイパスフィルタ処理により、図5の実線L3に示した出力値は図4の実線L2に示した出力値へと変換される。従って、ハイパスフィルタ処理後出力値は、機関の中心空燃比の変動の影響を受けることなく、気筒別空燃比の不均一性の程度に応じて変動する値となる。従って、このハイパスフィルタ処理後出力値に基いて空燃比不均衡指標値を取得することにより、気筒別空燃比の不均一性の程度を精度良く表す空燃比不均衡指標値を取得することができる。
【0029】
ところで、気筒別空燃比の気筒間における不均一性が生じると、機関の真の平均空燃比(従って、排ガスの真の空燃比の平均)は、上記フィードバック制御(メインフィードバック制御)により、「理論空燃比又は理論空燃比近傍の空燃比である基準空燃比に設定される目標空燃比」よりもリーン側の空燃比(目標空燃比よりも大きい空燃比)」に制御される。この理由は、後に詳述するように、気筒に供給される混合気の空燃比がリッチ側の空燃比になると未燃物(HC、CO及びH)の量が例えば二次関数的に急激に増大するので(図2を参照。)、機関の空燃比の平均が同一であっても気筒別空燃比の不均一性の程度が大きい場合には気筒別空燃比の不均一性の程度が小さい場合に比べ多量の水素が排出され、その水素が上流側空燃比センサの出力値を「リッチ側の出力値」へと移行させてしまうからである。上流側空燃比センサの出力値が多量の水素によって「リッチ側の出力値」へと移行する理由は、水素が上流側空燃比センサの拡散抵抗層(多孔質層)を優先的に拡散するから(水素の選択的拡散が生じるから)である。
【0030】
上述した「水素の選択的拡散及びメインフィードバック制御に起因する空燃比のリーン側への移行」は、単に、「リーン誤補正」とも称呼される。「リーン誤補正」は、インバランス気筒の空燃比が、非インバランス気筒の空燃比よりもリーン側に偏移した場合においても、同様に発生する。更に、リーン誤補正による空燃比のリーン側への移行量は、水素の選択的拡散の程度が大きいほど大きくなるので、気筒別空燃比の不均一性の程度が大きくなるほど大きくなる。
【0031】
リーン誤補正が発生すると、排ガスの真の空燃比が「三元触媒のウインドウ」よりもリーン側(大きい)空燃比となる場合が生じる。このため、三元触媒のNOx(窒素酸化物)の浄化効率が低下し、NOxの排出量が増大する場合がある。
【0032】
一方、三元触媒の下流に配置された下流側空燃比センサには、三元触媒を通過した排ガスが到達する。水素は三元触媒においてある程度まで浄化される。従って、下流側空燃比センサの出力値は、気筒別空燃比の不均一性の程度が大きくなった場合であっても、機関の真の平均空燃比に近しい値を出力する。従って、下流側空燃比センサの出力値を「理論空燃比近傍の空燃比に相当する下流側目標値」に一致させるための「周知のサブフィードバック制御」が実行されれば、リーン誤補正が発生することを回避することができる。
【0033】
しかしながら、サブフィードバック量には上限値及び下限値が設けられることが多く、サブフィードバック量がその上限値又は下限値に一致してしまうと、サブフィードバック量によっても機関の空燃比を十分に制御できないので、NOxの排出量が増大する場合がある。更に、サブフィードバック量は比較的緩慢に変化するように構成される。従って、サブフィードバック量に上限値及び下限値が設けられていない場合、或いは、サブフィードバック量がその上限値又は下限値に一致していない場合であっても、例えば、機関の始動後等においてサブフィードバック量が不適切な値となっている期間が生じると、その期間においてNOxの排出量が増大する場合がある。加えて、リーン誤補正の程度は、吸入空気量Gaが大きくなるほど大きくなる。このため、吸入空気量Gaが急変すると、サブフィードバック量が適切な値と乖離している期間が生じ、NOxの排出量が増大する場合がある。
【0034】
そこで、本発明装置の一態様は、
「指示燃料噴射量によって決まる空燃比である指示空燃比(=各気筒に吸入される吸入空気量/指示燃料噴射量)」が「前記空燃比不均衡指標値が大きいほど小さくなる」ように、前記空燃比不均衡指標値に基づいて前記指示燃料噴射量を増大補正する燃料増量手段を備える。なお、このように「空燃比不均衡指標値に基いて指示燃料噴射量の増量を行う制御(指示空燃比をリッチ側へと移行する制御)」は、本明細書において、「リーン誤補正補償増量制御」とも称呼される。
【0035】
本発明装置によれば、空燃比不均衡指標値はハイパスフィルタ処理後出力値に基いて取得される。従って、空燃比不均衡指標値が気筒別空燃比の不均一性の程度を精度良く表すから、上記リーン誤補正補償増量制御が気筒別空燃比の不均一性の程度に応じて適切に実行される。その結果、上記リーン誤補正の影響を小さくすることができるとともに、燃料が過大に増量されることがないので、エミッション(NOx及び未燃物)の排出量を低減することができる。
【0036】
本発明装置の一態様における上記空燃比不均衡指標値取得手段は、空燃比不均衡指標値算出手段と、データ破棄手段(データ選別手段)と、を含む。
【0037】
前記空燃比不均衡指標値算出手段は、
前記空燃比不均衡指標値を算出する際の基礎データとなる基本指標値データを所定の第1サンプリング時間が経過する毎に前記ハイパスフィルタ処理後出力値に基いて取得するとともに、複数の前記基本指標値データを使用して前記空燃比不均衡指標値を算出する。例えば、空燃比不均衡指標値算出手段は、基本指標値データとしてハイパスフィルタ処理後出力値の時間微分値に相当する値を取得し、そのようにして得られた複数の時間微分値の平均値或いは最大値等を空燃比不均衡指標値として算出する。
【0038】
前記データ破棄手段は、ある一つの(任意の)単位燃焼サイクル期間において、所定の第2サンプリング時間が経過する毎に、微分値相関データを取得する。この微分値相関データは、「前記上流側空燃比センサの出力値の時間微分値及び前記ハイパスフィルタ処理後出力値の時間微分値」の何れかに相当する値を有するデータである。なお、第2サンプリング時間は、第1サンプリング時間と同一であってもよく、相違していてもよい。
【0039】
更に、前記データ破棄手段は、「前記取得された微分値相関データのうち正の符号を有するデータの数Np」に対する「前記取得された微分値相関データのうち負の符号を有するデータの数Nm」の比(Nm/Np)が「第1閾値以上であるか、又は、前記第1閾値よりも小さい第2閾値以下である」場合には、その単位燃焼サイクル期間において取得された基本指標値データを破棄する(即ち、その基本指標値データを前記空燃比不均衡指標値の算出に使用しないようにする)。
【0040】
なお、この場合、比(Nm/Np)を求めて、その比(Nm/Np)が「第1閾値以上であるか、又は、前記第1閾値よりも小さい第2閾値以下であるか」否かを判定してもよく、比(Nm/Np)以外の値を用いて、比(Nm/Np)が「第1閾値以上であるか、又は、前記第1閾値よりも小さい第2閾値以下であるか」否かを判定してもよい。例えば、そのような判定は、比(Np/Nm)、比{Nm/(Np+Nm}、及び比{Np/(Np+Nm}等を用いて行われ得、更に、差(Nm−Np)に相関する値に基いて行われ得る。
【0041】
機関の中心空燃比が減少しているとき、上流側空燃比センサの出力値の時間微分値に相当する値を有する微分値相関データは、正の値となる頻度が低く、負の値となる頻度は高い。従って、ある単位燃焼サイクル期間において、その微分値相関データのうちの「正の符号を有するデータの数Npと負の符号を有するデータの数Nmとの間」に偏りが生じるから、上記比(Nm/Np)は第1閾値よりも大きくなる。この場合、データ破棄手段は、その単位燃焼サイクル期間において取得された基本指標値データが空燃比不均衡指標値の算出に用いられないように、その基本指標値データを破棄する。従って、気筒別空燃比の不均一性の程度を一層精度良く表す空燃比不均衡指標値を取得することができる。
【0042】
同様に、機関の中心空燃比が増大しているとき、上流側空燃比センサの出力値の時間微分値に相当する値を有する微分値相関データは、正の値となる頻度が高く、負の値となる頻度は低い。従って、ある単位燃焼サイクル期間において、その微分値相関データのうちの「正の符号を有するデータの数Npと負の符号を有するデータの数Nmとの間」に偏りが生じるから、上記比(Nm/Np)は第2閾値よりも小さくなる。この場合、データ破棄手段は、その単位燃焼サイクル期間において取得された基本指標値データが空燃比不均衡指標値の算出に用いられないように、その基本指標値データを破棄する。従って、気筒別空燃比の不均一性の程度を一層精度良く表す空燃比不均衡指標値を取得することができる。
【0043】
加えて、機関の中心空燃比が変化しているとき、上記ハイパスフィルタ処理によっても、上流側空燃比センサの出力値から機関の中心空燃比の変動の影響を完全には除去できない場合がある。
【0044】
このような場合、機関の中心空燃比が減少しているとき、ハイパスフィルタ処理後出力値の時間微分値に相当する値を有する微分値相関データは、正の値となる頻度が低く、負の値となる頻度は高い。従って、ある単位燃焼サイクル期間において、その微分値相関データのうちの「正の符号を有するデータの数Npと負の符号を有するデータの数Nmとの間」に偏りが生じるから、比(Nm/Np)は第1閾値よりも大きくなる。この場合、データ破棄手段は、その単位燃焼サイクル期間において取得された基本指標値データが空燃比不均衡指標値の算出に用いられないように、その基本指標値データを破棄する。従って、気筒別空燃比の不均一性の程度を一層精度良く表す空燃比不均衡指標値を取得することができる。
【0045】
同様に、機関の中心空燃比が増大しているとき、ハイパスフィルタ処理後出力値の時間微分値に相当する値を有する微分値相関データは、正の値となる頻度が高く、負の値となる頻度は低い。従って、ある単位燃焼サイクル期間において、その微分値相関データのうちの「正の符号を有するデータの数Npと負の符号を有するデータの数Nmとの間」に偏りが生じるから、上記比(Nm/Np)は第2閾値よりも小さくなる。この場合、データ破棄手段は、その単位燃焼サイクル期間において取得された基本指標値データが空燃比不均衡指標値の算出に用いられないように、その基本指標値データを破棄する。従って、気筒別空燃比の不均一性の程度を一層精度良く表す空燃比不均衡指標値を取得することができる。
【0046】
代替として、前記データ破棄手段は、
前記単位燃焼サイクル期間に渡って前記上流側空燃比センサの出力値及び前記ハイパスフィルタ処理後出力値のいずれかが増大し続けるか又は減少し続けた場合には前記単位燃焼サイクル期間において取得された前記基本指標値データを破棄する(前記空燃比不均衡指標値の算出に使用しないようにする)ように構成され得る。
【0047】
前記上流側空燃比センサの出力値が増大し続けるか又は減少し続けた場合、機関の中心空燃比が大きく変動している可能性が高いので、そのような場合に得られる基本指標値データは、空燃比不均衡指標値の算出に使用されないほうがよい。
【0048】
前記ハイパスフィルタ処理後出力値のいずれかが増大し続けるか又は減少し続けた場合、前記ハイパスフィルタ処理後出力値が機関の中心空燃比の影響を多少なりとも受けており、且つ、機関の中心空燃比が大きく変動している可能性が高いので、そのような場合に得られる基本指標値データは、空燃比不均衡指標値の算出に使用されないほうがよい。
【0049】
従って、このデータ破棄手段を備えることにより、気筒別空燃比の不均一性の程度を一層精度の良く表す空燃比不均衡指標値を取得することができる。
【0050】
更に、別のデータ破棄手段は、
前記単位燃焼サイクル期間において、「前記機関の吸入空気量が大きいほど大きくなる吸入空気量相関パラメータ」の時間微分値に相当する値の大きさが、第3閾値以上となった場合、前記単位燃焼サイクル期間において取得された前記基本指標値データを破棄する(前記空燃比不均衡指標値の算出に使用しないようにする)ように構成され得る。
【0051】
この場合、前記吸入空気量相関パラメータは前記機関のスロットル弁開度であってもよく、吸入空気量そのもの、アクセルペダル操作量、及び、機関の負荷(負荷率)等であってもよい。
【0052】
吸入空気量が増大する場合(即ち、加速状態)、或いは、吸入空気量が減少する場合(即ち、減速状態)においては、機関の中心空燃比が変動し易いので、このような場合に得られた基本指標値データは空燃比不均衡指標値の算出に使用されないほうがよい。従って、このデータ破棄手段を備えることにより、気筒別空燃比の不均一性の程度を一層精度の良く表す空燃比不均衡指標値を取得することができる。
【0053】
以上からも理解されるように、本発明装置は、
前記上流側空燃比センサの出力値のうち「前記単位燃焼サイクル期間を一周期として変動する成分」を抽出する成分抽出手段と、
前記気筒別空燃比の不均一性の程度が大きいほど大きくなる値であって「前記抽出された成分の変動が大きいほど大きくなる空燃比不均衡指標値」を前記抽出された成分に基いて取得する空燃比不均衡指標値取得手段と、
を備える。
【0054】
そして、本発明装置の態様は、
前記指示燃料噴射量によって決まる空燃比である指示空燃比が、前記空燃比不均衡指標値が大きいほど小さくなるように、前記空燃比不均衡指標値に基づいて前記指示燃料噴射量を増大補正する燃料増量手段を備える。
【0055】
これにより、空燃比不均衡指標値が気筒別空燃比の不均一性の程度を精度良く表すから、上記リーン誤補正補償増量制御が気筒別空燃比の不均一性の程度に応じて適切に実行される。その結果、上記リーン誤補正の影響を小さくすることができるとともに、燃料が過大に増量されることがないので、エミッション(NOx及び未燃物)の排出量を低減することができる。
【0056】
本発明装置の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明装置の各実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、本発明の各実施形態に係る燃料噴射量制御装置が適用される内燃機関の概略図である。
【図2】図2は、気筒に供給された混合気の空燃比と、その気筒から排出される未燃成分の量と、の関係を示したグラフである。
【図3】図3は、空燃比気筒間インバランス状態が発生した場合(気筒別空燃比の不均一性の程度が大きい場合)及び空燃比気筒間インバランス状態が発生していない場合(気筒別空燃比の不均一性が生じていない場合)の「空燃比不均衡指標値に関連する各値の挙動」を示したタイムチャートである。
【図4】図4は、気筒別空燃比の不均一性の程度に応じて変動する上流側空燃比センサの出力値と、機関の中心空燃比の変化に応じて変動する上流側空燃比センサの出力値と、を示したタイムチャートである。
【図5】図5は、気筒別空燃比の不均一性が程度に応じて変動する成分が機関の中心空燃比の変化に応じて変動する成分に重畳した場合における上流側空燃比センサの出力値を示したタイムチャートである。
【図6】図6は、図1に示した上流側空燃比センサの部分概略斜視図(透視図)である。
【図7】図7は、図1に示した上流側空燃比センサの部分断面図である。
【図8】図8の(A)〜(C)のそれぞれは、図1に示した上流側空燃比センサが備える空燃比検出部の概略断面図である。
【図9】図9は、排ガスの空燃比(上流側空燃比)と空燃比センサの限界電流値との関係を示したグラフである。
【図10】図10は、排ガスの空燃比(上流側空燃比)と空燃比センサの出力値との関係を示したグラフである。
【図11】図11は、排ガスの空燃比(下流側空燃比)と図1に示した下流側空燃比センサの出力値との関係を示したグラフである。
【図12】図12は、実際の気筒別空燃比の不均一性の程度(インバランス割合)と、上流側空燃比センサの出力値の変化率に相関する空燃比不均衡指標値と、の関係を示したグラフである。
【図13】図13は、本発明の実施形態に係る燃料噴射量制御装置(本制御装置)のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図14】図14は、本制御装置のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図15】図15は、本制御装置のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図16】図16は、本制御装置のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図17】図17は、本制御装置のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図18】図18は、三元触媒に流入する排ガスの空燃比と、三元触媒の上流に配設された「起電力式の酸素濃度センサ」である空燃比センサの出力値と、の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、本発明の各実施形態に係る内燃機関の燃料噴射量制御装置(以下、単に「制御装置」とも称呼する。)について図面を参照しながら説明する。この制御装置は、内燃機関に供給される混合気の空燃比(機関の空燃比)を制御する空燃比制御装置の一部でもある。
【0059】
<第1実施形態>
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る多気筒内燃機関の燃料噴射量制御装置(以下、「本制御装置」とも称呼する。)を、4サイクル・火花点火式・多気筒(直列4気筒)・内燃機関10に適用したシステムの概略構成を示している。
【0060】
内燃機関10は、機関本体部20と、吸気系統30と、排気系統40と、を含む。
【0061】
機関本体部20は、シリンダブロック部及びシリンダヘッド部を含む。機関本体部20は、複数の気筒(燃焼室)21を備えている。各気筒は、図示しない「吸気ポート及び排気ポート」と連通している。吸気ポートと燃焼室21との連通部は図示しない吸気弁により開閉される。排気ポートと燃焼室21との連通部は図示しない排気弁により開閉される。各燃焼室21には図示しない点火プラグが配設されている。
【0062】
吸気系統30は、インテークマニホールド31、吸気管32、複数の燃料噴射弁33、及び、スロットル弁34を備えている。
【0063】
インテークマニホールド31は、複数の枝部31aとサージタンク31bとを備えている。複数の枝部31aのそれぞれの一端は、複数の吸気ポートのそれぞれに接続されている。複数の枝部31aの他端はサージタンク31bに接続されている。
【0064】
吸気管32の一端はサージタンク31bに接続されている。吸気管32の他端には図示しないエアフィルタが配設されている。
【0065】
燃料噴射弁33は、一つの気筒(燃焼室)21に対して一つずつ配設されている。燃料噴射弁33は吸気ポートに設けられている。即ち、複数の気筒のそれぞれは、他の気筒とは独立して燃料供給を行う燃料噴射弁33を備えている。燃料噴射弁33は、噴射指示信号に応答し、正常である場合に「その噴射指示信号に含まれる指示燃料噴射量の燃料」を吸気ポート(従って、燃料噴射弁33に対応する気筒)内に噴射するようになっている。
【0066】
より具体的に述べると、燃料噴射弁33は、指示燃料噴射量に応じた時間だけ開弁する。燃料噴射弁33に供給されている燃料の圧力は、その燃料の圧力と吸気ポート内の圧力との差圧が一定になるように図示しないプレッシャレギュレータにより制御されている。従って、燃料噴射弁33が正常であれば、燃料噴射弁33は指示燃料噴射量と等量の燃料を噴射する。しかしながら、燃料噴射弁33に異常が発生すると、燃料噴射弁33は指示燃料噴射量とは相違する量の燃料を噴射するようになる。これにより、気筒別空燃比の気筒間における不均一性が発生する。
【0067】
スロットル弁34は、吸気管32内に回動可能に配設されている。スロットル弁34は、吸気通路の開口断面積を可変とするようになっている。スロットル弁34は、図示しないスロットル弁アクチュエータにより吸気管32内で回転駆動されるようになっている。
【0068】
排気系統40は、エキゾーストマニホールド41、エキゾーストパイプ42、エキゾーストパイプ42に配設された上流側触媒43、及び、上流側触媒43よりも下流においてエキゾーストパイプ42に配設された「図示しない下流側触媒」を備えている。
【0069】
エキゾーストマニホールド41は、複数の枝部41aと集合部41bとを備えている。複数の枝部41aのそれぞれの一端は、複数の排気ポートのそれぞれに接続されている。複数の枝部41aのそれぞれの他端は集合部41bに集合している。この集合部41bは、複数(2以上であり、本例では4つ)の気筒から排出された排ガスが集合する部分であるから、排気集合部HKとも称呼される。
【0070】
エキゾーストパイプ42は集合部41bに接続されている。排気ポート、エキゾーストマニホールド41及びエキゾーストパイプ42は、排気通路を構成している。
【0071】
上流側触媒43及び下流側触媒のそれぞれは、所謂、白金、ロジウム及びパラジウム等の貴金属(触媒物質)からなる活性成分を担持する三元触媒装置(排気浄化用の触媒)である。各触媒は、各触媒に流入するガスの空燃比が「三元触媒のウインドウ内の空燃比(例えば、理論空燃比)」であるとき、HC,CO,Hなどの未燃成分を酸化するとともに窒素酸化物(NOx)を還元する機能を有する。この機能は触媒機能とも称呼される。更に、各触媒は、酸素を吸蔵(貯蔵)する酸素吸蔵機能を有する。各触媒は、酸素吸蔵機能により空燃比が理論空燃比から偏移したとしても未燃成分及び窒素酸化物を浄化することができる。つまり、酸素吸蔵機能により、ウインドウの幅が拡大する。酸素吸蔵機能は、触媒に担持されているセリア(CeO)等の酸素吸蔵材によってもたらされる。
【0072】
このシステムは、熱線式エアフローメータ51、スロットルポジションセンサ52、水温センサ53、クランクポジションセンサ54、インテークカムポジションセンサ55、上流側空燃比センサ56、下流側空燃比センサ57、及び、アクセル開度センサ58を備えている。
【0073】
エアフローメータ51は、吸気管32内を流れる吸入空気の質量流量(吸入空気流量)Gaに応じた信号を出力するようになっている。即ち、吸入空気量Gaは、単位時間あたりに機関10に吸入される吸入空気量を表す。
【0074】
スロットルポジションセンサ52は、スロットル弁34の開度(スロットル弁開度)を検出し、スロットル弁開度TAを表す信号を出力するようになっている。
【0075】
水温センサ53は、内燃機関10の冷却水の温度を検出し、冷却水温THWを表す信号を出力するようになっている。冷却水温THWは、機関10の暖機状態(機関10の温度)を表すパラメータである。
【0076】
クランクポジションセンサ54は、クランク軸が10°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともに同クランク軸が360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するようになっている。この信号は、後述する電気制御装置70によって機関回転速度NEに変換される。
【0077】
インテークカムポジションセンサ55は、インテークカムシャフトが所定角度から90度、次いで90度、更に180度回転する毎に一つのパルスを出力するようになっている。後述する電気制御装置70は、クランクポジションセンサ54及びインテークカムポジションセンサ55からの信号に基づいて、基準気筒(例えば第1気筒)の圧縮上死点を基準とした絶対クランク角度CAを取得するようになっている。この絶対クランク角度CAは、基準気筒の圧縮上死点において「0°クランク角度」に設定され、クランク軸の回転角度に応じて720°クランク角度まで増大し、その時点にて再び0°クランク角度に設定される。
【0078】
上流側空燃比センサ56は、エキゾーストマニホールド41の集合部41b(排気集合部HK)と上流側触媒43との間の位置において「エキゾーストマニホールド41及びエキゾーストパイプ42の何れか」に配設されている。上流側空燃比センサ56は、単に「空燃比センサ」とも称呼される。
【0079】
上流側空燃比センサ56は、例えば、特開平11−72473号公報、特開2000−65782号公報及び特開2004−69547号公報等に開示された「拡散抵抗層を備える限界電流式広域空燃比センサ」である。
【0080】
上流側空燃比センサ56は、図6及び図7に示したように、空燃比検出部56aと、外側保護カバー56bと、内側保護カバー56cと、を有している。
【0081】
外側保護カバー56bは金属からなる中空円筒体である。外側保護カバー56bは内側保護カバー56cを覆うように、内側保護カバー56cを内部に収容している。外側保護カバー56bは、流入孔56b1をその側面に複数備えている。流入孔56b1は、排気通路を流れる排ガス(外側保護カバー56bの外部の排ガス)EXを外側保護カバー56bの内部に流入させるための貫通孔である。更に、外側保護カバー56bは、外側保護カバー56bの内部の排ガスを外部(排気通路)に流出させるための流出孔56b2をその底面に有している。
【0082】
内側保護カバー56cは、金属からなり、外側保護カバー56bの直径よりも小さい直径を有する中空円筒体である。内側保護カバー56cは、空燃比検出部56aを覆うように空燃比検出部56aを内部に収容している。内側保護カバー56cは流入孔56c1をその側面に複数備えている。この流入孔56c1は、外側保護カバー56bの流入孔56b1を通して「外側保護カバー56bと内側保護カバー56cとの間の空間」に流入した排ガスを、内側保護カバー56cの内部に流入させるための貫通孔である。更に、内側保護カバー56cは、内側保護カバー56cの内部の排ガスを外部に流出させるための流出孔56c2をその底面に有している。
【0083】
図8の(A)〜(C)に示したように、空燃比検出部56aは、固体電解質層561と、排ガス側電極層562と、大気側電極層563と、拡散抵抗層564と、第一壁部565と、触媒部566と、第二壁部567と、ヒータ568と、を含んでいる。
【0084】
固体電解質層561は酸素イオン導電性酸化物焼結体である。本例において、固体電解質層561は、ZrO(ジルコニア)にCaOを安定剤として固溶させた「安定化ジルコニア素子」である。固体電解質層561は、その温度が活性温度以上であるとき、周知の「酸素電池特性」及び「酸素ポンプ特性」を発揮する。
【0085】
排ガス側電極層562は、白金(Pt)等の触媒活性の高い貴金属からなる。排ガス側電極層562は、固体電解質層561の一つの面上に形成されている。排ガス側電極層562は、化学メッキ等により浸透性を十分に有するように(即ち、多孔質状に)形成されている。
【0086】
大気側電極層563は、白金(Pt)等の触媒活性の高い貴金属からなる。大気側電極層563は、固体電解質層561の他の面上であって、固体電解質層561を挟んで排ガス側電極層562に対向するように形成されている。大気側電極層563は、化学メッキ等により浸透性を十分に有するように(即ち、多孔質状に)形成されている。
【0087】
拡散抵抗層(拡散律速層)564は、多孔質セラミック(耐熱性無機物質)からなる。拡散抵抗層564は、排ガス側電極層562の外側表面を覆うように、例えば、プラズマ溶射法等により形成されている。
【0088】
第一壁部565は、緻密であってガスを透過させないアルミナセラミックスからなる。第一壁部565は拡散抵抗層564の角部(一部)を除いて拡散抵抗層564を覆うように形成されている。即ち、第一壁部565は拡散抵抗層564の一部を外部に露呈させる貫通部を備えている。
【0089】
触媒部566は、第一壁部565の貫通部を閉じるように貫通部に形成されている。触媒部566は、上流側触媒43と同様、酸化還元反応を促進する触媒物質及び酸素吸蔵機能を発揮する酸素吸蔵材を担持している。触媒部566は多孔質体である。従って、図8の(B)及び図8の(C)に白抜きの矢印により示したように、排ガス(前述した内側保護カバー56cの内部に流入した排ガス)は、触媒部566を通過して拡散抵抗層564に到達し、その排ガスは更に拡散抵抗層564を通過して排ガス側電極層562に到達する。
【0090】
第二壁部567は、緻密であってガスを透過させないアルミナセラミックスからなる。第二壁部567は大気側電極層563を収容する空間である「大気室56A」を形成するように構成されている。大気室56Aには大気が導入されている。
【0091】
上流側空燃比センサ56には電源569が接続されている。電源569は、大気側電極層563側が高電位となり、排ガス側電極層562が低電位となるように、電圧V(=Vp)を印加する。
【0092】
ヒータ568は第二壁部567に埋設されている。ヒータ568は後述する電気制御装置70によって通電されたときに発熱し、固体電解質層561、排ガス側電極層562及び大気側電極層563を加熱し、それらの温度を調整するようになっている。
【0093】
このような構造を有する上流側空燃比センサ56は、図8の(B)に示したように、排ガスの空燃比が理論空燃比よりもリーン側の空燃比であるとき、拡散抵抗層564を通って排ガス側電極層562に到達した酸素をイオン化して大気側電極層563へと通過させる。この結果、電源569の正極から負極へと電流Iが流れる。この電流Iの大きさは、図9に示したように、電圧Vを所定値Vp以上に設定すると、排ガス側電極層562に到達した酸素の濃度(酸素分圧、排ガスの空燃比)に比例した一定値となる。上流側空燃比センサ56は、この電流(即ち、限界電流Ip)を電圧に変換した値を出力値Vabyfsとして出力する。
【0094】
これに対し、図8の(C)に示したように、排ガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチ側の空燃比であるとき、上流側空燃比センサ56は、大気室56Aに存在する酸素をイオン化して排ガス側電極層562へと導き、拡散抵抗層564を通って排ガス側電極層562に到達する未燃物(HC,CO及びH等)を酸化する。この結果、電源569の負極から正極へと電流Iが流れる。この電流Iの大きさも、図9に示したように、電圧Vを所定値Vp以上に設定すると、排ガス側電極層562に到達した未燃物の濃度(即ち、排ガスの空燃比)に比例した一定値となる。上流側空燃比センサ56は、この電流(即ち、限界電流Ip)を電圧に変換した値を出力値Vabyfsとして出力する。
【0095】
即ち、空燃比検出部56aは、上流側空燃比センサ56の配設位置を流れ、且つ、外側保護カバー56bの流入孔56b1及び内側保護カバー56cの流入孔56c1を通って空燃比検出部56aに到達しているガスの空燃比に応じた出力値Vabyfsを「空燃比センサ出力」として出力する。出力値Vabyfsは、空燃比検出部56aに到達しているガスの空燃比が大きくなるほど(リーンとなるほど)増大する。即ち、出力値Vabyfsは、図10に示したように、空燃比検出部56aに到達している排ガスの空燃比に実質的に比例する。なお、出力値Vabyfsは、空燃比検出部56aに到達しているガスの空燃比が理論空燃比であるとき、理論空燃比相当値Vstoichに一致する。
【0096】
このように、上流側空燃比センサ56は、「機関10の排気通路であって排気集合部HKと三元触媒43との間の位置に配設されるとともに、空燃比検出素子(固体電解質層)561と、前記空燃比検出素子561を挟んで対向するように配設された排ガス側電極層562及び基準ガス側電極層563と、前記排ガス側電極層562を覆う多孔質層(拡散抵抗層)564と、を有する空燃比センサであって、前記空燃比センサが配設された位置を通過する排ガスのうち前記多孔質層564を通って前記排ガス側電極層562に到達した排ガスに含まれる酸素の量(酸素の濃度、酸素分圧)及び未燃物の量(未燃物の濃度、未燃物の分圧)に応じた出力値を出力する空燃比センサである。」と言うことができる。
【0097】
電気制御装置70は、図10に示した空燃比変換テーブル(マップ)Mapabyfsを記憶している。電気制御装置70は、上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsを空燃比変換テーブルMapabyfsに適用することにより、実際の上流側空燃比abyfsを検出する(即ち、検出空燃比abyfsを取得する)。
【0098】
ところで、排ガスに含まれる水素を含む未燃物は、触媒部566においてある程度まで浄化される。しかし、排ガスに多量の未燃物が含まれる場合、その未燃物を触媒部566において完全に浄化することはできない。その結果、拡散抵抗層564の外表面には、「酸素、及び、その酸素に対して過剰な未燃物」が到達する場合が生じる。更に、前述したように、水素は他の未燃物よりも分子径が小さいので、水素は他の未燃物と比較して拡散抵抗層564を優先的に拡散する。
【0099】
加えて、上流側空燃比センサ56は、前述したように、排気集合部HKと上流側触媒43との間の位置に配設されている。更に、上流側空燃比センサ56は、エキゾーストマニホールド41の内部及びエキゾーストパイプ42の内部の何れかに外側保護カバー56bが露呈するように配設されている。
【0100】
より具体的には、上流側空燃比センサ56は、図6及び図7に示したように、保護カバー(56b、56c)の底面が排ガスEXの流れと平行であり、保護カバー(56b、56c)の中心軸線CCが排ガスEXの流れと直交するように排気通路内に配設される。これにより、外側保護カバー56bの流入孔56b1に到達した排気通路内の排ガスEXは、外側保護カバー56bの流出孔56b2近傍を流れる排気通路内の排ガスEXの流れにより、外側保護カバー56b及び内側保護カバー56cの内部へと吸い込まれる。
【0101】
従って、排気通路を流れる排ガスEXは、図6及び図7において矢印Ar1により示したように外側保護カバー56bの流入孔56b1を通って外側保護カバー56bと内側保護カバー56cとの間に流入する。次いで、その排ガスは、矢印Ar2に示したように「内側保護カバー56cの流入孔56c1」を通って「内側保護カバー56cの内部」に流入した後に、空燃比検出部56aに到達する。その後、その排ガスは、矢印Ar3に示したように「内側保護カバー56cの流出孔56c2及び外側の保護カバー56bの流出孔56b2」を通って排気通路に流出する。
【0102】
このため、「外側保護カバー56b及び内側保護カバー56c」の内部における排ガスの流速は、外側保護カバー56bの流出孔56b2近傍を流れる排ガスEXの流速(従って、単位時間あたりの吸入空気量である吸入空気量Ga)に応じて変化する。換言すると、「ある空燃比の排ガス(第1排ガス)が流入孔56b1に到達した時点」から「その第1排ガスが空燃比検出部56aに到達する時点」までの時間は、吸入空気量Gaに依存するが機関回転速度NEには依存しない。従って、上流側空燃比センサ56の「排気通路を流れる排ガスの空燃比」に対する出力応答性(応答性)は、上流側空燃比センサ56の外側保護カバー56bの近傍を流れる排ガスの流量(流速)が大きいほど、即ち、吸入空気量Gaが大きいほど、良好になる。このことは、上流側空燃比センサ56が内側保護カバー56cのみを有する場合にも成立する。
【0103】
再び、図1を参照すると、下流側空燃比センサ57は、エキゾーストパイプ42内に配設されている。下流側空燃比センサ57の配設位置は、上流側触媒43よりも下流側であり、且つ、下流側触媒よりも上流側(即ち、上流側触媒43と下流側触媒との間の排気通路)である。下流側空燃比センサ57は、周知の起電力式の酸素濃度センサ(安定化ジルコニア等の固体電解質を用いた周知の濃淡電池型の酸素濃度センサ)である。下流側空燃比センサ57は、排気通路であって下流側空燃比センサ57が配設されている部位を通過するガスである被検出ガスの空燃比に応じた出力値Voxsを発生するようになっている。換言すると、出力値Voxsは、上流側触媒43から流出し且つ下流側触媒に流入するガスの空燃比に応じた値である。
【0104】
この出力値Voxsは、図11に示したように、被検出ガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチのとき最大出力値max(例えば、約0.9V〜1.0V)となる。出力値Vabyfsは、被検出ガスの空燃比が理論空燃比よりもリーンのとき最小出力値min(例えば、約0.1V〜0V)となる。更に、出力値Voxsは、被検出ガスの空燃比が理論空燃比であるとき最大出力値maxと最小出力値minの略中間の電圧Vst(中間電圧Vst、例えば、約0.5V)となる。出力値Voxsは、被検出ガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチな空燃比からリーンな空燃比へと変化する際に最大出力値maxから最小出力値minへと急変する。同様に、出力値Voxsは、被検出ガスの空燃比が理論空燃比よりもリーンな空燃比からリッチな空燃比へと変化する際に最小出力値minから最大出力値maxへと急変する。
【0105】
なお、下流側空燃比センサ57も、固体電解質層と、固体電解質層を挟んで対向するように固体電解質層の両面に配設された「排ガス側電極層及び大気側(基準ガス側)電極層」とを備え、且つ、排ガス側電極層は多孔質層(保護層)により覆われている。従って、被検出ガスは、多孔質層を通過する際に酸素平衡後ガス(酸素及び未燃物が化合した後のガス)へと変化し、排ガス側電極層に到達する。水素は、他の未燃物よりも、その多孔質層を容易に通過する。但し、上流側触媒43により、「気筒別空燃比の不均一性が生じた際に発生する過剰な水素」は特別な場合を除き浄化される。従って、下流側空燃比センサ57の出力値Voxsは、特別な場合を除き、気筒別空燃比の不均一性の程度によって変化しない。
【0106】
図1に示したアクセル開度センサ58は、運転者によって操作されるアクセルペダルAPの操作量Accp(アクセルペダル操作量、アクセルペダルAPの開度)を表す信号を出力するようになっている。アクセルペダル操作量Accpは、アクセルペダルAPの操作量が大きくなるとともに大きくなる。
【0107】
電気制御装置70は、「CPU、CPUが実行するプログラム、テーブル(マップ、関数)及び定数等を予め記憶したROM、CPUが必要に応じてデータを一時的に格納するRAM、バックアップRAM、並びに、ADコンバータを含むインターフェース等」からなる周知のマイクロコンピュータである。
【0108】
バックアップRAMは、機関10を搭載した車両の図示しないイグニッション・キー・スイッチの位置(オフ位置、始動位置及びオン位置等の何れか)に関わらず、車両に搭載されたバッテリから電力の供給を受けるようになっている。バックアップRAMは、バッテリから電力の供給を受けている場合、CPUの指示に応じてデータを格納する(データが書き込まれる)とともに、そのデータを読み出し可能となるように保持(記憶)する。従って、バックアップRAMは、機関10の運転停止中においてもデータを保持することができる。
【0109】
バックアップRAMは、バッテリが車両から取り外される等によりバッテリからの電力供給が遮断されると、データを保持することができない。そこで、CPUは、バックアップRAMへの電力供給が再開されたとき、バックアップRAMに保持されるべきデータを初期化(デフォルト値に設定)するようになっている。なお、バックアップRAMは、EEPROM等の読み書き可能な不揮発性メモリであってもよい。
【0110】
電気制御装置70は、上述したセンサ等と接続され、CPUにそれらのセンサからの信号を供給するようになっている。更に、電気制御装置70は、CPUの指示に応じて、各気筒に対応して設けられた点火プラグ(実際にはイグナイタ)、各気筒に対応して設けられた燃料噴射弁33、及び、スロットル弁アクチュエータ等に駆動信号(指示信号)を送出するようになっている。
【0111】
なお、電気制御装置70は、取得されたアクセルペダルの操作量Accpが大きくなるほどスロットル弁開度TAが大きくなるように、スロットル弁アクチュエータに指示信号を送出するようになっている。即ち、電気制御装置70は、運転者により変更される機関10の加速操作量(アクセルペダル操作量Accp)に応じて「機関10の吸気通路に配設されたスロットル弁34」の開度を変更するスロットル弁駆動手段を備えている。
【0112】
(水素の選択的拡散及びメインフィードバック制御に起因する空燃比のリーン側への移行、即ち、リーン誤補正について)
インバランス気筒の空燃比が非インバランス気筒の空燃比よりもリッチ側に偏移した場合、上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsに基く空燃比のフィードバック制御(メインフィードバック制御)により、機関の空燃比がリーン側に偏移する理由(リーン誤補正の発生理由)について詳細に説明する。以下において、目標空燃比は、便宜上、理論空燃比に設定されているものとする。
【0113】
機関に供給される燃料は炭素と水素との化合物である。従って、燃焼に供される混合気の空燃比が理論空燃比よりもリッチ側の空燃比であると、「炭化水素HC、一酸化炭素CO及び水素H等」の未燃物が中間生成物として生成される。この場合、燃焼に供される混合気の空燃比が理論空燃比よりもリッチ側の空燃比であって理論空燃比から遠ざかるほど、燃焼期間中に中間生成物が酸素と出合って結合する確率が急激に小さくなる。この結果、未燃物(HC、CO及びH)の量は、図2に示したように、気筒に供給される混合気の空燃比がリッチ側の空燃比になるほど急激に(例えば、二次関数的に)増大する。
【0114】
このため、例えば、特定気筒に対して供給される燃料の量のみが40%だけ過剰な量となった場合、排ガスに含まれる水素Hの総量SH1は、図2によれば、SH1=H3+H0+H0+H0=H3+3・H0となる。
【0115】
ここで、機関10の各気筒に吸入される空気量(重量)はA0であると仮定する。更に、各気筒に供給される燃料量(重量)がF0であるとき、空燃比A0/F0は理論空燃比に一致すると仮定する。この仮定によれば、「特定気筒に対して供給される燃料の量のみが40%だけ過剰な量となった場合」に4気筒に供給される燃料の総量(各気筒がそれぞれ一回の燃焼行程を終了する間に機関全体に供給される燃料の量)は4.4・F0(=1.4・F0+1・F0+1・F0+1・F0)である。よって、機関の真の平均空燃比は、4・A0/(4.4・F0)=A0/(1.1・F0)となる。
【0116】
これに対し、「各気筒に対して供給される燃料の量が均等に10%だけ過剰となった場合」に排ガスに含まれる水素Hの総量SH2は、図2によれば、SH2=H1+H1+H1+H1=4・H1となる。この場合の機関10に供給される燃料の総量は4.4・F0(=1.1・F0+1.1・F0+1.1・F0+1.1・F0)である。よって、機関の真の平均空燃比は、この場合においても、4・A0/(4.4・F0)=A0/(1.1・F0)となる。量H1は量H0よりも僅かに大きいが、量H1及び量H0は共に極めて微量である。即ち、量H1と量H0とは、量H3に比べた場合、互いに略等しいと言える。従って、水素総量SH1は水素総量SH2よりも極めて大きくなる(SH1>>SH2)。
【0117】
このように、機関10全体に供給される混合気の空燃比の真の平均値が同一であっても、空燃比気筒間インバランスが発生した場合に排ガスに含まれる水素の総量SH1は、空燃比気筒間インバランスが発生していない場合に排ガスに含まれる水素の総量SH2よりも、顕著に大きくなる。
【0118】
従って、特定気筒に対して供給される燃料の量のみが40%だけ過剰な量となった場合、拡散抵抗層564における「水素Hの選択的拡散」に起因して、上流側空燃比センサの出力値Vabyfsにより表される検出空燃比abyfsは「機関10全体に供給される混合気の空燃比の真の平均値(A0/(1.1・F0))」よりもリッチ側の空燃比(小さい空燃比)となる。
【0119】
つまり、排ガスの空燃比の平均値が同じであっても、空燃比気筒間インバランスが発生している場合には、空燃比気筒間インバランスが発生していない場合よりも、上流側空燃比センサ56の排ガス側電極層562における水素Hの濃度が高くなるから、上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsは「空燃比の真の平均値」よりもリッチ側の空燃比を示す値となるのである。その結果、メインフィードバック制御により、機関10全体に供給される混合気の空燃比の真の平均は、目標空燃比よりもリーン側に制御されてしまう。本制御装置は、このようなリーン側への補正を補償することにより、窒素酸化物の排出量を低減する。
【0120】
インバランス気筒の空燃比が、非インバランス気筒の空燃比よりもリーン側に偏移した場合においても、「水素の選択的拡散に起因する空燃比のリーン側への移行」が発生する。このような状況は、例えば、特定気筒に対して備えられている燃料噴射弁33の噴射特性が「指示燃料噴射量よりも相当に少ない量の燃料を噴射する特性」になった場合に生じる。
【0121】
いま、ある一つの特定気筒(便宜上、第1気筒とする。)に対して供給される燃料の量が40%だけ過小な量(即ち、0.6・F0)であり、残りの3気筒(第2、第3及び第4気筒)に対して供給される燃料の量はそれらの気筒の空燃比が理論空燃比と一致するような燃料の量(即ち、F0)となった場合を想定する。なお、この場合、失火は発生しないものと仮定している。
【0122】
この場合、メインフィードバック制御により、第1気筒乃至第4気筒に供給される燃料の量は同じ所定量(10%)だけ増大されたと仮定する。このとき、第1気筒に供給される燃料の量は0.7・F0となり、第2乃至第4気筒のそれぞれに供給される燃料の量は1.1・F0となる。
【0123】
係る状態においては、4気筒エンジンである機関10に供給される空気量の総量(各気筒がそれぞれ一回の燃焼行程を終了する間に機関10全体に供給される空気量)は4・A0である。また、メインフィードバック制御の結果、機関10に供給される燃料量の総量(各気筒がそれぞれ一回の燃焼行程を終了する間に機関10全体に供給される燃料の量)は4・F0(=0.7・F0+1.1・F0+1.1・F0+1.1・F0)となる。よって、機関10全体に供給される混合気の空燃比の真の平均値は、4・A0/(4・F0)=A0/F0、即ち、理論空燃比となる。
【0124】
しかしながら、実際には、この状態における「排ガスに含まれる水素Hの総量SH3」は、SH3=H4+H1+H1+H1=H4+3・H1となる(図2を参照。)。H4は、空燃比がA0/(0.7・F0)であるときに発生する水素量であり、値H0(空燃比が理論空燃比であるときに発生する水素量)と略等しい。
【0125】
これに対し、空燃比気筒間インバランスが発生しておらず、各気筒の空燃比が理論空燃比である場合、「排ガスに含まれる水素Hの総量SH4」は、SH4=H0+H0+H0+H0=4・H0となる。以上から、総量SH3(=H4+3・H1)=H0+3・H1>総量SH4(=4・H0)が成立する。
【0126】
従って、「インバランス気筒の空燃比が、非インバランス気筒の空燃比よりもリーン側に偏移した場合」においても、水素の選択的拡散の影響が上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsに現れる。即ち、出力値Vabyfsを空燃比変換テーブルMapabyfsに適用することにより得られる検出空燃比abyfsは、上流側目標空燃比abyfrである理論空燃比よりも「リッチ側の空燃比(理論空燃比よりも小さい空燃比)」となる。その結果、メインフィードバック制御が更に実行され、機関10全体に供給される混合気の空燃比の真の平均値は、理論空燃比よりもリーン側に補正されてしまう。本発明の実施形態に係る制御装置は、このようなリーン側への補正を補償することにより、窒素酸化物の排出量を低減する。
【0127】
(燃料噴射量制御の概要)
次に、本制御装置が実行する燃料噴射量制御の概要について説明する。
本制御装置は、上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsにより表される検出空燃比abyfsが「目標空燃比(上流側目標空燃比)abyfr」に一致するように、指示燃料噴射量をフィードバック補正(増減)する。即ち、本制御装置は、メインフィードバック制御を実行する。
【0128】
更に、本制御装置は、気筒別空燃比の不均一性の程度が大きくなるほど大きくなる空燃比不均衡指標値RIMBを求め、その空燃比不均衡指標値RIMBが大きいほどより多くの燃料が噴射されるように指示燃料噴射量Fiを増大させる。即ち、本制御装置は、空燃比不均衡指標値RIMBが大きいほど、「指示燃料噴射量Fiと筒内吸入空気量Mcとによって決まる空燃比(指示空燃比=Mc/Fi)」が「よりリッチな空燃比(より小さい空燃比)」となるように、その指示燃料噴射量を増大補正する燃料増量制御(リーン誤補正補償増量制御)を実行する。
【0129】
より具体的に述べると、リーン誤補正補償増量制御においては、空燃比不均衡指標値RIMBが「0」であるとき(即ち、気筒別空燃比の不均一性が全くない場合)、上流側目標空燃比abyfrは基準空燃比である理論空燃比stoich(実際には、理論空燃比stoichからサブフィードバック量KSFBを減じた値)に設定される。更に、空燃比不均衡指標値RIMBが大きくなるほど、上流側目標空燃比abyfrは、理論空燃比stoich(実際には、理論空燃比stoichからサブフィードバック量KSFBを減じた値)よりも小さい範囲において、より小さい値へと修正される。これにより、メインフィードバック制御によってリーン誤補正される機関の空燃比は理論空燃比に近づく。
【0130】
(空燃比不均衡指標値の取得)
次に、本制御装置が採用した空燃比不均衡指標値の取得方法について説明する。空燃比不均衡指標値は、燃料噴射弁33の特性が変化すること等に起因する「気筒間における空燃比の不均一性(不均衡・インバランス)の程度」を表すパラメータである。
【0131】
本制御装置は、空燃比不均衡指標値を次のようにして取得する。
(1)本制御装置は、上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsに対してハイパスフィルタ処理を施すことにより、ハイパスフィルタ処理後出力値VHPF(出力値VHPF)を取得する。本制御装置は、実際には、下記(1)式により示されるように、出力値Vabyfsにローパスフィルタ処理(所謂、なまし処理)を施した値(ローパスフィルタ処理後出力値)VLPFを、出力値Vabyfsから減じることにより、ハイパスフィルタ処理後出力値VHPFを取得する。

VHPF=Vabyfs−VLPF …(1)

(2)本制御装置は、所定のパラメータ取得条件(空燃比不均衡指標値取得条件)が成立している場合、所定時間(一定のサンプリング時間=第1サンプリング時間t1)が経過する毎に「ハイパスフィルタ処理後出力値VHPF」の「所定の単位時間当たりの変化量」を取得する。
【0132】
この「出力値VHPFの単位時間当たりの変化量」は、その単位時間が例えば4m秒程度の極めて短い時間であるとき、出力値VHPFの時間についての微分値(時間微分値d(VHPF)/dt、一階微分値d(VHPF)/dt)であると言うこともできる。従って、「出力値VHPFの単位時間当たりの変化量」は「変化率ΔAF」又は「傾きΔAF」とも称呼される。更に、変化率ΔAFは「基本指標量(基本指標値データ)」又は「基本パラメータ」とも称呼される。
【0133】
(3)本制御装置は、一つの単位燃焼サイクル期間において取得された複数の変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|の平均値AveΔAFを求める。単位燃焼サイクル期間は、一つの上流側空燃比センサ56に到達する排ガスを排出している気筒の総てにおいて、各一回の燃焼行程が終了するのに要するクランク角度が経過する期間である。本例の機関10は、直列4気筒・4サイクル・エンジンであり、且つ、一つの上流側空燃比センサ56には第1〜第4気筒からの排ガスが到達する。よって、単位燃焼サイクル期間は720°クランク角度が経過する期間である。
【0134】
(4)本制御装置は、複数の単位燃焼サイクル期間のそれぞれに対して求めた平均値AveΔAFの平均値を算出し、その算出された平均値を空燃比不均衡指標値RIMBとして採用する。但し、空燃比不均衡指標値RIMBの算出に「以下に述べる平均値AveΔAF」は使用しない。
【0135】
(4−1)
本制御装置は、各単位燃焼サイクル期間において、所定の第2サンプリング時間t2が経過する毎に「上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsの時間微分値d(Vabyfs)/dtに相当する値」を有する微分値相関データΔVを取得する。本制御装置は、「取得された微分値相関データΔVのうち正の符号を有するデータの数Np」に対する「取得されたデータのうち負の符号を有するデータの数Nm」の比(Nm/Np)が、
第1閾値N1th以上であるか、又は、
「第1閾値N1thよりも小さい第2閾値N2th」以下である、
場合には、その単位燃焼サイクル期間において取得された平均値AveΔAFを空燃比不均衡指標値RIMBの算出に使用しない。即ち、その単位燃焼サイクル期間において取得された「基本指標値データである変化率ΔAF(時間微分値d(VHPF)/dt)」を破棄する。
【0136】
第1閾値N1thは、0.5よりも大きい所定値(例えば、0.7)に設定される。
第2閾値N2thは、0.5よりも小さい所定値(例えば、0.3)に設定される。
従って、制御装置は、データの数Npとデータの数Nmとの間に大きな偏りがない場合(換言すると、データの数Npとデータの数Nmとが実質的に均等に得られている場合)、その単位燃焼サイクル期間において求められた基本指標値データ(ΔAF)に基く平均値AveΔAFを空燃比不均衡指標値RIMBの算出に用いる。
【0137】
なお、第2サンプリング時間t2は、本例において第1サンプリング時間t1と同じ時間であるが、想定される単位燃焼サイクル期間のうちの最も短い時間内に相当数の上記微分相関値データΔVが取得される時間であれば、第1サンプリング時間t1と相違していてもよい。
【0138】
本制御装置は、比(Nm/Np)を求め、その比(Nm/Np)が「第1閾値N1th以上であるか、又は、第2閾値N2th以下であるか」否かを判定してもよい。代替として、本制御装置は、比(Nm/Np)以外の値を用いることにより、比(Nm/Np)が「第1閾値N1th以上であるか、又は、第2閾値N2th以下であるか」否かを実質的に判定してもよい。例えば、そのような判定は、比(Np/Nm)、比{Nm/(Np+Nm}、及び比{Np/(Np+Nm}等、及び、差(Nm−Np)に相関する値に基いて行われ得る。
【0139】
上記(4−1)に加え、又は、上記(4−1)に代え、次の(4−1a)、(4−1b)及び(4−1c)の場合の平均値AveΔAFを空燃比不均衡指標値RIMBの算出に使用しないように破棄してもよい。
【0140】
(4−1a)
本制御装置は、各単位燃焼サイクル期間において、所定の第2サンプリング時間t2が経過する毎に「ハイパスフィルタ処理後出力値VHPFの時間微分値d(VHPF)/dt」に相当する値を有する微分値相関データΔVを取得する。本制御装置は、「取得された微分値相関データΔVのうち正の符号を有するデータの数Np」に対する「取得されたデータのうち負の符号を有するデータの数Nm」の比(Nm/Np)が、
第1閾値D1th以上であるか、又は、
「第1閾値D1thよりも小さい第2閾値D2th」以下である、
場合には、その単位燃焼サイクル期間において取得された平均値AveΔAFを空燃比不均衡指標値RIMBの算出に使用しない。即ち、その単位燃焼サイクル期間において取得された「基本指標値データである変化率ΔAF(時間微分値d(VHPF)/dt)」を破棄する。
【0141】
(4−1b)
本制御装置は、ある単位燃焼サイクル期間に渡ってハイパスフィルタ処理後出力値VHPFが増大し続けるか又は減少し続けた場合、その単位燃焼サイクル期間において取得された平均値AveΔAFを空燃比不均衡指標値RIMBの算出に使用しない。即ち、その単位燃焼サイクル期間において取得された「基本指標値データである変化率ΔAF(時間微分値d(VHPF)/dt)」を破棄する。
【0142】
(4−1c)
本制御装置は、ある単位燃焼サイクル期間に渡って上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsが増大し続けるか又は減少し続けた場合、その単位燃焼サイクル期間において取得された平均値AveΔAFを空燃比不均衡指標値RIMBの算出に使用しない。即ち、その単位燃焼サイクル期間において取得された「基本指標値データである変化率ΔAF(時間微分値d(VHPF)/dt)」を破棄する。
【0143】
(4−2)
本制御装置は、ある単位燃焼サイクル期間において、所定の第3サンプリング時間t3が経過する毎に「吸入空気量Gaが大きいほど大きくなる吸入空気量相関パラメータ」の時間微分値に相当する値dG(例えば、スロットル弁開度TAの時間微分値dTA/dt、即ち、スロットル弁開度TAの変化率ΔTA)を取得し、その単位燃焼サイクル期間において、その大きさ|dG|が第3閾値D3th以上である「時間微分値に相当する値dG」が存在する場合、その単位燃焼サイクル期間において取得された平均値AveΔAFを空燃比不均衡指標値RIMBの算出に使用しない。即ち、その単位燃焼サイクル期間において取得された「基本指標値データである変化率ΔAF(時間微分値d(VHPF)/dt)」を破棄する。
【0144】
なお、所定の第3サンプリング時間t3は、本例において第1サンプリング時間t1と同じ時間であるが、想定される単位燃焼サイクル期間のうちの最も短い時間内に相当数の「時間微分値に相当する値dG」が取得される時間であれば、第1サンプリング時間t1と相違していてもよい。
【0145】
換言すると、本制御装置は、ある単位燃焼サイクル期間において、吸入空気量相関パラメータの時間微分値に相当する値dGの大きさが、第3閾値以上となった場合、その単位燃焼サイクル期間において取得された「基本指標値データである変化率ΔAF(時間微分値d(VHPF)/dt)」を破棄する。
【0146】
この場合、前記吸入空気量相関パラメータはスロットル弁開度TA、吸入空気量Ga、アクセルペダル操作量Accp、及び、機関の負荷(負荷率KL)等であってもよい。
【0147】
上述したように求められる空燃比不均衡指標値RIMB(変化率ΔAFに相関する値)は、図3を参照して説明したように、「気筒間における空燃比の不均一性の程度、即ち、気筒別空燃比差」が大きくなるほど大きくなる値である。即ち、図12に示したように、変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|の「複数の単位燃焼サイクル期間」における平均値AveΔAF(空燃比不均衡指標値RIMB)は、インバランス気筒の空燃比が非インバランス気筒の空燃比から乖離するほど(実際のインバランス割合が大きくなるほど)大きくなる。即ち、空燃比不均衡指標値RIMBは、実際の気筒別空燃比差が大きくなるにつれて(気筒別空燃比の不均一性の程度が大きくなるほど)大きくなる。なお、空燃比不均衡指標値RIMBは、このように求められる値に限定されることはなく、後述する種々の方法により取得され得る。
【0148】
(実際の作動)
次に、本制御装置の実際の作動について説明する。
【0149】
<燃料噴射制御>
本制御装置のCPUは、図13に示した燃料噴射制御ルーチンを、任意の気筒のクランク角度が吸気上死点前の所定クランク角度に一致する毎に、その気筒に対して繰り返し実行するようになっている。前記所定クランク角度は、例えば、BTDC90°CA(吸気上死点前90°クランク角度)である。クランク角度が前記所定クランク角度に一致した気筒は「燃料噴射気筒」とも称呼される。CPUは、この燃料噴射制御ルーチンにより、指示燃料噴射量Fiの計算及び燃料噴射の指示を行う。
【0150】
任意の気筒のクランク角度が吸気上死点前の所定クランク角度と一致すると、CPUはステップ1300から処理を開始し、ステップ1310にてフューエルカット条件(以下、「FC条件」と表記する。)が成立しているか否かを判定する。
【0151】
いま、FC条件が成立してないと仮定する。この場合、CPUは、ステップ1310にて「No」と判定し、以下に述べるステップ1320乃至ステップ1360の処理を順に行い、ステップ1395に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0152】
ステップ1320:CPUは、後述する図17のルーチンにより決定されている目標空燃比abyfrを読み込む。目標空燃比abyfrは、基本的には、後述するサブフィードバック量KSFBが「0」である場合、不均衡指標学習値RIMBgが大きくなるほど理論空燃比stoich以下の範囲において次第に小さくなるように決定される。不均衡指標学習値RIMBgは、後述する図16のルーチンにより別途取得される。
【0153】
ステップ1330:CPUは、「エアフローメータ51により計測された吸入空気量Ga、クランクポジションセンサ54の信号に基いて取得された機関回転速度NE、及び、ルックアップテーブルMapMc」に基いて「燃料噴射気筒の1回の吸気行程において、その燃料噴射気筒に吸入される空気量」である「筒内吸入空気量Mc(k)」を取得する。筒内吸入空気量Mc(k)は、各吸気行程に対応されながらRAM内に記憶される。筒内吸入空気量Mc(k)は、周知の空気量推定モデル(吸気通路における空気の挙動を模した物理法則に従って構築されたモデル)により算出されてもよい。
【0154】
ステップ1340:CPUは、筒内吸入空気量Mc(k)を目標空燃比abyfrで除することにより基本燃料噴射量Fbaseを求める。従って、基本燃料噴射量Fbaseは、目標空燃比abyfrを得るために計算上必要な燃料噴射量のフィードフォワード量である。このステップ1340は、機関に供給される混合気の空燃比を目標空燃比abyfrに一致させるためのフィードフォワード制御手段(基本燃料噴射量算出手段)を構成している。
【0155】
ステップ1350:CPUは、基本燃料噴射量Fbaseをメインフィードバック量DFiにより補正する。より具体的には、CPUは、基本燃料噴射量Fbaseにメインフィードバック量DFiを加えることにより、指示燃料噴射量(最終燃料噴射量)Fiを算出する。メインフィードバック量DFiは、機関の空燃比(従って、上流側触媒43に流入する排ガスの空燃比)を目標空燃比abyfrに一致させるための空燃比フィードバック量であり、上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsに基いて求められる。メインフィードバック量DFiの算出方法については後述する。
【0156】
ステップ1360:CPUは、「指示燃料噴射量Fiの燃料」を「燃料噴射気筒に対応して設けられている燃料噴射弁33」から噴射させるための噴射指示信号を、その燃料噴射弁33に送出する。
【0157】
この結果、機関の空燃比を目標空燃比abyfrに一致させるために計算上必要な量(必要と推定される量)の燃料が燃料噴射気筒の燃料噴射弁33から噴射させられる。即ち、ステップ1330乃至ステップ1360は、「上流側空燃比センサ56に到達する排ガスを排出している2以上の気筒(本例においては総ての気筒)の燃焼室21に供給される混合気の空燃比(三元触媒43に流入する排ガスの空燃比)」が目標空燃比abyfrと一致するように指示燃料噴射量Fiを制御する指示燃料噴射量制御手段を構成している。
【0158】
このルーチンによれば、不均衡指標学習値RIMBgが大きくなるほど目標空燃比abyfrが小さくなるので、ステップ1340にて求められる基本燃料噴射量Fbaseは不均衡指標学習値RIMBgが大きいほど大きくなるように増大させられる。更に、後述するメインフィードバック量DFiは、検出空燃比abyfsが目標空燃比abyfrに一致するように変更される。従って、ステップ1350にて求められる指示燃料噴射量Fiは、不均衡指標学習値RIMBgが大きいほどより大きくなるように増大させられる。即ち、このルーチンは、不均衡指標学習値RIMBgが大きいほど「指示燃料噴射量Fiによって決まる空燃比(指示空燃比=Mc(k)/Fi)」が「よりリッチな空燃比(より小さい空燃比)」となるように、指示燃料噴射量Fiを増大補正する燃料増量手段(リーン誤補正補償増量制御手段)を構成している。
【0159】
なお、CPUがステップ1310の処理を実行する時点において、FC条件が成立していると、CPUはそのステップ1310にて「Yes」と判定し、ステップ1395に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。この場合、ステップ1360の処理による燃料噴射が実行されないので、フューエルカット制御(燃料供給停止制御)が実行される。
【0160】
<メインフィードバック量の算出>
CPUは図14にフローチャートにより示した「メインフィードバック量算出ルーチン」を所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPUはステップ1400から処理を開始し、ステップ1405に進んで「メインフィードバック制御条件(上流側空燃比フィードバック制御条件)」が成立しているか否かを判定する。
【0161】
メインフィードバック制御条件は以下の総ての条件が成立したときに成立する。
(A1)上流側空燃比センサ56が活性化している。
(A2)機関の負荷KLが閾値KLth以下である。
(A3)フューエルカット制御中でない。
【0162】
なお、負荷KLは、ここでは下記の(2)式により求められる負荷率である。この負荷KLに代え、アクセルペダル操作量Accpが用いられても良い。(2)式において、Mcは筒内吸入空気量であり、ρは空気密度(単位は(g/l))、Lは機関10の排気量(単位は(l))、「4」は機関10の気筒数である。

KL=(Mc/(ρ・L/4))・100% …(2)

【0163】
いま、メインフィードバック制御条件が成立しているものとして説明を続ける。この場合、CPUはステップ1405にて「Yes」と判定して以下に述べるステップ1410乃至ステップ1440の処理を順に行い、ステップ1495に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0164】
ステップ1410:CPUは、図17に示したルーチンにより別途算出されRAMに格納されている「Nサイクル前の目標空燃比abyfr(k−N)」を読み込む。
【0165】
ステップ1415:CPUは、下記(3)式に示したように、上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsを図10に示したテーブルMapabyfsに適用することにより、検出空燃比abyfsを得る。

abyfs=Mapabyfs(Vabyfs) …(3)

【0166】
ステップ1420:CPUは、下記(4)式に従って、「現時点よりもNサイクル前の時点において燃焼室21に実際に供給された燃料の量」である「筒内燃料供給量Fc(k−N)」を求める。即ち、CPUは、「現時点よりもNサイクル(即ち、N・720°クランク角度)前の時点における筒内吸入空気量Mc(k−N)」を「検出空燃比abyfs」により除すことにより、筒内燃料供給量Fc(k−N)を求める。

Fc(k−N)=Mc(k−N)/abyfs …(4)

【0167】
このように、筒内燃料供給量Fc(k−N)を求めるために、現時点からNサイクル前の筒内吸入空気量Mc(k−N)を検出空燃比abyfsで除すのは、「燃焼室21内での混合気の燃焼により生成された排ガス」が上流側空燃比センサ56に到達するまでに「Nサイクルに相当する時間」を要しているからである。
【0168】
ステップ1425:CPUは、下記(5)式に従って、「現時点よりもNサイクル前の時点において燃焼室21に供給されるべきであった燃料の量」である「目標筒内燃料供給量Fcr(k−N)」を求める。即ち、CPUは、現時点からNサイクル前の筒内吸入空気量Mc(k−N)を現時点からNサイクル前の目標空燃比abyfr(k−N)で除すことにより、目標筒内燃料供給量Fcr(k−N)を求める。

Fcr(k−N)=Mc(k−N)/abyfr(k−N) …(5)

【0169】
ステップ1430:CPUは、下記(6)式に従って、筒内燃料供給量偏差DFcを取得する。即ち、CPUは、目標筒内燃料供給量Fcr(k−N)から筒内燃料供給量Fc(k−N)を減じることにより、筒内燃料供給量偏差DFcを求める。この筒内燃料供給量偏差DFcは、Nストローク前の時点で筒内に供給された燃料の過不足分を表す量となる。

DFc=Fcr(k−N)−Fc(k−N) …(6)

【0170】
ステップ1435:CPUは、下記(7)式に従って、メインフィードバック量DFiを求める。この(7)式において、Gpは予め設定された比例ゲイン、Giは予め設定された積分ゲインである。更に、(7)式の「値SDFc」は「筒内燃料供給量偏差DFcの積分値」である。つまり、CPUは、検出空燃比abyfsを目標空燃比abyfrに一致させるための比例積分制御により「メインフィードバック量DFi」を算出する。

DFi=Gp・DFc+Gi・SDFc …(7)

【0171】
ステップ1440:CPUは、その時点における筒内燃料供給量偏差DFcの積分値SDFcに上記ステップ1430にて求められた筒内燃料供給量偏差DFcを加えることにより、新たな筒内燃料供給量偏差の積分値SDFcを取得する。
【0172】
以上により、メインフィードバック量DFiが比例積分制御により算出され、このメインフィードバック量DFiが前述した図13のステップ1350の処理により指示燃料噴射量Fiに反映される。
【0173】
一方、図14のステップ1405の判定時において、メインフィードバック制御条件が不成立であると、CPUはそのステップ1405にて「No」と判定してステップ1445に進み、メインフィードバック量DFiの値を「0」に設定する。次いで、CPUは、ステップ1450にて筒内燃料供給量偏差の積分値SDFcに「0」を格納する。その後、CPUは、ステップ1495に進んで本ルーチンを一旦終了する。このように、メインフィードバック制御条件が不成立であるとき、メインフィードバック量DFiは「0」に設定される。従って、基本燃料噴射量Fbaseのメインフィードバック量DFiによる補正は行われない。
【0174】
<サブフィードバック量KSFB及びサブFB学習値KSFBgの算出>
CPUは図15にフローチャートにより示した「サブフィードバック量KSFB及びサブFB学習値KSFBgの算出ルーチン」を所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPUはステップ1500から処理を開始してステップ1505に進み、サブフィードバック制御条件が成立しているか否かを判定する。
【0175】
サブフィードバック制御条件は以下の総ての条件が成立したときに成立する。
(B1)メインフィードバック制御条件が成立している。
(B2)下流側空燃比センサ57が活性化している。
【0176】
いま、サブフィードバック制御条件が成立していると仮定して説明を続ける。この場合、CPUはステップ1505にて「Yes」と判定し、以下に述べるステップ1510乃至ステップ1530の処理(サブフィードバック量算出処理)を実行し、その後、ステップ1535に進む。
【0177】
ステップ1510:CPUは、下記(8)式に従って、「下流側目標値Voxsref」と「下流側空燃比センサ57の出力値Voxs」との差である「出力偏差量DVoxs」を取得する。下流側目標値Voxsrefは、三元触媒43のウインドウ内の基準空燃比abyfr0に対応した値(例えば、理論空燃比)に相当する値に設定されている。即ち、CPUは、「下流側目標値Voxsref」から「現時点の下流側空燃比センサ57の出力値Voxs」を減じることにより「出力偏差量DVoxs」を求める。

DVoxs=Voxsref−Voxs …(8)

【0178】
ステップ1515:CPUは、下記(9)式に従って、「その時点における出力偏差量の積分値SDVoxs(=SDVoxs(n−1))」に「上記ステップ1510にて求めた出力偏差量DVoxsとゲインKとの積」を加えることにより、新たな出力偏差量の積分値SDVoxs(=SDVoxs(n))を求める。なお、ゲインKはここでは「1」に設定されている。積分値SDVoxsは「時間積分値SDVoxs又は積分処理値SDVoxs」とも称呼される。

SDVoxs(n)=SDVoxs(n−1)+K・DVoxs …(9)

【0179】
ステップ1520:CPUは、「上記ステップ1510にて算出した出力偏差量DVoxs」から「本ルーチンを前回実行した際に算出された出力偏差量である前回出力偏差量DVoxsold」を減じることにより、新たな出力偏差量の微分値DDVoxsを求める。
【0180】
ステップ1525:CPUは、下記(10)式に従って、サブフィードバック量KSFBを求める。この(10)式において、Kpは予め設定された比例ゲイン(比例定数)、Kiは予め設定された積分ゲイン(積分定数)、Kdは予め設定された微分ゲイン(微分定数)である。即ち、Kp・DVoxsは比例項、Ki・SDVoxsは積分項、Kd・DDVoxsは微分項である。積分項Ki・SDVoxsは、サブフィードバック量KSFBの定常成分でもある。

KSFB=Kp・DVoxs+Ki・SDVoxs+Kd・DDVoxs …(10)

【0181】
ステップ1530:CPUは、「上記ステップ1510にて算出した出力偏差量DVoxs」を「前回出力偏差量DVoxsold」として格納する。
【0182】
このように、CPUは、下流側空燃比センサ57の出力値Voxsを下流側目標値Voxsrefに一致させるための比例・積分・微分(PID)制御により「サブフィードバック量KSFB」を算出する。このサブフィードバック量KSFBは、後述するように、目標空燃比abyfrを算出するために使用される(abyfr=stoich−KSFB−kacc・daf)。
【0183】
即ち、出力値Voxsが下流側目標値Voxsrefよりも小さいとき(リーンであるとき)、サブフィードバック量KSFBは次第に大きくなる。サブフィードバック量KSFBが大きくなるほど目標空燃比abyfrは小さくなる(リッチ側の空燃比になる)ように修正される。その結果、機関10の真の平均空燃比は小さくなる(リッチ側の空燃比になる)ので、出力値Voxsが下流側目標値Voxsrefに一致するように増大する。
【0184】
逆に、出力値Voxsが下流側目標値Voxsrefよりも大きいとき(リッチであるとき)、サブフィードバック量KSFBは次第に小さくなる(負の値を含む)。サブフィードバック量KSFBが小さくなるほど目標空燃比abyfrは大きくなる(リーン側の空燃比となる)ように修正される。その結果、機関10の真の平均空燃比は大きくなる(リーン側の空燃比になる)ので、出力値Voxsが下流側目標値Voxsrefに一致するように減少する。
【0185】
CPUは、ステップ1535に進むと、前回のサブフィードバック量の学習値(サブFB学習値)KSFBgの更新時点から学習間隔時間Tthが経過しているか否かを判定する。このとき、前回のサブFB学習値KSFBgの更新時点から学習間隔時間Tthが経過していなければ、CPUはステップ1535にて「No」と判定し、ステップ1595に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0186】
これに対し、CPUがステップ1535の処理を実行する時点において、前回のサブFB学習値KSFBgの更新時点から学習間隔時間Tthが経過していると、CPUはステップ1535にて「Yes」と判定してステップ1540に進み、その時点の積分値SDVoxsと積分ゲインKiとの積(Ki・SDVoxs)をサブFB学習値KSFBgとしてバックアップRAMに格納する。その後、CPUはステップ1595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0187】
このように、CPUは、サブフィードバック量KSFBが更新される期間よりも長い期間(学習間隔時間Tth)が経過した時点におけるサブフィードバック量KSFBの定常項Ki・SDVoxsを、サブFB学習値KSFBgとして取り込む。
【0188】
なお、CPUは、積分項(定常項)Ki・SDVoxsをローパスフィルタ処理した後の値をサブFB学習値KSFBgとして取得してもよい。更に、CPUは、サブフィードバック量KSFBをローパスフィルタ処理した後の値をサブFB学習値KSFBgとして取得してもよい。即ち、サブFB学習値KSFBgは、サブフィードバック量KSFBの定常成分に応じた値であればよい。
【0189】
一方、CPUがステップ1505の処理を実行する時点においてサブフィードバック制御条件が成立していない場合、CPUはステップ1505にて「No」と判定し、ステップ1545に進んでサブFB学習値KSFBgをサブフィードバック量KSFBとして設定する。即ち、CPUは、サブフィードバック量KSFBの更新を停止する。次いで、CPUはステップ1550に進み、サブFB学習値KSFBgを積分ゲインKiで除した値(サブFB学習値KSFBg/積分ゲインKi)を、積分値SDVoxsとしてバックアップRAMに格納する。その後、CPUはステップ1595に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0190】
下流側空燃比センサ57の出力値Voxsは、機関10の真の平均空燃比(従って、メインフィードバック制御によって「過度にリーン側に補正された空燃比」)を反映する値となる。これは、気筒間における空燃比の不均一性が生じた際に発生する多量の水素が、上流側触媒43において浄化されるからである。従って、出力値Voxsを下流側目標値Voxsrefに一致させるためのサブフィードバック量を用いたサブフィードバック制御により、機関10の真の平均空燃比は「三元触媒43のウインドウ内の基準空燃比abyfr0に対応した値(例えば、理論空燃比)」へと修正される。従って、サブフィードバック量が適切な値に収束していれば、NOx排出量が多量になることを回避することができる。
【0191】
しかしながら、サブフィードバック制御は「機関の空燃比の平均」を徐々に変化させる制御である。よって、一般に、サブフィードバック量KSFBは目標空燃比abyfrを緩慢に変化するように更新される。従って、例えば、機関の始動後等において、サブフィードバック量が適値になっていない期間が発生する。加えて、「リーン誤補正」の程度は、気筒別空燃比の不均一性の程度が「ある特定の値」であっても、機関10の運転状態に応じて変化する。例えば、リーン誤補正の程度は、吸入空気量Gaが大きくなるほど大きくなる。
【0192】
従って、気筒間における空燃比の不均一性が存在している場合であって、機関の始動後及び吸入空気量が急激に変化(特に、増大)するような過渡運転時等においては、サブフィードバック量が不適切な値となっている期間が長くなり、機関10の真の平均空燃比は基準空燃比abyfr0へと修正されない場合が生じる。
【0193】
これに対し、本制御装置は、不均衡指標学習値RIMBgに基づいて目標空燃比abyfrを変更するリーン誤補正補償増量制御を実行する。従って、機関10の真の平均空燃比を基準空燃比abyfr0へと一致させることができる。
【0194】
なお、本制御装置は、サブフィードバック量を用いたサブフィードバック制御を実行しない態様であってもよい。この場合、図15のルーチンは省略される。更に、他のルーチンにおいて使用されるサブフィードバック量KSFBには「0」が代入される。
【0195】
<空燃比不均衡指標値RIMBの取得>
次に、空燃比不均衡指標値RIMBを取得するための処理について説明する。CPUは、4ms(上記単位時間である「所定の第1サンプリング時間t1」)が経過する毎に、図16にフローチャートにより示したルーチンを実行するようになっている。
【0196】
従って、所定のタイミングになると、CPUはステップ1600から処理を開始してステップ1605に進み、パラメータ取得許可フラグXkyokaの値が「1」であるか否かを判定する。
【0197】
このパラメータ取得許可フラグXkyokaの値は、絶対クランク角度CAが0°クランク角度になった時点において後述するパラメータ取得条件(空燃比不均衡指標値取得許可条件)が成立しているときに「1」に設定され、パラメータ取得条件が不成立になった時点において直ちに「0」に設定される。
【0198】
パラメータ取得条件は、以下の総ての条件(条件C1乃至条件C5)が成立したときに成立する。従って、パラメータ取得条件は、以下の総ての条件(条件C1乃至条件C5)のうちの少なくとも一つが不成立であるとき、成立しない。勿論、パラメータ取得条件を構成する条件は、以下の条件C1乃至条件C5に限定されることはない。
【0199】
(条件C1)エアフローメータ51により取得される吸入空気量Gaが、所定範囲内である。即ち、吸入空気量Gaが、低側閾値空気流量GaLoth以上であり且つ高側閾値空気流量GaHith以下である。
(条件C2)機関回転速度NEが所定範囲内である。即ち、機関回転速度NEが、低側閾値回転速度NELoth以上であり且つ高側閾値回転速度NEHith以下である。
(条件C3)冷却水温THWが閾値冷却水温THWth以上である。
(条件C4)メインフィードバック制御条件が成立している。
(条件C5)フューエルカット制御中でない。
【0200】
いま、パラメータ取得許可フラグXkyokaの値が「1」であると仮定する。この場合、CPUはステップ1605にて「Yes」と判定し、以下に述べるステップ1610乃至ステップ1630の処理を順に行ってステップ1635に進む。
【0201】
ステップ1610:CPUは、「その時点の上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfs」を取得する。なお、CPUは、ステップ1610の処理の前に、本ルーチンを前回実行したときに取得した出力値Vabyfsを前回の出力値Vabyfsoldとして記憶する。即ち、前回の出力値Vabyfsoldは、現時点から4ms(第1サンプリング時間t1)前の時点における出力値Vabyfsである。前回の出力値Vabyfsの初期値は、イニシャルルーチンにおいて理論空燃比に相当する値に設定されている。イニシャルルーチンは、機関10が搭載された車両のイグニッション・キー・スイッチがオフからオンに変更されたときにCPUにより実行されるルーチンである。
【0202】
ステップ1615:CPUは、下記の(11)式に従って、上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsにローパスフィルタ処理を施すことにより、ローパスフィルタ処理後出力値VLPFを算出する。(11)式において、左辺のVLPF(n)は「更新後のローパスフィルタ処理後出力値VLPF」であり、右辺のVLPF(n−1)は「更新前のローパスフィルタ処理後出力値VLPF」である。右辺のVabyfsは、図16のステップ1610にて新たに取得された出力値Vabyfsであり、右辺のaは0より大きく1より小さい重みである。

VLPF(n)=a・VLPF(n−1)+(1−a)・Vabyfs …(11)

【0203】
ステップ1620:CPUは、上記(1)式に従って、ハイパスフィルタ処理後出力値VHPFを算出する。即ち、CPUは、出力値Vabyfsからローパスフィルタ処理後出力値VLPFを減じることにより、ハイパスフィルタ処理後出力値VHPFを算出する。従って、ステップ1610乃至ステップ1620は、出力値Vabyfsに対してハイパスフィルタ処理を実行するハイパスフィルタ処理手段を構成している。なお、CPUは、周知のデジタルハイパスフィルタ処理を出力値Vabyfsに施すことにより、ハイパスフィルタ処理を取得してもよい。また、CPUは、ステップ1620を実行する前に「本ルーチンを前回実行したときに取得した出力値VHPF」を前回の出力値VHPFoldとして記憶する。
【0204】
ステップ1625:CPUは、
(A)出力値Vabyfsの変化率ΔAF(微分値d(VHPF)/dt)を取得し、
(B)変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|の積算値SAFDを更新し、且つ、
(C)変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|の、積算値SAFDへの積算回数カウンタCnを更新する。
以下、これらの更新方法について具体的に説明する。
【0205】
(A)変化率ΔAFの取得。
ハイパスフィルタ処理後出力値VHPFの変化率ΔAF(微分値d(VHPF)/dt)は、空燃比不均衡指標値RIMBの元データとなるデータ(基本指標値データ、基本パラメータ)である。CPUは、この変化率ΔAFを、今回の出力値VHPFから前回の出力値VHPFoldを減じることによって取得する。即ち、今回の出力値VHPFをVHPF(n)、前回の出力値VHPFoldをVHPF(n−1)と表記すると、CPUはステップ1625にて「今回の変化率ΔAF(n)」を下記の(12)式に従って求める。

ΔAF(n)=VHPF(n)−VHPF(n−1) …(12)

【0206】
(B)変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|の積算値SAFDの更新。
CPUは今回の積算値SAFD(n)を下記の(13)式に従って求める。即ち、CPUは、ステップ1625に進んだ時点における前回の積算値SAFD(n−1)に上記算出した今回の変化率ΔAF(n)の絶対値|ΔAF(n)|を加えることにより、積算値SAFDを更新する。

SAFD(n)=SAFD(n−1)+|ΔAF(n)| …(13)

【0207】
積算値SAFDに「今回の変化率ΔAF(n)の絶対値|ΔAF(n)|」を積算する理由は、図3の(B)及び(C)からも理解されるように、変化率ΔAF(n)は正の値にも負の値にもなるからである。なお、積算値SAFDも、上述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるようになっている。
【0208】
(C)変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|の、積算値SAFDへの積算回数カウンタCnの更新。
CPUは、下記の(14)式に従って、カウンタCnの値を「1」だけ増大する。Cn(n)は更新後のカウンタCnであり、Cn(n−1)は更新前のカウンタCnである。このカウンタCnの値は上述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるとともに、後述するステップ1660、ステップ1670及びステップ1675にても「0」に設定される。従って、カウンタCnの値は、積算値SAFDに積算された変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|のデータ数を示す。

Cn(n)=Cn(n−1)+1 …(14)

【0209】
ステップ1630:CPUは、上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsの時間微分値d(Vabyfs)/dtに相当する値を有する微分値相関データΔVを取得する。微分値相関データΔVは、現時点における出力値Vabyfsから第1サンプリング時間t1(第2サンプリング時間t2)前の時点における出力値Vabyfsoldを減じることにより取得される。更に、CPUは、微分値相関データΔVの符号が正(即ち、ΔV>0)であれば、正データの数を示すカウンタNpを「1」だけ増大する(インクリメントする)。加えて、CPUは、微分値相関データΔVの符号が負(即ち、ΔV<0)であれば、負データの数を示すカウンタNmを「1」だけ増大する(インクリメントする)。
【0210】
カウンタNpの値及びカウンタNmの値は、上述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるとともに、後述するステップ1660、ステップ1670及びステップ1675にても「0」に設定される。従って、カウンタNpの値は、現時点が属する単位燃焼サイクルにおける微分値相関データΔVのうちの符号が正のデータの数を表す。カウンタNmの値は、現時点が属する単位燃焼サイクルにおける微分値相関データΔVのうちの符号が負のデータの数を表す。
【0211】
更に、CPUは、スロットル弁開度TAの時間微分値dTA/dtである「スロットル弁開度TAの変化率ΔTA」を取得し、RAMに格納する。変化率ΔTAは、現時点におけるスロットル弁開度TAから第1サンプリング時間t1(第3サンプリング時間t3)前の時点におけるスロットル弁開度TAoldを減じることにより取得される。
【0212】
次に、CPUはステップ1635に進み、基準気筒(本例では第1気筒)の圧縮上死点を基準としたクランク角度CA(絶対クランク角度CA)が720°クランク角度になっているか否かを判定する。このとき、絶対クランク角度CAが720°クランク角度未満であると、CPUはステップ1635にて「No」と判定してステップ1695に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0213】
なお、ステップ1635は、変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|の平均値を求めるための最小単位の期間を定めるステップであり、ここでは「単位燃焼サイクル期間である720°クランク角度」がその最小期間に相当する。この最小期間は、単位燃焼サイクル期間の自然数倍の期間であることが望ましい。
【0214】
一方、CPUがステップ1635の処理を行う時点において、絶対クランク角度CAが720°クランク角度になっていると、CPUはそのステップ1635にて「Yes」と判定してステップ1640に進む。
【0215】
CPUは、ステップ1640にて、「取得された微分値相関データΔVのうち正の符号を有するデータの数Np」に対する「取得されたデータのうち負の符号を有するデータの数Nm」の比(Nm/Np)が、第2閾値D2thより大きく且つ第1閾値D1thよりも小さいか否かを判定する。
【0216】
このとき、比(Nm/Np)が、第1閾値D1th以上であるか、又は、「第1閾値D1thよりも小さい第2閾値D2th」以下であると、CPUはステップ1640にて「No」と判定してステップ1670に進み、「直前の単位燃焼サイクル期間についての平均値AveΔAFを算出するために用いられる各値(ΔAF,SAFD,Cn,Np,Nm及びΔTA等)」を「0」に設定(クリア)する。次いで、CPUはステップ1695に進んで本ルーチンを一旦終了する。この結果、比(Nm/Np)が、第1閾値D1th以上であるか、又は、「第1閾値D1thよりも小さい第2閾値D2th」以下であると、直前の単位燃焼サイクル期間において取得された基本指標値データ(変化率ΔAF)は破棄され、空燃比不均衡指標値RIMBの算出に使用されない。
【0217】
これに対し、CPUがステップ1640の処理を実行する時点において、比(Nm/Np)が「第2閾値D2thより大きく且つ第1閾値D1thよりも小さい」場合、CPUはそのステップ1640にて「Yes」と判定してステップ1645に進む。
【0218】
CPUは、ステップ1645にて、直前の単位燃焼サイクル期間において取得された複数の「スロットル弁開度TAの変化率ΔTA」のうち、その大きさ(|ΔTA|)が第3閾値D3th以上である変化率ΔTAが存在していないか否かを判定する。より具体的に述べると、CPUは、複数の変化率ΔTAの絶対値|ΔTA|の中から最大値ZTAmaxを選択し、その最大値ZTAmaxが第3閾値D3th未満であるか否かを判定する。なお、スロットル弁開度TAの変化率ΔTAは、「吸入空気量Gaが大きいほど大きくなる吸入空気量相関パラメータの時間微分値に相当する値」である。
【0219】
このとき、最大値ZTAmaxが第3閾値D3th以上であると、CPUはステップ1645にて「No」と判定してステップ1670に進み、各値(ΔAF,SAFD,Cn,Np,Nm及びΔTA等)を「0」に設定(クリア)する。次いで、CPUはステップ1695に進んで本ルーチンを一旦終了する。この結果、最大値ZTAmaxが第3閾値D3th以上であると、直前の単位燃焼サイクル期間において取得された基本指標値データ(変化率ΔAF)は破棄され、空燃比不均衡指標値RIMBの算出に使用されない。
【0220】
これに対し、CPUがステップ1645の処理を実行する時点において、最大値ZTAmaxが第3閾値D3th未満である場合、CPUはそのステップ1645にて「Yes」と判定してステップ1650に進む。
【0221】
CPUは、ステップ1650にて、
(D)変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|の平均値AveΔAFを算出し、
(E)平均値AveΔAFの積算値Saveを更新し、且つ、
(F)積算回数カウンタCsを更新する。
以下、これらの更新方法について具体的に説明する。
【0222】
(D)変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|の平均値AveΔAFの算出。
CPUは、下記の(15)式に示したように、積算値SAFDをカウンタCnの値により除することにより、変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|の平均値AveΔAFを算出する。この後、CPUは積算値SAFD及びカウンタCnの値を「0」に設定する。

AveΔAF=SAFD/Cn …(15)

【0223】
(E)平均値AveΔAFの積算値Saveの更新。
CPUは今回の積算値Save(n)を下記の(16)式に従って求める。即ち、CPUは、ステップ1650に進んだ時点における前回の積算値Save(n−1)に上記算出した今回の平均値AveΔAFを加えることにより、積算値Saveを更新する。この積算値Save(n)の値は上述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるとともに、後述するステップ1660にても「0」に設定される。

Save(n)=Save(n−1)+AveΔAF …(16)

【0224】
(F)積算回数カウンタCsの更新。
CPUは、下記の(17)式に従って、カウンタCsの値を「1」だけ増大する。Cs(n)は更新後のカウンタCsであり、Cs(n−1)は更新前のカウンタCsである。このカウンタCsの値は上述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるとともに、後述するステップ1660にても「0」に設定される。従って、カウンタCsの値は、積算値Saveに積算された平均値AveΔAFのデータ数を示す。

Cs(n)=Cs(n−1)+1 …(17)

【0225】
次に、CPUはステップ1655に進み、カウンタCsの値が閾値Csth以上であるか否かを判定する。このとき、カウンタCsの値が閾値Csth未満であると、CPUはそのステップ1655にて「No」と判定し、ステップ1695に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。なお、閾値Csthは自然数であり、2以上であることが望ましい。
【0226】
一方、CPUがステップ1655の処理を行う時点において、カウンタCsの値が閾値Csth以上であると、CPUはそのステップ1655にて「Yes」と判定してステップ1660に進む。CPUは、そのステップ1660にて、下記(18)式に従って積算値SaveをカウンタCsの値(=Csth)によって除することにより、空燃比不均衡指標値RIMBを取得する。空燃比不均衡指標値RIMBは、変化率ΔAF(微分値d(VHPF)/dt)の絶対値|ΔAF|の各単位燃焼サイクル期間における平均値AveΔAFを、複数(Csth個)の単位燃焼サイクル期間について平均した値である。空燃比不均衡指標値RIMBは、ハイパスフィルタ処理後出力値VHPFの変動(時間的変動)が大きいほど大きくなる空燃比変動指標量AFDである。

RIMB=Save/Csth …(18)

【0227】
更に、CPUは、CPUはステップ1660にて、空燃比不均衡指標値RIMBを算出するために用いられる各値(ΔAF,SAFD,Cn,ΔV,Np,Nm,AveΔAF,Save及びCs等)」を「0」に設定(クリア)する。
【0228】
次いで、CPUはステップ1665に進み、下記の(19)式に従って、空燃比不均衡指標値RIMBに対して一次遅れフィルタ処理(ローパスフィルタ処理)としての「なまし処理」を施すことにより、フィルタ処理後不均衡指標値RIMBgを算出し、そのフィルタ処理後不均衡指標値RIMBgを不均衡指標学習値RIMBgとしてバックアップRAMに格納する。(19)式において、左辺のRIMBgは「更新後の不均衡指標学習値RIMBg(不均衡指標学習値RIMBgの今回値)」であり、右辺のRIMBgは「更新前の不均衡指標学習値RIMBg(即ち、CPUがステップ1665に進む直前の不均衡指標学習値RIMBgである不均衡指標学習値RIMBgの前回値)」である。右辺のRIMBは、ステップ1660にて新たに取得された最新の空燃比不均衡指標値RIMB(空燃比不均衡指標値RIMBの今回値)である。αは、0よりも大きく1よりも小さい重みである。

RIMBg=α・RIMBg+(1−α)・RIMB …(19)

【0229】
なお、CPUは、ステップ1665において、空燃比不均衡指標値RIMBを不均衡指標学習値RIMBgとしてそのままバックアップRAMに格納してもよい。いずれにせよ、不均衡指標学習値RIMBgは空燃比不均衡指標値RIMBに相関する値である。
【0230】
このように求められる空燃比不均衡指標値RIMBは、気筒別空燃比の不均一性が生じていないとき(即ち、総ての気筒の空燃比が同一であるとき)には変化率ΔAFが「0」となるから、基準値「0」となる。従って、気筒別空燃比の不均一性が生じていない状態が継続している場合、不均衡指標学習値RIMBgも基準値「0」となる。
【0231】
一方、CPUがステップ1605に進んだ際にパラメータ取得許可フラグXkyokaの値が「1」でなければ、CPUはそのステップ1605にて「No」と判定してステップ1675に進む。CPUは、そのステップ1675にて「平均値AveΔAFを算出するために用いられる各値(ΔAF,SAFD,及び,Cn等)」を「0」に設定(クリア)する。次いで、CPUはステップ1695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0232】
<目標空燃比abyfrの決定>
次に、目標空燃比abyfrを決定するための処理について説明する。CPUは図17にフローチャートにより示した「目標空燃比決定ルーチン」を所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPUはステップ1700から処理を開始してステップ1710に進み、目標空燃比補正量dafを「不均衡指標学習値RIMBg及び吸入空気量Ga」に基づいて決定する。目標空燃比補正量dafは、図17のステップ1710内に記載された目標空燃比補正量テーブルMapdaf(RIMBg,Ga)に従って求められる。
【0233】
この目標空燃比補正量テーブルMapdaf(RIMBg,Ga)によれば、目標空燃比補正量dafは次のように決定される。
・目標空燃比補正量dafは、吸入空気量Gaが大きくなるほど、大きくなる。
・目標空燃比補正量dafは、不均衡指標学習値RIMBgが大きくなるほど、大きくなる。
【0234】
次に、CPUはステップ1720に進み、機関10の加速の程度を示す加速指標量dGaを取得する。具体的には、CPUは、現時点の吸入空気量Gaから一定時間前(例えば、16ms)前の過去の吸入空気量Gaoldを減じることにより、吸入空気量Gaの単位時間あたりの変化量を加速指標量dGaとして取得する。なお、加速指標量dGaは、スロットル弁開度TAの単位時間あたりの変化量dTA、負荷KLの単位時間あたりの変化量dKL、及び、アクセルペダル操作量Accpの単位時間あたりの変化量dAccp等のうちの何れであってもよい。
【0235】
次に、CPUはステップ1730に進み、加速指標量dGaに基いて加速補正値kaccを取得する。即ち、CPUは、加速補正値kaccをステップ1730内に記載された加速補正値テーブルMapkacc(dGa)に従って求める。この加速補正値テーブルMapkacc(dGa)によれば、加速補正値kaccは、加速指標量dGaが大きいほど「1よりも大きな範囲において次第に大きくなる」ように決定される。
【0236】
次いで、CPUはステップ1740に進み、下記の(20)式に従って、目標空燃比abyfrを決定する。即ち、CPUは、理論空燃比stoichから、サブフィードバック量KSFBを減じ、更に、「加速補正値kaccと目標空燃比補正量dafとの積(kacc・daf)」を減じた値を、目標空燃比abyfrとして採用する。その後、CPUはステップ1795に進んで本ルーチンを一旦終了する。なお、CPUは、加速補正値kaccを常に「1」に設定してもよい。即ち、CPUは加速指標量dGaを求めることなく、目標空燃比補正量dafを(stoich−KSFB)から減じることにより、目標空燃比abyfrを決定してもよい。

abyfr=stoich−KSFB−kacc・daf …(20)

【0237】
この結果、目標空燃比abyfrは、不均衡指標学習値RIMBg(従って、空燃比不均衡指標値RIMB)が大きくなるほど、吸入空気量Gaが大きくなるほど、加速指標量dGaが大きくなるほど、理論空燃比stoich(実際には、stoich−KSFB)との差の絶対値の大きさがより大きくなるように、小さくなる(よりリッチ側の空燃比に設定される。)。
【0238】
従って、指示燃料噴射量Fiは、不均衡指標学習値RIMBgが大きくなるほど大きくなり、且つ、吸入空気量Gaが増大するほど吸入空気量Gaの増大に見合う分(目標空燃比abyfrが一定である場合に吸入空気量Gaの増加に基いて増加する指示燃料噴射量Fiの増加量)よりも更に大きい増加量だけ大きくなり、且つ、加速指標量dGaが大きくなるほど大きくなるように、増大補正される。
【0239】
この結果、吸入空気量Ga、気筒別空燃比の不均一性の程度、及び、加速状態等に応じて、指示燃料噴射量Fiが制御されるので、指示燃料噴射量Fi及び指示空燃比が適切な値となる。よって、気筒別空燃比の不均一性の程度が大きくなった場合においても窒素酸化物及び未燃物の排出量を低減することができる。
【0240】
更に、図17のステップ1710内に記載された目標空燃比補正量テーブルMapdaf(RIMBg,Ga)からも明らかなように、目標空燃比abyfrは、吸入空気量Gaと不均衡指標学習値RIMBgとにより定まる運転状態が、所定の運転状態にある場合にのみ、理論空燃比stoich(実際には、stoich−KSFB)よりも小さい値へと変更される。つまり、目標空燃比補正量テーブルMapdaf(RIMBg,Ga)の「0」以外の数値が記入されている運転領域(高吸入空気量領域且つ高インバランス割合状態)において、指示空燃比のリッチ側への修正がなされる。換言すると、「吸入空気量Gaが、不均衡指標学習値RIMBgが大きいほど小さくなる吸入空気量の閾値Gavthより大きい場合」、指示燃料噴射量Fiは増大補正される。従って、無駄な指示燃料噴射量Fiの増大補正を行うことなく、窒素酸化物及び未燃物の排出量を低減することができる。
【0241】
以上、説明したように、本制御装置は、
三元触媒43に流入する排ガスの空燃比が目標空燃比abyfrに一致するように燃料噴射弁33から噴射される燃料の量を「上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfs」に基いてフィードバック補正することにより、複数の燃料噴射弁33のそれぞれから噴射される燃料の量の指示値(指示燃料噴射量Fi)を決定する指示燃料噴射量決定手段(図13のステップ1320乃至ステップ1350、及び、図14等を参照。)と、
指示燃料噴射量Fiに応じた量の燃料が複数の燃料噴射弁33のそれぞれから噴射されるように複数の燃料噴射弁33に噴射指示信号を送出する噴射指示信号送出手段(図13のステップ1360を参照。)と、
を備える内燃機関の燃料噴射量制御装置である。
【0242】
更に、本制御装置は、
上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsに対してハイパスフィルタ処理を実行することによりハイパスフィルタ処理後出力値VHPFを取得するハイパスフィルタ処理手段(図16のステップ1610乃至ステップ1620)と、
前記複数の気筒のそれぞれの燃焼室21に供給される混合気の空燃比(気筒別空燃比)の前記複数の気筒間における不均一性の程度が大きいほど大きくなる値であって前記ハイパスフィルタ処理後出力値VHPFの変動が大きいほど大きくなる空燃比不均衡指標値RIMBを前記ハイパスフィルタ処理後出力値VHPFに基いて取得する空燃比不均衡指標値取得手段(図16のステップ1625乃至ステップ1665)と、
を備える。
【0243】
上記ハイパスフィルタ処理手段によるハイパスフィルタ処理の時定数は、気筒別空燃比の不均一性の程度に起因する上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsの変動を通過させるが、機関10の中心空燃比の変動に起因する上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsの変動を通過させないような値に設定される。なお、このハイパスフィルタ処理は、上述したように「ソフトウェアによるハイパスフィルタ処理」であってもよく、これに代え、「ハードウェアのハイパスフィルタを用いた処理」であってもよい。
【0244】
ハイパスフィルタ処理後出力値は、上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfs(図4の実線L3を参照。)から、上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsに含まれている「機関10の中心空燃比」の変動成分(図4及び図5の破線L1を参照。)を除去した値(図4の実線L2を参照。)に近づく。即ち、ハイパスフィルタ処理により、図5の実線L3に示した出力値は図4の実線L2に示した出力値へと変換される。従って、ハイパスフィルタ処理後出力値VHPFは、機関10の中心空燃比の変動の影響を受けることなく、気筒別空燃比の不均一性の程度に応じて変動する値となる。その結果、このハイパスフィルタ処理後出力値VHPFに基いて空燃比不均衡指標値RIMBが取得されることにより、気筒別空燃比の不均一性の程度を精度良く表す空燃比不均衡指標値RIMB(不均衡指標学習値RIMBg)が取得される。
【0245】
加えて、本制御装置は、
指示燃料噴射量Fiによって決まる空燃比(指示空燃比)が「空燃比不均衡指標値が大きいほど小さくなる空燃比」となるように、空燃比不均衡指標値RIMB(実際には、空燃比不均衡指標値RIMBに基いて得られる不均衡指標学習値RIMBg)に基づいて前記指示燃料噴射量Fiを増大補正する燃料増量手段(図17、図13のステップ1320、及び、図14のステップ1425等を参照。)を備える。
【0246】
本制御装置によれば、空燃比不均衡指標値RIMBはハイパスフィルタ処理後出力値VHPFに基いて取得される。従って、空燃比不均衡指標値RIMB(不均衡指標学習値RIMBg)が気筒別空燃比の不均一性の程度を精度良く表すから、上記燃料増量手段によるリーン誤補正補償増量制御が気筒別空燃比の不均一性の程度に応じて適切に実行される。その結果、上記リーン誤補正の影響を小さくすることができるとともに、燃料が過大に増量されることがないので、エミッション(NOx及び未燃物)の排出量を低減することができる。
【0247】
本制御装置が備える空燃比不均衡指標値取得手段は、
空燃比不均衡指標値RIMBを算出する際の基礎データとなる基本指標値データ(変化率ΔAF)を所定の第1サンプリング時間t1が経過する毎にハイパスフィルタ処理後出力値VHPFに基いて取得するとともに、複数の基本指標値データ(変化率ΔAF)を使用して前記空燃比不均衡指標値RIMBを算出する空燃比不均衡指標値算出手段(図16のステップ1610乃至ステップ1665を参照。)を備える。
【0248】
更に、本制御装置が備える空燃比不均衡指標値取得手段は、
単位燃焼サイクル期間において、所定の第2サンプリング時間(実際には、第1サンプリング時間)が経過する毎に「上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsの時間微分値d(Vabyfs)/dt、及び、ハイパスフィルタ処理後出力値VHPFの時間微分値d(VHPF)/dt」の何れかに相当する値を有する微分値相関データΔVを取得するとともに(図16のステップ1630)、前記取得された微分値相関データΔVのうち正の符号を有するデータの数Npに対する前記取得された微分値相関データのうち負の符号を有するデータの数Nmの比が「第1閾値以上であるか又は同第1閾値よりも小さい第2閾値以下である場合」には、前記単位燃焼サイクル期間において取得された基本指標値データ(変化率ΔAF)を破棄することにより空燃比不均衡指標値RIMBの算出に使用しないようにするデータ破棄手段(図16のステップ1640)を備える。
【0249】
これにより、機関10の中心空燃比が大きく変化しているときに得られたハイパスフィルタ処理後出力値VHPFに基いて空燃比不均衡指標値RIMBが算出されることがないので、気筒別空燃比の不均一性の程度をより精度良く表す空燃比不均衡指標値RIMBを取得することができる。
【0250】
更に、本制御装置が備える空燃比不均衡指標値取得手段は、
単位燃焼サイクル期間において、「吸入空気量Gaが大きいほど大きくなる吸入空気量相関パラメータ」の時間微分値に相当する値dGの大きさが第3閾値D3th以上となった場合には、その単位燃焼サイクル期間において取得された基本指標値データ(変化率ΔAF)を破棄することにより空燃比不均衡指標値RIMBの算出に使用しないようにするデータ破棄手段(図16のステップ1630及びステップ1645)を備える。
【0251】
吸入空気量Gaが増大する場合(即ち、加速状態)、或いは、吸入空気量Gaが減少する場合(即ち、減速状態)においては、機関10の中心空燃比が変動し易いので、このような場合に得られた基本指標値データ(変化率ΔAF)は空燃比不均衡指標値RIMBの算出に使用されないほうがよい。従って、このデータ破棄手段を備えることにより、気筒別空燃比の不均一性の程度を一層精度の良く表す空燃比不均衡指標値RIMBを取得することができる。
【0252】
以上からも理解されるように、本制御装置は、
上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsのうち「単位燃焼サイクル期間を一周期として変動する成分(気筒別空燃比の不均一性の程度に応じて変動する成分)」を抽出する成分抽出手段(図16のステップ1610乃至ステップ1620、ステップ1640及びステップ1645を参照。)と、
前記気筒別空燃比の不均一性の程度が大きいほど大きくなる値であって「前記抽出された成分の変動が大きいほど大きくなる空燃比不均衡指標値RIMB」を前記抽出された成分に基いて取得する空燃比不均衡指標値取得手段(図16のステップ1625、ステップ1635、ステップ1650乃至ステップ1665を参照。)と、
上記リーン誤補正補償増量制御を実行する燃料増量手段と、
を備える。
【0253】
これにより、空燃比不均衡指標値が気筒別空燃比の不均一性の程度を精度良く表すから、上記リーン誤補正補償増量制御が気筒別空燃比の不均一性の程度に応じて適切に実行される。その結果、上記リーン誤補正の影響を小さくすることができるとともに、燃料が過大に増量されることがないので、エミッション(NOx及び未燃物)の排出量を低減することができる。
【0254】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、空燃比不均衡指標値RIMBを取得する不均衡指標値取得手段は、次に述べるような方法により、「ハイパスフィルタ処理後出力値VHPFの変動が大きいほど大きくなる空燃比変動指標量AFD」を空燃比不均衡指標値RIMBとして取得してもよい。
【0255】
(A−1)
前記空燃比不均衡指標値取得手段は、上述したように、
ハイパスフィルタ処理後出力値VHPFの時間についての微分値d(VHPF)/dt(変化率ΔAF)を取得するとともに、取得した微分値d(VHPF)/dtに相関する値を空燃比不均衡指標値RIMBとして取得するように構成され得る。
【0256】
取得した微分値d(VHPF)/dtに相関する値の一例は、上述したように、単位燃焼サイクル又は単位燃焼サイクルの自然数倍の期間において複数個取得された微分値d(VHPF)/dtの絶対値の平均値である。取得した微分値d(VHPF)/dtに相関する値の他の一例は、単位燃焼サイクルにおいて複数個取得された微分値d(VHPF)/dtの絶対値の最大値を、複数の単位燃焼サイクルについて平均化した値である。
【0257】
取得した微分値d(VHPF)/dtに相関する値の更に別の一例は、次のように取得してもよい。
・単位燃焼サイクル期間において、正の値を有する微分値d(VHPF)/dtの絶対値を所定サンプル時間の経過毎に取得し、それらの平均値ΔAFPLを求める。
・単位燃焼サイクル期間において、負の値を有する微分値d(VHPF)/dtの絶対値を所定サンプル時間の経過毎に取得し、それらの平均値ΔAFMNを求める。
・一つの単位燃焼サイクル期間において、平均値ΔAFPLと平均値ΔAFMNのうちの大きい方を、その単位燃焼サイクル期間における変化率ΔAFとして採用する。
・複数の単位燃焼サイクル期間のそれぞれにおいて上記のようにして取得したΔAFの平均値を空燃比不均衡指標値RIMBとして採用する。
【0258】
(A−2)
前記空燃比不均衡指標値取得手段は、
ハイパスフィルタ処理後出力値VHPFを図10に示したテーブルMapabyfsに適用することにより得られるフィルタ処理後空燃比abyfsFの時間についての微分値d(abyfsF)/dtを取得するとともに、その取得した微分値d(abyfsF)/dt値に相関する値を空燃比不均衡指標値RIMBとして取得するように構成され得る。
【0259】
取得した微分値d(abyfsF)/dt値に相関する値の一例は、単位燃焼サイクル又は単位燃焼サイクルの自然数倍の期間において複数個取得された微分値d(abyfsF)/dtの絶対値の平均値である。取得した微分値d(abyfsF)/dtに相関する値の他の一例は、単位燃焼サイクルにおいて複数個取得された微分値d(abyfsF)/dtの絶対値の最大値を、複数の単位燃焼サイクルについて平均化した値である。
【0260】
(A−3)
前記空燃比不均衡指標値取得手段は、
ハイパスフィルタ処理後出力値VHPFの時間についての二階微分値d2(VHPF)/dt2を取得するとともに、その取得した二階微分値d2(VHPF)/dt2に相関する値を空燃比不均衡指標値RIMBとして取得するように構成され得る。二階微分値d2(VHPF)/dt2は、気筒別空燃比差が小さい場合には図3の(D)の破線C5に示したように相対的に小さい値となり、気筒別空燃比差が大きい場合には図3の(D)の実線C6に示したように相対的に大きい値となる。二階微分値d2(VHPF)/dt2は、機関10の中心空燃比の変動の影響を更に受け難いので、空燃比不均衡指標値RIMBを算出するための基本指標値データとして好適である。
【0261】
なお、二階微分値d2(VHPF)/dt2は、現時点の出力値VHPFから一定のサンプリング時間前の出力値VHPFを減じることにより、一定のサンプリング時間毎の微分値d(VHPF)/dtを求め、新たに求められた微分値d(VHPF)/dtから一定のサンプリング時間前の微分値d(VHPF)/dtを減じることにより求めることができる。
【0262】
取得した二階微分値d2(VHPF)/dt2値に相関する値の一例は、単位燃焼サイクル又は単位燃焼サイクルの自然数倍の期間において複数個取得された二階微分値d2(VHPF)/dt2の絶対値の平均値である。取得した二階微分値d2(VHPF)/dt2値に相関する値の他の一例は、単位燃焼サイクルにおいて複数個取得された二階微分値d2(VHPF)/dt2値の絶対値の最大値を、複数の単位燃焼サイクルについて平均化した値である。
【0263】
(A−4)
前記空燃比不均衡指標値取得手段は、
ハイパスフィルタ処理後出力値VHPFを図10に示したテーブルMapabyfsに適用することにより得られるフィルタ処理後空燃比abyfsFの時間についての二階微分値d2(abyfsF)/dt2を取得するとともに、その取得した二階微分値d2(abyfsF)/dt2に相関する値を空燃比不均衡指標値RIMBとして取得するように構成され得る。出力値Vabyfsと検出空燃比abyfsとは実質的に比例関係にあるので(図10を参照。)、二階微分値d2(abyfsF)/dt2は、出力値Vabyfsの二階微分値d2(abyfsF)/dt2と同様の傾向を示す。
【0264】
取得した二階微分値d2(abyfsF)/dt2値に相関する値の一例は、単位燃焼サイクル又は単位燃焼サイクルの自然数倍の期間において複数個取得された二階微分値d2(abyfsF)/dt2の絶対値の平均値である。取得した二階微分値d2(abyfsF)/dt2に相関する値の他の一例は、単位燃焼サイクルにおいて複数個取得された二階微分値d2(abyfsF)/dt2の絶対値の最大値を、複数の単位燃焼サイクルについて平均化した値である。
【0265】
(A−5)
前記空燃比不均衡指標値取得手段は、
ハイパスフィルタ処理後出力値VHPFの所定期間(例えば、単位燃焼サイクル期間の自然数倍の期間)における最大値と最小値との差ΔXに相関する値、又は、ハイパスフィルタ処理後出力値VHPFを図10に示したテーブルMapabyfsに適用することにより得られるフィルタ処理後空燃比abyfsFの所定期間における最大値と最小値との差ΔYに相関する値を、空燃比不均衡指標値RIMBとして取得するように構成され得る。図3の(B)に示した実線C2及び破線C1から明らかなように、この差ΔX(ΔXの絶対値)は、気筒別空燃比差が大きいほど大きくなる。従って、差ΔX(ΔXの絶対値)及び差ΔY(ΔYの絶対値)は、気筒別空燃比差が大きいほど大きくなる。差ΔX(又は差ΔY)に相関する値の一例は、単位燃焼サイクル又は単位燃焼サイクルの自然数倍の期間において複数個取得された差ΔX(又はΔY)の絶対値の平均値である。
【0266】
(A−6)
前記空燃比不均衡指標値取得手段は、
空燃比不均衡指標値RIMBとして、ハイパスフィルタ処理後出力値VHPFの所定期間おける軌跡長に相関する値、又は、ハイパスフィルタ処理後出力値VHPFを図10に示したテーブルMapabyfsに適用することにより得られるフィルタ処理後空燃比abyfsFの前記所定期間における軌跡長に相関する値を取得するように構成され得る。これらの軌跡長は、図3の(B)からも明らかなように、気筒別空燃比差が大きいほど大きくなる。軌跡長に相関する値は、例えば、単位燃焼サイクル又は単位燃焼サイクルの自然数倍の期間において複数個取得された軌跡長の絶対値の平均値である。
【0267】
なお、例えば、ハイパスフィルタ処理後出力値VHPFの軌跡長は、一定の第1サンプリング時間t1が経過する毎に出力値VHPFを取得するとともに、その出力値VHPFと、第1サンプリング時間t1前に取得した出力値VHPFと、の差の絶対値を積算することによって求めることができる。
【0268】
加えて、上記各制御装置は、V型エンジンにも適用することができる。その場合、V型エンジンは右バンクに属する2以上の気筒の排気集合部よりも下流に右バンク上流側触媒を備える。更に、そのV型エンジンは、左バンクに属する2以上の気筒の排気集合部よりも下流に左バンク上流側触媒を備える。
【0269】
加えて、そのV型エンジンは、右バンク上流側触媒の上流及び下流に右バンク用の上流側空燃比センサ及び下流側空燃比センサをそれぞれ備え、左バンク上流側触媒の上流及び下流に左バンク用の上流側空燃比センサ及び下流側空燃比センサをそれぞれ備えることができる。各上流側空燃比センサは、上記上流側空燃比センサ56と同様、各バンクの排気集合部と各バンクの上流側触媒との間に配設される。この場合、右バンク用のメインフィードバック制御及びサブフィードバック制御が実行され、それとは独立して左バンク用のメインフィードバック制御及びサブフィードバック制御が実行される。
【0270】
更に、この場合、制御装置は、右バンク用の上流側空燃比センサの出力値のハイパスフィルタ処理後出力値に基いて「右バンク用の不均衡指標学習値RIMBg」を求め、それを用いて右バンクに属する気筒に対するメインフィードバック制御の目標空燃比abyfrを修正する。同様に、制御装置は、左バンク用の上流側空燃比センサの出力値のハイパスフィルタ処理後出力値に基いて「左バンク用の不均衡指標学習値RIMBg」を求め、それを用いて左バンクに属する気筒に対するメインフィードバック制御の目標空燃比abyfrを修正する。
【0271】
更に、本制御装置は、上流側空燃比センサ56として「下流側空燃比センサ57と同じ起電力式の酸素濃度センサ(安定化ジルコニア等の固体電解質を用いた周知の濃淡電池型の酸素濃度センサ)」を使用することにより、メインフィードバック制御を実行してもよい。
【0272】
前述したように、起電力式の酸素濃度センサも多孔質層を備える。従って、起電力式の酸素濃度センサが「排気集合部HKと上流側触媒43との間」に配設されると、起電力式の酸素濃度センサの出力値(下流側空燃比センサ57の出力値Voxsと区別するために出力値Voxsupと記載する)は、水素の選択的拡散の影響を受ける。このため、図18に示したように、上流側触媒43に流入する排ガスの真の空燃比に対する出力値Voxsupは、気筒別空燃比の不均一性の程度に応じて変化する。
【0273】
一般に、起電力式の酸素濃度センサが「メインフィードバック制御のための上流側空燃比センサ」として使用される場合、出力値Voxsupが「目標空燃比である理論空燃比に対応した値Vst」に設定された上流側目標値Vrefに一致するように空燃比のフィードバック制御が実行される。従って、気筒別空燃比の不均一性の程度が大きくなるに従ってメインフィードバック制御の結果として得られる排ガスの真の空燃比の平均は、理論空燃比よりもリーン側の空燃比へと移行してしまう。即ち、リーン誤補正が発生する。
【0274】
そこで、起電力式の酸素濃度センサが「メインフィードバック制御のための上流側空燃比センサ」として使用される場合においても、本制御装置のように、その出力値Voxsupにハイパスフィルタ処理を施したハイパスフィルタ処理後出力値を得て、そのハイパスフィルタ処理後出力値に基いて空燃比不均衡指標値RIMBを取得し、その空燃比不均衡指標値RIMBに基いてリーン誤補正補償増量制御を実行することが好ましい。この場合のリーン誤補正補償増量制御は、空燃比不均衡指標値RIMBに基いて「上流側目標値Vref」をリッチ側の空燃比に対応した値(値Vstよりも大きい値)へと修正することにより実現される。これにより、リーン誤補正の影響を抑制するとともに、過度な燃料の増量を回避することができる。
【0275】
更に、上記制御装置において、サブフィードバック量KSFBは目標空燃比abyfrを直接的に修正する値であった。これに代え、「サブフィードバック量KSFBと同様に算出されるサブフィードバック量Vafsfb」を下記の(21)式のように上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsに加えることによりフィードバック制御用出力値Vabyfcを取得してもよい。

Vabyfc=Vabyfs+Vafsfb …(21)

【0276】
そして、下記(22)式に示したように、そのフィードバック制御用出力値Vabyfcを図10に示したテーブルMapabyfsに適用することによりフィードバック制御用空燃比abyfscを取得し、そのフィードバック制御用空燃比abyfscが「空燃比不均衡指標値RIMB(不均衡指標学習値RIMBg)に基いて修正された目標空燃比abyfr(=stoich−kacc・daf)」に一致するように、メインフィードバック量DFiを求めてもよい。即ち、この形態は、目標空燃比abyfrをサブフィードバック量により直接的に修正するのではなく、上流側空燃比センサ56の出力値Vabyfsをサブフィードバック量により補正することによって目標空燃比abyfrを実質的に補正する。

abyfsc=Mapabyfs(Vabyfc) …(22)

【0277】
加えて、上記図16のステップ1640及びステップ1645の両方、或いは、これらのステップの何れか一方を省略してもよい。更に、上記(4−1)、(4−1a)、(4−1b)、(4−1c)及び(4−2)に記載したデータ破棄の手法(データ破棄手段)は、これらの一以上が適宜組み合わされて使用されてもよい。
【符号の説明】
【0278】
10…多気筒内燃機関、21…燃焼室、33…燃料噴射弁、41…エキゾーストマニホールド、41a…枝部、41b…集合部(排気集合部)、42…エキゾーストパイプ、43…三元触媒(上流側触媒)、56…上流側空燃比センサ、57…下流側空燃比センサ、70…電気制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多気筒内燃機関の燃料噴射量制御装置であって、
前記機関が有する複数の気筒から排出された排ガスが集合する前記機関の排気通路の排気集合部よりも下流側の位置に配設された三元触媒と、
前記排気通路の前記排気集合部と前記三元触媒との間の位置に配設される上流側空燃比センサと、
複数の燃料噴射弁であって、それぞれが前記複数の気筒のそれぞれの燃焼室に供給される混合気に含まれる燃料を噴射するように構成された複数の燃料噴射弁と、
前記三元触媒に流入する排ガスの空燃比が目標空燃比に一致するように前記燃料噴射弁から噴射される燃料の量を前記上流側空燃比センサの出力値に基いてフィードバック補正することにより前記複数の燃料噴射弁のそれぞれから噴射される燃料の量の指示値である指示燃料噴射量を決定する指示燃料噴射量決定手段と、
前記指示燃料噴射量に応じた量の燃料が前記複数の燃料噴射弁のそれぞれから噴射されるように前記複数の燃料噴射弁に噴射指示信号を送出する噴射指示信号送出手段と、
前記上流側空燃比センサの出力値に対してハイパスフィルタ処理を実行することによりハイパスフィルタ処理後出力値を取得するハイパスフィルタ処理手段と、
前記複数の気筒のそれぞれの燃焼室に供給される混合気の空燃比である気筒別空燃比の前記複数の気筒間における不均一性の程度が大きいほど大きくなる値であって前記ハイパスフィルタ処理後出力値の変動が大きいほど大きくなる空燃比不均衡指標値を前記ハイパスフィルタ処理後出力値に基いて取得する空燃比不均衡指標値取得手段と、
を備えた燃料噴射量制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料噴射量制御装置であって、更に、
前記空燃比不均衡指標値が大きいほど前記指示燃料噴射量によって決まる空燃比である指示空燃比が小さくなるように、前記空燃比不均衡指標値に基づいて前記指示燃料噴射量を増大補正する燃料増量手段を備えた燃料噴射量制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の燃料噴射量制御装置において、
前記空燃比不均衡指標値取得手段は、
前記空燃比不均衡指標値を算出する際の基礎データとなる基本指標値データを所定の第1サンプリング時間が経過する毎に前記ハイパスフィルタ処理後出力値に基いて取得するとともに、複数の前記基本指標値データを使用して前記空燃比不均衡指標値を算出する空燃比不均衡指標値算出手段と、
前記上流側空燃比センサに到達する排ガスを排出する総ての気筒がそれぞれ一回の燃焼行程を終了するために必要とするクランク角度が経過する期間である単位燃焼サイクル期間において、所定の第2サンプリング時間が経過する毎に前記上流側空燃比センサの出力値の時間微分値及び前記ハイパスフィルタ処理後出力値の時間微分値の何れかに相当する値を有する微分値相関データを取得するとともに、前記取得された微分値相関データのうち正の符号を有するデータの数Npに対する前記取得された微分値相関データのうち負の符号を有するデータの数Nmの比が第1閾値以上であるか又は同第1閾値よりも小さい第2閾値以下である場合には前記単位燃焼サイクル期間において取得された前記基本指標値データを破棄することにより前記空燃比不均衡指標値の算出に使用しないようにするデータ破棄手段と、
を含む燃料噴射量制御装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の燃料噴射量制御装置において、
前記空燃比不均衡指標値取得手段は、
前記空燃比不均衡指標値を算出する際の基礎データとなる基本指標値データを所定の第1サンプリング時間が経過する毎に前記ハイパスフィルタ処理後出力値に基いて取得するとともに、複数の前記基本指標値データを使用して前記空燃比不均衡指標値を算出する空燃比不均衡指標値算出手段と、
前記上流側空燃比センサに到達する排ガスを排出する総ての気筒がそれぞれ一回の燃焼行程を終了するために必要とするクランク角度が経過する期間である単位燃焼サイクル期間に渡って前記ハイパスフィルタ処理後出力値及び前記上流側空燃比センサの出力値の何れかが増大し続けるか又は減少し続けた場合には前記単位燃焼サイクル期間において取得された前記基本指標値データを破棄することにより前記空燃比不均衡指標値の算出に使用しないようにするデータ破棄手段と、
を含む燃料噴射量制御装置。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の燃料噴射量制御装置において、
前記空燃比不均衡指標値取得手段は、
前記空燃比不均衡指標値を算出する際の基礎データとなる基本指標値データを所定のサンプリング時間が経過する毎に前記ハイパスフィルタ処理後出力値に基いて取得するとともに、複数の前記基本指標値データを使用して前記空燃比不均衡指標値を算出する空燃比不均衡指標値算出手段と、
前記上流側空燃比センサに到達する排ガスを排出する総ての気筒がそれぞれ一回の燃焼行程を終了するために必要とするクランク角度が経過する期間である単位燃焼サイクル期間において、前記機関の吸入空気量が大きいほど大きくなる吸入空気量相関パラメータの時間微分値に相当する値の大きさが第3閾値以上となった場合には前記単位燃焼サイクル期間において取得された前記基本指標値データを破棄することにより前記空燃比不均衡指標値の算出に使用しないようにするデータ破棄手段と、
を含む燃料噴射量制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料噴射量制御装置において、
前記吸入空気量相関パラメータは前記機関のスロットル弁開度である燃料噴射量制御装置。
【請求項7】
多気筒内燃機関の内燃機関の燃料噴射量制御装置であって、
前記機関が有する複数の気筒から排出された排ガスが集合する前記機関の排気通路の排気集合部よりも下流側の位置に配設された三元触媒と、
前記排気通路の前記排気集合部と前記三元触媒との間の位置に配設される上流側空燃比センサと、
複数の燃料噴射弁であって、それぞれが前記複数の気筒のそれぞれの燃焼室に供給される混合気に含まれる燃料を噴射するように構成された複数の燃料噴射弁と、
前記三元触媒に流入する排ガスの空燃比が目標空燃比に一致するように前記燃料噴射弁から噴射される燃料の量を前記上流側空燃比センサの出力値に基いてフィードバック補正することにより前記複数の燃料噴射弁のそれぞれから噴射される燃料の量の指示値である指示燃料噴射量を決定する指示燃料噴射量決定手段と、
前記指示燃料噴射量に応じた量の燃料が前記複数の燃料噴射弁のそれぞれから噴射されるように前記複数の燃料噴射弁に噴射指示信号を送出する噴射指示信号送出手段と、
前記上流側空燃比センサの出力値のうち、前記上流側空燃比センサに到達する排ガスを排出する総ての気筒がそれぞれ一回の燃焼行程を終了するために必要とするクランク角度が経過する期間である単位燃焼サイクル期間を一周期として変動する成分を抽出する成分抽出手段と、
前記複数の気筒のそれぞれの燃焼室に供給される混合気の空燃比である気筒別空燃比の前記複数の気筒間における不均一性の程度が大きいほど大きくなる値であって前記抽出された成分の変動が大きいほど大きくなる空燃比不均衡指標値を前記抽出された成分に基いて取得する空燃比不均衡指標値取得手段と、
を備えた燃料噴射量制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の燃料噴射量制御装置であって、更に、
前記空燃比不均衡指標値が大きいほど前記指示燃料噴射量によって決まる空燃比である指示空燃比が小さくなるように、前記空燃比不均衡指標値に基づいて前記指示燃料噴射量を増大補正する燃料増量手段を備えた燃料噴射量制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−31777(P2012−31777A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171585(P2010−171585)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】