説明

多軸制御装置

【課題】他軸駆動時の外乱トルクに対する自軸のトルク補正を高速に実施することができる多軸制御装置を得ること。
【解決手段】コントローラ1は、一方の軸に対する1軸位置指令と他方の軸に対する2軸位置指令とを所定のフォーマットでネットワーク2に向けて送出する。1軸サーボアンプ3と2軸サーボアンプ4は、それぞれ、ネットワーク2から対応する位置指令と相手に対する位置指令とを取り込む。2軸の可動部11が移動動作して横軸の正値側に向かう力F2が発生すると、この力F2による横軸の負値側に向かう反力F1が1軸の可動部7に掛かることになる。この反力F1は、1軸にとって外乱となる。1軸サーボアンプ3は、2軸用の位置指令から反力F1に相当する外乱トルクを推定してサーボモータ5に与える駆動値を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、相互干渉する複数軸を制御する多軸制御装置に関し、特に外乱トルクを推定して補正を実施する多軸制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
相互干渉する複数軸を制御する多軸制御装置としては、例えば、軸毎に電動機とロボットアームとの間にバネ要素を有する機構が設けられた多軸ロボットを制御するロボット制御装置が知られている。そして、この種のロボット制御装置において、外乱トルクを推定して補正を実施する方法が、例えば特許文献1に提案されている。
【0003】
すなわち、特許文献1では、各電動機に対する位置指令を入力として、各軸に、モデル電動機位置指令、モデル電動機速度指令及びモデルフィードフォワード指令を出力するモデル制御器と、このモデル制御器から出力される前記各指令に基づき前記各電動機及び前記各ロボットアームを駆動、制御するフィードバック制御器とを備えるロボット制御装置において、外乱トルクを推定して補正を実施するために、前記モデル制御器内に、軸間に作用する他軸からの干渉による干渉トルクを求め、前記干渉トルクを相殺するモデル補正トルクを算出する補正量算出部を設け、前記モデル補正トルクを加算された前記モデルフィードフォワード指令が前記モデル制御器から出力する技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−329063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の技術によれば、外乱を推定するために状態フィードバックの値を使用しているので、状態フィードバック値の取得に要する時間だけ外乱の推定時間が遅くなる。この外乱の推定時間を短くしないと、高速、高精度の補正を実施することができない。
【0006】
また、相互に干渉する2つ軸の状態フィードバックのデータをやり取りする方法ではデータの送受信に時間が掛かるので、外乱の補正が遅れることになる。つまり、遅れ時間の少ない制御系を構築することができない。
【0007】
さらに、剛体結合による干渉機構を介して連結される複数軸の各軸を制御する各制御手段がそれぞれネットワークから対応する位置指令を取り込んで自軸を制御するシステムでは、ネットワークに位置指令を送出する上位装置に余分な負荷を掛けることなく、他軸駆動時の外乱トルクに対する自軸のトルク補正が行えるようにすべきとの要請がある。
【0008】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであり、他軸駆動時の外乱トルクに対する自軸のトルク補正を高速に実施することができる多軸制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、この発明は、剛体結合による干渉機構を介して連結される複数軸の各軸を制御する各制御手段がそれぞれネットワークから対応する位置指令を取り込んで自軸を制御する場合に、前記制御手段は、前記ネットワークから取り込んだ他軸用の位置指令に基づき自軸の外乱トルクを推定し自軸のトルクを補正する補正制御系を備えることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、自軸の状態変数を用いることなく、他軸の位置指令のみを使用して自軸の外乱トルクを推定するので、他軸駆動時の外乱トルクに対する自軸のトルク補正を高速に実施することができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、他軸駆動時の外乱トルクに対する自軸のトルク補正を高速に実施することができるので、制御精度の向上が図れるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に図面を参照して、この発明にかかる多軸制御装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0013】
図1は、この発明の一実施の形態による多軸制御装置の構成機器の配置関係等を説明する図である。図1に示すように、この実施の形態では、相互に干渉する2つの軸を制御する多軸制御装置を例に挙げて説明する。図1において、コントローラ1は、位置指令を発行する上位装置であり、一方の軸に対する1軸位置指令と他方の軸に対する2軸位置指令とを識別符号付きの所定のフォーマットでネットワーク2に向けて送出する。
【0014】
1軸サーボアンプ3と2軸サーボアンプ4は、それぞれ、ネットワーク2から位置指令を取り込むが、この実施の形態では、対応する位置指令だけでなく、互いに相手に対する位置指令も取り込むようになっている(図2参照)。
【0015】
1軸サーボアンプ3が制御する1軸駆動用のサーボモータ5は、図1では、回転軸を2次元座標の縦軸(Y軸)の正値側に向けて直立配置されている。そして、その回転軸に、1軸であるネジ軸6が連結され、ネジ軸6には可動部7が設けられている。可動部7は、ネジ軸6の正転逆転に伴い縦軸方向に往復移動するようになっている。
【0016】
2軸サーボアンプ4が制御する2軸駆動用のサーボモータ8は、長四角状の土台9の一端側に固定支持されている。この土台9は、全体として横軸(X軸)から角度θ傾いた状態で、その他端が1軸の可動部7に固定されている。つまり、この土台9は、サーボモータ8を搭載した状態で、1軸の可動部7と一体的に縦軸方向に往復移動するようになっている。
【0017】
そして、サーボモータ8の回転軸に連結される2軸であるネジ軸10は、土台9の他端に向かって延在している。このネジ軸10には、可動部7と同様の可動部11が設けられている。可動部11は、ネジ軸10の正転逆転に伴い横軸から角度θ傾いた方向に往復移動するようになっている。
【0018】
要するに、図1に示す干渉機構(剛体結合)では、2軸の可動部11が移動動作して横軸の正値側に向かう力F2が発生すると、この力F2による横軸の負値側に向かう反力F1が1軸の可動部7に掛かることになる。この反力F1は、1軸にとって外乱となり、1軸のサーボモータ5では、その位置を保持することができなくなる。
【0019】
図2は、図1に示すサーボアンプの構成例を示すブロック図である。上記のように、この実施の形態では、2軸から外乱を受ける1軸での対処法を説明するので、図2では、1軸サーボアンプ3の構成例を示してあるが、2軸サーボアンプ4の構成も同様になることは言うまでもない。
【0020】
図2において、1軸サーボアンプ3では、サーボモータ5を駆動制御する一般的な制御ブロックである位置制御部20,速度制御部21,電流制御部22及び速度演算部23の他に、補正制御系である外乱トルク推定部24を備えている。
【0021】
外乱トルク推定部24は、トルク演算部25,定数乗算部26,バックラッシュ補正部27及びLPF(ローパスフィルタ)28を備えている。
【0022】
まず、サーボモータ5の一般的な駆動制御法を概略説明する。位置制御部20は、ネットワーク2から取り込まれた1軸位置指令とENC(エンコーダ)が検出したサーボモータ5の位置情報との偏差からサーボモータ5に対する速度指令を生成する。速度演算部23は、ENCが検出したサーボモータ5の位置情報を微分してサーボモータ5の速度を検出する。速度制御部21は、位置制御部20が生成した速度指令と速度演算部23が検出したサーボモータ5の速度との偏差から電流指令を生成する。電流制御部22は、速度制御部21が生成した電流指令とサーボモータ5への出力値とに基づきサーボモータ5に供給する電流を制御するが、この実施の形態では、さらに外乱トルク推定部24にて推定された外乱トルク値(LPF28の出力値)をも含めてサーボモータ5に供給する電流を制御することになる。
【0023】
さて、外乱トルク推定部24では、まずトルク演算部25にて、ネットワーク2から取り込まれた2軸位置指令を2回微分して2軸の指令トルクが求められる。そして、定数乗算部26にて、トルク演算部25が求めた2軸のトルクが1軸に影響を与える度合いを示す係数Kを乗算する。この係数Kは、剛体モデルを仮定しているので、簡単な式によって一意に決定できる。図1において、2軸で発生する力F2のうち、余弦成分cosθは干渉機構に吸収され、正弦成分sinθが1軸に加わる反力F1となる。したがって、定数乗算部26で用いる係数Kには、この正弦成分sinθの値が設定されている。
【0024】
バックラッシュ補正部27は、実際のリニアガイドが有するバックラッシュに対処するために設けてある。すなわち、バックラッシュが存する場合には、2軸が動作してもその反力がすぐには1軸に伝達されないことが起こるので、ヒステリシス回路を用いてバックラッシュの補正を行うようにしている。これによって、補正精度の向上が図れる。
【0025】
また、LPF28は、2軸サーボアンプ4の動作遅れに対処するために設けてある。すなわち、上記のように、外乱トルク推定部24では、2軸の指令位置から1軸に現れる反力を計算しているが、1軸に反力が発生する場合には2軸サーボアンプ4の応答遅れが問題となるので、その2軸サーボアンプ4の応答遅れを模擬するLPF28を設け、外乱トルクに対する自軸トルクの補正に時間遅れが生じないようにしている。
【0026】
このように、この実施の形態によれば、各軸の制御手段であるサーボアンプがネットワークから位置指令を取り込む際に、互いに相手軸に対する位置指令も取り込んで相手軸の動作を監視し、相手軸に対する位置指令によって自軸に影響を与える外乱トルクを推定するようにしたので、各サーボアンプは、上位装置であるコントローラに余分の負荷を掛けることなく、他軸駆動時の外乱トルクに対する自軸のトルク補正を高速に実施することができ、制御精度の向上が図れるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上のように、この発明にかかる多軸制御装置は、剛体結合による干渉機構を介して連結される複数軸の各軸を他軸の動作に影響されることなく精度よく制御するのに有用であり、特に各軸の制御手段がネットワークから位置指令を取り込んで自軸を制御する場合に好適である
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の一実施の形態による多軸制御装置の構成機器の配置関係等を説明する図である。
【図2】図1に示すサーボアンプの構成例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0029】
1 コントローラ
2 ネットワーク
3 1軸サーボアンプ
4 2軸サーボアンプ
5 1軸駆動用のサーボモータ
6 ネジ軸
7 可動部
8 2軸駆動用のサーボモータ
9 土台
10 ネジ軸
11 可動部
20 位置制御部
21 速度制御部
22 電流制御部
23 速度演算部
24 外乱トルク推定部
25 トルク演算部
26 定数乗算部
27 バックラッシュ補正部
28 LPF
ENC エンコーダ(位置検出器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛体結合による干渉機構を介して連結される複数軸の各軸を制御する各制御手段がそれぞれネットワークから対応する位置指令を取り込んで自軸を制御する場合に、
前記各制御手段は、
前記ネットワークから取り込んだ他軸用の位置指令に基づき自軸の外乱トルクを推定し自軸のトルクを補正する補正制御系、
を備えることを特徴とする多軸制御装置。
【請求項2】
前記補正制御系は、
前記ネットワークから取り込んだ他軸用の位置指令から他軸トルクを求める他軸トルク演算手段と、
求めた前記他軸トルクに自軸への影響度合いを示す定数を乗算して外乱トルクを求める外乱トルク演算手段と、
求めた前記外乱トルクから低周波成分を取り出して自軸トルクの補正指令とするローパスフィルタと、
を備えていることを特徴とする請求項1に記載の多軸制御装置。
【請求項3】
前記補正制御系は、求めた前記外乱トルクにヒステリシス処理を施してバックラッシュの補正を行い、それを前記ローパスフィルタの入力とするバックラッシュ補正手段、を備えていることを特徴とする請求項2に記載の多軸制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−293624(P2006−293624A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112376(P2005−112376)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】