説明

形状測定装置固有の系統誤差を測定する方法と縦型形状測定装置。

【課題】
シリコンウェーハやFPD用ガラス基板等のパネルの形状の大面積・薄肉化に伴い、自重によるパネルの変形の影響を受け、正確なパネルの形状の測定が困難になってきているが、縦型形状測定装置を使用し、正確なパネルの形状を測定する方法を提供する。
【解決方法】
縦型形状測定装置を使用し、大面積・薄肉パネル形状を測定する場合の、その測定に影響を与える誤差要因を分析し、縦型形状測定装置固有の系統誤差を抽出した。その抽出した系統誤差値を補正値として形状を測定すれば、パネルの正確な形状測定が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
縦型測定装置を使用して、シリコンウェーハやFPD用ガラス基板等のパネルの形状測定を行っているが、パネルが大面積・薄肉化するに伴い、その正確な形状測定を迅速に行うのが困難になってきている。本発明は測定での誤差要因を分析し、大面積・薄肉化パネルでも、縦型形状測定装置を使用して正確な形状測定が行える方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近のパネル製造技術において、パネルの薄肉化により、パネルの厚みのバラツキ自体は小さくなるが、その一方で、パネルの自重による変形の影響を受けるような、大面積・薄肉パネルとなると、パネルを支持するクランプの挟持方法や測定装置自体がもと誤差因子のによる影響を受け、パネルの正確な形状測定が困難となってきている。
【0003】
従来、シリコンウェーハ等の薄板の表面形状を測定するための装置として、回転可能な真空チャックにシリコンウェーハ等の薄板が水平吸着支持され、ウェーハ等の厚みを測定し、その厚みより平坦度を測定する方法が知られている。
【0004】
【特許文献1】特公平5−77179号公報
【0005】
しかしこの方法では、平面等の基準面に密着されることを前提としていることから、密着される面に局所的な凹凸があり、あるいは、厚みが一定でも反りを有しており、この面が基準平面に充分に密着されなかった場合、その凹凸あるいは反りが、その反対面に存在する形状として表現されてしまい、例えば、その表面に微細なパターンの描画あるいは転写を行うシリコンウェーハ 等の形状評価において過大もしくは過小評価が生じるおそれがあるという問題があった。
【0006】
そのため、ウェーハ形状測定装置として、ウェーハの外周を等間隔の3点で水平に支持して、ウェーハに平行に配置した非接触の測定装置で表面側の各測定点でウェーハまでの距離を第1の測定値とし、ウェーハを反転して水平に支持して表面側の各測定点に対応する位置のウェーハまでの距離を第2の測定値として前記の測定装置で測定し、各測定点の第1の測定値と第の測定値の差の1/2の値を前記ウエハの反り量として算出する、横型形状測定法が知られている。
【0007】
【特許文献2】特開2002−243431公報
【0008】
しかしながら、横型形状測定法は、ウェーハの反りの真に近い形状を測定出来るが、表側と裏側の2回測定する必要があり、測定に時間がかかり、実際の製造ラインでは採用が難しい欠点があった。
【0009】
そのため、現在では、直径300mm,厚さ0.775mmの大型のウェーハの測定には,自重による変形を小さくするため、外周三点でウェーハを鉛直に支持し、ウェーハを回転させ、光学干渉縞を使用する方法、および変位センサでウェーハ両面をスキャンする方法で形状を測定する縦型測定法が知られている。
【0010】
【非特許文献1】川又ほか:縦型測定法による300mmシリコンウェーハの形状測定に関する研究、2004年度精密工学会春季大会講演論文集、pp697−698
【特許文献3】特開平11−351857号公報
【特許文献4】特開平11−260873号公報
【特許文献5】特開2005−51213公報
【0011】
縦型形状測定法ではウェーハの両側に設置された2つの変位センサにより、センサとウェーハの表面と裏面の距離を同時に測定することから、外乱の影響を受けずにウェーハの厚さを測定できるが、パネルの大型・薄肉化が進むと、色々な誤差要因が重なり、正確な形状測定が難しくなる。さらに、縦型形状測定法では構造上、オプティカルフラットの測定による精度の検証が困難である。
【0012】
シリコンウェーハの平面度は半導体の高密度化に影響するため、反りの大きいシリコンウェーハは、デバイス工程において歩留まりを低下させる。板厚が薄いウェーハはチャック面にならうため、ワイヤソーでウェーハをスライシングする際に発生した反りは、その後の研削工程やラッピング工程で取り除くことはできないので、素材の製造段階でウェーハの反りを簡便に、正確に測定する方法の要求は高まってきている。
【0013】
しかしながら、シリコンウェーハやFPD用ガラス基板の測定についての研究のほとんどは、測定センサの開発や測定システムの誤差分離に関するものであり、精度検定用の反りを求める方法も確立されておらず、たとえば、現在市販されている縦型測定装置では、パネルの変形の影響により、反りの再現性は約10μm程度であり、サブミクロンの測定精度は実現していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、シリコンウェーハやFPD用ガラス基板等のパネルの大面積・薄肉化に伴い、パネルを支持するクランプ力の影響やパネルの自重による変形の影響が、縦型形状測定装置の場合どの位あるかを調べ、これらがパネルの形状測定時に影響を及ぼす要因について分析し、縦型形状測定装置を使用し、正確なパネルの形状を測定する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、現在取引されている、直径300mm、厚み0.775mmのシリコンウェーハを使用し、まず、横型形状測定装置で、自重による変形の影響を除いた、ウェーハの正確な形状を測した。縦型形状測定装置を使用し、前記ウェーハの形状測定時における誤差要因を分析し、解析したところ、装置が固有の誤差要因を持つことを見出し、その誤差要因を、前記、縦型形状測定装置の測定時に補正すれば、前記ウェーハの正確な形状に近い、大面積・薄肉のパネルの形状測定が可能であることを見出し本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明は、縦型形状測定装置に、大面積・薄肉のパネルを、等角度で少なくとも三ヶ所の支持点を保有する回転支持体に、同一平面内で回転自在となるよう支持し、前記パネルを回転させ、前記パネルを挟んで対向する2組の変位センサを走査して、測定したパネルの形状と、前記パネルの正確な形状の差異より、前記縦型形状測定装置が保有する装置固有の系統誤差を抽出し、この抽出した系統誤差を補正して、大面積・薄肉のパネルの形状を測定する方法である。
【0017】
前記の大面積・薄肉のパネルの正確な形状を、三点支持裏返し法により求める方法である。
【0018】
前記の三点支持裏返し法が、大面積・薄肉のパネルを、水平に同心円上に配置した三点で支持し、前記パネルの上面に平行に配置したガイド軸に沿って変位センサを走査して求めた、前記パネルの一方の面の形状と、前記パネルを真後ろに裏返し、前記と同様にして求めた、前記パネルの他方の面の形状との差異より、前記パネルの自重による変形成分を補正した前記パネルの形状を測定する方法であるる。
【0019】
前記した、本発明の方法より、縦型形状測定装置が保有する装置固有の系統誤差を抽出し、その抽出したデータを、補正値として記憶させる記憶機能、および前記補正値の加減算を行う演算機能を保有する縦型形状測定装置である。
【発明の効果】
【0020】
縦型形状測定装置を使用し、大型で薄肉のシリコンウェーハや、ガラス基板等のパネルの形状の測定を、装置固有の系統誤差を補正することで、これらの大面積・薄肉パネルの生産ライン上で行えば、正確なパネルの形状を短時間で測定でき、工程の生産管理、不良率の削減に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明者らは、直径300mm、厚さ0.775mmの大面積・薄肉ウェーハを使用し、まず、正確な形状を測定し、縦型形状測定装置により測定した場合の、前記ウェーハの形状測定に影響を与える要因を考え、正確な形状との比較で、その要因を解析・特定し、その要因を補正する方法があれば、縦型形状測定装置を使用してウェーハの正確な形状測定ができるのではないかと考えた。
【0022】
本発明者等は、まず、ウェーハの正確な形状測定のため、形状測定精度の評価を行う際のパラメータとして、シリコンウェーハの「反り」を用いた。「反り」には、吸着固定しない状態のパネルの自重による変形成分を補正し、表面ベストフィット基準面とパネル表面の距離の最大値と最小値の差を表わす、SORIと、吸着固定しない状態の中心点での指定された基準面からパネル中心面の差表わす、BOWと、吸着固定しない状態のパネルにおいて自重による変形成分を補正した中心面のベストフィット基準面からパネル中心面までの距離の最大値と最小値の差を表わす、WARPと呼ぶ3種類があるが、本発明では、WARP、図1を用いた。
【0023】
そこで、横型形状測定装置を用い、ウェーハを三点で水平に支持して、表面の形状を測定した後、ウェーハを裏返して裏面を測定することにより、ウェーハの自重の影響を除去する方法で、ウェーハの正確な形状を測定した。本発明では、この方法を三点支持裏返し法と呼ぶ。三点支持裏返し法では、平面に配置した直径10mmの三つの鋼球ボールで水平に支持されたパネルの表面の形状を、自重による変形も含めて測定した後、パネルを真後ろに裏返すと、反りが上下反転するが、ウエハの厚さは実質的に均一とみることができるので、自重による変形が常に重力方向に生じるため、この二つの測定結果からパネルの正確な形状と自重による変形がそれぞれ求められる。
【0024】
この方法では、図2のウェーハがY方向に移動し、上部の三角測量式光学センサがX方向に移動し、前記センサより、測定レーザビームがわずかに傾斜してウェーハ表面に入射され、、ウェーハからの反射光は、センサ受光部より、データ処理装置に転送されて、各測定点の測定値がメモリに記憶され、ウェーハの表面と裏面のセンサからの距離に基づき、演算器では、ウェーハの表面形状を演算し、記憶するとともにモニタに表示する。
【0025】
三点支持裏返し法における、パネルを支持する鋼球の配置は、平面の任意の三箇所で支持すればよい。図3で示した条件、ウェーハを支持する三点の支持点のすべての位置が、回転軸からの同一の距離、または、回転軸と基盤面の交差点と、ウェーハを支持する支持点の角度が同一である条件を満たしていれば良い。
【0026】
重力の影響を除去し反りを算出する原理を図4に示す。まず、ウェーハの表面を上にして表面形状yf (x、y) を測定する。yf (x、y) は反り形状S(x、y) と自重によるたわみg(x、y) の両方を含んでいる.次に,ウェーハを裏返して同様に裏面形状yb (x、y) を測定する.そして,表面形状と裏面形状の差をとることにより自重による変形g(x、y) の影響を除去し、2で割ることにより反り形状s(x、y) を求めることができる。
【0027】
三点支持裏返し法によって、測定したウェーハの形状の精度がどのくらいあるものかを調べると、まず、誤差要因として考えられるのは、測定する装置固有の誤差と、測定対象に依存した誤差の二つが存在する。この二つの誤差それぞれについて、詳細に分析すると、その影響を校正によって除去できる系統誤差と確率的不規則現象のため統計的な処理によって軽減するしかない偶然誤差に分けられる。、三点支持裏返し法における誤差要因をまとめると、表1のようになる。
【0028】
【表1】

【0029】
まず、測定装置固有の誤差に関して、本発明者等は、研磨製品の面精度を計測するために用いる原器である、オプティカルフラットを用いて調べた。また、測定対象に依存した誤差については、直径300mmのシリコンウェハを測定対象としてデータサンプリング間隔、ウェーハ裏返し精度による誤差の測定を行った。
【0030】
オプティカルフラットの測定を行った場合は、理論的にはオプティカルフラットの検定結果程度の値になるはずである。しかし、実際には、測定装置の運動精度や振動、およびセンサ直線性やノイズの影響による誤差を含み、この誤差はシリコンウェーハなどを測定した場合の結果に影響を与える。
【0031】
そこで、オプティカルフラットの表面形状測定を2回行い、それぞれを表面、裏面形状データとして、裏返し法の原理によりWARPを算出した。この走査を3回行い平均した結果0.275μmとなった。
【0032】
さらに、測定装置固有の誤差のうち、装置の運動性能や熱変形などによる誤差と測定センサによる誤差の分離を試みた。測定センサを測定装置からはずし、測定センサとブロックゲージの距離を一定に保った上で定盤上に固定した。それとは別に、表面形状測定装置の先の実験と同条件で走査し、運動だけさせた、先の実験と同様にWARPを算出した結果0.209μmとなった。
【0033】
以上の結果より、三点裏返し法の測定装置固有の誤差は0.275μmであったが、このうち測定センサの偶然誤差範囲は0.209μmを占めることが分かった。これらの値は、数十μmある、シリコンウェーハや石英ガラスウェーハの反りに対しては十分小さく無視できることが分かった。
【0034】
次に、データサンプリング間隔が大きいと、WARPを求める際の最大値や最小値を正確に捉えられない可能性があり、正確なWARPが測定できない可能性があると考えた。そこで、直径300mm、厚さ0.775mmのウェーハを用い、データサンプリング間隔2.5mmと5.0mm間隔の2通りの間隔で測定を行った。図5は、データサンプリング間隔を変えて測定したウェーハ形状のX=0mm、Y=117.5〜142.5mmに置ける断面図を示す。その結果、データサンプリング間隔2.5mm、5.0mmでWARP測定を行った結果、間隔が2.5mmの場合はWARPが17.16μm、5.0mmの場合には16.47μmと約0.7μm異なることが分かった。
【0035】
以上の結果より、データサンプリング間隔は形状測定における系統誤差の大きな要因であると考えられ、データサンプリング間隔を小さくすれば精度はあがるが、その一方で、測定時間がながくなるためにセンサシステムの温度ドリフトの影響により誤差が大きくなるという懸念がある。
【0036】
三点支持裏返し法では、その原理により測定対象を裏返す際の対称性が重要である。そこで、上面測定におけるウェーハの位置に対し、裏返して裏面を測定する際にウェーハを正確な位置からある程度回転させて位置決めして、WARP測定を行い、ウェーハ裏返し精度が測定結果に与える影響を調べた。実験結果では、WARP測定値は最大0.23μm変化した。実際の測定では、裏返しでのズレは目視で容易に確認できるので、あまり大きな測定誤差要因となることは考えづらい。
【0037】
三点支持裏返し法によるシリコンウェーハのWARP測定における繰り返し精度は、表1における系統誤差の要因となる条件を常に一定にして、複数測定回数を繰り返すことにより偶然誤差の影響、つまり繰り返し精度を抽出できる。そこで、直径300mm、厚さ0.775mmのシリコンウェーハ4枚(A〜D)について、データサンプリング間隔を5mmに設定して10回ずつWARP測定を行い、数1を用いてシリコンウェーハのWARP測定における繰り返し精度を求めた所、繰り返し精度でδは0.3μm以下であることが分かった。
【0038】
【数1】

【0039】
このようにして、三点支持裏返し法による、大面積・薄肉パネルである、直径300mm、厚さ0.775mmのシリコンウェーハのWARPの測定における、誤差要因の分析から、データサンプリング間隔を小さくすれば、ウェーハ形状の正確な測定が可能であり、繰り返し精度は0.3μm以下であることが分かり、上記の結果より、三点支持裏返し法により、ほぼ真のウェーハの形状を測定することが出来ることが判明した。
【0040】
次に、本発明者等は、図6で概略を示した、縦型形状測定法で、大面積・薄肉パネルの形状を測定する場合の誤差要因を調べた。本装置では、ウェーハのエッジ部をクランプで鉛直に支持し、ウェーハの両面には二つの光学測定系が対向配置されており、各光学系は、測定光を発する発光部と、三角測定法によりウェーハの表面形状を演算し、記憶するとともにモニタに表示する。
【0041】
まず、自重による大面積・薄肉パネルの変形を最小とするため、シリコンウェーハや石英ガラスウェーハを垂直に支持して形状測定を行った。変位センサには、三角測量方式のレーザ変位計のアンリツ株式会社製非接触レーザ変位計KL1300Bを使用した。この縦型形状測定装置ではウェーハの両側から変位センサにより形状を測定するため、振動などの外乱の影響を受けずにウェーハの厚みを正確に測定できるが、クランプ力によるウェーハの変形や、回転することによってウェーハが変位し、反りや表面形状の測定が正確に行えないことが懸念されるので、装置に起因する誤差要因に付き調べた。
【0042】
まず、ウェーハの両側に配置された変位センサをウェーハの最外周からウェーハの中心まで半径方向に移動させることにより、ウェーハは回転しているので、渦巻状にウェーハの表面形状を測定することができる。変位センサの動きだけを停止すれば円形に、回転だけを止めれば直線的にウェーハの表面形状を測定でき、その変位センサのガイド軸上の測定位置において、測定値がウェーハのどの位置に対応する測定値であるかは、回転速度、移動速度、時間、回転数、及びスタート位置からの回転角から演算することができる。したがって、間欠送りによる測定データ、あるいは、連続送りによる測定データを、測定手段の移動距離と移動時間とによるガイド軸位置と、回転テーブルの回転速度とによる縦方向の位置より座標位置によるデータとして記憶した表面形状の測定結果を得ることができる。図7のように,測定中に振動やクランプ位置の変動などの影響でウェーハが変位した場合、表面形状測定の結果には影響が生じるが、厚さ測定においては、センサ間の距離が変わらなければ影響はない。表面を計るセンサの出力をaとし、ウェーハの厚みをtとすると、中心面は、a+t/2、となる。
【0043】
本発明では、ウェーハを鉛直に支持するクランプとして、図8に示したような、直線状のリンク6本と、直線状のものを十字に重ねた十字状のリンク6本計12個のリンクで構成されたクランプを使用し、ウェーハは6つの十字状リンクの内3点で支持されている。この支持機構は、十字状リンクは回転支持体に、回転自在に固定されており、十字状リンクの支持点も、回転自在な円盤状で中央が凹部を形成したクランプでウェーハを挟持し、3つの支持点が連携して動く機構で、ウェーハを支持し、効率よく回転支持体の中心に保持することができる。
【0044】
縦型測定法では、支持点におけるクランプの挟持によりウェーハに変形が生じ、形状測定に影響を与える事が考えられる。そこで、シリコンウェーハについて、ウェーハを支持機構に装着する際に、支持する方角による影響を調べるため、ウェーハのノッチの方角を変化させることでウェーハに対する支持位置を変え、形状測定を行い、クランプ力の影響を調べた。また、シリコン単結晶の持つ弾性率の異方性の影響により、支持位置の違いによりウェーハの変形量が異なることが考えられるため、異方性を持たないガラスウェーハについても同様な形状測定を行った。
【0045】
クランプ力の大きさに対してパネルの変形が線形的に変化する場合、図9に記載したように、形状測定結果からクランプ力による変形を抽出して、反りを求めることが出来る。すなわち、クランプ力相殺法の原理式は、ウェーハの反り形状をS(x、y)、単位クランプ力による変形をδ(x、y)、測定される形状をM(x,y),クランプ力をfとすると、クランプf1とf2のときの測定結果M1(x,y)とM2(x,y)はそれぞれ、数2、数3で表わされる。数2と数3の中のM1(x,y)とM2(x、y)、f1とf2が既知であるため、二つの式を連立して解くと、S(x,y)は数4の式より求められる。
【0046】
【数2】

【0047】
【数3】

【0048】
【数4】

【0049】
図8に示すリンクの配置に対して、ノッチが鉛直上向きのときを0度とし、ウェーハを装着する際のノッチの方角を30度ずつ変化させて、各角度において形状測定を行い、反り、WARP、の変化を調べた。測定結果を図10に示す、シリコンウェーハ3枚、ガラスウェーハ3枚とも支持位置の変化により反りは変化し、その変化幅は約5〜10μmであり、本実験でのクランプ力では、異方性の影響は少ないと推定できるが、結果より判断すると、縦型形状測定装置では、正確な形状測定が行われていないといえる。ここでの、反りの変化の周期はどのウェーハも180度であり、回転面のずれや回転中の支持点の変位などの装置の系統誤差が測定結果に影響していると考えられる。
【0050】
また、縦型形状測定法で、ウェーハを支持する際に生じるクランプ力の大きさによるウェーハの変形が懸念される。そこで,シリコンウェーハを用い、クランプ力を変化させ、ウェーハの中心を通るX軸とY軸断面形状の変化を調べた。引張バネ力を20.7〜25.53Nまで調整し、クランプ力を変化させた場合のX軸と、Y軸断面形状の変化を調べ、結果を図11で示した。このグラフより、クランプ力の変化によるウェーハの変形量は小く、クランプ力の大小がウェーハの形状に与える影響は小さいといえる。
【0051】
そこで、直径300mm、厚さ0.775mmのウェーハを使用し、ウェーハの中心を横切るガイド軸GA,GB上を、三角測量方式のレーザ変位計のセンサ、SA,SBを、最外周より、ウェーハ中心部に移動させ、同時にウェーハを回転させる事で、ウェーハ両面から、一定間隔でらせん状に形状を測定する。一般的にこの方法での精度としては、サブミクロンからナノメートルの分解能で計測することができる。
【0052】
上記の方法で、縦型形状測定装置を使用し、特定のノッチ角度、0度と90度の場合でウェーハを支持後、その形状を測定し、形状をモニター上に等高線図で表示する。ウェーハの形状は、ノッチ方角0度を90度に回転させた位置でも、ウェーハを回転して測定すれば、自重の影響はなく、またクランプの挟時による影響は少ないので、測定してウェーハの形状は変わらないはずであり、形状を示す等高線図は、ノッチ角度0度と90度で支持した場合でも近似していなければならない。しかし、図12の模様で表示された。ノッチ方角が0度と90度では等高線図の模様は異なっている。同じウェーハを使用して三点支持裏返し法でウェーハの正確な形状を求め、等高線図で表わすと図13の模様となる。図13では、ノッチ角度の差による、ウェーハ形状の差は見られない。
【0053】
図12で表示された形状データと、同じウェーハの正確な形状を表示した図13の形状データの差の意味するものは、縦型形状装置固有の系統誤差と考えられるが、もし、系統誤差であれば、図12の形状データより、図13の形状データを差引いた形状を等高線図であらわせば、近似した等高線図になるはずである。
【0054】
そこで、図12の形状データと図13の形状データを記憶装置に保存し、演算装置で、減算計算を行い、その結果得られた形状の等高線図をモニター画面上に表わしたのが図14であり、ノッチ方角0度と90度での、模様を比較すると、模様は厳密には一致しなかったが、非常に似た形状になった。この図14が本発明が目的とした装置固有の系統誤差といえる。図12の形状データより、図14の形状データを差引けば、図13の形状データとなり、正確な形状が得られる。
【0055】
差分した結果が完全に一致しなかった原因として、クランプ力によるウェーハの変形や、本測定装置と横型測定法で測定点が異なることなどが考えられるが、縦型形状測定装置を使用して多数の大面積・薄肉パネルの形状を測定する場合、この抽出法を採用し、まず、三点裏返し法により、前記パネルの中より一枚の正確な形状を求め、縦型形状測定装置を使用して同一パネルの形状を測定し、上記した方法により、縦型形状測定装置の装置固有の系統誤差を抽出し、その抽出データを補正値として、前記の形状測定装置に記憶させた後、大面積・薄肉パネルの測定を行い、測定結果より、前記補正値を差引くロジックを、前記縦型形状測定装置に記憶させれば、以後同一サイズの大面積・薄肉のパネルの形状測定においては、パネルの正確な形状測定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明で採用した「反り」WARPの測定原理を示す図である。
【図2】三点裏返し測定法によりパネルを測定する装置の概略図である。
【図3】鋼球でウェーハを水平支持する三点支持法を説明している図である。
【図4】裏返し法により、ウェーハの自重による変形による影響を除去し、反りを求める原理を示す図である。
【図5】データサンプリング間隔により、WARPの最大値と最小値の差が異なることを、間隔が2.5mmと5.0mmの場合で示したグラフを表わす図である。
【図6】縦型形状測定装置のパネルの支持点とセンサーの配置を示した図である。
【図7】変位センサを用いて、ウェーハの厚みを測定する方法を現した図である。
【図8】縦型形状測定装置で、ウェーハを三点で支持した状況を示した図である。
【図9】クランプ力の大きさに対してパネルの変形が線形的に変化する場合の、クランプ力相殺法の原理式を説明する図である。
【図10】ガラスウェーハ、シリコンウェーハ、各三枚使用し、ノッチ角度を30度ずつ変化させ、反りの変化(形状測定結果の最大値と最小値の差)をプロットした図である。
【図11】クランプ力による測定のバラツキを測定した図である。
【図12】縦型形状測定器でノッチ方角を0度と90度で測定したウェーハの形状を等高線図で表示した図である。Nはノッチの位置を表わす。
【図13】三点裏返し法によって測定された同一ウェーハの形状を等高線図で表わした図である。
【図14】図12の測定データより、図13の測定データを差し引いた形状を等高線図で表示しており、縦型形状装置の装置固有の系統誤差を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
F 引張りばね
G、GA,GB ガイド軸
N ノッチ
P1、P2、P3 支持点
R 回転支持体
S、SA,SB 変位センサ
W ウェーハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦型形状測定装置に、大面積・薄肉のパネルを、等角度で少なくとも三ヶ所の支持点を保有する回転支持体に、同一平面内で回転自在となるよう支持し、前記パネルを回転させ、前記パネルを挟んで対向する2組の変位センサを走査して、測定したパネルの形状と、
前記パネルの正確な形状の差異より、前記縦型形状測定装置が保有する装置固有の系統誤差を抽出し、この抽出した系統誤差を補正して、大面積・薄肉のパネルの形状を測定する方法
【請求項2】
大面積・薄肉のパネルの正確な形状を、三点支持裏返し法により求める、請求項1に記載の、大面積・薄肉のパネルの形状を測定する方法。
【請求項3】
三点支持裏返し法が、大面積・薄肉のパネルを、水平に同心円上に配置した三点で支持し、前記パネルの上面に平行に配置したガイド軸に沿って変位センサを走査して求めた、前記パネルの一方の面の形状と、前記パネルを真後ろに裏返し、前記と同様にして求めた、前記パネルの他方の面の形状との差異より、前記パネルの自重による変形成分を補正した前記パネルの形状を測定する方法である、請求項2に記載の、大面積・薄肉のパネルの形状を測定する方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法より、縦型形状測定装置が保有する装置固有の系統誤差を抽出し、その抽出したデータを、補正値として記憶させる記憶機能、および前記補正値の加減算を行う演算機能を保有する縦型形状測定装置。


【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−64748(P2007−64748A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−249622(P2005−249622)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】