説明

懸架装置

【課題】車両の走行状態に応じたばね定数の変更を容易に実現すること。
【解決手段】この懸架装置100は、第1及び第2緩衝装置101、102を備える。第1及び第2緩衝装置101、102は、気体が内部に閉じ込められて荷重を支持する第1気室11、12及び第2気室21、22を備える。また、第1及び第2緩衝装置101、102は、第1気室11、12と第2気室21、22とで支持され、かつ第1気室11、12と接触する部分の荷重支持面積A1は、第2気室21、22と接触する部分の荷重支持面積A2よりも大きい第1及び第2荷重伝達部材31、32を備える。そして、第1緩衝装置101の第1気室11と第2緩衝装置102の第2気室22とは第1連通通路51で接続されるとともに、第1緩衝装置101の第2気室21と第2緩衝装置102の第1気室12とは第2連通通路52で接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の懸架装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗用車やバス、トラック等の車両は、懸架装置を用いて路面からの衝撃を吸収させて、乗り心地を確保する。また、懸架装置は、車両の走行中において、いわゆるホイールアライメントの変化をできるだけ小さくして、車両の操縦安定性や走行安定性を確保する。車両の懸架装置は、衝撃を吸収するためのスプリング、スプリングが伸縮する速度を減衰させるダンパー、及び車輪の上下方向への動きをガイドするアーム類を含んで構成される。
【0003】
一般にスプリングとしては、コイルスプリングや板ばね、あるいはトーションバー等が用いられることが多いが、気体(一般には空気)の圧縮による反発力を利用した空気ばねも用いられる(例えば特許文献1)。空気ばねは、気体の量(モル数や質量)を調整することで、車両の乗車人数や積載物の量が変化しても、車両の車高を一定に保つことができる。また、空気圧や空気容積等を変化させることにより、ばね定数を変化させる能力を有する。
【0004】
【特許文献1】USP4200270
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示されている技術では、例えば、直線走行や旋回走行といった車両の走行状態に適した操縦安定性を得るために、車両の走行状態に応じて緩衝装置のばね定数を変更することが困難であった。そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、車両の走行状態に応じて、懸架装置が備える緩衝装置のばね定数を容易に変更できる懸架装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決して、目的を達成するために、本発明に係る懸架装置は、内部に閉じ込められた気体によって荷重を支持する第1の気室と、内部に閉じ込められた気体によって前記第1の気室とともに荷重を支持し、また荷重支持面積が前記第1の気室よりも小さく、かつ荷重が負荷された場合の体積変化は、前記第1の気室の体積変化と反対となる第2の気室と、を含むとともに、車両の異なる位置に取り付けられて、路面からの入力を緩和する複数の緩衝装置と、一対の緩衝装置において、一方の緩衝装置が備える第1の気室と、他方の緩衝装置が備える第2の気室とを連通させる第1の連通通路と、一方の緩衝装置が備える第2の気室と、他方の緩衝装置が備える第1の気室とを連通させる第2の連通通路と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この緩衝装置は、第1の気室と第2の気室とによって荷重を安定に支持するとともに、一対の緩衝装置において、第1の気室と第2の気室とを互いに連通させる第1の連通通路と第2の連通通路とを備える。これによって、一対の緩衝装置は、逆位相で動作するときのばね定数は、同位相で動作するときのばね定数よりも大きくなる。このような一対の緩衝装置を車両の左右や前後に配置することによって、車両の走行状態に応じて緩衝装置のばね定数を容易に変更できる。
【0008】
次の本発明に係る懸架装置は、前記緩衝装置において、前記一対の緩衝装置は、前記車両の左右に取り付けられる一対の緩衝装置であることを特徴とする。
【0009】
次の本発明に係る懸架装置は、前記緩衝装置において、前記一対の緩衝装置は、前記車両の同じ側で、かつ前後に取り付けられる一対の緩衝装置であることを特徴とする。
【0010】
次の本発明に係る懸架装置は、前記緩衝装置において、前記一対の緩衝装置は、前記車両の対角位置に取り付けられる一対の緩衝装置であることを特徴とする。
【0011】
次の本発明に係る懸架装置は、前記緩衝装置において、前記第1の連通通路と前記第2の連通通路との間に通路開閉手段を設けることを特徴とする。
【0012】
次の本発明に係る懸架装置は、前記緩衝装置において、さらに、前記第1の気室と前記第2の気室を接続する循環通路が備えられることを特徴とする。
【0013】
次の本発明に係る懸架装置は、内部に閉じ込められた気体によって荷重を支持する第1の気室と、内部に閉じ込められた気体によって前記第1の気室とともに荷重を支持し、また荷重支持面積が前記第1の気室よりも小さく、かつ荷重が負荷された場合の体積変化は、前記第1の気室の体積変化と反対となる第2の気室と、を含むとともに、車両の異なる位置に取り付けられて、路面からの入力を緩和する複数の緩衝装置と、前記気室同士を接続する連通通路と、前記連通通路に設けられる通路開閉手段と、を備えることを特徴とする。
【0014】
この緩衝装置は、第1の気室と第2の気室とによって荷重を安定に支持するとともに、第1の気室と第2の気室とを連通させる連通通路を備える。これによって、例えば、連通通路を開閉したり、連通させる気室の組み合わせを変更したりすることにより、車両の走行状態に応じて緩衝装置のばね定数を容易に変更できる。
【0015】
次の本発明に係る懸架装置は、前記緩衝装置において、前記連通通路には、振動減衰手段が設けられることを特徴とする。
【0016】
次の本発明に係る懸架装置は、前記緩衝装置において、前記緩衝装置の前記第1の気室内であって、前記車両に対する取付側にストッパ部材を設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
この発明に係る懸架装置は、懸架装置が備える緩衝装置のばね定数を、車両の走行状態に応じて容易に変更できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。本発明は、乗用車やトラック、バス等の路面上を走行する車両や、鉄道車両のように軌道上を走行する車両の懸架装置に適用できるが、特に、乗用車やトラック、バス等の路面上を走行する車両に好適である。
【実施例1】
【0019】
この実施例に係る懸架装置は、第1の気室と第2の気室とによって荷重を支持するとともに、一対の緩衝装置において、第1の気室と第2の気室とを互いに連通させる第1の連通通路と第2の連通通路とを備える点に特徴がある。
【0020】
図1−1は、この実施例に係る懸架装置が備える緩衝装置の構造を示す説明図である。この実施例に係る懸架装置100は、いわゆるエアサスペンションであり、路面からの衝撃を吸収、緩和するための緩衝装置に空気ばねを利用する。この実施例に係る緩衝装置10は、図1−1に示すように、内部に気体が閉じ込められる第1の気室(以下第1気室)1と第2の気室(以下第気室)2とが対向配置されてケース(筺体)11内に収められる。この実施例において、第1気室1は、緩衝装置10の取付対象である車両20側に配置される。このため、第2気室2は、第1気室1の鉛直方向の下方位置に配置されることになる。ここで、鉛直方向とは重力の作用方向をいい、下方位置とは対地高さの低い側をいう(図1−1中矢印G方向)。また、この実施例において、第1気室1及び第2気室2内に閉じ込められる気体は空気であるが、前記気体は空気に限定されるものではない。
【0021】
対向配置される第1気室1と第2気室2とは、荷重伝達部材3を挟持する。荷重伝達部材3には、ケース11に設けられる貫通孔12を貫通した載荷部材4が取り付けられている。載荷部材4には、懸架装置100を構成するアームや、タイヤ・ホイール組立体を揺動可能に支持するハブが取り付けられる。そして、路面から車両20に伝達される力を、第1気室1及び第2気室2に伝達する。この力は、第1気室1及び第2気室2内の気体に伝達されて、第1気室の気体が圧縮されることにより吸収、緩和される。これによって、車両20に伝達される前記力が緩和支持される。このように、この緩衝装置10は、荷重が負荷された場合、第1気室1の体積変化と第2気室2の体積変化とは反対となる。すなわち、第1気室1の体積が減少すると、第2気室の体積は増加する。
【0022】
後述するように、この実施例において、同一の緩衝装置10において第1気室1と第2気室2とを連通させたり、あるいは一対の異なる緩衝装置10間において、それぞれの第1気室1と第2気室2とを連通させたりする。これによって、第1気室1内における気体の圧力P1と、第2気室2内における気体の圧力P2とは等しくなる。また、図1−1に示すように、第1気室1と荷重伝達部材3の第1支持部CP1とが接触する部分の荷重支持面積A1は、第2気室2と荷重伝達部材3の第2支持部CP2とが接触する部分の荷重支持面積A2よりも大きい(A1>A2)。
【0023】
すなわち、第1気室1が荷重伝達部材3から圧力を受ける受圧面積は、第2気室2が荷重伝達部材3から圧力を受ける受圧面積よりも大きい。これによって、第1気室1が荷重伝達部材3を押す力F1は、第2気室2が荷重伝達部材3を押す力F2よりも大きくなるので、緩衝装置10によって前記載荷部材4から荷重伝達部材3へ伝わる荷重を支持することができる。なお、A1:A2は、2:1〜10:1程度が適切である(以下同様)。
【0024】
この緩衝装置10は、対向配置される第1及び第2気室1、2に荷重伝達部材3が狭持される。そして、貫通孔12に貫通した載荷部材4が荷重伝達部材3に取り付けられて、貫通孔12内を載荷部材4が移動することで、緩衝装置10が衝撃を吸収し、緩和する。従来の緩衝装置では、荷重の作用点がケースの外側にあったが、この実施例に係る緩衝装置10では、載荷部材4からの荷重の作用点を緩衝装置10のケース11内に設定できる。その結果、緩衝装置10の全長を従来よりも短く設計できる。これにより、懸架装置100をコンパクトにすることができる。
【0025】
また、図1−1に示すように、この緩衝装置10は、緩衝装置10の内部であって、車両取付側において荷重伝達部材3の第1支持部CP1と対向する位置に、ストッパ部材19が取り付けられている。ストッパ部材は、第1気室1の内側かつ緩衝装置10の車両20への取付側(すなわち、第1気室1の内側であって、重力の作用方向(図1−1中矢印G方向)とは反対方向側)に設けられる。
【0026】
なお、ストッパ部材19は、荷重伝達部材3の第1支持部CP1側に設けてもよいし、第1支持部CP1側及び第1気室1の内側かつ緩衝装置10の車両20への取付側の両方に設けてもよい。すなわち、ストッパ部材19は、緩衝装置10のケース11内であって、荷重伝達部材3の第1支持部CP1と、車両20との間に設けることができる。ストッパ部材19は弾性材料で構成されており、荷重伝達部材3の動作方向(すなわち緩衝装置10の動作方向)に向かって圧縮されたときに反発力を発生する。ストッパ部材19は、例えば、ゴムや樹脂等の弾性材料を用いたり、つるまきばね、皿ばね等を用いることができる。
【0027】
この緩衝装置10は、万一第1気室1内の空気が抜けて、緩衝装置10内の空気圧支持によるばね上質量の支持が不可能になっても、ストッパ部材19により前記ばね上質量を支持することができる。これにより、気室から万一空気漏れが発生しても、ストッパ部材19が荷重伝達部材3の第1支持部CP1に直接接触して、車両20の質量を支持できるので、少なくとも車両20は低速で走行できる。その結果、気室から万一空気漏れが発生しても、低速走行により修理工場等へたどり着くことができる。なお、以下に説明する緩衝装置においても、ストッパ部材を備えているが、必ずしもストッパ部材を備える必要はない。
【0028】
図1−2は、この実施例に係る懸架装置に適用可能な他の緩衝装置の構造を示す説明図である。この緩衝装置10aは、上記緩衝装置10と同様の構成であるが、対向配置される第1気室1aと第2気室2aとを荷重伝達部材3aが貫通する。そして、荷重伝達部材3aの第1支持部CP1が、対向面OPの反対側における第1気室1aに接触する。また、荷重伝達部材3aの第2支持部CP2が、対向面OPの反対側における第2気室2aに接触する。そして、第1支持部CP1と第1気室1aとの接触部分における荷重支持面積A1は、第2支持部CP2と第2気室2aとの接触部分における荷重支持面積A2よりも大きい。そして、この緩衝装置10aは、荷重が負荷された場合、第1気室1aの体積変化と第2気室2aの体積変化とは反対となる。このような構成の緩衝装置10aであっても、この実施例に係る懸架装置100に適用できる。
【0029】
図1−3は、この実施例に係る懸架装置に適用可能な他の緩衝装置の構造を示す説明図である。この緩衝装置10bは、外筒11b内を内筒3bが往復運動するように構成される。外筒11b内には第1気室1bが設けられている。また、内筒3b内には第2気室2bが設けられている。第1気室1bには、内筒3bの第1支持部CP1が接触しており、内筒3bを介して荷重が伝達される。内筒3bは、外筒11bに設けられる貫通孔11iを通って外筒11bの外部へ突出しており、この部分へ荷重が作用する。なお、この緩衝装置10bでも、緩衝装置10bの内部であって、車両取付側において内筒3bの第1支持部CP1と対向する位置に、ストッパ部材19が取り付けられている。これによって、気室内の空気圧が消失した場合であっても、車両20を支持する。
【0030】
外筒11b内には荷重伝達部3Cが設けられており、荷重伝達部3Cの第2支持部CP2が第2気室1bに接触する。そして、第1支持部CP1と第1気室1bとの接触部分における荷重支持面積A1は、第2支持部CP2と第2気室2bとの接触部分における荷重支持面積A2よりも大きい。そして、この緩衝装置10aは、荷重が負荷された場合、第1気室1bの体積変化と第2気室2bの体積変化とは反対となる。このような構成の緩衝装置10bであっても、この実施例に係る懸架装置100に適用できる。次に、この実施例に係る緩衝装置が備える気室同士を接続する配管のパターンについて説明する。配管のパターンの説明においては、図1−1に示す緩衝装置10を例とするが、他の緩衝装置でも同様である。
【0031】
図2−1は、この実施例に係る緩衝装置が備える気室を連通通路で接続する配管のパターンを示す説明図である。図2−2は、この実施例に係る緩衝装置を車両に取り付けた状態において、図2−1に示す配管のパターンを示す平面図である。図2−2中の矢印L方向が車両20の進行方向を表す。また、図2−2では、緩衝装置101〜104を平面図の位置に配置しているが、配管を見やすくするために、鉛直方向配置されるべきである緩衝装置を、紙面と平行に記載してある。
【0032】
図2−1に示す懸架装置100は、図2−2に示す車両20の前部の構成を示している。図2−2に示す車両20に備えられる懸架装置も、図2−1に示す懸架装置100と同様の構成なので、次の説明では、車両20の前方における懸架装置について説明する。この実施例に係る懸架装置100は、一対の緩衝装置として、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とを備えている。そして、第1緩衝装置101が車両20の進行方向(図2−2中矢印L方向)に向かって右側に、第2緩衝装置102が車両20の進行方向に向かって左側に取り付けられる。このように、一対の第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とは、車両20の異なる位置(この例では左右)に取り付けられて、車輪21が受ける路面からの入力を吸収し、緩和する。なお、この懸架装置100では、車輪21の動きを上下方向にガイドするアームが、載荷部材41、42としてそれぞれ第1及び第2荷重伝達部材31、32に固定、接続される。
【0033】
第1緩衝装置101の第1気室11と、第2緩衝装置102の第2気室22とは、第1の連通通路(以下第1連通通路)51で連通させられて、閉じた気体として一体化されている(第1系統S1)。また、第1緩衝装置101の第2気室21と、第2緩衝装置102の第1気室12とは、第2の連通通路(以下第2の連通通路)52で連通させられて、閉じた気体として一体化されている(第2系統S2)。このように、異なる緩衝装置が有するそれぞれの第1気室とそれぞれの第2気室とを連通させる。
【0034】
これによって、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが逆位相で動作する場合は、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが同位相で動作する場合よりもばね定数が高くなる(この例では約2倍)。ここで、逆位相で動作する場合とは、例えば、第1緩衝装置101の第1荷重伝達部材31が上昇側(車両20への取付側、矢印U側)へ移動し、第2緩衝装置102の第2荷重伝達部材32が下降側(車両20への取付側とは反対側、矢印D側)へ移動する場合である。また、同位相で動作する場合とは、例えば、第1緩衝装置101の第1荷重伝達部材31、及び第2緩衝装置102の第2荷重伝達部材32が、ともに上昇側又は下降側へ移動する場合である。
【0035】
例えば、第1緩衝装置101の第1荷重伝達部材31に対して、第1緩衝装置101が下降すると、第1緩衝装置101の第1気室11は体積が減少し、第2気室21は体積が増加する。第1緩衝装置101の第1気室11は、第2緩衝装置102の第2気室22と連通しているので、第1緩衝装置101の第1気室11の体積減少によりここから押し出された気体は、第2緩衝装置102の第2気室22へ移動しようとする。また、第1緩衝装置101の第2気室21は、第2緩衝装置102の第1気室12と連通しているので、第1緩衝装置101の第2気室21の体積増加により、第2緩衝装置102の第1気室12から気体が流入しようとする。
【0036】
第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが逆位相で動作する場合、第1緩衝装置101の第1荷重伝達部材31が第1気室11の上昇側へ移動すると、第2緩衝装置102の第1荷重伝達部材32は、第1気室11の下降側へ移動する。これによって、第2緩衝装置102の第2気室22の体積は減少するので、第1緩衝装置101の第1気室11へ気体を押し出すことになる。また、第2緩衝装置102の第1気室12の体積は増加するので、第1緩衝装置101の第2気室21から気体を流出させることになる。
【0037】
このように、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが逆位相で動作すると、第1緩衝装置101の第1気室11と第2緩衝装置102の第2気室22との気体の移動、及び第1緩衝装置101の第2気室21と第2緩衝装置102の第1気室12との気体の移動が阻害される。その結果、この実施例に係る懸架装置100では、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが逆位相で動作すると、第1緩衝装置101及び第2緩衝装置102のばね定数が上昇する。
【0038】
一方、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが同位相で動作すると、第1緩衝装置101の第1気室11と第2緩衝装置102の第2気室22との間における気体の移動、及び第1緩衝装置101の第2気室21と第2緩衝装置102の第1気室12との間における気体の移動が促進される。その結果、この実施例に係る懸架装置100では、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが同位相で動作すると、第1緩衝装置101及び第2緩衝装置102のばね定数が低下し、乗り心地が改善される。
【0039】
ここで、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが同位相で動作する場合は、車両20が直進する場合に相当する。一方、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが逆位相で動作する場合は、車両20が旋回する場合に相当する。この実施例に係る懸架装置100では、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが逆位相で動作する場合にばね定数が高くなる。これによって、車両20の直進時においては低いばね定数で乗り心地を確保しつつ、車両20の旋回時においては高いばね定数によってロール剛性が向上するので、車両20の旋回時における操縦安定性や走行性能を向上させることができる。このように、この懸架装置100は、乗り心地と旋回時における操縦安定性等とを両立させることができる。
【0040】
この実施例に係る懸架装置100は、一対の異なる緩衝装置が有するそれぞれの第1気室とそれぞれの第2気室とを連通させ、車両20の旋回時においては、機械式の車体ロールに対するスタビライザーと同様に機能する。これによって、機械式の車体ロールに対するスタビライザーを備えなくとも、スタビライザーを備える場合と同様の効果を得ることができる。その結果、機械式のスタビライザーが不要になるので、軽量化に寄与する。また、気室間における空気の釣り合いによって、ロール剛性を上昇させるので、電気的な制御は不要になる。これによって信頼性が向上する。また、機械式のスタビライザーの場合、ロール剛性を向上させるためにねじり剛性の高いものを使用すると、片方の車輪が段差を通過する際に乗り心地が悪化したり、操縦安定性に影響が発生したりする。しかし、この実施例に係る懸架装置100は、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが同位相で動作する場合はばね定数が低くなるので、乗り心地の悪化を抑制でき、また、操縦安定性への影響を低減できる。
【0041】
また、図2−1に示す懸架装置100では、気体供給源6A、6Bから緩衝装置101、102へ気体を供給することにより、車両20の車高を調整することができる。気体供給源6Aと第1系統S1との間には、切替弁301が、気体供給源6Bと第2系統S2との間には、切替弁302が配置されている。切替弁301、302は、遮断装置311、312と、逆止弁321、322と、排気部331、332とを備えて構成される。
【0042】
上記第1系統S1又は上記第2系統S2に対して別個に気体を供給すれば、左右、あるいは前後の車高を異ならせることもできる。このように、第1系統S1又は第2系統S2に給排気することにより、緩衝装置毎に車高を調整できる。このため、例えば、緩衝装置に荷重が作用した場合、車高センサ401、402等を用いて、予め設定した車高を保つように制御する、いわゆるオートレベリング制御も可能である。
【0043】
ここで、第1連通通路51及び第2連通通路52を気体が通過することによって、比較的高周波に対するダンピング効果(各気室内における気体の振動を減衰させる効果)を得ることができる。さらに、図2−1に示すように、第1連通通路51及び第2連通通路52に、振動減衰手段としてオリフィス回路7A、7Bを設け、これによって噴流を発生させ、動圧を利用することにより、比較的低周波に対するダンピング効果を発生させてもよい。
【0044】
この例においては、オリフィス回路7A、7Bは、オリフィス7Ao、7Boと、逆止弁7Ar、7Brと、を含んで構成される。これによって、第1気室11、12や第2気室21、22からの気体がオリフィス回路7A、7Bを通過する際には抵抗を受けるので、比較的低周波に対するダンピング効果を得ることができる。なお、振動減衰手段としては、絞り弁等も使用できる。
【0045】
第1緩衝装置101及び第2緩衝装置102が伸縮すると、第1緩衝装置101及び第2緩衝装置102の各気室内の気体は、第1連通通路51、第2連通通路52内を通過する。その過程において、ダンピングによって気体に発生した熱は大気中へ放出される。一般に空気ばねの寿命は、気体を封入するゴムの温度が上昇することによって著しく加速される。この懸架装置100によれば、第1連通通路51、第2連通通路52内を各気室内の気体が通過する際に、ダンピングにより発生した熱を大気中に放出できる。その結果、第1緩衝装置101及び第2緩衝装置102が備える気室を構成するゴムの耐久性低下を抑制して、装置の寿命を長くすることができる。
【0046】
その結果、懸架装置100には、ダンピング効果を発揮する装置を別個に設ける必要はないので、構造の簡略化、軽量化、低コスト化に有利である。なお、振動減衰手段に加え、上記第1系統S1や上記第2系統S2に気体を供給したり、上記第1系統や上記第2系統から気体を排出したりする制御を併用してもよい。これによって、さらに高いダンピング効果を得ることができる。
【0047】
図2−3は、連通した気室にさらに連通通路を設け、気室間で気体を循環させるようにした例を示す説明図である。この懸架装置100'では、第1緩衝装置101の第1気室11と、第2緩衝装置102の第2気室22とは、第1連通通路51で連通されている。また、第1緩衝装置101の第2気室21と、第2緩衝装置102の第1気室12とは、第2連通通路52で連通されている。第1連通通路51には、オリフィス151と逆止弁141とが設けられており、また、第2連通通路52には、オリフィス152と逆止弁142とが設けられている。そして、オリフィス151、152、及び逆止弁141、142によってダンピング効果を得る。
【0048】
また、この懸架装置100'は、第1緩衝装置101の第1気室11と、第2緩衝装置102の第2気室22とが、第1の循環通路131で連通されている。また、第1緩衝装置101の第2気室21と、第2緩衝装置102の第1気室12とは、第2の循環通路132で連通されている。第1の循環通路131には、オリフィス171と逆止弁161とが設けられており、また、第2の循環通路132には、オリフィス172と逆止弁162とが設けられている。そして、オリフィス171、172及び逆止弁161、162によってダンピング効果を得る。
【0049】
第1連通通路51と第1の循環通路131とによって、第1緩衝装置101の第1気室11内の気体と第2緩衝装置102の第2気室22内の気体とは連通するので、閉じた気体として一体化されている(第1循環系統SS1)。また、第2連通通路52と第2の循環通路132とによって、第1緩衝装置101の第2気室21内の気体と第2緩衝装置102の第1気室12内の気体とは連通するので、閉じた気体として一体化されている(第2循環系統SS2)。
【0050】
第1緩衝装置101及び第2緩衝装置102が伸縮すると、第1緩衝装置101及び第2緩衝装置102の各気室内の気体は、第1循環系統SS1及び第2循環系統SS2内を循環する。その過程において、ダンピングによって気体に発生した熱は、第1、第2連通通路51、52や第1、第2の循環通路131、132を気体が通過する際に大気中へ放出される。
【0051】
この懸架装置100'によれば、第1、第2の循環通路131、132を設けて、気体を第1循環系統SS1及び第2循環系統SS2内を循環させることによって、より効率的に気体の熱を放出できる。その結果、第1緩衝装置101及び第2緩衝装置102が備える気室を構成するゴムの耐久性低下を抑制し、装置の寿命を長くすることができる。なお、ここで説明した冷却構造は、以下の例でも適宜適用できる。
【0052】
(変形例1)
図3−1は、この実施例の第2変形例に係る緩衝装置が備える第1気室と第2気室とを、すべて接続する配管例を示す説明図である。図3−2は、一対の緩衝装置において、それぞれの緩衝装置がそなえるすべての気室を連通させた状態を示す配管例を示す説明図である。この懸架装置100aは、前記懸架装置100と略同様の構成であるが、第1連通通路51と第2連通通路52との間に、通路開閉手段である開閉弁8を備える点が異なる。
【0053】
開閉弁8は、遮断部8cと連通部8oとをアクチュエータ8sによって切り替えることにより、第1連通通路51と第2連通通路52とを連通したり遮断したりする。この懸架装置100aにおいて、制御装置22によって開閉弁8を閉じると、第1連通通路51と第2連通通路52との連通が遮断される。この場合、第1緩衝装置101の第1気室11と、第2緩衝装置102の第2気室22とは閉じた気体として一体化され、また、第1緩衝装置101の第2気室21と、第2緩衝装置102の第1気室12とは、閉じた気体として一体化される。これによって、上記実施例に係る懸架装置100と同様の作用、効果が得られる。
【0054】
この懸架装置100aにおいて、開閉弁8を開くと、第1連通通路51と第2連通通路52とが連通される。これによって、第1緩衝装置101の第1気室11及び第2気室21、第2緩衝装置102の第1気室12及び第2気室22は、すべて連通することになる。すなわち、図3−2に示すように、第1緩衝装置101の第1気室11及び第2気室21、第2緩衝装置102の第1気室12及び第2気室22を、第1室連通通路5e1、第2室連通通路5e2及び5fで接続した状態になる。すなわち、第1緩衝装置101及び第2緩衝装置102が備えるすべての気室が、閉じた気体として一体化される。この状態でのばね定数は、緩衝装置の伸縮方向に対して同じ側の気室同士を連通させる場合、すなわち第1気室11、12同士及び第2気室21、2同士を連通させる場合と等価となり、得られる作用、効果も等価となる。
【0055】
開閉弁8を開いた場合、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが同位相で動作するときにおける両者のばね定数は、開閉弁8を閉じたときと比較して低下する。これによって、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102とが同位相で動作するとき、すなわち、車両20が直進しているときには、ばね定数を2段階に切り替えることができる。これによって、状況に応じて乗り心地を優先したり、走行性能を優先したりすることができる。また、車両20が旋回しているときには、開閉弁8を閉じることにより、直進時と比較してロール剛性を向上させることができるので、車両20の操縦安定性や走行性能を向上させることができる。
【0056】
上述した懸架装置100aでは、CCDセンサやカーナビゲーション装置や操舵ハンドルの回転角度等から得られる情報を元に、車両20の走行状況を先取りして、これに応じて緩衝装置の配管を切り替えることができる。例えば、通常は開閉弁8を開いて乗り心地を確保し、カーナビゲーション装置や操舵ハンドルの回転角度等の情報から、進行方向前方にカーブが存在することが判明すれば、カーブに進入する前に開閉弁8を閉じることにより、ロール剛性を向上させることができる。また、操舵ハンドル角度は、舵角センサを用いて計測でき、開閉弁8の開度の制御に利用できる。
【0057】
(変形例2)
図4は、車両の前後に取り付けた緩衝装置間の気室を接続した例を示す説明図である。図4中の矢印L方向が車両20の進行方向を表す。この変形例においては、車両の同じ側かつ前後における一対の緩衝装置間で、それぞれの緩衝装置が備える気室同士を連通させている。具体的には、図4に示すように、車両20の同じ側、かつ前後に取り付けた一対の緩衝装置である第1緩衝装置101と第3緩衝装置103との間、及び同じく一対の緩衝装置である第2緩衝装置102と第4緩衝装置104との間で、それぞれの緩衝装置の気室を連通させる。
【0058】
この例において、図4に示すように、第1緩衝装置101の第1気室11と第3緩衝装置103の第2気室23とを第1連通通路51で接続し、第1緩衝装置101の第2気室21と第3緩衝装置103の第1気室13とを第2連通通路52で接続する。また、第2緩衝装置102の第1気室12と第4緩衝装置104の第2気室24とを第1連通通路51で接続し、第2緩衝装置102の第2気室22と第4緩衝装置104の第1気室14とを第2連通通路52で接続する。これによって、この懸架装置100bでは、ピッチング剛性を高くできるので、車両20の乗り心地悪化を抑制しつつ、車両20のピッチングを抑制することができる。
【0059】
なお、図4に示すように、この懸架装置100bにおいて、第1緩衝装置101側の第1連通通路51と第2連通通路52との間に第1開閉弁81を備え、第2緩衝装置102側の第1連通通路51と第2連通通路52との間に第2開閉弁82を備えてもよい。これによって、車両20の走行状態に応じて第1及び第2開閉弁81、82を開閉して、ピッチング剛性を高くしたり、乗り心地を改善したりすることができる。例えば、通常走行時には第1及び第2開閉弁81、82を開いて乗り心地を向上させ、制動時においては、第1及び第2開閉弁81、82を閉じて、車両20の前方の沈み込みを抑制する。
【0060】
(変形例3)
図5は、車両の前後左右4箇所に取り付けた緩衝装置において、対角位置にある一対の緩衝装置間で気室を接続した例を示す説明図である。図5中の矢印L方向が車両20の進行方向を表す。具体的には、図5に示すように、車両20の4箇所に取り付けた緩衝装置のうち、対角位置にある一対の第1緩衝装置101と第4緩衝装置104との間、及び一対の第2緩衝装置102と第3緩衝装置103との間で、それぞれの緩衝装置の気室を連通させる。
【0061】
この例において、図5に示すように、第1緩衝装置101の第1気室11と第4緩衝装置104の第2気室24とを第1連通通路51で接続し、第1緩衝装置101の第2気室21と第4緩衝装置103の第1気室14とを第2連通通路52で接続する。また、第2緩衝装置102の第1気室12と第3緩衝装置103の第2気室23とを第1連通通路53で接続し、第2緩衝装置102の第2気室22と第3緩衝装置103の第1気室13とを第2連通通路54で接続する。これによって、この懸架装置100cでは、対角剛性を高くできる。すなわち、ピッチングとロールとの組み合わせ剛性を高くできるので、車両20の乗り心地悪化を抑制しつつ、車両20のピッチングとロールとの組み合わせ剛性を抑制することができる。
【0062】
なお、図5に示すように、この懸架装置100cにおいて、第1緩衝装置101側の第1連通通路51と第2連通通路52との間に第1開閉弁81を備え、第2緩衝装置102側の第1連通通路53と第2連通通路54との間に第2開閉弁82を備えてもよい。このようにすれば、車両20の走行状態に応じて第1及び第2開閉弁81、82を開閉して、ピッチング及びロール剛性を高くしたり、乗り心地を改善したりすることができる。例えば、通常走行時には第1及び第2開閉弁81、82を開いて乗り心地を向上させ、旋回時や制動時においては、第1及び第2開閉弁81、82を閉じて、車両20のロールや前方の沈み込みを抑制する。
【0063】
(変形例4)
図6−1は、同一の緩衝装置が備える第1気室と第2気室とを接続する配管例を示す説明図である。図6−2は、車両の前後左右4箇所に緩衝装置を取り付けた状態を示す説明図である。図6−2中の矢印L方向が車両20の進行方向を表す。この懸架装置100dは、車両20に取り付けられる緩衝装置において、同一の緩衝装置の第1気室と第2気室とを連通通路により連通させるとともに、この連通通路に通路開閉手段である開閉弁を設ける点に特徴がある。なお、開閉弁の動作は、懸架制御装置によって制御される。
【0064】
例えば、第1緩衝装置101の第1気室11と第2気室21とは、連通通路5d1〜5d4により接続されるとともに、連通通路5d1の途中には、開閉弁91が設けられている。同様に第2〜第4緩衝装置102〜104のそれぞれの第1気室11と第2気室21とは、それぞれ連通通路5d2〜5d4により接続されるとともに、各連通通路の途中には、開閉弁92〜94が設けられている。なお、各開閉弁91〜94の動作は、懸架制御装置23によって制御される。
【0065】
上記構成により、各開閉弁91〜94を閉じて、第1〜第4緩衝装置101〜104の第1気室と第2気室とを連通させると、第1気室と第2気室との連通を遮断した場合と比較して、ばね定数が1/2倍程度に低下する。したがって、車両20が直線走行しているときには、懸架制御装置23によって各開閉弁91〜94を開いておき、乗り心地を改善する。
【0066】
一方車両20が旋回しているときには、カーブ外側に位置する緩衝装置(左旋回の場合には第2及び第4緩衝装置102、104であり、右旋回の場合には第1及び第3緩衝装置101、103)に対応する開閉弁を閉じる。これにより、カーブ外側の緩衝装置はばね定数が上昇するので、懸架装置100dのロール剛性が向上する。これによって、車両20の操縦安定性や走行性能が向上する。また、制動時には、車両20の進行方向前方側の緩衝装置(第1及び第2緩衝装置101、102)に対応する開閉弁91、92を閉じる。これによって、車両20のピッチング剛性が向上するので、車両20の前方が沈み込むことを抑制できる。次に、この実施例に係る懸架装置が備える緩衝装置の取り付け構造の一例について説明する。
【0067】
図7は、いわゆるダブルウィッシュボーン形式の懸架装置に対してこの実施例に係る緩衝装置を適用した場合の取り付け構造を示している。この形式の懸架装置においては、緩衝装置10のケース11に設けられる貫通孔12に、ダブルウィッシュボーンのアッパーアーム14が貫通する。アッパーアーム14は、緩衝装置10の荷重伝達部材3に固定されており、アッパーアーム14から入力される力は、荷重伝達部材3によって第1気室1及び第2気室2へ伝達する。このように、ダブルウィッシュボーン形式の懸架装置においては、アッパーアーム14が載荷部材となる。この緩衝装置10は、全長が短くできるので、懸架装置全体をコンパクトに設計できる。
【0068】
以上、この実施例及びその変形例に係る懸架装置は、第1気室と第2気室とによって荷重を支持するとともに、第1気室と第2気室とを連通させる連通通路を備える。これによって、例えば、連通通路を開閉することにより、車両の走行状態に応じて緩衝装置のばね定数を容易に変更できる。
【0069】
また、異なる緩衝装置が有するそれぞれの第1気室とそれぞれの第2気室とを連通させることにより、緩衝装置が逆位相で動こうとする場合には、互いの動きを抑制するように作用する。このような一対の緩衝装置を車両の左右や前後、あるいは対角線上に配置することによって、直線走行時に対して、自動的にロール剛性やピッチング剛性を向上させることができる。その結果、車両の走行状態に応じて緩衝装置のばね定数を容易に変更できる。そして、直線走行や旋回走行といった車両の走行状態に適した操縦安定性、走行性能を得ることができる。
【0070】
なお、この実施例及び変形例と同様の構成を備えていれば、この実施例及びその変形例と同様の作用、効果を奏する。また、この実施例及び変形例は、以下の実施例と適宜組み合わせて用いることができる。
【実施例2】
【0071】
図8−1〜図8−3は、異なる緩衝装置間において、緩衝装置の伸縮方向に対して同じ側の気室同士を接続した例を示す説明図である。図8−1は、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102との第1気室11、12同士を、連通通路5eにより接続した例を示している。図8−2は、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102との第2気室21、22同士を、連通通路5eにより接続した例を示している。図8−3は、第1緩衝装置101と第2緩衝装置102との第1気室11、12同士、及び第2気室21、22同士を、それぞれ第1室連通通路5e1、第2室連通通路5e2により接続した例を示している。
【0072】
例えば、図8−3に示す配管接続例では、第1緩衝装置101の第1荷重伝達部材31が第1気室11側へ移動したとすると、第1緩衝装置101の第1気室11から、第2緩衝装置102の第1気室12へ気体が移動する。また、第2緩衝装置102の第2気室22から、第1緩衝装置101の第2気室21へ気体が移動する。これによって、気体の移動にともなって、第2緩衝装置102の第2荷重伝達部材32は、第1緩衝装置101の第1荷重伝達部材31の移動方向とは反対方向、すなわち逆位相的に移動する。
【0073】
すなわち、第1緩衝装置101の第1荷重伝達部材31の移動方向と、第2緩衝装置102の第2荷重伝達部材32移動方向とは反対となる。このとき、各気室内の圧力変化もほとんどなく、荷重変化もほとんどない。図8−1、図8−2に示す配管接続例では、連通していない気室内の気体の圧縮や膨張があるが、図8−3に示す配管接続例と同様に動作する。
【0074】
このように、異なる緩衝装置間において、緩衝装置の伸縮方向に対して同じ側の気室同士を接続すると、非常に小さな力で異なる緩衝装置をそれぞれ異なる方向に伸縮させることができる。この配管接続を適用した緩衝装置を車両20の懸架装置に用いると、同一の緩衝装置の第1気室と第2気室とを連通させた場合よりも、さらにばね定数を低下させることができる。このため、緩衝装置の伸縮方向に対して同じ側の気室同士を連通させる場合は、車両20の安定走行が確保されている場合に、よりよい乗り心地を得るために適する。
【0075】
また、一対の緩衝装置において第2気室同士のみを連通、一対の緩衝装置において第1気室同士のみを連通、一対の緩衝装置において第1気室同士及び第2気室同士を連通させる順にばね定数は低くなる。このため、配管切替装置等を用いて連通させる気室を変更すれば、ばね定数を調整することができる。なお、車両20の左右に配置される一対の緩衝装置間、車両20の前後かつ同じ側に配置される一対の緩衝装置間、あるいは車両20の対角位置に配置される一対の緩衝装置間で、緩衝装置の伸縮方向に対して同じ側の気室同士を連通させることが好ましい。
【0076】
図9は、異なる緩衝装置間において、緩衝装置の伸縮方向に対して同じ側の気室同士を接続する場合の配管例を示す説明図である。異なる緩衝装置間において、緩衝装置の伸縮方向に対して同じ側の気室同士を接続する場合、図9に示すように、ロール剛性を向上させるため、車両の左右に取り付けられる、異なる緩衝装置間において、異なる緩衝装置の第1気室と第2気室とを第2開閉弁252を介して連通させる。なお、異なる緩衝装置において、第1気室と第2気室との組み合わせは二組あるので、両方に対して連通させる。また、異なる緩衝装置間において、緩衝装置の伸縮方向に対して同じ側の気室同士を接続する配管には、第1開閉弁251を設ける。
【0077】
このような構成により、車両20の旋回時においては、制御装置24によって第1開閉弁251を閉じ、第2開閉弁252を開いて、第1緩衝装置101の第1気室11と第2緩衝装置102の第2気室22とを連通させ、また、第1緩衝装置101の第2気室21と第2緩衝装置の第1気室12とを連通させる。これにより、ロール剛性を向上させることができるので、車両20の走行性能が向上するとともに、操縦安定性を確保できる。
【0078】
また、直進時には、制御装置24によって第2開閉弁252を閉じ、第1開閉弁251を開くことにより、第1緩衝装置101の第1気室11と第2緩衝装置102の第1気室12とを連通させ、また、第1緩衝装置102の第2気室21と第2緩衝装置の第2気室22とを連通させる。これによって、直進時においては乗り心地を確保できる。この場合、第2開閉弁252を開き、第1開閉弁251を閉じた場合よりもばね定数が低くなるので、かかる場合よりも乗り心地を向上させることができる。なお、直進時においては、第2開閉弁252を開き、第1開閉弁251を閉じてもよい。この場合、第2開閉弁252を閉じ、第1開閉弁251を開いた場合よりもばね定数が高くなるので、この例に係る懸架装置を用いた車両20の直進時においては、ばね定数を2段階に切り替えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上のように、本発明に係る懸架装置は、車両の懸架装置に有用であり、特に、車両の走行状態に応じてばね定数を変更することに適している。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1−1】この実施例に係る懸架装置が備える緩衝装置の構造を示す説明図である。
【図1−2】この実施例に係る懸架装置に適用可能な他の緩衝装置の構造を示す説明図である。
【図1−3】この実施例に係る懸架装置に適用可能な他の緩衝装置の構造を示す説明図である。
【図2−1】この実施例に係る緩衝装置が備える気室を連通通路で接続する配管のパターンを示す説明図である。
【図2−2】この実施例に係る緩衝装置を車両に取り付けた状態において、図2−1に示す配管のパターンを示す平面図である。
【図2−3】連通した気室にさらに連通通路を設け、気室間で気体を循環させるようにした例を示す説明図である。
【図3−1】この実施例の第2変形例に係る緩衝装置が備える第1気室と第2気室とを、すべて接続する配管例を示す説明図である。
【図3−2】一対の緩衝装置において、それぞれの緩衝装置がそなえるすべての気室を連通させた状態を示す配管例を示す説明図である。
【図4】車両の前後に取り付けた緩衝装置間の気室を接続した例を示す説明図である。
【図5】車両の前後左右4箇所に取り付けた緩衝装置において、対角位置にある一対の緩衝装置間で気室を接続した例を示す説明図である。
【図6−1】同一の緩衝装置が備える第1気室と第2気室とを接続する配管例を示す説明図である。
【図6−2】車両の前後左右4箇所に緩衝装置を取り付けた状態を示す説明図である。
【図7】いわゆるダブルウィッシュボーン形式の懸架装置に対してこの実施例に係る緩衝装置を適用した場合の取り付け構造を示す説明図である。
【図8−1】異なる緩衝装置間において、緩衝装置の伸縮方向に対して同じ側の気室同士を接続した例を示す説明図である。
【図8−2】異なる緩衝装置間において、緩衝装置の伸縮方向に対して同じ側の気室同士を接続した例を示す説明図である。
【図8−3】異なる緩衝装置間において、緩衝装置の伸縮方向に対して同じ側の気室同士を接続した例を示す説明図である。
【図9】異なる緩衝装置間において、緩衝装置の伸縮方向に対して同じ側の気室同士を接続する場合の配管例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0081】
1、11、12、13、14、1a、1b 第1気室
2、21、22、23、24、2a、2b 第2気室
5c 連通通路
5e1 第1室連通通路
5e2 第2室連通通路
5c、5d、5e 連通通路
8 開閉弁
10、10a、10b 緩衝装置
20 車両
1 第1連通通路
2 第2連通通路
1 第1開閉弁
2 第2開閉弁
101 第1緩衝装置
102 第2緩衝装置
103 第3緩衝装置
104 第4緩衝装置
131 第1循環通路
132 第2循環通路
19 ストッパ部材
100、100a、100b、100c、100d 懸架装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に閉じ込められた気体によって荷重を支持する第1の気室と、内部に閉じ込められた気体によって前記第1の気室とともに荷重を支持し、また荷重支持面積が前記第1の気室よりも小さく、かつ荷重が負荷された場合の体積変化は、前記第1の気室の体積変化と反対となる第2の気室と、を含むとともに、車両の異なる位置に取り付けられて、路面からの入力を緩和する複数の緩衝装置と、
一対の緩衝装置において、一方の緩衝装置が備える第1の気室と、他方の緩衝装置が備える第2の気室とを連通させる第1の連通通路と、
一方の緩衝装置が備える第2の気室と、他方の緩衝装置が備える第1の気室とを連通させる第2の連通通路と、
を備えることを特徴とする懸架装置。
【請求項2】
前記一対の緩衝装置は、前記車両の左右に取り付けられる一対の緩衝装置であることを特徴とする請求項1に記載の懸架装置。
【請求項3】
前記一対の緩衝装置は、前記車両の同じ側で、かつ前後に取り付けられる一対の緩衝装置であることを特徴とする請求項1に記載の懸架装置。
【請求項4】
前記一対の緩衝装置は、前記車両の対角位置に取り付けられる一対の緩衝装置であることを特徴とする請求項1に記載の懸架装置。
【請求項5】
前記第1の連通通路と前記第2の連通通路との間に通路開閉手段を設けることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の懸架装置。
【請求項6】
さらに、前記第1の気室と前記第2の気室を接続する循環通路が備えられることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の懸架装置。
【請求項7】
内部に閉じ込められた気体によって荷重を支持する第1の気室と、
内部に閉じ込められた気体によって前記第1の気室とともに荷重を支持し、また荷重支持面積が前記第1の気室よりも小さく、かつ荷重が負荷された場合の体積変化は、前記第1の気室の体積変化と反対となる第2の気室と、を含むとともに、車両の異なる位置に取り付けられて、路面からの入力を緩和する複数の緩衝装置と、
前記気室同士を接続する連通通路と、
前記連通通路に設けられる通路開閉手段と、
を備えることを特徴とする懸架装置。
【請求項8】
前記連通通路には、振動減衰手段が設けられることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の懸架装置。
【請求項9】
前記緩衝装置の前記第1の気室内に、前記緩衝装置の動作方向に向かって圧縮されたときに反発力を発生するストッパ部材を設けることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の懸架装置。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−281981(P2006−281981A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104773(P2005−104773)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】