説明

成膜方法および成膜装置

【課題】結晶化しており、かつリーク電流も小さいジルコニア系膜を成膜することができる成膜方法を提供すること。
【解決手段】真空保持可能な処理容器内に被処理体を挿入し、処理容器内を真空に保持した状態とし、処理容器内にジルコニウム原料と酸化剤とを交互的に複数回供給して基板上にZrO膜を成膜する工程と、処理容器内にシリコン原料と酸化剤とを交互的に1回または複数回供給して基板上にSiO膜を成膜する工程とを、膜中のSi濃度が1〜4atm%になるように供給回数を調整して行い、これら供給回数のZrO膜成膜とSiO膜成膜とを1サイクルとし、このサイクルを1以上行い所定膜厚のジルコニア系膜を成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の被処理基板上にジルコニア系膜を成膜する成膜方法および成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、LSIの高集積化、高速化の要請からLSIを構成する半導体素子のデザインルールが益々微細化されている。それにともなって、DRAM等に用いるキャパシタの容量の上昇が求められており、誘電体膜の高誘電率化が求められている。このような誘電体膜は、より高い誘電率を得るために、結晶化させることが必要であり、さらにはより結晶性の高い膜が求められている。また、デバイスによっては、サーマルバジェットの制約があり、成膜や結晶化が低温で行える膜が望まれる。
【0003】
これらの用途に適用可能な高誘電率材料として、酸化ジルコニウム(ZrO)膜が検討されている(例えば特許文献1)。
【0004】
酸化ジルコニウム膜を低温で成膜する手法として、原料ガス(プリカーサ)として例えばテトラキスエチルメチルアミノジルコニウム(TEMAZ)を用い、酸化剤として例えばOガスを用いて、これらを交互的に供給するALDプロセスが知られている(例えば特許文献2)。また、酸化ジルコニウムは結晶化しやすく、このような手法により低温で成膜したまま、あるいはその後450℃以下の低温でアニールすることにより、デバイスに悪影響を与えることなく結晶化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−152339号公報
【特許文献2】特開2006−310754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような誘電体膜には誘電率が高いのみならず、リーク電流が低いことも求められているが、上述したように誘電体膜を結晶化すると、結晶粒界からリークする結晶粒界リークによりリーク電流が増大するという問題がある。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、結晶化しており、かつリーク電流も小さいジルコニア系膜を成膜することができる成膜方法および成膜装置を提供することを目的とする。
さらに、そのような成膜方法を実行するプログラムが記憶された記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の第1の観点では、真空保持可能な処理容器内に被処理体を挿入し、前記処理容器内を真空に保持した状態とし、前記処理容器内にジルコニウム原料と酸化剤とを交互的に複数回供給して基板上にZrO膜を成膜する工程と、前記処理容器内にシリコン原料と酸化剤とを交互的に1回または複数回供給して基板上にSiO膜を成膜する工程とを、膜中のSi濃度が1〜4atm%になるように供給回数を調整して行い、これら供給回数のZrO膜成膜とSiO膜成膜とを1サイクルとし、このサイクルを1以上行い所定膜厚のジルコニア系膜を成膜することを特徴とする成膜方法を提供する。
【0009】
上記第1の観点において、膜中のSi濃度が2〜4atm%になるように、ZrO膜を成膜する際のジルコニウム原料と酸化剤との供給回数、およびSiO膜を成膜する際のシリコン原料と酸化剤との供給回数を調整することが好ましい。
【0010】
また、前記ジルコニウム原料の供給と前記酸化剤の供給との間、および前記シリコン原料の供給と前記酸化剤の供給との間で、前記処理容器内のガスを排出することが好ましい。上記成膜の後、450℃以下の温度で得られた膜をアニールすることが好ましい。
【0011】
さらに、前記酸化剤としては、Oガス、HOガス、Oガス、NOガス、NOガス、NOガス、OガスとHガスのラジカルから選択された少なくとも1種を用いることができる。前記ジルコニウム原料および前記シリコン原料としては、有機金属化合物を用いることができる。形成されたジルコニア系膜は、ジルコニア結晶を有していることが好ましい。
【0012】
さらにまた、膜中のSi濃度は、予め把握したシリコン原料の供給回数の割合と膜中のSi濃度との関係から求めるようにすることができる。
【0013】
本発明の第2の観点では、被処理体に対して金属酸化膜を成膜する成膜装置であって、真空保持可能な縦型で筒体状をなす処理容器と、前記被処理体を複数段に保持した状態で前記処理容器内に保持する保持部材と、前記処理容器の外周に設けられた加熱装置と、ジルコニウム原料を前記処理容器内に供給するジルコニウム原料供給機構と、シリコン原料を前記処理容器内に供給するシリコン原料供給機構と、前記処理容器内へ酸化剤を供給する酸化剤供給機構と、前記ジルコニウム原料供給機構、前記シリコン原料供給機構および前記酸化剤供給機構を制御する制御機構とを具備し、前記制御機構は、前記処理容器内に被処理体を挿入して、前記処理容器内を真空に保持した状態とし、前記処理容器内にジルコニウム原料と酸化剤とを交互的に複数回供給して基板上にZrO膜を成膜する工程と、前記処理容器内にシリコン原料と酸化剤とを交互的に1回または複数回供給して基板上にSiO膜を成膜する工程とを、膜中のSi濃度が1〜4atm%になるように供給回数を調整して行い、これら回数のZrO膜成膜とSiO膜成膜とを1サイクルとし、このサイクルが1以上行われるように制御することを特徴とする成膜装置を提供する。
【0014】
上記第2の観点において、前記制御機構は、膜中のSi濃度が2〜4atm%になるように、ZrO膜を成膜する際のジルコニウム原料と酸化剤との供給回数、およびSiO膜を成膜する際のシリコン原料と酸化剤との供給回数を調整することが好ましい。
【0015】
また、前記制御機構は、前記ジルコニウム原料の供給と前記酸化剤の供給との間、および前記シリコン原料の供給と前記酸化剤の供給との間で、前記処理容器内のガスを排出するように制御することが好ましい。また、前記制御機構は、前記成膜の後、450℃以下の温度で得られた膜をアニールするように制御することが好ましい。
【0016】
さらに、前記制御機構は、膜中のSi濃度を、予め把握したシリコン原料の供給回数の割合と膜中のSi濃度との関係から求めるようにすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ALD的手法によりジルコニアに1〜4atm%のシリコンが添加されたジルコニア系膜を成膜することにより、ジルコニア結晶を維持したまま、粒界リークを抑制することができ、高誘電率と低リーク電流を両立させたジルコニア系膜を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の成膜方法を実施するための成膜装置の一例を示す縦断面図。
【図2】本発明の成膜方法を実施するための成膜装置の一例を示す横断面図。
【図3】本発明の成膜方法におけるガスの供給のタイミングを示すタイミングチャート。
【図4】SiO膜成膜シーケンスの回数の割合とSi濃度との関係を示す図。
【図5】膜中のSi濃度と、比誘電率およびリーク電流値との関係を示す図。
【図6】サンプル6(Si=0atm%)、サンプル1(Si=3.1atm%)、サンプル2(Si=5.5atm%)の透過型電子顕微鏡(TEM)写真。
【図7】サンプル6(Si=0atm%)とサンプル1(Si=3.1atm%)について、電子線回折により結晶構造を確認した結果を示す図。
【図8】Siソースとして3DMASと4DMASを用いた場合のSiO膜成膜シーケンスの回数の割合とSi濃度との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は本発明の成膜方法を実施するための成膜装置の一例を示す縦断面図、図2は図1の成膜装置を示す横断面図、図3は本発明の成膜方法の一例におけるガスの供給のタイミングを示すタイミングチャートである。なお、図2においては、加熱装置を省略している。
【0020】
成膜装置100は、下端が開口された有天井の円筒体状の処理容器1を有している。この処理容器1の全体は、例えば石英により形成されており、この処理容器1内の天井には、石英製の天井板2が設けられて封止されている。また、この処理容器1の下端開口部には、例えばステンレススチールにより円筒体状に成形されたマニホールド3がOリング等のシール部材4を介して連結されている。
【0021】
上記マニホールド3は処理容器1の下端を支持しており、このマニホールド3の下方から被処理体として多数枚、例えば50〜100枚の半導体ウエハ(以下単にウエハと記す)Wを多段に載置可能な石英製のウエハボート5が処理容器1内に挿入可能となっている。このウエハボート5は3本の支柱6を有し(図2参照)、支柱6に形成された溝により多数枚のウエハWが支持されるようになっている。
【0022】
このウエハボート5は、石英製の保温筒7を介してテーブル8上に載置されており、このテーブル8は、マニホールド3の下端開口部を開閉する例えばステンレススチール製の蓋部9を貫通する回転軸10上に支持される。
【0023】
そして、この回転軸10の貫通部には、例えば磁性流体シール11が設けられており、回転軸10を気密にシールしつつ回転可能に支持している。また、蓋部9の周辺部とマニホールド3の下端部との間には、例えばOリングよりなるシール部材12が介設されており、これにより処理容器1内のシール性を保持している。
【0024】
上記の回転軸10は、例えばボートエレベータ等の昇降機構(図示せず)に支持されたアーム13の先端に取り付けられており、ウエハボート5および蓋部9等を一体的に昇降して処理容器1内に対して挿脱されるようになっている。なお、上記テーブル8を上記蓋部9側へ固定して設け、ウエハボート5を回転させることなくウエハWの処理を行うようにしてもよい。
【0025】
成膜装置100は、処理容器1内へガス状の酸化剤、例えばOガスを供給する酸化剤供給機構14と、処理容器1内へZrソースガス(ジルコニウム原料)を供給するZrソースガス供給機構15と、処理容器1内へSiソースガス(シリコン原料)を供給するSiソースガス供給機構16とを有している。また、処理容器1内へパージガスとして不活性ガス、例えばNガスを供給するパージガス供給機構28を有している。
【0026】
酸化剤供給機構14は、酸化剤供給源17と、酸化剤供給源17から酸化剤を導く酸化剤配管18と、この酸化剤配管18に接続され、マニホールド3の側壁を内側へ貫通して上方向へ屈曲されて垂直に延びる石英管よりなる酸化剤分散ノズル19とを有している。この酸化剤分散ノズル19の垂直部分には、複数のガス吐出孔19aが所定の間隔を隔てて形成されており、各ガス吐出孔19aから水平方向に処理容器1に向けて略均一に酸化剤、例えばOガスを吐出することができるようになっている。酸化剤としては、Oガスの他に、HOガス、Oガス、NOガス、NOガス、NOガス等を用いることができる。プラズマ生成機構を設けて酸化剤をプラズマ化して反応性を高めるようにしてもよい。またOガスとHガスを用いたラジカル酸化であってもよい。Oガスを用いる場合には酸化剤供給源17としてはOガスを発生するオゾナイザーを備えたものとする。
【0027】
Zrソースガス供給機構15は、液体状のZrソース、例えばテトラキスエチルメチルアミノジルコニウム(TEMAZ)が貯留されたZrソース貯留容器20と、このZrソース貯留容器20から液体のZrソースを導くZrソース配管21と、Zrソース配管21に接続され、Zrソースを気化させる気化器22と、気化器22で生成されたZrソースガスを導くZrソースガス配管23と、このZrソースガス配管23に接続され、マニホールド3の側壁を内側へ貫通して上方向へ屈曲されて垂直に延びる石英管よりなるZrソースガス分散ノズル24とを有している。気化器22にはキャリアガスとしてのNガスを供給するキャリアガス配管22aが接続されている。Zrソースガス分散ノズル24には、その長さ方向に沿って複数のガス吐出孔24aが所定の間隔を隔てて形成されており、各ガス吐出孔24aから水平方向に処理容器1内に略均一にZrソースガスを吐出することができるようになっている。
【0028】
Siソースガス供給機構16は、液体状のSiソース、例えばトリ−ジメチルアミノシラン(3DMAS)が貯留されたSiソース貯留容器25と、Siソース貯留容器25の周囲に設けられた液体状のSiソースを気化するためのヒーター25aと、Siソース貯留容器25内で気化されたSiソースガスを導くSiソースガス配管26と、このSiソースガス配管26に接続され、マニホールド3の側壁を貫通して設けられたSiソースガス分散ノズル27とを有している。Siソースガス分散ノズル27には、その長さ方向に沿って複数のガス吐出孔27aが所定の間隔を隔てて形成されており、各ガス吐出孔27aから水平方向に処理容器1内に略均一にSiソースガスを吐出することができるようになっている。
【0029】
さらに、パージガス供給機構28は、パージガス供給源29と、パージガス供給源29からパージガスを導くパージガス配管30と、このパージガス配管30に接続され、マニホールド3の側壁を貫通して設けられたパージガスノズル31とを有している。パージガスとしては不活性ガス例えばNガスを好適に用いることができる。
【0030】
酸化剤配管18には、開閉弁18aおよびマスフローコントローラのような流量制御器18bが設けられており、ガス状の酸化剤を流量制御しつつ供給することができるようになっている。また、Siソースガス配管26にも、開閉弁26aおよびマスフローコントローラのような流量制御器26bが設けられており、Siソースガスを流量制御しつつ供給することができるようになっている。さらに、パージガス配管30にも開閉弁30aおよびマスフローコントローラのような流量制御器30bが設けられており、パージガスを流量制御しつつ供給することができるようになっている。
【0031】
上記Zrソース貯留部20には、Zrソース圧送配管20aが挿入されており、Zrソース圧送配管20aからHeガス等の圧送ガスを供給することにより、Zrソース配管21へ液体のZrソースが送給される。上記Zrソース配管21には液体マスフローコントローラのような流量制御器21aが設けられており、上記Zrソースガス配管23にはバルブ23aが設けられている。
【0032】
Zrソースは特に限定されるものではなく、ZrO膜を成膜可能な種々のものを用いることができるが、上述したTEMAZに代表される常温で液体である有機金属化合物であるものを好適に用いることができる。また、常温で液体である有機金属化合物としては、他にテトラキスジエチルアミノジルコニウム(TDEAZ)を用いることもできる。もちろん常温で固体のものを用いることもできるが、この場合には原料を蒸発させる機構および配管等を加熱する機構等が必要となる。
【0033】
Siソースも特に限定されるものではなく、SiO膜を成膜可能な種々のものを用いることができるが、上述した3DMASのような有機金属化合物を好適に用いることができる。また、テトラ−ジメチルアミノシラン(4DMAS)、ビスターシャリブチルアミノシラン(BTBAS)等の他の有機金属化合物を用いることもできる。
【0034】
酸化剤を分散吐出するための酸化剤分散ノズル19は、処理容器1の凹部1a内に設けられており、Zrソースガス分散ノズル24と、Siソースガス分散ノズル27は、これらで酸化剤分散ノズル19を挟むように設けられている。
【0035】
処理容器1の酸化剤分散ノズル19およびZrソースガス分散ノズル24と反対側の部分には、処理容器1内を真空排気するための排気口37が設けられている。この排気口37は処理容器1の側壁を上下方向へ削りとることによって細長く形成されている。処理容器1のこの排気口37に対応する部分には、排気口37を覆うように断面コ字状に成形された排気口カバー部材38が溶接により取り付けられている。この排気口カバー部材38は、処理容器1の側壁に沿って上方に延びており、処理容器1の上方にガス出口39を規定している。そして、このガス出口39から図示しない真空ポンプ等を含む真空排気機構により真空引きされる。そして、この処理容器1の外周を囲むようにしてこの処理容器1およびその内部のウエハWを加熱する筒体状の加熱装置40が設けられている。
【0036】
成膜装置100の各構成部の制御、例えばバルブ18a、23a、26a、30aの開閉による各ガスの供給・停止、流量制御器18b、21a、26b、30bによるガスや液体ソースの流量の制御、処理容器1に導入するガスの切り替え、加熱装置40の制御等は例えばマイクロプロセッサ(コンピュータ)からなるコントローラ50により行われる。コントローラ50には、オペレータが成膜装置100を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、成膜装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなるユーザーインターフェース51が接続されている。
【0037】
また、コントローラ50には、成膜装置100で実行される各種処理をコントローラ50の制御にて実現するための制御プログラムや、処理条件に応じて成膜装置100の各構成部に処理を実行させるためのプログラムすなわちレシピが格納された記憶部52が接続されている。レシピは記憶部52の中の記憶媒体に記憶されている。記憶媒体は、ハードディスク等の固定的に設けられたものであってもよいし、CDROM、DVD、フラッシュメモリ等の可搬性のものであってもよい。また、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい。
【0038】
そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース51からの指示等にて任意のレシピを記憶部52から呼び出してコントローラ50に実行させることで、コントローラ50の制御下で、成膜装置100での所望の処理が行われる。すなわち、記憶部52の記憶媒体には、以下に説明する成膜方法を実行するプログラム(すなわち処理レシピ)が記憶されており、そのプログラムがコントローラ50に以下に説明する成膜方法を実行するように成膜装置100を制御させる。
【0039】
次に、以上のように構成された成膜装置を用いて行なわれる本実施形態に係る成膜方法について図3を参照して説明する。
【0040】
まず、常温において、例えば50〜100枚のウエハWが搭載された状態のウエハボート5を予め所定の温度に制御された処理容器1内にその下方から上昇させることによりロードし、蓋部9でマニホールド3の下端開口部を閉じることにより処理容器1内を密閉空間とする。ウエハWとしては、直径300mmのものが例示される。
【0041】
そして処理容器1内を真空引きして所定のプロセス圧力に維持するとともに、加熱装置40への供給電力を制御して、ウエハ温度を上昇させてプロセス温度に維持し、ウエハボート5を回転させた状態で成膜処理を開始する。プロセス温度は200〜300℃が好ましく、例えば210℃で行われる。
【0042】
この際の成膜処理は、図3に示すように、まず、処理容器1にZrソースガスを供給してウエハWに吸着させる工程S1と、処理容器内をパージガスでパージする工程S2と、ガス状の酸化剤として例えばOガスを処理容器1に供給してZrソースガスを酸化させる工程S3と、処理容器内をパージガスでパージする工程S4とを1回のZrO成膜操作とし、これをx回(xは複数)繰り返し、ZrO膜を成膜する。
【0043】
次に、処理容器1にSiソースガスを供給してウエハWに吸着させる工程S5と、処理容器内をパージガスでパージする工程S6と、ガス状の酸化剤として例えばOガスを処理容器1に供給してSiソースガスを酸化させる工程S7と、処理容器内をパージガスでパージする工程S8とを1回のSiO成膜操作とし、これをy回(yは1以上)繰り返し、SiO膜を成膜する。
【0044】
これらx回のZrO成膜操作とy回のSiO成膜操作を1サイクルとし、これをzサイクル繰り返すことにより所定膜厚とする。zは得ようとするジルコニア系膜の膜厚に応じて1以上の適宜の値に設定される。なお、ZrO膜の成膜とSiO膜の成膜の順序は逆でもよい。
【0045】
次いで、必要に応じてアニールすることにより、結晶化したジルコニア系膜を形成する。この場合のアニール温度は450℃以下であることが好ましい。450℃を超えるとデバイスに悪影響を及ぼすおそれがある。
【0046】
ここでxとyは、ジルコニア系膜の膜中のSi濃度が1〜4atm%になるようにその回数が調整される。Si濃度が1atm%未満であると効果が十分ではなく、4atm%を超えると形成される膜がアモルファスとなってしまい誘電率が低下する。より好ましい範囲は2〜4atm%である。
【0047】
膜中のSi濃度は、Siソース供給の回数yの比率、すなわちy/(x+y)の値にほぼ比例する。例えば、ZrソースとしてTEMAZを用い、Siソースとして3DMASを用い、1Torr(133.3Pa)、210℃の条件で上記手法で成膜処理を行い、その後450℃でアニールを行った場合、y/(x+y)×100[%]と膜中のSi濃度[atm%]との関係は図4に示すようになる。図4の詳細については後述する。この図4から、例えばSi濃度3atm%の膜を得るためには、yの割合(%)(y/(x+y)×100)が8.3%程度、すなわちZrO膜成膜操作の回数xが11回に対しSiO膜成膜操作の回数yが1回とすればよいことがわかる。このような図を予め作成しておけば、所望のSi濃度になるように、xおよびyを設定して成膜することができる。
【0048】
上記工程S1においては、Zrソースガス供給機構15のZrソース貯留容器20からZrソースとして例えばTEMAZを供給し、気化器22で気化させて発生したZrソースガスをZrソースガス配管23およびZrソースガス分散ノズル24を介してガス吐出孔24aから処理容器1内にT1の期間供給する。これにより、ウエハ上にZrソースを吸着させる。このときの期間T1は1〜120secが例示される。また、Zrソースの流量は0.2〜0.5ml/min(ccm)が例示される。また、この際の処理容器1内の圧力は10〜100Paが例示される。
【0049】
上記工程S3の酸化剤を供給する工程においては、酸化剤供給機構14の酸化剤供給源17から酸化剤として例えばOガスが酸化剤配管18および酸化剤分散ノズル19を経て吐出される。これにより、ウエハWに吸着されたZrソースが酸化されてZrOが形成される。
【0050】
この工程S3の期間T3は10〜180secの範囲が好ましい。酸化剤の流量はウエハWの搭載枚数や酸化剤の種類によっても異なるが、酸化剤としてOガスを用い、ウエハWの搭載枚数が50〜100枚程度のときには、100〜200g/Nmが例示される。また、この際の処理容器1内の圧力は10〜100Paが例示される。
【0051】
上記工程S2、S4は、工程S1の後または工程S3の後に処理容器1内に残留するガスを除去して次の工程において所望の反応を生じさせる工程であり、パージガス供給機構28のパージガス供給源29からパージガス配管30およびパージガスノズル31を経て処理容器1内にパージガス、例えばNを供給して処理容器1内をパージする。この場合に、真空引きとパージガスの供給とを複数回繰り返すことにより、残留するガスの除去効率を上げることができる。この工程S2,S4の期間T2、T4としては、20〜120secが例示される。また、この際の処理容器1内の圧力は10〜100Paが例示される。このとき、Zrソースガスを供給する工程S1の後の工程S2と、酸化剤を供給する工程S3の後の工程S4とは、両者のガスの排出性の相違から、真空引き時間、パージガス供給時間を変えてもよい。具体的には、工程S1後のほうがガスの排出に時間がかかることから、工程S1後に行う工程S2のほうの時間を長くすることが好ましい。
【0052】
上記工程S5においては、Siソースガス供給機構16のSiソースガス貯留容器25内に貯留されたSiソース、例えば3DMASをヒーター25aにより気化させ、Siソースガス配管26およびSiソースガス分散ノズル27を介してガス吐出孔27aから処理容器1内にT5の期間供給する。これにより、ウエハW上にSiソースを吸着させる。このときの期間T5は10〜60secが例示される。また、Siソースガスの流量は50〜300ml/min(sccm)が例示される。また、この際の処理容器1内の圧力は10〜100Paが例示される。
【0053】
上記工程S7の酸化剤を供給する工程は、上記工程S3と同様に実施される。また、上記工程S6、S8のパージガスを供給して処理容器1内をパージする工程は、上記工程S2、S4と同様に実施される。Siソースガスを供給する工程S5の後の工程S6と、酸化剤を供給する工程S7の後の工程S8とは、両者のガスの排出性の相違から、真空引き時間、パージガス供給時間を変えてもよい。具体的には、工程S5後のほうがガスの排出に時間がかかることから、工程S5後に行う工程S6のほうの時間を長くすることが好ましい。
【0054】
このようにして、Zrソースガスの供給と酸化剤の供給とを交互的に複数回行うことによるベースとなるZrO膜の成膜と、Siソースガスの供給と酸化剤の供給とを交互的に1回または複数回行うことによるSiO膜の成膜とからなるサイクルを1回以上行い、その後必要に応じてアニール処理を行うことにより、1〜4atm%のSiがドープされたジルコニア系膜を成膜することにより、ジルコニア結晶を維持して高い誘電率を保ったまま、リーク電流を著しく低下させることができる。これは、このような微量のSiがジルコニア結晶の粒界に存在するためジルコニア結晶を損なわず、しかもこのようなSiが粒界を覆い、粒界リークを抑制するためと推測される。また、3atm%程度のSiが含有されることにより、ジルコニア結晶粒が増大する傾向にあり、それにともなって粒界自体が減少するから、これによっても粒界リークが抑制される。しかもジルコニア結晶粒の増大は誘電率の上昇にも寄与する。このため、Siが3atm%程度含有されたジルコニア系膜は、Siを含有しないジルコニア膜よりも誘電率が高く、しかもリーク電流が2桁近く低いという極めて良好な特性を示す。
【0055】
次に、本発明の根拠となった実験について説明する。
ここでは、まず、ZrソースとしてTEMAZを用い、Siソースとして3DMASを酸化剤としてOを用いて、図3のタイミングチャートで図1の成膜装置によりウエハ上に成膜を行った。
【0056】
(削除)
【0057】
ZrO膜成膜シーケンスの繰り返し回数であるxと、SiO膜成膜シーケンスの繰り返し回数であるy回を変化させることで、膜中のSi濃度を変化させ、トータル膜厚が所定の膜厚となるように全体のサイクル数zを調整してジルコニア系膜を成膜した。そして、得られた膜について、処理容器中で、N雰囲気、1Torr(133.3Pa)とし、450℃で30minのアニール処理を施した。
【0058】
サンプル1では、x=11,y=1,z=8とし、トータル膜厚を13.76nmとした。サンプル2では、x=5,y=1,z=16とし、トータル膜厚を13.80nmとした。サンプル3では、x=3,y=1,z=25とし、トータル膜厚を13.00nmとした。これらサンプル1〜3について、ラザフォード後方散乱分析(RBS)によりSi濃度を分析した結果、サンプル1では3.1atm%、サンプル2では5.5atm%、サンプル3では8.5atm%となった。この結果に基づいて、yの割合(%)(y/(x+y)×100)とSi濃度との関係を示したのが上述した図4である。
【0059】
これらサンプル1〜3の他、x=9,y=1,z=9としてSi濃度を4atm%、膜厚12.80nmとしたサンプル4、x=18,y=1,z=5としてSi濃度を2atm%、膜厚13.80nmとしたサンプル5、およびZrO膜成膜シーケンスのみを86回繰り返してSi濃度0atm%、膜厚12.90nmとしたサンプル6を作成し、これらサンプル1〜6について、比誘電率の測定と、リーク電流の測定を行った。リーク電流は電圧1Vをかけた際のリーク電流を求めた。これらの結果を図5にまとめて示す。図5は、横軸に膜中のSi濃度をとり、縦軸に比誘電率およびリーク電流をとって、これらの関係を示す図である。この図に示すように、Si濃度が0から上昇するに従って比誘電率が上昇し、リーク電流が低下する傾向にある。Si濃度が3.1atm%で比誘電率が約25のピークを示し、それ以上Si濃度が増加するにつれて比誘電率が低下し、Si濃度4atm%でほぼSiを含まないサンプル6と同程度となり、4atm%を超えるとSiを含まないサンプル6よりも比誘電率が低下する。一方、リーク電流は、Si濃度が2atm%程度まで急激に低下し、2atm%以上においてもさらに低下しており、Siを含まないサンプル6のリーク電流値が1×10−7A/cm程度であったのに対し、Si濃度が2atm%以上では10−9A/cmオーダー以下となり、リーク電流が2桁程度向上することが確認された。Si濃度1atm%にはプロットが存在しないが、この図からSi濃度が1atm%でも十分効果があることが確認される。
【0060】
次に、サンプル6(Si=0atm%)、サンプル1(Si=3.1atm%)、サンプル2(Si=5.5atm%)について、透過型電子顕微鏡(TEM)により膜の組織観察を行った。その結果を図6に示す。図6は、これらサンプルの断面および平面のTEM写真を示すものであり、Siを含まないサンプル6とSiが3.1atm%のサンプル1では、明確に結晶が観察されるのに対し、Siが5.5atm%のサンプル2では、結晶が観察されず、アモルファスとなっていることが確認された。また、結晶サイズはサンプル6よりもサンプル1のほうが大きくなっていることが確認された。
【0061】
次に、結晶が観察されたサンプル6(Si=0atm%)とサンプル1(Si=3.1atm%)について、電子線回折により結晶構造を確認した。ここでは、電子線回折から得られたピークの回折強度とd値とから、結晶の割合を求めた。その結果を図7に示す。この図から、膜の結晶構造はCubicとTetragonalであることが確認された。
【0062】
これらの結果から、Siを微量添加しても、ジルコニア結晶には大きな影響を与えず、結晶構造を維持しているが、Siが増加すると、ジルコニア結晶が維持されずにアモルファスとなることが確認された。
【0063】
次に、Siソースの違いによるSi濃度の違いについて説明する。ここでは、上記3DMASを用いた場合と、3DMASの代わりに4DMASを用いた場合とで、y/(x+y)×100とSi濃度との関係の違いを把握した。その結果を図8に示す。この図に示すように、同様の条件で成膜した場合には、3DMASよりも4DMASのほうがSi濃度が低くなることが把握された。
【0064】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では本発明を複数のウエハを搭載して一括して成膜を行うバッチ式の成膜装置に適用した例を示したが、これに限らず、一枚のウエハ毎に成膜を行う枚葉式の成膜装置に適用することもできる。
【0065】
また、上記実施形態では、Zrソース、Siソースとして有機金属化合物を用いたが、これに限るものではなく無機化合物であってもよい。ただし、ガスが多量に発生する有機金属化合物を金属ソースとして用いる場合により有効である。
【0066】
さらにまた、被処理体としては、半導体ウエハに限定されず、LCDガラス基板等の他の基板にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1;処理容器
5;ウエハボート(供給手段)
14;酸化剤供給機構
15;Zrソースガス供給機構
16;Siソースガス供給機構
19;酸化剤分散ノズル
24;Zrソースガス分散ノズル
27;Siソースガス分散ノズル
40;加熱機構
100;成膜装置
W;半導体ウエハ(被処理体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空保持可能な処理容器内に被処理体を挿入し、前記処理容器内を真空に保持した状態とし、
前記処理容器内にジルコニウム原料と酸化剤とを交互的に複数回供給して基板上にZrO膜を成膜する工程と、前記処理容器内にシリコン原料と酸化剤とを交互的に1回または複数回供給して基板上にSiO膜を成膜する工程とを、膜中のSi濃度が1〜4atm%になるように供給回数を調整して行い、
これら供給回数のZrO膜成膜とSiO膜成膜とを1サイクルとし、このサイクルを1以上行い所定膜厚のジルコニア系膜を成膜することを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
膜中のSi濃度が2〜4atm%になるように、ZrO膜を成膜する際のジルコニウム原料と酸化剤との供給回数、およびSiO膜を成膜する際のシリコン原料と酸化剤との供給回数を調整することを特徴とする請求項1に記載の成膜方法
【請求項3】
前記ジルコニウム原料の供給と前記酸化剤の供給との間、および前記シリコン原料の供給と前記酸化剤の供給との間で、前記処理容器内のガスを排出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の成膜方法。
【請求項4】
上記成膜の後、450℃以下の温度で得られた膜をアニールすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記酸化剤は、Oガス、HOガス、Oガス、NOガス、NOガス、NOガス、OガスとHガスのラジカルから選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項6】
前記ジルコニウム原料および前記シリコン原料は、有機金属化合物であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項7】
形成されたジルコニア系膜は、ジルコニア結晶を有していることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項8】
膜中のSi濃度は、予め把握したシリコン原料の供給回数の割合と膜中のSi濃度との関係から求めることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項9】
被処理体に対して金属酸化膜を成膜する成膜装置であって、
真空保持可能な縦型で筒体状をなす処理容器と、
前記被処理体を複数段に保持した状態で前記処理容器内に保持する保持部材と、
前記処理容器の外周に設けられた加熱装置と、
ジルコニウム原料を前記処理容器内に供給するジルコニウム原料供給機構と、
シリコン原料を前記処理容器内に供給するシリコン原料供給機構と、
前記処理容器内へ酸化剤を供給する酸化剤供給機構と、
前記ジルコニウム原料供給機構、前記シリコン原料供給機構および前記酸化剤供給機構を制御する制御機構と
を具備し、
前記制御機構は、前記処理容器内に被処理体を挿入して、前記処理容器内を真空に保持した状態とし、前記処理容器内にジルコニウム原料と酸化剤とを交互的に複数回供給して基板上にZrO膜を成膜する工程と、前記処理容器内にシリコン原料と酸化剤とを交互的に1回または複数回供給して基板上にSiO膜を成膜する工程とを、膜中のSi濃度が1〜4atm%になるように供給回数を調整して行い、これら回数のZrO膜成膜とSiO膜成膜とを1サイクルとし、このサイクルが1以上行われるように制御することを特徴とする成膜装置。
【請求項10】
前記制御機構は、膜中のSi濃度が2〜4atm%になるように、ZrO膜を成膜する際のジルコニウム原料と酸化剤との供給回数、およびSiO膜を成膜する際のシリコン原料と酸化剤との供給回数を調整することを特徴とする請求項9に記載の成膜装置。
【請求項11】
前記制御機構は、前記ジルコニウム原料の供給と前記酸化剤の供給との間、および前記シリコン原料の供給と前記酸化剤の供給との間で、前記処理容器内のガスを排出するように制御することを特徴とする請求項9または請求項10に記載の成膜装置。
【請求項12】
前記制御機構は、前記成膜の後、450℃以下の温度で得られた膜をアニールするように制御することを特徴とする請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項13】
前記制御機構は、膜中のSi濃度を、予め把握したシリコン原料の供給回数の割合と膜中のSi濃度との関係から求めることを特徴とする請求項9から請求項12のいずれか1項に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−67958(P2010−67958A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177382(P2009−177382)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】