説明

接着材組成物並びに回路端子の接続構造体及び回路端子の接続方法

【課題】 低温速硬化性、貯蔵安定性、接着力に優れた接着材組成物並びに回路端子の接続構造体及び回路端子の接続方法を提供する。
【解決手段】 (A)エポキシ樹脂、(B)分子内に1つ以上のエステル結合を持つチオール化合物、(C)光照射によって塩基を発生する光塩基発生剤、を含有する接着材組成物。
第一の接続端子を有する第一の回路部材と、第二の接続端子を有する第二の回路部材とが、第一の接続端子と第二の接続端子を対向して配置されており、前記対向配置した第一の接続端子と第二の接続端子の間に前記の接着材組成物を介在し、前記対向配置した第一の接続端子と第二の接続端子のみが電気的に接続されている回路端子の接続構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着材組成物と、回路端子の接続構造体及び回路端子の接続方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂系接着材は、高い接着強度が得られ、耐水性や耐熱性に優れること等から、電気・電子・建築・自動車・航空機等の各種用途に多用されている。中でも一液型エポキシ樹脂系接着材は、主剤と硬化剤との混合が不必要であり使用が簡便なことから、フィルム状、ペースト状、粉体状の形態で使用されている(例えば特許文献1)。この場合、エポキシ樹脂と硬化剤及び変性剤との多様な組合せにより、特定の性能を得ることが一般的である。しかしながら、このようなエポキシ樹脂系のフィルム状接着材は、作業性に優れるものの、低温速硬化性の点で不十分であった。
【0003】
低温速硬化性の接着材として、ラジカル重合性接着材が知られている(例えば、特許文献2)が、低温硬化性を重視した場合、分解温度(半減期温度)の低い硬化剤(過酸化物等)が使用されるため、貯蔵安定性が低下する問題があった。また、光照射と低温加熱による硬化方法として光カチオン硬化が提案されているが(例えば特許文献3)、金属部材への腐食等で問題が生じる場合があった。
また、光塩基発生剤とエポキシ樹脂を併用して光照射と加熱によって硬化を行う方法が提案されている(例えば特許文献4)。これは、光照射によって光塩基発生剤から発生した塩基性化合物が、エポキシ樹脂とチオール化合物との硬化反応を低温で促進する原理を用いているが、使用可能なチオール化合物の構造が剛直であるために硬化物が脆化し、接着力の低下や剥離等で問題が生じる場合があった。
【0004】
【特許文献1】特開平1−113480号公報
【特許文献2】国際公開第98/44067号パンフレット
【特許文献3】特許第3392866号公報
【特許文献4】特開2001−279216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、低温速硬化性と貯蔵安定性に優れ、また接着力の低下や剥離等が改善された接着材組成物並びに回路端子の接続構造体及び回路端子の接続方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究した結果、エポキシ樹脂、分子内に1つ以上のエステル結合を持つチオール化合物と共に、光照射によって塩基を発生する光塩基発生剤を組み合わせることで、接着材の低温速硬化性及び接着性が向上し、かつ光を遮断した場合には貯蔵安定性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明は以下の通りである。
[1] (A)エポキシ樹脂、(B)分子内に1つ以上のエステル結合を持つチオール化合物、(C)光照射によって塩基を発生する光塩基発生剤、を含有する接着材組成物。
[2] (B)チオール化合物が、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、下記一般式(1)、(2)で示される化合物の群から選ばれる少なくとも一種類の化合物であることを特徴とする上記[1]記載の接着材組成物。
【0008】
【化1】


(一般式(1)、(2)において、m、nは独立に1〜5の整数を示す)
【0009】
[3] (C)光塩基発生剤が、アミンイミド誘導体、イミダゾリウム塩誘導体、4級アンモニウム塩誘導体、カルバミン酸エステル誘導体、オキシムエステル誘導体、α−アミノケトン誘導体からなる群より選ばれる一以上の化合物であることを特徴とする上記[1]または上記[2]記載の接着材組成物。
[4] さらに、熱可塑性樹脂を含有する上記[1]ないし上記[3]のいずれかに記載の接着材組成物。
[5] 前記熱可塑性樹脂が、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、ブチラール樹脂、アクリル樹脂から選ばれることを特徴とする上記[4]に記載の接着材組成物。
[6] さらに、導電性粒子を含有する上記[1]ないし上記[5]のいずれかに記載の接着材組成物。
[7] 第一の接続端子を有する第一の回路部材と、第二の接続端子を有する第二の回路部材とが、第一の接続端子と第二の接続端子を対向して配置されており、前記対向配置した第一の接続端子と第二の接続端子の間に上記[1]ないし上記[6]のいずれかに記載の接着材組成物が介在されており、前記対向配置した第一の接続端子と第二の接続端子のみが電気的に接続されている回路端子の接続構造体。
[8] 第一の接続端子を有する第一の回路部材上に上記[1]ないし上記[6]のいずれかに記載の接着材組成物を配置させ、接着材組成物の上方から光照射を行った後、第二の接続端子を有する第二の回路部材を対向して配置し、加熱しながら加圧して対向配置した第一の接続端子と第二の接続端子のみを電気的に接続させる回路端子の接続方法。
[9] 第一の接続端子を有する第一の回路部材と、第二の接続端子を有する第二の回路部材とを、第一の接続端子と第二の接続端子を対向して配置し、前記対向配置した第一の接続端子と第二の接続端子の間に上記[1]ないし上記[6]のいずれかに記載の接着材組成物を介在させ、光照射と同時に加熱しながら加圧して前記対向配置した第一の接続端子と第二の接続端子のみを電気的に接続させる回路端子の接続方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低温速硬化性と貯蔵安定性に優れ、また、接着性にも優れた接着材組成物並びに回路端子の接続構造体及び回路端子の接続方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において用いる(A)エポキシ樹脂としては、分子内に2個以上のエポキシ基を有するものであれば特に制限なく、公知のものを使用することができる。このような分子内に少なくとも2個以上のエポキシ基を有する化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂等があり、これらのエポキシ樹脂はハロゲン化されていてもよく、水素添加されていてもよい。これらのエポキシ樹脂は、2種以上を併用してもよい。
【0012】
また、本発明におけるエポキシ基を有する化合物として、エポキシ当量43から10000程度のエポキシ基を有する化合物を用いてもよい。エポキシ当量が43以上であれば架橋密度の低下を防止することができ、また10000以下であれば反応速度が低下する傾向を抑制できる。
【0013】
本発明において用いる(B)チオール化合物としては、分子内に1つ以上のエステル結合を持つチオール化合物であれば特に制限なく、公知のものを使用することができる。本発明において用いる(B)チオール化合物は、極性の高いエステル結合を分子内に持つことによって良好な接着性を示すことが特長である。分子内に1つ以上のエステル結合を持つチオール化合物を以下、(B)チオール化合物と略す。
【0014】
このような(B)チオール化合物としては、チオール化合物の分子量をチオール化合物1分子当りのメルカプト基の官能基数で割った値であるメルカプト基当量(以下SH当量と略す)が100以上のものが好ましく、エステル結合とともに分子内に2つ以上のメルカプト基を有し、かつSH当量が100以上のチオール化合物が、接着性の観点からより好ましい。
具体的には、トリメチロールプロパンやペンタエリスリトールのOH基を変性したトリメチロールプロパントリスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートや下記一般式(1)、(2)で示されるイソシアヌレート変性チオール化合物、4,4’−チオジベンゼンチオール等が挙げられ、接着性、耐熱性の観点からイソシアヌレート変性チオール化合物が特に好ましい。これらのチオール化合物は、1種または2種以上を使用してもよい。
【0015】
【化2】


(一般式(1)、(2)において、m、nは独立に1〜5の整数を示す)
【0016】
(B)チオール化合物の使用量は、(A)エポキシ樹脂に対して、SH当量/エポキシ当量の比で0.3/1.7〜1.7/0.3の比率となるようにすることが好ましく、0.8/1.2〜1.2/0.8の比率となるようにすることがより好ましい。この比率が、0.3/1.7から1.7/0.3の範囲内であれば、未反応のチオール基やエポキシ基が硬化物中に多量に残存することを防止でき、硬化物の機械特性の低下傾向を抑制できる。
【0017】
本発明に用いる(C)光照射によって塩基を発生する光塩基発生剤は、光照射によって塩基を発生する化合物であれば特に制限は受けないが、アミンイミド誘導体、イミダゾリウム塩誘導体、4級アンモニウム塩誘導体、カルバミン酸エステル誘導体、オキシムエステル誘導体、α−アミノケトン誘導体が、光照射に対して効率よく塩基を発生する観点から、より好ましい。
本発明における光塩基発生剤の役割としては、光照射によって発生した塩基性化合物が硬化触媒として作用し、前記エポキシ樹脂と前記チオール化合物の硬化を促進することを前提としている。このため、前記光塩基発生効率とともに、光照射によって発生した化合物の塩基性が重要となる。光塩基発生剤から発生する塩基性化合物としては、例えば塩基性の指標とされるpKaが5以上の化合物が好ましい。このような化合物としては例えば、イミダゾール誘導体、1級アミン、2級アミン、3級アミン、DABCO(トリエチレンジアミン)やDBU(1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン)、DBN(2,6−ジクロロベンゾニトリル)等が挙げられる。このような塩基性化合物を発生する光塩基発生剤としては、例えば、Chemistry & Technology of UV & EB Formulation for Coatings, Inks & Paints,Ed.by G. Bradley,John Wiley and Sons Ltd.(1998年)、p479〜p545に記載されているカルバミン酸エステル誘導体やオキシムエステル誘導体、4級アンモニウム塩誘導体、が挙げられる。また、特開平11−71450号公報に記載されているα−アミノアセトフェノン誘導体や国際公開第2002/051905号パンフレットに記載されているアミンイミド誘導体、特開2003−212856号公報に記載されているイミダゾリウム塩誘導体が挙げられる。
【0018】
本発明で用いる(C)光塩基発生剤の添加量は、(A)エポキシ樹脂100重量部に対して0.01〜200重量部が好ましく、0.02〜150重量部がさらに好ましい。光塩基発生剤が0.01重量部以上であれば耐熱性の低下を抑制でき、200重量部以下であれば、フィルム物性が良好である。
【0019】
本発明の接着材組成物は、さらに熱可塑性樹脂を含むことができる。熱可塑性樹脂としては、特に制限は受けないが、樹脂の主鎖骨格あるいは側鎖に水酸基、エーテル基、エステル基、ウレタン基、アミド基、イミド基、カルボキシル基、等の極性基を含有する樹脂が接着性の観点から好ましい。具体的には、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアクリル樹脂、等が使用できる。また前記ポリマーを反応性官能基であるエポキシ基やアクリロイル基、メタクリロイル基、カルボキシル基等で変性したものは耐熱性が向上するためより好ましい。
【0020】
これらの樹脂の分子量は特に制限を受けるものではないが、一般的な重量平均分子量としては5,000〜150,000が好ましく、10,000〜80,000が特に好ましい。この値が、5,000以上であれば、十分なフィルム形成性を得ることができ、また150,000以下であれば他の成分との相溶性が悪くなる傾向を抑制できる。使用量としては(A)エポキシ樹脂100重量部に対して20〜320重量部とすることが好ましい。
なお、本発明で規定する重量平均分子量とは、以下の条件に従ってゲルパーミエイションクロマトグラフィー法(GPC)により標準ポリスチレンによる検量線を用いて測定したもののことをいう。
〈GPC条件〉使用機器:日立L−6000型〔(株)日立製作所〕、カラム :ゲルパックGL−R420+ゲルパックGL−R430+ゲルパックGL−R440(計3本)〔日立化成工業(株)製商品名〕、溶離液:テトラヒドロフラン、測定温度:40℃、流量:1.75ml/min、検出器:L−3300RI〔(株)日立製作所〕
【0021】
本発明の接着材組成物は、回路接続材料に使用する場合などではさらに導電性粒子を含むことができる。本発明の接着材組成物は、接続時に相対向する回路電極の直接接触により接続が得られるが、導電性粒子を含有した場合、より安定した接続が得られる。導電性粒子としては、Au、Ag、Ni、Cu、はんだ等の金属粒子やカーボン等があり、十分なポットライフを得るためには、表層はAu、Ag、白金族の貴金属類が好ましくAuがより好ましい。
【0022】
また、Ni等の遷移金属類の表面をAu等の貴金属類で被覆したものでもよい。また、非導電性のガラス、セラミック、プラスチック(ポリスチレン等)等に前記した導通層を被覆等により形成し、最外層を貴金属類、核をプラスチックとした場合や、熱溶融金属粒子の場合、加熱加圧により変形性を有するので接続時に電極との接触面積が増加し信頼性が向上するので好ましい。
【0023】
導電性粒子の使用量は、接着材組成物100体積に対して0.1〜30体積%とすることが好ましく、0.1〜10体積%とすることがより好ましい。この値が、0.1体積%以上であれば導電性を得ることができ、30体積%以下であれば回路の短絡を抑制できる。尚、体積%は23℃での硬化前の各成分の体積をもとに決定されるが、各成分の体積は、比重を利用して重量から体積に換算することができる。
【0024】
本発明の接着材組成物は、光塩基発生剤の塩基発生効率を向上させることを目的に、増感剤を併用してもよい。使用する増感剤としては、硬化性組成物に悪影響を及ぼさない限り、公知の一重項増感剤、三重項増感剤を用いることができる。例えば、ナフタレン、アントラセン、ピレン等の芳香族化合物誘導体、カルバゾール誘導体、ベンゾフェノン誘導体、チオキサントン誘導体、クマリン誘導体等が好適に用いられる。増感剤の使用量は、増感剤の吸収波長及びモル吸光係数を参考にする必要があるが、一般的にイミダゾリウム塩化合物1重量部に対して0.01〜5重量部が好ましく、0.1〜2重量部が特に好ましい。増感剤が0.01重量部以上であれば光吸収の効率向上効果を得ることができ、5重量部以下であれば硬化性組成物全体に光が届かない状況を防ぐことができる。
【0025】
本発明の接着材組成物では、接着力の更なる向上を目的にエポキシ基やメルカプト基、アミノ基、イミダゾール基等の有機官能基を骨格中に有するシランカップリング剤やテトラアルコキシチタネート誘導体やポリジアルキルチタネート誘導体に代表されるカップリング剤を含有することもできる。さらに、充填材、軟化剤、促進剤、老化防止剤、着色剤、難燃化剤、チキソトロピック剤を含有することもできる。
【0026】
本発明の接着材組成物では、(C)光塩基発生剤から光照射によって発生した塩基性化合物がエポキシ樹脂とチオール化合物の硬化を促進することにより、接着材組成物全体の反応を進め、その結果、低温速硬化性が向上する。さらに分子内に1つ以上のエステル結合を持つチオール化合物を含有することで、接着性に優れた接着材組成物の提供が可能となる。
【0027】
本発明の回路端子の接続方法は、第一の接続端子を有する第一の回路部材と、第二の接続端子を有する第二の回路部材とを、第一の接続端子と第二の接続端子を対向して配置し、前記対向配置した第一の接続端子と第二の接続端子の間に本発明の接続材料(好ましくはフィルム状接着材)を介在させ、前記対向配置した第一の接続端子と第二の接続端子のみを電気的に接続させる。このような回路部材としては半導体チップ、抵抗体チップ、コンデンサチップ等のチップ部品、プリント基板等の基板等が用いられる。回路部材には接続端子が通常は多数(場合によっては単数でもよい)設けられている。
【0028】
より良好な電気的接続を得るためには、回路電極(接続端子)の少なくとも一方の表面を、金、銀、錫及び白金族から選ばれる金属にすることが好ましい。表面層は金、銀、白金族、又は錫のいずれかから選択され、これらを組み合わせて用いてもよい。また、銅/ニッケル/金のように複数の金属を組み合わせて多層構成としてもよい。
【0029】
接続方法としては、第一の接続端子を有する第一の回路部材上に接着材組成物を配置させた後、接着材組成物の上方から光照射を行った後、第二の接続端子を有する第二の回路部材を対向して配置し、加熱しながら加圧し、光照射と加熱及び加圧を逐次的に行って接着させることができる。
【0030】
また、第一の回路部材が紫外域から可視域にかけて透明な基材の場合には、第一の接続端子を有する第一の回路部材上に接着材組成物を配置させた後、第二の接続端子を有する第二の回路部材を対向して配置し、第二の回路部材上から加熱、加圧と同時に第一の回路部材下方から光照射を行っても接着させることができる。硬化条件は、通常、加熱の場合、0.1〜10MPaの加圧下で、100〜200℃で1秒〜120秒であるが、これに限定されるものでない。光照射は、150〜750nmの波長域の照射光が好ましく、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプを使用することができ、光照射量としては365nm照度換算で0.01〜10J/cmであるが、これに限定されるものでない。
【0031】
本発明の接着材組成物は、常温(25℃)で液状である場合にはペースト状で使用することができる。室温(25℃)で固体の場合には、加熱して使用する他、溶剤を使用してペースト化してもよい。使用できる溶剤としては、硬化性に悪影響を及ぼさず、かつ十分な溶解性を示すものであれば、特に制限は受けないが、常圧での沸点が50〜150℃であるものが好ましい。沸点が50℃以上であれば、室温(25℃)で放置した場合の揮発を防止することができ、開放系での使用が可能となる。また、沸点が150℃以下であれば、溶剤の除去が容易となる。
【0032】
本発明の接着材組成物はフィルム状にして用いることもできる。接着材組成物に必要により溶剤等を加えた溶液を、フッ素樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、離形紙等の剥離性基材上に塗布し、あるいは不織布等の基材に前記溶液を含浸させて剥離性基材上に載置し、溶剤等を除去してフィルムとして使用することができる。フィルムの形状で使用すると取扱性等の点から一層便利である。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
(アミンイミドの合成)
100mlの三つ口フラスコ中にp−ニトロ安息香酸メチルエステル(2.00g、11mmol)、N,N−ジメチルヒドラジン(0.66g、11mmol)、フェニルグリシジルエーテル(1.66g、11mmol)、tert−ブタノール(15.0g)を加え、窒素ガスを送りながら50℃で10時間攪拌した後、さらに室温(25℃)で48時間攪拌したところ、白色沈殿が生成した。この得られた沈殿物を濾別した後、酢酸エチルで2度洗浄し、真空乾燥機(装置名:LHV−112、TABAI社製)で乾燥させてアミンイミド化合物を得た。収量3.67g、収率85%であった。
【0035】
(イミダゾリウム塩の合成)
100mlの三つ口フラスコ中にp−ニトロフェナシルブロマイド(2.00g、8.2mmol)をアセトン(20g)に溶解させ、これにアセトン(5g)に溶解させた1,2−ジメチルイミダゾール(0.79g、8.2mmol)の溶液をゆっくり添加し、この後、室温(25℃)で2時間攪拌したところ、白色結晶が析出した。この得られた結晶をろ過し、アセトンで2度洗浄を行った後、真空下60℃で5時間乾燥して、イミダゾリウム・ブロマイド塩を得た(収量2.62g)。上記イミダゾール・ブロマイド塩(2.00g、5.8mmol)を、メタノール/水(15g/15g)溶液に溶解させ、これに水(5.0g)に溶解させたテトラフェニルほう酸ナトリウム塩(2.01g、5.8mmol)の溶液をゆっくり添加した。
添加とともに、白色スラリー状の析出が認められ、添加後、さらに室温(25℃)で5時間攪拌した。この得られた析出物をろ過し、アセトン(20g)に溶解させて再結晶を行い、目的のイミダゾリウム・テトラフェニルほう酸塩(イミダゾリウム塩)を得た(収量3.23g)。
なお、攪拌はすべてマグネティックスターラー(F202SC,Fine社製)で行い、温度制御はオイルバス(装置名:FWB−240,Fine社製)によって行った。
【0036】
(4級アンモニウム塩1の合成)
100mlの三つ口フラスコ中にp−ニトロフェナシルブロマイド(2.00g、8.2mmol)をアセトン(20g)に溶解させ、これにアセトン(5g)に溶解させたN,N−ジメチルベンジルアミン(1.10g、8.2mmol)の溶液をゆっくり添加し、この後、室温(25℃)で2時間かくはんしたところ、白色結晶が析出した。これをろ過し、アセトンで2度洗浄を行った後、真空下60℃で5時間乾燥して、アンモニウム・ブロマイド塩1を得た(収量2.73g)。200mlの三つ口フラスコ中に上記アンモニウム・ブロマイド塩1(2.00g、5.3mmol)を、メタノール/水(15g/15g)溶液に溶解させ、これにメタノール/水(2.5g/2.5g)に溶解させたテトラフェニルほう酸ナトリウム塩(1.84g、5.3mmol)の溶液をゆっくり添加した。添加とともに、白色スラリー状の析出が認められ、添加後、さらに室温(25℃)で5時間かくはんした。これをろ過し、アセトン(20g)に溶解させて再結晶を行い、目的の4級アンモニウム塩を得た(収量2.98g)。
(4級アンモニウム塩2の合成)
200mlの三つ口フラスコ中に2−(ブロモアセチル)ナフタレン(3.00g、12.0mmol)、メチルエチルケトン(30g)を加え、これにメチルエチルケトン(10g)に溶解させた1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7(1.83g、12.0mmol)の溶液をゆっくり添加し、この後、0℃で4時間かくはんしたところ、白色結晶が析出した。これをろ過し、アセトンで2度洗浄を行った後、真空下60℃で5時間乾燥して、アンモニウム・ブロマイド塩2を得た(収量3.15g)。
200mlの三つ口フラスコ中に上記アンモニウム・ブロマイド塩2(3.00g、7.5mmol)を、メタノール/水(50g/50g)溶液に溶解させ、これにメタノール/水(5g/5g)に溶解させたテトラフェニルほう酸ナトリウム塩(2.56g、7.5mmol)の溶液をゆっくり添加した。添加とともに、白色スラリー状の析出が認められ、添加後、さらに室温で5時間かくはんした。これをろ過し、アセトン(20g)に溶解させて再結晶を行い、目的の4級アンモニウム塩2を得た(収量3.80g)。
【0037】
(カルバミン酸エステルの合成)
100mlの三つ口フラスコ中に2,4−ジニトロベンジルアルコール(2.00g、10mmol)および1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7(0.10g、0.6mmol)、テトラヒドロフラン20gを加え、シクロヘキシルイソシアネート(1.27g、10mmol)を室温(25℃)で滴下した。滴下終了後室温(25℃)で48時間攪拌したところ、白色沈殿が生成した。これを濾別した後、酢酸エチルで再結晶を行い、真空乾燥機で乾燥させてカルバミン酸エステル化合物を得た。収量2.23g、収率68%であった。
【0038】
(オキシムエステルの合成)
100mlの三つ口フラスコ中に9−フルオレノンオキシム(2.00g、10mmol)およびピリジン(0.80g、10mmol)をテトラヒドロフラン20g中に溶解し、ジエチルカルバモイルクロリド(1.36g、10mmol)を氷浴で冷却しながらで滴下した。滴下終了後室温(25℃)で24時間攪拌したところ、白色沈殿が生成した。これに水を200g加えると淡黄色沈殿が析出した。これを濾別した後、アセトンで再結晶を行い、真空乾燥機で乾燥させてオキシムエステル化合物を得た。収量2.58g、収率88%であった。
【0039】
(実施例1〜12)
熱可塑性樹脂として、フェノキシ樹脂及びウレタン樹脂を使用した。フェノキシ樹脂(PKHC、ユニオンカーバイト社製商品名、平均分子量45,000)40gを、ガラス製の容器に入れたメチルエチルケトン(製品名:2−ブタノン、和光純薬工業(株)社製、純度99%)60gに溶解して、固形分40重量%の溶液とした。また、ウレタン樹脂は、平均分子量2000のポリブチレンアジペートジオール(製品名:ポリブチレンアジペートジオール、Aldrich社製)450重量部と平均分子量2000のポリオキシテトラメチレングリコール(製品名:ポリオキシテトラメチレングリコール、Aldrich社製)450重量部、1,4−ブチレングリコール(製品名:1,4−ブチレングリコール、Aldrich社製)100重量部をメチルエチルケトン(製品名:2−ブタノン、和光純薬工業(株)社製、純度99%)4000重量部中で溶解し、ジフェニルメタンジイソシアネート(製品名:ジフェニルメタンジイソシアネート、Aldrich社製)390重量部を加えて70℃にて60分間反応させて得た。なお、この時の温度制御はオイルバス(装置名:FWB−240,Fine社製)により行った。得られたウレタン樹脂の重量平均分子量をゲルパーミエイションクロマトグラフィー法(GPC)によって測定したところ、12万であった。
エポキシ樹脂(A)としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂(エピコート152、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名)、チオール化合物(B)としてペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート(PETP、東京化成工業株式会社製)又はイソシアヌレート変性チオール化合物(THEIC−BMPA、淀化学株式会社製品名)、シランカップリング剤として3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(SZ6040、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製商品名)、光塩基発生剤(C)として表1に示す化合物を用いた。またポリスチレンを核とする粒子の表面に、厚み0.2μmのニッケル層を設け、このニッケル層の外側に、厚み0.02μmの金層を設け、平均粒径4μm、比重2.5の導電性粒子を作製した。
【0040】
固形重量比で表1に示すように配合し、さらに導電性粒子を1.5体積%配合分散させ、厚み80μmのフッ素樹脂フィルムに塗工装置(装置名:SNC−S3.0、康井精機(株)社製)を用いて塗布し、70℃、10分の熱風乾燥によって接着材層の厚みが20μmのフィルム状接着材を得た。
【0041】
【表1】

【0042】
(接着強度、接続抵抗の測定)
上記製法によって得たフィルム状接着材を用いて、ライン幅50μm、ピッチ100μm、厚み18μmの銅回路を500本有するフレキシブル回路板(FPC)と、0.2μmの酸化インジウム(ITO)の薄層を形成したガラス(厚み1.1mm、表面抵抗20Ω/□)とを、140℃、3MPaで30秒間加熱加圧して幅2mmにわたり接続した。
この時、あらかじめITOガラス上に、フィルム状回路接続材料の接着面を70℃、0.5MPaで3秒間加熱加圧して仮接続した後、フッ素樹脂フィルムを剥離し、回路接続用組成物からなるフィルム面に、高圧水銀ランプを有する紫外線照射装置(ウシオ電機株式会社製)を用いて2.0J/cmの紫外線を照射した。その後、もう一方の被着体であるFPCと接続し接続体を作製した。この接続体の隣接回路間の抵抗値を、接着直後と、85℃、85%RHの高温高湿槽中に168時間保持した後にマルチメータ(装置名:TR6848、アドバンテスト社製)で測定した。抵抗値は隣接回路間の抵抗37点の平均で示した。
【0043】
また、この接続体の接着強度をJIS−Z0237に準じて90度剥離法で測定し、評価した。ここで、接着強度の測定装置は東洋ボールドウィン株式会社製テンシロンUTM−4(剥離速度50mm/min、25℃)を使用した。
【0044】
(比較例1)
光塩基発生剤(C)であるイミダゾリウム塩の代わりに1,2−ジメチルイミダゾールを使用した以外は実施例3と同様の配合でフィルム状接着材を作製し、実施例3と同様に接続体を作製した。
【0045】
(比較例2)
チオール化合物(B)であるPETPの代わりに分子内にエステル結合を持たないSH当量が85であるp−キシレンジチオール(SH当量85、固形重量比で25)を使用した以外は実施例4と同様の配合でフィルム状接着材を作製し、実施例4と同様に接続体を作製した。
【0046】
以上のようにして行った接続体の接着強度、接続抵抗の測定の結果を表2に示した。
【0047】
【表2】

【0048】
実施例1〜12で得られた接着材組成物は、加熱温度140℃において、接着直後及び85℃、85%RHの高温高湿槽中に168時間保持した後で、良好な接続抵抗及び接着強度を示し、良好な特性を示すことが分かった。一方、光塩基発生剤の代わりに1,2−ジメチルイミダゾールを添加した比較例1では、フィルム作製時の乾燥(70℃、10分)時に硬化が進行し、接続体を得ることができなかった。また、分子内にエステル結合を持たないチオール化合物を用いた比較例2では接着直後の接続抵抗値が高く、85℃、85%RHの高温高湿槽中で168時間保持した後では、急激な接続抵抗の上昇と接着力低下が顕在化した。
【0049】
(実施例13)
実施例7で得られたフィルム状接着材を、真空包装を施して、40℃で3日間放置した後、実施例7と同様にFPCとITOとを140℃、3MPa、30sで加熱圧着を行った。以上のようにして行った接続体の接着強度、接続抵抗を測定したところ、接着強度は790N/m、接続抵抗は1.7Ωを示し、放置安定性に優れることが分かった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)分子内に1つ以上のエステル結合を持つチオール化合物、(C)光照射によって塩基を発生する光塩基発生剤、を含有する接着材組成物。
【請求項2】
(B)チオール化合物が、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、下記一般式(1)、(2)で示される化合物の群から選ばれる少なくとも一種類の化合物であることを特徴とする請求項1記載の接着材組成物。
【化1】


(一般式(1)、(2)において、m、nは独立に1〜5の整数を示す)
【請求項3】
(C)光塩基発生剤が、アミンイミド誘導体、イミダゾリウム塩誘導体、4級アンモニウム塩誘導体、カルバミン酸エステル誘導体、オキシムエステル誘導体、α−アミノケトン誘導体からなる群より選ばれる一以上の化合物であることを特徴とする請求項1または2記載の接着材組成物。
【請求項4】
さらに、熱可塑性樹脂を含有する請求項1乃至3いずれかに記載の接着材組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、ブチラール樹脂、アクリル樹脂から選ばれることを特徴とする請求項4記載の接着材組成物。
【請求項6】
さらに、導電性粒子を含有する請求項1乃至5いずれかに記載の接着材組成物。
【請求項7】
第一の接続端子を有する第一の回路部材と、第二の接続端子を有する第二の回路部材とが、第一の接続端子と第二の接続端子を対向して配置されており、前記対向配置した第一の接続端子と第二の接続端子の間に請求項1乃至6のいずれか一項記載の接着材組成物が介在されており、前記対向配置した第一の接続端子と第二の接続端子のみが電気的に接続されている回路端子の接続構造体。
【請求項8】
第一の接続端子を有する第一の回路部材上に請求項1乃至6のいずれか一項記載の接着材組成物を配置させ、接着材組成物の上方から光照射を行った後、第二の接続端子を有する第二の回路部材を対向して配置し、加熱しながら加圧して対向配置した第一の接続端子と第二の接続端子のみを電気的に接続させる回路端子の接続方法。
【請求項9】
第一の接続端子を有する第一の回路部材と、第二の接続端子を有する第二の回路部材とを、第一の接続端子と第二の接続端子を対向して配置し、前記対向配置した第一の接続端子と第二の接続端子の間に請求項1乃至6のいずれか一項記載の接着材組成物を介在させ、光照射と同時に加熱しながら加圧して前記対向配置した第一の接続端子と第二の接続端子のみを電気的に接続させる回路端子の接続方法。



【公開番号】特開2007−77382(P2007−77382A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−302939(P2005−302939)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】