説明

樹脂におけるグラフト化粒子及び非グラフト化粒子の混合物

一つの応用において、本発明のグラフト化及び非グラフト化混合物は、ホスト樹脂マトリックスにグラフトされた第一のクラスのグラフト化31高熱伝導性粒子、及び、ホスト樹脂マトリックス32に直接的にはグラフトされていない第二のクラスの非グラフト化30高熱伝導性粒子を含むホスト樹脂マトリックス32を含んでなる、高熱伝導性樹脂を提供する。第一のクラス及び第二のクラスは、高熱伝導性樹脂の約2〜60体積%を占める。第一のクラスのグラフト化粒子及び第二のクラスの非グラフト化粒子は、長さが1〜1,000nmであり、3〜100の間のアスペクト比を有する、高熱伝導性充填剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、樹脂中に含浸された、表面グラフトされた官能基を有する高熱伝導性材料に関する。
【0002】
本出願は、スミス(Smith)らによって、2005年6月14日に出願された、米国特許出願第11/152,986号「グラフトされた表面官能基を有する高熱伝導性材料(High Thermal Conductivity Materials with Grafted Surface Functional Groups)」の一部継続出願である(この出願を参考として引用し本明細書に組み入れる)。
【背景技術】
【0003】
どのような形態の電気製品であれ、その使用には、導体を電気的に絶縁することが必要である。絶え間なく小型化が求められ、全ての電気及び電子システムの簡素化が要望されているので、それに対応する、より良好でコンパクトな絶縁材及び絶縁系が必要とされている。
【0004】
表面へ容易に接着させることが可能な強靱で可撓性のある電気絶縁材料であるという実用的な利点を有しているので、各種のエポキシ樹脂材料が、電気絶縁系において広く使用されてきた。従来から使用されてきた、マイカフレーク及びガラス繊維等の、電気絶縁材料を表面被覆して、このエポキシ樹脂を用いて接着させると、機械的強度、耐薬品性及び電気絶縁性の向上した複合体を製造することができる。多くの場合、エポキシ樹脂が従来から使用されてきたワニスに取って代わってきたが、それでもワニスは、ある種の高電圧電気装置においては使用され続けている。
【0005】
良好な電気絶縁材は、その本来的な性質から、良好な断熱材ともなる傾向があるが、これは望ましいことではない。断熱挙動は、特に空冷式の電気装置及び構成部品の場合には、その構成部品、更には、その装置全体の効率及び耐久性を低下させる。最大の電気絶縁性と最小の断熱特性とを有する電気絶縁系を製造することができれば望ましい。
【0006】
電気絶縁材料はテープの形態で見られることが多いが、それ自体、種々の層を有している。このタイプのテープに共通しているのは、繊維層との界面に接着された紙層であり、これら2つの層は、樹脂で含浸されていることが多い。一つの好ましい絶縁材料は、マイカ−テープである。マイカテープにおける改良としては、米国特許第6,103,882号明細書に教示されているような触媒化マイカテープが挙げられる。マイカ−テープは導体の周りに巻き付けることが可能で、極めて良好な電気絶縁性を与えることができる。その一例を図1に示す。ここに図示されているのは、導体14の複数の巻線を含むコイル13であり、それらは、ここで示した例においては、組み立てられてベークライト処理された(bakelized)コイルとなっている。巻線絶縁材15は、繊維質材料、例えば、ガラス、又はガラスと熱処理をしたダクロン(Dacron)と、から調製される。ベークライト処理されたコイル14の周りに複合体マイカテープ16の1層又は複数層を巻き付けることによって、コイルの基礎絶縁(ground insulation)が得られる。このような複合体テープは、例えば、ガラス繊維布又はポリエチレンテレフタレートマット若しくはフィルム等の、柔軟な裏打シート18と組み合わせた、紙又は小さいマイカフレークのフェルトであってよく、マイカ20の層は、液状樹脂バインダーによってそれに接着されている。一般的には、電圧の要求に合わせて、複合体テープ16の複数の層をコイルの周りに巻き付ける。強靱な繊維質材料、例えばガラス繊維、の外側テープ21を、コイルの周りに巻き付けてもよい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的には、マイカテープ16の多数の層をコイルのまわりに巻き付けるが、高電圧コイルの場合には、一般的に、16層以上が使用される。次いで、樹脂をそのテープ層の中に含浸させる。樹脂は、絶縁テープからは独立して、絶縁材として使用することもできる。残念ながら、断熱材の量をこのようにすると、熱の放散が複雑化するという問題が更に加わるだけのことである。必要とされていることは、従来の方法による電気絶縁よりも熱の伝導性が高い電気絶縁であって、しかし、電気絶縁性並びに機械的及び熱的な性能を始めとするその他の性能因子について妥協することのない電気絶縁である。
【0008】
従来技術に伴うその他の問題点も存在するが、それらについては本明細書を更に読めば明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述したことを念頭におけば、本発明に従った方法及び装置は、なかんずく、HTC材料間の平均距離をフォノンの平均自由行程の長さよりも短くして、高熱伝導性(HTC)含浸媒体中でのフォノンの輸送を容易とする。これによってフォノン散乱が抑制され、熱源からのフォノンの正味流れ又は流束をより大きくする。次いで、樹脂を、多層絶縁テープ等のホストマトリックス媒体中に含浸してもよい。
【0010】
高熱伝導性(HTC)有機−無機ハイブリッド材料は、分離されている(discrete)2相有機−無機複合体から、分子アロイに基づく有機−無機連続相材料から、及びデンドリマーコア−シェル構造の内部で有機−無機界面が分離されていない(non−discrete)、分離されている有機−デンドリマー複合体から形成させることができる。連続相材料構造体は、その構造要素の長さ方向のスケールを、熱輸送を担っているフォノンの分布よりも、短く又は同程度にすることによって、フォノン輸送が促進され、且つ、フォノン散乱が抑制されるように形成させてもよいし、及び/又は例えば、マトリックスの総体的な構造の次数を高めるか、及び/又は複合体の内部における界面のフォノン散乱を効果的に除去するか又は減少させることによって、フォノンの散乱中心の数が減少されるように形成させてもよい。連続の有機−無機ハイブリッドは、直鎖状又は架橋されたポリマー(熱可塑性プラスチックを含む)及び熱硬化性樹脂の中に、無機、有機又は有機−無機ハイブリッドナノ粒子を組み入れることにより形成させることができるが、そこではナノ粒子の寸法が、ポリマー又はネットワークのセグメントの長さ(典型的には1〜50nm又はそれ以上)のオーダー又はそれ以下である。これら種々のタイプのナノ粒子は、緊密な共有結合的に結合されたハイブリッド有機−無機均質材料を形成させるための反応性の表面を有していてもよい。同様な要請は無機−有機デンドリマーの場合にも存在して、それらを、相互に反応させるか、又はマトリックスポリマー若しくは反応性樹脂と反応させて、連続材料を形成することができる。分離及び非分離の有機−無機ハイブリッドの場合には、いずれも、ゾル−ゲル化学反応を使用して、連続的分子アロイを形成させることができる。このようにして得られる材料は、従来からの電気絶縁材料よりも高い熱伝導性を示し、従来からのマイカ−ガラステープ構成物の中の接着樹脂として使用してもよく、未反応の真空圧含浸樹脂として、或いは単独の材料として使用したときに、回転式及び静電式発電プラントにおいて、そして高電圧(約5kV)及び低電圧(約5kV以下)両方の電気装置、構成部品及び製品においても、電気絶縁的応用を満足させる。
【0011】
上述の物理的特性及び性能特性を有する品質設計された電気絶縁材料を、有機ホスト材料の存在下におけるナノ〜マイクロサイズの無機充填剤の使用により、形成させるためには、有機ホストと親密な界面を形成することができる粒子表面の生成が必要である。このことは、充填剤の表面の上に化学基をグラフトさせて、その表面をホストマトリックスに対して化学的及び物理的に親和性にすることによって達成させてもよいし、或いは、粒子表面が有機ホストと反応する化学的反応性の官能基を含んでいて、粒子とホストとの間に共有結合が形成されてもよい。有機ホスト材料の存在下にナノ〜マイクロサイズの無機充填剤を使用するためには、バルク誘電特性及び電気特性並びに熱伝導性に加えて、所定の表面化学的性質を有する粒子の製造が必要である。ほとんどの無機材料では、形状及びサイズのような構造的特性と、様々の電気絶縁用途に適合させたり又は特性と性能との適切なバランスを有する複合体を得たりするための特性とを、独立して選択することは不可能である。このため、適切なバルク特性と形状及びサイズの特性とを有する粒子を選択し、次いで、その表面及び界面特性並びにその他の特性を変性して、電気絶縁用途において必要とされる複合体としての特性及び性能を更に制御できるようにする。また、粒子の適切な表面被覆をしてもよく、この表面被覆は、金属系及び非金属系の無機酸化物、窒化物、炭化物及び混合系、並びに電気絶縁系においてホスト材料として機能する適切な有機マトリックスと反応することが可能な反応性表面基を有する有機被覆であってもよい。そうして得られる、未反応の又は部分的に反応した形態のハイブリッド材料及び複合体は、マイカ−ガラステープ構造体における接着樹脂として、従来からのマイカテープ構造体のための未反応の真空圧含浸樹脂として、その他のガラス繊維、炭素繊維並びに積層タイプ複合体及び織物複合体において、並びに回転式及び静電式発電プラントにおいて、そして高電圧と低電圧との両方の電気装置、構成部品及び製品において、電気絶縁的用途を満足させるための単独の材料として使用することができる。
【0012】
本発明では、グラフト化HTC粒子を使用することに加えて、最終的な充填樹脂の中にグラフト化HTC粒子及び非グラフト化HTC粒子の混合物を使用する。粒子のグラフト化クラス及び非グラフト化クラスは、それぞれ、対象とする全範囲のHTC粒子を含むことができるが、ある種の用途では、異なるクラスの異なる粒子があるのが好ましいこともあり得る。いずれのクラスも、種々の効果を得るために更なる表面処理をすることもできる。
【0013】
一つの用途においては、本発明のグラフト化及び非グラフト化混合物は、ホスト樹脂マトリックスにグラフトされた第一のクラスのグラフト化高熱伝導性粒子を有するホスト樹脂マトリックスと、更には、ホスト樹脂マトリックスには直接グラフトされていない第二のクラスの高熱伝導性非グラフト化粒子とを含む、高熱伝導性樹脂を与える。第一のクラス及び第二のクラスは、高熱伝導性樹脂の約2〜60体積%を占める。第一のクラスのグラフト化粒子及び第二のクラスの非グラフト化粒子は、長さが1〜1,000nmで3〜100の間のアスペクト比を有する、高熱伝導性充填剤である。
【0014】
具体的な実施態様においては、第一のクラス及び第二のクラスは、約25〜40%を占める。第二のクラスの非グラフト化粒子を表面処理して、そのクラスの他の粒子と反応しないようにすることができる。更に、第二のクラスの非グラフト化粒子を表面処理して、そのクラスの他の粒子と反応して、ホスト樹脂マトリックスの中で凝集体が形成されるようにすることもできる。更に、第一のクラスのグラフト化粒子を表面処理して、第二のクラスの非グラフト化粒子と反応させることもできる。
【0015】
他の具体的な実施態様においては、第一のクラスのグラフト化粒子は、第二のクラスの非グラフト化粒子よりも10倍以上大きい平均長さ分布を、有している。ホスト樹脂ネットワークとしては、エポキシ、ポリイミド−エポキシ、液晶エポキシ、シアネート−エステル、ポリブタジエン、及びこれらの適切な混合物が挙げられる。高熱伝導性樹脂を複合体テープ中に含浸させ、高熱伝導性樹脂を複合体テープ中に含浸させた後に、第二のクラスの非グラフト化粒子を高熱伝導性樹脂中に組み入れることができる。
【0016】
更に他の実施態様においては、温度上昇及び紫外線照射の内の少なくとも一つを適用することにより、非グラフト化物がホスト樹脂にグラフト化される。熱伝導性粒子は、酸化物、窒化物及び炭化物の内の少なくとも一つである。
【0017】
また別な用途においては、本発明のグラフト化及び非グラフト化混合物は、ホスト樹脂マトリックス、ホスト樹脂マトリックスにグラフトされた第一のクラスの高熱伝導性グラフト化粒子、及びホスト樹脂マトリックスにグラフトされていない第二のクラスの高熱伝導性非グラフト化粒子を含んでなる、高熱伝導性樹脂を与える。第一のクラスの粒子は、幾分かの熱伝導性のメリットを与えるものであってもよいが、必ずしも、本明細書に記載されているようなHTCタイプの粒子である必要はない。第一のクラス及び第二のクラスは、高熱伝導性樹脂の約4〜60体積%を占める。第一のクラスのグラフト化粒子及び第二のクラスの非グラフト化粒子は、高熱伝導性充填剤であって、5〜1,000nmの長さと3〜100の間のアスペクト比とを有し、各粒子のクラスは、高熱伝導性樹脂の少なくとも1体積%を占める。いくつかのケースにおいては、第一のクラスのグラフト化粒子は、第二のクラスの非グラフト化粒子よりも高い機械的強度を有している。
【0018】
一つの具体的な実施態様においては、樹脂が、紙若しくはガラス繊維マトリックス又はプリント配線基板のような、多孔質媒体中に含浸される。第一のクラスのグラフト化粒子及び第二のクラスの非グラフト化粒子の比率は、多孔質媒体が第二のクラスの非グラフト化粒子に対して有している、より大きな濾過効果のゆえに、多孔質媒体の異なる部分では異なる可能性がある。ある場合には、第一のクラスのグラフト化粒子及び第二のクラスの非グラフト化粒子の比率は、それらの粒子の元々の配置ゆえに、多孔質媒体の異なる部分では異なっている。
【0019】
更にまた別な用途においては、本発明のグラフト化及び非グラフト化混合物が、ホスト樹脂マトリックスと、ホスト樹脂マトリックスにグラフトされた第一のクラスのグラフト化粒子(このグラフト化粒子が、ホスト樹脂マトリックスの局所的な強度を上げる)と、更に、ホスト樹脂マトリックスにグラフトされていない第二のクラスの高熱伝導性非グラフト化粒子と、を含んでなる高熱伝導性樹脂を提供する。第一のクラス及び第二のクラスは、高熱伝導性樹脂の約2〜60体積%を占め、第二のクラスの非グラフト化粒子は、高熱伝導性充填剤であって、長さが1〜1,000nmで、3〜100の間のアスペクト比を有している。
【0020】
具体的な実施態様においては、第二のクラスの非グラフト化粒子は、第一のクラスのグラフト化粒子の2〜10倍の平均長さを有している。この実施態様の適用には、熱伝導性を増加させる、より長い非グラフト化粒子が含まれるが、それに対して、より短いグラフト化粒子は、樹脂の局所的な強度を増大させる。いくつかの実施態様においては、高熱伝導性粒子ではない第三のクラスの非グラフト化粒子が、ホスト樹脂マトリックスの中に存在する。
【0021】
他の具体的な実施態様においては、第一のクラスのグラフト化粒子の少なくとも一部が、長さが1〜1,000nmで3〜100の間のアスペクト比を有する、高熱伝導性充填剤である。他の実施態様においては、グラフト化粒子がホスト樹脂マトリックスの絶縁耐力を向上させる。
【0022】
本発明のその他の実施態様も存在するが、それらは、詳細な説明を更に読めば明らかになるであろう。
【0023】
添付の図面を参照して、例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
高熱伝導性(HTC)複合体は、充填剤と組み合わせた樹脂系ホストネットワークを含んでなる、2相の有機−無機ハイブリッド材料である。有機−無機ハイブリッド材料は、2相の有機−無機複合体から、分子アロイに基づく有機−無機連続相材料から、及び、その中の有機−無機界面がデンドリマーのコア−シェル構造とは非分離であるような、分離した有機−デンドリマー複合体から形成されている。構造要素の長さ方向のスケールが、熱輸送を担っているフォノンの分布よりも短いか又は同程度になるようにすることによって、フォノン輸送が促進され、フォノン散乱が抑制される。
【0025】
2相の有機−無機ハイブリッドは、無機のマイクロ、メソ又はナノ−粒子を、直鎖状又は架橋されたポリマー(熱可塑性プラスチック)及び熱硬化性樹脂に導入することによって形成してもよい。ホストネットワークには、ポリマー及び他のタイプの樹脂が含まれるが、これらの定義については後述する。一般的には、ホストネットワークとして機能する樹脂は、粒子との親和性があり、必要に応じて、充填剤の表面に導入された基と反応することが可能なものであれば、どのような樹脂であってもよい。ナノ粒子の寸法は、典型的には、ポリマーネットワークのセグメントの長さのオーダー又はそれ以下である。例えば1〜30nmである。無機粒子には反応性表面が含まれていて、共有結合的に結合されたハイブリッド有機−無機均質材料を形成する。これらの粒子は、酸化物、窒化物、炭化物、並びに、酸化物、窒化物及び炭化物の化学量論的及び非化学量論的ハイブリッド混合物であってよいが、その更なる例は後ほど挙げる。
【0026】
無機粒子に表面処理をして、ホストネットワークとの反応に関与できる各種の表面官能基を導入する。そのような表面官能基としては、ヒドロキシル、カルボキシル、アミン、エポキシド、シラン及びビニルの各基が挙げられるが、これらに限定されない。これらの基は、湿式化学法、非平衡プラズマ法、化学的及び物理的蒸着法、スパッターイオンプレーティング法並びに電子及びイオンビーム蒸発法を使用して適用すればよい。
【0027】
分離した有機−デンドリマー複合体は、互いに反応させてもよいし、樹脂マトリックスと反応させて単一の材料を形成させてもよい。デンドリマーの表面には、先に述べたのと同様の反応性基を含ませることが可能で、これによって、デンドリマー−デンドリマー又はデンドリマー−有機マトリックスの反応が起きるであろう。デンドリマーは、無機コアと、対象としている反応性基を含む有機シェルとを、有するであろう。無機シェルを含む有機コアを得ることも可能であり、このものも、また、一般的なゾル−ゲル化学反応に関連するものと同様な無機反応に関与することが可能な、ヒドロキシル又はシラン基等の反応性基を含む。
【0028】
非分離の有機−無機ハイブリッドの使用に関しては、ゾル−ゲル化学反応を使用して、連続な分子アロイを形成させることができる。水性及び非水性反応に関連するゲル−ゾル化学反応を使用することができる。有機−無機ハイブリッドを形成させるためのその他の化合物には、ポリヘドラルオリゴマー性シルセスキオキサン(POSS)、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)、及びテトラブチルオルトチタネート(TBOT)、並びに関連するモノマー性及びオリゴマー性ハイブリッド化合物が挙げられるが、これらは有機官能化無機化合物である。POSSの例においては、R−SiO1.5の構成ブロックの回りに分子が集合させられる。ここで、基Rは、他の有機化合物及びホストネットワークと親和性があるか、及び/又は反応するように選択される。ベースとなる化合物を組み合わせて、ポリマーセグメント及びコイル構造体のサイズと同程度のより大きな分子を得てもよい。POSSを使用して、有機−無機ハイブリッドを創り出してもよいし、既存のポリマー及びネットワークにグラフトさせて、熱伝導性を始めとする特性を制御してもよい。これらの材料は、アルドリッチ ケミカル カンパニー(Aldrich Chemical Co.)(商標)、ハイブリッド プラスチックス Inc(Hybrid Plastics Inc)(商標)、及びゲレスト Inc.(Gelest Inc.)(商標)等の供給業者から得ることができる。
【0029】
先にも述べたように、フォノン散乱を抑制するためには、材料の構造的形態を制御することが重要である。このことは更に、そのマトリックスが、高熱伝導性を示すこと、この効果を維持するに十分な粒子のサイズ及び樹脂との界面特性を有すること、並びにフォノン散乱を抑制するために必要とされる長さ方向のスケールを満足することが知られている、ナノ粒子を使用することによって更に促進される。長短両周期を有する反応デンドリマー格子並びに液晶エポキシ及びポリブタジエンのようなホスト樹脂から形成されるはしご構造又は秩序のあるネットワーク構造を始めとする、より秩序の高い構造体を選択すれば、それもまた、このことに対して有利に働くであろう。
【0030】
充填樹脂は、回路基板及び絶縁テープのような各種の産業において接着樹脂として使用することができる。一つの具体的な絶縁テープの種類は、発電機の分野で使用されるマイカ−ガラステープである。このタイプのテープにおいて、樹脂は、当技術分野において知られているように、接着樹脂として又は含浸樹脂として使用される。充填樹脂は更に、テープを用いない発電機分野において、回転及び静止電気装置構成部品における電気絶縁としての適用を満たすために使用してもよい。
【0031】
テープは、電気的な対象物に適用する前又は後に、樹脂で含浸してよい。樹脂含浸法としては、VPI法及びGVPI法が挙げられるが、これらについては、以下に説明する。VPI法においては、テープを一旦重ね合わせて含浸し、それを圧縮する。位置を合わせてから、圧縮されたテープの中の樹脂を硬化させると、HTC材料の位置が効果的に固定される。いくつかの実施態様においては、当業者には自明のことであるが、樹脂を2段法で硬化させる。しかしながら、充填されたHTC材料を最適に圧縮するには、圧縮工程中、完全に未硬化の樹脂であるのが好ましい。
【0032】
図2に、本発明の一つの実施態様を示す。ここに示されているのは、樹脂マトリックス32の中に充填されたHTC材料30である。マトリックスを通って移動するフォノン34は平均経路長nを有しているが、これが、そのフォノンの平均自由行程である。この経路長は、まさに樹脂マトリックスの組成に従って変化し得るが、エポキシ樹脂のような樹脂の場合には、一般的には2〜100nm、より典型的には5〜50nmである。従って、充填されたHTC材料間の平均距離は、平均してこの距離よりも短いのがよい。HTC材料間の距離は、テープの厚み方向と横方向とで変化し得るが、一般的には、厚み方向の間隔を最適化することが必要である、ということに留意されたい。
【0033】
フォノン34が樹脂32の中を移動する際には、それらが、埋め込まれたHTC材料30に沿って移動する傾向がある。これによって、局所的なフォノン流束が増加することになるが、それは、原料のHTC材料が10〜1,000W/mKの熱伝導性を有するのに対して、樹脂のそれが約0.1〜0.5W/mKであるからである。充填されたHTC材料に沿ってフォノンが移動する際に、材料間の距離がnよりも短ければ、フォノン36は次のHTC材料に移るので、その結果、HTC材料が相互接続ネットワークを形成する。図2は、理想的な経路を示している。実際には、樹脂とHTC材料との間をフォノンが通過する際にフォノン散乱が存在するであろうが、材料間の距離が短い程、そしてHTC材料と樹脂との間でのフォノンの伝播特性のマッチングが良好である程、散乱は少なくなる。
【0034】
樹脂中に充填されるHTC材料の量は、実際には、図2に見られるように極めて少なく、例えば約10%である。従って、充填されたHTC材料の間の平均距離、即ち、長さ方向のスケールは、nよりも僅かに大きくてもよいが、但し、それでも大部分はnより小さく、そのために、本発明の実施態様の範囲内に入るであろう。具体的な実施態様においては、隣のHTC材料からの距離がnよりも小さい材料の割合は、50%を超え、特別な実施態様では75%を超える。具体的な実施態様においては、HTC材料の平均長さがnよりも大きく、このことがフォノン輸送に更に役立つ。
【0035】
nが小さい程、充填されたHTC材料の濃度を高くすることが必要であり、それとは逆に、粒径が大きい程、必要なHTC材料が少なくなる。具体的な実施態様では、樹脂及び充填剤の合計体積に基づいて5〜60%の、充填されたHTC材料を使用し、より具体的な実施態様では25〜40%で使用する。樹脂をテープに含浸させる場合、それは、テープ繊維と基材との間の空間に充填されるであろう。しかしながら、この時点では、テープ内部のHTC分布は、多くの場合、最適化されておらず、HTC材料の間の平均距離がnを超えることさえあり得る。本発明の実施では、樹脂含浸されたテープを圧縮して、充填されたHTC材料の間の距離を短縮させる。
【0036】
充填樹脂をテープ中に含浸させる場合、特に樹脂が30%以上の充填剤を有すると、テープの繊維又は粒子が、HTC材料の幾分かをブロックするように働く。しかしながら、テープを圧縮することによって、その逆の現象が起こり、全体構造の内の可動性でない部分にHTC材料そのものが付着するために、より多くの充填剤がテープの内部に捕捉される。HTC充填剤が相互にピン留めされた状態にさえなる。記載してきた実施態様においては、充填剤が樹脂マトリックスとは反応しないものとしてきたが、いくつかの実施態様においては、充填剤が樹脂と共有結合を形成し、より均質なマトリックスを形成する。均質なマトリックスにおいては、充填剤に結合された樹脂分子は、結合されていない樹脂分子よりは、圧縮中に、より良好に保持されるであろう。
【0037】
樹脂は複数の産業で使用され、多数の用途を有している。樹脂の性質が異なれば、その用途だけではなく、それを用いた製品の品質及び効率にも影響する。例えば、樹脂を電気絶縁用途に使用する場合、絶縁耐力及び電圧耐久性の特性が高いことが必要とされ、それと同様に、熱安定性及び熱耐久性も要求される。しかしながら、樹脂は、多くの場合、それらの目標とは対照的に、通常低い熱伝導性を有している。本発明では、樹脂の各種の物理的特性と樹脂が導入された絶縁系とのバランスをとって、十分な絶縁耐力、電圧耐久性、熱安定性及び熱耐久性、機械的強度、粘弾性応答等の重要な物理的特性を十分に維持し、更には、増強しながら、従来からの電気絶縁材料よりも高い熱伝導性を有する系を、創り出す。熱的、振動的及び機械的サイクル効果によって引き起こされる応力によって生じる剥離及びミクロボイド形成は、抑制又は回避される。本明細書で使用するとき、「樹脂」という用語は、全ての樹脂及びエポキシ樹脂を指していて、変性エポキシ、ポリエステル、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエステルイミド、ポリエーテルイミド、ビスマレイミド、シリコーン、ポリシロキサン、ポリブタジエン、シアネートエステル、炭化水素等、並びにこれらの樹脂の均質なブレンド物を含む。この樹脂の定義には、添加剤、例えば、架橋剤、促進剤並びにその他の触媒及び加工助剤が含まれる。液晶熱硬化性樹脂(LCT)及び1,2−ビニルポリブタジエンのような、ある種の樹脂は、低分子量特性と良好な架橋性とを合わせ持っている。樹脂は、ヘテロ原子を有し又は有しない炭化水素のような有機マトリックス、シリケート及び/又はアルミノシリケート成分を含む無機マトリックス、又は有機及び無機のマトリックスの混合物であってもよい。有機マトリックスの例としては、ポリマー又は反応性熱硬化性樹脂が挙げられるが、それらは必要に応じて、無機粒子の表面上に導入された反応性基と反応してもよい。架橋剤をこれらの樹脂に添加することによって、最終的に架橋されたネットワークの構造及びセグメントの長さ分布を制御することも可能で、それによって熱伝導性に関してプラスの効果を与えることができる。熱伝導性の向上は、触媒、促進剤及びその他の加工助剤のような他の樹脂添加剤による変性によっても得ることができる。液晶熱硬化性樹脂(LCT)及び1,2−ビニルポリブタジエンのような、ある種の樹脂は、低分子量的特性と良好な架橋性を合わせ持っている。このタイプの樹脂は、熱をよりよく伝導する傾向があるが、それは、樹脂の基礎構造体のミクロ及びマクロな秩序が向上されていて、それによってフォノンの輸送が改良された結果として熱の伝導が向上するからである。フォノン輸送が良好である程、熱伝達も良好となる。
【0038】
本発明の高熱伝導性充填剤を樹脂と混合すると、これらは連続生成物を形成し、そこには樹脂と充填剤との間の界面が存在しない。ある場合には、充填剤と樹脂との間に共有結合が形成される。しかしながら、連続というのは、幾分かは主観的なものであって、観察者が使用する物差しに依存する。マクロスケールでは、その生成物は連続であるが、ナノスケールでは、充填剤と樹脂ネットワークとの間には明瞭な相が依然として存在しうる。従って、樹脂と混合している高熱伝導性充填剤に言及する場合、マクロスケールではそれらが連続の有機−無機複合体を形成しているが、その一方、マイクロスケールでは、その同一の混合物をハイブリッドと呼ぶことができる
【0039】
先にも述べたように、充填樹脂は、テープを用いない発電機分野において、回転及び静止電気装置構成部品における電気絶縁としての適用を満たすために使用してもよい。発電機において高熱伝導性材料は、各種の使用がなされる。ステーターコイルの中には、設計を最適化させるためには、高熱伝導性でなければならない接地壁(groundwall)以外の構成部品材料が存在する。同様に、コイルに関わるその他の構成部品も最大限の熱除去をしなければならない。ステーターの設計の改良には、ローターの設計にも改良を加えることが必要とされ、それによって、発電機の効率を最大化させることが可能となる。
【0040】
種々の無機及び有機成分の間の界面が化学的及び物理的に密接な関係にあって、異なった相の間で高度の物理的連続性が維持され、機械的に強度があり破壊されにくい界面が得られるということが重要である。このことは、これまで説明してきた、高電圧及び低電圧両方の用途のための電気絶縁系のような、電気絶縁での実施態様の実施の際には、特に重要である。界面の完全性を向上させることによって、電力定格の上昇、高電圧ストレス、絶縁厚みの減少、高熱伝達等が可能となる。
【0041】
充填剤の表面処理を行なうと、充填剤の無機表面を有機樹脂マトリックスと相溶するようにできる、種々の表面官能基が導入される。表面官能基を導入するための典型的な表面処理は、表面を物理的に処理して(例えば、金属酸化物をシラン溶液で処理して)反応性基を与える方法である。HTC充填剤のような粒子の表面とシラン層の表面との間の界面は、極性引力及び水素結合のような物理的結合のみによって、維持されるであろう。シラン表面は、それが混合されている樹脂と反応することも可能ではあろうが、粒子表面とシランとの間には真の化学結合が形成されない、即ち、実質的に非反応性のカップリングである。水和アルミナのように、基材の表面に、シランと反応する能力があるOH基が豊富であるとしても、顕著な量の化学結合が形成されそうにはない。本明細書で説明するHTC充填剤の場合には、実質的に化学結合の生成はない。
【0042】
HTC材料(粒子)表面に化学的に付着した官能基を得るために、本発明では反応性グラフト化を使用する。反応性グラフト化は、化学反応のような反応プロセスによって、官能基をナノ粒子の表面に化学的に付着させたときに、起きる。その他のプロセスとしては、プラズマ及び放射線(例えば、UV、γ線、電子線等)により推進されるものが挙げられるが、それらは、適切な環境を必要とし、多段のプロセスで実施することができる。この方法においては、ナノ粒子の表面と付着した官能基(例えば、OH、COOH、NH2、及びビニル)との間に強い化学結合が生成する、即ち、反応性カップリングである。これは、反応性官能基グラフト化の定義となるものであって、即ち、粒子の表面上への官能基の直接的な化学的付着である。これらの反応性グラフト化の手順は、従来技術の物理的結合に比較すると高エネルギーであって、例えば、非平衡プラズマ法、化学的蒸着法及び物理的蒸着法、スパッターイオンプレーティング法、レーザービーム法、電子及びイオンビーム蒸発法を使用して、HTC材料のより不活性な表面を化学的に表面変性して、化学的に付着した官能性化学種(例えば、OH、COOH、NH2、ビニル)を作り、次いでそれが、樹脂と反応して、連続的HTCマトリックスを形成する。
【0043】
この具体例としては、窒化ホウ素(BN)ナノ粒子を水蒸気の存在下に電子ビームで処理して、反応性のN−OH基を作る方法が挙げられ、次いで、これをLCTエポキシ樹脂と反応させることができる。反応性基の窒素は、窒化ホウ素粒子に直接由来するものであって、粒子に結合されたままになっている。従って、その化学式は次のようになっている:
B−N−OH
ここで、ホウ素は大きなナノ粒子の一部である。次いで、ヒドロキシル(OH)基が、樹脂と直接反応するか、又は更に他の中間的な官能基と反応することができる。また別な例は、水素リッチな蒸気中で窒化アルミニウムナノ粒子の表面を変性して、表面NH2反応性基を作るものであり、次いで、これを、LCTエポキシ又はポリイミド樹脂と反応させることができる。更にまた別な具体例では、炭化ケイ素ナノ粒子にプラズマ重合手順を使用する方法であって、表面グラフト化ビニル基を作り、次いで、これをビニルモノマー又はポリブタジエン樹脂と反応させることができる。
【0044】
一つの別な側面においては、本発明には、HTC材料と表面官能基との間の選択的な反応という湿式化学的技術が関与する、エネルギー消費のより低い反応性グラフト化手順が含まれるが、この方法では、グラフトされたナノサイズのHTC材料を含むオリゴマーを有する均質なLCT−エポキシポリマーを製造する。
【0045】
これらの別な態様の一つにおいては、本発明は、グラフトされたナノサイズのHTC材料(HTCオリゴマー)を含むオリゴマーを有する均質なLCT−エポキシポリマーを製造する方法に関する。このポリマーの絶縁耐力は、少なくとも1.2kV/milである。このポリマーを製造する工程には、少なくとも1種の官能化有機基を、ナノサイズのHTC材料の上にグラフトさせて、HTCオリゴマーを製造する工程が含まれる。次いで、このHTCオリゴマーを、均質な分散体、及びHTCオリゴマーとLCT−エポキシ樹脂(1種又は複数)との間の実質的に完全な共反応性が得られるのに十分な条件下で、少なくとも1種のLCT−エポキシ樹脂と反応させる。この反応で中間体樹脂様混合物が形成されるので、次いで、これを硬化させて、HTCオリゴマーを有する均質なLCT−エポキシポリマーを製造する。
【0046】
本発明のこの側面においては、HTCオリゴマー量のLCT−エポキシ樹脂量に対する比率は、重量で(1:4)から(3:1)の間である。湿式化学的グラフト技術のより具体的な実施態様においては、HTCオリゴマーを含む均質なLCT−エポキシポリマー中のHTCオリゴマーの比率は、20〜50重量%である。
【0047】
LCT−エポキシ樹脂を調製するためには種々の方法が存在するが、一つの具体的な方法では、LCT−エポキシ樹脂が透明になるまで、サンプルを約60℃に加温する。同様にして、LCT−エポキシ樹脂とHTCオリゴマーとを混合するときも、一つの方法では、透明になるまで、約60℃に加温する。ナノサイズのHTC材料は、アルミナ、シリカ及び金属酸化物の内の1種又は複数とすることができる。湿式化学的グラフト技術のより具体的な実施態様においては、金属酸化物は酸化マグネシウムである。当業者には、その他の適切なHTC材料も明らかであろう。
【0048】
湿式化学的グラフト技術のまた別な実施態様においては、ナノサイズのHTC材料の上への(1種又は複数の)官能化有機基のグラフトを、シラングラフト法又はフリーラジカルグラフト法のいずれかで実施する。より具体的な湿式化学的グラフト技術の実施態様においては、シラングラフト法には、4−トリメトキシシリルテトラヒドロフタル酸無水物(TSPA)及び3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(MOTPS)から選択される反応剤が関与する。湿式化学的グラフト技術のまた別な具体的な実施態様においては、フリーラジカルグラフト法には、反応剤の硝酸セリウムアンモニウムが関与する。
【0049】
湿式化学的グラフト技術のまた別な実施態様においては、その方法は、更に、少なくとも1種の脱水剤を、(1種又は複数の)LCT−エポキシ樹脂及びHTCオリゴマーのいずれか又は両方に、混合する工程を含むが、ここでは、HTCオリゴマーを含む均質なLCT−エポキシポリマーは、HTCオリゴマーを含む均質なLCT−エポキシ無水物ポリマーである。
【0050】
湿式化学的グラフト技術の一つの具体的な実施態様においては、脱水剤は、1−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物及び1−メチルテトラヒドロフタル酸無水物からなる群より選択される。湿式化学的グラフト技術のまた別な具体的な実施態様においては、脱水剤は、HTCオリゴマーを含む均質なLCT−エポキシ無水物ポリマーの約20〜40重量%である。湿式化学的グラフト技術のまた別な実施態様においては、その方法は、更に、少なくとも1種のビニル剤を、(1種又は複数の)LCT−エポキシ樹脂及びHTCオリゴマーのいずれか又は両方に、混合する工程を含むが、ここでは、HTCオリゴマーを含む均質なLCT−エポキシポリマーは、HTCオリゴマーを含む均質なLCT−エポキシビニルポリマーである。
【0051】
また別な側面においては、本発明は、少なくとも1種の電気絶縁体の上に塗布される、少なくとも1.2kV/milの絶縁耐力を有する、HTCオリゴマーを含む均質なLCT−エポキシポリマーを製造するための方法を提供する。この方法には、ナノサイズのHTC材料の上に少なくとも1種の官能化有機基をグラフトさせてHTCオリゴマーを製造する工程が含まれる。次いで、HTCオリゴマーを少なくとも1種のLCT−エポキシ樹脂と反応させると、中間体の樹脂様の混合物が形成される。次いで、均一な分散体が形成され、且つ、HTCオリゴマーと(1種又は複数の)LCT−エポキシ樹脂との間の実質的に完全な共反応性が得られるのに十分な条件下で、混合物を加温する。次いで、混合物を、電気絶縁体に含浸させ、硬化させて、HTCオリゴマーを含む均質なLCT−エポキシポリマーを製造する。この側面においては、HTCオリゴマー量の少なくとも1種のLCT−エポキシ樹脂の量に対する比率は、重量で(1:4)から(3:1)の間である。
【0052】
湿式化学的グラフト技術の一つの実施態様においては、その方法は、更に、少なくとも1種の脱水剤を、(1種又は複数の)LCT−エポキシ樹脂及びHTCオリゴマーの一方又は両方に、混合する工程を含むが、ここでは、HTCオリゴマーを含む均質なLCT−エポキシポリマーは、HTCオリゴマーを含む均質なLCT−エポキシ無水物ポリマーである。湿式化学的グラフト技術のまた別な実施態様においては、その方法には更に、少なくとも1種のビニル剤を少なくとも1種のLCT−エポキシ樹脂(1種又は複数の)及びHTCオリゴマーの一方又は両方に混合する工程が含まれるが、ここでは、HTCオリゴマーを含む均質なLCT−エポキシポリマーは、HTCオリゴマーを含む均質なLCT−エポキシビニルポリマーである。
【0053】
また別な側面においては、本発明は、HTCオリゴマーを含む均質なLCT−エポキシポリマーを提供する。これに含まれるのは、それにグラフトされた少なくとも1種のナノサイズのHTC材料を含む少なくとも1種のHTCオリゴマー基礎構造体、及び少なくとも1種のLCT−エポキシ基礎構造体であって、ここでは、HTCオリゴマー基礎構造体は、そのLCT−エポキシ基礎構造体に有機的に結合されている。25℃の環境下において、横方向の熱伝導性は少なくとも0.50W/mKであり、厚み方向では少なくとも0.99W/mKである。HTCオリゴマーを含む均質なLCT−エポキシポリマーは、少なくとも1.2kV/milの絶縁耐力を有し、粒子の濡れ及びマイクロボイドの形成が実質的に無い。更に、HTCオリゴマーを含む均質なLCT−エポキシポリマーの約20〜75重量%が、HTCオリゴマー基礎構造体である。
【0054】
HTCオリゴマーを含む均質なLCT−エポキシポリマー、及び、HTCオリゴマーを含む均質なLCT−エポキシ無水物/ビニルポリマーのいずれも、マイカ/ガラス絶縁テープのような絶縁材料上に、コーティングとして作成することができる。本明細書で使用するとき、「HTCオリゴマー」とは、本発明による、グラフトされたナノサイズの高熱伝導性(HTC)材料を含む各種のオリゴマーを指している。
【0055】
LCT−エポキシ樹脂と反応させるための、特定のタイプのHTCオリゴマー又はHTCオリゴマーを合成するための特定の方法に限定する意図は全くないが、使用する具体的なナノサイズのHTC材料は、アルミナ、シリカ、並びに、酸化マグネシウム及び酸化亜鉛を始めとする金属酸化物であってよい。更に、これらの材料は、種々の異なる方法で処理して、各種のHTCオリゴマーに更なる変化を与えてもよい。その例としては、次の基本構造を有する金属酸化物(又はアルミナ若しくはシリカ)HTCオリゴマーが挙げられるが、ここで、XはHTC材料を表し、Rは有機官能基を表す。
【0056】
【化1】

【0057】
先に述べたように、HTC材料を、種々の方法によってポリマー構造に化学的にグラフトさせて、可能な多数のHTCオリゴマーを製造してもよい。その一つの具体的な方法は、フリーラジカルグラフト法であるが、そこでは、硝酸セリウムアンモニウムのような反応剤を使用してもよい。また別な具体的な例は、シラングラフト法である。この例においては、官能基を作るために使用される反応剤としては、4−トリメトキシシリルテトラヒドロフタル酸無水物(TSPA)及び3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(MOTPS)が挙げられる。これらの反応剤を使用した場合、X基で何が表されていようとも、追加のシリカ基が存在することになるであろう:
【0058】
【化2】

【0059】
従って、TSPA官能基を有するアルミナX基は次式のようになるであろう:
【0060】
【化3】

【0061】
いずれの場合においても、次いで、官能基Rを使用して、所定の物質と反応させて、所望の製品を得る。
【0062】
湿式化学的グラフト技術の一つの実施態様においては、官能基がLCT−エポキシ樹脂のエポキシ基と反応して、HTCオリゴマーを含むLCT−エポキシを生成する。しかしながら、官能基をLCT−エポキシ基と反応させる前、反応中、更には反応後に、その官能基を他の物質とも反応させて、LCT−エポキシとの反応及び/又は最終的なポリマー構造を改良することもできる。例えば、HTCオリゴマーを製造する際、又はHTCオリゴマーをLCT−エポキシ樹脂と反応させるときに、無水物基若しくはビニル基又はその両方を、LCT−エポキシ樹脂に添加してもよい。このような反応においては、最終的な反応生成物は、HTCオリゴマーを含むLCT−エポキシ無水物ポリマー、又はHTCオリゴマーを含むLCT−エポキシビニルポリマー、又は更には、HTCオリゴマーを含むLCT−エポキシ無水物−ビニルポリマーとなるであろう。無水物含有反応剤を使用してHTCオリゴマーを形成させることが可能ではあるが、本明細書において使用される「無水物」という用語は、添加された更なる無水物反応剤を有する本発明の樹脂及びポリマーを規定していることに留意されたい。
【0063】
グラフトされたナノサイズのHTC材料を含むオリゴマーを有する均質なLCT−エポキシポリマー(HTCオリゴマーを含むLCT−エポキシポリマー)の合成において使用される、好適なHTCオリゴマーを製造するための具体的な方法を以下に示す:
グラフト重合反応は、撹拌機、ガス導入チューブ及び温度計を取り付けた、丸底の三口フラスコの中で実施した。2.0gのナノサイズの酸化マグネシウムを25mLの蒸留水の中に分散させ、反応混合物中に窒素ガスをバブリングさせながら、窒素下で、グラフト化反応を行なわせた。次いで、必要量の開始剤溶液(10mLの1N硝酸中に溶解させた0.55gの硝酸セリウムアンモニウム)、次いで6.0mLのメタクリル酸メチルを加えた。40℃で3時間、反応させた。グラフト化生成物をソックスレー抽出器で抽出してポリマーを除去した。
【0064】
以下の実施例では粉体のHTCオリゴマーを使用しているが、当業者には明らかであるように、HTC材料は、溶液等の、他の形態で反応に加えてもよい。
【0065】
本発明によるHTCオリゴマーを含むLCT−エポキシポリマーの合成が、種々の方法によって同様に実施できることは、本明細書に記載の手順を読めば当業者には明らかであろう。しかしながら、具体的な方法には以下の工程が含まれる:
アルミナ−グラフト化−TSPA−オリゴマー(HTCオリゴマー)(2.5g)を、磁器製乳鉢の中で摩砕して細かい粉体とした。LCT−エポキシ樹脂RSS−1407(4.0g)を小さなガラスジャーの中で温めて60℃とした。HTCオリゴマー粉体を樹脂に添加し、混合物を約30分間撹拌して、透明な溶液を得た。硬化触媒として0.1gのナフテン酸亜鉛を加え、更に5分間混合した。次いで、液体を小さなアルミニウム皿に注ぎ、オーブン中に、150℃で4時間置いて、硬化させた。
【0066】
この反応は次式のようにまとめることができる:
【0067】
【化4】

【0068】
官能基Rを有する2個のHTCオリゴマーを、n個の繰り返しビフェノール単位を含む、ビフェノールLCT−エポキシ鎖と反応させる。その結果、架橋されたHTCオリゴマーを含むLCT−エポキシポリマーが得られる。HTCオリゴマー粒子は、LCT−エポキシ鎖に有機的に結合される。この例ではビフェノールLCT−エポキシを使用しているが、この反応は、種々のLCTを、単独で又は組み合わせて、使用して実施することができる。その他のLCTの例は、米国特許第5,904,984号明細書に見出すことができる(この特許を参考として引用し本明細書に組み入れる)。
【0069】
この例による、HTCオリゴマーを含むLCT−エポキシ無水物ポリマーの合成では、約38重量%のHTCオリゴマーを含むポリマーが得られる。その残りは、主として、LCT−エポキシであり、少量の促進剤及びその他の物質を含んでいる。これは、本発明の湿式化学的グラフト技術の一実施態様であるが、HTCオリゴマー含量は、約20〜75重量%の範囲のいずれにあってもよい。湿式化学的グラフト技術の一つの具体的な実施態様においては、30〜55重量%であるし、湿式化学的グラフト技術の更に特定の実施態様においては、35〜50重量%である。
【0070】
HTCオリゴマーを含むLCT−エポキシポリマーの合成と同様に、HTCオリゴマーを含むLCT−エポキシ−無水物ポリマーの合成の一例は、以下の工程を含む:
ビフェノールLCT−エポキシ樹脂RSS−1407(4.0g)を、ホットプレート上で60℃に加温した小さなガラスジャーの中で、1−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物(4.0g)に撹拌しながら添加した。溶液が透明になってから、アルミナ−グラフト化−TSPA−オリゴマー(HTCオリゴマー)(3.0g)を添加し、溶液を60℃で更に撹拌して、その溶液を再び透明にした。硬化促進剤として0.1gのナフテン酸亜鉛を加え、更に5分間混合した。次いで液体を小さなアルミニウム皿に注ぎ、オーブン中に、150℃で4時間置いて硬化させた。
【0071】
無水物成分を使用すると、この反応に追加の反応性が加わり、HTCオリゴマーのLCT−エポキシとの共反応性が向上する。更に、得られるポリマーがより流動性となり、絶縁性能が改良される。この例においては、無水物は、最終的なLCT−エポキシ−無水物ポリマーの約36重量%となる。これは、本発明の湿式化学的グラフト技術の一実施態様であるが、無水物の含量は、約20〜40重量%の範囲のいずこにあってもよい。この例においては、HTCオリゴマーの合計割合は、上述の例の場合よりも低い。常にそうなるということではないが、無水物を添加しても、得られるポリマー中のHTC材料の合計割合が低下しないこともあり得る。
【0072】
上述の例のいずれにおいても、HTCオリゴマーを含むLCT−エポキシポリマーは、更にビニル基を含んでいてもよい。ビニル基を含ませるための種々の方法は、当業者には明らかであろう。しかしながら、HTCオリゴマーを含むLCT−エポキシビニルポリマー又はHTCオリゴマーを含むLCT−エポキシ無水物−ビニルポリマーを製造するための具体的な方法は、上述の例に従えばよい。但し、TSPA−オリゴマーに代えてMOTPS−オリゴマーを用いて開始する。上述の例に従う中で、硬化促進剤を添加するときに、ビニル含有反応剤、例えば二官能モノマー、p−ビニルフェニルグリシジルエーテル(上述のサンプルサイズに合わせるためには、約1.0gとなるであろう)を添加する。
【0073】
反応へのビニル基の添加は、どのようなタイプの反応剤を使用するか及びどのような条件か、に依存する。例えば、いくつかのLCT−エポキシ樹脂は、スチレンを含む。従って、ビニル基によって、LCT−エポキシ樹脂とHTCオリゴマーとをより完全に反応させ、従って、より良好で、より均質なポリマーが得られる。ビニル基を加えるとすれば、最終的なポリマー中における、その凡その割合は、4〜16重量%となるであろう。
【0074】
上述の本発明の一実施態様は、高熱伝導性(HTC)材料を樹脂に添加して、樹脂の熱伝導性を改良する。いくつかの実施態様においては、熱伝導性を高くしたことの代償として、樹脂のその他の物理的性質が低下するが、他のいくつかの実施態様においては、他のいくつかの物理的性質が顕著に影響を受けることはなく、いくつかの特定の実施態様においては、それら他の性質が改良されることもあるであろう。具体的な実施態様においては、HTC材料を、秩序のある基礎構造を有する、LCTエポキシのような、樹脂に添加する。このようなタイプの樹脂に添加する場合、使用されるHTC材料の量は、秩序のある基礎構造を有していない樹脂における場合よりも、低くすることができる。
【0075】
樹脂の中に充填されるHTC材料は、樹脂と物理的及び/又は化学的に相互作用させるか又は反応させて熱伝導性を改良するために、添加しうる、種々の物質である。HTC材料は、一つの実施態様においてはデンドリマーであり、また別な実施態様においては、所定のサイズと形状とを有するナノ又はマイクロ無機充填剤であり、例えば、3〜100又はそれ以上の、より好ましくは10〜50の範囲の、アスペクト比(平均横寸法と平均縦寸法との比率)を有する、高アスペクト比の粒子である。
【0076】
一つの関連する実施態様においては、HTC材料は、所定のサイズ及び形状の分布を有していてもよい。いずれの場合においても、充填剤粒子の濃度及び相対濃度を選択して、バルク結合(bulk connecting)(又はいわゆる浸透(percolation))構造が達成されるようにするが、その構造は、高められた熱伝導性を有する構造的に安定な分離の二相複合体を達成するための体積充填の有無に拘らず、高熱伝導性を与える。また別な関連する実施態様においては、HTC材料を配向させることによって熱伝導性が向上する。更にまた別な実施態様においては、HTC材料の表面をコーティングすることによって、フォノンの輸送が促進される。これらの実施態様は、他の実施態様から切り離して実施してもよいし、関連づけて一体としてもよい。例えば、デンドリマーを、熱硬化性及び熱可塑性材料等の、他のタイプの高度構造化材料と組み合わせる。それらを樹脂マトリックス全体に均一に分散させて、HTC材料がフォノンの分散を抑制し、フォノンのためのマイクロスケールの橋かけを与えて、HTC材料間での良好な伝熱性界面が形成されるようにする。高度構造化材料が整列させられ、それによって、熱伝導性が単一の方向又は複数の方向に増加し、局在化した又はバルク異方性の電気絶縁材料のいずれかが得られる。また別な実施態様においては、HTCは、高熱伝導性を有する金属酸化物、炭化物又は窒化物及び混合系で、低熱伝導性の充填剤を表面コーティングすることによって達成されるが、高熱伝導性物質は、所定のバルク特性を有する充填剤に物理的又は化学的に付着させられ、そのような付着は、化学的蒸着及び物理的蒸着のようなプロセスによるか、更にはプラズマ処理によって、達成される。
【0077】
関連する更なる実施態様においては、HTC材料は、樹脂と、基本的に均質な混合物を形成し、その混合物には、望ましくない微視的な界面、粒子の濡れの変動及びマイクロボイドの形成が、基本的にない。これらの均質な材料が、連続相材料を形成するが、この材料は、従来からの電気絶縁材料におけるフォノン波長又はフォノン平均自由行程のいずれかより短い長さ方向のスケールでは、非分離である。いくつかの実施態様においては、樹脂構造の中に意図的に界面を設けて、誘電破壊を制御することができる。絶縁材料においては、正常な条件を与えれば、誘電破壊が起きるであろう。2相系における界面の性質及び空間的分布を制御することによって、誘電破壊強度及び長期間の電気的耐久性を向上させることができる。絶縁耐力の向上は、部分的には、高密度化、マイクロボイドの除去、及び、より高い内部的な機械的圧縮強度によって得ることができるであろう。
【0078】
本発明の樹脂は、マイカテープ並びにガラス及びポリエステルテープ等のその他の複合体構成物に含浸するために使用してもよい。電気絶縁のために典型的に使用されている標準的なマイカ(白雲母、金雲母)に加えて、黒雲母、更にはいくつかのその他の、カオリナイト、ハロイサイト、モンモリロナイト、クロライト等の、マイカ様アルミノシリケート物質もある。モンモリロナイトは、その構造の中に、ポリマー樹脂、金属カチオン及びナノ粒子を容易に挿入できる格子を有していて、高絶縁耐力の複合体を与えることができる。
【0079】
その他の実施態様においては、本発明は、絶縁が望ましい表面の上の連続被覆として使用される。ここで「連続被覆」というのは、マクロスケールの適用の記述であるということに注目されたい。連続被覆においては、テープ又はその他の基材を必要とすることなく、樹脂が材料の上に被覆を形成する。基材と共に用いた場合、HTC材料は、広範な種々の方法によって樹脂と組み合わせることができる。例えば、HTC材料は、樹脂を基材に加えるより前に添加することもできるし、或いは樹脂を基材に含浸させるより前に基材に加えることもできるし、或いは、樹脂を最初に添加し、それに続けてHTC材料を添加し、次いで樹脂を更に含浸させることできる。当業者には、その他の二次加工方法及び一次加工方法は明らかであろう。
【0080】
一つの実施態様においては、本発明は、高い熱伝導性を与え、しかもその他の重要な特性及び性能特性を維持し又は向上させる、新規な有機−無機材料を使用する。そのような材料は、その他の高電圧及び低電圧電気絶縁状況における用途を有しており、このような用途では、高熱伝導性によって、電力定格の向上、絶縁厚みの減少、よりコンパクトな電気設計及び高度の熱伝達等の点において、利点が得られる。本発明は、アルミナ、酸化マグネシウム、炭化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化亜鉛及びダイヤモンド、更にはその他の、ナノ、メソ及びマイクロ無機HTC−材料を添加して、より高い熱伝導性を得ている。これらの材料は、種々の結晶学的及び形態学的な形状を有することができ、それらは、直接的に又はキャリヤー液体として作用する溶媒を介して、マトリックス材料と共に加工することができる。HTC−材料をマイカ−テープのような各種の基材に混合してマトリックスとするのに、溶媒混合物を使用してもよい。それとは対照的に、本発明のまた別な実施態様を構成する分子ハイブリッド材料は、分離した界面を含まず、有機相中の無機相によって得られる利点を与える。これらの材料は更に、熱安定性、引張強度、曲げ強さ、及び衝撃強度、可変周波数及び温度依存性機械的モジュラス、損失、並びに一般的な粘弾性応答等のその他の物理的特性を向上させることにも寄与しうる。
【0081】
また別な実施態様においては、本発明は、有機−無機界面がデンドリマーのコア−シェル構造とは非分離である、分離の有機−デンドリマー複合体を含む。デンドリマーは、中心のコアの上に形成された、三次元のナノスケールのコア−シェル構造体群である。コアは、有機材料で構成されていてもよく無機材料で構成されていてもよい。中心のコアの上に形成させることによって、デンドリマーは、同心的シェルを順次加えていくことにより形成される。シェルは、分岐された分子群からなり、分岐されたシェルが世代と呼ばれる。典型的には、使用される世代の数は1〜10であり、世代が進むにつれて、より外側のシェル中の分子群の数は指数的に増加する。分子群の組成は、精密に合成することが可能であって、外側の群は、反応性官能基であってよい。デンドリマーは、樹脂マトリックスと、また、相互の間でも、結合することができる。従って、デンドリマーは、HTC材料として樹脂に添加してもよいし、他の実施態様においては、従来から使用されてきた樹脂に添加することなく、それ自体でマトリックスを形成してもよい。
【0082】
分子群相互間の又は樹脂との反応の能力に応じて、分子群を選択することができる。しかしながら、その他の実施態様においては、それ自体の熱伝導性向上能力に応じて、デンドリマーのコア構造、例えば、以下に説明する金属酸化物が選択される。
【0083】
一般的には、デンドリマーが大きい程、フォノン輸送要素として機能する能力が高くなる。しかしながら、それが材料に浸透する性能及びその浸透潜在能力は、サイズが大きくなると低下する可能性があり、そのため、構造と要求される性能とのバランスを得るための最適なサイズが探索される。他のHTC材料と同様に、デンドリマーには溶媒を添加して、マイカやガラステープ等の基材へのその浸透を助けることができる。多くの実施態様においては、デンドリマーは、種々の異なった分子群を有する種々の世代を有するものが使用されるであろう。
【0084】
市販されている有機デンドリマーポリマーとしては、ポリアミド−アミンデンドリマー(PAMAM)、ポリプロピレン−イミンデンドリマー(PPI)、PAMAMの内部構造と有機−ケイ素の外部構造とを有するデンドリマーであるPAMAM−OS等が挙げられる。前の二つは、アルドリッチ ケミカル(Aldrich Chemical)(商標)から、最後の一つはダウ−コーニング(Dow−Corning)(商標)から入手可能である。
【0085】
同様の要求は、相互に又はマトリックスポリマー若しくは反応性樹脂と反応して単一の材料を形成する、無機−有機デンドリマーの場合にも存在する。この場合、デンドリマーの表面には、先に特定されたものと同様の反応性基を含み、それによって、デンドリマー−デンドリマー、デンドリマー−有機、デンドリマー−ハイブリッド、及びデンドリマー−HTCマトリックスの反応のいずれかを起こさせることが可能となるであろう。このケースにおいては、デンドリマーは無機コアと有機シェルとを有するか、又はその逆であって、目的とする有機若しくは無機反応性基又は配位子のいずれかを含む。従って、無機シェルを有する有機コアを有していることもまた可能であって、更に、一般的なゾル−ゲル化学反応に関係するものと類似の無機反応に関与することが可能な、ヒドロキシル、シラノール、ビニル−シラン、エポキシ−シラン及びその他の基等の反応性基が含まれる。
【0086】
全ての場合において、構造要素の長さ方向のスケールを、熱輸送を担っているフォノン分布よりも短いか又は同程度になるようにすることによって、フォノン輸送が促進され、フォノン散乱が抑制される。HTC粒子状物質が大きい程、それ自体の本質として、フォノン輸送を実際に増大させることができるものの、HTC材料が小さい程、樹脂マトリックスの性質を変更させて、それにより、フォノン散乱の変化に影響を与えることができる。このことは、ナノ粒子を使用することによって更に促進させることができる。ナノ粒子のマトリックスは、高熱伝導性を示すこと、及び、その粒径がこの効果を維持するに十分であって、更には、フォノン散乱を抑制させるのに必要とされる長さ要件を満たしていることが知られている。長短両範囲の周期を有する反応デンドリマー格子、及び、液晶エポキシ樹脂やポリブタジエンのようなマトリックスから生成させることが可能な梯子構造又は秩序のあるネットワーク構造を始めとする、より高い秩序を有する構造を選択することも考えておく必要がある。従来技術の樹脂マトリックスは、最大で約0.15W/mKの熱伝導性を有するであろう。本発明は、0.5〜5W/mK、更にはそれよりも高い熱伝導性を有する樹脂を提供する。
【0087】
連続の有機−無機ハイブリッドは、直鎖状又は架橋されたポリマー及び熱硬化性樹脂の中に、ポリマー又はネットワークのセグメントの長さ(典型的には、1〜50nm)のオーダーであるか又はそれよりも小さい寸法の無機ナノ粒子を組み入れることによって形成させてもよい。このことが起こりうるようにするには、以下の3種の経路又は機構が含まれる(これらに限定される訳ではない):(i)側鎖のグラフト化、(ii)例えば、2本のポリマー鎖の末端間での包括的グラフト化、(iii)少なくとも2個、典型的には数個のポリマー分子を巻き込んだ架橋グラフト化。これらの無機ナノ粒子には、密接した共有結合的に結合されたハイブリッド有機−無機均質材料を形成させるための反応性の表面を含むであろう。これらのナノ粒子は、金属酸化物、金属窒化物及び金属炭化物、更にはいくつかの非金属酸化物、窒化物及び炭化物であってよい。例えば、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛及びその他の金属酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム及びその他の金属窒化物、炭化ケイ素及びその他の炭化物、天然由来又は合成由来のダイヤモンド、並びに、これらの及びその他の金属炭化物の各種の物理的形態のいずれか、並びに、酸化物、窒化物、及び炭化物の化学量論的及び非化学量論的ハイブリッド混合物である。そのより具体的な例としては、Al23、AlN、MgO、ZnO、BeO、BN、Si34、SiC、及びSiO2、並びに化学量論的組成及び非化学量論的組成の混合が挙げられる。更に、それらのナノ粒子を表面処理して、ホスト有機ポリマー又はネットワークとの反応に関与することが可能な、種々の表面官能基を導入してもよい。シリカやその他のバルク充填剤のような非HTC材料を、HTC材料で、被覆することもまた可能である。このことは、より高価なHTC材料を使用する場合の、一つの選択肢としてあり得る。
【0088】
樹脂中におけるHTC材料の体積百分率は、約60体積%まで又はそれ以上、より好ましくは約35体積%までとしてよい。体積充填量が高い程、マトリックスの構造安定性がより高くなる傾向がある。しかしながら、サイズ及び形状の分布、粒子の会合及び配列の程度を制御することによって、HTC材料が1体積%以下しか占めないようにすることもできる。しかしながら、構造的な安定性の理由からは、浸透を起こさせるのに必要な最小の量よりは多い量で添加するのが有用であろう。従って、浸透構造やHTC特性を損なうことなく、樹脂は物理的な歪みや変形に耐えることができるであろう。
【0089】
表面官能基の添加には、ヒドロキシル、カルボキシル、アミン、エポキシド、シラン又はビニルの各基が含まれていてよく、これらはホスト有機ポリマー又はネットワーク形成樹脂系との化学反応に役立つ。これらの官能基は、無機充填剤の表面の上に元々存在していてもよいし、或いは、湿式化学法、プラズマ重合法を始めとする非平衡プラズマ蒸着法、化学的蒸着法及び物理的蒸着法、スパッターイオンプレーティング法、並びに電子及びイオンビーム蒸発法を用いて適用してもよい。マトリックスポリマー又は反応性樹脂は、ナノ粒子と親和性があり、必要に応じて、ナノ粒子表面に導入された反応性基と反応することができるものであれば、どのような系であってもよい。これらは、エポキシ、ポリイミドエポキシ、液晶エポキシ、シアネート−エステル、並びに各種の架橋剤を含むその他の低分子量ポリマー及び樹脂であってよい。
【0090】
非分離の有機−無機ハイブリッドの場合には、ゾル−ゲル化学反応を使用して、連続的な分子アロイを形成させることができる。この場合、水性及び非水性反応が関与するゾル−ゲル化学反応が考慮される。
【0091】
本発明の製品は、従来からの電気絶縁材料よりも高い熱伝導性を示し、マイカ−ガラステープ構造体における接着樹脂として、従来からのマイカテープ構造体のための未反応の真空圧含浸樹脂として、並びに回転式及び静電式発電プラントにおいて、そして高電圧及び低電圧両方の電気及び電子装置、構成部品、及び製品において、電気絶縁的用途を満足させるための単独の材料として使用することができる。本発明の製品は、相互に組み合わせてもよいし、更には従来技術のHTC−材料及び他の材料と組み合わせてもよい。
【0092】
マイクロ及びナノHTC粒子は、自己凝集して所望の構造の、フィラメント及び分岐デンドライトとなれる能力を基準にして、選択すればよい。粒子は、本来的な自己集合能力から選択すればよいが、そのプロセスは、電荷分布を始めとする粒子の粒子表面電荷状態に変化を与えるような、電場、磁場、音波、超音波、pH制御、界面活性剤の使用及びその他の方法のような外部の力によって、更に変化させることもできる。一つの具体的な実施態様においては、例えば窒化ホウ素、窒化アルミニウム、ダイヤモンド等の粒子を自己集合させて所望の形状とする。この方法においては、所望の凝集構造体は、最初に高熱伝導性材料から作るか、又はホストマトリックスの中への組み込みの際に集合させることができる。
【0093】
多くの実施態様においては、同一の用途においても、HTC−材料のサイズと形状とを変化させる。同一の製品の中で、幅のあるサイズと形状とを使用する。種々の長短可変なアスペクト比を有するHTC−材料があることによって、樹脂マトリックスの熱伝導性を向上するとともに、向上した物理的特性及び性能が潜在的に与えられる。しかしながら、観察されるべき一つの側面は、粒子の長さは、基材/絶縁体の層の間で架橋が起きるほど長いものであってはならないということである。更に、種々の形状と長さとがあることによって、より均質な容量充填と充填密度とが得られて、その結果、より均質なマトリックスが生じるので、HTC−材料の浸透安定性が改良されるであろう。一つの実施態様においては、サイズ及び形状を混合させた場合、より長い粒子がより棒状の形状であるのに対して、より小さな粒子は、より球状、平板状、又は円板状、更には直方体状である。例えば、HTC−材料を含む樹脂には、約55〜65体積%の直径10〜50nmの球状物及び約15〜25体積%の長さ10〜50μmの棒状物を、10〜30体積%の樹脂と共に含んでいてもよい。
【0094】
また別な実施態様においては、本発明は、有機−無機複合体に基づく新規な電気絶縁材料を提供する。熱伝導性は、誘電性(誘電率及び誘電損失)等の他の絶縁特性、導電性、絶縁耐力及び電圧耐久性、熱安定性、引張モジュラス、曲げモジュラス、衝撃強度並びに熱耐久性、更にはその他の因子、例えば、粘弾性及び熱膨張率、並びに総括絶縁性に悪影響を与えることなく、最適化される。有機相及び無機相は、特性と性能との適切なバランスが達成されるように、構築され、選択される。
【0095】
一つの実施態様においては、所望の形状と粒径分布とを有するナノ、メソ及びマイクロ無機充填剤の表面被覆と、選択された表面特性及びバルク充填性とは、相互に補完的である。これによって、必要とされるバルク特性を維持しながら、有機ホスト中の充填剤相の浸透構造と相互関連性とを独立して制御することが可能となる。更に、単一又は二次的な被覆としての、有機及び無機被覆を使用して、有機マトリックスに対する粒子表面の親和性を確保し、ホスト有機マトリックスとの化学反応が起きることを可能としてもよい。
【0096】
形状に関しては、本発明では、浸透を促進させるために、自然に棒状物及び平板状物となる傾向を有する個別の粒子形状を使用するが、天然に産出されるものに加えて合成的に製造された物質も含めて、棒状物が最も好ましい実施態様である。棒状物とは、平均アスペクト比が約5以上、好ましい実施態様では10以上、であるが、より好ましい実施態様では100以下、の粒子と定義される。一つの実施態様においては、その棒状物の軸の長さは、およそ10nm〜100ミクロンの範囲である。棒状物が小さい程、より良好に樹脂マトリックスに浸透し、樹脂の粘度への悪影響も少ない。
【0097】
多くのマイクロ及びナノ粒子は、球状及び円盤状の形状をとるが、それらのものは、ある条件下では均等に分布する能力が低く、そのために凝集されたフィラメント状構造を取りやすく、そのことが、浸透が起きる濃度を低下させる。浸透を向上させることによって、樹脂の熱的特性を向上させたり、或いはそれとは別に、樹脂に添加すべきHTC材料の量を減少させたりすることができる。更に、浸透を促進させることによって、避けるべき凝集が起きるのではなく、むしろ、樹脂の内部におけるHTC材料のより均一な分布が得られることとなり、それによって、望ましくない界面、不完全な粒子の濡れ及びマイクロボイドの形成等を有する可能性がより低い、より均質の製品が得られる。同様にして、凝集されたフィラメント状又は樹枝状構造は、より高いアスペクト比粒子から形成された球状の(密度の高い)凝集物又は集塊物よりも、高い熱伝導性を与える。
【0098】
更に、流体の流れの場、電場及び磁場をHTC材料に印加して、それらをエポキシ樹脂の内部に分散させ、構造的に組織化することもできる。交流電場又は静電場を使用することによって、棒及び平板形状の物を、マイクロスケールで整列させることができる。このことによって、異なる方向には異なる熱的性質を有する材料が創り出される。電場を作ることは、絶縁された電気導体を横切って電極を取り付ける方法、材料又は絶縁系の中心に導体を使用する方法等の、当技術分野で公知の種々の方法によって達成できる。
【0099】
選択された粒径及び形状分布と組み合わせたときに、粒子誘電率を系の誘電率を制御するように選択しながら、絶縁系全体の熱伝導性及び導電性を制御した所定の浸透構造を与える、金属−酸化物、−窒化物、−炭化物及び混合系のような有機表面被覆及び無機表面被覆を生成させることができる。また別なタイプの被覆は、天然由来又は合成由来のマイクロ粒子及びナノ粒子のダイヤモンド被覆である。多結晶及び単結晶ナノ粒子の形態においては、粒子は、シリカ等の担体粒子の表面と会合していてもよい。シリカそのものは、先にも述べたように、強い伝熱性を有する材料ではないが、表面被覆を加えることによって、熱伝導性がより高い材料となる。しかしながら、シリカ及び他のそのような材料は、棒形状の粒子に容易に形成できるという有利な性質を有している。このような方法で、種々のHTC特性を一つの製品の中に組み込むことができる。それらの被覆は更に、樹脂含浸の存在下又は非存在下に、マイカ及びガラスの両方の成分を含むマイカテープ構造体への用途もまた有している。
【0100】
反応性表面官能基は、無機被覆に固有な表面基から形成させてもよいし、或いは更なる有機被覆物を塗布することによって得てもよい。被覆物のいずれも、ヒドロキシル、カルボキシル、アミン、エポキシド、シラン、ビニル及びその他の基を含んでいてよく、それらはホスト有機マトリックスとの化学反応に用いることができる。これらの単一又は多様な表面被覆及びそれらの表面官能基は、湿式化学法、プラズマ重合を始めとする非平衡プラズマ法、化学的蒸着法及び物理的蒸着法、スパッターイオンプレーティング法、並びに電子及びイオンビーム蒸発法を用いて付加することができる。
【0101】
また別な実施態様においては、本発明は、有機−無機複合体に基づく新規な電気絶縁系を提供する。種々の無機及び有機構成成分の間の界面を化学的及び物理的に親密にして、異種の相の間に高度に物理的な連続性を確保し、機械的に強く、高電圧及び低電圧用途のいずれで使用したときでも、電気絶縁系が作動中に故障を起こしにくい界面を得る。そのような材料は、界面の一体性を高めることが、電力定格の上昇、絶縁系の電圧応力(voltage stressing)の上昇、絶縁厚みの低下といった利点を与え、高い熱伝達を達成する、高電圧及び低電圧の電気絶縁状況における用途を有している。
【0102】
具体的な実施態様においては、ナノ、メソ、及びマイクロ無機充填剤への種々の表面処理を使用して、無機表面に有機マトリックスに対する親和性を与えることができる種々の表面官能基を導入したり、ホスト有機マトリックスとの間で化学反応を起こさせたりする。それらの表面官能基は、ヒドロキシル、カルボキシル、アミン、エポキシド、シラン又はビニルの各基を含み、これらはホストの有機マトリックスとの化学反応に利用できる。これらの官能基は、湿式化学法、非平衡プラズマ法、化学的蒸着法及び物理的蒸着法、レーザービーム法、スパッターイオンプレーティング法並びに電子及びイオンビーム蒸発法を使用して適用すればよい。
【0103】
多くの実施態様においては、表面処理された材料は、マイカ−ガラステープ構造体における接着樹脂において、従来からのマイカテープ構造体のための未反応の真空圧含浸(GVPI及びVPI)樹脂において、並びに回転式及び静電式発電プラントにおける電気絶縁又は導電的用途のいずれかを満足させるための単独の電気絶縁被覆又はバルク材料において、並びに高電圧及び低電圧両方の電気装置、構成部品及び製品において、使用することができる。更に、全ての化学反応は、揮発性の副生物を避けるために、縮合反応ではなく付加反応の結果として得られるものであるべきである。
【0104】
最近、液晶ポリマーを使用することによって、エポキシ樹脂の改良が進んでいる。エポキシ樹脂を液晶モノマーと混合するか、又は液晶性メソゲンを、例えばDGEBAのようなエポキシ樹脂分子の中に、組み入れることによって、架橋によって顕著に改良された機械的特性を有する秩序のあるネットワークを形成することが可能なポリマー又はモノマーを含有する液晶性熱硬化性(LCT)エポキシ樹脂が、製造される。米国特許第5,904,984号明細書を参照されたい(この特許を、参考として引用し本明細書に組み入れる)。LCTの更に有利な点は、標準的なエポキシ樹脂よりも改良された熱伝導性と共に低い熱膨張率(CTE)値をも有していることである。
【0105】
LCTエポキシ樹脂を更に魅力あるものとしているのは、それらが、標準的なエポキシ樹脂よりも、熱をより良く伝導することができることである。米国特許第6,261,481号明細書(本明細書を参考として引用し本明細書に組み入れる)の教示によれば、従来からのエポキシ樹脂の熱伝導性よりも高い熱伝導性を有するLCTエポキシ樹脂を製造することが可能である。例えば、標準的なビスフェノールAエポキシは、横(面)方向と厚み方向との両方において、0.18〜0.24ワット/メートル・ケルビン度(W/mK)の熱伝導性値を有していることが示されている。それとは対照的に、LCTエポキシ樹脂は、実際に使用した場合、横方向では0.4W/mK以下、厚み方向では0.9W/mK以下、の熱伝導性値を有していることが示されている。
【0106】
紙に適用されるHTC材料に関連して使用する場合、「基材」という用語は、絶縁紙がそれから形成されるホスト材料を指しており、その一方で、「紙マトリックス」という用語は、その基材から製造された、より完全な紙構成成分を指している。本発明のこの実施態様を説明する際に、これら二つの用語が、幾分互換的に使用されることもある。基材の、誘電正接等の電気的性質や引張強度及び凝集性等の物理的特性を著しく損なうことなく、熱伝導性の向上が達成されなければならない。表面被覆を用いるようないくつかの実施態様においては、物理的特性を改良することさえ可能である。更に、いくつかの実施態様においては、HTC材料の添加によって、ホスト紙マトリックスの電気抵抗率が向上することもあり得る。
【0107】
電気絶縁のために典型的に使用されている標準的なマイカ(白雲母、金雲母)に加えて、黒雲母、更にはいくつかのその他の、カオリナイト、ハロイサイト、モンモリロナイト、クロライト等の、マイカ様アルミノシリケート物質もある。モンモリロナイトはその構造の中に、金属カチオン、有機化合物並びにモノマー及びポリマー等のHTC材料を容易に挿入できる格子を有していて、高絶縁耐力の複合体を与えることができる。
【0108】
絶縁紙は、本発明の樹脂を含浸させることができる多孔質媒体のほんの一つのタイプである。多くの産業において(それらのいくつかは以下において説明する)、その他の多くの材料及びそれから製造される構成成分は、種々のタイプの多孔質媒体を使用して、その中に樹脂を含浸させることができる。例を挙げれば、ガラス繊維のマトリックス又は織物、及びポリマーのマトリックス又は織物が存在するが、ここで、織物は、典型的にはクロス、マット又はフェルトであり得る。面積層体を有するガラス織物積層体である回路基板は、本発明の樹脂を使用することによってメリットが得られる一つの製品であろう。
【0109】
ステーターコイルと共に使用される樹脂含浸のタイプは、VPI及びGVPIとして知られている。テープをコイルの周りに巻き付けてから、真空圧含浸(VPI)法によって、低粘度の液状絶縁樹脂で含浸する。そのプロセスは、マイカテープの中に捕捉されている空気と湿分とを除去する目的で、コイルが入っているチャンバーを真空引きする工程、次いで、絶縁樹脂を加圧下に導入して、マイカテープを樹脂で完全に含浸させて、それによってボイドを除去する工程、及びマイカホスト中で樹脂絶縁材を製造する工程からなる。いくつかの実施態様においては、約20%の圧縮をすることが、VPIプロセスに特定のものである。これが完了した後に、コイルを加熱して樹脂を硬化させる。樹脂が促進剤を含んでいてもよいし、或いはテープが促進剤を有していてもよい。この一つの変法である、包括的なVPI(GVPI)は、乾燥した絶縁化コイルを巻き付けてから、個々のコイルではなく、ステーター全体を真空圧含浸させるプロセスを含む。GVPIプロセスにおいては、乾燥したコイルをその最終的な位置に挿入してから含浸させるので、樹脂の含浸に先立ってコイルを圧縮する。これまで、種々の圧縮方法を説明してきたが、本発明の実際の圧縮工程のために、VPI/GVPI含浸プロセスを使用することも可能である。
【0110】
一つの具体的な実施態様においては、本発明は、ホスト樹脂マトリックスと高熱伝導性充填剤とを含む連続的な高熱伝導性樹脂を提供する。高熱伝導性充填剤は、高熱伝導性充填剤にグラフトされた表面官能基を介してホスト樹脂マトリックスと共に連続的な有機−無機複合体を形成し、ホスト樹脂マトリックスと共有結合的な結合を形成する。関連する実施態様においては、高熱伝導性充填剤は長さが1〜1,000nmで、3〜100のアスペクト比を有する。より好ましいアスペクト比は、10〜50の間である。
【0111】
また別な関連の実施態様においては、高熱伝導性充填剤が、酸化物、窒化物、炭化物及びダイヤモンドの1種又は複数から選択される。一方、表面官能基は、ヒドロキシル、カルボキシル、アミン、エポキシド、シラン及びビニルの各基の1種又は複数から選択される。
【0112】
また別な具体的な実施態様においては、本発明は、ホスト樹脂ネットワークと、ホスト樹脂ネットワーク中に均質に分散され、且つ、ホスト樹脂ネットワークと実質的に完全に共反応された無機高熱伝導性充填剤とを含んでなる、有機−無機の境界を橋かけするグラフト化官能基を含む、連続の有機−無機樹脂を与える。高熱伝導性充填剤は、1〜1,000nmの長さと10〜50のアスペクト比とを有している。高熱伝導性充填剤は、酸化物、窒化物及び炭化物の1種又は複数から選択され、連続の有機−無機樹脂は、最大で60体積%、その他の実施態様では最大で35%、の高熱伝導性充填剤を含んでなる。具体的には、高熱伝導性充填剤は、高熱伝導性充填剤にグラフトされた表面官能基を有し、その表面官能基が、ホスト樹脂ネットワークとの実質的に完全な共反応性を与えている。
【0113】
関連する実施態様においては、官能基には、ヒドロキシル、カルボキシル、アミン、エポキシド、シラン及びビニルの各基の1種又は複数が含まれる。酸化物、窒化物及び炭化物の1種又は複数には、Al23、AlN、MgO、ZnO、BeO、BN、Si34、SiC及びSiO2並びに化学量論的及び非化学量論的結合の混合物が含まれる。ホスト樹脂ネットワークには、エポキシ、ポリイミドエポキシ、ポリイミド、液晶エポキシ、ポリブタジエン、ポリエステル、及びシアネート−エステルが含まれる。連続の有機−無機樹脂は、更に、架橋剤を含んでいてもよいしまた、樹脂全体が多孔質媒体の中に含浸されていてもよい。
【0114】
更に別の具体的な実施態様においては、本発明は、高熱伝導性樹脂を製造するための方法を提供する。この方法は、ホスト樹脂マトリックスを供給し、高熱伝導性材料を集め、次いで高熱伝導性材料を、反応性表面官能基で高エネルギー反応において表面処理して、表面官能基が高熱伝導性材料にグラフト化されるようにすることからなる。次いで、処理された高熱伝導性材料をホスト樹脂マトリックスと混合して、高熱伝導性材料がホスト樹脂マトリックス中に実質的に均質的に分散されるようにし、次いで、高熱伝導性材料にグラフトされた表面官能基をホスト樹脂マトリックスと反応させて、高熱伝導性樹脂を製造する。高熱伝導性樹脂中の高熱伝導性材料の量は、最大で60体積%であり、高エネルギー反応によって、約200〜500kJ/molの間の接着強度が得られる。
【0115】
関連する一つの実施態様においては、その方法は、架橋剤を挿入することを更に含む。別な関連する実施態様においては、表面官能基には、ヒドロキシル、カルボキシル、アミン、エポキシド、シラン及びビニルの各基の1種又は複数が含まれ、高エネルギー反応には、非平衡プラズマ照射法、化学的蒸着法及び物理的蒸着法、スパッターイオンプレーティング法、レーザービーム法、電子及びイオンビーム蒸発法の一つが含まれる。
【0116】
また別の特定の実施態様においては、高熱伝導性材料には、ダイヤモンド、AlN、BN、Si34及びSiCの1種又は複数が含まれる。このHTC材料の群は、材料の内部接着力が極めて強いので、約200〜500kJ/molの間の接着強度を形成させるのに特に適している。
【0117】
本発明は更に、先に述べたように樹脂にグラフトされた幾分かのHTC粒子と、樹脂にはグラフト化されておらず、従って、ホスト樹脂マトリックスと連続的な結合を形成しない幾分かのHTC粒子との混合物を提供する。この意味合いにおける「グラフトされる」という用語は、樹脂に対してグラフトされる、又は容易にグラフトされるように表面処理される、ということを指している。これらのHTC粒子のクラスのいずれか又は両方が、粒子が互いにどのように相互作用するかといった他の特徴に影響を及ぼすように、更に表面処理されていてもよい。本明細書で使用するとき、グラフトされたHTC粒子のクラスとは、樹脂ホストに対して直接結合されたものであり、一方、グラフトされていないクラスは、樹脂ホストには直接結合されていない。しかしながら、どちらのクラスも、他の機能を果たすための種々の表面処理をされていてもよい。クラスとは、樹脂を使用する際の、粒子の状態を指している。究極的には、樹脂は硬化されるが、以下に述べるようないくつかの特定の実施態様においては、非グラフト粒子が、硬化の前又は硬化中に、実質的にグラフトされる。
【0118】
上述のように、グラフトとは、材料の表面官能基が、ホスト樹脂に又はホスト樹脂が反応したときに形成されるネットワークに、化学的に結合することを指している。このことに加えて、物理的なグラフトもまた起こりうる。物理的なグラフトは、イオン結合、水素結合又は局所的な固定に基づくことができる。全てのタイプのグラフトにおいて、グラフトされた「繋ぎ縄(tether)」即ち、付着された樹脂分子は、グラフトされた粒子の性質に影響を与えるであろう。
【0119】
グラフトされた粒子とグラフトされていない粒子とは、それらが同じタイプの材料からできていたとしても、樹脂中では異なる挙動をとるであろう。グラフトされた粒子は、十分に小さいものであるならば、小さな含浸空間を通ってでも、樹脂と共に流動するであろう。このことを利用すれば充填樹脂が、複合体テープに見られるような堅固なネットワークの中に、含浸された場合にでも、グラフト粒子の相対的な濃度を上げることができる。逆に、樹脂を含浸させたネットワークを圧縮すると、グラフト粒子は樹脂と共にネットワークから流れ出す傾向があり、それによってグラフトされていない粒子の濃度が上がる。従って、含浸及び圧縮によって、HTC粒子のクラス間の比率を変化させることが可能である。このことは、複合体テープのような標的の異なった領域に、異なったタイプのHTC材料を適合させる機会を与える。例えば、テープの中のマイカ層には、特定のタイプのHTC材料、例えばBN、が大きなメリットを与えるが、一方、テープの残りの部分ではアルミナの方がより適している。グラフトされた粒子をBNとし、グラフトされていない粒子をアルミナとすることによって、異なる複合体テープの構成要素において、二つのタイプのHTC材料の比率を変化させることが可能となる。しかしながら、後ほど説明するが、アルミナ等の、高い機械的強度を有する粒子は、グラフトされやすく、そのために、物理的特性が更に向上する可能性がある。
【0120】
更に、グラフト化粒子は、樹脂ネットワークの中に閉じ込められているので、樹脂によって一層制御される。結果として、グラフトされた粒子が局所的に構造を補強し、樹脂の強度を上げ、破砕に対して、グラフトされていない粒子を含むマトリックスの場合よりも、より抵抗力を与える。グラフトされた粒子は、更に、移動性が乏しいので、グラフトされていない粒子の場合よりも、樹脂の粘度をより高くする可能性がある。グラフトされていない粒子は、特に表面処理されていると、より流動しやすく、より高い移動性と分散性とを有するが、凝集する傾向も強い。グラフトされることによって、樹脂との接触も良好となるので、概して熱伝導性が良好となるが、種々のタイプの表面処理でそのような差を埋め合わせてもよい。
【0121】
グラフト化粒子及び非グラフト化粒子のいずれにおいても、使用されるHTC材料のタイプは似たものであって、それについては先に説明した。どちらのクラスの粒子も、上述のHTC材料のいずれから選択してもよいが、特定のタイプについては既に説明した。異なったクラスのものが、同一又は異なるタイプの材料からなっていてよい。
【0122】
これまでは、粒子の高熱伝導性に焦点をあててきたが、グラフト化粒子についての具体的な実施態様では、実際には、樹脂に対する粒子の効果によって、より高い機械的強度並びに改良された誘電破壊及び絶縁破壊並びに耐久性能を与える粒子を使用する。これらの具体的なタイプのグラフト化粒子を使用して、向上された熱伝導性性能を達成するのに加えて、特性のバランスを達成することができる。グラフト化粒子は、本来的に、より密接に樹脂と接触しており、従って、より容易に物理的な魅力を与えるが、非グラフト化物もまた同様の効果を有することができる。
【0123】
異なるタイプのHTC材料を、異なるクラスの粒子において使用した場合、それぞれのタイプにより、異なる物理的特性の向上を達成することができる。容易に入手可能な表面官能基を有している材料の方が、グラフト化粒子としてはより容易に使用できる。そのようなものとしては、先に説明したようにアルミナ、シリカ及び金属酸化物が挙げられる。従って、窒化物、炭化物、及び容易に利用できる表面官能基を有さない材料は、より自然なこととして、非グラフト化用途に分類される。しかしながら、特別な表面処理をすることによって、後者をグラフト化材料として機能させることが可能となる。
【0124】
粒子の組成と同様に、粒子のサイズ及び形状も、クラスによって同一であっても異なっていてもよい。移動性と分散性との維持に関して、グラフト化粒子は平均長さ100nm以上と一般的に大きく、非グラフト化物は長さが5〜100nmと一般に短いのがよい。粒子がより小さいほど、より良好な充填密度が得られやすい。このこととは逆に、より大きな構造強度を得たい実施態様では、樹脂を強化するために、長い非グラフト化粒子と、その中及び周りのより小さいグラフト化粒子を有していてもよい。粒子のクラスの間での相違性又は類似性は、それらのクラスそのものの中において均質性がなければならないということを意味している訳ではないということに留意する必要がある。それぞれのクラスが、種々の異なったタイプ、並びに異なった形状及びサイズのHTC材料からなっていてもよい。
【0125】
グラフト化粒子対非グラフト化粒子の比率は、用途に応じて変化させる。更に、この比率は、樹脂に添加されるHTC粒子の総量に応じて変化させる。樹脂中でのHTC粒子の全体積が低いほど、どちらかのクラスの粒子の最小比を高くする必要がある。例えば、全HTC体積が10体積%の樹脂では、グラフト化粒子対非グラフト化粒子の比率は、(1:3)〜(3:1)の間がよい。しかし、60%のHTC材料を含む樹脂では、(1:20)〜(20:1)の比率とすることができる。所与のクラスの粒子から、正味のメリットを引き出すためには、樹脂中の一つのクラスの粒子の全量は、認識しうる程度の効果を得るためには、最低でも1体積%とするべきであるが、粒子のアスペクト比が大きい程、低濃度において、粒子の効果は大きくなる。究極的には、グラフト化粒子対非グラフト化粒子の比率は、種々の物理変数の、複数目的最適化に依存する。
【0126】
更に、非グラフト化粒子の方がグラフト化粒子よりも凝集しやすいので、他の物理的特性を最優先に考慮する必要がなければ、非グラフト化粒子の体積比率を僅かに高くしたものを、樹脂中で使用するべきである。粒子濃度の上限では、樹脂は、それが比較的に相互反応性でなければ、大量の非グラフト化粒子を担持することとなるであろう。
【0127】
粒子を表面官能化することによって化学的なグラフトを形成することができるが、樹脂に結合されたグラフト化粒子と樹脂にグラフト化されていない粒子との両方に、追加的な表面処理を実施してもよい。「表面処理」という用語は、「表面官能化」という用語の一変形であって、何らかの表面処理によって非反応性基を加えるという変形例も含まれる。追加的な表面処理は、種々の目的及び実施態様を満足させる。一つのケースにおいては、表面処理を用いて、HTC粒子を良好に分散させて、凝集しないようにする。このことは、一般的に非反応性であるか又は互いに反応しないかのいずれかである表面基を加えることによって達成することができる。一つの具体的な実施態様においては、二つのクラスのHTC粒子が、一つのクラスとは事実上非反応性であるが、クラスの間では反応性であるような表面基を有するであろう。このケースにおいては、非グラフト化粒子が、グラフト化粒子を介して、樹脂にグラフトされる。この反応の速度を十分に遅くして、粒子のクラスが結合するより前に、浸透及び拡散の特性の差を実現させることができる。
【0128】
HTC粒子を表面処理することによって、含浸樹脂にメリットを与えることができる。長鎖の表面処理は、より良好な破壊靱性及び粘弾性を与えるが、それに対して、より短い鎖又は基は、より高い機械的モジュラス及びより高い熱安定性に有利である。
【0129】
表面処理に関するその他の変形としては、一つのクラスを官能化させて自己凝集させ、一方、他のクラスでは凝集しないようにする。例えば、グラフト化粒子を官能化させて自己凝集させ、一方、非グラフト化粒子をより均質に分散させる。このことによって、非グラフト化粒子による改良された機械的性質と、グラフト化粒子による向上された熱伝導性とを有するマトリックスが得られる。非グラフト化粒子の「海」の中のグラフト化粒子の「島」を仕立てることによって、一方では高熱伝導性を維持しながら、絶縁破壊及びガス浸透に対する抵抗性のような改良されたバリア性能を有する、ブロック領域及び積層構造が得られる。異方性構造を作ることも可能であって、それによって異方性の物理的特性を有する材料が得られる。
【0130】
HTC材料の表面官能化は、当技術分野で知られたプロセスによって実施することができるが、それは、HTC−材料の上に少なくとも1個の官能化有機基をグラフト化させることを含む。官能化基は、種々の反応性基であってよく、OH、NH、又はカルボキシル基等が挙げられるが、これらに限定されない。官能化の例としては、シラングラフト化又はフリーラジカルグラフト化が挙げられる。より具体的な実施態様においては、シラングラフト化には、4−トリメトキシシリルテトラヒドロフタル酸無水物(TSPA)及び3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(MOTPS)から選択される反応剤が関与する。また別な具体的な実施態様においては、フリーラジカルグラフト化には、硝酸セリウムアンモニウムが関与する。粒子間の反応性の所望の大きさによって、異なる表面処理を選択する。反応性をほとんど又は全く望まない場合には、パラフィン鎖、又はエステルのような非反応性末端基を有するその他の鎖、等の基を加えてもよい。
【0131】
先に述べたように、粒子間の相互作用を遅らせたいと望むならば、表面処理/条件に、潜在触媒を加えてもよい。潜在触媒の好例としては、ルイス酸/アミン錯体(例えば、三フッ化ホウ素/モノエチルアミン)又はブロックトイソシアネートが挙げられるが、ここで、ブロッキング基が熱によって除去されてイソシアネートが生成し、それをOH、エポキシ等の、他の官能基との反応に利用することができる。
【0132】
更に、いくつかの実施態様においては、硬化に先立って、非グラフト化粒子をホスト樹脂にグラフトさせる。従って、樹脂を使用する際には非グラフト化粒子を使用するメリットを得ることが可能でありながらも、次いで、最終的な硬化樹脂においてはグラフト化粒子のメリットが得られる。非グラフト化粒子が後になってホスト樹脂にグラフトされるが、温度、レーザー、紫外光線等のエネルギーの適用を利用することができる。潜在触媒及びブロックトイソシアネートを、ここでもまた適用することができるであろう。
【0133】
両方のクラスの粒子が、最終的に硬化された樹脂の中に存在するようになるが、二つのクラスは、異なった時期に樹脂に混合してもよい。特に非グラフト化粒子は、グラフト化粒子よりも後で、樹脂に混合してもよい。このことは、その非グラフト化粒子が、時間の経過とともに樹脂と反応するような傾向を有する場合には、望ましいこととなるであろう。別なケースとしては、非グラフト化粒子を、異なった段階で樹脂に混ぜ込む。例えば、非グラフト化粒子を、標的、例えば乾燥テープ、の上に存在させ、樹脂がその標的の上/中に含浸されるときに、樹脂によって拾い上げられてもよい。
【0134】
図3を参照すると、グラフト化31及び非グラフト化30の粒子の混合物が、ホスト樹脂32の中に存在している。この例においては、より小さなグラフト化粒子31が表面処理されていて、そのために、それらが互いに凝集して、デンドリマータイプの構造を形成している。各グラフト化粒子は、多数の樹脂分子33にグラフト化されていてよい。非グラフト化粒子30は、相互に又はグラフト化粒子と、容易には反応せず、そのため、より均等に分布されている。この状況は変化していてもよく、また別の例においては、非グラフト化粒子をグラフト化樹枝状構造体に凝集させてもよい。
【0135】
表面コーティングされた充填剤に関しては、充填剤の配向、位置及び構造的組織化を、それ自体で整列し及び凝集する表面コーティングの性質を選択するか、又は、外部の場を適用するかのいずれかで制御してもよい。そのような場の例としては、磁場、電場と機械的な場(AC/動的場、DC/静的場、パルス場及びこれらの組合せ)、音響場、超音響場等がある。例えば、誘電泳動又は電気泳動を使用してもよい。TiO2のようなコーティングは、電場に応答するであろうし、一方、Ni、Co、Mn、V、Cr又はFe化合物を含むかそれらからなるコーティングは、常磁性又は強磁性のいずれかの形で、磁場に応答するであろう。金属アセチルアセトネート、フェロセン、金属ポルフィリン及び金属フタロシアニンのような、有機金属化合物もまた使用することができる。
【0136】
上述の場に応答する非HTC充填剤の上に、HTC材料を表面コーティングすることもまた可能である。例えば、TiO2コアにBN表面コーティングを与えることもできる。このことは、実際のところ、場に応答する表面コーティングをHTC充填剤の上に乗せるよりは効果的となりうるが、その理由は、この方法によって、充填剤の本体が場に応答性となり、一方、その充填剤に伝えられる熱は、その表面を移動する傾向があるからである。非グラフト化粒子は、拘束がないために、より容易に自己整列する傾向があり、液状樹脂系における粘度を低下させるために表面処理されたものは、電気の力の場ではより容易に整列する傾向がある。
【0137】
一つの適用においては、本発明のグラフト化及び非グラフト化混合物は、高熱伝導性樹脂を与えるが、その樹脂は、ホスト樹脂マトリックスにグラフトされた第一のクラスのグラフト化高熱伝導性粒子を含む、ホスト樹脂マトリックスと、更に、ホスト樹脂マトリックスに直接にグラフトされていない第二のクラスの高熱伝導性非グラフト化粒子とを、含んでなる。第一のクラス及び第二のクラスは、高熱伝導性樹脂の約2〜60体積%を占める。第一のクラスのグラフト化粒子及び第二のクラスの非グラフト化粒子は、長さが1〜1,000nmで、3〜100の間のアスペクト比を有する高熱伝導性充填剤である。
【0138】
具体的な実施態様においては、第一のクラス及び第二のクラスは、約25〜40%を占める。第二のクラスの非グラフト化粒子を表面処理して、そのクラスの他の粒子と反応しないようにすることができる。更に、第二のクラスの非グラフト化粒子を表面処理して、そのクラスの他の粒子と反応して、ホスト樹脂マトリックスの中で凝集体を形成するようにすることもできる。更に、第一のクラスのグラフト化粒子を表面処理して、第二のクラスの非グラフト化粒子と反応させることもできる。
【0139】
他の具体的な実施態様においては、第一のクラスのグラフト化粒子は、第二のクラスの非グラフト化粒子よりも少なくとも10倍は大きい、平均長さ分布を有している。ホスト樹脂ネットワークとしては、エポキシ、ポリイミド−エポキシ、液晶エポキシ、シアネート−エステル、ポリブタジエン及びこれらの適切な混合物が挙げられる。高熱伝導性樹脂を複合体テープの中に含浸させ、高熱伝導性樹脂を複合体テープの中に含浸させた後に、第二のクラスの非グラフト化粒子を高熱伝導性樹脂の中に組み入れることができる。
【0140】
更に他の実施態様においては、温度上昇及び紫外光線照射の内の少なくとも一つを適用することにより、非グラフト化物がホスト樹脂にグラフト化される。熱伝導性粒子は、酸化物、窒化物及び炭化物の内の少なくとも一つである。
【0141】
また別な用途においては、本発明のグラフト化及び非グラフト化混合物は、ホスト樹脂マトリックス、ホスト樹脂マトリックスにグラフトされた第一のクラスのグラフト化高熱伝導性粒子、及び、ホスト樹脂マトリックスにはグラフトされていない第二のクラスの高熱伝導性非グラフト化粒子を含んでなる、高熱伝導性樹脂を与える。第一のクラスの粒子は、幾分かの熱伝導性のメリットを与えることも可能ではあろうが、それらは必ずしも、本明細書に記載されているようなHTCタイプの粒子である必要はない。第一のクラス及び第二のクラスは、高熱伝導性樹脂の約4〜60体積%を占める。第一のクラスのグラフト化粒子及び第二のクラスの非グラフト化粒子は、高熱伝導性充填剤であって、それらは5〜1,000nmの長さと3〜100の間のアスペクト比とを有し、各クラスの粒子は、高熱伝導性樹脂の少なくとも1体積%を占める。いくつかのケースにおいては、第一のクラスのグラフト化粒子は、第二のクラスの非グラフト化粒子よりも高い機械的強度を有している。
【0142】
一つの具体的な実施態様においては、樹脂は、紙若しくはガラス繊維マトリックス又はプリント配線基板等の、多孔質媒体中に含浸されるが、ガラス繊維マトリックスは樹脂で含浸されて、プリント配線基板のための積層体となる。第一のクラスのグラフト化粒子と第二のクラスの非グラフト化粒子との比率は、多孔質媒体が第二のクラスの非グラフト化粒子に対してより大きな濾過効果を有するため、多孔質媒体の異なった部分では、異なる可能性がある。いくつかのケースにおいては、第一のクラスのグラフト化粒子と第二のクラスの非グラフト化粒子との比率は、それらの粒子の元々の位置のために、多孔質媒体の異なった部分では異なっている。
【0143】
更にまた別な用途においては、本発明のグラフト化及び非グラフト化混合物が、ホスト樹脂マトリックスと、ホスト樹脂マトリックスにグラフトされた第一のクラスのグラフト化粒子(このグラフト化粒子が、ホスト樹脂マトリックスの局所的な強度を向上させる)と、更には、ホスト樹脂マトリックスにグラフトされていない第二のクラスの高熱伝導性非グラフト化粒子と、を含んでなる高熱伝導性樹脂を提供する。その第一のクラス及び第二のクラスは、約2〜60体積%の高熱伝導性樹脂を含んでなり、第二のクラスの非グラフト化粒子は、高熱伝導性充填剤であって、長さが1〜1,000nmで、3〜100の間のアスペクト比を有している。
【0144】
具体的な実施態様においては、第二のクラスの非グラフト化粒子は、第一のクラスのグラフト化粒子の2〜10倍の平均長さを有している。この実施態様の適用には、熱伝導性を増加させる、より長い非グラフト化粒子が含まれるが、一方、より短いグラフト化粒子は、樹脂の局所的な強度を増大させる。いくつかの実施態様においては、高熱伝導性粒子ではない第三のクラスの非グラフト化粒子が、ホスト樹脂マトリックスの中に存在する。
【0145】
他の具体的な実施態様においては、第一のクラスのグラフト化粒子の少なくとも一部が、長さが1〜1,000nmであり、3〜100の間のアスペクト比を有する、高熱伝導性充填剤である。他の実施態様においては、グラフト化粒子がホスト樹脂マトリックスの絶縁耐力を向上させる。
【0146】
主として電気産業における使用について、本発明の説明をしてきたが、本発明はその他の分野においても同様に適用することができる。熱伝達性の向上を必要としている産業でも同様に、本発明から利益を得るであろう。例えば、石油及びガスを含むエネルギー産業、化学産業、プロセス産業、製造業、並びに自動車産業及び宇宙産業である。本発明のその他の対象としては、パワーエレクトロニクス、従来からのエレクトロニクス、及び集積回路等が挙げられるが、それらの分野では、構成要素の高密度化の要求が高まることによって、局所的及び大面積での熱の除去を効率的にする必要が生じたものである。更に、本発明の特定の実施態様について詳細に説明してきたが、本発明の教示全体を考慮すれば、それらの詳細に対して各種の修正又は代替えが開発できるであろうということは、当業者のよく認識するところであろう。従って、開示されている具体的な組合せは、単に説明のためだけのものであって、添付された特許請求項の全体並びにそれらの全ての等価物で与えられる本発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】ステーターコイルの周りに重ね合わせた絶縁テープの使用を示す図である。
【図2】本発明の充填樹脂の中を移動するフォノンを示す図である。
【図3】より小さなグラフト化粒子が表面処理されて集積され、それに対してより長い非グラフト化粒子が表面処理されて、より均等に分散されている、本発明の一つの実施態様を示す図である。
【符号の説明】
【0148】
30 HTC材料
31 グラフト化粒子
32 樹脂マトリックス
33 樹脂分子
34 フォノン
36 フォノン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスト樹脂マトリックス;
ホスト樹脂マトリックスにグラフトされた、第一のクラスの高熱伝導性グラフト化粒子;及び
ホスト樹脂マトリックスに直接的にグラフトされていない、第二のクラスの高熱伝導性非グラフト化粒子;
を含んでなる高熱伝導性樹脂であって:
第一のクラス及び第二のクラスが、高熱伝導性樹脂の約2〜60体積%を占め;
第一のクラスのグラフト化粒子及び第二のクラスの非グラフト化粒子が、長さが1〜1,000nmで3〜100の間のアスペクト比を有する、高熱伝導性充填剤である、高熱伝導性樹脂。
【請求項2】
第一のクラス及び第二のクラスが約25〜40%を占める、請求項1に記載の樹脂。
【請求項3】
第二のクラスの非グラフト化粒子が、表面処理されていて、そのクラスの他の粒子と反応しない、請求項1に記載の樹脂。
【請求項4】
第二のクラスの非グラフト化粒子が、表面処理されていて、そのクラスの他の粒子と反応してホスト樹脂マトリックス中で集積体を形成する、請求項1に記載の樹脂。
【請求項5】
第一のクラスのグラフト化粒子が、表面処理されていて、第二のクラスの非グラフト化粒子と反応する、請求項1に記載の樹脂。
【請求項6】
第一のクラスのグラフト化粒子が、第二のクラスの非グラフト化粒子よりも10倍以上大きい平均長さ分布を、有している請求項1に記載の樹脂。
【請求項7】
ホスト樹脂ネットワークが、エポキシ、ポリイミドエポキシ、液晶エポキシ、シアネート−エステル、ポリブタジエン、及びこれらの混合物を含む、請求項1に記載の樹脂。
【請求項8】
高熱伝導性樹脂が複合体テープ中に含浸される、請求項1に記載の樹脂。
【請求項9】
第二のクラスの非グラフト化粒子が、高熱伝導性樹脂が複合体テープ中に含浸された後に、高熱伝導性樹脂中に組み入れられる、請求項8に記載の樹脂。
【請求項10】
非グラフト化物が、温度上昇及び紫外線照射の内の少なくとも一つを適用することにより、ホスト樹脂にグラフトされる、請求項1に記載の樹脂。
【請求項11】
熱伝導性粒子が、酸化物、窒化物及び炭化物の内の少なくとも一つである、請求項1に記載の樹脂。
【請求項12】
ホスト樹脂マトリックス;
ホスト樹脂マトリックスにグラフトされた、第一のクラスの高熱伝導性グラフト化粒子;及び
ホスト樹脂マトリックスにグラフトされていない、第二のクラスの高熱伝導性非グラフト化粒子;
を含んでなる高熱伝導性樹脂であって:
第一のクラス及び第二のクラスが、高熱伝導性樹脂の約4〜60体積%を占め;
第一のクラスのグラフト化粒子及び第二のクラスの非グラフト化粒子が、長さが5〜1,000nmで3〜100の間のアスペクト比を有する、高熱伝導性充填剤であり:
各粒子のクラスが、それぞれ、高熱伝導性樹脂の少なくとも1体積%を占める、
高熱伝導性樹脂。
【請求項13】
樹脂が多孔質媒体中に含浸される、請求項12に記載の樹脂。
【請求項14】
多孔質媒体が紙マトリックスである、請求項13に記載の樹脂。
【請求項15】
第一のクラスのグラフト化粒子及び第二のクラスの非グラフト化粒子の比率が、多孔質媒体が第二のクラスの非グラフト化粒子に対して有している、より大きな濾過効果のゆえに、多孔質媒体の異なる部分では異なっている、請求項13に記載の樹脂。
【請求項16】
第一のクラスのグラフト化粒子及び第二のクラスの非グラフト化粒子の比率が、粒子の元々の配置ゆえに、多孔質媒体の異なった部分において異なっている、請求項13に記載の樹脂。
【請求項17】
第一のクラスのグラフト化粒子が、第二のクラスの非グラフト化粒子よりも、高い機械的強度を有している、請求項12に記載の樹脂。
【請求項18】
ホスト樹脂マトリックス;
ホスト樹脂マトリックスにグラフトされた第一のクラスのグラフト化粒子であって、ホスト樹脂マトリックスの局所的な強度を向上させるグラフト化粒子;及び
ホスト樹脂マトリックスにグラフトされていない、第二のクラスの高熱伝導性非グラフト化粒子;
を含んでなる高熱伝導性樹脂であって:
第一のクラス及び第二のクラスは、高熱伝導性樹脂の約2〜60体積%を占め;
第二クラスの非グラフト化粒子が、長さが1〜1,000nmで、3〜100の間のアスペクト比を有する、高熱伝導性充填剤である、
高熱伝導性樹脂。
【請求項19】
第二のクラスの非グラフト化粒子が、第一のクラスのグラフト化粒子の2〜10倍の平均長さを有している、請求項18に記載の樹脂。
【請求項20】
第一のクラスのグラフト化粒子の少なくとも一部が、長さが1〜1,000nmで3〜100の間のアスペクト比を有する、高熱伝導性充填剤である、請求項18に記載の樹脂。
【請求項21】
高熱伝導性粒子ではない第三のクラスの非グラフト化粒子が、ホスト樹脂マトリックスの中に、存在する、請求項18に記載の樹脂。
【請求項22】
グラフト化粒子がホスト樹脂マトリックスの絶縁耐力を向上させる、請求項18に記載の樹脂。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−532556(P2009−532556A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−504178(P2009−504178)
【出願日】平成19年1月3日(2007.1.3)
【国際出願番号】PCT/US2007/000081
【国際公開番号】WO2007/114873
【国際公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(599078705)シーメンス エナジー インコーポレイテッド (57)
【Fターム(参考)】