説明

歩行者移動支援装置

【課題】 外出中の徘徊癖のある歩行者等の位置などを常時検出し、走行中の自動車等に報知する歩行者移動支援装置を提供する。
【解決手段】 携帯送信機100から常時発信する歩行者のID情報を、複数箇所に設けた中継局110によって受信して受信の方向角を判定し、ID情報と受信の方向角を本部120に送信する。本部120は受信の方向角を解析して歩行者の位置を特定する。本部は歩行者の位置情報を中継局を介して周囲に送信し、自動車等に搭載した歩行者認識装置150が位置情報を受信して音声等の形態で出力し、自動車の運転者などに歩行者を認識させる。また、本部は、歩行者の危険地区への接近など、移動中の安全性を解析し、位置情報に付加して送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行者移動支援装置に係り、特に、徘徊癖のある人等の探索あるいは移動中の事故防止を支援するため、移動中の歩行者の現在位置を認識して歩行者または他者に報知する歩行者移動支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
福祉、高齢化社会をひかえ、高齢者や障害者に対する福祉機器あるいは事故防止機器の開発が重要となっており、徘徊癖のある人の探索あるいは移動中の事故防止の支援が強く望まれている。
徘徊癖のある人の現在位置を認識する方法については、徘徊老人探査システムが紹介されている(例えば、非特許文献1参照)。
システムの一例では、簡易型携帯電話機(以下PHS)を用いている。徘徊癖のある人に外出時にPHS端末を携帯させ、端末の呼び出し時に中継する基地局を判定することにより、その人がどの基地局の周辺にいるかを認識する。さらに、その人と基地局との距離を推定し、探索範囲を限定する。
【0003】
【非特許文献1】日経メディカル1994年10月25日臨時増刊号「徘徊老人探査システム」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の徘徊老人探査システムによれば、第一に、歩行者を探索するときに携帯端末を呼び出す必要がある。したがって、呼び出し時以外には歩行者の位置を管理しておらず、歩行者が危険な地区に近づくなどしても即時に認識することはできない。
第二に、歩行者の現在位置は携帯端末を呼び出す者のみが認識し、歩行者を探索する探索者や歩行者の周辺を走行中の不特定の自動車などに歩行者の位置を認識させることがない。
【0005】
本発明の目的は、歩行者の現在位置や健康状態を常時確認し、歩行者の移動中の安全を確認し、危険に対して即時に対応出来るようにすることにある。
【0006】
本発明の目的は、歩行者の現在位置等を走行中の自動車や歩行者を探索する探索者等または歩行者自身に報知し、歩行者の安全を確保出来るようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、
移動中の歩行者の現在位置を認識して該歩行者または他者に報知する歩行者移動支援装置であり、
歩行者に携帯され歩行者独自のID値を常時発信する手段を有する携帯送信機と、歩行者が移動する地域内に複数設けられ、歩行者が発信したID値を受信すると共に受信した方向角を判定する手段と、該受信したID値と方向角とを本部に送信する手段を有する中継局と、中継局が送信した歩行者のID値および方向角から歩行者の位置を検出する手段と、歩行者の位置を報知する警告情報を作成する手段と、該警告情報を歩行者認識装置に対して発信する手段を有する本部と、歩行者や地域内を走行中の自動車などに携帯され、本部が発信した警告情報を受信する手段と、該警告情報を出力する手段を有する前記歩行者認識装置とから構成されるようにしている。
前記中継局は、本部が発信した警告情報を受信して周囲の歩行者認識装置に送信する手段をさらに有するようにしている。
前記本部は、歩行者が安全に移動できる領域等の地理情報を保持する地理情報保持手段と、該地理情報を検索する地理情報検索手段と、歩行者の現在位置およびその付近の地理情報を前記検出した位置情報に基づき該地理情報検索手段により該地理情報保持手段から検索し歩行者の現在位置が安全に移動できる領域に含まれることを判定する手段をさらに有し、前記警告情報を作成する手段は前記判定の結果を警告情報に反映するようにしている。
前記携帯送信機は、歩行者の血圧等を測定して測定値を発信する手段をさらに有し、前記中継局は、歩行者が発信した測定値を受信して本部に送信する手段をさらに有し、前記本部は、歩行者個人の血圧の正常値等の個人情報を保持する個人情報保持手段と、該個人情報を検索する個人情報検索手段と、歩行者の個人情報を個人情報検索手段により個人情報保持手段から検索し、検索した歩行者の個人情報と中継局から送信された該歩行者の測定値とを比較して該歩行者の健康状態を解析する手段をさらに有し、前記警告情報を作成する手段は前記解析の結果を警告情報に反映するようにしている。
前記本部は、歩行者が移動する地域内の地物の位置情報を保持する位置情報保持手段と、該位置情報保持手段を検索する位置情報検索手段と、前記地物の名称および警告情報の基本構文を音声情報として保持する音声情報保持手段をさらに有し、前記警告情報を作成する手段は、歩行者の現在位置に基づき前記位置情報保持手段を前記位置情報検索手段で検索して歩行者の現在位置に近い地物を特定し、該特定した地物の名称の音声情報と警告情報の基本構文の音声情報を前記音声情報保持手段から検索し、該各音声情報を結合して歩行者の位置を報知する警告情報を音声情報として作成するようにしている。
前記本部は、各中継局に最も近い歩行者を判定する手段と、各中継局に対し最も近い歩行者のID値を発信する手段をさらに有し、
前記中継局は、本部から送信された歩行者のID値を保持する手段と、受信した歩行者のID値と保持しているID値とを照合する手段をさらに有するようにしている。
前記本部は、歩行者について該歩行者のID値を保持する中継局群を特定する手段と、該手段によって特定した中継局群に複数の中継局が含まれ、かつ含まれる中継局のうち少なくとも2局が該歩行者と一直線上に位置しないことを判定する手段と、ID値を保持する中継局群が2局未満または歩行者と一直線上に位置するとき、該歩行者のID値を保持する中継局に隣接する他の歩行者のID値を保持する中継局に対し、歩行者のID値を送信して他の歩行者のID値と合わせて保持させる手段をさらに有するようにしている。
前記本部は、歩行者の周囲の一定範囲に含まれる中継局を特定する手段と、該手段により特定した中継局に対して警告情報を発信する手段をさらに有するようにしている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、歩行者の現在位置や健康状態を常時確認することが可能となり、さらに、歩行者の危険地区への接近など、移動中の安全を認識可能にし、危機に際しては即時に対応が可能となる効果がある。
また、歩行者の現在位置などを、その地域を走行中の自動車や、歩行者を探索する探索者、および歩行者自身などに報知することができ、歩行者の安全を確保することが可能となる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明の一実施例を説明する。
図1は本発明の1実施例の歩行者移動支援装置の構成を示すブロック図であり、図2は同装置が行う処理の手順を示している。
図1に示すように、装置は、携帯送信機100、中継局110、本部120、歩行者認識装置150からなる。
携帯送信機100は、外出中の歩行者に携帯される。中継局110は、歩行者の移動する地域内に複数設けられ、それぞれに固有の中継局番号が与えられている。本部120は、携帯送信機から中継局を介して送信される情報を解析し警告情報を発信する。歩行者認識装置150は、歩行者を探索する探索者や自動車などに携帯され、警告情報を受信して音声などの形態で出力する。
【0010】
まず、各歩行者には外出時にその歩行者を同定するための数値(以下ID値)が与えられ、本部120は全歩行者のID値を保持し、中継局110は全部または一部の歩行者のID値を保持する。
携帯送信機100はID値発信手段102を有し、歩行者のID値を常時(一定間隔で)無線信号などにより発信する(200)。
【0011】
発信されたID値は、中継局110の有するID値受信手段112によって受信され、ID値受信手段112は地面に平行な面で360度回転してID値を受信し、同時に、そのID値を最も強く受信した方向角を判定し、受信したID値は、ID値照合手段114により、中継局が保持している歩行者のID値と照合され、照合の結果、一致していれば、外出中の歩行者の位置情報を受信したと判断し、ID値とID値を受信した方向角および中継局番号をID値送信手段116から本部120に送信する(202)。
【0012】
本部120では地図検索手段122および位置検出手段126を用いて、各中継局が送信する歩行者のID値とID値を受信した方向角および中継局番号から、各歩行者の現在位置を検出する。
【0013】
現在位置の検出について図3を用いて説明する。
図中の302、303、305、306は中継局であり、歩行者300のID値を受信して受信した方向角および中継局番号とともに本部に送信する。本部120は、この4局のうち任意の2局、例えば302と306とを選ぶ。本部120の地理データベース124は、全中継局の位置情報をあらかじめ保持する。
そこで地図検索手段122は地理データベース124から中継局302と306の位置情報を検索する(204)。
位置検出手段126は、中継局302と306の位置情報およびこれら中継局が歩行者300のID値を受信した方向角から、歩行者300の位置を以下のように特定する(206)。
【0014】
位置情報はx,yの平面座標で記述され、例えば中継局302の位置情報は平面上の点304の座標(P1x,P1y)で表わされる。同様に、中継局306の位置情報は平面上の点308の座標(P2x,P2y)、歩行者300の位置情報は点307の座標(Tx,Ty)で表わすことができる。
ここで点304をP1、点308をP2、点307をTとおくと、中継局302が歩行者300のID値を受信した方向角は、直線P1−P2から時計回りにθ1回転した角度310に等しい。また、中継局306が歩行者300のID値を受信した方向角は、直線P1−P2から反時計回りにθ2回転した角度312に等しい。
そこで、直線P1−TおよびP2−Tはそれぞれ

y−P1y=a1(x−P1x) ……………(数1)

y−P2y=a2(x−P2x) ……………(数2)

で表わされ、これら直線の交点であるTのx座標値、y座標値はそれぞれ、
【0015】
【数3】

【0016】
【数4】


となる。ただし、以上4式において、
【0017】
【数5】

【0018】
【数6】


とする。
なお、方向角310および312がともに0に等しい場合、すなわち歩行者300と中継局302および306が一直線上に位置する場合には、Tを特定することができない。この場合には、歩行者300のID値を受信した中継局群のうち別の組み合わせにより2局を選択する。
【0019】
歩行者の位置は、歩行者の位置情報を地図検索手段122に渡すことにより地図データベース124が検索され、地図データベース124に保持された地域内の道路網などとともに、ディスプレイなどの位置表示手段128に出力される(208)。
図4は歩行者の位置の表示例である。
図中の400は道路網、斜線部402は歩行者が安全に移動できるとあらかじめ判断され、地図データベース124に保持された移動許容範囲、404は中継局、406は歩行者の現在位置、408は歩行者の個人情報である。
【0020】
個人情報は、歩行者の氏名、年齢、病態などの情報であり、個人情報データベース132に保持されている。個人情報検索手段130は、歩行者のID値をもとに個人情報データベース132から個人情報を検索する(210)。
検索結果は、後述する安全性判定手段134に出力され、該安全性判定手段134が個人情報を位置表示手段128に出力する。
個人情報は、位置表示手段128に表示された歩行者の現在位置の周辺に408のように文字や記号により表示する。
【0021】
次に、206で得た歩行者の位置情報と208で得た歩行者の個人情報とを利用して、安全性判定手段134が歩行者が現在安全に移動しているかどうかを判定する(212)。
判定の手順を以下に説明する。
安全性を判定する基準のひとつは、歩行者が移動許容範囲内を移動中であるかどうかということである。歩行者の現在位置が移動許容範囲内に含まれていれば安全と判定する。
ここで、移動許容範囲は、例えば、交通量が少なく、かつ歩行者の自宅から一定の距離内にある範囲などにあらかじめ定め、地図データベース124に保持しておく。歩行者の位置を点、移動許容範囲を多角形で表現すれば、歩行者が移動許容範囲内に存在するかどうかは鉛直線算法(伊理正夫監修、「計算幾何学と地理情報」pp88-89、共立出版、1993年)などの幾何学的手法により判定することができる。
【0022】
さらに、安全性を判定する別の基準としては、歩行者の現在の健康状態がある。
健康状態を検知するために、歩行者の携帯送信機100に血圧および脈拍を測定する手段を付加する。
携帯送信機は歩行者の身体に直接装着され、一定時間毎に歩行者の血圧と脈拍を測定して測定値を歩行者のID値とともに発信する。本部は中継局を介して測定値を受信する。歩行者の病態に関する情報は前述したように個人情報検索手段により検索される。情報の内容は、例えば、歩行者の血圧値の正常値などである。
【0023】
その後、安全性判定手段134により、受信した測定値と検索した個人情報とに基づき健康状態が良好か否かを判定する。例えば、受信した現在の血圧値が歩行者の血圧値の正常値を超えていないかどうかを判定する。
安全性の判定結果は、個人情報データベース132に記録するとともに、位置表示手段128に出力する(212)。
例えば、ある歩行者が移動許容範囲を超えたり、その血圧値が正常値を超えたりした場合には、その歩行者の位置を示す406のようなシンボルを、表示色を変えるなどして強調表示する。また、その歩行者の表示位置の近くに文字や記号による警報を表示する。さらに、音声出力手段136より警報を出力し、本部の操作者に歩行者の危険を報知する。
【0024】
一方で本部は、歩行者の位置を認識させるための情報(以下、警告情報)を作成し、地域内を走行中の自動車の運転者や歩行者を探索中の探索者などに報知する。
警告情報は警告情報作成手段138により作成する(214)。
まず、地図検索手段122により地図データベース124を検索し、ある歩行者の現在位置に近い地物を特定する。なお、図1において、警告情報作成手段138と地図検索手段122と地図データベース124との関係に関する記載は省略した。
地物は交差点、商店、公共施設など、地域内の場所を特定する際に有効な建設物であり、その位置情報は地図データベース124にあらかじめ保持されている。
警告情報作成手段138は、各地物の位置情報を検索し、歩行者の現在位置との距離を計算し、距離が最短になる地物を選択する。
次に、選択した地物の名称を用いて、歩行者の位置を知らせる警告メッセージを作成する。メッセージは、基本構文と前記の選択した地物の名称とを組み合わせて作成する。
例えば、歩行者の現在位置が名称Aの道路上にあり、名称Bの交差点に近い場合には、「歩行者がA道路B交差点付近にいます。注意してください。」というメッセージを作成する。
基本構文と地物の名称とは音声情報として音声データベース139にあらかじめ保持されている。警告情報作成手段138は、まず基本構文を検索し、次に構文に挿入する地物名称を検索して構文に合成し、メッセージを完成させる。
完成したメッセージは、警告情報発信手段142により地域内の歩行者認識装置に向けて発信される。
【0025】
ここで、歩行者の周囲の不特定の自動車などを対象として警告情報を発信する場合には、ある歩行者に関する警告情報は、その歩行者の周辺の一定の範囲内を走行中の自動車などに限って有意義である。したがって、まず本部がその歩行者から一定距離内にある中継局を対象として警告情報を発信し、次にその中継局が周囲に情報を送信すればよい。
そこで中継局選択手段140は、各歩行者から一定距離内にある中継局を、警告情報発信の対象として選択する(216)。
【0026】
以下、中継局の選択と警告情報の送信について図5を用いて説明する。
図5において、500は歩行者、502、504、506、508は中継局、510は本部である。各中継局は、警告情報送信手段512(図1の118)を有する。
ここで、前記の手順200から206により、歩行者500が発信するID値が中継局502、504などにより受信され、歩行者500の現在位置が本部により検出されているとする。
中継局選択手段140は、歩行者500の現在位置から一定の範囲511を円などにより定義し、歩行者500に関する警告情報が有意義な範囲とする。
【0027】
次に、地図検索手段122および地図データベース124により、全中継局についてその位置情報を検索し、511に含まれるか否かを判定する。なお、図1において、中継局選択手段140と地図検索手段122と地図データベース124との関係に関する記載は省略した。
判定の結果、511内にある中継局は502、504、506であることが分かるので、これら中継局を歩行者500に関する警告情報を送信する中継局として選択する。
その後、警告情報発信手段142は、選択された中継局に限定して歩行者500に関する警告情報を発信する(218)。
中継局502、504、506は警告情報を受信して周辺に送信する(220)。
【0028】
警告情報を送信する中継局から一定の範囲(図5の斜線部513)内に歩行者認識装置(図1の150)があれば、警告情報を受信して音声などの形態で出力する(222)。
例えば、中継局502の付近を走行中の自動車に搭載された歩行者認識装置514は、警告情報受信手段(図1の152)により警告情報を受信し、音声出力手段(図1の154)から音声による警告メッセージを出力し、自動車の運転者などに歩行者の存在を報知する。
また、自動車が自車位置検出手段および自車位置表示手段を備えている場合には、警告情報に歩行者の現在位置を座標値として付加し、歩行者認識装置に送信し、自車位置表示手段に自車位置とともに出力することもできる。
さらに、自車と歩行者との距離を算出して音声出力手段または自車位置表示手段に出力し、運転者に、より明確な認識を与えることもできる。
【0029】
また、歩行者を探索する探索者516がおり、探索者が歩行者認識装置を携帯する場合には、警告情報を送信する中継局の選択(216)時に探索者に近い中継局をも選択する。
探索者の現在位置は、探索者に携帯送信機100を携帯させてそのID値を発信させることにより、歩行者の位置の検出(206)と同様にして検出する。検出した現在位置と各中継局との距離を算出し、探索者に最も近い中継局を特定し、その中継局を216で選択した中継局に加える。
例えば、探索者516に最も近い中継局508は、歩行者500に関する警告情報が有意義である範囲511外にあるが、歩行者500に関する警告情報の送信対象に加える。
これにより、探索者516は、最寄りの中継局508を介して歩行者500の現在位置を認識し、歩行者500を発見することができる。さらに、警告情報の作成時(214)において警告メッセージに歩行者の名前、病態等の個人情報を加えて探索者に提供することにより、探索対象の歩行者の状態をより明確に報知することができる。
歩行者の名前、病態、最新の安全性判定結果などは個人情報データベース132に保持されているので、個人情報検索手段130により検索し、例えば、Cという歩行者について以下のような警告メッセージを作成することができる。「CさんはA道路B交差点付近にいます。血圧値が高いようです。保護してください。」。
【0030】
さらに、歩行者自身が歩行者認識装置を携帯する場合には、上記の探索者の場合と同様に、歩行者に最も近い中継局をその歩行者に関する警告情報を送信する中継局として選択する(216)。これにより、歩行者は自分の現在位置および健康状態を認識することができる。
このとき、警告情報の作成(214)においては、探索者の場合と同様、個人情報にもとづいて、例えば、次のような警告メッセージを作成することができる。「あなたはA道路B交差点付近にいます。血圧値が高いようです。御注意下さい。」
また、本部の個人情報データベース132に歩行者が外出した時間を保持しておき一定時間後に警告メッセージを発声することや、歩行者に連絡をとりたいときに警告メッセージを発声することもできる。
次にそのメッセージ例を示す。「外出されてから1時間ほど経過しました。御家族がお探しです。御自宅へお戻り下さい。」
また、地図データベース124に、地物に関する属性情報、例えば道路の交通量などを保持し、地域に関する諸情報を警告メッセージに加えて歩行者に提供することができる。
次にそのメッセージ例を示す。「このB交差点は車が多いので御注意下さい。」
さらに、歩行者の現在位置から歩行者の自宅までの距離および最適経路を算出する手段を本部に付加し、算出結果を警告情報に加えて発信することにより、歩行者に案内情報を提供することができる。
次にそのメッセージ例を示す。「このB交差点から御自宅までは徒歩約10分です。A道路を進んでD交差点で左折しE商店手前で右折する道順がよいでしょう。」
この他、歩行者認識装置を交通信号機に設置し、歩行者の接近を認識させて信号機を操作すれば、歩行者認識装置を搭載していない走行車があっても徐行させるなどして歩行者の安全を守ることができる。
【0031】
なお、歩行者の現在位置検出(206)に関しては、各歩行者に対する担当中継局群の決定(224)によってID値の本部への送信(202)を効率よく行うことができる。
図6および図8を用いて、担当中継局群決定の手順を説明する。
担当中継局とは、ある歩行者のID値を本部へ送信する中継局であり、本部の担当中継局群決定手段144によって、歩行者ひとりに対し2つ以上の担当中継局が割り当てられる。担当中継局群は、本部の位置検出手段126が検出した各歩行者の現在位置にもとづき決定される。
図6において、600、602、604は地域内を移動している歩行者の一部、610、612、614、616は地域内に設置された中継局の一部の位置を表す。各中継局は原則として最も近くにいる歩行者の担当中継局になることとする。
そこで、まずVoronoi分割法により、隣り合う歩行者間に双方の歩行者から等距離にある線を定めて境界線とし、各歩行者を境界線で囲み、Voronoi領域を決定する(800)。Voronoi領域は境界線で囲まれる領域である。
図6の620は歩行者間の境界線の例であり、境界線n1−n2、n2−n3、
n3−n4、n4−n5、n5−n1で囲まれた領域n1−n2−n3−n4−n5はVoronoi領域の例である。
各中継局にとっては、その中継局が含まれるVoronoi領域内の歩行者が最も近い歩行者となるので、その歩行者の担当中継局となる。中継局612は、歩行者602を含むVoronoi領域n1−n2−n3−n4−n5内に位置するので、歩行者602の担当中継局となる。
【0032】
ここでVoronoi領域の決定方法であるVoronoi分割法について説明する。
Voronoi分割法は、空間に複数の点があるとき、隣り合う2点間にその2点から等距離にあるような境界線を定め、空間を点と同数の領域に分割する方法である。
図7は、平面上の3点700、702、704間でVoronoi分割を行った例である。
隣り合う2点から等距離にある線は2点を結ぶ直線の垂直二等分線であるので、700と702との境界線は直線710である。線分700−702と直線710とがなす角度720は直角であり、その交点を730とすると、線分700−730の長さと線分730−702の長さとは等しい。
同様に、700と704との境界線は712、702と704との境界線は714である。700、702、704は互いに隣り合うため、710、712、714は一点740で交わる。
そこで境界線として有効な部分は、710に関しては点740を始点とし730の方向へ伸びる半直線であり、同様に714、712についても点740を始点として隣り合う2点の間を通って伸びる半直線が実際の境界線となる。
このように、各点間に境界線を求めて、交点を持てば半直線または線分に限定することにより、図6の620のような境界線群が決定される。Voronoi分割法の詳しい手順は伊理正夫監修、「計算幾何学と地理情報」pp136-142(共立出版、1993年)などに説明されている。
【0033】
Voronoi領域決定(800)の後、各中継局の担当を決定するため、以下802から810までの処理をVoronoi領域ごとに行う。
Voronoi領域をVi、Vi内の歩行者の位置をTi、Tiの担当中継局群をPiとする。はじめに、Vi内に位置する中継局群を特定し、Piとする(802)。中継局の位置は点の座標として地図データベース124に記録されているので、地図検索手段122により検索する。一方、Voronoi領域は多角形として各頂点の座標により定義される。そこで前述の鉛直線算法により、各中継局がViに含まれるか否かを判定し、含まれていればPiに加える。
図6では、歩行者602のVoronoi領域内には中継局612が含まれる。そこで、612は歩行者602の担当中継局に含まれる。
【0034】
ただし、歩行者の位置を一点に特定するためには、その歩行者のID値を受信して受信時の方向角を取得する中継局が2つ以上、かつ歩行者と一直線上に並ぶことなく存在しなければならない。そのため、まずPiに含まれる中継局が2つ以上あるか否かを判定する(804)。
0または1つしか中継局が含まれていない場合には、Viに隣接する別のVoronoi領域内の中継局から不足数分を補う。まず、隣接するVoronoi領域を1つ選択し、その領域内から不足数分の中継局を選択してPiに加える(806)。
もしその隣接領域内に不足数分未満の中継局しかない場合には、さらに別の隣接領域から中継局を選択する。
図6では、歩行者602のVoronoi領域内にある中継局は612の1つのみである。したがって、隣接する600のVoronoi領域内から中継局610を選択して602の担当中継局に加える。
【0035】
次に、Piに含まれる全ての中継局と歩行者とが一直線上に並ばないことを確認する(808)。
まず任意の中継局を2つPiから選択し、それら中継局の位置をとおる直線の式を求め、その直線上にTiが位置するか否かを判定する。
Tiがその直線上に位置する場合には、Piから別の中継局を選択して同じことを行う。
もしPiに含まれるすべての中継局とTiとが一直線上に位置する場合には、Viに隣接するVoronoi領域から中継局を1つ選択し、Piに含まれる中継局群と一直線上に並ぶか否かを判定する。並ばない場合には選択した中継局をPiに加える(810)。
図6では、歩行者604の担当中継局614と616とは歩行者604と一直線上に位置する。したがって、隣接する600のVoronoi領域内から中継局610を選択する。610は604、614(または616)と一直線上に位置しないため、604の担当中継局に加えることができる。
この結果、各中継局は1人以上の歩行者の担当中継局群に含まれる。例えば、中継局610は、歩行者600、602、604のそれぞれの担当中継局群に含まれる。
【0036】
担当情報発信手段146は、各中継局に対してその中継局が担当する歩行者のID値、すなわち担当情報を発信する(226)。中継局内のID値照合手段114は、受信した担当情報を保持する。その後、中継局が任意の歩行者のID値を受信した場合、保持しているID値に照合し、合致した場合にのみ本部へ送信する(202)。
以上のように各歩行者について担当中継局群を特定することにより、各中継局は最少の数の歩行者についてID値送信を行えばよいことになる。
なお、以上に説明した手順200から226は、外出中の歩行者がいる間、繰り返される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の1実施例の歩行者移動支援装置の構成を示すブロック図である。
【図2】歩行者移動支援装置の処理の手順を示す流れ図である。
【図3】歩行者の位置の検出を説明するための図である。
【図4】歩行者の位置を表示する画面の表示例を示す図である。
【図5】歩行者認識装置への警告情報の送信を説明するための図である。
【図6】歩行者ごとに担当中継局群を決定する方法を説明するための図である。
【図7】担当中継局群を決定する方法の一部を説明するための図である。
【図8】担当中継局群を決定する処理手順を示す流れ図である。
【符号の説明】
【0038】
100 携帯送信機
102 ID値発信手段
110 中継局
112 ID値受信手段
114 ID値照合手段
116 ID値送信手段
118 警告情報送信手段
120 本部
122 地図検索手段
124 地図データベース
126 位置検出手段
128 位置表示手段
130 個人情報検索手段
132 個人情報データベース
134 安全性判定手段
136 音声出力手段
138 警告情報作成手段
139 音声データベース
140 中継局選択手段
142 警告情報発信手段
144 担当中継局群決定手段
146 担当情報発信手段
150 歩行者認識装置
152 警告情報受信手段
154 音声出力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯送信機からの情報を受け取り、
該情報に基づいて、該携帯送信機の位置を検出し、個人情報データベースから上記携帯送信機の利用者の少なくとも氏名を含む個人情報を検索し、
上記位置情報と個人情報に基づいて作成した上記携帯端末の位置を認識させるための情報を前記携帯送信機端末若しくは他の携帯端末へ通知することを特徴とする歩行者移動支援装置。
【請求項2】
携帯送信機の現在の位置情報を受け取る手段と、
自動車の現在の位置を検出する自車位置検出手段と、
記録される地図を表示する表示手段と、
上記自車位置を表示手段に表示させる手段を有し、
表示手段させる手段は、上記携帯送信機の位置情報を上記自車位置とともに上記表示手段に表示される地図上に表示させることを特徴とする端末装置。
【請求項3】
さらに上記位置情報と自車位置の距離を算出する手段を有し、
上記地図表示させる手段は、上記距離も上記表示手段に表示されることを特徴とする請求項2記載の端末装置。
【請求項4】
上記位置情報を受け取る手段は、該位置情報とともに上記携帯送信機の利用者の少なくとも氏名を含む個人情報も受け取り、
上記表示させる手段は、上記個人情報も上記地図上に表示することを特徴とする請求項2又は3に記載の端末装置。
【請求項5】
上記個人情報はさらに、上記利用者の病態、年齢も含むことを特徴とする請求項4記載の端末装置。
【請求項6】
自動車の現在の位置を検出して地図上に表示する地図表示方法であって、
受信した携帯送信機の現在の位置情報を上記自車位置とともに上記地図上に表示させることを特徴とする地図表示方法。
【請求項7】
上記携帯送信機の位置情報とともに該携帯送信機の少なくとも氏名情報を受信して、上記地図上の該携帯送信機の位置情報とともに表示することを特徴とする請求項6記載の地図表示方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−122735(P2007−122735A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311275(P2006−311275)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【分割の表示】特願平8−53888の分割
【原出願日】平成8年2月16日(1996.2.16)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】