説明

気相成長装置及び気相成長方法

【課題】 シリコン膜の結晶成長の速度を速くする技術を提供する。
【解決手段】 気相成長装置10は、気相成長室36と、加熱室8と、混合室38と、トリクロロシランガスを貯蔵する第1貯蔵庫42と、塩酸ガスと反応するシラン系ガスを貯蔵する第2貯蔵庫40を備えている。加熱室8は、第1貯蔵庫42と混合室38に連通しており、トリクロロシランガスを加熱した後に混合室38に供給している。混合室38は、第2貯蔵庫40と気相成長室36に連通しており、加熱室8から供給されたガスとシラン系ガスを混合させて、その混合ガス34を気相成長室36に供給している。加熱室8の室内温度は、混合室38の室内温度よりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の表面にシリコン膜を成長させる気相成長装置及び気相成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板の表面にシリコン膜を成長させる気相成長装置が知られている。特許文献1には、気相成長装置を利用して、基板の表面にシリコン膜を結晶成長させる技術が開示されている。特許文献1の技術では、原料ガスである塩化シランガスを気相成長室に供給し、基板の表面にシリコン膜を結晶成長させる。特許文献1には、塩化シランガスの一例として、トリクロロシランガス(SiHCl)が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−105328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トリクロロシランガス(SiHCl)は、分解することによって二塩化シリコンガス(SiCl)と塩酸ガス(HCl)を生成する。この分解は、SiHClガスの温度が高くなるほど活発になる。SiClガスのSi原子が基板の表面に結合すると、基板の表面にシリコン膜が結晶成長する。
【0005】
基板の表面にシリコン膜が結晶成長すると、SiHClガスが消費されてHClガスの濃度が相対的に上昇する。そのため、シリコン膜の結晶成長が進行すると、前記の分解反応の逆方向の反応が起こり、シリコン膜の成長速度が低下する。
【0006】
SiHClガスは、他の塩化シランガスよりも安価に入手することができる。しかしながら、原料ガスとしてSiHClガスを使用すると、上記した理由によりシリコン膜の成長速度を速くすることができなかった。本明細書に開示する技術は、原料ガスとしてSiHClガスを使用しながら、シリコン膜の結晶成長の速度を速くする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示する気相成長装置は、SiHClガスを分解させてSiClガスとHClガスを生成させた後、それらのガスにHClガスと反応するシラン系ガスを加えることを特徴とする。これにより、HClガスの濃度を薄く維持することによって、シリコン膜の成長速度の低下を抑制する。
【0008】
本明細書で開示する気相成長装置は、基板の表面にシリコン膜を成長させるものであって、気相成長室と、加熱室と、混合室と、SiHClガスを貯蔵する第1貯蔵庫と、HClガスと反応するシラン系ガスを貯蔵する第2貯蔵庫とを備えている。加熱室は、第1貯蔵庫と混合室に連通しており、第1貯蔵庫から供給されたSiHClガスを加熱した後に混合室に供給している。混合室は、第2貯蔵庫と気相成長室に連通しており、加熱室から供給されたガスとシラン系ガスを混合させて、その混合ガスを気相成長室に供給している。加熱室の室内温度は、混合室の室内温度よりも高い。
【0009】
上記気相成長装置では、SiHClガスを加熱室で加熱することにより、SiClガスとHClガスに分解する。混合室において、シラン系ガスが、HClガスと反応して加熱室で生成したHClガスの濃度を薄くする。このときに、SiClガスの濃度は薄くならない。SiClガスの濃度が濃く、HClガスの濃度が薄いガスを気相成長室に供給することができる。この結果、HClガスの濃度を薄く維持することができるので、シリコン膜の成長速度の低下を抑制することができる。
【0010】
上記のシラン系ガスは、ジクロロシランガス(SiHCl)であることが好ましい。SiHClガスは、HClガスと反応するだけでなく、分解することによってSiClガスと水素ガス(H)を生じる。そのため、気相成長室に供給されるSiClガスの濃度をさらに濃くすることができ、シリコン膜の成長速度をより速くすることができる。
【0011】
加熱室は、SiHClガスを700〜1000℃に加熱する加熱手段を有することが好ましい。SiHClガスの分解は、高温になるほど活発になる。加熱室でSiHClガスを高温に加熱するほど、SiClガスを大量に生成することができる。そのため、SiHClガスを加熱する温度は700℃以上であることが好ましい。また、加熱室で加熱する温度が1000℃以下であると、HClガスとシラン系ガスによって生じた生成物が、混合室で再度HClガスとシラン系ガスに分解する反応を抑制することができるので、HClガスの濃度を薄く維持することができる。
【0012】
本明細書で開示するシリコン膜の気相成長方法は、トリクロロシランガスを加熱する加熱工程と、加熱工程後のガスにシラン系ガスを反応させる反応工程と、反応工程後のガスを基板の表面に供給する供給工程とを備える。
【発明の効果】
【0013】
本明細書で開示する技術によると、安価な原料ガスを使用しながら、シリコン膜の結晶成長速度を速くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1の気相成長装置の断面図を示す。
【図2】実施例2の気相成長装置の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書で開示される技術的特徴の幾つかを以下に整理して記す。
(特徴1)本明細書で開示するシリコン膜の気相成長方法は、トリクロロシランガス(SiHCl)を加熱・分解して二塩化シリコンガス(SiCl)と塩酸ガス(HCl)を生成する工程と、生成されたHClガスをシラン系ガスと混合・反応させてHClガスの濃度をSiClガスの濃度に対して相対的に低下させる工程と、混合ガスを基板の表面に供給する工程と、を備えていることが望ましい。
(特徴2)混合室内のガスの温度は、500〜800℃であることが望ましい。混合室内においてSiHClガスの分解が抑制されるので、気相成長室内に供給されるHClガスの濃度が増加することを抑制することができる。
(特徴3)気相成長装置の気相成長室には、ガス供給口と基板の間に仕切り板が設けられていることが望ましい。この場合、混合室は、その仕切り板と気相成長室の壁の一部によって区画された空間であってもよい。気相成長室の一部が混合室を兼ねており、別個に混合室を設ける必要がない。
【実施例1】
【0016】
図1に示すように、気相成長装置10は、チャンバ37と、加熱室8と、第1貯蔵庫42と、第2貯蔵庫40と、第3貯蔵庫44を備えている。チャンバ37は、気相成長室36と混合室38を有する。気相成長室36と混合室38は、仕切り板20によって区画されている。仕切り板20は、基板32とチャンバ37の上部に設けられているガス供給口16,4との間に設けられており、開口20aを有している。気相成長室36の下部には、載置台22が設けられている。載置台22の内部にはヒータ24が設けられており、基板32を所定の温度に加熱することができる。載置台22は、矢印26方向に回転することができる。気相成長室36の下部にはさらに、排気口28が設けられている。排気ガス30は、排気口28を通じて気相成長室36の外部に排出される。混合室38は、連通路2を介して第2貯蔵庫40に連通している。混合室38には、ガス供給口16,4が設けられている。ガス供給口16,4は、基板32の表面に直交する方向に形成されている。連通路2は、ガス供給口4に嵌め込まれている。
【0017】
加熱室8は、連通路6を介して混合室38に連通しており、連通路12を介して第1貯蔵庫42に連通しており、連通路14を介して第3貯蔵庫44に連通している。連通路6は、混合室38に設けられているガス供給口16に嵌め込まれている。加熱室8には、加熱室8内を加熱する加熱手段15が設けられている。加熱手段15として、熱交換器、シースヒータが用いられることが望ましい。
【0018】
第1貯蔵庫42には、SiHClガスが貯蔵されている。第2貯蔵庫40にはジクロロシランガス(SiHCl)が貯蔵されている。第3貯蔵庫44には水素ガス(H)が貯蔵されている。そのため、加熱室8には、SiHClガスとHガスが供給される。SiHClガスの供給量はバルブ43で調整される。Hガスの供給量はバルブ45で調整される。SiHClガスはシリコン膜の原料ガスであり、Hガスはキャリアガスである。混合室38には、加熱室8から供給されたガスと、SiHClガスが供給される。SiHClガスの供給量はバルブ41で調整される。SiHClガスは、シリコン膜の原料ガスであるとともに、後述するHClガスと反応するためのガスである。加熱室8から供給されたガスとSiHClガスは、混合室38内で混合される。混合室38内で混合された混合ガス34は、仕切り板20の開口20aを通じて気相成長室36の下部に供給される。バルブ41,43,45の開度は、制御装置46で制御される。制御装置46には、加熱室8内の温度が入力される。
【0019】
基板32の表面にシリコン膜が結晶成長する反応について説明する。加熱室8には、SiHClガスとHガスが供給される。制御装置46は、SiHClガスとHガスの供給量を調整する。加熱室8に供給されたSiHClガスは、加熱手段15によって700〜1000℃に加熱され、下記式(1)に示すように分解する(加熱工程)。なお、下記式(1)の反応は、SiHClガスの加熱温度が高くなるほど起こり易く、特に、900℃を超えると活発になる。
式(1):SiHCl→SiCl+HCl
【0020】
加熱室8で分解しなかったSiHClガスと加熱室8で生じたSiClガスと加熱室8で生じたHClガスは、キャリアガス(Hガス)とともに混合室38に供給される。混合室38には、第2貯蔵庫40よりSiHClガスが供給される。制御装置46は、加熱室8内の温度と加熱室8に供給したSiHClガスの供給量に応じて、混合室38に供給するSiHClガスの供給量を調整する。混合室38では、加熱室8から供給されたガスとSiHClガスが混合され、混合ガスの温度が加熱室8内のガス温度よりも低下する。加熱室8から供給されるガスの温度にもよるが、混合室38内の混合ガスの温度は500〜800℃である。混合室38では、下記式(2)及び(3)の反応が起こる(反応工程)。
式(2):SiHCl+HCl→SiHCl+H
式(3):SiHCl→SiCl+H
【0021】
上記式(2)は、加熱室8で生じたHClガスがSiHClガスと反応して、SiHClガスを生成する反応を示している。上記式(2)において、SiHClガスは、HClガスの濃度を薄くするためのガスとして働く。これにより、SiClガスの濃度は薄くなることなく、HClガスの濃度が薄くなる。上記したように、上記式(1)の反応は、SiHClガスの加熱温度が高くなるほど起こり易くなる。すなわち、SiHClガスの加熱温度が高くなるほど、混合室38に供給されるHClガスの濃度が濃くなる。しかしながら、制御装置46によって加熱室8内の温度に応じた量のSiHClガスが混合室38に供給されるので、HClガスの濃度を所望する濃度まで薄くすることができる。
【0022】
なお、上記式(2)の反応によって、混合室38内で新たにSiHClガスが生成する。しかしながら、混合室38内のガスの温度は、加熱室8内のガスの温度よりも低い。そのため、混合室38内では、加熱室8内よりも上記式(1)の反応が起こり難く、HClガスの生成が抑制される。よって、気相成長室36には、SiClガスの濃度が濃く、HClガスの濃度が薄い混合ガスが供給される。
【0023】
混合室38内では、上記式(3)に示すように、SiHClガスがSiClガスに分解する反応も起こる。そのため、SiHClガスは、HClガスの濃度を薄くするだけでなく、SiClガスの濃度を濃くするガスとしても働く。混合ガス34が基板32の表面に達すると、混合ガス34中のSiClガスのSi原子が、基板32の表層部のSi原子に結合する(供給工程)。
【0024】
SiClガスのSi原子が基板32の表層部のSi原子に結合すると、基板32の表面では下記式(4)に示す反応が起こる。下記式(4)は、基板32の表層部に結合したSiClのCl原子がHガス(キャリアガス)と反応し、基板32の表面にSi原子が残存することを示している。下記式(4)の反応により、基板32の表面にシリコン膜が結晶成長する。下記式(4)に示すように、基板32の表面にシリコン膜が結晶成長すると、副生成物としてHClガスが生成される。
式(4):SiCl+H→Si+2HCl
【0025】
基板32の表面では、上記式(4)の反応に加え、一定の割合で下記式(5)の反応も起こる。下記式(5)の反応は、上記式(4)の逆反応であり、基板32の表面に結晶成長したシリコン膜がHClガスでエッチングされることを示している。下記式(5)の反応が活発になると、シリコン膜の結晶成長の速度は遅くなる。下記式(5)から明らかなように、気相成長室36内のHClガスの濃度が濃くなるほど、基板32の表面で下記式(5)の反応が起こり易くなり、シリコン膜の結晶成長の速度が遅くなる。
式(5):Si+3HCl→SiHCl+H
【0026】
気相成長装置10では、式(1)に示すように、加熱室8でSiHClガスをSiClガスとHClガスに分解する。その後、式(2)に示すように、混合室38でHClガスを除去することができる。そのため、式(5)の反応が起こりにくくなり、シリコン膜の成長速度を速くすることができる。なお、混合室38では、式(2)の反応によって、新たにSiHClガスが生成する。しかしながら、混合室38の温度は加熱室8の温度よりも低いので、SiHClガスの分解が抑制され、HClガスの発生が抑制される。
【実施例2】
【0027】
図2に示すように、気相成長装置50では、冷却室38aが、チャンバ37の外部に設けられている。冷却室38aには、冷却室38a内を冷却する冷却手段64が設けられている。冷却手段64として、熱交換器、ペルチェ素子が用いられることが望ましい。チャンバ37の上部にガス供給口62が設けられており、連通路60がガス供給口62に嵌め込まれている。連通路60によって、冷却室48と混合室38bが連通している。冷却室38aには、加熱室8から供給されたガスと、SiHClガスが供給される。冷却室38aでは、加熱室8から供給されたガスとSiHClガスが、混合されながら冷却される。よって、冷却室38aと混合室38bを併せて混合室38とみなすことができる。
【0028】
上記したように、気相成長装置50では、冷却手段62によって、混合室38内のガスを冷却することができる。加熱室8から供給されるガスの温度が高くても、混合室38内のガスの温度を所望する温度に調整することができる。上記式(2)で生じたSiHClガスが、再度SiClガスとHClガスに分解することをより確実に抑制することができる。
【0029】
上記実施例では、HClガスと反応するシラン系ガスとして、SiHClガスを使用する例を説明した。SiHClガスに代えて、例えば、モノシランガス(SiH)、ジシランガス(Si)、モノクロロシランガス(SiHCl)等を使用することもできる。これらのガスを使用する場合も、混合室38内のガスの温度を加熱室8内のガスの温度よりも低くすることが好ましい。なお、上記したように、SiHClガスは、HClガスを除去するだけでなく、分解によりSiClガスを生成する。そのため、HClガスと反応するシラン系ガスとして、SiHClガスを使用することが特に好ましい。なお、実施例のガスに加え、加熱室8又は混合室38に不純物のドーパントガスを供給してもよい。不純物のドーパントガスを供給すれば、n型又はp型のシリコン膜を結晶成長させることができる。
【0030】
基板32の材料として、シリコン、窒化アルミニウム(AlN)、サファイア(Al)、炭化シリコン(SiC)、スピネル(MgAlO)、III族窒化物半導体(GaN,AlGaN等)を使用することができる。基板32の材料としてシリコンを使用すれば、材料が同じなので、成長したシリコン膜に変形等の不具合が生じにくい。基板32の材料としてシリコン以外の材料を使用すれば、基板を加熱する温度をシリコンの融点近くに設定しても、基板に変形等が生じにくい。そのため、高品質のシリコン膜を結晶成長させることができる。なお、シリコン以外の材料としては、窒化アルミニウムと炭化シリコンが特に好ましい。窒化アルミニウムと炭化シリコンは、熱膨張係数がシリコンの熱膨張係数に近い。そのため、より高品質のシリコン膜を結晶成長させることができる。
【0031】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0032】
8:加熱室
10,50:気相成長装置
32:基板
36:気相成長室
38:混合室
40:第2貯蔵庫
42:第1貯蔵庫

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面にシリコン膜を成長させる気相成長装置であって、
気相成長室と、加熱室と、混合室と、トリクロロシランガスを貯蔵する第1貯蔵庫と、塩酸ガスと反応するシラン系ガスを貯蔵する第2貯蔵庫と、を備えており、
前記加熱室は、前記第1貯蔵庫と前記混合室に連通しており、前記第1貯蔵庫から供給された前記トリクロロシランガスを加熱した後に前記混合室に供給しており、
前記混合室は、前記第2貯蔵庫と前記気相成長室に連通しており、前記加熱室から供給されたガスと前記シラン系ガスを混合させて、その混合ガスを前記気相成長室に供給しており、
前記加熱室の室内温度が、前記混合室の室内温度よりも高い気相成長装置。
【請求項2】
前記シラン系ガスが、ジクロロシランガスである請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項3】
前記加熱室は、前記トリクロロシランガスを700〜1000℃に加熱する加熱手段を有する請求項1又は2に記載の気相成長装置。
【請求項4】
トリクロロシランガスを加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後のガスにシラン系ガスを反応させる反応工程と、
前記反応工程後のガスを基板の表面に供給する供給工程と、
を備えるシリコン膜の気相成長方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−182183(P2012−182183A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42290(P2011−42290)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】