説明

気相成長装置

【課題】転動部材が隣接する転動部材に乗り上がってしまうことを防止することができる自公転機構を備えた気相成長装置を提供する。
【解決手段】加熱手段によって加熱されるとともに駆動手段によって回転するサセプタ11に、該サセプタの周方向に複数の基板保持部材21を転動部材(ボール22,23)を介して回転可能に設け、前記サセプタの回転に伴って前記基板保持部材を回転させ、該基板保持部材に保持された基板12をサセプタの回転軸に対して公転させながら自転させる自公転構造を備えた気相成長装置において、前記転動部材として、径が異なる転動部材(大径ボール22及び小径ボール23)を交互に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相成長装置に関し、詳しくは、サセプタ上の基板を自公転させる機構を備えた気相成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フローチャンネル内のサセプタに保持した基板を所定温度に加熱した状態でフローチャンネル内に気相原料を供給し、前記基板面に薄膜を堆積させる気相成長装置として、複数枚の基板に均一に薄膜を形成するため、サセプタを回転させるとともに、該サセプタの回転に伴って基板を保持した基板保持部材(基板トレイ)を回転させ、成膜中の基板を自公転させる機構を備えた気相成長装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。このような自公転機構では、サセプタと基板保持部材との間に転動部材(ベアリング)介在させ、基板保持部材が円滑に回転するようにしている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−243060号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の気相成長装置における自公転機構では、隣接して回転する転動部材は互いに逆回転しているため、転動部材の表面が劣化して摩擦力が大きくなってくると、回転方向前方の転動部材に後方の転動部材が乗り上げてしまうおそれがある。このため、定期的に転動部材を新しいものに交換する必要があるが、転動部材を交換するためには、サセプタ全体をチャンバーの外に出さなければならず、チャンバーの開放など、大掛かりなメンテナンスが必要となり、時間とコストがかかっていた。
【0005】
そこで本発明は、転動部材が隣接する転動部材に乗り上がってしまうことを防止することができる自公転機構を備えた気相成長装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の気相成長装置は、加熱手段によって加熱されるとともに駆動手段によって回転するサセプタに、該サセプタの周方向に複数の基板保持部材を転動部材を介して回転可能に設け、前記サセプタの回転に伴って前記基板保持部材を回転させ、該基板保持部材に保持された基板をサセプタの回転軸に対して公転させながら自転させる自公転構造を備えた気相成長装置において、前記転動部材として、径が異なる転動部材を交互に配置したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の気相成長装置によれば、径が異なる転動部材を交互に配置することにより、隣接する転動部材を同じ方向に回転させることができるため、転動部材の乗り上がりを防止でき、安定した回転状態を長期にわたって継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の気相成長装置の一形態例を示す断面図である。
【図2】サセプタの平面図である。
【図3】要部の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本形態例に示す気相成長装置は、円盤状のサセプタ11の上面に6枚の基板12を載置可能とした多数枚自公転型気相成長装置であって、サセプタ11は、石英ガラス等で形成された円筒状のフローチャンネル13の内部に回転可能に設けられている。サセプタ11の下面中心部には回転軸14が、該回転軸14の周囲にはサセプタ11を介して基板12を加熱するためのヒーター15や温度計16がそれぞれ設けられ、ヒーター15の下方及び周囲は、リフレクター17で覆われている。フローチャンネル13の天板中央には、気相原料導入口18が開口しており、底板外周には排気口19が設けられている。
【0010】
基板12は、上面に基板保持凹部20を有する円盤状の基板保持部材(基板トレイ)21に保持されており、基板保持部材21は、カーボンやセラミックで形成された径が異なる転動部材である大径、小径の2種類のボール22,23を介して円盤状のガイド部材24にそれぞれ支持され、ガイド部材24は、サセプタ11の周方向に等間隔で設けられたガイド部材保持凹部25内に保持されている。また、基板保持部材21の外周下部には、外歯車26が設けられており、サセプタ11の外周位置には、基板保持部材21の外歯車26に歯合する内歯車27を有するリング状の固定歯車部材28が設けられている。さらに、固定歯車部材28の上方、内歯車27及び外歯車26の上方、及び、サセプタ11の中央部上面を覆うカバー部材29が設けられており、このカバー部材29の上面、基板保持凹部20の外周部上面、基板12の上面が面一になるようにしている。
【0011】
互いに対向する各基板保持部材21の下面及び各ガイド部材24の上面には、基板12の軸線を中心とするリング状のV溝21a,24aが対向してそれぞれ設けられており、両V溝21a,24a間に前記ボール22,23が転動可能に保持されている。なお、ガイド部材24は、製造上の都合でサセプタ11とは別体に形成しているが、V溝24aを備えたガイド部材24に相当するものをサセプタ11に一体に形成することも可能である。
【0012】
基板12への気相成長を行う際に、回転軸14を所定速度で回転させると、回転軸14と一体にサセプタ11が回転し、このサセプタ11の回転に伴って固定歯車部材28を除く各部材が回転し、基板12は、サセプタ11の軸線を中心として回転、即ち公転する状態となる。そして、固定歯車部材28の内歯車27に外歯車26が歯合することにより、基板保持部材21は、該基板保持部材21の軸線を中心として回転、即ち自転する状態となる。これにより、基板保持部材21に保持された基板12が、サセプタ11の軸線を中心として自公転することになる。
【0013】
このようにして基板12を自公転させ、かつ、ヒーター15からサセプタ11などを介して基板12を所定温度、例えば1100℃に加熱した状態で、気相原料導入口18から所定の気相原料、例えばトリメチルガリウムとアンモニアとをフローチャンネル13内に導入することにより、複数の基板12の表面に所定の薄膜を均一に堆積させることができる。
【0014】
このようにして基板12の表面に薄膜を堆積させる際に、基板保持部材21のV溝21aとガイド部材24のV溝24aとの間に配置された大小の2種類のボール22,23の中で径が大きなボール(大径ボール)22は、上下が両V溝21a,24aに挟まれて両方に接触しているため、公転しているガイド部材24に対して基板保持部材21が図3の矢印Aの方向に自転すると、大径ボール22は、図3の矢印Bに示す基板保持部材21の回転方向に向かって回転する。これに対し、両V溝21a,24aの間隔が大径ボール22の径によって決まるため、大径ボール22に比べて径が小さなボール(小径ボール)23は、自重によって下方に位置する基板保持部材21のV溝21aにのみ接触した状態になる。したがって、小径ボール23は、基板保持部材21の回転方向(矢印A)に向かって回転(矢印B)する大径ボール22に押され、基板保持部材21の回転方向に向かって基板保持部材21のV溝21a内を進むことになる。
【0015】
両V溝21a,24aの表面及び両ボール22,23の表面は、製造時には十分に平滑な状態に仕上げられているので、小径ボール23と大径ボール22との摩擦力は十分に小さく、大径ボール22に対して小径ボール23がどちらの方向に回転しても大径ボール22が小径ボール23に乗り上げることはなく、基板保持部材21は安定した状態で回転する。
【0016】
経時変化により両ボール22,23の表面が劣化し、小径ボール23と大径ボール22との摩擦力が、小径ボール23とV溝21aとの摩擦力より大きくなると、小径ボール23は、大径ボール22に押されてV溝21a内で滑り、大径ボール22の回転方向(矢印B)と逆方向の矢印Cの方向に回転する状態となる。したがって、隣接する両ボール22,23の接触部分は、同じ方向に進むように回転する状態となるので、大径ボール22が小径ボール23に乗り上げることはなく、基板保持部材21は、大径ボール22に支持されて安定した状態で回転することになる。
【0017】
したがって、基板保持部材21のV溝21aとガイド部材24のV溝24aとの間に、径が異なる大小の2種類のボール22,23を交互に配置することにより、両ボール22,23の表面が劣化して摩擦力が上昇しても、ボールの乗り上がりが発生することはなく、長期間にわたって基板保持部材21、すなわち、基板12を安定した状態で回転させることができる。
【0018】
なお、小径ボール23は、大径ボール22で支持した基板保持部材21のV溝21aの表面に接触しない径で、大径ボール22同士の間に挟まれる径に設定すればよく、通常は、大径ボール22の径よりも0.1〜10%小さな径とすればよい。但し、径の差が小さすぎるとボール22,23が交互に配置されているかの確認が困難になり、径の差が大きすぎるとボール数が多くなって不経済となり、径の小さなボールの回転抵抗が大きくなる。また、製造時から両ボール22,23の摩擦力を小径ボール23とV溝21aとの摩擦力より大きくしておくこともできる。さらに、大径ボール22と小径ボール23とを異なる材質で形成することもできる。
【0019】
また、本発明は、基板の薄膜形成面を下向きにした気相成長装置にも適用でき、基板をサセプタの回転軸に対して公転させる公転型気相成長装置、自転のみさせる自転型気相成長装置にも使用できる。さらに、各部の形状は、サセプタや基板の大きさなどの各種条件に応じて適宜設定することができ、カバー部材を省略することもでき、転動部材の形状はボールに限らず、転動部材の保持もV溝に限るものではない。
【符号の説明】
【0020】
11…サセプタ、12…基板、13…フローチャンネル、14…回転軸、15…ヒーター、16…温度計、17…リフレクター、18…気相原料導入口、19…排気口、20…基板保持凹部、21…基板保持部材、21a…V溝、22…大径ボール、23…小径ボール、24…ガイド部材、24a…V溝、25…ガイド部材保持凹部、26…外歯車、27…内歯車、28…固定歯車部材、29…カバー部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱手段によって加熱されるとともに駆動手段によって回転するサセプタに、該サセプタの周方向に複数の基板保持部材を転動部材を介して回転可能に設け、前記サセプタの回転に伴って前記基板保持部材を回転させ、該基板保持部材に保持された基板をサセプタの回転軸に対して公転させながら自転させる自公転構造を備えた気相成長装置において、前記転動部材として、径が異なる転動部材を交互に配置した気相成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−162752(P2012−162752A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21505(P2011−21505)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【出願人】(509054005)大陽日酸イー・エム・シー株式会社 (13)
【Fターム(参考)】