説明

液体吐出ヘッドの製造方法

【課題】吐出エネルギー発生素子とインク流路および吐出口との位置関係を高精度かつ再現性良く制御でき、印字特性の良好なインクジェットヘッドを安定して製造できる方法を提供する。
【解決手段】液体を吐出する吐出口2と連通する流路17を形成するための流路形成部材を基板1上に有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、基板1上に感光性樹脂からなる層を設け、その層上の流路17に対応した部位にマスク層を設け、感光性樹脂からなる層に対して露光を行い流路17の形状を有するパターンとし、このパターンを被覆するように流路形成部材となる層を設け、流路形成部材となる層の一部に吐出口2を形成し、そのパターンを除去して流路17を形成することを含む液体吐出ヘッドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッドの製造方法に関し、具体的には、被記録媒体にインクを吐出することにより記録を行うインクジェット記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を吐出する液体吐出ヘッドを用いる例としては、インクを被記録媒体に吐出して記録を行うインクジェット記録方式が挙げられる。
【0003】
インクジェット記録方式(液体噴射記録方式)には、インクジェット記録ヘッドが適用される。このインクジェット記録ヘッドは、一般に、インク流路と、その流路の一部に設けられた吐出エネルギー発生部と、そこで発生するエネルギーによってインクを吐出するための微細なインク吐出口(「オリフィス」と呼ばれる)とを備えている。インクジェットヘッドを製造するための方法の一例として、特許文献1に記載の方法がある。この方法においては、吐出エネルギー発生素子を有する基板上に感光性材料を用いて流路の型となるパターン層を形成し、その上に流路壁構成部材を設け、その後パターン層を除去することによりインク流路となる空間を形成する。この方法は半導体のフォトリソグラフィーの手法を応用したものであり、インク流路、吐出口等の形成に関して高精度で微細な加工が可能である。
【0004】
上述の流路の型となるパターンにはポジ型感光性樹脂が使用され、このポジ型感光性樹脂のパターニングにはフォトリソグラフィーの手法が用いられる。ポジ型感光性樹脂を露光する際の露光装置としては、必要な露光量の関係により、1対1の倍率で基板全体を一括で露光するタイプの露光装置が用いられる。ポジ型感光性樹脂の感光波長であるDeep−UV光(300nm以下の波長)を一括で照射するタイプの露光装置を用いて露光すると、以下のような場合が想定される。
【0005】
まず、基板上に設けられた大面積の対象物(ポジ型感光性樹脂)を一括で露光するため、対象物と露光に使用されるマスクとの位置合わせ精度が十分ではない。特に、8〜12インチ程度の大型ウエハ上で対象物の露光を行う際は、基板の反りやマスクのたわみ等の影響を受けるので、マスクと対象物のアライメント精度が、同一基板内および、露光に共される基板ごとにばらつく場合がある。
【0006】
また上述したようなポジ型感光性樹脂としては主鎖分解型のものが用いられるが、主鎖分解型のポジ型感光性樹脂は、紫外光に対して感度が低いものが多く、分解反応を十分に生じさせるには、大量のエネルギーを照射する必要がある。このため、露光時の発熱によりマスクと基板が不均一な熱膨張を生じ、解像性およびアライメント精度が悪化する場合がある。
【0007】
例えば特許文献1に記載されるようなインクジェット記録ヘッドの製造方法では、流路のパターンとなるポジ型感光性樹脂層および被覆樹脂層の露光は、基板上に形成されたアライメントマークを基準にして行うことが一般的である。アライメントのズレがない場合は、図14(A)に示すように、エネルギー発生素子20、流路の形状のパターン30、吐出口50の互いの位置関係が所望した位置関係となる。一方、上述のアライメント精度のばらつきが発生した場合、図14(B)に示すように、エネルギー発生素子20、流路の形状のパターン30、吐出口50の互いの位置関係が所望したものとは異なってしまうということがある。すると、製造されたヘッドにおいて、エネルギー発生素子や吐出口に対して、流路内の流体の抵抗が所望のものとならない可能性がある。以上からすると、上述のアライメントのばらつきが生じた場合には、製造されたインクジェット記録ヘッドの吐出に影響をおよぼすことが懸念される。
【特許文献1】米国特許4657631号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した課題を鑑みてなされたものであって、吐出エネルギー発生素子とインク流路および吐出口との位置関係を高精度かつ再現性良く制御でき、印字特性の良好なインクジェットヘッドを安定して製造できる方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の事項により特定される。
【0010】
[1]液体を吐出する吐出口と連通する流路を形成するための流路形成部材を基板上に有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記基板上に、感光性樹脂からなる層を設けること、
前記感光性樹脂からなる層上の前記流路に対応した部位に、前記感光性樹脂の感光波長をもつ光の透過を低減することが可能なマスク層を設けること、
前記マスク層をマスクとして前記感光性樹脂からなる層に対して露光を行い、感光性樹脂からなる層を前記流路の形状を有するパターンとすること、
前記パターンを被覆するように前記流路形成部材となる層を設けること、
前記流路形成部材となる層の一部に前記吐出口を形成すること、及び、
前記パターンを除去して前記流路を形成すること を含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【0011】
[2]感光性樹脂がポジ型感光性樹脂である前記[1]記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【0012】
[3]マスク層を設ける為に、
前記マスク層を形成するための、ナフトキノンジアジド誘導体とヒドロキシベンゾフェノン化合物とを含む層を前記感光性樹脂上に設けること、及び、
前記ナフトキノンジアジド誘導体とヒドロキシベンゾフェノン化合物とを含む層に対して露光を含むパターニングを行って前記マスク層を形成すること
を含む前記[1]記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【0013】
[4]露光後に、感光性樹脂の露光が行われた部分と共にマスク層を除去する前記[1]記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【0014】
[5]マスク層は2つの層からなる前記[1]記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【0015】
[6]ヒドロキシベンゾフェノン化合物が、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノンである前記[3]記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【0016】
[7]ナフトキノンジアジド誘導体とヒドロキシベンゾフェノン化合物とを含む層に対してi線を使用して露光を行う前記[3]記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【0017】
[8]感光性樹脂からなる層上の流路に対応した部位に、前記感光性樹脂の感光波長をもつ光の透過を低減することが可能なマスク層を設ける為に、
基板上に、感光性樹脂からなる第1の層と、該第1の層上に設けられた感光性樹脂からなる第2の層と、を形成すること、及び、
前記第2の層の上に前記マスク層を設けること
を含む前記[1]記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【0018】
[9]感光性樹脂からなる層上の流路に対応した部位に、前記感光性樹脂の感光波長をもつ光の透過を低減することが可能なマスク層を設ける為に、
基板上に、感光性樹脂からなる第1の層と、該第1の層の上に設けられた前記流路の一部の形状を有するパターンと、を設けること、及び、
前記流路の一部の形状を有するパターンと第1の層とを被覆するように前記マスク層を設けること
を含む前記[1]記載の液体吐出ヘッドの製造方法
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、吐出エネルギー発生素子とインク流路および吐出口との位置関係を高精度かつ再現性良く制御でき、印字特性の良好なインクジェットヘッドを安定して製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明では、同一の機能を有する構成には図面中に同一の番号を付与し、その説明を省略する場合がある。
【0021】
また、以下の説明では、液体吐出ヘッドの一例として、インクジェットヘッドを例示して説明する。液体吐出ヘッドは、カラーフィルターの製造等の産業分野に応用可能である。
【0022】
図1は、本発明の一例としてのインクジェットヘッドの構造を例示する模式的部分断面斜視図である。このインクジェットヘッドは、インクを吐出するための複数の吐出口15と、この吐出口に連通するとともにインクを吐出するための吐出エネルギー発生素子2を内包するインク流路17を有する。ここで「吐出エネルギー発生素子2を内包する」とは、インク流路17内の所定の箇所に吐出エネルギー発生素子2が設置されていることを意味する。また、インク流路17は、複数の吐出エネルギー発生素子2が形成された基板1に、インク流路形成部材13が形成されている。本実施形態では、インク流路形成部材に吐出口15が開口するように設けられている。
【0023】
(第1の実施形態)
図12、13は、本発明によるインクジェットヘッドの製造方法の一例を説明する図である。これらの図は、図1のインクジェットヘッドをB−B’線で切断した場合の模式的断面図に相当する。
【0024】
まず、図12(a)に示されるように、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子2を備えた基板1を用意する。エネルギー発生素子2としては、ヒーターや、圧電素子が挙げられる。基板1としてはシリコンが用いられる。エネルギー発生素子2の耐用性の向上を目的として、保護層等(不図示)の各種機能層が設けることが可能である。例えば、表面にはSiN、SiC、Taの膜が設けられる場合がある。
【0025】
次いで図12(b)に示されるように、流路の形状を有するパターンを形成するためのポジ型感光性樹脂からなる第1の層22を基板上に形成する。ポジ型感光性樹脂としては、例えば、ポリメチルイソプロペニルケトン、ポリビニルケトン等の主鎖分解型のポジ型感光性樹脂が挙げられる。また、メタクリル酸エステルを主成分とする高分子の主鎖分解型ポジ型感光性樹脂も挙げられる。例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート等のホモポリマー、メタクリル酸メチルとメタクリル酸、アクリル酸、グリシジルメタクリレート、フェニルメタクリレート等との共重合体を挙げることができる。またネガ型感光性樹脂を利用することも可能である。
【0026】
次いで、図12(c)に示されるように第1の層22をパターニングするためのマスクとなる、感光性の樹脂組成物からなる第2の層23を、第1の層22上に設ける。この樹脂組成物からなる層は、第1の層の感光性樹脂の感光波長をもつ光の透過を低減することが可能なマスク層である。この感光性の樹脂組成物に含まれるベースの樹脂としては、アライメント精度の観点からステッパーを用いてパターニングすることが好ましく、最も汎用的なi線(365nm)でパターニングできることが好ましい。また具体的には、i線を照射する縮小投影露光装置を用いて露光を行うことが好ましく、ノボラック樹脂とナフトキノンジアジド誘導体から成るポジ型フォトレジストが特に好ましい。一例としては、東京応化工業(株)から市販されているOFPR−800レジスト、iP−5700レジスト(商品名)等のナフトキノン系ポジ型フォトレジストを用いることができる。そして、この層に対して露光を含むパターニングを行ってマスク層を形成することが好ましい。
【0027】
感光性の樹脂組成物からなる第2の層23は、さらにヒドロキシベンゾフェノン化合物が含まれていることが好ましい。ナフトキノンジアジド系のレジストはパターニングする際に、アルカリ性現像液を用いると、ナフトキノンジアジド系レジストの表層部がジアゾ化反応を起こし、現像液に対する溶解性が低くなる現象が見られる。一方で、樹脂層下部は、アルカリに接していないため、溶解性は変化しないので、表層と下部とで、現像速度が異なることによりレジストマスクのパターンのエッジ形状の制御が困難になることも想像される。特に、マスク層を設ける為には、マスク層を形成するためのナフトキノンジアジド誘導体とヒドロキシベンゾフェノン化合物とを含む層を感光性樹脂上に設けることが好ましい。
【0028】
第2の層23がヒドロキシベンゾフェノン化合物を含む場合においては、ヒドロキシベンゾフェノン化合物の有するOH基の作用により、第2の層23のアルカリに対する溶解性が高くなる。このため、後述する第2の層をパターニングするための現像時において、露光された部分の現像速度が高められる。よってアルカリ環境下で第2の層の表層部でジアゾ化反応が行われた場合であっても、表層部が現像液に対して不溶化傾向となることを抑制し、表層と下部との現像速度を等しくなるようにすることができる。したがって、エッジが垂直となるように現像することが可能となる。
【0029】
また、上述の現像速度はヒドロキシベンゾフェノン化合物のOH基の数により変化することが発明者らにより見出された。特に、OH基が一つのヒドロキシベンゾフェノンでは、アルカリ溶液での現像において、表層部と下部で現像速度がほぼ等しくなり、レジストマスク24のエッジ部24aが垂直に近い形状で得られるのである。さらに、ヒドロキシベンゾフェノン化合物が長鎖のアルコキシ基のような疎水基を持つと、上層と下層のアルカリ現像速度を合わせることができて、垂直なパターニング形状が得られるため好ましい。
【0030】
ヒドロキシベンゾフェノン化合物としては、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,4ジヒドロキシベンゾフェノンが挙げられる。また、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,3’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0031】
ナフトキノンジアジド系レジストの固形分100質量部に対して、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物を5質量部以上、12質量部未満とすることが好ましい。
【0032】
さらに、ヒドロキシベンゾフェノン化合物は、第2の層23の遮光性を高めることができるという観点で好ましい。第1の層上の第2の層23は、第1の層22をフォトリソグラフィーにてパターニングするときのマスクとして用いるため、遮光性を要する。ヒドロキシベンゾフェノン化合物の有する芳香環の作用により、第1の層を形成するポジ型感光性樹脂を露光する波長の光に対する遮光性を高めることができる。よって、第2の層23の厚さを増すことなく、遮光性を高めることが可能となる。
【0033】
なお、第2の層23を塗布により第1の層22上に設ける場合には、第1の層22上を溶解させないように配慮をすることが好ましい。
【0034】
次いで、図12(d)に示されるように、マスクを用いて第2の層23を露光する。
【0035】
次いで、図12(e)に示されるように、現像を行い、流路の形状に対応したレジストレジストパターン24を形成する。このとき前述のヒドロキシベンゾフェノン化合物の作用により、エッジ部24aは第1の層22の表面に対してほぼ垂直な形状となる。
【0036】
次いで、図12(f)に示されるように、レジストパターン24をマスクとして第1の層22に対して露光を行う。このとき露光に用いられた光はレジストパターン24により遮光される。このときの遮光は光が第1の層22に向って透過しないように、光を吸収、反射、などさせることである。これは第1の層22に向かう光を完全に0にすることのみを意図せず、第1の層22に対して良好なパターンを得るために必要な程度、遮光をするということである。
【0037】
次いで、図12(g)に示されるように、マスクとして用いたレジストパターン24を除去する。レジストパターン24の除去は、溶剤を用いて行う。ここで、ナフトキノン系のポジ型フォトレジストは、一般的に、適量の露光量においてはポジ型のレジストとして機能し、露光部はアルカリ性の水溶液に容易に溶解する。しかしながら、大きな露光量を照射した場合には、主成分である樹脂の分子間で架橋反応が生じるため、アルカリ性の水溶液や一般的な有機溶剤には溶解しずらくなる場合がある。第1の層が厚膜である場合には、大量のエネルギー照射が必要となる。このため、レジストパターン24上にも大量のエネルギーが照射され、架橋反応が進行し、除去しずらくなることが考えられる。
【0038】
そこで水と任意の割合で混合可能な炭素数6以上のグリコールエーテルおよび含窒素塩基性有機溶剤および水の混合溶液が、架橋反応を生じたナフトキノン系フォトレジストの除去に有用である。この混合溶剤は、有機溶剤としての溶解性と、アルカリ水溶液としての溶解性とを兼ね備えていることから、架橋反応を生じたナフトキノン系フォトレジストを溶解させるに好適な特性を有しているものと推測される。
【0039】
次いで、図12(h)に示されるように、第1の層に対して現像を行い、インクジェットヘッドの流路の形状を有するパターン25(流路パターン25)を得る。マスクであるレジストパターン24のエッジ形状24aの垂直性が高いため、パターン25のエッジ部25aの形状も基板に対して垂直性が高くなっている。パターン25の形状は後述する流路17の壁の形状に転写される。このため、パターン25のエッジ部25aを基板に対して垂直に近い形状で形成できると、図13(c)における流路形成部材13によって形成される流路17の壁部分と基板1とのなす角θを90°に近づけることができる。角θが90°に近いと、基板1と流路形成部材13との接触面積を変わらない場合、流路17の容積が大きくなり、流路17内の流抵抗を下げることができ、吐出される液体の充填速度が上がるため好ましい。第1の層22にネガ型感光性樹脂を用いた場合には、露光を受けた部分が硬化するため、現像によりマスク24の下部が除去される。
【0040】
次いで、図13(a)に示されるように流路パターン25を被覆するように、前記パターン層上に流路形成部材13となる被覆層13aを設ける。膜厚20μmの材料を通常のスピンコート法、ロールコート法、スリットコート法等の塗布方法で形成する。ここで、流路形成部材13となる被覆層13aを形成するにおいては、流路パターン25を変形せしめない等の特性が必要となる。すなわち、被覆層をスピンコート、ロールコート等で流路パターン25上に積層する場合、溶解可能な流路パターン25を溶解しないように溶剤を選択する必要がある。また、流路形成部材13を形成するための材料としては、後述するインクの吐出口15をフォトリソグラフィーで容易にかつ精度よく形成できることから、感光性のものが好ましい。被覆樹脂層13aの材料としては、構造材料としての高い機械的強度、下地との密着性、耐インク性と、同時にインクの吐出口の微細なパターンをパターニングするための解像性が要求される。これらの特性を満足する材料としては、カチオン重合型のエポキシ樹脂組成物を好適に用いることができる。
【0041】
本発明に用いられるエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールAとエピクロヒドリンとの反応物のうち分子量がおよそ900以上のもの、含ブロモスフェノールAとエピクロヒドリンとの反応物を挙げることができる。また、フェノールノボラックあるいはo−クレゾールノボラックとエピクロロヒドリンとの反応物や、特開平2−140219号公報に記載のオキシシクロヘキサン骨格を有する多官能エポキシ樹脂等があげられるが、これら化合物に限定されるものではない。
【0042】
また、上述のエポキシ化合物においては、好ましくはエポキシ当量が2000以下、さらに好ましくはエポキシ当量が1000以下の化合物が好適に用いられる。
【0043】
上述のエポキシ樹脂を硬化させるための光カチオン重合開始剤としては、光照射により酸を発生する化合物を用いることができ、例えば旭電化工業株式会社より市販されているSP−150、SP−170、SP−172等を好適に用いることができる。
【0044】
さらに上記組成物に対して必要に応じて添加剤など適宜添加することが可能である。例えば、エポキシ樹脂の弾性率を下げる目的で可撓性付与剤を添加したり、あるいは下地との更なる密着力を得るためにシランカップリング剤を添加することなどが挙げられる。
【0045】
次いで、マスク(不図示)を介して被覆樹脂13a層10にパターン露光を行い、現像処理を施して吐出口15をエネルギー発生素子と対向する位置に形成した。次いで、パターン露光されたインク流路形成部材13を、適当な溶剤を用いて現像することにより吐出口15を形成して、図13(b)の状態を得る。
【0046】
図13(c)に示されるように、流路17と連通する液体の供給口(不図示)を基板に形成した後、パターン25を除去することにより流路17、流路形成部材13を得る。
【0047】
次いで、切断分離工程を経た後(不図示)、流路パターン25を溶解除去する。さらに、必要に応じて加熱処理を施すことにより、インク流路形成部材13をさらに硬化させた後、インク供給のための部材(不図示)との接合、エネルギー発生素子を駆動するための電気的接合(不図示)を行って、インクジェットヘッドを得ることができる。
【0048】
(第2の実施形態)
次いで本発明の第2の実施形態について、図1のインクジェットヘッドを、A−A’線で切断した場合の断面模式図である図15〜16を参照して説明する。
【0049】
まず、例えば図15(a)に示されるような、基板1を準備する。このような基板は、インク流路構成部材の一部として機能する。また、後述のインク流路およびインク吐出口を形成する材料層の支持体として機能し得るものであれば、その形状、材質等に特に限定されることなく使用することができる。一般的に、シリコン基板が用いられる。
【0050】
次いで、図15(b)に示すように、基板1上に、ポジ型感光性樹脂からなる第1の層22を形成する。ポジ型感光性樹脂からなる第1の層22については実施形態1と同様方法に従い設けることができる。
【0051】
次に、図15(c)に示すように、第一の層上に、ポジ型感光性樹脂からなる第1の層22の感光波長領域に対して遮光性を有する樹脂組成物層26を形成する。
【0052】
ここで用いられる樹脂組成物層26を形成する樹脂組成物は、後述する第1の層22をパターニングする再のマスクとして機能するものであり、第1の層22の感光波長領域の光を、遮光できることが必要である。さらに、後述する工程において、第2の層23のパターンをマスクとして、エッチングによりパターニングする必要がある。エッチングの方法としては、ウエットエッチングが好ましく、第2の層23の現像液に溶解するか、あるいは第2の層23を溶解しない溶剤に溶解することが好ましい。
【0053】
これらの要求を満足する樹脂組成物としては、被膜性を有する樹脂と、遮光材との混合物を用いることが好ましい。被膜性を有する樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸メチル、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシフェニルメタクリレート等のアクリルモノマーを主成分とするアクリル系ポリマー、ポリビニルアルコール等のビニル系ポリマー、フェノールノボラックやクレゾールノボラック等のノボラック系ポリマーのような汎用の樹脂を用いることができる。
【0054】
遮光材としては、上述の樹脂に、染料または顔料を適宜添加して用いることが可能であるが、第一のポジ型レジストの感光波長領域を遮光できるものを選択する必要がある。特に、少量で高い遮光性を得ることができる遮光材として、カーボンブラックやチタンブラックが挙げられる。特にカーボンブラックを用いることが好ましく、チャネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、ランプブラック等の公知のものを用いることができる。また、上述の樹脂に対する分散性を向上させる目的で、樹脂被覆カーボンブラックを用いることが好ましい。
【0055】
本発明に用いられる第1の層22の感光波長領域に対して遮光性を有する樹脂組成物としては、例えば、カーボンブラックをクレゾールノボラックに分散させることで、アルカリ可溶性の樹脂組成物とすることができる。
【0056】
次に、図15(d)に示すように、第一のポジ型レジストの感光波長領域に対して遮光性を有する樹脂組成物層上に、第2の層23を形成する。
【0057】
第2の層23としては、ネガ型、ポジ型のレジストがいずれも使用可能であるが、取扱が容易であることから、アルカリ現像可能なものが好ましい。さらに、本発明においては、アライメント精度の観点からステッパーを用いてパターニングすることが好ましく、最も汎用的なi線(365nm)でパターニングできることが好ましい。これらの要求を満足するレジストとしては、ノボラック樹脂とナフトキノンジアジド誘導体から成るポジ型フォトレジストが特に好ましい。一例としては、東京応化工業(株)から市販されているOFPR−800レジスト、iP−5700レジスト(商品名)等の汎用的なナフトキノン系ポジ型フォトレジストを用いることができる。
【0058】
次いで、図16(a)に示すように、第一のレチクル(マスク)27を介してパターン露光を行い、現像処理を行って流路の形状に対応したレジストパターン24を形成し図16(b)の状態を得る。
【0059】
この際、樹脂組成物層26として、アルカリ可溶性の樹脂組成物を用い、さらに第2の層23としてアルカリ現像タイプのポジ型フォトレジストを用いた場合には、第二のレジストの現像と、樹脂組成物のエッチングを同時に行うことができる。すると、図16(c)に示すように、レジストパターン24(上層)と、第1の層22の感光波長領域に対して遮光性を有する樹脂組成物からなる他のパターン28(下層)を、一括して形成することが可能である。
【0060】
第1の層22の感光波長領域に対して遮光性を有する樹脂組成物がアルカリに不溶の場合には、第2の層23からなるレジストパターン24をハードベークした後、これをマスクとして適当な有機溶剤によりエッチングを行っても良い。また、第二のレジストのパターンをマスクとして、ドライエッチングにより樹脂組成物をパターニングしても良い。
【0061】
レジストパターン24は、特に除去する必要はないが、その後の工程からの要求がある場合には、除去して図17(a)の状態を得ることができる。
【0062】
次に、レジストパターン24、他のパターン28をマスクとして、第1の層22の感光波長を用いて全面露光を行い(図17(b))、第1の層22の現像処理を行って、インク流路の形状を有するパターン25を形成する(図17(c))。このように、第1の層22を露光するマスクとして図中の24、28の2層を使用することで、露光に用いられる光の遮光性をさらに高めることが可能となる。また、他のパターン28はレジストマスク24を使用してパターニングされているので位置精度が高く形成されている。
【0063】
その後、マスクとして用いたレジストパターン24、他のパターン28を除去することで、インク流路の形状を有するパターン25が完成する(図17(d))。
【0064】
また、図17(a)に示す状態から、第1の層22に対して全面露光を行い、第1の層22を現像する際に、他のパターン28の除去を同時に行っても良い。
【0065】
以上によって形成された流路のパターン25を利用して、実施形態1で、図13を用いて説明した方法を行って、図17(e)に示すように流路17、吐出口5、流路形成部材13を形成する。
【0066】
(第3の実施形態)
図2〜6は、本発明によるインクジェットヘッドの製造方法の一例を説明する図である。これらの図は、図1のインクジェットヘッドをA−A’線で切断した場合の模式的断面図に相当する。また、図2〜6に示す方法は、上層と下層で形状の異なる2段構成の型パターンによって高さ方向に変化を付けたインク流路を形成する例である。以下、このようなインク流路を、2段構成のインク流路と言う。
【0067】
まず、図2(a)に示すように、第2の実施形態と同様にして基板1を準備する。
【0068】
次いで、図2(b)に示すように、エネルギー発生素子2が形成された基板1上に、第1のポジ型感光性樹脂層7を形成する。そして、図2(c)に示すように、第1のポジ型感光性樹脂層7の上に、第2のポジ型感光性樹脂層8をさらに積層する。
【0069】
前記の第1のポジ型感光性樹脂と第2のポジ型感光性樹脂は、感光波長領域が異なることが必要である。これは、一方のポジ型感光性樹脂を露光によりパターニングする際に、もう一方のポジ型感光性樹脂に影響を及ぼさないようにするためである。本発明においては、第1のポジ型感光性樹脂の感光波長領域を、第1の波長領域という。また、第2のポジ型感光性樹脂の感光波長領域を、第2の波長領域といい、第1の波長領域と第2の波長領域は異なることが必要である。
【0070】
第1および第2のポジ型感光性樹脂の好ましい例として、メタクリル酸エステルを主成分とする高分子の主鎖分解型ポジ型感光性樹脂と、ポリメチルイソプロペニルケトンの組み合わせがある。メタクリル酸エステルを主成分とする高分子の主鎖分解型ポジ型感光性樹脂は、一般に、200〜240nm付近に感光波長を有している。一方、ポリメチルイソプロペニルケトンは、260〜320nm付近に感光波長を有している。この組み合わせにおいて上下の位置関係に特に制限は無く、どちらが上層(第2のポジ型感光性樹脂層8)で、どちらが下層(第1のポジ型感光性樹脂層7)でも構わない。
【0071】
メタクリル酸エステルを主成分とする高分子の主鎖分解型ポジ型感光性樹脂は、単独重合体、共重合体のどちらでもよい。単独重合体の具体例としては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート等が挙げられる。共重合体の具体例としては、メタクリル酸メチルと、メタクリル酸、アクリル酸、グリシジルメタクリレート、フェニルメタクリレート等との共重合体が挙げられる。
【0072】
次いで、図2(d)に示すように、第2のポジ型感光性樹脂層8上に第1のレジスト9(第1のレジスト)を積層する。そして、図2(e)に示すように、第一のレチクル(マスク)10を介してパターン露光を行う。さらに、図3(a)に示すように、現像処理を行って、第2のポジ型感光性樹脂層8上に第1のレジストからなるマスク9'を形成する。
【0073】
第1のレジスト9は、第2のポジ型感光性樹脂層8をパターニングする為の露光工程[図3(b)]におけるマスクを構成する為のものである。したがって、第1のレジスト9は、第2のポジ型感光性樹脂の感光波長(第二の波長領域)に対して遮光性を有することが必要となる。なお、本発明においては、レジストにより形成されたマスクを「マスクレジスト」と称することがある。
【0074】
第1のレジスト9は、アライメント精度の観点からステッパーを用いてパターニングすることが好ましく、最も汎用的なi線(365nm)でパターニングできることが好ましい。また具体的には、i線を照射する縮小投影露光装置を用いて露光を行うことが好ましい。これらの要求を満足する好適なポジ型レジストとしては、例えば、ノボラック樹脂とナフトキノンジアジド誘導体から成るポジ型フォトレジスト、等のナフトキノンジアジド誘導体を含有するポジ型フォトレジストがある。その具体例としては、東京応化工業(株)から市販されているOFPR−800レジスト(商品名)、iP−5700レジスト(商品名)等の汎用的なナフトキノン系ポジ型フォトレジストが挙げられる。
【0075】
次いで、図3(b)に示すように、第1のレジストからなるマスク9'を介して、第2のポジ型感光性樹脂層8の感光波長を用いて全面露光を行う。この露光においては、第1のポジ型感光性樹脂層7は感光させないが第2のポジ型感光性樹脂層8を感光させ得る波長領域の光を選択的に照射する。そして、図3(c)に示すように、第1のレジストからなるマスク9'を除去する。さらに、図3(d)に示すように、第2のポジ型感光性樹脂層8の現像を行って、インク流路の型パターンの一部である型パターンの上層8'を形成する。なお、図3(c)のマスク9'の除去と、図3(d)の第2のポジ型感光性樹脂層8の現像処理は、同じ溶剤を用いて同時に行うこともできる。また、図3(d)の第2のポジ型感光性樹脂層8の現像処理は、図3(c)のマスク9'の除去の前に行うこともできる。
【0076】
図7は、第2のポジ型感光性樹脂層8を形成する樹脂の感光波長と第1のレジスト9の遮光性の一例を示すグラフである。ここでは、第2のポジ型感光性樹脂層8としてメタクリル酸メチル−メタクリル酸の共重合体(モノマー組成比=90:10)を用い、第1のレジストとして東京応化工業(株)製商品名iP−5700レジストを用いた。図中のDはポジ型感光性樹脂層8の吸収スペクトル、Eは、図3(a)の状態でのマスク9’の吸収スペクトル、Fは、図3(b)の工程を経た後のマスク9’の吸収スペクトルである。この図7より、上記共重合体の感光波長は主に250nm以下にあり(5μm膜厚時のデータ)、iP−5700レジスト(4μm膜厚時のデータ)を用いることにより共重合体の感光波長を遮光可能であることが分かる。また、ナフトキノン系のポジ型フォトレジストは、露光により退色して透明化することが知られているが、この例においては露光後も十分な遮光性を維持できることが分かる。
【0077】
図8は、光学フィルターを用いた場合の露光波長と照度を示すグラフである。ここでは、高圧水銀灯を具備する一括露光方式の露光装置に、260nm以上の波長の光をカットする光学フィルターを装着した場合(H)と、260nm以下の波長の光をカットする光学フィルターを装着した場合(G)の例を示す。また、図9に、先のE,Fのスペクトルとともに、ポリメチルイソプロペニルケトンのスペクトルIを示す。
【0078】
例えば、第1のポジ型感光性樹脂層としてポリメチルイソプロペニルケトン(PMIPK)を用いた場合(図9参照)は、260nm以上の波長の光をカットする光学フィルターを装着して露光を行うことが好ましい。なぜならば、第1ポジ型感光性樹脂層7は、260nm以上の波長に吸収を有するため、第2のポジ型感光性樹脂層8への露光の際に、第1ポジ型感光性樹脂層7に影響をおよぼす可能性があるためである。このような手法にて、第2のポジ型感光性樹脂層8を露光する[図3(b)]。
【0079】
第2のポジ型感光性樹脂層8の現像[図3(d)]は、例えば、上述した共重合体の分解物(主鎖分解反応により低分子量化したもの)を溶解し、かつ未反応物は溶解しない溶剤を用いて行うことができる。
【0080】
第1のレジストからなるマスク9'の除去[図3(c)]は、これを溶解もしくは剥離し得る溶剤を用いて行う。例えば、ナフトキノン系のポジ型フォトレジストは、一般に、適量の露光量においてはポジ型のレジストとして機能し、露光部はアルカリ性の水溶液に容易に溶解する。ただし、大過剰の露光量の場合には、主成分である樹脂の分子間で架橋反応が生じるので、アルカリ性の水溶液や一般的な有機溶剤には溶解し難くなることが知られている。特に、主鎖分解型のポジ型レジストは反応効率が比較的悪いので、厚い膜厚で使用する場合は大量のエネルギー照射が必要となる。このため、第1のレジストからなるマスク9'上にも大量のエネルギーが照射され、第1のレジスト内で架橋反応が進行し、除去し難くなる場合がある。
【0081】
本発明者等は鋭意検討の結果、以下の混合溶液を用いてマスクレジストを除去することが、特に好ましいことを見出した。
【0082】
少なくとも、
水と混合可能な炭素数6以上のグリコールエーテル、
含窒素塩基性有機溶剤、および、

を含有する混合溶液。
【0083】
この水と混合可能な炭素数6以上のグリコールエーテルとは、水と任意の割合で混合可能なものを意味する。特に、エチレングリコールモノブチルエーテルおよび/またはジエチレングリコールモノブチルエーテルを用いることが好ましい。含窒素塩基性有機溶剤としては、特にエタノールアミンおよび/またはモルフォリンを用いることが好ましい。
【0084】
この混合溶剤は、有機溶剤としての溶解性と、アルカリ水溶液としての溶解性とを兼ね備えている。したがって、例えば、架橋反応を生じたナフトキノン系フォトレジストからなるマスクを溶解させるに特に好適である。また、この混合溶液は、第二のポジ型レジストとして好適に使用可能な上述の共重合体の現像液としても機能し得る。したがって、上記混合溶剤または同様の機能を奏する溶剤を使用すれば、第2のポジ型感光性樹脂層8の現像処理と、第1のレジストからなるマスク9'の除去処理を同時に行うことができる。
【0085】
次いで、図4(a)に示すように、流路の形状のパターン(流路の型となる型パターン)の上層8'が形成された第1のポジ型感光性樹脂層7上に、第2のレジスト11を積層する。そして、図4(b)に示すように、第二のレチクル(マスク)12を介してパターン露光を行う。さらに、図4(c)に示すように、現像処理を行って、第1のポジ型感光性樹脂層7上に第2のレジスト11からなるマスク11'を形成する。
【0086】
第2のレジスト11は、第1のポジ型感光性樹脂層7をパターニングする為の露光工程[図4(d)]におけるマスクを構成する為のものである。したがって、第2のレジスト11は、第1のポジ型感光性樹脂層7の感光波長(第1の波長領域)に対して遮光性を有することが必要となる。
【0087】
また、第2のレジスト11は、第2のポジ型感光性樹脂からなる型パターンの上層8'による段差上に塗布形成されるので、段差のカバレッジを考慮した場合、第1のレジスト9の層よりも厚い層厚で積層することが好ましい。さらに、第2のレジストは、第1のレジスト9と同様に、アライメント精度の観点からステッパーを用いてパターニングすることが好ましく、最も汎用的なi線(365nm)でパターニングできることが好ましい。また具体的には、i線を照射する縮小投影露光装置を用いて露光を行うことが好ましい。これらの要求を満足する好適なポジ型レジストとしては、第1のレジスト9の例として既に挙げたものと同様である。したがって、第1のレジスト9および第2のレジストとして、同じ種類のレジストを用いることも好適な態様の一つである。
【0088】
次いで、図4(d)に示すように、第2のレジストからなるマスク11'を介して、第1のポジ型感光性樹脂層7の感光波長を用いて全面露光を行う。そして、図5(a)に示すように、第2のレジストからなるマスク11'を除去する。さらに、図5(b)に示すように、第1のポジ型感光性樹脂層7の現像を行なって、インク流路の型パターンの他の一部である型パターンの下層7'を形成する。なお、図5(a)のマスク11'の除去と、図5(b)の第1のポジ型感光性樹脂層7の現像処理は、同じ溶剤を用いて同時に行うこともできる。また、図5(b)の第1のポジ型感光性樹脂層7の現像処理は、図5(a)のマスク11'の除去の前に行うこともできる。
【0089】
図9は、第1のポジ型感光性樹脂層7の感光波長と第2のレジスト11の遮光性の一例を示すグラフである。ここでは、第1のポジ型感光性樹脂層7としてポリメチルイソプロペニルケトン(PMIPK)を用い、第2のレジスト11として東京応化工業(株)製商品名OFPR−800レジストを用いた。この図9より、PMIPKの感光波長は主に260〜320nm付近にあり(15μm膜厚時のデータ)、OFPR−800レジスト(4μm膜厚時のデータ)を用いることにより、PMIPKの感光波長を遮光可能であることが分かる。また、露光後も十分な遮光性を維持していることが分かる。
【0090】
したがって、マスク11'を介した全面露光[図4(d)]の際に用いる露光波長としては、例えば、260nm以下の波長の光をカットする光学フィルターを装着した場合のものを用いることができる。さらに、第1のポジ型感光性樹脂層7の現像[図5(a)]およびマスク11'[図5(b)]の除去は、先に説明した第2のポジ型感光性樹脂層8の現像およびマスク9'の除去の場合と同様にして行うことができる。
【0091】
以上のような各工程を経ることで、高精度にアライメントが制御された2段構成のインク流路の型パターン7'および8'を作製できる。
【0092】
上述の樹脂層、レジスト層の形成には、公知のスピンコート法、ロールコート法、スリットコート法等の塗布方法を用いることができる。また、ドライフィルム化されたポジ型レジストを用い、ラミネート法により形成しても良い。さらに、第1および第2のポジ型感光性樹脂には、基板面からの反射を防止する目的で、光吸収剤等の添加剤を添加して用いても良い。
【0093】
次いで、図5(c)に示すように、以上の各工程にて形成されたインク流路の型パターン7'および8'を、インク流路壁を構成するための被覆樹脂13aで被覆する。ここでは、例えば、被覆樹脂13aをスピンコート法、ロールコート法、スリットコート法等の方法で塗布すればよい。
【0094】
被覆樹脂13aは、インク流路形成部材として機能するものである。したがって、構造材料としての高い機械的強度、下地との密着性、耐インク性と同時に吐出口の微細なパターンをパターニングするための解像性等が要求される。これらの特性を満足する好適な材料として、エポキシ化合物と光カチオン重合開始剤を含むカチオン重合型のエポキシ樹脂組成物がある。
【0095】
以降の工程は、実施形態1で図13を用いて説明した方法と同様にして行って、図6に示されるような、2段形状の流路17を有するインクジェットヘッドを得る。図6において、2段流路17の上部を流路上部18、下部を流路下部19と区別する場合がある。
【0096】
以上、実施形態1〜3において説明した本発明の方法により、吐出エネルギー発生素子2とインク流路17および吐出口15との位置関係を高精度かつ再現性良く制御でき、印字特性の良好なインクジェットヘッドを安定して製造できる。
【0097】
また、本発明は3段以上の構成のインク流路を有するインクジェットヘッドの製造にも適用可能である。例えば3段構成のインク流路を形成する場合は、まずポジ型感光性樹脂層を3層形成し、上述のレジストマスクを介した露光、現像工程を、上層、中層、下層の順に行うことにより、3段構成のインク流路が形成される。
【実施例】
【0098】
以下に本発明の実施例を示す。なお、以下の記載において「部」は「質量部」を意味する。
【0099】
<実施例1>
(2段構成のインク流路を有するインクジェットヘッドの作製−1)
図2〜図6に示した工程に従って、2段構成のインク流路を有するインクジェットヘッドを作製した。
【0100】
まず、吐出エネルギー発生素子2が形成された基板1を準備した[図2(a)]。本例においては、基板1として8インチのシリコン基板、吐出エネルギー発生素子2として電気熱変換素子(材質HfB2からなるヒーター)を用いた。また、基板1のインク流路形成部位には、SiN+Taの積層膜を形成しておいた。
【0101】
次いで、吐出エネルギー発生素子2が形成された基板1上に、第1のポジ型感光性樹脂層7を形成した[図2(b)]。本例においては、第1のポジ型感光性樹脂としてポリメチルイソプロペニルケトンをスピンコートし、150℃で3分間のベークを行った。ベーク後のレジスト層7の厚さは15μmであった。
【0102】
引き続き、第1のポジ型感光性樹脂層7の上に、第2のポジ型感光性樹脂層8をさらに積層した[図2(c)]。本例においては、第2のポジ型感光性樹脂としてメタクリル酸メチル−メタクリル酸共重合体(モノマー組成比=90:10)を膜厚5μmとなるようスピンコートし、150℃で3分間のベークを行った。
【0103】
さらに、第2のポジ型感光性樹脂層8上に第1のレジスト9を積層した[図2(d)]。本例においては、第1のレジスト9として、ナフトキノン系ポジ型フォトレジスト(東京応化工業(株)製、商品名iP−5700レジスト)を膜厚4μmとなるよう積層した。その後、i線ステッパー(キヤノン(株)製、商品名i5)を用いて、第一のレチクル10を介して200J/m2の露光量で露光した[図2(e)]。そして、2.38質量%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液を用いて現像処理を施すことでパターニングして、第1のレジストからなるマスク9'を形成した[図3(a)]。
【0104】
次いで、マスク9'を介して、第2のポジ型感光性樹脂の感光波長を用いて全面露光を行った[図3(b)]。本例においては、260nm以上の波長の光をカットするフィルターを具備したDeep−UV露光装置(ウシオ電機(株)製、商品名UX−3000)を用いて、5000mJ/cm2の露光量で全面露光した。
【0105】
そして、以下の組成の混合溶剤(A)を用いて、マスク9'の除去と第2のポジ型感光性樹脂層8の現像を同時に行ない、インク流路の型パターンの上層8'を形成した[図3(c)、図3(d)]。
【0106】
混合溶剤(A):
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 60体積%、
エタノールアミン 5体積%、
モルフォリン 20体積%、および、
イオン交換水 15体積%。
【0107】
その上に、第2のレジストとしてナフトキノン系ポジ型フォトレジスト(東京応化工業(株)製、商品名OFPR−800レジスト)を膜厚4μmとなるように積層した[図4(a)]。その後、i線ステッパー(商品名i5)を用いて、第二のレチクル(マスク)12を介して800J/m2の露光量で露光した[図4(b)]。そして、2.38質量%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液を用いて現像処理を施すことでパターニングして、第2のレジストからなるマスク11'を形成した[図4(c)]。
【0108】
次いで、マスク11'を介して、第1のポジ型感光性樹脂の感光波長を用いて全面露光を行った[図4(d)]。本例においては、260nm以下の波長の光をカットするフィルターを具備したDeep−UV露光装置(商品名UX−3000)を用いて、10000mJ/cm2の露光量で全面露光した。そして、前記の混合溶剤(A)を用いて、マスク11'を除去した[図5(a)]。さらに、メチルイソブチルケトンを用いて第1のポジ型感光性樹脂層7を現像し、インク流路の型パターンの下層7'を形成した[図5(b)]。この結果、2段構成のインク流路の型パターン7'および8'が得られた。
【0109】
次いで、以下の組成の感光性樹脂組成物(A)(被覆樹脂13a)をインク流路の型パターン型パターン7'および8'上にスピンコートした(平板上膜厚15μm)。そして、90℃で2分間ホットプレートでプリベークを行い、被覆樹脂13aの層を形成した[図5(c)]。
【0110】
感光性樹脂組成物(A):
エポキシ化合物(ダイセル化学工業(株)製、商品名EHPE) 100部、
重合開始剤((株)アデカ製、商品名SP−172) 5部、
エポキシシランカップリング剤(日本ユニカー(株)製、商品名A−187) 5部、および、
メチルイソブチルケトン 100部。
【0111】
引き続き、被処理基板上に以下の組成の感光性樹脂組成物(B)を用いて、スピンコートにより1μmの膜厚となるように塗布し、80℃で3分間(ホットプレート)のプリベークを行い、撥インク剤層を形成した(不図示)。
【0112】
感光性樹脂組成物(B):
エポキシ化合物(ダイセル化学工業(株)製、商品名EHPE) 35部、
2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)ヘキサフロロプロパン 25部、
1,4−ビス(2−ヒドロキシヘキサフロロイソプロピル)ベンゼン 25部、
3−(2−パーフルオロヘキシル)エトキシ−1,2−エポキシプロパン 16部、
エポキシシランカップリング剤(日本ユニカー(株)製、商品名A−187) 4部、
重合開始剤((株)アデカ製、商品名SP−172) 5部、および、
ジエチレングリコールモノエチルエーテル 100部。
【0113】
次いで、i線ステッパー(商品名i5)を用いて、第三のレチクル(マスク)14を介して、4000J/m2の露光量でパターン露光した[図5(d)]。そして、ホットプレートにて120℃で120秒のPEB(露光後加熱)を行った。その後、メチルイソブチルケトンにて現像処理を行ない、イソプロピルアルコールにてリンス処理を行ない、100℃で60分間の熱処理を行って、φ8μmの吐出口15を形成した[図6(a)]。
【0114】
次いで、光学フィルターを装着していないDeep−UV露光装置(商品名UX−3000)を用いて、被覆樹脂13a越しに250000mJ/cm2の露光量で全面露光を行ない、インク流路の型パターン7'および8'を可溶化した。引き続き、乳酸メチル中に超音波を付与しつつ浸漬して、型パターン7'および8'を溶解除去することで、インク流路17を形成した[図6(b)]。なお、本実施例においては、インク供給口16の形成は省略した。
【0115】
以上のように作製した模擬的なインクジェットヘッドを、光学顕微鏡および電子顕微鏡を用いて観察し、吐出エネルギー発生素子2、型パターンの下層7'および上層8'、吐出口15の位置関係を評価した。なお、型パターンの下層7'の位置が1段目のインク流路の位置に相当し、型パターンの上層8'の位置が2段目のインク流路の位置に相当することになる。図10はそのズレ量の測定方法を示す図であり、図11はズレ量の測定位置を示す図である。図10に示すように、この評価は吐出エネルギー発生素子(ヒーター)2の中心位置Zと、各部位のxおよびy方向におけるズレ量を測定することで行なった。図11(A)は、吐出エネルギー発生素子2の中心位置(ヒーター中心)Zと、型パターンの下層7'の位置のxおよびy方向におけるズレ量を測定する場面を示している。図11(b)は、吐出エネルギー発生素子2の中心位置(ヒーター中心)Zと、型パターンの上層8'の中心位置とのxおよびy方向におけるズレ量を測定する場面を示している。図11(C)は、吐出エネルギー発生素子2の中心位置(ヒーター中心)Zと、吐出口15の中心位置とのxおよびy方向におけるズレ量を測定する場面を示している。評価の結果を表1に示す。
【0116】
【表1】

【0117】
<実施例2>
(2段構成のインク流路を有するインクジェットヘッドの作製−2)
図2〜図6に示した工程に従って、インクジェットヘッドを作製した。本実施例においては、実施例1と異なる点のみを以下に記載する。
【0118】
第1のポジ型感光性樹脂層7の形成には、メタクリル酸メチル−メタクリル酸の共重合体(モノマー組成比=90:10)を用い、レジスト層7の厚さは10μmとした[図2(b)]。第2のポジ型感光性樹脂層8の形成には、ポリメチルイソプロペニルケトンを用い、厚さは5μmとした[図2(c)]。第1のレジスト9としては、ナフトキノン系ポジ型フォトレジスト(商品名OFPR−800レジスト)を用い、膜厚は2μmとした[図2(d)]。i線ステッパーを用いた第一のレチクル10を介する露光は、500J/m2の露光量で行った[図2(e)]。
【0119】
第1のレジストからなるマスク9'を介する露光工程のフィルターとしては、260nm以下の波長の光をカットするフィルターを用い、6000mJ/cm2の露光量で行った[図3(b)]。そして、まずメチルイソブチルケトンを用いて第2のポジ型感光性樹脂層8を現像し[図3(d)]、その後実施例1と同一の混合溶剤(A)を用いてマスク9'を除去した[図3(c)]。
【0120】
第2のレジストとしては、ナフトキノン系ポジ型フォトレジスト(商品名iP−5700レジスト)を用い、膜厚は5μmとした[図4(a)]。i線ステッパーを用いた第二のレチクル12を介する露光は、300J/m2の露光量で行った[図4(b)]。
【0121】
第2のレジストからなるマスク11'を介する露光工程のフィルターとしては、260nm以上の波長の光をカットするフィルターを用い、8000mJ/cm2の露光量で行った[図4(d)]。そして、実施例1と同一の混合溶剤(A)を用いて、マスク11'の除去および第1のポジ型感光性樹脂層7の現像を同時に行った[図5(a)(b)]。
【0122】
その後は、実施例1と同様の工程[図5(c)〜図6(b)]にて、模擬的なインクジェットヘッドを作製し、実施例1と同様に評価した。評価結果を表2に示す。
【0123】
【表2】

【0124】
<実施例3>
(2段構成のインク流路を有するインクジェットヘッドの作製−3)
図2〜図6に示した工程に従って、インクジェットヘッドを作製した。本実施例においては、実施例1と異なる点のみを以下に記載する。
【0125】
第1のレジスト9としては、ナフトキノン系ポジ型フォトレジスト(商品名OFPR−800レジスト)を用い、膜厚は2μmとした[図2(d)]。i線ステッパーを用いた第一のレチクル10を介する露光は、500J/m2の露光量で行った[図2(e)]。
【0126】
第2のレジストであるナフトキノン系ポジ型フォトレジスト(商品名OFPR−800レジスト)の膜厚は、6μmとした[図4(a)]。
【0127】
その後は、実施例1と同様の工程[図4(b)〜図6(b)]にて、模擬的なインクジェットヘッドを作製し、評価した。評価結果を表3に示す。
【0128】
【表3】

【0129】
<実施例4>
(1段構成のインク流路を有するインクジェットヘッドの作製−1)
以下の工程に従って、1段構成のインク流路を有するインクジェットヘッドを作製した。
【0130】
まず、実施例1で用いたものと同じ吐出エネルギー発生素子2が形成された基板1を準備した[図2(a)]。次いで、この基板1上に、第1のポジ型感光性樹脂層7を形成した[図2(b)]。本例においては、第1のポジ型感光性樹脂としてメタクリル酸メチル−メタクリル酸の共重合体(モノマー組成比=90:10)を用い、レジスト層7の厚さは10μmとした。
【0131】
次いで、第2のポジ型感光性樹脂層8と第1のレジスト9に関する工程は省略して、第1のポジ型感光性樹脂層7上に直接、第2のレジストを積層した。本例においては、第2のレジストとして、ナフトキノン系ポジ型フォトレジスト(商品名iP−5700レジスト)を用い、膜厚5μmとなるよう積層した。その後、i線ステッパー(商品名i5)を用いて、第二のレチクル12を介して300J/m2の露光量で露光した。そして、2.38質量%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液を用いて現像処理を施すことでパターニングして、第2のレジストからなるマスク11'を形成した。
【0132】
次いで、マスク11'を介して、第1のポジ型感光性樹脂の感光波長を用いて全面露光を行った。本例においては、光学フィルターを装着していないDeep−UV露光装置(商品名UX−3000)を用いて、8000mJ/cm2の露光量で全面露光した。そして、実施例1と同一の混合溶剤(A)を用いて、マスク11'の除去および第1のポジ型感光性樹脂層7の現像を同時に行った。この結果、1段構成のインク流路の型パターン7'が得られた。
【0133】
その後は、実施例1と同様の工程[図5(c)〜図6(b)]にて、模擬的なインクジェットヘッドを作製し、評価した。評価結果を表4に示す。
【0134】
【表4】

【0135】
<実施例5>
(1段構成のインク流路を有するインクジェットヘッドの作製−2)
以下の工程に従って、インクジェットヘッドを作製した。本実施例においては、実施例4と異なる点のみを以下に記載する。
【0136】
第1のポジ型感光性樹脂層7の形成にはポリメチルイソプロペニルケトンを用い、レジスト層7の厚さは15μmとした。第2のレジストとしてはナフトキノン系ポジ型フォトレジスト(商品名OFPR−800レジスト)を用い、膜厚は3μmとした。i線ステッパーを用いた第二のレチクル12を介する露光は、500J/m2の露光量で行った。
【0137】
マスク11'の除去および第1のポジ型感光性樹脂層7の現像については、まずマスク11'の除去を混合溶剤(A)を用いて行い、次いでメチルイソブチルケトンを用いて第1のポジ型感光性樹脂層7の現像を行なった。この結果、1段構成のインク流路の型パターン7'が得られた。
【0138】
その後は、実施例1と同様の工程[図5(c)〜図6(b)]にて、模擬的なインクジェットヘッドを作製し、評価した。評価結果を表5に示す。
【0139】
【表5】

【0140】
<比較例1>
まず、第1のポジ型感光性樹脂層および第2のポジ型感光性樹脂層の形成までは、実施例1と同じ工程を行った[図2(a)〜(c)]。この比較例では、図19に示されるように、基板上には、第1のポジ型感光性樹脂層3、第2のポジ型感光性樹脂層4が設けられる。
【0141】
次いで、第2のマスク5を介して、260nm以上の波長の光をカットするフィルターを具備したDeep−UV露光装置(商品名UX−3000)を用いて、5000mJ/cm2の露光量でパターン露光した[図19(a)]。次いで、実施例1と同一の混合溶剤(A)を用いて第2のポジ型感光性樹脂層(第2のポジ型感光性材料層4)を現像し、インク流路の型パターンの上層4'を形成した[図19(b)]。
【0142】
次いで、第1のマスク6を介して、260nm以下の波長の光をカットするフィルターを具備したDeep−UV露光装置(商品名UX−3000)を用いて、10000mJ/cm2の露光量でパターン露光した[図19(c)]。次いで、メチルイソブチルケトンを用いて第1のポジ型感光性樹脂層(第1のポジ型感光性材料層3)を現像し、インク流路の型パターンの上層3'を形成した[図19(d)]。この結果、2段構成のインク流路の型パターン3'および4'が得られた。
【0143】
その後は、実施例1と同様の工程[図5(c)〜図6(b)]にて、模擬的なインクジェットヘッドを作製し、実施例1と同様にして評価した。評価結果を表6に示す。
【0144】
【表6】

【0145】
<実施例6>
まず、エネルギー発生素子としてのヒーター2(材質TaSiN)と、液体の流路形成部位にSiNとTaの積層膜(不図示)を有するシリコン基板1を準備した(図12(a))。
【0146】
次いで、基板上に、ポリメチルイソプロペニルケトンをスピンコートし、120℃で6分間のベークを行い第1の層22として形成した。ベーク後のレジスト層の膜厚は15μmであった。
【0147】
引き続き、レジストマスクを形成するため、iP−5700レジスト(東京応化工業(株)製)と2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン(三協化成(株)製)とを含む組成物を膜厚4μmとなるよう積層して第2の層23を形成した(図12(c))。
【0148】
その後、i線ステッパー(キヤノン製、i5)を用いて、マスクを介して、第2の層を8000J/m2の露光量で露光した(図12(d))。
【0149】
次いで2.38wt%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液を用いて現像し、レジストパターン24を形成した(図12(d))。
【0150】
次いで、レジストパターン24をマスクとして、Deep−UV露光装置(ウシオ電機製、UX−3000)を用いて14000mJ/cm2の露光量で全面露光した(図12(f))。その後、以下の組成の混合溶剤を用いてレジストパターン24の除去を行った。
【0151】
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 60vol%
エタノールアミン 5vol%
モルフォリン 20vol%
イオン交換水 15vol%
次いで、メチルイソブチルケトンにより第1の層22の現像を行いインク流路パターン25を形成した(図12(h))。
【0152】
次いで、以下の組成からなる感光性樹脂組成物を用いてスピンコートを行い(平板上膜厚15μm)、90℃で2分間(ホットプレート)のプリベークを行い、被覆樹脂層9を形成した(図13(a))。
【0153】
EHPE(ダイセル化学工業製) 100部
SP−172(アデカ製) 5部
A−187(東レ・ダウコーニング製) 5部
メチルイソブチルケトン 100部
引き続き、被処理基板上に以下の組成からなる感光性樹脂組成物を用いて、スピンコートにより1μmの膜厚となるように塗布し、80℃で3分間(ホットプレート)のプリベークを行い、撥インク剤層を形成した(不図示)。
【0154】
EHPE(ダイセル化学工業製) 35部
2,2−(4−グリシジルオキシフェニル)ヘキサフロロプロパン 25部
1,4−ビス(2−ヒドロキシヘキサフロロイソプロピル)ベンゼン25部
3−(2−パーフルオロヘキシル)エトキシー1、2―エポキシプロパン 16部
A−187(東レ・ダウコーニング製) 4部
SP―172(アデカ製) 5部
ジエチレングリコールモノエチルエーテル 100部
次いで、i線ステッパー(キヤノン製、i5)を用いて、4000J/m2の露光量にてパターン露光した後)、ホットプレートにて90℃で240秒のPEBを行った。その後メチルイソブチルケトンにて現像、イソプロピルアルコールにてリンス処理を行い、140℃で60分間の熱処理を行って、インク吐出口5を形成した(図13(b))。なお、本実施例ではφ8μmの吐出口パターンを形成した。
【0155】
次いで、Deep−UV露光装置(ウシオ電機製、UX−3000)を用い、被覆樹脂越しに250000mJ/cm2の露光量で全面露光を行い、インク流路パターンを可溶化した。引き続き乳酸メチル中に超音波を付与しつつ浸漬して流路パターンを溶解除去することで、流路7を形成した(図13(c))。
【0156】
なお、インク供給口9(不図示)の形成に関する記載は省略する。
【0157】
(実験例)
レジストパターンの膜厚と、ベンゾフェノン化合物を異ならせた液体吐出ヘッドを上述の実施例に基づいて作成し、流路の壁と基板との角度について評価を行った。なお、その他の点については上述の実施例と同様にして行った。
【0158】
結果を表7に、また評価基準を下記に示す。
【0159】
【表7】

【0160】
<評価基準>
流路壁の垂直性は図13に示されるθ(流路壁が基板面と成す角)で評価した。
◎:θが90°
〇:θが90°未満85°程度
△:θが85未満であるが、基板と流路形成部材との接触面積から判断してヘッドとしての使用に問題がないレベル。
【0161】
また、以上の実験例において作成した液体吐出ヘッドにおいて、流路のパターン25を形成する際の露光において、第1のポジ型感光性樹脂に形状が崩れる等のダメージは見られなかった。これは、レジストパターン24による遮光性が十分であったためであると考えられる。
【0162】
<実施例7>
図15に示した工程に従って、インクジェットヘッドを作成した。まず、図15(a)に示されるような、基板1を準備した。基板にはエネルギー発生素子2が設けられている。
【0163】
次いで図15(b)に示すように、基板1上に、第1のポジ型レジスト22として、ポリメチルイソプロペニルケトンをスピンコートし、150℃で3分間のベークを行った。ベーク後のレジスト層の膜厚は14μmであった。
【0164】
次に、図15(c)に示すように、第一のポジ型レジストの感光波長領域に対して遮光性を有する樹脂組成物26として、以下の組成からなる樹脂組成物をスピンコートし、120℃で3分間のベークを行った。ベーク後の樹脂組成物層の膜厚は1.5μmであった。
【0165】
クレゾールノボラック樹脂 50部
カーボンブラック分散液 30部(平均粒径100nm、カーブンブラック20wt%含有、3−メトキシブチルアセテート溶剤)
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 70部
引き続き、図15−dに示すように、レジスト23として、東京応化工業(株)製iP−5700レジストを膜厚3μmとなるよう積層した。その後、i線ステッパー(キヤノン製、i5)を用いて、第一のレチクル27を介して200J/m2の露光量で露光し(図16(a))、2.38wt%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液を用いて現像した。この際、樹脂組成物26のエッチングも同時に行った(図16(c))。
【0166】
次いで、レジストマスク24、パターン28をマスクとして、Deep−UV露光装置(ウシオ電機製、UX−3200)を用いて8000mJ/cm2の露光量で全面露光した(図17(b))。
【0167】
その後、メチルイソブチルケトンを用いてポジ型感光性樹脂22を現像しつつ、レジストマスク24、パターン28の除去を行って、インク流路パターン25を形成した(図17(d))。
【0168】
次いで、以下の組成からなる感光性樹脂組成物を用いてスピンコートを行い(平板上膜厚11μm)、90℃で2分間(ホットプレート)のプリベークを行い、流路パターン25を被覆する層を形成した(不図示)。
【0169】
EHPE(ダイセル化学工業製)100部
SP−172(アデカ製) 5部
A−187(日本ユニカー製) 5部
メチルイソブチルケトン 100部
引き続き、被処理基板上に以下の組成からなる感光性樹脂組成物を用いて、スピンコートにより1μmの膜厚となるように塗布し、80℃で3分間(ホットプレート)のプリベークを行い、撥インク剤層を形成した(不図示)。
【0170】
EHPE(ダイセル化学工業製) 35部
2、2―ビス(4―グリシジルオキシフェニル)ヘキサフロロプロパン 25部
1、4―ビス(2―ヒドロキシヘキサフロロイソプロピル)ベンゼン 25部
3―(2―パーフルオロヘキシル)エトキシー1、2―エポキシプロパン 16部
A−187(日本ユニカー製) 4部
SP―172(アデカ製) 5部
ジエチレングリコールモノエチルエーテル 100部
次いで、i線ステッパー(キヤノン製、i5)を用いて、4000J/m2の露光量にてパターン露光した後、ホットプレートにて120℃で120秒のベークを行った。その後メチルイソブチルケトンにて現像、イソプロピルアルコールにてリンス処理を行い、100℃で60分間の熱処理を行って、インク吐出口15を形成した。なお、本実施例ではφ13μmの吐出口パターンを形成した。
【0171】
次いで、Deep−UV露光装置(ウシオ電機製、UX−3200)を用い、被覆樹脂越しに250000mJ/cm2の露光量で全面露光を行い、インク流路パターン25を可溶化した。引き続き乳酸メチル中に超音波を付与しつつ浸漬してインク流路パターンを溶解除去することで、インク流路17を形成した(図17(e))。
【0172】
以上のように作成した模擬的なインクジェットヘッドを、光学顕微鏡および電子顕微鏡を用いて観察し、エネルギー発生素子、インク流路、吐出口の位置関係を評価した。なお、評価は、本来のインク流路の位置からの、xおよびy方向へのズレ量を測定することで行なった。ズレ量の測定方法を図18に示す。図18において、xは流路に沿った方向のズレ量、yはxに垂直な方向のズレ量、15は吐出口、2はエネルギー発生素子、17はズレ量0の場合の流路の位置、17aはズレが生じた場合の流路の位置を示す。
【0173】
<比較例2>
図15(b)に示したポジ型感光性樹脂の層22として、ポリメチルイソプロペニルケトンを用いた。そして、図17(b)に示した露光工程において、レジストマスク24、他のパターンマスク28を使用せずに、UV露光装置(ウシオ電機製、UX−3200)を用いてパターン露光を行った。
【0174】
その後現像処理を行って、インク流路のパターンを作成した。その後の工程は、実施例7と同様の工程にてインクジェットヘッドを作成した。
【0175】
実施例7と比較例2の評価結果を表8に併せて示す。
【0176】
【表8】

【図面の簡単な説明】
【0177】
【図1】本発明に係るインクジェットヘッドの一例を示す模式的斜視図である。
【図2】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図3】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図4】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図5】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図6】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図7】本発明の一例に用いられるポジ型感光性樹脂とマスクに用いられるレジストの吸収スペクトルを示す図である。
【図8】本発明の一例に用いられる光の波長と強度の関係を示す図である。
【図9】本発明の一例に用いられるポジ型感光性樹脂とマスクに用いられるレジストの吸収スペクトルを示す図である。
【図10】評価方法を説明するための模式図である。
【図11】評価方法を説明するための模式図である。
【図12】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図13】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図14】従来技術および課題を説明するために使用される図である。
【図15】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図16】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図17】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図18】評価方法を説明するための模式図である。
【図19】比較例を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0178】
1 基板
2 エネルギー発生素子
3 第1のポジ型感光性材料層
4 第2のポジ型感光性材料層
5 第2のマスク
6 第1のマスク
7 第1のポジ型感光性樹脂層
7’ 型パターンの下層
8 第2のポジ型感光性樹脂層
8’ 型パターンの上層
9 第1のレジスト
9’ 第1のレジストからなるマスク
10 第一のレチクル
11 第2のレジスト
11’ 第2のレジストからなるマスク
12 第二のレチクル
13 インク流路形成部材
13a 被覆層
14 第三のレチクル
15 吐出口
17 流路
18 流路上部
19 流路下部
20 エネルギー発生素子
22 第1のポジ型レジスト
23 第2のレジスト
24 レジストマスク
24a エッジ部
25 流路パターン
25a エッジ部
26 樹脂組成物
27 第一のレチクル
28 パターン
30 パターン
50 吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口と連通する流路を形成するための流路形成部材を基板上に有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記基板上に、感光性樹脂からなる層を設けること、
前記感光性樹脂からなる層上の前記流路に対応した部位に、前記感光性樹脂の感光波長をもつ光の透過を低減することが可能なマスク層を設けること、
前記マスク層をマスクとして前記感光性樹脂からなる層に対して露光を行い、感光性樹脂からなる層を前記流路の形状を有するパターンとすること、
前記パターンを被覆するように前記流路形成部材となる層を設けること、
前記流路形成部材となる層の一部に前記吐出口を形成すること、及び、
前記パターンを除去して前記流路を形成すること を含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
感光性樹脂がポジ型感光性樹脂である請求項1記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
マスク層を設ける為に、
前記マスク層を形成するための、ナフトキノンジアジド誘導体とヒドロキシベンゾフェノン化合物とを含む層を前記感光性樹脂上に設けること、及び、
前記ナフトキノンジアジド誘導体とヒドロキシベンゾフェノン化合物とを含む層に対して露光を含むパターニングを行って前記マスク層を形成すること
を含む請求項1記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
露光後に、感光性樹脂の露光が行われた部分と共にマスク層を除去する請求項1記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
マスク層は2つの層からなる請求項1記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
ヒドロキシベンゾフェノン化合物が、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノンである請求項3記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
ナフトキノンジアジド誘導体とヒドロキシベンゾフェノン化合物とを含む層に対してi線を使用して露光を行う請求項3記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
感光性樹脂からなる層上の流路に対応した部位に、前記感光性樹脂の感光波長をもつ光の透過を低減することが可能なマスク層を設ける為に、
基板上に、感光性樹脂からなる第1の層と、該第1の層上に設けられた感光性樹脂からなる第2の層と、を形成すること、及び、
前記第2の層の上に前記マスク層を設けること
を含む請求項1記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
感光性樹脂からなる層上の流路に対応した部位に、前記感光性樹脂の感光波長をもつ光の透過を低減することが可能なマスク層を設ける為に、
基板上に、感光性樹脂からなる第1の層と、該第1の層の上に設けられた前記流路の一部の形状を有するパターンと、を設けること、及び、
前記流路の一部の形状を有するパターンと第1の層とを被覆するように前記マスク層を設けること
を含む請求項1記載の液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−131954(P2010−131954A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320819(P2008−320819)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】