説明

液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、脱泡方法、及びマイクロアレイ製造方法

【課題】本発明は、多種の液体を取り扱う場合でも、確実に液体から気泡を除去し得る液滴吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、複数の流路(14)が形成された基板(10)と、基板(10)の一面側に設けられ、各流路(14)にそれぞれ連通する複数の圧力室(34)を備え、圧力室(34)に供給された液体を液滴として吐出する液滴吐出部(30)と、基板(10)の他面側に設けられ、各流路(14)に連通可能な複数の収容空間(24)を備える液体収容部(20)と、を有し、流路と圧力室を同数備え、収容空間を流路の数の整数倍備えており、液体収容部は、流路に連通する収容空間を変更できるように、基板に対して相対的に変位可能に設けられている、液滴吐出ヘッド(1)を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体から気泡を除去するために適した液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液滴装置は、ヘッドチップ(液滴吐出部)を備える液滴吐出ヘッド有し、この液滴吐出ヘッドを移動操作して、記録用紙や基板等に複数の液滴を着弾させる。
【0003】
このような液滴吐出装置において液滴の吐出不良が生じる原因の一つとして、ヘッドチップ内への気泡の侵入が挙げられる。また、ヘッドチップ内に気泡が侵入すると、この気泡を取り除くのは極めて困難である。
【0004】
かかる問題を解決すべく、液滴として吐出する液体を液滴吐出ヘッドに供給する前に、液体からの脱泡を行う機構を備えた液滴吐出装置(液滴付与装置)が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
ところが、特許文献1に記載の装置では、供給する液体から一括してしか脱泡をおこなうことができない。
【0006】
かかる構成を、例えば、マイクロアレイを作製する装置のように、多種少量の液体を取り扱う装置に適用しても、複数種の液体から効率よく脱泡するのが困難である。
【特許文献1】特開2000−251689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、例えば、多種の液体を取り扱う場合でも、確実に液体から気泡を除去し得る液滴吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、複数の流路が形成された基板と、前記基板の一面側に設けられ、前記各流路にそれぞれ連通する複数の圧力室を備え、該圧力室に供給された液体を液滴として吐出する液滴吐出部と、前記基板の他面側に設けられ、前記各流路に連通可能な複数の収容空間を備える液体収容部と、を有し、前記流路と前記圧力室を同数備え、前記収容空間を前記流路の数の整数倍備えており、前記液体収容部は、前記流路に連通する収容空間を変更できるように、前記基板に対して相対的に変位可能に設けられていることを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、収容空間は流路の整数倍備えられていることから、液体収容部を基板に対してある位置(以下「第1の位置」という)に配置したときに流路が連通する収容空間にのみ液体を供給し、液体収容部を前記第1の位置から別の位置(以下「第2の位置」という)に変位させたときに流路が連通する収容空間を空にしておくことができる。このとき、液体収容部を第1の位置に配置すれば液滴を吐出することができる。一方、液体収容部を第2の位置に配置し、収容空間を覆って閉空間を形成した状態で、吐出口から液滴吐出ヘッド内部の気体を吸引すれば、該閉空間内の気圧を低下させることが可能となり、収容部に収容された液体から気泡を除去することができる。このような方法で気泡を除去すれば、各収容空間に収容された液体が接触することもないので、各液体収容部に異なる種類の液滴が収容されていても、同時に効率よく脱泡できる。
【0010】
上記液体収容部は、基板に対して相対的にスライド可能に設けられていることが好ましい。このような構成により、液体収容部を基板に対して安定して相対的に変位させることが可能となる。
【0011】
また、本発明は、上述した本発明に係る液滴吐出ヘッドと、収容空間を覆うことにより閉空間を形成するキャップと、各収容空間をキャップで覆うことにより閉空間を形成した状態で、液滴吐出部の吐出口から吸引して、閉空間内を減圧することができる減圧手段と、を有する液滴吐出装置も提供する。このような構成によれば、各収容空間をキャップで覆って閉空間を形成し、該閉空間内を減圧して液体中の気泡を除去する一連の工程を、一つの装置で効率よく行うことができる。
【0012】
また、本発明は、このような液滴吐出装置を用い、液滴吐出ヘッドの収容空間に収容された液体から気泡を除去する方法をも提供する。本発明に係る脱泡方法は、液体収容部を基板に対して所定の位置に配置し、収容空間のうち流路に連通していない収容空間に、液体を供給する工程と、液体収容部をキャップで覆うことにより閉空間を形成する工程と、減圧手段により、液滴吐出部の吐出口から吸引して閉空間を減圧し、液体から気泡を除去する工程と、を含む。
【0013】
液体収容部をキャップで覆うことにより、全収容空間は閉空間内に密閉されるが、各収容空間はキャップ内の空間で通じている状態となる。この状態で、基板に形成された流路を空の収容空間に連通させ、液滴吐出部の吐出口から吸引すると、空の収容空間、流路、及び圧力室を通じて閉空間内が排気され減圧される。閉空間内が減圧されることにより、収容空間に収容された液体中の気体は、閉空間内に放出される。このような方法によれば、気泡の除去の際、各収容空間に収容された液体同士が接触することもないので、各液体収容部に異なる種類の液滴が収容されていても、同時に効率よく脱泡できる。尚、液体の気泡を除去する目的を果たす限り、上記脱泡方法の各工程の順序は入れ替えてもよく、順序を入れ替えた脱泡方法も本発明に包含される。
【0014】
上記液体として生物由来物質を含む液体を用いることも好ましい。上述のように、各収容空間に収容された液体が接触することがないので、コンタミネーションが生じるおそれがない。
【0015】
また、本発明は、上述の脱泡方法を利用したマイクロアレイ製造方法も提供する。本発明に係るマイクロアレイ製造方法は、本発明の脱泡方法によって、液体から気泡を除去する工程と、液体収容部を前記基板に対して相対的に変位させ、各流路を前記液体が収容された収容空間に連通させる工程と、液体を圧力室に導入し、該液体を基板に対して吐出する工程とを含むことを特徴とする。このような方法によれば、生物由来物質を含む試料液体からの気泡の除去と、基板に対する吐出とを繰り返すことによって、気泡による流路の詰まりを生じることなく、効率よくマイクロアレイを作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0017】
(液滴吐出ヘッド)
図1に、本発明に係る液滴吐出ヘッド1の概略斜視図を示す。図1(A)に示されるように、液滴吐出ヘッド1は、複数の流路が形成された基板10と、複数のウェル(収容空間)24を備える液体収容部20とを有している。基板10の、液体収容部20と接する面と反対側の面(図中下側の面)の中央には、後述する液滴吐出部が設けられており、ウェルに収容された液体は、基板10の流路を介して液滴吐出部のノズル孔から吐出される。また、図1(B)に示されるように、液体収容部20は、基板10に対して相対的にスライドできる構成となっている。以下、液体収容部20と基板10の構成について説明する。
【0018】
液体収容部20には、本実施形態では、8行×12列で96のウェル24が設けられている。このように規則的な配列とすることにより、各ウェル24に分注装置を用いて効率よく液体を供給することができる。液体収容部20は、例えば、図3(A)及び(B)に概略平面図が示されるような、2枚の基板を貼りあわせることによって形成することができる。図3(A)に示される基板20aには、貫通孔24が、8行×12列で96個形成されている。貫通孔の直径や基板の厚さを変更することにより所望の堆積の液体を収容できるウェルを形成することが可能である。一方、基板20bには、基板20aの各貫通孔24の中心となる位置に、96個の微細な貫通孔26が形成されている。基板20b上に基板20aを重ね、貼りあわせて固定することによって、貫通孔24は液体を収容可能なウェルとなる。基板20bに設けられた貫通孔26は、後述する基板10の流路に接続する。
【0019】
また、基板20bは、基板20aよりも短手方向の幅が長くなるように形成されているので、両者を貼り合せると、基板20aの長手方向の両端から基板20bが突出し、この部分が一対のレール部22となる。図1に示されるように、レール部22は、後述する基板10に形成された一対のレール嵌合部12に嵌合する。
【0020】
一方、基板10には、一方の主面に、基板中央に向かって集束する溝14が48本形成されている。基板10を液体収容部20と重ね合わせることによって、この溝14が流路として機能するようになる。各溝14の基板外側の端部は、液体収容部20と重ね合わせると、基板20bに設けられた貫通孔26のうち、一列おきの貫通孔26の位置に一致する。すなわち、溝14の基板外側の端部は、基板20bの貫通孔26のうち、左から第1、3、5、7、9、11列の計48個、又は左から第2、4、6、8、10、12列の計48個の貫通孔26bに同時に接続する。また、溝14の基板中央側の末端には、溝14が形成された主面とは反対側の主面に抜ける貫通孔が形成されている。この貫通孔により、溝14によって形成される流路が後述する液滴吐出部の圧力室34に連通する。尚、基板10の長手方向の両端には、図1に示すように、レール嵌合部12が設けられており、ここに、基板20bの長手方向の両端、すなわちレール部22を嵌合させることにより、液体収容部20は、基板10に対して相対的に安定してスライドできるようになる。
【0021】
尚、基板20a、20b、及び基板10のそれぞれの接合には、例えば、熱圧着や接着剤による接着等の方法を用いることができる。また、これらの基板の構成材料としては、それぞれ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、又はこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイのような各種樹脂材料、各種ガラス材料、各種金属又は金属酸化物材料等が挙げられる。
【0022】
これらの材料を用い、基板20a及び20bは、例えば、型を用いた射出成形することにより作製することができる。また、溝14や、貫通孔24、26等は、射出成形やドライエッチング、ウェットエッチング、ブラスト加工等の方法により形成することができる。
【0023】
次に、基板10の図中下面側の中央に固定されるヘッドチップ(液滴吐出部)30の構成について説明する。図4に、ヘッドチップ30の一例として、静電駆動方式のヘッドチップの拡大断面図を示す。説明の便宜上、図4には、ヘッドチップ30とともに基板10のみが示されている。ヘッドチップ30は、電極36が形成された電極基板31、圧力室34を形成する圧力室基板32、及びノズル孔35が形成されたノズル基板33により形成されている。圧力室34に流入した液体は、図示しない共通電極と電極36との間に電圧を加えると、振動板37が変位することによって加圧され、ノズル孔35から吐出される。尚、電極基板31には、図中下側の面から溝が形成され、その天井部に電極36が形成されているため、電極36と振動板37との間にはわずかな空隙(エアギャップ)が形成されている。電極基板31、圧力室基板32、ノズル基板33の材料は特に限定されないが、吐出される液体に生体試料が含まれる場合には、ガラス、シリコン等が適している。
【0024】
以上は静電駆動方式型のヘッドチップを例に挙げて説明したが、液滴の吐出方法は、これに限定されず、例えば、圧電素子の作動により圧力室の容積を変化させる方法(インクジェット方式)、ペルチェ素子(加熱手段)の作動により圧力室内に気泡を生じさせる方法(バブルジェット(登録商標)方式等、いかなる方法であってもよい。
【0025】
図5に、以上のような基板10、液体収容部20、及びヘッドチップ30から構成される液滴吐出ヘッド1の、概略断面図を示す。図5(A)及び(B)は、それぞれ図1(A)におけるVA−VA線、図1(B)におけるVB−VB線に沿った断面図である。基板20aに設けられた貫通孔がウェル24となり、基板10に設けられた溝が流路14となり、ウェル24と流路14とが、基板20bに設けられた貫通孔26によって連通する。図5(A)に示される場合、流路14は、96個のウェル24のうち、左から第1、3、5、7、9、11列目のウェル計48個に連通している。図5(B)に示される場合、流路14は、左から第2、4、6、8、10、12列目のウェル計48個に連通している。
【0026】
(液滴吐出装置及びマイクロアレイ作製装置)
次に、このような液滴吐出ヘッド1を備える液滴吐出装置について、マイクロアレイ作製装置を例に挙げて説明する。
【0027】
図6に、本発明に係る液滴吐出装置の一例であるマイクロアレイ作製装置の概略斜視図を示す。
【0028】
図6に示すマイクロアレイ作製装置100は、基台110、液滴吐出ヘッド1を保持し、X軸方向に往復移動するX軸方向移動機構120と、基板150を載置するテーブル130と、テーブル130を保持し、Y軸方向に往復移動するY軸方向移動機構140と、脱泡用のキャップを格納するキャップ格納部160と、減圧手段170と、各部の駆動を制御する制御部180とを備えている。
【0029】
キャップ格納部160及び減圧手段170は、それぞれ、液滴吐出ヘッド1の格納位置(ホームポジション)に設けられており、図示しないZ軸方向移動機構により、液滴吐出ヘッド1に接近及び離間可能となっている。
【0030】
X軸方向移動機構120、Y軸方向移動機構140及びZ軸方向移動機構は、それぞれ、例えば、タイミングベルト機構やボールネジ機構等を用いて数値制御方式等により移動させ得るよう構成されている。
【0031】
また、基台11には、減圧手段170の側部に、液滴吐出ヘッド1の液体収納部20と当接し得る当接板190が設けられている。
【0032】
ここで、キャップ格納部160と、減圧手段170について説明する。
【0033】
キャップ格納部160は、ウェル24を覆うキャップ161を備えている。キャップ161は、液滴吐出ヘッド1がホームポジションにあるとき、液滴吐出ヘッド1の上面にすべてのウェル24を覆うように密着することができ、その内部に閉空間を形成する。キャップ161は、例えば、弾性材料で形成することができる。弾性材料としては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、ヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。
【0034】
キャップ161を弾性材料で構成することにより、液滴吐出ヘッド1の液体収納部3の上面と密着させることが可能となり、閉空間の気密性を向上させることができる。尚、キャップ161を硬質部材で構成し、キャップ161の開口縁部に、弾性材料によるシールリングを設けるようにしてもよい。
【0035】
一方、減圧手段170は、液滴吐出ヘッド1がホームポジションにあるときに、そのノズル形成面に密着できるキャップ171を有し、さらに、ポンプ、及びキャップ171とポンプを接続するチューブを備えている。キャップ171は、上述したキャップ161と同様の構成とすることができるので、ここでは説明を省略する。また、キャップ171を液滴吐出ヘッド1のノズル形成面に密着させて閉空間を形成し、ポンプを作動させることにより、該閉空間が減圧される。このとき、圧力室34、流路14、及びウェル24が空であれば、キャップ161内部の閉空間も減圧される。
【0036】
(脱泡方法及びマイクロアレイ作製方法)
以上のようなマイクロアレイ作製装置100では、プローブ(生体由来物質)を含有する液体を液滴吐出ヘッド1から液滴として吐出し、基板150に着弾させてマイクロアレイを作製する。
【0037】
まず、プローブを含有する液体及び基板150について説明する。
【0038】
プローブには、例えば血液、尿、唾液、髄液のような生体サンプル(検査対象物)に含まれる標的物質(ターゲット)を捕捉し得る物質を用いることができる。
【0039】
例えば、ターゲットがDNAやRNAのような核酸である場合には、プローブとしては、これらの核酸とハイブリダイゼーション(相補的に結合)する核酸やヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)等を用いることができる。このような核酸としては、例えばcDNAやPCR産物等が用いられる。
【0040】
また、これらの核酸及びオリゴヌクレオチドは、それぞれ、一部が他原子により置換されたものであってもよく、蛍光分子等の標識が導入されたものであってもよい。
【0041】
また、ターゲットが特定のタンパク質である場合には、プローブとしては、このタンパク質を特異的に捕捉(例えば、吸着、結合等)するもの等が用いられる。
【0042】
具体的には、抗原、抗体、レセプター、酵素等のタンパク質、ペプチド(オリゴペプチド)が挙げられる。
【0043】
また、これらのタンパク質及びペプチドは、それぞれ、一部が他原子により置換されたものであってもよく、蛍光分子等の標識が導入されたものであってもよい。
【0044】
尚、プローブとしてタンパク質を使用する場合、このプローブとなるタンパク質を表面に発現した細胞(生細胞)を液体に混合してもよい。
【0045】
液体の調製に用いる媒質(溶媒又は分散媒)としては、プローブの種類に応じて適宜選択され、特に限定されないが、前述したようなプローブの場合には、例えば水や各種緩衝液等が好適に用いられる。
【0046】
この媒質には、粘度や表面張力等を制御する各種添加剤が添加されていてもよい。このような添加剤としては、単価アルコール、多価アルコール、界面活性剤等が挙げられる。
【0047】
液体の粘度は、1〜10cps程度であるのが好ましく、2〜5cps程度であるのがより好ましい。また、液体の表面張力は、10〜60mN/m程度であるのが好ましく、20〜40mN/m程度であるのがより好ましい。
【0048】
基板150としては、特に限定されないが、例えば、ガラス、シリコン、金属(例えば金、銀、銅、アルミニユウム、白金等)、金属酸化物(例えばSrTiO3、LaAlO3、NdGaO3、ZrO2、酸化ケイ素等)、樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート)等よりなる基板を用いることができる。
【0049】
また、基板150は、1種類の材料で構成されたもの(単層基板)でもよく、複数種の材料を組み合わせたもの(例えば、複数層の積層基板等)であってもよい。
【0050】
尚、基板150としては、ガラス基板を用いるのが好適である。ガラス基板は、入手の容易さ、低コストであること等から好ましい。
【0051】
また、基板150には、必要に応じて、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、プローブを基板150の表面に確実に固定するための処理(固相化処理)等が挙げられる。
【0052】
固相化処理としては、プローブと共有結合又はイオン結合する官能基、例えばチオール基、アミノ基、イソシアネート基、クロライド基、エポキシ基等を導入する処理等が挙げられる。
【0053】
基板150としてガラス基板を用いる場合には、前記官能基は、これを有するカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等)で処理することにより導入することができる。
【0054】
その他、固相化処理としては、プローブが核酸やヌクレオチドの場合、ポリ−L−リジンの被着、プラズマ重合膜の形成等の方法を用いるようにしてもよい。また、活性化エステルを基板150に被着させる表面処理を行うとともに、プローブの末端(例えば、二重鎖DNA断片のセンス鎖末端)をアミノ化するようにしてもよい。これにより、活性化エステルとアミノ基の共有結合を介してプローブが基板150に強固に固定される。
【0055】
一方、プローブがタンパク質やペプチドである場合、タンパク質とアミド結合を形成する活性基を、基板150の表面に導入する表面処理等を行う。これにより、プローブを基板150に強固に固定することができる。活性基としては、カルボニルイミダゾール基、エポキシ基等が挙げられる。
【0056】
以下、マイクロアレイ作製装置100によるマイクロアレイの作製方法(作用)について、図7を参照しつつ説明する。尚、図7では、説明の便宜上、現実には断面上に現れない流路14が、断面図上に描かれている。
【0057】
図7は、マイクロアレイの作製方法を説明するための図である。
【0058】
まず、液体収容部20を基板10に対してスライドさせ、図1(A)に示される配置とする。このとき、図7(A)に示されるように、基板10の流路14は、ウェル24のうち左から第1、3、5、7、9、11列目に位置する計48個に連通する。次に、ウェル24のうち、第2、4、6、8、10、12列目に位置する計48個に、吐出するための液体を供給する。液体の供給方法は特に限定されず、例えば、ピペットを用いた手法により各ウェル24に共有してもよいし、分注装置を用いて複数のウェル24に一括して供給してもよい。これにより、空のウェル24のみが流路14を介して圧力室35に連通することになり、液体を収容したウェル24は圧力室35から遮断される。
【0059】
次に、液滴吐出ヘッド1をX軸方向移動機構120の端部に固定し、X軸方向移動機構120を駆動してホームポジションに移動させる。
【0060】
続いて、図7(B)に示すように、キャップ161を矢印の方向に下降させて、液体収容部20の上面に密着させ、内部に閉空間を形成する。同時に、減圧手段170のキャップ171を矢印の方向に上昇させて、ヘッドチップ30のノズル形成面に密着させ、内部に閉空間を形成する。尚、キャップ161の開口部がより大きい場合には、ヘッドチップ30のノズル形成面ではなく基板10の下面に密着させて、ノズル孔35を覆う閉空間を形成してもよい。
【0061】
次に、図7(C)に示すように、減圧手段170のポンプを作動させて、キャップ171内部の閉空間を減圧する。これにより、流路14、貫通孔26、ウェル24、及びキャップ171内の閉空間も減圧され、ウェル24に収容された液体中の気泡は溶けきれなくなって、小矢印に示されるようにキャップ171内の閉空間に放出される。
【0062】
マイクロアレイ作製装置100では、液体として複数種のもの(異なる生体由来物質を含む液体)が用いられるが、かかる構成によれば、複数種の液体から一括して脱泡を行うことができるので作業性に優れ、マイクロアレイの製造時間の短縮、製造コストの削減を図ることができる。
【0063】
十分に脱泡されたら、ポンプを停止し、キャップ161及び171を液滴吐出ヘッド1から離間させる。
【0064】
次に、X軸方向移動機構120を駆動して、液滴吐出ヘッド1を、ホームポジションから、基台110の外側(図7中、右側)に向かって移動させる。液滴吐出ヘッド1を移動させると、液体収納部20が当接板190に当接し、それ以上、基台110の外側に移動するのが阻止される(図7(c)参照。)。
【0065】
さらに、X軸方向移動機構120を、基台110の外側に向かって移動させると、当接板190により移動が阻止された液体収納部20に対して、基板10がスライドを開始する。これにより、液体収納部20が基板10に対して相対的に移動する(図7(D)参照。)。こうして、液体が収容されたウェル24が、流路14によって圧力室35と連通する。
【0066】
次に、キャップ171を上昇させる。これにより、減圧手段171のキャップが、液滴吐出ヘッド1のヘッドチップ30のノズル孔形成面又は基板10の下面に密着し、ヘッドチップ30の各ノズル孔がキャップで覆われ、閉空間が形成される。
【0067】
この状態で、ポンプにより閉空間を減圧する。これにより、各ノズル孔先端まで均一かつ確実に液体が充填される。
【0068】
次に、キャップ171を下降させた後、液滴吐出ヘッド1とテーブル130とを相対的にX軸方向及びY軸方向に移動させ、液滴吐出ヘッド1から基板150に液滴を吐出する。
【0069】
これにより、基板150上には、スポットが複数形成される。このスポットのスポット径は、10〜300μm程度であるのが好ましく、15〜150μm程度であるのがより好ましい。
【0070】
また、スポットの平面形状(基板150の鉛直上方から見た形状)は、一般には円形形状とされるが、非円形形状であってもよい。この非円形形状としては、例えば、楕円形、十字型、記号、数字等が挙げられる。
【0071】
基板150上には、スポットを1種類の形状で形成してもよく、2種類以上の形状を組み合わせて形成するようにしてもよい。
【0072】
非円形形状のスポットを形成する場合、このものは、マイクロアレイ上の特定位置を識別するための位置標識として用いてもよく、プローブの種類や、検査・解析の結果を示すための形状としてもよい。これにより、このマイクロアレイを用いる検査・解析が容易になる。
【0073】
液体のスポットが形成された基板150を、必要に応じて、インキュベート(加温)するようにしてもよい。これにより、プローブを基板150上により確実に定着(固定)させることができる。
【0074】
インキュベートの方法としては、例えば、基板150を加熱する方法、液体を加熱する方法等を用いることができる。加熱の方法としては、例えば、ヒータによる加熱、レーザ光の照射、赤外線や電磁波の付与等のうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0075】
インキュベートの温度は、25〜40℃程度が好ましい。また、インキュベートの時間も、特に限定されないが、前記温度範囲で行う場合には、30分〜24時間程度であるのが好ましい。
【0076】
以上のような工程を経て、マイクロアレイが得られる。
【0077】
このように、本発明によれば、液体同士が混ざり合うこと(コンタミネーション)を防止しつつ、各液体からの確実な脱泡や、各ノズル孔への確実な液体の充填等を行うことができ、その結果、高精度での液滴吐出が可能となる。
【0078】
以上、本発明の液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0079】
例えば、本発明の液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置の各部の構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成のものを付加することもできる。例えば、各部材の間に、シール材、シールリング等を配置して、気密性を向上させることができる。また、上述の実施形態では、流路14が48個、ウェル(収容空間)24が96個であり、収容空間が流路及び圧力室の2倍となっている構成を例にとって説明したが、ウェルは流路の3倍以上であってもよい。
【0080】
また、前記実施形態では、本発明の液滴吐出装置をマイクロアレイ作製装置に適用した場合を代表に説明したが、本発明の液滴吐出装置は、複数種のインクを吐出するプリンタに適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の液滴吐出ヘッドの概略斜視図である。
【図2】流路基板の概略平面図である。
【図3】液体収容部を構成する基板の概略平面図である。
【図4】液滴吐出部の概略断面図である。
【図5】液滴吐出ヘッドの概略断面図である。
【図6】液滴吐出装置の概略斜視図である。
【図7】本発明に係る脱泡方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0082】
1…液滴吐出ヘッド、10、20a、20b…基板、12…レール嵌合部、14…流路、20…液体収容部、22…レール部、24…ウェル(収容空間)、26…貫通孔、30…ヘッドチップ(液滴吐出部)、100…液滴吐出装置、160…キャップ格納部、161、171…キャップ、170…減圧手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の流路が形成された基板と、
前記基板の一面側に設けられ、前記各流路にそれぞれ連通する複数の圧力室を備え、該圧力室に供給された液体を液滴として吐出する液滴吐出部と、
前記基板の他面側に設けられ、前記各流路に連通可能な複数の収容空間を備える液体収容部と、を有し、
前記流路と前記圧力室を同数備え、前記収容空間を前記流路の数の整数倍備えており、
前記液体収容部は、前記流路に連通する収容空間を変更できるように、前記基板に対して相対的に変位可能に設けられている、液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記液体収容部は、前記基板に対して相対的にスライド可能に設けられている、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液滴吐出ヘッドと、
前記収容空間を覆うことにより閉空間を形成するキャップと、
前記各収容空間を前記キャップで覆うことにより前記閉空間を形成した状態で、前記液滴吐出部の吐出口から吸引して該閉空間内を減圧する減圧手段と、を有する液滴吐出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の液滴吐出装置を用い、前記液滴吐出ヘッドの収容空間に収容された液体から気泡を除去する脱泡方法であって、
前記液体収容部を前記基板に対して所定の位置に配置し、前記収容空間のうち前記流路に連通していない収容空間に、前記液体を供給する工程と、
前記液体収容部を前記キャップで覆うことにより前記閉空間を形成する工程と、
前記減圧手段により、前記液滴吐出部の吐出口から吸引して前記閉空間を減圧し、前記液体から気泡を除去する工程と、を含む脱泡方法。
【請求項5】
前記液体として、生物由来物質を含む液体を用いる、請求項4に記載の脱泡方法。
【請求項6】
請求項5に記載の脱泡方法によって、前記液体から気泡を除去する工程と、
前記液体収容部を前記基板に対して相対的に変位させ、前記各流路を前記液体が収容された収容空間に連通させる工程と、
前記液体を前記圧力室に導入し、該液体をマイクロアレイ用基板に対して吐出する工程と、を含む、マイクロアレイ製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−218804(P2007−218804A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41438(P2006−41438)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】