説明

磁気抵抗素子及び磁気メモリ

【課題】垂直磁気異方性を有し、かつより大きな磁気抵抗効果を発現することが可能な磁気抵抗効果素子を提供する。
【解決手段】膜面に垂直方向に磁化容易軸を有する第1強磁性層2と、膜面に垂直方向に磁化容易軸を有する第2強磁性層10と、第1強磁性層と第2強磁性層との間に設けられた非磁性層6と、第1強磁性層と非磁性層との間に設けられた第1界面磁性層4と、第2強磁性層と非磁性層との間に設けられた第2界面磁性層8と、を備え、第1界面磁性層は、第1強磁性層側に設けられた第1界面磁性膜4aと、非磁性層側に設けられ第1界面磁性膜と組成が異なる第2界面磁性膜4cと、第1界面磁性膜と第2界面磁性膜との間に設けられた第1非磁性膜4bとを備え、第1強磁性層と第2強磁性層との間に非磁性層を通して電流を流すことにより、第1強磁性層および第2強磁性層の一方の磁化方向が可変となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気抵抗素子及び磁気メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗素子(magnetoresistive element)としてのMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子は、第1の強磁性層、トンネルバリア層、及び第2の強磁性層の積層を基本構造とし、トンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magnetoresistive)効果を示すことが知られており、100Mbpsi(bits per square inch)級HDD用ヘッドや磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetic Random Access Memory)に応用されている。
【0003】
MRAMは、MTJ素子に含まれる磁性層の磁化の相対角度の変化により情報(“1”、“0”)を記憶するという特徴があり、このため不揮発である。また、磁化反転速度は、数ナノ秒であることから、データの高速書き込み、高速読み出しが可能である。従って、MRAMは、次世代の高速不揮発性メモリとして期待されている。また、スピン分極電流により磁化を制御するスピン注入磁化反転と呼ばれる方式を利用すれば、MRAMのセルサイズを低減することで電流密度が増える。このため、容易に磁性体の磁化反転を実現でき、高密度、低消費電力のMRAMを構成することが可能である。
【0004】
さらに近年では、MgOをトンネルバリア層に用いることで1000%もの磁気抵抗比が得られることが理論的に示され、これが注目を集めている(例えば、非特許文献1)。これは、MgOを結晶化させることにより、強磁性層から特定の波数を持った電子のみが波数を保存したまま選択的にトンネル伝導することが可能となる。このとき、特定の結晶方位でスピン分極率が大きな値を示すことから、巨大な磁気抵抗効果が発現する。したがって、MTJ素子の磁気抵抗効果を大きくすることが、MRAMの高密度化、低消費電力化に直結する。
【0005】
一方、不揮発性メモリの高密度化を考えた場合、磁気抵抗素子の高集積化は欠かせない。しかし、磁気抵抗素子を構成する強磁性体は、素子サイズの低減化に伴い熱擾乱耐性が劣化するため、如何にして強磁性体の磁気異方性及び熱擾乱耐性を向上させるかが課題となる。
【0006】
この問題を解決するために近年、強磁性体の磁化が膜面に垂直な方向を向く垂直磁化MTJ素子を利用したMRAMの構築が試みられている。垂直磁化MTJ素子では、一般的に結晶磁気異方性の大きな材料を強磁性体に用いる。このような材料は、磁化が特定の結晶方向を向いており、構成元素の組成比、結晶性を変化させることで結晶磁気異方性の大きさを制御することができる。よって、結晶の成長方向を変化させることにより磁化の方向を制御することができる。また、強磁性体自身が高い結晶磁気異方性を有するので素子のアスペクト比が1に設定でき、さらに熱擾乱耐性が高いので、集積化に適している。これらのことを鑑みると、MRAMの高集積化、及び低消費電力化を実現するには、大きな磁気抵抗効果を発現する垂直磁化MTJ素子を作成することが極めて重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Butler W. H., Zhang X. G., Schulthess T. C., MacLaren J. M., “Spin-dependent tunneling conductance of Fe|MgO|Fe sandwiches”, Phys. Rev. B Vol. 63, 054416-054427(2001).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の実施形態は、垂直磁気異方性を有し、かつより大きな磁気抵抗効果を発現することが可能な磁気抵抗効果素子及びこれを用いた磁気メモリを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態の磁気抵抗素子は、膜面に垂直方向に磁化容易軸を有する第1強磁性層と、膜面に垂直方向に磁化容易軸を有する第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に設けられた非磁性層と、前記第1強磁性層と前記非磁性層との間に設けられた第1界面磁性層と、前記第2強磁性層と前記非磁性層との間に設けられた第2界面磁性層と、を備え、前記第1界面磁性層は、前記第1強磁性層側に設けられた第1界面磁性膜と、前記非磁性層側に設けられ前記第1界面磁性膜と組成が異なる第2界面磁性膜と、前記第1界面磁性膜と前記第2界面磁性膜との間に設けられた第1非磁性膜とを備え、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に前記非磁性層を通して電流を流すことにより、前記第1強磁性層および前記第2強磁性層の一方の磁化方向が可変となることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1実施形態による磁気抵抗素子を示す断面図。
【図2】第2実施形態による磁気抵抗素子を示す断面図。
【図3】第3実施形態による磁気抵抗素子を示す断面図。
【図4】界面磁性膜におけるCo組成に対する磁気抵抗比の依存性を示す図。
【図5】界面磁性膜におけるCo組成に対する磁気抵抗比の依存性を示す図。
【図6】第4実施形態によるMRAMの構成を示す回路図。
【図7】第4実施形態におけるメモリセルを示す断面図。
【図8】第5実施形態による磁気ディスク装置の構造を示す概略図。
【図9】TMRヘッドを搭載した磁気ヘッドアセンブリ部の構造を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0012】
本実施形態の磁気抵抗素子は、膜面に垂直方向に磁化容易軸を有する第1強磁性層と、膜面に垂直方向に磁化容易軸を有する第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に設けられた非磁性層と、前記第1強磁性層と前記非磁性層との間に設けられた第1界面磁性層と、前記第2強磁性層と前記非磁性層との間に設けられた第2界面磁性層と、を備えている。そして、前記第1界面磁性層は、前記第1強磁性層側に設けられた第1界面磁性膜と、前記非磁性層側に設けられ前記第1界面磁性膜と組成が異なる第2界面磁性膜と、前記第1界面磁性膜と前記第2界面磁性膜との間に設けられた第1非磁性膜とを備え、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に前記非磁性層を通して電流を流すことにより、前記第1強磁性層および前記第2強磁性層の一方の磁化方向が可変となる。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態の磁気抵抗素子を図1に示す。図1は第1実施形態の磁気抵抗素子1の断面図である。この実施形態の磁気抵抗素子1はMTJ素子であって、第1強磁性層2、第1界面磁性層4、非磁性層(トンネルバリア層)6、第2界面磁性層8、および第2強磁性層10がこの順序で積層され構造を有している。なお、積層順序は逆であってもよい。すなわち、第2強磁性層10,第2界面磁性層8、非磁性層6、第1界面磁性層4、および第1強磁性層2がこの順序で積層されていてもよい。本実施形態においては、第1界面磁性層4は、界面磁性膜4a、非磁性膜4b、および界面磁性膜4cの積層構造を有している。そして、界面磁性膜4aは第1強磁性層2側に設けられ、界面磁性膜4cは非磁性層6側に設けられる。
【0014】
第1及び第2強磁性層2、10はそれぞれ、膜面に垂直な方向の磁気異方性を有し、それらの容易磁化方向は膜面に対して垂直である。すなわち、本実施形態のMTJ素子1は、第1及び第2強磁性層2、10の磁化方向がそれぞれ膜面に対して垂直方向を向く、いわゆる垂直磁化MTJ素子である。なお、本明細書では膜面とは、強磁性層の上面を意味する。また、容易磁化方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定して、外部磁界のない状態で自発磁化がその方向を向くと最も内部エネルギーが低くなる方向である。これに対して困難磁化方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定して、外部磁界のない状態で自発磁化がその方向を向くと最も内部エネルギーが大きくなる方向である。そして、第1及び第2強磁性層2、10のうちの一方の強磁性層は書き込み電流をMTJ素子1に流したときに、書き込みの前後で磁化の方向が不変であり、他方の強磁性層は可変である。不変である強磁性層を参照層とも称し、可変である強磁性層を記録層と称す。本実施形態においては、例えば、第1強磁性層2を記録層、第2強磁性層10を参照層とする。
【0015】
なお、書き込み電流は、第1強磁性層2と第2強磁性層10との間に膜面に垂直方向に流す。第1強磁性層2が記録層、第2強磁性層が参照層であってかつ第1強磁性層2の磁化の方向と第2強磁性層10の磁化の方向が反平行(逆の方向)な場合には、第1強磁性層2から第2強磁性層10に向かって書き込み電流を流す。この場合、電子は第2強磁性層10から非磁性層6を通って第1強磁性層2に流れる。そして、第2強磁性層10を通ることによりスピン偏極された電子は第1強磁性層2に流れる。第1強磁性層2の磁化と同じ方向のスピンを有するスピン偏極された電子は第1強磁性層2を通過するが、第1強磁性層2の磁化と逆方向のスピンを有するスピン偏極された電子は、第1強磁性層2の磁化にスピントルクを作用し、第1強磁性層2の磁化の方向が第2強磁性層10の磁化と同じ方向に向くように働く。これにより、第1強磁性層2の磁化の方向が反転し、第2強磁性層10の磁化の方向と平行(同じ方向)になる。
【0016】
第1強磁性層2の磁化の方向と第2強磁性層10の磁化の方向が平行な場合には、第2強磁性層10から第1強磁性層2に向かって書き込み電流を流す。この場合、電子は第1強磁性層2から非磁性層6を通って第2強磁性層10に流れる。そして、第1強磁性層2を通ることによりスピン偏極された電子は第2強磁性層10に流れる。第2強磁性層10の磁化と同じ方向のスピンを有するスピン偏極された電子は第2強磁性層10を通過するが、第2強磁性層10の磁化と逆方向のスピンを有するスピン偏極された電子は、非磁性層6と第2強磁性層10との界面で反射され、非磁性層6を通って第1強磁性層2に流れこみ、第1強磁性層2の磁化にスピントルクを作用し、第1強磁性層2の磁化の方向が第2強磁性層10の磁化と反対方向に向くように働く。これにより、第1強磁性層2の磁化の方向が反転し、第2強磁性層10の磁化の方向と反平行になる。
【0017】
第1、第2界面磁性層4、8は、スピン分極率を増大させるために設けられている。また、第1界面磁性層4中に非磁性膜4bを挿入し、この非磁性膜4bを挟む界面磁性膜4a、4cの組成を調整することにより界面磁性膜4a、4cに積極的に異なる機能性を持たせる。例えば、MgOからなるトンネルバリア層6に隣接する界面磁性膜4cは高いスピン分極率を有し、さらに体心立方(BCC)構造の結晶構造に調整する。調整された界面磁性膜4cはBCC構造の結晶構造であるためにMgOからなるトンネルバリア層6との格子不整合が小さく、したがって高磁気抵抗を実現できる。一方、界面磁性膜4aは隣接する垂直磁化を有する第1強磁性層2と格子不整合が小さくなるように結晶構造を調整する。これにより熱処理に伴い界面磁性膜4aの結晶化が進行したとしても垂直磁化を有する第1強磁性層2の結晶性が大きく変調を受けることがないので高温の熱処理を施しても高い磁気異方性を保持することが可能となり、磁気抵抗比を大きくすることができる。このように、非磁性膜4bは、界面磁性膜4a、4cの結晶を分断する機能を有している。
【0018】
以上説明したように、MgOからなるトンネルバリア層6および第1強磁性層2にそれぞれ隣接する界面磁性膜4c、4aを最適化することにより、高スピン分極率と垂直磁化を有する第1強磁性層2の熱安定性を両立することが可能となり、高耐熱性を有する磁気抵抗素子を形成することができる。すなわち、垂直磁気異方性を有し、かつより大きな磁気抵抗効果を発現することが可能な磁気抵抗素子を得ることができる。
【0019】
(第2実施形態)
第2実施形態による磁気抵抗素子を図2に示す。図2は第2実施形態の磁気抵抗素子1Aの断面図である。この実施形態の磁気抵抗素子1AはMTJ素子であって、第1強磁性層2、第1界面磁性層4、非磁性層(トンネルバリア層)6、第2界面磁性層8、および第2強磁性層10がこの順序で積層され構造を有している。なお、積層順序は逆であってもよい。すなわち、第2強磁性層10,第2界面磁性層8、非磁性層6、第1界面磁性層4、および第1強磁性層2がこの順序で積層されていてもよい。本実施形態においては、第2界面磁性層8は、界面磁性膜8a、非磁性膜8b、および界面磁性膜8cの積層構造を有している。そして、界面磁性膜8aは第2強磁性層10側に設けられ、界面磁性膜8cは非磁性層6側に設けられる。
【0020】
第1実施形態と同様に、第1及び第2強磁性層2、10はそれぞれ、膜面に垂直な方向の磁気異方性を有し、それらの容易磁化方向は膜面に対して垂直である。すなわち、本実施形態のMTJ素子1Aは、第1及び第2強磁性層2、10の磁化方向がそれぞれ膜面に対して垂直方向を向く、いわゆる垂直磁化MTJ素子である。そして、第1及び第2強磁性層2、10のうちの一方の強磁性層は書き込み電流をMTJ素子1Aに流したときに、書き込みの前後で磁化の方向が不変であり、他方の強磁性層は可変である。本実施形態においては、例えば、第1強磁性層2を参照層、第2強磁性層を記録層とする。なお、書き込み電流は、第1実施形態と同様に、第1強磁性層2と第2強磁性層10との間に膜面に垂直方向に流す。
【0021】
第1実施形態と同様に、第1、第2界面磁性層4、8は、スピン分極率を増大させるために設けられている。また、第2界面磁性層8中に非磁性膜8bを挿入し、この非磁性膜8bを挟む界面磁性膜8a、8cの組成を調整することにより界面磁性膜8a、8cに積極的に異なる機能性を持たせる。例えば、MgOからなるトンネルバリア層6に隣接する界面磁性膜8cは高いスピン分極率を有し、さらに体心立方(BCC)構造の結晶構造に調整する。調整された界面磁性膜8cはBCC構造の結晶構造であるためにMgOからなるトンネルバリア層6との格子不整合が小さく、したがって高磁気抵抗を実現できる。一方、界面磁性膜8aは隣接する垂直磁化を有する第2強磁性層10と格子不整合が小さくなるように結晶構造を調整する。これにより熱処理に伴い界面磁性膜8aの結晶化が進行したとしても垂直磁化を有する第2強磁性層10の結晶性が大きく変調を受けることがないので高温の熱処理を施しても高い磁気異方性を保持することが可能となり、磁気抵抗比を大きくすることができる。このように、非磁性膜8bは、界面磁性膜8a、8cの結晶を分断する機能を有している。
【0022】
以上説明したように、MgOからなるトンネルバリア層6および第2強磁性層10にそれぞれ隣接する界面磁性膜8c、8aを最適化することにより、高スピン分極率と垂直磁化を有する第2強磁性層10の熱安定性を両立することが可能となり、高耐熱性を有する磁気抵抗素子を形成することができる。すなわち、垂直磁気異方性を有し、かつより大きな磁気抵抗効果を発現することが可能な磁気抵抗素子を得ることができる。
【0023】
(第3実施形態)
第3実施形態による磁気抵抗素子を図3に示す。図3は第3実施形態の磁気抵抗素子1Bの断面図である。この実施形態の磁気抵抗素子1Bは図1に示すMTJ素子1において、第2実施形態のように、第2界面磁性層8として、界面磁性膜8a、非磁性膜8b、および界面磁性膜8cの積層構造を用いた構成となっている。なお、界面磁性膜8aは第2強磁性層10側に設けられ、界面磁性膜8cは非磁性層6側に設けられる。
【0024】
この第3実施形態も第1及び第2実施形態と同様に、界面磁性膜4a、4cおよび界面磁性膜8a、8cの組成を適切に調整することにより、高スピン分極率と垂直磁化を有する第2強磁性層10の熱安定性を両立することが可能となり、高耐熱性を有する磁気抵抗素子を形成することができる。すなわち、垂直磁気異方性を有し、かつより大きな磁気抵抗効果を発現することが可能な磁気抵抗素子を得ることができる。
【0025】
以下に、第1乃至第3実施形態のMTJ素子1、1A、1Bに含まれる各層の具体的な構成を、第1強磁性層2、第2強磁性層10、第1界面磁性層4、第2界面磁性層8、非磁性層6の順に説明する。
【0026】
(第1強磁性層2及び第2強磁性層10)
第1および第3実施形態における第1強磁性層2と、第2および第3実施形態における第2強磁性層10は、垂直磁気異方性を有する材料が用いられる。例えば、面心立方構造(FCC)の(111)あるいは六方最密充填構造(HCP)の(001)に結晶配向した金属、または人工格子を形成しうる金属が用いられる。FCCの(111)あるいはHCPの(001)に結晶配向した金属としては、Fe、Co、Ni、及びCuからなる第1のグループから選ばれる1つ以上の元素と、Pt、Pd、Rh、およびAuからなる第2のグループから選ばれる1つ以上の元素とを含む合金が挙げられる。具体的には、CoPd、CoPt、NiCo、或いはNiPtなどの強磁性合金が挙げられる。
【0027】
第1および第3実施形態における第1強磁性層2または第2および第3実施形態における第2強磁性層に用いられる人工格子としては、Fe、Co、Niのうち1つ以上の元素あるいはこの1つの元素を含む合金(強磁性膜)と、Cr、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Os、Re、Au、Cuのうち1つの元素あるいはこの1つの元素を含む合金(非磁性膜)とが交互に積層された構造が挙げられる。例えば、Co/Pt人工格子、Co/Pd人工格子、CoCr/Pt人工格子、Co/Ru人工格子、Co/Os、Co/Au、Ni/Cu人工格子等が挙げられる。これらの人工格子は、強磁性膜への元素の添加、強磁性膜と非磁性膜の膜厚比を調整することで、磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。
【0028】
第1実施形態における第2強磁性層10と第2実施形態に用いられる第1強磁性層2は垂直磁気異方性を有する。第1実施形態における第2強磁性層10または第2実施形態に用いられる第1強磁性層2としては、アモルファス金属、体心立方構造(BCC)の(001)または体心正方構造(BCT)の(001)に結晶配向した金属が用いられる。
【0029】
ここで、第1実施形態における第2強磁性層10と第2実施形態に用いられる第1強磁性層2に用いられるアモルファス金属としては、希土類金属と遷移金属との合金からなるフェリ磁性体、または、Fe、Co、Ni、Tb、Dy、Gdの群から選択された少なくとも1つの元素を含むアモルファス合金が挙げられる。例えば、TbFe、TbCo、TbFeCo、DyTbFeCo、GdTbCo等が挙げられる。また、これらの合金を交互に積層された多層構造であってもよい。具体的にはTbFe/Co、TbCo/Fe、TbFeCo/CoFe或いはDyFe/Co、DyCo/Fe、DyFeCo/CoFeなどの多層膜が挙げられる。これらの合金は、組成を調整することで磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。
【0030】
第1実施形態における第2強磁性層10と第2実施形態に用いられる第1強磁性層2に用いられるBCCの(001)、BCTの(001)に結晶配向した金属としては、Fe、Co、Ni、及びCuからなる第1のグループから選ばれる1つ以上の元素と、Pt、Pd、Rh、及びAuからなる第2のグループから選ばれる1つ以上の元素とを含む合金が挙げられる。具体的には、FeRh、FePt、FePd、CoPtなどの強磁性合金が挙げられる。
【0031】
(第1界面磁性層4及び第2界面磁性層8)
第1界面磁性層4は、非磁性膜4bを含み、さらに非磁性層6に隣接する界面磁性膜4cと、第1強磁性層2に隣接する界面磁性膜4aとを備えている。また、第2界面磁性層8は、非磁性膜8bを含み、さらに非磁性層6に隣接する界面磁性膜8cと、第2強磁性層10に隣接する界面磁性膜8aとを備えている。
【0032】
<界面磁性膜4c及び界面磁性膜8c>
一般に素子の磁気抵抗比を上げるために、MgOからなるトンネルバリア層(非磁性層)6に隣接する界面磁性層には高スピン分極率を有する材料が用いられる。したがって、界面磁性膜4c及び界面磁性膜8cは、Fe、Coの群から選択された少なくとも一つの金属よりなる合金が望ましい。また、界面磁性膜4c及び界面磁性膜8cは、非磁性層6と接する界面がBCC構造の(001)面となる配向性を有することが望ましい。例えば、CoFe合金は組成により結晶構造が変化するのでCoFe合金がBCC構造を安定的にとれる組成域となるCoFe100−x(x≦75at%)であることが望ましい。非磁性層6と接する界面がBCC構造の(001)面となっている界面磁性膜4c及び界面磁性膜8cは、CoFe上にMgOからなる非磁性層6を成長させると、膜面に垂直な方向に(001)配向したMgOを形成することができる。例えば、CoFeからなる界面磁性層、MgOからなる非磁性層、CoFeからなる界面磁性層とした場合に、CoFe(001)/MgO(001)/CoFe(001)のエピタキシャル関係を作ることができる。この場合、トンネル電子の波数選択性を向上させることができるため、大きな磁気抵抗比を得ることが可能となる。なお、界面磁性膜4c、8cが膜面に垂直方向に伸び縮みしていてもMgOに対して(001)配向でエピタキシャル成長していれば大きな磁気抵抗比を得ることができるので、非磁性層6と接する界面磁性膜4c、8cはBCT構造でもよい。また、CoFe合金の格子定数を制御するために、CoFe合金に、Ni、B、C、P、Mo、Si、W、Nb、Mn、Geの群から選択された少なくとも1つの元素を添加してもよい。すなわち、界面磁性膜4c、8cはFe、Coの群から選択された少なくとも1つの元素と、Ni、B、C、P、Mo、Si、W、Mn、GeおよびNbの群から選択された少なくとも1つの元素とを含む合金であってもよい。例えば、CoFeBの他に、CoFeSi、CoFeP、CoFeW、CoFeNb等が挙げられ、これらの合金は、CoFeBと同等のスピン分極率を有している。またCoFeSi、CoMnSi、CoMnGe等のホイスラー金属でもよい。ホイスラー金属はCoFeBと同等かあるいはより高いスピン分極率を有しているため界面磁性層に適している。
【0033】
<界面磁性膜4aおよび界面磁性膜8a>
第1強磁性層2に隣接する界面磁性膜4aおよび第2強磁性層10に隣接する界面磁性膜8aは、Fe、Coの群から選択された少なくとも一つの金属を含む合金が望ましい。例えば第1強磁性層がCoPd合金とした場合、CoPdは膜面に垂直方向にFCC構造の(111)配向、或いはHCP構造の(001)配向した場合、磁化の方向が膜面の法線方向を向いた垂直磁化膜になる。したがって、例えば、界面磁性膜4aまたは界面磁性膜8aにCoFe合金を選んだ場合、CoPdからなる第1強磁性層2または第2強磁性層10と格子不整合が小さいことが望ましい。格子不整合が大きいと、格子の歪みのエネルギーを緩和させるためにCoPdからなる第1強磁性層2または第2強磁性層10と、CoFeからなる界面磁性膜4aまたは界面磁性膜8aとの界面に転位が生じてしまい、磁気異方性が小さくなってしまう。CoFe合金は組成により結晶構造が変化するので、CoFe合金がFCC構造を安定的にとれる組成域となるCoFe100−y(y>75at%)が望ましい。CoPdからなる第1強磁性層2または第2強磁性層10と結晶構造の近いCoFeからなる界面磁性膜4aまたは界面磁性膜8aを積層させることによりCoPdからなる第1強磁性層2または第2強磁性層10の結晶構造を安定化させることができる。また、CoFeからなる界面磁性膜4aまたは界面磁性膜8aを隣接させることで、非磁性膜4bまたは非磁性膜8bに含まれる元素がCoPdからなる第1強磁性層2または第2強磁性層10への拡散を防ぐことができるので、高い温度で熱処理をしてもCoPdからなる第1強磁性層2または第2強磁性層10の磁気異方性は劣化せず、磁気異方性を保つことができる。界面磁性膜4a、8aも、界面磁性膜4c、8cと同様に、Fe、Coの群から選択された少なくとも1つの元素と、Ni、B、C、P、Mo、Si、W、Mn、GeおよびNbの群から選択された少なくとも1つの元素とを含む合金であってもよい。
【0034】
<非磁性膜4bおよび非磁性膜8b>
MgOからなるトンネルバリア層6を用いた磁気抵抗素子において波数の選択制を利用して大きな磁気抵抗効果を発現させるためには、例えばCoFe(001)/MgO(001)/CoFe(001)のエピタキシャル関係を作ることが重要である。しかし、第1強磁性層2または第2強磁性層10にCoPdを用いた場合、CoPdはFCC構造の(111)配向、或いはHCP構造の(001)配向している。更にこれに隣接される界面磁性膜を構成するCoFe合金はFCC構造の(111)配向が安定な組成を有している。したがって、CoFe(001)/MgO(001)/CoFe(001)のエピタキシャル関係を作るために数Å程度の膜厚を有する非磁性膜4bまたは非磁性膜8bによって界面磁性膜4aまたは界面磁性膜8aの結晶構造を分断する。非磁性膜4bまたは非磁性膜8bは極薄で微結晶化或いはアモルファスであることが望ましく、Ta、W、Nb、V、Si、およびZrの群から選択された少なくとも1つの元素を含む金属であることが望ましい。非磁性膜8bの膜厚があまりに厚いと界面磁性膜4cと界面磁性膜4aの磁気結合が弱くなってしまい、また非磁性膜4bの膜厚があまりに厚いと界面磁性膜8cと界面磁性膜8aとの磁気結合が弱くなってしまうため、磁化を膜面直方向に維持することはできなくなる。したがって、非磁性膜4bまたは非磁性膜8bの膜厚の上限は望ましくは1nm以下である。
【0035】
そして、非磁性膜4bまたは非磁性膜8bにTaを用い、界面磁性膜4a、4b、8a、8bにCoFeBを用いた場合には、第1および第3実施形態の第1界面磁性層4または第2および第3実施形態の第2界面磁性層8は、CoFeB/Ta/CoFeBという積層構造を有する。この場合、磁気抵抗素子を製造後における、CoFeBからなる界面磁性膜中のBはTaからなる非磁性膜4b、8bに吸い寄せられるため、Ta膜に近づくにつれてB濃度が大きくなる分布を有する。界面磁性膜4a、4b、8a、8bとしてCoFeBを用いるのは、CoFeに比べて作り易いためである。このように、界面磁性膜4a、4b、8a、8bがCoFeBから形成されている場合は、第1及び第3実施形態の界面磁性膜4cおよび第2および第3実施形態の界面磁性膜8cは(CoFe100−x100−z(x≦75at%、0≦z≦30at%)であることが好ましく、第1及び第3実施形態の界面磁性膜4aおよび第2および第3実施形態の界面磁性膜8aは(CoFe100−y100−z(y>75at%、0≦z≦30at%)であることが好ましい。
【0036】
Coの含有量xの上限およびyの下限については既に述べた。Bの含有量zの上限が30at%であるのは、30at%を超えると、CoFeBのスピン分極率が極端に低下するためである。
【0037】
なお、結晶分断の機能を有する非磁性層4bまたは非磁性層8bはそれぞれ第1界面磁性層4または第2界面磁性層8中に一層以上あってもよい。多層構造にすることによって、結晶分断の効果がより顕著になり磁気抵抗素子の磁気抵抗比向上に強力に寄与できる。したがって、非磁性膜4bまたは非磁性膜8bにTaを用いた場合には、第1および第3実施形態の第1界面磁性層4または第2および第3実施形態の第2界面磁性層8は、CoFeB/Ta/CoFeB/Ta/CoFeBという積層構造であることがより好ましい。
【0038】
(非磁性層(トンネルバリア層)6)
非磁性層6は絶縁材料からなり、したがって、非磁性層6としては、トンネルバリア層が用いられる。トンネルバリア層6は、立方晶又は正方晶を基本格子とする。大きい磁気抵抗比を得るためには、トンネルバリア層6の配向度の向上が必要であり、トンネルバリア層6は、膜面に垂直な方向に(001)配向していることが望ましい。
【0039】
トンネルバリア層6としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、アルミニウム(Al)、ベリリウム(Be)、ストロンチウム(Sr)、及びチタン(Ti)からなるグループから選ばれる1つの元素を主成分とする酸化物が挙げられる。具体的には、MgO、CaO、BaO、AlO、BeO、SrO、又はTiOが挙げられる。トンネルバリア層6は、上述の酸化物のグループから選ばれる2つ以上の材料の混晶物であってもよい。
【0040】
トンネルバリア層6は、結晶質及びアモルファスのいずれであっても構わない。しかし、トンネルバリア層6が結晶化している場合、強磁性層から特定の波数を持った電子のみが波数を保存したまま選択的にトンネル伝導するので、磁気抵抗比を大きくすることができる。
【0041】
また、トンネルバリア層6が結晶化している場合、界面エネルギーを低減させるためにスピン分極させる界面磁性膜4cとトンネルバリア層6との界面でエピタキシャル関係を持つことになる。上面が(001)面に配向したトンネルバリア層6に対して、界面磁性膜4cは膜面に垂直な方向に(001)配向し、膜面内方向にはトンネルバリア層6の膜面内方向[001]に対して45°回転して成長する。
【実施例】
【0042】
次に、実施例として、具体的な垂直磁化MTJ素子の積層構造を説明する。下記の磁気抵抗膜(サンプル)を形成し、第1乃至第3実施形態のいずれかの垂直磁化MTJ素子を作成した。各層の後に括弧書きで示した数値は、成膜時の各層の厚さ(設計値)である。それぞれのサンプルは、成膜後に、TMR特性及び磁気特性が最適化されるように、適切な温度及び時間で真空アニールが施される。
【0043】
(実施例1)
実施例1の垂直磁化MTJ素子として、図3に示す垂直磁化MTJ素子1Bを作成した。この実施例1によるMTJ素子1Bは、第1強磁性層2と、第2強磁性層10と、第1強磁性層2と第2強磁性層10との間に設けられた非磁性層(トンネルバリア層)6とを備えている。第1強磁性層2および第2強磁性層10のそれぞれと、非磁性層6との間にはスピン分極率を増大させるために第1および第2界面磁性層4、8がそれぞれ挿入されており、さらに第1界面磁性層4中に結晶を分断する非磁性膜4bが挿入される。また第2界面磁性層8中に結晶を分断する非磁性膜8bが挿入される。非磁性層6に隣接する第1、第2界面磁性層4、8中の界面磁性膜4c、8cはそれぞれ、高スピン分極材料によって構成され、さらに非磁性層6との格子不整合が小さくなるように組成調整されている。第1強磁性層2に隣接する界面磁性膜4aは垂直磁化を有する第1強磁性層2と格子不整合が小さくなるように結晶構造を調整する。また第2強磁性層10に隣接する界面磁性膜8aは垂直磁化を有する第2強磁性層10と格子不整合が小さくなるように結晶構造を調整する。ここでは第1強磁性層2としてPd(0.2nm)とCo(0.5nm)の積層構造を用いる。第1強磁性層2は垂直磁気異方性を有し垂直方向に磁化容易軸を有し磁化の方向が可変である記憶層となる。第2強磁性層10としてTbCoFe(16nm)を用いる。第2強磁性層10は垂直磁気異方性を有し垂直方向に磁化容易軸を有し磁化の方向が不変である参照層となる。また、非磁性層6としてMgOからなるトンネルバリア層を用いる。
【0044】
非磁性膜4b、8bとしてTaを用い、界面磁性膜4a、4c、8a、8cはCoFeBを用いる。このとき、界面磁性膜4cとして、(CoFe100−x8020におけるCoとFeの組成比を0≦X≦100と変化させたサンプルを作成し、各サンプルの膜面に垂直な方向に磁化を固着させ素子の抵抗値を測定した。その結果を図4に示す。図4からわかるように、Coの組成比Xが減少するにつれCoFeB合金がBCC構造を安定的にとれる組成域であるCoFe100−x x≦75at%で磁気抵抗比(TMR)は増加する傾向があることが確認できた。非磁性層6と接する界面がBCC構造の(001)面となっている界面磁性膜4cと非磁性層6の間でエピタキシャル関係が形成され、トンネル電子の波数選択性を向上させることができるため、大きな磁気抵抗比を得ることができたと考えられる。
【0045】
次に、界面磁性膜4cをCoFeB合金がBCC構造を安定的にとれる組成域であるFe8020(0.9nm)にし、界面磁性膜4aとして、(CoFe100−y8020(0.4nm)におけるCoとFeの組成比を0≦Y≦100と変化させたサンプルを作成し、各サンプルの膜面に垂直な方向に磁化を固着させ素子の抵抗値を測定した。その結果を図5に示す。図5からわかるようにCoFe合金がFCC構造を安定的にとれる組成域であるCoFe100−Y(Y≧75at%)でTMRが増加する。この組成の界面磁性膜4aはCoPdからなる第1強磁性層2と格子不整合が小さいために、CoPdからなる第1強磁性層2の結晶構造を安定化させることができる。さらに非磁性膜4bがCoPdからなる第1強磁性層2への拡散を防ぐ機能を有するために高い温度で熱処理をしてもCoPdからなる第1強磁性層2の磁気異方性は劣化せず、磁気異方性を保つことができ、TMR効果が増加した。
【0046】
また、本実施例では、第2強磁性層10として用いられるTbCoFeはアモルファス構造を有する。したがって、MgOからなる非磁性層6上に積層されるCoFeBからなる第2界面磁性層8は熱処理に伴う結晶化の過程でCoFeBは隣接する第2強磁性層10の結晶構造の影響を受けることなく結晶化することができるために、より格子不整合が小さくMgO(001)とエピタキシャル関係を保つことができる。さらに第2強磁性層10としてFePt、FePd、CoPtなど膜面に垂直方向に(001)配向した垂直磁化膜を用いてよい。この場合も結晶化されるCoFeBからなる第2界面磁性層8は膜面に垂直方向に(001)配向を維持できるのでMgO(001)とエピタキシャル関係は保たれる。したがって、第2強磁性層10として、TbCoFeを用いるか、FePt、FePd、CoPtのいずれかまたはこれらの合金を用いた場合は、図3に示すような結晶分断の機能を有する非磁性膜8bは必ずしも必要ではない。この場合は、図1に示す第1実施形態の磁気抵抗素子となる。
【0047】
(実施例2)
実施例2による磁気抵抗素子を説明する。この実施例2による磁気抵抗素子は、実施例1において、第2強磁性層10として、例えば、Co/Pt人工格子、Co/Pd人工格子、CoCr/Pt人工格子、Co/Ru人工格子、Co/Os、Co/Au、Ni/Cu等の人工格子を用いたものである。
【0048】
これらの材料を用いると、第2強磁性層10は膜面に垂直方向に磁化容易軸を有する。更に、第1強磁性層2の材料として、CoPdを用いる。この材料を用いると、第1強磁性層2は、膜面に垂直方向に磁化容易軸を有する。
【0049】
この実施例2の場合、図3に示すように第1、第2界面磁性層4、8に非磁性膜4a、8bが必要である。人工格子は、強磁性膜への元素の添加、強磁性膜と非磁性膜の膜厚比を調整することで、磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。したがって、第2強磁性層10の磁気異方性エネルギー密度を第1強磁性層2であるCoPdの磁気異方性エネルギー密度より大きく調整した場合、この実施例2はボトムフリーと呼ばれる構造である。一方、第2強磁性層10の磁気異方性エネルギー密度を第1強磁性層2であるCoPdの磁気異方性エネルギー密度より小さく調整した場合、この実施例2はトップフリーと呼ばれる構造である。界面磁性膜4c、8cおよび界面磁性膜4a、8aとして、それぞれBCC構造、FCC構造を安定的にとれる組成に調整する。これにより実施例1で詳述したメカニズムによって実施例1と同様の効果が得られる。
【0050】
(実施例3)
実施例3による磁気抵抗素子を説明する。この実施例3の磁気抵抗素子は、実施例1の磁気抵抗素子において、第2強磁性層10として、例えばFePt、FePd、CoPtのいずれか、またはこれらの合金を用いた構成となっている。実施例3における第2強磁性層は膜面に垂直方向に磁化容易軸を有する。更に、第1強磁性層2として、膜面に垂直方向に磁化容易軸を有する。
【0051】
この実施例3の場合、図3に示すように第1および第2界面磁性層4、8には、非磁性膜4b、8bが必要である。第2強磁性層10であるFePt、FePd、CoPtのいずれかかまたはこれらの合金の磁気異方性エネルギー密度を第1強磁性層2であるCoPdの磁気異方性エネルギー密度より大きく調整した場合、この実施例3はボトムフリーと呼ばれる構造である。一方、第2強磁性層10であるFePt、FePd、CoPtのいずれかかまたはこれらの合金の磁気異方性エネルギー密度を第1強磁性層2であるCoPdの磁気異方性エネルギー密度より小さく調整した場合、この実施例3はトップフリーと呼ばれる構造である。界面磁性膜4c、8cおよび界面磁性膜4a、8aとして、それぞれBCC構造、FCC構造を安定的にとれる組成に調整する。これにより、実施例1で詳述したメカニズムによって実施例1と同様の効果が得られる。
【0052】
(実施例4)
実施例4による磁気抵抗素子を説明する。この実施例4の磁気抵抗素子は、図2に示す第2実施形態の磁気抵抗素子1Aにおいて、第2強磁性層10として、Co/Pt人工格子、Co/Pd人工格子、CoCr/Pt人工格子、Co/Ru人工格子、Co/Os、Co/Au、Ni/Cu等の人工格子を用い、第1強磁性層2としてFePt、FePd、CoPtのいずれかかまたはこれらの合金を用い、非磁性層6としてMgOを用いる。第2強磁性層10は、膜面に垂直方向に磁化容易軸を有し、第1強磁性層2は膜面に垂直方向に磁化容易軸を有する。
【0053】
この実施例4の場合、図2に示すように第2界面磁性層8に非磁性膜8bが必要である。人工格子は、強磁性膜への元素の添加、強磁性膜と非磁性膜の膜厚比を調整することで、磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。したがって、第2強磁性層10の磁気異方性エネルギー密度を第1強磁性層2であるFePt、FePd、CoPtのいずれかかまたはこれらの合金の磁気異方性エネルギー密度より大きく調整した場合、この実施例4はボトムフリーと呼ばれる構造である。一方、第2強磁性層10の磁気異方性エネルギー密度を第1強磁性層2であるFePt、FePd、CoPtのいずれかかまたはこれらの合金の磁気異方性エネルギー密度より小さく調整した場合、この実施例4はトップフリーと呼ばれる構造である。界面磁性膜8cおよび界面磁性膜8aとして、それぞれBCC構造、FCC構造を安定的にとれる組成に調整する。これにより、実施例1で詳述したメカニズムによって実施例1と同様の効果が得られる。
【0054】
(実施例5)
実施例5による磁気抵抗素子について図2を参照して説明する。この実施例5においては、第1強磁性層2として、例えばFePt、FePd、CoPtのいずれか、またはこれらの合金を用いる。また第2強磁性層10としてはCoPdを用いる。
【0055】
この実施例5の場合、参照層2は膜面直方向に(001)配向しているので図2に示すように、第1界面磁性層2には結晶分断層は挿入しなくてもよい。第2界面磁性層4には非磁性膜8bが必要である。第2強磁性層10であるCoPdの磁気異方性エネルギー密度を第1強磁性層2であるFePt、FePd、CoPtのいずれかかまたはこれらの合金の磁気異方性エネルギー密度より大きく調整した場合、この実施例5はボトムフリーと呼ばれる構造である。一方、第2強磁性層10であるCoPdの磁気異方性エネルギー密度を第1強磁性層2であるFePt、FePd、CoPtのいずれかかまたはこれらの合金の磁気異方性エネルギー密度より小さく調整した場合、この実施例5はトップフリーと呼ばれる構造である。界面磁性膜8cおよび界面磁性膜8aとして、それぞれBCC構造、FCC構造を安定的にとれる組成に調整する。これにより、上記に詳述したメカニズムによって実施例1と同様の効果が得られる。
【0056】
(第4実施形態)
第1乃至第3実施形態のMTJ素子1、1A、1Bは、MRAMに適用できる。以下では、説明を簡単にするために、第1実施形態のMTJ素子1を用いた場合について説明する。
【0057】
MRAMを構成する記憶素子は、磁化(或いはスピン)方向が可変である(反転する)記録層、磁化方向が不変である(固着している)参照層、これら記録層及び参照層に挟まれた非磁性層を備えている。垂直磁気異方性を有する第1強磁性層2及び第2強磁性層10の一方を記録層、他方を参照層として用いることで、MTJ素子1を記憶素子として用いたMRAMを構成することができる。
【0058】
具体的には、第1強磁性層2及び第2強磁性層10に保磁力差を設けることで、これらを記録層及び参照層として用いることができる。従って、MTJ素子1において、例えば第1強磁性層2(参照層2)として反転電流の小さな強磁性層を用い、第2強磁性層10(記録層10)として第1磁性層よりも反転電流の大きな強磁性層を用いることによって、磁化方向が可変の第1界面磁性層4と磁化方向が不変の第2界面磁性層8とを備えたMTJ素子1を実現することができる。
【0059】
図6は、第4実施形態によるMRAMの構成を示す回路図である。この実施形態のMRAMは、マトリクス状に配列されたメモリセルを有し、各メモリセルは、MTJ素子1を備えている。各MTJ素子1の一端は、ビット線BLに電気的に接続される。ビット線BLの一端は、選択スイッチとしてのNチャネルMOSトランジスタST1を経由してセンスアンプSAに電気的に接続される。センスアンプSAは、MTJ素子1からの読み出し電位Vrと参照電位Vrefとを比較し、この比較結果を出力信号DATAとして出力する。センスアンプSAに電気的に接続された抵抗Rfは、帰還抵抗である。
【0060】
ビット線BLの他端は、選択スイッチとしてのNチャネルMOSトランジスタST2を経由して、PチャネルMOSトランジスタP1のドレイン及びNチャネルMOSトランジスタN1のドレインに電気的に接続される。MOSトランジスタP1のソースは、電源端子Vddに接続され、MOSトランジスタN1のソースは、接地端子Vssに接続される。
【0061】
各MTJ素子1の他端は、下部電極29に電気的に接続される。下部電極29は、選択スイッチとしてのNチャネルMOSトランジスタST3を経由してソース線SLに電気的に接続される。なお、ソース線SLはビット線BLと平行な方向に延在する。
【0062】
ソース線SLは、選択スイッチとしてのNチャネルMOSトランジスタST4を経由して、PチャネルMOSトランジスタP2のドレイン及びNチャネルMOSトランジスタN2のドレインに電気的に接続される。MOSトランジスタP2のソースは、電源端子Vddに接続され、MOSトランジスタN2のソースは、接地端子Vssに接続される。また、ソース線SLは、選択スイッチとしてのNチャネルMOSトランジスタST5を経由して接地端子Vssに接続される。
【0063】
MOSトランジスタST3のゲートは、ワード線WLに電気的に接続される。ワード線WLは、ビット線BLが延在する方向に対して交差する方向に延在する。
【0064】
MTJ素子1へのデータ書き込みは、スピン注入書き込み方式によって行われる。すなわち、制御信号A、B、C及びDによるMOSトランジスタP1、P2、N1及びN2のオン/オフによりMTJ素子1に流れる書き込み電流の向きを制御し、データ書き込みを実現する。
【0065】
MTJ素子1からのデータ読み出しは、MTJ素子1に読み出し電流を供給することで行われる。この読み出し電流は、書き込み電流よりも小さい値に設定される。MTJ素子1は、磁気抵抗効果により、参照層と記録層との磁化方向が平行配列か反平行配列かで異なる抵抗値を有する。すなわち、参照層と記録層との磁化方向が平行配列のときはMTJ素子1の抵抗値は最も小さくなり、一方、参照層と記録層との磁化方向が反平行配列のときはMTJ素子1の抵抗値は最も大きくなる。この抵抗値の変化をセンスアンプSAによって検出することで、MTJ素子1に記録された情報を読み出す。
【0066】
図7は、上記メモリセルを示す断面図である。P型半導体基板21内には、STI(shallow trench isolation)構造の素子分離絶縁層22が形成される。素子分離絶縁層22に囲まれた素子領域(活性領域)には、選択スイッチとしてのNチャネルMOSトランジスタST3が設けられている。MOSトランジスタST3は、ソース/ドレイン領域としての拡散領域23及び24と、拡散領域23及び24間のチャネル領域の上に設けられたゲート絶縁膜25と、ゲート絶縁膜25上に設けられたゲート電極26とを有する。ゲート電極26は、図6に示すワード線WLに相当する。
【0067】
拡散領域23上には、コンタクトプラグ27が設けられている。コンタクトプラグ27上には、ソース線SLが設けられている。拡散領域24上には、コンタクトプラグ28が設けられている。コンタクトプラグ28上には、下部電極29が設けられている。下部電極29上には、MTJ素子1が設けられている。MTJ素子1上には、上部電極30が設けられている。上部電極30上には、ビット線BLが設けられている。半導体基板21とビット線BLとの間は、層間絶縁層31で満たされている。
【0068】
(第5実施形態)
第5実施形態による磁気ディスク装置を図8および図9を参照して説明する。図8は、第5実施形態による磁気ディスク装置の構造を示す概略図である。図9は、TMRヘッドを搭載した磁気ヘッドアセンブリ部の構造を示す概略図である。アクチュエータアーム41は、磁気ディスク装置内の固定軸40に固定されるための穴を有し、アクチュエータアーム41の一端には、サスペンション42が接続されている。
【0069】
サスペンション42の先端には、TMRヘッドを搭載したヘッドスライダ43が取り付けられている。また、サスペンション42には、データの書き込み/読み取りのためのリード線44が配線される。このリード線44の一端とヘッドスライダ43に組み込まれたTMRヘッドの電極とが電気的に接続される。TMRヘッドは、第1乃至第3実施形態のいずれかのMTJ素子を含む。以下では、説明を簡単にするために、第1実施形態のMTJ素子1を用いた場合について説明する。リード線44の他端は、電極パッド45に電気的に接続される。
【0070】
磁気ディスク46は、スピンドル47に装着され、駆動制御部からの制御信号により、モータで駆動される。ヘッドスライダ43は、磁気ディスク46の回転により所定量だけ浮上する。この状態で、TMRヘッドを用いてデータの記録再生を行う。
【0071】
アクチュエータアーム41は、駆動コイルを保持するボビン部を有する。アクチュエータアーム41には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ48が接続される。ボイスコイルモータ48は、アクチュエータアーム41のボビン部に巻き上げられた駆動コイルと、この駆動コイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石及び対向ヨークとからなる磁気回路を備える。アクチュエータアーム41は、固定軸40の上下2ヶ所に設けられるボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ48によって駆動される。
【0072】
以上、第1乃至第3実施形態の磁気抵抗素子の適用例をMRAMと磁気ディスク装置とについて説明したが、それ以外にもTMR効果を利用するデバイス全般に適用できる。
【0073】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0074】
1 MTJ素子
1A MTJ素子
1B MTJ素子
2 第1強磁性層
4 第1界面磁性層
4a 界面磁性膜
4b 非磁性膜
4c 界面磁性膜
6 非磁性層
8 第2界面磁性層
8a 界面磁性膜
8b 非磁性膜
8c 界面磁性膜
10 第2強磁性層
21 半導体基板
22 素子分離絶縁層
23,24 拡散領域
25 ゲート絶縁膜
26 ゲート電極
27,28 コンタクトプラグ
29 下部電極
30 上部電極
31 層間絶縁層
40 固定軸
41 アクチュエータアーム
42 サスペンション
43 ヘッドスライダ
44 リード線
45 電極パッド
46 磁気ディスク
47 スピンドル
48 ボイスコイルモータ
BL ビット線
WL ワード線
SL ソース線
SA センスアンプ
P1,P2 PチャネルMOSトランジスタ
N1,N2,ST1〜ST5 NチャネルMOSトランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜面に垂直方向に磁化容易軸を有する第1強磁性層と、
膜面に垂直方向に磁化容易軸を有する第2強磁性層と、
前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に設けられた非磁性層と、
前記第1強磁性層と前記非磁性層との間に設けられた第1界面磁性層と、
前記第2強磁性層と前記非磁性層との間に設けられた第2界面磁性層と、
を備え、
前記第1界面磁性層は、前記第1強磁性層側に設けられた第1界面磁性膜と、前記非磁性層側に設けられ前記第1界面磁性膜と組成が異なる第2界面磁性膜と、前記第1界面磁性膜と前記第2界面磁性膜との間に設けられた第1非磁性膜とを備え、
前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に前記非磁性層を通して電流を流すことにより、前記第1強磁性層および前記第2強磁性層の一方の磁化方向が可変となることを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項2】
前記第1および第2界面磁性膜はFe、Coの群から選択された少なくとも1つの元素と、Ni、B、C、P、Mo、Si、W、Mn、GeおよびNbの群から選択された少なくとも1つの元素とを含む合金であることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗素子。
【請求項3】
前記第1界面磁性膜は(CoFe100−x100−z(x>75at%、0≦z≦30at%)、前記第2界面磁性膜は(CoFe100−y100−w(y≦75at%、0≦w≦30at%)であることを特徴とする請求項1または2記載の磁気抵抗素子。
【請求項4】
前記第1非磁性膜はTa、W、Nb、V、Si、およびZrの群から選択された少なくとも1つの元素を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項5】
前記第2界面磁性層は、前記第2強磁性層側に設けられた第3界面磁性膜と、前記非磁性層側に設けられ前記第3界面磁性膜と組成が異なる第4界面磁性膜と、前記第3界面磁性膜と前記第4界面磁性膜との間に設けられた第2非磁性膜とを備えていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項6】
前記第1強磁性層は、Fe、Co、Niの群から選択された少なくとも1つの元素を含む第1合金と、Cr、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Os、Re、Au、Cuの群から選択された少なくとも1つの元素を含む第2合金とが交互に積層された多層構造を有していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項7】
前記第1強磁性層は、Fe、Co、Niの群から選択された少なくとも1つの元素と、Cr、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Os、Re、Au、Cuの群から選択された少なくとも1つの元素とを含む合金であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項8】
前記第2強磁性層は、Fe、Co、Ni、Tb、Dy、Gdの群から選択された少なくとも1つの元素を含むアモルファス合金であることを特徴とする請求項1乃至5のいずかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項9】
前記第2強磁性層は、Fe、Co、Ni、Tb、Dy、Gdの群から選択された少なくとも1つの元素を含む第1合金と、Fe、Co、Ni、Tb、Dy、Gdの群から選択された少なくとも1つの元素を含む第2合金とが交互に積層された多層構造を有していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項10】
前記第2強磁性層は、Fe、Co、Ni、およびCuの群から選択された少なくとも1つの元素と、Pt、Pd、Rh、およびAuの群から選択された少なくとも1つの元素とを含む合金であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の磁気抵抗素子を有するメモリセルと、
前記磁気抵抗素子の一端が電気的に接続される第1配線と、
前記磁気抵抗素子の他端が電気的に接続される第2配線と、
を備えたことを特徴とする磁気メモリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−64776(P2012−64776A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208058(P2010−208058)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「スピントロニクス不揮発性機能技術プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】