説明

磁気抵抗素子及び磁気メモリ

【課題】磁気抵抗素子の微細化に伴って増大する漏洩磁界をキャンセルする。
【解決手段】実施形態に係わる磁気抵抗素子は、垂直及び可変の磁化を持つ記憶層2と、垂直及び不変の磁化を持つ参照層4と、垂直、不変及び参照層3の磁化に対して逆向きの磁化を持つシフト調整層6と、記憶層2及び参照層4間の第1の非磁性層3と、参照層4及びシフト調整層6間の第2の非磁性層5とを備える。参照層4の反転磁界は、記憶層2の反転磁界と同じ又はそれよりも小さく、参照層4の磁気緩和定数は、記憶層2の磁気緩和定数よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、磁気抵抗素子及び磁気メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗素子(Magnetoresistive element)は、不変の磁化を持つ磁性層(参照層)と、可変の磁化を持つ磁性層(記憶層)と、それらの間の非磁性層との積層構造を基本構造とし、磁気ランダムアクセスメモリのメモリセルや、リコンフィギャブルなロジック回路のスピンFET(Field effect transistor)などのLSIに使用される。この場合、磁気抵抗素子は、ピラー状にパターニングされる。
【0003】
また、磁気抵抗素子に固有の課題として、参照層の磁化により生じる磁界(漏洩磁界)の影響により、記憶層の磁気ヒステリシス曲線が、漏洩磁界がないときのそれに対して一定方向にシフトする、という現象がある。これを元の状態に戻すためには、磁気抵抗素子に、漏洩磁界をキャンセルするためのシフト調整層を付加する必要がある。
【0004】
しかし、近年では、スピン注入による書き込み方式や、垂直磁化型の磁気抵抗素子などが開発され、それに伴い、磁気抵抗素子の微細化が急速に進行している。磁気抵抗素子が微細化されると、これに比例して漏洩磁界も大きくなるため、最終的にはシフト調整層をいくら厚く形成したとしても、記憶層の磁気ヒステリシス曲線を、漏洩磁界がないときの元の状態に戻すことが困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−80746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実施形態は、磁気抵抗素子の微細化に伴って増大する漏洩磁界をシフト調整層により確実にキャンセルする技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、磁気抵抗素子は、垂直及び可変の磁化を持つ記憶層と、垂直及び不変の磁化を持つ参照層と、垂直、不変及び前記参照層の磁化に対して逆向きの磁化を持つシフト調整層と、前記記憶層及び前記参照層間の第1の非磁性層と、前記参照層及び前記シフト調整層間の第2の非磁性層とを備え、前記参照層の反転磁界は、前記記憶層の反転磁界と同じ又はそれよりも小さく、前記参照層の磁気緩和定数は、前記記憶層の磁気緩和定数よりも大きい。
【0008】
実施形態によれば、磁気メモリは、前記磁気抵抗素子と、前記磁気抵抗素子に双方向電流を流すことにより、前記記憶層及び前記参照層の磁化方向の関係を平行又は反平行にする書き込み回路とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】磁気抵抗素子を示す図。
【図2】磁気抵抗素子を示す図。
【図3】磁気抵抗素子を示す図。
【図4】参照層を薄くしたときの課題を説明する図。
【図5】参照層と記憶層の保磁力が同等であるときのMHループを示す図。
【図6】記憶層と参照層の磁化反転確率分布を示す図。
【図7】記憶層と参照層の磁化反転確率分布を示す図。
【図8】MRAMの主要部を示す図。
【図9】MRAMのメモリセルを示す図。
【図10】適用例としてのDSLデータパス部を示す図。
【図11】適用例としての携帯電話端末を示す図。
【図12】適用例としてのMRAMカードを示す図。
【図13】MRAMカードにデータを転写する転写装置を示す図。
【図14】MRAMカードにデータを転写する転写装置を示す図。
【図15】MRAMカードにデータを転写する転写装置を示す図。
【図16】MRAMカードにデータを転写する転写装置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
磁気抵抗素子及び磁気メモリの実施形態を説明する。
【0011】
以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。また、図面は模式的であり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率などは現実のものとは異なる場合がある。従って、具体的な厚みや寸法は、以下の説明を参酌して判断すべきである。図面相互間においても、互いの寸法の関係や比率などが異なる場合がある。
【0012】
また、以下に示す実施形態は、技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置などを下記のものに特定するものでない。この技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0013】
以下の説明においては、この技術思想に係わる磁気抵抗素子及び磁気メモリに特有の表現を使用する場合があるので、それらの代表的なものについて以下に定義する。また、以下に定義しないものについても、適宜、実施形態の説明中において定義する。
【0014】
以下に説明する磁気抵抗素子は、垂直及び可変の磁化を持つ記憶層と、垂直及び不変の磁化を持つ参照層と、垂直、不変及び参照層の磁化に対して逆向きの磁化を持つシフト調整層と、記憶層及び参照層間の非磁性層と、参照層及びシフト調整層間の非磁性層とを基本構成要素とする。
【0015】
ここで、記憶層とは、可変の磁化を持つ磁性層のことであり、参照層とは、不変の磁化を持つ磁性層のことである。可変とは、磁性層の残留磁化が互いに逆向きの第1及び第2の方向に反転し得ることを意味し、不変とは、磁性層の残留磁化が第1及び第2の方向のうちの1つを常に向いていることを意味する。
【0016】
互いに逆向きとは、第1及び第2の方向がなす角度θが、90°<θ≦180°の範囲内にある場合を含むものとする。但し、記憶層の残留磁化の磁化方向は、ほぼ180°反転し得るのが望ましい。
【0017】
シフト調整層とは、参照層の磁化に対して逆向きの磁化を持つ磁性層のことである。シフト調整層は、記憶層の磁気ヒステリシス曲線のシフトを調整することを目的とする。
【0018】
垂直磁化とは、磁性層の残留磁化の磁化方向がその磁性層の膜面(上面/下面)に対して垂直又はほぼ垂直となることである。この明細書において、ほぼ垂直とは、磁性層の残留磁化の磁化方向がその磁性層の膜面に対して、45°<θ≦90°の範囲内にあることを意味する。
【0019】
(磁気抵抗素子)
(1)磁気抵抗素子の構造
図1乃至図3は、磁気抵抗素子を示している。
【0020】
同図において、矢印は磁化方向を示している。磁気抵抗素子MTJは、例えば、TMR効果(トンネル磁気抵抗効果)を発生する素子である。以下では、磁気抵抗素子の主要部を示すが、図示の要素を含んでいれば、それに加えてさらなる要素を含んでいてもよい。
【0021】
この磁気抵抗素子MTJは、参照層4が記憶層2よりも上に配置されるトップピン構造を有する。本例では、トップピン構造を説明するが、磁気抵抗素子MTJは、参照層4が記憶層2よりも下に配置されるボトムピン構造を有していてもよい。
【0022】
下地層1は、記憶層2より上にある層の結晶配向性、結晶粒径などの結晶性を制御することを目的に配置される。
【0023】
記憶層2は、下地層1上に配置される。非磁性層3は、記憶層2上に配置される。非磁性層3は、一般的には、絶縁層(例えば、酸化層)であり、この場合、非磁性層3は、トンネルバリア層と呼ばれる。参照層4は、非磁性層3上に配置される。
【0024】
記憶層2及び参照層4は、垂直磁化を持つ。即ち、記憶層2及び参照層4は、膜面に垂直な方向に磁化容易軸を有する。一般的には、参照層4の保持力は、記憶層2の保磁力よりも大きい。同図では、参照層4の磁化方向は、膜面に対して上を向いているが、膜面に対して下を向いていてもよい。
【0025】
非磁性層5は、参照層4上に配置される。シフト調整層6は、非磁性層5上に配置される。シフト調整層6は、参照層4の磁化に対して逆向きの不変の磁化を持つ。キャップ層7は、シフト調整層6うえに配置される。キャップ層7は、磁気抵抗素子MTJのパターニング時のハードマスクとして、さらに、記憶層2、参照層4及びシフト調整層6の酸化防止などを目的とした保護層として機能する。
【0026】
尚、図2の構造では、さらに、非磁性層3及び参照層4間に界面層8が配置される。界面層8は、磁性層であり、非磁性層3と参照層4との界面における格子ミスマッチを緩和することを目的とする。また、界面層8が高分極率を有する材料であるとき、高いTMR比及び高いスピン注入効率を実現できる。
【0027】
また、図3の構造では、さらに、非磁性層3及び参照層4間に界面層8が配置され、記憶層2及び非磁性層3間に界面層9が配置される。界面層8,9は、共に磁性層であり、非磁性層3と参照層4との界面及び記憶層2と非磁性層3との界面における格子ミスマッチをそれぞれ緩和することを目的とする。また、界面層8,9が高分極率を有する材料であるとき、高いTMR比及び高いスピン注入効率を実現できる。
【0028】
図3において、界面層8は、省略することもできる。この場合、記憶層2と非磁性層3との界面のみに界面層9が配置される。
【0029】
以上の磁気抵抗素子MTJに対しては、例えば、スピン注入磁化反転方式により書き込みを行う。即ち、磁気抵抗素子MTJ内の各層に対して、それらの膜面に垂直な方向にスピン偏極電流(双方向電流)を流すことにより書き込みを行う。
【0030】
例えば、スピン偏極電流を記憶層2から参照層4に向かって流すとき、参照層4のスピン情報を蓄積した電子が参照層4から記憶層2に注入される。この電子のスピン角運動量が、スピン角運動量の保存則に従って記憶層2の電子に影響を与えることにより、記憶層2の磁化が平行に変化する。
【0031】
また、スピン偏極電流を参照層4から記憶層2に向かって流すとき、記憶層2のスピン情報を反転したスピン情報を蓄積した電子が参照層4から記憶層2に注入される。この電子のスピン角運動量が、スピン角運動量の保存則に従って記憶層2の電子に影響を与えることにより、記憶層2の磁化が反平行に変化する。
【0032】
この原理により、記憶層2と参照層4の残留磁化の磁化方向の相対角を、平行(相対角が0°又はほぼ0°の状態)又は反平行(相対角が180°又はほぼ180°の状態)に変化させることができる。
【0033】
尚、平行は、記憶層2と参照層4の残留磁化が同じ方向を向いている状態であり、例えば、この場合に、磁気抵抗素子MTJの抵抗値は、極小値となる。これに対し、反平行は、記憶層2と参照層4の残留磁化が逆方向を向いている状態であり、例えば、この場合に、磁気抵抗素子MTJの抵抗値は、極大値となる。
【0034】
従って、磁気抵抗素子MTJの抵抗値の変化(極小値/極大値)を、二進データの“0”/“1”に対応付けることにより、磁気抵抗素子MTJに二進データを記憶できる。
【0035】
(2)参照層
以下、参照層の性質及び材料について説明する。
【0036】
(2−1)参照層の性質
図1乃至図3の磁気抵抗素子MTJの参照層4の条件は、記憶層2と比べて容易に磁化方向が変化せず、かつ、記憶層2への漏洩磁界が小さいことである。従って、参照層4としては、実効的な磁気異方性Keff、保磁力Hc及び磁気緩和定数αが大きく、かつ、飽和磁化Mが小さい材料により構成するのが望ましい。
【0037】
しかし、磁気抵抗素子MTJのサイズが小さくなるに従い、参照層4から記憶層2への漏洩磁界が大きくなる。この漏洩磁界による記憶層2の磁気ヒステリシス曲線のシフトをシフト調整層6によりキャンセルするためには、参照層4をできる限り薄くする必要がある。なぜなら、参照層4の厚さが大きくなるに従い、記憶層2とシフト調整層6との距離が大きくなるため、シフト調整層6による記憶層2の磁気ヒステリシス曲線の調整が難しくなるからである。
【0038】
しかし、参照層4を薄くすると、一般的に、以下に示す理由により実効的な磁気異方性Keffが小さくなる。
【0039】
例えば、垂直磁化を持つ磁性層の実効的な磁気異方性Keffは、材料本来の磁気異方性Kintと、材料形状に起因する磁気異方性Kにより、下記のように表される。
eff(∝Ms・H/2) = Kint−K
即ち、参照層4を薄くすると、膜質の劣化により、Kintが低下し、Kが増大するため、実効的な磁気異方性Keff及び保磁力(反転磁界)Hcは、低下する。
【0040】
結果として、図4に示すように、参照層4は、記憶層2及びシフト調整層6からの漏洩磁界を受けるため、参照層4を薄くしたとき、参照層4の磁化を不変とすることが困難になるという問題が発生する。
【0041】
具体的には、記憶層2の磁化を平行から反平行に変化させる書き込みにおいて、正しい書き込みは、記憶層2の磁化方向のみを反転させる動作であるが、記憶層2及び参照層4の磁化方向が共に反転してしまう誤書き込みが発生し易くなる。
【0042】
これは、参照層4が薄くなることにより、参照層4のエネルギー障壁が低くなり、記憶層2のエネルギー障壁と参照層4のエネルギー障壁との間で書き込みマージンが十分に確保できなくなることに起因する。
【0043】
特に、参照層4を薄くしたことにより、参照層4の反転磁界が、記憶層2の反転磁界と同じ又はそれよりも小さくなることがある。この場合、スピン注入書き込み方式においても、記憶層2の磁化を参照層4の磁化に対して逆向き(平行→反平行)とするとき、同時に、参照層4の磁化も反転してしまい、結果として、記憶層2の磁化を参照層4の磁化に対して逆向きとすることができない。
【0044】
そこで、以下では、このような誤書き込みの問題を発生させずに、参照層4を薄膜化するための技術、即ち、磁気抵抗素子の微細化に伴って増大する漏洩磁界をシフト調整層により確実にキャンセルする技術を提案する。
【0045】
結論としては、参照層4を薄くしても、上述の誤書き込みを発生させることがない条件を、記憶層2と参照層4の磁気緩和定数の観点から提案する。即ち、実施形態の磁気抵抗素子においては、参照層4の磁気緩和定数を記憶層2の磁気緩和定数よりも大きくする。この場合、例えば、参照層4の薄膜化により、参照層4の反転磁界が、記憶層2の反転磁界と同じ又はそれよりも小さくなったとしても、記憶層2のエネルギー障壁と参照層4のエネルギー障壁との間で書き込みマージンが十分に確保できるため、上述の誤書き込みが発生することもない。これにより、参照層4からの漏洩磁界をシフト調整層により確実にキャンセルすることができる。
【0046】
以下、記憶層2及び参照層4の磁気緩和定数について、Landaw-Lifshitz-Gilbert(LLG)方程式により検証する。
【0047】
一般的に、垂直磁化を持つ磁気抵抗素子に対してスピン注入書き込みによる磁化反転を行うときの臨界電流Iは、下記のように表される。
Ic∝α/η・Δ ・・・(式1)
ここで、
α:磁気緩和定数
η:スピン注入効率係数
である。
【0048】
Δは、熱擾乱指数で、実効的な異方性エネルギーKeff・Vと熱エネルギーkTとの比をとって、下記のように表される。
【0049】
Δ=Keff・V/k
∝Ms・H/2・Va/kT ・・・(式2)
ここで、
eff:垂直磁気異方性定数
:保磁力
:飽和磁化
N:反磁場係数
Va:磁化反転の単位体積
である。
【0050】
上述のように、参照層4を薄膜化すると、磁気異方性の劣化により保磁力Hcが低下する。また、記憶層2とシフト調整層6からの漏洩磁界により、記憶層2の磁化方向を平行から反平行に変化させるときに、参照層4の磁化方向も反転してしまう恐れが生じる。即ち、参照層4の反転磁界が低下すると、記憶層2の磁気緩和定数が参照層4の磁気緩和定数と同じ又はそれよりも大きいときは、記憶層2と参照層4の反転電流差が小さくなる。結果として、書き込みマージンが減少し、誤書き込みが生じることとなる。
【0051】
このような問題を回避するには、参照層4の磁気緩和定数を記憶層2の磁気緩和定数よりも大きくすればよい。また、磁気抵抗素子の微細化により漏洩磁界が次第に大きくなってきたとしても、参照層4と記憶層2の磁気緩和定数の差を次第に大きくしていけば、磁気抵抗素子の微細化にも十分に対応できる。
【0052】
図5は、MHカーブを示している。
【0053】
同図では、参照層の保磁力(反転磁界)が記憶層の保磁力と同じ又はそれよりも小さい場合を想定している。このとき、記憶層に印加される参照層からの漏洩磁界は、シフト調整層によりキャンセルされるが、参照層は、記憶層とシフト調整層からの漏洩磁界により反転磁場がシフトする。
【0054】
参照層の反転磁場がシフトすることにより、記憶層の磁化方向を平行から反平行にするときに、参照層の磁化方向が反転してしまう恐れが生じる。
【0055】
そこで、以下の図6及び図7では、記憶層と参照層の磁気緩和定数をどのように設定したら、参照層の磁化反転が発生しないかについて検証する。
【0056】
図6は、磁性層の反転確率分布の第1の例を示している。
【0057】
この例は、記憶層の磁気緩和定数が0.05、参照層の磁気緩和定数が0.02である場合、即ち、記憶層の磁気緩和定数が参照層の磁気緩和定数よりも大きい場合の磁化反転確率分布である。
【0058】
同図によれば、記憶層を平行から反平行にする場合(P→AP)の反転確率は、ワーストビットW1についてみると、記憶層に流れる電流Iが約90(μA)のときに100%である。このため、記憶層を平行から反平行にするときの書き込み電流Iwrite(P→AP)は、マージンを考慮して、例えば、100(μA)前後に設定される。
【0059】
しかし、参照層が反転してしまう場合(AP→P)の反転確率は、ワーストビットW2についてみると、参照層に流れる電流Iが100(μA)前後のときに約50%である。このため、記憶層を平行から反平行にするために、書き込み電流Iwrite(P→AP)として、例えば、100(μA)前後を磁気抵抗素子に流すと、参照層の磁化も反転してしまう場合がある。
【0060】
このように、記憶層の磁気緩和定数を参照層の磁気緩和定数よりも大きくすると、書き込みマージンが確保できないことが判る。
【0061】
図7は、磁性層の反転確率分布の第2の例を示している。
【0062】
この例は、記憶層の磁気緩和定数が0.05、参照層の磁気緩和定数が0.05である場合、即ち、参照層の磁気緩和定数が記憶層の磁気緩和定数と同じ場合の磁化反転確率分布である。
【0063】
同図によれば、記憶層を平行から反平行にする場合(P→AP)の反転確率は、ワーストビットW1についてみると、記憶層に流れる電流Iが、約30(μA)のときに0%、約45(μA)のときに100%である。このため、記憶層を平行から反平行にするときの書き込み電流Iwrite(P→AP)は、マージンを考慮して、例えば、50(μA)前後に設定される
一方、参照層が反転してしまう場合(AP→P)の反転確率は、ワーストビットW2についてみると、参照層に流れる電流Iが90(μA)前後のときに0%である。このため、記憶層を平行から反平行にするために、書き込み電流Iwrite(P→AP)として、例えば、50(μA)前後を磁気抵抗素子に流しても、参照層の磁化が反転することはない。
【0064】
尚、書き込み電流Iwrite(P→AP)と参照層(ワーストビット)の反転確率が0%となる最大電流との間の書き込みマージンは、参照層の磁気緩和定数を記憶層の磁気緩和定数よりも大きくし、その差を大きくすればするほど、大きくなる。但し、磁気抵抗素子の構造(各層の厚さなど)は、一定であるものとする。
【0065】
このように、参照層の磁気緩和定数を記憶層の磁気緩和定数と同じ又はそれよりも大きくすることにより、書き込みマージンを十分に確保できることが判る。
【0066】
(2−2)参照層の材料
参照層は、上述のように、実効的な磁気異方性Keff、保磁力Hc及び磁気緩和定数αが大きく、かつ、飽和磁化Mが小さい材料により構成するのが望ましい。そのような材料としては、下記から適宜選択することができる。
【0067】
(2−2−1)人工格子系
人工格子系とは、Fe、Co、Niのうちの少なくとも1つの元素を含む合金(磁性層)と、Cr、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Os、Re、Au、Cuのうちの少なくとも1つの元素を含む合金(非磁性層)とが交互に積層される構造のことである。
【0068】
例えば、Co/Pt人工格子、Co/Pd人工格子、CoCr/Pt人工格子、Co/Ru人工格子、Co/Os、Co/Au、Ni/Cu人工格子などが人工格子系として挙げられる。また、2つの磁性層を用いた人工格子系の例として、Co/Ni人工格子、Fe/Ni人工格子が挙げられる。
【0069】
これらの人工格子系では、非磁性層(例えば、トンネルバリア層)に対する磁性層の膜厚比を小さくすることにより、実効的な磁気異方性Keffを大きく、飽和磁化Msを小さくすることができる。また、磁性層の積層周期を増やすことにより、形状起因の磁気異方性が減少するため、実効的な磁気異方性Keffを大きくすることができる。
【0070】
例えば、磁気緩和定数αを大きくするには、d軌道の電子数が多く、スピン−軌道相互作用が大きくなるような、磁性層/非磁性層を組み合わせた参照層を用いるか、又は、d軌道の電子数が多く、スピン−軌道相互作用が大きくなるようなキャップ層を用いればよい。そのようなキャップ層を構成し得る材料としては、Pt、Pdなどがある。
【0071】
(2−2−2)RE(希土類金属)−TM(遷移金属)合金系
RE−TM合金系とは、希土類金属と遷移金属との合金のことである。RE−TM合金系は、希土類金属の材料により、フェリ磁性体及びフェロ磁性体のうちの1つとなる。
【0072】
フェリ磁性体としては、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)及びガドリニウム(Gd)のうちの少なくとも1つと、Fe、Co、Niのうちの少なくとも1つとを含む合金が挙げられる。
【0073】
例えば、TbFe、TbCo、TbFeCo、DyTbFeCo、GdTbCoなどがフェリ磁性体として挙げることができる。
【0074】
これらの合金は、希土類金属と遷移金属の磁化方向が反強磁性的に結合し、飽和磁化が0となる組成(補償点組成)が存在する(例えば、TbCoFeの場合、Tb=80(Vol.%)付近)。補償点組成の近傍では、飽和磁化の減少に応じて保磁力Hcが増大するため、その近傍で組成を調整することにより、実効的な磁気異方性Keff、飽和磁化Ms及び磁気緩和定数αを調整することができる。
【0075】
フェロ磁性体としては、サマリウム(Sm)、ネオジウム(Nd)及びホルミウム(Ho)のうちの少なくとも1つと、Fe、Co、Niのうちの少なくとも1つとを含む合金が挙げられる。
【0076】
例えば、SmCo、NdFeBなどがフェロ磁性体として挙げることができる。
【0077】
これらの合金は、その組成比を調整することにより、実効的な磁気異方性Keff、飽和磁化Ms及び磁気緩和定数αを調整することができる。
【0078】
上記の材料系を参照層として用いる場合、参照層は、非磁性層(例えば、トンネルバリア層)との格子ミスマッチが大きく、高いTMR比を実現する観点からすると望ましいことではない。そこで、このような場合には、既に述べたように、参照層及び非磁性層間に界面層を配置する。
【0079】
(3)記憶層
以下、記憶層の性質及び材料について説明する。
【0080】
図1乃至図3の磁気抵抗素子MTJの記憶層2の条件は、素子サイズが小さく、かつ、大きな垂直磁気異方性により熱擾乱耐性を維持できることである。これにより、磁気抵抗素子MTJの微細化と低電流書き込みの両立が可能となる。
【0081】
(3−1)記憶層の性質
記憶層が垂直磁化を持つ場合、記憶層の熱擾乱指数Δは、熱エネルギーにより磁化が揺らぐ問題(熱擾乱)を回避するために、一般的には、Δ>60が必要条件となる。
【0082】
しかし、磁気抵抗素子MTJのサイズが小さくなり、記憶層が薄くなると、磁化反転の単位体積Vaが小さくなるために、記憶層に熱が加わると、記憶層の残留磁化の状態を維持できなくなり、記憶層による記憶動作が不安定(熱擾乱)になる。
【0083】
従って、記憶層としては、実効的な磁気異方性定数Keffが大きい材料により構成するのが望ましい。また、記憶層は、飽和磁化Mが小さいのが望ましい。
【0084】
(3−2)記憶層の材料
記憶層は、下記から適宜選択することができる。
【0085】
(3−2−1)CoFe-X系
CoFe-X系とは、B、C、Nなどを添加したCoFe(アモルファス合金)のことである。即ち、Xは、B、C、Nのうちの少なくとも1つである。
【0086】
CoFe-X系は、熱処理後、NaCl構造を有する非磁性層(例えば、トンネルバリア層)と格子整合性が良く、高いTMR比を実現することができる。
【0087】
特に、記憶層としては、(100)面に優先配向させる観点から、Co、Fe、Bを含む合金(Co100−xFe100−y(x≧25at%、0≦y≦30at%)であるのが望ましい。また、CoFe-X系に、さらに、融点が高い、Ta、W、Hf、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Crのうちの少なくとも1つを含ませてもよい。
【0088】
例えば、非磁性層にTaを用い、磁性層にCoFeBを用い、両者を接触させる場合には、CoFeB内のBは、熱処理後にTaに吸い寄せられるため、非磁性層の近傍における磁性層の結晶化が促進される。
【0089】
(3−2−2)規則合金系
規則合金系とは、Fe、Co、Niのうちの少なくとも1つと、Pt、Pdのうちの少なくとも1つとを含む合金のことである。規則合金系の結晶構造は、L1型であるのが望ましい。例えば、Fe50Pt50、Fe50Pd50、Co50Pt50、Fe30Ni20Pt50、Co30Fe20Pt50、Co30Ni20Pt50などは、規則系合金として挙げることができる。これらの規則系合金は、上記組成比に限定されることはない。
【0090】
また、規則合金系に、Cu(銅)、Cr(クロム)、Ag(銀)などの不純物、その合金又はその絶縁物を加えることにより、記憶層の実効的な磁気異方性Keff及び飽和磁化Mを調整することができる。
【0091】
規則合金系を記憶層として用いる場合、記憶層と非磁性層(例えば、トンネルバリア層)との格子ミスマッチが大きい場合においては、記憶層と非磁性層との間に界面層を配置するのが望ましい。
【0092】
(3−2−3)人工格子系
人工格子系とは、Fe、Co、Niのうちの少なくとも1つを含む合金と、Cr、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Os、Re、Au、Cuのうちの少なくとも1つを含む合金とが交互に積層される構造のことである。例えば、Co/Pt人工格子、Co/Pd人工格子、CoCr/Pt人工格子、Co/Ru人工格子、Co/Os、Co/Au、Ni/Cu人工格子などは、人工格子系として挙げることができる。
【0093】
人工格子系は、磁性層へ元素を添加することにより、非磁性層(例えば、トンネルバリア層)に対する磁性層の膜厚比を小さくすることにより、実効的な磁気異方性Keffを大きく、飽和磁化Msを小さくすることができる。
【0094】
また、人工格子系を記憶層として用いる場合、非磁性層(例えば、トンネルバリア層)との格子ミスマッチが大きく、高いTMR比を維持する観点からは望ましくはない。そこで、このような場合においては、非磁性層と記憶層との間に界面層を配置するのが望ましい。
【0095】
(3−2−4)不規則合金系
不規則合金系とは、コバルト(Co)を主成分とし、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、鉄(Fe)及びニッケル(Ni)のうちの少なくとも1つを含む金属のことである。
【0096】
例えば、CoCr合金、CoPt合金、CoCrPt合金、CoCrPtTa合金、CoCrNb合金などは、不規則合金系として挙げることができる。
【0097】
不規則合金系は、非磁性元素の割合を増加させることにより、実効的な磁気異方性Keffを大きく、飽和磁化Mを小さくすることができる。
【0098】
また、不規則合金系を記憶層として用いる場合、非磁性層(例えば、トンネルバリア層)との格子ミスマッチが大きく、高いTMR比を維持する観点からは望ましくはない。そこで、このような場合においては、非磁性層と記憶層との間に界面層を配置するのが望ましい。
【0099】
(4)下地層
記憶層及び参照層が垂直磁化を持つ構造(膜面に対して垂直方向に磁化容易軸を有する磁性膜)とするためには、一般的には、下地層が必要となる。
【0100】
例えば、記憶層を規則合金系、人工格子系又は不規則合金系により構成する場合、記憶層の原子稠密面が配向し易い構造を採用する必要がある。即ち、記憶層の結晶配向性を、fcc(111)面又はhcp(001)面が配向するように制御する必要があり、そのために、下地層の選択は重要となる。
【0101】
尚、記憶層をCoFe−X(アモルファス合金)系により構成する場合、CoFe−Xは、非磁性層(例えば、トンネルバリア層)との界面磁気異方性を垂直磁気異方性の起源とするため、下地層は、必ずしも稠密面配向する必要はない。
【0102】
(4−1)下地層の材料
下地層としては、下地層上に記憶層が形成される場合及び下地層上に参照層が形成される場合のいずれにおいても、下記の材料を選択することができる。
【0103】
下地層上の磁性層(記憶層又は参照層)として、Co/Pt、Co/Pd、Co/Niなどの人工格子系、fcc若しくはhcpのCoPd合金若しくはCoPt合金、又は、RE−TM規則合金(例えば、Sm−Coなど)を採用する場合は、下地層としては、稠密構造を有する金属から構成するのが望ましい。
【0104】
稠密構造を有する金属としては、Pt、Pd、Ir、Ruなどが挙げられる。また、下地層は、1元素金属のみではなく、例えば、Pt−Pd、Pt−Irのように、2元素以上の元素を含む合金であってもよい。
【0105】
但し、これらの金属は、スピンポンピング効果により、記憶層の磁気緩和定数αを大きくする傾向があるため、(a)上述の金属と、Cu、Au、Alなどのfcc金属との合金である、Pt−Cu、Pd−Cu、Ir−Cu、Pt−Au、Ru−Au、Pt−Al、Ir−Al、(b)上述の金属と、Re、Ti、Zr、Hfなどのhcp金属との合金である、Pt−Re、Pt−Ti、Ru−Re、Ru−Ti、Ru−Zr、Ru−Hf、Al−Ti、Cu−Ti、又は、(c)上記(a)及び(b)の酸化物又は窒化物を、下地層とするのが望ましい。
【0106】
即ち、下地層は、d軌道の電子数が小さく、スピン−軌道相互作用が小さい材料から構成するのが望ましい。このような材料を下地層とすれば、稠密構造を保ちつつ、可能な限りPtやIrなどのd軌道の電子数が多い金属の比率を下げることができ、結果として、記憶層の磁気緩和定数αを下げることができる。
【0107】
また、下地層が厚過ぎると、磁気抵抗素子MTJの平滑性が悪くなるため、下地層の厚さの上限としては、30nmであるのが望ましい。
【0108】
尚、下地層は、複数層の積層構造を有していてもよい。この積層構造は、格子定数の異なる材料を積層することにより、格子定数を調整することを目的とする。
【0109】
例えば、下地層を、Ru層とPt層との積層構造とした場合、Pt層は、Ru層の影響を受けて、バルクの格子定数とは異なる格子定数を持つことになる。
【0110】
下地層を積層構造とする場合、下地層の最下層は、平滑性及び下地層のその他の層(稠密構造)の結晶配向性を向上させることを目的として、例えば、Ta層を備えることができる。また、下地層の厚さの上限は、下地層の形成にかかる時間、即ち、生産性の向上を考慮すると、10nmとなる。また、下地層の厚さの下限は、結晶配向性の向上を考慮すると、1nmとなる。
【0111】
従って、下地層の厚さは、1〜10nmの範囲内にあるのが望ましい。
【0112】
尚、下地層上の磁性層(記憶層又は参照層)が、FePt、FePdなどのL1o規則合金である場合は、下地層としては、(100)面が配向したPt、Pdなどのfcc金属、Crなどのbcc金属、又は、TiN、MgOなどのNaCl構造を有する化合物を採用するのが望ましい。
【0113】
また、下地層上の磁性層(記憶層又は参照層)が、CoFe−X(アモルファス合金)系である場合には、下地層は、Ta、Wなどの密着層を兼ね備えた材料から構成するのが望ましい。
【0114】
(5)非磁性層
記憶層及び参照層間に配置される非磁性層としては、NaCl構造を有する酸化物であるのが望ましい。具体的には、非磁性層は、MgO、CaO、SrO、TiO、VO、NbOのうちの1つを備える。
【0115】
記憶層の磁化方向と参照層の磁化方向とが反平行である場合、スピン分極したΔ1バンドがトンネル伝導の担い手となるため、マジョリティースピン電子のみが電気伝導に寄与することとなる。この結果、磁気抵抗素子MTJの電気伝導率が低下し、磁気抵抗素子MTJの抵抗値が大きくなる。
【0116】
これに対し、記憶層の磁化方向と参照層の磁化方向とが平行である場合、スピン偏極していないΔ5バンドが電気伝導を支配するために、磁気抵抗素子MTJの電気伝導率が上昇し、磁気抵抗素子MTJの抵抗値が小さくなる。従って、Δ1バンドの形成が高いTMR比を発現させるためのポイントとなる。
【0117】
Δ1バンドを形成するためには、NaCl構造の酸化物を備える非磁性層の(100)面と、記憶層が非磁性層に接触する面及び参照層が非磁性層に接触する面との整合性が良くなければならない。
【0118】
そこで、非磁性層(例えば、NaCl構造を有する酸化物)の(100)面での格子整合性をさらに良くするために、非磁性層と記憶層との間及び非磁性層と参照層との間にそれぞれ界面層を挿入してもよい。
【0119】
Δ1バンドを形成するという観点から、界面層としては、非磁性層の(100)面での格子ミスマッチが5%以下となるような材料を選択するのが望ましい。
【0120】
(6)界面層
磁気抵抗素子MTJの記憶層と非磁性層との間及び参照層と非磁性層との間に、磁気抵抗比(TMR比)を向上させる目的で、界面層を設ける場合、界面層としては、高分極率材料、例えば、Co、Fe及びBを含む合金であるのが望ましい。そのような材料としては、(Co100−x−Fe100−y(但し、x≧50at%、0≦y≦30at%)がある。(Co100−x−Fe100−yは、記憶層と非磁性層との間及び参照層と非磁性層との間の格子ミスマッチを緩和し、さらに、高分極率材料であるため、高いTMR比と高いスピン注入効率を実現し得るという特徴を有する。
【0121】
(7) シフト調整層
シフト調整層は、参照層の磁化に対して逆向きの磁化を持ち、記憶層の磁気ヒステリシス曲線のシフトを調整することを目的とする。このため、シフト調整層は、参照層と同じ材料から構成することができる。
【0122】
(7−1)人工格子系
人工格子系とは、Fe、Co、Niのうちの少なくとも1つの元素を含む合金(磁性層)と、Cr、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Os、Re、Au、Cuのうちの少なくとも1つの元素を含む合金(非磁性層)とが交互に積層される構造のことである。
【0123】
例えば、Co/Pt人工格子、Co/Pd人工格子、CoCr/Pt人工格子、Co/Ru人工格子、Co/Os、Co/Au、Ni/Cu人工格子などが人工格子系として挙げられる。また、2つの磁性層を用いた人工格子系の例として、Co/Ni人工格子、Fe/Ni人工格子が挙げられる。
【0124】
(7−2)RE(希土類金属)−TM(遷移金属)合金系
RE−TM合金系とは、希土類金属と遷移金属との合金のことである。RE−TM合金系は、希土類金属の材料により、フェリ磁性体及びフェロ磁性体のうちの1つとなる。
【0125】
フェリ磁性体としては、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)及びガドリニウム(Gd)のうちの少なくとも1つと、Fe、Co、Niのうちの少なくとも1つとを含む合金が挙げられる。
【0126】
例えば、TbFe、TbCo、TbFeCo、DyTbFeCo、GdTbCoなどがフェリ磁性体として挙げることができる。
【0127】
フェロ磁性体としては、サマリウム(Sm)、ネオジウム(Nd)及びホルミウム(Ho)のうちの少なくとも1つと、Fe、Co、Niのうちの少なくとも1つとを含む合金が挙げられる。
【0128】
例えば、SmCo、NdFeBなどがフェロ磁性体として挙げることができる。
【0129】
(磁気メモリ)
近年、高速読み出し/書き込み、大容量、低消費電力動作が可能な次世代の不揮発性半導体メモリとして、強磁性体の磁気抵抗効果を利用した磁気ランダムアクセスメモリ(Magnetic Random Access Memory: MRAM)への関心が高まっている。特に、強磁性トンネル接合を有する磁気抵抗素子は、大きな磁気抵抗変化率を示すことが見出されて以来、注目されている。
【0130】
強磁性トンネル接合は、可変な磁化を持つ記憶層と、不変な磁化を持つ参照層と、これらの間のトンネルバリア層(絶縁層)とを基本構造とする。この強磁性トンネル接合に電流を流すと、トンネルバリア層にトンネル電流が流れる。このとき、強磁性トンネル接合の抵抗は、記憶層と参照層の磁化方向の相対角により変化する。
【0131】
例えば、記憶層と参照層の磁化方向が平行のときに、強磁性トンネル接合の抵抗は、極小値をとり、記憶層と参照層の磁化方向が反平行のときに、強磁性トンネル接合の抵抗は、極大値をとる。この抵抗変化は、トンネル磁気抵抗効果(Tunneling Magneto-Resistance effect: TMR効果)と呼ばれる。この強磁性トンネル接合を有する磁気抵抗素子をメモリセルとして用いる場合には、記憶層と参照層との磁化方向の平行/反平行に、二進データの“0”/“1”を対応付ける。
【0132】
磁気抵抗素子に対する書き込み動作は、その近傍に書き込み線を配置し、書き込み線に流れる電流により発生する磁場によって、記憶層の磁化方向のみを反転させる、いわゆる磁場書き込み方式が知られている。しかし、この方式では、大容量メモリを実現するために素子サイズを小さくすると、記憶層を構成する磁性体の保磁力Hcが原理的に大きくなるため、書き込みに必要な電流が素子を微細化するほど大きくなる傾向がある。
【0133】
これに対し、書き込み線からの磁場は、素子サイズの縮小に対して原理的に小さくなるため、磁場書き込み方式では、大容量設計で要求される素子サイズの縮小と書き込み電流の低減とを両立することは困難である。
【0134】
そこで、近年、この課題を克服する書き込み方式としてスピン角運動量移動(spin-momentum-transfer:SMT)を用いた書き込み(スピン注入書き込み)方式が提案されている。この方式は、磁気抵抗素子にスピン偏極電流を流すことにより、記憶層の磁化方向を反転させる。また、この方式は、記憶層の体積が小さいほど、それに注入するスピン偏極電子も少なくてよいため、素子の微細化と低電流化とを両立できる書き込み方式として期待されている。
【0135】
しかし、大容量化を達成するために素子を微細化すると、記憶層の磁化方向を一方向に維持するためのエネルギー障壁、即ち、磁気異方性エネルギーが熱エネルギーよりも小さくなるため、結果として、記憶層の磁化方向が揺らぎ(熱擾乱の発生)、データを保持できなくなるという問題が発生する。
【0136】
一般的に、磁化方向が反転するために必要なエネルギー障壁は、磁気異方性(単位体積当りの磁気異方性エネルギー)と磁化反転の単位体積との積で表わされるため、微細な素子サイズで熱擾乱に対する耐性を確保するためには、記憶層としては、磁気異方性が大きな材料で構成するのが望ましい。
【0137】
これまで主に検討されている面内磁化型では、形状磁気異方性を利用するのが一般的である。この場合、磁気異方性エネルギーを増加させるには、磁気抵抗素子のアスペクト比を大きくする、記憶層を厚くする、記憶層の飽和磁化を大きくする、などの対策が必要となるが、これらは、スピン注入方式の特徴を考えたとき、いずれも反転電流の増大を招くため、微細化に適さない。
【0138】
一方、形状磁気異方性ではなく、大きな結晶磁気異方性を有する材料を利用することも考えられるが、その場合、面内方向の磁化容易軸は、膜面内で大きく分散してしまうため、MR比(Magnetoresistance ratio)が低下し、インコヒーレントな歳差運動が誘発するため、結果として、反転電流が増加してしまうこととなる。そのため、この方策もまた望ましくはない。
【0139】
また、面内磁化型では、素子の形状により生じる磁気異方性を利用するため、反転電流の値は、形状に左右される。その結果、素子の微細化に伴い、反転電流のばらつきが増加することも懸念される。
【0140】
これに対し、磁気抵抗素子を構成する強磁性材料に、膜面に対して垂直方向に磁化容易軸を有する、いわゆる垂直磁化膜を用いる技術が提案されている。垂直磁化型により結晶磁気異方性を発生させる場合、形状磁気異方性を利用しないため、素子の形状を面内磁化型に比べて非常に小さくできる。また、磁化容易方向の分散も小さくできるため、大きな結晶磁気異方性を有する材料を採用することにより、熱擾乱耐性を維持しつつ、微細化と低電流との両立を図ることができる。
【0141】
図8は、MRAMを示している。
【0142】
MRAMは、マトリクス状に配列される複数のメモリセルMCを有するメモリセルアレイ40を備える。メモリセルアレイ40は、列(カラム)方向に延在する複数のビット線対BL,bBLと、行(ロウ)方向に延在する複数のワード線WLを備える。
【0143】
ビット線対BL,bBLとワード線WLとの交差部分には、メモリセルMCが配置される。各メモリセルMCは、直列接続される磁気抵抗素子MTJ及びスイッチ素子(例えば、NチャネルMOSトランジスタ)41を備える。
【0144】
メモリセルMCの第1の端子は、ビット線BLに接続され、第2の端子は、ビット線bBLに接続される。スイッチ素子41のオン/オフを決める制御端子(例えば、NチャネルMOSトランジスタのゲート)は、ワード線WLに接続される。
【0145】
ワード線WLの一端には、ロウデコーダ42が接続される。ビット線対BL,bBLの一端には、書き込み回路44及び読み出し回路45が接続される。書き込み回路44及び読み出し回路45には、カラムデコーダ43が接続される。各メモリセルMCは、ロウデコーダ42及びカラムデコーダ43により選択される。
【0146】
メモリセルMCへのデータの書き込みは、以下のように行われる。
【0147】
まず、データ書き込みの対象となる選択メモリセルMCに接続されるワード線WLを活性化することにより、その選択メモリセルMC内のスイッチ素子41をオンにする。
【0148】
ここで、磁気抵抗素子MTJに流す書き込み電流(双方向電流)Iwの向きを、書き込みデータに応じて決定する。
【0149】
例えば、データ“0”を書き込むときは、磁気抵抗素子MTJにビット線BLからビット線bBLに向かう書き込み電流Iwを供給する。この場合、書き込み回路44は、ビット線BLに正の電圧を印加し、ビット線bBLに接地電圧を印加すればよい。
【0150】
また、データ“1”を書き込むときは、磁気抵抗素子MTJにビット線bBLからビット線BLに向かう書き込み電流Iwを供給する。この場合、書き込み回路44は、ビット線bBLに正の電圧を印加し、ビット線BLに接地電圧を印加すればよい。
【0151】
このようにして、選択メモリセルMCに、データ“0”又はデータ“1”を書き込むことができる。
【0152】
次に、メモリセルMCからのデータ読み出しは、以下のように行われる。
【0153】
まず、選択メモリセルMC内のスイッチ素子41をオンにする。読み出し回路45は、磁気抵抗素子MTJに読み出し電流Irを流す。そして、読み出し回路45は、この読み出し電流Irに基づいて、選択メモリセルMC内の磁気抵抗素子MTJの抵抗値を検出する。このようにして、磁気抵抗素子MTJに記憶されるデータを読み出すことができる。
【0154】
尚、読み出し電流Irの向きは、特に制限されないが、読み出し時の誤書き込みを防止するために、読み出し電流Irの値は、書き込み電流Iwの値よりも十分に小さいことが必要となる。
【0155】
次に、MRAMのメモリセルのデバイス構造を説明する。
【0156】
図9は、メモリセルのデバイス構造を示している。
半導体基板51の表面領域には、素子分離領域(素子分離絶縁層STI)が配置され、この素子分離領域に取り囲まれた素子領域(Active area)内には、スイッチ素子41が配置される。素子分離領域は、例えば、STI(Shallow Trench Isolation)構造を有する酸化シリコンを備える。
【0157】
素子領域内には、ソース領域S及びドレイン領域Dが配置される。ソース領域S及びドレイン領域Dは、例えば、P型半導体基板51内のN型不純物拡散領域である。ソース領域S及びドレイン領域D間の半導体基板51上には、ゲート絶縁膜41Aを介して、ゲート電極41Bが配置される。ゲート電極41Bは、ワード線WLとして機能する。
【0158】
ソース領域S上には、コンタクトプラグ52を介して導電線53が配置される。導電線53は、ビット線bBLとして機能する。ドレイン領域D上には、コンタクトプラグ54を介して下部電極55が配置される。下部電極55上には、例えば、図1乃至図3の磁気抵抗素子MTJが配置される。
【0159】
本例では、磁気抵抗素子MTJ上にキャップ層56が配置される。キャップ層56は、磁気抵抗素子MTJのパターニング時のハードマスク層として機能すると共に、磁気抵抗素子MTJを保護する保護層としても機能する。キャップ層56上には、導電線58が配置される。導電線58は、ビット線BLとして機能する。
【0160】
また、半導体基板51と導電線58との間の空間は、例えば、酸化シリコンなどの層間絶縁層57により満たされる。
【0161】
以上、詳述したように、実施形態の磁気抵抗素子MTJを用いて、磁気メモリ、例えば、MRAMを構成することができる。尚、磁気抵抗素子MTJは、スピン注入型の磁気メモリの他、磁壁移動型の磁気メモリとして使用することも可能である。
【0162】
(適用例)
上述の磁気メモリは、様々な電子機器に適用することが可能である。以下、磁気メモリの適用例について説明する。
【0163】
(1)DSL用モデムのDSLデータパス部
図10は、デジタル加入者線(DSL)用モデムのDSLデータパス部を抽出して示している。
【0164】
このモデムは、プログラマブルデジタルシグナルプロセッサ(Programmable Digital Signal Processor: Programmable DSP)100、アナログ−デジタル(A/D)コンバータ110、デジタル−アナログ(D/A)コンバータ120、送信ドライバ130及び受信増幅器140を備える。
【0165】
同図では、バンドパスフィルタを省略しており、その代わりに、MRAM170及びEEPROM180を設けている。これらは、回線コードプログラムを保持するためのオプションメモリとして機能する。ここで、回線コードプログラムとは、DSPで実行される、コード化される加入者回線情報、伝送条件など(回線コード:QAM、CAP、RSK、FM、AM、PAM、DWMTなど)に応じて、モデムを選択又は動作させるためのプログラムのことである。
【0166】
この適用例では、回線コードプログラムを保持するためのメモリとしてMRAM170及びEEPROM180を用いているが、EEPROM180をMRAMに置き換えてもよい。即ち、回線コードプログラムを保持するためのメモリをMRAMのみで構成することも可能である。
【0167】
(2) 携帯電話端末
図11は、携帯電話端末を示している。
【0168】
この携帯電話端末は、バス225を介して、通信部及び制御部が接続されるマイクロコンピュータとして実現される。
【0169】
通信部は、送受信アンテナ201、アンテナ共用器202、受信部203、ベースバンド処理部204、音声コーデックとして用いられるDSP205、スピーカ(受話器)206、マイクロホン(送話器)207、送信部208及び周波数シンセサイザ209を備える。また、制御部は、CPU221、ROM222、本実施形態のMRAM223及びフラッシュメモリ224を備える。
【0170】
ROM222には、CPU221において実行されるプログラムや表示用のフォントなどのデータが予め記憶される。MRAM223は、主に作業領域として用いられる。MRAM223は、CPU221がプログラムの実行中である場合に、計算途中のデータを記憶し、制御部と通信部との間で授受するデータを一時的に記憶する。
【0171】
フラッシュメモリ224は、携帯電話端末の電源がオフされても、例えば、直前の設定条件を記憶し、次の電源オン時に同じ設定にするような使用方法を実現する場合に、それらの設定パラメータを記憶するために用いられる。これにより、携帯電話端末の電源がオフにされても、記憶されている設定パラメータを消失してしまうことがない。
【0172】
また、この携帯電話端末には、音声データ再生処理部211、外部出力端子212、LCDコントローラ213、表示用のLCD(液晶ディスプレイ)214及び呼び出し音を発生するリンガ215が付加される。
【0173】
音声データ再生処理部211は、携帯電話端末に入力されるオーディオ情報(又は外部メモリ240に記憶されるオーディオ情報)を再生する。再生されるオーディオ情報は、外部出力端子212を介してヘッドフォンや携帯型スピーカなどに伝えられる。これにより、音声が外部に出力される。
【0174】
このように、音声データ再生処理部211を設けることにより、オーディオ情報の再生が可能となる。LCDコントローラ213は、例えば、CPU221からの表示情報を、バス225を介して受け取り、これをLCD214の制御のためのLCD制御情報に変換し、さらに、LCD214を駆動してLCD表示を行う。
【0175】
また、携帯電話端末には、インターフェース回路(I/F)231,233,235、外部メモリ240、外部メモリスロット232、キー操作部234及び外部入出力端子236が付加される。
【0176】
外部メモリスロット232には、メモリカードなどの外部メモリ240が挿入される。この外部メモリスロット232は、インターフェース回路(I/F)231を介してバス225に接続される。
【0177】
このように、携帯電話端末にスロット232を設けることにより、携帯電話端末の内部情報を外部メモリ240に書き込んだり、又は、外部メモリ240に記憶される情報(例えばオーディオ情報)を携帯電話端末300に入力したりすることが可能となる。
【0178】
キー操作部234は、インターフェース回路(I/F)233を介してバス225に接続される。キー操作部234から入力されるキー入力情報は、例えば、CPU221に伝えられる。外部入出力端子236は、インターフェース回路(I/F)233を介してバス225に接続され、携帯電話端末に外部から情報を入力したり、又は、携帯電話端末から外部へ情報を出力したりするために使用される。
【0179】
尚、本適用例では、ROM222、MRAM223及びフラッシュメモリ224の3つを用いているが、ROM222及びフラッシュメモリ224のうちの少なくとも1つについては、MRAMに置き換えることも可能である。例えば、ROM222及びフラッシュメモリ224を省略してもよい。
【0180】
(3) MRAMカード
ここでは、スマートメディアなどのメディアコンテンツを収納するカードに実施形態のMRAMを適用した場合について説明する。
【0181】
図12は、MRAMカードを示している。図13乃至図16は、MRAMカードシステムを示している。
【0182】
MRAMカード本体400には、MRAMチップ401が内蔵される。このカード本体400には、MRAMチップ401に対応する位置に開口部402が設けられ、MRAMチップ401が露出される。この開口部402には、シャッター403が設けられ、MRAMカードの携帯時にMRAMチップ401がシャッター403で保護されるようになっている。このシャッター403は、外部磁場を遮蔽する効果のある材料、例えば、セラミックであるのが望ましい。
【0183】
データの転写を実行する場合には、シャッター403を開け、MRAMチップ401を露出させる。外部端子404は、MRAMカードに記憶されるコンテンツデータを外部に取り出すためのものである。
【0184】
図13及び図14は、MRAMカードにデータを転写する転写装置を示している。
【0185】
この転写装置500は、カード挿入型である。転写装置500は、収納部500aを有する。収納部500aには、第1のMRAMカード550が収納される。収納部500aには、第1のMRAMカード550に電気的に接続される外部端子530が設けられ、この外部端子530を用いて第1のMRAMカード550のデータが書き換えられる。
【0186】
エンドユーザが使用する第2のMRAMカード450を、矢印で示すように転写装置500の挿入部510より挿入し、ストッパ520で止まるまで押し込む。このストッパ520は、第1のMRAMカード550と第2のMRAMカード450とを位置合わせするための部材としても働く。第2のMRAMカード450が所定位置に配置されると、第1のMRAMカード550内の制御部から外部端子530に制御信号が供給され、第1のMRAMカード550に記憶されるデータが第2のMRAMカード450に転写される。
【0187】
図15は、はめ込み型の転写装置を示している。
【0188】
この転写装置500は、矢印で示すように、ストッパ520を目標に、第1のMRAMカード550上に第2のMRAMカード450をはめ込むように載置するタイプである。転写方法については、カード挿入型と同一であるので、説明を省略する。
【0189】
図16は、スライド型の転写装置を示している。
【0190】
この転写装置500は、CD−ROMドライブやDVDドライブと同様に、転写装置500に受け皿スライド560が設けられ、この受け皿スライド560が矢印で示すように移動する。受け皿スライド560が破線の位置に移動したときに第2のMRAMカード450を受け皿スライド560に配置し、第2のMRAMカード450を転写装置500の内部へ搬送する。
【0191】
ストッパ520に第2のMRAMカード450の先端部が接触するように搬送される点及び転写方法については、カード挿入型と同一であるので、説明を省略する。
【0192】
(むすび)
実施形態によれば、磁気抵抗素子の微細化に伴って増大する漏洩磁界をシフト調整層により確実にキャンセルすることができる。
【0193】
実施形態は、高速ランダム書き込み可能なファイルメモリ、高速ダウンロード可能な携帯端末、高速ダウンロード可能な携帯プレーヤー、放送機器用半導体メモリ、ドライブレコーダ、ホームビデオ、通信用大容量バッファメモリ、防犯カメラ用半導体メモリなどに対して産業上のメリットは多大である。
【0194】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均などの範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0195】
MTJ: 磁気抵抗素子、 1: 下地層、 2: 記憶層、 3: 非磁性層(トンネルバリア層)、 4: 参照層、 5: 非磁性層、 6: シフト調整層、 7: キャップ層、 8,9: 界面層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直及び可変の磁化を持つ記憶層と、
垂直及び不変の磁化を持つ参照層と、
垂直、不変及び前記参照層の磁化に対して逆向きの磁化を持つシフト調整層と、
前記記憶層及び前記参照層間の第1の非磁性層と、
前記参照層及び前記シフト調整層間の第2の非磁性層とを具備し、
前記参照層の反転磁界は、前記記憶層の反転磁界と同じ又はそれよりも小さく、
前記参照層の磁気緩和定数は、前記記憶層の磁気緩和定数よりも大きい
磁気抵抗素子。
【請求項2】
前記参照層の実効磁気異方性は、前記記憶層の実効磁気異方性と同じ又はそれよりも小さい請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項3】
前記参照層は、前記記憶層よりも上に配置され、前記シフト調整層は、前記参照層よりも上に配置される請求項1又は2に記載の磁気抵抗素子。
【請求項4】
前記参照層は、人工格子系及びRE−TM合金系のうちの1つを備える請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項5】
前記記憶層は、CoFe−X系(Xは、B、C,Nの少なくとも1つ)、規則合金系、人工格子系及び不規則合金系のうちの1つを備える請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項6】
前記記憶層と前記第1の非磁性層との間及び前記参照層と前記第1の非磁性層との間のうちの少なくとも1つに界面層を備える請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項7】
前記界面層は、(Co100−xFe100−y(但し、x≧50at%、0≦y≦30at%)を備える請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁気抵抗素子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気抵抗素子と、前記磁気抵抗素子に双方向電流を流すことにより、前記記憶層及び前記参照層の磁化方向の関係を平行又は反平行にする書き込み回路とを具備する磁気メモリ。
【請求項9】
前記磁気抵抗素子の直下に配置され、前記磁気抵抗素子に選択的に前記双方向電流を流すためのスイッチ素子をさらに具備する請求項8に記載の磁気メモリ。
【請求項10】
前記磁気抵抗素子及び前記スイッチ素子は、直列接続されることにより、第1及び第2の端子並びに前記スイッチ素子のオン/オフを決める制御端子を持つ直列接続体を構成し、
前記第1の端子は、第1のビット線に接続され、前記第2の端子は、第2のビット線に接続され、前記制御端子は、ワード線に接続される
請求項9に記載の磁気メモリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−16560(P2013−16560A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146718(P2011−146718)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「スピントロニクス不揮発性機能技術プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】