説明

磁気記憶素子、磁気記憶装置、および磁気メモリ

【課題】磁壁が静止した状態から移動状態に遷移させるために必要な電流密度を低減化することができるとともに、磁壁の移動を安定に行うことができる磁気記憶素子、磁気記憶装置、および磁気メモリを提供する。
【解決手段】本実施形態の磁気記憶素子は、第1方向に延在し、磁壁により隔てられた複数の磁区を有する磁性細線と、前記磁性細線に前記第1方向の電流および前記第1方向と逆方向の電流を流すことが可能な電極と、電気的な入力を受け、前記磁性細線の全体または一部の領域の磁壁の移動をアシストするアシスト部と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気記憶素子、磁気記憶装置、および磁気メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
メモリの大容量化を実現する方法として、磁壁を用いたスピンシフトレジスタ型のメモリが提案されている。これは、従来の半導体メモリにおいて続いてきたような、各メモリセルに「記憶素子+選択素子+情報引き出し配線」を作りこむ方法ではなく、記憶情報を、一定の場所に形成されたセンサおよび配線の位置まで転送する方法をとることで、記憶素子のみを高密度に配置するというコンセプトに基づいており、メモリ容量を飛躍的に増大する可能性がある。
【0003】
しかしながら、安定なシフト動作を実現するためには、磁壁が静止した状態から移動状態に遷移させるための大きな電流密度の電流が必要であった。頻繁に行うシフト動作に大電流、大電力が必要とすることは、メモリとして信頼性確保、および消費電力の二つの観点から望ましくない構成であり、磁壁のシフト動作に必要な臨界電流値を低減させることが必要である。
【0004】
またメモリ向けのシフトレジスタは、各bit(または各桁)に制御電極を付けるのは望ましくなく、ビット列全体に対して何らかの作用を加えることで、所望の桁数のシフト動作を行う必要がある。これまでに提案されているメモリ向けシフトレジスタにおいては、シフトレジスタを貫通して流れる電流パルスにより、数桁ならまだしも、大容量メモリの実現のために必要なひとつの磁性細線にある少なくとも数百bit、大容量にするためには数kbit以上にもなるような全桁の情報を一斉に間違いなく桁送りすることは容易ではない。このような一つの細線上にあるビット数が多い大容量メモリの場合には、シフトレジスタの物理的な長さも大きくなり、容量やインダクタンス成分による電流パルス波形の鈍りにより誤動作の可能性が増大してしまうという問題が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−301699号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】米国特許第6,834,005号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態が解決しようとする課題は、磁壁が静止した状態から移動状態に遷移させるために必要な電流密度を低減化することができるとともに、磁壁の移動を安定に行うことができる磁気記憶素子、磁気記憶装置、および磁気メモリを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態の磁気記憶素子は、第1方向に延在し、磁壁により隔てられた複数の磁区を有する磁性細線と、前記磁性細線に前記第1方向の電流および前記第1方向と逆方向の電流を流すことが可能な電極と、電気的な入力を受け、前記磁性細線の全体または一部の領域の磁壁の移動をアシストするアシスト部と、を備えていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1実施形態による磁気記憶素子を示す断面図。
【図2】第1実施形態の第1変形例による磁気記憶素子を示す断面図。
【図3】第1実施形態の第2変形例による磁気記憶素子を示す断面図。
【図4】一実施形態の磁気記憶素子の磁性細線に印加される電流と磁場の波形を示すタイミングチャート。
【図5】第1実施形態による磁気記憶素子の書き込みおよび読み出しを説明する断面図。
【図6】第1実施形態の第1変形例による磁気記憶素子の書き込みおよび読み出しを説明する断面図。
【図7】図7(a)乃至図7(c)は、第1実施形態と比較例の磁壁幅および磁化分布の時間経過を示す図。
【図8】図8(a)乃至図8(c)は、第1実施形態の第1変形例による磁気記憶素子の製造方法を示す断面図。
【図9】第2実施形態による磁気記憶素子を示す断面図。
【図10】第2実施形態の第1変形例による磁気記憶素子を示す断面図。
【図11】第2実施形態の第2変形例による磁気記憶素子を示す断面図。
【図12】第3実施形態の磁気記憶素子を示す断面図。
【図13】第3実施形態の第1変形例による磁気記憶素子を示す断面図。
【図14】図14(a)、14(b)は、第3実施形態および第1変形例を基板の上方から見た平面図。
【図15】第3実施形態の第2変形例による磁気記憶素子を示す断面図。
【図16】第3実施形態の第3変形例による磁気記憶素子を示す断面図。
【図17】第3実施形態の第4変形例による磁気記憶素子を示す断面図。
【図18】第3実施形態の第5変形例による磁気記憶素子を示す断面図。
【図19】第3実施形態の第6変形例による磁気記憶素子を示す断面図。
【図20】第4実施形態による磁気記憶素子を示す断面図。
【図21】第4実施形態の第1変形例による磁気記憶素子を示す断面図。
【図22】図22(a)、22(b)は第5実施形態による磁気記憶素子を説明する図。
【図23】第5実施形態の一変形例による磁気記憶素子を示す断面図。
【図24】第6実施形態による磁気記憶装置を示す斜視図。
【図25】第6実施形態の変形例による磁気記憶装置を示す斜視図。
【図26】第6実施形態またはその変形例磁気記憶装置を複数個備えた磁気メモリ示す斜視図。
【図27】第7実施形態の磁気記憶装置を示す回路図。
【図28】第7実施形態の磁気記憶装置を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して実施形態について説明する。
【0011】
(第1実施形態)
第1実施形態による磁気記憶素子を図1に示す。図1は第1実施形態による磁気記憶素子1の断面図である。この実施形態の磁気記憶素子1は、図示しない基板上に非磁性層(図示せず)などを介して、あるいは介さずに形成された磁性細線100と、磁性細線100に接続し磁性細線に電流を流す電極104a、104bと、配線210と、を備えている。磁性細線100は一方向に伸びた細線形状を有している。本明細書において、この細線が伸びた方向を細線方向(第1方向)と称す。磁性細線100を細線方向に対して垂直な面で切った断面形状は例えば四角形、円形又は楕円形状である。磁性細線100は内部に複数の磁区101〜101(nは整数)を有する。図1は、nが7として示している。磁区とは、その内部において磁化方向が一様な領域のことを指す。
【0012】
隣接する2つの磁区の境界において、磁化方向は細線方向に連続的に変化する。このような磁化の変化領域は磁壁と呼ばれる。磁壁は一般に、磁性体の異方性エネルギーや交換スティフネスなどで決まる有限の幅wを有する。磁気記憶素子に書き込み部及び読み出し部が設けられる場合、磁性細線100において、細線方向に所定の長さを持つ領域毎の磁化方向を0または1のビットデータと対応付ける。したがって、たとえば、「00011011」というデータが磁気記憶素子に保存されている場合、第3ビットに対応する領域と第4ビットに対応する領域の境界、第5ビットに対応する領域と第6ビットに対応する領域の境界、第6ビットに対応する領域と第7ビットに対応する領域の境界、のそれぞれに磁壁が存在する。1つの磁気記憶素子に保存されるデータ量はたとえば、100から数1000ビットである。図1においては、各磁区の磁化方向は垂直であるが、平行であってもよい。なお、本明細書において磁化方向が垂直であるとは、細線方向に対して磁化の方向が垂直であることを意味する。また、磁性細線100に用いることができる材料については後述する。
【0013】
電流源150は電極104a、104bを介して磁性細線100に接続され、磁性細線100内に細線方向に、双方向に電流を流すことが可能である。配線210は磁性細線100の近傍に配置され、磁性細線100とは電気的に絶縁されている。なお、図1においては、磁性細線100は、細線方向が基板面(例えば、基板の上面)に対して垂直に配置されるが、図2に示す第1変形例に磁気記憶素子1のように、基板面に対して平行に配置されてもよい。また、図3に示す第2変形例のように1つの磁性細線100に対して複数個(図2では2個)の配線211、212を設けてもよい。
【0014】
本実施形態の磁気記憶素子1は、成膜技術と微細加工技術によって製造される。製造方法の詳細は、後述する。
【0015】
本実施形態の磁気記憶素子1は、配線210と、電流源150とを用いて磁性細線100内の磁壁を細線方向に所定距離だけ移動させることができる。その手順を説明する。
【0016】
まず、時刻tから時刻t(>t)まで、配線210に電流を流すアシスト手順と呼ぶ手順を実行する。配線210の周囲に、磁性細線100の磁化に対して直交する成分を有する電流磁場が発生する。配線210が複数ある場合、少なくとも1つの配線210に電流を流す。磁性細線100の一部領域(励起領域と称す)はその電流磁場の作用を受け磁化方向にゆらぎが生じ、励起領域に含まれる磁壁の幅が拡がる。磁性細線100内の磁化の間には、双極子間相互作用と交換相互作用が働くため、上記磁化方向のゆらぎは磁性細線100内を伝播する。したがって、励起領域に含まれない磁性細線100内の磁壁の幅も電流磁場が及ぶ前に比べて拡がる。配線210に流す電流はパルス電流であっても交流電流であっても良い。交流である場合、磁性細線100を構成する磁性体の強磁性共鳴周波数に近い周波数を持つことが望ましい。これは、磁場に対する感受率が共鳴周波数近傍では高くなり、より小さい電流で磁化方向のゆらぎを発生させることができるためである。
【0017】
また時刻tに、電流源150を用いて磁性細線100内に電流155を流す。
【0018】
よく知られているように、磁性体中に電流を流すことにより、電流は磁化方向にスピン偏極する。磁壁の位置では磁化方向が空間的に変化するため、電流155のスピン偏極方向もそれに応じて空間的に変化し、その反作用で磁化は電流155からトルクを受ける。電流値が閾値以上であれば磁性細線100内の磁壁の位置が電子の流れる方向、すなわち電流155と逆の方向105に移動する。電流155を切ると磁壁の移動は停止するので、電流155を流す時間により磁壁の移動距離を制御することができる。
【0019】
この際、本実施形態の磁気記憶素子1においては、磁壁幅が拡げられた状態で上記トルクを与えることになるため、トルクの受け渡しに関与する磁化の総量が増える。そのため、配線210に流す電流によって磁場を発生させない場合に比べて、磁壁移動の効率が向上する。したがって、より少ない電流、かつ/または、より短い時間で磁壁を移動させることが可能になり、従来の場合と比べて磁壁の移動の安定性が著しく向上する。すなわち、本実施形態においては、配線210に電流を流すことにより、磁壁の移動をアシストしており、配線はアシスト部を構成する。
【0020】
以上の手順を、タイミングチャートとして表すと図4(a)に示すようになる。磁壁が移動を開始する時刻は、電流と磁場が同時に与えられる時刻であり、t2≦t1であればt1であり、t1≦t2であればt2である。とくに、時刻t1が時刻t2以降の時刻(t2≦t1)であることが望ましい。また、複数の配線に電流を流す場合、電流を流す配線の各々についてt2≦t1の条件を満たすことが望ましい。この場合、磁壁の移動は時刻t1から電流の供給が止まる時刻までであり、電流を流す時間によって磁壁の移動時間が決まるため、磁壁を所定距離移動させる制御性にすぐれる。電流の流し方として例えば、図4(b)に示すように、電流155を時間的に複数回に分けられたパルス電流として流すことも可能である。このような電流の流し方は、移動した磁壁を静止させるタイミングを制御する上で効果がある。また、上述のように、電流磁場を交流磁場とする場合、タイミングチャートは、図4(c)、図4(d)に示すようになる。なお、図4(c)は交流の振幅が変化する場合を示し、図4(d)は交流の振幅が一定の場合を示す。なお、図4(c)に示す磁場の波形は、例えば、後述する第2乃至第4実施形態の磁気記憶素子において発生するスピン波に伴う磁場を示している。
【0021】
配線210は、電流155の入力部に近い位置に配置されていることが望ましい。また、磁気記憶素子1に複数の配線が設けられており、その一部の配線にのみ電流を流す場合、磁性細線100における電流155の入力部に近い配線210を選択して電流を流すのが望ましい。ここで磁性細線100における電流155の入力部とは、電流155を流す方向によって規定される。具体例として図3を参照して、この理由を説明する。電流155を図に示す方向に流す場合、磁壁は電流155と逆向きに移動する。磁場を発生させるための配線211と配線212のうち、電流155の入力部に近い位置に配置された配線211にのみ電流を流すと磁壁の進行方向側の磁壁が、短時間で移動する。これにより、複数の磁壁の追いつきおよび追い抜きが起こりにくくなるためである。
【0022】
次に、第1実施形態および第1変形例の磁気記憶素子1の書き込みおよび読み出し方法について、図5を参照して説明する。図5は、図1に示す第1実施形態による磁気抵抗素子1の書き込みおよび読み出し方法を説明する図である。この磁気抵抗素子1は、磁性細線100の一端、すなわち磁区101となる領域に第1電極104aが設けられ、他端に磁性細線103が設けられている。この磁性細線103は書き込みおよび読み出しに用いられ、その細線方向は、磁性細線100の細線方向と直交する。そして、この磁性細線103の他端には、磁気記憶素子1の第2電極104bが設けられている。この電極104aと、104bとの間に電流を流すことにより、磁性細線の磁壁が移動する。また、この磁性細線103には、書き込み部110と、読み出し部120とが設けられている。書き込み部110は、磁性細線103を挟んだ一方の面に電極112aが設けられ、他方の面に非磁性層114が設けられ、非磁性層114上に磁化が固定された磁化固定層116が設けられ、磁化固定層116上に電極112bが設けられた構成を有している。
【0023】
また、読み出し部120は、磁性細線103を挟んだ一方の面に電極122aが設けられ、他方の面に非磁性層124が設けられ、非磁性層124上に磁化が固定された磁化固定層126が設けられ、磁化固定層126上に電極122bが設けられた構成を有している。
【0024】
まず、書き込みについて説明する。電極104a、104b間に電流源150から電流155を流すとともに、配線210に電流を流すことにより、磁性細線100の書き込みを行うべき領域が書き込み部110の電極112aと、非磁性層114との間に位置するように磁壁を移動させる。その後、書き込み部110の電極112a、112b間に電流を流し、上記書き込むべき領域に書き込みを行う。
【0025】
磁化固定層116の磁化方向と同じ方向の磁化を有するように書き込みを行う場合は、電極112aから、磁性細線103、非磁性層114、および磁化固定層116を介して電極112bに電流を流す。この場合、電子は電流と逆向きに流れるので、電極112bから、磁化固定層116、非磁性層114、および磁性細線103を介して電極112aに流れる。このとき、磁化固定層116を通過した電子はスピン偏極され、このスピン偏極された電子が非磁性層114を通って磁性細線103の上記書き込みを行うべき領域に流れる。すると、上記書き込みを行うべき領域と同じ方向のスピンを有するスピン偏極された電子は上記書き込み行うべき領域を通過するが、上記書き込みを行うべき領域の磁化方向と逆方向のスピンを有するスピン偏極された電子は、上記書き込みを行うべき領域の磁化にスピントルクを作用し、上記書き込みを行うべき領域の磁化の方向が磁化固定層116の磁化と同じ方向を向くように働く。これにより、上記書き込みを行うべき領域の磁化は磁化固定層116の磁化と同じ方向となる。
【0026】
一方、磁化固定層116の磁化方向と逆方向の磁化を有するように書き込みを行う場合は、電極112bから、磁化固定層116、非磁性層114、および磁性細線103を介して電極112aに電流を流す。この場合、電子は電流と逆向きに流れるので、電極112aから、磁性細線103、非磁性層114、および磁化固定層116を介して電極112bに流れる。磁性細線103の書き込みを行うべき領域を通過した電子はスピン偏極され、このスピン偏極された電子は非磁性層114を介して磁化固定層116に流れる。磁化固定層116の磁化と同じ方向のスピンを有する電子は磁化固定層116を通過するが、磁化固定層116の磁化と逆方向のスピンを有する電子は非磁性層114と磁化固定層116との界面で反射され、磁性細線層103の書き込みを行うべき領域に流入する。そして、磁化固定層116の磁化と逆方向のスピンを有するスピン偏極された電子は、磁性細線103の上記書き込みを行うべき領域の磁化にスピントルクを作用し、上記書き込み行うべき領域の磁化の方向が磁化固定層116の磁化と逆方向を向くように働く。これにより、上記書き込み行うべき領域の磁化は磁化固定層116の磁化と逆方向となる。
【0027】
次に、読み出し方法について説明する。電極104a、104b間に電流源150から電流155を流すとともに、配線210に電流を流すことにより、磁性細線100の読み出しを行うべき領域が読み出し部120の電極122aと、非磁性層124との間に位置するように磁壁を移動させる。その後、読み出し部120の電極122a、122b間に定電流を流し、あるいは定電圧を与える。このとき、上記読み出しを行うべき領域の磁化方向と磁化固定層126の磁化方向のなす角度によって、電極122a,122b間の電気抵抗が変わること(磁気抵抗効果)を用いて、上記読み出しを行うべき領域からの情報の読み出しを行う。具体的には、上記読み出しを行うべき領域の磁化方向と磁化固定層126の磁化方向が平行(反平行)のとき上記抵抗値は低い(高い)値をとる。
【0028】
また、第1実施形態の第1変形例の書き込み方法および読み出し方法は、まず、図6に示すように、磁性細線100に、電極104a、104bと、書き込み部110と、読み出し部120とを設けて行う。すなわち、第1実施形態では、磁性細線100に接続する磁性細線103に書き込み部110と、読み出し部120とを設けたが、第1変形例においては、磁性細線100に書き込み部110と、読み出し部120とを設けておこなう。この第1変形例における書き込み方法および読み出し方法は、第1実施形態と同様にして行う。
【0029】
次に、磁性細線の材料について説明する。
【0030】
磁性細線100には各種の磁性材料を用いることができる。例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)よりなる群から選択された少なくとも一つの元素を含む磁性合金を用いることができる。代表的な例として、パーマロイ(FeNi合金)、CoFe合金などがある。特に、一軸異方性定数Kが大きく、垂直磁気異方性を示す磁性材料を用いることができる。異方性定数Kが大きい材料を用いると、磁場や電流を与えていないときの磁壁幅が狭い。このため、本実施形態において、磁性細線100として異方性定数Kが大きい材料を用いると、磁場を与えた場合に磁壁幅が拡大する効果が得られ易く、好ましい。このような材料の例として、Fe、Co、Ni、Mn、Crのグループから選択される1つ以上の元素と、Pt、Pd、Ir、Ru、Rhのグループから選択される1つ以上の元素とを含む合金がある。一軸異方性定数の値については、磁性層を構成する磁性材料の組成や、熱処理による結晶規則性などによっても調整できる。
【0031】
また、hcp(hexagonal close−packed structure)構造(六方最密充填構造)の結晶構造を持ち、垂直磁気異方性を示す磁性材料を用いることもできる。このような磁性材料としては、Coを主成分とする金属を含むものが代表的であるが、他のhcp構造を有する金属を用いることもできる。
【0032】
磁性細線100の磁化方向は細線方向に垂直としても平行としても良いが、垂直とする方が、例えば、磁壁を移動するのに要する電流値を低減できるため、好ましい。
【0033】
磁性細線100の細線方向が基板に対して垂直方向に形成される場合には、磁気異方性の容易軸が膜面内にあることにより、磁化方向を磁性細線100の細線方向に対して垂直方向に向けることができる。。磁気異方性が大きく、磁気異方性の容易軸が膜面内にある材料の例として、Co、CoPt合金、CoCrPt合金などが挙げられる。CoPtやCoCrPtは、合金であっても良い。これらはhcpのc軸が膜面内にある金属結晶である。さらに、上記材料群いずれの場合でも、添加元素を加えてもかまわない。
【0034】
また、磁性細線100の細線方向が基板面に対して平行方向に形成される場合には、磁気異方性の容易軸が膜面垂直方向にあることにより、磁化方向を磁性細線100の細線方向に対して垂直方向に向けることができる。。これらを実現する材料の例としては、hcpのc軸が膜面垂直方向に向いているCo層、CoPt層や、FePt層、(Co/Ni)の積層膜、TbFe層などが挙げられる。なお、CoPtは合金であっても良い。TbFe層の場合、Tbが20atomic%以上40atomic%以下である場合には、TbFe層は垂直異方性を示す。さらに、上記材料群いずれの場合でも、添加元素を加えてもかまわない。
【0035】
また、磁性細線100の材料として、その他、希土類元素と鉄族遷移元素との合金で、垂直磁気異方性を示す材料を用いることもできる。具体的には、GdFe、GdCo、GdFeCo、TbFe、TbCo、TbFeCo、GdTbFe、GdTbCo、DyFe、DyCo、DyFeCoなどが挙げられる。
【0036】
また、磁性細線100は、細線方向に垂直な断面内の磁化分布を生じさせないため、断面の一辺あるいは直径を2nm以上100nm以下の範囲内とすることが望ましい。磁性細線100の細線方向の長さを長くするほど多数の磁区を包含することができる。ただし、全長が極端に長くなると、磁性細線100全体の電気抵抗が高くなるため典型的には100nmから10μmの範囲であることが好ましい。
【0037】
磁性細線100には細線方向に一定間隔で窪み等の断面積が他の部分と異なる領域を設けることでできる。この場合、磁壁にとっては、窪みがない場合に比べてピニングポテンシャルが高くなり、静止しやすくなる。しかし、一方では静止状態から移動状態へと遷移させるのに必要な電流が大きくなる。本実施形態の磁気記憶素子はこのような場合でも、アシスト部の作用により、磁壁の幅を広げることが可能であり、したがって、より小さな電流で磁壁を移動させることが可能であるので、効果が高い。
【0038】
また、磁性細線100に用いられるこれらの磁性体には、Ag、Cu、Au、Al、Mg、Si、Bi、Ta、B、C、O、N、Pd、Pt、Zr、Ir、W、Mo、Nb、Hなどの非磁性元素を添加して磁気特性を調整すること、またはその他、結晶性、機械的特性、化学的特性などの各種物性を調節することができる。
【0039】
(シミュレーション結果)
本実施形態の磁気記憶素子1と、比較例による磁気記憶素子を比較するためのシミュレーションを行った。このシミュレーション結果を図7(a)乃至図7(c)に示す。比較例の磁気記憶素子においては、磁性細線100に磁場を印加する配線210を設けない構成を有している。本実施形態および比較例の磁気記憶素子は、同一の材料、サイズの磁性体に対して磁場印加の有無以外は同一の条件でシミュレーションを行っている。また、このシミュレーションは、磁性細線100を模した細線形状の磁性体中に、周囲と磁化方向が逆になる領域を1か所設けた磁化配置を初期条件とし、マイクロマグネティクスシミュレーションを用いて電流や磁場を印加した場合の磁気構造の時間変化を追ったものである。
【0040】
図7(a)および図7(b)は、本実施形態で説明した手順にしたがって、時刻tから時刻tまで磁場を印加し、時刻t以降電流を流した場合における磁壁幅の時間経過および磁化分布の時間経過を示すシミュレーション結果である。図7(a)破線および図7(c)は、比較例の磁気記憶素子において、磁場は印加せず、時刻t以降に電流のみを流した場合における磁壁幅の時間経過および磁化分布の時間経過を示すシミュレーション結果である。図7(a)、7(b)、7(c)から分かるように、本実施形態および比較例のいずれの磁気記憶素子においても、磁壁幅が増加し始める時刻と、磁壁が移動する時刻とが同期していることが分かる。また、本実施形態においては、磁場を印加する間に磁壁幅が広がっていることがわかる。このため、比較例と比べて本実施形態においては、電流を流し始める時刻tから磁壁が動き始める時刻までの時間が大幅に短縮され、比較例に比べて早く磁壁を移動させることができる。磁壁が移動し始めるまでの時間は電流の大きさを大きくすることによって短縮することも可能であるから、一定時間電流を流して磁壁移動を行う場合に電流を低減化する効果があると言うことができる。
【0041】
次に、第1実施形態の第1変形例による磁気記憶素子の製造方法について図8(a)乃至図8(c)を参照して説明する。
【0042】
まず、図8(a)に示すように、上面に絶縁膜10が形成されたウェーハ(図示せず)を用意し、リソグラフィー技術とRIE(Reactive Ion Etching)とを用いて絶縁膜10に、電流磁場を発生する配線210用の溝を形成する。続いて、上記溝に例えばCu等の導電膜を成膜し、配線210を形成する。その後、例えば酸化シリコン等の絶縁膜12を積層し、リソグラフィー技術とRIEとを用いて、読み出し部120および書き込み部の下部電極122aおよび下部電極112a用のそれぞれの溝を形成し、それぞれの溝に例えばCu等の導電膜を成膜し、下部電極122aおよび下部電極112aを形成する。その後、更に絶縁膜(図示せず)を成膜し、この絶縁膜を、例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)等を用いて平坦化し、下部電極122aおよび下部電極112aの上面を露出させる。
【0043】
次に、磁性層14、非磁性層16、磁性層18、保護膜20を、この順序で成膜する(図8(a))。磁性層14は、磁性細線100となる。また、非磁性層16の材料としては、例えばMgOを用い、この非磁性層16が、書き込み部110および読み出し部120の非磁性層114および非磁性層124となる。磁性層18は、書き込み部110および読み出し部120の磁化固定層116および磁化固定層126となる。また、保護膜20としては、例えばTaを用い、書き込み部110および読み出し部120の上部電極112bおよび122bとなる。磁性層14、非磁性層16、磁性層18、および保護膜20が積層されたウェーハを磁場中の真空炉に入れ、例えば270℃、10時間の条件下で、磁場中でアニールすることにより、磁性層14、18に一方向異方性を付与する。その後、リソグラフィー技術とRIEとを用いて、保護膜20、磁性層18、非磁性層16、および磁性層14を、磁性細線100の平面形状にパターニングする(図8(a))。
【0044】
次に、リソグラフィー技術とRIEとを用いて、保護膜20、磁性層18、および非磁性層16を、磁性細線100の平面形状にパターニングし、書き込み部110および読み出し部120を形成する(図8(b))。続いて、層間絶縁膜22を堆積した後、この層間絶縁膜22を平坦化し、書き込み部110および読み出し部120のそれぞれの上部電極112bおよび122bを露出させる(図8(b))。
【0045】
次に、リソグラフィー技術とRIEとを用いて、層間絶縁膜22に、磁性細線100に接続するコンタクトホール形成し、このコンタクトホールを導電膜材料で埋め込むことにより、電極104a、104bを形成する(図8(c))。これにより、磁気記憶素子が完成する。
【0046】
以上説明したように、第1実施形態によれば、磁壁が静止した状態から移動状態に遷移させるために必要な電流密度を低減化することができるとともに、磁壁の移動を安定に行うことができる。
【0047】
(第2実施形態)
第2実施形態による磁気記憶素子を図9に示す。この第2実施形態の磁気記憶素子1は、複数の磁区101〜101(nは整数)を有する磁性細線100と、電流源150からの電流を磁性細線100に流す電極104a、104bと、磁性細線100にスピン波を発生させるスピン波発生部170と、を備えている。なお、図示しないが、第2実施形態の磁気記憶素子1においても、第1実施形態と同様に書き込み部および読み出し部が設けられている。
【0048】
スピン波発生部170は、磁性細線100の一端に接続され磁性細線100の細線方向と直交する方向に延在する磁性層172と、磁性層172上に設けられた非磁性層174と、非磁性層174上に設けられた磁化固定層176と、電流源180からの電流を磁性層172と、磁化固定層176との間に流す電極177a、177bと、を備えている。図9においては、スピン波発生部170の非磁性層174、磁化固定層176は、磁性細線100と同じ側の磁性層172の面に設けられていたが、図10に示す第1変形例のように、磁性細線100と反対側の磁性層172の面に設けてもよい。この場合、電極177aは電極104bと兼用となる。
【0049】
また、磁化固定層176は、熱擾乱耐性を大きくするために、膜厚を厚くするか、または図10に示すように、磁化を固定するための反強磁性層178を非磁性層174と反対側の磁化固定層176の面に設けてもよい。なお、図9には示していないが、図9においても、反強磁性層178を、非磁性層174と反対側の磁化固定層176の面に設けてもよい。また、電流源150および電流源180は一部の電極を共有していてもかまわないが、互いに独立に電流のオン、オフを制御可能であるように構成される。
【0050】
磁性層172と磁化固定層176の磁化方向は互いに平行(または反平行)であっても垂直であってもよい。
【0051】
本実施形態において、磁性細線100の磁壁の移動は以下の手順で行われる。まず、図4(c)に示すように、時刻tから時刻tまでの間、電流源180により電流185を流す。この手順をアシスト手順と呼ぶ。アシスト手順を実行すると磁性細線100あるいは磁性層172の少なくとも一部の領域にスピン偏極した電流が流れ、したがって、スピントルクが働くため、磁性細線100あるいは磁性層172に磁化方向が変化する。この際、磁性層172内のスピントルクを受ける領域の磁化方向が反転すると意図しない書き込みが行われるため、これを防止し、磁化方向の変化を90度以下にとどめるか、磁化の才差運動状態を発生させる必要がある。その場合、磁化変化は磁性層172から磁性細線100へとスピン波として伝播するため、磁性細線100内の磁壁幅が電流を流す前と比べて拡がる。
【0052】
また時刻tに、電流源150により磁性細線100内に電流を流す。この電流値が閾値以上であれば磁性細線100内の磁壁の位置が電子流の流れる方向、すなわち、電流と逆の方向に移動する。電流を切ると磁壁の移動は停止するので、電流を流す時間により磁壁の移動距離を制御することができる。すなわち、本実施形態においては、スピン波発生部170は、磁壁の移動をアシストしており、アシスト部とも呼ばれる。
【0053】
スピン波発生部170において、意図しない磁化反転を防止するために、たとえば、磁化固定層176の磁化方向と、磁性層172の非磁性層174との界面近傍領域での磁化方向とがなす角が45度から135度の範囲とすれば、電流185を流し続けても、意図しない磁化反転が起こらない。そのため、磁化固定層176の磁化方向と磁性層172の非磁性層174との界面近傍領域での磁化方向とがなす角は、たとえば、垂直とするとよい。磁化固定層176の磁化方向と磁性層172の磁化方向とを垂直とすると、磁化変化を起こすのに必要な電流を低減することができる、というメリットもある。また、磁化固定層176の磁化方向と磁性層172の非磁性層174との界面近傍領域での磁化方向とがなす角が0度、つまり、平行である場合、電流185を磁化固定層176から磁性層172に流れる極性で流すことにより、磁性層172に磁化ゆらぎを与えることができる。また、磁化固定層176の磁化方向と磁性層172の非磁性層174との界面近傍領域での磁化方向とがなす角が180度、つまり、反平行である場合、電流185を磁性層172から磁化固定層176に流れる極性で流すことにより、磁性層172に磁化ゆらぎを与えることができる。ただし、磁化固定層の磁化方向と磁性層172の磁化方向とが平行あるいは反平行の場合、電流185の大きさがある閾値以上であり、かつ、電流を流す時間が電流185の値によって決まる閾値以上であれば、磁性細線100内のスピントルクを受ける領域において磁化方向が反転してしまうため、電流185の大きさ、または、流す時間は、それぞれの閾値未満とする必要がある。たとえば、電流185の大きさを閾値未満とすると、スピントルクによる作用とともに、磁性層172内部での交換相互作用による復元力が働くため、安定な磁化発振が生じ、電流185の時間的な制御を行わなくても、継続的にスピン波が発生するため望ましい。とくに、非磁性層174の平面サイズを小さくすることで、スピントルクに対して交換相互作用の割合を大きくすることができるため、磁化反転を起こしづらくすることができる。また、電流185の波形をたとえば周期的なパルス電流とする、あるいは交流電流とすることで、磁化反転が起こる前にスピントルクを弱め、反転を防止することもできる。つまり、第2実施形態においては、安定的に磁性細線100内に磁化ゆらぎを導入することができ、したがって、磁性細線100内の磁壁幅が拡大した状態が細線方向の長い距離に渡って得られる、という特徴があり、そのため、電流源150により流す電流の大きさを抑制しても多数の磁壁を安定的に移動することが可能である。
【0054】
なお、第2実施形態およびその第1変形例の磁気記憶素子1においては、磁性細線100の細線方向は、基板面(例えば、基板の上面)に対して垂直に配置されるが、図11に示す第2変形例の磁気記憶素子1のように、基板面に対して平行に配置されてもよい。この場合、スピン波発生部170の各層172、174、176は、磁性細線100の細線方向に平行に設けられる。また、図11においては、図9または図10に示す電流源180を磁性細線100に電流を流す電流源150と兼用した構成となっている。この場合、電極177bは、電極104bと兼用となる。
【0055】
次に、第2実施形態およびその変形例の磁気記憶素子の各層の材料について説明する。
【0056】
磁性細線100の材料として用いることができる材料は第1実施形態と同様である。
【0057】
スピン波発生部170の磁性層172と磁化固定層176の材料も第1実施形態と同様に各種の磁性材料から選ぶことができる。磁性層172と磁化固定層176と磁性細線100は同じ材料であっても異なっていても良い。
【0058】
磁化固定層176の磁化を固定するために用いる反強磁性層の材料としては、Fe−Mn、Pt−Mn、Pt−Cr−Mn、Ni−Mn、Pd−Mn、Pd−Pt−Mn、Ir−Mn、Pt−Ir−Mn、NiO、Fe、磁性半導体などを用いることが望ましい。
【0059】
非磁性層174の材料としては、非磁性金属あるいは絶縁性の薄膜を用いることができる。非磁性金属としては、Au、Cu、Cr、Zn、Ga、Nb、Mo、Ru、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Pt、Biのうちのいずれかの元素、あるいはこれらの元素のいずれか一種以上を含む合金を用いることができる。また、この非磁性層174の厚さは、磁化固定層176と磁性層172の静磁結合が十分小さく、かつ、非磁性層174のスピン拡散長より小さくする必要があり、具体的には、0.2nm以上20nm以下の範囲内とすることが望ましい。
【0060】
非磁性層174に用いることのできる絶縁性材料として、Al、SiO、MgO、AlN、Bi、MgF、CaF、SrTiO、AlLaO、Al−N−O、Si−N−O、非磁性半導体(ZnO、InMn、GaN、GaAs、TiO、Zn、Te、またはそれらに遷移金属がドープされたもの)などを用いることができる。これらの化合物は、化学量論的にみて完全に正確な組成である必要はなく、酸素、窒素、フッ素などの欠損、あるいは過不足が存在していてもよい。また、この絶縁材料からなる非磁性層174の厚さは、0.2nm以上5nm以下の範囲内とすることが望ましい。
【0061】
以上説明したように、第2実施形態によれば、磁壁が静止した状態から移動状態に遷移させるために必要な電流密度を低減化することができるとともに、磁壁の移動を安定に行うことができる。
【0062】
(第3実施形態)
第3実施形態による磁気記憶素子を図12に示す。この第3実施形態の磁気記憶素子1は、複数の磁区101〜101(nは整数)を有する磁性細線100と、電流源150からの電流を磁性細線100に流す電極104a、104bと、磁性細線100の細線方法に沿って磁性細線100を取り囲むように設けられた磁性層130と、磁性層130内の磁性細線100の近接するように設けられた配線230とを備えている。なお、図示しないが、第3実施形態の磁気記憶素子1においても、第1実施形態と同様に書き込み部および読み出し部が設けられている。
【0063】
また、図12においては、配線230は、磁性細線100の細線方向と交わらない直交する方向に延在するように設けられているが、図13に示す第3実施形態の第1変形例のように、磁性細線100の細線方向に沿って延在するように設けられてもよい。磁性層130と、配線230とがスピン波発生部を構成する。
【0064】
磁性層130は絶縁性磁性材料かまたは導電性の高い磁性材料から構成される。絶縁性磁性材料から構成される場合、磁性層130は磁性細線100に直接接続されていてもかまわない。この場合、磁性細線100と磁性層130との距離が近いため、磁性層130内に発生するスピン波を直接的に磁性細線100内に伝播させることができ、ゆらぎの伝達効率が高くなり望ましい。磁性層130は導電性の高い磁性材料から構成される場合、磁性層130と磁性細線100との間には図示しない非磁性絶縁体を挟む必要があり、電気的に絶縁する必要がある。このように、磁性層130は、スピン波を発生する層でもあり、磁性細線100にスピン波を伝播する層でもある。
【0065】
磁性層130が絶縁材料からなる場合、配線230は磁性層130に埋めこまれていても良い。あるいは配線230は図12に示すように絶縁体232を介して磁性層130に近接する位置に配置されている。配線230は図12、図14(a)に示すように、基板面に平行な方向に延在していても、あるいは図13、図14(b)に示すように、基板面に垂直な方向に延在していてもかまわない。なお、図14(a)、14(b)はそれぞれ、図12、図13に示す磁気記憶素子を基板の上方からみた場合の上面図を示す。
【0066】
第3実施形態において、磁性細線100の磁壁の移動は以下の手順で行われる。まず、時刻tからtまでの間、配線230に電流を流す。この手順をアシスト手順と呼ぶ。アシスト手順を実行すると磁性層130の少なくとも一部の領域の磁化131の方向にゆらぎが生じ、磁化131のゆらぎは磁性層130内をスピン波として伝播する。さらに、磁性層130内の磁化131と磁性細線100内の磁化との間には静磁的な相互作用が働くため、磁性細線100内の磁化にゆらぎが与えられ、磁性細線100内をスピン波が伝播する。したがって、第2実施形態の場合と同様に、磁性細線100内の磁壁幅が電流を流す前に比べて拡がる。なお、電流源150を用いて電流を流すタイミング等については第1実施形態と同じように行う。すなわち、本実施形態においては、磁性層130と、配線230とは、磁壁の移動をアシストしており、アシスト部を構成する。
【0067】
これにより、第3実施形態によれば、磁壁が静止した状態から移動状態に遷移させるために必要な電流密度を低減化することができるとともに、磁壁の移動を安定に行うことができる。
【0068】
なお、第3実施形態の磁気記憶素子を用いると、磁性細線中の複数の磁壁に対して同時にゆらぎを与えることが可能となるため、磁性細線中の磁壁を一斉に移動させることができる。さらに、磁性層130が絶縁体磁性材料から構成される場合、磁性層130と磁性細線100との距離を近づけることが可能となるので、ゆらぎを効率的に与えることができる。
【0069】
図15に示す第3実施形態の第2変形例による磁気記憶素子1のように、磁性層130は、磁性細線100を取り囲むように設けられる必要はなく、磁性細線100全体に近接して配置されていれば良い。なお、図15に示す第2変形例においては、磁性層130は、磁性細線100と配線230との間に設けられ、配線230は、磁性細線100の細線方向と交わらずかつ直交する方向に延在している。
【0070】
また、図16に示す第3実施形態の第3変形例による磁気記憶素子1のように、磁性層130は、磁性細線10を取り囲むように設けられる必要はなく、磁性細線100全体に近接して配置されていれば良い。なお、図16に示す第3変形例においては、磁性層130は、磁性細線100と配線230との間に設けられ、配線230は、磁性細線100の細線方向に沿った方向に延在している。
【0071】
また、図17に示す第3実施形態の第4変形例による磁気記憶素子1のように、磁性層130は、磁性細線100全体に近接して配置されている必要はなく、磁性細線100の一部の領域に近接していてもよい。この場合、磁性細線100の少なくとも1つ以上の磁壁が磁性層130と近接していれば、磁壁幅の拡大効果が得られやすいため望ましい。
【0072】
また、図18に示す第3実施形態の第5変形例による磁気記憶素子1のように、磁性層130は、磁性細線100の一部の領域を取り囲むように配置されていてもよい。この場合、磁性細線100の少なくとも1つ以上の磁壁を磁性層130が取り囲むように配置されていれば、磁壁幅の拡大効果が得られやすいため望ましい。
【0073】
また、図19に示す第3実施形態の第6変形例による磁気記憶素子1のように、配線230の代わりに、磁気記憶素子1および磁性層130を取り囲むようにコイル235を設けてもよい。コイル235に電流を流すことにより発生する磁場によって磁性層130にスピン波を発生させ、この発生されたスピン波を磁性細線100に伝播する。この第6変形例においては、コイル235間に複数の磁気記憶素子1を設けてもよい。この場合、複数の磁気記憶素子の間で磁場発生源(コイル235)を共有化することができ、磁気記憶素子の高集積化という観点で有利である。
【0074】
なお、第3実施形態およびその変形例の磁気記憶素子1に用いられる磁性層130として、絶縁性の磁性材料を用いる場合は、イットリウム鉄ガーネット(YIG)やマンガンフェライト等のフェライト系酸化物を用いることが好ましい。これは、減衰係数が小さいため、スピン波の伝達損失を少なくすることができるためである。
【0075】
しかしながら、これらの材料に限定されるものではなく、ほかの鉄、コバルト、ニッケルを含む磁性酸化物は用いることも可能である。スピネル酸化物、反強磁性酸化物等などが挙げられる。
【0076】
(第4実施形態)
第4実施形態による磁気記憶素子を図20に示す。この第4実施形態の磁気記憶素子1は、複数の磁区101〜101(nは整数)を有する磁性細線100と、電流源150からの電流を磁性細線100に流す電極104a、104bと、スピン波発生部240とを備えている。スピン波発生部240は、磁性細線100の全体または一部に近接して設けられた磁性層242と、磁性層242上に設けられた非磁性層244と、非磁性層244上に設けられた磁化固定層246と、電流源248からの電流を磁性層242と磁化固定層246との間に流す電極247a、247bとを備えている。なお、図示しないが、第4実施形態の磁気記憶素子1においても、第1実施形態と同様に書き込み部および読み出し部が設けられている。また、磁化固定層246は磁化方向が固定されている。この磁化方向の固定は、膜厚を厚くするか、または非磁性層244と反対側の面に反強磁性層を設けることで行われる。
【0077】
本実施形態において、磁性細線100の磁壁の移動は以下の手順で行われる。まず、時刻tから時刻tまでの間、電流源248に電流を流す。この手順をアシスト手順と呼ぶ。アシスト手順を実行すると磁性層242にスピン偏極した電流が流入され、少なくとも一部の領域の磁化243がスピントルクを受けてゆらぎが生じる。この磁化243のゆらぎは磁性層242内をスピン波として伝播する。さらに、磁性層242内の磁化243と磁性細線100内の磁化の間には静磁的な相互作用が働くため、磁性細線100内の磁化にゆらぎが与えられ、磁性細線100内をスピン波が伝播する。したがって、磁性細線100内の磁壁幅が電流を流す前に比べて拡がる。すなわち、本実施形態においては、スピン波発生部240は、磁壁の移動をアシストしており、アシスト部とも呼ばれる。なお、電流源150を用いて電流を流すタイミング等については第1実施形態と同様に行う。
【0078】
また、磁性層242が絶縁体からなる場合は、図21に示す第4実施形態の一変形例のように、電流源248の代わりに電圧源249を備えたスピン波発生部240Aを用いてもよい。磁性層242が絶縁体からなる場合、磁性層100は磁性層242と接していてもよい。あるいは、磁性層100の全体または一部が磁性層242内に埋め込まれていてもよい。このように、磁性層100が磁性層242と直接接することにより、磁性層242にて発生した磁化ゆらぎを効率的に磁性層100内に伝えることができ、磁性層100内の磁壁幅をより大きく拡げられる、というメリットがある。磁性層242が導電性の高い材料から構成される場合、磁性層100と磁性層242の間には図示しない絶縁体を挟み、電気的に絶縁する必要がある。
【0079】
本実施形態の磁気記憶素子を多数並べて用いる場合、隣接する複数の磁気記憶素子間で磁性層242、非磁性層244、および磁化固定層246を共有してもかまわない。このようにすることで磁気記憶素子の高集積化が可能となる。また、この場合も磁性細線100内に電流を流さなければ、磁性層242内にスピン波を発生させるだけで、磁性細線100内の磁壁は移動しないため、各磁性素子を独立に制御することができる。
【0080】
以上説明したように、第4実施形態によれば、第2実施形態と同様に、磁壁が静止した状態から移動状態に遷移させるために必要な電流密度を低減化することができるとともに、磁壁の移動を安定に行うことができる。
【0081】
(第5実施形態)
第5実施形態による磁気記憶素子を図22(a)、22(b)に示す。この第5実施形態の磁気記憶素子1の断面図を図22(a)に示し、上面図を図22(b)に示す。
【0082】
第5実施形態の磁気記憶素子1は、複数の磁区101〜101を有する磁性細線100と、電流源150からの電流を磁性細線100に流す電極104a、104bと、圧電部250とを備えている。この圧電部250は、磁性細線100の少なくとも一部の領域(図面上では全ての領域)を取り囲むように設けられた圧電層252と、この圧電層252上に設けられ、電圧源256からの電圧を圧電層252に印加する電極254a、254bと、を備えている。なお、図示しないが、第5実施形態の磁気記憶素子1においても、第1実施形態と同様に書き込み部および読み出し部が設けられている。
【0083】
第5実施形態において、磁壁の移動は以下の手順で行われる。まず、時刻tからtまでの間、電極254に電圧を与える。この手順をアシスト手順と呼ぶ。アシスト手順を実行すると圧電層252内に結晶の歪みが振動として生じ、圧電層252の電極254に接する領域から周囲の領域に、圧電層252内を弾性波として伝播する。その結果、磁性細線100内は圧電層242との界面を介して応力を受け、逆磁歪効果により磁性細線100の磁気異方性が変化する。その結果、磁性細線100内の磁化にゆらぎが与えられる。したがって、磁性細線100内の磁壁幅が電流を流す前に比べて拡がる。その結果、磁壁をシフトさせるために必要な電流の値を大幅に低減することが可能となる。すなわち、本実施形態においては、圧電部250は、磁壁の移動をアシストしており、アシスト部とも呼ばれる。第5実施形態においては、圧電層242と磁性細線100の界面全体に応力が与えられ、したがって、磁性細線100内の前記界面近傍領域全体に歪が与えられ、その領域内の磁壁幅が拡大する。そのため、配線による電流磁場を用いる実施形態では、距離に反比例して作用が低減するのに対し、第5実施形態は、作用が及ぶ磁壁全体に一様な作用を与えて幅を拡大することができるというメリットがある。圧電層242は磁性細線100の一部と接している場合でも上記歪によりもたらされる磁化ゆらぎがスピン波として磁性細線100中を伝播するため、効果があるが、圧電層242が磁性細線100と接する界面の面積が大きいと作用の一様性が向上するため、好ましい。とくに、圧電層252が磁性細線100の細線方向全体に渡っていると、上記効果が全体に渡って得られるため好ましい。最も好ましい例として、圧電層252が磁性細線100の周囲を取り囲んでいると、磁性細線100内のすべての磁壁の幅を一括して拡大することが安定的に得られる。
【0084】
さらに、第5実施形態の別のメリットとして、消費電力の低減効果がある。圧電層252を用いた磁性細線100への応力付与は電圧駆動であるため、歪を与えるために必要な消費電力は、たとえば、配線による電流磁場を用いる実施形態と比べても、大幅に小さく、したがって、磁壁幅拡大によるアシスト効果により磁壁移動に必要な電流を低減できることと合わせると、磁壁移動に要する消費電力は大幅に小さくなる。磁壁を移動させるために必要な電流値は、本実施形態により1桁以上低減することも可能と見積もられる。
【0085】
圧電層252内を伝播する弾性波の伝播特性は、圧電体の結晶性に依存し、結晶方位に応じた方向に伝播する。特に、単結晶あるいは一軸配向性を持つ圧電体では、均一な表面弾性波が励起されるので、圧電層135を、単結晶あるいは一軸配向性を持つ圧電体で形成することが望ましい。
【0086】
圧電体252の材料としては、例えば、酒石酸カリウムナトリウム(KNaC)、酸化亜鉛(ZnO)、窒化アルミニウム(AlN)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT(Pb(Zr,Ti)O))、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛(PLZT)、水晶(SiO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、四ホウ酸リチウム(Li)、ニオブ酸カリウム(KNbO)、ランガサイト系結晶(例えばLaGaSiO14)、酒石酸カリウムナトリウム四水和物(KNaC・4HO)などを用いることができる。また、これらの圧電材料をベースとして、特性を調整するために添加元素を加えてもかまわない。また、圧電体252は、これらの材料からなる層が複数積層された層構成としても良い。
【0087】
また、第5実施形態に用いることのできる磁性細線100の材料は、第1実施形態と同様である。特に、磁歪定数の絶対値が大きい材料は一定の応力を受けたときの磁気異方性の変化が大きいため、わずかな歪が印加された場合であっても磁化方向が大きく変化するため、磁壁幅の拡大効果が大きくなり磁壁移動に必要な電流値を下げられるため、望ましい。磁歪定数の大きな材料として、例えば、Fe、Co、Ni、Mnなどの合金、あるいはFe、Co、Niと白金の合金、Fe、Co、NiとTb、Sm、Euなど希土類の合金がある。また、第5実施形態の磁性細線100の材料として、第1実施形態と同様の材料に添加元素を加えることにより磁歪定数を大きくされたものを用いることができる。一例として、Ni元素を添加させた磁性材料は、Ni元素を添加しない材料に比べて、磁歪定数が負方向にシフトする。したがって、Ni元素の含有量を大きくすることにより、符号が負で絶対値の大きな磁歪定数を持つ磁性材料が得られる。別の例として、微量の酸素を添加させた磁性材料は、酸素を添加しない材料に比べて、磁歪定数が正方向にシフトする。したがって、磁性材料に酸素を添加させることにより、符号が正で絶対値の大きな磁歪定数を持つ磁性材料が得られる。
【0088】
第5実施形態の変形例による磁気記憶素子を図23に示す。この変形例の磁気記憶素子においては、圧電層252に電圧を印加する電極254a、254bが磁性細線100の細線方向に対して平行に設けられている。なお、図23は断面図であり、圧電層252は磁性細線100を取り囲むように設けられているが、電極254a、254bは圧電層252の一部に設けられる。
【0089】
(第6実施形態)
第6実施形態の磁気記憶装置を図24に示す。この第6実施形態の磁気記憶装置280は、図24に示すように、複数の磁性細線100と、各磁性細線を取り囲むように設けられた圧電層252と、圧電層252に電圧を印加する電極254a、254bとを備えている。図24においては、圧電層252が各磁性細線100の周囲を取り囲んでいるが、より確実な絶縁を確保するために、磁性細線100と圧電層252との間に、例えばアモルファスSiO、アモルファスAlのような絶縁材料が設けられていても構わない。
【0090】
また、図示されていないが、各磁性細線100には、第5実施形態の磁気記憶素子における磁性細線中に電流を流すための電極が設けられ、磁性細線100中に電流を流すことが可能とされる。また、図示されていないが、少なくとも1つの磁性細線100には磁性層が接続され、この磁性層には第5実施形態と同様の書き込み部および読み出し部が接続されている。この磁気記憶装置280においては、図24に示すように、複数の磁性細線100に対してまとめて圧電駆動を行うことにより第5実施形態における磁気記憶素子のアシスト手順を実行する。したがって、第5実施形態の磁気記憶素子と同様の手順で磁性細線100中の磁壁移動を行うことができる。また、書き込み方法、および読み出し方法についても第5実施形態の磁気記憶素子と同様である。つまり、第6実施形態の磁気記憶装置は、第5実施形態の磁気記憶素子を複数含み、複数の磁気記憶素子がアシスト部を共有したものである。
【0091】
また、第6実施形態の磁気記憶装置280は、図24に示すように、圧電層252に電圧を印加する電極254a、254bは各磁性細線100の細線方向と平行な向きに沿って設けられているが、複数の磁性細線100の細線方向と垂直方向に沿って設ける構成も考えられる。この場合を第6実施形態の変形例として図25に示す。この変形例の磁気記憶装置280Aは、図25に示すように、それぞれの細線方向が平行となるようにマトリクス状(行方向及び列方向)に配列された複数の磁性細線100と、これらの磁性細線100を取り囲むように設けられた絶縁体258と、を備えている。そして、複数に磁性細線100および絶縁体258からなる集合体の上面または下面の一方の面には、複数のワード線WLと、これらのワード線WLに交差する複数のビット線BLが設けられている。図25においては、複数のワード線WLと複数のビット線BLは、磁性細線100および絶縁体258からなる集合体の上面に設けられている。複数のワード線WLはマトリクス状に配列された複数の磁性細線100の例えば列に対応して設けられ、複数のビット線BLはマトリクス状に配列された複数の磁性細線100の例えば行に対応して設けられている。複数のワード線WLと、複数のビット線BLが設けられている面は、複数の磁性細線100の細線方向に直交する面に平行となる。各ワード線WLと、各ビット線BLとの交差領域においては、ワード線WLとビット線BLが接するとともに、対応する磁性細線100の上面と接するように構成されている。さらに、複数のワード線WLおよび複数のビット線BL上には圧電層252が設けられ、この圧電層252上には電極254が設けられている。この電極254は圧電層252に電圧を印加する電圧源256に接続されている。
【0092】
このように構成された変形例において、電極254に電圧を与えると圧電層252内に結晶の歪みが振動として生じ、圧電層252内を弾性波として伝播する。その結果、各磁性細線100の上面は、ワード線WLおよびビット線BLを介して応力を受け、逆磁歪効果により磁性細線100の磁気異方性が変化する。その結果、磁性細線100内の磁化にゆらぎが与えられる。したがって、磁性細線100内の磁壁幅が電流を流す前に比べて拡がる。その結果、磁壁をシフトさせるために必要な電流の値を大幅に低減することが可能となる。
【0093】
なお、図25においては、ワード線WLおよびビット線BLは、磁性細線100および絶縁体258からなる集合体の上面に設けられていたが、下面に設けてもよい。この場合、圧電層252および電極254は、上面側に設けてもよいし、下面側に設けてもよい。
【0094】
さらに、図24または図25に示す磁気記憶装置280,280Aを1ブロックとして、列方向または行方向に沿って複数個設けることでメモリチップ285として実現することが可能である。その例を図26に示す。圧電による駆動は各ブロック単位で行うが、それらのブロックを複数個、チップ上に設けることで、大容量のメモリチップを実現することが可能となる。複数のブロックの下層に図示しないトランジスタが配置される。
【0095】
(第7実施形態)
第7実施形態による磁気記憶装置について図27乃至図28を参照して説明する。第7実施形態の磁気記憶装置の回路図を図27に示し、斜視図を図28に示す。
【0096】
第7実施形態の磁気記憶装置はメモリセルアレイ300を有している。このメモリセルアレイ300は、マトリクス状の配列された複数のメモリセルを有し、各メモリセルは、第1乃至第5実施形態およびそれらの変形例のいずれかの磁気記憶素子1と、例えば、トランジスタからなるスイッチング素子320とを備えている。また、メモリセルアレイ300には、各行に設けられたワード線WL〜WLと、各列に設けられた情報読み出し用ビット線BL〜BLと、第1乃至第5実施形態の各項で述べたアシスト手順を実行するためのアシスト配線SL〜SLと、が設けられている。例えば、磁気記憶素子1が第1実施形態の場合、アシスト配線SLは磁気記憶素子1内の磁性細線100に電流磁場を与えるための配線である。磁気記憶素子1が第2実施形態の場合、アシスト配線SLは磁気記憶素子1内の磁性細線100に接続された磁性層にスピントルクを与える電流を流すための配線である。磁気記憶素子1が第3実施形態の場合、アシスト配線SLは磁気記憶素子1内の磁性細線100に近接した磁性層に電流磁場を与えるための配線である。磁気記憶素子1が第4実施形態の場合、アシスト配線SLは磁気記憶素子1内の磁性細線100に接続された磁性層にスピントルクを与える電流を流すための配線である。磁気記憶素子1が第5実施形態の場合、アシスト配線SLは磁気記憶素子1内の磁性細線100に近接した圧電層に電圧を与える電極の役割を果たす配線である。
【0097】
第i(1≦i≦m)行のn個のメモリセルの磁気記憶素子1はそれぞれ、磁性細線100が共通に接続されて磁性細線MLとなる。なお、各磁気記憶素子1の磁性細線100は共通に接続されなくてもよい。また、各メモリセルのスイッチング素子320は、ゲートが対応する行のワード線WL(1≦i≦m)に接続され、一端が同じメモリセル内の磁気記憶素子1の読み出し部120の一端に接続され、他端は接地される。メモリセル内の磁気記憶素子1の読み出し部120の他端は、上記メモリセルに対応するビットBL(1≦j≦n)に接続される。
【0098】
これらのワード線WL〜WLおよび磁性細線ML〜MLは、各配線を選択するデコーダ、書き込み回路等を有する駆動回路410A、410Bに接続されている。また、ビット線BL〜BLおよびアシスト配線SL〜SLは、各配線を選択するデコーダ、読み出し回路等を備えて駆動回路420A、420Bに接続されている。なお、図27および図28においては、磁気記憶素子1の書き込み部を省略して、図示していない。書き込み部は、一端が図示しない書き込み選択用のスイッチング素子に接続され、他端が図示しない電流源に接続される。そして、書き込み用のスイッチング素子と、読み出し用のスイッチング素子は共通に用いてもよい。また、複数のメモリセルに対して1個の読み出し部および1個の書き込み部を設けてもよい。この場合は、集積度を高めることができる。また、図27および図28に示すように、各メモリセルに1個の読み出し部および1個の書き込み部を設けた場合は、データの転送速度を高めることができる。
【0099】
メモリセル内でのデータのシフト移動は、まず外部から入力されたアドレス信号を駆動回路410A、410B、420A、420B内のデコーダがデコードし、デコードされたアドレスに応じた磁性細線MLが選択され、この選択された磁性細線MLに電流を流すとともに、メモリセルの磁気記憶素子1が例えば、第1実施形態の磁気記憶素子からなる場合は、第1実施形態で説明したタイミングでアシスト配線SLに電流を流し電流磁場を発生させることにより行われる。磁気記憶素子1が第2実施形態から第5実施形態の磁気記憶素子からなる場合は、電流磁場を発生させる代わりに、それぞれの実施形態の項で述べたアシスト手順が実行される。また、磁壁が移動する方向は、磁性細線ML中を電子の流れる向きと同じ、すなわち電流の流れる方向と逆になる。
【0100】
メモリセルへの書き込みは、まず、まず外部から入力されたアドレス信号を駆動回路410A、410B、420A、420B内のデコーダがデコードし、デコードされたアドレスに応じたワード線WLが選択され、対応するスイッチング素子320をオンする。次いで、ビット線BLに電流を流すことにより、書き込みが行われる。あるいは、該当する磁性細線ML中に保存されたデータを必要な分移動させた後、書き込みを行う。
【0101】
メモリセルに保存されたデータの読み出しは、まず、まず外部から入力されたアドレス信号を駆動回路410A、410B、420A、420B内のデコーダがデコードし、デコードされたアドレスに応じた磁性細線MLが選択され、メモリセル内に磁化方向として保存されたビット列のうち、読み出したいビットが読み出し部に位置に来るようにデータのシフト移動を上述した方法で行う。その後、ワード線WLを選択し、スイッチング素子320をオンとし、ビット線BLに電流を流すことにより、読み出しを行う。なお、読み出し電流は、その向きが正であっても負であってもよいが、書き込み電流の絶対値よりも小さな絶対値を有している。これは、読み出しによって保存されたデータが反転しないためである。
【0102】
なお、図27および図28に示したように、アシスト配線SLはビット線に平行としたが、ワード線や磁性細線MLに平行になるように配置することもできる。この場合、1つの配SLを選択し、アシスト手順を実行することにより、アシスト配線に接続された、あるいは近接した磁性細線ML内の磁気記憶素子1に対してアシスト手順を実行したことになり、複数の磁気記憶素子1に対して同時にシフト移動を行うことができ、磁気記憶装置の消費電力を低減することができる。
【0103】
なお、本明細書を通じて「垂直」には製造工程のばらつき等による厳密な垂直からのずれが含まれるものとする。同様に、本明細書を通じて、「平行」、「水平」は、厳密な平行、水平を意味するものではない。
【0104】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0105】
1 磁気記憶素子
100 磁性細線
101〜101 磁区
104a、104b 電極
105 磁壁の移動方向
110 書き込み部
112a、112b 電極
114 非磁性層
116 磁化固定層
120 読み出し部
130 磁性層
131 磁化
150 電流源
155 電流
170 スピン波発生部
172 磁性層
174 非磁性層
176 磁化固定層
177a、177b 電極
178 反強磁性層
210 配線
211 配線
212 配線
230 配線
232 絶縁体
240 スピン波発生部
242 磁性層
243 磁化
244 非磁性層
246 磁化固定層
247a、247b 電極
248 電流源
249 電圧源
250 圧電部
252 圧電層
254a、254b 電極
280、280A 磁気記憶装置
300 メモリセルアレイ
320 スイッチング素子
410A、410B 駆動回路
420A、420B 駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に延在し、磁壁により隔てられた複数の磁区を有する磁性細線と、
前記磁性細線に前記第1方向の電流および前記第1方向と逆方向の電流を流すことが可能な電極と、
電気的な入力を受け、前記磁性細線の全体または一部の領域の磁壁の移動をアシストするアシスト部と、
を備えていることを特徴とする磁気記憶素子。
【請求項2】
前記磁性細線に電流を流すと同時に、前記アシスト部に電流、または電圧を印加することで、前記磁性細線の全体または一部の領域の磁壁が移動することを特徴とする磁気記憶素子。
【請求項3】
前記アシスト部は、前記磁性細線に接続された磁性層と、前記磁性層上に設けられた非磁性層と、前記非磁性層上に設けられ、磁化の方向が固定された磁化固定層と、前記磁性層と前記磁化固定層との間に電流を流すことが可能な電極と、を備えていることを特徴とする請求項1記載の磁気記憶素子。
【請求項4】
前記アシスト部は、前記磁性細線に近接して配置された配線を有し、前記配線に電流を流すことにより発生する電流磁場を前記磁性配線に印加することを特徴とする請求項1記載の磁気記憶素子。
【請求項5】
前記アシスト部は、前記磁性細線の少なくとも一部の領域に近接して配置された磁性層と、電流が流れることにより発生する電流磁場を前記磁性層に印加するための配線と、を備えていることを特徴とする請求項1記載の磁気記憶素子。
【請求項6】
前記磁性層は、前記磁性細線の少なくとも一部の領域を取り囲むように設けられていることを特徴とする請求項5記載の磁気記憶素子。
【請求項7】
前記アシスト部は、前記磁性細線の少なくとも一部の領域に近接して配置された磁性層と、電流が流れることにより発生する電流磁場を前記磁性層に印加するためのコイルと、を備えていることを特徴とする請求項1記載の磁気記憶素子。
【請求項8】
前記アシスト部は、前記磁性細線の少なくとも一部の領域に近接して配置された磁性層と、前記磁性層上に設けられた非磁性層と、前記非磁性層上に設けられ磁化の方向が固定された磁化固定層と、前記磁性層と前記磁化固定層との間に電流を流す電極と、を備えていることを特徴とする請求項1記載の磁気記憶素子。
【請求項9】
前記磁性層は、前記磁性細線の少なくとも一部の領域を取り囲むように設けられていることを特徴とする請求項7記載の磁気記憶素子。
【請求項10】
前記アシスト部は、前記磁性細線の少なくとも一部の領域を取り囲むように設けられた圧電層と、前記圧電層に電圧を印加する電極と、を備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁気記憶素子。
【請求項11】
前記圧電層は、酒石酸カリウムナトリウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛、水晶、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、四ホウ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、ランガサイト系結晶、または酒石酸カリウムナトリウム四水和物の何れか一つを含むことを特徴とする請求項10に記載の磁気記憶素子。
【請求項12】
前記第1方向において前記磁性細線の少なくとも一端に前記圧電層は設けられ、前記第1方向に垂直な方向に設けられた基板と、をさらに備え、前記磁性細線は、Co、CoPt、またはCoCrPtの何れか一つを含むことを特徴とする請求項10に記載の磁気記憶素子。
【請求項13】
前記圧電層は、前記第1方向において前記磁性細線を取り囲み、前記圧電層の前記磁性細線が設けられた側とは反対側に設けられた基板と、をさらに備え、前記磁性細線は、Co層とNi層の積層膜であるか、Co、CoPt、またはFePtの何れか一つを含むことを特徴とする請求項10に記載の磁気記憶素子。
【請求項14】
複数の磁性細線であって、それぞれが第1方向に延在しかつ磁壁により隔てられた複数の磁区を有する複数の磁性細線と、
各磁性細線を取り囲むように設けられた圧電層と、
前記第1方向に沿って設けられ前記圧電層に電圧を印加するための電極と、
を備えていることを特徴とする磁気記憶装置。
【請求項15】
マトリクス状に配列された複数の磁性細線であって、それぞれが第1方向に延在しかつ磁壁により隔てられた複数の磁区を有する複数の磁性細線と、
前記複数の磁性細線の列に対応して、前記複数の磁性細線の上面および下面のうち一方の面に設けられる複数の第1配線と、
記複数の磁性細線の行に対応して、前記複数の磁性細線の前記一方の面に設けられる複数の第2配線と、
前記第1方向に直交する面に沿って設けられた圧電層と、
前記第1方向に直交する面に沿って設けられ前記圧電層に電圧を印加するための電極と、
を備えていることを特徴とする磁気記憶装置。
【請求項16】
前記圧電層および前記電極は、前記複数の磁性細線の上面および下面のうち前記一方の面と同じ側に設けられることを特徴とする請求項15記載の磁気記憶装置。
【請求項17】
前記圧電層および前記電極は、前記複数の磁性細線の上面および下面のうち前記一方の面と反対側の面に設けられることを特徴とする請求項15記載の磁気記憶装置。
【請求項18】
請求項14乃至17のいずれかに記載の磁気記憶装置を複数個備え、前記複数の磁気記憶装置がマトリクス状に配列されていることを特徴とする磁気メモリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−204802(P2012−204802A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70884(P2011−70884)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】