説明

窒化ガリウム系半導体基板の製造方法

【課題】貫通ピットの無い窒化ガリウム系半導体基板を安価に得ることができる窒化ガリウム系半導体基板の製造方法を提供する。
【解決手段】窒化ガリウム系半導体基板の製造方法であって、気相成長装置内に、表面にピット25を生じた窒化ガリウム系半導体層20を有する基板を準備する第1の工程と、前記気相成長装置内で、前記窒化ガリウム系半導体層20上に、非晶質又は多結晶のIII族窒化物のピット埋込層30を形成して前記ピット25を埋める第2の工程と、前記ピット埋込層30を研磨により除去して前記窒化ガリウム系半導体層20の表面を露出させる第3の工程と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム系半導体基板の製造方法に関し、より詳細には窒化ガリウム系半導体基板のピットを埋める方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、窒化物半導体を用いた発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)素子は、一般照明や自動車のヘッドライト、液晶テレビのバックライト等の照明用光源として注目されている。また、窒化物半導体を用いた半導体レーザ(LD:LASER Diode)素子は、ブルーレイディスク等の高密度記録光ディスク装置の書き込み・読み取り用光源として利用されており、これらの窒化物半導体素子の更なる素子特性の向上や低価格化が求められている。
【0003】
窒化物半導体のLED素子では、主として、サファイアなど窒化物半導体と異なる材料からなる異種基板上に、バッファ層などの下地層を介して素子構造が形成される。一方、大電流、高出力駆動が必要なLD素子、高効率型のLED素子などにおいては、結晶欠陥、特に貫通転位などの転位密度が素子特性を決定する大きな要因となるため、窒化物半導体の自立基板上に素子構造が形成される。このような窒化物半導体の自立基板は、異種基板上に、横方向成長法(ELO:Epitaxial Lateral Overgrowth)などを用いて結晶性の良好な厚膜の窒化物半導体を成長させた後、異種基板を除去することで製造される。
【0004】
このような窒化物半導体の自立基板の製造過程において、例えば特許文献1に記載されているように、基板の表面から裏面まで貫通する貫通ピットを生じる場合がある。このような貫通ピットが存在する自立基板は、素子構造の形成工程において真空吸着により保持できないため、そのままでは半導体素子の製造に使用できない。そこで、特許文献1に記載された窒化物半導体基板の製造方法では、窒化物半導体の自立基板の貫通ピットに注入装置や手作業でIII族元素の金属を付着させた後、その金属を熱処理炉内で窒化させて貫通ピットを埋めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−162855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載された窒化物半導体基板の製造方法では、結晶成長装置の他に貫通ピットを埋めるための専用の装置が別途必要であり、また基板に存在する貫通ピットを認識して各ピットに金属を注入しなければならず、その作業は煩雑で、工数が増大し、製造コストが高くなる問題がある。
【0007】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、貫通ピットの無い窒化ガリウム系半導体基板を安価に得ることができる窒化ガリウム系半導体基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記(1)〜(5)の手段により上記課題を解決することができる。
(1)気相成長装置内に、表面にピットを生じた窒化ガリウム系半導体層を有する基板を準備する第1の工程と、前記気相成長装置内で、前記窒化ガリウム系半導体層上に、非晶質又は多結晶のIII族窒化物のピット埋込層を形成して前記ピットを埋める第2の工程と、前記ピット埋込層を研磨により除去して前記窒化ガリウム系半導体層の表面を露出させる第3の工程と、を具備する窒化ガリウム系半導体基板の製造方法。
(2)前記気相成長装置は、ハイドライド気相成長装置であって、前記第1の工程において、前記基板は、成長基板上に前記窒化ガリウム系半導体層を成長することにより準備される上記(1)に記載の窒化ガリウム系半導体基板の製造方法。
(3)前記第2の工程において、前記ピット埋込層は、前記窒化ガリウム系半導体層上に水素ガスを供給して該窒化ガリウム系半導体層の表層を分解させ金属ガリウムの被膜を形成した後、窒素源ガスを供給して該被膜を窒化することにより形成される上記(2)に記載の窒化ガリウム系半導体基板の製造方法。
(4)前記第2の工程において、前記ピット埋込層は、前記窒化ガリウム系半導体層上に水素ガスと塩化水素ガスを供給して該窒化ガリウム系半導体層の表層を分解させ前記ピットを含む表面を粗面化した後、該表面上にIII族窒化物を成長することにより形成される上記(2)に記載の窒化ガリウム系半導体基板の製造方法。
(5)前記第2の工程において、前記ピット埋込層は、前記窒化ガリウム系半導体層上に、700℃以上950℃以下の温度で、III族窒化物を成長することにより形成される上記(1)又は(2)に記載の窒化ガリウム系半導体基板の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、気相成長装置内で、窒化ガリウム系半導体層上に非晶質又は多結晶のIII族窒化物のピット埋込層を形成してピットを埋め、余分なピット埋込層を研磨工程で除去することにより、ピットを埋めるために専用の装置を別途設ける必要がなく、貫通ピットの無い窒化ガリウム系半導体基板を安価に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態に係る窒化ガリウム系半導体基板の製造方法の各工程における、窒化ガリウム系半導体層を有する基板の状態を示す概略断面図(a)〜(d)である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る窒化ガリウム系半導体基板の製造方法の各工程における、窒化ガリウム系半導体層を有する基板の状態を示す概略断面図(a)〜(d)である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る窒化ガリウム系半導体層を有する基板の概略上面図(a)と、その埋められたピット周辺の蛍光顕微鏡による観察像の概略図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明の実施の形態について適宜図面を参照して説明する。但し、以下に説明する窒化ガリウム系半導体基板の製造方法は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、本発明を以下のものに特定しない。なお、各図面が示す構成要素の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。また、以下に記載されている実施の形態は、特に排除する記載が無い限り、各構成等を適宜組み合わせて適用できる。さらに本明細書において、「単結晶」や「多結晶」は、実質的な意味で用い、実際には結晶欠陥や結晶軸の乱れを含むものである。
【0012】
<実施の形態1>
図1(a)〜(d)はそれぞれ、実施の形態1に係る窒化ガリウム系半導体基板の製造方法の各工程における、窒化ガリウム系半導体層を有する基板の状態を示す概略断面図である。図1に示すように、本発明の窒化ガリウム系半導体基板の製造方法は、主として、気相成長装置内に、表面にピット25を生じた窒化ガリウム系半導体層20を有する基板を準備する第1の工程(a)と、同装置内で、窒化ガリウム系半導体層20上に、非晶質又は多結晶のIII族窒化物のピット埋込層30を形成してピットを埋める第2の工程(b)〜(c)と、ピット埋込層30を研磨により除去して窒化ガリウム系半導体層20の表面を露出させる第3の工程(d)と、を具備する。
【0013】
実施の形態1では、第1の工程(a)において、表面にピット25を生じた窒化ガリウム系半導体層20を有する基板は、気相成長装置内で、成長基板10上に、窒化ガリウム系半導体層20を成長することにより準備される。これにより、成長基板10上に窒化ガリウム系半導体層20を成長する工程から、その際表面に生じたピット25をピット埋込層30により埋める工程まで、同一の気相成長装置内における一連の工程として行うことができ、簡便で好ましい。
【0014】
この窒化ガリウム系半導体層20の成長方法は、特に限定されないが、窒化ガリウム系半導体の成長過程において、当初から貫通ピットとして形成されたり、研磨工程を経て最終的に貫通ピットとなったりするような比較的大きいピットは、成長速度の比較的大きいハイドライド気相成長法において生じやすい。このため、本発明の窒化ガリウム系半導体基板の製造方法は、ハイドライド気相成長装置において適用されることが、特に効果的である。
【0015】
単結晶の窒化ガリウム系半導体層20を成長する過程において、ピット25の内面には、主たる結晶成長軸(特にc軸)に対して傾斜する比較的安定なファセット面(結晶面)が現れる。このようなファセット面を内面に有するピット25は、窒化ガリウム系半導体層20の結晶成長の面方位依存性によって、その内面上への結晶の成長が抑制され、内面のファセット面が残存又は拡大していく傾向があるため、埋まりにくい。そこで、本発明では、窒化ガリウム系半導体層20の表面を粗面化したり、該表面上に結晶性の低いIII族窒化物を成長させたりすることによって、結晶成長の面方位依存性を弱め、ピット内面上へのIII族窒化物の成長を促進させる。このような成長面上に成長されるIII族窒化物は、結晶性が低下し、多くの場合、非晶質又は多結晶となるが、これによりピット25を迅速に埋めることができる。
【0016】
実施の形態1における第2の工程は、窒化ガリウム系半導体層20の表層を分解させ金属ガリウムの被膜28を形成する工程(b)と、その後、該被膜28を窒化する工程(c)と、で構成され、この工程(b),(c)により窒化ガリウム系半導体層20上にピット埋込層30が形成され、ピット25が埋められる。
【0017】
まず、工程(b)において、窒化ガリウム系半導体層20上に水素ガスを供給する。より詳細には、窒化ガリウム系半導体層20を有する基板を、水素雰囲気、又は窒素やアルゴン等の不活性ガスと水素との混合雰囲気において保持する。保持時間は、窒化ガリウム系半導体層20の表層を充分に分解させるために好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上とし、過剰な分解を避けるために1時間以下とする。保持温度(以降、温度は基板温度で規定する)は、窒化ガリウム系半導体層20の表層の分解を促進させるために800℃以上であることが好ましく、上限は気相成長装置の石英反応管の保護の観点から1200℃以下であることが好ましい。この工程により、窒化ガリウム系半導体層20の表層が窒素の離脱により分解され、窒化ガリウム系半導体層20の表面に金属ガリウムの被膜28が形成される。この表層の分解は、ピット25においても生じ、ピット25にも金属ガリウムの被膜28が形成される。なお、この金属ガリウムの被膜28は、「ドロップレット」と呼ばれる微小な液滴が集合又は凝集したものである。また、昇温又は降温中は水素雰囲気でなくてもよい。
【0018】
次に、工程(c)において、窒化ガリウム系半導体層20上に窒素源ガスを供給して金属ガリウムの被膜28を窒化する。窒素源ガスは、アンモニアを用いることが好ましく、水素雰囲気、又は窒素やアルゴン等の不活性ガスの雰囲気、又は両者の混合雰囲気にアンモニアを混合した雰囲気、或いはアンモニアのみの雰囲気とすることが好ましい。処理時間は、金属ガリウムと窒素源ガスを充分に反応させるために好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上とし、上限は特に限定されないが1時間以下とする。処理温度は、金属ガリウムと窒素源ガスを効率良く反応させるために800℃以上であることが好ましく、上限は気相成長装置の石英反応管の保護の観点から1200℃以下であることが好ましい。工程(b)と同じ温度とすれば、昇温や降温にかかる時間を省くことができる。この工程により、金属ガリウムの被膜28が窒化され、非晶質又は多結晶のIII族窒化物に変化し(これをピット埋込層30とする)、ピット25が埋められる。なお、ピット埋込層30は、非晶質でもよいが、多結晶のほうがより好ましい。
【0019】
また、実施の形態1の工程(c)において、金属ガリウムの被膜28の窒化により形成された非晶質又は多結晶の層上に、更に非晶質又は多結晶の層を積層することによって、ピット埋込層30を形成してもよい。非晶質又は多結晶の層を積層するには、水素雰囲気、又は窒素やアルゴン等の不活性ガスの雰囲気、又は両者の混合雰囲気中において、原料ガスとしてIII族源ガスと窒素源ガスを供給して成長させる。このとき、III族源ガスに対する窒素源ガスの比(窒素源/III族源)が4以上20以下となるようにガス流量を調整することが、原料の利用効率上好ましい。また、窒素源/III族源の比をこのように比較的低くすると、横方向成長が促進される傾向があり、ピット25を埋めやすい。成長時間は、特に限定されないが、例えば120分以上300分以下であることが好ましい。成長温度は、窒化ガリウム系半導体層20の成長温度より低く、700℃以上950℃以下であることが好ましい。ピット埋込層30の成長温度が低く、窒化ガリウム系半導体層20の成長温度との差が大きくなり過ぎると、ピット埋込層30から掛かる応力によって、窒化ガリウム系半導体層20にクラックが入りやすくなるので、この範囲が好ましい。なお、ピット埋込層30として積層するIII族窒化物は、窒化ガリウム系半導体層20の組成と略同じであることが好ましく、特にGaNが好適である。
【0020】
最後に、第3の工程(d)において、ピット埋込層30を研磨により除去して、窒化ガリウム系半導体層20の表面を露出させる。これにより、窒化ガリウム系半導体層20のピット部分を除く表面を被覆するピット埋込層30が除去され、ピット25が非晶質又は多結晶のピット埋込層30により埋められた窒化ガリウム系半導体層20を有する基板が得られる。研磨工程は、窒化ガリウム系半導体基板の製造において、基板主面の鏡面加工のために当然経る工程であり、この工程を利用して、余分なピット埋込層30を除去することで、工数を低減することができる。なお、本明細書において、「研磨」とは、研削、及び化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)も含む、広義の意味で用いる。特に、第3の工程は、機械研磨又は研削によってピット埋込層30を除去した後、化学機械研磨により鏡面に仕上げるのが良い。また、本研磨工程の前後に、予めレーザ照射(レーザリフトオフ)や研磨により成長基板10を除去して、窒化ガリウム系半導体層20の自立基板21を得てもよい。さらに、その窒化ガリウム系半導体層20の裏面側を研磨してもよい。このとき、窒化ガリウム系半導体層20の表面に生じたピット25は、ピット埋込層30により埋められているため、研磨によってその一部(底部)が裏面側に露出されても貫通ピットとならない。
【0021】
実施の形態1に係る窒化ガリウム系半導体基板の製造方法によれば、ピット25の底部まで金属ガリウムのドロップレットを発生させ、非晶質又は多結晶のIII族窒化物の成長の核となる微細な結晶核をピット25内に良好に形成でき、ピット25を精度良く埋めることができる。また、実施の形態1における第2の工程は、HVPE装置だけでなく、MOCVD装置でも同様の条件で行うことができる。
【0022】
<実施の形態2>
図2(a)〜(d)はそれぞれ、実施の形態2に係る窒化ガリウム系半導体基板の製造方法の各工程における窒化ガリウム系半導体層を有する基板の状態を示す概略断面図である。図2に示す例において、上述の実施の形態1と実質上同様の構成については同一の符号を付して適宜説明を省略する。
【0023】
実施の形態2の第1の工程(a)において、気相成長装置内に準備される窒化ガリウム系半導体層20を有する基板は、成長基板が除去された窒化ガリウム系半導体層20の自立基板である。このように、第1の工程において、予め表面にピット25を生じた窒化ガリウム系半導体層20を有する基板を気相成長装置内に設置してもよい。
【0024】
次に、実施の形態2における第2の工程は、窒化ガリウム系半導体層20の表層を分解させピット25を含む表面を粗面化する工程(b)と、その後、その粗面化された表面上にIII族窒化物を成長する工程(c)と、で構成され、この工程(b),(c)により窒化ガリウム系半導体層20上にピット埋込層32が形成され、ピット25が埋められる。
【0025】
まず、工程(b)において、窒化ガリウム系半導体層20上に水素ガスと塩化水素を供給する。すなわち、窒化ガリウム系半導体層20を有する基板を、水素と塩化水素の混合雰囲気において保持する。塩化水素の流量は、5sccm以上100sccm以下であることが好ましい。保持時間は、窒化ガリウム系半導体層20の表層を充分に分解させるために好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上とし、過剰な分解を避けるために1時間以下とする。保持温度は、窒化ガリウム系半導体層20の表層の分解を促進させるために800℃以上であることが好ましく、上限は気相成長装置の石英反応管の保護の観点から1200℃以下であることが好ましい。この工程により、窒化ガリウム系半導体層20の表層が窒素の離脱により分解されると共に、生成される金属ガリウムのドロップレットが塩化水素ガスによって除去され、窒化ガリウム系半導体層20のピット25を含む表面が粗面化される。
【0026】
次に、工程(c)において、窒化ガリウム系半導体層20の粗面化された表面上に、III族窒化物を成長させる。III族窒化物を成長させるには、水素雰囲気、又は窒素やアルゴン等の不活性ガスの雰囲気、又は両者の混合雰囲気中において、原料ガスとしてIII族源ガスと窒素源ガスを供給する。このとき、III族源ガスに対する窒素源ガスの比(窒素源/III族源)が4以上20以下となるようにガス流量を調整することが、原料の利用効率上好ましい。また、窒素源/III族源の比をこのように比較的低くすると、横方向成長が促進される傾向があり、ピット25を埋めやすい。成長時間は、特に限定されないが、例えば120分以上300分以下であることが好ましい。成長温度は、窒化ガリウム系半導体層20の成長温度より低く、700℃以上950℃以下であることが好ましい。ピット埋込層30の成長温度が低く、窒化ガリウム系半導体層20の成長温度との差が大きくなり過ぎると、ピット埋込層30から掛かる応力によって、窒化ガリウム系半導体層20にクラックが入りやすくなるので、この範囲が好ましい。この工程により、窒化ガリウム系半導体層20上に、非晶質又は多結晶のIII族窒化物層(これをピット埋込層32とする)が成長され、ピット25が埋められる。ピット埋込層32として成長させるIII族窒化物は、窒化ガリウム系半導体層20の組成と略同じであることが好ましく、特にGaNが好適である。
【0027】
最後に、実施の形態1と同様にして、第3の工程(d)において、ピット埋込層32を研磨により除去して、窒化ガリウム系半導体層20の表面を露出させる。実施の形態2に係る窒化ガリウム系半導体基板の製造方法によれば、窒化ガリウム系半導体層20の表面の略全面を短時間で粗面化することで、ピット25の内面上における非晶質又は多結晶のIII族窒化物の成長を促進させることができ、ピット25を短時間で埋めやすい。
【0028】
図3(a)は、実施の形態2に係る窒化ガリウム系半導体層を有する基板の概略上面図であり、また図3(b)は、その埋められたピット周辺の蛍光顕微鏡による観察像の概略図である。なお、図2(d)は、図3(a)におけるA−A断面を示したものである。窒化ガリウム系半導体層20に生じるピット25は、略六角形又は略十二角形の上面視形状を有しており、多くの場合、ファセット面{11−22}により構成される略六角錘状となっている。第3の工程の後、窒化ガリウム系半導体層20のピット25が埋められた領域は、ピット埋込層32が存在し、非晶質又は多結晶領域39となっている。特に、結晶方位の異なる結晶粒の集合体の多結晶領域39となっていることが多い。また、非晶質又は多結晶領域39周囲の基板表面の大部分は、単結晶の窒化ガリウム系半導体層20の表面が露出された単結晶領域29であり、素子構造をエピタキシャル成長させる領域として利用される。
【0029】
なお、窒化ガリウム系半導体層20に生じていたピット25は、ピット埋込層32によって、第3の工程後に貫通ピットとならない程度に埋められていればよく、第3の工程後の窒化ガリウム系半導体層20や窒化ガリウム系半導体基板21の非晶質又は多結晶領域39に、凹部が残存していてもよい。ピット埋込層32の膜厚(単結晶領域29上に形成された層の膜厚で考える)は、窒化ガリウム系半導体層20の厚みや反りに応じて変えられるが、貫通ピットが生じないようにピット25の底部を確実に埋めるために40μm以上とすることが好ましく、また無駄に厚くなり過ぎないように100μm以下とすることが好ましい。
【0030】
<実施の形態3>
実施の形態3に係る窒化ガリウム系半導体基板の製造方法は、実施の形態2の工程(b)を省略するものであり、上述の実施の形態2と実質上同様の構成については同一の符号を付して適宜説明及び図示を省略する。実施の形態3では、窒化ガリウム系半導体層20上に、直接、非晶質又は多結晶のIII族窒化物層32を成長させてピット25を埋める。このピット埋込層32の好ましい成長条件や態様は、実施の形態2と同様である。実施の形態3に係る窒化ガリウム系半導体基板の製造方法によれば、窒化ガリウム系半導体層20の略全面に多結晶核を短時間で形成することができ、その結晶核を成長起点としてピット埋込層32を成長させることができる。窒化ガリウム系半導体層20の成長工程後の降温過程において、原料ガスを供給してピット埋込層32を成長させてもよい。
【0031】
なお、以上のようなピット埋込層30,32を窒化ガリウム系半導体層20上に形成した後、再度昇温して、ピット埋込層上に単結晶の層を新たに成長させてもよい。ピット埋込層30,32上に、その表面に素子構造をエピタキシャル成長可能な単結晶層を成長できれば、ピット埋込層を除去する工程を省略することができる。
【0032】
以下、本発明の窒化ガリウム系半導体基板の製造方法における各構成要素について説明する。
【0033】
(窒化ガリウム系半導体、III族窒化物)
「III族窒化物」は、III族元素の窒素化合物であり、例えばGaN、AlGaN、InGaNなど、一般式AlInGa1−x−yN(0≦x≦1,0≦y≦1,x+y≦1)で表されるものである。またIII族元素としてBを用いてもよく、V族元素のNの一部をAs、Pで置換した混晶とすることもできる。「窒化ガリウム系半導体」は、このようなIII族窒化物のうち、特にガリウムを含有するものである。窒化ガリウム系半導体層20は、良好な結晶性が得られやすいGaNにより形成されることが好ましい。また、窒化ガリウム系半導体層20は、1つの層でもよいし、例えば下地層などを含み複数の層からなってもよい。また適宜、これらIII族窒化物に不純物をドープすることができ、n型不純物としてはSiやO、p型不純物としてはMgを用いることが好ましい。
【0034】
(成長基板)
成長基板10は、窒化ガリウム系半導体のエピタキシャル成長が可能なものであればよい。窒化ガリウム系半導体の割れやクラックを防止するためには、成長基板10の大きさは直径2インチ以上4インチ以下が好ましく、厚さは0.5mm以上2mm以下が好ましい。窒化ガリウム系半導体の成長基板10の具体的な材料としては、C面、R面、及びA面のいずれかを主面とするサファイアやスピネル(MgAl)のほか、SiC(6H、4H、3C)、Si、GaAs、ZnS、ZnO、ダイヤモンドなどが挙げられる。このような窒化物半導体と異なる材料からなる異種基板においては、C面(0001)を主面とするサファイア基板を使用することが好ましい。このほか、GaNやAlN、AlGaN等の窒化物半導体基板を用いてもよい。また、成長基板10は、窒化ガリウム系半導体の成長面となる主面がオフアングルしたものでもよい(例えば、サファイアC面で0.01°以上3.0°以下)。
【0035】
(気相成長法・装置)
III族窒化物の結晶成長方法(装置)としては、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)、ハイドライド気相成長法(HVPE:Hydride Vapor Phase Epitaxy)などの方法(装置)が利用できる。MOCVD法は、成長速度や膜厚の制御がしやすい。MOCVD装置では、原料ガスに、窒素源ガスとしてアンモニア(NH)と、III族源ガスとしてトリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMI)などを用いる。HVPE法は、MOCVD法に比べ高速成長が可能である。HVPE装置では、原料ガスに、NHと、III族元素のハロゲン化物(例えばGaCl)と、を用いる。また上述のような不純物をドープする場合には、これらの原料ガスと共にドーパントガス、例えばシラン(SiH)やシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)等のガスを供給する。
【実施例】
【0036】
以下、本発明に係る実施例について詳述する。なお、本発明は以下に示す実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【0037】
<実施例1>
まず、MOCVD装置の反応炉内に、直径3インチ、厚さ0.5mmのC面サファイア基板10(A面オリフラ)を設置し、500℃で、キャリアガスにHを用い(以下も同様)、NHガスを流量8.0slm、TMGガスを流量40sccmにて60分間供給し、膜厚約1.2μmのGaNのバッファ層を形成する。続いて、1080℃に昇温し、NHガスを流量4.6slm、TMGガスを流量130sccmにて420分間供給し、膜厚約70μmのGaNの下地層を成長させた後、降温して基板10をMOCVD装置から取り出す。次に、HVPE装置の反応炉内に、その下地層が成長された基板10を設置し、Gaボートに金属ガリウムを500g程度置き、1020℃で、NHガスを流量1.3slm、HClガス(このHClガスは、Gaボートの金属ガリウムと反応してGaClガスとして供給されるので、以降「GaClガス」とする)を流量160sccmにて150分間供給し、下地層上に膜厚約500μmのGaNの厚膜20を成長させる。このとき、GaN厚膜20の表面には、300μm程度の大きさ(表面における径)のピット25が複数個生じている。
【0038】
続いて、同一のHVPE装置にて、1020℃のまま、反応炉内をH雰囲気にして10分間保持する。これにより、GaN厚膜20の表面はH雰囲気に曝されてエッチングされるとともに、その表面に金属ガリウムのドロップレット28が発生する。その後、基板10上にNHガスを流量1.0slmにて10分間供給し、ドロップレット28とNHを反応させ、GaN厚膜20の表面にGaNの微小な多結晶30(ピット埋込層)を成長させる。そして、800℃に降温して、基板10上にNHガスを流量1.0slm、GaClガスを流量100sccmにて100分間供給し、GaN厚膜20上にGaNの多結晶30を更に成長させる。その後、室温付近まで降温して基板10をHVPE装置から取り出す。この取り出した基板を観察すると、GaN厚膜20の表面は膜厚15μm程度の多結晶層30で覆われており、GaN厚膜20に生じていたピット25は、その底部から多結晶層30で埋められてきており、また200μm程度に縮径していることが確認できる。
【0039】
<実施例2>
まず、HVPE装置の反応炉内に、実施例1と同様の下地層及びGaN厚膜20が成長された基板10を設置する。続いて同装置にて、反応炉内をN雰囲気にして1020℃に昇温した後、反応炉内をH雰囲気に切り替え、更にHClガスを流量10sccmにて基板10上に供給しながら10分間保持する。これにより、GaN厚膜20の表面は、HとHClの混合雰囲気に曝されてエッチングされ、粗面化された状態となる。そして、800℃に降温して、基板10上にNHガスを流量1.3slm、GaClガスを流量120sccmにて180分間供給し、GaN厚膜20上にGaNの多結晶32(ピット埋込層)を成長させる。その後、室温付近まで降温して基板10をHVPE装置から取り出す。この取り出した基板を観察すると、GaN厚膜20の表面は膜厚100μm程度の多結晶層32で覆われていることが確認できる。さらに、この基板10を多結晶層32側から研磨してGaN厚膜20の表面を露出させる。そして、GaN厚膜20の表面のピット25が生じていた部分を、走査電子顕微鏡の微分干渉像にて観察すると、ピット25が略円形の痕跡を残して消失していることが確認できる。また、その同じ部分を蛍光顕微鏡にて観察すると、互いに発光色の異なる、ピット埋込層32の表面である略六角形の多結晶領域39と、その周囲のGaN厚膜20の表面である単結晶領域29と、が見られ、ピット25がほぼ完全に埋られていることが確認できる。
【0040】
<実施例3>
まず、実施例1と同様にして、HVPE装置の反応炉内で、基板10上に成長された下地層上にGaN厚膜20を成長させる。続いて、同一のHVPE装置にて、800℃に降温して、基板10上にNHガスを流量0.9slm、GaClガスを流量50sccmにて120分間供給し、GaN厚膜20上にGaNの多結晶32(ピット埋込層)を成長させる。その後、室温付近まで降温して基板10をHVPE装置から取り出す。この取り出した基板を観察すると、GaN厚膜20の表面は膜厚40μm程度の多結晶層32で覆われており、GaN厚膜20に生じていたピット25は、その底部から多結晶層32で埋められてきていることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の窒化ガリウム系半導体基板の製造方法は、窒化物半導体を用いるLEDやLD等の発光デバイス、電子デバイス等の半導体素子の結晶成長用基板の製造に適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
10…成長基板、20…窒化ガリウム系半導体層、21…窒化ガリウム系半導体基板、25…ピット、28…金属ガリウムの被膜、29…単結晶領域、30,32…ピット埋込層、39…非晶質又は多結晶領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相成長装置内に、表面にピットを生じた窒化ガリウム系半導体層を有する基板を準備する第1の工程と、
前記気相成長装置内で、前記窒化ガリウム系半導体層上に、非晶質又は多結晶のIII族窒化物のピット埋込層を形成して前記ピットを埋める第2の工程と、
前記ピット埋込層を研磨により除去して前記窒化ガリウム系半導体層の表面を露出させる第3の工程と、を具備する窒化ガリウム系半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記気相成長装置は、ハイドライド気相成長装置であって、
前記第1の工程において、前記基板は、前記気相成長装置内で、成長基板上に前記窒化ガリウム系半導体層を成長することにより準備される請求項1に記載の窒化ガリウム系半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記第2の工程において、前記ピット埋込層は、前記窒化ガリウム系半導体層上に水素ガスを供給して該窒化ガリウム系半導体層の表層を分解させ金属ガリウムの被膜を形成した後、窒素源ガスを供給して該被膜を窒化することにより形成される請求項2に記載の窒化ガリウム系半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記第2の工程において、前記ピット埋込層は、前記窒化ガリウム系半導体層上に水素ガスと塩化水素ガスを供給して該窒化ガリウム系半導体層の表層を分解させ前記ピットを含む表面を粗面化した後、該表面上にIII族窒化物を成長することにより形成される請求項2に記載の窒化ガリウム系半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記第2の工程において、前記ピット埋込層は、前記窒化ガリウム系半導体層上に、700℃以上950℃以下の温度で、III族窒化物を成長することにより形成される請求項1又は2に記載の窒化ガリウム系半導体基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−213512(P2011−213512A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81740(P2010−81740)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】