説明

窒化物半導体発光素子およびその製造方法

【課題】静電耐圧が高い窒化物半導体発光素子を歩留まりが高く製造する窒化物半導体発光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の窒化物半導体発光素子は、成長用基板と、該成長用基板上に形成されたn型窒化物半導体層と、該n型窒化物半導体層上に形成された発光層と、該発光層上に形成されたp型窒化物半導体層とを有し、n型窒化物半導体層の発光層と接する側の表面から基板に向けて略垂直に延び、直径が2nm〜200nmであるパイプ穴を5000個/cm2以下有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体発光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の窒化物半導体発光素子の用途では、窒化物半導体発光素子の発光出力、静電耐圧、発光波長等の性能が多少安定していなくても使用上に支障をきたすことはなかった。しかし、近年急速に普及しつつある液晶テレビのバックライト用やLED照明の用途では、1個の窒化物半導体発光素子に静電破壊が生じてしまうと、製品全体として故障したものとみなされ、製品が不良品と判断されてしまう。このため、液晶テレビのバックライト用に用いる窒化物半導体発光素子は、全てが静電気印加試験のような破壊検査をクリアする必要があり、窒化物半導体発光素子の静電耐圧が高いことが必須となっている。
【0003】
たとえば特許文献1には、静電耐圧を高めるための窒化物半導体発光素子が開示されている。図7は、特許文献1に開示される窒化物半導体発光素子の構成を示す模式的な断面図である。特許文献1の窒化物半導体発光素子は、図7に示されるように、n側コンタクト層4と活性層11との間に、n側コンタクト層4側から順に、第1のn側層5、第2のn側層6、第3のn側層7および第4のn側層8を少なくとも有し、第2のn側層6および第4のn側層8がそれぞれ、第1のn側層5および第3のn側層7のn型不純物濃度よりもn型不純物濃度が高くなるように、第2のn側層6および第4のn側層8にn型不純物を導入している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−260215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の製造方法によって、4インチ基板を用いて約5万個の窒化物半導体発光素子を作製し、その全てに対し静電気印加試験をした。その試験結果を図8に示す。図8は、特許文献1の窒化物半導体発光素子に対し、静電気印加試験を行なったときに破壊が生じたときの印加電圧と、破壊した窒化物半導体発光素子の個数との関係を示すグラフである。図8の横軸は、破壊が生じたときの印加電圧であり、縦軸は破壊が生じた窒化物半導体発光素子の個数である。
【0006】
図8のグラフから、特許文献1の製造方法では、−4000V以上の電圧を印加しても破壊されない窒化物半導体発光素子が19000個程度作製されている。しかしその一方で、−200V以下の低い電圧で破壊する窒化物半導体発光素子が31000個程度作製されている。このように特許文献1の製造方法によって窒化物半導体発光素子を作製すると、静電耐圧が非常に優れたものが作製される一方で、半分程度は静電耐圧が低いものとなってしまう。
【0007】
このように静電耐圧の特性がバラつくのは、ウエハ全面に亘って窒化物層を均一に結晶成長させることができず、部分的にウエハの面内に結晶欠陥が生じるためだと考えられる。すなわち、特許文献1の製造方法で製造するウエハをチップに分解すると、結晶欠陥を含まないものは静電耐圧が高いが、結晶欠陥を含むものは静電耐圧が低くなる。この結果、同一のウエハから作製する窒化物半導体発光素子でも、静電耐圧が高いものと低いものとが作製されるものと考えられる。
【0008】
上記では4インチ基板を用いて窒化物半導体発光素子を製造する場合を例示したが、たとえば6インチ基板のような大口径基板を用いて窒化物半導体発光素子を製造する場合、1枚の基板から約13万個の窒化物半導体発光素子が製造される。しかしながら、そのうちの約半分の窒化物半導体発光素子が静電耐圧が低いため、歩留まりが悪いという問題があった。
【0009】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、静電耐圧が高い窒化物半導体発光素子を歩留まりが高く製造することができる窒化物半導体発光素子およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の静電破壊がどのように生じるかを説明する。まず、窒化物半導体発光素子に印加する通常の電界方向に対し、逆方向に高電界が印加された時に、活性層がノンドープまたはn型の低ドープであるため、n型窒化物半導体層側に空乏層が伸びる。この空乏層に電流が流れやすい欠陥などが存在すると、欠陥に電流が集中して、熱が発生して静電破壊が生じる。
【0011】
本発明者らは、静電破壊した窒化物半導体発光素子を解析したところ、破壊位置の下部のn型窒化物半導体層中に直径が数nm程度のパイプ穴が存在していることが明らかとなった。そして、パイプ穴を含む平面で窒化物半導体発光素子を切断し、その断面をSTEMで観察することにより、パイプ穴と破壊位置との関係を確認した。図1は、パイプ穴を含む面で窒化物半導体発光素子を切断したときの切断面をSTEMで観察したときの観察画像である。図1にパイプ穴を示している。そして、かかるパイプ穴と静電気印加試験との不良発生率の相関を調べたところ、図2に示すようにパイプ穴の密度が高いほど静電気印加試験で不良が発生しやすいことがわかった。
【0012】
図2は、パイプ穴の密度と不良発生率との関係を示すグラフである。図2に示される結果から、パイプ穴の密度を低くするほどパイプ穴に高電界が印加されなくなり、パイプ穴が存在する位置まで空乏層が広がらなくなることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の窒化物半導体発光素子は、成長用基板と、該成長用基板上に形成されたn型窒化物半導体層と、該n型窒化物半導体層上に形成された発光層と、該発光層上に形成されたp型窒化物半導体層とを有し、n型窒化物半導体層の発光層と接する側の表面から基板に向けて略垂直に延び、直径が2nm〜200nmであるパイプ穴を5000個/cm2以下有することを特徴とする。
【0014】
n型窒化物半導体層と発光層との間にn型超格子層をさらに含み、該n型超格子層は、2×1017cm-3以上のn型不純物濃度である層を1層以上含むことが好ましい。
【0015】
上記のn型窒化物半導体層は、第1のn型GaN層および第2のn型GaN層からなり、該第2のn型GaN層は、n型不純物濃度が低い低ドープ層と、n型不純物濃度が高い高ドープ層とを含み、低ドープ層のn型不純物濃度は、第1のn型GaN層のn型不純物濃度よりも低いことが好ましい。
【0016】
高ドープ層のn型不純物濃度は、第1のn型GaN層のn型不純物濃度よりも高いことが好ましい。成長用基板は、表面に窒化物半導体が形成されている基板または窒化物半導体基板であることが好ましい。
【0017】
本発明は、窒化物半導体発光素子の製造方法に関するものでもあり、成長用基板上に第1のn型GaN層を形成するステップと、該第1のn型GaN層上に第2のn型GaN層を形成するステップと、該第2のn型GaN層上に発光層を形成するステップと、該発光層上にp型窒化物半導体層を形成するステップとを含み、第2のn型GaN層を形成するステップにおけるIII族原料の導入量に対するV族原料の導入量のモル流量比(V/III)は、第1のn型GaN層を形成するステップにおけるIII族原料の導入量に対するV族原料の導入量のモル流量比(V/III)よりも低いことを特徴とする。
【0018】
上記の第2のn型GaN層を形成するステップにおけるIII族原料の導入量に対するV族原料の導入量のモル流量比(V/III)は、300以下であることが好ましい。
【0019】
上記の第1のn型GaN層を形成するステップにおけるIII族原料の導入量に対するV族原料の導入量のモル流量比(V/III)は、300以上であることが好ましい。
【0020】
上記の第2のn型GaN層を形成するステップの後に、第2のn型GaN層上にn型超格子層を形成するステップを含むことが好ましい。
【0021】
第1のn型GaN層を形成するステップの前に、成長用基板を昇温するステップを含み、該成長用基板を昇温するステップにおけるV族原料の流量は、第1のn型GaN層を形成するステップにおけるV族原料の流量と同じであることが好ましい。
【0022】
第1のn型GaN層を形成するステップおよび第2のn型GaN層を形成するステップは、10cm/秒以上300cm/秒以下の流速でガスを導入することが好ましい。第2のn型GaN層を形成するステップは、900℃以上の成長温度で第2のn型GaN層を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法は、上記の構成を有することにより、静電耐圧が高い窒化物半導体発光素子を歩留まりが高く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】パイプ穴を含む面で窒化物半導体発光素子を切断したときの切断面をSTEMで観察したときの観察画像である。
【図2】パイプ穴の密度と不良発生率との関係を示すグラフである。
【図3】従来の窒化物半導体発光素子のパイプ密度の分布と、本発明の窒化物半導体発光素子のパイプ密度の分布とを比較したグラフである。
【図4】パイプ穴を含む面で窒化物半導体発光素子を切断したときの切断面をSTEMで観察したときの観察画像である。
【図5】大ピットの上面をSEMで観察したときの観察画像である。
【図6】第2のn型GaN層の表面を顕微鏡で観察したときの観察画像である。
【図7】特許文献1に開示される窒化物半導体発光素子の構成を示す模式的な断面図である。
【図8】特許文献1の窒化物半導体発光素子に対し、静電気印加試験を行なったときに破壊が生じたときの印加電圧と、破壊した窒化物半導体発光素子の個数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の窒化物半導体発光素子を説明する。
<窒化物半導体発光素子>
本発明の窒化物半導体発光素子は、成長用基板と、該成長用基板上に形成されたn型窒化物半導体層と、該n型窒化物半導体層上に形成された発光層と、該発光層上に形成されたp型窒化物半導体層とを有し、n型窒化物半導体層の発光層と接する側の表面から基板に向けて略垂直に延び、直径が2nm〜200nmであるパイプ穴を5000個/cm2以下有することを特徴とする。このようにパイプ穴の密度が少ないことにより、静電破壊を発生しにくくし、もって静電耐圧が高い窒化物半導体発光素子を製造することができる。上記のパイプ穴の密度を満たす窒化物半導体発光素子は、たとえば9.5×10-4cm2の面積の素子であれば、1素子あたりのパイプ穴の個数が5個以下となる。1素子あたりのパイプ穴が5個以下であると、静電耐圧を高めることができることがわかっている。その一方、パイプ穴の個数が5個を超えると、静電耐圧は顕著に低下する傾向がある。さらに好ましくは、上記のパイプ穴の密度は、3000個/cm2以下であることが好ましく、この場合は、たとえば1.6×10-3cm2の面積のように素子のサイズが大きくても、1素子あたりのパイプ穴の個数を5個以下とすることができ、9.5×10-4cm2の面積の素子であれば、1素子あたりのパイプ穴の個数は3個以下となり、より静電破壊を起こりにくくすることができる。さらに、より好ましくは1000個/cm2以下である。この場合、たとえば5.0×10-3cm2の面積の素子のように、さらに大きいサイズの素子でも、1素子あたりのパイプ穴の個数を5個以下にすることができる。パイプ穴の個数は少なくするほど好ましいが、パイプ穴をなくすことは現実的にほぼ不可能と考えている。
【0026】
<パイプ穴>
上記のパイプ穴の密度は、次のようにして算出する。まず、酸などの薬液で窒化物半導体発光素子の電極を除去した後に、ドライエッチングによってp型窒化物半導体層、活性層、およびn型超格子層を除去して第2のn型GaN層を露出させる。そして、露出した第2のn型GaN層の表面を硫酸とリン酸との混合液を用いてエッチング処理することにより、大ピットおよび小ピットを形成する。大ピットは、パイプ穴に起因して形成されるものであり、小ピットは、らせん転位または混合転位に起因して形成されるものである。
【0027】
パイプ穴を光学顕微鏡で観察することはできないが、大ピットは光学顕微鏡で容易に観察することはできる。そして、大ピットの個数は、パイプ穴の個数と同一となるため、大ピットの個数を数えることにより、パイプ穴の個数を数えることができ、これによりパイプ穴の密度を算出する。
【0028】
上記のエッチングに用いられる混合液は、硫酸とリン酸との混合比が3:1であることが好ましいが、かかる混合比のみに限られるものではなく、大ピットと小ピットが区別できる程度に形成される限り、その混合比は限定されない。また、エッチング液の温度を250℃以上にすることが好ましい。これにより短時間のエッチングで大ピットおよび小ピットを作製することができるため、生産現場で好適に用いることができる。以下においては、窒化物半導体発光素子を構成する各部を説明する。
【0029】
<成長用基板>
本発明において、成長用基板は、表面に窒化物半導体が形成されている基板または窒化物半導体基板であることが好ましい。このような成長用基板は、従来のサファイア基板、スピネル基板、SiC基板等の窒化物ではない基板に比して、窒化物半導体層の結晶成長時にパイプ穴を塞ぐ傾向があるため、成長用基板に存在するパイプ穴を少なくすることができる。ここで、表面に窒化物半導体が形成されている基板としては、たとえばサファイア基板の表面が凹凸形状に加工され、その上にスパッタ法でAlNからなるバッファ層が形成され、その上にMOCVD法やHVPE法によりGaNが形成されたものを挙げることができる。
【0030】
上記の成長用基板は、その表面に多数のパイプ穴が存在しているため、成長用基板におけるパイプ穴を少なくすることが重要である。パイプ穴が少ない成長用基板上にn型窒化物半導体層等を形成することにより、n型窒化物半導体層に形成されるパイプ穴をさらに減少し、もって静電耐圧による不良および逆リークによる不良を抑制し、製造の歩留まりを向上させることができる。
【0031】
このような成長用基板としては、たとえばサファイア基板の表裏のうちの窒化物半導体層が形成される側の面に凹凸加工を施したものを用いることが好ましい。そして、成長用基板の表面にAlNからなるバッファ層を形成し、その上にノンドープのGaN層およびn型GaN層を形成したものを用いることが好ましい。
【0032】
<n型窒化物半導体層>
本発明において、n型窒化物半導体層は、第1のn型GaN層および第2のn型GaN層からなるものであることが好ましい。
【0033】
ここで、上記の第1のn型GaN層のドーピング濃度は、1×1018〜2×1019cm-3であることが好ましく、より好ましくは、3×1018〜9×1018cm-3である。また、第1のn型GaN層の厚みは、たとえば0.3〜3μmである。
【0034】
そして、第2のn型GaN層は、n型不純物濃度が低い低ドープ層と、n型不純物濃度が高い高ドープ層とを含み、低ドープ層のn型不純物濃度は、第1のn型GaN層のn型不純物濃度よりも低いことが好ましい。このように第2のn型GaN層が、高ドープ層および低ドープ層を含むことにより、ドーピング濃度が高濃度から低濃度に切り替わる界面でパイプ穴を塞ぐ傾向があり、パイプ穴の個数を低減し、静電耐圧を高めることができる。
【0035】
上記の第2のn型GaN層のドーピング濃度は、3×1017〜5×1018cm-3であることが好ましく、より好ましくは、5×1017〜1×1018cm-3である。なお、第2のn型GaN層が複数の層を積層して形成されるものである場合、第2のn型GaN層のドーピング濃度は、各層のドーピング濃度を平均値によって算出される。
【0036】
上記の第2のn型GaN層は、高ドープ層と低ドープ層とを交互に繰り返して形成されることが好ましい。このようにドーピング濃度が高濃度から低濃度に切り替わる界面を複数設けることにより、該界面でパイプ穴を塞ぐことができ、もってパイプ穴の個数を減らすことができる。第2のn型GaN層が高ドープ層を含まずに低ドープ層のみであると、発光ダイオードの順方向に電流を流したときに、電子が活性層に十分に注入されずに、ホールのオーバーフローが起こり、発光強度が低下することになる。
【0037】
高ドープ層のn型不純物濃度は、第1のn型GaN層のn型不純物濃度よりも高いことが好ましい。このように活性層に近い側に第1のn型GaN層よりも高濃度の高ドープ層を形成することにより、ホールのオーバーフローが起こりにくく、実使用環境の室温よりも高い温度で強い発光強度を得ることができ、もって光出力を向上させることができる。
【0038】
このような高ドープ層のn型不純物濃度は、1×1018〜3×1019cm-3であることが好ましく、より好ましくは、6×1018〜2×1019cm-3である。また、低ドープ層のn型不純物濃度は、1×1016〜1×1018cm-3であることが好ましく、より好ましくは、1×1016〜5×1017cm-3である。また、高ドープ層の厚みは、3〜300nmであり、低ドープ層の厚みは、50〜500nmである。
【0039】
<n型超格子層>
本発明において、n型超格子層が、n型窒化物半導体層と発光層との間に含まれることが好ましい。そして、n型超格子層は、2×1017cm-3以上のn型不純物濃度である層を1層以上含むことが好ましい。このような不純物濃度の層を1層以上含むことにより、逆方向の静電気による高電界が印加されても、活性層における空乏層が第2のn型GaN層まで広がることがないため、第2のn型GaN層中に含まれるパイプ穴に高電界が印加されにくくなり、静電破壊が生じにくくなる。
【0040】
上記の2×1017cm-3以上のn型不純物濃度である層は、より好ましくはn型不純物濃度が6×1017cm-3以上であり、さらに好ましくは9×1017cm-3以上である。また、上記のn型超格子層は、SiドープのGaN層とノンドープのInGaN層とを交互に周期的に積層したものであることが好ましい。このようにしてn型不純物濃度が異なる層を交互に積層することにより、発光層における空乏層の成長をn型超格子層でとめることができる。なお、発光層、p型窒化物半導体層、および電極としては、従来公知のものを用いることができる。
【0041】
<窒化物半導体発光素子の製造方法>
本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法は、成長用基板上に第1のn型GaN層を形成するステップと、該第1のn型GaN層上に第2のn型GaN層を形成するステップと、該第2のn型GaN層上に発光層を形成するステップと、該発光層上にp型窒化物半導体層を形成するステップとを含み、第2のn型GaN層を形成するステップにおけるIII族原料の導入量に対するV族原料の導入量のモル流量比(V/III)は、第1のn型GaN層を形成するステップにおけるIII族原料の導入量に対するV族原料の導入量のモル流量比(V/III)よりも低いことを特徴とする。このように第1および第2のn型GaN層を形成するときのモル流量比(V/III)を制御することにより、それぞれを成膜するときにパイプ穴を塞ぐことができ、もって静電気印加試験歩留を向上させることができる。
【0042】
<成長用基板を昇温するステップ>
まず、成長用基板を、後述する第1のn型GaN層を形成するときの温度(たとえば1030℃程度)まで昇温する。このとき、成長用基板の温度が700℃を超える前に、第1のn型GaN層を成長させるときと同じ流量のV族原料ガスを供給することが好ましい。このように成長用基板の昇温時にV族原料ガスを流すことにより、第1のn型GaN層に欠陥を発生しにくくすることができる。
【0043】
上記の成長用基板の昇温中のV族原料ガスの流量と、第1のn型GaN層の成長時のV族原料ガスの流量とが異なると、その流量を変えるときにV族原料ガスの流量が安定しないというデメリットがあり、しかも流量が変化することにより、成長用基板の表面温度が変化するため好ましくない。
【0044】
<第1のn型GaN層を形成するステップ>
次に、成長用基板上に第1のn型GaN層を形成する。ここで、第1のn型GaN層を形成するとき、III族原料の導入量に対するV族原料の導入量のモル流量比(V/III)は、300以上であることが好ましい。これにより昇温中に第1のn型GaN層に形成される欠陥の発生を抑制することができる。上記のIII族原料の導入量に対するV族原料の導入量のモル流量比(V/III)は、300以上2000以下であることが好ましく、より好ましくは400以上1000以下である。
【0045】
上記のV/IIIのモル流量比が300未満であると、第1のn型GaN層が成長し始めるときの界面からV字状のピットが形成されてしまうため好ましくない。また、V/IIIのモル流量比が1000より大きいと、気相中でのV族原料とIII族原料の反応が大きくなり、結晶品質を悪化させる可能性があるため好ましくない。第1のn型GaN層を形成するときの成長速度は、たとえば2μm/hとし、成長温度は1030℃程度とすることが好ましい。
【0046】
第1のn型GaN層を形成するステップでは、10cm/秒以上300cm/秒以下の流速でガスを導入することが好ましい。このような流速でガスを導入することにより、ウエハの外周でパイプ穴が発生しやすい傾向があるのを改善し、ウエハの全面でパイプ穴の個数を低減することができる。ガスの流速が10cm/秒未満であると、ウエハの外周部分にパイプ穴が発生しやすくなり、300cm/秒を超えると、ガス量が多すぎてガスによってウエハの表面温度が低下し、成長温度を低下させたときと同様に、結晶品質が低下して発光効率が低下する。ここでの「ガス」とは、III族原料ガスおよびV族原料ガスに加え、キャリアガスも含むことを意味するものである。
【0047】
図3は、従来の窒化物半導体発光素子のパイプ密度の分布と、本発明の窒化物半導体発光素子のパイプ密度の分布とを比較したグラフである。図3に示されるように、本発明の窒化物半導体発光素子は、ウエハの中央からの距離にかかわらずパイプ密度がほぼ均一であるのに対し、従来の窒化物半導体発光素子は、ウエハの中央から離れるほどパイプ密度が多くなるのがわかる。したがって、本発明の窒化物半導体発光素子は、ウエハの全面でパイプ密度を低いことが明らかである。
【0048】
<第2のn型GaN層を形成するステップ>
次に、第1のn型GaN層上に第2のn型GaN層を形成する。ここで、第2のn型GaN層を形成するときに、III族原料の導入量に対するV族原料の導入量のモル流量比(V/III)は、300以下であることが好ましい。これによりウエハ表面のIII族原子が、V族原子と結合する前にマイグレーションしてパイプ穴を塞ぎやすくなり、パイプ穴の個数を低減することができる。ここでのIII族原料の導入量に対するV族原料の導入量のモル流量比(V/III)は、50以上300以下であることが好ましく、より好ましくは70以上300以下である。上記のV/IIIのモル流量比が300を超えると、III族原子がマイグレーションしにくくなり、パイプ穴を塞ぎにくくなるため好ましくない。
【0049】
第2のn型GaN層を形成するステップでも、第1のn型GaN層を形成するステップと同様に、10cm/秒以上300cm/秒以下の流速でガスを導入することが好ましい。このような流速でガスを導入することにより、ウエハの外周でパイプ穴が発生しやすい傾向があるのを改善し、ウエハの全面でパイプ穴の個数を低減することができる。ガスの流速が10cm/秒未満であると、ウエハの外周部分にパイプ穴が発生しやすくなり、300cm/秒を超えると、ガス量が多すぎてガスによってウエハの表面温度が低下し、成長温度を低下させたときと同様に、結晶品質が低下して発光効率が低下する。ここでの「ガス」とは、III族原料ガスおよびV族原料ガスに加え、キャリアガスも含むことを意味するものである。
【0050】
また、第2のn型GaN層を形成するステップは、900℃以上の成長温度で第2のn型GaN層を形成することが好ましい。このような成長温度で第2のn型GaN層を形成することにより、III族原料のマイグレーションが促進されるため、パイプ穴を塞ぎやすい。
【0051】
ここで、第2のn型GaN層は、n型不純物の濃度が異なる複数の層を積層したものであることが好ましい。このような複数の層とするために、n型不純物の導入量を適宜変更することが好ましい。
【0052】
<n型超格子層を形成するステップ>
上記の第2のn型GaN層を形成するステップの後に、n型超格子層を形成するステップを含むことが好ましい。このようにして第2のn型GaN層上にn型超格子層を形成することにより、窒化物半導体発光素子の逆方向に高電界がかかった時にも、空乏層がn型超格子層までしか伸びず、これ以降の空乏層の伸張を防止し、もって静電気破壊を起こりにくくすることができる。
【0053】
<発光層およびp型窒化物半導体層を形成するステップ>
発光層およびp型窒化物半導体層は、従来公知の製造方法によって製造することができる。また、電極は、ITOからなる透明電極や、Auによるボンディングパッド電極などの一般的な方法によって作製することができる。以上の各ステップを行なうことにより、本発明の窒化物半導体発光素子を製造することができる。
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
<実施例1>
本実施例では、表面に凹凸を有する4インチのサファイア基板上に、スパッタで形成された厚み30nmのAlNからなるバッファ層を形成し、その上にMOCVD法で4μmの厚みのアンドープGaN層と、2μmの厚みのn型GaN層とを形成した成膜用基板を用いた。
【0056】
(成長用基板を昇温するステップ)
まず、成長用基板をMOCVD装置に設置して装置内を昇温する。このとき、成長用基板の温度が600℃となったときに、後述する第1のn型GaN層を成長させるときと同じ流量のNH3を供給しながら成長用基板を1030℃まで昇温した。
【0057】
(第1のn型GaN層を形成するステップ)
そして、V族材料としてNH3と、III族材料としてTMGとをそのモル比(V/III)が580となるように17cm/秒の流速でガスを導入して、成膜用基板上に2μm/hの成長速度で1μmの厚みの第1のn型GaN層を成長させた。このようにしてドーピング濃度が6×1018cm-3の第1のn型GaN層を作製した。
【0058】
(第2のn型GaN層を形成するステップ)
次に、NH3の流量を減らして、V族材料とIII族材料とのモル比(V/III)を290にして17cm/秒の流速でガスを導入して、1030℃の温度のままでドーピング濃度が異なる5層のGaN層からなる第2のn型GaN層を成長させた。かかる第2のn型GaN層は、基板側から順に、1×1018cm-3のドーピング濃度で20nmの厚みのGaN層、2×1017cm-3のドーピング濃度で100nmの厚みのGaN層、1×1018cm-3のドーピング濃度で50nmの厚みのGaN層、2×1017cm-3のドーピング濃度で150nmの厚みのGaN層、9×1018cm-3のドーピング濃度で15nmの厚みのGaN層の順に成長させたものである。
【0059】
(n型超格子層を形成するステップ)
次に、760℃まで温度を下げてn型超格子層の成長を開始した。かかるn型超格子層は、8×1017cm-3の濃度でSiをドープしたGaN層と、ノンドープのInGaN層とをそれぞれ交互に2.5nmの厚みで10層ずつ成膜することにより成膜した。このようにして成膜したn型超格子層は、Siの平均ドーピング濃度が約4×1017cm-3であった。
【0060】
(発光層およびp型窒化物半導体層を形成するステップ)
次に、740℃まで温度を下げて、n型超格子層上に発光層を成長させた後に、一般的な方法でp型窒化物半導体層を成長した。電極は、ITOによる透明電極や、Auによるボンディングパッド電極などを一般的な方法で形成した。このようにして作製した4インチのウエハを、1チップあたりの面積が約1.5×10-3cm-3となるように分割することにより、約50000個の窒化物半導体発光素子を作製した。
【0061】
上記のようにして作製した窒化物半導体発光素子の第2のn型GaN層に形成されるパイプ穴の個数を測定したところ300個/cm2であった。これは、1つの窒化物半導体発光素子あたり0.45個のパイプ穴が存在すること、すなわち2つの窒化物半導体発光素子に1個のパイプ穴が存在する程度であることを意味する。
【0062】
上記のパイプ穴の個数は、以下のようにして測定した。まず、酸などの薬液で電極を除去した後に、ドライエッチングによってp型窒化物半導体層、活性層、およびn型超格子層を除去して第2のn型GaN層を露出させた。そして、露出した第2のn型GaN層の表面に対し、硫酸とリン酸とを3:1の割合で混合した混合液をエッチング液として用い、該エッチング液を250℃に加熱して60分間エッチング処理を行なった。
【0063】
上記のエッチング処理により、第2のn型GaN層の表面に、径が約5μm以上の大ピットと、径が2〜3μm程度の小ピットとを形成した。この大ピットの上面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、大ピットを含む面で窒化物半導体発光素子を切断したときの切断面を走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察した。図4は、パイプ穴を含む面で窒化物半導体発光素子を切断したときの切断面をSTEMで観察したときの観察画像であり、図5は、大ピットの上面をSEMで観察したときの観察画像である。
【0064】
図4の大ピットの断面画像および図5の大ピットの上面画像から、大ピットは、パイプ穴を中心として形成されるものであることがわかる。さらに、図6は、第2のn型GaN層の表面を顕微鏡で観察したときの観察画像である。図6に示されるように、顕微鏡を用いて大ピットの数を数えることによって、パイプ穴の密度を算出した。
【0065】
上記で作製した50000個の窒化物半導体発光素子に対し、ヒューマンボディーモデルにより−1500Vを3回印加する静電気印加試験を実施した。その結果、静電気破壊された不良チップはわずか3%の150個程度であった。従来の窒化物半導体発光素子の製造方法は、静電気印加試験によって半数以上の不良チップが製造されていたため、本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法は、従来の製造方法に比して、製造の歩留まりを格段に向上していることが明らかである。
【0066】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0067】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0068】
4 n側コンタクト層、5 第1のn側層、6 第2のn側層、7 第3のn側層、8 第4のn側層、11 活性層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長用基板と、
前記成長用基板上に形成されたn型窒化物半導体層と、
前記n型窒化物半導体層上に形成された発光層と、
前記発光層上に形成されたp型窒化物半導体層とを有し、
前記n型窒化物半導体層の前記発光層と接する側の表面から前記基板に向けて略垂直に延び、直径が2nm〜200nmであるパイプ穴を5000個/cm2以下有する、窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記n型窒化物半導体層と前記発光層との間にn型超格子層をさらに含み、
前記n型超格子層は、2×1017cm-3以上のn型不純物濃度である層を1層以上含む、請求項1に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記n型窒化物半導体層は、第1のn型GaN層および第2のn型GaN層からなり、
前記第2のn型GaN層は、n型不純物濃度が低い低ドープ層と、n型不純物濃度が高い高ドープ層とを含み、
前記低ドープ層のn型不純物濃度は、前記第1のn型GaN層のn型不純物濃度よりも低い、請求項1または2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記高ドープ層のn型不純物濃度は、前記第1のn型GaN層のn型不純物濃度よりも高い、請求項3に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記成長用基板は、表面に窒化物半導体が形成されている基板または窒化物半導体基板である、請求項1〜4のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項6】
成長用基板上に第1のn型GaN層を形成するステップと、
前記第1のn型GaN層上に第2のn型GaN層を形成するステップと、
前記第2のn型GaN層上に発光層を形成するステップと、
前記発光層上にp型窒化物半導体層を形成するステップとを含み、
前記第2のn型GaN層を形成するステップにおけるIII族原料の導入量に対するV族原料の導入量のモル流量比(V/III)は、前記第1のn型GaN層を形成するステップにおけるIII族原料の導入量に対するV族原料の導入量のモル流量比(V/III)よりも低い、窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記第2のn型GaN層を形成するステップにおけるIII族原料の導入量に対するV族原料の導入量のモル流量比(V/III)は、300以下である、請求項6に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記第1のn型GaN層を形成するステップにおけるIII族原料の導入量に対するV族原料の導入量のモル流量比(V/III)は、300以上である、請求項6または7に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記第2のn型GaN層を形成するステップの後に、前記第2のn型GaN層上にn型超格子層を形成するステップを含む、請求項6〜8のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項10】
前記第1のn型GaN層を形成するステップの前に、前記成長用基板を昇温するステップを含み、
前記成長用基板を昇温するステップにおけるV族原料の流量は、前記第1のn型GaN層を形成するステップにおけるV族原料の流量と同じである、請求項6〜9のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項11】
前記第1のn型GaN層を形成するステップおよび前記第2のn型GaN層を形成するステップは、10cm/秒以上300cm/秒以下の流速でガスを導入する、請求項6〜10のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項12】
前記第2のn型GaN層を形成するステップは、900℃以上の成長温度で前記第2のn型GaN層を形成する、請求項6〜11のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−248723(P2012−248723A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120063(P2011−120063)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】