説明

紡糸口金の孔内異物の検査装置および検査方法

【課題】紡糸口金に穿設された複数個の吐出孔を同時に検査して孔中に残留する異物の有無を一孔ごとに検出するのではなく、多数の吐出孔に対して一度に孔内異物が検出でき、これによって、多大な時間を要することなく短時間かつ確実に孔内異物を検査できる装置と方法を提供する。
【解決手段】スキャンカメラを用いて、紡糸口金を走査することにより、高解像度の複数の画像データ群を取得し、これら画像データ群を合成して作成した合成画像データから紡糸口金に穿設された多数の吐出孔群のそれぞれに対して孔内異物の存在の有無を画像処理を用いて一度に検出する紡糸口金の孔内異物の検査装置及び検査方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維を紡出するための紡糸口金に穿設されたポリマーの吐出孔中の異物の残留を自動的に検査するための装置とその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、合成繊維の製造は、紡糸液を紡糸口金に穿設された吐出孔から紡出することによって行なわれる。しかしながら、紡糸口金に穿設された吐出孔が汚れていたり、不純物が孔内に付着したりすると、紡糸液の良好な吐出が妨げられ、単糸切れの原因となるばかりでなく、紡糸そのものができなくなるという障害が発生する。このため、紡糸技術の生命線である吐出孔の異常を検査して、異常があればドリルやエアー等を用いて一孔毎に吐出孔内を掃除していた。
【0003】
しかしながら、口金に穿設する吐出孔の個数がその形状にもよるが、通常、数十個から数千個と多い上に、その孔径も1mm以下と小さいので拡大レンズを用いて吐出孔を拡大し、肉眼によって一孔一孔丹念に汚れを検査する必要がある。そして、孔内に汚れや異物が見つかると、針状治具やエアー等を用いて汚れや異物の除去をしていた。
【0004】
言うまでもなく、このような口金検査は、検査と孔掃除に莫大な人手と時間を要し、また視覚検査であため長時間の検査は目が疲れるので困難である。それ故に、孔の掃除がおろそかになる傾向があり、また、孔検査と孔掃除にヒューマン・エラーが発生するという問題があった。
【0005】
そこで、口金検査を人手に頼ることなく、自動検査装置によって行なおうとする試みが特許文献1などに提案されている。この従来技術では、口金を一旦洗浄液で洗浄した後に孔内に残留した異物を検出するために、各孔ごとに口金下から光を照射し、吐出孔を通過してくる光の面積値を求め、孔内異物の有無を判定しようとするものである。つまり、異物が孔内に残留していれば、残留した異物によって投光された光が遮られるために、検出する透過光の面積値が小さくなる原理を利用したものである。
【0006】
しかしながら、前述の通り、紡糸口金に穿設された吐出孔群は数十個から数千個と非常に多いため、コンピュータを用いた自動検査を行なうにしても、一孔ごとの検査では、多大な時間を要するために、短時間で検査することができる技術が求められている。
【0007】
さらに、孔内異物の他に、紡糸口金のポリマー吐出面に付いた傷を検査することも重要である。何故ならば、ポリマー吐出面に付いた傷によっても吐出孔から吐出されるポリマーの安定性を阻害する要因となるからである。なお、このような傷検査は、口金検査を行なう検査員の目視判断によっても行なうことができる。しかしながら、人手を要することなく孔内異物の検査を行なう際に同時に、ポリマー吐出面に付いた傷を検査することができれば、検査に要する人手を省くことができるために好都合である。
【0008】
【特許文献1】特開平7−243831号公報
【特許文献2】特開2006−267000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上に述べた従来技術が有する諸問題に鑑み、本発明の目的は、紡糸口金に穿設された複数個の吐出孔を同時に検査して孔中に残留する異物の有無を一孔ごとに検出するのではなく、多数の吐出孔に対して一度に孔内異物が検出でき、これによって、多大な時間を要することなく短時間かつ確実に孔内異物を検査することができる装置と方法を提供することにある。また、前述の孔内異物の検査に際して同時に、紡糸口金のポリマー吐出面に付いた傷も検査できる装置と方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ここに、前記課題を解決するための手段として、「多数の吐出孔が穿設された紡糸口金と、前記紡糸口金を挟んだ一方側に設けられた照明と、前記紡糸口金を挟んだ他方側に前記照明と対向して設けられたスキャンカメラと、前記スキャンカメラに付設され且つ前記照明から投光されて前記吐出孔を通過した検査光からなる画像を所定の倍率に拡大する拡大レンズと、前記スキャンカメラを走査して画像データを撮影する位置に正確に位置決め制御する位置決め駆動手段と、前記スキャンカメラによって紡糸口金穿設された吐出孔の穿孔領域を少なくとも含む画像データ群を処理して前記多数の吐出孔に存在する孔内異物を一度に検出する画像処理装置とを備えた紡糸口金の孔内異物の検出装置であって、
前記画像処理装置は、前記画像データ群を合成して多数の吐出孔を対象とした少なくとも一つの合成画像データを作成し、前記合成画像データ中に含まれる画素群の明暗の諧調を予め設定した階調を基準にして「明」と「暗」の何れかの値にそれぞれ振り分ける二値化処理を行い、「明」と判別した画素群が連続した集合体である場合に吐出孔と認識し、認識した前記各吐出孔に対して「明」と判別した画素の集合体の画素数を面積値として算出し、前記面積値が孔内異物が存在すると判別するための基準として予め設定した画素数からなる面積値よりも小さいと判断されたときに該当する吐出孔に孔内異物が存在すると判別する装置であることを特徴とする、紡糸口金の孔内異物の検出装置」が提供される。
【0011】
また、前記課題を解決するための手段として、「多数の吐出孔が穿設された紡糸口金を挟んで互いに対向して照明とスキャンカメラとを配設し、前記照射から検査光を前記スキャンカメラに向って投光し、複数の吐出孔を通過した前記検査光を光学的に拡大して画像を前記スキャンカメラで撮像して複数の画像データ群を取得し、前記画像データ群を画像合成して多数の吐出孔を対象とした少なくとも一つの合成画像データを作成し、前記合成画像データ中に含まれる画素群の明暗の諧調を予め設定した階調を基準にして「明」と「暗」の何れかの値にそれぞれ振り分ける二値化処理を行い、「明」と判別した画素群が連続した集合体である場合に吐出孔と認識し、認識した前記各吐出孔に対して「明」と判別した画素の集合体の画素数を面積値としてそれぞれ算出し、前記面積値が孔内異物が存在すると判別するための基準として予め設定した画素数からなる面積値よりも小さいと判断されたときに該当する吐出孔に孔内異物が存在すると判別することを特徴とする、紡糸口金の孔内異物の検出方法」が提供される。
【0012】
このとき、前記「紡糸口金の孔内異物の検出方法」として、「前記紡糸口金のポリマー吐出面に対して一段低い位置に設けられた段差部に穿設された一対の位置決め孔を通過した前記検査光を前記スキャンカメラにより撮像し、前記合成画像データ中に含まれる位置決め孔由来の画像データから一意に画像位置情報を取得し、前記一意に画像位置情報を基にして前記合成画像データから得られた各吐出孔の位置情報を補正し、補正した各吐出孔の位置情報と前記紡糸口金設計データとして記憶された各吐出孔の位置情報とを一対一に対応付け、前記合成画像データから得られた各吐出孔を前記紡糸口金設計データ上の各吐出孔と一致させて特定すること」ことが本発明に係る課題を解決する上で好ましい。
【0013】
更に、前記「紡糸口金の孔内異物の検出方法」として、「前記紡糸口金設計データに含まれる各吐出孔の中心座標をそれぞれ中心として、前記合成画像データから各吐出孔を識別する『明』と判別された画素の各集合体をその内部に含むように円形の『関心領域』をそれぞれ設定し、前記各関心領域外周の複数箇所からそれぞれ当該関心領域の中心へ向かって『暗』と判別された画素を連続的にそれぞれ探索し、前記『暗』と判別された画素が尽きて『明』と判別された画素を検出し、『明』と判別された画素が検出されると当該画素の位置を境界位置とし、前記各境界位置から前記関心領域の中心までの距離を半径値としてそれぞれ算出し、全ての前記半径値を平均して平均半径値を算出し、前記平均半径値が基準値よりも小さいと孔内異物が存在すると認識する」ことが本発明に係る課題を解決する上でより好ましい。
【発明の効果】
【0014】
以上に説明した本発明によれば、口金に穿設された多数の吐出孔群を1孔毎に検査する必要がなく、画像データ処理によって、一度に多数の吐出孔群に対して孔内異物の有無を検査できるために、吐出孔の孔内異物検査が迅速かつ短時間で可能となる。また、当然のことながら、孔内異物の検査は検査員の肉眼に頼ることなく自動的に行うことができるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明においては、孔内異物の検査装置を使用して、口金に穿設された円形状吐出孔内に付着した異物を検査する。そこで、本発明に好適に使用できる孔内異物の検査装置について、先ず図1を参照しながら説明する。
【0016】
図1において、符号Caは紡糸口金であって、この紡糸口金Caには、図示したように多数の円形状吐出孔Hが穿設されている。本発明に係る孔内異物の検査装置1では、この紡糸口金Ca(なお、単に「口金Ca」とも称する)に穿設された各吐出孔Hに対して、その下方から照明11を照射する。ただし、この照明11は、図1に例示したように、検査目標である吐出孔Hが穿設されている紡糸口金Caを間に挟んで、後述するラインスキャンカメラ3と上下方向に対向して設けられている。
【0017】
したがって、下方に設けた照明11から照射された光は、口金Caの各吐出孔Hを通過した通過光となり、この通過光が拡大レンズ4で光学的に拡大され、拡大された映像が上方に設けたラインスキャンカメラ3によって正面から撮影されることとなる。このようにして、口金Caをラインスキャンカメラ3と連動させながら移動させて、各吐出孔Hからの通過光を撮像して、得られた撮像データを画像処理すれば、吐出孔H内に残留する異物の有無を自動的に検査できる。
【0018】
ただし、通常、口金Caには多数の吐出孔Hが穿設されており、穿設された全ての吐出孔Hに対して孔内異物を検査する必要がある。しかしながら、ラインスキャンカメラ3とこれに対向して設けられた照明11だけの組み合わせだけでは、全吐出孔Hの孔内異物を検査することができない。何故ならば、拡大レンズ4を備えたラインスキャンカメラ3では、映像を撮影する範囲が限られてしまうために、限られた穿孔領域の映像しか撮影できないからである。なお、当然のことながら、拡大レンズ4の画像の拡大倍率は、吐出孔Hに付着する異物を識別できる値を取るべきである。
【0019】
そこで、本発明に係る孔内異物の検査装置1(なお、以下の説明においては、単に「検査装置1」と略称する場合もある)では、口金Caの全ての穿孔領域の撮影がカバーできるように、口金Caを移動させる機構を備えている。すなわち、本発明の検査装置1は、口金Caを載置する口金取付台12を備え、この口金取付台12の下方に配設された照明11から口金Caへ向かって検査光を照射するようにしている。
【0020】
また、前記口金取付台12には、互いに立体交差するX軸とY軸の二軸方向にそれぞれ独立して摺動できるスライド部材5、6が取付けられている。したがって、これらスライド部材5、6を駆動する2台のリニアサーボモータによって、口金Caを載置する口金取付台12は、X軸方向とY軸方向へそれぞれ摺動自在(スライド自在)に駆動される構成となっている。すなわち、X軸とY軸の二軸方向に互いにそれぞれ独立して摺動できるスライド部材5、6によって、口金Caはラインスキャンカメラ3の走査方向に沿って二次元的に移動できる構成となっている。
【0021】
なお、本発明の実施形態においては、ラインスキャンカメラを採用しているが、スキャンカメラをラインスキャンカメラとすることが必須というわけではなく、本発明の要旨を満足する限りにおいて、他の実施形態を採用できることは言うまでもない。ただし、この実施形態では、ラインスキャンカメラが有する多数の画素は直線方向(例えば、X軸方向)、つまり、一次元方向へに配設されており、この画素の配設方向と直行する方向(例えば、前記X軸方向に対してY軸方向)へ一定速度で口金Caを移動させ、所定周期で連続的に画像を撮影し、撮影したこれら画像群を平面画像に合成することによって、画像処理をするための合成画像データを得る。
【0022】
ここで、前記スライド部材5、6の駆動制御は、これらを駆動する各サーボモータに対して接続されたサーボコントローラ9によって行なわれる。すなわち、このサーボコントローラ9によって各スライド部材5、6を駆動する各サーボモータに対して必要なスライド量に相当する数の駆動用パルスを与えて必要な量だけ各スライド部材5、6をスライドするように制御される。また、これによって、ラインスキャンカメラ3の走査周期に合わせて、口金Caが任意の制御速度で目標とする位置へ移動させる制御が行なわれる。
【0023】
なお、ラインスキャンカメラ3、スライド部材5と6、照明11、口金取付台12などは、図1に例示したように支持台2に取付けられている。このとき、支持台2に取付けられている照明11について更に付言すると、この照明11は、寿命が長く、熱を発生しにくく、しかも、ラインスキャンカメラ3の撮像範囲の全体を照射する必要があるという観点から、高輝度で広範囲を均一に照射する事が可能な発光ダイオード(LED:light emitting diode)を複数個用いたLEDフラット照明(面状LED照明)を使用することが好ましい。
【0024】
何故ならば、フラットLED照明11を使用することによって、例えば厚みが数cmほどにもなる紡糸口金Caに穿設された孔径が1mm以下の吐出孔H群であったとしても、面状に照射された領域に位置する全ての吐出孔H群に対して検査光が通過し易くなるからである。なお、このようなフラットLED照明11からの通過光を捉えるラインスキャンカメラ3として、本発明例では、単焦点の光学式拡大レンズ4を装着しており、しかも、ノイズ低減が期待できることから、極めて多くの画素(ピクセル:pixel)からなる所謂「メガピクセル」のラインスキャンカメラ3を用いた。
【0025】
このようにして、図1に例示した本発明の検査装置1に係る実施形態例では、スライド部材5,6の上に設置された口金取付台12に戴置された口金Caをラインスキャンカメラ3の走査方向へラインスキャンカメラ3の撮影周期に合わせた速度で必要な距離だけ移動させることができる。そして、これによって、照明11から照射された検査光を口金Caに穿設された吐出孔H群を介してラインスキャンカメラ3で受光し合成画像データを得ることによって、口金Caの穿孔領域にある吐出孔Hの孔内異物の検査が可能となる。
【0026】
勿論、このようにして合成画像データを得るために撮影される検査光は、撮影範囲を個々の吐出孔Hに限定する訳ではなく、対象となる複数個の吐出孔Hを通過してきたものである。したがって、このようにして撮影された検査光を捉えた映像からなる合成画像データを一度に画像処理することによって、従来技術のように一孔毎の逐次画像処理による検査ではなく、一群の吐出孔に対して孔内異物の存在の有無を検査することを可能とするのである。
【0027】
以上に説明したように、本発明においては、口金Caの穿孔領域を複数領域に分割し、これら領域に対して少なくとも一回もしくは複数回にわたってラインスキャンカメラ3を走査して移動させて所定の位置で画像を撮影することによって、複数の吐出孔Hを対象として、これらの吐出孔H群を同時に検査するために必要となる合成画像データを得ることを大きな特徴とするものである。
【0028】
したがって、このような画像処理が可能な合成画像データを得るという目標を達成するために、サーボコントローラ9で最適に制御される2台のサーボモータによってX軸とY軸とに沿ってそれぞれ移動自在とされたスライド部材5及び6を所定の位置に精度良く位置決め移動することが要求される。そのため、スライド部材5及び6の移動量(スライド量)は、口金Caの穿孔領域の設計寸法に基づいて、その必要となる移動量を予め算出しておいて、コンピュータ10にプログラムとして記憶させておくことが必要である。
【0029】
このようにすることによって、コンピュータ10に記憶された情報(スライド部材5と6の移動量など)に基づいて、サーボコントローラ9を介して各サーボモータを駆動してスライド部材5と6を正確に位置決め制御することができ、所定の位置で所定の枚数の画像データを得ることができる。
【0030】
このとき同時に、ラインスキャンカメラ3の走査周期に合わせてスライド部材5と6の適切なスライド速度をそれぞれ算出して前記コンピュータ10に記憶させておき、この記憶された情報(スライド速度など)に基づいてサーボコントローラ9によってスライド部材5と6の移動速度も制御する。したがって、これらのコンピュータ10、サーボコントローラ9、スライド部材5と6などは、スキャンカメラ3を走査して画像データを撮影する位置に正確に位置決め制御する「位置決め駆動手段」を構成している。
【0031】
すなわち、スライド部材5及び6を駆動するX軸及びY軸のサーボモータに入力するパルス数を前述のようにして算出してコンピュータ10に記憶させる。そして、このコンピュータ10に記憶された情報に基づいて、このパルス数を必要なタイミングで指令値として各サーボモータに入力し、ラインスキャンカメラ3の走査周期に合わせて口金Caを目標とする速度で目標とする位置へ移動させ、必要な画像データ群を得た上でこれらの画像データ群を合成して合成画像データを得ることができるのである。
【0032】
このようにして、検査目標とする多数個の円形状吐出孔Hを通過した検査光からなる画像データ群がラインスキャンカメラ3の走査によって得られると、これらの画像データ群を画像処理装置8に取り込む処理を実行し、合成画像作成処理を行って、合成画像データを得ることができる。そうすると、この合成画像データから口金Caに穿設された多数個の吐出孔Hの内壁面に付着した異物の存在判別を一度の画像処理によって行うことができるようになる。
【0033】
したがって、従来技術のように個々の吐出孔Hに対してそれぞれ得られた個々の画像データに対応して、吐出孔Hを一個ごとに検査して孔内異物を検出する方法に比較すると、本発明の検査装置1は、少ない合成画像データから多数の吐出孔Hの孔内異物を一度に検査することができるので、より短時間でかつ効率的に孔内異物の検出処理が行えるのである。
【0034】
ただし、孔内異物は、吐出孔Hの長さ方向(奥行き方向)に沿った何れの位置にも付着する。すなわち、ポリマーが吐出孔Hに流入する直後の位置に異物が付着することもあれば、ポリマーが吐出孔Hから流出する直前の位置に付着することもある。このような点を考慮すると、ラインスキャンカメラ3で撮影した画像データは、吐出孔Hの長さ方向(奥行き方向)に沿って焦点を合わせた複数箇所の画像データ群をそれぞれ合成画像データとしたものを用いることが好ましい。そのためには、ラインスキャンカメラ3の焦点距離を複数箇所で調整できる機能を付与することが望ましく、口金Caの全面に対するラインスキャンカメラ3の操作は、ラインスキャンカメラ3の焦点距離を変更する度に行うことが望ましい。
【0035】
以下、このような多数の吐出孔Hそれぞれの内部に存在する異物の検出処理について、図2を参照しながらより詳細に説明する。なお、図2は、口金Caに穿設した円形断面を有する多数の吐出孔Hの内部に付着した異物を画像処理によって検出するための処理手順を簡略化して示したフローチャートである。
【0036】
このフローチャートからも分かるように、第一番目の処理は、照明11から投光されて複数の吐出孔群Hを同時に通過してきた光を画像データとして取り込むために、前述のスライド部材5と6によって口金Caを必要な位置に移動させると共に、例えばメガピクセルのラインスキャンカメラ3を走査して画像データ群を撮像することである(ステップS1)。次いで、このようにしてラインスキャンカメラ3によって撮影した画像データ群を画像処理装置8に読み込み、合成画像データとして合成して、合成した合成画像データを画像処理するステップ(ステップS2)を実行する。
【0037】
次に、このようにして合成した合成画像データに含まれる全画素に対して、所定の諧調数(例えば、256階調)に対応して設定した閾値(例えば、256階調に振り分けた時に、その中間諧調の値を閾値とする)を基準にして、各画素の明暗を「明」と「暗」とに分別する明暗処理、すなわち、二値化処理を実行する(ステップS3)。
【0038】
この二値化処理(明暗処理)によって得られた二値化後の合成画像データにおいて、「明」と認識された画素群は、貫通孔である吐出孔Hを遮るものがなく通過してきた光を検出した領域とみなすことができる。それ故に、このような「明」と認識された全画素の集合体から、吐出孔Hの正確な存在領域を画像処理によって判別することができる。このような原理に基づいて、先ず吐出孔Hの正確な存在領域を判別し、判別した吐出孔の存在領域内で孔内異物の存在確認処理を行う。
【0039】
具体的には、この明暗処理による吐出孔位置の確認の実施形態例では、「明」と判別された全画素に例えば「1」を割り振り、「暗」と判別された全画素に対して例えば「0」を割り振ることによって二値化を行っており、このとき、「暗」と判別された画素部は、当然のことながら吐出孔Hが存在しない部分である。
【0040】
ところが、このように画像処理の対象とする個々の吐出孔Hに関しては、検査対象とする具体的な口金Caを口金取付台12上に正確に作業員が位置決めして載置しない限り、口金Caのポリマー吐出面において、具体的にどの位置に穿設されていた吐出孔Hであるかを特定することはできないという事態が生じる。
【0041】
しかしながら、口金Caを口金取付台12上に正確に位置決めして載置する作業を作業員に課すことにするならば、人的要因によるヒューマン・エラーの発生を回避することが極めて困難となり、このような要因を排除しようとすると、作業員に過剰なプレッシャーと負担を課すこととなる。
【0042】
そこで、口金Caを口金取付台12上に極めて正確に位置決めして載置するような作業を検査員に課すことはせずに、作業員が口金Caの上下方向または左右方向などといった基本的な方向だけは間違えずに、口金Caを口金取付台12上に曖昧に載置するようにしても検査が良好に行えるようにする必要がある。以下、このような処理について、図3を参照しながら説明する。
【0043】
図3は、口金Caをポリマーの吐出側から見た模式平面図であって、図3(a)は口金Caを口金取付台12上に正確に誤差なく載置して画像データを採取した場合(即ち、この場合が、データ処理の基準となる)を、そして、図3(b)は口金Caを口金取付台12上に適当に載置して画像データを採取した場合をそれぞれ例示したものである。
【0044】
この図3(a)及び(b)の口金Caの実施形態において、一方では、図示したように、ポリマー吐出面には口金Caに穿孔された多数の吐出孔Hが開口しており、他方では、ポリマー吐出面に対して一段低い段差(図1の口金Ca形状を参照)が設けられた段差部に、吐出孔Hとは全く異なる位置決め孔P1とP2が口金Caを貫通して一対で穿設されている。なお、これら一対の位置決め孔P1とP2は、ポリマーの吐出には関与せず、口金Caに穿設された吐出孔Hの孔内異物検査に役立てるためのものである。
【0045】
ここで、図3(a)の実施形態例において、前記一対の位置決め孔P1とP2は、これら位置決め孔P1とP2の2つの中心座標Oo1(Xoo1,Yoo1)及びOo2(Xoo2,Yoo2)同士を結ぶ基準直線Lが口金中心点Oを含み、この口金中心点Oを点対称として互いに対向するようにそれぞれ穿設されている。
【0046】
なお、一対の位置決め孔P1とP2を穿設する理由は、前述の合成画像データ中からこれら一対の位置決め孔P1とP2によって、合成画像データの中から一意に前記基準直線Lと口金中心点Oとを割り出すことができるからである。そして、これによって、口金Caを口金取付台12上に曖昧にある程度適当に載置した場合に得られる合成画像データであっても、その中に存在する個々の吐出孔Hを具体的に特定することができるからである。
【0047】
以上に説明した個々の吐出孔Hを具体的に特定する処理は、図2のフローチャートにおいて、ステップS4の「画像処理領域の補正処理」に相当する。そこで、この処理について以下に説明する。
【0048】
既に説明したように、前記合成画像データには、前記一対の位置決め孔P1とP2に係る画像データが含まれている。つまり、口金Caの下方から照明11が当てられたときに、位置決め孔P1とP2を通過してきた検査光にかかわる画像データである。しかも、この画像データは、口金Caのポリマー吐出面に穿設されている吐出孔H群に係る画像データと全く異なり、口金Caの段差部に存在するデータであるから、前記合成画像データ中からこれらに係るデータを容易に分別して抽出することができる。
【0049】
たとえば、口金Caの外形(輪郭)より外側の領域には検査光を遮るものがないから、これらの外側領域には必ず検査光が通過してくるのでラインスキャンカメラ3で検査光を検知することが出来る。しかしながら、口金Caが存在する部分では、吐出孔Hや位置決め孔P1とP2が存在する箇所を除いて、口金Caによって検査光は完全に遮られることとなる。したがって、このような部分では、検査光がラインスキャンカメラ3に検知されない。
【0050】
したがって、合成画像データから口金Caの外形(輪郭)Cを画像処理によって容易に割り出せることは、ここでその詳細な画像処理方法を説明するまでもなく当業者であれば容易に理解できるであろう。そうすると、口金Caの段差部において、この口金Caの外形(輪郭)Cから所定の距離に穿設してある前記一対の位置決め孔P1とP2に係る画像データを容易に特定できることが分かる。
【0051】
以上に説明したように、前記一対の位置決め孔P1とP2に係る画像データが特定されると、ここでは詳細説明を省略して後述するように、個々の吐出孔H中心座標の求め方と同様の方法によって、一対の位置決め孔P1とP2の2つの中心座標Oo1(Xoo1,Yoo1)及びOo2(Xoo2,Yoo2)を求めることができる。そうすると、2つの中心座標Oo1(Xoo1,Yoo1)とOo2(Xoo2,Yoo2)とを結ぶ基準直線Lも求めることができる。さらには、2つの中心座標Oo1(Xoo1,Yoo1)とOo2(Xoo2,Yoo2)の中点座標を計算することによって口金中心点O’を求めることができる。
【0052】
しかしながら、このようにして求められた口金中心点O’は、図3(a)に例示したように、口金Caが口金取付台12上に正確に位置決めして得られた場合と異なる。すなわち、図3(b)に例示したように、口金Caが口金取付台12上に回転角度θ°だけ回転して取付けられ、しかも、口金中心点O’も正確に口金Caが口金取付台12上に位置決めして取付けた場合の口金中心点O(基準とする口金中心点Oでもある)と比較してずれた位置に取付けられている。
【0053】
そこで、先ず画像処理装置8に取り込んで合成した合成画像データに対して、基準となる口金中心点Oが、前述のような処理によって口金中心点O’へずれたことが計算により算出できるので、口金中心点O’を基準となる口金中心点Oと合致するように合成画像データの平行移動を行う。
【0054】
また、ずれ角度θ°についても、正確な位置に取付けられた場合の基準直線Lと、ずれた位置に取付けられた場合の基準直線L’との間における基準直線Lと基準直線L’との間の交差角度として求めることができる。したがって、このような場合であっても、求めた全体の画像データを角度θ°だけ回転させて補正すれば、正確な位置に口金Caが取付けられた場合の全体画像データと同様に取り扱うことができる(ステップS4)。
【0055】
すなわち、このステップS4において行う画像処理を具体的に例示するならば、先ず一対の位置決め孔P1とP2に対する2つの中心座標Oo1(Xoo1,Yoo1)及びOo2(Xoo2,Yoo2)を用いて、口金中心点O’の座標値(Xo,Yo)をその中点を求める下記(1)式より求める。
【0056】
【数1】

【0057】
次いで、前記データベースとして記憶させておいた基準となる口金中心点Oの座標値との間で位置ずれが起こっていると、その位置ずれ分の座標値(t、t)を平行移動して基準となる口金中心点Oに合わせる。そして、この基準となる口金中心点Oを中心とした座標回転(θ°)を行うことにより、データベースに予め記憶させておいて各吐出孔Hの基準座標と対応付けることができる。すなわち、ステップS4の画像処理は、下記の(2)式より定義されるアフィン変換を行っていることになる。ただし、下記(2)式において、a、b、c、dは、a=cosθ、b=−sinθ、c=sinθ、d=cosθとなり、t、tは、座標を平行移動する場合のx座標成分とy座標成分をそれぞれ表す。
【0058】
【数2】

【0059】
ところで、以上に説明したような画像処理(ステップS4)を行なう前に、ラインスキャンカメラ3によって取り込まれた合成画像データに対して、前述の二値化処理(ステップS3)が行なわれている。そこで、口金Caに穿設された吐出孔Hの孔内異物を検査する方法について、二値化処理(ステップS3)に戻って詳細に説明する。
【0060】
ステップS3の二値化処理では、口金Caの外形(輪郭)C内に含まれる全画素データに対して、前述の二値化処理を行い、これによって、「明」と判別された画素群は、個々の吐出孔H又は位置決め孔P1とP2が存在する領域とみなすことができる。なお、「明」と判別された画素群中で位置決め孔P1とP2に係る画素データについては、既に説明したように口金Caの段差部に存在し、しかも、ステップS4の「画像処理領域の補正処理」にのみ関係する処理である。したがって、個々の吐出孔Hに係る画素データに係る画像データ処理と、その処理が明確に区別できるので、以下の説明では、個々の吐出孔Hに係る画素データに対する画像処理についてのみ説明することにする。
【0061】
以上に説明したように、ステップS3の二値化処理で「明」と判別された個々の吐出孔Hに係る画素データには、ノイズが混入して吐出孔Hの存在領域でないにもかかわらず、吐出孔Hの存在領域とみなしてしまう場合がたまに生じる。そこで、この二値化処理(ステップS3)によって、「“明”:“1”」に振り分けられた全画素データ群から、「“明”:“1”」が連続的に複数個の塊となって存在している箇所を検出する。なお、このような塊を本明細書において「粒子」と呼ぶ。
【0062】
そうすると、前記「粒子」は複数個の「“明”:“1”」の塊からなる連続した集合体であるから、このような集合体である「粒子」を検出すれば、たまたまノイズによって「“明”:“1”」と判断されたものではなく、確実に吐出孔Hを通過してきた光を検出した画素群であるとみなすことができる。したがって、このようにして認識された個々の「粒子」群は各吐出孔Hを通過した光に由来する「粒子」であると認識することができるので、この「粒子」が存在するそれぞれの位置を検出することによって、各々の吐出孔Hの位置を検出できたことになる。
【0063】
このようにして、各吐出孔Hの存在位置が画像処理によって認識されると、次に、第二番目の処理を行う。この処理は、画像処理装置8に取り込んだ複数の画像データに含まれ、かつその存在領域を特定した複数の吐出孔Hの壁面に付着した異物の検出を行うための処理である。なお、この処理は、孔内異物の存在を正確に検出するために、以下に説明するステップS5に係る「孔内面積判別処理」とステップS6に係る「円孔形状検出処理」という二つの処理からなっている。
【0064】
[孔内面積判別処理]
先ず、前述のように「“明”:“1”」の塊として検出された各「粒子」データから各吐出孔Hの面積値を計算する処理を行う。この計算処理は、各「粒子」部分の面積値、つまり、「“明”:“1”」の塊すなわち集合体の広がり(各「粒子」を構成する画素の数)を計算する処理である。なお、この処理によって得られた各「粒子」の画素数は、各吐出孔Hの面積値と一対一に対応するので、各「粒子」の画素数を各吐出孔Hの面積値とみなして孔内異物の存在を判別する処理を行う。
【0065】
すなわち、吐出孔H内に異物が存在すれば、吐出孔Hを通過する検査光はこの異物に遮られるので、遮られた検査光を受光する部分に設けられたラインスキャンカメラ3の画素部には光が届かないために、それだけ「“明”:“1”」と判断される画素数が減少する。つまり、面積値が小さくなるために、正常と判断できる基準面積値(予め実験などにより求めて設定した値)と比較すれば、容易に孔内異物を検出することができる。しかも、このような処理は、画像データがカバーする穿孔領域に存在する全吐出孔Hに対して一度に行うことができる。したがって、従来技術のように、一孔ごとに孔内異物を検査する必要がない。
【0066】
このとき、各吐出孔Hの中心座標を求める処理も同時に行うことが肝要である。なお、この処理は、各粒子を構成する「“明”:“1”」に割り振られた全画素数がn個存在したと仮定し、更に各「粒子」中にある任意の画素のX座標とY座標とを(Xi,Yi)で表すと、任意の「粒子(吐出孔H)」の中心位置Oiの座標(Xoi,Yoi)は、下記の(3)式のように表すことができることを利用して、その吐出孔Hの中心座標Oi(Xoi,Yoi)を求める。
【0067】
【数3】

【0068】
なお、以下の実施形態例の説明において、吐出孔Hの中心座標Oi(Xoi,Yoi)とは、このようにして求めるものとし、このとき求めた全ての吐出孔Hの中心座標Oi(Xoi,Yoi)は、コンピュータ10の記憶手段(図示せず)に記憶しておき、各吐出孔Hの孔内異物検査を行なう際に再び利用する。また、既に説明したように、位置決め孔P1とP2の中心座標もこのようにして求めたものである。
【0069】
次に、本発明においては、以上に説明した各吐出孔H内のステップS5に係る「孔内面積判別処理」と共に、ステップS6に係る「円孔形状検出処理」を行う。そこで、このステップS6に係る「円孔形状検出処理」について、以下に説明する。
【0070】
[円孔形状検出処理]
このステップS6に係る「円孔形状検出処理」では、前記(2)式で定義するアフィン変換を行って合成画像データから各吐出孔Hの存在領域を「粒子」として求めた全ての吐出孔Hの中心座標Oi(Xoi,Yoi)の位置確認と併用して、予め画像処理装置8にデータベースとして記憶させていた口金Caの設計データから割り出された各吐出孔Hの中心位置座標Ori(Xroi,Yroi)との間の位置ずれの確認を行うものである。ただし、口金Caの設計データから割り出された各吐出孔Hの中心位置座標Ori(Xroi,Yroi)に係るデータは、口金Caに各吐出孔Hが設計どおりの位置に穿孔されており、また、前記(2)式で定義したアフィン変換に基づく「画像処理領域の補正処理」が正確に行なわれている限りにおいて、全吐出孔Hの存在位置を極めて正確に表現していると言える。
【0071】
しかしながら、口金Caに穿設された吐出孔H群の間隔が短かったり、吐出孔H群の数が極めて多かったり、吐出孔H群の穿孔面積が広すぎたりすると、口金Caの設計データから割り出された各吐出孔Hの中心位置座標Ori(Xroi,Yroi)に係るデータと、(2)式で定義したアフィン変換に基づく「画像処理領域の補正処理」が行なわれた後の各吐出孔Hの中心位置座標Ori(Xroi,Yroi)との間に僅かな位置ずれが生じて、両者の対応付けが行えない場合が生じる。
【0072】
また、前述のようにして求めた「粒子」に対して、ステップS5に係る「孔内面積判別処理」が正常に行なわれているかどうかをチェックする必要もある。例えば、吐出孔Hが異物によって完全に塞がれていた場合には、「粒子」が存在すべき場所に、ステップS2に係る二値化処理において、「明」と判断されるべき画素が存在しないこととなる。したがって、このような場合にも、孔内異物が存在するものとして正常に処理する必要がある。
【0073】
そこで、図4に例示したように、口金Caの設計データから割り出される前記中心位置座標Ori(Xroi,Yroi)を中心として、画像データとして得られた各吐出孔Hに係る「粒子」をその内部に含むように円形の「関心領域ROi」を設定する。ただし、この「関心領域ROi」の内部には、「吐出孔Hが存在する領域である」と認識された画素群が含まれるように、「関心領域ROi」はある程度の余裕をもって充分に大きく設定されている。そうすると、取り込んだ前述の各吐出孔Hに係る画像データに微小なずれが生じていても、それぞれを確実に含むように前記「関心領域ROi」を重ね合わせることができる。
【0074】
以上に説明したように「関心領域ROi」の設定が完了すると、次いで、図4の有向線分で示した矢印方向へ向って「関心領域ROi」の外周側(図4の白抜き丸印)から前記「吐出孔Hの存在領域でない」と判別した画素が尽きるまでの距離を求める。つまり、「関心領域ROi」の外周に設定した「多数の方位(図4の例では12方位)」から放射状に前記中心位置座標Oi(Xoi,Yoi)の方向へ向って「吐出孔Hの存在領域でない」と判別した画素(図4では「暗部」)が尽きる境界位置(黒塗り丸印)を探索するのである。
【0075】
具体的には、図4に示すように、全方位である360°をm等分したm個の方位(図4の例では12方位)に等分配置された関心領域ROiの外周に位置する12個の白抜き丸印から中心Oiへ向かって「吐出孔Hの存在領域でない」と判別された画素(「暗」で示された画素)が尽きた黒塗り丸印で示した位置(境界座標)を検出する。そして、前記中心位置座標Oi(Xoi,Yoi)から黒塗り丸印で示した位置(境界座標)までの距離(この“距離”を本発明では“半径値”という)を求める。すなわち、図示したように、半径値R1,R2,…,Rmをそれぞれ求め、更に、これらの半径値R1,R2,…,Rmから下記(4)式によって、平均半径値Raveを求める(ステップS6)。
【0076】
【数4】

【0077】
このステップS6に係る画像処理により、口金Caを検査する際の微小な位置ずれが起こっていても、関心領域ROi内に吐出孔Hがあれば、(4)式で求めた平均半径値Raveを用いて、吐出孔H内の異物の存在を再確認することができる。すなわち、ある吐出孔H内に孔内異物が存在すると、「孔内異物が存在しない場合の基準半径値Rref」と比較して、前記平均半径値Raveがこの基準半径値Rrefより小さくなる。したがって、このような処理を行なうことで、孔内異物の再確認が可能となる。ただし、比較のために使用する基準半径値Rrefは、どの程度までの大きさを持った孔内異物を検出するかに応じて異なるため、その目的に応じて適宜その値が設定されることは言うまでもない。
【0078】
このステップS6係る画像処理により、口金Caを検査する際のわずかな位置ずれが起こっていても、関心領域ROi内には吐出孔Hが存在するので、平均半径値Raveを用いて、吐出孔Hの存在と孔内異物を確実に確認することができる。なお、吐出孔Hが完全閉塞している場合には、関心領域ROi内に「吐出孔Hの存在領域を示す『“明”:“1”』に割り振られた画素」が無いため、平均半径値Raveが0.0となる。したがって、このような場合には、その特定の吐出孔Hは、最初に関心領域ROiの内部に含まれていることが保証されており、その上で、「“明”:“1”」に対応するが画素が存在しないことは自明である。したがってこの場合は、その特定の吐出孔Hは、完全に異物で閉塞された不良孔と判別することができる。また、その際には、前記不良孔の中心位置座標をコンピュータの記憶領域に記憶させる。
【0079】
ただし、これらの処理によって孔内異物の存在を検出することは目的とせず、単に前記平均半径値Raveと円形物体(つまり、吐出孔H)の有無を求めることに専念してもよい。その上で、得られた前記平均半径値Raveを基にして、画像データのずれを前記(4)式による座標変換処理に加味することで、データベース上の吐出孔と画像処理の対象とする画像データから得られる吐出孔の位置とを更に補正することもできる。この場合、画像データ位置の補正に使用するための対象となる吐出孔としては、口金中心点O’からできるだけ遠い位置にある吐出孔Hを選定することが好ましいことは言うまでもない。
【0080】
このようにして、孔内異物の検査対象とした吐出孔H中で孔内異物が見つかると、その吐出孔Hの位置をコンピュータ10に記憶させる。そうすると、この孔内異物が検出された吐出孔Hは、前述のように、設計当初の吐出孔Hの位置と正確に一対一に対応する。そのため、コンピュータ10に記憶された孔内異物が検出された特定の吐出孔Hに関する情報を作業者は、容易に取り出すことができる。そして、コンピュータ10から取り出した情報に基づいて、孔内異物の存在する特定の吐出孔から異物を取り除くことが容易にできる。
【0081】
以上に説明したように、一つの合成画像データ中に含まれる多数の吐出孔Hに対して、孔内異物の残留検査が終了すると、次の合成画像データから孔内異物の残留検査を行うために、画像処理装置8が、次に必要となる画像データ(例えば、前述のように拡大レンズの焦点深度が異なる画像データ)の読み出しを行い、画像処理を実施する。そして、紡糸口金Caの全画像データの全吐出孔H内の孔内異物検査を終了する。
【0082】
なお、以上の説明において、孔内異物の検査を行うために、口金Caの穿孔領域の全面に渡って、スキャンカメラ3を走査して撮影した画像データ群を一つの合成画像データに合成するケースについて説明した。しかしながら、本発明においては、一つの合成画像データに限定する理由はなく、一つの合成画像データだけを用いるのではなく、この合成画像データを複数に分割した合成画像データを使用するようにしても良い。この場合、特に、一つの合成画像データのデータ量が膨大になる場合に、分割した合成画像データを使用することは極めて有効である。
【0083】
以上に詳細に説明したように、本発明では、二段階の処理によって孔内異物の判別処理を行っているが、第一段階で孔内異物が検出された場合には、その後の第二段階の処理をスキップするようにすることもできる。勿論、孔内異物の検出の有無に関わらず、これらの二つの処理を全て行うようにしてもよい。更には、検出する孔内異物の形状などの条件に合わせて、これらの二つの処理を相互に関連を持たせずに、それぞれ単独で実施するようにしてもよい。
【0084】
また、本発明においては、位置決め孔P1とP2を使用して、画像処理装置8によりソフトウェアによりステップS4のように画像処理を行う実施形態について説明したが、このようなソフトウェアによる方法ではなく、ハードウェアによってもよい。なお、この場合には、一対の位置決め孔P1とP2に対して、これらと係合する一対の位置決めピン(図示せず)を口金取付台12上に正確に位置決めして固設し、この一対の位置決めピン(図示せず)に対して、位置決め孔P1とP2を係合させるようにすれば良い。このようにすることにより、口金Caは、常に決められた正確な位置にセットされるようになる。
【0085】
なお、このとき互いに係合する一対の位置決め孔P1とP2と一対の位置決めピン(図示せず)との間で、孔の大きさと位置決めピンの太さにそれぞれ差をつけておくことが好ましい。何故ならば、このようにすることで、それぞれの位置決め孔P1とP2がそれぞれの特定の位置決めピンとだけ係合することができ、口金取付台12に口金Caを取付けるに際して、口金Caの天地が逆になるような事態を回避することができるからである。
【0086】
次に、紡糸口金Caのポリマー吐出面に付いた傷の検出について説明する。先ず、その検出方法としては、面積判別処理である。この処理では、先ず非常に多くの画素(ピクセル:pixel data)を有するCCDカメラ3を用いて、上部照明11から投光されて紡糸口金Caのポリマー吐出面で反射した光を撮像する。
【0087】
このとき、各吐出孔H内の異物を検査する場合のように、各吐出孔H内の極微小な残留異物を検出するわけではなく、ポリマー吐出面に生じた傷を検出するのであるから、紡糸口金Caのポリマー吐出面の全体を一つの画像として撮像し、この画像をデータ処理に供するようにすれば良い。ただし、より小さな傷を問題とする場合には、紡糸口金Caのポリマー吐出面を数区画に分割して、それぞれの分割区画毎に拡大画像を撮るようにしても勿論良く、また、これらの分割画像を合成して一つの画像として取り扱うようにしても良い。
【0088】
次に、以上に説明したようにして得られた画像データを読み出して画素毎に撮影された明暗の諧調数(例えば、明暗の諧調を256階調に分類する)に応じて、閾値(例えば、256階調に振り分けた時に、その中間諧調の値にとる)を基準にして、コントラストが「明」の部分と「暗」の部分とに分別する処理によって得られた画像データの「明」と認識された画素群は、紡糸口金Caのポリマー吐出面で通常とは異なる反射をしてきた光を検出した領域である。
【0089】
なお、このような通常とは異なる反射光は、平面性良く仕上げられた部分から反射してきた光と異なり、傷が付いて僅かに窪んだ部分で乱反射した光であって、前述の二値化処理においては、「暗」と認識された画素群を構成する。ただし、二値化処理の具体的な実施態様では、「明」と判別された全画素に例えば「1」を割り振り、「暗」と判別された全画素に対して例えば「0」を割り振ることによって二値化を行っている。そこで、このような「暗」と認識された全画素の集合体から、紡糸口金Caのポリマー吐出面の傷の正確な存在領域を画像処理によって判別することができる。なお、「暗」と判別された画素部は、紡糸口金Caのポリマー吐出面に傷が存在しない部分である。
【0090】
しかし、「暗」部分であっても、紡糸口金Ca吐出面の傷ではなく、使用工程で紡糸口金Caが部分的に変色し、その部分の反射光が「暗」と判断される場合がある。そこでこのような誤認を避けるために、さらに、紡糸口金取付け台12の回転機構7を用いて、紡糸口金Caを水平方向から5°程度傾け、紡糸口金Caの上方から照明11を照射して反射した光を撮像した画像についても前記画像処理を施し、「暗」と判別された全画素の集合体が、前記二値化画像と同位置に存在するかどうかをコンピュータ10により計算する。その結果、もし、同じ位置に傷の存在が確認されれば、上方からの照射光と投射角度が異なる投射光によって傷の存在検証と確認を行っていることになり、紡糸口金Caのポリマー吐出面に傷が確かに存在することのより明白な根拠ともなる。
【0091】
ただし、紡糸口金Caに穿設された多数の吐出孔Hについても、反射光から得られた画素データが二値化処理によって「暗」と判断される。しかしながら、既に説明したように、吐出孔Hが存在する位置は、画像処理をするに当って事前に明瞭に認識できる。したがって、吐出孔Hが存在する位置の画素データについては画像処理の対象から除外することができ、これによって、ポリマー吐出面に存在する傷とは明瞭に区別することができることは言うまでもない。
【0092】
なお、傷と判断する基準として、例えば、「暗」と判断された画素グループに対して互いに連続して連なる隣接画素の数をカウントし、この数が「所定の閾値数」をオーバーした場合に傷が発生していると判断することが考えられる。あるいは、「暗」と認識された一塊の画素グループに対して、その一塊の画素をカウントして、その数が「所定の閾値数」をオーバーした場合に「傷」と判断するようにすれば良い。何れにしても、前述のようにして、二値化した画像データを得ることができれば、周知のパターン認識処理を備えたデータ処理手段を使用することによって、ポリマー吐出面に生じた傷を認識できることは言うまでもない。
【0093】
以上に説明した本発明に係る孔内異物の検出方法によれば、孔内異物の検査と共に、紡糸口金Caに生じた傷を判別することができ、吐出孔内の異物検査と併用することによって、紡糸口金Caの異常を検査するための多くの作業を人(検査作業員)から開放することができる。
【0094】
以上に述べたようにして、画像処理されて孔内異物の有無が検査された後のデータは、各吐出孔の位置情報をもとに、記憶装置に記憶しておき、検査後に検査の係りの作業者が目視で確認するようにすることもできる。その際、当然のことながら、目視確認を行いながら、作業者が拡大鏡などを使用しながら針状治具などを用いて孔内異物の除去作業を行い、異物を吐出孔からきれいに除去することもできる。また、本発明によると、合成繊維生産時に使用される紡糸口金に穿設された吐出孔内の異物残留検査を容易に行えることで、省力化につながり、または労務費削減につながる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明に使用できる孔内異物の検査装置の実施形態例を表す斜視図である。
【図2】吐出孔内に付着した異物を画像処理によって検出するためのコンピュータで実行可能な異物検出プログラムの実行手順を示したフローチャートである。
【図3】本発明に係る紡糸口金の実施形態を例示した模式平面図である。
【図4】本発明における「円孔形状検出処理」の説明図である。
【符号の説明】
【0096】
S1〜S6:吐出孔内に付着した異物を画像処理によって検出する各処理ステップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の吐出孔が穿設された紡糸口金と、前記紡糸口金を挟んだ一方側に設けられた照明と、前記紡糸口金を挟んだ他方側に前記照明と対向して設けられたスキャンカメラと、前記スキャンカメラに付設され且つ前記照明から投光されて前記吐出孔を通過した検査光からなる画像を所定の倍率に拡大する拡大レンズと、前記スキャンカメラを走査して画像データを撮影する位置に正確に位置決め制御する位置決め駆動手段と、前記スキャンカメラによって紡糸口金穿設された吐出孔の穿孔領域を少なくとも含む画像データ群を処理して前記多数の吐出孔に存在する孔内異物を一度に検出する画像処理装置とを備えた紡糸口金の孔内異物の検出装置であって、
更に、前記画像処理装置は、前記画像データ群を合成して多数の吐出孔を対象とした少なくとも一つの合成画像データを作成し、前記合成画像データ中に含まれる画素群の明暗の諧調を予め設定した階調を基準にして「明」と「暗」の何れかの値にそれぞれ振り分ける二値化処理を行い、「明」と判別した画素群が連続した集合体である場合に吐出孔と認識し、認識した前記各吐出孔に対して「明」と判別した画素の集合体の画素数を面積値としてそれぞれ算出し、前記面積値が孔内異物が存在すると判別するための基準として予め設定した画素数からなる面積値よりも小さいと判断されたときに該当する吐出孔に孔内異物が存在すると判別する装置であることを特徴とする、紡糸口金の孔内異物の検出装置。
【請求項2】
多数の吐出孔が穿設された紡糸口金を挟んで互いに対向して照明とスキャンカメラとを配設し、前記照射から検査光を前記スキャンカメラに向って投光し、複数の吐出孔を通過した前記検査光を光学的に拡大して画像を前記スキャンカメラで撮像して複数の画像データ群を取得し、前記画像データ群を画像合成して多数の吐出孔を対象とした少なくとも一つの合成画像データを作成し、前記合成画像データ中に含まれる画素群の明暗の諧調を予め設定した階調を基準にして「明」と「暗」の何れかの値にそれぞれ振り分ける二値化処理を行い、「明」と判別した画素群が連続した集合体である場合に吐出孔と認識し、認識した前記各吐出孔に対して「明」と判別した画素の集合体の画素数を面積値としてそれぞれ算出し、前記面積値が孔内異物が存在すると判別するための基準として予め設定した画素数からなる面積値よりも小さいと判断されたときに該当する吐出孔に孔内異物が存在すると判別することを特徴とする、紡糸口金の孔内異物の検出方法。
【請求項3】
前記紡糸口金のポリマー吐出面に対して一段低い位置に設けられた段差部に穿設された一対の位置決め孔を通過した前記検査光を前記スキャンカメラにより撮像し、前記合成画像データ中に含まれる位置決め孔由来の画像データから一意に画像位置情報を取得し、前記一意に画像位置情報を基にして前記合成画像データから得られた各吐出孔の位置情報を補正し、補正した各吐出孔の位置情報と前記紡糸口金設計データとして記憶された各吐出孔の位置情報とを一対一に対応付け、前記合成画像データから得られた各吐出孔を前記紡糸口金設計データ上の各吐出孔と一致させて特定することを特徴とする、請求項2に記載の紡糸口金の孔内異物の検出方法。
【請求項4】
前記紡糸口金設計データに含まれる各吐出孔の中心座標をそれぞれ中心として、前記合成画像データから各吐出孔を識別する「明」と判別された画素の各集合体をその内部に含むように円形の「関心領域」をそれぞれ設定し、前記各関心領域外周の複数箇所からそれぞれ当該関心領域の中心へ向かって「暗」と判別された画素を連続的にそれぞれ探索し、前記「暗」と判別された画素が尽きて「明」と判別された画素を検出し、「明」と判別された画素が検出されると当該画素の位置を境界位置とし、前記各境界位置から前記関心領域の中心までの距離を半径値としてそれぞれ算出し、全ての前記半径値を平均して平均半径値を算出し、前記平均半径値が基準値よりも小さいと孔内異物が存在すると認識することを特徴とする、請求項2又は請求項3に記載の紡糸口金の孔内異物の検出方法。
【請求項5】
前記紡糸口金のポリマー吐出面に対して照明を照射し、前記ポリマー吐出面から反射した光を前記スキャンカメラで前記ポリマー吐出面の全体を撮像し、前記ポリマー吐出面の全体を撮った少なくとも一つの画像データを取得し、取得した画像データを予め設定した中心となる明暗階調を基準に前記画像データに含まれる全ての画素を二値化処理し、二値化処理した画素群からパターン認識によりポリマー吐出面に発生した傷を検出することを特徴とする、請求項2〜4の何れかに記載の紡糸口金の孔内異物の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−258069(P2009−258069A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168983(P2008−168983)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】