説明

自動車の前部車体構造

【課題】エンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルと、該ダッシュパネルの側部前方に設けられたサスペンションタワーと、該サスペンションタワーの車幅方向内側を通って車体前後方向に延びるフロントサイドフレームと、前記ダッシュパネルの側部に設けられたヒンジピラーと、前記サスペンションタワーの車幅方向外側部と前記ヒンジピラーとを連結するエプロンレインフォースメントとを有し、前記フロントサイドフレームにおける前記サスペンションタワーよりも前方の部位に、エンジンマウント部材が取り付けられていると共に、該マウント部材に、エンジンに固定されたブラケットが支持されている場合に、フロントサイドフレームに対するエンジンの取付が解除された場合でも、エンジンの後退を抑制可能な自動車の前部車体構造を提供する。
【解決手段】ブラケット100に、エンジン後退時に前記サスペンションタワー6aと当接する後退防止部100bを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の前部車体構造、特に衝撃荷重作用時におけるエンジンの後退防止のための構造に関し、自動車の車体構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
自動車の前部車体は、例えば、エンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルと、該ダッシュパネルの側部前方に設けられたサスペンションタワーと、該サスペンションタワーの車幅方向内側を通って車体前後方向に延びるフロントサイドフレームと、前記ダッシュパネルの側部に設けられたヒンジピラーと、前記サスペンションタワーの車幅方向外側部と前記ヒンジピラーとを連結するエプロンレインフォースメントとを有する構造とされており、このような構造の自動車におけるエンジンの支持構造として、例えば特許文献1には、前記フロントサイドフレームにおける前記サスペンションタワーよりも前方の部位に、エンジンマウント部材が取り付けられていると共に、該マウント部材に、エンジンに固定されたブラケットが支持された構造が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平5−97059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、マウント部材は、特許文献1にも開示されているように、ゴム製の弾性体等を有し、該弾性体を介して前記ブラケットに連結される場合があるが、このような構成の場合、前突等が発生したときにその衝撃で弾性体が破断して、エンジンのフロントサイドフレームに対する取付が解除され、その結果、エンジンが後方に移動して、エンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルに当接し、該ダッシュパネルが車室側へ変形する虞がある。
【0005】
そこで、本発明は、フロントサイドフレームに対するエンジンの取付が解除された場合でも、エンジンの後退を抑制可能な自動車の前部車体構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0007】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、エンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルと、該ダッシュパネルの側部前方に設けられたサスペンションタワーと、該サスペンションタワーの車幅方向内側を通って車体前後方向に延びるフロントサイドフレームと、前記ダッシュパネルの側部に設けられたヒンジピラーと、前記サスペンションタワーの車幅方向外側部と前記ヒンジピラーとを連結するエプロンレインフォースメントとを有し、前記フロントサイドフレームにおける前記サスペンションタワーよりも前方の部位に、エンジンマウント部材が取り付けられていると共に、該マウント部材に、エンジンに固定されたブラケットが支持された自動車の前部車体構造であって、前記ブラケットに、エンジン後退時に前記サスペンションタワーと当接する後退防止部が設けられていることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の自動車の前部車体構造において、前記後退防止部には、後方に突出する突出部が設けられていると共に、前記サスペンションタワーの前壁における前記突出部の直後方に、前記突出部と係合可能な凹部または開口部でなる被係合部が形成されていることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項2に記載の自動車の前部車体構造において、前記サスペンションタワーの前壁における前記被係合部の近傍に、補強部材が取り付けられていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項3に記載の自動車の前部車体構造において、前記補強部材は、サスペンションを構成するアッパーアームが取り付けられる取付ブラケットであることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に記載の発明は、前記請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の自動車の前部車体構造において、前記フロントサイドフレームは、前記サスペンションタワーの車幅方向内側部の下部に接合され、かつ車体前方からの衝撃荷重の入力時に、車幅方向に折曲可能に構成されており、前記被係合部は、サスペンションタワーの前壁の上部に設けられていると共に、前記ブラケットの突出部は、該被係合部に係合可能な高さ位置に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
次に、本発明の効果について説明する。
【0013】
まず、請求項1に記載の発明によれば、例えばエンジンマウント部材の破損によりエンジンが後退し始めると、エンジンに固定されたブラケットの後退防止部と、サスペンションタワーとが当接することとなる。その場合に、サスペンションタワーは、サスペンションを支持するために剛性が一般に高くされている。また、サスペンションタワーは、エプロンレインフォースメントを介してヒンジピラーに連結されているが、エプロンレインフォースメントは通常車体前後方向の剛性が高いので、車体後方への変位が生じにくい。したがって、エンジンに固定されたブラケットの後退防止部と、サスペンションタワーとが当接すると、エンジンのそれ以上の後退が規制される。すなわち、エンジンがダッシュパネルを車室側へ押し込むことが回避され、車室の変形が抑制されることとなる。
【0014】
しかも、このような効果を、エンジンに固定されたブラケットに後退防止部を設けるだけで達成することができる。
【0015】
また、請求項2に記載の発明によれば、エンジンが所定量後退すると、ブラケットの後退防止部に設けられた突出部と、サスペンションタワーの前壁に設けられた凹部または開口部でなる被係合部とが係合することとなる。したがって、エンジンが後方以外に車幅方向や上下方向に変位するのも抑制される。つまり、当接しただけでは、エンジンが車幅方向に変位すると当接状態が解除されて、エンジンが後退する虞があるが、本発明では、係合構造により車幅方向や上下方向への移動も規制されるので、その虞が解消される。すなわち、エンジンの後退を一層確実に抑制することができる。なお、突出部と被係合部とは、後退防止部とサスペンションタワーの前壁とが当接していない状態でも係合させておいてもよく、この場合、衝撃荷重の作用時に後退防止部がサスペンションタワーの前壁に当接するまで後退可能に構成すればよい。
【0016】
また、請求項3に記載の発明によれば、前記サスペンションタワーの前壁における前記被係合部の近傍に、補強部材が取り付けられているから、被係合部周辺の剛性が向上することとなる。したがって、突出部との係合後における被係合部近傍部分の変形が抑制され、これにより、エンジンの後退をより確実に抑制することができる。
【0017】
また、請求項4に記載の発明によれば、前記補強部材は、サスペンションを構成するアッパーアームが取り付けられる取付ブラケットであるから、該ブラケットを利用して部品点数を増加させることなく、請求項3に記載の効果を得ることができる。
【0018】
ところで、フロントサイドフレームは、サスペンションタワーの車幅方向内側部の下部側に接合されると共に、前突時等に車体に入力される衝撃荷重を吸収可能なように車幅方向に折曲可能に構成される場合があるが、この場合、フロントサイドフレームの車幅方向への折曲時にサスペンションタワーにおけるフロントサイドフレームとの接続部近傍が変形することとなる。したがって、接続部近傍に被係合部を設けると、衝撃荷重の入力時に該被係合部の位置が変位しやすく、エンジン側の後退防止部と係合できなくなる虞がある。
【0019】
しかし、請求項5に記載の発明によれば、前記被係合部はサスペンションタワーの前壁の上部に設けられていると共に、ブラケットの突出部は被係合部に係合可能な高さ位置に設けられているから、換言すれば、被係合部及び突出部はフロントサイドフレームとサスペンションタワーとの接続部から上方に離間した位置に設けられているから、接続部近傍が変形したとしても、被係合部は変位しにくい。したがって、エンジン側の後退防止部と係合できなくなる虞が解消される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係る自動車の前部車体構造について説明する。
【0021】
図1に示すように(適宜、図2〜図4を参照)、本実施の形態に係る自動車1の前部には、エンジンルームZ1と車室Z2とを仕切るダッシュパネル2が設けられている。ダッシュパネル2の左右両端部には、上下方向に延び、フロントドア(図示せず)が枢支されるフロントヒンジピラー3(一方のみ図示されている)が設けられている。
【0022】
左右のフロントヒンジピラー3の上端部側からはそれぞれ前方にエプロンレインフォースメント4,4が延びている。
【0023】
エプロンレインフォースメント4,4に対して平面視でほぼ平行に、かつ車幅方向内方に離間した位置で、フロントサイドフレーム5,5が車体前後方向に延びている。
【0024】
車幅方向でエプロンレインフォースメント4とフロントサイドフレーム5との間には、前輪用のホイールハウス6が設けられている。
【0025】
フロントサイドフレーム5及びエプロンレーフォースメント4の前端部には、これらに跨って平板状のプレート7,7が取り付けられている。左右のプレート7,7間には、クラッシュボックス8,8を介して、車幅方向に延びるバンパレインフォースメント9が取り付けられている。クラッシュボックス8,8は、前後方向の衝撃荷重が入力されたときに車体前後方向に圧縮変形するように構成されている。
【0026】
ダッシュパネル2の下部は、後方へ湾曲して、下端部がフロアパネル10の前端部に接合されている。ダッシュパネル2の下部及びフロアパネル10には、車幅方向ほぼ中央において前後方向に延び、かつ上方へ膨出するトンネル部11が設けられている。
【0027】
フロントサイドフレーム5の後部側は、ホイールハウス6の側方において下方に湾曲し、後端部が、フロアパネル10の下面側で車体前後方向に延びるフロアフレーム12の前端部に接続されている(図2参照)。フロアフレーム12は、断面ハット状の形状をしており、フロアパネル10とで車体前後方向に延びる閉断面を形成している。
【0028】
フロントヒンジピラー3の下端部から後方にサイドシル13が延びている。サイドシル13は、車体前後方向に延びる閉断面構造とされている。
【0029】
ダッシュパネル2の下部側には、左右のフロントヒンジピラー3,3を連結するロアダッシュクロスメンバ14が設けられている。ロアダッシュクロスメンバ14は、図3に示すように、左右のフロントサイドフレーム5,5間の部分を構成する中間部材14Aと、中間部材14Aの左右の端部と左右のフロントヒンジピラー3,3とを連結するサイド部材14B,14Bとで構成されている。
【0030】
中間部材14Aは、断面ハット状の部材で、ダッシュパネル2の前面(エンジンルームZ1側の面)側に設けられており、ダッシュパネル2の前面とで閉断面を形成している。サイド部材14Bは、同じく断面ハット状の部材で、ダッシュパネル2の後面(車室Z2側の面)側に設けられており、ダッシュパネル2の後面とで閉断面を形成している(図5、図6参照)。
【0031】
ダッシュパネル2の上部側には、図7に示すように、左右のフロントヒンジピラー3,3を連結するアッパダッシュクロスメンバ16が設けられている。アッパダッシュクロスメンバ16は、左右のヒンジピラー3,3近傍間の部分を構成する中間部材16Aと、中間部材16Aの左右の端部と左右のフロントヒンジピラー3,3とを連結するサイド部材16B,16Bとで構成されている。
【0032】
中間部材16A及びサイド部材16Bは、それぞれ、断面ハット状の部材で、ダッシュパネル2の後面(車室Z2側の面)側に設けられている。
【0033】
詳しくは、図7に示すように、サイド部材16Bは、上下のフランジ16b,16bの後端部側がボルト及びナットB1,B1により、フロントヒンジピラー3のインナパネル18に締結され、フランジ16bの前端部側が中間部材16Aの端部のフランジ部16aと、ダッシュパネル2と、後述する補強部材60のフランジ60fと共に、ボルト及びナットB2により共締めされている。そして、これにより、図5,図6に示すように、ダッシュパネル2と中間部材16Aとサイド部材16B,16Bとで左右のヒンジピラー3,3間において車幅方向に延びる閉断面Vが形成されている。
【0034】
図1、図3、図4からわかるように、ホイールハウス6は、車幅方向外端側がエプロンレインフォースメント4に接合されると共に車幅方向内端部がフロントサイドフレーム5に接合されたエプロンパネル19の後部側をアーチ状に上方に膨出させることにより形成されている。上部には、サスペンション30の上部側が支持されるサスペンションタワー部6aが、ホイールハウスインナパネル19をタワー状に上方に膨出させることにより形成されている。
【0035】
ここで、フロントサスペンション30及びその取付構造について簡単に説明しておくと、図2、図3に示すように、フロントサスペンション30の下方には、サスペンション30の下部側を支持するサスペンション支持フレーム20が設けられている。このサスペンション支持フレーム20は、平面視略ロ字状の枠状形状をしており、その左右の側辺部20a,20aが、フロントサイドフレーム5,5の略下方で前後に延びている。そして、左右の側辺部20a,20aの前端側がフロントサイドフレーム5,5の前端部の下部に、前後方向中間よりも後方側が、フロントサイドフレーム5,5の湾曲部5a,5aの下部に、後端側がフロアパネル10の前端側に設けられたクロスメンバ(図示せず)に、ブラケットやマウントラバー等を介して取り付けられている。
【0036】
フロントサスペンション30は、ダブルウィッシュボーン式のものであり、タイヤW(ホイール)を回転自在に支持するホイールサポート31と、上下に離間して配置されたアッパアーム32及びロアアーム33と、緩衝装置34とを有している。
【0037】
ホイールハウスインナパネル19におけるサスペンションタワー部6a部分の反エンジンルームZ1側の面には、サスペンション支持部材21,22が取り付けられている。
【0038】
アッパアーム32は、A型形状をしており、車幅方向内端部32a,32aが、ブラケット21,22に支持された車体前後方向に延びる軸部材32A,32Aを中心として回動可能に取り付けられている。軸部材32A,32Aは、例えばボルト及びナットにより構成されている。一方、車幅方向外端部32b,32bは、ホイールサポート31に形成された上方延設部31aの上端部にボールジョイントを介して取り付けられている。
【0039】
アッパアーム32の内端部32a,32aを支持するブラケット21,22は、前側用と後側用との形状が異なっている。すなわち、まず、前側用のブラケット22について説明すると、平面視コ字状形状をしており、図6に示すように、軸部材32Aの端部を支持する前後の縦面部22a,22bと、これらの縦面部22a,22bを連結する側面部22cとを有して、後側の縦面部22b及び側面部22cがサスペンションタワー部6aの前面部6b及び側面部6c(図2参照)に接合されている。一方、後側用のブラケット21は、平面視略L字状の形状をしており、後側の縦面部21aと側面部21bとのみを有して、側面部21bがサスペンションタワー部6aの側面部6cに接合されている。そして、軸部材32Aの後端側は、後述する補強部材60の前面部60c(図2参照)に支持されるようになっている。
【0040】
図2、図3に戻り、ロアアーム33は、アッパアーム32同様、A型形状をしており、車幅方向内端部33a,33aが、サスペンション支持フレーム20の側辺部20a,20aに設けられた支持壁に、車体前後方向に延びる軸部材33A,33Aを中心として回動可能に取り付けられている。軸部材33A,33Aは、例えばボルト及びナットにより構成されている。一方、車幅方向外端部33b,33bは、ホイールサポート31に形成された下方延長部31bの下端部にボールジョイントを介して取り付けられている。
【0041】
緩衝装置34は、ダンパ35と、コイルスプリング36とを有している。ダンパ35は、上端部がサスペンションタワー部6aのトップ部6a′に固定され、下端部がロアアーム33の車幅方向中間部に、車体前後方向に延びる軸部材35Aを中心として揺動可能に取り付けられている。コイルスプリング36は、ダンパ35に伸縮可能に取り付けられている。
【0042】
サスペンションタワー部6aのトップ部6a′の上面には、緩衝装置34の取付部を補強するサスペンション取付部補強部材23が設けられている。
【0043】
図1からわかるように、ダッシュパネル2の上部には、車幅方向に延びるカウル部40が設けられている。
【0044】
このカウル部40は、図3〜図6、図8等からわかるように、車幅方向両端部を構成する左右一対のカウルサイドパネル41,41と、これらを連結するカウルフロントアッパパネル42及びカウルフロントロアパネル43と、フロントガラスの下端側を支持するカウルパネル44とを有している。
【0045】
図5に示すように、カウルサイドパネル41は、サスペンションタワー部6aの後壁部6dに略沿う形状で該後壁部6dに接合された縦壁部41aと、該縦壁部41aの下端から後方に延び、後端部が、ダッシュパネル2の下部側を構成するダッシュロアパネル45に接合された横壁部41bとを有し、車体側面視で略L字状とされている。なお、横壁部41bは、アッパダッシュクロスメンバ16の高さ位置に設けられている。
【0046】
カウルフロントロアパネル43は、カウルサイドパネル41の縦壁部41a及び横壁部41bに車幅方向に連続する縦壁部43a及び横壁部43bを有し、車体側面視で略L字状とされている。
【0047】
そして、カウルサイドパネル41及びカウルフロントロアパネル43の縦壁部41a及び横壁部43bは、ダッシュアッパパネル46と共に、車体側面視で上部側が開口する側面視断面U字状のボックス体を構成している。
【0048】
図7に示すように、カウルフロントアッパパネル42は、上壁部42aと縦壁部42bと下壁部42cとを有して、車体側面視で略Z字状の形状をしており、カウルフロントロアパネル43とで、車幅方向に延びる側面視略四角形の閉断面を形成している。
【0049】
なお、カウルフロントロアパネル43及びカウルフロントアッパパネル42は、図4、図5に示すように、左右両端側において、前記サスペンション取付部補強部材23及び後述する連結パネル47に対して、ボルトB3により取り外し可能に固定されている。
【0050】
図4、図5に示すように、サスペンションタワー部6aのトップ部6a′と、ダッシュパネル2の上部側を構成するダッシュアッパパネル46との間には、これらを連結する連結パネル47が設けられている。連結パネル47は、車幅方向外端側の縁部がエプロンレインフォースメント4に接合されている。なお、この連結パネル47は、ワイパー取付用として利用することも可能なものである。
【0051】
次に、エプロンレインフォースメント4の構造について説明する。
【0052】
エプロンレインフォースメント4は、図1、図2からわかるように、サスペンションタワー部6aよりも前方の部分4Aと、後方部分4Bとで構成されている。
【0053】
前方部分4Aは、図9、図10に示すように、部材25,26により、車体前後方向に延びる略四角形の閉断面を有している。
【0054】
後方部分4Bは、図8、図11に示すように、部材27,28,29により、車体前後方向に延び、前方部分4Aの閉断面に連続する略四角形の閉断面を有している。また、後方部分4Bは、例えば部材27,28,29の厚みを前方部分4Aの部材25,26よりも厚くすることで、車体前方からの衝撃荷重に対する耐荷重が前方部分4Aよりも大きくされている。
【0055】
次に、フロントサイドフレーム5の構造について詳しく説明する。
【0056】
フロントサイドフレーム5は、図1、図2からわかるように、サスペンションタワー部6aよりも前方の部分5Aと、後方部分5Bとで構成されている。
【0057】
前方部分5Aは、図9、図10に示すように、外側部材51A及び内側部材52Aにより、車体前後方向に延びる略四角形の閉断面を有している。後方部分5Bは、図8、図11に示すように、外側部材51B及び内側部材52Bにより、車体前後方向に延び、前方部分4Aの閉断面に連続する略四角形の閉断面を有している。前方部分5Aの閉断面内には、レインフォースメント53が設けられている。
【0058】
前方部分5Aを構成する部材51A,52Aと、後方部分5Bを構成する部材51B,52Bとは、異なる素材が用いられている。例えば、前方部分5Aを構成する部材51A,52Aは、平常時における剛性を保ちつつ、衝撃荷重が入力されときには蛇腹折れ状に圧縮変形可能なように、例えばハイテンション材等の素材を用いて形成されている。一方。後方部分5Bを構成する部材51B,52Bは、例えば、素材の厚みを厚くすることで、車体前方からの衝撃荷重に対する耐荷重が前方部分5Aよりも大きくなるように構成され、圧縮変形が生じにくくされている。
【0059】
また、図9、図10に示すように、前方部分5Aの外側部材51A及び内側部材52Aの各側面部51a,52aには、前端から所定位置まで車体前後方向に延びるビード51b,52bが形成されている。ここで、このビード51b,52b及び前記レインフォースメント53は、フロントサイドフレーム5の前部5Aの車体前後方向の圧縮変形時における衝撃エネルギーの吸収量を多くするために設けられている。
【0060】
その場合に、外側部材51のビード51bは、図2に示すように、該部材51の前端から後述するエンジンマウント110の前端付近まで設けられているのに対し、内側部材52のビード52bは、外側部材51のビード51bよりも後方まで延びて、エンジンマウント110の後端付近にまで達している。したがって、フロントフレーム5は、内側部材52にのみビード52bが存在する部位においては、車幅方向外側部分よりも車幅方向内側部分の方が、車体前後方向に対する圧縮剛性が高くなっている。また、図4からわかるように、フロントサイドフレーム5は、車体前後方向においてサスペンションタワー部6aの前端近傍(外側部材51のビード51bの後端の位置)からサスペンションタワー部6aのトップ部6a′の前端付近(内側部材52のビード52bの後端位置)にかけて、幅(車幅方向長)及び断面積が徐々に小さくなっている。したがって、フロントフレーム5は、車体前方から衝撃荷重が作用したときに、外側部材51のビード51bの後端の位置において、車幅方向外側に折曲しやすくなっている。そして、これにより、外側部材51のビード51bの後端の位置に、車幅方向外側への折曲予定部T1が構成されている。
【0061】
また、フロントサイドフレーム5におけるサスペンションタワー6aよりも前方部分には、エンジンマウント110が取り付けられている(図1も参照。なお、エンジンマウント110はエンジンEGの左右の端部を支持するために、左右のフロントサイドフレーム5,5のそれぞれに取り付けられているが、図1においては、一方のみ図示している。)。この取付部の近傍部位(外側部材51のビード51bの後端位置と、内側部材52のビード52bの後端位置との間)は、図示しない補強部材により補強されており、これにより、衝撃荷重の作用時にフロントサイドフレーム5の前後方向への圧縮変形が抑制されると共に、車幅方向への移動が規制される。一方、その後方側は、後述するように車幅方向外側へ突出するように膨らむ、したがって、内側部材52のビード52bの後端の位置(エンジンマウント110の取付部の後端付近)に、折曲予定部T2が構成される。
【0062】
また、後述する補強部材60の前端に対応する位置においては、フロントサイドフレーム5に剛性差が生じる。したがって、車体前方から衝撃荷重が作用したときに、この位置において折曲しやすくなる。したがって、この位置に、車幅方向外側への折曲予定部T3が構成される。
【0063】
また、図2に示すように、外側部材51(51B)の側面部51aには、湾曲部5aの途中部分において、上下方向に延びるビード51eが形成されている。このビード51eは、図12に示すように、車幅方向内方に凹んでおり、後述するように車体前方から衝撃荷重がフロントサイドフレーム5に加わったときに、このビード51eを起点として、その前方部分が車幅方向外側に折れ曲がるようになっている。すなわち、ビード51eにより折曲予定部T4が構成されている。
【0064】
また、フロントサイドフレーム5は、車体前後方向においてサスペンションタワー部6aのトップ部6a′の前端よりも後方においては、外側部材51の上面部51cの幅が徐々に広くなる一方、内側部材52の上面部52cの幅が徐々に狭くなり、図11からわかるように、両部材51,52の互いに接続される上部フランジ51d,52dの車幅方向位置が車幅方向内方にそれぞれ移動している。また、これに伴って、上部フランジ51d,52dに接続されるエプロンパネル19の内端部(下端部)も、車幅方向内方に位置し、これにより、フロントサイドフレーム5の外側部材51の上面部51cが、エプロンパネル19の内端部よりも車幅方向外側に位置している。すなわち、フロントサイドフレーム5が、フロントホイールハウス6内(サスペンションタワー部6a)に臨んでいる。
【0065】
ところで、フロントサイドフレーム5は、前述したように後部側に下方への湾曲部5aが設けられているが、衝撃荷重がフロントサイドフレーム5の前端部に入力されたときにこの湾曲部5aに折れが生じるのを防止する必要がある。
【0066】
そこで、フロントサイドフレーム5におけるホイールハウス6のサスペンションタワー部6aの側方部分と、ダッシュパネル2(車体部材)とを接続する補強部材を設けることが考えられるが、本実施の形態に係る車両においては、図1、図7に示すように、ダッシュパネル2の前面には、運転席の前方でかつホイールハウス6の後方において、ブレーキ装置のマスタシリンダ70が取り付けられるようになっている。したがって、補強部材をエプロンパネル19のエンジンルームZ1側の面に設けるのは、スペース上、困難となっている。
【0067】
そこで、本実施の形態においては、図1、図13に示すように、補強部材60を、エプロンパネル19の反エンジンルームZ1側の面に設けている。すなわち、ホイールハウス6内に設けている。
【0068】
詳しくは、補強部材60は、図2、図13からわかるように、前端部60aが、サスペンション30のダンパ35側方において、フロントサイドフレーム5の外側部材51(フロントサイドフレーム5におけるホイールハウス6内を臨む部分)に接続され、後ろ上りに延びて、後端部60bがダッシュパネル2(車体部材)におけるホイールハウス6の後方部分に接続されている。
【0069】
また、補強部材60の後部60B側は、前述のように後端部60bがダッシュパネル2におけるホイールハウス6の後方部分に接続される一方、サスペンションタワー部6aのトップ部6a′内まで上方に延びて、トップ部6a′の内面に接続されている。
【0070】
また、補強部材60は、前面部60cと、側面部60dと、後面部60eと、これらの周囲に形成されたフランジ部60fとを有して、車幅方向内方側が開口する概ね断面ハット状とされている。側面部60dの下端側は、フロントサイドフレーム5の外側部材51の側面部51aに連続するように形成されており(図14参照)、これにより補強部材60の前端部60aは、フロントサイドフレーム5の外側部材51の上面部51cに突き当てられた状態となっている。
【0071】
また、フランジ部60fは、図8、図11、図13からわかるように、エプロンパネル19の反エンジンルームZ1側の面(ホイールハウス6の内面)、ダッシュパネル2の前面、カウルサイドパネル41の下面、フロントサイドフレーム5の外側部材51の上面部51c、側面部51aの上部にまたがって接合されており、これにより、補強部材60と、エプロンパネル19と、カウルサイドパネル31と、フロントサイドフレーム5の外側部材51とで、サスペンションタワー部6aとダッシュパネル6との間に車体前後方向に延びる閉断面Yが形成されている。
【0072】
そして、補強部材60のフランジ部60fのうちダッシュパネル2に取り付けられる部分は、図7に示すように、ダッシュパネル2と、アッパダッシュクロスメンバ16と共にボルト及びナットB2により共締めされており、これにより、後端部60bは、ダッシュパネル2を介してアッパダッシュクロスメンバ16に連結されている。
【0073】
また、補強部材60の前部60A側は、図14に示すように、車幅方向内方に膨らむように湾曲形成されている。これは、フロントサイドフレーム5の折曲予定部T4における車幅方向への折曲が阻害されるのを防止するためであり、これにより、例えば直線的に形成されている場合よりも、補強部材60が突っ張りにくくなり、車幅方向に変形しやすくなっている。
【0074】
また、本実施の形態においては、図3、図7等に示されているように、フロントサイドフレーム5におけるサスペンションタワー6a側方の部分と、ダッシュパネル2におけるフロントサイドフレーム5よりも車幅方向内方の部分とを連結する第2補強部材65が設けられている。
【0075】
第2補強部材65は、断面ハット状の部材であり(図8参照)、前端部がフロントサイドフレーム5の内側部材52の側面部52aに接合され、後端部が、ダッシュパネル2の前面側に設けられたロアダッシュクロスメンバ14に接合されており、フロントサイドフレーム5が折曲予定部T4において逆方向に折曲するのを規制する。なお、トンネル部11に沿うように略車体前後方向に延びるトンネルフレーム80が設けられており(図16参照)、その前端部が、ロアダッシュクロスメンバ14(14A)を介して、第2補強部材65の後端部に連結されている。
【0076】
次に、エンジンマウント構造について説明する。
【0077】
すなわち、図4、図9に示されているように、このエンジンマウント構造は、一端部がエンジンにボルトB4により固定されたブラケット100と、下部側がフロントサイドフレーム5及びエプロンパネル19にボルトB5により固定され、上部に前記ブラケット100の他端側がボルトB6により固定されるエンジンマウント(マウント部材)110とを有している。
【0078】
エンジンマウント110は、図15に示すように、金属製の円筒ケーシング111を備えている。この円筒ケーシング111は、その軸方向が上下方向となる円筒状に形成されている。また、円筒ケーシング111は、その上部を構成する小径部材112と、その下部を構成する大径部材113とで構成されている。小径部材112及び大径部材113は、何れもカップ状に形成され、向かい合う状態で互いに連結されている。この小径部材112及び大径部材113には、カップ形状の底にあたる部分の中央部に円形の開口112a,113aが形成されている。
【0079】
円筒ケーシング111の大径部材112の下部には、3つのブラケット114が溶接されている。ブラケット114の下端には、取付面部114aが形成されており、エンジンマウント110は、ボルトB5によってフロントサイドフレーム5及びエプロンパネル19に固定される。なお、エプロンパネル19への取り付け部を補強するための補強パネル17が、サスペンションタワー部6aの前方の所定範囲において、フロントサイドフレーム5とエプロンレインフォースメント4との間を連結するように設けられている。
【0080】
円筒ケーシング111の内部には、弾性支持体115と、オリフィス盤116と、ダイヤフラム117と、連結金具118とが収納され、これらによって閉空間の液室119が形成されている。この液室119には、エチレングリコール等の液体が封入されている。
【0081】
弾性支持体115は、ゴム製の部材であって、薄肉部115aと厚肉部115bとを備えている。薄肉部115aは、比較的肉厚の薄い円筒状に形成され、大径部材112の内周面に沿って設けられている。厚肉部115bは、比較的肉厚の厚い円錐台状に形成され、薄肉部115aの上端部に連続して形成されている。また、厚肉部115bは、上方へ向かって直径の小さくなる円錐台状に形成されている。
【0082】
オリフィス盤116は、円板状に形成されており、薄肉部115aの下端付近に配置されている。このオリフィス盤116は、合成樹脂製の部材であって、円板部116aと外周筒部116bとを備えている。円板部116aは、円形の平板状に形成されている。外周筒部116bは、円板部116aの外周から下方へ延びる円筒状に形成されている。外周筒部116bの外周面には、外周溝116cが形成されている。この外周溝116cと弾性支持体115の薄肉部115aとによって、螺旋状のオリフィス通路120が形成される。
【0083】
ダイヤフラム117は、薄肉に形成されたゴム製の部材であって、オリフィス盤116の下方に配置されている。このダイヤフラム117は、中央部が上方へ膨出したハット状(帽子状)に形成されている。また、ダイヤフラム117の周縁部は、オリフィス盤116の外周筒部116bと、大径部材112の底部とによって挟み込まれて固定されている。
【0084】
連結金具118は、その上部が軸部118aにより構成され、その下部が円錐台部118bにより構成されている。円錐台部118bは、下方へ向かって直径の小さくなる円錐台状に形成されている。また、円錐台部118bは、弾性支持体115における厚肉部115bの中央部へ上方から挿入され、その外側面で厚肉部11bと加硫接着されている。軸部118aは、円錐台部118bと同軸となる姿勢で、円錐台部118bの上端部から上方へ突設されている。また、この軸部118aは、小径部材113の上端面から突出している。
【0085】
連結金具118には、その中心部にボルト穴118cが形成されている。このボルト穴118cは、軸部118aの上端に開口しており、その内面にネジが刻まれている。このボルト穴118cには、エンジンマウント110をエンジンと締結するためのボルトB6が挿入される。
【0086】
液体の封入された液室119は、オリフィス盤116によって第1室119aと第2室119bとに仕切られている。つまり、2つに仕切られた液室119のうち、オリフィス盤116の上側の部分が第1室119aを構成し、オリフィス盤116の下側の部分が第2室119bを構成している。また、第1室119aと第2室119bとは、オリフィス通路120によって互いに連通されている。
【0087】
そして、エンジンEGの振動がエンジンマウント110に伝わると、弾性支持体115の厚肉部115bが変形し、第1室119aの容積が増減する。例えば、第1室119aの容積が減少すると、オリフィス通路120を通って液体が第2室119bへ向けて流出する。その際、第2室119bの容積は、ダイヤフラム117が変形することによって増加する。第1室119aの容積が増加すると、オリフィス通路120を通って液体が第2室119bから流入する。その際、第2室119bの容積は、ダイヤフラム117が変形することによって減少する。そして、エンジンEGからの振動は、液体がオリフィス通路120を通過する際の流通抵抗によって減衰されることとなる。
【0088】
ところで、このような構造のエンジンマウント110の場合、車体への前突等により、フロントサイドフレーム5が後述するように変形したり、エンジンEG自体に後方への衝撃力が作用すると、例えば円筒ケーシング111に上下方向のせん断力が作用して、該円筒ケーシング111が小径部材112と大径部材113とに分離し、すなわちエンジンマウント110が破損し、エンジンEGのフロントサイドフレーム5に対する取り付けが解除され、エンジンEGがダッシュパネル2側へ後退する虞がある。
【0089】
そこで、本実施の形態においては、エンジンEGの後退を防止するための構造が設けられている。
【0090】
すなわち、図4、図9に示すように、エンジン側ブラケット100には、本体部100a(エンジンEG側の端部とボルトB6で固定される部分との間の部分)の外端部から車幅方向に延びる延長部100b(後退防止部)が設けられている。
【0091】
この延長部100bは、車体への取り付け状態において、サスペンションタワー部6aの前壁6bの上部の前方に位置することととなる長さ(車幅方向長)を有している。また、延長部100bの車幅方向外端側には、車体後方に突出する突出部100cが設けられている。
【0092】
一方、サスペンションタワー部6aの前壁6bには、突出部100cの車体後方位置に、車体後方に凹む凹部6fが設けられている。この凹部6fは、車体正面視で、前記突出部100cと重なるように設けられている。
【0093】
ここで、サスペンション30のアッパーアーム32の支持用ブラケット22の縦面部22bは、前記凹部6fの位置まで車幅方向外方に延びている。その場合に、このブラケット22は、アッパーアーム32の支持のために、サスペンションタタワー部6aを形成するエプロンパネル19よりも板厚が厚い部材で構成されている。したがって、前壁6bにおける凹部6f近傍部分が、支持用ブラケット22の縦面部22bにより補強されることとなる。
【0094】
次に、本実施の形態の作用について説明する。
【0095】
すなわち、自動車に前突等が生じて、バンパレインフォースメント9に前方から衝撃荷重が入力されると、クラッシュボックス8,8を介してフロントサイドフレーム5,5に衝撃荷重が入力される。
【0096】
そうすると、初期状態の図16(a)に示す状態から、図16(b)に示すように、クラッシュボックス8は、車体前後方向に圧縮変形する。また、フロントサイドフレーム5は、前述のように、サスペンションタワー部6aよりも前方の部分(前後位置P1〜P2)が車体前後方向に圧縮変形すると共に、前述の各折曲予定部T1〜T4(前後位置P2〜P5)において車幅方向に折曲することとなる。そして、この圧縮変形及び折曲により、衝撃荷重が吸収される。ここで、前後位置P1はフロントサイドフレーム5の前端位置、前後位置P2はフロントサイドフレーム5の外側部材51のビード51bの後端の位置(折曲予定部T1)、前後位置P3はフロントサイドフレーム5の内側部材52のビード52bの後端の位置(折曲予定部T2)、前後位置P4は補強部材60の前端位置(折曲予定部T3)、前後位置P5はフロントサイドフレーム5の外側部材51のビード51eの位置(折曲予定部T4)、前後位置P6はフロントサイドフレーム5の後端位置である。
【0097】
詳しくは、折曲予定部T1においては、それよりも前方の部分(前後位置P1〜P2の部分)が、圧縮変形しながら、車幅方向外方に折れ曲がる。また、折曲予定部T2(前後位置P3)及びT4(前後位置P5)においては、フロントサイドフレーム5における前後位置P3からP5の間の部分が、折曲予定部T3(前後位置P4)において車幅方向外側に突出するように折曲する。
【0098】
そして、このようにフロントサイドフレーム5が変形し、あるいはエンジンEGに障害物が当接すると、エンジンマウント110が破損して、エンジンEGのフロントサイドフレーム5に対する取付が解除され、エンジンEGが車体後方へ後退する虞がある。
【0099】
しかし、本実施の形態においては、エンジンEGが後退し始めると、エンジンEGに固定されたブラケット100の後退防止部100bと、サスペンションタワー部6aの前壁6bとが当接することとなる。その場合に、サスペンションタワー部6aは、サスペンション30を支持するために剛性が一般に高くされている。また、サスペンションタワー部6aは、エプロンレインフォースメント4を介してヒンジピラー3に連結されているが、エプロンレインフォースメント4は通常車体前後方向の剛性が高いので、車体後方への変位が生じにくい。したがって、エンジンEGに固定されたブラケット100の後退防止部100bと、サスペンションタワー部6aとが当接すると、エンジンEGのそれ以上の後退が規制される。すなわち、エンジンEGがダッシュパネル2を車室Z2側へ押し込むことが回避され、車室Z2の変形が抑制されることとなる。
【0100】
しかも、このような効果を、エンジンEGに固定されたブラケット100に後退防止部100bを設けるだけで達成することができる。
【0101】
また、エンジンEGが所定量後退すると、ブラケット100の後退防止部100bに設けられた突出部100cと、サスペンションタワー部6aの前壁6bに設けられた凹部6f(被係合部)とが係合することとなる。したがって、エンジンEGが後方以外に車幅方向や上下方向に変位するのも抑制される。つまり、当接しただけでは、エンジンEGが車幅方向に変位すると当接状態が解除されて、エンジンEGが後退する虞があるが、本実施の形態では、係合構造により車幅方向や上下方向への移動も規制されるので、その虞が解消される。すなわち、エンジンEGの後退を一層確実に抑制することができる。なお、突出部と被係合部とは、後退防止部とサスペンションタワーの前壁とが当接していない状態でも係合させておいてもよく、この場合、衝撃荷重の作用時に後退防止部がサスペンションタワーの前壁に当接するまで後退可能に構成すればよい。
【0102】
また、サスペンションタワー部6aの前壁6bにおける前記凹部6fの近傍に、サスペンション30を構成するアッパーアーム32の取付ブラケット22(補強部材)が取り付けられているから、凹部6f周辺の剛性が向上することとなる。したがって、突出部100cとの係合後における凹部6fの変形が抑制され、これにより、エンジンEGの後退をより確実に抑制することができる。また、アッパーアーム32の取付ブラケット22を利用して、部品点数を増加させることなく前述の効果を得ることができる。
【0103】
ところで、フロントサイドフレーム5は、サスペンションタワー部6aの下部側の車幅方向内側部に接合されている。また、フロントサイドフレーム5には、車幅方向への折曲予定部T1〜T4が設けられている。そして、この場合、フロントサイドフレーム5の車幅方向への折曲時にサスペンションタワー部6aにおけるフロントサイドフレーム5との接続部近傍が変形することとなる。したがって、接続部近傍に凹部を設けると、該凹部の位置が変位し、エンジンEG側の突出部と係合できなくなる虞がある。
【0104】
しかし、本実施の形態においては、凹部6fはサスペンションタワー部6aの前壁6bの上部に設けられていると共に、ブラケット100の突出部100cは、凹部6fに係合可能な高さ位置に設けられているから、換言すれば、凹部6f及び突出部100cはフロントサイドフレーム5とサスペンションタワー6との接続部から上方に離間した位置に設けられているから、接続部近傍が変形したとしても、凹部6fは変位しにくい。したがって、エンジンEG側の後退防止部100cと係合できなくなる虞が解消される。
【0105】
なお、取付ブラケット22は凹部6fの下方、さらには凹部6f位置にも設けられているので、フロントサイドフレーム5が車幅方向に変形したときに、サスペンションタワー部6aの前壁6bの取付ブラケット22よりも上方側の部分の変形が一層良好に抑制されることとなる。
【0106】
また、本実施の形態においては、前端部60aがフロントサイドフレーム5に湾曲部5aにおいて接続され、後ろ上りに延びて、後端部60bがダッシュパネル2を介してアッパダッシュクロスメンバ16に接続された補強部材60が設けられているから、フロントサイドフレーム5が上下方向に変位しようとするのが抑制され、その結果、サスペンションタワー部6aの上下方向への変形も抑制される。したがって、サスペンションタワー部6aの凹部6fと、エンジンEG側の突出部100cとが係合できなくなる虞が一層良好に回避される。
【0107】
また、エプロンレインフォースメント4の車幅方向内側部には、サスペンションタワー部6aのトップ部6a′近傍とダッシュパネル2との間において、連結パネル47及びカウルサイドパネル41が取り付けられているから、エプロンレインフォースメント4の車体前後方向剛性が向上する。したがって、サスペンションタワー部6aに、後退しようとするエンジンEGから車体後向きの荷重が加わったとしても、エプロンレインフォースメント4及び前記連結パネル47及びカウルサイドパネル41を介してヒンジピラー3に確実に荷重が伝達されることとなる。その結果、サスペンションタワー部6aの後方への変位及びそれに伴うエンジンEGの後退が一層良好に規制されることとなる。また、サスペンションタワー部6aのトップ部6a′近傍とダッシュパネル2との間において車体前後方向に延びる閉断面Xも形成されるので、その効果が一層確実なものとなる。
【0108】
加えて、カウルサイドパネル41及び補強部材60の後端部はアッパダッシュクロスメンバ16に連結されていると共に、該アッパダッシュクロスメンバ16がヒンジピラー3に連結されているから、エンジンEGからサスペンションタワー部6aに荷重が加わったときに、アッパダッシュクロスメンバ16を介してヒンジピラー3に伝達される。したがって、サスペンションタワー部6aの後方への変位及びそれに伴うエンジンEGの後退がさらに一層良好に規制されることとなる。
【0109】
なお、本実施の形態においては、エンジンマウント110(マウント部材)が液体封入タイプのものの場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、衝撃荷重の作用時にフロントサイドフレーム5から離脱し、あるいはフロントサイドフレーム5側とエンジンEG側とに分離する可能性のあるエンジンマウントに広く適用可能である。
【0110】
また、本実施の形態においては、サスペンションタワー部6aの前壁6bに、請求項1における被係合部として凹部6fを設けたが、凹部6fに代えて、前壁6bを貫通する孔部としてもよい。この場合(孔部の場合)においても、エンジンEG側のブラケット100が後退すると、孔部と係合することとなり、前記実施の形態同様の効果が得られることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、自動車の前部車体構造において、フロントサイドフレームに対するエンジンの取付が解除された場合でも、エンジンの後退を抑制することができ、自動車産業に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の実施の形態に係る自動車の前部車体構造を示す車体前方からの斜視図である。
【図2】同前部車体構造の右側面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】同前部車体構造の平面図である。
【図5】図4のB−B断面図である。
【図6】図4のI−I断面図である。
【図7】図2のG−G断面図である。
【図8】図4のC−C断面図である。
【図9】図4のD−D断面図である。
【図10】図4のE−E断面図である。
【図11】図4のF−F断面図である。
【図12】図2のJ−J断面図である。
【図13】図2の矢印H方向で、斜め外方からの斜視図である。
【図14】図2のK−K断面図である。
【図15】図4のL−L断面図である。
【図16】作用の説明図である。
【符号の説明】
【0113】
1 自動車
2 ダッシュパネル
3 フロントヒンジピラー
4 エプロンレインフォースメント
5 フロントサイドフレーム
5a 湾曲部
6 フロントホイールハウス
6a サスペンションタワー部(サスペンションタワー)
6b 前壁
6f 凹部(被係合部)
12 フロアフレーム
13 サイドシル
16 アッパダッシュクロスメンバ
19 エプロンパネル
22 支持ブラケット(請求項3における補強部材)
30 フロントサスペンション
32 アッパーアーム
35 ダンパ
41 カウルサイドパネル
47 連結パネル
60 補強部材
60A 前部
60B 後部
65 第2補強部材
100 ブラケット(エンジンに固定されたブラケット)
100b 延長部(後退防止部)
100c 突出部
110 エンジンマウント(マウント部材)
T1 折曲予定部
T2 折曲予定部
T3 折曲予定部
T4 折曲予定部
V 閉断面
X 閉断面
Y 閉断面
Z1 エンジンルーム
Z2 車室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルと、
該ダッシュパネルの側部前方に設けられたサスペンションタワーと、
該サスペンションタワーの車幅方向内側を通って車体前後方向に延びるフロントサイドフレームと、
前記ダッシュパネルの側部に設けられたヒンジピラーと、
前記サスペンションタワーの車幅方向外側部と前記ヒンジピラーとを連結するエプロンレインフォースメントとを有し、
前記フロントサイドフレームにおける前記サスペンションタワーよりも前方の部位に、エンジンマウント部材が取り付けられていると共に、
該マウント部材に、エンジンに固定されたブラケットが支持された自動車の前部車体構造であって、
前記ブラケットに、エンジン後退時に前記サスペンションタワーと当接する後退防止部が設けられていることを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項2】
前記請求項1に記載の自動車の前部車体構造において、
前記後退防止部には、後方に突出する突出部が設けられていると共に、
前記サスペンションタワーの前壁における前記突出部の直後方に、前記突出部と係合可能な凹部または開口部でなる被係合部が形成されていることを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項3】
前記請求項2に記載の自動車の前部車体構造において、
前記サスペンションタワーの前壁における前記被係合部の近傍に、補強部材が取り付けられていることを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項4】
前記請求項3に記載の自動車の前部車体構造において、
前記補強部材は、サスペンションを構成するアッパーアームが取り付けられる取付ブラケットであることを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項5】
前記請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の自動車の前部車体構造において、
前記フロントサイドフレームは、前記サスペンションタワーの車幅方向内側部の下部に接合され、かつ車体前方からの衝撃荷重の入力時に、車幅方向に折曲可能に構成されており、
前記被係合部は、サスペンションタワーの前壁の上部に設けられていると共に、
前記ブラケットの突出部は、該被係合部に係合可能な高さ位置に設けられていることを特徴とする自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−143393(P2009−143393A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322812(P2007−322812)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】