説明

薄膜半導体装置および薄膜半導体装置の製造方法

【課題】トランジスタ特性の径時変化が小さくかつキャリア移動度が高速でありながらも、トランジスタ特性が高精度に制御された薄膜半導体装置、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】レーザ光Lhの照射によって多結晶化した活性領域5aを有する半導体薄膜5と、活性領域5aを横切るように設けられたゲート電極9とを備えた薄膜半導体装置において、活性領域5aのうち、少なくともゲート電極9と重なるチャネル部Cでは、結晶状態がチャネル長L方向に周期的に変化している。そして、略同一の結晶状態がチャネル部Cを横切っている。チャネル部Cには、結晶状態の変化の周期が2周期以上の所定数で設けられており、周期毎に非晶質帯51と結晶質帯52とが交互に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜半導体装置および薄膜半導体装置の製造方法に関し、特にはエネルギービームの照射によって半導体薄膜を結晶化させてなる複数の素子を備えた薄膜半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置のようなフラット型表示装置においては、複数画素のアクティブマトリックス表示を行うためのスイッチング素子として、薄膜トランジスタ(thin film transistor:TFT)が用いられている。薄膜トランジスタには、多結晶シリコン(poly-Si)を活性領域に用いたTFT(多結晶シリコンTFT)と、非晶質シリコン(アモルファスSi)を活性領域に用いたTFT(非晶質シリコンTFT)とがある。
【0003】
このうち、多結晶シリコンTFTは、非晶質シリコンTFTと比較してキャリアの移動度が10倍から100倍程度大きく、オン電流の劣化も小さいという特徴があり、スイッチング素子の構成材料として非常に優れた特性を有している。
【0004】
このような多結晶シリコンTFTの製造技術として、おおむね600℃以下の低温プロセスのみを用いて非晶質シリコン膜を多結晶化させる、いわゆる低温ポリシリコンプロセスが開発され、基板の低コスト化が実現されている。例えば、エキシマレーザを用いた低温ポリシリコンプロセスにおいては、ライン状に整形されたレーザ光を、わずかずつ移動させて大部分を重複させながら非晶質シリコン膜に対してパルス照射し、同一箇所に10〜20回のレーザ光照射を行う。これにより、活性領域の全面において結晶粒径が均一化された多結晶が得られるようにしている。
【0005】
また、低温ポリシリコンプロセスの他の例として、例えばYAGレーザーの高調波から得られた連続するレーザ光を、照射エネルギーが一定になるように一定速度で移動させながら非晶質シリコン膜に対して照射して結晶化領域を形成し、結晶粒界のない領域が薄膜トランジスタの活性領域となるようにパターン形成する方法が提案されている(下記特許文献1参照)。
【0006】
また、コロンビア大学等からは、マスクを用いた多段照射で結晶の横方向成長の幅を規定する方法として、Sequential lateral solidification (SLS)が提案されている(下記非特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2003−77834号公報(特に0091〜0092段落、0169段落参照)
【非特許文献1】A.T.Vouysas,A.Limnov and J.S.Im、「Journal of Applied Physics」(2003),Vol.94,P.7445-7452
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、上述したフラットパネル型の表示装置においては、さらなる動画特性やコントラスト特性の向上を目的としてハイフレームレートの液晶ディスプレイの開発が進められ、また有機ELディスプレイ等の自発光型のディスプレイなどの新しい表示装置の開発も進められている。これにともない、このような表示装置に対応可能なスイッチング素子として、急激に大きな電流を流しても特性劣化が無く、また各スイッチング素子の特性バラツキが小さいTFTの開発が求められている。
【0009】
しかしながら、上述した従来の低温ポリシリコンプロセスによって得られた多結晶シリコンTFTは、比較的大きな電流を流しやすい特性であってキャリアの移動度も大きく特性劣化も小さいことが非常に有利である反面、非晶質シリコンTFTと比較して素子間の特性、特に初期の閾値電圧やオン電流が大きくばらつくことが問題となっている。
【0010】
このようなバラツキを防止するために、上述したエキシマレーザを用いた結晶化においては、波長と同等の300nm程度の同じような結晶が成長した膜を用いることで素子のバラツキを最小限にすることが試みられてきた。しかしながら、このようにして多結晶化した膜を用いても、素子間の特性バラツキを抑える効果が十分ではなかった。
【0011】
この原因は、従来のエキシマレーザニール装置を用いた結晶化方法で結晶化する場合、多結晶シリコン膜の各結晶粒の大きさを高精度に制御することが困難であり、不揃いの粒径となってしまうためである。粒径の不均一性は、各薄膜トランジスタ(TFT)のチャネル部における結晶粒界数のばらつきに繋がり、その結果として薄膜トランジスタ(TFT)の特性がばらつくという問題になっている(例えば、K. Yamaguchi; et al; J. Appl. Phys., Vol. 89, No. 1, pp.590、M. Kimura et al; JAP. J. APPL. PHYSI. Vol. 40 Part1 (2001) , No. 1、他)。またこの問題は、特に有機EL素子を表示素子として持つ場合には、表示部での色むら等として現れてくるため非常に大きな問題となる。
【0012】
そして、以上のような薄膜トランジスタの特性バラツキは、上記特許文献1に記載の低温ポリシリコンプロセスであっても十分に抑えることは困難である。これは、チャンネル内部を構成する結晶領域が大きくなるために、結晶内部の欠陥や、転移等の有無による影響が特性のばらつきに大きく反映されるためと思われる。また、SLS法を適用して形成したTFTの特性における移動度バラツキは、先に示した非特許文献2の図8より、最適プロセスにおいても10%以上あることが読み取れる。これは、ラテラル成長部分の結晶領域において無数の非制御な結晶粒界が存在していることに起因すると思われる。
【0013】
そこで本発明は、トランジスタ特性の径時変化が小さくかつキャリア移動度が高速でありながらも、トランジスタ特性が高精度に制御された薄膜半導体装置を提供すること、さらにはこのような薄膜半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的を達成するための本発明の薄膜半導体装置は、エネルギービームの照射によって多結晶化した活性領域を有する半導体薄膜と、当該活性領域を横切るように設けられたゲート電極とを備えている。そして特にゲート電極と重なる前記活性領域のチャネル部では、結晶状態がチャネル長方向に周期的に変化している。また、略同一の結晶状態が当該チャネル部を横切っており、チャネル幅方向は同一の結晶状態となっている。
【0015】
このような構成の薄膜半導体装置では、チャネルを通過するキャリアは、必ず結晶状態の周期的な変化を横切って移動することになる。このため、この周期を制御することにより、当該薄膜半導体装置におけるトランジスタ特性(キャリア移動度)が精度良好に制御されるようになる。例えば、周期の大きさやチャネル部に配置される周期の数を一致させることで、複数の素子においてのキャリア移動度のバラツキが抑えられる。そして、このような構成において、各周期内の結晶状態を所定の状態とすることにより、多結晶化させた半導体薄膜を用いた素子の長所である、高いキャリア移動度が維持されることが判った。
【0016】
また、本発明は上述した構成の薄膜半導体装置の製造方法でもある。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、チャネル部が多結晶化されていることにより素子特性の径時変化が小さくかつキャリア移動度が高速でありながらも、高精度にキャリア移動度が制御された薄膜半導体装置を得ることが可能である。この結果、素子特性が良好であり、かつ素子間の特性バラツキを均一化することができ、このような薄膜半導体装置をスイッチング素子とした表示装置の高性能化を図ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の実施形態においては、例えば表示装置における画素のスイッチング素子としてトップゲート型の多結晶シリコンTFTを同一基板上に複数設けた薄膜半導体装置を例示して説明し、次にその製造方法を説明する。
【0019】
<薄膜半導体装置>
図1(a)は、実施形態の薄膜半導体装置の構成を示す平面図であり、図1(b)は図1(a)におけるA部の拡大平面図である。これらの図に示す薄膜半導体装置1は、同一の基板3上に複数の薄膜トランジスタTFTを設けてなる。尚、図面においては、1つの薄膜トランジスタTFTのみを図示している。
【0020】
各薄膜トランジスタTFTは、半導体薄膜5からなる活性領域5aと、この活性領域5aの中央部を横切る状態で配線されたゲート電極9とを備えている。
【0021】
このうち半導体薄膜5からなる活性領域5aは、非晶質シリコンとして成膜された半導体薄膜5にレーザ光のようなエネルギービームを照射することによって多結晶化させた領域を備えている。また、半導体薄膜5は、活性領域5aを含む島状にパターニングされていることとする。この場合、図示したように、多結晶化された活性領域5aの周囲に非晶質の半導体薄膜5部分が残らない様に、半導体薄膜5がパターニングされていても良い。また、活性領域5aの周囲に非晶質の半導体薄膜5部分が残っていても良い。
【0022】
以上のような活性領域5aにおいては、ゲート電極9と重なる活性領域5aが、チャネル部Cとなっている。また、活性領域5aにおいて、このチャネル部Cを挟んだ両側の領域がソース/ドレイン11となっている。
【0023】
そして本実施形態では、以上のように構成された各薄膜トランジスタTFTにおいて、各活性領域5aの結晶状態、およびこの結晶状態に対するゲート電極9の配置状態が特徴的である。
【0024】
すなわち、各活性領域5aは、少なくともゲート電極9と重なるチャネル部Cにおける結晶状態を、ゲート電極9の延設方向と略垂直なチャネル長L方向(すなわちゲート電極9の幅方向)に周期的に変化させてなる。つまり、チャネル部Cは、その結晶状態がチャネル長L方向に周期的に変化しているのである。ここで、結晶状態とは、結晶性−非結晶性、結晶粒径の大きさ、結晶粒界の有無、さらには結晶粒界の粗密による不純物の偏析度合いなどであり、これらの状態をチャネル長L方向に周期的に変化させているのである。
【0025】
また、チャネル長L方向に周期的に変化させた結晶状態は、活性領域5aにわたって連続しており、略同一の結晶状態が当該チャネル部Cを横切っていることとする。このため、チャネル長L方向に対して略垂直なチャネル幅W方向(ゲート電極9が延設される方向)における結晶状態は、略同一となっている。尚、このような結晶状態の周期的な変化は、各活性領域5aの全域に及んでいても良い。
【0026】
特に本実施形態においては、チャネル部Cは、結晶状態の変化の周期毎に、非晶質帯51と結晶質帯52とが交互に設けられていることとする。そして、これらの非晶質帯51と結晶質帯52とが、チャネル幅W方向に帯状に延設されている。
【0027】
ここで、ゲート電極9の線幅(すなわちチャネル長Lに対応する)は、ここで形成する薄膜トランジスタの規格に基づいて設計されている。そして、その下方のチャネル部Cには、所定の周期で非晶質帯51および結晶質帯52が交互に配置され設定されていることとする。また、同一特性の薄膜トランジスタTFTであれば、チャネル部Cにおける非晶質帯51および結晶質帯52が、略同一の周期で設けられていることが重要である。ここで略同一の周期とは、略同一の幅の非晶質帯51、および結晶状態が略同一の結晶質帯52が、略同一の周期数で交互に設けられている状態であることとする。
【0028】
そして例えば、非晶質帯51の幅が略同一であり、かつ結晶質帯52における結晶状態が略同一である場合、各TFTのチャネル部Cにおける周期数は、所定の周期数に対して±1周期の範囲であることが好ましい。また所定の周期数に対する実際の周期数の割合のバラツキが小さいほど、薄膜トランジスタTFTの特性バラツキを均一化できる。このため、チャネル部Cに設けられる非晶質帯51の本数(すなわち結晶状態の周期数)は2本以上で多いほうが良い。具体的には、チャネル部Cには、チャネル幅W方向に延設された非晶質帯51が25本程度設けられることが好ましい。ただし、チャネル部Cにおいてチャネル長L方向を横切る非晶質帯51の合計の幅が大きいほど、チャネル長L方向におけるキャリア移動度が低くなるため、キャリア移動度がある程度高く保たれるように非晶質帯51の幅はできるだけ小さい方が好ましい。
【0029】
また、以上のようにチャネル部C内に配置される非晶質帯51の本数を安定化させるため、活性領域5a内における少なくともチャネル部C内においては、非晶質帯51および結晶質帯52の幅は一定であることとする。
【0030】
ここで、図2には、チャネル部Cのさらに詳細な構成の一例を示す。この拡大平面図に示すように、以上のような周期構造で構成されたチャネル部C(活性領域5a)において、各結晶質帯52には、結晶質帯52の延設方向に凸となる三日月形状の結晶粒bが配列されていることとする。これらの結晶粒bは、結晶質帯52の幅方向にわたる大きさであり、結晶質帯52の延設方向に沿って1列で配列されている。また、以上のようなチャネル部Cにおいては、非晶質帯51と結晶質帯52との界面に、結晶粒界aが設けられる。各結晶粒界aは、チャネル幅W方向に当該チャネル部Cを横切る状態で延設された一連の結晶粒界として構成されていることになる。
【0031】
尚、チャネル部C(活性領域5a)における周期構造は、図2に示す構成に限定されることはない。例えば、図3(a)に示すように、各結晶質帯52には、結晶質帯52の延設方向に凸となる三日月形状の結晶粒bが2列(またはこれ以上の複数列)で配列されていても良い。この場合、結晶粒bが配列された列間には、結晶質帯52の延設方向に沿った一連の結晶粒界aが設けられ、結晶粒界a−a間にわたる大きさで結晶質帯52の延設方向に凸となる三日月形状の結晶粒bが配列される。そして、結晶粒bが2列以上の複数列で配列された結晶質帯52−52の間に非晶質帯51が狭持された周期構造となる。
【0032】
さらに、各結晶質帯52に配列される結晶粒bは三日月形状に限定されることはない。例えば、図3(b)に示すように、三日月形状をさらに線対称形状に2分割した半三日月形状の結晶粒b’を配列しても良い。この場合、結晶質帯52内において、結晶粒b’が配列された列間には、結晶質帯52の延設方向に沿った結晶粒界aが設けられ、結晶粒界a−a間にわたる大きさで結晶質帯52の延設方向に半三日月形状の結晶粒b’が配列される。
【0033】
以上のような三日月形状の結晶粒bおよび半三日月形状の結晶粒b’は、結晶質帯52の延設方向に沿ってエネルギービームを走査させることによって形成された結晶粒であり、その形成方法については、次の製造方法において詳細に説明する。
【0034】
<薄膜半導体装置の製造方法>
以下、図1および図2に示した構成の薄膜半導体装置1の製造方法を図4に基づき、必要に応じて他の図面を参照しつつ説明する。尚、図4は、図1におけるチャネル長L方向のx−x’断面に対応する。
【0035】
先ず、図4(1)に示すように、薄膜半導体装置を形成する基板3aを用意する。この基板3aとしては、非晶質基板のガラス、石英、サファイア基板、プラスチック基板、さらにはアルミニウムやステンレス等の金属基板等を用いる。
【0036】
そして、この基板3aの一主面上に、当該基板3aへの熱伝導を防止するための絶縁性のバッファー層3bを設ける。バッファー層3bとしては、例えば、珪素酸化物や、珪素窒化物、珪素炭化物の他、Ti,Al,Zr,Hf等の酸化膜を用いても構わない。これらのバッファー層3bの形成は、CVD、スパッタ、および蒸着等の公知の真空成膜技術によって行うことができる。また、バッファー層としては、無機系SOG膜や有機系SOG等の層間絶縁膜等として通常使用される絶縁層を用いることもできる。さらに金属膜の陽極酸化で形成される誘電体膜や、ゾルゲル法やMOD(Metal Organic Deposition)法等の公知の技術で成膜された膜であっても良い。
【0037】
次に、以上のように表面がバッファー層3bで覆われた基板3の一主面上に、非晶質の半導体薄膜5を形成する。ここでは、一例としてPE−CVD(plasma enhancement-chemical vapor deposition)法による非晶質シリコンからなる半導体薄膜5の形成を行う。このようにして得られた半導体薄膜5は、多量の水素が含有された、いわゆる水素化非晶質シリコン(a−Si:H)からなる。また、ここで形成する半導体薄膜5の膜厚は、例えば膜厚20nm〜100nmであることとする。
【0038】
尚、半導体薄膜5の形成は、成膜温度を低く抑えられる方法であれば上述したPE−CVD法に限定されることはなく、塗布法によって行っても良い。この場合、ポリシラン化合物を溶媒に混ぜた混合物を、基板3上に塗布成膜し、その後、乾燥、アニールを施すことにより半導体薄膜5を形成する。そして、先のPE−CVD法や、ここで示した塗布法などの成膜温度が低く抑えられた成膜方法では、いずれの場合にも成膜条件により多少の変動はあるが、0.5atoms%〜15atoms%程度の水素を含有した水素化非晶質シリコン(a−Si:H)からなる半導体薄膜5が得られる。
【0039】
次に、必要に応じて半導体薄膜5中の過剰水素イオンを脱離させるための、いわゆる水素抜きアニール処理を行う。このような水素抜きアニール処理としては、例えば400℃から600℃の炉アニールを行う。ただし、次に行う結晶化のためのアニール処理が、半導体薄膜5中において水素イオンをガス化膨張させることなくレーザ光の照射部から余剰水素を除去するように、照射エネルギーを調整して行われる場合には、水素抜きアニール処理を省略しても良い。
【0040】
以上の後、図4(2)に示すように、半導体薄膜5に設定した活性領域5aに、エネルギービームとしてレーザ光Lhを照射して結晶化させるための結晶化工程を行う。
【0041】
この結晶化工程においては、半導体薄膜5に対してレーザ光Lhを所定の速度で所定の方向に走査させながら照射する。
【0042】
この際、図5に示すように、レーザ光Lhの照射位置を、次に形成するゲート電極(9)の幅方向(すなわちチャネル長L方向)に所定ピッチで移動させ、移動させた各照射位置において所定の走査方向yにレーザ光Lhを走査させる。ここで、レーザ光Lhの走査方向yは、ゲート電極(9)の延設方向とほぼ一致する方向、すなわちチャネル幅W方向と一致させる。したがって、各活性領域5aにおいては、ゲート電極(9)の配線方向によって、それぞれ設定され方向にレーザ光Lhの照射位置を移動させ、移動させた各照射位置において所定の走査方向yにレーザ光Lhを走査させることとする。
【0043】
またこの結晶化工程においては、レーザ光Lhの走査方向yに沿って、結晶化されない非晶質の領域が非晶質帯51として所定の周期Pで残されるように、レーザ光Lhの照射量、照射スポット径、走査速度、および照射位置の移動ピッチなどを設定する。
【0044】
このような結晶化工程として、例えば図6に示すような爆発的結晶化を適用した方法が例示される。爆発的結晶化が生じるようにレーザ光Lhを照射するためには、レーザ光Lhの走査時に照射領域の半導体薄膜5が完全に溶融するまえに周囲の領域に熱が伝導するように照射領域の大きさや照射速度、照射エネルギーを制御したレーザ光Lhの照射条件を設定する。
【0045】
この際、半導体薄膜5に照射するレーザ光Lhの波長は、半導体薄膜5の膜厚とその吸収係数に基づき、半導体薄膜5を透過せず無駄なく吸収される様に、比較的吸収係数が小さくなる波長が選択される。すなわち、厚さ50nmの非晶質シリコンからなる半導体薄膜5を例にとると、波長350nm〜470nmのレーザ光が好ましく用いられる。このような波長のレーザ光Lhの発振源としては、例えばGaN系の化合物半導体レーザ発振器、さらにはYAGレーザ発振器が対応する。またレーザ光Lhの波長以外の照射条件として、レーザ光Lhを照射する対物レンズの開口数NA、レーザ光Lhの走査速度や照射エネルギー等を調整することによっても、半導体薄膜5の爆発的結晶化が行われるようにすることができる。
【0046】
そして、レーザ光Lhをチャネル長L方向に所定の移動ピッチp1で移動させた各照射位置において、このチャネル長L方向と略垂直な走査方向yに、上述した照射条件でレーザ光Lhを走査させる。この際、隣接するレーザ光Lhの各照射位置間に、所定幅の非結晶帯51が残るように、レーザ光Lhが重ならない範囲でレーザ光Lhのスポット径r1に対して上記移動ピッチp1を調整する。
【0047】
これにより、移動ピッチp1と同じ周期Pで非晶質帯51が設けられるように半導体薄膜5の多結晶化を進める。そして、非晶質帯51−51間には、レーザ光Lhの走査方向yに向かって凸となる三日月形状の結晶粒bが、非晶質帯51の延設方向に沿って配列された結晶質帯52が形成される。
【0048】
ここで、レーザ光Lhのスポット径r1およびレーザ光Lhの照射位置の移動ピッチp1(非晶質帯51の繰り返しの周期P)は、チャネル部に設けられる非晶質帯51の本数(周期数)を規定する重要なファクターになる。装置の構成において説明したように、チャネル部に設けられる非晶質帯51の本数(周期数)は、キャリア移動度を保てる範囲でトランジスタ特性のバラツキを均一化できる程度に多く設定されることとしたが、さらにここではプロセスのタクトタイムを損なわない範囲でより多くの本数の非晶質帯51がチャネル部に設けられるように、移動ピッチp1(非晶質帯51の周期P)が設定されていることとする。そして、この移動ピッチp1に合わせて、出来るだけ小さい所定幅の非結晶帯51が残るように、レーザ光Lhのスポット径r1が設定される。
【0049】
以上のような結晶化工程の他、例えば図3(a)に示したように、三日月形状の結晶粒bを複数列(例えば2列)で配列させた結晶質帯52を形成する場合には、走査方向yへの1回目のレーザ光Lhの走査の後、レーザ光Lhが重なりを持つ第1の所定ピッチでレーザ光Lhの照射位置をチャネル長L方向に移動させ、移動させた照射位置において走査方向yへの2回目のレーザ光Lhの走査を行う。これにより、非結晶の領域を残すことなく、1回目の走査によって形成された結晶粒bとの間に走査方向yに連続した結晶粒界aを形成しながら、2列目の結晶粒bを形成する。そして、結晶粒界aを挟んだ両側に三日月状の結晶粒bを配列した結晶質帯52を形成する。その後、所定幅の非結晶帯51が残るように、レーザ光Lhが重ならない第2の所定ピッチでレーザ光Lhの照射位置をチャネル長L方向に移動させ、移動させた照射位置において走査方向yへの1回目のレーザ光Lhの走査を行う。以降は、第1の所定ピッチと第2の所定ピッチとを固定して、上述した2回目のレーザ光Lhの走査と、1回目のレーザ光Lhの走査とを繰り返し行う。尚、結晶質帯52に三日月形状の結晶粒bを3列以上の複数列で配列させる場合には、第1の所定ピッチで照射位置を移動させて行う2回目のレーザ光Lhの走査の後、さらに第1の所定ピッチで照射位置を移動させて3回目(さらにはそれ以上)のレーザ光の走査を行い、次いで1回目のレーザ光Lhの走査を行い、以降2回目以降を繰り返し行う。
【0050】
さらに、図3(b)に示したように、結晶粒界aを挟んで半三日月形状の結晶粒b’を配列させた結晶質帯52を、非晶質帯51−51間に形成する場合には、レーザ光Lhの走査によって半導体薄膜5を深さ方向において完全溶融させるように、レーザ光Lhの照射条件を設定する。
【0051】
この際、半導体薄膜5の膜厚とその吸収係数に基づき、レーザ光Lhの波長、さらにはレーザ光Lhを照射する対物レンズの開口数NA、レーザ光Lhの走査速度や照射エネルギー等の照射条件を調整することで、半導体薄膜5を深さ方向に完全溶融させる。このような結晶化を行う場合であっても、先の爆発的結晶化と同様に、GaN系の化合物半導体レーザ発振器、さらにはYAGレーザ発振器による波長350nm〜470nmのレーザ光Lhを用いることができ、上述した照射条件を調整することにより、半導体薄膜5を深さ方向において完全溶融させる。
【0052】
この場合、図7に示すように、レーザ光Lhをチャネル長L方向に所定の移動ピッチp2で移動させた各照射位置において、このチャネル長L方向と略垂直な走査方向y(上述したゲート配線の延設方向)に走査させる。この際、隣接するレーザ光Lhの各照射位置間に、非結晶帯51が残るように、レーザ光Lhのスポット径r2(チャネル長L方向)に対するレーザ光Lhの移動ピッチp2を調整する。
【0053】
そして、半導体薄膜5を深さ方向において完全溶融させるように照射条件を調整することにより、レーザ光Lhの走査の中心に走査方向yに沿って一連の結晶粒界aが形成されるように結晶化が進み、この結晶粒界aを挟んだ両側に、半三日月状の結晶粒b’が非晶質帯51の延設方向に沿って配列された結晶質帯52が形成される。また、結晶質帯52の端縁にも、結晶質帯52の延設方向に沿った一連の結晶粒界aが形成される。このため、結晶粒界a−a間に、半三日月形状の結晶粒b’が、配列された状態となる。このような結晶化工程によれば、結晶粒b’は、レーザ光Lhの照射によって半導体薄膜5を完全溶融させ、液相成長によって再結晶化させて得られた結晶粒であるため、結晶の質も良好であり、キャリア移動度が高められる。
【0054】
尚、このような結晶化においても、レーザ光Lhのスポット径r2およびレーザ光Lhの照射位置の移動ピッチp2(結晶粒界aの周期P)は、プロセスのタクトタイムを損なわない範囲でより多くの本数の結晶粒界aがチャネル部に設けられるように設定されていることは、図6を用いて説明した爆発的結晶化と同様である。
【0055】
また、半三日月形状の結晶粒b’を4列以上の偶数列で配列させた結晶質帯を形成するには、レーザ光が重なりを持つ範囲内の第1の所定ピッチでレーザ光Lhの照射位置をチャネル長L方向に移動させ、移動させた照射位置において走査方向yへのレーザ光Lhの走査を行う工程と、レーザ光Lhが重ならない程度の第2の所定ピッチでレーザ光Lhの照射位置をチャネル長L方向に移動させ、移動させた照射位置において走査方向yへの1回目のレーザ光Lhの走査を行う工程とを、所定の周期で繰り返し行えば良い。尚、レーザ光Lhが重なりを持つ範囲内の第1の所定ピッチでレーザ光Lhの照射位置をチャネル長L方向に移動させた照射位置においての走査方向yへのレーザ光Lhの走査では、先の隣接する走査で形成された結晶粒b’の結晶性を引き継いだ結晶化が行われる。このため、結晶質帯の中央に配置される2列の半三日月形状の結晶粒b’は、互いに合体して三日月形状の結晶粒を構成することになる。
【0056】
ここで、上述した図6,図7を用いて説明した各結晶化工程においては、レーザ光Lhの照射によって形成される非晶質帯51の幅を一定化させること、および結晶粒界aの特性を一定化させることが極めて重要である。これらを一定化する要因としては、各照射位置においてのレーザの照射エネルギー密度が一定であること、走査速度が一定であること、照射位置の移動ピッチp1,p2が一定(周期Pが一定)であること、半導体薄膜5の膜厚が均一であること等が求められる。
【0057】
さらに、レーザ光Lhの照射エネルギー密度を一定とするために、少なくとも活性領域5aに対してレーザ光Lhを照射している間においては、レーザ光Lhが連続発振された状態となっていることが望ましい。ここで、連続発振とは、半導体薄膜5の温度が低下しない範囲の休止(例えば50ns以下の休止)がある場合も含むこととする。また、レーザ光Lhの照射エネルギー密度を一定として上述の照射を行うためには、エネルギーのフィードバック機能やフォーカスサーボ機能を備えたレーザ光の照射装置を用いることが望ましい。エネルギーのフィードバック機能やフォーカスサーボ機能は光ディスク等のカッティングマシーン等で使われる公知の技術で構築されることが可能である。
【0058】
また、半導体薄膜5に対するレーザ光Lhの照射は、レーザ照射の走査速度が一定になる領域で設定する。
【0059】
そして、半導体薄膜に対するレーザ光の照射位置の移動は相対的でよく、固定されたレーザ光の照射位置に対して半導体薄膜が形成された基板側を移動させても良いし、固定された基板に対してレーザ光の照射位置を移動させても良い。また、基板1とレーザ光の照射位置との両方を移動させても良い。
【0060】
さらに、上述した結晶化工程におけるレーザ光Lhの平行な走査は、1つのレーザ発振器を用いて順次行っても良いし、複数のレーザ発振器を用いて行っても良い。また、表示装置を駆動するための薄膜トランジスタの作製を考えた場合、複数の活性領域に対して同時に行われることが好ましい。つまり、基板1の表面側に設定配列された複数の活性領域に対してレーザ光Laを同時に多点照射することにより、複数の活性領域に対して結晶化工程を同時に行えることが、生産性を考慮した場合には好ましい方法である。
【0061】
このようなレーザ光Lhの多点照射を実現するためには、レーザ光の発振源として半導体レーザ発振器が好適に用いられる。半導体レーザ発振器は、エキシマレーザやYAGレーザなどの他のレーザ発振器と比較して非常に小型であるため、1つの装置内に複数配置が可能であり、かつ連続照射で定格40mWの出力が可能である。
【0062】
半導体レーザ発振器を用いることにより、大面積化に対応して半導体レーザの個数を増やすことで基板サイズに対して柔軟に装置設計が対応することが可能となる。このため、大型基板上に同じ性能のトランジスターを多数並べた構造を得ることができ、研究レベルで報告があるようなマスクを用いて粒界を制御する方法に比べて大面積で均一な特性のトランジスターを形成することに有利である。
【0063】
以上説明した結晶化のための結晶化工程を終了した後には、図4(3)に示すように、結晶化させた活性領域5aを残すような所定形状に半導体薄膜5をパターンエッチングし、各活性領域5aを島状に分割して素子分離する。この場合、図示したように、活性領域5aの周囲に結晶化させていない半導体薄膜5部分が残らない様に、半導体薄膜5をパターンエッチングしても良い。また、活性領域5aの周囲に結晶化させていない半導体薄膜5部分が残る様に、半導体薄膜5をパターンエッチングしても良い。尚、このような半導体薄膜5のパターンエッチングは、上述した結晶化工程の前に行っても良い。この場合、活性領域5aの予定となる領域を含む島状にパターニングされた各半導体薄膜5に対して、上述した結晶化工程が施されることになる。
【0064】
次に、パターニングされた活性領域5aを覆う状態で基板1の上部にゲート絶縁膜7を形成する。このゲート絶縁膜7は、酸化シリコンや窒化シリコンからなるもので良く、通常のPE−CVDによる公知の方法で成膜可能であり、この他にも塗布型の絶縁層として公知のSOG等の成膜を行っても良い。尚、このゲート絶縁膜7の形成は、半導体薄膜5をパターンエッチングする前に行っても良い。
【0065】
次に、上述したような島状に分割した各活性領域5aの中央部を横切る形状のゲート電極9を、ゲート絶縁膜7上に形成する。ここでは、図5を用いて説明したように、各活性領域5aに形成された非晶質帯51および結晶質帯52の延設方向に沿って、ゲート電極9を形成する。つまり、結晶状態が略同一な方向に沿って当該ゲート電極を形成するのである。この際、同一特性の素子であれば、下方に同一周期で非晶質帯51および結晶質帯52が配置されるように、同一線幅のゲート電極9をパターン形成する。
【0066】
以上のゲート電極9を形成する際には、先ず、スパッタ法または蒸着法により、例えばアルミニウムからなる電極材料層を成膜し、次にリソグラフィー法によってこの電極材料層上にレジストパターンを形成する。その後、このレジストパターンをマスクに用いて電極材料層をエッチングすることにより、ゲート電極9をパターン形成する。
【0067】
尚、ゲート電極9の形成は、このような手順に限定されることはなく、例えば金属微粒子を塗布して印刷する手法であっても良い。また、ゲート電極9を形成する際の電極材料層のエッチングにおいては、続けてゲート絶縁膜7をエッチングしても良い。
【0068】
その後、図4(4)に示すように、ゲート電極9をマスクに用いて、活性領域5aに自己整合的に不純物が導入されたソース・ドレイン11を形成する。ここでは、例えばゲート電極9をマスクに用いたイオンインプランテーションを行う。
【0069】
これにより、ゲート電極9の下方には結晶化された活性領域5aにおいて不純物が導入されない部分からなるチャネル部Cが形成される。これらのソース・ドレイン11およびゲート電極9の下方のチャネル部Cは、半導体薄膜5を結晶化させた多結晶シリコンで構成された結晶質帯が配列されるため、以上によって多結晶シリコン薄膜を用いたトップゲート型の薄膜トランジスタTFT(すなわち多結晶シリコンTFT)が同一基板3上に複数設けられた薄膜半導体装置1が得られる。
【0070】
そして、このような薄膜トランジスタTFTをスイッチング素子として用いた表示装置として、例えば液晶表示装置を作製する場合には、さらに以下の工程を行う。
【0071】
先ず、図8(1)に示すように、薄膜半導体装置1の基板3上に、薄膜トランジスタTFTを覆う状態で層間絶縁膜21を形成する。次に、この層間絶縁膜21に薄膜トランジスタTFTのソース・ドレイン11に達する接続孔21aを形成する。そして、この接続孔21aを介してソース・ドレイン11に接続された配線23を、層間絶縁膜21上に形成する。
【0072】
次いで、配線23を覆う状態で平坦化絶縁膜25を形成し、配線23に達する接続孔25aを平坦化絶縁膜25に形成する。次に、この接続孔25aと配線23を介してソース・ドレイン11に接続された画素電極27を、平坦化絶縁膜25上に形成する。この画素電極27は、液晶表示装置の表示タイプによって透明電極または反射電極として形成する。尚、図面は1画素の要部断面となっている。
【0073】
その後、ここでの図示は省略したが、画素電極27を覆う配向膜を平坦化絶縁膜上に形成し、駆動基板29を完成させる。
【0074】
一方、図8(2)に示すように、駆動基板29に対向配置させる対向基板31を用意する。この対向基板31は、透明基板33上に共通電極35を設け、さらにここでの図示を省略した配向膜で共通電極35を覆ってなる。尚、共通電極35は透明電極からなることとする。
【0075】
そして、駆動基板29と対向基板31とを、画素電極27と共通電極35とを向かい合わせた状態で、スペーサ37を介して対向配置する。そして、スペーサ37によって所定間隔に保たれた基板29,31間に液晶相LCを充填封止し、液晶表示装置41を完成させる。
【0076】
尚、上記構成の駆動基板29を用いて有機EL表示装置を作製する場合には、駆動基板29に設けられた画素電極を陽極(または陰極)とし、この画素電極上に正孔注入層、発光層、電子輸送層などの必要機能を有する有機層を積層させ、さらに有機層上に共通電極を陰極(または陽極)として形成することとする。
【0077】
以上説明した本実施形態の薄膜半導体装置1によれば、図1および図2を参照すると、ゲート電極9に沿って延設された非晶質帯51および結晶質層52が、チャネル部Cを横切るとともにチャネル長L方向に周期的に配置された構成とすることで、チャネル部Cを通過するキャリアは、必ず周期的に配置された非晶質帯51を横切って移動することになる。このため、この周期Pを制御することにより、薄膜半導体装置1における薄膜トランジスタTFTのトランジスタ特性(キャリア移動度)を精度良好に制御することが可能になる。つまり、周期Pとして、その大きさ、チャネル部Cに配置される非晶質帯51の数、非晶質他居51の幅の合計、結晶質帯52の結晶状態を一致させることで、複数の素子においてのキャリア移動度のバラツキが抑えられる。
【0078】
また、図3を用いて説明したように結晶質帯52内に結晶粒界aが設けられている場合であっても、周期Pとして結晶粒界aの周期を制御することにより、薄膜半導体装置1における薄膜トランジスタTFTのトランジスタ特性(キャリア移動度)を精度良好に制御することが可能になる。
【0079】
そして、以上の周期P(結晶粒界aの周期も含む)は、上述したようにレーザ光Lhの照射条件によって良好に制御することが可能であることから、上述したトランジスタ特性が精度良好に制御された薄膜トランジスタTFTを形成することが可能である。
【0080】
また特に、図2に示したように、結晶質帯52内に、結晶質帯52の幅方向にわたる大きさの結晶粒bが配列されている場合には、結晶質帯52内においてキャリアが結晶粒b−b間の粒界を通過することがないため、チャネル長L方向のキャリア移動度を高く維持することも可能である。
【0081】
したがって、このような薄膜半導体装置に形成された各薄膜トランジスタTFTを画素のスイッチング素子として用いて表示装置を構成することにより、表示装置の高性能化を図ることが可能になる。特に、有機EL表示装置においては、表示部での色むらを防止することが可能になる。
【0082】
尚、上述した実施形態においては、活性領域5aのチャネル部Cに周期的に非晶質帯51と結晶質帯52とが設けられている構成を説明した。しかしながら本発明としては、チャネル部Cにおける結晶状態がチャネル長L方向に周期的に変化しており、かつ略同一の結晶状態がチャネル部Cを横切っている構成であれば、結晶状態の周期の制御によってトランジスタ特性の精度を高精度に制御し、バラツキの小さい薄膜トランジスタTFTを得ることが可能である。このような構成の他の例として、例えばチャネル部Cを横切る非晶質帯51が設けられておらず、結晶粒の粒径のみをチャネル長L方向に周期的に変化させた構成が例示される。また、このような粒径の周期的な変化に追従させて、不純物の偏析状態を変化させた構成も例示される。
【0083】
また本発明においては、所定の移動ピッチで移動させた各照射位置において、所定の走査方向にレーザ光を走査させる結晶化工程により、上述したように周期的に結晶状態を変化させた多結晶化を行う方法を説明した。しかしながら、周期的に結晶状態を変化させた多結晶化を行う結晶化工程は、上述した方法に限定されることはない。
【0084】
例えば、ライン状に整形されたレーザ光を、ライン状の短軸方向に周期Pで移動させてパルス照射する方法であっても、レーザ光のライン状を一部のみ重ねることで、レーザ光が重ねて照射された部分と重ねずに照射された部分とで結晶状態の周期を変化させた活性領域を形成することが可能である。この場合、ライン状の短手方向をチャネル長L方向とすることで、結晶状態の周期の変化がチャネル長L方向になる。
【0085】
またさらに、レーザ光のビームプロファイルをガウシアンカーブとすることにより、レーザ光の中心部が通過した領域、周辺部が通過した領域とで結晶化に差が生じるようにしても良い。
【実施例】
【0086】
以下、本発明の実施例1〜3を、図4〜7および必要図に基づいて説明し、次に比較例を説明する。
【0087】
<実施例1-1,実施例1-2>
図6を用いて説明した結晶化工程を適用して複数の薄膜トランジスタを形成した(図1参照)。
【0088】
先ず、絶縁性の基板3上に、PE−CVD法によって膜厚50nmの非晶質シリコンからなる半導体薄膜5を成膜した。
【0089】
次に、この半導体薄膜5の各活性領域5aに、レーザ光Lhを照射して多結晶化するアニール処理を行った。この際、レーザ光Lhは、GaNレーザを用い、チャネル長L方向のスポット径r1=500nm、これと直交する方向yのスポット径=300nmの楕円形状とした。また、対物レンズの実効NA=0.6とした。そして、チャネル長L方向への移動ピッチp1=500nm、これと直交する走査方向yへの走査速度vt=3m/秒、基板面での照射エネルギー(板面照射エネルギー)17mW相当とし、半導体薄膜5の結晶化工程を行った。尚、半導体薄膜5に対するレーザ光Lhの照射は、常にフォーカスサーボをかけ、高速での走査時に焦点が外れないようにした。また照射エネルギーが一定になるように照射ビームの一部をモニターしてエネルギーの変動がないようにした。
【0090】
このような結晶化工程により、チャネル長L方向に周期P=500nmで、幅10nmの非晶質帯51を挟んで幅490nmの結晶質帯52を周期的に設けてなる活性領域5aを形成した。結晶質帯52内には、結晶質帯52の幅方向にわたる大きさで走査方向yに凸となった三日月状の結晶粒bが結晶質帯52の延設方向に配列形成された。各結晶粒bの大きさは、走査方向yの幅の最大部(三日月の腹)で100nm程度であった。
【0091】
次いで、多結晶化された各活性領域5aを、非晶質帯51の延設方向の幅(つまりチャネル幅W)が50μmとなるようにパターニングした。その後、パターニングした活性領域5aを覆う状態でゲート絶縁膜7を成膜し、この上部に非晶質帯51の延方向に沿ってゲート電極9を形成した。下記表1に示すように、ゲート電極9の線幅(つまりチャネル長L)は、実施例1-1で5μm、実施例1-2で20μmとした。これにより、各ゲート電極9の下方において活性領域5aを横切るように約10本、約40本の非晶質帯51が設けられるようにした。
【0092】
【表1】

【0093】
その後、ゲート電極9の両脇の活性領域5aにソース/ドレイン11を形成し、実施例1-1および実施例1-2のそれぞれにおいて、基板3上に各規格の薄膜トランジスタTFTを複数形成した。
【0094】
作製した各薄膜トランジスタTFTについてのオン電流のバラツキ±σを測定した。その結果を上記表1に合わせて示す。この結果から、非晶質帯51の本数が多いほど(周期数が多いほど)、オン電流のバラツキ±σが小さく、特性精度の良好な薄膜トランジスタが得られることが確認された。特に、チャネル長L=20μmにおいては、非晶質帯51の本数(周期数)が40本以であれば、オン電流のバラツキ±σ=±1.4%以内に抑えられ、有機電界発光素子を用いた表示装置における画素電極のスイッチング素子として、この薄膜トランジスタを用いた場合であっても、輝度バラツキが視認されない程度に充分に抑えられることが確認された。また、このときのFET移動度(キャリア移動度)は10cm2/Vsであり、画素スイッチとして十分良好なトランジスタ特性が得られることも確認された。
【0095】
<実施例2-1,実施例2-2>
図7を用いて説明した結晶化工程を適用して複数の薄膜トランジスタを形成した(図1参照)。
【0096】
先ず、絶縁性の基板3上に、PE−CVD法によって膜厚50nmの非晶質シリコンからなる半導体薄膜5を成膜した。
【0097】
次に、この半導体薄膜5の各活性領域5aに、レーザ光Lhを照射して多結晶化するアニール処理を行った。この際、レーザ光Lhは、GaNレーザを用い、チャネル長L方向のスポット径r2=500nmの円形状とした。また、対物レンズの実効NA=0.8とした。そして、チャネル長L方向への移動ピッチp2=500nm、これと直交する走査方向yへの走査速度vt=1m/秒、板面照射エネルギー12mW相当とし、半導体薄膜5の結晶化工程を行った。尚、半導体薄膜5に対するレーザ光Lhの照射時にフォーカスサーボをかけたこと、照射ビームの一部をモニターしたことは実施例1と同様である。
【0098】
このような結晶化工程により、チャネル長L方向に周期P=500nmで、幅10nmの非晶質帯51を挟んで幅490nmの結晶質帯52を周期的に設けてなる活性領域5aを形成した。結晶質帯52内には結晶粒界aを挟んで半三日月形状の結晶粒b’が結晶質帯52の延設方向に配列形成された。各結晶粒b’の大きさは、走査方向yの幅は最大部で150nm程度であった。
【0099】
次いで、実施例1と同様の手順を行い、非晶質帯51の延設方向の幅(つまりチャネル幅W)が50μmとなるように活性領域5aをパターニングし、ゲート絶縁膜7を介してゲート電極9を形成した。下記表2に示すように、ゲート電極9の線幅(つまりチャネル長L)は、実施例2-1で5μm、実施例2-2で20μmとした。これにより、ゲート電極9の下方において活性領域5aを横切るように、実施例2-1においては10本、実施例2-2においては40本の非晶質帯51がそれぞれ設けられるようにした。
【0100】
【表2】

【0101】
その後、ゲート電極9の両脇の活性領域5aにソース/ドレイン11を形成し、実施例2-1および実施例2-2のそれぞれにおいて、基板3上に各規格の薄膜トランジスタTFTを複数形成した。
【0102】
作製した各薄膜トランジスタTFTについてのオン電流のバラツキ±σを測定した。その結果を上記表2に合わせて示す。この結果から、非晶質帯51の本数が多いほど(周期数が多いほど)、オン電流のバラツキ±σが小さく、特性精度の良好な薄膜トランジスタが得られることが確認された。特に、チャネル長L=20μmにおいては、非晶質帯51の本数(周期数)が40本以であれば、オン電流のバラツキ±σ=±1.3%以内に抑えられ、有機電界発光素子を用いた表示装置における画素電極のスイッチング素子として、この薄膜トランジスタを用いた場合であっても、輝度バラツキが視認されない程度に充分に抑えられることが確認された。また、このときのFET移動度(キャリア移動度)は12cm2/Vsであり、画素スイッチとして十分良好なトランジスタ特性が得られることも確認された。
【0103】
<実施例3-1,実施例3-2>
実施例2と同様に、図7を用いて説明した結晶化工程を適用して複数の薄膜トランジスタを形成した(図1参照)。
【0104】
ここでは、実施例2におけるレーザ光Lhの照射条件のうち、対物レンズの実効NA=0.4、ピッチp2=600nmに変更したこと以外は、実施例2と同様にして結晶化工程を行った。
【0105】
このような結晶化工程により、チャネル長L方向に周期P=600nmで、幅10nmの非晶質帯51を挟んで幅590nmの結晶質帯52を周期的に設けてなる活性領域5aを形成した。結晶質帯52内には結晶粒界aを挟んで半三日月形状の結晶粒b’が結晶質帯52の延設方向に配列形成された。各結晶粒b’の大きさは、走査方向yの幅の最大部で150nm程度であった。
【0106】
次いで、実施例1と同様の手順を行い、非晶質帯51の延設方向の幅(つまりチャネル幅W)が50μmとなるように活性領域5aをパターニングし、ゲート絶縁膜7を介してゲート電極9を形成した。下記表3に示すように、ゲート電極9の線幅(つまりチャネル長L)は、実施例3-1で5μm、実施例3-2で20μmとした。これにより、ゲート電極9の下方において活性領域5aを横切るように、実施例3-1においては約8本、実施例3-2においては約33本の非晶質帯51がそれぞれ設けられるようにした。
【0107】
【表3】

【0108】
その後、ゲート電極9の両脇の活性領域5aにソース/ドレイン11を形成し、実施例3-1および実施例3-2のそれぞれにおいて、基板3上に各規格の薄膜トランジスタTFTを複数形成した。
【0109】
作製した各薄膜トランジスタTFTについてのオン電流のバラツキ±σを測定した。その結果を上記表3に合わせて示す。この結果から、非晶質帯51の本数が多いほど(周期数が多いほど)、オン電流のバラツキ±σが小さく、特性精度の良好な薄膜トランジスタが得られることが確認された。そして、チャネル長L=5μmであっても、非晶質帯51の本数(周期数)が8本程度で、オン電流のバラツキ±σ=±1.0%以内に抑えられており、有機電界発光素子を用いた表示装置における画素電極のスイッチング素子として、この薄膜トランジスタを用いた場合であっても、輝度バラツキが視認されない程度に充分に抑えられることが確認された。また、このときのFET移動度(キャリア移動度)は10cm2/Vsであり、画素スイッチとして十分良好なトランジスタ特性が得られることも確認された。
【0110】
<比較例>
従来構成のエキシマレーザーを用いた結晶化工程を適用して複数の薄膜トランジスタを形成した。
【0111】
先ず、実施例1と同様の半導体薄膜5を成膜した後、KrFのエキシマレーザーを、光学的に短軸方向の幅が400μmのラインビームに加工し、1パルス毎に短軸方向に8μmピッチで照射位置をずらし、残りの領域は重なるようにレーザーを照射した。このときに短軸に平行な断面で評価したエネルギープロファイルは、トップハット型(台形型)に調整してある。上記条件で照射を行った場合、同じ領域には約50ショットのパルスレーザーが照射されることになる。照射レーザーは1パルスが25nsで、310mJ/cm2相当のエネルギー密度となるようにアッテネーターを用いて調整した。この結果得られた結晶を二次電子顕微鏡(SEM)で観察すると、250nm角程度の四角い結晶が得られることが確認された。
【0112】
その後は実施例1と同様の手順を行い、チャネル長L(ゲート電極の線幅)20μm、チャネル幅W50μmの薄膜トランジスタTFTを複数形成した。
【0113】
得られた各薄膜トランジスタTFTについてトランジスタ特性を測定した結果を、下記の表4に示す。尚、表4には、比較例と同一規格(チャネル長L=20μm、チャネル幅W=50μm)の各実施例についての結果を合わせて示した。
【0114】
【表4】

【0115】
表4に示すように、本発明を適用した実施例1〜3の薄膜トランジスタにおいては、本発明を適用していない比較例の薄膜トランジスタと比較して、オン電流バラツキが小さく抑えられていることが確認された。尚、FET移動度については、比較例の薄膜トランジスタの方が高い値を示しているが、本発明を適用した実施例1〜3の値であっても画素スイッチとして十分良好な値である。
【0116】
また、レーザ照射の際に用いた対物レンズの実効NAが異なる何れの実施例1〜3であっても、本発明の適用のない比較例よりもオン電流のバラツキが少なかった。
【0117】
以上の結果、有機電界発光素子を用いた表示装置における画素電極のスイッチング素子として、本発明を適用した薄膜トランジスタを用いることにより、表示装置における画素間の輝度バラツキが充分に小さく抑えられることが確認された。
【0118】
尚、各実施例および比較例は実験的プロセスによって行われている。このため、実施例3は他の例と比較してプロセス(具体的にはハンドリング性)が改善された結果も含まれている。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明の薄膜半導体装置の構成を示す平面図である。
【図2】本発明の薄膜半導体装置の要部構成の一例を示す拡大平面図である。
【図3】本発明の薄膜半導体装置の要部構成の他の例を示す拡大平面図である。
【図4】本発明の薄膜半導体装置の製造方法を説明する断面工程図である。
【図5】本発明の薄膜半導体装置の製造方法における結晶化工程を説明する平面図である。
【図6】本発明の薄膜半導体装置の製造方法における結晶化工程の一例を詳細に説明する平面図である。
【図7】本発明の薄膜半導体装置の製造方法における結晶化工程の他の例を詳細に説明する平面図である。
【図8】本発明の薄膜半導体装置を用いた液晶表示装置の製造工程図である。
【符号の説明】
【0120】
1…薄膜半導体装置、5a…活性領域、5…半導体薄膜、9…ゲート電極、51…非晶質帯、52…結晶質帯、a…結晶粒界、b…三日月形状の結晶粒、b’…半三日月形状の結晶粒、C…チャネル部、L…チャネル長、Lh…レーザ光(エネルギービーム)、P…周期、W…チャネル幅、y…走査方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギービームの照射によって多結晶化した活性領域を有する半導体薄膜と、当該活性領域を横切るように設けられたゲート電極とを備えた薄膜半導体装置において、
前記ゲート電極と重なる前記活性領域のチャネル部では、結晶状態がチャネル長方向に周期的に変化しており、略同一の結晶状態が当該チャネル部を横切っている
ことを特徴とする薄膜半導体装置。
【請求項2】
請求項1記載の薄膜半導体装置において、
前記チャネル部には、前記結晶状態の変化の周期が2周期以上の所定数で設けられている
ことを特徴とする薄膜半導体装置。
【請求項3】
請求項1記載の薄膜半導体装置において、
前記結晶状態の変化の周期毎に、前記活性領域を横切る状態で非晶質帯と結晶質帯とが交互に設けられている
ことを特徴とする薄膜半導体装置。
【請求項4】
請求項3記載の薄膜半導体装置において、
前記結晶質帯には、当該結晶質帯の幅方向にわたる大きさの結晶粒が、当該結晶質帯の延設方向に配列されている
ことを特徴とする薄膜半導体装置。
【請求項5】
請求項3記載の薄膜半導体装置において、
前記結晶質帯には、当該結晶質帯の延設方向に凸となる三日月形状の結晶粒が当該結晶質帯の延設方向に沿って配列されている
ことを特徴とする薄膜半導体装置。
【請求項6】
請求項5記載の薄膜半導体装置において、
前記結晶粒は、前記結晶質帯の延設方向に沿ってエネルギービームを走査させることによって形成された結晶粒である
ことを特徴とする薄膜半導体装置。
【請求項7】
半導体薄膜にエネルギービームを照射することにより当該半導体薄膜の活性領域を結晶化する工程と、前記活性領域を横切る形状にゲート電極を形成する工程とを備えた薄膜半導体装置の製造方法において、
前記活性領域を結晶化する工程では、前記エネルギービームの照射位置を所定の移動方向に移動させることにより、当該移動方向に沿って結晶状態を周期的に変化させながら当該活性領域を多結晶化し、
前記ゲート電極を形成する工程では、前記結晶状態が略同一な方向に沿って当該ゲート電極を形成する
ことを特徴とする薄膜半導体装置の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の薄膜半導体装置の製造方法において、
前記活性領域を結晶化する工程では、前記エネルギービームが重ならない範囲で当該エネルギービームの照射位置を所定の移動方向に移動させることにより、前記半導体薄膜を多結晶化させた結晶質帯の間に周期的に非晶質帯を残す
ことを特徴とする薄膜半導体装置の製造方法。
【請求項9】
請求項7記載の薄膜半導体装置の製造方法において、
前記活性領域を結晶化する工程では、前記エネルギービームの各照射位置において前記移動方向と異なる走査方向に当該エネルギービームを走査させながら照射することにより、当該走査方向に沿って結晶粒を配列形成する
ことを特徴とする薄膜半導体装置の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の薄膜半導体装置の製造方法において、
前記活性領域を結晶化する工程では、爆発的結晶化が生じるように前記エネルギービームの照射を行う
ことを特徴とする薄膜半導体装置の製造方法。
【請求項11】
請求項7記載の薄膜半導体装置の製造方法において、
前記活性領域を結晶化する工程では、前記エネルギービームのビームプロファイルをガウシアンカーブにする
ことを特徴とする薄膜半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−281423(P2007−281423A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347053(P2006−347053)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】