説明

薄膜堆積装置及び方法

【課題】 低いサーマルバジェットで良好な膜質を有する薄膜堆積を行う装置及び方法を提供する。
【解決手段】 目的とする薄膜の成分元素を含む化合物を含む第1ガスの反応室11への導入及び停止を行う第1ガス導入系17と、酸化剤又は還元剤を含む第2ガスの反応室11への導入及び停止を行う第2ガス導入系27と、0.1〜100ミリ秒の投入時間で反応室11に配置した基板10の表面に加熱エネルギーを逐次、繰り返し投入する加熱手段16と、反応室11を排気する排気系18と、第1ガスの導入、第1ガスの停止、未反応の第1ガスの排気、第2ガスの導入、加熱エネルギーの投入、第2ガスの停止、及び未反応の第2ガスの排気とからなる一連の手順を1サイクルとし、このサイクルを逐次繰り返し実行する制御手段30とから薄膜堆積装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化膜又は窒化膜の薄膜堆積装置、及び薄膜堆積方法に関する。例えば本発明は、不純物拡散層を有する半導体基板の表面に絶縁膜を堆積して半導体装置を製造するための薄膜堆積装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大規模集積回路(LSI)は、性能向上のため、ますます大規模化し、素子の微細化もさらに勢いを増して進んできている。そのようなLSIの製造工程においては、プロセスの低サーマルバジェット(Thermal Budget)化がますます必要とされるようになってきている。
【0003】
低サーマルバジェット化の一つの方法がプロセス温度の低温化である。低温化の必要な工程はさまざまにあるが、例えばトランジスタ構成部分のソース及びドレイン領域として基板表面から浅い不純物拡散層を形成した後の工程すべてについては、プロセス温度を600℃程度以下にしなければならないという、特に低温化が必要とされている。これは、拡散層を浅くする一方、低いシート抵抗を実現するために、拡散層について、過飽和の高活性化状態を実現し、それを維持する必要があるからである。
【0004】
例えば、過飽和状態は、イオン注入等によって不純物イオンを導入した後の熱処理をフラッシュランプアニールと称される方法など、高温短時間の熱処理で行なうことで実現される。しかし、この過飽和状態を維持するためには、以降の工程の温度を概略600℃以下で行う必要がある。これが実現できない場合には、ドーパントの不活性化が起こり、シート抵抗が高くなる結果として、例えばトランジスタの寄生抵抗が増大する等の問題が生じる。
【0005】
拡散層形成後に行われる工程として、例えば、熱化学気相堆積法(熱CVD)によるシリコン酸化膜、あるいはシリコン窒化膜の堆積工程が挙げられるが、サーマルバジェットを低く抑えて実行されることが必須である。
【0006】
低いサーマルバジェットでの酸化膜或いは窒化膜の成膜方法の一つが、プロセス温度の低温化である。従来からシリコン酸化膜は、例えばテトラエトキシシラン(TEOS)と酸素とを流す熱CVD法で堆積が行われてきた。しかし600℃程度がプロセス温度の下限であり、これよりも低い温度での堆積は困難である。シリコン窒化膜はヘキサクロロジシラン(HCD)とアンモニア(NH)とを供給することで450℃程度でも成膜できる。しかし、この場合には、得られたシリコン窒化膜は水素を高濃度に含むなど膜質の点で問題があった。
【0007】
低いサーマルバジェットで酸化膜や窒化膜を成膜する方法としては、低温化による方法以外に、高温短時間プロセスによる方法がある。例えば、数ミリ秒程度のごく短いパルス幅を有するフラッシュランプの光を照射することによって基板表面を短時間のうちに昇温及び降温し、基板表面において成膜反応を実現する方法である。このような高温短時間プロセスに関して、例えば、反応室に原料ガスとしてゲルマンガス(GeH)を導入して基板表面に吸着させ、これにフラッシュランプのパルス光を照射することによって吸着ガス分子を分解、ゲルマニウム薄膜を堆積した例を示し、光をパルス的に照射することによって1原子層ずつ薄膜を成膜することが可能であることが明らかであるとした報告がある(特許文献1)。
【0008】
特許文献1ではさらに、2種以上の原料ガスを同時に流入させ、混晶物質を原子層状に成長させることが可能であることが容易に類推できることが示唆されている。さらに2種以上の原料ガスを交互に入れ替え、その度毎にパルス光を照射して、1原子層毎或いは複数原子層毎に異種物質のある多層原子層状の薄膜を形成できることが示唆されている。
【0009】
この技術は、単一ガスを用いた形態では、単に水素化物などの分解によって単一元素の共有結合物を堆積する技術である。示唆されている複数原料ガスを交互に用いる形態では、それぞれの原料ガスから別個の独立した原子層を各々形成していくものであって、複数原料から単一物質を合成、堆積するものではない。さらに複数の原料ガスを同時に流入させて混晶物質を原子層状に成長させる、示唆されている形態では、単一の混晶物質を生成することができる。しかし、同時流入によって成膜が連続的に進行してしまう、化学量論的に組成が定まらず反応比不定のまま成膜が進行する、それにより単一原子層毎の成膜が困難、成膜の不均一性を生じやすい、好ましくない副反応が起こりやすいなど、膜生成過程及び膜質の制御性は低い。さらに、フラッシュランプ光源を用いた実用的な薄膜形成技術としていかなる生産性向上手段を有するのか、何らの開示も示唆もない。
【0010】
要するに、従来提案されてきた方法及び装置によっては、良好な膜質を有する酸化膜や窒化膜を低いサーマルバジェットで製造することが困難であった。また実用レベルの生産性も望めなかった。
【特許文献1】特開平10−72283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、低いサーマルバジェットで良好な膜質を有する薄膜堆積を行う装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の特徴は、目的とする薄膜の成分元素を含む化合物を含む第1ガスの反応室への導入及び停止を行う第1ガス導入系と、酸化剤又は還元剤を含む第2ガスの反応室への導入及び停止を行う第2ガス導入系と、0.1〜100ミリ秒の投入時間で反応室に配置した基板の表面に加熱エネルギーを逐次、繰り返し投入する加熱手段と、反応室を排気する排気系と、第1ガスの導入、第1ガスの停止、未反応の第1ガスの排気、第2ガスの導入、加熱エネルギーの投入、第2ガスの停止、及び未反応の第2ガスの排気とからなる一連の手順を1サイクルとし、このサイクルを逐次繰り返し実行する制御手段とを有することを特徴とする薄膜堆積装置である。
【0013】
本発明の第2の特徴は、目的とする薄膜の成分元素を含む化合物を含むガスを導入して、基板の表面に化合物の分子又は化合物の分解した分子からなる吸着種を吸着させる工程と、酸化剤又は還元剤を反応種として吸着種上に導入する工程と、基板の表面に0.1〜100ミリ秒の照射時間を有する加熱エネルギーをパルス的に照射し、吸着種と反応種との間の反応を進行させる工程とからなる一連の手順を1サイクルとし、該サイクルを繰り返すことにより、薄膜を基板の表面に堆積させることを特徴とする薄膜堆積方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低いサーマルバジェットで良好な膜質を有する薄膜を堆積する装置及び方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。各図において、同一または類似の部分には同一または類似の符号が付してある。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。また特に断りのない限り、「パルス幅」はパルス波形におけるエネルギー強度の半値幅である。
【0016】
(薄膜堆積装置)
本発明の実施の形態に係る装置の概略を図1に示す。この装置は、原料ガスすなわち目的とする薄膜の成分元素を含む化合物を含む第1ガスの高温での分解及び化学的酸化還元によって基板10上に薄膜を堆積する薄膜堆積装置である。
【0017】
この薄膜堆積装置は、薄膜堆積処理を実施する反応室11と、反応室11内で基板10を載置する試料台12と、反応室11内へ原料ガスを供給する配管や弁等からなる第1ガス導入系17と、酸化剤又は還元剤を含む第2ガスを供給する配管や弁等からなる第2ガス導入系27と、キャリアガスを供給する配管や弁等からなるキャリアガス導入系29と、反応室11を排気する配管や弁、真空ポンプ(図示せず)等からなる排気系18と、基板10の表面に対して加熱エネルギーをパルス状に投入する加熱手段16とを備えている。加熱手段16としては例えばフラッシュランプ光源が望ましい。以下の説明でも、特に断らない限り、フラッシュランプ光源を使用しているものとする。
【0018】
反応室11は、例えばステンレススチール等の金属製である。反応室11の上部には試料台12に対向して透明窓14と、加熱手段16を格納するランプハウス15が配置されている。透明窓14は、例えば石英ガラス製であって、基板10を照射する加熱手段16の出射光を透過させると共に、反応室11をランプハウス15から隔離して気密保持の働きをする。
【0019】
試料台12には、例えばセラミックスあるいは石英あるいはシリコンカーバイト等が用いられる。セラミックスとしてはアルミニウムナイトライド(AlN)が好ましい。薄膜堆積の際、基板10は一定の高温に予備的に保っておく。このための加熱源が加熱手段16以外に必要であるが、図示の例では、予備加熱源20が試料台12の内部に備えられている。試料台12としては、AlN等のセラミックスあるいはステンレススチール等の表面を石英で保護したものでもよい。
【0020】
予備加熱源20としては、ニクロム線等の埋め込み金属ヒータや加熱ランプ等が用いられ、例えば反応室11外部に設置されている制御システム(図示せず)により温度制御が行われる。
【0021】
基板10を載置する試料台12は、反応室11の底部に垂直に設置された複数の支持軸13の上に載置されている。支持軸13は、紙面に対して垂直の方向に複数本、平行に並び、それらの円筒外面において試料台12を支持している。これらが制御システム(図示せず)からの指示によって軸の周りに一定方向に回転して反応室11内で試料台12を移動させる。
【0022】
加熱手段16は、少なくとも数センチ四方程度の面積を一度に照射するパルス光を逐次的に発することができる光源であって、典型的にはフラッシュランプ光源、特にキセノンフラッシュランプ光源である。パルス幅は0.1ミリ秒〜200ミリ秒、単一パルスの照射面でのエネルギー密度は5J/cm〜100J/cmに設定されることが望ましい。
【0023】
加熱手段16によるパルス光照射を複数回行うときの照射の間隔は、成膜時間全体を短くするためと、ガスの消費効率を上げるためには、短ければ短いほど望ましい。しかし、フラッシュランプ光源は、コンデンサに電荷を蓄え、これがある十分な値に達するまでは光照射ができない。このため従来は、照射の間隔を短くすることができず、実用的なプロセス時間の短縮が不可能であった。
【0024】
本発明の実施の形態においては、フラッシュランプ加熱手段16が実用的な時間間隔でパルス光を発することを可能にするために、ランプハウス15に隣接して、スイッチング手段22、複数のコンデンサ(図示せず)を有する蓄電手段24、及び各々のコンデンサに電気エネルギーを供給して充電するためのDC電源19が配設されている。
【0025】
スイッチング手段22は、加熱手段16と蓄電手段24との間に電気的に接続され、蓄電手段24が有する複数のコンデンサの間で、加熱手段16に対するコンデンサの接続の切り換えを行う。複数のコンデンサは、加熱手段16と接続されて、各々独立に加熱手段16に対して発光電荷を供給できる。スイッチング手段22は、典型的には電気的なスイッチング手段を採用し、パワートランジスタ、サイリスタ等の既知の大電力素子、制御回路を用いて構成される。スイッチング手段22は、充電されたコンデンサを加熱手段16と接続し、他のコンデンサは加熱手段16から切り離され、DC電源から充電を受ける。接続されたコンデンサにより加熱手段16が発光を終えると、加熱手段16との接続は他の充電済みのコンデンサに切換えられ、再び発光に供せられる。複数のコンデンサを切換えて使用することによって効率的な発光が実現できる。
【0026】
図2は、加熱手段16、スイッチング手段22、及び複数のコンデンサを含む蓄電手段24の構成例を示したものである。なお、説明の簡略化のためコンデンサの数は3つとし、またDC電源19の記載は省略している。実際にはコンデンサの数は3つに限られず、加熱手段16の要求される発光間隔や1回の発光に必要とされる電荷量によって適切に選択される。
【0027】
図2(a)は、加熱手段16が複数のフラッシュランプL,L,L3 を含み、それぞれに対してコンデンサC1、C2、C3 が一つずつ割り当てられた例である。1回の発光では、例えば最も左側に図示したようにフラッシュランプLに対してコンデンサC1 が接続され、加熱手段16の発光に寄与する。この時他のコンデンサC、Cは、加熱手段16から電気的に切り離され、DC電源(図示せず)から充電を受ける。発光が終了するたびにこのような接続状態が他の組、すなわちフラッシュランプLとコンデンサCとの組、フラッシュランプLとコンデンサCとの組に切り換えられ、発光が繰り返される。このようにして発光とその他のコンデンサの充電を効率的に行い、単一のコンデンサとフラッシュランプ光源との接続では実現できない、実用的なプロセス時間の短縮を図る。
【0028】
図2(b)に示した例は、例えば一個のコンデンサC(iは1,2又は3)で1パルス当たりの発光エネルギーは十分であるが、パルス幅をより小さくし、その分1パルス内において単位時間当たりの光強度をより大きくし、より短時間で急峻な昇/降温過程を実現する改良例である。
【0029】
このために図示した例では、コンデンサC1、C2、C3 及びフラッシュランプL,L,L3 の使用数はそれぞれ3つで、図2(a)の例と変わらないが、フラッシュランプL、L、Lは常時並列に接続して加熱手段16を構成し、これに対してコンデンサC、C、Cの接続を順次切り換える。加熱手段16と接続された1個のコンデンサC(iは1,2、3のいずれか)のみ加熱手段16の発光に寄与し、他のコンデンサC(jはiを除く1〜3)は加熱手段16から電気的に切り離され、DC電源(図示せず)から充電を受けることができる点は図2(a)の例の場合と同様である。並列に接続されたフラッシュランプL、L、Lに同時に通電するので、より短時間の高強度発光が可能となる。図2(a)の場合に対してパルス光のパルス幅及びピーク強度を変更することができるので、堆積する薄膜及び基板10の性質に応じたより適切な薄膜堆積条件を選択できる。
【0030】
このように本発明の実施の形態では、コンデンサを複数系統、例えば3系統準備し、同時にそれらに充電し、それらからの加熱手段16への電荷の供給を交互に行う。このため、従来の1/3程度の間隔でのランプ照射が可能となる。照射パルス間の時間間隔は、薄膜の生産性の観点から、30秒に1回以上の頻度で行えることが望ましい。以下でも具体的に例示するが、単一パルス照射毎に実質的に単原子層堆積を維持し、なおかつ実用的な成膜速度を考えるならば、少なくとも5nm/分程度、半導体装置の実用的な生産性を考えると、少なくとも1nm/分程度の成膜速度は確保されることが望ましく、10秒に1回、5秒に1回、或いはさらに1秒に1回の照射間隔が望ましい。使用するコンデンサの個数及び容量はこのような要求に応じて適宜選択する。
【0031】
図1に示したように、スイッチング手段22によるこのような動作は、第1ガス導入系17及び第2ガス導入系27の動作とともに制御手段30によって統合的に実行される。
【0032】
既に述べたようにこの薄膜堆積装置は、第1ガス導入系17から供給される原料ガスと第2ガス導入系27から供給される酸化剤又は還元剤を含む第2ガスとの化学反応を基板10表面でパルス光照射によるエネルギーによって押し進め、薄膜堆積を実現するものである。以下でも本発明の実施の形態に係る薄膜堆積の方法上の特徴については詳細に説明するが、堆積方法の特徴を最大限に生かすため、薄膜堆積装置の主要な動作を統合する制御手段30は、第1ガス導入系17による第1ガスの導入、第1ガス導入系17による第1ガスの停止、排気系18による未反応の第1ガスの排気、第2ガス導入系27による第2ガスの導入、フラッシュランプ加熱手段16による光照射、第2ガス導入系による第2ガスの停止、及び排気系18による未反応の第2ガスの排気、を1サイクルとし、このサイクルを逐次繰り返し実行することによって基板10上への薄膜堆積を実現する。本発明の実施の形態によれば、フラッシュランプ加熱手段16の発光動作は、既に例示したようなスイッチング手段22による加熱手段16と充電済みコンデンサC(iは1,2又は3)との電気的接続、及び発光後の他の充電済みコンデンサC(iは1,2又は3)への接続の切り換えによって実現される。
【0033】
このような薄膜堆積装置の構成によって、膜生成反応は基板10の表面及びその近傍に限定され、しかも一回のパルス光照射において基板10表面に吸着した吸着種のみ膜生成反応に寄与するので、膜生成過程及び膜質の制御性を高く維持したまま、フラッシュランプ光の利点を生かした低いサーマルバジェットでの薄膜堆積を実現することができる。しかも発光間隔の問題は複数コンデンサ間の切り換え及び待機時充電で対処し、現実的な成膜速度でフラッシュランプ光による高温短時間プロセスを実現することができる。
【0034】
(薄膜堆積方法)
以下、本発明の実施の形態に係る薄膜堆積方法について説明する。この方法は、目的とする薄膜の成分元素を含む化合物の酸化剤又は還元剤を用いた酸化還元反応によって薄膜を堆積する方法であって、好適には図1に示した薄膜堆積装置を用いて実行される。
【0035】
図3に概括したように、この方法は、基板の表面処理、反応室への第1ガスの導入、第1ガスの排気、酸化剤又は還元剤ガスの導入、フラッシュランプ光等の加熱エネルギーの照射、及び酸化剤又は還元剤ガスの排気、を繰り返し実行することによって行われる。
【0036】
目的とする薄膜の成分元素を含む化合物及び酸化剤又は還元剤としては、従来からCVD法による薄膜堆積のために用いられてきたものが基本的に使用可能である。成分元素を含む化合物は、典型的には成分元素の塩化物、水素化物、或いは炭化水素化物などの有機系物質、或いはこれらの組み合わせである。また、酸化剤又は還元剤は、第1ガスに含まれる目的とする薄膜の成分元素を含む化合物と高温下で反応して薄膜を生成することができる化学物質であって、好適にはガス状のものである。
【0037】
薄膜の堆積例として、ジクロロシラン(DCS)とアンモニア(NH)とによるシリコン窒化膜の堆積、DCSと酸化窒素(NO)によるシリコン酸化膜(SiO)の堆積、シラン(SiH)と酸化窒素(NO)とによるシリコン酸化膜(SiO)の堆積、トリメチルアルミニウム(Al(CH)とオゾン(O)或いは酸素(O)とによるアルミナ(Al)膜の堆積、トリメチルアルミニウムと水(HO)とによるアルミナ膜の堆積、ジメチルエチルアミン−アラン(DMEAA:(AlH)・N(CH)とオゾン或いは酸素とによるアルミナ膜の堆積が例示される。また、テトラキスジメチルアミノハフニウム(TDMAH:Hf(N(CH)、テトラキス(エチルメチルアミノ)ハフニウム(TEMAH:Hf(NCH)、テトラキス(ジエチルアミノ)ハフニウム(TDEAH:Hf(N(C)、塩化ハフニウム(HfCl)のいずれかとオゾンとによる酸化ハフニウム(HfO)膜の堆積が例示できる。これらの中で特に好適に実施できるのが、ジクロロシランとアンモニアとを用いたシリコン窒化膜の堆積反応である。シリコン窒化膜の堆積のためには、成分元素を含む化合物として他に、ヘキサクロロジシラン(HCD)や、トリクロロシラン(TCS)、あるいはビス(ターシャリ−ブチルアミノ)シラン(BTBAS)を用いることもできる。
【0038】
本発明の実施の形態に係る薄膜堆積方法は、低圧(〜10−3atm(約〜1.0×10Pa))、減圧下或いは大気圧下(0.1〜1atm(約1.0×10〜1.0×10Pa))いずれでも基本的に実行可能である。図1を参照すると、低圧や減圧状態で行う場合には、キャリアガス導入系29は、第1ガス導入系17或いは第2ガス導入系27とともに稼働してキャリアガスを含む混合ガスを反応室11に供給する場合を除き、基本的に閉じたままにしておく。他方、排気系18は常時稼働し、反応室11を排気し続ける。大気圧状態で行う場合には、キャリアガス導入系29は基本的に常時開いてキャリアガスを反応室11内に供給し続け、排気系18によって反応室11を排気し続ける。
【0039】
(イ)本発明の実施の形態に係る薄膜堆積方法を実行するために、まず支持軸13に載せた試料台12及び基板10をあらかじめ光源10の真下の所定位置に移動しておき、基板10の表面処理を行う。図3に示した第一番目の工程である。具体的には例えば、反応室11内を排気、キャリアガス導入系29を通して窒素(N)或いはアルゴン(Ar)等の不活性ガスを反応室11内に供給しながら、予備加熱源20を用いて試料台12及び基板10の予備加熱を行う。このようにして基板10に付着した水分や空気成分等を除去する。
【0040】
(ロ)基板10の表面処理の後、低圧、減圧下或いは常圧下で、反応室11内に第1ガス導入系17に設けられたバルブVを開けて第1ガスを導入する。第1ガスの導入は、典型的には窒素やアルゴンなど不活性ガスをキャリアガスとし、キャリアガスとの混合状態で導入する。この際、基板10の温度は予備加熱源20を用いて適当な温度に調節しておく。通常は基板表面の温度で、処理を通じて100℃から700℃までの温度にする。
【0041】
(ハ)一定のガス滞在時間をおいた後、図3に示した第1ガスの排気の工程を実行する。このためには、第1ガス導入系17に設けられたバルブVを閉鎖して第1ガスの導入を止める。第1ガスの導入を止めた後、反応室11内に溜まった第1ガスを迅速に排気するため、キャリアガスの流量を増加させて、反応室11内を積極的にパージしてもよい。
【0042】
なお、第1ガス導入時の基板10の温度、成分元素を含む化合物の反応室11内でのガス分圧、及びその基板10上での滞在時間は、吸着種の吸着反応の進行及びその程度に影響を与える。例えば、反応室11内において成分元素を含む化合物のガス圧力が低いほど化合物分子の基板10表面への被着速度は低下する。このためガス圧力を低めに設定した場合にはその分一般に滞在時間を長くとらなければならない。逆にガス圧力をラングミュア吸着に必要な圧力よりも高くしすぎれば、望ましい単原子層毎の成膜は阻害され、多原子層毎の堆積となる。また、堆積する薄膜及びその原料とする化合物によっては、導入した化合物分子からより反応活性な活性種が生じ、新たに発生した活性種が膜生成反応の前駆体として寄与する場合がある。ジクロロシランから吸着種としてジクロロシリコン(SiCl2)が基板10上に生じ、膜生成反応が経由される場合がその代表例である。このような場合、基板10表面を一定以上の温度に予め加熱しておかないとその発生が阻害される場合があり、好ましくない。しかし、昇温し過ぎると基板10からの吸着種の再脱離が顕著になり、また好ましくない。いずれにしろこれらの条件についてはあらかじめ検討を繰り返して、適正な経験値を得ておき、適切な条件で薄膜堆積が行えるようにする。
【0043】
(ニ)反応室11から実質的に第1ガスが排除された後、第2ガス導入系27に設けられたバルブVを開け、ガス状の酸化剤又は還元剤を反応室11内に導入する。酸化剤又は還元剤の導入後、基板10表面に対してフラッシュランプ光源のパルス光等の加熱エネルギーを照射する(第4番目及び5番目の工程)。
【0044】
なお、導入した酸化剤又は還元剤をいったん排気した後パルス光の照射を行ってもよいが、典型的には、排気せず残したまま、例えば反応室11内への酸化剤又は還元剤ガスの導入流量、及び分圧を一定に維持したまま加熱エネルギーの照射を行う。このようにすることによって、基板10表面においては、酸化剤又は還元剤が吸着種の上面に導入され、かつ未反応の酸化剤又は還元剤が吸着種上面に残留しているタイミングでパルス光が照射される。
【0045】
例えば以下でさらに詳細に説明するシリコン窒化膜の例では、ジクロロシラン(DCS)から生じる吸着種に比較し、酸化剤又は還元剤として使用するアンモニア分子は吸着反応が起こりにくい。このため、反応室11内でアンモニアガスを流し続けたままフラッシュランプ光等の加熱エネルギーの照射を行えば、照射されたエネルギーが、基板10表面において、DCSの化学的酸化還元以外にアンモニアガス分子の吸着を助ける働きをもち、最終的な薄膜堆積のために非常に好都合である。酸化剤又は還元剤ガスも一定の時間経過後、その供給を止め、反応室11内から排気させた後にフラッシュランプ光等の加熱エネルギーの照射を行う場合には、第1ガスの導入の場合と同様、その滞在時間はあらかじめ十分検討を行う必要がある。
【0046】
(ホ)加熱手段16として用いるフラッシュランプ光源は、典型的には一回発光させ、そのパルス光を基板10の表面に照射する。照射後は、第2ガス導入系27を閉じて酸化剤又は還元剤ガスの反応室11への供給を止める。キャリアガス導入系29と排気系18の稼働によって反応室11内はパージされる。基板10の上面においては、この工程の実行によって、未反応の酸化剤又は還元剤が基板10上面から離脱する。
【0047】
図3に示したように、以上の第1ガスの導入から反応室パージまでの操作を繰り返すことによって、望ましくは原子層単位で薄膜の堆積が繰り返され、所望の膜厚を有する成分元素を含む薄膜が基板10上に堆積される。
【0048】
本発明の実施の形態に係る方法によれば、フラッシュランプ光等の加熱エネルギーの基板10への照射によって成膜反応に必要なエネルギーが供給され、膜生成反応は基板10の表面及びその近傍に限定される。しかも一回のパルス状照射において、基板10から離脱しなかった吸着種のみが膜生成反応に寄与する。このため、膜生成過程及び膜質の制御性を高く維持したまま、フラッシュランプ光等の加熱手段16の利点を生かした低いサーマルバジェットでの薄膜堆積が実現される。
【0049】
(光照射及び膜生成過程の考察)
図4は、一例として、予備加熱温度450℃のもとでシリコン半導体基板10の表面にフラッシュランプ光源からのパルス光を一回照射したとき、時間の経過とともに基板10の表面温度が変化していく様子を示した図である。
【0050】
フラッシュランプ加熱手段16による加熱の温度プロファイルは、典型的には図4に例示したような波形をとり、ハロゲンランプ等の赤外線ランプに比べて温度の上昇及び降下が急峻である。光束パイロメータやシミュレーションによってシリコン半導体基板10の表面温度を分析すると、ハロゲンランプ光では、例えば500℃と1050℃との温度間の昇降温時間(500℃から1050℃まで昇温した後、再び500℃に戻るまでに要する時間)は10秒以上、例えば約15秒が典型的である。その上、950℃と1050℃との間の100℃の昇/降温時間は、典型的には2〜3秒必要である。これに対して、フラッシュランプ加熱手段16を用いると、例えば450℃から1200℃程度の間の昇降温時間は0.1ミリ秒〜200ミリ秒、より好ましくは0.5ミリ秒〜50ミリ秒程度に調整可能である。
【0051】
ただし、フラッシュランプ光源はその発光原理に基づき、通電電荷量を小さくするなどしてパルス幅を極端に小さくしようとすると、ピーク値も低下し、基板に対するエネルギー投入量も十分に確保できなくなる。図4に示した基板10の表面温度の変化で換言すれば、急激に昇/降温しようとして加熱手段16のパルス幅を極端に小さくしても、パルスのピーク強度も低下し、十分なピーク温度が達成できない。またトータルでのエネルギー投入量(図示した波形の面積におおよそ比例)も不十分となる。図2(b)に示した構成例はこの問題に対する解決策を提供する。典型的には昇温/降温時間を0.1ミリ秒以下にしようとすると、基板10にシリコン半導体を用いた場合基板10の最高到達温度は高くても950℃程度、或いはそれ以下となる。
【0052】
昇/降温時間を200ミリ秒以上にすると、例えばシリコン半導体基板10が絶縁型電界効果トランジスタを含む半導体装置の場合、ソース・ドレイン領域の不純物拡散層において既に活性化させた不純物が再び不活性化されてしまう恐れがある。このため、このような薄膜堆積の場合には、200ミリ秒以上の昇/降温時間は好ましくない。
【0053】
本発明の実施の形態に係る方法によれば、目的とする薄膜の成分元素を含む化合物から生じた吸着種が吸着し、さらにその吸着種上に酸化剤又は還元剤が導入された基板10の表面にフラッシュランプ光のパルス波を照射することによって、基板10の表面及びその下の浅い層は短時間内に昇温される。この熱エネルギー及び酸化剤又は還元剤の存在によって、吸着種の分解、化学的な酸化還元反応が進行し、反応物が薄膜として基板10の表面に堆積する。基板10表面へ吸着し加熱される吸着種及び吸着種上に導入された酸化剤又は還元剤のみ、或いはさらにその上面に残留させた酸化剤又は還元剤が反応に関与し、反応の進行が吸着種に限定、律速される。気相中で副次的な化学反応も進行せず、数原子層単位好ましくは単原子層単位で、高純度の薄膜が得られる。
【0054】
さらに、極めて短時間内の加熱処理であるので、熱エネルギーの投入によって特性変化を受け易い不純物拡散層等を含む半導体装置であっても、不活性化等これらに対して悪影響を与えない。フラッシュランプは可視域に主たるエネルギーを有し、基板10が半導体材料等の場合、レーザ等の小面積の紫外光と比較し、相対的にその吸収が緩慢であり、基板10に対する応力発生も小さく抑えることができる。
【0055】
通常のCVD法においては、第1ガスと酸化剤又は還元剤の双方のガスが同時に供給されるため、本来は表面のみで生じることが望ましい反応が気相中においても起こり、この気相中での反応物も薄膜の形成に寄与する。しかも双方のガスの供給とともに膜物質の生成反応が連続的に進行し易い。これらの理由によって、薄膜を堆積しようとする基板表面の微細な性状によっては、薄膜堆積が生じやすい所と生じにくい所、妨げられ易い所など、薄膜の堆積に不均一が生じる。このため従来法では、例えば微細構造を有する半導体装置の製造においてステップカバレージを劣化させる問題があった。
【0056】
これに対して実施の形態の方法では、膜物質の生成反応は、パルス光の照射によってエネルギーを投じられる基板10の表面ないしその近傍に限定される。膜の原料物質も、1回の双方のガスの導入及びパルス光照射毎に、先に供給し基板10表面に吸着し得た吸着種の分子数分に限られる。このため、基板10表面全面にわたって数原子層分ずつ、吸着条件の精密化次第で1原子層分ずつ、成膜過程が基板10の露出面全面にわたって平等に繰り返されることができ、ステップカバレッジの向上など膜堆積の均一性に大いに寄与することができる。
【0057】
以上のように、本発明の実施の形態は、ハロゲンランプ等によっては到底期待できない数ミリ秒オーダでの短時間昇温及び降温過程、紫外光などではかえって困難なフラッシュランプ光の適度に緩慢な吸収及びその熱エネルギーへの変換過程、基板への分子吸着を利用した反応及び膜形成部位の限定化、酸化還元剤ガスを別途、吸着層形成後に導入することによる反応進行の制御性、といった種々顕著な特徴を同時に有する。このため、本発明に実施の形態によれば、良好な膜質を有する薄膜を低いサーマルバジェットで形成することが初めて可能となっている。
【0058】
なお、表面反応のみを起こすようにガスを交互供給する方法としては、従来から原子堆積法(ALD)等の方法が提案されており、この方法によっても良好なステップカバレージを期待できる。しかしながら、ALDでは熱反応のみを利用しながらも、また気相中での反応を抑えるため、比較的低温で成膜されるのが一般的となっていて、成膜された膜中にたとえば炭素(C)などの不純物が残りやすいというデメリットがある。これに対して実施の形態の方法では、表面での分解がフラッシュランプによって促進されるため、不純物が残るというデメリットは解消される。
【0059】
(シリコン窒化膜の堆積)
本発明の実施の形態に従って、DCSとアンモニアとを用いてシリコン基板10上にシリコン窒化膜を堆積することができる。全体としての反応は次式のようになる。
【0060】
3SiHCl+4NH3 →Si3N4+6HCl+6H
工程の実行は、減圧、低圧、或いは大気圧下でも行うことができるが、低圧下が望ましい。ここではキャリアガス導入系29から常にキャリアガスを導入しつつ、なおかつ排気系18を常時駆動して反応室11を排気し続けて、低圧(LPCVD)にて、工程を実行する。
【0061】
まずウェット処理により自然酸化膜を除去したシリコン半導体基板10を図1に示したように試料台12に装着する。基板10に、キャリアガス導入系29から、例えば窒素(N)ガスあるいはアルゴン(Ar)ガス等の不活性ガスを供給しながら、試料台12に埋め込まれた予備加熱源20により基板10を予備加熱し、基板10に付着した水分や空気成分をパージする。
【0062】
第1ガス導入系17を駆動して、成分元素を含む化合物であるDCSを反応室11内に導入する。DCSの流量は典型的には1〜500sccmである。キャリアガスとDCSとの混合気体の全圧力は0.1〜20Torr、この混合状態の中でDCSのガス分圧は0.01〜1Torrが好ましい。このようなガス分圧で基板10の表面に流し続ける時間、すなわち滞在時間は1〜20秒が好ましい。全圧力、分圧、滞在時間が、このような範囲であることが好ましいのは、それぞれ、圧力に関しては、高圧すぎることによる気相反応を抑止するとともに、適度な圧力とすることでガスの付着を起こしやすくするため、分圧に関しては均一なガスの付着を促進するため、滞在時間に関しては、必要十分な付着を短時間で実現できるのがこの範囲にあるため、といった理由による。
【0063】
なお、直接反応室11に導入するのはDCSガスであるが、DCS分子に比較し高い反応性を有するジクロロシリコン(SiCl)の分子が吸着種として生成し、これが基板10表面において、DCS分子とともにシリコン窒化膜の生成に寄与する。この吸着種の生成を促進するために特に重要なパラメータが基板10の予備加熱温度であり、吸着分子の再脱離を実質的に招かない範囲で、基板10の予備加熱温度は高めに設定する。この観点から望ましい予備加熱温度(基板の表面温度)の範囲は、350〜600℃である。
【0064】
基板10にシリコン基板を用い、半導体装置の製造工程の一部としてシリコン窒化膜を堆積する場合には、フラッシュランプ光を照射した際の基板10に対する欠陥発生や不純物拡散層の不活性化の問題も考慮しなければならない。この点から望ましい基板10の予備加熱温度はおおよそ200℃から550℃程度までである。200℃未満の予備加熱温度だと、成分元素を含む化合物を分解、アンモニアガスを用いた還元反応を進行させて薄膜を堆積させるためにフラッシュランプ光の照射エネルギーを著しく大きくしなければならず、半導体基板10に結晶欠陥を発生させる恐れがある。550℃を超えて予備加熱を行うと、基板10に既に形成されている不純物拡散層中の不純物原子の不活性化を招いてしまう恐れがある。したがって総合的に考えると、この場合には、350〜550℃が全工程を通じた望ましい予備加熱温度である。
【0065】
DCSの滞在時間経過後、第1ガス導入系17を閉じ、DCSの供給を止める。さらに基板10を予備加熱したまま、第2ガス導入系27から、希釈されていないアンモニアガスを反応室11内に導入する。流量は典型的には10〜1000sccmである。アンモニアガスによる反応室11内の圧力は、1〜200Torrが好適である。その理由は前のステップで付着したガスに対し、さらに窒素原子が付着するのに必要十分な、最適な条件であることによる。
【0066】
フラッシュランプ光源からのパルス光の照射は、アンモニアガスの一定の滞在時間、好ましくは0.5〜20秒の時間が経過した後、アンモニアガス分圧を維持したまま行うことが望ましい。これは、DCSからの吸着種に関しては、ガスをシリコン半導体基板10の表面に流すだけで吸着が起きるのに対して、アンモニアガスの場合はDCSの場合ほど吸着が進行しないため、フラッシュランプ光の照射がこの吸着の困難さを補い、基板10の表面近傍における窒化膜の生成反応を容易にするためである。アンモニアガスを反応室11に残したまま、加熱手段16によりピーク温度で1050℃程度の加熱を行い、Si半導体基板10の表面にシリコン窒化膜が形成される。
【0067】
この際、典型的な基板10表面の昇/降温時間は、450℃〜1050℃間の昇降温時間で、約5ミリ秒、950℃〜1050℃の100℃間の昇/降温時間で例えば約1ミリ秒である。またこの際基板10の単位面積あたりに投入されるパルス光のエネルギーは、結果的に20J/cm〜30J/cm程度が望ましい。
【0068】
ハロゲンランプなど赤外線ランプを用いたRTP(Rapid Thermal Process)の場合、これらの昇/降温に要する時間は数秒から数十秒程度である。また、シリコン基板中にボロン(B)や燐(P)等の不純物原子が存在する場合、その際の基板の温度にも依存するが、例えば1000℃程度の場合、それらが数原子層分、例えば1nm程度拡散するために必要な時間はおおよそ10−1秒程度のオーダであるとの試算ができる。
【0069】
従って、フラッシュランプを用いたミリ秒単位の昇/降温時間を有する高温プロセス、すなわち本発明の実施の形態によるシリコン窒化膜の堆積方法によれば、窒化膜堆積工程において有意に不純物の非活性化の問題が抑えられる、すなわち有意に低減されたサーマルバジェットを実現することが可能と理解される。以下でも不純物拡散層を形成した後にシリコン窒化膜を堆積してその堆積工程の不純物拡散層への影響を抵抗値の変化によって検討した結果を示しているが、この結果も以上の考察の正当性を裏付けている。
【0070】
(堆積例1−シリコン窒化膜)
シリコン窒化膜の堆積を以下のような条件で行った。DCSとアンモニアの反応室11内での分圧変化、及び光照射のタイミングに注目して工程の進行を時系列的に把握すると図5のようになる。
【0071】
キャリアガスとして窒素を使用し、流量3sccmでDCSガスを反応室11内に導入した。キャリアガスとDCSの混合気体による反応室11内の全圧力は3Torr、DCSのガス分圧は1Torr、基板10表面との接触時間すなわちDCSの供給時間は2秒とした。その後、DCSの供給を止め、直ちに100%のアンモニアガスの供給を開始した。その際の流量は10sccm、全圧であるアンモニアガスのガス分圧は20Torrとした。アンモニアガスの供給を開始した後1.5秒経過後、アンモニアガスの供給を続けたまま、パルス幅約1ミリ秒、エネルギー密度20〜30J/cm(基板表面での値)のフラッシュランプ光源によるパルス光を基板10の表面に1ショット照射した。
【0072】
照射後、いったんアンモニアガスの供給を止め、排気系18による反応室11内の排気完了を待った後、以上の工程を繰り返し行った。フラッシュランプ光源の繰り返し発光のためには、容量が600μF(ファラッド)のコンデンサを3個使用し、これらを交互に使用して各回の発光に供した。なお、パルス光の照射が全くない状態で基板10の表面温度が400〜550℃となるよう、作業中は予備加熱手段を一定出力で常時稼働した。
【0073】
作業終了後、得られた試料を反応室11から取り出し、オージェ分光法を用いて基板10表面の堆積物質の同定を行った。その結果、シリコンと窒素が3.1:4の比率で検出されたことから、窒化珪素(Si)薄膜の生成が確認された。
【0074】
図6は、工程の繰り返しに従い、窒化珪素の薄膜が徐々に堆積されている様子を示したグラフである。横軸に、DCSの導入からアンモニアガスの供給制止までの一サイクルの繰り返し回数、縦軸に堆積された薄膜の膜厚をとったものである。発光間隔は6秒であって、例えば50回工程を繰り返すのに約5分の時間を要し、その間に約7.0nmの薄膜が堆積された。従って、成膜速度は約1.4nm/分、或いは約0.14nm/パルスであり、ほぼ単一のパルス光照射毎に1原子層単位で薄膜生成が進行したと理解される。
【0075】
成膜したシリコン窒化膜の膜質評価として、さらに二次イオン質量分析法(SIMS)により膜中の水素濃度を測定した。その結果、1×1019個/cm 以下の水素原子濃度が確認された。これは、従来の熱CVD法(780℃程度)によって成膜されたシリコン窒化膜の場合と比較して、一桁程度低い値である。本発明の実施の形態によれば高純度のシリコン窒化膜を低いサーマルバジェットでシリコン基板上に堆積することができる。
【0076】
比較のため、DCSとアンモニアガスとを同時に反応室11に導入し、それぞれの流量を保ったまま、フラッシュランプ光源のパルス光を複数回、シリコン基板の表面に連続的に照射し、基板上へのシリコン窒化膜の堆積を試みた。
【0077】
DCSとアンモニアガスの流量は、それぞれ3sccm、10sccm、パルス光照射中の反応室内の全圧力は0.13Torr、分圧はそれぞれ0.03Torr、0.1Torrとした。パルス幅、エネルギー密度、基板の予備加熱温度などは、既に述べた値と同一とした。
【0078】
生成物質の同定を同様に行い、シリコン窒化膜の生成が確認された。パルス光の50回照射で40nmの膜厚を有するシリコン窒化膜が得られ、1回のパルス光照射当たり平均0.8nmの窒化膜堆積が確認された。また、SIMSによる分析を行い、膜中の水素原子含有量は1×1020個/cm 以下であった。
【0079】
したがって、DCSとアンモニアを同時に反応室に供給しながらフラッシュランプ光源のパルス光の連続照射を行っても薄膜が堆積できることがわかる。しかし、この場合は明らかに多原子層毎の堆積となり、膜の均一性など成膜過程の制御性に問題がでてくる。また膜中の水素含有量も一桁程度大きい値となるなど膜質の点でも劣る。但し従来の熱CVD法によって成膜されたシリコン窒化膜と比較すると水素含有量に大きな差異は見られず、したがってこの点では明らかな問題はないようである。
【0080】
(堆積例2−アルミナ膜)
成分元素を含む化合物としてトリメチルアルミニウム(Al(CH)、酸化剤ガスとして酸素(O)を用い、シリコンからなる基板10の表面へ酸化アルミニウム(Al)の堆積を試みた。堆積方法は、シリコン窒化膜の堆積例と同様であって、トリメチルアルミニウムを含む第1ガスと酸化剤ガスとは交互供給し、酸化剤ガスの流量を保持したままランプ光照射した。
【0081】
キャリアガスとしては窒素を用い、トリメチルアルミニウムの導入流量は10sccm、キャリアガスを含む反応室11内の全圧力は0.6Torr、トリメチルアルミニウムの分圧は0.2Torr、基板10表面に対するトリメチルアルミニウム分子の供給時間は1秒とした。
【0082】
酸素ガスの導入流量は100sccm、反応室11内の全酸素圧力は20Torrとした。酸素ガスの供給を開始して1.5秒経過後、パルス幅約3ミリ秒、エネルギー密度10J/cm(基板表面での値)のフラッシュランプ光源によるパルス光を基板10の表面に1ショット照射した。反応室11の排気の後、以上の工程を繰り返した。
【0083】
フラッシュランプ光源の繰り返し発光のためには、容量が200μF(ファラッド)のコンデンサを3個並列に接続したものを準備して実効的に600μFとし、これを3セット準備して、これらを交互に使用して各回の発光に供した。発光間隔は約6秒であった。結果的に80回の工程の繰り返しに8分の時間を要し、生成膜厚は9.6nmであった。従って、成膜速度は約1.2nm/分、或いは0.12nm/パルスであった。なお、基板10表面の予備加熱温度は常時600℃とした。
【0084】
RBS法を用いた膜物質の同定を行い、酸化アルミニウムの膜生成を確認した後、SIMSによって膜中の炭素(C)濃度分析を行い、1×1019個/cm 以下との結果を得た。
【0085】
(堆積例3−半導体装置)
シリコン半導体基板10に浅い拡散層を形成した後にゲート絶縁膜などの目的でシリコン窒化膜を形成する場合において、本発明の実施の形態に係るシリコン窒化膜の堆積方法を実施するメリットを検証した。
【0086】
近年のMIS構造を多用した高密度集積回路の不純物注入の典型例として、イオン種:ボロンイオン(B)、加速エネルギー:1.5keV、ドーズ量:1.0×1015cm−2を採用し、この条件であらかじめイオン注入を行ったシリコン基板10を用意した。この基板10をさらに、その注入表面から、パルス幅8ミリ秒、照射エネルギー密度3J/cm、ショット数3回の条件で、フラッシュランプアニール法を用いて熱処理を行い、MIS構造のソース・ドレイン領域における不純物拡散層等に見立てた不純物層を形成した。この不純物層の深さは基板10の表面から約15nm程度であった。
【0087】
この基板10を用いて、既に説明したシリコン窒化膜の堆積例1にしたがって、イオン注入面の上にさらにシリコン窒化膜を形成した。その膜厚は約20nmであり、成膜に要した時間は30分であった。他方比較のため、同一原料ガスを用いたバッチ装置を用いたCVD法によって、780℃、30分の成膜によりシリコン窒化膜を形成した比較用の基板試料も作成した。
【0088】
それぞれの基板試料において、シリコン窒化膜堆積後、不純物層のシート抵抗を測定した。その結果、実施の形態に従って作成された基板においては820Ω/□、従来の熱CVD法に従って作成された比較用の基板試料においては1200Ω/□であった。なお、シリコン窒化膜を形成する前の不純物層のシート抵抗は800Ω/□であった。
【0089】
この結果から、シリコン基板に不純物拡散層を形成後、本発明の実施の形態に従ってシリコン窒化膜を形成すれば、フラッシュランプ光による低いサーマルバジェットでの膜形成は担保したまま、既に形成している下地の不純物拡散層に対しては活性化等の悪影響の発生を著しく抑制できることがわかる。
【0090】
以上、特定の実施の形態を取り上げて本発明を説明したが、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。例えば、サーマルバジェットの低減は、パルス光の基板表面及びその近傍での吸収効率、熱エネルギーへの転換速度に大きく依存する。例えば、パルス光の波長が変わり吸収がより急激になれば短時間高温過程はより実現しやすくなるが、著しく局部的なエネルギー投入を招くなど、基板に生じるストレス、それによる劣化の問題もでてくる。逆に考えれば、与えられたフラッシュランプ光を用いれば、発明者らが目指す高温短時間プロセスを実現するため、おおよそ適度な吸収過程を発揮できる波長領域、パルス幅、及びエネルギー強度を得ることができるということであって、投入したエネルギーの吸収速度、効率は、積極的に、技術者の立場でさらに最適化、精密化が可能ということである。このような観点から、成膜種、或いは基板の種類に応じて、本発明の範囲内でさらなる光源の改良、改善の余地は考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の実施の形態に係る装置を示す概略図である。
【図2】光源に対するコンデンサの接続及び切換えの様子を示す概略図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る薄膜堆積方法を示したプロセスフローである。
【図4】シリコン半導体基板にフラッシュランプ光源からのパルス光を照射したときの基板表面の温度変化を示した図である。
【図5】DCSとアンモニアガスとを交互に供給してシリコン窒化膜を堆積する際の工程の時系列を示した図である。
【図6】プロセスフローの実行回数と堆積したシリコン窒化膜の膜厚との関係を示した図である。
【符号の説明】
【0092】
10 基板
11 反応室
12 試料台
13 支持軸
14 透明窓
15 ランプハウス
16 加熱手段
17 第1ガス導入系
18 排気系
19 DC電源
20 予備加熱源
22 スイッチング手段
24 蓄電手段
26 ガス供給源
27 第2ガス導入系
29 キャリアガス導入系
30 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的とする薄膜の成分元素を含む化合物を含む第1ガスの反応室への導入及び停止を行う第1ガス導入系と、
酸化剤又は還元剤を含む第2ガスの前記反応室への導入及び停止を行う第2ガス導入系と、
0.1〜100ミリ秒の投入時間で前記反応室に配置した基板の表面に加熱エネルギーを逐次、繰り返し投入する加熱手段と、
前記反応室を排気する排気系と、
前記第1ガスの導入、前記第1ガスの停止、未反応の前記第1ガスの排気、前記第2ガスの導入、前記加熱エネルギーの投入、前記第2ガスの停止、及び未反応の前記第2ガスの排気とからなる一連の手順を1サイクルとし、このサイクルを逐次繰り返し実行する制御手段と、
を有することを特徴とする薄膜堆積装置。
【請求項2】
目的とする薄膜の成分元素を含む化合物を含むガスを導入して、基板の表面に前記化合物の分子又は前記化合物の分解した分子からなる吸着種を吸着させる工程と、
酸化剤又は還元剤を反応種として前記吸着種上に導入する工程と、
前記表面に0.1〜100ミリ秒の照射時間を有する加熱エネルギーをパルス的に照射し、前記吸着種と前記反応種との間の反応を進行させる工程
とからなる一連の手順を1サイクルとし、該サイクルを繰り返すことにより、前記薄膜を前記表面に堆積させることを特徴とする薄膜堆積方法。
【請求項3】
前記加熱エネルギーがフラッシュランプ光であって、前記サイクルに同期して、並列配置された複数のコンデンサを順次、且つ独立に充電と放電とを繰り返し、前記放電により前記フラッシュランプ光の1パルス分のエネルギーを供給することを特徴とする、請求項2に記載の薄膜堆積方法。
【請求項4】
前記反応種を前記吸着種の上面に導入し、未反応の前記反応種が前記上面に残留しているタイミングで前記加熱エネルギーを照射し、その後未反応の前記反応種を離脱させることを特徴とする、請求項2又は3に記載の薄膜堆積方法。
【請求項5】
前記加熱エネルギーがフラッシュランプ光であって、前記加熱手段がフラッシュランプ光源であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜堆積装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−294750(P2006−294750A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−111182(P2005−111182)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】