説明

薄膜形成方法

【課題】 反応性スパッタリングにより酸化物膜を形成する際に、次工程においてCVD法による薄膜形成が行われるような場合でも、基板との界面付近の酸素濃度の低下を防止して基板と酸化物膜との密着強度の低下を招くことのない薄膜形成方法を提供する。
【解決手段】 真空雰囲気中のスパッタ室11a内にスパッタガス及び反応ガスを導入しつつ、スパッタ室内で処理すべき基板Sに対向させて配置したターゲット41a乃至41hに電力投入し、プラズマ雰囲気中のイオンでターゲットをスパッタリングし、反応性スパッタリングにより基板表面に所定の薄膜を形成する場合に、薄膜が所定の膜厚に達するまでの間で反応ガス成分の含有濃度が高い領域を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング法により処理すべき基板表面に所定の薄膜を形成するための薄膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスやシリコンウェハなどの基板表面に所定の薄膜を形成する方法の一つとしてスパッタリング(以下、「スパッタ」という)法がある。このスパッタ法は、プラズマ雰囲気中のイオンを、基板表面に形成しようする薄膜の組成に応じて作製したターゲットに向けて加速させて衝撃させ、スパッタ粒子(ターゲット原子)を飛散させ、基板表面に付着、堆積させて所定の薄膜を形成するものである。その際、酸素や窒素などの反応ガスを同時に導入し、反応性スパッタにより当該薄膜を得ることがある。
【0003】
このようなスパッタ法による薄膜形成方法は、近年、TFT(薄膜トランジスタ)を用いた液晶ディスプレイ(FPD)の製造工程において、ガラス基板表面に、例えばゲート電極として電気伝導特性のよいCuなどの金属膜を形成することにも利用されている。
【0004】
ここで、ガラス基板表面にCu膜を直接形成する際、ガラス表面に対する当該Cu膜の密着性を高めることが大きな課題となっている。このような課題の解決方法の一つとして、基板表面に、焼結助剤たる酸化物を露呈させた後、スパッタリング法などのPVD法でCu膜を形成し、基板表層に露呈させた焼結助剤からなる酸化物に対する銅の高い密着強度を確保する方法が特許文献1で知られている。
【特許文献1】特開2003−3884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、TFT基板の製作工程においてガラス基板表面にCuからなるゲート電極を形成する場合、上記特許文献1記載の方法に従い、反応性スパッタによりCu含有の酸化物膜及びスパッタによりCu含有の金属膜を形成することになる。然し、上記ゲート電極を得た後、次工程で当該ゲート電極上には一般にプラズマCVD法を用いてSiNxからなる絶縁膜が形成される。このプラズマCVD法による薄膜形成に際しては、処理室内に導入されるプロセスガスとしてN2、NH3及びSiH4の混合ガスが用いられる。
【0006】
このようにCVD法により薄膜形成すると、プラズマの輻射熱等でガラス基板が加熱されることで酸化物膜中の酸素が拡散する一方で、プラズマで分解された水素やNH3、SiH4によって還元されて膜外に放出され、その結果、酸化物膜中の酸素濃度(反応性ガス成分の含有濃度)が低下する。その際にガラス基板との界面付近における酸素濃度が所定の閾値まで低下すると、密着強度が著しく低下するという問題がある。この場合、酸化物膜形成時に膜中の酸素濃度を高めておくことが考えられるが、これでは、酸化物膜の比抵抗値が高くなり過ぎる。
【0007】
そこで、本発明の課題は、上記点に鑑み、次工程においてCVD法による薄膜形成が行われるような場合でも、ガラス基板との界面付近の酸素濃度の低下を防止して基板と酸化物膜との密着強度の低下を招くことのない薄膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1記載の薄膜形成方法は、真空雰囲気中のスパッタ室内にスパッタガス及び反応ガスを導入しつつ、スパッタ室内で処理すべき基板に対向させて配置したターゲットに電力投入し、プラズマ雰囲気中のイオンでターゲットをスパッタリングし、反応性スパッタリングにより基板表面に所定の薄膜を形成する薄膜形成方法において、前記薄膜が所定の膜厚に達するまでの間で反応ガス成分の含有濃度が高い領域を形成することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、前記薄膜が所定の膜厚に達するまでの間で反応ガス成分の含有濃度が高い領域を形成し、当該薄膜中で基板の界面から膜厚増加方向に向かって反応ガス成分の含有濃度に勾配をつけるため、例えば酸化物膜を形成したガラス基板に対し、次工程で拡散と還元反応が起こるような条件下で所定の処理が実施されても、酸化物膜と基板との界面付近での酸素の拡散が抑制されて当該界面付近での酸素濃度の低下が防止される。
【0010】
本発明においては、前記含有濃度が高い領域の形成を、スパッタリング中に、スパッタ室に導入される反応ガスの流量を一定に保持しつつ、ターゲットへの投入電力を高電力から低電力に切換えることで行えば、既存のスパッタリング装置の電源の制御を変えるだけで、所定の膜厚で薄膜を形成する途中においてスパッタレートを低下させて膜中の反応ガス成分の含有濃度を高めることが実現できる。
【0011】
また、前記投入電力の切換えを一定の周期で行うようにすれば、含有濃度が高い領域を局所的に複数形成でき、その上、低電力時のスパッタ時間を短くすれば、所定の膜厚で薄膜を形成するためのスパッタ時間が長くなることを抑制することもできる。
【0012】
前記含有濃度が高い領域の形成を、スパッタリング中に、ターゲットへの投入電力を一定に保持しつつ、スパッタ室に導入される反応ガスの流量を低流量から高流量に切換えることで行う構成を採用してもよい。
【0013】
この場合、前記反応ガス流量の切換えを一定の周期で行うようにしてもよい。
【0014】
さらに、本発明においては、面積の大きな基板に対して効率よく所定の薄膜を形成するために、前記ターゲットを、スパッタ室内に所定の間隔を置いて並設した同一組成を有する複数枚のターゲットから構成し、前記反応ガスを、ターゲットの背面側の空間で一旦拡散させた後、各ターゲット相互間の間隙を通って基板に向かって供給することができる。これにより、簡単な構成で、基板に対して反応ガスが偏って導入されることが防止でき、基板面内で反応性にむらが生じて基板面内で比抵抗値などの膜質が不均一になることが防止できる。
【0015】
尚、反応ガスとして酸素含有のものを用い、上記請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の薄膜形成方法により基板表面にCu含有の酸化物膜を形成する工程と、この酸化物膜表面にPVD法によりCu含有の金属膜を形成する工程と、この金属膜表面に、所定のプロセスガスを用いてCVD法により絶縁膜を形成する工程とを含む薄膜形成方法に適用できる。
【0016】
これにより、TFT基板の製作工程において、本発明の薄膜形成方法を適用してCu含有の酸化物膜を形成した後、Cu含有の金属膜を積層してゲート電極を形成し、次工程でプラズマCVD法を用いてSiNxからなる絶縁膜を形成する場合に、基板の界面付近での酸素濃度の低下が防止され、基板表面に形成した酸化物に対する銅の高い密着強度を確保できる。それに加えて、薄膜形成の途中で酸素濃度が高い領域を形成しているだけであり、当該酸化物膜の比抵抗値は然程高くなるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1を参照して説明すれば、1は、本発明のマグネトロン方式のスパッタリング装置(以下、「スパッタ装置」という)である。スパッタ装置1は、インライン式のものであり、ロータリーポンプ、ターボ分子ポンプなどの真空排気手段(図示せず)を介して所定の真空度に保持できる真空チャンバ11を有する。真空チャンバ11の上部には基板搬送手段2が設けられている。この基板搬送手段2は、公知の構造を有し、ガラス基板などの基板Sが装着されるキャリア21を有し、図示しない駆動手段を間欠駆動させて、後述するターゲットに対向した位置に基板Sを順次搬送できる。
【0018】
真空チャンバ11内には、ターゲットに対向した位置に搬送されてきた基板Sに対しスパッタにより所定の薄膜を形成する際に、キャリア21表面や真空チャンバ11側壁などにスパッタ粒子が付着することを防止するため、基板搬送手段2とターゲットとの間に位置させて基板Sが臨む開口31aが形成された第1のシールド31が設けられ、第1のシールド31の下端は、後述する第2のシールドの近傍まで延出している。そして、真空チャンバ11の下側には、カソード電極Cが配置されている。
【0019】
カソード電極Cは、大面積の基板Sに対し効率よく薄膜形成ができるように、基板Sに対向させて等間隔で配置した複数枚(本実施の形態では8枚)のターゲット41a乃至41hを有する。各ターゲット41a乃至41hは、Cu、Al、Ti、Moまたはこれらの合金やインジウム及び錫の酸化物(ITO)など、基板S表面に形成しようとする薄膜の組成に応じて公知の方法で作製され、例えば略直方体(上面視において長方形)など同形状に形成されている。各ターゲット41a乃至41hは、スパッタ中、ターゲット41a乃至41hを冷却するバッキングプレート42に、インジウムやスズなどのボンディング材を介して接合されている。
【0020】
各ターゲット41a乃至41hは、未使用時のスパッタ面411が基板Sに平行な同一平面上に位置するように、絶縁部材を介してカソード電極Cのフレーム(図示せず)に取付けられている。また、並設したターゲット41a乃至41hの周囲には、第2のシールド32が配置され、真空チャンバ11内で第1及び第2のシールド31、32で囲繞された空間がスパッタ室11aを構成する。
【0021】
また、カソード電極Cは、ターゲット41a乃至41hの後方(スパッタ面411と背向する側)にそれぞれ位置させて磁石組立体5を有する。同一構造の各磁石組立体5は、各ターゲット41a乃至41hに平行に設けられた支持板(ヨーク)51を有する。ターゲット41a乃至41hが正面視で長方形であるとき、支持板51は、各ターゲット41a乃至41hの横幅より小さく、ターゲット41a乃至41hの長手方向に沿ってその両側に延出するように形成した長方形の平板から構成され、磁石の吸着力を増幅する磁性材料製である。支持板51上には、その中央部で長手方向に沿って線状に配置した中央磁石52と、中央磁石52の周囲を囲うように支持板51の外周に沿って配置した周辺磁石53とがスパッタ面411側の極性を変えて設けられている。
【0022】
中央磁石52の同磁化に換算したときの体積は、例えば周辺磁石53の同磁化に換算したときの体積の和(周辺磁石:中心磁石:周辺磁石=1:2:1)に等しくなるように設計され、各ターゲット41a乃至41hのスパッタ面411の前方に、釣り合った閉ループのトンネル状の磁束がそれぞれ形成される。これにより、各ターゲット41a乃至41hの前方(スパッタ面411)側で電離した電子及びスパッタリングによって生じた二次電子を捕捉することで、各ターゲット41a乃至41h前方での電子密度を高くしてプラズマ密度が高まり、スパッタレートを高くできる。
【0023】
各磁石組立体5は、モータやエアーシリンダなどから構成される駆動手段Dの駆動軸D1にそれぞれ連結され、ターゲット41a乃至41hの並設方向に沿った2箇所の位置の間で平行かつ等速で一体に往復動できる。これにより、スパッタレートが高くなる領域をかえて各ターゲット41a乃至41hの全面に亘って均等に侵食領域が得られる。
【0024】
各ターゲット41a乃至41hは、隣り合う2枚で一対のターゲット(41aと41b、41cと41d、41eと41f、41gと41h)を構成し、一対のターゲット毎に割当てて交流電源E1乃至E4が設けられ、交流電源E1乃至E4からの出力ケーブルK1、K2が一対のターゲット41a、41b(41c及び41d、41e及び41f、41g及び41h)に接続されている。そして、交流電源E1乃至E4によって、各一対のターゲット41a乃至41hに対し交互に極性をかえて交流電圧が印加される。
【0025】
交流電源E1乃至E4は、同一構造であり、電力の供給を可能とする電力供給部6と、所定の周波数で交互に極性をかえて交流電圧を、一対のターゲット41a、41b(41c及び41d、41e及び41f、41g及び41h)に出力する発振部7とから構成される。各ターゲット41a乃至41hへの出力電圧の波形については、略正弦波であるが、これに限定されるものではなく、例えば略方形波でもよい。以下に、交流電源E1の構成について図2を参照して説明する。
【0026】
電力供給部6は、その作動を制御する第1のCPU回路61と、商用の交流電力(3相AC200V又は400V)が入力される入力部62と、入力された交流電力を整流して直流電力に変換する6個のダイオード63とを有し、直流電力ライン64a、64bを介して直流電力を発振部7に出力する。
【0027】
また、電力供給部6には、直流電力ライン64a、64b間に設けたスイッチングトランジスタ65と、第1のCPU回路61に通信自在に接続され、スイッチングトランジスタ65の作動を制御して発振部7への出力電圧または出力電流を制御する第1のドライバー回路66a及び第1のPMW制御回路66bとが設けられ、その出力電圧または出力電流により一対のターゲット41a、41b間の投入電力が決定される。この場合、電流検出センサ及び電圧検出トランスを有し、直流電力ライン64a、64b間の電流、電圧を検出する検出回路67a及びAD変換回路67bが設けられ、検出回路67a及びAD変換回路67bを介してCPU回路61に入力されるようになっている。
【0028】
他方、発振部7には、第1のCPU回路61に通信自在に接続された第2のCPU回路71と、直流電力ライン64a、64b間に設けた発振用スイッチ回路72を構成する4個の第1乃至第4のスイッチングトランジスタ72a、72b、72c、72dと、第2のCPU回路71に通信自在に接続され、各スイッチングトランジスタ72a、72b、72c、72dの作動を制御する第2のドライバー回路73a及び第2のPMW制御回路73bとが設けられている。
【0029】
そして、第2のドライバー回路73a及び第2のPMW制御回路73bによって、例えば第1及び第4のスイッチングトランジスタ72a、72dと、第2及び第3のスイッチングトランジスタ72b、72cとのオン、オフのタイミングが反転するように各スイッチングトランジスタ72a、72b、72c、72dの作動を制御すると、発振用スイッチ回路72からの交流電力ライン74a、74bを介して正弦波の交流電力が出力できる。発振電圧、発振電流を検出する検出回路75a及びAD変換回路75bが設けられ、検出回路75a及びAD変換回路75bを介して第2のCPU回路71に入力されるようになっている。
【0030】
交流電力ライン74a、74bは、直列もしくは並列またはこれらを組合わせた共振用LC回路を経て公知の構造を有する出力トランス76に接続され、出力トランス76からの出力ケーブルK1、K2が一対のターゲット41a、41bにそれぞれ接続されている。この場合、電流検出センサ及び電圧検出トランスを有し、一対のターゲット41a、41bへの出力電圧、出力電流を検出する検出回路77a及びAD変換回路77bが設けられ、検出回路77a及びAD変換回路77bを介して第2のCPU回路71に入力されるようになっている。これにより、スパッタリング中、交流電源E1乃至E4を介して一定の周波数で交互に極性をかえて一対のターゲット41a、41bに、任意に設定した一定の電力が投入できる。
【0031】
なお、各交流電源E1乃至E4の第1のCP回路61は、相互に通信自在に接続されており、いずれか1個のCPU回路61からの出力信号で、各交流電源E1乃至E4が同期して運転される。
【0032】
また、真空チャンバ11には、Ar等の希ガスからなるスパッタガスと、基板S表面に形成しようとする薄膜の組成に応じて適宜選択される酸素や窒素などの反応ガスとをスパッタ室内に導入するガス導入手段8が設けられている(図1参照)。ガス導入手段8は、真空チャンバ11の側壁に取付けられたガス管81を有し、ガス管81は、マスフローコントローラ82a、82bを介してスパッタガス及び反応ガスのガス源83a、83bにそれぞれ連通している。
【0033】
また、ガス管81のうち反応ガスの供給に用いられる部分は、マスフローコントローラ82bの下流側で分岐され、各ターゲット41a乃至41hから離間するように各磁石組立体5の背面側に、ターゲット41a乃至41hの並設方向であって各ターゲットの中心を通って延びる1本のガス供給管84に接続されている。ガス供給管84は、並設したターゲット41a乃至41hの全幅と同等またはより長くなるように定寸され、そのターゲット41a乃至41h側の面には、各ターゲット41a乃至41h相互間の間隙の下方に位置させて複数個の噴射口84aが形成されている。
【0034】
そして、マスフローコントローラ82a、82bを作動させると、スパッタガスは、第1及び第2の各シールド13、43間並びに第1のシールド13及び基板搬送手段2の間の間隙を通ってスパッタ室11aに導入される。反応ガスは、主に各ターゲット41a乃至41hの背面側の空間で一旦拡散され、各ターゲット41a乃至41h相互間の各間隙を通って基板Sに向かって供給されるようになる。これにより、基板Sに対して反応ガスが偏って供給されることはなく、基板Sのターゲット41a乃至41h側の空間で反応ガスが略均等に存在し、この反応ガスが基板Sに向かってターゲット41a乃至41hから飛散し、プラズマによって活性化されたスパッタ粒子と反応して基板表面に付着、堆積する。その結果、基板面S内で反応性にむらが生じて基板S面内で比抵抗値などの膜質が不均一になることが防止できる。
【0035】
次に、本発明の薄膜形成方法の一例として、TFT基板の製作工程において利用されるガラス基板表面へのCu含有の酸化物膜、Cu含有の金属膜及び、SiNxからなる絶縁膜の形成(図3参照)について説明する。
【0036】
図1に示すスパッタ1装置を用い、先ずガラス基板S表面にCu含有の酸化物膜を形成する。この場合、ターゲット41a乃至41hとしてCuにMgを添加したCu合金ターゲットを用いる。
【0037】
次に、真空チャンバ11内を所定の真空度(例えば10−5Pa)まで排気し、基板搬送手段2によってガラス基板Sをターゲット41a乃至41hと対向した位置に搬送する。そして、ガス導入手段8を介してArガス及び酸素ガスを一定の流量でスパッタ室11a内に導入し、交流電源E1乃至E4を介してそれぞれ対をなすターゲット41a乃至41hにそれぞれ交流電圧(投入電力は、例えば20kW)を印加する。投入電力は、所定の膜厚を得るのに必要なスパッタ時間と量産性とを考慮して適宜設定される。また、酸素ガスのガス流量は、酸化物膜中の酸素濃度に起因する比抵抗値が所定の範囲内の値となるように適宜設定される。
【0038】
各ターゲット41a乃至41hに電力が投入されると、各ターゲット41a乃至41hがアノード電極、カソード電極に交互に切替わり、アノード電極及びカソード電極間にグロー放電を生じさせてプラズマ雰囲気が形成される。そして、プラズマ雰囲気中のイオンがカソード電極となった一方のターゲット41a乃至41hに向けて加速されて衝撃し、ターゲット原子(スパッタ粒子)が飛散され、プラズマによって活性化されたスパッタ粒子と酸素とが反応してガラス基板S表面に付着、堆積し、CuMgO膜が所定の膜厚で形成される。
【0039】
ここで、上記スパッタ装置1では、第1及び第2の各シールド31、32並びに基板搬送手段2で囲繞させてスパッタ室11aを構成している。このため、スパッタ室11aに導入する酸素ガスの流量が一定であると、各ターゲット41a乃至41hへの投入電力によっては、スパッタ粒子の飛散量に対する酸素の供給が間に合わなくなる虞がある。この場合、CuMgO膜中の酸素濃度(膜中における反応ガス成分の含有濃度)はその膜厚が厚くなるに従い減少する(このようなCuMgO膜では、ガラス基板Sとの界面付近の酸素がCuMgO膜表層に向かって拡散され易くなる)。
【0040】
そこで、本実施の形態では、スパッタリング中に、スパッタ室11aに導入される反応ガスの流量を一定に保持しつつ、各交流電源E1乃至E4のPWM制御回路66bによってスイッチングトランジスタ65を制御し、ターゲット41a乃至41hへの投入電力を通常スパッタ時の投入電力(高電力:例えば20KkW)から、通常スパッタ時の投入電力より低い電力(低電力)に切換えるようにした(図4参照)。ここで、低電力時の投入電力は、通常スパッタ時の投入電力の5〜90%の範囲で、好ましくは、25%(5kW)に設定される。また、投入電力の切換え時期は、スパッタ時間の5〜95%の範囲で適宜設定される。
【0041】
これにより、CuMgO膜が所定の膜厚に達するまでの間で、投入電力を低電力に切換えてスパッタ粒子の飛散量を少なくすることで、酸素濃度が通常スパッタ時のものと比較して高くなる領域がCuMgO膜中に形成される。なお、投入電力の90%を超えた電力では、当該領域が効果的に作製できず、また、5%より小さい電力では、スパッタ時間が長くなり過ぎ、量産に不向きである。他方で、スパッタ時間の95%を超えた時間で電力を切換えたのでは、当該領域が効果的に作製できず、また、5%より短い時間では、スパッタ時間が長くなり過ぎ、量産に不向きである。
【0042】
次に、CuMgO膜が所定の膜厚(設定スパッタ時間)に達すると、酸素ガスの供給を停止すると共に、ターゲット41a乃至41hへの投入電力を高電力に再度切換える。これにより、CuMgO膜表面には、飛散したターゲット原子が付着、堆積し、Cu含有の金属膜たるCuMg膜が所定の膜厚で形成される。
【0043】
次に、CuMgO膜及びCuMg膜が所定の膜厚を形成した後、基板搬送手段2によって、ガラス基板Sは、図示しないプラズマCVD装置に搬送され、SiNxからなる絶縁膜が形成される。プラズマCVD装置は、公知の構造を有し、ガラス基板の処理温度を300℃に設定し、プロセスガスとしてN2、NH3及びSiH4の混合ガスが用いて上記絶縁膜が形成される。
【0044】
ここで、絶縁膜形成の際に、プラズマの輻射熱等でガラス基板Sが加熱されることでCuMgO膜中の酸素が拡散する一方で、プラズマで分解された水素やNH3、SiH4によって還元されて膜外に放出される。然し、CuMgO膜に、酸素濃度の高い領域を存在させ、当該薄膜中にガラス基板Sとの界面から膜厚増加方向に向かって濃度勾配をつけているため、CuMgO膜とガラス基板Sとの界面付近での酸素の拡散が抑制されて当該界面付近での酸素濃度の低下が防止される。その結果、基板表面に形成した酸化物に対する銅の高い密着強度を確保できる。それに加えて、CuMgO膜の形成途中で酸素濃度を高めただけであるため、CuMgO膜の比抵抗値が然程高くなるものではない。
【0045】
尚、本実施の形態では、スパッタリング中に、スパッタ室11aに導入される反応ガスの流量を一定に保持しつつ、ターゲット41a乃至41hへの投入電力を高電力から低電力に切換えるようにしたが、これに限定されるものではなく、交流電源E1乃至E4からの投入電力を、高電力及び低電力がパルス状に交互に切換わるようにしてもよい(図5参照)。これにより、絶縁膜中に、酸素濃度が局所的に高い領域が所定の周期で形成されてよい。その際、所定の膜厚でCuMgO膜を得るまでのスパッタ時間が長くならないように、低電力時の投入電力とスパッタ時間が適宜設定されるが、CuMgO膜中において得たい酸素濃度によっては、スパッタ時間が長くならない範囲で低電力時の投入電力を0にしてもよい。
【0046】
また、本実施の形態では、スパッタリング中に、スパッタ室11aに導入される反応ガスの流量を一定に保持しつつ、ターゲット41a乃至41hへの投入電力を切換えるようにしたが、これに限定されるものではなく、マスフローコントローラ82a、82bを制御して酸素ガスの流量を、通常スパッタ時のガス流量(低流量:10〜500sccm)から、通常スパッタ時の投入電力より多い流量(高流量:500〜1000sccm)に切換えるようにしてもよい(図6参照)。その際、前記反応ガス供給量の増加を一定の周期で行うようにしてもよい。
【0047】
さらに、本実施の形態では、TFT基板の製作工程において利用されるガラス基板表面へのCu含有の酸化物膜、Cu含有の金属膜及び、SiNxからなる絶縁膜の形成を例に説明したが、これに限定されるものではなく、TFT基板のソースやドレインとして所定の金属膜を形成するような場合にも適用できる。
【実施例1】
【0048】
本実施例1では、図1に示すスパッタ装置1を用い、反応性スパッタリングによってガラス基板SにCuMgO膜を形成した。この場合、ターゲットとして、組成が0.7wt%のCuMgを用い、公知の方法で成形してバッキングプレート32に接合した。
【0049】
反応性スパッタ条件として、マスフローコントローラを制御してArガスのガス流量を890sccm、酸素ガスの流量を240〜700sccmの範囲に設定し、真空チャンバ内に導入した。そして、高電力時の投入電力を20kW、低電力時の投入電力を5kWに設定し、投入電力を適宜切換えて300Åの膜厚が得られるようにスパッタ時間を設定した。
【0050】
ここで、試料#1及び#2は、投入電力を高電力で一定に保持し、酸素ガスの流量を変化させたものであり(比較例)、試料#3は、投入電力を低電力で一定に保持したものである(比較例)。他方で、試料#4乃至#6は、投入電力を高電力と低電力とに適宜切換えたときのものである(実施例)。なお、試料#4では、高電力で150Å、低電力で150Åの膜厚が得られるように電力切換時期を設定した(図4参照)。
【0051】
次いで、上記条件でガラス基板表面にCuMgO膜を形成した試料#1乃至#6に対し、引き続き、上記スパッタ装置によりCuMg膜を形成した。スパッタ条件として、マスフローコントローラを制御してArガスのガス流量を890sccmに設定し、真空チャンバ内に導入した。そして、投入電力を75kWに設定し、3000Åの膜厚が得られるようにスパッタ時間を設定した。
【0052】
次いで、CuMgO膜及びCuMg膜を形成した試料#1乃至#6に対し、公知の構造のプラズマCVD装置によりSiNx膜を形成した。プラズマCVDの条件としては、基板温度を300℃に設定し、プロセスガスとしてN2、NH3及びSiH4の混合ガスが用い、3000Åの膜厚で形成した。
【0053】
図7は、上記により作製した試料#1乃至#6のCuMgO膜単膜での比抵抗値と、CuMg/CuMgO積層膜の密着性との関係を示す表である。ここで、密着性は、次のような所謂テープテスト法により評価した。即ち、上記のようにして得た試料#1乃至#6に対し、ダイヤモンドカッターにより、水平方向及び垂直方向に一定の間隔でそれぞれ10本の切り欠き線を設け、次いで、これらの切り欠き線を設けた領域に粘着テープを貼付し、剥離させた。そして、切り欠き線で囲繞された膜のうち、5%以下の面積しかテープに付着しない場合には密着性良好と評価した。他方で、比抵抗値は公知の方法で測定した。
【0054】
これによれば、反応性スパッタリングの際のガス流量が少ないと、十分な密着性が得られず(試料#1)、他方で、ガス流量が多くなると、密着性は改良されるが、比抵抗値が高くなることが判る(試料#2)。また、低電力で反応性スパッタすると、十分な密着性が得られると共に、比抵抗値も低くできるが、スパッタ時間が32秒となって量産には不向きである。
【0055】
それに対して、反応性スパッタリングの際の投入電力を切換えると、十分な密着性が得られると共に比抵抗値も低くでき、その上、スパッタ時間も20秒と短くできた。特に、試料#4では、試料#2と比較して約1/6の比抵抗値とすることができたことが判る。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の薄膜形成方法を実施するスパッタ装置の模式的断面図。
【図2】図1に示すスパッタ装置に用いる交流電源の構成を説明する図。
【図3】TFT基板作製工程における薄膜形成を説明する図。
【図4】本発明の薄膜形成方法を実施する場合の投入電力と反応ガス流量の制御を説明する図。
【図5】本発明の薄膜形成方法を実施する場合の投入電力と反応ガス流量の制御の変形例を説明する図。
【図6】本発明の薄膜形成方法を実施する場合の投入電力と反応ガス流量の制御の変形例を説明する図。
【図7】実施例1で作製した試料の薄膜形成条件と、比抵抗値及び密着性の試験結果とを示す表。
【符号の説明】
【0057】
1 スパッタリング装置
11a スパッタ室
31、32 シールド
41a乃至41h ターゲット
65 スイッチング素子
8 ガス導入手段
E1乃至E4 交流電源
S 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空雰囲気中のスパッタ室内にスパッタガス及び反応ガスを導入しつつ、スパッタ室内で処理すべき基板に対向させて配置したターゲットに電力投入し、プラズマ雰囲気中のイオンでターゲットをスパッタリングし、反応性スパッタリングにより基板表面に所定の薄膜を形成する薄膜形成方法において、
前記薄膜が所定の膜厚に達するまでの間で反応ガス成分の含有濃度が高い領域を形成することを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項2】
前記含有濃度が高い領域の形成を、スパッタリング中に、スパッタ室に導入される反応ガスの流量を一定に保持しつつ、ターゲットへの投入電力を高電力から低電力に切換えることで行うことを特徴とする請求1記載のスパッタリング方法。
【請求項3】
前記投入電力の切換えを一定の周期で行うことを特徴とする請求項2記載のスパッタリング方法。
【請求項4】
前記含有濃度が高い領域の形成を、スパッタリング中に、ターゲットへの投入電力を一定に保持しつつ、スパッタ室に導入される反応ガスの流量を低流量から高流量に切換えることで行うことを特徴とする請求項1記載のスパッタリング方法。
【請求項5】
前記反応ガス供給量の増加を一定の周期で行うことを特徴とする請求項4記載のスパッタリング方法。
【請求項6】
前記ターゲットを、スパッタ室内に所定の間隔を置いて並設した同一組成を有する複数枚のターゲットから構成し、前記反応ガスを、ターゲットの背面側の空間で一旦拡散させた後、各ターゲット相互間の間隙を通って基板に向かって供給することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のスパッタリング方法。
【請求項7】
反応ガスとして酸素含有のものを用い、上記請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の薄膜形成方法により基板表面にCu含有の酸化物膜を形成する工程と、この酸化物膜表面にPVD法によりCu含有の金属膜を形成する工程と、この金属膜表面に、所定のプロセスガスを用いてCVD法により絶縁膜を形成する工程とを含むことを特徴とする薄膜形成方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−41082(P2009−41082A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208789(P2007−208789)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】