説明

被処理基板の浸漬処理方法及び浸漬処理装置

【課題】処理槽内への基板の降下時及び処理槽内からの基板の上昇(引き上げ)時の双方において、隣接する基板同士の接触や、基板の浮き上がりを確実に防止する。
【解決手段】処理液で満たされた処理槽内に被処理基板を収納したキャリアを浸漬して処理を行う被処理基板の浸漬処理方法であって、キャリアを処理液の表面に対して水平に保持して処理槽内に下降させる降下工程と、キャリアを傾斜させて処理槽内より上昇させる上昇工程と、を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液や純水といった処理液で満たされた処理槽内に被処理基板を浸漬して処理を行う被処理基板の浸漬処理方法及び浸漬処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体基板等の被処理基板は、その製造過程において、薬液処理、洗浄処理、乾燥処理等の各工程を経る。この場合、板状の半導体基板(以下、単に基板ともいう。)は、複数枚まとめてキャリアに収納され、このキャリア単位で自動搬送システムによって各工程間を搬送されることになる。すなわち、薬液処理工程では、薬液槽の上方からキャリアごと薬液内に浸漬され、洗浄処理工程では、洗浄槽の上方からキャリアごと洗浄液内に浸漬されるようになっている。
【0003】
基板が処理槽(薬液槽や洗浄槽等)内に浸漬される場合、従来は、基板を液面に対して垂直に降下して浸漬させ、処理後は同じく垂直に上昇させて液面から引き上げるようにしていた。
【0004】
図19(a)〜(d)は、基板を液面に対して垂直に引き上げるときの様子を示しており、図19(a)〜(c)は、縦断面の状態、図19(d)は横断面の状態で図示している。
【0005】
基板を液面に対して垂直に引き上げる場合、図19(a)に示すように、基板101の上端部101aが液面102aから上方に引き上げられるときに、図19(b)に示すように、隣接する基板101間に介在していた処理液102が基板101間を下方に流れ、その処理液の表面張力によって、隣接する基板101同士が互いに近づく方向に引き付けられ、図19(c)に示すように、基板101が互いの方向に傾いて接触する、若しくは図19(d)に示すように張り付く、といった現象が生じる。特に、最近の結晶型太陽電池用の半導体基板101はシリコン材料の使用量低減のために薄型化が進んで曲がり易くなっているため、液の抜けにくい基板中央部Pを基点として接触若しくは張り付きが発生し易い状態となっている。そして、このように基板101同士が接触する(若しくは張り付く)と、その間に処理液102が残留し、不良の発生原因となるといった問題があった。すなわち、処理液102が薬液である場合には、その部分だけ薬液によって処理が進み、他の部分との間で処理むら(すなわち、残留液によるエッチング異常や染み等)が発生する。また、処理液が水である場合には、この水が残留して乾燥不良となった場合には、一般にウォーターマークと呼ばれる染み欠陥が発生する。
【0006】
そこで、基板を処理槽から引き上げるときに、基板を液面に対して所定角度傾斜させた状態で引き上げることによって、上記の問題(基板の接触や張り付き)を解決することのできる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1には、基板(被処理物)を処理槽内で処理する際に、基板のデバイス形成面を所定の角度だけ上向きに傾斜させ、デバイス形成面をキャリア(収納治具)に接触させることなく洗浄及び乾燥を行い、かつ基板のデバイス形成面を所定の角度だけ上向きに傾斜させた状態で処理槽間を搬送する自動洗浄装置が開示されている。
【0008】
特許文献1記載のものは、基板を傾斜させることでデバイス形成面とキャリアとの接触を防止することを目的としており、上記問題点に着目したものではないが、基板を傾斜させることで基板間の距離が一定に保たれることから、上記問題も解決されると考えられる。
【0009】
なお、基板を傾斜させることに関しては、特許文献2にも開示されている。特許文献2に記載のウェット処理装置は、基板を保持するガイド溝を元々斜めに形成しておくものであり、その目的は、基板を保持したキャリアの背丈を低くすることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−160101号公報
【特許文献2】特開2001−257256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1の自動洗浄装置や特許文献2のウェット処理装置では、キャリアを常に傾斜させて搬送することから、基板を降下させて処理液内に浸漬させるときにも、基板が傾斜していることになる。そして、このように基板を降下させて処理液に浸漬させる時にも、基板を傾斜させておくと、基板が処理液の抵抗を受けて浮き上がる現象が発生し、基板同士の衝突やキャリア内への落下によって基板が破損するといった問題が発生する。最近の半導体基板は厚みが薄くなり、基板1枚の重さが軽くなる傾向にあるため、上記問題が特に顕在化する傾向にある。
【0012】
本発明はかかる問題点を解決すべく創案されたもので、その目的は、処理槽内への被処理基板の降下時及び処理槽内からの被処理基板の上昇(引き上げ)時の双方において、被処理基板の浮き上がりや被処理基板同士の接触を確実に防止することのできる被処理基板の浸漬処理方法及び浸漬処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明に係る被処理基板の浸漬処理方法は、キャリアの内壁面に設けられた複数条の基板挿入溝部のそれぞれに周縁部が挿入された状態で複数枚収納された被処理基板を、前記キャリアごと処理液で満たされた処理槽内に浸漬して処理を行う被処理基板の浸漬処理方法であって、前記キャリアを前記処理液の表面に対して水平に保持して前記処理槽内に下降させる降下工程と、前記キャリアを傾斜させて前記処理槽内より上昇させる上昇工程と、を含むことを特徴としている。
【0014】
本発明によれば、降下工程では、被処理基板を収納したキャリアを処理液の表面に対して水平に保持しているので、キャリアに収納された被処理基板に対する処理液の抵抗を最小限に留めることができ、これによりキャリア内での被処理基板の浮き上がりや、浮き上がり後の落下による破損(すなわち、浮き上がった被処理基板が落ちて、降下を完了したキャリアに当たることによる破損)を防止することができる。また、上昇工程では、被処理基板を収納したキャリアを傾斜させて上昇させているので、キャリア内での被処理基板の浮き上がりや、浮き上がりによる破損等を防止することができる。また、被処理基板を傾斜させることで、被処理基板間の距離が一定に保たれることから、被処理基板の上端部が液面から上方に引き上げられるときに、隣接する被処理基板間に介在していた処理液が被処理基板間を下方に流れ、その処理液の表面張力によって、被処理基板同士が互いに近づく方向に引き付けられ、互いの方向に傾いて接触する(若しくは、張り付く)といった現象を回避することができる。
【0015】
また、本発明によれば、前記上昇工程では、前記被処理基板を処理面に対して直交する方向に前記キャリアを傾斜させる構成としている。
【0016】
このような構成によれば、上昇工程では、キャリアを処理面に対して直交する方向に傾斜させて処理槽内より上昇させているので、キャリア内での被処理基板の浮き上がりや、浮き上がりによる破損等を防止することができる。
【0017】
また、本発明によれば、前記上昇工程における前記被処理基板の傾斜角度が、上昇方向に対して4°以上45°以下の範囲内の任意の角度に設定されている。
【0018】
上昇時の傾斜角度を4°以上45°以下とすることによって、被処理基板の浮き上がりを確実に防止し、かつ、処理液の抵抗による被処理基板の破損も防止することができる。すなわち、4°以下では浮き上がる可能性が高くなり、45°以上では、被処理基板の引き上げ時に処理液の抵抗が大きくなって、薄い被処理基板が破損する可能性が高くなる。
【0019】
なお、前記上昇工程における前記キャリアの傾斜角度については、上昇方向に対して10°以下となるように設定されていることがより好ましい。
【0020】
上昇時の傾斜角度を10°以下とすることによって、被処理基板の浮き上がりを確実に防止しつつ、処理液の抵抗による被処理基板の破損も確実に防止することができる。すなわち、10°以上でも、上昇速度が遅い場合には被処理基板の破損の心配はないが、上昇速度が速くなると、処理液の抵抗がその分大きくなって被処理基板が破損する可能性が高くなる。つまり、10°以下とすることで、上昇速度の許容範囲が広くなることから、製造工程において上昇速度の選択の余地を広くすることができる。
【0021】
また、本発明によれば、被処理基板は、キャリアの内壁面に設けられた複数条の基板挿入溝部のそれぞれに周縁部が挿入された状態で複数枚収納されており、この収納状態でキャリアごと処理液内に浸漬される構成としている。これにより、上昇時には、被処理基板を処理面に対して直交する方向に傾斜させて処理槽内より上昇させているので、全ての被処理基板がキャリア内で同じ方向に傾くことになる。これにより、被処理基板の浮き上がりを防止することに加え、傾斜させずに垂直方向に上昇させる場合に生じていた、隣接する被処理基板同士が互いの方向に近づくように傾くことで端部同士が接触するといった問題も解消することができる。
【0022】
この場合、降下工程では、キャリアを水平に保持し、上昇工程では、キャリアを傾斜させて被処理基板を傾斜させることで、キャリア内の被処理基板を傾斜させる構成としているので、キャリア内の全ての被処理基板を同じ方向に一度に傾斜させることができる。
【0023】
また、本発明によれば、前記被処理基板が半導体基板であり、前記処理液が薬液または純水である。これにより、半導体基板の製造工程であるエッチング工程や次の洗浄工程等において、本発明の浸漬処理方法を好適に用いることができる。
【0024】
また、本発明に係る被処理基板の浸漬処理装置は、キャリアの内壁面に設けられた複数条の基板挿入溝部のそれぞれに周縁部が挿入された状態で複数枚収納された被処理基板を、前記キャリアごと処理液で満たされた処理槽内に浸漬して処理を行う被処理基板の浸漬処理装置であって、前記キャリアを保持して搬送する搬送部と、前記キャリアの保持角度を変更する角度変更部と、前記キャリアを保持して昇降させる昇降部とを備え、前記昇降部により前記キャリアを前記処理槽内に下降させるときには前記キャリアを水平に保持し、前記昇降部により前記キャリアを処理槽内から上昇させるときには前記角度変更部により前記キャリアを傾斜させて保持することを特徴としている。
【0025】
本発明よれば、降下工程では、被処理基板を収納したキャリアを処理液の表面に対して水平に保持しているので、キャリアに収納された被処理基板に対する処理液の抵抗を最小限に留めることができ、これによりキャリア内での被処理基板の浮き上がりや、浮き上がり後の落下による破損(すなわち、浮き上がった被処理基板が落ちて、降下を完了したキャリアに当たることによる破損)等を防止することができる。また、上昇工程では、キャリアを傾斜させて処理槽内より上昇させているので、被処理基板間の距離が一定に保たれることから、隣接する被処理基板同士が接触する(若しくは、張り付く)といった現象を回避することができる。すなわち、被処理基板の上端部が液面から上方に引き上げられるときに、隣接する被処理基板間に介在していた処理液が被処理基板間を下方に流れ、その処理液の表面張力によって、被処理基板同士が互いに近づく方向に引き付けられ、互いの方向に傾いて接触する(若しくは、張り付く)といった現象を回避することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、降下工程では、キャリアを処理液の表面に対して水平に保持しているので、キャリアに収納された被処理基板に対する処理液の抵抗を最小限に留めることができ、これにより被処理基板の浮き上がりや、浮き上がり後の落下による破損等を防止することができる。また、上昇工程では、キャリアを傾斜させて上昇させているので、被処理基板間の距離が一定に保たれることになる。これにより、被処理基板の上端部が液面から上方に引き上げられるときに、隣接する被処理基板間に介在していた処理液が被処理基板間を下方に流れ、その処理液の表面張力によって、被処理基板同士が互いに近づく方向に引き付けられ、互いの方向に傾いて接触する(若しくは、張り付く)といった現象を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態1に係る被処理基板の浸漬処理方法を実施するための浸漬処理装置の全体構成を示す斜視図である。
【図2】実施形態1に係る搬送ロボットの外観斜視図である。
【図3】実施形態1に係る搬送ロボットの正面図である。
【図4】実施形態1に係るキャリアの斜視図である。
【図5A】図4のA−A線断面図である。
【図5B】図4のB−B線断面図である。
【図6】被処理基板の斜視図である。
【図7A】半導体基板の実施形態1に係る浸漬処工程を説明する図である。
【図7B】半導体基板の実施形態1に係る浸漬処工程を説明する図である。
【図7C】半導体基板の実施形態1に係る浸漬処工程を説明する図である。
【図7D】半導体基板の実施形態1に係る浸漬処工程を説明する図である。
【図7E】半導体基板の実施形態1に係る浸漬処工程を説明する図である。
【図7F】半導体基板の実施形態1に係る浸漬処工程を説明する図である。
【図7G】半導体基板の実施形態1に係る浸漬処工程を説明する図である。
【図8】基板挿入溝部周辺の一部拡大図である。
【図9】実施形態2に係る搬送ロボットの外観斜視図である。
【図10】実施形態2に係る搬送ロボットの正面図である。
【図11】実施形態2に係るキャリアの斜視図である。
【図12】図11のC−C線断面図である。
【図13A】半導体基板の実施形態2に係る浸漬処工程を説明する図である。
【図13B】半導体基板の実施形態2に係る浸漬処工程を説明する図である。
【図13C】半導体基板の実施形態2に係る浸漬処工程を説明する図である。
【図13D】半導体基板の実施形態2に係る浸漬処工程を説明する図である。
【図13E】半導体基板の実施形態2に係る浸漬処工程を説明する図である。
【図13F】半導体基板の実施形態2に係る浸漬処工程を説明する図である。
【図13G】半導体基板の実施形態2に係る浸漬処工程を説明する図である。
【図14】リブ片の他の構成例を示しており、図4のB−B線断面図に対応している。
【図15A】半導体基板を傾けないで引き上げたときの、種々の引き上げ速度に対する張り付きが残る割合の実験結果を示す図表である。
【図15B】半導体基板を傾けないで引き上げたときの、種々の引き上げ速度に対する張り付きが残る割合の実験結果を示す図表である。
【図16A】半導体基板を4°傾けて引き上げたときの、種々の引き上げ速度に対する張り付きが残る割合の実験結果を示す図表である。
【図16B】半導体基板を4°傾けて引き上げたときの、種々の引き上げ速度に対する張り付きが残る割合の実験結果を示す図表である。
【図17A】半導体基板を10°傾けて引き上げたときの、種々の引き上げ速度に対する張り付きが残る割合の実験結果を示す図表である。
【図17B】半導体基板を10°傾けて引き上げたときの、種々の引き上げ速度に対する張り付きが残る割合の実験結果を示す図表である。
【図18A】半導体基板を10°傾けて引き上げたときの、種々の引き上げ速度に対する張り付きが残る割合の実験結果を示す図表である。
【図18B】半導体基板を10°傾けて引き上げたときの、種々の引き上げ速度に対する張り付きが残る割合の実験結果を示す図表である。
【図19】(a)〜(c)は、被処理基板を処理液から垂直に引き上げるときに隣接する基板が張り付く様子を説明するための概略縦断面図、(d)は、被処理基板を処理液から垂直に引き上げるときの隣接する基板の様子を示す概略横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0029】
<実施形態1>
図1ないし図5Bは、実施形態1に係る被処理基板の浸漬処理方法を実施するための浸漬処理装置の構成を示しており、図1は装置全体の構成図、図2は搬送ロボットの外観斜視図、図3は搬送ロボットの正面図、図4はキャリアの斜視図、図5Aは図4のA−A線断面図、図5Bは図4のB−B線断面図である。また、図6は被処理基板の斜視図である。
【0030】
実施形態1の浸漬処理装置は、被処理基板である半導体基板を浸漬処理する装置であって、図1に示すように、全体が構造躯体1内に組み付けられており、構造躯体1内には、例えば2台の搬送ロボットA1,B1が備えられている。構造躯体1の床面1bに配置される処理槽は、実施形態1では、エッチング処理槽3、第1洗浄槽4、第2洗浄槽5、温水槽6、乾燥槽7の5槽からなり、これら各槽3〜7が、搬送ロボットA1,B1の搬送方向(図1中Y方向)に沿って所定の間隔で配置されている。また、構造躯体1の前後(図1では左右両側)に投入ベルト部2と排出ベルト部8とを配置することで、前工程と次工程とのインターフェースをとっている。エッチング処理槽3では、フッ化水素酸(HF)によるエッチング処理を常温で約10秒間行う。第1洗浄槽4では、粗水洗を常温で約300秒間行う。第2洗浄槽5では、仕上げ水洗を常温で300秒間行う。温水槽6では、乾燥時の熱割れを抑制するために60°の温水で300秒間洗浄する。乾燥槽7では、槽内を100°にして蒸発乾燥を300秒間行う。
【0031】
図2及び図3は、搬送ロボットの外観斜視図及び正面図である。
【0032】
搬送ロボットA1,B1は、図1ないし図3に示すように、構造躯体1の天面1aに設けられたレール部材1cに支持される形で、搬送方向Yに沿って往復移動可能に設けられており、図示しない駆動機構部により上下動可能な支持体10によって全体が支持されている。この支持体10の下部にはロボット本体部11が取り付けられており、このロボット本体部11の下面には、搬送方向Yに一定の間隔を存して一対の支持杆12a,12bが設けられている。また、一方の支持杆12bは、油圧シリンダ等の伸縮杆によって上下伸縮可能に構成されている。
【0033】
支持杆12aの下端部には、図2中X方向に水平かつ平行に延びたキャリアアーム13aが支持されており、このキャリアアーム13aに、水平方向Xに一定の間隔を存して複数個(この例では2個)のキャリア用チャック14aが設けられている。
【0034】
一方、支持杆12bを構成する伸縮杆の伸縮ロッド12b1の先端部(下端部)には、図2中X方向に水平かつ平行に延びたキャリアアーム13bが支持されており、このキャリアアーム13bに、水平方向Xに一定の間隔を存して複数個(この例では2個)のキャリア用チャック14bが設けられている。各キャリア用チャック14a,14bは、チャック杆14a1,14b1と、チャック爪14a2,14b2とからなり、正面視L字状に形成されている。
【0035】
また、キャリアアーム13aに設けられた2個のキャリア用チャック14aと、キャリアアーム13bに設けられた2個のキャリア用チャック14bとは、それぞれチャック爪14a2,14b2を内側に向けてY方向に対向するように配置されている。
【0036】
このように配置されたキャリア用チャック14a,14bは、各キャリアアーム13a,13bを図示しない駆動機構部により回転駆動することにより、図2及び図3に実線で示す状態から、チャック爪14a2,14b2を開く方向に(図3に二点鎖線で示す状態まで)開閉可能(図3中R方向に回動可能)な構造となっている。
【0037】
図4、図5A、及び図5Bは、半導体基板を収納するキャリアの構成を示しており、図4は斜視図、図5Aは図4のA−A線断面図、図5Bは図4のB−B線断面図である。
【0038】
半導体基板を収納するキャリア31は、上部が開口した箱体形状に形成されており、このキャリア31の上面開口部32から、一定の間隔を存して複数枚の半導体基板が収納されるようになっている。キャリア31の左右側壁の上端部には、外側方向に水平に延設されたレール条の係止部33がそれぞれ形成されている。搬送ロボットA1,B1は、この左右一対の係止部33を一対のキャリア用チャック14a,14bで両外側から掴むことによってキャリア31を保持し、この状態でキャリア31を搬送方向Yに搬送するようになっている。
【0039】
キャリア31の内壁面には、図5Aに示すように、キャリア31の搬送方向Yに沿って一定の間隔T11(=W13+W14)を存して複数状のリブ片34が形成されており、隣接するリブ片34間が、半導体基板を収納保持するための基板挿入溝部35となっている。
【0040】
1つのリブ片34は、図5Bに示すように、キャリア31の搬送方向Yと直交するX方向の一方の側壁31a上端部から底壁31bを通って他方の側壁31c上端部まで連続した略U字状に形成されている。従って、隣接するリブ片34間の基板挿入溝部35も、キャリア31の搬送方向Yと直交する方向の一方の側壁31a上端部から底壁31bを通って他方の側壁31c上端部まで連続した略U字状に形成されている。半導体基板は、このように略U字状に形成された基板挿入溝部35に、周縁部が収納されて保持されるようになっている。なお、リブ片34の形成箇所については、図5Bに示すように、一方の側壁31a上端部から底壁31bを通って他方の側壁31c上端部まで一連に形成するものに限定されるものではないが、これについては他の具体例として後述する。
【0041】
図6は、半導体基板41の一例を示す斜視図である。この半導体基板41は、主に結晶太陽電池に用いられるもので、一辺が15.6cmで各角部に切欠き部を設けた8角形状となっており、その厚みは、100〜150μmとなっている。従来の結晶太陽電池用の基板の厚みは300μm程度であったが、近年シリコン材料の使用量を低減する検討が進んでいることで基板の厚みが前述のように薄くなってきている。すなわち、最近の半導体基板41は、厚みが薄くなり、基板1枚の重さが軽くなるとともに曲りやすい傾向にある。ここで、半導体基板41の幅(上下方向及び左右方向の幅)をW1(=15.6cm)とし、厚みをT1(=100〜150μm)として表記する。
【0042】
このような半導体基板41の寸法に基づき、キャリア31の内部寸法は次のように設定されている。
【0043】
すなわち、図5A及び図5Bに示すように、キャリア31内部の底壁31bから開口上端部までの高さH1は、半導体基板41の幅W1とほぼ同じ15.6cmとなっており、搬送方向Yと直交する一方の側壁31aと他方の側壁31cとの間の寸法W11は、半導体基板41の幅W1より若干広く、例えば16.0cmとなっている。また、リブ片34の突出長さは例えば4mmとなっている。従って、一方の側壁31aに形成されたリブ片34と他方の側壁31cに形成されたリブ片34との対向先端部間の幅W12は、半導体基板41の幅W1より若干狭い15.2cmとなっている。これにより、基板挿入溝部35に挿入された半導体基板41は、基板挿入溝部35内で一方の側壁31a方向または他方の側壁31c方向に一杯まで横ずれしたとしても、周縁部がリブ片34から外れて隣の基板挿入溝部35側に倒れ込でしまうことはない。すなわち、挿入された基板挿入溝部35から半導体基板41が外れることはない。
【0044】
また、基板挿入溝部35のY方向の幅W13は2mmとなっており、リブ片34のY方向の幅W14は3mmとなっている。すなわち、基板挿入溝部35の幅W13は、半導体基板41の厚みT1より十分に広く形成されている。この例では、基板挿入溝部35の幅W13は、半導体基板41の厚みT1の約13〜20倍の幅に形成されている。そのため、半導体基板41は、基板挿入溝部35内で搬送方向Yに若干倒れる(傾斜する)ことになるが、その傾斜角度は最大でも約0.007°未満であり、後述する実施形態1の傾斜角度4°等に比べて十分に小さく、基板挿入溝部35内においては、搬送方向Yに若干倒れたとしても、ほぼ垂直に挿入されていると言える範疇のものである。
【0045】
また、キャリア31の搬送方向Yの内壁幅W15は、収納する半導体基板41の枚数によって異なり、例えば30枚収納可能である場合には、約15.3cm(=T11×30+3mm)となる。
【0046】
なお、図示は省略しているが、キャリア31の底壁及び各側壁には、処理液をキャリア31内部に流入させるための多数の貫通孔が形成されている。
【0047】
なお、図3に実線で示す状態のキャリア用チャック14a,14bのチャック爪14a2,14b2間の幅W26は、キャリア31の搬送方向Yの外壁幅W16より若干幅広に形成されており、チャック杆14a1,14b1間の内幅W27は、キャリア31に形成された係止部33の両先端間幅W17より若干幅広に形成されている。このように、キャリア用チャック14a,14bとキャリア31との間に若干の隙間を設けておくことで、キャリア31を傾斜させるときの遊びを確保し、傾斜動作をスムーズに行えるようにしている。
【0048】
次に、上記構成の浸漬処理装置を使用した半導体基板の浸漬処理方法について、図7Aないし図7Gに示す処理工程図、及び図8に示す基板挿入溝部35周辺の一部拡大図を参照して説明する。
【0049】
まず、前工程より、半導体基板41が複数枚収納されたキャリア31が投入ベルト部2により搬送されて待機位置60(図1参照)で停止する。
【0050】
次に、左側の搬送ロボットA1を待機位置60まで移動し、支持体10を下方向に移動させてロボット本体部11全体を降下させ、キャリア用チャック14a,14bによりキャリア31の係止部33を両側から掴み込むと、今度は、そのままの状態で支持体10を上方向に移動させてロボット本体部11全体を上昇させ、キャリア31を水平に持ち上げる。
【0051】
次に、搬送ロボットA1を搬送方向Yに移動させて、ロボット本体部11全体(具体的には、キャリア31)をエッチング処理槽3の上部まで移動すると(図7A参照)、キャリア31を水平に保った状態で(すなわち、半導体基板41をエッチング処理槽3の液面に対して垂直に保った状態で)、支持体10を所定の速度で降下させ、キャリア31全体を所定の速度で処理液内に浸漬させて、エッチング処理槽3の底面に設けられている簀の子状の載置台3a上に載置する(図7B参照)。
【0052】
すなわち、キャリア31の降下工程(浸漬工程)では、半導体基板41を処理液の表面に対して垂直に保持しているので、半導体基板41を処理液内に沈めていくときの処理液の抵抗を最小限に留めることができ、これにより半導体基板41の浮き上がりや、浮き上がりによる破損、エッチング処理槽3内への落下等を防止することができる。
【0053】
この後、エッチング処理槽3での処理を終了すると、図7Cの引き上げ工程に移行する。このとき、図7Dに示すように、搬送ロボットA1の一方の支持杆12bの油圧シリンダを動作させて伸縮杆を縮退させ(上方に移動させ)、キャリア31を、投入ベルト部2側(図中左側)へ所定角度θ傾斜させる。ここで、所定角度θは、4°以上45°以下、より好ましくは4°以上10°以下の範囲内の任意の角度に設定されている。このとき、半導体基板41の処理面は、右側に位置するようにキャリア31に収納されている。すなわち、半導体基板41の傾斜上面が処理面となるように収納されている。この場合、各半導体基板41は、図8に一部を拡大して示すように、処理面とは反対側の傾斜下面側の周縁部全体が、基板挿入溝部35内において傾斜下方側のリブ片34に当接して支持されることから、全ての半導体基板41が一定の距離L1(W13+W14−T1=4.9〜4.85mm)を保って同方向かつ平行に傾斜することになる。
【0054】
そして、この傾斜状態において、図7E及び図7Fに示すように、支持体10を上方向に移動させてロボット本体部11全体を所定の速度で上昇させ、キャリア31(すなわち、半導体基板41)を傾斜状態のまま処理液内から上方に引き上げる。
【0055】
このように、上昇工程(引き上げ工程)では、半導体基板41を傾斜させてエッチング処理槽3内より上昇させることで、半導体基板41の処理面と反対側の面に、処理液による下方への押圧力が働く。そのため、隣接する半導体基板41間の距離は、常に距離L1で一定に保たれることになる。これにより、傾けないで垂直に引き上げるときの問題点、すなわち、半導体基板41の上端部41bが液面から上方に引き上げられるときに、隣接する半導体基板41間を下方に流れるエッチング液(処理液)の表面張力によって、隣接する半導体基板41同士が互いに近づく方向に引き付けられ、互いの方向に傾いて接触する(若しくは、張り付く)といった現象を回避することができる。特に、半導体基板41同士の接触や張り付きが発生し易いのは上昇時(引き上げ時)であるから、その上昇工程(引き上げ工程)時に半導体基板41を傾斜させておくことで、半導体基板41の浮き上がりや、浮き上がりによる破損等を確実に防止することができる。
【0056】
この後、図7Gに示すように、搬送ロボットA1の一方の支持杆12bの油圧シリンダを動作させて伸縮杆を伸長させ(下方に移動させ)、キャリア31を再び水平状態に保持すると、この状態で搬送ロボットA1を搬送方向Yに移動させて、ロボット本体部11全体(具体的には、キャリア31)を隣の第1洗浄槽4の上部まで移動する。
【0057】
この後の処理は、上記したエッチング処理槽3での処理と同様であり、図7A〜図7Gの処理動作を行うことによって、第1洗浄槽4による粗水洗での洗浄工程を行う。
【0058】
なお、その後の第2洗浄槽5での仕上げ水洗処理、及び、温水槽6での温水洗浄処理も同様にして行えばよい。また、その後の乾燥槽7による乾燥工程は、処理液を使用しないので、従来通り行えばよい。
【0059】
このようにして、乾燥工程まで終了すると、搬送ロボットB1によってキャリア31を搬送ベルト部8まで搬送してベルト上に載置し、次の工程に搬送する。なお、搬送ロボットB1は、第1洗浄槽4による洗浄処理以降の工程を担当する。すなわち、搬送ロボットA1,B1は、第1洗浄槽4において、キャリア31の受け渡しを行う。
【0060】
<実施形態2>
図9ないし図12は、実施形態2に係る被処理基板の浸漬処理方法を実施するための浸漬処理装置の構成を示しており、図9は搬送ロボットの外観斜視図、図10は搬送ロボットの正面図、図11はキャリアの斜視図、図12は図11のC−C線断面図である。
【0061】
実施形態2の浸漬処理装置は、搬送ロボットA2,B2及びキャリア31の構成を除けば、図1に示した実施形態1の浸漬処理装置の構成と同じであり、エッチング処理槽3、第1洗浄槽4、第2洗浄槽5、温水槽6、乾燥槽7の5槽からなっているので、ここではこれらの詳細な説明を省略する。
【0062】
実施形態2の搬送ロボットA2,B2は、図9及び図10に示すように、構造躯体の天面に設けられたレール部材に支持される形で搬送方向に沿って往復移動可能に設けられ、駆動機構部により上下動可能な支持体10によって支持されている。この支持体10の下部にはロボット本体部11が取り付けられており、このロボット本体部11の下面には、搬送方向Yに一定の間隔を存して3つの支持杆22a,22b,22cが設けられている。この内、中央の支持杆22bは、油圧シリンダ等の伸縮杆によって上下伸縮可能に構成されている。
【0063】
図中左端の支持杆22aの下端部には、図9中X方向に水平かつ平行に延びたキャリアアーム23aが支持されており、このキャリアアーム23aに、水平方向Xに一定の間隔を存して複数個(この例では2個)の第1キャリア用チャック24aが設けられている。
【0064】
また、図中右端の支持杆22cの下端部には、図9中X方向に水平かつ平行に延びたキャリアアーム23cが支持されており、このキャリアアーム23cに、水平方向Xに一定の間隔を存して複数個(この例では2個)の第2キャリア用チャック24cが設けられている。
【0065】
一方、中央部の支持杆22bを構成する伸縮杆の伸縮ロッド22b1の先端部(下端部)には、図9中X方向に水平かつ平行に延びたキャリアアーム23bが支持されており、このキャリアアーム23bに、水平方向Xに一定の間隔を存して複数個(この例では左右2個ずつ)の第1キャリア用チャック25aと第2キャリア用チャック25cとがそれぞれ設けられている。
【0066】
左端の支持杆22aに支持された第1キャリア用チャック24aは、チャック杆14a1とチャック爪14a2とからなり、正面視L字状に形成されている。また、右端の支持杆22cに支持された第2キャリア用チャック24cは、チャック杆14c1とチャック爪14c2とからなり、正面視L字状に形成されている。
【0067】
ただし、左端の第1キャリア用チャック14aは、チャック爪14a2が外側(図中左側)に向いており、右端の第2キャリア用チャック14cは、チャック爪24c2が外側(図中右側)に向いている。すなわち、両外側のチャック爪24a2,24c2は、互いに背を向けた状態で配置されている。
【0068】
一方、中央部の支持杆22bの第1キャリア用チャック25a及び第2キャリア用チャック25cは、水平方向に延設しその延設先端部から下方に延設された鉤形状のチャック杆25a1,25c1と、これらチャック杆25a1,25c1の先端部(下端部)に設けられたチャック爪25a2,25c2とからなる。また、図中左側の第1キャリア用チャック25aは、チャック爪25a2が右側に向いており、図中右側の第2キャリア用チャック25cは、チャック爪25c2が左側に向いている。すなわち、両チャック爪25a2,25c2は、互いに対向するように配置されている。
【0069】
つまり、左端の支持杆22aに支持された第1キャリア用チャック24aと中央部の支持杆22bに支持された第1キャリア用チャック25aとが、互いに背を向けた状態で対向配置され、右端の支持杆22cに支持された第2キャリア用チャック24cと中央部の支持杆22bに支持された第2キャリア用チャック25cとが、互いに背を向けた状態で対向配置されている。
【0070】
すなわち、第1キャリア用チャック24aと第1キャリア用チャック25aとで一つのキャリア31を保持する一対のチャック機構部を構成し、第2キャリア用チャック24cと第2キャリア用チャック25cとで別の一つのキャリア31を保持する一対のチャック機構部を構成している。
【0071】
すなわち、実施形態2の搬送ロボットA2,B2は、一度に2つのキャリア31を保持して同時に搬送可能となっている。
【0072】
このように配置された第1キャリア用チャック24a及び第1キャリア用チャック25aは、各キャリアアーム23a,23bを図示しない駆動機構部により回転駆動することにより、図10に実線で示す状態から、チャック爪24a2,25a2を開く方向に(図10に二点鎖線で示す状態まで)開閉可能(図10中S1方向に回動可能)な構造となっている。同様に、第2キャリア用チャック24c及び第2キャリア用チャック25cは、各キャリアアーム23c,23bを図示しない駆動機構部により回転駆動することにより、図10に実線で示す状態から、チャック爪24a2,25a2を開く方向に(図10に二点鎖線で示す状態まで)開閉可能(図10中S2方向に回動可能)な構造となっている。すなわち、中央部の支持杆22bに支持された第1キャリア用チャック25aと第2キャリア用チャック25cとは、キャリアアーム23bの一方向の回転によって互いに逆方向に回転するように回動機構部が構成されている。このような回動機構部の構成は、従来周知の一般的な機構構造であり、本発明でもそのような一般的な機構構造を適用することが可能である。
【0073】
図11及び図12は、半導体基板を収納するキャリアの構成を示しており、図11は斜視図、図12は図11のC−C線断面図である。
【0074】
実施形態2のキャリア31と実施形態1のキャリア31との違いは、係止部の構造だけであり、その他の構成(キャリア内部の溝構成)は実施形態1のキャリア31と同じであるので、ここでは同部材に同符号を付すこととし、詳細な説明を省略する。
【0075】
すなわち、実施形態2のキャリア31は、左右側壁の上端部に、アーチ状の係止部38がそれぞれ所定の間隔を存して2個ずつ設けられた構成となっている。そのため、実施形態2のキャリア31では、実施形態1のキャリア31のような係止部33は設けられていない。搬送ロボットA2,B2は、キャリア31の左右一対の係止部38を一対の第1キャリア用チャック24a,25aで両内側から外側に開くようにして掴むことによってキャリア31を保持し、この状態でキャリア31を搬送方向Yに搬送するようになっている。
【0076】
なお、図10に実線で示す状態の第1キャリア用チャック24a,25aのチャック爪24a2,25a2間の幅W36、及び、第2キャリア用チャック24c,25cのチャック爪24c2,25c2間の幅W36は、キャリア31の左右側壁の上端部に設けられた係止部38の搬送方向Yの内幅W46より十分幅広に形成されている。また、図10に実線で示す状態の第1キャリア用チャック24a,25aのチャック杆24a1,25a1間の外幅W37、及び、第2キャリア用チャック24c,25cのチャック杆24c1,25c1間の外幅W37は、キャリア31の左右側壁の上端部に設けられた係止部38の搬送方向Yの内幅W46とほぼ同じかそれより若干幅狭に形成されている。
【0077】
次に、上記構成の浸漬処理装置を使用した半導体基板の浸漬処理方法について、図13Aないし図13Gに示す処理工程図、及び図8に示す基板挿入溝部35周辺の一部拡大図を参照して説明する。
【0078】
まず、前工程より、半導体基板41が複数枚収納された2つのキャリア31が、搬送ロボットA2の2つのチャック機構部でチャックできる間隔に配置された状態で投入ベルト部2により搬送され、待機位置60で停止する。
【0079】
次に、搬送ロボットA2が待機位置60まで移動すると、支持体10を下方向に移動させてロボット本体部11全体を降下させ、第1キャリア用チャック24a,25aにより左側のキャリア31の係止部38を両内側から掴み込み、第2キャリア用チャック24c,25cにより右側のキャリア31の係止部38を両内側から掴み込むと、今度は、そのままの状態で支持体10を上方向に移動させてロボット本体部11全体を上昇させ、2つのキャリア31を水平に持ち上げる。
【0080】
次に、搬送ロボットA2を搬送方向Yに移動させて、ロボット本体部11全体(具体的には、2つのキャリア31)をエッチング処理槽3の上部まで移動すると(図13A参照)、2つのキャリア31を水平に保った状態で(すなわち、半導体基板41をエッチング処理槽3の液面に対して垂直に保った状態で)、支持体10を所定の速度で降下させ、2つのキャリア31の全体を所定の速度で処理液内に浸漬させて、エッチング処理槽3の底面に設けられている簀の子状の載置台3a上に載置される(図13B参照)。
【0081】
すなわち、キャリア31の降下工程(浸漬工程)では、半導体基板41を処理液の表面に対して垂直に保持しているので、半導体基板41を処理液内に沈めていくときの処理液の抵抗を最小限に留めることができ、これにより半導体基板41の浮き上がりや、浮き上がりによる破損、エッチング処理槽3内への落下等を防止することができる。
【0082】
この後、エッチング処理槽3での処理を終了すると、図13Cの引き上げ工程に移行する。このとき、図13Dに示すように、搬送ロボットA2の中央の支持杆22bの油圧シリンダを動作させて伸縮杆を縮退させ(上方に移動させ)、2つのキャリア31を、所定角度θ回転させる。この場合、左側のキャリア31は左側に傾斜し、右側のキャリア31は右側に傾斜する。従って、左側のキャリア31に収納されている半導体基板41の処理面は右側になるように(傾斜したとき傾斜上面側となるように)収納されており、右側のキャリア31に収納されている半導体基板41の処理面は左側になるように(傾斜したとき傾斜上面側となるように)収納されている。
【0083】
ここで、所定角度θは、4°以上45°以下、より好ましくは4°以上10°以下の範囲内の任意の角度に設定されている。上昇時の傾斜角度を4°以上45°以下とすることによって、半導体基板41の浮き上がりを確実に防止し、かつ、処理液の抵抗による半導体基板41の破損も防止することができる。すなわち、4°以下では浮き上がる可能性が高くなり、45°以上では、半導体基板41の上昇時(引き上げ時)に処理液の抵抗が大きくなって、薄い半導体基板41が破損する可能性が高くなる。
【0084】
この場合、各半導体基板41は、図8に一部を拡大して示すように、処理面とは反対側の傾斜下面側の周縁部全体が、基板挿入溝部35内において傾斜下方側のリブ片34に当接して支持されることから、全ての半導体基板41が一定の距離L1(W13+W14−T1=4.9〜4.85mm)を保って同方向かつ平行に傾斜することになる。
【0085】
そして、この傾斜状態において、図13E及び図13Fに示すように、支持体10を上方向に移動させてロボット本体部11全体を所定の速度で上昇させ、2つのキャリア31(すなわち、収納されている半導体基板41)を傾斜状態のまま処理液内から上方に引き上げる。
【0086】
このように、上昇工程(引き上げ工程)では、半導体基板41を傾斜させてエッチング処理槽3内より上昇させることで、半導体基板41の処理面に、処理液による下方への押圧力が働く。そのため、隣接する半導体基板41間の距離は、常に距離L1で一定に保たれることになる。これにより、傾けないで垂直に引き上げるときの問題点、すなわち、半導体基板41の上端部41bが液面から上方に引き上げられるときに、隣接する半導体基板41間を下方に流れるエッチング液(処理液)の表面張力によって、隣接する半導体基板41同士が互いに近づく方向に引き付けられ、互いの方向に傾いて接触する(若しくは、張り付く)といった現象を回避することができる。特に、半導体基板41同士の接触や張り付きが発生し易いのは上昇時(引き上げ時)であるから、その上昇工程(引き上げ工程)時に半導体基板41を傾斜させておくことで、半導体基板41の浮き上がりや、浮き上がりによる破損等を確実に防止することができる。
【0087】
この後、図13Gに示すように、搬送ロボットA2の中央の支持杆22bの油圧シリンダを動作させて伸縮杆を伸長させ(下方に移動させ)、2つのキャリア31を再び水平状態に保持すると、この状態で搬送ロボットA2を搬送方向Yに移動させて、ロボット本体部11全体(具体的には、2つのキャリア31)を隣の第1洗浄槽4の上部まで移動する。
【0088】
この後の処理は、上記したエッチング処理槽3での処理と同様であり、図13A〜図13Gの処理動作を行うことによって、第1洗浄槽4による粗水洗での洗浄工程を行う。
【0089】
なお、その後の第2洗浄槽5での仕上げ洗浄処理、及び、温水槽6での温水洗浄処理も同様にして行えばよい。また、その後の乾燥槽7による乾燥工程は、処理液を使用しないので、従来通り行えばよい。
【0090】
このようにして、乾燥工程まで終了すると、搬送ロボットB2によってキャリア31を搬送ベルト部8まで搬送してベルト上に載置し、次の工程に搬送する。なお、搬送ロボットB2は、第1洗浄槽4による洗浄処理以降の工程を担当する。すなわち、搬送ロボットA2,B2は、第1洗浄槽4上において、キャリア31の受け渡しを行う。
【0091】
上記各実施形態では、リブ片34は、一方の側壁31a上端部から底壁31bを通って他方の側壁31c上端部に至るまで側面視略U字状に一連に形成しているが、このように一連に形成する必要はない。例えば、図14に他の具体例を示すように、底壁31bの幅方向の中央部に所定長さの底壁リブ片34bを形成し、各側壁31a,31cの高さ方向の中央部または上部に所定長さの側壁リブ片34a,34cを形成してもよい。このようにリブ片34a,34b,34cを各壁面の3箇所に分割してそれぞれ短く形成することで、半導体基板41はしっかり保持しつつ、槽内での処理液の流れをよりスムーズにすることができ、処理むら等の発生を防止することができる。
【0092】
<傾斜させて引き上げることの効果の検討>
次に、上昇工程(引き上げ工程)において、半導体基板41を傾斜させて引き上げることの効果について検討する。
【0093】
ここでは、以下の実験を行ってその効果を検証している。
【0094】
50枚の半導体基板を収納したキャリアを用意し、隣接する半導体基板同士を水洗槽内で事前に張り付かせた。このときの張付き箇所は25箇所であり、この張り付き箇所を以後、張り付き予備箇所と称する。
【0095】
このように張り付かせた後、種々の引き上げ角度及び引き上げ速度に対して、張り付きが残る割合で効果を評価した。
【0096】
図15A及び図15Bは、従来通り半導体基板を傾けないで(すなわち、液面に対して垂直に)引き上げたときの、種々の引き上げ速度に対する張り付きが残る割合の実験結果を示している。この実験では、同じ引き上げ速度で引き上げ動作を3回実施しており、図15Aは、その実験結果を示している。
【0097】
すなわち、半導体基板を傾けない場合には、特に、引き上げ速度が4.00cm/sec以下になると、張り付き箇所の残存数が増加し、特に引き上げ速度が2.67cm/sec以下になると急激に増加する。その結果、各引き上げ速度での張り付き割合の平均をとった図15Bに示すように、半導体基板を傾けない場合には、5.33cm/sec以下のゆっくりした速度で引き上げると、処理にむらができることが分かる。
【0098】
また、図16A及び図16Bは、半導体基板を4°傾けて引き上げたときの、種々の引き上げ速度に対する張り付きが残る割合の実験結果を示している。この実験では、同じ引き上げ速度での引き上げ動作を3回から1回の間で任意に実施しており、図16Aは、その実験結果を示している。
【0099】
すなわち、半導体基板を4°傾けた場合には、引き上げ速度が1.78cm/sec以下になると、張り付き箇所の残存数が増加し、特に引き上げ速度が2.67cm/sec以下になると急激に増加する。その結果、各引き上げ速度での張り付き割合の平均をとった図16Bに示すように、半導体基板を4°傾けた場合には、1.78cm/sec以下のゆっくりした速度で引き上げると、処理にむらができることが分かる。逆に言えば、1.78cm/sec以上(この実験結果では2cm/sec以上)であれば、ほぼ張り付きのない引き上げが可能であることが分かる。ただし、この実験では、引き上げ速度3.20cm/secで3回行ったとき、その内の1回で張り付き箇所が1箇所発生している。
【0100】
また、図17A及び図17Bは、試料1の半導体基板を10°傾けて引き上げたときの、種々の引き上げ速度に対する張り付きが残る割合の実験結果を示している。この実験では、同じ引き上げ速度での引き上げ動作を3回から1回の間で任意に実施しており、図17Aは、その実験結果を示している。
【0101】
すなわち、半導体基板を10°傾けた場合には、引き上げ速度が0.84cm/secの場合、及び、2.67cm/secの場合において張り付き箇所が1箇所残っているものの、その前後では0箇所であることに鑑みると、この1箇所は無視できるレベルであると言える。その結果、各引き上げ速度での張り付き割合の平均をとった図17Bに示すように、半導体基板を10°傾けた場合には、16.00cm/sec〜0.70cm/secの全ての速度において、ほぼ張り付きのない引き上げが可能であることが分かる。
【0102】
また、図18A及び図18Bは、試料2の半導体基板を10°傾けて引き上げたときの、種々の引き上げ速度に対する張り付きが残る割合の実験結果を示している。この実験では、同じ引き上げ速度での引き上げ動作を3回から1回の間で任意に実施しており、図18Aは、その実験結果を示している。
【0103】
すなわち、半導体基板を10°傾けた場合には、全ての引き上げ速度において、張り付き箇所は0箇所であった。その結果、各引き上げ速度での張り付き割合の平均をとった図18Bに示すように、半導体基板を10°傾けた場合には、16.00cm/sec〜0.80cm/secの全ての速度において、張り付きのない引き上げが可能であることが分かる。
【0104】
上記実験結果から、半導体基板上に処理液の残らない適正な引き上げ速度は、図15Bの引き上げ速度3.20cm/secで張り付き箇所が1箇所発生していることを考慮すると、傾斜角度4°〜10°の範囲内において、おおよそ4.00cm/sec〜6.00cm/secの範囲内である。引き上げ速度がこれ以上速くなると、基板間に液が残る可能性が高くなり、過剰エッチングや搬送中の自然乾燥による染みなどの問題が発生する可能性がある。また、引き上げ速度が速い場合、キャリアの上昇が停止する際にキャリア及び半導体基板に大きな力がかかることで、キャリアがキャリアアームから外れて落下したり、キャリア内で半導体基板が跳ねたりして、キャリア底壁と半導体基板の端部とが衝突し、半導体基板が割れてしまう可能性がある。これらの理由により、引き上げ速度は上述の範囲に制限される。
【0105】
なお、上記各実施形態において、キャリア31及び半導体基板41の形状及び寸法は一例であり、半導体基板41の形状及び寸法が異なれば、キャリア31の内部寸法及びリブ片34や基板挿入溝部35の形状及び寸法もこれに合わせて変更されることは当然である。
【0106】
また、今回開示した上記実施形態はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。従って、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0107】
1 構造躯体
2 投入ベルト部
1a 天面
1b 床面
1c レール部材
3 エッチング処理槽
4 第1洗浄槽
5 第2洗浄槽
6 温水槽
7 乾燥槽
8 排出ベルト部
10 支持体(昇降部)
11 ロボット本体部
12a 支持杆
12b 支持杆(角度変更部)
12b1 伸縮ロッド
13a,13b キャリアアーム
14a,14b キャリア用チャック
14a1,14b1 チャック杆
14a2,14b2 チャック爪
22a,22c 支持杆
22b 支持杆(昇降部)
22b1 伸縮ロッド
23a,23b,22c キャリアアーム
24a 第1キャリア用チャック
24c 第2キャリア用チャック
25a 第1キャリア用チャック
25c 第2キャリア用チャック
24a1,24c1,25a1,25c1 チャック杆
24a2,24c2,25a2,25c2 チャック爪
31 キャリア
31a,31c 側壁
31b 底壁
32 上面開口部
33 係止部
34 リブ片
35 基板挿入溝部
38 係止部
41 半導体基板(被処理基板)
A1,A2,B1,B2 搬送ロボット(搬送部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアの内壁面に設けられた複数条の基板挿入溝部のそれぞれに周縁部が挿入された状態で複数枚収納された被処理基板を、前記キャリアごと処理液で満たされた処理槽内に浸漬して処理を行う被処理基板の浸漬処理方法であって、
前記キャリアを前記処理液の表面に対して水平に保持して前記処理槽内に下降させる降下工程と、
前記キャリアを傾斜させて前記処理槽内より上昇させる上昇工程と、を含むことを特徴とする被処理基板の浸漬処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の被処理基板の浸漬処理方法であって、
前記上昇工程では、前記被処理基板を処理面に対して直交する方向に前記キャリアを傾斜させることを特徴とする被処理基板の浸漬処理方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の被処理基板の浸漬処理方法であって、
前記上昇工程における前記キャリアの傾斜角度が上昇方向に対して4°以上45°以下であることを特徴とする被処理基板の浸漬処理方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の被処理基板の浸漬処理方法であって、
前記被処理基板が半導体基板であり、前記処理液が薬液または純水であることを特徴とする被処理基板の浸漬処理方法。
【請求項5】
キャリアの内壁面に設けられた複数条の基板挿入溝部のそれぞれに周縁部が挿入された状態で複数枚収納された被処理基板を、前記キャリアごと処理液で満たされた処理槽内に浸漬して処理を行う被処理基板の浸漬処理装置であって、
前記キャリアを保持して搬送する搬送部と、
前記キャリアの保持角度を変更する角度変更部と、
前記キャリアを保持して昇降させる昇降部とを備え、
前記昇降部により前記キャリアを前記処理槽内に下降させるときには前記キャリアを水平に保持し、
前記昇降部により前記キャリアを処理槽内から上昇させるときには前記角度変更部により前記キャリアを傾斜させて保持することを特徴とする被処理基板の浸漬処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図7C】
image rotate

【図7D】
image rotate

【図7E】
image rotate

【図7F】
image rotate

【図7G】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13A】
image rotate

【図13B】
image rotate

【図13C】
image rotate

【図13D】
image rotate

【図13E】
image rotate

【図13F】
image rotate

【図13G】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15A】
image rotate

【図15B】
image rotate

【図16A】
image rotate

【図16B】
image rotate

【図17A】
image rotate

【図17B】
image rotate

【図18A】
image rotate

【図18B】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2013−45964(P2013−45964A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183913(P2011−183913)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】